IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

特開2024-173213制御装置、作業用車両および情報処理方法
<>
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図1
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図2
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図3
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図4
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図5
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図6
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図7
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図8
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図9
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図10
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図11
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図12
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図13
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図14
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図15
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図16
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図17
  • 特開-制御装置、作業用車両および情報処理方法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173213
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】制御装置、作業用車両および情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20241205BHJP
   B62D 49/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A01B69/00 302
A01B69/00 301
B62D49/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091472
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】滝元 弘樹
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA10
2B043AB19
2B043BA02
2B043BB01
2B043DA17
2B043DC03
2B043EA15
2B043EB08
2B043EB14
2B043EB22
2B043EC02
2B043EC12
2B043EC14
2B043ED15
2B043EE01
2B043EE02
2B043EE05
2B043EE06
(57)【要約】
【課題】作業用車両について、転倒の防止に寄与する技術を提供する。
【解決手段】作業機5が接続されて使用される作業用車両1に関する処理を実行する制御装置20は、作業用車両1の右前輪7Rならびにこれに対応する部材を含む右前輪対応部材、および、作業用車両1の左前輪7Lならびにこれに対応する部材を含む左前輪対応部材について、右前輪対応部材の状態と左前輪対応部材の状態との関係、または、右前輪対応部材に加わる作用と左前輪対応部材に加わる作用との関係に基づいて一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪を検出する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機が接続されたまたは接続可能な車体と、前記車体を支持する一対の前輪および一対の後輪とを備える作業用車両に関する処理を実行する制御装置であって、
前記作業用車両の右前輪ならびにこれに対応する部材を含む右前輪対応部材、および、前記作業用車両の左前輪ならびにこれに対応する部材を含む左前輪対応部材について、前記右前輪対応部材の状態と前記左前輪対応部材の状態との関係、または、前記右前輪対応部材に加わる作用と前記左前輪対応部材に加わる作用との関係に基づいて前記一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪を検出する制御部を備える
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記作業用車両は、前記一対の前輪の車軸をピボットで支持するスイング機構と、前記右前輪と前記ピボットとの間の車軸に作用する曲げモーメントである右曲げモーメント、および、前記左前輪と前記ピボットとの間の車軸に作用する曲げモーメントである左曲げモーメントを検出する曲げモーメント検出部とを備え、
前記制御部は、前記曲げモーメント検出部の検出結果に基づいて、前記右曲げモーメントおよび前記左曲げモーメントのうち、一方の曲げモーメントのみが正の曲げモーメントから負の曲げモーメントとなったか否かを判別し、一方の曲げモーメントのみが負の曲げモーメントとなった場合において、前記右曲げモーメントが負の曲げモーメントとなった場合は前記右前輪の脱輪を検出し、前記左曲げモーメントが負の曲げモーメントとなった場合は前記左前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記作業用車両は、前記右前輪および前記左前輪のタイヤ空気圧を検出するタイヤ空気圧検出部を備え、
前記制御部は、前記タイヤ空気圧検出部の検出結果に基づいて、前記一対の前輪のそれぞれのタイヤ空気圧の差が閾値以上となったか否かを判別し、当該差が前記閾値以上となった場合、タイヤ空気圧が小さい方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記一対の前輪のそれぞれのタイヤ空気圧の差が前記閾値以上となった場合、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ空気圧が無荷重時のタイヤ空気圧と同等となったか否かを判別し、同等となった場合、同等となった方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ空気圧が無荷重時のタイヤ空気圧と同等となった場合、同等となった前輪ではない方の前輪のタイヤ空気圧が、前記一対の前輪のそれぞれのタイヤ空気圧の差が前記閾値以上となった時点の前後で増加しているか否かを判別し、増加している場合、同等となった方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記作業用車両は、前記車体の鉛直方向の加速度を検出する加速度検出部を備え、
前記制御部は、前記加速度検出部の検出結果に基づいて、前記一対の前輪のそれぞれのタイヤ空気圧の差が閾値以上となったときに前記車体が鉛直上方へ変移したか否かを判別し、鉛直上方へ変移している場合には前記一対の前輪のタイヤ空気圧の状態にかかわらず脱輪を検出しない
ことを特徴とする請求項3から5の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記作業用車両は、前記右前輪および前記左前輪のタイヤ空気圧を検出するタイヤ空気圧検出部を備え、
前記制御部は、前記タイヤ空気圧検出部の検出結果に基づいて、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ空気圧のみが、無荷重時のタイヤ空気圧と同等となったか否かを判別し、同等となった場合、同等となった方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ空気圧が無荷重時のタイヤ空気圧と同等となった場合、同等となった前輪ではない方の前輪のタイヤ空気圧が、同等となった時点の前後で増加しているか否かを判別し、増加している場合、同等となった方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記作業用車両は、前記車体の鉛直方向の加速度を検出する加速度検出部を備え、
前記制御部は、前記加速度検出部の検出結果に基づいて、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ空気圧が無荷重時のタイヤ空気圧と同等となったときに前記車体が鉛直上方へ変移したか否かを判別し、鉛直上方へ変移している場合には前記一対の前輪のタイヤ空気圧の状態にかかわらず脱輪を検出しない
ことを特徴とする請求項7または8に記載の制御装置。
【請求項10】
前記作業用車両は、前記右前輪および前記左前輪のそれぞれについて、基準形状からのタイヤの歪みの度合いを示すタイヤ歪みを検出するタイヤ歪み検出部を備え、
前記制御部は、前記タイヤ歪み検出部の検出結果に基づいて、前記一対の前輪のそれぞれのタイヤ歪みの差が閾値以上となったか否かを判別し、当該差が前記閾値以上となった場合、タイヤ歪みが無荷重時のタイヤ歪みに近い方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記一対の前輪のそれぞれのタイヤ歪みの差が前記閾値以上となった場合、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ歪みが無荷重時のタイヤ歪みと同等となったか否かを判別し、同等となった場合、同等となった方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項10に記載の制御装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ歪みが無荷重時のタイヤ歪みと同等となった場合、同等となった前輪ではない方の前輪のタイヤ歪みが、前記一対の前輪のそれぞれのタイヤ歪みの差が閾値以上となった時点の前後で、無荷重時のタイヤ歪みから離れる側に変化しているか否かを判別し、変化している場合、同等となった方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項11に記載の制御装置。
【請求項13】
前記作業用車両は、前記車体の鉛直方向の加速度を検出する加速度検出部を備え、
前記制御部は、前記加速度検出部の検出結果に基づいて、前記一対の前輪のそれぞれのタイヤ歪みの差が閾値以上となったときに前記車体が鉛直上方へ変移したか否かを判別し、鉛直上方へ変移している場合には前記一対の前輪のタイヤ歪みの状態にかかわらず脱輪を検出しない
ことを特徴とする請求項10から12の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項14】
前記作業用車両は、前記右前輪および前記左前輪のタイヤ歪みを検出するタイヤ歪み検出部を備え、
前記制御部は、前記タイヤ歪み検出部の検出結果に基づいて、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ歪みのみが、無荷重時のタイヤ歪みと同等となったか否かを判別し、同等となった場合、同等となった方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項15】
前記制御部は、前記一対の前輪のうち一方の前輪のタイヤ歪みが無荷重時のタイヤ歪みと同等となった場合、同等となった前輪ではない方の前輪のタイヤ歪みが、同等となった時点の前後で、無荷重時のタイヤ歪みから離れる側に変化しているか否かを判別し、変化している場合、同等となった方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項14に記載の制御装置。
【請求項16】
前記作業用車両は、前記車体の鉛直方向の加速度を検出する加速度検出部を備え、
前記制御部は、前記加速度検出部の検出結果に基づいて、前記一対の前輪のうち何れかの前輪のタイヤ歪みが無荷重時のタイヤ歪みと同等となったときに前記車体が鉛直上方へ変移したか否かを判別し、鉛直上方へ変移している場合には前記一対の前輪のタイヤ歪みの状態にかかわらず脱輪を検出しない
ことを特徴とする請求項14または15に記載の制御装置。
【請求項17】
前記作業用車両は、前記右前輪と前記左前輪とが異なる速度で回転することを可能とするデファレンシャルギヤを含む差動装置と、前記差動装置による前記右前輪および前記左前輪に対する駆動力の配分を検出する配分検出部と、前記車体の速度を検出する速度検出部とを備え、
前記制御部は、
前記配分検出部の検出結果に基づいて、前記差動装置により前記一対の前輪のうち一方の前輪に対して全量或いは全量に近い割合で駆動力の配分がなされたか否かを判別し、
当該割合で駆動力の配分がなされた場合、前記速度検出部の検出結果に基づいて、当該割合で駆動力の配分がなされたときの前記作業用車両の速度がゼロであるか或いはゼロに近いか否かを判別し、ゼロではない或いはゼロに近くはない場合、当該割合で駆動力の配分がなされた方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項18】
前記作業用車両は、前記右前輪と前記左前輪とが異なる速度で回転することを可能とするデファレンシャルギヤを含む差動装置と、前記右前輪および前記左前輪の回転速度を検出する回転速度検出部と、前記車体の速度を検出する速度検出部とを備え、
前記制御部は、
前記回転速度検出部の検出結果に基づいて、一方の前輪と他方の前輪との回転速度の差が閾値以上となったか否かを判別し、
前記閾値以上となった場合、前記速度検出部の検出結果に基づいて、当該差が前記閾値以上となったときの前記作業用車両の速度がゼロであるか或いはゼロに近いか否かを判別し、ゼロではない或いはゼロに近くはない場合、回転速度が大きい方の前輪の脱輪を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項19】
前記制御部は、脱輪を検出した場合、脱輪したことを運転手に報知する
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項20】
前記制御部は、脱輪を検出した場合、前記作業用車両に所定の態様で自動動作させる
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項21】
作業機が接続されたまたは接続可能な車体と、
前記車体を支持する一対の前輪および一対の後輪と、
右前輪ならびにこれに対応する部材を含む右前輪対応部材、および、左前輪ならびにこれに対応する部材を含む左前輪対応部材について、前記右前輪対応部材の状態と前記左前輪対応部材の状態との関係、または、前記右前輪対応部材に加わる作用と前記左前輪対応部材に加わる作用との関係に基づいて前記一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪を検出する制御部とを備える
ことを特徴とする作業用車両。
【請求項22】
作業機が接続されたまたは接続可能な車体と、前記車体を支持する一対の前輪および一対の後輪とを備える作業用車両に関する処理を実行する制御装置による情報処理方法であって、
制御部が、前記作業用車両の右前輪ならびにこれに対応する部材を含む右前輪対応部材、および、前記作業用車両の左前輪ならびにこれに対応する部材を含む左前輪対応部材について、前記右前輪対応部材の状態および前記左前輪対応部材の状態を検出し、または、前記右前輪対応部材に加わる作用および前記左前輪対応部材に加わる作用を検出するステップと、
前記制御部が、前記右前輪対応部材の状態と前記左前輪対応部材の状態との関係、または、前記右前輪対応部材に加わる作用と前記左前輪対応部材に加わる作用との関係に基づいて前記一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪を検出するステップとを含む
ことを特徴とする情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機が車体に接続されて使用される作業用車両に関する処理を実行する制御装置、当該作業用車両、当該制御装置による情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車体の後部に作業機が接続されて使用される作業用車両が広く普及している。作業用車両には、いわゆるトラクタが含まれる。作業用車両の車体に接続される作業機は一例として、ロータリ(耕うん機)、プラウまたは播種機である。作業用車両は、各種作業を飛躍的に効率化できるため広く普及している一方で、作業用車両の使用中の転倒が多く発生しており、その中には人的被害を伴う重大な事故につながるものも少なくない。そして作業用車両の転倒の防止に関し、従来、以下の技術が開示されている。
【0003】
すなわち特許文献1には、車両の加速度を検出する加速度検出装置と、各種演算処理を実行する演算部とを少なくとも備え、車体の重量および加速度から得られる慣性力に基づいて、ゼロモーメントポイントを演算し、車速を調整し、転倒を防止する技術が開示されている。また特許文献2には、車両の旋回時のヨー方向の角速度から、車輪のスリップの度合いを示す相関値を算出し、相関値を利用して旋回制御を行い、転倒を防止するする技術が開示されている。また特許文献3には、車両の前方或いは後方に存在する溝や段差を検出し、警告することによって転倒を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-003183号公報
【特許文献2】特開2023-004465号公報
【特許文献3】特開2009-208509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように作業用車両の転倒は重大な事故につながる可能性があるため、これを防止することが強く求められる。これを踏まえ、作業用車両の分野では、転倒の防止に寄与する有効な技術が常に求められている。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、作業用車両について、転倒の防止に寄与する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、本発明は、作業用車両の右前輪ならびにこれに対応する部材を含む右前輪対応部材、および、作業用車両の左前輪ならびにこれに対応する部材を含む左前輪対応部材について、右前輪対応部材の状態と左前輪対応部材の状態との関係、または、右前輪対応部材に加わる作用と左前輪対応部材に加わる作用との関係に基づいて一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪を検出する。
【発明の効果】
【0008】
作業用車両の転倒は様々な要因によって起こり得るものの、1つの類型として、一対の前輪のうち一方の前輪が脱輪し、これに起因して車体がバランスを崩し、転倒に至ることによって発生する。このような態様の転倒は、実際に少なからず発生している。一方、作業用車両は車体に作業機が接続されて使用されるため、接続された作業機の重量が車体に作用し、作業用車両全体の重心位置が、作業機が接続されてない一般車両と比較して後方に位置するという特徴がある。このため、一方の前輪が脱輪した場合であっても車体がバランスを崩すまでにある程度の時間を要し、すぐに転倒するわけではないという特徴がある。従って、一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪が発生したときに、これを的確に検出できれば、転倒が発生する前に転倒の防止のための対処を実行することが可能となり、転倒の防止に有効につなげることができる。
【0009】
また発明者らは実験および研究の結果、車体に作業機が接続されて使用される作業用車両について、一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪が発生すると、車体がバランスを崩して転倒する前に以下の事象が生じることを見出した。すなわち、作業用車両の右前輪ならびにこれに関連する部材を含む右前輪関連部材とし、左前輪ならびにこれに関連する部材を含む左前輪関連部材とすると、(1)右前輪対応部材の状態と左前輪対応部材の状態との関係が、一方の前輪が脱輪したことに応じた所定の関係となる、(2)右前輪対応部材に加わる作用と左前輪対応部材に加わる作用との関係が、一方の前輪が脱輪したことに応じた所定の関係となる。
【0010】
以上を踏まえ上記のように構成した本発明によれば、右前輪関連部材の状態と左前輪関連部材の状態との関係、または、右前輪関連部材に加わる作用と左前輪関連部材に加わる作用との関係に基づいて一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪が検出される。このため、一対の前輪のうち一方の前輪の脱輪が発生したときに、これを的確に検出することが可能となる。そして一方の前輪の脱輪が発生したときにこれを的確に検出することができるため、脱輪が発生した場合、車体がバランスを崩して転倒する前に、転倒の防止のための対処を実行することが可能となる。すなわち本発明によれば、作業用車両について、転倒の防止に寄与する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る作業用車両の側面図である。
図2】一実施形態に係る作業用車両の上面図である。
図3】スイング機構の説明に用いる図である。
図4】一実施形態に係る制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
図5】曲げモーメント検出センサの説明に用いる図である。
図6】本件実験の時間の経過を示す図である。
図7】本件実験の様子を示す図である。
図8】本件実験の様子を示す図である。
図9】一実施形態に係る制御装置の情報処理方法を示すフローチャートである。
図10】一実施形態に係る制御装置の情報処理方法を示すフローチャートである。
図11】車両正常状態のときに前輪軸に作用する曲げモーメントの説明に利用する図である。
図12】作業用車両の左前輪が脱輪した様子を示す図である。
図13】一実施形態に係る制御装置の情報処理方法を示すフローチャートである。
図14】一実施形態に係る制御装置の情報処理方法を示すフローチャートである。
図15】一実施形態に係る制御装置の情報処理方法を示すフローチャートである。
図16】一実施形態に係る制御装置の情報処理方法を示すフローチャートである。
図17】一実施形態に係る制御装置の情報処理方法を示すフローチャートである。
図18】一実施形態に係る制御装置の情報処理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る作業用車両1を横から見た側面図である。図2は、作業用車両1を上方から見た上面図である。なお図1、2では、作業用車両1の構造を単純化して示している。本実施形態に係る作業用車両1は、一般にトラクタと呼ばれる、農作業を支援する車両である。
【0013】
図1、2で示すように作業用車両1は、車体2を備えている。車体2には、運転手が搭乗可能な空間が形成され、当該空間には運転手が搭乗する運転席3、ハンドル4、ブレーキペダル、クラッチペダル、前後進レバー、変速レバー、車両の走行/状態に関する各種計器、その他の車両に関する部材が設けられている。また車体2には、エンジン、トランスミッション機構、ブレーキ機構、ステアリング機構、ECUその他の車両の走行に関する部材が設けられている。車体2は、その後部に用途に応じた作業機5(インプルメント)を接続可能に構成されている。作業機5は例えば、土壌を耕うんするロータリ、土壌を耕起するプラウ、または農作物の種をまく播種機である。図1では作業機5としてロータリが接続された様子を示している。
【0014】
作業用車両1は、車体2を支持する一対の右前輪7Rおよび左前輪7Lを備えている。以下、右前輪7Rと左前輪7Lとを区別しない場合「前輪7」という。本実施形態において前輪7は、ホイールとホイールに装着されたタイヤとを含む概念である。このことは後述する後輪10についても同様である。右前輪7Rはタイヤとして、右前輪タイヤ8Rを備える。左前輪7Lはタイヤとして、左前輪タイヤ8Lを備える。以下、右前輪タイヤ8Rと左前輪タイヤ8Lとを区別しない場合「前輪タイヤ8」という。前輪7は、前輪軸9(図2、3)によって軸支される。
【0015】
作業用車両1は、車体2を支持する一対の右後輪10Rおよび左後輪10Lを備えている。以下、右後輪10Rおよび左後輪10Lを区別しない場合「後輪10」という。後輪10は、後輪軸11(図3)によって軸支される。
【0016】
作業用車両1は、一対の前輪7に対応してデファレンシャルギヤを含む前輪差動装置13(差動装置)(図4)を備えている。また作業用車両1は、一対の後輪10に対応して、後輪差動装置を備えている。前輪差動装置13に着目して説明すると、前輪差動装置13は、作業用車両1の旋回時に右前輪7Rおよび左前輪7Lへの駆動力の配分を調整し、右前輪7Rと左前輪7Lとを異なる速度で回転させ、前輪7のスリップを抑制する。
【0017】
作業用車両1は、前輪軸9に対応して、スイング機構14を備えている。図3は、スイング機構14を説明するため、スイング機構14に関連する要素を説明に適した態様で単純化して模式的に示す図である。図3で示すようにスイング機構14は、前輪軸9を支持するピボット15を備える。またスイング機構14は、ストッパ16を備える。ストッパ16は、車体2の一部として構成される部材であってもよい。スイング機構14は、前輪軸9が、ピボット15を中心として、車体2に対して一定範囲内で回動することを許容する機構である。すなわちピボット15を中心とした前輪軸9の回動が一定範囲を超えた場合、前輪軸9がストッパ16に当接し、その回動が規制される。このように本実施形態に係る作業用車両1は前輪軸9に対応してスイング機構14を有しているため、スイング機構14に着目したときに車体2は、スイング機構14のピボット15と一対の後輪10とによる3点で支持された状態となる。
【0018】
図4は、制御装置20の機能構成例を示すブロック図である。図4で示すように作業用車両1は、制御装置20を備える。制御装置20は、演算処理機能/情報処理機能を備えるコンピュータである。制御装置20は筐体として或いは制御基板として、車体2の内部に設けられている。制御装置20は機能ブロックとして、制御部21を備える。制御部21は、ハードウェア、DSP(Digital Signal Processor)、ソフトウェアの何れによっても構成することが可能である。例えばソフトウェアによって構成する場合、制御部21は、実際にはコンピュータのCPU、RAM、ROMなどを備えて構成され、RAMやROM、ハードディスクまたは半導体メモリ等の記録媒体に記憶されたプログラムが動作することによって実現される。
【0019】
本実施形態では制御部21は、CPU(プロセッサ)と、一次記憶装置と、補助記憶装置とを含んで構成されている。CPUは、制御機構、演算機構、レジスタ及びキャッシュメモリを含んで構成される。ただしCPUの構成はこれに限定されるものではなく、必要な演算処理機能/情報処理機能を実現できるものであればよい。一次記憶装置は、DRAM等の揮発性メモリを含んで構成され、CPUが直接読み書きするデータを一時的に記憶する。補助記憶装置は、ROM等の不揮発性メモリを含んで構成され、各種データを不揮発的に記憶する。制御部21は、CPUが、補助記憶装置に記憶されたプログラムを一次記憶装置に読み出して実行することによって各種処理を実行する。
【0020】
図4で示すように作業用車両1は、自動動作実行部22を備える。自動動作実行部22は、作業用車両1の動作に関する各種機構(エンジン、トランスミッション機構、ブレーキ機構およびステアリング機構を含む)を制御する制御ユニットに接続されている。制御ユニットは少なくともECUを含む。自動動作実行部22は、制御部21の制御の下、制御ユニットを制御して作業用車両1を所定の態様で自動動作させることができる。自動動作とは、自動で行われる作業用車両1の動作を広く含む概念である。自動動作には、作業用車両1が自動で行う加速、操舵および制動が含まれる。また自動動作には、作業用車両1に搭載された各種装置が自動で行う処理が含まれる。
【0021】
図4で示すように作業用車両1は、音声処理装置23を備える。音声処理装置23は、スピーカ24に接続される。スピーカ24は、放音する音声が運転席に座る運転手に聴取される位置に設けられている。音声処理装置23は制御部21の制御の下で、音声を放音する。
【0022】
図4で示すように作業用車両1は、曲げモーメント検出部25を備える。図5は、曲げモーメント検出部25の説明に利用する図である。図5では、前輪軸9および一対の前輪7を説明に適した態様で単純化して模式的に示している。図5を参照し、曲げモーメント検出部25は、所定のセンサの検出結果に基づいて、右前輪7Rとピボット15との間の前輪軸9である右方前輪軸9Rに作用する曲げモーメントである「右曲げモーメントMR」を検出する。そして曲げモーメント検出部25は、右曲げモーメントMRの大きさを値として示す右曲げモーメント値を制御部21に出力する。曲げモーメント検出部25は、所定周期で継続して右曲げモーメント値を制御部21に出力する。検出値を所定周期で継続して制御部21に出力する点は、他の検出部についても同様である。また曲げモーメント検出部25は、所定のセンサの検出結果に基づいて、左前輪7Lとピボット15との間の前輪軸9である左方前輪軸9Lに作用する曲げモーメントである「左曲げモーメントML」を検出する。そして曲げモーメント検出部25は、左曲げモーメントMLの大きさを値として示す左曲げモーメント値を制御部21に出力する。なお制御部21が曲げモーメント検出部25として機能する構成でもよい。
【0023】
図4で示すように作業用車両1は、タイヤ空気圧検出部26を備える。タイヤ空気圧検出部26は、所定のセンサの検出結果に基づいて右前輪タイヤ8Rのタイヤ空気圧である右タイヤ空気圧PRを検出する。そしてタイヤ空気圧検出部26は、右タイヤ空気圧PRの大きさを値として示す右タイヤ空気圧値を制御部21に出力する。またタイヤ空気圧検出部26は、所定のセンサの検出結果に基づいて左前輪タイヤ8Lのタイヤ空気圧である左タイヤ空気圧PLを検出する。そしてタイヤ空気圧検出部26は、左タイヤ空気圧PLの大きさを値として示す左タイヤ空気圧値を制御部21に出力する。なお制御部21がタイヤ空気圧検出部26として機能する構成でもよい。
【0024】
図4で示すように作業用車両1は、加速度検出部28を備える。加速度検出部28は、車体2の“鉛直方向”の加速度を検出し、加速度の大きさを値として示す鉛直方向加速度値を制御部21に出力する。なお制御部21が加速度検出部28として機能する構成でもよい。
【0025】
図4で示すように作業用車両1は、タイヤ歪み検出部29を備える。タイヤ歪み検出部29は、所定のセンサの検出結果に基づいて右前輪タイヤ8Rのタイヤ歪みである右タイヤ歪みDRを検出する。右前輪タイヤ8Rのタイヤ歪みは、以下を意味する。すなわち右前輪タイヤ8Rに対して正常に空気が充填されている状態において、右前輪タイヤ8Rに対して外圧がかかっていないときの右前輪タイヤ8Rの形状を基準形状とする。そして右前輪タイヤ8Rのタイヤ歪みは、基準形状からの右前輪タイヤ8Rの歪み(基準形状と右前輪タイヤ8Rの形状との差)の度合いを意味する。従って右前輪タイヤ8Rの歪みは、基準形状に対して、現時点の右前輪タイヤ8Rの形状が変形している度合いが大きいほど、大きくなる。後述する左前輪タイヤ8Lのタイヤ歪みの意味するところも、右前輪タイヤ8Rのタイヤ歪みの意味するところと同じである。
【0026】
タイヤ歪み検出部29は、右タイヤ歪みDRの大きさを値として示す右タイヤ歪み値を制御部21に出力する。本実施形態では右タイヤ歪み値は、0~1000ptの間で値をとるものとする(ptは便宜的につけた単位)。右タイヤ歪み値が0ptの場合、右前輪タイヤ8Rの形状が、基準形状(=右前輪タイヤ8Rに対して外圧がかかっていないときの右前輪タイヤ8Rの形状)と同じということである。右タイヤ歪み値は、基準形状に対する右前輪タイヤ8Rの歪みの度合いが大きいほど大きくなる。以上の右タイヤ歪み値に関する事項は、後述する左タイヤ歪み値についても同様である。以下、右タイヤ歪み値が0ptであるタイヤ歪み、および、左タイヤ歪み値が0ptであるタイヤ歪みを「無荷重時タイヤ歪み」という。無荷重時タイヤ歪みは、無荷重時の前輪タイヤ8の歪みに相当する。また右タイヤ歪み値および左タイヤ歪み値を総称して「タイヤ歪み値」という場合がある。
【0027】
またタイヤ歪み検出部29は、所定のセンサの検出結果に基づいて左前輪タイヤ8Lのタイヤ歪みである左タイヤ歪みDLを検出する。そしてタイヤ歪み検出部29は、左タイヤ歪みDLの大きさを値として示す左タイヤ歪み値を制御部21に出力する。
【0028】
タイヤ歪み検出部29は一例として、以下の方法でタイヤ歪みを検出する。すなわち、右前輪タイヤ8Rのサイドウォール部には、当該タイヤの歪みを検出するのに適切な態様でひずみゲージが取り付けられている。同様に左前輪タイヤ8Lのサイドウォール部にはひずみゲージが取り付けられている。タイヤ歪み検出部29は、右前輪タイヤ8Rに係るひずみゲージの検出値を入力し、右タイヤ歪みDRを検出する。同様にタイヤ歪み検出部29は、左前輪タイヤ8Lに係るひずみゲージの検出値を入力し、左タイヤ歪みDLを検出する。ただしタイヤ歪み検出部29がタイヤ歪みを検出する方法は例示した方法に限られない。例えばタイヤ歪み検出部29は、CPU(プロセッサ)と、一次記憶装置と、補助記憶装置とを含むコンピュータにより構成される。そしてタイヤ歪み検出部29は、一対の前輪7のそれぞれを撮影するカメラの撮影結果に基づく撮影画像を入力し、撮影画像を分析して一対の前輪7のそれぞれのタイヤ歪みを検出する。なお制御部21がタイヤ歪み検出部29として機能する構成でもよい。
【0029】
図4で示すように作業用車両1は、速度検出部30を備える。速度検出部30は、作業用車両1の速度を検出し、速度の大きさを値として示す速度値を制御部21に出力する。なお制御部21が速度検出部30として機能する構成でもよい。
【0030】
図4で示すように作業用車両1は、配分検出部31は、前輪差動装置13による右前輪7Rおよび左前輪7Lに対する駆動力の配分を検出し、当該配分を示す駆動力配分値を制御部21に出力する。一例として作業用車両1のECUが配分検出部31として機能する。制御部21が配分検出部31として機能してもよい。
【0031】
ところで本実施形態の作業用車両1のように、車体の後部に作業機が接続されて使用される作業用車両では、使用中の転倒が多く発生している。以下では、作業用車両1を作業用車両一般の代表的な例とし、作業用車両一般に関する事象について、作業用車両1を用いて説明する場合がある。作業用車両1の転倒は様々な要因によって起こり得るものの、1つの類型として、一対の前輪7のうち一方の前輪7が脱輪し、これに起因して車体2がバランスを崩し、転倒に至ることによって発生する。以下の説明において作業用車両1について「転倒」という場合、特に説明しない限り、一対の前輪7のうち、何れか一方の前輪7が脱輪することに起因して発生した転倒を意味するものとする。また以下の説明において「前輪7の脱輪」という場合、特に説明しない限り、一対の前輪の7うち、何れか一方の前輪7の脱輪を意味する。
【0032】
そして発明者らは、作業用車両1の転倒についての実験を行った結果、以下の事項を見出した。すなわち作業機5が接続された状態の作業用車両1の前輪7が脱輪した場合、脱輪が発生してからすぐに作業用車両1が転倒するわけではなく、脱輪が発生してからある程度の時間が経過した後、転倒が発生することを見出した。図6~8は、発明者らによって行われた実験のうちの1つの説明に利用する図である。以下、図6~8を用いて説明する実験を「本件実験」という。
【0033】
図7の(T1)を参照し、本件実験ではテスト用の車両(以下「テスト車両33」という)が用いられた。テスト車両33は、実際に人間が搭乗することなくリモートコントローラで走行させることが可能な作業機5付きの作業用車両1である。また本件実験では、実験空間内に、床に対して段差のある仮想道路34が設置された。そして本件実験では、テスト車両33を仮想道路34に載せて、仮想道路34上でテスト車両33を走行させると共に、あるタイミングでテスト車両33の左前輪7Lを仮想道路34から脱輪させることが行われた。
【0034】
図6は、仮想道路34上のテスト車両33が走行を開始したタイミング(0:00)を起点とする時間の経過を示す軸上に、図7の(T1)~(T4)の写真、および、図8の(T5)~(T8)の写真がされたタイミングを記した図である。なお図6~8の説明において時間は「3:330」のように表され、コロンの前が秒を示し、コロンの左がミリ秒を示す。
【0035】
本件実験ではまず、テスト車両33が仮想道路34のスタート地点で停止した状態とされた。図7の(T1)は、「0:000」においてテスト車両33が停止した状態を示す。その後、操作者は、テスト車両33が仮想道路34上を前方に向かって走行するよう、テスト車両33をリモートコントロールした。図7の(T2)は、「5:000」においてテスト車両33が仮想道路34上を走行している様子を示す。操作者は、テスト車両33が徐々に進行方向に対して左向きに向かうように、テスト車両33をリモートコントロールした。そして操作者は、「10:050」においてテスト車両33の左前輪の脱輪を発生させた。前輪の脱輪の発生とは、一方の前輪が地面から外れ、当該一方の前輪が地面に支えられた状態が完全に消失するに至ったことを言う。図7の(T3)は、「10:050」においてテスト車両33の左前輪の脱輪が発生した様子を示す。以下、脱輪が発生したタイミングを「脱輪発生タイミング」という。
【0036】
操作者は、「10:050」においてテスト車両33の前輪の脱輪が発生した後も、これをきっかけとして車両を旋回させたり減速させたりせずに、脱輪発生タイミングよりも前と同じ態様でテスト車両33が走行するように、テスト車両33をリモートコントロールした。するとテスト車両33は、前輪の脱輪の発生に応じてすぐに転倒を開始するのではなく、脱輪発生タイミングから1秒後の「11:050」時点でも安定した走行を継続した。安定した走行とは、地面に対する車体の傾きが、脱輪発生タイミング前とほとんど変わらない状態でバランスを崩すことなく走行することをいう。図7の(T4)は、「11:050」においてテスト車両33が走行する様子を示す。
【0037】
更にテスト車両33は、脱輪発生タイミングから2秒後の「12:050」時点でも安定した走行を継続した。図8の(T5)は、「12:050」においてテスト車両33が走行する様子を示す。その後、「13:010」でテスト車両33の転倒の開始が起こった。転倒の開始とは、車両がバランスを崩し、どのような制御をしても体勢を戻すことが不可能な状態へと移行することを意味する。以下、転倒が始まるタイミングを「転倒開始タイミング」という。図8の(T6)は、「13:010」においてテスト車両33の転倒が始まった様子を示す。
【0038】
図8の(T7)は転倒開始タイミングから10ミリ秒後である「13:020」時点のテスト車両33の様子を示す。また図8の(T8)は転倒開始タイミングから20ミリ秒後である「13:030」時点のテスト車両33の様子を示す。このように転倒が始まるとテスト車両33の車体は、地面に対して急速に傾いていった。
【0039】
本件実験では、テスト車両33の脱輪後、テスト車両33はすぐに転倒するのではなく、脱輪発生タイミングから約3秒は安定して走行することが確認できる。以下、脱輪発生タイミングから転倒開始タイミングまでの期間を「注目期間」という。発明者らは、以上のような脱輪発生時の作業用車両1の挙動を確認するテストおよびシミュレーションを繰り返し行い、以下の事項を見出した。すなわち作業機5が接続された状態の作業用車両1の前輪7が脱輪した場合、脱輪が発生してからすぐに作業用車両1が転倒するわけではなく、脱輪が発生してから、ある程度の時間が経過した後、転倒が発生することを見出した。
【0040】
なお作業用車両1の前輪7が脱輪した後に後輪10が脱輪した場合には、後輪10が脱輪したタイミングで確実に転倒が始まる。ただし作業用車両1が、前輪7が脱輪した後、安定して走行しているときに、後輪10が脱輪する前に転倒が始まることもある。つまり転倒開始タイミングは、後輪10が脱輪するタイミングとなる場合もあれば、後輪10が脱輪する前に到来する場合もある。
【0041】
また注目期間の長さは、作業用車両1の重心位置、作業用車両1が走行する道路の状態、作業用車両1の速度、作業用車両1の旋回の状態、その他の要素に影響を受けて変化する。特に作業用車両1の重心位置は、注目期間の長さに大きな影響を与える要素であるが、この重心位置は車体2の具体的構造だけでなく、車体2に接続される作業機5の具体的構造によっても変わってくる。このことを踏まえた上で、以下、注目期間の長さの一例を示す。すなわち、ある作業用車両1について、前輪軸9と後輪軸11との離間距離が「1.5メートル」であるとする。なお30馬力のトラクタでは、前輪軸9と後輪軸11との離間距離の平均値が「1.5メートル」程度となる。そして、この作業用車両1が2km/s(=0.56m/s)で走行していたとする。なお一般的な作業用車両1の作業時の速度の目安は、1~2km/sである。この場合において、この作業用車両1の前輪7の脱輪が発生してから後輪10の脱輪が発生するまでの期間の長さは「2.7秒」程度である。この「2.7秒」が注目期間の1つの目安となる。
【0042】
以上の通り作業用車両1は、前輪7の脱輪後にすぐに転倒するのではなく、注目期間の経過後に転倒する。これは以下の理由による。すなわち、作業用車両1は車体2に作業機5が接続されて使用される。このため、作業用車両1に関しては、接続された作業機5の重量が車体2に作用し、作業用車両1全体の重心位置が、作業機5が接続されてない一般車両と比較して後方に位置する。このため、作業用車両1は、前輪7が脱輪した場合であっても車体2がバランスを崩すまでにある程度の時間を要し、すぐに転倒しない。以上の理由による。そして本実施形態に係る制御装置20は、作業用車両1が前輪7の脱輪後にすぐには転倒しないという特徴を好適に活用し以下の処理を実行する。以下、制御装置20の動作について詳述する。
【0043】
図9のフローチャートFAは、作業用車両1のエンジンが始動されたことをトリガとして制御装置20が実行する処理(制御装置20による情報処理方法)を示すフローチャートである。ただしフローチャートFAの処理を開始するトリガは本実施形態で例示するものに限られない。一例としてアクセサリスイッチがオンとなったこと、または、エンジンが始動された後に最初に走行が開始されたことをトリガとすることができる。
【0044】
図9で示すように制御装置20は、曲げモーメント関連処理、タイヤ空気圧関連処理、タイヤ歪み関連処理、および、差動装置関連処理を開始する(ステップSA1)。ステップSA1で開始される各処理は、端的に言うと、前輪7の脱輪を検出するための処理である。以下、曲げモーメント関連処理、タイヤ空気圧関連処理、タイヤ歪み関連処理、および、差動装置関連処理を総称して「脱輪検出処理」という場合がある。以下、脱輪検出処理のそれぞれについて詳述する。
【0045】
<曲げモーメント関連処理>
図10のフローチャートFBは、曲げモーメント関連処理(制御装置20による情報処理方法)を示すフローチャートである。図10のフローチャートFBの開始時点では、作業用車両1は、車両正常状態であるものとする。車両正常状態とは、全ての車輪について脱輪が発生せず正常に接地し、作業用車両1が安全に走行可能な状態を意味する。フローチャートの開始時点で作業用車両1が車両正常状態である点は、後述するフローチャートFC、FD、FE、FF、FGについても同様である。
【0046】
ここで作業用車両1が車両正常状態の場合、前輪軸9の曲げモーメントに関し、以下の状態が現出する。図11は、車両正常状態のときに前輪軸9に作用する曲げモーメントの説明に利用する図である。図11で示すように車両正常状態では、右前輪7Rおよび左前輪7Lが共に地面に接地し、地面から鉛直上向きに向かう抗力を受ける。またピボット15は、ピボット15の支持構造から鉛直下向きに向かう力を受ける。この結果、右曲げモーメントMRおよび左曲げモーメントMLは共に、正(+)の曲げモーメントとなる。以上より、フローチャートFBの開始時点では、右曲げモーメントMRおよび左曲げモーメントMLは共に、正(+)の曲げモーメントである。以上の点は発明者らがテスト等によって確認した事項である。
【0047】
図10で示すように曲げモーメント関連処理において制御装置20の制御部21は、曲げモーメント検出部25から入力する右曲げモーメント値および左曲げモーメント値(曲げモーメント検出部25の検出結果)に基づいて、右曲げモーメントMRおよび左曲げモーメントMLのうち、一方の曲げモーメントのみが、正の曲げモーメントから負(-)の曲げモーメントとなったか否かを監視(判別)する(ステップSB1)。ステップSB1において例えば制御部21は、所定周期(一例として1ミリ秒ごと)で、右曲げモーメントMRおよび左曲げモーメントMLを認識し、右曲げモーメントMRおよび左曲げモーメントMLのうち、一方の曲げモーメントのみが、正の曲げモーメントから負の曲げモーメントとなったか否かを判別する。制御部21は、一方の曲げモーメントのみが負の曲げモーメントとなったと判定するまで当該判別を繰り返し実行する。
【0048】
一方の曲げモーメントのみが負の曲げモーメントとなった場合(ステップSB1:YES)、制御部21は、右曲げモーメントMRと左曲げモーメントMLとで、どちらが負の曲げモーメントとなったかを判別する(ステップSB2)。
【0049】
右曲げモーメントMRが負の曲げモーメントとなった場合(ステップSB2:「右曲げモーメントMR」)、制御部21は、右前輪7Rの脱輪を検出する(ステップSB3)。その後、制御部21は、処理を終了する。一方、左曲げモーメントMLが負の曲げモーメントとなった場合(ステップSB2:「左曲げモーメントML」)、制御部21は、左前輪7Lの脱輪を検出する(ステップSB4)。その後、制御部21は、処理を終了する。
【0050】
以上の曲げモーメント関連処理により、前輪7の脱輪を的確に検出することができる。理由は以下である。すなわち発明者らは、テストおよびシミュレーションの結果、作業用車両1の前輪7の脱輪に関して以下の現象が発生することを見出した。
・作業用車両1の前輪7の脱輪が発生した場合、脱輪の発生に応じて右曲げモーメントMRおよび左曲げモーメントMLのうち、一方の曲げモーメントのみが正の曲げモーメントから負の曲げモーメントへと変化する。
・以上の曲げモーメントの状態の変化は、作業用車両1の前輪7の脱輪に応じて即座に発生する。従って、当該変化は、前輪7の脱輪が発生した後、車両の転倒が始まる前に出現する。
【0051】
以上を踏まえ、図10のフローチャートFBで示す手順で曲げモーメント関連処理を実行することにより、発明者らが見出した事項を好適に活用して的確に前輪7の脱輪を検出することができる。なお、上記現象が発生する理由は以下である。以下、作業用車両1の左前輪7Lが脱輪した場合を例にして理由を説明する。図12は、作業用車両1の左前輪7Lが脱輪した様子を模式的に示す図である。図12で示すように作業用車両1の左前輪7Lが脱輪したとする。すると左前輪7Lに対する地面からの抗力はなくなり、左前輪7Lに対して重力に従って鉛直下方に向かう力が作用する。この結果、左前輪7Lは、ピボット15を一方の端点とし左前輪7Lを他方の端点とする左方前輪軸9Lについて、左方前輪軸9Lに負の曲げモーメントを作用させる外力を当該他方の端点に付与する。これにより左方前輪軸9Lの曲げモーメントが負の曲げモーメントとなる。またピボット15には、車体2から釣り上げられる鉛直上方側に向かう力が作用する。右方前輪軸9Rは一定以上の回動を防止するストッパ16に接触し、当該箇所に車体重量が乗ることとなり、鉛直下向きに向かう力が作用する。この結果、右前輪7Rを一方の端点としピボット15を他方の端点とする右方前輪軸9Rについて、右方前輪軸9Rに正の曲げモーメントを作用させる外力が作用する。これにより右方前輪軸9Rには正の曲げモーメントが作用する。
【0052】
なお右方前輪軸9Rは、右前輪7Rに対応する部材であり「右前輪対応部材」に相当する。また左方前輪軸9Lは、左前輪7Lに対応する部材であり「左前輪対応部材」に相当する。そして発明者らは、作業用車両1の一対の前輪7のうち一方の前輪7の脱輪が発生すると、車体2がバランスを崩して転倒する前に、右方前輪軸9R(右前輪対応部材)に加わる右曲げモーメントMR(作用)と、左方前輪軸9L(左前輪対応部材)に加わる左曲げモーメントML(作用)との関係が、上述した所定の関係になることを見出した。以上を踏まえ、曲げモーメント関連処理において制御部21は、発明者らが得た知見の下、右方前輪軸9R(右前輪対応部材)に加わる右曲げモーメントMR(作用)と左方前輪軸9L(左前輪対応部材)に加わる左曲げモーメントML(作用)との関係に基づいて、一対の前輪7のうちの一方の前輪7の脱輪を検出している。これにより前輪7の脱輪の的確な検出が可能となる。
【0053】
なお曲げモーメント関連処理において制御部21が、曲げモーメントに代えて、曲げモーメントと強い相関関係のある他の指標値(この場合、当該他の指標値が曲げモーメントに相当する)を使用する構成でもよい。
【0054】
<タイヤ空気圧関連処理>
次にタイヤ空気圧関連処理について説明する。図13のフローチャートFCは、タイヤ空気圧関連処理(制御装置20による情報処理方法)を示すフローチャートである。上述したようにフローチャートFCの開始時点では、作業用車両1は、車両正常状態である。
【0055】
ここで作業用車両1が車両正常状態の場合、一対の前輪7のタイヤ空気圧は、以下の状態となる。
・右タイヤ空気圧PR(右前輪7Rの右前輪タイヤ8Rのタイヤ空気圧)と、左タイヤ空気圧PL(右前輪7Rの左前輪タイヤ8Lのタイヤ空気圧)とが同等となる。
・右タイヤ空気圧PRおよび左タイヤ空気圧PLの双方が、無荷重時空気圧とは十分に異なった値となる。
「無荷重時空気圧」とは、右前輪タイヤ8R(左前輪タイヤ8Lでもよい)に対して外圧がかかっていないときの右前輪タイヤ8Rのタイヤ空気圧のことである。車両正常状態における右タイヤ空気圧PRと左タイヤ空気圧PLとの同等性については、以下の理由による。すなわち右前輪タイヤ8Rおよび左前輪タイヤ8Lの双方に対して、車体2から同等の荷重が加わるからである。また右タイヤ空気圧PRおよび左タイヤ空気圧PLの双方が、無荷重時空気圧とは十分に異なった値となる理由は以下である。すなわち車両正常状態では、右前輪タイヤ8Rおよび左前輪タイヤ8Lの双方は、地面に接地し、地面からの抗力(外力)を受け、外力によってタイヤが変形し、無荷重時空気圧よりもタイヤ空気圧が増加するからである。以上の点は、発明者らのテストにより確認された事項である。
【0056】
さて図13で示すようにタイヤ空気圧関連処理において制御装置20の制御部21は、タイヤ空気圧検出部26から入力する右タイヤ空気圧値および左タイヤ空気圧値(タイヤ空気圧検出部26の検出結果)に基づいて、右タイヤ空気圧PRと左タイヤ空気圧PLとの“差”が予め定められた閾値である空気圧閾値TH1以上となったか否かを監視(判別)する(ステップSC1)。ステップSC1において例えば制御部21は、所定周期(一例として1ミリ秒ごと)で、右タイヤ空気圧値と左タイヤ空気圧値との差を導出し、導出した差と空気圧閾値TH1とを比較し、導出した差が空気圧閾値TH1以上であるか否かを判別する。制御部21は、差が空気圧閾値TH1以上であると判定するまで当該判別を繰り返し実行する。
【0057】
ここで前輪7の脱輪が発生すると、右タイヤ空気圧PRと左タイヤ空気圧PLとの差が急激に大きくなる。これは以下の理由による。すなわち一対の前輪7のうち何れかの前輪7が脱輪すると、脱輪した方の前輪7のタイヤ空気圧は、急激に小さくなる。脱輪した方の前輪7が地面に接地しなくなり、脱輪した方の前輪7のタイヤに加わる地面からの抗力が消えるからである。一方で、脱輪していない方の前輪7が地面に接地した状態は維持される。このため、脱輪していない方の前輪7のタイヤ空気圧は急激には変化しない。以上の理由による。なお右タイヤ空気圧PRと左タイヤ空気圧PLとの差に関する以上の事項は発明者らがテスト等を通して確認した事項である。以上を踏まえ、ステップSC1において制御部21は、前輪7の脱輪が発生した可能性があるか否かを監視している。なお空気圧閾値TH1は、前輪7の脱輪が発生した場合には、右タイヤ空気圧PRと左タイヤ空気圧PLとの差がこの閾値を上回るような値に設定される。
【0058】
左右のタイヤ空気圧の差が空気圧閾値TH1以上となった場合(ステップSC1:YES)、制御部21は、加速度検出部28から入力する鉛直方向加速度値(加速度検出部28の検出結果)に基づいて、車体2が鉛直上方へ向かって変移したか否かを判別する(ステップSC2)。前輪7の脱輪が発生した場合は、少なくとも車体2は鉛直上方へ変移しない。これを踏まえステップSC2において制御部21は、前輪7の脱輪ではない事象が発生したか否かを判別している。なお左右のタイヤ空気圧の差が空気圧閾値TH1以上となった場合において、車体2が鉛直上方へ変移している場合、一方の前輪7が障害物に乗り上げ、当該一方の前輪7がジャンプしたことが想定される。
【0059】
車体2が鉛直上方へ向かって変移した場合(ステップSC2:YES)、制御部21は、対応する処理を実行する(ステップSC3)。その後、制御部21は、処理を終了する。例えばステップSC3で実行される処理は、一方の前輪7がジャンプしている場合に実行する処理として予め定められた処理である。一例として制御部21は、一方の前輪7がジャンプした可能性がある旨の情報を音声によって出力し、運転手にその旨を報知する。
【0060】
以上の通り本実施形態では制御部21は、加速度検出部28の検出結果に基づいて、一対の前輪7のそれぞれのタイヤ空気圧の差が閾値以上となったときに車体2が鉛直上方へ変移したか否かを判別し、鉛直上方へ変移している場合には一対の前輪7のタイヤ空気圧の状態にかかわらず脱輪を検出しない。
【0061】
一方、車体2が鉛直上方へ向かって変移していない場合(ステップSC2:NO)、制御部21は、一対の前輪7のうち何れかの前輪7のタイヤ空気圧が、無荷重時空気圧と同等となったか否かを判別する(ステップSC4)。タイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同等とは、タイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同じか、これらの差が予め定められたマージンの範囲内にあることを意味する。図12を参照し、例えば左前輪7Lが脱輪した場合には、左前輪タイヤ8Lに対する地面からの抗力がなくなり、左前輪タイヤ8Lの左タイヤ空気圧PLが無荷重時空気圧と同等となる。以上を踏まえ、ステップSC4の処理は、前輪7の脱輪の検出の精度をより高めるために行われる処理である。なお一対の前輪7のうち何れの前輪7のタイヤ空気圧も無荷重時空気圧と同等となっていない場合は、スリップが発生していると想定される。また一対の前輪7のうち何れかの前輪7のタイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同等となっている場合、同等の前輪7について脱輪が発生していると想定される。以下の説明では、タイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同等となった方の前輪7を「同等空気圧前輪」という。一方、同等空気圧前輪ではない方の前輪7を「非同等空気圧前輪」という。
【0062】
一対の前輪7のうち何れの前輪7のタイヤ空気圧も無荷重時空気圧と同等となっていない場合(ステップSC4:NO)、制御部21は、対応する処理を実行する(ステップSC5)。その後、制御部21は、処理を終了する。ステップSC5で実行される処理は例えば、前輪7がスリップしている場合に実行する処理として予め定められた処理である。一例として制御部21は、一方の前輪7がスリップしている可能性がある旨の情報を音声によって出力し、運転手にその旨を報知する。
【0063】
一方、一対の前輪7のうち何れかの前輪7のタイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同等となった場合、制御部21は、非同等空気圧前輪のタイヤ空気圧が、空気圧差出現時点の前後の前後で増加しているか否かを判別する(ステップSC6)。「空気圧差出現時点」とは、左右のタイヤ空気圧の差が空気圧閾値TH1以上となった時点のことであり、ステップSC1において制御部21がYESと判定した時点のことである。
【0064】
ここで図12を参照し、例えば左前輪7Lが脱輪した場合には、左前輪タイヤ8Lに対する地面からの抗力がなくなることに起因して、右前輪タイヤ8Rには脱輪の前と比較してより大きな外力(地面からの抗力)が加わる。従って右前輪タイヤ8Rの右タイヤ空気圧PRは、脱輪の前と比較して大きくなる。ただし左タイヤ空気圧PLの変化量と比較して、右タイヤ空気圧PRの変化量は小さい。以上を踏まえステップSC6の処理は、前輪7の脱輪の検出の精度をより高めるために行われる処理である。なお非同等空気圧前輪のタイヤ空気圧が増加していない場合は、前輪7のスリップが発生していると想定される。
【0065】
非同等空気圧前輪のタイヤ空気圧が増加していない場合(ステップSC6:NO)、制御部21は、対応する処理を実行する(ステップSC7)。その後、制御部21は、処理を終了する。ステップSC7で実行される処理は例えば、前輪7がスリップしている場合に実行する処理として予め定められた処理である。一例として制御部21は、一方の前輪7がスリップしている可能性がある旨の情報を音声によって出力し、運転手にその旨を報知する。
【0066】
非同等空気圧前輪のタイヤ空気圧が増加している場合(ステップSC6:YES)、制御部21は、同等空気圧前輪の脱輪を検出する(ステップSC8)。その後、制御部21は、処理を終了する。
【0067】
以上の通り発明者らは、作業用車両1の一対の前輪7のうち一方の前輪7の脱輪が発生すると、車体2がバランスを崩して転倒する前に、右前輪7Rの右前輪タイヤ8R(右前輪対応部材)の右タイヤ空気圧PR(状態)と、左前輪7Lの左前輪タイヤ8L(左前輪対応部材)の左タイヤ空気圧PL(状態)との関係が、上述した所定の関係になることを見出した。以上を踏まえタイヤ空気圧関連処理において制御部21は、発明者らが得た知見の下、右前輪7Rの右前輪タイヤ8R(右前輪対応部材)の右タイヤ空気圧PR(状態)と左前輪7Lの左前輪タイヤ8L(左前輪対応部材)の左タイヤ空気圧PL(状態)との関係に基づいて、一対の前輪7のうちの一方の前輪7の脱輪を検出している。これにより前輪7の脱輪の的確な検出が可能となる。
【0068】
なお本実施形態に係るタイヤ空気圧関連処理に関し、以下の構成としてもよい。
・制御部21は、ステップSC1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSC8へ移行する。ステップSC8において制御部21は、一対の前輪7のうちタイヤ空気圧が小さい方の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSC2、SC4、SC6の処理は実行されない。
・制御部21は、ステップSC2の判別でNOと判定した場合、処理手順をステップSC8へ移行する。ステップSC8において制御部21は、一対の前輪7のうちタイヤ空気圧が小さい方の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSC4、SC6の処理は実行されない。
・制御部21は、ステップSC4の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSC8へ移行する。ステップSC8において制御部21は、一対の前輪7のうちタイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同等の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSC6の処理は実行されない。
・制御部21は、ステップSC1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSC4へ移行する。ステップSC4の判別でYESと判定した場合、制御部21は、処理手順をステップSC8へ移行する。ステップSC8において制御部21は、一対の前輪7のうちタイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同等の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSC2、SC6の処理は実行されない。
・制御部21が、ステップSC1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSC4へ移行する。この構成の場合、ステップSC2の処理は実行されない。
以上の構成の場合、前輪7の脱輪の検出についての精度は下がるものの、フローチャートFCの処理を実行する場合と比較して、前輪7の脱輪が発生しているときにこれが検出されなくなるということはない。
【0069】
また制御部21が、タイヤ空気圧に代えて、タイヤ空気圧と強い相関関係のある他の指標値(この場合、当該他の指標値がタイヤ空気圧に相当する)を使用する構成でもよい。
【0070】
<タイヤ歪み関連処理>
次にタイヤ歪み関連処理について説明する。図14のフローチャートFDは、タイヤ歪み関連処理(制御装置20による情報処理方法)を示すフローチャートである。上述したようにフローチャートFDの開始時点では、作業用車両1は、車両正常状態である。
【0071】
ここで作業用車両1が車両正常状態の場合、一対の前輪7のタイヤ歪みは、以下の状態となる。
・右タイヤ歪みDR(右前輪タイヤ8Rのタイヤ歪み)と、左タイヤ歪みDL(左前輪タイヤ8Lのタイヤ歪み)とが同等となる。
・右タイヤ歪みDRおよび左タイヤ歪みDLの双方が、無荷重時タイヤ歪みとは十分に異なった値となる。
上述したように無荷重時タイヤ歪みは、右前輪タイヤ8R(左前輪タイヤ8Lでもよい)に対して外圧がかかっていないときの右前輪タイヤ8Rのタイヤ歪みのことである。車両正常状態における右タイヤ歪みDRと左タイヤ歪みDLとの同等性については、以下の理由による。すなわち右前輪タイヤ8Rおよび左前輪タイヤ8Lの双方に対して、車体2から同等の荷重が加わるからである。また右タイヤ歪みDRおよび左タイヤ歪みDLの双方が、無荷重時タイヤ歪みとは十分に異なった値となる理由は以下である。すなわち車両正常状態では、右前輪タイヤ8Rおよび左前輪タイヤ8Lの双方は、地面に接地し、地面からの抗力(外力)を受け、外力によってタイヤが変形するからである。
【0072】
さて図14で示すようにタイヤ歪み関連処理において制御装置20の制御部21は、タイヤ歪み検出部29から入力する右タイヤ歪み値および左タイヤ歪み値(タイヤ歪み検出部29の検出結果)に基づいて、右タイヤ歪みDRと左タイヤ歪みDLとの“差”が予め定められた閾値である歪み閾値TH2以上となったか否かを監視(判別)する(ステップSD1)。ステップSD1において例えば制御部21は、所定周期(一例として1ミリ秒ごと)で、右タイヤ歪み値と左タイヤ歪み値との差を導出し、導出した差と歪み閾値TH2とを比較し、導出した差が歪み閾値TH2以上であるか否かを判別する。制御部21は、差が歪み閾値TH2以上であると判定するまで当該判別を繰り返し実行する。
【0073】
ここで前輪7の脱輪が発生すると、右タイヤ歪みDRと左タイヤ歪みDLとの差が急激に大きくなる。これは以下の理由による。すなわち一対の前輪7のうち何れかの前輪7が脱輪すると、脱輪した方の前輪7のタイヤ歪みは、急激に小さくなる(=タイヤの形状が基準形状に近くなる)。脱輪した方の前輪7が地面に接地しなくなり、脱輪した方の前輪7のタイヤに加わる地面からの抗力が消えるからである。一方で、脱輪していない方の前輪7が地面に接地した状態は維持される。このため、脱輪していない方の前輪7のタイヤ歪みは急激には変化しない。以上の理由による。なお右タイヤ歪みDRと左タイヤ歪みDLとの差に関する以上の事項は発明者らがテスト等を通して確認した事項である。以上を踏まえ、ステップSD1において制御部21は、前輪7の脱輪が発生した可能性があるか否かを監視している。ここで歪み閾値TH2は、前輪7の脱輪が発生した場合には、右タイヤ歪みDRと左タイヤ歪みDLとの差がこの閾値を上回るような値に設定される。
【0074】
左右の前輪7のタイヤ歪みの差が歪み閾値TH2以上となった場合(ステップSD1:YES)、制御部21は、加速度検出部28から入力する鉛直方向加速度値(加速度検出部28の検出結果)に基づいて、車体2が鉛直上方へ向かって変移したか否かを判別する(ステップSD2)。前輪7の脱輪が発生した場合は、少なくとも車体2は鉛直上方へ変移しない。これを踏まえステップSD2において制御部21は、前輪7の脱輪ではない事象が発生したか否かを判別している。なお、左右のタイヤ歪みの差が歪み閾値TH2以上となった場合において、車体2が鉛直上方へ変移している場合、一方の前輪7が障害物に乗り上げ、当該一方の前輪7がジャンプしたことが想定される。
【0075】
車体2が鉛直上方へ向かって変移した場合(ステップSD2:YES)、制御部21は、対応する処理を実行する(ステップSD3)。その後、制御部21は、処理を終了する。例えば、ステップSD3で実行される処理は、一方の前輪7がジャンプしている場合に実行する処理として予め定められた処理である。一例として制御部21は、一方の前輪7がジャンプした可能性がある旨の情報を音声によって出力し、運転手にその旨を報知する。
【0076】
以上の通り本実施形態では制御部21は、加速度検出部28の検出結果に基づいて、一対の前輪7のそれぞれのタイヤ歪みの差が閾値以上となったときに車体2が鉛直上方へ変移したか否かを判別し、鉛直上方へ変移している場合には一対の前輪7のタイヤ歪みの状態にかかわらず脱輪を検出しない。
【0077】
一方、車体2が鉛直上方へ向かって変移していない場合(ステップSD2:NO)、制御部21は、一対の前輪7のうち何れかの前輪7のタイヤ歪みが、無荷重時タイヤ歪みと同等となったか否かを判別する(ステップSD4)。タイヤ歪みが無荷重時タイヤ歪みと同等とは、タイヤ歪みが無荷重時タイヤ歪みと同じか、これらの差が予め定められたマージンの範囲内にあることを意味する。より具体的には、タイヤ歪み値が、0pt~「0ptに所定のマージンを加えた値」の範囲内にあることを意味する。図12を参照し、例えば左前輪7Lが脱輪した場合には、左前輪タイヤ8Lに対する地面からの抗力がなくなり、左前輪タイヤ8Lの左タイヤ歪みDLが無荷重時タイヤ歪みと同等となる。以上を踏まえステップSD4の処理は、前輪7の脱輪の検出の精度をより高めるために行われる処理である。なお一対の前輪7のうち何れの前輪7のタイヤ歪みも無荷重時タイヤ歪みと同等となっていない場合は、スリップが発生していると想定される。また一対の前輪7のうち何れかの前輪7のタイヤ歪みが無荷重時タイヤ歪みと同等となっている場合、同等の前輪7について脱輪が発生していると想定される。以下の説明では、タイヤ歪みが無荷重時歪みと同等となった方の前輪7を「同等歪み前輪」という。一方、同等歪み前輪ではない方の前輪7を「非同等歪み前輪」という。
【0078】
一対の前輪7のうち何れの前輪7のタイヤ歪みも無荷重時タイヤ歪みと同等となっていない場合(ステップSD4:NO)、制御部21は、対応する処理を実行する(ステップSD5)。その後、制御部21は、処理を終了する。ステップSD5で実行される処理は例えば、前輪7がスリップしている場合に実行する処理として予め定められた処理である。一例として制御部21は、一方の前輪7がスリップしている可能性がある旨の情報を音声によって出力し、運転手にその旨を報知する。
【0079】
一方、一対の前輪7のうち何れかの前輪7のタイヤ歪みが無荷重時タイヤ歪みと同等となった場合、制御部21は、非同等歪み前輪のタイヤ歪みが、歪み差出現時点の前後で、無荷重時のタイヤ歪みから離れる側に変化しているか否かを判別する(ステップSD6)。「歪み差出現時点」とは、左右のタイヤ歪みの差が歪み閾値TH2以上となった時点のことであり、ステップSD1において制御部21がYESと判定した時点のことである。ここで本実施形態では、タイヤ歪み値は0~1000ptの範囲内の数値であり、タイヤ歪みが無荷重時のタイヤ歪みから離れる側に変化するほど、タイヤ歪み値の値は大きくなる。以上を踏まえ、ステップSD6において制御部21は、非同等歪み前輪のタイヤ歪み値が、同等となった時点の前後で大きくなっているか否かを判別する。そして制御部21は、大きくなっている場合、非同等歪み前輪のタイヤ歪みが、歪み差出現時点の前後で、「無荷重時の歪みから離れる側に変化している」と判定する。
【0080】
図12を参照し、例えば左前輪7Lが脱輪した場合には、左前輪タイヤ8Lに対する地面からの抗力がなくなることに起因して、右前輪タイヤ8Rには脱輪の前と比較してより大きな外力が加わる。従って右前輪タイヤ8Rの右タイヤ歪みDRは、脱輪の前と比較して大きくなる。ただし左タイヤ歪みDLの変化量と比較して、右タイヤ歪みDRの変化量は小さい。以上を踏まえ、ステップSD6の処理は、前輪7の脱輪の検出の精度をより高めるために行われる処理である。なお非同等歪み前輪のタイヤ歪みが、歪み差出現時点の前後で、無荷重時のタイヤ歪みから離れる側に変化していない場合は、前輪7のスリップが発生していると想定される。
【0081】
非同等歪み前輪のタイヤ歪みが増加していない場合(ステップSD6:NO)、制御部21は、対応する処理を実行する(ステップSD7)。その後、制御部21は、処理を終了する。ステップSD7で実行される処理は例えば、前輪7がスリップしている場合に実行する処理として予め定められた処理である。一例として制御部21は、一方の前輪7がスリップしている可能性がある旨の情報を音声によって出力し、運転手にその旨を報知する。
【0082】
非同等歪み前輪のタイヤ歪みが増加している場合(ステップSD6:YES)、制御部21は、同等歪み前輪の脱輪を検出する(ステップSD8)。その後、制御部21は、処理を終了する。
【0083】
以上の通り発明者らは、作業用車両1の一対の前輪7のうち一方の前輪7の脱輪が発生すると、車体2がバランスを崩して転倒する前に、右前輪7Rの右前輪タイヤ8R(右前輪対応部材)の右タイヤ歪みDR(状態)と、左前輪7Lの左前輪タイヤ8L(左前輪対応部材)の左タイヤ歪みDL(状態)との関係が、上述した所定の関係になることを見出した。以上を踏まえタイヤ歪み関連処理において制御部21は、発明者らが得た知見の下、右前輪7Rの右前輪タイヤ8R(右前輪対応部材)の右タイヤ歪みDR(状態)と左前輪7Lの左前輪タイヤ8L(左前輪対応部材)の左タイヤ歪みDL(状態)との関係に基づいて、一対の前輪7のうちの一方の前輪7の脱輪を検出している。これにより前輪7の脱輪の的確な検出が可能となる。
【0084】
なお本実施形態に係るタイヤ歪み関連処理に関し、以下の構成としてもよい。
・制御部21はステップSD1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSD8へ移行する。ステップSD8において制御部21は、一対の前輪7のうちタイヤ歪みが無荷重時のタイヤ歪みに近い方の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSD2、SD4、SD6の処理は実行されない。
・制御部21はステップSD2の判別でNOと判定した場合、処理手順をステップSD8へ移行する。ステップSD8において制御部21は、一対の前輪7のうちタイヤ歪みが無荷重時のタイヤ歪みに近い方の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSD4、SD6の処理は実行されない。
・制御部21はステップSD4の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSD8へ移行する。ステップSD8において制御部21は、一対の前輪7のうちタイヤ歪みが無荷重時タイヤ歪みと同等の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSD6の処理は実行されない。
・制御部21は、ステップSD1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSD4へ移行する。ステップSD4の判別でYESと判定した場合、制御部21は、処理手順をステップSD8へ移行する。ステップSD8において制御部21は、一対の前輪7のうちタイヤ歪みが無荷重時タイヤ歪みと同等の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSD2、SD6の処理は実行されない。
・制御部21が、ステップSD1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSD4へ移行する。この構成の場合、ステップSD2の処理は実行されない。
以上の構成の場合、前輪7の脱輪の検出についての精度は下がるものの、フローチャートFDの処理を実行する場合と比較して、前輪7の脱輪が発生しているときにこれが検出されなくなるということはない。
【0085】
また制御部21が、タイヤ歪みに代えて、タイヤ歪みと強い相関関係のある他の指標値(この場合、当該他の指標値がタイヤ歪みに相当する)を使用する構成でもよい。
【0086】
<差動装置関連処理>
次に差動装置関連処理について説明する。図15のフローチャートFEは、差動装置関連処理(制御装置20による情報処理方法)を示すフローチャートである。上述したようにフローチャートFEの開始時点では、作業用車両1は、車両正常状態である。
【0087】
図15で示すように差動装置関連処理において制御装置20の制御部21は、以下の処理を実行する。すなわち制御部21は、配分検出部31から入力する駆動力配分値(配分検出部31の検出結果)に基づいて、前輪差動装置13によって一対の前輪7のうち一方の前輪7に対して全量或いは全量に近い割合で駆動力の配分がなされたか否かを監視(判別)する(ステップSE1)。全量或いは全量に近い割合とは、「100:0」或いは予め定められた範囲内で「100:0」に近い比で駆動力が配分されることをいう。以下、全量或いは全量に近い割合による駆動力の配分を「近全量配分」という。ステップSE1において例えば制御部21は、所定周期(一例として1ミリ秒ごと)で、駆動力の配分を認識し、一対の前輪7のうち一方の前輪7に対して近全量配分がなされたか否かを判別する。制御部21は、近全量配分がなされたと判定するまで当該判別を繰り返し実行する。
【0088】
ここで前輪7の脱輪が発生すると、前輪差動装置13の機能により、脱輪した方の前輪7に対して全量或いは全量に近い割合で駆動力の配分がなされ、脱輪した方の前輪7の回転速度が急激に大きくなる。このことは発明者らがテスト等により確認した事項である。以上を踏まえ、ステップSE1において制御部21は、前輪7の脱輪が発生した可能性があるか否かを監視している。
【0089】
ステップSE1において一対の前輪7のうち一方の前輪7に対して近全量配分がなされたと判定した場合(ステップSE1:YES)、制御部21は、速度検出部30から入力する速度値(速度検出部30の検出結果)に基づいて、一対の前輪7のうち一方の前輪7に対して近全量配分がなされたときの作業用車両1の速度がゼロに近い(ゼロを含む)か否かを判別する(ステップSE2)。速度がゼロに近いとは、速度が、ゼロから「ゼロに所定のマージンを加えた値」の範囲内であることを意味する。作業用車両1の速度がゼロに近い場合、前輪7がスリップしていると想定される。これを踏まえステップSE2の処理は、前輪7の脱輪の検出の精度をより高めるために行われる処理である。
【0090】
速度がゼロに近い場合(ステップSE2:YES)、制御部21は、対応する処理を実行する(ステップSE3)。その後、制御部21は、処理を終了する。例えば、ステップSE3で実行される処理は、一方の前輪7がスリップしている場合に実行する処理として予め定められた処理である。一例として制御部21は、一方の前輪7がスリップした可能性がある旨の情報を音声によって出力し、運転手にその旨を報知する。
【0091】
一方、作業用車両1の速度がゼロに近い状態ではない場合(ステップSE2:NO)、制御部21は、近全量配分がなされた方の前輪7が脱輪したと判定する(ステップSE4)。その後、制御部21は、処理を終了する。
【0092】
以上の通り発明者らは、作業用車両1の一対の前輪7のうち一方の前輪7の脱輪が発生すると、車体2がバランスを崩して転倒する前に、「右前輪7R(右前輪対応部材)に与えられる駆動力(作用)と、左前輪7L(左前輪対応部材)に与えられる駆動力(作用)との関係」が、上述した所定の関係になることを見出した。以上を踏まえ差動装置関連処理において制御部21は、発明者らが得た知見の下、「右前輪7R(右前輪対応部材)に与えられる駆動力(作用)と、左前輪7L(左前輪対応部材)に与えられる駆動力(作用)との関係」に基づいて、一対の前輪7のうちの一方の前輪7の脱輪を検出している。これにより前輪7の脱輪の的確な検出が可能となる。
【0093】
なお差動装置関連処理において制御部21が、駆動力の配分に代えて、駆動力の配分と強い相関関係のある他の指標値(この場合、当該他の指標値が駆動力の配分に相当する)を使用する構成でもよい。
【0094】
以上が、曲げモーメント関連処理、タイヤ空気圧関連処理、タイヤ歪み関連処理および差動装置関連処理の説明である。図9を参照し、ステップSA1において4つの脱輪検出処理を開始した後、制御部21は、何れかの脱輪検出処理において前輪7の脱輪を検出したか否かを監視する(ステップSA2)。何れかの脱輪検出処理において前輪7の脱輪が検出された場合(ステップSA2:YES)、制御部21は、前輪7の脱輪に対応する処理を実行する(ステップSA3)。
【0095】
ステップSA3では、制御部21は、前輪7が脱輪した状況で、運転手の安全に寄与する処理を実行する。上述したように前輪7が脱輪した場合、転倒が始まるまで注目期間が発生する。これを踏まえ、制御部21は、注目期間を反映した処理を実行する。以下、ステップSA3の処理を複数、例示する。
【0096】
例えば制御部21は、脱輪したことを運転手に報知する。一例として制御部21は、音声処理装置23を制御して、一方の前輪7が脱輪した旨の情報を音声により放音し、これにより脱輪したことを運転手に報知する。音声の内容は、注目期間内に運転手に脱輪を認識させることが可能な内容とされる。例えば音声の内容は、右前輪7Rが脱輪した場合において「右、脱輪(ミギ、ダツリン)」という文言である。音声は、特定の電子音であってもよい。なお運転手への報知は音声によるものに限られない。一例として制御部21が、運転手が見える位置に設けられたLEDを所定の態様で点灯/点滅することにより、運転手に脱輪を報知する構成でもよい。
【0097】
また作業用車両1の状態または周囲の環境に応じて報知の態様を変更した方がよいという事情がある場合には、制御部21は、作業用車両1の状態または周囲の環境に応じて報知の態様を動的に変更することができる。この場合、作業用車両1の状態または周囲の環境を検出するための要素が作業用車両1に適切に設けられる。また特定の状況の場合に前輪7の脱輪の発生時に音声その他の手段で脱輪を運転手に報知することが適切でないという事情がある場合には、制御部21は、特定の状況の場合に、運転手への報知を行わないことができる。この場合、特定の状況を検出するための要素が作業用車両1に適切に設けられる。この他、脱輪が起こった場合には、運転手に報知することなく、特定の態様で作業用車両1を自動動作させた方がよいといったことが今後の研究により判明した場合には、制御部21が報知を行わない構成でもよい。
【0098】
また例えば制御部21は、脱輪したことの運転手への報知と併せて或いは当該報知に代えて、作業用車両1を所定の態様で自動動作させる。制御部21は、自動動作実行部22を制御することによって作業用車両1の動作を制御する。自動動作の内容は一例として、作業用車両1を減速させて停止させるというものである。ただし、この場合、制御部21は、注目期間内に車両の停止が実現されるような態様で減速を行わせる。また作業用車両1の旋回または後進が転倒を防止するのに有効な状況の場合に、制御部21は、所定の態様で作業用車両1を旋回させ、または後進させることができる。
【0099】
また作業用車両1の状態または周囲の環境に応じて作業用車両1の自動動作の態様を変更した方がよいという事情がある場合には、制御部21は、作業用車両1の状態または周囲の環境に応じて自動動作の態様を動的に変更することができる。この場合、作業用車両1の状態または周囲の環境を検出するための要素が作業用車両1に適切に設けられる。また特定の状況の場合には作業用車両1を自動動作することが適切でない適切でないという事情がある場合には、制御部21は、特定の状況の場合に、作業用車両1の自動動作を行わせず、運転手が手動で運転できる状態を継続することができる。この場合、特定の状況を検出するための要素が作業用車両1に適切に設けられる。この他、脱輪が起こった場合には、自動動作を一切行わない方がよいといったことが今後の研究により判明した場合には、制御部21が、自動動作を行わせない構成でもよい。
【0100】
また安全が確保されることが検証された場合には、制御部21が、運転手を保護するための各種処理を実行する装置を制御して、運転手を保護する構成でもよい。同様に安全が確保されることが検証された場合には、制御部21が、運転手を脱出させるための装置を制御して、運転手を作業用車両1から脱出させる構成でもよい。
【0101】
以上説明したように本実施形態では、制御部21は、右前輪対応部材の状態と左前輪対応部材の状態との関係、または、右前輪対応部材に加わる作用と左前輪対応部材に加わる作用との関係に基づいて一対の前輪7のうち一方の前輪7の脱輪を検出する。この構成によれば、一対の前輪7のうち一方の前輪7の脱輪が発生したときに、これを的確に検出することが可能となる。そして一方の前輪7の脱輪が発生したときにこれを的確に検出することができるため、脱輪が発生した場合、車体2がバランスを崩して転倒する前に、転倒の防止のための対処を実行することが可能となる。すなわち本実施形態によれば、作業用車両1について、転倒の防止に寄与する技術を提供することができる。
【0102】
<第1変形例>
次に第1変形例について説明する。上述した実施形態では、制御部21は、脱輪検出処理として、曲げモーメント関連処理、タイヤ空気圧関連処理、タイヤ歪み関連処理および差動装置関連処理の4つの処理を実行した。この点に関し、制御部21が4つの脱輪検出処理のうち、何れか1つの処理を実行する構成でもよい。また制御部21が、2つ以上の処理を組合せて実行する構成でもよい。
【0103】
<第2変形例>
次に第2変形例として、タイヤ空気圧関連処理の変形例を説明する。図16のフローチャートFFは、第2変形例に係るタイヤ空気圧関連処理(制御装置20による情報処理方法)を示すフローチャートである。
【0104】
図16で示すように制御装置20の制御部21は、タイヤ空気圧検出部26から入力した右タイヤ空気圧値および左タイヤ空気圧値(タイヤ空気圧検出部26の検出結果)に基づいて、一対の前輪7のうち、一方の前輪7のタイヤ空気圧のみが、無荷重時空気圧と同等となったか否かを監視する(ステップSF1)。一対の前輪7のうち、一方の前輪7のタイヤ空気圧のみが無荷重時空気圧と同等となった場合に、前輪7が脱輪した可能性がある点は上述した通りである。
【0105】
一方の前輪7のタイヤ空気圧のみが無荷重時空気圧と同等となった場合(ステップSF1:YES)、制御部21は、加速度検出部28から入力する鉛直方向加速度値に基づいて、車体2が鉛直上方へ向かって変移したか否かを判別する(ステップSF2)。車体2が鉛直上方へ向かって変移した場合(ステップSF2:YES)、制御部21は、対応する処理を実行し(ステップSF3)、処理を終了する。車体2が鉛直上方へ向かって変移していない場合(ステップSF2:NO)、制御部21は、非同等空気圧前輪のタイヤ空気圧が、「同等空気圧前輪のタイヤ空気圧と無荷重時空気圧とが同等となった時点」の前後で増加しているか否かを判別する(ステップSF4)。非同等空気圧前輪のタイヤ空気圧が増加していない場合(ステップSF4:NO)、制御部21は、対応する処理を実行し(ステップSF5)、処理を終了する。一方、非同等空気圧前輪のタイヤ空気圧が増加している場合(ステップSF4:YES)、制御部21は、同等空気圧前輪の脱輪を検出する(ステップSF6)。その後、制御部21は、処理を終了する。
【0106】
本変形例の構成であっても、上記実施形態に係るタイヤ空気圧関連処理と同様、前輪7の脱輪を的確に検出することができる。
【0107】
なお本変形例に係るタイヤ空気圧関連処理に関し、以下の構成としてもよい。
・制御部21はステップSF1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSF6へ移行する。ステップSF6において制御部21は、一対の前輪7のうち、タイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同等の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSF2、SF4の処理は実行されない。
・制御部21はステップSF2の判別でNOと判定した場合、処理手順をステップSF6へ移行する。ステップSF6において制御部21は、一対の前輪7のうち、タイヤ空気圧が無荷重時空気圧と同等の前輪7の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSF4の処理は実行されない。
・制御部21はステップSF1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSF4へ移行する。この構成の場合、ステップSF2の処理は実行されない。
以上の構成の場合、前輪7の脱輪の検出についての精度は下がるものの、フローチャートFFの処理を実行する場合と比較して、前輪7の脱輪が実際に発生しているときにこれが検出されなくなるということはない。
【0108】
<第3変形例>
次に第3変形例として、タイヤ歪み関連処理の変形例を説明する。図17のフローチャートFGは、第3変形例に係るタイヤ歪み関連処理(制御装置20による情報処理方法)を示すフローチャートである。
【0109】
図17で示すように制御装置20は、タイヤ歪み検出部29から入力した右タイヤ歪み値および左タイヤ歪み値(タイヤ歪み検出部29の検出結果)に基づいて、一対の前輪7のうち、一方の前輪7のタイヤ歪みのみが、無荷重時タイヤ歪みと同等となったか否かを監視する(ステップSG1)。一対の前輪7のうち、一方の前輪7のタイヤ歪みのみが無荷重時タイヤ歪みと同等となった場合に、前輪7が脱輪した可能性がある点は上述した通りである。
【0110】
一方の前輪7のタイヤ歪みのみが無荷重時タイヤ歪みと同等となった場合(ステップSG1:YES)、制御部21は、加速度検出部28から入力する鉛直方向加速度値(加速度検出部28の検出結果)に基づいて、車体2が鉛直上方へ向かって変移したか否かを判別する(ステップSG2)。車体2が鉛直上方へ向かって変移した場合(ステップSG2:YES)、制御部21は、対応する処理を実行し(ステップSG3)、処理を終了する。車体2が鉛直上方へ向かって変移していない場合(ステップSG2:NO)、制御部21は、非同等歪み前輪のタイヤ歪みが、「同等歪み前輪のタイヤ歪みと無荷重時タイヤ歪みとが同等となった時点」の前後で、無荷重時タイヤ歪みから離れる側に変化しているか否かを判別する(ステップSG4)。本変形例ではステップSG4において制御部21は、当該時点の前後でタイヤ歪み値が増加しているか否かを判別する。このように変化していない場合(ステップSG4:NO)、制御部21は、対応する処理を実行し(ステップSG5)、処理を終了する。一方、このように変化している場合(ステップSG4:YES)、制御部21は、同等歪み前輪の脱輪を検出する(ステップSG6)。その後、制御部21は、処理を終了する。
【0111】
本変形例の構成であっても、上記実施形態に係るタイヤ歪み関連処理と同様、前輪7の脱輪を的確に検出することができる。
【0112】
なお本変形例に係るタイヤ歪み関連処理に関し、以下の構成としてもよい。
・制御部21はステップSG1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSG6へ移行する。ステップSG6において制御部21は、一対の前輪7のうち、同等歪み前輪の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSG2、SG4の処理は実行されない。
・制御部21はステップSG2の判別でNOと判定した場合、処理手順をステップSG6へ移行する。ステップSG6において制御部21は、一対の前輪7のうち、同等歪み前輪の脱輪を検出する。この構成の場合、ステップSG4の処理は実行されない。
・制御部21はステップSG1の判別でYESと判定した場合、処理手順をステップSG4へ移行する。この構成の場合、ステップSG2の処理は実行されない。
以上の構成の場合、前輪7の脱輪の検出についての精度は下がるものの、フローチャートFGの処理を実行する場合と比較して、前輪7の脱輪が実際に発生しているときにこれが検出されなくなるということはない。
【0113】
<第4変形例>
次に第4変形例として、差動装置関連処理の変形例を説明する。第4変形例では作業用車両1は、回転速度検出部を備える。回転速度検出部は、所定のセンサの検出結果に基づいて、右前輪7Rの回転速度である右回転速度VRおよび左前輪7Lの回転速度である左回転速度VLを検出する。そして回転速度検出部は、右回転速度VRの大きさを値として示す右前輪回転速度値を制御部21に出力する。また回転速度検出部は、左回転速度VLの大きさを値として示す左前輪回転速度値を制御部21に出力する。なお制御部21が回転速度検出部として機能する構成でもよい。
【0114】
図18のフローチャートFHは、本変形例に係る差動装置関連処理(制御装置20による情報処理方法)を示すフローチャートである。図18で示すように制御装置20の制御部21は、回転速度検出部から入力する右前輪回転速度値および左前輪回転速度値(回転速度検出部の検出結果)に基づいて、右前輪7Rと左前輪7Lとの回転速度の“差”が、予め定められた閾値である回転速度閾値TH3以上となったか否かを監視(判別)する(ステップSH1)。ステップSH1において例えば制御部21は、所定周期(一例として1ミリ秒ごと)で、右前輪回転速度値と左前輪回転速度値とを比較し、これらの差が回転速度閾値TH3以上となったか否かを判別する。制御部21は、当該差が回転速度閾値TH3以上となったと判定するまで当該判別を繰り返し実行する。
【0115】
ここで上述したように前輪7の脱輪が発生すると、前輪差動装置13の機能により、脱輪した方の前輪7に対して全量或いは全量に近い割合で駆動力の配分がなされる。この結果、脱輪した方の前輪7の回転速度のみが急激に大きくなる。このことは発明者らがテスト等により確認した事項である。以上を踏まえ、ステップSH1において制御部21は、前輪7の脱輪が発生した可能性があるか否かを監視している。なお回転速度閾値TH3は、前輪7の脱輪が発生した場合には、右回転速度VRと左回転速度VLとの差がこの閾値を上回るような値に設定される。
【0116】
ステップSH1において左右の回転速度の差が回転速度閾値TH3以上となったと判定した場合(ステップSH1:YES)、制御部21は、速度検出部30から入力する速度値(速度検出部30の検出結果)に基づいて、一対の前輪7のうち一方の前輪7に対して近全量配分がなされたときの作業用車両1の速度がゼロに近いか否かを判別する(ステップSH2)。速度がゼロに近い場合(ステップSH2:YES)、制御部21は、対応する処理を実行し(ステップSH3)、処理を終了する。
【0117】
一方、作業用車両1の速度がゼロに近い状態ではない場合(ステップSH2:NO)、制御部21は、回転速度が大きい方の前輪7の脱輪を検出する(ステップSH4)。その後、制御部21は、処理を終了する。
【0118】
本変形例についても、上記実施形態に係る差動装置関連処理と同様、制御部21は、前輪7の脱輪を的確に検出することができる。
【0119】
以上、本発明の一実施形態(変形例を含む)を説明したが、上記実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0120】
例えば上記実施形態で、制御部21が実行するとした処理の少なくとも一部を、制御部21の依頼に応じて制御装置20と通信可能な外部装置が実行する構成でもよい。この場合において、外部装置は例えばローカルネットワークを経由して制御部21と通信可能なローカルサーバまたはインターネットを経由して制御部21と通信可能なクラウドサーバである。また制御装置20は、作業用車両1に設けられた装置ではなく、作業用車両1の外部に設けられ、作業用車両1の各種機器と通信可能な装置であってもよい。
【0121】
また例示したフローチャートについて、目的を達成できる範囲で処理の順番を変更したり、処理をより細かく分割したり、処理を追加したり、処理を削除したりしてもよい。
【0122】
また作業用車両は、本実施形態で農作業の支援に用いられる車両に限られない。すなわち作業用車両は、車体の後部に作業機が接続可能に構成され、車体に作業機が接続された状態で使用されるものであればよい。
【符号の説明】
【0123】
1 作業用車両
2 車体
5 作業機
7 前輪
7R 右前輪
7L 左前輪
8 前輪タイヤ
8R 右前輪タイヤ
8L 左前輪タイヤ
9 前輪軸
9R 右方前輪軸
9L 左方前輪軸
10 後輪
10R 右後輪
10L 左後輪
13 前輪差動装置(差動装置)
14 スイング機構
15 ピボット
20 制御装置
21 制御部
25 曲げモーメント検出部
26 タイヤ空気圧検出部
28 加速度検出部
29 タイヤ歪み検出部
30 速度検出部
31 配分検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18