(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017330
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】金属塩抽出剤、組成物、金属塩の回収方法、及び金属塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 323/43 20060101AFI20240201BHJP
C07F 1/08 20060101ALI20240201BHJP
C07F 1/10 20060101ALI20240201BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C07C323/43
C07F1/08 D
C07F1/10
C09K3/00 108C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119886
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慎一
(72)【発明者】
【氏名】高野 美優
(72)【発明者】
【氏名】平澤 学
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB82
4H006TA04
4H006TB75
4H048AA02
4H048BB12
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA40
4H048VA56
4H048VA57
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を選択的に抽出する抽出剤を提供する。
【解決手段】第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出する金属塩抽出剤であり、下記一般式(1)で表される化合物である、金属塩抽出剤である。下記一般式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又は-NHR’で表される基であり、R’は、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出する金属塩抽出剤であり、下記一般式(1)で表される化合物である、金属塩抽出剤。
【化1】
(一般式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又は-NHR’で表される基であり、R’は、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の金属塩抽出剤。
【化2】
(一般式(2)において、R
3及びR
4は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基である。)
【請求項3】
前記一般式(2)において、R3及びR4は、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である、請求項2に記載の金属塩抽出剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の金属塩抽出剤及び非水溶媒を含む、組成物。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の金属塩抽出剤を用いる、金属塩の回収方法。
【請求項6】
金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を分離し第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を製造する方法であって、
前記金属塩含有材料と、請求項1から3のいずれか1項に記載の金属塩抽出剤と、非水溶媒とを含む混合物を作製する工程、及び
前記混合物を固液分離し金属塩含有液を得る工程を含む、金属塩の製造方法。
【請求項7】
金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を分離し第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を製造する方法であって、
前記金属塩含有材料と、請求項1から3のいずれか1項に記載の金属塩抽出剤と、非水溶媒とを含む混合物を作製する工程、
前記混合物を固液分離し金属塩含有液を得る工程、及び
前記金属塩含有液から前記金属塩抽出剤を回収する工程を含む、金属塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、金属塩抽出剤、組成物、金属塩の回収方法、及び金属塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業、情報・通信技術産業等では多くの金属資源が使われている。一方で、世界的な金属資源の需要増、金属資源の埋蔵量の偏在等より、金属資源の流通量の縮小化、価格高騰等が引き起こされることが懸念される。そこで、産業廃棄物から金属資源を取り出しリサイクルする試みがなされている。リサイクルでは、単独の金属資源を高い純度で取り出すことで各種産業分野の要求を満たす製品として提供することができる。
【0003】
金属資源の中でも遷移金属は最外殻の電子配置が共通することから互いに性質が似ており、複数種類の遷移金属から単独の遷移金属を取り出す技術は複雑である。遷移金属が金属単体ではなく金属塩を形成している場合は、金属塩の状態で遷移金属を回収することで、回収した金属塩をそのままリサイクルすることができる。しかし、金属塩のリサイクルにおいて、価数の違いによって金属塩を選別し回収する技術はさらに複雑である。
【0004】
例えば、一価の銅イオンの塩化物塩である塩化銅I(CuCl)は有機化学反応の触媒に用いられる。触媒反応後に塩化銅Iをそのまま回収すればリサイクル効率を高めることができる。また、塩化銀(AgCl)は写真現像の感光材料として広く使われている。現像後の廃液、使用済みの写真等から塩化銀を取り出してリサイクルすることができる。さらに、製品の高純度化のために、不純物として含まれる塩化銅I及び塩化銀等を除去する技術も期待される。また、各種の産業廃棄物から塩化銅I及び塩化銀等を取り出してリサイクルすることも求められる。
【0005】
資材から金属資源を取り出す技術には化学分離があり、化学反応、電気分解反応等を用いて金属資源を高純度に取りだすことができる。なかでも、溶媒中で抽出剤を用いて金属の分離を行う方法は、特定の金属の精密な分離を行うことができる。
【0006】
一方、溶媒からイオンを回収する技術として、アニオンレセプタを用いて溶媒中のアニオンを捕捉する方法がある。アニオンレセプタの分子構造によって、捕捉対象のイオン種を選択的に捕捉することができる。非特許文献1及び2には、2,2’-ビナフチル基の8,8’-位にウレア基を有するアニオンレセプタが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Kondo, H. Sonoda, T. Katsu, and M. Unno, Sens. Actuators B, 160, 684-690 (2011).
【非特許文献2】S. Kondo, M. Nagamine, S. Karasawa, M. Ishihara, M. Unno, and Y. Yano, Tetrahedron, 67, 943-950 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第一銅塩及び銀塩を溶媒中で分離するために抽出剤が検討されている。第一銅塩及び銀塩自体が水不溶性を示すことから非水溶媒中での分離が期待される。この場合、非水溶媒に溶解性を示す抽出剤を用いることで分離効率を高めることができる。
【0009】
非特許文献1及び2に開示されるアニオンレセプタは、基本骨格である2,2’-ビナフチル基が剛直なナフチル基を単結合で連結した構造であることから、比較的硬い骨格を有し、さらには8,8’-位に導入したウレア基が適切な位置に配置しているため、アニオンを捕捉可能である。一方で、非特許文献1及び2に開示されるアニオンレセプタは、2,2’-ビナフチル基に起因する剛直な構造であることで、非水溶媒に対する溶解度が低い傾向がある。
【0010】
本発明の一目的としては、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を選択的に抽出する抽出剤を提供することである。本発明の他の目的としては、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出、回収、又は製造するための簡便な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下を要旨とする。
[1]第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出する金属塩抽出剤であり、下記一般式(1)で表される化合物である、金属塩抽出剤。
【化1】
(一般式(1)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又は-NHR’で表される基であり、R’は、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基である。)
【0012】
[2]下記一般式(2)で表される化合物である、[1]に記載の金属塩抽出剤。
【化2】
(一般式(2)において、R
3及びR
4は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基である。)
【0013】
[3]前記一般式(2)において、R3及びR4は、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である、[2]に記載の金属塩抽出剤。
[4]上記[1]から[3]のいずれかに記載の金属塩抽出剤及び非水溶媒を含む、組成物。
[5]上記[1]から[3]のいずれかに記載の金属塩抽出剤を用いる、金属塩の回収方法。
【0014】
[6]金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を分離し第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を製造する方法であって、前記金属塩含有材料と、[1]から[3]のいずれかに記載の金属塩抽出剤と、非水溶媒とを含む混合物を作製する工程、及び
前記混合物を固液分離し金属塩含有液を得る工程を含む、金属塩の製造方法。
【0015】
[7]金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を分離し第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を製造する方法であって、前記金属塩含有材料と、[1]から[3]のいずれかに記載の金属塩抽出剤と、非水溶媒とを含む混合物を作製する工程、前記混合物を固液分離し金属塩含有液を得る工程、及び前記金属塩含有液から前記金属塩抽出剤を回収する工程を含む、金属塩の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を選択的に抽出する抽出剤を提供することができる。本発明の他の実施形態によれば、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出、回収、又は製造するための簡便な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例において金属塩存在下の化合物2bの
1H NMRを測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、以下の例示によって本発明は限定されない。
【0019】
「金属塩抽出剤」
一実施形態による金属塩抽出剤は、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出する金属塩抽出剤であり、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする。
【0020】
【0021】
(一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又は-NHR’で表される基であり、R’は、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基である。)
【0022】
以下、一般式(1)で表される化合物を総称して金属塩抽出剤とも称する。
【0023】
この金属塩抽出剤は、非水溶媒中で第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を捕捉可能であり、非水溶媒中から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出するために用いることができる。特に、この金属塩抽出剤は、非水溶媒中に遊離する塩化物イオンを選択的に捕捉することに優れるため、その対イオンである第一銅イオン及び銀イオンの少なくとも一方とともに捕捉することで、塩化銅I(CuCl)及び塩化銀(AgCl)の少なくとも一方の形態で抽出することが可能になる。
【0024】
2,2’-ビナフチル基の8,8’-位にウレア基を有するアニオンレセプタは、2,2’-ビナフチル基に起因して剛直な構造を有することと、両末端にウレア基を有することによって、アニオンを捕捉する会合能に優れる。この化合物を下記一般式(10)に示す。
【0025】
【0026】
(一般式(10)において、Rは、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である。)
【0027】
一般式(10)で表される化合物に対して、一般式(1)で表される化合物は、ビナフタレン骨格を脂肪族鎖と硫黄原子(S)とを有する骨格で置換した構造を有しており、フレキシブルな構造ゆえに、非水溶媒に対し高い溶解度を示すと考えられる。一般式(1)で表される化合物において、両末端のアミド結合はアニオン、特に塩化物イオン等のハロゲン化物イオンと会合すると予測される。さらに一般式(1)においてR1及びR2がイミノ基であり、両末端にウレア基が導入されることでアニオンとの会合能がより高まると予測される。一方で、フレキシブルな構造に起因して、アニオンの会合能は低下する傾向がある。有機溶剤への高い溶解度を考慮すると、有機溶剤へ高濃度にこれらの化合物を添加することで、有機溶剤からアニオンを効率よく捕捉することが可能である。また、非水溶媒へ高濃度に添加することができることから、抽出処理において非水溶媒の使用量を低減することが可能である。
【0028】
一般式(1)で表される化合物には、硫黄原子(S)が導入されることでカチオンとの相互作用が強まり、HSAB則に基づいたソフトな硫黄原子(S)とソフトな第一銅イオン又は銀イオンとの強い相互作用によって、第一銅イオン又は銀イオンを選択的に捕捉可能になると考えられる。このようにして、第一銅イオン又は銀イオンとその対イオンであるアニオンが1つの分子内に捕捉されることで、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方の抽出剤として機能することができる。一方で、よりハードな他の遷移金属イオンに対する配位能は低く、結果として高い選択性を発現する。
【0029】
一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、又は-NHR’で表される基であり、R’は、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基であってよい。一般式(1)において、R1及びR2は、互いに同一でも異なってもよい。
【0030】
R1及びR2として導入されるアルキル基は、直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であってよく、鎖状又は脂環式であってもよい。このアルキル基は、炭素数が1~20が好ましく、炭素数が1~8がより好ましく、炭素数が1~4がさらに好ましい。このアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基等の鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等、又はこれらの少なくとも1つの水素原子がアルキル基によって置換された基等の脂環式アルキル基等が挙げられる。これらの中でも鎖状アルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、さらに好ましくはn-ブチル基、又はtert-ブチル基である。
【0031】
R1及びR2として導入されるアリール基は、炭素数が6~24が好ましく、炭素数が6~12がより好ましく、炭素数が6~8がさらに好ましい。このアリール基は、単環、多環、又は縮合環であってよく、1~4個の芳香環を有する基、又は2~4個の芳香環の縮合環を有する基であってよく、好ましくは1個のベンゼン環を有する基である。このアリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、テトラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基等が挙げられる。これらの中でもフェニル基が好ましい。これらのアリール基は、少なくとも1つの水素原子がアルキル基によって置換されていてもよく、例えば、炭素数1~4のアルキル基によって置換されたフェニル基等が挙げられ、具体的には、p-トリル基、m-トリル基、o-トリル基等が挙げられる。
【0032】
R1及びR2として導入されるヘテロアリール基は、炭素原子とヘテロ原子とを環上に有する基であり、ヘテロ原子としては窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ホウ素原子、リン原子等が挙げられる。このヘテロアリール基は、炭素原子とヘテロ原子の合計原子数が5~24が好ましく、6~12がより好ましく、6~8がさらに好ましい。このヘテロアリール基は、例えば、ピリジン、ピラジン等の6員複素芳香環を有する基、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン等の縮合複素芳香環を有する基、フラン、ピロール、チオフェン等の5員複素芳香環を有する基等が挙げられる。
【0033】
R1及びR2として導入されるアルコキシ基は、アルキル基部分が直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であってよく、鎖状又は脂環式であってもよい。このアルコキシ基は、炭素数が1~20が好ましく、炭素数が1~8がより好ましく、炭素数が1~4がさらに好ましい。このアルコキシ基は、例えば、-O-R’として表され、R’はアルキル基を表し、具体的には上記したアルキル基で説明した通りである。より好ましくは、炭素数が1~4のアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、イソブトキシ基等が挙げられる。
【0034】
R1及びR2として導入される-NHR’で表される基において、R’としては、上記したR1及びR2で説明した官能基が挙げられる。
【0035】
好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素数が1~20のアルキル基、炭素数が6~24のアリール基、炭素数が5~24のヘテロアリール基、炭素数が1~20のアルコキシ基、ヒドロキシ基、又は-NHR’で表される基である。ここで、R’は、水素原子、炭素数が1~20のアルキル基、炭素数が6~24のアリール基、炭素数が5~24のヘテロアリール基、炭素数が1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であることが好ましい。より好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立的に、水素原子、炭素数が1~8のアルキル基、炭素数が6~12のアリール基、炭素数が6~12のヘテロアリール基、炭素数が1~8のアルコキシ基、ヒドロキシ基、又は-NHR’で表される基であり、なかでも、炭素数が1~8のアルキル基、炭素数が6~12のヘテロアリール基、又は-NHR’で表される基であることが好ましい。ここで、R’は、水素原子、炭素数が1~8のアルキル基、炭素数が6~12のアリール基、炭素数が6~12のヘテロアリール基、炭素数が1~8のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であることが好ましく、炭素数が1~8のアルキル基、又は炭素数が6~12のヘテロアリール基であることがより好ましい。好ましい一例では、R1及びR2は、それぞれ独立的に、炭素数が1~4のアルキル基、炭素数が6~8のアリール基、又は-NHR’で表される基(ここで、R’は炭素数が1~4のアルキル基又は炭素数が6~8のアリール基である。)であり、より好ましくは、n-ブチル基、tert-ブチル基、フェニル基、又は-NHRで表される基(ここで、R’はn-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基である。)である。より好ましい一例では、R1及びR2のうち少なくとも一方がtert-ブチル基、又は-NHR’(ここで、R’はtert-ブチル基である。)であり、より好ましくはR1及びR2の両方がtert-ブチル基、又は-NHR’(ここで、R’はtert-ブチル基である。)である。
【0036】
一般式(1)で表される化合物の一例としては、R1及びR2が-NHR’で表される基である化合物が挙げられる。具体的には、下記一般式(2)で表される化合物である。一般式(2)において、R3及びR4は、それぞれ独立的に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、又はヒドロキシ基である。それぞれの官能基の詳細については、上記R1及びR2で説明したものを挙げることができる。
【0037】
【0038】
一般式(2)において、R3及びR4は、それぞれ独立的に、アルキル基であることが好ましく、アルキル基の炭素数は1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~8がさらに好ましく、1~4が一層好ましい。R3及びR4は、それぞれ独立的に、アリール基である場合は炭素数が6~24が好ましく、6~12がより好ましく、6~8がさらに好ましい。具体的には、R3及びR4は、それぞれ独立的に、n-ブチル基、tert-ブチル基、又はフェニル基が好ましく、tert-ブチル基が好ましい。
【0039】
具体的な化合物を以下に挙げる。下記構造式において、n-Buはn-ブチル基を表し、t-Buはtert-ブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0040】
【0041】
上記した化合物の中でも、溶解度の観点から、化合物2bが好ましい。なお、上記した化合物は、単体として又は混合物として提供されてもよい。
【0042】
「化合物の合成方法」
以下、一般式(1)で表される化合物の合成方法を説明する。なお、一実施形態の化合物は、以下の合成方法によって合成された化合物に限定されない。一般式(1)で表される化合物は、分子構造が比較的単純であることから、合成手順も簡便になり、汎用される原料化合物から一段階の反応で合成することができる。
【0043】
一般式(1)で表される化合物を合成する方法の一例は、下記一般式(3)で表される化合物に、イソシアン酸誘導体、カルボン酸ハロゲン化物等を導入することを含むことができる。
【0044】
【0045】
より具体的に、一般式(2)で表される化合物を合成する方法の一例では、1,2-ビス(2-アミノエチルチオ)エタンの両末端のアミノ基に、イソシアン酸誘導体を導入することを含むことができる。
【0046】
イソシアン酸誘導体としては、R’’NCOで表される化合物である。R’’は一般式(2)においてR3及びR4として導入される基であり、詳細については上記した通りである。具体的には、イソシアン酸誘導体としては、イソシアン酸アルキルエステル、イソシアン酸アリールエステル等が挙げられる。イソシアン酸アルキルエステルとしては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、n-ブチルイソシアネート、sec-ブチルイソシアネート、tert-ブチルイソシアネート、イソブチルイソシアネート、ペンチルイソシアネート、ヘキシルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート等が挙げられる。イソシアン酸アリールエステルとしては、例えば、フェニルイソシアネートなどが挙げられる。
【0047】
この反応は、各種の溶媒中で行うことができ、使用可能な溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒、水等が挙げられる。また、溶媒として、後述する組成物に用いられる非水溶媒を用いてもよい。反応後は、必要に応じて反応混合物から溶媒等を除去し、ろ過及び乾燥をすることで生成物を得ることができる。また、より精製するためにクロマトグラフィーを用いて生成物を単離してもよい。
【0048】
1,2-ビス(2-アミノエチルチオ)エタンは、常法に従って合成可能であり、例えば、市販品を用いてもよい。
【0049】
「組成物」
一実施形態によれば、金属塩抽出剤及び非水溶媒を含む組成物を提供することができる。金属塩抽出剤としては、上記した実施形態による金属塩抽出剤を用いることができる。この組成物は、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方の抽出に用いることができる。例えば、この組成物と、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方が含まれる金属塩含有材料とを混合することで、金属塩抽出剤が金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を選択的に捕捉し、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を非水溶媒に溶解させることができる。
【0050】
抽出対象である第一銅塩及び銀塩としては、それぞれ、非水溶媒への溶解性に関わらず、各種の塩を用いることができる。第一銅塩としては、例えば、塩化銅I(CuCl)、CuBr、CuI等のハロゲン化銅I、酢酸銅I等が挙げられる。銀塩としては、例えば、塩化銀(AgCl)、AgBr、AgI等のハロゲン化銀、硝酸銀等が挙げられる。特に一般に溶媒への溶解性の著しく低い塩化銀を溶解させることが可能な点は大きな特徴である。第一銅塩及び銀塩は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
非水溶媒としては、特に制限されずに、各種の非水溶媒を用いることができる。非水溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート;γ-ブチロラクトン等の環状カルボン酸エステル;アセトニトリル等のニトリル基を有する化合物;1,2-ジメトキシエタン、ジメトキシメタン等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル等のエーテル系化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステル;スルホラン、プロパンスルトン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等のスルホニル基を有する化合物;トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル等のリン酸エステル;塩化メチレン、シクロペンタノン、シクロヘキシルベンゼン、3-メチルー1,3-オキサゾリジン-2-オン、ジメチルスルホキシド等であってよい。
【0052】
非水溶媒は、フッ素原子、塩素原子等の置換基を有する化合物であってよく、上記した非水溶媒がフッ素原子、又は塩素原子によって置換された化合物であってよい。例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エーテル系化合物、鎖状カルボン酸エステルに1個又は2個以上のフッ素原子又は塩素原子を有する化合物であってよく、具体的には、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート等が挙げられる。また、クロロホルム等が挙げられる。
【0053】
上記した非水溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、2種以上の非水溶媒を組み合わせて用いる場合は、組成物において単一相が形成されるものを組み合わせて用いるとよい。
【0054】
組成物は、非水組成物であってよく、例えば、組成物全量に対し水の含有量が1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下に制限されるものであり、実質的に水を含まないものであってよい。水分量が少ない方が金属塩抽出剤を組成物中でより安定に維持することができる。
【0055】
一実施形態の組成物において、金属塩抽出剤は、モル比で非水溶媒1に対し、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましい。一実施形態の組成物において、金属塩抽出剤は、モル比で塩1に対し、1以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
【0056】
一般式(1)で表される化合物は、1分子あたり1個の第一銅イオン又は銀イオンと対イオンを捕捉可能な構造を有する。そのため、一般式(1)で表される化合物の1分子当たり1個の第一銅イオン又は銀イオンとなる範囲内で金属塩を回収可能であり、予測される金属塩の回収量に応じて金属塩抽出剤の使用量を決定するとよい。
【0057】
なお、一実施形態による組成物は、30℃において液体状である組成物であるとよく、25℃において液体状である組成物であるとよりよい。一実施形態による組成物は、より低温において流動性が低下し、ゲル状又は固体状となるものであってもよい。
【0058】
一実施形態の組成物は、例えば、金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を回収し第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を製造する方法に使用することができる。
他の例では、一実施形態の組成物は、金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を回収する方法に使用することができる。さらに他の例では、一実施形態の組成物は、金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を吸着する方法に使用することができる。さらに他の例では、一実施形態の組成物は、金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を吸着し除去する方法に使用することができる。さらに他の例では、一実施形態の組成物は、金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を精製する方法に使用することができる。さらに他の例では、一実施形態の組成物は、金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を精製し、高濃度金属塩組成物を製造する方法に使用することができる。
【0059】
「金属塩の製造方法」
一実施形態によれば、金属塩含有材料から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を分離し第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を製造する方法であって、金属塩含有材料と、請求項1から3のいずれか1項に記載の金属塩抽出剤と、非水溶媒とを含む混合物を作製する工程、及び混合物を固液分離し金属塩含有液を得る工程を含む、金属塩の製造方法を提供することができる。金属塩抽出剤には、上記した実施形態による金属塩抽出剤を用いることができる。
【0060】
金属塩含有材料は、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を含み得る材料であれば特に限定されない。金属塩含有材料が固体である場合は、溶解又は分散の効率性の観点から粉末状、破砕状、粒子状等であることが好ましい。金属塩含有材料は、鉱物又は産業廃棄物等であってよい。この場合、鉱物又は産業廃棄物等を分解、解体、破砕等し、形状、磁力、電気的特性、比重等によって物理的選別し、金属塩含有材料を準備してもよい。また、金属塩含有材料は、触媒反応等の化学反応後の廃液、工業廃液等であってもよい。
【0061】
金属塩含有材料は、水を含まないことが好ましく、例えば、金属塩含有材料全量に対し水の含有量が1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下に制限されるものであってよく、実質的に水を含まないものであってよい。金属塩含有材料に水が含まれると、抽出処理において金属塩抽出剤の安定性が損なわれる場合がある。
金属塩含有材料は、非水溶媒中に溶解又は分散した状態で用意され、この状態で金属塩抽出剤及び非水溶媒と混合されてもよい。ここで用いられる非水溶媒は、上記組成物に含まれる非水溶媒で説明したものであってよい。
【0062】
金属塩含有材料に含まれ得る第一銅塩及び銀塩は、上記説明したものの中から1種単独で、又は2種以上が組み合わされて含まれてもよい。金属塩含有材料は、金属塩として第一銅塩及び銀塩の一方又は両方のみを含むものであってよく、第一銅塩及び銀塩の一方又は両方に加え不純物を含むものであってもよく、第一銅塩及び銀塩の一方又は両方に加え他の金属塩が含まれるものであってもよい。他の金属塩としては、特に制限されないが、二価遷移金属の塩、三価遷移金属の塩、四価以上の多価遷移金属の塩、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩等が挙げられる。具体的には、塩化マンガンII(MnCl2)、塩化鉄II(FeCl2)、塩化コバルトII(CoCl2)、塩化ニッケルII(NiCl2)、塩化銅II(CuCl2)、塩化亜鉛(ZnCl2)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上が組み合わされて含まれてもよい。
【0063】
例えば、一実施形態による金属塩抽出剤は、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方といった一価遷移金属の塩を選択的に捕捉し抽出可能であることから、二価以上の遷移金属の塩、特に二価遷移金属の塩から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を選択的に回収する方法に有用である。
【0064】
金属塩含有材料に含まれる第一銅塩及び銀塩の含有量は特に限定されず、第一銅塩及び銀塩が微量であっても大量であっても回収することができる。例えば、第一銅塩及び銀塩の合計量は金属塩含有材料の全量に対し、0.1~100質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。
【0065】
次に、金属塩含有材料と、金属塩抽出剤と、非水溶媒とを含む混合物を作製する工程について説明する。これらの成分を混合する方法は特に限定されず、これらの成分を容器に一括又は分割して投入し撹拌機等を用いて混合すればよい。また、金属塩抽出剤と、非水溶媒とを含む組成物を予め作製しておき、この組成物に金属塩含有材料を一括又は分割して添加し混合してもよい。混合物を加熱することで反応性を高めることができる。加熱は、30~100℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、80~100℃がさらに好ましい。加熱時間は、反応系の規模、加熱温度、材料の種類及び形状等に応じて適宜設定すればよく、例えば10分~5時間であってよく、1時間から2時間であってよい。加熱は、混合物の作製から、混合物の固液分離までの間に連続的に又は断続的に行ってもよい。
【0066】
混合物において、金属塩抽出剤は、モル濃度で0.01~5Mが好ましく、0.5~1.0Mがより好ましい。混合物において、金属塩含有材料は、これに含まれる第一銅塩及び銀塩の想定量に応じて異なるが、例えば、混合物の全量に対し0.1~100質量%が好ましく、40~100質量%がより好ましい。
【0067】
次に、混合物を固液分離し金属塩含有液を得る工程について説明する。固液分離は、例えばろ過法、遠心分離法、沈降法等によって行うことができる。ろ過法では、ろ紙、ろ布、メンブレンフィルター等を用いることができる。得られる金属塩含有液には、非水溶媒と、金属塩抽出剤と、第一銅塩及び銀塩とが含まれ得る。金属塩含有材料に第一銅塩及び銀塩以外の他の成分が含まれ、他の成分が非水溶媒に溶解されない場合は、固液分離によって他の成分を固形分として除去することができる。
【0068】
金属塩含有液を得る工程の後に、金属塩含有液から金属塩抽出剤を回収する工程を設けてもよい。例えば、金属塩含有液から金属塩抽出剤を回収する方法としては、金属塩含有液に水を加え、有機溶媒中に金属塩抽出剤を抽出して、不溶性の塩をろ過などによって回収してもよい。
【0069】
以下、金属塩を抽出する方法について具体的な手順の例示を説明する。
(手順1)
試料:CuClとMnCl2とZnCl2を含む試料1。
金属塩抽出剤:一般式(1)で表される化合物。
非水溶媒:CHCl3。
【0070】
試料1と金属塩抽出剤と非水溶媒を混合し混合物を得る。混合物を撹拌及び/又は加熱し、混合物の固形物を部分的に溶解させる。混合物を固液分離し、固形分を除去し、金属塩含有液を得る。このとき、一般式(1)で表される化合物がCuClを選択的に捕捉してCuClが非水溶媒に溶解するため、固形分にはMnCl2とZnCl2が回収され、金属塩含有液にはCuClが回収される。CuClの代わりにAgClを用いる場合にも金属塩含有液にはAgClが回収される。
【0071】
(手順2)
試料:CuClとNiCl2とCuCl2を含む試料2。
金属塩抽出剤:一般式(1)で表される化合物。
非水溶媒:CHCl3。
【0072】
手順2は、試料を変更した以外は上記手順1と同じである。このとき、一般式(1)で表される化合物がCuClを選択的に捕捉してCuClが非水溶媒に溶解するため、固形分にはNiCl2とCuCl2が回収され、金属塩含有液にはCuClが回収される。CuClの代わりにAgClを用いる場合にも金属塩含有液にはAgClが回収される。NiCl2とCuCl2は、CHCl3中で金属塩抽出剤の存在下で若干の溶解性を示すが、CuClとAgClに比べるとその溶解性は低いことから、CuClとAgClが優先的に回収される。また、CuCl2を溶解可能でありCuClとAgClを溶解しにくい溶剤によって予め試料2を洗浄しておくことで、回収される金属塩含有液へのCuCl2の混入を防止することも可能である。このような洗浄用の溶剤としてはアセトニトリル等が挙げられる。
【0073】
(手順3)
試料:CuClとFeCl2を含む試料3。
金属塩抽出剤:一般式(1)で表される化合物。
非水溶媒:CHCl3。
【0074】
手順3は、試料を変更した以外は上記手順1と同じである。このとき、一般式(1)で表される化合物がCuClを選択的に捕捉してCuClが非水溶媒に溶解するため、固形分にはFeCl2が回収され、金属塩含有液にはCuClが回収される。CuClの代わりにAgClを用いる場合にも金属塩含有液にはAgClが回収される。FeCl2は、CHCl3中で金属塩抽出剤の存在下で若干の溶解性を示すが、CuClとAgClに比べるとその溶解性は低いことから、CuClとAgClが優先的に回収される。また、金属塩抽出剤が存在しない状態においてFeCl2はCHCl3に溶解性を示すが、CuCl及びAgClはCHCl3に溶解しにくいことから、予め試料3をCHCl3によって洗浄しておくことで、回収される金属塩含有液へのFeCl2の混入を防止することも可能である。また、FeCl2又はCoCl2を溶解可能でありCuClとAgClを溶解しにくい溶剤によって予め試料3を洗浄しておくことで、回収される金属塩含有液へのFeCl2又はCoCl2の混入を防止することも可能である。このような洗浄用の溶剤としてはアセトニトリル、水等が挙げられる。
【0075】
(手順4)
試料:CuClとCoCl2を含む試料4。
金属塩抽出剤:一般式(1)で表される化合物。
非水溶媒:CHCl3。
【0076】
手順4は、試料を変更した以外は上記手順1と同じである。このとき、一般式(1)で表される化合物がCuClを選択的に捕捉してCuClが非水溶媒に溶解するため、固形分にはCoCl2が回収され、金属塩含有液にはCuClが回収される。CuClの代わりにAgClを用いる場合にも金属塩含有液にはAgClが回収される。CoCl2は、CHCl3中で金属塩抽出剤の存在下で若干の溶解性を示すが、CuClとAgClに比べるとその溶解性は低いことから、CuClとAgClが優先的に回収される。また、金属塩抽出剤が存在しない状態においてCoCl2はCHCl3に溶解性を示すが、CuCl及びAgClはCHCl3に溶解しにくいことから、予め試料4をCHCl3によって洗浄しておくことで、回収される金属塩含有液へのCoCl2の混入を防止することも可能である。CoCl2はアセトニトリルに溶解可能であるため、洗浄用の溶剤としてアセトニトリルを用いることも可能である。
【0077】
(手順5)
試料:CuClとMnCl2とFeCl2とCoCl2とNiCl2とCuCl2とZnCl2を含む試料5。
金属塩抽出剤:一般式(1)で表される化合物。
非水溶媒:MeCN(アセトニトリル)。
【0078】
手順5では、まず試料5をCHCl3で洗浄し、FeCl2とCoCl2を除去する。CHCl3洗浄後の試料5をMeCNで洗浄し、残留するCoCl2とCuCl2を除去する。以降の手順はMeCN洗浄後の試料5を用いた以外は上記手順1と同じである。このとき、一般式(1)で表される化合物がCuClを選択的に捕捉してCuClが非水溶媒に溶解するため、固形分にはMnCl2とNiCl2とZnCl2が回収され、金属塩含有液にはCuClが回収される。CuClの代わりにAgClを用いる場合にも同様の傾向を示し金属塩含有液にはAgClが回収される。しかし、MeCN中で金属塩抽出剤の存在下においてAgClはCuClよりも溶解性が小さいことからAgClを単独で抽出できず、NiCl2等が混入することがある。そのため、AgClをより精度よく抽出するには、手順1~4の通りCHCl3を用いるとよい。
【実施例0079】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。以下の説明において、t-Buはtert-ブチル基、Phはフェニル基を示す。
【0080】
「金属塩の抽出の試験例」
(化合物4bの合成方法)
下記化合物4bを合成した。
【化8】
【0081】
(合成方法)
1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(東京化成工業株式会社より入手した。)500mgとイソシアン酸tert-ブチル(735mg)のテトラヒドロフラン(6mL)溶液をアルゴン雰囲気下で18時間還流した。溶液を冷却して生じた無色固体を吸引濾過することで、上記(4b)で表される化合物4b(804mg,69%)を得た。M.p.151~156℃。
【0082】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.46 (s, 2H), 5.15 (s, 2H), 3.75 (s, 4H), 3.56 (t,4H, J = 4.6 Hz), 3.31 (q, 4H, J = 4.6 Hz), 1.33 (s, 18H). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ158.2, 70.8, 70.2, 50.1, 40.0, 29.5.
【0083】
(化合物2bの合成方法)
下記化合物2bを合成した。
【化9】
【0084】
(合成方法)
アルゴン雰囲気下、室温で1,2-ビス(2-アミノチオ)エタン(499mg,2.77mmol)のTHF(10mL)溶液にtert-ブチルイソシアネート(0.65mL,5.51mmol,2.0eq)を少量ずつシリンジで添加した。反応混合物は室温で3時間撹拌し、冷却後に減圧下でエバポレートした。残渣をTHFから再結晶することで、生成物を無色固体として得た。収量470mg,45%。M.p.161.0~162.1℃。
【0085】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.13 (t, 2H, J = 5.5 Hz), 4.73 (s, 2H), 3.35 (dt, 2H, J1= 6.6, J2 = 5.5 Hz), 3.78 (s, 4H), 2.69 (t, 4H, J = 6.6 Hz), 1.33 (s, 18). 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ 157.6, 50.3, 40.0, 32.6, 32.1, 29.6.
【0086】
(金属塩の溶解性の評価1)
表1に、溶剤(Solvent)、ホスト(Host)、ゲスト(Guest)の組み合わせと、ゲストである金属塩の溶解の様子の評価結果を示す。
表1に示す組み合わせにしたがって、0.05Mのホストである化合物4b又は2bを含む溶剤であるCHCl3(クロロホルム)の組成物に、ホストと等モル当量のゲストを添加した。次いで、この混合物を70℃、0.5時間で加熱撹拌した。室温(25℃)まで放冷後、30分以内に、混合物の溶解の様子を目視で観察した。表1に示すnoneはホストを添加しない場合であり、ホストを添加しない以外は同じ手順で混合物を用意し溶解の様子を観察した。観察結果から、以下の基準で溶解性を評価した。結果を表中に示す。
+++:0.05M程度溶解するもの
++:0.01M程度溶解するもの
+:塩に由来する着色を示すもの
-:溶解せず、着色も示さないもの
【0087】
【0088】
表中に示す結果から、化合物2bはCuCl及びAgClを選択的に捕捉し、抽出可能であることがわかる。化合物2bの存在下でNiCl2及びCuCl2はCuCl及びAgClに比べて溶解性が低いことから、CuCl及びAgClはNiCl2及びCuCl2の存在下でも化合物2bに優先的に捕捉され、抽出されると考えられる。同様に、化合物2bの存在下でAgClはCuClに比べて溶解性が低いことから、CuClはAgClの存在下でも化合物2bに優先的に捕捉され、抽出されると考えられる。CuClは化合物4bに捕捉されず、化合物2bに選択的に捕捉されることがわかる。例えば、CuClとAgClとが同時に化合物2bに捕捉される場合は、化合物2bを用いる抽出処理の前後において化合物4bによってCuClとAgClを分離することができる。表中に示さないが事前検討の結果、FeCl2とCoCl2は抽出剤を添加しない状態でもCHCl3に溶解性を示すことから、抽出剤による評価を省略した。
【0089】
(金属塩の溶解性の評価2)
表2に、溶剤(Solvent)、ホスト(Host)、ゲスト(Guest)の組み合わせと、ゲストである金属塩の溶解の様子の評価結果を示す。
表2に示す組み合わせにしたがって、0.05Mのホストである化合物4b又は2bを含む溶剤であるMeCN(アセトニトリル)の組成物に、ホストと等モル当量のゲストを添加した。次いで、この混合物を90℃、0.5時間で加熱撹拌した。室温(25℃)まで放冷後、30分以内に、混合物の溶解の様子を目視で観察した。表1に示すnoneはホストを添加しない場合であり、ホストを添加しない以外は同じ手順で混合物を用意し溶解の様子を観察した。
観察結果から、以下の基準で溶解性を評価した。結果を表中に示す。
+++:0.05M程度溶解するもの
++:0.01M程度溶解するもの
+:塩に由来する着色を示すもの
-:溶解せず、着色も示さないもの
【0090】
【0091】
表中に示す結果から、化合物2bはCuCl及びAgClを選択的に捕捉し、抽出可能であることがわかる。化合物2bの存在下でCuClはAgClよりも溶解性が高いことから、CuClはAgClよりも化合物2bに優先的に捕捉され、抽出可能であることがわかる。CuClは化合物4bに捕捉されず、化合物2bに選択的に捕捉されることがわかる。例えば、CuClとAgClとが同時に化合物2bに捕捉される場合は、化合物2bを用いる抽出処理の前後において化合物4bによってCuClとAgClを分離することができる。
【0092】
「会合定数の評価」
化合物4b及び化合物2bは上記した通り合成して用意した。
【0093】
(化合物4cの合成方法)
下記化合物4cを合成した。
【化10】
【0094】
(合成方法)
1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン(東京化成工業株式会社より入手した。)1.01gとイソシアン酸フェニル(1.77g)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液をアルゴン雰囲気下で1時間還流した。溶液を冷却して、減圧下エバポレートし、残渣を酢酸エチルから再結晶することによって、化合物4c(2.51g,95%)を無色固体として得た。M.p.130.0~130.5℃。
【0095】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.62 (s, 2H), 7.34 (dd, 4H, J1 = 8.6, J2 = 1.2 Hz), 7.24 (dd, 4H, J1 = 8.6, J2 = 7.2 Hz), 7.00 (t, 2H, J = 7.2 Hz), 5.53 (t, 2H, J = 5.2 Hz), 3.65 (s, 4H), 3.60 (t, 4H, J = 5.2 Hz), 3.40 (q, 4H, J = 5.2 Hz).
【0096】
(化合物2cの合成方法)
下記化合物2cを合成した。
【化11】
【0097】
(合成方法)
アルゴン雰囲気下、室温で1,2-ビス(2-アミノチオ)エタン(503mg,2.79mmol)のTHF(10mL)溶液にイソシアン酸フェニル(0.60mL,5.55mmol,2.0eq)を少量ずつシリンジで添加した。反応混合物は加熱還流で3時間撹拌し、冷却後に減圧下でエバポレートした。残渣をTHFから再結晶することで、生成物を無色固体として得た。収量397mg,35%。M.p.181.1~194.9℃。
【0098】
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6): d 2.64 (t, 4H, J = 6.86 Hz), 2.75 (s, 4H), 3.26 (dt, 4H, J1= 6.86, J2 = 5.82 Hz), 6.28 (t, 2H, J = 5.82 Hz),6.88 (tt, 2H, J1=7.50, J2 =1.00 Hz), 7.20 (dt, 4H, J1 = 6.88, J2 = 1.83 Hz), 7.37 (dd, 4H, J1 = 8.52, J2 = 1.22 Hz), 8.58 (s, 2H).
【0099】
(会合定数の評価)
表3に、アニオン(Anion)と抽出剤の組み合わせと、会合定数の評価結果を示す。5mLのメスフラスコで5.0×10-3Mの2bまたは4bを含むCD3CN溶液を調製し、その溶液を用いて2mLのメスフラスコで5.0×10-2MのTBAAcO(酢酸テトラブチルアンモニウム)またはTBACl(塩化テトラブチルアンモニウム)を含む溶液を調製した。NMRチューブにマイクロシリンジを用いて、500μLの2bまたは4b溶液を添加し、アニオン非存在下で1H NMRを測定した。その後、マイクロシリンジを用いて調製したゲスト溶液を当量に合わせて添加し1H NMRを測定する操作を数回繰り返した。測定したデータをもとに、非線形最小二乗法を用いたカーブフィティングを行うことで会合定数を求めた。結果は測定を3回繰り返すことにより再現性を確認し、その平均の値を算出した。結果を表3に示す。
【0100】
【0101】
表中に示す通り、化合物4b、4c及び化合物2b、2cともに塩化物イオン(Cl-)及び酢酸イオン(AcO-)と会合することがわかる。これより、化合物4b、4c及び化合物2b、2cは各種アニオンの第一銅塩又は銀塩を捕捉可能であることが推認される。一方で、上記「金属塩の抽出の評価」の結果の通り、化合物4bと化合物2bとでは、第一銅塩及び銀塩の捕捉能力が異なる。この点を利用することで、第一銅塩及び銀塩の選択的な抽出が可能となる。
【0102】
「溶剤への溶解度の評価」
化合物4b及び化合物2bは上記した通り合成して用意した。
【0103】
(溶解度の評価)
表4に、溶剤(Solvent)と抽出剤の組み合わせと、溶解度の評価結果を示す。測定溶媒にそれぞれのレセプターを加熱しながら加え、放冷し、遠心分離とろ過によって飽和溶液を得た。飽和溶液をNMRチューブにマイクロシリンジを用いて500μL加え、エバポレーションした。減圧乾燥の後、2mMのナフタレンを含むCDCl3溶液を100μLとCDCl3を400μL添加し、1H NMRを測定した。2aと2cでは、5mLナスフラスコで調製した4mMのナフタレンを含むDMSO-d6溶液を100μLとDMSO-d6を400μL添加し、1H NMRを測定した。測定結果をもとに、積分値の比から、溶解度を計算した。結果を表4に示す。
【0104】
【0105】
表中に示す通り、化合物2bは、各種溶剤に溶解性を示すことがわかる。上記「金属塩の抽出の評価」の結果から、CHCl3とMeCN中で化合物2bがCuCl及びAgClを捕捉することがわかる。この点を考慮すると、CHCl3とMeCNと同程度に化合物2bを溶解する溶剤であれば、化合物2bを用いてCuCl及びAgClを抽出する際の溶媒として用いることが可能であると考えられる。
【0106】
「金属塩存在下の化合物2bの
1H NMR」
化合物2bは上記した通り合成して用意した。サンプル管に、金属塩がホストに対して1当量になるように、金属塩とホストを加え、2mLのCDCl
3を加えることで、金属塩とホストがともに0.05Mになるように溶液を調製した。溶媒が軽く沸騰するまでホットスターラーで加熱し、一晩以上放置した溶液をメンブレンフィルターで濾過した後、NMRチューブに移し、
1H NMRを測定した。結果を
図1に示す。
【0107】
図1に示す結果から、化合物2bは、CuCl又はAgClの存在下でピーク(図中1~dで示す)がシフトすることから、CuCl又はAgClを選択的に捕捉することがわかる。これに対し、LiCl、PdCl
2、又はZnCl
2の存在下では化合物2bのピークはシフトせず、化合物2bはこれらの金属塩を捕捉しないことがわかる。
本発明のいくつかの実施形態による金属塩抽出剤は、各種の資材から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出する用途に用いることができる。例えば、産業廃棄物、工業廃液、化学反応後の廃液等から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出することが可能である。特に、各種の遷移金属塩から第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を選択的に抽出可能である。具体的には、電池材料、半導体材料、基板材料等の製造工程中の廃棄物又は廃液、これらの使用済みの廃棄物又は廃液、触媒反応の廃液、写真現像の廃液、使用済み写真基材の廃棄物等からの第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方の抽出に利用可能である。この金属塩抽出剤又はこれを含む組成物を用いて第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を抽出することで、第一銅塩及び銀塩の少なくとも一方を回収、製造、吸着、除去、又は精製することが可能である。