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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173464
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】潤滑油添加剤及び潤滑油
(51)【国際特許分類】
   C10M 143/12 20060101AFI20241205BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20241205BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20241205BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20241205BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20241205BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
C10M143/12
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10N30:00 A
C10N40:04
C10N40:08
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091901
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 恵里子
(72)【発明者】
【氏名】青木 豊
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104CA04A
4H104CA12C
4H104CB14A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104EA03C
4H104LA11
4H104LA20
4H104PA03
4H104PA05
4H104PA41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】植物由来の単量体に由来する構成単位を有する重合体を化学合成油に含ませることで、優れた油中溶解性およびせん断安定性を有する潤滑油添加剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物に由来する構成単位を含む重合体、及び前記重合体を溶解した溶媒を含み、前記溶媒が化学合成油である、潤滑油添加剤。

(式(1)中、RはC2n+mで表される基であり、nは1~30の整数であり、
mは-3、-1、1のいずれかであり、2n+mは3以上の整数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物に由来する構成単位を含む重合体、及び前記重合体を溶
解した溶媒を含み、前記溶媒は化学合成油である、潤滑油添加剤。
【化1】
(式(1)中、RはC2n+mで表される基であり、nは1~30の整数であり、
mは-3、-1、1のいずれかであり、2n+mは3以上の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)中、nは1~11の整数であり、mは-3、-1のいずれかであり、2n
+mは3~19の整数である、請求項1に記載の潤滑油添加剤。
【請求項3】
前記式(1)中、nは6~11の整数であり、mは-1である、請求項2に記載の潤滑
油添加剤。
【請求項4】
前記式(1)中、RはC11で表される基である、請求項3に記載の潤滑油添加
剤。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物に由来する構成単位が、イソプレンに由来する構造単位
、ミルセンに由来する構造単位及びファルネセンに由来する構成単位の内の少なくとも1
つを含む、請求項1に記載の潤滑油添加剤。
【請求項6】
前記重合体の重量平均分子量が5000~50万である、請求項1に記載の潤滑油添加
剤。
【請求項7】
前記溶媒が、イソパラフィンである、請求項1に記載の潤滑油添加剤。
【請求項8】
前記溶媒100質量%中、イソパラフィンを95質量%以上含む、請求項1に記載の潤
滑油添加剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油添加剤を含む摩擦調整剤。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油添加剤を含む粘度指数向上剤。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油添加剤を含む潤滑油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油添加剤および潤滑油添加剤を含む潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や自動変速機、その他機械装置には、その作動を円滑にするために潤滑
油が用いられている。近年、地球環境保護の観点から、潤滑油に求められる省燃費性能が
益々高くなっており、その指標の一つとなる粘度指数の更なる向上や摩擦低減能が求めら
れている。これらの物性向上のため潤滑油添加剤が使用されている。また、同じく地球環
境保護の観点から、石油由来原料ではなく植物由来原料を用いる社会的ニーズが高まって
いる。ポリマー型の潤滑油添加剤は、せん断による分子鎖の切断により経時的に物性が悪
化していく傾向があり、せん断安定性の高い添加剤が求められている。
【0003】
特許文献1に開示された共役ジエン由来の構成単位と芳香族ビニル化合物由来の構成単
位からなる共重合体は、潤滑油添加剤として使用されている。
特許文献2に開示された(メタ)アクリロイル基含有化合物の共重合体も潤滑油添加剤
として使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2014/142001号
【特許文献2】特開2017-197728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている潤滑油添加剤は、芳香族ビニル化合物由来の構成単位の含
有量が多い場合には、油への溶解性が低下するという課題がある。また特許文献1の実施
例では、鉱物油のみを使用しており、化学合成油を使用した具体例がない。またせん断安
定性に関する記載はない。
特許文献2に開示されている共重合体は、せん断安定性に優れるが、石油由来の単量体
を原料として用いており、近年の社会的な要望にそぐわない。炭素循環社会の構築のため
には、植物由来の単量体を用いた当該効果に優れる異なる種類の潤滑油添加剤の開発が望
まれている。また特許文献2の実施例では、鉱物油のみを使用しており、化学合成油を使
用した具体例がない。
【0006】
本発明は、植物由来の単量体に由来する構成単位を有する重合体を化学合成油に含ませ
ることで、優れた油中溶解性およびせん断安定性を有する潤滑油添加剤を提供することを
目的とする。
なお、植物由来の単量体であることは、放射性炭素濃度を測定することで確認できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 下記式(1)で表される化合物に由来する構成単位を含む重合体、及び前記重合
体を溶解した溶媒を含み、前記溶媒が化学合成油である、潤滑油添加剤。
【0008】
【化1】
【0009】
(式(1)中、RはC2n+mで表される基であり、nは1~30の整数であり、
mは-3、-1、1のいずれかであり、2n+mは3以上の整数である。)
[2] 前記式(1)中、nは1~11の整数であり、mは-3、-1のいずれかであり
、2n+mは3~19の整数である、[1]に記載の潤滑油添加剤。
[3] 前記式(1)中、nは6~11の整数であり、mは-1である、[2]に記載の
潤滑油添加剤。
[4] 前記式(1)中、RはC11で表される基である、[3]に記載の潤滑油
添加剤。
[5] 前記式(1)で表される化合物に由来する構成単位が、イソプレンに由来する構
造単位、ミルセンに由来する構造単位及びファルネセンに由来する構成単位の内の少なく
とも1つを含む、[1]に記載の潤滑油添加剤。
[6] 前記重合体の重量平均分子量が5000~50万である、[1]~[5]のいず
れかに記載の潤滑油添加剤。
[7] 前記溶媒が、イソパラフィンである、[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑油
添加剤。
[8] 前記溶媒100質量%中、イソパラフィンを95質量%以上含む、[1]~[7
]のいずれかに記載の潤滑油添加剤。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油添加剤を含む摩擦調整剤。
[10] [1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油添加剤を含む粘度指数向上剤。
[11] [1]~[8]のいずれかに記載の潤滑油添加剤を含む潤滑油。
【発明の効果】
【0010】
本発明の潤滑油添加剤に含まれる重合体は、植物由来の単量体を原料として製造するこ
とができる。またこの重合体と化学合成油を含む本発明の潤滑油添加剤は、優れた油中溶
解性およびせん断安定性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発
明の実施形態の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨
の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
[用語の説明]
本明細書においては、以下の用語の定義を採用する。
「構成単位」とは、単量体に由来する重合体を構成する単位、すなわち単量体が重合する
ことによって形成された構成単位、または重合体を変性処理することによって構成単位の
一部が別の構造に変換された構成単位を意味する。
【0013】
本発明に係る「重合体」とは、後述の式(1)で表される化合物(以下「化合物(1)
」と称す場合がある。)に由来する構成単位を含有する重合体を意味する。
本発明に係る「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の
一方又は双方を意味する。
本発明に係る「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの一方又
は双方を意味する。
【0014】
「(メタ)アクリル」についても同様である。
本発明に係る「(メタ)アクリロイル基」とは、下記式(2A)で表されるアルキルメ
タアクリレート又は下記式(2B)で表されるアルキルアクリレートの「R」部以外の部
分を意味する。
【0015】
【化2】
【0016】
本明細書において「重量平均分子量」、「数平均分子量」はゲルパーミエーションクロ
マトグラフィー(GPC)法により測定された標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、
数平均分子量を意味する。
「鉱油」とは、原油から精製して製造させる基油のことであり、パラフィン油、ナフテ
ン油を意味する。
【0017】
「化学合成油」とは、原油の精製により製造されるのではなく、化学プラントで製造さ
れ、硫黄、窒素、芳香族等の不純物濃度を低減、又は前記不純物を含まない基油である。
代表的には、イソパラフィン、ポリブテン、エチレンプロピレン共重合体(EPO)、脂
肪族エステル、GTL(Gas To Liquid)、アルキルベンゼン、シリコーン
オイル、ポリアルキレングリコール(PAG)などがある。原料は、化学合成油の種類に
よって様々であるが、植物由来原料を用いることもできる。
「溶解」または「可溶」とは、前記重合体を含む溶液を25℃で1日静置したとき、目
視で不溶分の析出や溶液の白濁が確認されないことを意味する。
【0018】
〔重合体I〕
本発明の一実施形態に係る重合体(以下、「重合体I」と称す場合がある。)は、下記
式(1)で表される化合物(化合物(1))に由来する構成単位(以下、「化合物(1)
単位」と称す場合がある。)を含む重合体である。
【0019】
【化3】
【0020】
(式(1)中、RはC2n+mで表される基であり、nは1~30の整数であり、
mは-3、-1、1のいずれかであり、2n+mは3以上の整数である。)
重合体Iは、化合物(1)単位の他の構成単位(以下、「その他の構成単位」と称す場
合がある。)を含むことができる。例えば、その他の構成単位として、(メタ)アクリロ
イル基含有化合物に由来する構成単位(以下、「(メタ)アクリロイル基含有化合物単位
」と称す場合がある。)を含むことができる。
【0021】
[重合体Iの構成単位]
以下、重合体Iを構成する化合物(1)単位、及びその他の構成単位について詳細に説
明する。
【0022】
<化合物(1)単位>
重合体Iは、前記式(1)で表される化合物(1)に由来する化合物(1)単位を含む
。該化合物(1)単位は、植物から得られる単量体由来であることが好ましい。
前記式(1)において、RはC2n+mで表される基であり、nは1~30の整
数であり、mは-3、-1、1のいずれかであり、2n+mは3以上の整数である。
即ち、RはC2n+1、C2n-1及びC2n-3の中から選ばれる少
なくとも一つで表される基である。
【0023】
せん断安定性の観点から、好ましくはこれらは以下の通りである。
mは-3又は-1であることが好ましく、-1であることがより好ましい。
nは1~30の整数であるが、nは1~26の整数であることが好ましく、1~11の
整数であることがより好ましく、6~11の整数であることがさらに好ましい。nは6で
あることが特に好ましい。
2n+mは3以上の整数であるが、3~19の整数であることが好ましく、11~19
の整数であることがより好ましい。
【0024】
はC11であることが最も好ましい。
該化合物(1)単位は、イソプレン、ミルセン及びファルネセンの内の少なくとも1つ
に由来する構成単位であることが好ましい。
該化合物(1)単位は、重合上の取り扱いの観点から、とりわけミルセン及びファルネ
センの内の少なくとも一つに由来する構成単位であることが好ましい。これらはいずれも
植物由来の単量体として入手可能であり、炭素循環社会の構築の観点から好ましい。
【0025】
該化合物(1)単位は、前記式(1)におけるRがC11であるミルセンが最も
好ましい。
重合体Iの全構成単位100質量%に対するミルセンに由来する構成単位の含有量は、
植物由来の原料を含む観点から、また油中溶解性を向上する観点から、15質量%以上で
あり、好ましくは31質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上であり、さらに
より好ましく40質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0026】
本発明の重合体には、化合物(1)単位の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が
含まれていてもよい。
また、重合体Iの全構成単位100質量%に対する化合物(1)単位の含有量は、植物
由来の原料を含む観点から、また油中溶解性を向上する観点から、15質量%以上であり
、好ましくは31質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上であり、さらに好ま
しくは40質量%以上である。化合物(1)単位の含有量は、植物由来の原料をより多く
使用できるという観点から100質量%とすること好ましい。
【0027】
重合体Iの全構成単位100質量%に対する化合物(1)単位の割合は、本発明の重合
体の原料単量体として、化合物(1)単位を導入するための化合物(1)の仕込み量から
計算により求めることができる。
【0028】
<その他の構成単位>
重合体Iは、化合物(1)単位と共に、さらにその他の構成単位を含むことができる。
その他の構成単位としては、例えば(メタ)アクリロイル基含有化合物単位を含むことが
できる。
(メタ)アクリロイル基含有化合物単位を構成する(メタ)アクリロイル基含有化合物
としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル
(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート
、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル
(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐のアルキルア
ルコールの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;シクロヘキシル(メタ)アクリレー
ト等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類を挙げることが
できる。
【0029】
その他、以下に記載する官能基を有する(メタ)アクリロイル基含有化合物を用いるこ
ともでき、油中溶解性を向上させる観点から、特に官能基を有していてもよい(メタ)ア
クリル酸アルキルエステルが好ましい。
せん断安定性を向上する観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の(メタ)
アクリロイル基含有化合物中のアルキル基の炭素数の上限値は、60以下であることが好
ましく、55以下がより好ましい。一方、油中溶解性を向上する観点から(メタ)アクリ
ロイル基含有化合物中のアルキル基の炭素数の下限値は1以上が好ましく、2以上である
ことがより好ましい。
【0030】
「アルキル基」とは、C(2p+1)-で表すことができる官能基であり、上記の
通りpは好ましくは1~60の範囲の整数である。中でも油中溶解性が向上する観点から
、より好ましくはpは2~60の範囲の整数である。
また、せん断安定性を向上する観点から、(メタ)アクリロイル基含有化合物の全炭素
数の上限値は65以下であることが好ましく、60以下であることがより好ましい。一方
、(メタ)アクリロイル基含有化合物の全炭素数は3以上であることが好ましく、4以上
であってもよい。
【0031】
油中溶解性を向上させる観点から、(メタ)アクリロイル基含有化合物単位の(メタ)
アクリロイル基含有化合物は、アルキル基、ヒドロキシル基、シリルオキシ基、ビニル基
、エーテル基、アミノ基、カルボン酸基、エポキシ基、フッ素原子、リン酸基のうちの少
なくとも一つの官能基を有することが好ましく、中でも、アルキル基、ヒドロキシル基、
シリルオキシ基、ビニル基、エーテル基、アミノ基、カルボン酸基、フッ素原子、リン酸
基のうちの少なくとも一つの官能基を有することが好ましい。
【0032】
ヒドロキシル基、シリルオキシ基、ビニル基、アミノ基、エーテル基、フッ素原子を有
する(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)
アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリ
コール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-
テトラメチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール-ポリブ
チレングリコール-モノ(メタ)アクリレート等の末端にヒドロキシ基及び/又はエーテ
ル基を含む(メタ)アクリレート類;2-(トリメチルシリルオキシ)(メタ)アクリレ
ート、3-(メチルジメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(メトキシ
シリル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル(メタ)
アクリレート、3-(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート等のシリルオ
キシ基を含む(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート等のビニル基を含む
(メタ)アクリレート類;1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ
)アクリレート類;(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル等のアミノ基を含
む(メタ)アクリレート類;2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2
,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オク
タフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ
オクチルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル等のフッ素原子を含む(メタ)
アクリレート類;を挙げることができる。
【0033】
重合体Iには、このような(メタ)アクリロイル基含有化合物単位の1種のみが含まれ
ていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
重合体Iの全構成単位100質量%に対する(メタ)アクリロイル基含有化合物単位の
含有量の上限値は、油中溶解性を向上する観点及び植物由来のミルセン等の化合物(1)
単位の含有量を十分量とする観点から、好ましくは85質量%未満であり、より好ましく
は50質量%以下であり、さらに好ましくは45質量%以下であり、特に好ましく40質
量%以下である。植物由来の構成単位を増やす観点から、(メタ)アクリロイル基含有化
合物単位の含有量を0質量%とすることが好ましいが、せん断安定性を向上する観点から
、(メタ)アクリロイル基含有化合物単位の含有量の下限値を0.1質量%以上とするこ
ともできる。
【0034】
重合体Iの全構成単位100質量%における(メタ)アクリロイル基含有化合物単位の
割合は、重合体Iの原料単量体として、(メタ)アクリロイル基含有化合物単位を導入す
るために用いられる前記(メタ)アクリロイル基含有化合物の仕込み量から計算により求
めることができる。
さらに、上記(メタ)アクリロイル基含有化合物単位の他にくわえて、別の構成単位を
導入することができる。重合体Iに上記(メタ)アクリロイル基含有化合物単位以外の構
成単位を導入するために用いられる原料単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メ
タクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエー
テル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸系ビニル単量
体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、塩化ビ
ニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;マレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シク
ロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド等のマレイミド系単量体等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
その他の構成単位の含有量は、重合体Iの全構成単位100質量%に対して、60質量
%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。その他の構成
単位の含有量が60質量%以下であることにより、油に添加した際の油への溶解性が向上
するためである。
重合体Iの全構成単位の100質量%に対するその他の構成単位の割合は、重合体Iの
原料単量体として、その他の構成単位を導入するためのその他の単量体の仕込み量から計
算により求めることができる。
【0036】
[重合体Iの重量平均分子量(Mw)]
重合体Iの重量平均分子量の下限値は、油中溶解性の観点から、5000以上であり、
6000以上であることが好ましく、7000以上であることがより好ましい。一方、重
合体Iの重量平均分子量の上限値は、せん断安定性の観点から、50万以下であり、30
万以下であることが好ましく、25万以下であることがより好ましい。
【0037】
[重合体Iの数平均分子量(Mn)]
重合体Iの数平均分子量の下限値は、油中溶解性の観点から、5000以上であること
が好ましく、6000以上であることがより好ましい。一方、本発明の重合体の数平均分
子量の上限値は、せん断安定性の観点から、30万以下であることが好ましく、25万以
下であることがより好ましい。
【0038】
[重合体Iの溶媒溶解性]
重合体Iは、溶媒に対して可溶であることが好ましい。
ここで、溶媒としては化学合成油が好ましく、特に、イソパラフィンが好ましい。
【0039】
〔潤滑油添加剤〕
本発明の潤滑油添加剤は、前述の重合体I(以下、「本発明の重合体」と称す場合があ
る。)と溶媒として化学合成油を含むものである。
本発明の潤滑油添加剤は、本発明の重合体の1種のみを含むものであってもよく、構成
単位の種類や組成等の異なる重合体の2種以上を含むものであってもよい。
【0040】
本発明の潤滑油添加剤に含まれる溶媒としては、化学合成油からなる基油(以下、ベー
スオイルともいう。)として、イソパラフィン、ポリブテン、エチレンプロピレン共重合
体(EPO)、脂肪族エステル、GTL(Gas To Liquid)、アルキルベン
ゼン、シリコーンオイル、ポリアルキレングリコール(PAG)等の油成分の1種又は2
種以上が挙げられる。せん断安定性が向上する観点から、溶媒100質量%中、イソパラ
フィンを95質量%以上含むことが好ましい。イソパラフィンの例としては、PAO(ポ
リ-α-オレフィン)や分岐構造を制御したイソパラフィンなどが挙げられる。
【0041】
特に、本発明の潤滑油添加剤は、本発明の重合体が溶媒としての基油に溶解して存在し
ていることが分散性の観点から好ましい。この場合において、溶媒としての基油は、イソ
パラフィン、ポリブテン、エチレンプロピレン共重合体(EPO)、脂肪族エステル、G
TL(Gas To Liquid)、アルキルベンゼン、シリコーンオイル、ポリアル
キレングリコール(PAG)等の化学合成油の1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0042】
本発明の潤滑油添加剤は、イソパラフィンを基油100質量%中に50質量%以上、特
に80質量%以上、更に好ましくは95質量%以上含有することが好ましい。
本発明の潤滑油添加剤は、本発明の重合体及び溶媒以外に各種添加剤を含有してもよい

該各種添加剤としては、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、油性向上剤、摩擦摩耗調整剤、
極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、腐食防止剤等が挙げられる。
【0043】
本発明の潤滑油添加剤に占める本発明の重合体の割合は、基油を除く潤滑油添加剤の全
構成成分の合計100質量%に対して、好ましくは0.1~100質量%である。また、
本発明の潤滑油添加剤は、基油としての溶媒100質量部に対して、本発明の重合体を0
.1~90質量部含むことが好ましい。
本発明の潤滑油添加剤は、増ちょう剤を含有したグリースであってもよい。増ちょう剤
としては、例えば、石けん系(リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、
アルミニウム石けん等)や、無機物系(ベントナイト、シリカゲル等)、有機物系(ポリ
ウレア、ポリウレタン等)等が挙げられる。
【0044】
本発明の潤滑油添加剤を、駆動系潤滑油、自動変速機油、作動油、エンジン油等の各種
潤滑油に用いる場合、以下の方法で測定されるせん断試験前後のVK100の変化率は、
3.3%以下が好ましい。せん断試験前後のVK100の変化率が上記上限以下であると
、上記用途に用いた際、潤滑油の寿命を延ばし、車等の燃費を低減させ、ギアの摩耗を低
減させることができる。このせん断試験前後のVK100の変化率は特に3%以下である
ことが好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も
好ましい。
なお、通常、以下のせん断安定性試験に供される潤滑油添加剤中の本発明の重合体の含
有量は7質量%である。
【0045】
<せん断安定性試験>
試験サンプルを調製後、ASTM D7279(D445)法に準拠し、動粘度計(A
nton Paar社製、商品名:SVM 3001)を用いて40℃における動粘度(
VK40)および100℃における動粘度(VK100)を測定した。その後、超音波せ
ん断安定度JASO法(JASO M347)に準拠し、サンプルに60分間せん断をか
け、再び40℃における動粘度(VK40)および100℃における動粘度(VK100
)を測定した。せん断試験前後での動粘度の変化率を算出した。
せん断安定性の測定方法の詳細は後掲の実施例の項に記載する通りである。
【0046】
〔潤滑油添加剤の製造方法〕
本発明の潤滑油添加剤の製造方法は、前記化合物(1)単位を含む重合体を溶媒中で製
造する方法であり、溶媒として化学合成油を用いる製造方法である。
即ち、本発明の潤滑油添加剤の製造方法は、本発明の重合体を溶媒中で製造する工程を
含む。
【0047】
本発明の重合体を製造する方法としては特に制限はなく、原料単量体としてミルセン単
位等の化合物(1)単位を導入するためのミルセン等の化合物(1)と、(メタ)アクリ
ロイル基含有化合物単位を導入するための(メタ)アクリロイル基含有化合物と、必要に
応じてその他の構成単位を導入するためのその他の単量体を、前述の好適割合で用いて、
溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法等の公知の重合方法により重合するこ
とで製造することができる。
【0048】
これらの方法のうち、本発明の重合体と溶媒とを含む本発明の潤滑油添加剤を製造する
には、潤滑油添加剤への適合性の観点から、溶媒を用いる溶液重合法を採用する。
以下、溶液重合法により本発明の潤滑油添加剤を製造する方法について詳細に説明する

溶液重合法では、原料単量体としてミルセン単位等の化合物(1)単位を導入するため
のミルセン等の化合物(1)と、(メタ)アクリロイル基含有化合物単位を導入するため
の(メタ)アクリロイル基含有化合物と、必要に応じてその他の構成単位を導入するため
のその他の単量体を、前述の好適割合で用いて、反応溶媒(重合溶媒)中、重合開始剤の
存在下に重合させる。
溶液重合法によれば、本発明の重合体を製造すると同時に本発明の潤滑油添加剤を製造
することができる。
【0049】
<重合開始剤>
本発明の潤滑油添加剤を製造するにあたっては、公知のラジカル重合開始剤を用いて、
公知の方法で製造を行えばよい。
ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ化合物等が挙げられる。ラジカル重
合開始剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
ラジカル重合開始剤として用いられる好適な有機過酸化物の具体例としては、t-ブチ
ルパーオキシピバレート、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-ト
リメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、シクロヘキサノン
パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジク
ミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパー
オキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-
ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパ
ーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0051】
アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-ア
ゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-
4-メトキシバレロニトリル)等が挙げられる。
これらの中でも、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサ
ノエート等が好ましい。
【0052】
<重合溶媒>
本発明の潤滑油添加剤を製造するにあたっては、重合溶媒に一般の有機溶媒を使用する
ことができる。
潤滑油添加剤への適合性の観点から、重合溶媒としては、化学合成油を用いることが好
ましく、中でもイソパラフィンを使用するのが好ましい。この場合、重合溶媒として用い
た化学合成油、好ましくはイソパラフィンと生成した重合体を含む反応生成物を本発明の
潤滑油添加剤として用いることができる。
重合溶媒は、その全量100質量%中に、イソパラフィンを50質量%以上含むことが
せん断安定性の観点から好ましく、特にイソパラフィンの含有量は80質量%以上、とり
わけ95質量%以上であることが好ましい。
【0053】
〔潤滑油添加剤〕
本発明の潤滑油添加剤は、前記化合物(1)単位、及び(メタ)アクリロイル基含有化
合物単位を含み、全構成単位の合計100質量%中の化合物(1)単位の含有量が15質
量%以上である重合体と、化学合成油とを含有するものである。
本発明の潤滑油添加剤に含まれる重合体としては、好ましくは前述の重合体(I)が挙
げられる。
本発明の潤滑油添加剤剤は、前述の本発明の潤滑油添加剤を摩擦調整剤、粘度指数向上
剤として用いるものであり、含有される重合体、化学合成油については、前述の潤滑油添
加剤における説明を適用することができる。
【0054】
〔潤滑油〕
本発明の潤滑油は、本発明の潤滑油添加剤を含むものであり、その具体例としては、駆
動系潤滑油、自動変速機油、作動油、エンジン油等の各種潤滑油が挙げられる。
これらの潤滑油における本発明の潤滑油添加剤の含有量については特に制限はないが、
潤滑油中の本発明の重合体の含有量として0.01質量%以上、特に0.1質量%以上で
、50質量%以下、特に40質量%以下となるような含有量であることが、その油中溶解
性を有効に得る上で好ましい。なお、本発明の潤滑油添加剤は、潤滑油に添加することな
く、単体で潤滑油として使うこともできる。
【実施例0055】
以下、実施例及び比較例によって本発明を詳細に説明する。本発明は以下の記載によっ
て限定されるものではない。
【0056】
<構成単位の割合>
重合体中の各構成単位の割合は、単量体の仕込み量から計算した。重合体の全構成単位
の合計100質量%に対するミルセン単位の割合は、ミルセンの仕込み量から計算した。
重合体の全構成単位の合計100質量%に対する(メタ)アクリロイル基含有化合物単位
の割合は、(メタ)アクリロイル基含有化合物の仕込み量から計算した。
【0057】
<重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)>
重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子(Mn)は、GPC(ゲルパーミエー
ションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算の分子量で求めた。測定装置及
び条件は、以下の通りである。
・装置:HLC-8420GPC 東ソー(株)製
・分離カラム:TSK-GEL SUPER HM-H(排除限界分子量=4×10
6.0mmφ×150mm
・検出器:RI(示差屈折計)、UV
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.600mL/min
・サンプル濃度:0.02g/10mL
・カラム温度:40℃
【0058】
<溶液状態の確認>
重合溶液の透明性を目視で確認し、以下の通り評価した。
〇:透明
×:不透明または不溶分が析出している
【0059】
<せん断安定性試験>
試験サンプルを調製後、ASTM D7279(D445)法に準拠し、動粘度計(A
nton Paar社製、商品名:SVM 3001)を用いて40℃における動粘度(
VK40)および100℃における動粘度(VK100)を測定した。その後、超音波せ
ん断安定度JASO法(JASO M347)に準拠し、サンプルに60分間せん断をか
け、再び40℃における動粘度(VK40)および100℃における動粘度(VK100
)を測定した。せん断試験前後での動粘度の変化率を算出した。
【0060】
〔実施例1〕
乾燥させたシュレンク管に、潤滑油ベースオイル(シェブロンフィリップス化学(株)
製、商品名:Synfluid PAO4cSt)33質量部と、ミルセン(ヤスハラケ
ミカル(株)製)を80質量部、ブレンマーPP-800(ポリプロピレングリコール-
モノメタクリレート(日油(株)製、下記式(3)で表される化合物)を20質量部仕込
み、シュレンク管内を窒素で十分に置換した後、100℃に昇温した。次いで、重合開始
剤として、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート
(日油(株)製、商品名:パーオクタO)を7.1質量部添加し、11時間反応させた。
得られた重合溶液を潤滑油添加剤として前述の各種評価を実施した。結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例2、比較例1~2〕
表1に示す仕込み量として、実施例1と同様にして重合溶液を得た。また、得られた重
合溶液を用いて各種評価を実施した。
なお、表1中、原料単量体の略号は以下の通りである。
ミルセン:植物由来原料(ヤスハラケミカル(株)製、IUPAC名:7-メチル-3-
メチレンオクタ-1,6-ジエン)
ブレンマーPP-800:ポリプロピレングリコール-モノメタクリレート(日油(株)
製、下記式(3)で表される化合物)
【0062】
【化4】
【0063】
また、表1中、ベースオイルの略号は以下の通りです。
PAO4:化学合成油 Synfluid PAO4cSt(シェブロンフィリップス化
学(株)製)
YUBASE4:鉱油系ベースオイル(SKルブリカンツ(株)製、商品名:YUBAS
E4)
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、化合物(1)に由来する構成単位を含む重合体を化学合成油に
溶解した本発明の潤滑油添加剤を用いた実施例1及び2は、いずれも良好なせん断安定性
を示した。一方、ベースオイルに化学合成油を用いない比較例1は、せん断安定性が不十
分であった。また、化合物(1)に由来する構成単位を含まない重合体を用いた場合、化
学合成油への溶解性が不十分であり、オイルが白濁し、沈殿物が生じる等、溶解不良であ
った。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の潤滑油添加剤は、せん断安定性および油中溶解性に優れ、駆動系潤滑油、自動
変速機油、作動油、エンジン油等、各種潤滑油に好適に用いることができる。