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特開2024-173680複合金属シアン化物錯体触媒及びその製造方法、複合金属シアン化物錯体スラリー触媒及びその製造方法、並びに重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173680
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】複合金属シアン化物錯体触媒及びその製造方法、複合金属シアン化物錯体スラリー触媒及びその製造方法、並びに重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/10 20060101AFI20241205BHJP
   C08G 65/08 20060101ALI20241205BHJP
   C07C 31/12 20060101ALI20241205BHJP
   C07F 19/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C08G65/10
C08G65/08
C07C31/12
C07F19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062353
(22)【出願日】2024-04-08
(62)【分割の表示】P 2023090792の分割
【原出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 吉
(72)【発明者】
【氏名】荒井 豪明
【テーマコード(参考)】
4H006
4H050
4J005
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB40
4H050AA03
4H050AB40
4J005AA04
4J005BB02
(57)【要約】
【課題】触媒活性に優れるとともに、高分子量不純物の生成を抑制できる、複合金属シアン化物錯体触媒の提供。
【解決手段】カールフィッシャー法による水分量が8,000~140,000ppmであり、X線回折パターンにおいて、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークを有し、2θ=34°に回折ピークを有さない、複合金属シアン化物錯体触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カールフィッシャー法による水分量が8,000~140,000ppmであり、X線回折パターンにおいて、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークを有し、2θ=34°に回折ピークを有さない、複合金属シアン化物錯体触媒。
【請求項2】
ハロゲン化金属塩とシアン化遷移金属化合物とを反応させて得られる反応生成物に、有機配位子を配位させて複合金属シアン化物錯体触媒を製造する方法であって、
前記有機配位子を配位させた後、前記複合金属シアン化物錯体触媒のカールフィッシャー法による水分量が8,000~140,000ppmとなり、かつ前記複合金属シアン化物錯体触媒のX線回折パターンにおいて、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークが存在し、2θ=34°に回折ピークが存在しないように、前記複合金属シアン化物錯体触媒の水分量を調整する、複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化金属塩が、塩化亜鉛及び臭化亜鉛から選ばれる1種以上を含む、請求項2に記載の複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法。
【請求項4】
前記有機配位子がtert-ブチルアルコールを含む、請求項2又は3に記載の複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の複合金属シアン化物錯体触媒と、
カールフィッシャー法による水分量が500ppm以下である分散媒を含む、複合金属シアン化物錯体スラリー触媒。
【請求項6】
前記複合金属シアン化物錯体スラリー触媒の総質量に対して、前記複合金属シアン化物錯体触媒の含有量が0.001~60質量%である、請求項5に記載の複合金属シアン化物錯体スラリー触媒。
【請求項7】
複合金属シアン化物錯体触媒と分散媒を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記複合金属シアン化物錯体触媒のカールフィッシャー法による水分量が8,000~140,000ppmとなり、前記分散媒のカールフィッシャー法による水分量が500ppm以下となり、かつ前記複合金属シアン化物錯体触媒のX線回折パターンにおいて、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークが存在し、2θ=34°に回折ピークが存在しないように、
前記スラリーの水分量を調整する水分調整工程を有する、複合金属シアン化物錯体スラリー触媒の製造方法。
【請求項8】
前記スラリー調製工程が、水の存在下で、ハロゲン化金属塩とシアン化遷移金属化合物とを反応させて得られる反応生成物に、水の存在下で有機配位子を配位させて、複合金属シアン化物錯体触媒と水を含む混合液を得て、前記混合液から不純物及び水を除去し、分散媒を加えて、複合金属シアン化物錯体触媒と分散媒を含むスラリーを調製する工程を有する、請求項7に記載の複合金属シアン化物錯体スラリー触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、エポキシドを重合する、重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属シアン化物錯体触媒、複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法、複合金属シアン化物錯体スラリー触媒、複合金属シアン化物錯体スラリー触媒の製造方法、複合金属シアン化物錯体触媒を用いた重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合金属シアン化物錯体触媒(以下、DMC触媒ともいう。)は、エポキシドの重合触媒として知られている。複合金属シアン化物錯体触媒は、KOH等の塩基触媒に比べて活性が高く、不飽和結合を有する副生成物が生じ難いという利点を有する。
【0003】
従来より、DMC触媒に関して様々な研究がなされてきた。
特許文献1には、製造時に強いせん断力を加えて、実質的に非晶質のDMC触媒とすることで、触媒の使用量を増やさずにエポキシドの重合速度を高める方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、有機錯生成剤(例えば、t-ブチルアルコール)及び数平均分子量が500より小さいポリオールの存在下で、複合金属シアン化物を製造して得られたDMC触媒は、エポキシド重合に対して高い活性を示し、不飽和度が極めて低いポリエーテルポリオールが得られた実施例が記載されている。これに対して、有機錯生成剤を用いなかった比較例は不活性であり、前記ポリオールを用いなかった比較例は活性が低かったことが示されている。また結晶構造の違いについて、X線回折パターンにおいて前記実施例は前記2つの比較例では見られないシグナルを示したことが記載されている。
【0005】
特許文献3では、DMC触媒において、水分は触媒活性を阻害する触媒毒と考えられており、実質的に水を含まない有機溶媒を用いてDMC触媒を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7―196778号公報
【特許文献2】国際公開第1997/040086号
【特許文献3】特開2003-103177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エポキシドの重合反応において、DMC触媒を用いると重合体の分子量分布(Mw/Mn)が小さくなりやすい一方で、不純物となる超高分子量成分が生成されやすい。
本発明者等の知見によれば、触媒活性が高いと、超高分子量成分が多く生成する傾向がある。
本発明は、触媒活性に優れるとともに、高分子量不純物の生成を抑制できる、複合金属シアン化物錯体触媒を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意研究を行い、DMC触媒の水分量と結晶構造を制御することによって、触媒寿命が長く(触媒活性が高く)、高分子量不純物の生成を抑制できるDMC触媒が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]カールフィッシャー法による水分量が8,000~140,000ppmであり、X線回折パターンにおいて、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークを有し、2θ=34°に回折ピークを有さない、複合金属シアン化物錯体触媒。
[2]ハロゲン化金属塩とシアン化遷移金属化合物とを反応させて得られる反応生成物に、有機配位子を配位させて複合金属シアン化物錯体触媒を製造する方法であって、
前記有機配位子を配位させた後、前記複合金属シアン化物錯体触媒のカールフィッシャー法による水分量が8,000~140,000ppmとなり、かつ前記複合金属シアン化物錯体触媒のX線回折パターンにおいて、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークが存在し、2θ=34°に回折ピークが存在しないように、前記複合金属シアン化物錯体触媒の水分量を調整する、複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法。
[3]前記ハロゲン化金属塩が、塩化亜鉛及び臭化亜鉛から選ばれる1種以上を含む、[2]に記載の複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法。
[4]前記有機配位子がtert-ブチルアルコールを含む、[2]又は[3]に記載の複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法。
[5]前記[1]に記載の複合金属シアン化物錯体触媒と、カールフィッシャー法による水分量が500ppm以下である分散媒を含む、複合金属シアン化物錯体スラリー触媒。
[6]前記複合金属シアン化物錯体スラリー触媒の総質量に対して、前記複合金属シアン化物錯体触媒の含有量が0.001~60質量%である、請求項5に記載の複合金属シアン化物錯体スラリー触媒。
[7]複合金属シアン化物錯体触媒と分散媒を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、前記複合金属シアン化物錯体触媒のカールフィッシャー法による水分量が8,000~140,000ppmとなり、前記分散媒のカールフィッシャー法による水分量が500ppm以下となり、
かつ前記複合金属シアン化物錯体触媒のX線回折パターンにおいて、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークが存在し、2θ=34°に回折ピークが存在しないように、
前記スラリーの水分量を調整する水分調整工程を有する、複合金属シアン化物錯体スラリー触媒の製造方法。
[8]前記スラリー調製工程が、水の存在下で、ハロゲン化金属塩とシアン化遷移金属化合物とを反応させて得られる反応生成物に、水の存在下で有機配位子を配位させて、複合金属シアン化物錯体触媒と水を含む混合液を得て、前記混合液から不純物及び水を除去し、分散媒を加えて、複合金属シアン化物錯体触媒と分散媒を含むスラリーを調製する工程を有する、[7]に記載の複合金属シアン化物錯体スラリー触媒の製造方法。
[9]前記[1]に記載の複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、エポキシドを重合する、重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、触媒活性に優れるとともに、高分子量不純物の生成を抑制できる、複合金属シアン化物錯体触媒が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書および特許請求の範囲において、「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
本明細書および特許請求の範囲において、含有量の単位である「ppm」は、特に断りの無い限り質量基準である。
【0012】
本明細書において、複合金属シアン化物錯体触媒の水分量は、カールフィッシャー法により測定される水の含有量である。この水分量は、固体である複合金属シアン化物錯体触媒の質量に対する、複合金属シアン化物錯体触媒の結晶に内包されている結晶水と、内包されていない水の合計の含有量(単位:ppm)である。
【0013】
複合金属シアン化物錯体触媒と分散媒を含む複合金属シアン化物錯体スラリー触媒(以下、「スラリー触媒」ともいう。)の場合は、スラリー触媒を測定対象として、カールフィッシャー測定法により、スラリー触媒の総質量に対する水の含有量を測定した値をスラリー触媒中の水分量(以下、「スラリー水分量」ともいう。)とする。
スラリー水分量は、複合金属シアン化物錯体触媒に含まれる水分と分散媒に含まれる水分との合計量である。
スラリー水分量から分散媒中の水分を除いた残りの水の含有量を、スラリー中の固形分に対する水の含有量に換算した値を、複合金属シアン化物錯体触媒の水分量とする。
【0014】
スラリー中の固形分含有量は以下の加熱乾燥法で求めることができる。すなわち、スラリー触媒を、複合金属シアン化物錯体に配位しない溶剤(例えばヘキサン)を用いて洗浄し、遠心分離する操作を数回実施して、分散媒を除去する。次いで回収した複合金属シアン化物錯体を100℃で12時間加熱乾燥し、得られた乾燥物の質量をスラリー触媒中の固形分の質量として、固形分含有量を求める。
【0015】
なお、スラリー触媒を製造する工程の途中で、スラリー触媒中の固形分含有量を求めてもよい。具体的には、合成した複合金属シアン化物錯体と副生塩を含む反応生成物を洗浄し、固液分離して得られるろ過ケーキに所定量の分散媒を添加し、水等の揮発成分を除去して目的のスラリー触媒を製造する方法において、前記ろ過ケーキのうちの所定量を測定用に取り出し、100℃で12時間乾燥した後の質量を固形分の質量とし、前記ろ過ケーキに添加した分散媒の添加量と前記固形分の質量から、スラリー触媒中の固形分含有量を求めることができる。
【0016】
本明細書におけるX線回折パターンは、X線としてCuKα線(波長:1.5418Å)を使用して得られる、横軸が回折角(2θ、単位°)、縦軸が強度(任意単位)の一次元パターンである。X線回折パターンにおいて、極小値から単純増加して極大値に達した後に単純減少して極小値に至るまでの波形を回折ピークとする。前記2つの極小値を結ぶ直線から前記極大値までの高さをピーク強度とする。
本明細書において、2θ=x°に回折ピークを有するとは、2θが(x-0.5)°以上(x+0.5)°未満の範囲内に、回折ピークの極大値が存在し、かつ、そのピーク強度が、2θ=24°の回折ピークのピーク強度(基準ピーク強度)に対して1%以上であることを意味する。
なお、前記2θ=24°の回折ピークとは、2θが(24-0.5)°以上(24+0.5)°未満の範囲内に極大値が存在する回折ピークを意味する。
本明細書において、2θ=x°に回折ピークを有さないとは、2θが(x-0.5)°以上(x+0.5)°未満の範囲内に極大値が存在しないか、又は極大値が存在しても、そのピーク強度が前記基準ピーク強度に対して1%未満であることを意味する。
【0017】
本明細書において、X線回折パターンの測定は下記の条件で行う。測定試料は固体である。スラリー触媒の場合は、前記加熱乾燥法により得られる乾燥物を測定試料とする。
X線:CuKα線(λ=1.54180Å)
管電圧:45kV
管電流:200mA
光源:単色化した光源
測定角度範囲:2θ=10~80°
ステップ幅:(Δ2θ)=0.010°のステップスキャン
【0018】
<複合金属シアン化物錯体触媒>
本実施形態の複合金属シアン化物錯体触媒(以下、DMC触媒(A)ともいう。)は、結晶性の固体であり、ハロゲン化金属塩とシアン化遷移金属化合物との反応物、有機配位子、及び結晶に内包された結晶水(配位水等)を含む。それ以外には、前記金属塩及び金属化合物等の中に微量に含まれる製造上不可避の不純物と結晶水以外の水分を含み得る。
前記ハロゲン化金属塩、シアン化遷移金属化合物、有機配位子は、DMC触媒の製造において公知のものを使用できる。
【0019】
DMC触媒(A)は、下記式(1)で表されると考えられる。
[M(CN)・d(M )・g(Ligand)・h(HO)…(1)
式(1)において、M はハロゲン化金属塩であり、Mはカチオンとなる金属原子、Xは対アニオンとなるハロゲン原子であり、Mはシアン化遷移金属化合物に含まれる遷移金属であって活性点となる金属原子であり、Ligandは有機配位子である。a、b、c、d、e、f、g、hは整数であり、a、b、c及びe、fは電気的に中性となる数である。
【0020】
前記M1としては、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Al(III)、Sr(II)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、Pb(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、W(IV)およびW(VI)等が例示できる。
前記Mとしては、Co(III)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、V(IV)、およびV(V)が例示できる。
前記Xとしては、Cl、Br、Iが例示できる。
であるハロゲン化金属塩は、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛から選ばれる1種以上が好ましい。後述するMとXとの原子間距離の点で塩化亜鉛及び臭化亜鉛から選ばれる1種以上を含むことがより好ましい。
Ligand(有機配位子)としては、アルコール、エーテル、エステル、アルデヒド、ケトン、アミド、ニトリルおよびスルフィド、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ポリオキシアルキレンポリ(あるいはモノ)オールが例示できる。有機配位子は1種でもよく、2種以上でもよい。アルコールとしてはtert-ブチルアルコールが例示できる。ポリオキシアルキレンポリ(あるいはモノ)オールとしては、ポリプロピレンジオールが例示できる。有機配位子としては、tert-ブチルアルコールが好ましい。
【0021】
DMC触媒(A)の好ましい例は、有機配位子(Ligand)、水、塩化亜鉛又は臭化亜鉛を含む亜鉛ヘキサシアノコバルテート(Zn[Co(CN))である。その化学式は、Zn[Co(CN)・d(ZnCl)・g(Ligand)・h(HO)又は、Zn[Co(CN)・d(ZnBr)・g(Ligand)・h(HO)と考えられる。
【0022】
DMC触媒(A)は、カールフィッシャー法で測定される水分量が8,000~140,000ppmであり、かつX線回折パターンにおいて、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークを有し、2θ=34°に回折ピークを有さない。
このような水分量と結晶構造を有するDMC触媒(A)は、良好な触媒活性と高分子量不純物の抑制を両立できる。さらに水分が多い環境で保存されても触媒活性が低下し難いという耐水性に優れる。
前記水分量は多すぎても、少なすぎても触媒活性が低下しやすい。多すぎる場合は、結晶水以外の水(結晶に内包されていない水)による活性点の加水分解が生じやすいと考えられる。少なすぎる場合は、結晶水が低減することにより結晶構造が変化し、良好な触媒活性と高分子量不純物の抑制の両立に寄与する構造が失われやすいと考えられる。
前記水分量は9,000~120,000ppmが好ましく、10,000~100,000ppmがより好ましい。
【0023】
DMC触媒(A)は、X線回折パターンにおいて、2θ=14°及び2θ=16°に回折ピークを有し、2θ=14°のピーク強度(P14)に対する、2θ=16°のピーク強度(P16)の比を表すP16/P14が3より小さいことが良好な触媒活性が得られるという観点から好ましい。
P16/P14は、DMC触媒の結晶に内包される水分子の数によって変動すると考えられ、内包される水分子の数が減少するとP16/P14の値が大きくなる傾向がある。
【0024】
DMC触媒(A)は、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)法で測定されるスペクトルの、EXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure、広域X線吸収微細構造)解析で得られる、活性点となる遷移金属原子(M)と、金属塩由来のハロゲン原子(X)との原子間距離が、2.20~2.40オングストローム(Å)であることが好ましい。
前記原子間距離が2.20~2.40Åとなるハロゲン原子(X)を用いると、良好な触媒活性が得られやすい。
DMC触媒における、EXAFS解析による原子間距離は文献(「X-RAY SPECTROMETRY」、2015、volume44、Issue5、p.330-338、タイトル「Structual properties and chemical bonds in double metal cyanide catalysts」)にも記載されている。
【0025】
<複合金属シアン化物錯体スラリー触媒>
本実施形態のスラリー触媒は、DMC触媒(A)と分散媒を含む。
スラリー触媒の総質量に対するDMC触媒(A)の含有量は、例えば0.001~60質量%が好ましく、0.003~50質量%がより好ましく、0.006~30質量%がさらに好ましい。
スラリー触媒は、DMC触媒(A)を分散媒に分散させてなるスラリー、すなわちDMC触媒(A)と分散媒とを含み、それ以外には製造上不可避の不純物と水分を含み得るスラリーが好ましい。
【0026】
スラリー触媒の分散媒は実質的に水を含まないことが好ましい。具体的に分散媒の水分量は500ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、検出できない量であってもよい。
分散媒の水分量は、DMC触媒(A)の水分量と同様に、カールフィッシャー測定法により測定される水の含有量(単位:質量ppm)である。
【0027】
スラリー触媒の分散媒としては、スラリー触媒において公知の有機溶媒を使用できる。例えば、特許第3194255号公報に記載されている難揮発性のヒドロキシ化合物を用いることができる。前記ヒドロキシ化合物は、水酸基数1~8かつ分子量100~8000の水酸基含有化合物であり、ポエーテルポリオール等のアルコール性水酸基を有する化合物が好ましい。
DMC触媒(A)を、エポキシドを開環重合してポリエーテルポリオールを製造する際の触媒として用いる場合、生成物(ポリエーテルポリオール)にとって不純物にならないという点で、スラリー触媒の分散媒はポリエーテルポリオールが好ましい。
また、エポキシドを開環重合する際の開始剤(ポリエーテルポリオール)を、分散媒の一部として用いてもよい。
分散媒として用いるポリエーテルポリオールの数平均分子量は100~8000が好ましく、600~3000がより好ましい。ポリエーテルポリオールの数平均分子量が上記範囲の下限値以上であると触媒毒とならず、上限値以下であるとスラリー触媒のハンドリング性に優れる。
開始剤であるポリエーテルポリオールの水酸基価は、例えば3~842mgKOH/gが好ましく、7~561mgKOH/gがより好ましい。
【0028】
特に、分散媒が前記生成物(ポリエーテルポリオール)である場合、スラリー触媒の総質量に対するDMC触媒(A)の含有量は、1~60質量%が好ましく、3~40質量%がより好ましく、5~30質量%がさらに好ましい。
特に、分散媒が前記開始剤(ポリエーテルポリオール)を含む場合、スラリー触媒の総質量に対するDMC触媒(A)の含有量は、0.003~0.02質量%が好ましく、0.004~0.015質量%がより好ましく、0.006~0.01質量%がさらに好ましい。
【0029】
<複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法>
本実施形態の複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法では、ハロゲン化金属塩とシアン化遷移金属化合物とを反応させて得られる反応生成物に、有機配位子を配位させて、複合金属シアン化物錯体触媒を合成し、その後に、特定の水分量及び特定のX線回折パターンを満たす複合金属シアン化物錯体触媒となるように、複合金属シアン化物錯体触媒の水分量を調整する。
複合金属シアン化物錯体触媒を合成する方法は特に限定されず、公知の方法を使用できる。
【0030】
好ましくは、まず、水の存在下で、ハロゲン化金属塩とシアン化遷移金属化合物とを反応させて得られる反応生成物に、水の存在下で有機配位子を配位させて、DMC触媒(A)と水を含む混合液を得る。得られた混合液から不純物及び水を除去し、得られた固体の水分量を所定の範囲まで低下させ、DMC触媒(A)を得る。
後述の実施例に示されるように、水分量が140,000ppmを超えるDMC触媒には2θ=34°に回折ピークが見られ、良好な触媒活性と高分子量不純物の抑制を両立できない。また、一旦、水分量を8,000~140,000ppmの範囲まで低下させたDMC触媒であっても、有機配位子を含まない水と接触したものは、2θ=34°に回折ピークが現れ、触媒活性が大きく低下するか、又は触媒活性を示さなくなる。また、水分量を低下させすぎると2θ=47°のピークが無くなり、触媒活性を示さなくなる。
したがって、前記混合液中の水を除去する工程では、有機配位子を含まない水との接触を避けながら、DMC触媒の水分量を所定の範囲まで漸次低下させることで、所定の結晶構造を有し、良好な触媒活性と高分子量不純物の抑制を両立できるDMC触媒(A)を製造できる。
【0031】
前記混合液を得る方法、及び前記混合液中の不純物及び水を除去する方法は、公知の方法の中から、DMC触媒が有機配位子を含まない水と接触しない方法を選択して使用できる。
前記混合液中の水を除去する方法は、例えば、固体状のDMC触媒を得るための乾燥法を用いることができる。
ただし、従来の乾燥法では、DMC触媒中の水分量が8,000~140,000ppmの範囲内に制御できないため、DMC触媒が最適な構造を維持できる水分量に制御するための水分量調整工程を設ける。水分量調整工程ではDMC触媒が、DMC触媒外の水分と接触しないように厳密に管理することが好ましい。水分量調整工程はその直前の工程と連続して行ってもよい。
固体状のDMC触媒を製造する場合の水分量調整工程は、例えば、160℃以下、好ましくは140℃以下の温度で加熱乾燥する。乾燥後の固体中の水分量が8,000~140,000ppmの範囲内となるように加熱時間を決定する。必要に応じて、加熱乾燥工程における固体中の水分量の経時変化を監視して、加熱時間を決定する。
加熱乾燥は大気雰囲気中で行ってもよい。必要に応じて、加熱乾燥後に乾燥気体(乾燥窒素等)中で常温に戻す工程を設けてもよい。
【0032】
本実施形態の複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法の好ましい態様として、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、ハロゲン化金属塩の水溶液と、シアン化遷移金属化合物の水溶液とを反応させて反応生成物を生成する。これに有機配位子の水溶液を加え撹拌して有機配位子を配位させて、複合金属シアン化物錯体触媒と水を含む混合液を得る。得られた混合液を固液分離して固体を得る。得られた固体を、有機配位子を含む水溶液で洗浄し、固液分離する操作を1回以上、好ましくは2回以上行う。
得られた固体を水分量が上記特定の範囲内となるように乾燥させ、必要に応じて粉砕しする。
【0033】
<複合金属シアン化物錯体スラリー触媒の製造方法>
本実施形態のスラリー触媒の製造方法は、複合金属シアン化物錯体触媒と分散媒を含むスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリー触媒中の複合金属シアン化物錯体触媒の水分量が特定範囲となり、分散媒の水分量が特定範囲となり、かつ複合金属シアン化物錯体触媒が特定のX線回折パターンを満たすように、スラリーの水分量を調整する水分調整工程を有する。スラリー触媒中の複合金属シアン化物錯体触媒の水分量の好ましい範囲、分散媒の水分量の好ましい範囲は、上述に記載の範囲と同じである。また、複合金属シアン化物錯体触媒のX線回折パターンの好ましい範囲も、上述に記載の範囲と同じである。
【0034】
スラリー調製工程は特に限定されず、公知の方法を使用できる。
好ましくは、まず、水の存在下で、ハロゲン化金属塩とシアン化遷移金属化合物とを反応させて得られる反応生成物に、水の存在下で有機配位子を配位させて、DMC触媒と水を含む混合液を得る。得られた混合液から不純物及び水を除去し、分散媒を加えて、DMC触媒と分散媒を含むスラリーを調製する方法を用いることができる。
前記混合液を得る方法、及び前記混合液中の不純物及び水を除去する方法は、公知の方法の中から、DMC触媒が有機配位子を含まない水と接触しない方法を選択して使用できる。
前記混合液中の水を除去する方法は、有機配位子を含まない水との接触を避けながら、スラリーの水分量を所定の範囲まで漸次低下させる方法が好ましい。例えば、前記混合液中の水を分散媒に置換してスラリー触媒を得るための溶媒置換法でもよい。
ただし、従来の溶媒置換法では、DMC触媒中の水分量が8,000~140,000ppmの範囲内に制御できないため、DMC触媒が最適な構造を維持できる水分量に制御するための水分量調整工程を設ける。水分量調整工程ではスラリーがスラリー以外の水分と接触しないように厳密に管理することが好ましい。水分量調整工程はその直前の工程と連続して行ってもよい。
【0035】
スラリー触媒を製造する場合の水分量調整工程は、例えば、0~160℃、1~24時間の条件で、スラリー触媒中のDMC触媒の水分量が8,000~140,000ppmとなるまで減圧乾燥した後、DMC触媒と反応しない乾燥気体(乾燥窒素等)を導入して常圧に戻す工程が好ましい。減圧乾燥条件は25~140℃で2~10時間がより好ましい。乾燥温度が上記範囲の上限値を超えるとDMC触媒の結晶構造を維持できない可能性がある。
また、水分量調整工程後のスラリー触媒中の分散媒の水分量が500ppm以下となるように、予め脱水した分散媒を用いることが好ましい。
【0036】
本実施形態の複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法の好ましい態様として、例えば以下の態様が挙げられる。
まず、ハロゲン化金属塩の水溶液と、シアン化遷移金属化合物の水溶液とを反応させて反応生成物を生成する。これに有機配位子の水溶液を加え撹拌して有機配位子を配位させて、複合金属シアン化物錯体触媒と水を含む混合液を得る。得られた混合液を固液分離して固体を得る。得られた固体を、有機配位子を含む水溶液で洗浄し、固液分離する操作を1回以上、好ましくは2回以上行う。得られた固体に分散媒を加えて混合した後、配位していない有機配位子及び水を揮発させて除去する。
このようにして、分散媒中にDMC触媒が分散したスラリーが得られる。得られたスラリーに対して前記水分量調整工程を行って、目的のDMC触媒を含むスラリー触媒を製造する。
【0037】
<重合体の製造方法>
本実施形態のDMC触媒は、エポキシドを重合してポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等の重合体を製造する際の触媒として好適である。
DMC触媒を用いた重合体の製造方法は公知の方法を適用できる。
エポキシドとしては、プロピレンオキシド(PO)、プロピレンオキシド(PO)とエチレンオキシド(EO)との組み合わせ等が例示できる。
ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等のポリオールは、例えば、各種のポリウレタン塗料、エラストマー、シーラント、フォーム、および接着剤の原料として用いられる。
【0038】
本実施形態によれば、良好な触媒活性と高分子量不純物の抑制を両立できるDMC触媒が得られる。
例えば、実施例の触媒活性寿命評価に記載の方法で測定される触媒活性寿命[kg-PO/g-cat]が140kg/g以上となる触媒活性を有するとともに、実施例の[超高分子量成分の含有率の測定方法]で求められる超高分子量成分の含有率が1,000ppm以下であるDMC触媒が得られる。
前記超高分子量成分の含有率は、950ppm以下がより好ましく、900ppm以下がさらに好ましい。超高分子量成分の含有率を低減することにより、DMC触媒を用いて製造したポリオール、及び該ポリオールを用いて製造した物品の物性(例えば安定性、強度等)を向上できる。
【0039】
また、従来のDMC触媒は耐水性が乏しく、水分が多い雰囲気中で保存すると触媒活性が低下しやすいが、本実施形態によれば、耐水性に優れるDMC触媒が得られる。
例えば、実施例の耐水性評価に記載の方法で測定される触媒活性寿命の低下率が25%未満であるDMC触媒が得られる。
【0040】
<DMC触媒の評価方法>
DMC触媒の水分量とX線回折パターンを測定し、水分量が8,000~140,000であり、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークを有し、2θ=34°に回折ピークを有さない場合は、触媒活性が良好であり、エポキシドの重合触媒として用いたときに高分子量不純物の生成が少ないDMC触媒であると評価できる。
また、DMC触媒の水分量とX線回折パターンを測定し、水分量が8,000~140,000であり、2θ=36°及び2θ=47°に回折ピークを有し、2θ=34°に回折ピークを有さない場合は、耐水性が良好なDMC触媒であると評価できる。
【実施例0041】
以下、例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は下記例により限定されるものではない。
【0042】
<評価方法>
[X線回折測定]
X線回折(XRD:X-ray diffraction)測定は、X線回折装置(株式会社リガク社製、装置名:SmartLab)を用いて測定した。
X線はCuKα線(λ=1.54180Å)、管電圧、管電流はそれぞれ45kVおよび200mAとし、集中光学系ヨハンソン式モノクロメータにて単色化した光源を用いた。
検出器は高速検出器(株式会社リガク社製、装置名:D/teX)を用い、測定角度範囲2θ=10~80°とし、ステップ幅(Δ2θ)=0.010°のステップスキャンとした。
得られたX線回折パターンについて、2θ=34°、36°、及び47°における回折ピークの有無を記録した。
また、2θ=14°のピーク強度(P14)に対する、2θ=16°のピーク強度(P16)の比(P16/P14)を求めた。P16/P14が3より小さい場合は「〇」、3以上の場合は「×」と判定した。
【0043】
[水分量測定]
三菱アナリティック社製のカールフィッシャー水分測定装置CA-07を用い、電量滴定法にて水分量を測定した。
スラリー中の水分量は、測定対象のスラリーを試料として測定した。
固体(粉末)中の水分量は、測定対象の粉末を試料として測定した。
分散媒の水分量は、スラリー触媒の製造過程において、分散媒を添加した後の水分を増減する操作と同じ条件で、分散媒のみの水分を増減させたものを試料として測定した。
DMC触媒(固形分)中の水分量(単位:ppm)は、下記式(i)、(ii)により求めた。
DMC触媒中の水分量=(Sw-Pw×B/100)/(A/100)…(i)
B=100-A…(ii)
Sw:スラリー中の水分量(単位:ppm)
Pw:分散媒の水分量(単位:ppm)
A:スラリーの固形分含有量(単位:質量%)
B:スラリー中の分散媒の割合(単位:質量%)
【0044】
[XAFS測定]
XAFS法で測定されるスペクトルのフーリエ変換で得られたEXAFSスペクトルについて、位相のずれを補正し、活性点である遷移金属原子(M)と金属塩由来のハロゲン原子(X)との原子間距離(配位距離)を算出した。
前記原子間距離が2.20~2.40Åの範囲内であるときは「〇」、範囲外であるときは「×」と判定した。
【0045】
[触媒活性寿命評価]
200mLオートクレーブに、開始剤としてMnが1,500、水酸基価が168mgKOH/gのポリオキシプロピレントリオールの25gと、各例で得られたDMC触媒(スラリー状又は固体状)を仕込み、120℃の温度条件でPOを逐次添加した。
DMC触媒の仕込み量は、開始剤1000gに対するDMC触媒の金属の濃度が、表に記載の触媒濃度(単位:ppm)となるように設定した。
PO投入後の圧力低下が見られなかった時点で触媒が失活したと判断した。失活までのPO(基質)の投入量とDMC触媒の仕込み量に基づいて、「触媒が基質に対して、質量比でどれだけ機能するか」を評価するために、触媒活性寿命[kg-PO/g-cat](触媒1gに対する、重合されたポリプロピレンオキシドの質量(kg)の比)の値(単位:kg/g)を算出した。PO投入後の圧力低下が一度も見られなかった場合は「活性無し」と判定した。
【0046】
[耐水性評価]
各例で得られたDMC触媒(スラリー状又は固体状)を、温度40℃、相対湿度80%の高湿度雰囲気中に、1日保存した。保存開始前と、保存終了直後に、上記の方法で触媒活性寿命[kg-PO/g-cat]を測定した。
保存開始前の触媒活性寿命(A1)に対する、保存終了直後の触媒活性寿命(A2)の低下率(単位:%)を下記式により算出した。得られた低下率に基づいて、下記の基準で耐水性を判定した。
触媒活性寿命の低下率=(A1-A2)/A1×100
(判定基準)
○:低下率が25%未満。
×:低下率が25%以上。
【0047】
[数平均分子量(Mn)測定]
ポリエーテルポリオールの分子量は、GPCシステム(東ソー株式会社製品名 HLC-8320)を用い、RI検出器を用いて分析した。
カラムはTSK-GEL Super HZ4000(4.6mm×150mm)の2本及びSuper HZ2500(4.6mm×150mm)の2本をこの順番で直列に接続して用いた。テトラヒドロフラン(THF)を流速0.35ml/分で溶離液とし、カラム温度を40℃として、ポリスチレン標準サンプル(Agilent Technologies社製品名 Easical PS-2、分子量範囲580~400,000)を用いて作成された検量線により換算して、数平均分子量Mnを求めた。
【0048】
[超高分子量成分の含有率の測定方法(CAD-HPLC法)]
各例で得られたDMC触媒を用い、下記製造例1の方法でポリエーテルポリオールを合成した。
測定対象のポリエーテルポリオールの数平均分子量をWとするとき、その12倍の分子量(12W)から46倍の分子量(46W)までの成分を超高分子量成分とした。
ポリエーテルポリオールの総質量に対する超高分子量成分の含有率を、特開2019-137810号公報に記載の測定方法で求めた。
【0049】
具体的に下記の条件で超高分子量成分の含有率を測定した。
装置及び検出器:高速液体クロマトグラフィー装置(ThemoFisher SCIENTIFIC社製品名 U3000HPLCsystem デガッサ:SRD-3600、ポンプ:DGP3600SD、オートサンプラー:WPS-3000TSL、カラムコンパートメント:TCC-3000SD、UV-Vis検出器:VWD-3400RS、荷電化粒子検出器:Corona Veo)
溶離液:HPLC用THF
溶離液の流量:0.2mL/分
試料の注入量:20μL
カラム:下記の上流側のカラム1本と下記の下流側のカラム1本をこの順番で直列に接続した。各カラムの排除限界分子量は、溶離液にHPLC用THFを用いてポリスチレンの分子量を測定した場合の排除限界分子量である。
上流側のカラム:昭和電工社製品名 Shodex KF-404HQ(充填剤が平均粒径3μmのスチレンジビニルベンゼン共重合体、内径が4.6mm、長さが250mm、理論段数が25,000以上TP/本、排除限界分子量が1,000,000である、有機溶媒系液体クロマトグラフィー用カラム)
下流側のカラム:昭和電工社製品名 Shodex KF-403HQ(充填剤が平均粒径3μmのスチレンジビニルベンゼン共重合体、内径が4.6mm、長さが250mm、理論段数が25,000以上TP/本、排除限界分子量が70,000である、有機溶媒系液体クロマトグラフィー用カラム)
(1)被試験体であるポリエーテルポリオールを、濃度が0.6質量%となるようにHPLC用THFに溶解した後、孔径0.45μmのシリンジフィルターを通してろ過して試料を調製し、上記HPLC条件で分析して、リテンションタイムをX軸、信号強度をY軸とするクロマトグラムを得た。
(2)ポリスチレン標準サンプル(Agilent Technologies社製品名Easical PS-2、分子量範囲580~400,000)を用いて、分子量とリテンションタイムとの関係を示す較正曲線を作成した。
(3)(2)で作成した較正曲線を用い、上記12Wに相当するリテンションタイムX1と、上記46Wに相当するリテンションタイムX2を求めた。
(4)上記クロマトグラムと、ベースラインと、X=X1の直線と、X=X2の直線とで囲まれた部分の面積、電子的に積算して求めた。
(5)分子量92,600のポリスチレン標準サンプル(ガスクロ工業社製品名 PSS-05 No.500-16)を1、6、20及び60質量ppmとなるようにHPLC用THFに溶解した標準液を試料として、上記HPLC条件で分析しクロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムとベースラインとで囲まれた部分の面積をエリア面積とする。各濃度におけるエリア面積を算出して、分子量92,600のポリスチレンの濃度とエリア面積との関係を示す、切片がゼロの検量線を作成した。
(6)(5)で作成した検量線を用い、(4)で求めた面積を、分子量92,600のポリスチレンの濃度に換算して、(1)で調製した試料における超高分子量成分の濃度とした。
(7)(6)で得た超高分子量成分の濃度の値から、(1)で調製した試料中の超高分子量成分の質量を算出し、さらに試料の調製に使用した被試験体(ポリエーテルポリオール)の質量に対する超高分子量成分の含有率を算出した。
【0050】
[製造例1:ポリエーテルポリオールの製造]
KOH触媒を用いてグリセリンにPOを開環付加重合し、さらにキョーワード600S(協和化学工業社製品名、合成吸着剤)を用いて精製し、Mnが1,500、水酸基価が112mgKOH/gのポリオキシプロピレントリオール(開始剤1)を製造した。
反応容器内に、開始剤1の1,000gと、各例で得られたDMC触媒を添加して反応液とした。
DMC触媒の仕込み量は、開始剤1000gに対するDMC触媒の金属の濃度が、表に記載の触媒濃度(単位:ppm)となるように設定した。
次いで、反応容器内を窒素置換した後、上記反応液を撹拌しながら加熱し、135℃に達したら加熱を止め、撹拌を続けながら、POの120gを反応容器内に供給して反応させた。
POを反応容器内に供給すると、反応容器の内圧が一旦上昇し、その後漸次低下して、POを供給する直前の反応容器の内圧と同じになったことを確認した。この間、内圧の低下が始まると、それに続いて反応液の温度が一旦上昇し、その後漸次低下した。反応液の温度上昇が止まった後に135℃に冷却した。
次いで、反応液を撹拌しながら、135℃に保ち、POの4,728gを反応容器内に供給した。内圧の変化がなくなり、反応終了したことを確認した。こうしてポリエーテルポリオールを得た。
【0051】
<例1~11>
スラリー触媒を製造した。例2~4及び例8は実施例、例1、例5~7、及び例9~11は比較例である。
【0052】
[例1]
予め、アルキレンオキシド開環重合体を製造した。
すなわち、KOH触媒の存在下に、プロピレングリコールにPOを開環付加重合させ、脱アルカリ精製して、一分子当たりの平均水酸基数が2、Mnが2,000のポリオキシプロピレンジオール(以下、「ポリオールP1」という。)を調製した。
【0053】
本例では、tert-ブチルアルコール(以下、「TBA」ともいう。)が配位した亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体(以下、「TBA-DMC触媒」ともいう。)を下記の方法で製造した。
まず、500mLのフラスコに、塩化亜鉛の10.2gと水の10gとからなる塩化亜鉛水溶液を入れた。塩化亜鉛水溶液を毎分300回転で撹拌しながら、カリウムヘキサシアノコバルテートの4.2gと水の75gとからなるカリウムヘキサシアノコバルテート水溶液を、30分間かけて塩化亜鉛水溶液に滴下した。この間、フラスコ内の液を40℃に保った。カリウムヘキサシアノコバルテート水溶液の滴下が終了した後、フラスコ内の液をさらに30分撹拌した後、TBAの80g、水の80g、及びポリオールP1の0.6gからなる混合物を添加し、40℃で30分間撹拌し、さらに60℃で60分間撹拌して、TBA-DMC触媒と水を含む混合液を得た。この混合液には反応で生じた塩(KCl)が含まれる。
【0054】
得られた混合液を、直径125mmの円形ろ板と微粒子用の定量ろ紙(ADVANTEC社製品名、No.5C)とを用いて加圧下(0.25MPa)でろ過し、TBA-DMC触媒を含む固体(以下、「ろ過ケーキ」という。)を分離した。
次いで、TBAと水の混合液でろ過ケーキを洗浄して塩(KCl)を除去した。具体的には、ろ過ケーキをフラスコに移し、TBAの36gと水の84gとからなる混合液を添加して30分撹拌した後、上記と同じ条件で加圧下でろ過した。得られたろ過ケーキをフラスコに移し、さらにTBAの108gと水の12gとからなる混合液を添加して30分間撹拌し、TBA-DMC触媒がTBAと水の混合液中に分散した分散液(1)を得た。
【0055】
得られた分散液(1)の分散媒をポリオールP1に置換してスラリー触媒(1)を製造した。
具体的には、分散液(1)を上記と同じ条件で加圧下でろ過した。得られたろ過ケーキに、固形分含有量が5質量%となるようにポリオールP1を添加した後、減圧下、80℃で3時間の条件で揮発性成分を留去し、TBA-DMC触媒がポリオールP1に分散したスラリー触媒(触媒1)を得た。なお、スラリーに含まれるポリオールP1の一部は、TBA-DMC触媒に配位していると考えられる。
上記の方法でスラリー触媒(触媒1)中の水分量を測定した。また、分散媒として添加したポリオールP1と同量のポリオールP1を用意し、これを減圧下、80℃で3時間の条件で揮発性成分を留去したものを試料として水分量を測定し、分散媒の水分量とした。上記の方法でDMC触媒中の水分量を求めた。結果を表1に示す(以下、特に断りのない場合は同様である)。
得られたスラリー触媒から、ヘキサンを用いて、配位していないポリオールP1を除去し、得られた固体試料について、上記の方法でXRD及びXAFS測定をした。測定結果を表1に示す(以下、特に断りのない場合は同様である)。
【0056】
得られたスラリー触媒について、上記の方法で触媒活性寿命及び耐水性を評価した。
また、得られたスラリー触媒を用い、上記製造例1の方法でポリエーテルポリオールを製造し、超高分子量成分の含有率を測定した。
これらの結果を表3に示す(以下、特に断りのない場合は同様である)。
【0057】
[例2]
本例では、水分量調整工程を設けて、例1より水分量を低く調整した。
すなわち、例1と同様にしてスラリー触媒(触媒1)を調製し、さらに水分量調整工程として、減圧下にて115℃、6時間の条件で乾燥させて揮発性成分を留去した後、乾燥窒素を導入して常圧に戻し、スラリー触媒(触媒2)を得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
【0058】
[例3]
本例では、水分量調整工程を設けて、例1より水分量を低く調整した。
具体的には、例2の水分量調整工程における乾燥時間を6時間から4時間に変更した。それ以外は例2と同様にしてスラリー触媒(触媒3)を得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
【0059】
[例4]
本例では、例2と同様にして製造したスラリー触媒(触媒2)に、さらに分散媒を加えて目的のスラリー触媒を製造した。
すなわち、例2と同様にして製造したスラリー触媒(触媒2)に、製造例1における開始剤1であるポリオキシプロピレントリオールを、固形分含有量が0.0292質量%となるように加えた後、さらに水分量調整工程として、減圧下にて130℃、3時間の条件で乾燥させて揮発性成分を留去した後、乾燥窒素を導入して常圧に戻し、スラリー触媒(触媒4)を得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
【0060】
[例5]
本例では、例2よりも、さらに水分量を低く調整した。
すなわち、例1と同様にして、TBA-DMC触媒がTBAと水の混合液中に分散した分散液(1)を調製し、これをろ過した。例1では、得られたろ過ケーキにポリオールP1を添加したが、本例ではポリオールP1を添加する前に、ろ過ケーキを凍結乾燥した。得られた凍結乾燥品を固形分含有量が5質量%となるようにポリオールP1に分散させてスラリー触媒(触媒5)を得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
なお、触媒活性寿命の測定において触媒活性を示さなかったため、耐水性、及び超高分子量成分の含有率については評価しなかった。
【0061】
[例6]
本例では、例2のスラリー触媒(触媒2)の水分量を高めてスラリー触媒(触媒6)を製造した。
すなわち、例2で得たスラリー触媒(触媒2)を、雰囲気温度40℃、相対湿度80%の高湿度雰囲気中に7日間放置してスラリー触媒(触媒6)を得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
【0062】
[例7]
本例では、例2のスラリー触媒(触媒2)に水を接触させた後に、水分量を例2と同程度に低減した。
すなわち、例2で得たスラリー触媒(触媒2)を、蒸留水500gに添加し、1時間攪拌した後、減圧下、80℃で水分を留去して、スラリー触媒(触媒7)得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
触媒活性寿命の測定において触媒活性を示さなかったため、耐水性、及び超高分子量成分の含有率については評価しなかった。
【0063】
[例8]
例2において、塩化亜鉛の10.2gを臭化亜鉛の16.9gに変更した以外は同様にして、スラリー触媒(触媒8)を得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
【0064】
[例9]
例2において、塩化亜鉛の10.2gをヨウ化亜鉛の23.9gに変更した以外は同様にして、スラリー触媒(触媒9)を得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
【0065】
[例10]
例2において、塩化亜鉛の10.2gをフッ化亜鉛の7.7gに変更した。フッ化亜鉛の水への溶解性が小さいため、固相合成にてDMC触媒の合成を試みたが、得られた生成物はエポキシド重合における触媒活性を示さなかった。
【0066】
[例11]
例2において、塩化亜鉛の10.2gを硝酸亜鉛の14.2gに変更した以外は同様にして、スラリー触媒(触媒11)を得た。
得られたスラリー触媒について、例1と同様にして測定した。
【0067】
<例12~15>
粉末状のDMC触媒を製造した。例13、14は実施例、例12、15は比較例である。
[例12]
例1と同様にして調製した分散液(1)を、直径125mmの円形ろ板と微粒子用の定量ろ紙(ADVANTEC社製品名、No.5C)とを用いて加圧下(0.25MPa)でろ過し、ろ過ケーキを分離した。得られたろ過ケーキに、ポリオールP1を添加せず、減圧下にて60℃で2時間乾燥し、粉末状のDMC触媒(触媒12)を得た。
得られた粉末状の触媒について、例1と同様にして測定した。結果を表2、3に示す(以下、特に断りのない場合は同様である)。
【0068】
[例13]
例12と同様にしてろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキに、ポリオールP1を添加せず、100℃、7時間の条件で大気乾燥し、粉末状のDMC触媒(触媒13)を得た。粉末状のDMC触媒(触媒13)における水分量は8,000~140,000ppmの範囲内であった。
得られた粉末状の触媒について、例1と同様にして測定した。
【0069】
[例14]
例12と同様にしてろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキに、ポリオールP1を添加せず、100℃、5時間の条件で大気乾燥し、粉末状のDMC触媒(触媒14)を得た。粉末状のDMC触媒(触媒14)における水分量は8,000~140,000ppmの範囲内であった。
得られた粉末状の触媒について、例1と同様にして測定した。
【0070】
[例15]
例12と同様にしてろ過ケーキを得た。得られたろ過ケーキに、ポリオールP1を添加せず、凍結乾燥処理し、粉末状のDMC触媒(触媒15)を得た。
得られた粉末状の触媒について、例1と同様にして測定した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
表1~3の結果に示されるように、例1及び例12のDMC触媒は、エポキシド重合における触媒活性は高いが、超高分子量成分が多く生成した。
これに対して、水分量調整工程を設けて、DMC触媒の分量が8,000~140,000ppmであり、2θ=36°、47°に回折ピークを有し、2θ=34°に回折ピークを有さないように調整した例2~4、例8、例13~14のDMC触媒は、触媒活性が高く、超高分子量成分の含有率を低減できた。また、水分が多い環境で保存されても触媒活性が低下し難いという耐水性に優れていた。