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特開2024-173755樹脂組成物ペレット、多層構造体、及び樹脂組成物ペレットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173755
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物ペレット、多層構造体、及び樹脂組成物ペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20241205BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241205BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241205BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20241205BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20241205BHJP
   B29B 9/12 20060101ALI20241205BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08L101/00
C08L23/26
C08L53/02
C08K5/098
B29B9/12
B32B27/28 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084836
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023088724
(32)【優先日】2023-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】大浦 滉平
【テーマコード(参考)】
4F100
4F201
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AA02A
4F100AB18A
4F100AK63B
4F100AK63C
4F100AK63D
4F100AK63E
4F100AK69A
4F100AL07D
4F100AL07E
4F100BA05
4F100BA06
4F100GB15
4F100GB23
4F100GB66
4F100JA06B
4F100JA06C
4F100JA06D
4F100JA06E
4F100JA13B
4F100JA13C
4F100JA13D
4F100JA13E
4F100JB16A
4F100JN01
4F100JN06
4F100YY00A
4F201AA19
4F201BA02
4F201BC01
4F201BC02
4F201BC37
4F201BD05
4F201BK02
4F201BK13
4F201BL08
4F201BL43
4J002BB06Y
4J002BB21X
4J002BB22W
4J002BE03W
4J002BP01X
4J002EG046
4J002GB00
4J002GF00
4J002GG00
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】多層構造体等のフィルムを製造した際の写像性に優れた、エチレン-ビニルアルコール共重合体、極性基を含有する熱可塑性樹脂、及び脂肪族カルボン酸金属塩を含む樹脂組成物ペレットを提供する。
【解決手段】エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)、及び脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有する樹脂組成物ペレットであって、
前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選択される少なくとも1種であり、
前記樹脂組成物ペレットに含有される脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での全含有量に対する、樹脂組成物ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量の比が0.55以上である、樹脂組成物ペレット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)、及び脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有する樹脂組成物ペレットであって、
前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選択される少なくとも1種であり、
前記樹脂組成物ペレットに含有される脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での全含有量に対する、樹脂組成物ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量の比が0.55以上である、樹脂組成物ペレット。
【請求項2】
樹脂組成物ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量が5ppm以上である、請求項1記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項3】
前記極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)に対する、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の質量比〔(A)/(B)〕が70/30~99/1である、請求項1又は2記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項4】
前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が亜鉛である、請求項1又は2記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項5】
前記樹脂組成物ペレットが、更に極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)を含む、請求項1又は2記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項6】
前記極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)に対する、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の質量比〔(A)/(D)〕が70/30~99/1である、請求項5記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項7】
前記極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)と極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)の合計に対する、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の質量比〔(A)/(B)+(D)〕が50/50~99/1である、請求項5記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項8】
前記極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)に対する、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の質量比〔(B)/(D)〕が0.01~10である、請求項5記載の樹脂組成物ペレット。
【請求項9】
請求項1又は2記載の樹脂組成物ペレットから形成された層を有する多層構造体。
【請求項10】
請求項1又は2記載の樹脂組成物ペレットの製造方法であって、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、及び極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物ペレットに、脂肪族カルボン酸金属塩(C)を配合する工程を含む、樹脂組成物ペレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物ペレットに関し、更に詳しくは、写像性に優れる樹脂組成物ペレットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」と称する)は、高分子側鎖に存在する水酸基同士の水素結合のため、非常に強い分子間力を有する。それゆえに、結晶性が高く、また、非晶部分においても分子間力が高いため、EVOHを用いたフィルムは、気体分子等が通過しにくく、優れたガスバリア性を示す。
また、EVOHに他の熱可塑性樹脂を配合することにより、ガスバリア性以外の機能を付与することも行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ロングラン成形性と、ロングラン成形後の成形物の耐屈曲疲労性に優れた樹脂組成物ペレットとして、EVOH、オレフィン-カルボン酸ビニルエステル共重合体及び/又はそのケン化物、及び脂肪酸金属塩を含有し、前記脂肪酸金属塩が該ペレットの内部および外部表面にそれぞれ存在する樹脂組成物ペレットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-060496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示されているようなEVOH、オレフィン-カルボン酸ビニルエステル共重合体及び/又はそのケン化物、及び脂肪酸金属塩を含有するペレットは、これを用いて多層構造体等のフィルムを製造した際の写像性が低く、更なる改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明ではこのような背景の下において、多層構造体等のフィルムを製造した際の写像性に優れた、EVOH、極性基を含有する熱可塑性樹脂、及び脂肪族カルボン酸金属塩を含む樹脂組成物ペレットの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
しかるに本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定の脂肪族カルボン酸金属塩を用い、これをペレットの表層部に多く含有させることにより、写像性に優れたペレットが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] EVOH(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)、及び脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有する樹脂組成物ペレットであって、
前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選択される少なくとも1種であり、
前記樹脂組成物ペレットに含有される脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での全含有量に対する、樹脂組成物ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量の比が0.55以上である、樹脂組成物ペレット。
[2] 樹脂組成物ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量が5ppm以上である、[1]に記載の樹脂組成物ペレット。
[3] 前記極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)に対する、EVOH(A)の質量比〔(A)/(B)〕が70/30~99/1である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物ペレット。
[4] 前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が亜鉛である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物ペレット。
[5] 前記樹脂組成物ペレットが、更に極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物ペレット。
[6] 前記極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)に対する、EVOH(A)の質量比〔(A)/(D)〕が70/30~99/1である、[5]に記載の樹脂組成物ペレット。
[7] 前記極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)と極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)の合計に対する、EVOH(A)の質量比〔(A)/(B)+(D)〕が50/50~99/1である、[5]又は[6]に記載の樹脂組成物ペレット。
[8] 前記極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)に対する、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の質量比〔(B)/(D)〕が0.01~10である、[5]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物ペレット。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物ペレットから形成された層を有する多層構造体。
[10] [1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物ペレットの製造方法であって、
EVOH(A)、及び極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂組成物ペレットに、脂肪族カルボン酸金属塩(C)を配合する工程を含む、樹脂組成物ペレットの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペレットは、このペレットから多層構造体等のフィルムを製造した際の写像性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態の例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
また、本発明において「フィルム」とは、「テープ」や「シート」をも含めた意味である。
【0011】
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」又は「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)又は「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」又は「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
更に、「X及び/又はY(X,Yは任意の構成)」とは、X及びYの少なくとも一方を意味するものであって、Xのみ、Yのみ、X及びY、の3通りを意味するものである。
本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを、「(メタ)アクリロイル」とはアクリロイル及び/又はメタクリロイルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及び/又はメタクリレートをそれぞれ意味するものである。
本明細書において段階的に記載されている数値範囲については、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値を、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えることもできる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物ペレット(以下、「本ペレット」という場合がある)は、EVOH(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)、及び脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有し、前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種が長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素から選択される少なくとも1種であり、前記樹脂組成物ペレットに含有される脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での全含有量に対する、樹脂組成物ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量の比が特定範囲である。
以下、本ペレットに含まれる各成分について説明する。
【0013】
<EVOH(A)>
本ペレットで用いるEVOH(A)は、通常、エチレンとビニルエステルモノマーとを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体又はエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物として知られる非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合等を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法で行ない得る。
【0014】
すなわち、本発明で用いるEVOH(A)は、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位とを主とし、ケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。なお、EVOHは、一般的に「エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物」とも称される。
【0015】
前記ビニルエステルモノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物の処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0016】
前記EVOH(A)におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定される値で、通常20~60mol%、好ましくは21~55mol%、より好ましくは22~50mol%、特に好ましくは23~45mol%である。かかる含有量が少なすぎると、高湿時のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に多すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。
【0017】
前記EVOH(A)におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて測定される値で、通常90~100mol%、好ましくは95~100mol%、特に好ましくは99~100mol%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0018】
また、前記EVOH(A)のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが高すぎると、製膜性が低下する傾向がある。また、MFRが低すぎると溶融押出が困難となる傾向がある。
【0019】
本ペレットに用いられるEVOH(A)には、エチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位(未ケン化のビニルエステル構造単位を含む)の他、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、更に含まれていてもよい。前記コモノマーとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のα-オレフィン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等のヒドロキシ基含有α-オレフィン誘導体;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート類;不飽和カルボン酸又はその塩、部分アルキルエステル、完全アルキルエステル、ニトリル、アミドもしくは無水物;不飽和スルホン酸又はその塩;ビニルシラン化合物;塩化ビニル;スチレン等が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0020】
更に、前記EVOH(A)としては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0021】
そして、前記のような変性されたEVOH(A)のなかでも、共重合によって一級水酸基が側鎖に導入されたEVOH(A)は、延伸処理や真空・圧空成形等の二次成形性が良好になる点で好ましく、とりわけ、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOH(A)が好ましい。
【0022】
また、本ペレットで使用されるEVOH(A)は、異なる他のEVOHとの混合物であってもよく、かかる他のEVOHとしては、エチレン構造単位の含有量が異なるもの、ケン化度が異なるもの、メルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)が異なるもの、他の共重合成分が異なるもの、変性量が異なるもの(例えば、側鎖に一級水酸基を含有する構造単位の含有量が異なるもの)等を挙げることができる。
【0023】
本ペレットに含まれるEVOH(A)の含有量は特に限定されないが、EVOH(A)が主成分(すなわち、本ペレットに含まれるEVOH(A)の含有量が50質量%以上)であることが好ましく、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上、殊に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0024】
〔極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)〕
本ペレットで用いる極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)としては特に限定されず、種々のものを使用することができるが、一般的には、不飽和カルボン酸又はその無水物をオレフィン系重合体や、スチレン系熱可塑性エラストマーに付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性オレフィン系重合体、カルボキシ基を含有する変性スチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)は単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0025】
前記オレフィン系重合体としては、例えば、ポリオレフィン、脂肪族系ゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、オレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0026】
前記ポリオレフィンとしては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0027】
前記脂肪族系ゴムとは、オレフィンモノマーとジエンモノマーのコポリマー、又はこれらの水素添加物で、ゴム状弾性を有するポリマーである。具体的には、例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン系ゴム(EPDM)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)等の合成ゴムが挙げられる。
【0028】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメントとしてポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ソフトセグメントとしてゴム(EPDM又はEPMなど)を使用した熱可塑性を示すエラストマー樹脂であり、例えば、ポリオレフィンと脂肪族系ゴムをコンパウンドする方法(コンパウンド型)、あるいはオレフィン重合時に脂肪族ゴムを導入する方法(リアクター型)によって合成されたもの等が挙げられる。
【0029】
前記オレフィン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0030】
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体の金属塩で、樹脂中のカルボキシ基が、金属により中和されているもの等が挙げられる。
【0031】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメントとしてポリスチレン、ソフトセグメントとしてブタジエン、イソプレンを使用した熱可塑性を示すエラストマー樹脂であり、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)や、前記SBSに水素添加したスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、前記SISに水素添加したスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0032】
なかでも、カルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン、カルボキシ基を含有する変性スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましく、特に好ましくは、カルボキシ基を含有する変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、カルボキシ基を含有する変性SEBSである。
【0033】
具体的な極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性SEBS等が挙げられる。
【0034】
前記極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)のメルトフローレートはJIS K7210に基づいて測定(190℃、荷重2160g)された値であり、通常0.01~150g/10分であり、好ましくは0.1~50g/10分であり、より好ましくは1~25g/10分であり、更に好ましくは5~20g/10分である。
【0035】
前記極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の密度はJIS K7112に基づいて測定された値であり、通常0.85~0.99g/cm3であり、好ましくは0.86~0.98g/cm3、より好ましくは0.87~0.97g/cm3である。極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の密度を前記範囲とすることにより、写像性に優れる傾向がある。
【0036】
本ペレットに含まれる極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の含有量は特に限定されないが、本ペレットに対して、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下、特に好ましくは20質量%以下、殊に好ましくは15質量%以下、最も好ましくは10質量%以下である。なお、含有量の下限は、通常0.1質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上である。
【0037】
また、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)に対する、EVOH(A)の質量比〔(A)/(B)〕は、70/30~99/1であることが好ましく、より好ましくは70/30~85/15、特に好ましくは70/30~80/20である。極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)と、EVOH(A)の質量比を前記範囲内とすることにより、写像性に優れる傾向がある。
【0038】
〔脂肪族カルボン酸金属塩(C)〕
本ペレットで用いる脂肪族カルボン酸金属塩(C)の脂肪族カルボン酸としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸等が挙げられる。また、前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)は、単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0039】
前記脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸、メリシン酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、メバロン酸、パントイン酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸;リノール酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、イソステアリン酸、イソノナン酸、2-エチルヘキサン酸、2-ヘプチルウンデカン酸、2-オクチルドデカン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸等が挙げられる。
前記脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
前記脂肪族トリカルボン酸としては、例えば、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸等の飽和脂肪族トリカルボン酸等が挙げられる。
これらのなかでもカルボキシ基を1個含有する脂肪族モノカルボン酸が好ましく、より好ましくは飽和脂肪族モノカルボン酸であり、更に好ましくは炭素数6~22の飽和脂肪族モノカルボン酸であり、特に好ましくは、ステアリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ベヘン酸であり、殊に好ましくは、カプリル酸、ステアリン酸である。
【0040】
また、前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属種は、長周期型周期表における第4周期dブロックに属する元素から選択される少なくとも1種である。なかでも、クロム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛が好ましく、特に好ましくは、とりわけ優れた効果が得られ、かつ安価で入手しやすい亜鉛である。
【0041】
本ペレットに含有される脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での全含有量は、1~500ppmであることが好ましく、より好ましくは3~300ppm、更に好ましくは4~200ppm、特に好ましくは5~150ppmである。
【0042】
前記脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での全含有量は、公知の分析方法にて測定することができる。例えば、乾燥した本ペレットを精秤して、恒量化した白金蒸発皿に入れ、電熱器で炭化し、次いでガスバーナーで加熱し、煙が出なくなるまで焼き、更に電気炉内に前記白金蒸発皿を入れ、昇温して、完全に灰化させる。これを冷却後、灰化物に塩酸及び純水を入れ、電熱器で加熱して溶解し、メスフラスコに流し込み、純水で容量を一定にして試料とする。この試料中の長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素を原子吸光度法で定量分析することにより、脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での全含有量を求めることができる。
【0043】
また、本ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量は、5ppm以上であることが好ましく、より好ましくは10ppm以上、更に好ましくは15ppm以上、特に好ましくは20ppm以上、殊に好ましくは25ppm以上である。また、上限は、通常500ppmであり、好ましくは300ppm、より好ましくは200ppm、特に好ましくは150ppmである。
【0044】
本発明において、ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量は、下記の測定方法により求められる。
本ペレット10gを、0.5mol/Lの硝酸20mLと酢酸エチル10mLからなる混合溶媒中で60℃、10分間撹拌する。その後、撹拌を止め、硝酸層と酢酸エチル層に分離するまで静置し、分離した硝酸層を回収する。この回収した硝酸層10mLを0.5mol/Lの硝酸を用いて、正確に50mLとする。これを試料とし、原子吸光分析を行い、下記式からペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の含有量を求める。
ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の含有量(ppm)=A×10
A:原子吸光光度計により得られた長周期型周期表第4周期dブロックに属する元素の濃度(ppm)
【0045】
また、本ペレットに含有される脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量に対する、本ペレットの表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量の比(表層部の含有量/全含有量)は、0.55以上である。好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、特に好ましくは0.8以上である。また、上限は、通常1である。
【0046】
本発明は、脂肪族カルボン酸金属塩(C)をペレットの表層部に多く含有させることにより、写像性に優れることを見出したものである。この理由としては、明らかではないが、脂肪族カルボン酸金属塩(C)がペレットの表層部に多く存在することで、EVOH(A)および極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の相溶性を低下させず、且つペレットの滑り性が改善され、押出機壁面でのせん断応力低下に寄与するため、と推測される。
【0047】
〔極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)〕
本ペレットは、前記EVOH(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)以外に、極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)を含有することが、より写像性に優れる点から好ましい。
【0048】
前記極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)としては、前記極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)で説明したオレフィン系重合体、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いることができ、これらを単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでもポリオレフィン、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましく、特に好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体、SEBSである。
【0049】
前記極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)のメルトフローレートはJIS K7210に基づいて測定(190℃、荷重2160g)された値であり、通常0.01~150g/10分であり、好ましくは0.1~50g/10分であり、より好ましくは1~25g/10分であり、更に好ましくは5~20g/10分である。
【0050】
前記極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)の密度はJIS K7112に基づいて測定された値であり、通常0.85~0.99g/cm3であり、好ましくは0.86~0.98g/cm3、より好ましくは0.87~0.97g/cm3である。極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)の密度を前記範囲とすることにより、写像性に優れる傾向がある。
【0051】
本ペレットに極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)が含まれる場合、その含有量は特に限定されないが、本ペレットに対して、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは25質量%以下、特に好ましくは20質量%以下、殊に好ましくは15質量%以下である。なお、含有量の下限は、通常0.1質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上である。
【0052】
また、極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)に対する、EVOH(A)の質量比〔(A)/(D)〕は、70/30~99/1であることが好ましく、より好ましくは70/30~85/15、特に好ましくは70/30~80/20である。極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)と、EVOH(A)の質量比を前記範囲内とすることにより、写像性に優れる傾向がある。
【0053】
更に、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)と極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)の合計に対する、EVOH(A)の質量比〔(A)/(B)+(D)〕は、50/50~99/1であることが好ましく、より好ましくは60/40~99/1、特に好ましくは70/30~99/1である。極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)と極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)の合計に対する、EVOH(A)の質量比を前記範囲内とすることにより、写像性に優れる傾向がある。
【0054】
また、極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)に対する、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の質量比〔(B)/(D)〕は、0.01~10であることが好ましく、より好ましくは0.01~1、更に好ましくは0.02~0.8、特に好ましくは0.03~0.5、殊に好ましくは0.05~0.25、最も好ましくは0.1~0.23である。極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)と、極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)の質量比を前記範囲内とすることにより、写像性に優れる傾向がある。
【0055】
[その他の添加剤]
本ペレットには、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、通常、本ペレットの10質量%以下、好ましくは5質量%以下)において、一般的にEVOH樹脂組成物に配合する添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤(例えば、ステアリン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド等不飽和脂肪酸アミド)、ビス脂肪酸アミド(例えば、エチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン等)、可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等)、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等)、充填材(例えば、無機フィラー等)、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤、ホウ酸及び/又はその塩、桂皮酸及び/又はその塩、共役ポリエン化合物、エンジオール基含有物質(例えば、没食子酸プロピル等のフェノール類等)、アルデヒド化合物(例えば、クロトンアルデヒド等の不飽和アルデヒド類等)等の公知の添加剤が含有されていてもよい。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0056】
<本ペレットの製造方法>
本ペレットの製造方法は、特に限定するものではないが、例えば、以下の(I)~(IV)に示す方法等が挙げられる。
(I)EVOH(A)及び極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)を含むペレットに、脂肪族カルボン酸金属塩(C)を配合して、ドライブレンドする方法(ドライブレンド法)。(II)EVOH(A)及び極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)を含むペレットを、脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有する溶液に浸漬させた後、ペレットを乾燥させる方法(浸漬法)。
(III)EVOH(A)と極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の溶融混練時に脂肪族カルボン酸金属塩(C)を配合し、その後ペレットを作製する方法(溶融混練法)。
(IV)EVOH(A)と極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)を含有する溶液に脂肪族カルボン酸金属塩(C)を添加して混合し、その後ペレットを作製し、溶媒を除去する方法(溶液混合法)。
【0057】
これらのなかでも、脂肪族カルボン酸金属塩(C)のペレット表層部の含有量と全含有量との比を特定範囲に調整しやすい点から、(I)のEVOH(A)及び極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)を含むペレットに、脂肪族カルボン酸金属塩(C)を配合して、ドライブレンドする方法(ドライブレンド法)が好ましい。
なお、前記の方法は複数を組み合わせて用いてもよい。また、前記極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)、その他の添加剤を配合する場合も、前記(I)~(IV)の方法に準じて配合すればよい。
【0058】
前記(I)の方法におけるドライブレンドの手段としては、例えば、ロッキングミキサー、リボンブレンダー、ラインミキサー等の公知の混合装置を用いることができる。
【0059】
前記(I)の方法におけるドライブレンドにあたっては、脂肪族カルボン酸金属塩(C)の付着性を向上させるために、ペレットの含水率を0.1~5質量%(更には0.5~4質量%、特には1~3質量%)に調整しておくことが好ましく、かかる含水率が小さすぎる場合は、脂肪族カルボン酸金属塩(C)が脱落しやすく付着分布が不均一となりやすい傾向がある。逆に大きすぎる場合は、脂肪族カルボン酸金属塩(C)が凝集して付着分布が不均一となる傾向がある。
【0060】
なお、前記ペレットの含水率は、以下の方法により測定・算出されるものである。
[含水率の測定方法]
ペレットを電子天秤にて秤量(W1:単位g)後、150℃に維持された熱風オーブン型乾燥器に入れ、5時間乾燥させてから、更にデシケーター中で30分間放冷させた後の質量を同様に秤量(W2:単位g)して、以下の式から算出する。
[式] 含水率(%)={(W1-W2)/W1}×100
【0061】
前記(III)の方法における溶融混練の手段としては、例えば、ニーダー、ルーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、プラストミル等の公知の溶融混練装置を使用して行うことができ、通常は150~300℃(更には180~280℃)で、1~20分間程度溶融混練することが好ましく、特に単軸又は二軸の押出機を用いることが容易にペレットを得られる点で工業上有利であり、また必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好ましい。特に、水分や副生成物(熱分解低分子量物等)を除去するために、押出機に1個以上のベント孔を設けて減圧下に吸引したり、押出機中への酸素の混入を防ぐために、ホッパー内に窒素等の不活性ガスを連続的に供給したりすることにより、熱着色や熱劣化が軽減された品質の優れたペレットを得ることができる。
【0062】
また、押出機等の溶融混練装置への供給方法についても特に限定されず、例えば、1)EVOH(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)、及び脂肪族カルボン酸金属塩(C)をドライブレンドし、一括して押出機に供給する方法、2)EVOH(A)と、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)を押出機に供給して溶融させたところに、固体状の脂肪族カルボン酸金属塩(C)を供給する方法(ソリッドサイドフィード法)、3)EVOH(A)と、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)を押出機に供給して溶融させたところに、溶融状態の脂肪族カルボン酸金属塩(C)を供給する方法(メルトサイドフィード法)等を挙げることができるが、なかでも、1)の方法が装置の簡便さ、ブレンド物のコスト面等で実用的である。
【0063】
また、溶融混練後にペレットを作製する方法としては、公知の手法を用いることが可能であり、ストランドカット法、ホットカット法(空中カット法、アンダーウォーターカット法)等が挙げられる。工業的生産性の点で、好ましくはストランドカット法である。
【0064】
前記(IV)の方法で使用する溶媒としては、公知のEVOH(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の良溶媒を用いればよく、代表的には水と炭素数1~4の脂肪族アルコールとの混合溶媒が用いられ、好ましくは水とメタノールとの混合溶媒である。溶解にあたっては任意に加熱や加圧を行うことが可能であり、濃度も任意である。EVOH(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)が溶解した溶液又はペーストに脂肪族カルボン酸金属塩(C)を配合すればよい。このとき、脂肪族カルボン酸金属塩(C)は固体、溶液、分散液等の状態で配合することが可能である。
配合後、均一に撹拌した樹脂組成物溶液又はペーストは、前記した公知の手法でペレット化する。工業的生産性の点で、好ましくはアンダーウォーターカット法である。得られたペレットは、公知の手法で乾燥する。
【0065】
このようにして、本ペレットを得ることができる。
本ペレットの形状は、例えば、球形、オーバル形、円柱形、立方体形、直方体形等任意の形状が採用可能である。通常、オーバル形又は円柱形であり、その大きさは、後に成形材料として用いる場合の利便性の観点から、オーバル形の場合は短径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。円柱形の場合は底面の直径が通常1~6mm、好ましくは2~5mmであり、長さは通常1~6mm、好ましくは2~5mmである。
【0066】
<多層構造体>
本発明の一実施形態に係る多層構造体(以下、「本多層構造体」と称する)は、本ペレットから形成された層を有するものである。本ペレットから形成された層(以下、単に「ペレット層」という)は、他の基材と積層することで、更に強度を上げたり、他の機能を付与することができる。
【0067】
前記他の基材としては、EVOH以外の熱可塑性樹脂(以下「他の基材樹脂」という)が好ましく用いられる。
【0068】
前記他の基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂等の変性オレフィン樹脂を含む広義のポリオレフィン樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族又は脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0069】
これらのうち、疎水性を考慮した場合、疎水性樹脂である、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂が好ましく、より好ましくは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ環状オレフィン樹脂およびこれらの不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン樹脂であり、特に好ましくはポリオレフィン樹脂である。
【0070】
本多層構造体の層構成は、ペレット層をa(a1、a2、・・・)、他の基材樹脂層をb(b1、b2、・・・)とする場合、a/b、a1/a2、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、a1/a2/a3、b2/b1/a/b1/b2、b1/b2/a1/a2/a3/b3/b4、b2/b1/a1/b1/a1/b1/b2等、任意の組み合わせが可能である。また、任意のペレット層(a)を基準にして、一方の積層方向に積層される層の構成と、他方に積層される層の構成とが互いに同一(対称)であっても、互いに異なっていてもよい(非対称)。更に、任意のペレット層(a)を基準にして、一方の積層方向に積層される層の厚みと、他方に積層される層の厚みとが互いに同一(対称)であっても、互いに異なっていてもよい(非対称)。
なお、前記層構成において、それぞれの層間には、必要に応じて接着性樹脂層を介してもよい。ペレット層の少なくとも一方の面に、接着性樹脂層を介して、他の基材樹脂層(すなわちEVOH以外の熱可塑性樹脂層)を有する多層構造体である場合、本発明の効果がより効果的に得られる傾向がある。
また、前記多層構造体を製造する過程で発生する端部や不良品等を再溶融成形して得られる、本ペレットと他の基材樹脂もしくは他の基材樹脂と接着性樹脂の混合物を含むリサイクル層をRとするとき、b/R/a、a1/R/a2、b1/R/a/b2、b1/R1/a/R2/b2、b1/R1/b2/a1/a2/a3/b3/R2/b4、b1/a1/R/a2/b2、b1/R1/a1/R2/a2/R3/b2等とすることも可能である。本多層構造体の層数は、のべ数にて通常2~15層、好ましくは3~10層である。
【0071】
本多層構造体における、多層構造の層構成として、好ましくは、ペレット層を中間層として含み、その中間層の両外側層として、他の基材樹脂層を設けた多層構造体の単位(b/a/b、又はb/接着性樹脂層/a/接着性樹脂層/b)を基本単位として、この基本単位を少なくとも構成単位として備える多層構造体が好ましい。
【0072】
前記接着性樹脂層の形成材料である接着性樹脂としては、公知のものを使用でき、他の基材樹脂層に用いる熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。代表的には不飽和カルボン酸又はその無水物をポリオレフィン樹脂に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシ基を含有する変性ポリオレフィン重合体を挙げることができる。例えば、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリ環状オレフィン樹脂、無水マレイン酸グラフト変性ポリオレフィン樹脂等であり、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0073】
このときの、不飽和カルボン酸又はその無水物の含有量は、接着性樹脂全量に対して、通常0.001~3質量%であり、好ましくは0.01~1質量%、特に好ましくは0.03~0.5質量%である。変性物中の変性量が少ないと、接着性が不充分となる傾向があり、逆に多いと架橋反応を起こし、成形性が悪くなる傾向がある。
これらの接着性樹脂には、EVOH(A)、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分、更にはポリオレフィン樹脂層の樹脂等をブレンドすることも可能である。特に、接着性樹脂の母体のポリオレフィン樹脂と異なるポリオレフィン樹脂をブレンドすることも可能である。
【0074】
前記他の基材樹脂層、接着性樹脂層には、本発明の趣旨を阻害しない範囲内(例えば、30質量%以下、好ましくは10質量%以下)において、従来公知の可塑剤(例えば、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等)、フィラー、クレー(例えば、モンモリロナイト等)、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤(例えば、炭素数10~30の高級脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、高級脂肪酸エステル(例えば、高級脂肪酸のメチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル等)、高級脂肪酸アミド(例えば、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等のビス脂肪酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば、分子量500~10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン等))、フッ化エチレン樹脂、核剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ワックス等を含んでいてもよい。これらは単独で、もしくは2種以上併せて用いることができる。
【0075】
前記ペレット層を他の基材樹脂層と積層させて多層構造体を作製する場合(接着性樹脂層を介在させる場合を含む)、その積層方法は公知の方法にて行なうことができる。例えば、本ペレットからなるフィルム、シート等に他の基材樹脂を溶融押出ラミネートする方法、逆に他の基材樹脂に本ペレットを溶融押出ラミネートする方法、本ペレットと他の基材樹脂とを共押出する方法、本ペレットから形成されたフィルム(層)および他の基材樹脂(層)を各々作製し、これらを有機チタン化合物、イソシアネート化合物、ポリエステル化合物、ポリウレタン化合物等の公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法、他の基材樹脂上に本ペレットを溶解させた溶液を塗工してから溶媒を除去する方法等が挙げられる。これらのなかでも、コストや環境の観点から考慮して共押出する方法が好ましい。
【0076】
本多層構造体は、そのまま各種形状のものに使用することができるが、必要に応じて(加熱)延伸処理を施してもよい。
前記延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸のいずれであってもよく、二軸延伸の場合は同時延伸であっても逐次延伸であってもよい。また、延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法、延伸ブロー法、真空圧空成形法等のうち延伸倍率の高いものも採用できる。延伸温度は、通常40~170℃、好ましくは60~160℃程度の範囲から選ばれる。延伸温度が低すぎた場合は延伸性が不良となる傾向があり、高すぎた場合は安定した延伸状態を維持することが困難となる傾向がある。
【0077】
なお、本多層構造体に対し、延伸後に寸法安定性を付与することを目的として、熱固定を行なってもよい。熱固定は周知の手段で実施可能であり、例えば、前記延伸した多層構造体(延伸フィルム)を、緊張状態を保ちながら通常80~180℃、好ましくは100~165℃で、通常2~600秒間程度熱処理を行なう。
【0078】
また、延伸処理を施した本多層構造体をシュリンク用フィルムとして用いる場合には、熱収縮性を付与するために、前記の熱固定を行わず、例えば、延伸後に冷風を当てて冷却固定する等の処理を行なえばよい。
【0079】
更に、本多層構造体からカップやトレイ状の多層容器を得ることも可能である。多層容器の作製方法としては、通常絞り成形法が採用され、具体的には真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、プラグアシスト式真空圧空成形法等が挙げられる。更に、多層パリソン(ブロー前の中空管状の予備成形物)からチューブやボトル状の多層容器を得る場合はブロー成形法が採用され、具体的には押出ブロー成形法(双頭式、金型移動式、パリソンシフト式、ロータリー式、アキュムレーター式、水平パリソン式等)、コールドパリソン式ブロー成形法、射出ブロー成形法、二軸延伸ブロー成形法(押出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出式コールドパリソン二軸延伸ブロー成形法、射出成形インライン式二軸延伸ブロー成形法等)等が挙げられる。本多層構造体は必要に応じ、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、製袋加工、深絞り加工、箱加工、チューブ加工、スプリット加工等を行なうことができる。
【0080】
本多層構造体(延伸したものを含む)の厚み、更には多層構造体を構成するペレット層、他の基材樹脂層および接着性樹脂層の厚みは、層構成、基材樹脂の種類、接着性樹脂の種類、用途や包装形態、要求される物性等により適宜設定される。
【0081】
本多層構造体(延伸したものを含む)の厚みは、通常10~5000μm、好ましくは30~3000μm、特に好ましくは50~2000μmである。本多層構造体の総厚みが薄すぎる場合には、ガスバリア性が低下する傾向がある。また、本多層構造体の総厚みが厚すぎる場合には、ガスバリア性が過剰性能となり、不必要な原料を使用することとなるため経済的に好ましくない傾向がある。
【0082】
本多層構造体におけるペレット層は、通常1~500μm、好ましくは3~300μm、特に好ましくは5~200μmである。
また、他の基材樹脂層は通常5~3000μm、好ましくは10~2000μm、特に好ましくは20~1000μmである。
更に、接着性樹脂層は、通常0.5~250μm、好ましくは1~150μm、特に好ましくは3~100μmである。
なお、前記の数値は、ペレット層、他の基材樹脂層、接着性樹脂層のうち少なくとも1種の層が2層以上存在する場合には、同種の層の厚みを総計した値である。
【0083】
更に、本多層構造体におけるペレット層と他の基材樹脂層との厚みの比(ペレット層/他の基材樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常1/99~50/50、好ましくは5/95~45/55、特に好ましくは10/90~40/60である。
また、本多層構造体におけるペレット層と接着性樹脂層の厚み比(ペレット層/接着性樹脂層)は、各層が複数ある場合は最も厚みの厚い層同士の比にて、通常10/90~99/1、好ましくは20/80~95/5、特に好ましくは50/50~90/10である。
【0084】
本多層構造体は、JIS K 7374「プラスチックー像鮮明度の求め方」に準拠して透過法により測定する像鮮明度(%)が、15%以上であることが好ましく、より好ましくは18%以上であり、特に好ましくは22%以上である。
【0085】
[多層構造体の用途]
本多層構造体は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器、包装用フィルム等の包装材料として好適に用いることができる。
【実施例0086】
以下、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」とあるのは、質量基準を意味する。
【0087】
実施例に先立って下記の材料を準備した。
〔EVOH(A)〕
・A-1:EVOH[エチレン含有量38mol%、MFR(210℃、荷重2160g)4.0g/10min、密度1.17g/cm3
〔極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)〕
・B-1:酸変性エチレン-酢酸ビニル共重合体[DuPont社製、FusabondC190、MFR(190℃、荷重2160g)16g/10min、密度0.95g/cm3
・B-2:酸変性SEBS[旭化成社製、タフテックM1911、MFR(230℃、荷重2160g)4.5g/10min、密度0.91g/cm3
〔脂肪族カルボン酸金属塩(C)〕
・C-1:カプリル酸亜鉛[日東化成工業社製]
・C-2:ステアリン酸亜鉛[日東化成工業社製]
〔極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)〕
・D-1:エチレン-酢酸ビニル共重合体[東ソー社製、ウルトラセン3B53A、MFR(190℃、荷重2160g)5.7g/10min、密度0.952g/cm3
【0088】
<実施例1>
後記の表1に記載した比率で、EVOH(A-1)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B-1)、極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D-1)を、二軸押出機を用いて下記の条件で溶融混練し、直径3mm、長さ3mmのペレットを調製した。
[混練条件]
・Φ32mm二軸押出機
・ダイス:4穴
・メッシュ:50/50
・吐出量:20kg/時間
・スクリュー回転数:300rpm
・真空度:-0.08MPa
・冷却方法:水冷
【0089】
得られたペレットに、脂肪族カルボン酸金属塩(C-1)の全含有量が金属換算で74ppmとなるように添加し、ドライブレンドすることにより、実施例1のペレットを得た。
【0090】
<実施例2~5、参考例1~4>
EVOH(A-1)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B-1)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D-1)の種類や含有量を後記の表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5、参考例1~4のペレットを得た。
【0091】
<比較例1~5>
EVOH(A-1)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B-1)、脂肪族カルボン酸金属塩(C)、極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D-1)の種類や含有量を後記の表1のとおりに変更し、脂肪族カルボン酸金属塩(C)を、EVOH(A)、極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)、極性基を含有しない熱可塑性樹脂(D)の溶融混練時に同時に添加した以外は、実施例1と同様にして、比較例1~5のペレットを得た。
【0092】
得られた各実施例、比較例、及び参考例のペレットを用いて、下記の方法により、表層部の脂肪族カルボン酸金属塩(C)の含有量を求めた。結果を後記の表1に示す。
【0093】
〔ペレット表層部の脂肪族カルボン酸金属塩(C)の含有量〕
ペレット10gを、0.5mol/Lの硝酸20mLと酢酸エチル10mLからなる30mLの溶液中で60℃10分間撹拌し、撹拌後、硝酸と酢酸エチルが分離するまで静置した。その後、分離した硝酸層を回収し、回収した硝酸層の10mLを0.5mol/Lの硝酸で正確に50mLとし、下記の条件で原子吸光分析を行い、下記式からペレット表層部の亜鉛含有量を算出した。
ペレット表層部の亜鉛含有量(ppm)=A×10
A:原子吸光光度計で得た亜鉛濃度(ppm)
[原子吸光分析条件]
原子吸光分析装置:ZA-3300(HITACHI社製)
測定波長:213.9nm
検量線:原子吸光光度計 亜鉛標準原液(1000ppm)(富士フイルム和光純薬社製)を用いた、4点検量線(0.5-1.0-1.5-2.0ppm)
【0094】
また、得られた各実施例、比較例、及び参考例のペレットと、下記の樹脂を用い、下記の製造条件にて多層構造体を製造した。
【0095】
[使用樹脂]
・直鎖状低密度ポリエチレン(PE)[日本ポリエチレン社製、ノバテックLL UF641、MFR(190℃、荷重2160g)2.1g/10min、密度0.927g/cm3
・酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(Tie)[三菱ケミカル社製、モディック M512MFR(190℃、荷重2160g)1.0g/10min、密度0.90g/cm3
【0096】
[製造条件]
・4種5層多層キャスト成形機
・層構成(μm):PE層/Tie層/ペレット層/Tie層/PE層=40/5/10/5/40
・ダイス:450mm Tダイ
・ロール温度:80℃
・フィードブロック、ダイス温度:220℃
・押出機温度(℃)
PE:C1/C2/C3/C4/H/AD1/AD2/AD3=180/200/210/210/210/210/210/210
ペレット:C1-A/C1-B/C1-C/C2-A/C2-B/C3/C4/H/AD1/AD2=180/180/180/200/200/220/220/220/220/220
Tie:C1/C2/C3/H/AD1/AD2/AD3=180/200/210/210/210/210/210
・引取速度:6.4~7.0m/min
・メッシュ:全て90/120/90
【0097】
得られた多層構造体を用いて、像鮮明性評価を行った。結果を後記の表1に示す。
【0098】
[像鮮明性評価]
JIS K 7374「プラスチックー像鮮明度の求め方」に準拠して透過法により、多層構造体の像鮮明度(%)を測定した。フィルム試験片は、フィルム機械方向を鉛直方向として測定した。また、測定器にはスガ試験機社製ICM-1型写像性測定器を用い、光学くしは0.25mm又は0.5mmを使用した。なお、像鮮明度(%)が高いほど、写像性に優れることを意味する。
【0099】
【表1】
【0100】
前記表1の結果から、脂肪族カルボン酸金属塩(C)をペレットの表層部に多く含む実施例1~5のペレットは、これを用いて多層構造体を製造した際の写像性に優れるものであった。
一方、ペレットに含有される脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での全含有量に対する、ペレット表層部における脂肪族カルボン酸金属塩(C)の金属換算での含有量の比が、本発明で特定する範囲外である比較例1~5のペレットは、EVOH(A)と極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の組成が同じである実施例1~5のペレットよりも、多層構造体にした際の写像性に劣るものであった。
また、脂肪族カルボン酸金属塩(C)を含有しない参考例1~4のペレットは、EVOH(A)と極性基を含有する熱可塑性樹脂(B)の組成が同じである実施例1~5のペレットと比較して多層構造体にした際の写像性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本ペレットは多層構造体等のフィルムとした際の写像性に優れるものである。そのため、本ペレットから形成された層を有する多層構造体は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、飲料、化粧品、医薬品等の各種の包装材料容器、包装用フィルム等の包装材料として好適に用いることができる。