(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173780
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/082 20060101AFI20241205BHJP
C08G 65/336 20060101ALI20241205BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241205BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241205BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241205BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20241205BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B32B15/082 B
C08G65/336
B32B27/00 101
B32B27/30 D
C09D5/00 D
C09D201/06
C09K3/18 102
C09K3/18 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024086604
(22)【出願日】2024-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2023089280
(32)【優先日】2023-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 満
(72)【発明者】
【氏名】原 弘之
【テーマコード(参考)】
4F100
4H020
4J005
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AB04A
4F100AH02C
4F100AK17B
4F100AK52B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100EJ65C
4F100GB48
4F100JA07C
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4F100JL06B
4F100YY00C
4H020AA06
4H020BA22
4H020BA34
4H020BA36
4J005AA09
4J005BA00
4J005BD00
4J005BD08
4J038JC22
4J038NA01
4J038NA12
4J038PB06
(57)【要約】
【課題】積層体の表面における耐摩耗性の向上と外観不良の抑制とを両立した積層体を提供すること。
【解決手段】積層体は、表面の少なくとも一部が金属である基材と、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物を用いて形成される防汚層と、前記基材と防汚層との間に設けられ、多価ホスホン酸化合物を用いて形成されるプライマー部位と、を有し、前記プライマー部位は、前記基材の表面における前記金属の少なくとも一部に接し、かつ、前記防汚層の少なくとも一部に接する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部が金属である基材と、
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物を用いて形成される防汚層と、
前記基材と防汚層との間に設けられ、多価ホスホン酸化合物を用いて形成されるプライマー部位と、
を有し、
前記プライマー部位は、前記基材の表面における前記金属の少なくとも一部に接し、かつ、前記防汚層の少なくとも一部に接する、積層体。
【請求項2】
前記多価ホスホン酸化合物の分子量は1,000以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記多価ホスホン酸化合物は、2つのホスホン酸基と炭素原子に結合するOH基とを有する化合物、及び、3つ以上のホスホン酸基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記多価ホスホン酸化合物は、エチドロン酸、フィチン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ジホスホン酸、及びグリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
蛍光X線分光法により算出される前記プライマー部位におけるリン原子の強度は、0.2kcps以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
表面の少なくとも一部が金属である基材の前記表面に、多価ホスホン酸化合物と溶剤とを含む液状組成物を塗布し、塗布された前記液状組成物から前記溶剤を除去することで、前記基材の表面における前記金属の少なくとも一部に接する第1の部位を得ることと、
前記第1の部位が設けられた前記基材の表面に、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物を含む組成物を用いて、前記第1の部位から得られるプライマー部位に接する防汚層を形成することと、
を含む、積層体の製造方法。
【請求項7】
前記多価ホスホン酸化合物の分子量は1,000以下である、請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記多価ホスホン酸化合物は、2つのホスホン酸基と炭素原子に結合するOH基とを有する化合物、及び、3つ以上のホスホン酸基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項6又は7に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記多価ホスホン酸化合物は、エチドロン酸、フィチン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ジホスホン酸、及びグリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項6又は7に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記液状組成物における前記多価ホスホン酸化合物の含有率は0.3質量%以上である、請求項6又は7に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記液状組成物は、前記多価ホスホン酸化合物以外の界面活性剤を含まない、請求項6又は7に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
第1の部位が設けられる前における前記基材の前記表面は、水の接触角が70度未満である、請求項6又は7に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種基材の表面に撥水撥油性を付与するために、基材の表面に表面張力の低い防汚層を設けることで、汚れの付着を抑制したり、付着した汚れを除去しやすくしたりする性質、すなわち、防汚性を向上させることが知られている。
【0003】
防汚層の形成に用いる化合物としては、例えば含フッ素シラン化合物が挙げられる。一方、表面の少なくとも一部に金属を含む基材に、含フッ素シラン化合物を用いて形成される防汚層を直接設けると、防汚層表面の洗浄や摩擦を繰り返すことで防汚性が低下することがあった。
上記防汚性の低下を抑制する方法として、特許文献1では、基材と防汚層との間に、加水分解性シリル基を30質量%以上の割合で含有しフッ素原子を含まず質量平均分子量が500~200,000であるシラン化合物を用いてプライマー層を設ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者によれば、表面の少なくとも一部が金属である基材の表面に、特許文献1に記載のシラン化合物を用いたプライマー層を介して防汚層を設けた積層体とすると、積層体の表面における外観不良が発生することがあることが分かった。
【0006】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、積層体の表面における耐摩耗性の向上と外観不良の抑制とを両立した積層体及び積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1>
表面の少なくとも一部が金属である基材と、
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物を用いて形成される防汚層と、
前記基材と防汚層との間に設けられ、多価ホスホン酸化合物を用いて形成されるプライマー部位と、
を有し、
前記プライマー部位は、前記基材の表面における前記金属の少なくとも一部に接し、かつ、前記防汚層の少なくとも一部に接する、積層体。
<2>
前記多価ホスホン酸化合物の分子量は1,000以下である、<1>に記載の積層体。<3>
前記多価ホスホン酸化合物は、2つのホスホン酸基と炭素原子に結合するOH基とを有する化合物、及び、3つ以上のホスホン酸基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>又は<2>に記載の積層体。
<4>
前記多価ホスホン酸化合物は、エチドロン酸、フィチン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ジホスホン酸、及びグリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の積層体。
<5>
蛍光X線分光法により算出される前記プライマー部位におけるリン原子の強度は、0.2kcps以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の積層体。
<6>
表面の少なくとも一部が金属である基材の前記表面に、多価ホスホン酸化合物と溶剤とを含む液状組成物を塗布し、塗布された前記液状組成物から前記溶剤を除去することで、前記基材の表面における前記金属の少なくとも一部に接する第1の部位を得ることと、
前記第1の部位が設けられた前記基材の表面に、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物を含む組成物を用いて、前記第1の部位から得られるプライマー部位に接する防汚層を形成することと、
を含む、積層体の製造方法。
<7>
前記多価ホスホン酸化合物の分子量は1,000以下である、<6>に記載の積層体の製造方法。
<8>
前記多価ホスホン酸化合物は、2つのホスホン酸基と炭素原子に結合するOH基とを有する化合物、及び、3つ以上のホスホン酸基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含む、<6>又は<7>に記載の積層体の製造方法。
<9>
前記多価ホスホン酸化合物は、エチドロン酸、フィチン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ジホスホン酸、及びグリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)からなる群より選択される少なくとも1種を含む、<6>~<8>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
<10>
前記液状組成物における前記多価ホスホン酸化合物の含有率は0.3質量%以上である、<6>~<9>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
<11>
前記液状組成物は、前記多価ホスホン酸化合物以外の界面活性剤を含まない、<6>~<10>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
<12>
第1の部位が設けられる前における前記基材の前記表面は、水の接触角が70度未満である、<6>~<11>のいずれか1つに記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、積層体の表面における耐摩耗性の向上と外観不良の抑制とを両立した積層体及び積層体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい
。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示における以下の用語の意味は、以下の通りである。
本開示において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物、基等もこれに準ずる。
ペルフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子が全てフッ素原子で置換された基を意味する。また、フルオロアルキル基とは、パーシャルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキル基とを合わせた総称である。パーシャルフルオロアルキル基とは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換され、かつ、水素原子を1個以上有するアルキル基である。すなわち、フルオロアルキル基は、1個以上のフッ素原子を有するアルキル基である。
本開示における数平均分子量(Mn)は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法で測定される値である。
【0010】
[積層体]
本開示の積層体は、表面の少なくとも一部が金属である基材と、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物を用いて形成される防汚層と、前記基材と防汚層との間に設けられ、多価ホスホン酸化合物を用いて形成されるプライマー部位と、を有し、前記プライマー部位は、前記基材の表面における前記金属の少なくとも一部に接し、かつ、前記防汚層の少なくとも一部に接する。以下、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物を「特定含フッ素化合物」ともいう。
本開示の積層体は、上記構成であることにより、積層体の表面における耐摩耗性の向上と外観不良の抑制との両立が実現される。その理由は以下のように推測される。
【0011】
特許文献1に記載のシラン化合物を用いたプライマー層を介して、表面の少なくとも一部が金属である基材の表面に防汚層を設けた積層体とすると、積層体の表面における耐摩耗性は向上するものの、外観不良が発生することがある。上記外観不良は、プライマー層による光の干渉に起因するものと推測される。
これに対して、本開示の積層体では、多価ホスホン酸化合物を用いて形成されるプライマー部位が、基材の表面における金属の少なくとも一部と、防汚層の少なくとも一部と、の両方に接する。そして、多価ホスホン酸化合物が有するホスホン酸基が基材の表面における金属と反応するとともに、多価ホスホン酸化合物が有するOH基が特定含フッ素化合物の反応性シリル基と反応すると考えられる。そのため、基材の表面における金属とプライマー部位との界面及びプライマー部位と防汚層との界面の両方において化学的な結合が生じ、金属と防汚層との密着性が向上することで積層体の表面における耐摩耗性が向上すると推測される。加えて、多価ホスホン酸化合物が分子レベルで基材の表面における金属及び防汚層の両方に結合していることで、光の干渉が起こりにくく、外観不良が抑制されるものと推測される。
以下、本開示の積層体を構成する基材、プライマー部位、及び防汚層について、それぞれ説明する。
【0012】
(基材)
基材は、表面の少なくとも一部が金属である。基材は、表面の一部が金属であってもよく、表面の全部が金属であってもよい。
【0013】
基材は、例えば、全体が単一の金属からなる構成であってもよく、金属からなる層(以下、「金属層」ともいう。)が複数積層された積層体であってもよい。さらには、金属層と、金属以外の無機材料からなる層(以下、「無機材料層」ともいう。)及び/又は有機材料からなる層(以下、「有機材料層」ともいう。)と、の積層体であって、表層の1層が金属層である積層体であってもよい。又は、基材の表面が、同一面内において、金属からなる領域と、金属以外の無機材料及び/又は有機材料からなる領域と、を有する構成であってもよい。金属層又は有機材料層の表面の少なくとも一部に金属めっきを施した基材であってもよい。
【0014】
基材の形状は、特に限定されず、板状、フィルム(薄膜)状、棒状、筒状等が挙げられる。基材が板状である場合、平板であってもよく、主面の一部又は全部が曲率を有する形状であってもよい。また、表面形状は平滑であってもよく、凹凸があってもよい。
基材の表面における金属は、1種でも2種以上でもよい。
基材の表面における金属としては、室温(25℃)で固体の金属、合金等が、特に制限なく挙げられる。
【0015】
基材の表面における金属としては、クロム、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、亜鉛、スズ、炭素鋼、鉛、チタン、金、銀、これらの合金等が挙げられる。合金としては、SUS304、SUS316、SUS303、SUS317、SUS403等のステンレス鋼、真鍮(黄銅)、青銅、白銅、丹銅、赤銅、洋銀、ジュラルミン、はんだ等が挙げられる。また、基材が金属層又は有機材料層の表面の少なくとも一部に金属めっきを施した基材である場合、金属めっきとしては、ニッケル・クロムメッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキ、亜鉛メッキ等の表面が挙げられる。
【0016】
(プライマー部位)
プライマー部位は、基材と防汚層との間に設けられ、基材の表面における金属の少なくとも一部に接している。プライマー部位は、基材の表面のうち、金属の少なくとも一部に接していればよく、金属の全部に接してもよく、基材の表面の全体に接してもよい。基材の表面の一部が金属以外の材質である場合、プライマー部位は、金属の少なくとも一部と前記金属以外の材質の少なくとも一部との両方に接していてもよい。
【0017】
プライマー部位を形成する多価ホスホン酸化合物は、基材の表面における金属と、防汚層の形成に用いられる特定含フッ素化合物の反応性シリル基と、の両方と反応した反応生成物の状態で存在する。つまり、プライマー部位は、多価ホスホン酸化合物の反応生成物を含有する。
【0018】
プライマー部位は、1種のみの多価ホスホン酸化合物の反応生成物を含有してもよく、2種以上の多価ホスホン酸化合物の反応生成物を含有してもよい。プライマー部位は、多価ホスホン酸化合物の反応生成物以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、多価ホスホン酸化合物以外のキレート剤等が挙げられる。プライマー部位全体に占める多価ホスホン酸化合物の反応生成物の含有率は、防汚層の耐摩耗性向上及び外観不良抑制の観点から、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0019】
プライマー部位は、多価ホスホン酸化合物以外の界面活性剤を実質的に含有しないことが好ましい。以下、多価ホスホン酸化合物以外の界面活性剤を「他の界面活性剤」ともいう。界面活性剤は、分子内に、水になじみやすい部位(親水基)と、油になじみやすい部位(親油基)と、を持つ化合物である。他の界面活性剤を実質的に含有しないとは、プライマー部位全体に対する他の界面活性剤の含有率が1質量%以下であることを意味する。プライマー部位が他の界面活性剤を実質的に含有しないことで、他の界面活性剤の作用による防汚層表面の接触角の低下が抑制され、接触角の低下に伴う防汚性の低下及び耐摩耗性の低下が抑制される。プライマー部位全体に対する他の界面活性剤の含有率は、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましい。
以下、プライマー部位の形成に用いる多価ホスホン酸化合物について説明する。
【0020】
<多価ホスホン酸化合物>
多価ホスホン酸化合物は、2つ以上のホスホン酸基を有する化合物であれば特に限定されるものではない。多価ホスホン酸化合物の1分子が有するホスホン酸基の数は、2以上であり、例えば2~8が挙げられ、防汚層の耐摩耗性向上の観点から2~6が好ましく、2~4がより好ましく、3がさらに好ましい。
【0021】
多価ホスホン酸化合物としては、2つ以上のホスホン酸基が連結基を介して結合した化合物が挙げられる。連結基としては、アルキレン基、2級アミノ基、3級アミノ基、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、これらの組み合わせ等が挙げられる。アルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。アルキレン基は、ホスホン酸基以外の置換基を有してもよい。ホスホン酸基以外の置換基としては、OH基、1級アミノ基、カルボキシ基、イソシアナート基等が挙げられる。
連結基は、置換又は無置換のアルキレン基、置換又は無置換のアルキレン基とエーテル結合との組み合わせ、及び置換又は無置換のアルキレン基と3級アミノ基との組み合わせが好ましく、OH基で置換されたアルキレン基、無置換の環状アルキレンとエーテル結合、無置換のアルキレン基と3級アミノ基との組み合わせとの組み合わせがより好ましく、無置換のアルキレン基と3級アミノ基との組み合わせがさらに好ましい。
【0022】
連結基は、炭素原子を含むことが好ましい。つまり、多価ホスホン酸化合物は、2つ以上のホスホン酸基を有する、有機化合物が好ましい。連結基の総炭素数としては、例えば1~12が挙げられ、防汚層の耐摩耗性向上の観点から2~9が好ましく、2~6がより好ましい。上記連結基の総炭素数は、例えば連結基が2以上のアルキレン基及びカルボキシ基を有する場合、前記2以上のアルキレン基に含まれる炭素原子の数及び前記カルボキシ基に含まれる炭素原子の数を合計した値を示す。
【0023】
多価ホスホン酸化合物は、防汚層の耐摩耗性向上の観点から2つのホスホン酸基と炭素原子に結合するOH基とを有する化合物、及び、3つ以上のホスホン酸基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。炭素原子に結合するOH基は、アルキレン基の炭素原子に直接結合するOH基であってもよく、カルボキシ基の一部を構成するOH基であってもよい。
【0024】
多価ホスホン酸化合物の分子量は、防汚層の耐摩耗性向上及び外観不良抑制の観点から、1,000以下が好ましく、850以下がより好ましく、700以下がさらに好ましい。多価ホスホン酸化合物の分子量は、防汚層の耐摩耗性向上の観点から、120以上が好ましく、150以上がより好ましく、180以上がさらに好ましい。多価ホスホン酸化合物の分子量は、化合物の化学構造から算出される。
【0025】
多価ホスホン酸化合物は、防汚層の耐摩耗性向上及び外観不良抑制の観点から、下記式(P)で表される化合物が好ましい。
Qp-[PO(OH)2]r …(P)
式(P)中、Qpはr価の有機連結基であり、rは2~6の整数である。
【0026】
式(P)中のrは、2~8の整数が好ましく、3がより好ましい。
式(P)中のQpで表されるr価の有機連結基としては、前述の多価ホスホン酸化合物が有する連結基の例のうち、少なくともアルキレン基を含むものが挙げられる。
式(P)中のQpで表されるr価の有機連結基として、具体的には、下記式(QP1)~(QP5)で表される連結基が挙げられる。式中、R11は1価の基を表し、R21~R26はそれぞれ独立に水素原子、1価の基、又は基*QP2-O-*Pを表し、R21~R26のうち2つ以上の基は基*QP2-O-*Pであり、R41は水素原子、1価の基、又は*QP3-(CH2)p33-*Pを表し、R51~R54はそれぞれ独立に水素原子、1価の基、又は基*QP4-(CH2)p42-*Pを表し、R51~R54のうち2つ以上の基は基*QP4-(CH2)p42-*Pであり、R71~R75はそれぞれ独立に水素原子、1価の基、又は基*QP5-(CH2)p53-*Pを表し、R71~R75のうち2つ以上の基は基*QP5-(CH2)p53-*Pであり、p31~
p33、p41~p42、及びp51~p53はそれぞれ独立に1~3の整数を表し、*Pはホスホン酸基(PO(OH)2)への結合部位を表し、後述する*Pも全て同様である。また、*QP2は式(QP2)中の炭素原子への結合部位を表し、*QP3は式(QP3)中の窒素原子への結合部位を表し、*QP4は式(QP4)中の窒素原子への結合部位を表し、*QP5は式(QP5)中の窒素原子への結合部位を表す。
【0027】
【0028】
式(QP1)中のR11で表される1価の基としては、例えば有機基が挙げられ、具体的には、基*QP1-(CH2)p11-R12等が挙げられる。*QP1は式(QP1)中の炭素原子への結合部位を表し、R12は水素原子、アミノ基、カルボキシ基、又はイソシアナート基を表し、p11は1~3の整数を表す。R12は、水素原子又はアミノ基が好ましく、水素原子がより好ましい。p11は、1~2が好ましく、1がより好ましい。
R11で表される1価の基は、基*QP1-(CH2)p11-H又は基*QP1-(CH2)p11-NH2が好ましく、基*QP1-CH2-H又は基*QP1-(CH2)3-NH2がより好ましく、基*QP1-CH3がさらに好ましい。
【0029】
式(QP2)中のR21~R26で表される1価の基としては、それぞれ独立に、基*QP2-(CH2)p21-R27等が挙げられる。*QP2は式(QP2)中の炭素原子への結合部位を表し、R27は水素原子、アミノ基、カルボキシ基、又はイソシアナート基を表し、p21は1~3の整数を表す。
式(QP2)中のR21~R26のうち2つ以上の基は基*QP2-O-*Pであり、基*QP2-O-*Pは3つ以上であってもよく、6つが好ましい。つまり、式(QP2)は、R21~R26のいずれもが基*QP2-O-*Pである連結基が好ましい。
基*QP2-O-*Pが2つの場合、その2つの基はオルト、メタ、及びパラのいずれの位置関係であってもよい。
【0030】
式(QP3)中のR41で表される1価の基としては、例えば有機基が挙げられ、具体的には、基*QP3-(CH2)p34-R42等が挙げられる。*QP3は式(QP3)中の窒素原子への結合部位を表し、R42は水素原子、アミノ基、カルボキシ基、又はイソシアナート基を表し、p34は1~3の整数を表す。p31~p34は、それぞれ独立に、1~2が好ましく、1がより好ましい。
【0031】
式(QP4)中のR51~R54で表される1価の基としては、それぞれ独立に、例えば有機基が挙げられ、具体的には、基*QP4-(CH2)p43-R55等が挙げられる。*QP4は式(QP4)中の窒素原子への結合部位を表し、R55は水素原子、アミノ基、カルボキシ基、又はイソシアナート基を表し、p43は1~3の整数を表す。p41は、1~2が好ましく、2がより好ましい。p42~p43はそれぞれ独立に、1~2が好ましく、1がより好ましい。
式(QP4)中のR51~R54のうち2つ以上の基は基*QP4-(CH2)p42-*Pであり、基*QP4-(CH2)p42-*Pは3つ以上であってもよく、4つが好ましい。つまり、式(QP4)は、R51~R54のいずれもが基*QP4-(CH2)p42-*Pである連結基が好ましい。
【0032】
式(QP5)中のR71~R75で表される1価の基としては、それぞれ独立に、例えば有機基が挙げられ、具体的には、基*QP5-(CH2)p54-R76等が挙げられる。*QP5は式(QP5)中の窒素原子への結合部位を表し、R76は水素原子、アミノ基、カルボキシ基、又はイソシアナート基を表し、p54は1~3の整数を表す。p51及びp52はそれぞれ独立に、1~2が好ましく、2がより好ましい。p53~p54はそれぞれ独立に、1~2が好ましく、1がより好ましい。
式(QP5)中のR71~R75のうち2つ以上の基は基*QP5-(CH2)p53-*Pであり、基*QP5-(CH2)p53-*Pは3つ以上であってもよく、5つが好ましい。つまり、式(QP5)は、R71~R75のいずれもが基*QP5-(CH2)p53-*Pである連結基が好ましい。
【0033】
多価ホスホン酸化合物は、防汚層の耐摩耗性向上及び外観不良抑制の観点から、これらのなかでも、エチドロン酸、フィチン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ジホスホン酸、及びグリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、エチドロン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)及びフィチン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)を含むことがさらに好ましい。
【0034】
蛍光X線分光法により算出されるプライマー部位におけるリン原子の強度は、防汚層の耐摩耗性向上の観点から、0.2kcps以上が好ましく、0.5kcps以上がより好ましく、1kcps以上がさらに好ましい。プライマー部位におけるリン原子の強度の上限値は、特に限定されず、例えば10kcpsが挙げられる。
【0035】
「蛍光X線分光法により算出されるプライマー部位におけるリン原子の強度」は、以下のように算出される。
蛍光X線分光法分析装置であるZSX PrimusIV(RIGAKU社製)を用いて、36.5℃条件下で、プライマー部位を形成する前の基材の、EZスキャンによるP-Ka線から得られるリン原子のX線強度(単位:kcps、以下「強度1」ともいう)を測定する。次いで、同様にして、プライマー部位を形成した基材の、EZスキャンによるP-Ka線から得られるリン原子のX線強度(単位:kcps、以下「強度2」ともいう)を測定する。「蛍光X線分光法により算出されるプライマー部位におけるリン原子の強度」は(強度2-強度1)で算出される。
【0036】
(防汚層)
防汚層は、特定含フッ素化合物を用いて形成される層である。防汚層は、プライマー部位の少なくとも一部に接して設けられる。プライマー部位が基材の表面の一部のみに設けられている場合、防汚層は、プライマー部位と、基材の表面のうちプライマー部位が設けられていない領域と、の両方に接して設けられてもよい。
防汚層は、基材の表面全体に設けられていることが好ましい。
【0037】
防汚層は、特定含フッ素化合物の反応生成物を含有する。
防汚層は、1種のみの特定含フッ素化合物の反応生成物を含有してもよく、2種以上の特定含フッ素化合物の反応生成物を含有してもよい。防汚層は、特定含フッ素化合物の反応生成物以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、特定含フッ素化合物以外の加水分解性シラン化合物、含フッ素オイル、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物の微粒子、染料、顔料、防汚性材料、硬化触媒、各種樹脂等が挙げられる。防汚層全体に占める特定含フッ素化合物の反応生成物の含有率は、防汚層の耐摩耗性向上の観点から、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましく、100質量%であってもよい。
【0038】
前記含フッ素オイルとしては、下記式で表される化合物が挙げられる。
式:Rf5-(OC4F8)a’-(OC3F6)b’-(OC2F4)c’-(OCF2)d’-Rf6
上記式中、Rf5及びRf6は、それぞれ独立して、1以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~16アルキル基であり、a’及びb’は、それぞれ独立して0~30の整数であり、c’及びd’は、それぞれ独立して1~200の整数であり、a’、b’、c’、及びd’の和は少なくとも5以上であり、添字a’、b’、c’、又はd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0039】
含フッ素オイルは市販品でもよく、Solvay Solexis社製のFOMBLIN M(FOMBLIN M03、M07、M15、M30、M60、M100等)、FOMBLIN Z(FOMBLIN Z03、Z15、Z25、Z60等)、FOMBLIN Y(FOMBLIN Y04、Y06、Y15、Y25、Y45、YU700、YR、YPL1500、YR1800等)、ダイキン工業社製のDEMNUM(DEMNUM S20、S65、S100等)、Chemours社製のKRYTOX(KRYTOX 143AB、143AX、143AC、143AD等)等が挙げられる。
【0040】
防汚層が含フッ素オイルを含む場合、その含有量は、特定含フッ素化合物の100質量部に対して1~50質量部が好ましく、1~40質量部がより好ましく、1~30質量部が特に好ましい。
以下、防汚層の形成に用いる特定含フッ素化合物について説明する。
【0041】
<特定含フッ素化合物>
特定含フッ素化合物は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物であれば特に限定されるものではない。
【0042】
反応性シリル基とは、Si原子に反応性基が結合した基を意味する。反応性基としては、加水分解性基又は水酸基が好ましい。
加水分解性基とは、加水分解反応により水酸基となる基である。すなわち、Si-Lで表される加水分解性を有するシリル基は、加水分解反応によりSi-OHで表されるシラノール基となる。シラノール基は、さらにシラノール基間で反応してSi-O-Si結合を形成する。また、シラノール基は、基材の表面に存在する酸化物に由来するシラノール基と脱水縮合反応して、Si-O-Si結合を形成できる。
加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシアルキレンオキシ基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、アミノ基、-O-N=CRr
2、及びイソシアナート基が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。アリールオキシ基は、炭素数3~10のアリールオキシ基であることが好ましい。ただし、アリールオキシ基のアリール基は、ヘテロアリール基を含む。アルコキシアルキレンオキシ基は、炭素数1~10のアルキレンオキシ基の炭素原子に炭素数1~4のアルコキシ基が結合した基が好ましく、具体的には2-メトキシエトキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子は、塩素原子であることが好ましい。アシル基は、炭素数1~6のアシル基であることが好ましい。アシルオキシ基は、炭素数1~6のアシルオキシ基であることが好ましい。Rrはそれぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基である。
均一な膜を作製しやすく、耐久性に優れる観点からは、反応性シリル基としてはアルコキシシリル基又はトリクロロシリル基が好ましい。プライマー部位との反応において生じる副生物の取り扱いやすさの観点から、反応性シリル基は、アルコキシシリル基であることがより好ましい。アルコキシシリル基としてはジアルコキシシリル基又はトリアルコキシシリル基が好ましく、トリアルコキシシリル基がより好ましい。
【0043】
特定含フッ素化合物が有する反応性シリル基の数は、1以上であり、防汚層の耐摩耗性をより向上させる観点から、1~18が好ましく、2~12がより好ましく、2~8がさらに好ましい。特定含フッ素化合物が有する反応性シリル基の数は、1であってもよい。
【0044】
反応性シリル基としては、下記式(1)で表される基が好ましい。
-Si(R)nL3-n …(1)
【0045】
式(1)中、Rはそれぞれ独立に1価の炭化水素基であり、Lはそれぞれ独立に加水分解性基又は水酸基であり、nは0~2の整数である。
【0046】
基(1)が1分子中に複数ある場合、複数の基(1)は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。原料の入手容易性、及び、特定含フッ素化合物の製造容易性の観点からは、複数の基(1)は、同じであることが好ましい。
【0047】
Rは、それぞれ独立に1価の炭化水素基であり、1価の飽和炭化水素基が好ましい。Rの炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましい。
【0048】
Lは、それぞれ独立に加水分解性基又は水酸基である。
加水分解性基としては、上述したものが好ましい。
【0049】
中でも、Lは、特定含フッ素化合物の製造容易性の観点から、アルコキシ基又はハロゲン原子が好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基又はハロゲン原子が好ましい。Lは、塗布時のアウトガスが少なく、特定含フッ素化合物の保存安定性がより優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。特定含フッ素化合物の長期の保存安定性が必要な場合には、Lは、エトキシ基がより好ましい。塗布後の反応時間を短時間とする場合には、Lは、メトキシ基がより好ましい。式(1)において、Lの少なくとも1つが上記基であることが好ましく、Lのすべてが上記基であることがより好ましい。
【0050】
nは、0~2の整数であり、0又は1が好ましく、0がより好ましい。Lが複数存在することによって、防汚層の基材への密着性がより強固になる。
nが1以下である場合、1分子中に存在する複数のLは、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。原料の入手容易性、及び、特定含フッ素化合物の製造容易性の観点から、複数のLは同じであることが好ましい。nが2である場合、1分子中に存在する複数のRは同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。原料の入手容易性、及び、特定含フッ素化合物の製造容易性の観点から、複数のRは同じであることが好ましい。
【0051】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖は、下記式(2)で表される。
(OX)m …(2)
【0052】
式(2)中、Xは、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキレン基である。
【0053】
フルオロアルキレン基の炭素数は、防汚層の耐候性及び耐食性を向上させる観点から、1~6が好ましく、2~4がより好ましい。
フルオロアルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。
フルオロアルキレン基におけるフッ素原子の数は、防汚層の耐食性を向上させる点から、炭素原子の数の1倍~2倍が好ましく、1.7倍~2倍がより好ましい。
中でも、フルオロアルキレン基は、フルオロアルキレン基中の全ての水素原子がフッ素原子に置換された基(すなわち、ペルフルオロアルキレン基)が好ましい。
【0054】
(OX)の具体例としては、-OCHF-、-OCF2CHF-、-OCHFCF2-、-OCF2CH2-、-OCH2CF2-、-OCF2CF2CHF-、-OCHFCF2CF2-、-OCF2CF2CH2-、-OCH2CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CH2-、-OCH2CF2CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CF2CH2-、-OCH2CF2CF2CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CF2CF2CH2-、-OCH2CF2CF2CF2CF2CF2-、-OCF2-、-OCF2CF2-、-OCF2CF2CF2-、-OCF(CF3)CF2-、-OCF2CF2CF2CF2-、-OCF(CF3)CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CF2CF2-、-OCF2CF2CF2CF2CF2CF2-、-O-cycloC4F6-、-O-cycloC5F8-、及び-O-cycloC6F10-が挙げられる。
ここで、-cycloC4F6-は、ペルフルオロシクロブタンジイル基を意味する。ペルフルオロシクロブタンジイル基としては、ペルフルオロシクロブタン-1,2-ジイル基、及びペルフルオロシクロブタン-1,3-ジイル基が挙げられる。-cycloC5F8-は、ペルフルオロシクロペンタンジイル基を意味する。ペルフルオロシクロペンタンジイル基としては、ペルフルオロシクロペンタン-1,2-ジイル基、及びペルフルオロシクロペンタン-1,3-ジイル基が挙げられる。-cycloC6F10-は、ペルフルオロシクロヘキサンジイル基を意味する。ペルフルオロシクロヘキサンジイル基としては、ペルフルオロシクロヘキサン-1,2-ジイル基、ペルフルオロシクロヘキサン-1,3-ジイル基、及びペルフルオロシクロヘキサン-1,4-ジイル基が挙げられる。
【0055】
(OX)の繰り返し数mは、2以上の整数であり、2~200の整数がより好ましく、5~150の整数がさらに好ましく、5~100の整数が特に好ましく、10~50の整数が最も好ましい。
【0056】
(OX)mは、2種以上の(OX)を含んでいてもよい。
2種以上の(OX)の結合順序は限定されず、ランダム、交互、及びブロックのいずれに配置されていてもよい。
2種以上の(OX)を含むとは、特定含フッ素化合物中において、炭素数の異なる2種以上の(OX)が存在すること、水素原子数が異なる2種以上の(OX)が存在すること、水素原子の位置が異なる2種以上の(OX)が存在すること、及び、炭素数が同一であっても側鎖の有無や側鎖の種類(例えば、側鎖の数、側鎖の炭素数等)が異なる2種以上の(OX)が存在することをいう。
2種以上の(OX)の配置については、例えば、{(OCF2)m21(OCF2CF
2)m22}で表される構造は、m21個の(OCF2)とm22個の(OCF2CF2)とがランダムに配置されていることを表す。また、(OCF2CF2-OCF2CF2CF2CF2)m25で表される構造は、m25個の(OCF2CF2)とm25個の(OCF2CF2CF2CF2)とが交互に配置されていることを表す。
【0057】
中でも、(OX)mは、[(OCHmaF(2-ma))m11(OC2HmbF(4-mb))m12(OC3HmcF(6-mc))m13(OC4HmdF(8-md))m14(OC5HmeF(10-me))m15(OC6HmfF(12-mf))m16(O-cycloC4HmgF(6-mg))m17(O-cycloC5HmhF(8-mh))m18(O-cycloC6HmiF(10-mi))m19]が好ましい。ここで、-cycloC4HmgF(6-mg)は、フルオロシクロブタン-ジイル基を意味する。フルオロシクロブタン-ジイル基としては、フルオロシクロブタン-1,2-ジイル基、及びフルオロシクロブタン-1,3-ジイル基が挙げられる。-cycloC5HmhF(8-mh)は、フルオロシクロペンタンジイル基を意味する。フルオロシクロペンタンジイル基としては、フルオロシクロペンタン-1,2-ジイル基、及びフルオロシクロペンタン-1,3-ジイル基が挙げられる。-cycloC6HmiF(10-mi)は、フルオロシクロヘキサンジイル基を意味する。フルオロシクロヘキサンジイル基としては、フルオロシクロヘキサン-1,2-ジイル基、フルオロシクロヘキサン-1,3-ジイル基、及びフルオロシクロヘキサン-1,4-ジイル基が挙げられる。
maは0又は1であり、mbは0~3の整数であり、mcは0~5の整数であり、mdは0~7の整数であり、meは0~9の整数であり、mfは0~11の整数であり、mgは0~5の整数であり、mhは0~7の整数であり、miは0~9の整数である。
m11、m12、m13、m14、m15、m16、m17、m18、及びm19は、それぞれ独立に、0以上の整数であり、100以下が好ましい。
m11+m12+m13+m14+m15+m16+m17+m18+m19は2以上の整数であり、2~200の整数がより好ましく、5~150の整数がより好ましく、5~100の整数がさらに好ましく、10~50の整数が特に好ましい。
【0058】
中でも、m12は2以上の整数が好ましく、2~200の整数が特に好ましい。
また、C3HmcF(6-mc)、C4HmdF(8-md)、C5HmeF(10-me)、及びC6HmfF(12-mf)は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、防汚層の耐摩耗性を向上させる観点から、直鎖状が好ましい。
【0059】
なお、上記式は単位の種類とその数を表すものであり、単位の配列を表すものではない。すなわち、m11~m19は単位の数を表すものであり、例えば、(OCHmaF(2-ma))m11は、(OCHmaF(2-ma))単位がm11個連続したブロックを表すものではない。同様に、(OCHmaF(2-ma))~(O-cycloC6HmiF(10-mi))の記載順は、その記載順にそれらが配列していることを表すものではない。
上記式において、m11~m19の2以上が0でない場合(すなわち、(OX)mが2種以上の単位から構成されている場合)、異なる単位の配列は、ランダム配列、交互配列、ブロック配列、及びそれら配列の組合せのいずれであってもよい。
さらに、上記各単位も、また、その単位が2以上含まれている場合、それらの単位は異なっていてもよい。例えば、m11が2以上の場合、複数の(OCHmaF(2-ma))は同一であっても異なっていてもよい。
【0060】
(OX)mは、下記の構造を有することが好ましい。
{(OCF2)m21(OCF2CF2)m22}、
(OCF2CF2)m23、
(OCF2CF2CF2)m24、
(OCF2CF2-OCF2CF2CF2CF2)m25、
(OCF2CF2CF2CF2CF2)m26(OCF2)m27、
(OCF2CF2CF2CF2CF2)m26(OCF2CF2)m27、
(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)m26(OCF2)m27、
(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)m26(OCF2CF2)m27、
(OCF2CF2CF2CF2CF2-OCF2)m28、
(OCF2CF2CF2CF2CF2-OCF2CF2)m28、
(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2-OCF2)m28、
(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2-OCF2CF2)m28、
(OCF2-OCF2CF2CF2CF2CF2)m28、
(OCF2-OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)m28、
(OCF2CF2-OCF2CF2CF2CF2CF2)m28、
(OCF2CF2-OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)m28。
ただし、m21は1以上の整数であり、m22は1以上の整数であり、m21+m22は2~500の整数であり、m23及びm24はそれぞれ独立に、2~500の整数であり、m25は、1~250の整数であり、m26及びm27はそれぞれ独立に、1以上の整数であり、m26+m27は、2~500の整数であり、m28は、1~250の整数である。
【0061】
(OX)mは、特定含フッ素化合物の製造容易性の観点から、下記構造を有することがより好ましい。
{(OCF2)m21(OCF2CF2)m22}、
(OCF2CF2CF2)m24、
(OCF2CF2)2{(OCF2)m21(OCF2CF2)m22-2}、
(OCF2CF2-OCF2CF2CF2CF2)m25-1OCF2CF2、
(OCF2CF2CF2CF2CF2-OCF2)m28、
(OCF2CF2CF2CF2CF2CF2-OCF2)m28、
(OCF2CF2-OCF2CF2CF2CF2CF2)m28-1OCF2CF2、
(OCF2CF2-OCF2CF2CF2CF2CF2CF2)m28-1OCF2CF2。
ただし、m22-2、m25-1、及びm28-1については、1以上の整数となるように、m22、m25、及びm28の数が選択される。
【0062】
中でも、防汚層の耐摩耗性がより優れる点から、(OX)mは、{(OCF2)m21(OCF2CF2)m22}が好ましい。
{(OCF2)m21(OCF2CF2)m22}において、m22/m21は、防汚層の耐摩耗性がより優れる点から、0.1~10が好ましく、0.2~5.0がより好ましく、0.2~2.0がさらに好ましく、0.2~1.5が特に好ましく、0.2~0.85が最も好ましい。
【0063】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖の数平均分子量(Mn)は、1,000~20,000が好ましく、1,500~15,000がより好ましく、2,000~10,000が特に好ましい。
Mnが1,000以上であれば、特定含フッ素化合物の分子鎖の流動性及びフッ素含有量が高くなるので、防汚層の耐摩耗性がより優れる。
【0064】
特定含フッ素化合物は、防汚層の耐摩耗性により優れる点で、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
[A-(OX)m-]jY1[-Si(R)nL3-n]g …(3)
【0065】
式(3)中、Aは、ペルフルオロアルキル基又は-Y2[-Si(R)nL3-n]kであり、Y1は(j+g)価の連結基であり、Y2は(k+1)価の連結基であり、jは1以上の整数であり、gは1以上の整数であり、kは1以上の整数であり、R、L、n、X、及びmの定義は、上述の通りである。
【0066】
ペルフルオロアルキル基中の炭素数は、防汚層の耐摩耗性がより優れる点から、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。
ペルフルオロアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよい。
ただし、Aが-Y2[-Si(R)nL3-n]kである場合、jは1~3が好ましい。
【0067】
ペルフルオロアルキル基としては、例えば、CF3-、CF3CF2-、CF3CF2CF2-、CF3CF2CF2CF2-、CF3CF2CF2CF2CF2-、CF3CF2CF2CF2CF2CF2-、及びCF3CF(CF3)-が挙げられる。
ペルフルオロアルキル基としては、防汚層の撥水性がより優れる点から、CF3-、CF3CF2-、又はCF3CF2CF2-が好ましい。
【0068】
Y2は、(k+1)価の連結基である。
Y2としては、本開示の効果を損なわない基であればよく、例えば、エーテル性酸素原子又は2価のオルガノポリシロキサン残基を有していてもよいアルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子、2~8価のオルガノポリシロキサン残基、及び、後述する式(3-1A)、式(3-1B)、式(3-1A-1)~(3-1A-7)からSi(R)nL3-nを除いた基が挙げられる。
また、Y2は、後述する基(g2-1)~基(g2-14)であってもよい。
【0069】
Y1は、(j+g)価の連結基である。
Y1は、本開示の効果を損なわない基であればよく、例えば、エーテル性酸素原子又は2価のオルガノポリシロキサン残基を有していてもよいアルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子、2~8価のオルガノポリシロキサン残基、及び、後述する式(3-1A)、式(3-1B)、式(3-1A-1)~(3-1A-7)からSi(R)nL3-nを除いた基が挙げられる。
また、Y1は、後述する基(g2-1)~(g2-14)であってもよい。
【0070】
jは、1以上の整数である。防汚層の撥水性がより優れる点から、jは1~6が好ましい。特定含フッ素化合物を製造しやすい点から、jは1が特に好ましい。
【0071】
gは、1以上の整数である。防汚層の耐摩耗性がより優れる点からは、gは、1~15が好ましく、1~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2又は3が特に好ましい。一方で、防汚層の防汚性がより優れる点からは、gは、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
【0072】
kは、1以上の整数である。防汚層の耐摩耗性がより優れる点からは、kは、1~15が好ましく、1~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2又は3が特に好ましい。一方で、防汚層の防汚性がより優れる点からは、kは、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
Aが-Y2[-Si(R)nL3-n]kの場合、防汚層の耐摩耗性がより優れる点からは、k+gは、2~25が好ましく、4~18がより好ましく、6~12が特に好ましい。一方で、防汚層の防汚性がより優れる点からは、k+gは、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2が特に好ましい。
【0073】
化合物(3)が[-Si(R)nL3-n]を複数有する場合、複数の[-Si(R)nL3-n]は同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0074】
化合物(3)としては、防汚層の耐摩耗性がより優れる点から、下式(3-1)で表される化合物及び下式(3-2)で表される化合物が好ましく、下式(3-2)で表される化合物が特に好ましい。
[Rf1-(OX)m-]j1Y10[-Si(R)nL3-n]g1 …(3-1
)
[L3-n(R)nSi-]k2Y12-(OX)m-Y11[-Si(R)nL3-n]g2 …(3-2)
【0075】
式(3-1)中、X、L、R、m、nの定義は、式(3)中の各基の定義と同義である。Y10は、(j1+g1)価の連結基であり、その具体例は式(3)中のY1と同じである。Rf1は、ペルフルオロアルキル基であり、ペルフルオロアルキル基の好適態様及び具体例は上述の通りである。j1及びg1はそれぞれ、式(3)中のj及びgの定義と同義である。
【0076】
式(3-2)中、X、L、R、m、nの定義は、式(3)中の各基の定義と同義である。Y11は、(g2+1)価の連結基であり、その具体例は式(3)中のY1と同じである。Y12は、(k2+1)価の連結基であり、その具体例は式(3)中のY1と同じである。k2及びg2はそれぞれ、式(3)におけるk及びgの定義と同義である。
化合物(3-1)が[Rf1-(OX)m-]を複数有する場合、複数の[Rf1-(OX)m-]は同一であっても異なっていてもよい。化合物(3-1)及び化合物(3-2)が[-Si(R)nL3-n]を複数有する場合、複数の[-Si(R)nL3-n]は同一であっても異なっていてもよい。
【0077】
式(3-1)における-Y10[-Si(R)nL3-n]g1で表される基、並びに、式(3-2)における-Y11[-Si(R)nL3-n]g2で表される基及びY12[-Si(R)nL3-n]k2で表される基はそれぞれ、基(3-1A)又は基(3-1B)が好ましい。
【0078】
-Qa-X31(-Qb-Si(R)nL3-n)h(-R31)i …(3-1A)
-Qc-[CH2C(R32)(-Qd-Si(R)nL3-n)]y-R33 …(3-1B)
なお、式(3-1A)及び式(3-1B)中、R、L、及びnの定義は、上述した通りである。
【0079】
Qaは、単結合又は2価の連結基である。
2価の連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO2-、-N(Rd)-、-C(O)-、-Si(Ra)2-、及びこれらを2種以上組み合わせた基が挙げられる。
上記2価の炭化水素基としては、2価の飽和炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基であってもよい。2価の飽和炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状であってもよく、例えば、アルキレン基が挙げられる。その炭素数は、1~20が好ましい。また、2価の芳香族炭化水素基としては、炭素数5~20のものが好ましく、例えば、フェニレン基が挙げられる。それ以外にも、炭素数2~20のアルケニレン基、炭素数2~20のアルキニレン基であってもよい。
上記Raは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10)又はフェニル基である。上記Rdは、水素原子又はアルキル基(好ましくは炭素数1~10)である。
なお、上記これらを2種以上組み合わせた基としては、例えば、-OC(O)-、-C(O)O-、-C(O)N(Rd)-、-N(Rd)C(O)-、-N(Rd)C(O)N(Rd)-、-N(Rd)C(O)O-、-OC(O)N(Rd)-、-SO2N(Rd)-、-N(Rd)SO2-、-C(O)N(Rd)-を有するアルキレン基、-N(Rd)C(O)-を有するアルキレン基、エーテル性酸素原子を有するアルキレン基、-OC(O)-を有するアルキレン基、-C(O)O-を有するアルキレン基、-SO2N(Rd)-を有するアルキレン基、アルキレン基-Si(Ra)2-フェニレン基-Si(Ra)2が挙げられる。
【0080】
X31は、単結合、アルキレン基、炭素原子、窒素原子、ケイ素原子、2~8価のオルガノポリシロキサン残基、又は(h+i+1)価の環を有する基である。
なお、上記アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基、又はジアルキルシリレン基を有していてもよい。アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基、及びジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を複数有していてもよい。
X31で表されるアルキレン基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10が特に好ましい。
2~8価のオルガノポリシロキサン残基としては、2価のオルガノポリシロキサン残基、及び、後述する(w2+1)価のオルガノポリシロキサン残基が挙げられる。
式(3-1A)中、X31が(h+i+1)価の環を有する基である場合、Qa、(-Qb-Si(R)nL3-n)、及びR31は、該環を構成する原子に直接結合している。ただし、該環はオルガノポリシロキサン環以外の環である。
X31における環は、単環、縮合多環、橋かけ環、スピロ環、及び集合多環のいずれであってもよく、環を構成する原子は、炭素原子のみからなる炭素環でもよく、2価以上の原子価を有するヘテロ原子と炭素原子とからなるヘテロ環でもよい。また、環を構成する原子間の結合は、単結合であってもよく、多重結合であってもよい。さらに、環は芳香族性の環であってもよく、非芳香族性の環であってもよい。
単環としては、4員環~8員環が好ましく、5員環及び6員環がより好ましい。縮合多環としては、4員環~8員環の2以上が縮合した縮合多環が好ましく、5員環及び6員環から選ばれる環の2又は3個結合した縮合多環、並びに5員環及び6員環から選ばれる環の1又は2個と4員環1個が結合した縮合多環がより好ましい。橋かけ環としては、5員環又は6員環を最大の環とする橋かけ環が好ましく、スピロ環としては、4員環~6員環の2つからなるスピロ環が好ましい。集合多環としては、5員環及び6員環から選ばれる環の2又は3個が単結合、炭素原子の1~3個、又は原子価が2若しくは3のヘテロ原子1個を介して結合した集合多環が好ましい。なお、集合多環においては、各環にQa、(-Qb-Si(R)nL3-n)及びR31(i=1以上の場合)のいずれかが結合していることが好ましい。
上記環を構成するヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、及びイオウ原子が好ましく、窒素原子及び酸素原子がより好ましい。環を構成するヘテロ原子の数は3個以下が好ましい。また、環を構成するヘテロ原子の数が2個以上の場合、それらのヘテロ原子は異なっていてもよい。
【0081】
X31における環としては、化合物が製造しやすく、防汚層の耐摩耗性がさらに優れる点から、3~8員環の脂肪族環、ベンゼン環、3~8員環のヘテロ環、これらの環のうちの2又は3個が縮合した縮合多環、5員環又は6員環を最大の環とする橋かけ環、及び、これらの環のうちの2つ以上を有し、連結基が単結合、炭素数3以下のアルキレン基、酸素原子又は硫黄原子である集合多環からなる群から選ばれる1種が好ましい。
好ましい環は、ベンゼン環、5員又は6員の脂肪族環、窒素原子又は酸素原子を有する5員又は6員のヘテロ環、及び、5員又は6員の炭素環と4~6員のヘテロ環との縮合多環である。
具体的な環としては、以下に示す環と、1,3-シクロヘキサジエン環、1,4-シクロヘキサジエン環、アントラセン環、シクロプロパン環、デカヒドロナフタレン環、ノルボルネン環、ノルボルナジエン環、フラン環、ピロール環、チオフェン環、ピラジン環、モルホリン環、アジリジン環、イソキノリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラン環、ピリダジン環、ピリミジン環、及びインデン環が挙げられる。なお、以下には、オキソ基(=O)を有する環も示す。
【0082】
【0083】
X31における環を構成する原子の環を構成しない結合手は、Qa、(-Qb-Si(R)nL3-n)又はR31に結合する結合手である。残余の結合手がある場合には、残余の結合手は、水素原子又は置換基に結合している。該置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基(炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を含んでいてもよい。)、シクロアルキル基、アルケニル基、アリル基、アルコキシ基、オキソ基(=O)等が挙げられる。
また、環を構成する炭素原子の1個が、Qa、(-Qb-Si(R)nL3-n)又はR31に結合する結合手を2つ有する場合、その1個の炭素原子にQaと(-Qb-Si(R)nL3-n)とが結合していてもよく、2つの(-Qb-Si(R)nL3-n)が結合していてもよい。Qaと、(-Qb-Si(R)nL3-n)又はR31とは別の環構成原子に結合していることが好ましい。h個の(-Qb-Si(R)nL3-n)はそれぞれ別個の環構成原子に結合してもよく、そのうちの2個は1個の環構成炭素原子に結合してもよく、さらに2個の(-Qb-Si(R)nL3-n)が結合した環構成炭素原子は2個以上存在してもよい。i個のR31はそれぞれ別個の環構成原子に結合してもよく、そのうちの2個は1個の環構成炭素原子に結合してもよく、さらに2個のR31が結合した環構成炭素原子は2個以上存在してもよい。
【0084】
Qbは、単結合又は2価の連結基である。
2価の連結基の定義は、上述したQaで説明した定義と同義である。
【0085】
R31は、水素原子、水酸基又はアルキル基である。
アルキル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1が特に好ましい。
【0086】
X31が単結合又はアルキレン基の場合、hは1、iは0であり、
X31が窒素原子の場合、hは1~2の整数であり、iは0~1の整数であり、h+i=2を満たし、
X31が炭素原子又はケイ素原子の場合、hは1~3の整数であり、iは0~2の整数であり、h+i=3を満たし、
X31が2~8価のオルガノポリシロキサン残基の場合、hは1~7の整数であり、iは0~6の整数であり、h+i=1~7を満たす。
X31が(h+i+1)価の環を有する基の場合、hは1~7の整数であり、iは0~6の整数であり、h+i=1~7を満たす。
(-Qb-Si(R)nL3-n)が2個以上ある場合は、2個以上の(-Qb-Si(R)nL3-n)は、同一であっても異なっていてもよい。R31が2個以上ある場合は、2個以上の(-R31)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0087】
Qcは、単結合又は2価の連結基である。
2価の連結基の定義は、上述したQaで説明した定義と同義である。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0088】
R32は、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0089】
Qdは、単結合又はアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。化合物を製造しやすい点から、Qdは、単結合又はCH2-が好ましい。
【0090】
R33は、水素原子又はハロゲン原子であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
【0091】
yは、1~10の整数であり、1~6の整数が好ましい。
2個以上の[CH2C(R32)(-Qd-Si(R)nL3-n)]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0092】
基(3-1A)としては、基(3-1A-1)~(3-1A-7)が好ましい。
-(X32)s1-Qb1-Si(R)nL3-n …(3-1A-1)
-(X33)s2-Qa2-N[-Qb2-Si(R)nL3-n]2 …(3-1A-2)
-Qa3-Si(Rg)[-Qb3-Si(R)nL3-n]2 …(3-1A-3)
-[Qe]s4-Qa4-(O)t4-C[-(O)u4-Qb4-Si(R)nL3-n]3-w1(-R31)w1 …(3-1A-4)
-Qa5-Si[-Qb5-Si(R)nL3-n]3 …(3-1A-5)
-[Qe]v-Qa6-Za[-Qb6-Si(R)nL3-n]w2 …(3-1A-6)
-[Qe]s4-Qa4-(O)t4-Zc[-(O-Qb4)u4-Si(R)nL3-n]w3(-OH)w4 …(3-1A-7)
なお、式(3-1A-1)~(3-1A-7)中、R、L、及びnの定義は、上述した通りである。
【0093】
基(3-1A-1)において、X32は、-O-、-C(O)O-、-SO2N(Rd)-、-N(Rd)SO2-、-N(Rd)C(O)-、又は-C(O)N(Rd)-である(ただし、式中のNはQb1に結合する)。
Rdの定義は、上述した通りである。
s1は、0又は1である。
【0094】
Qb1は、アルキレン基である。なお、アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基、又はジアルキルシリレン基を有していてもよい。アルキレン基は、-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基、及びジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を複数有していてもよい。
なお、アルキレン基が-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基、又はジアルキルシリレン基を有する場合、炭素原子-炭素原子間にこれらの基を有することが好ましい。
Qb1で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0095】
Qb1としては、s1が0の場合は、-CH2OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2OCH2CH2CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2CH2Si(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2-が好ましい。(X32)s1が-O-の場合は、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2CH2-が好ましい。(X32)s1が-C(O)N(Rd)-の場合は、炭素数2~6のアルキレン基が好ましい(ただし、式中のNはQb1に結合する)。Qb1がこれらの基であると化合物が製造しやすい。
【0096】
基(3-1A-1)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0097】
【0098】
基(3-1A-2)において、X33は、-O-、-NH-、-C(O)O-、-OC(O)-、-SO2N(Rd)-、-N(Rd)SO2-、-N(Rd)C(O)-、-OC(O)N(Rd)-、又は-C(O)N(Rd)-である。
Rdの定義は、上述した通りである。
【0099】
Qa2は、単結合、アルキレン基、-C(O)-、又は、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-C(O)N(Rd)-、-N(Rd)C(O)-、-N(Rd)C(O)N(Rd)-、-N(Rd)C(O)O-、-OC(O)N(Rd)-、-SO2N(Rd)-、-N(Rd)SO2-、-C(O)N(Rd)-、若しくは-NH-を有する基である。
Qa2で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。
Qa2で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-C(O)N(Rd)-、-N(Rd)C(O)-、-N(Rd)C(O)N(Rd)-、-N(Rd)C(O)O-、-OC(O)N(Rd)-、-SO2N(Rd)-、-N(Rd)SO2-、-C(O)N(Rd)-、又は-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0100】
Qa2は、化合物を製造しやすい点から、-CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2-、-CH2NHCH2CH2-、-CH2OC(O)CH2CH2-、又は-C(O)-が好ましい。
【0101】
s2は、0又は1(ただし、Qa2が単結合の場合は0である。)である。化合物を製造しやすい点から、0が好ましい。
【0102】
Qb2は、アルキレン基、又は、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子、若しくは-NH-を有する基である。
Qb2で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb2で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子、又は-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0103】
Qb2としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0104】
2個の[-Qb2-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0105】
基(3-1A-2)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0106】
【0107】
基(3-1A-3)において、Qa3は、単結合、又は、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基であり、化合物を製造しやすい点から、単結合が好ましい。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0108】
Rgは、水素原子、水酸基、又はアルキル基である。Rgで表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましい。
【0109】
Qb3は、アルキレン基、又は、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子若しくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
Qb3で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb3で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子又は2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb3は、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、又は-CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2-が好ましい。
【0110】
2個の[-Qb3-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0111】
基(3-1A-3)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0112】
【0113】
基(3-1A-4)において、Qeは、-C(O)O-、-OC(O)-、-SO2N(Rd)-、-N(Rd)SO2-、-N(Rd)C(O)-、-OC(O)N(Rd)-、又は-C(O)N(Rd)-である。
R31の定義は、上述した通りである。
s4は、0又は1である。
Qa4は、単結合、又は、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基である。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
t4は、0又は1(ただし、Qa4が単結合の場合は0である。)である。
-Qa4-(O)t4-としては、化合物を製造しやすい点から、s4が0の場合は、単結合、-CH2O-、-CH2OCH2-、-CH2OCH2CH2O-、-CH2OCH2CH2OCH2-、-CH2OCH2CH2CH2CH2OCH2-が好ましく(ただし、左側が(OX)mに結合する。)、s4が1の場合は、単結合、-CH2-、-CH2CH2-が好ましい。
【0114】
Qb4は、アルキレン基であり、上記アルキレン基は-O-、-C(O)N(Rd)-(Rdの定義は、上述した通りである。)、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基、又はジアルキルシリレン基を有していてもよい。
なお、アルキレン基が-O-又はシルフェニレン骨格基を有する場合、炭素原子-炭素原子間に-O-又はシルフェニレン骨格基を有することが好ましい。また、アルキレン基が-C(O)N(Rd)-、ジアルキルシリレン基、又は2価のオルガノポリシロキサン残基を有する場合、炭素原子-炭素原子間又は(O)u4と結合する側の末端にこれらの基を有することが好ましい。
Qb4で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0115】
u4は、0又は1である。
-(O)u4-Qb4-としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2CH2CH2CH2-、-OCH2CH2CH2-、-OSi(CH3)2CH2CH2CH2-、-OSi(CH3)2OSi(CH3)2CH2CH2CH2-、-CH2CH2CH2Si(CH3)2PhSi(CH3)2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0116】
w1は、0~2の整数であり、0又は1が好ましく、0が特に好ましい。
[-(O)u4-Qb4-Si(R)nL3-n]が2個以上ある場合は、2個以上の[-(O)u4-Qb4-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
R31が2個以上ある場合は、2個以上の(-R31)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0117】
基(3-1A-4)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0118】
【0119】
【0120】
基(3-1A-5)において、Qa5は、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基である。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qa5としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2OCH2CH2CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0121】
Qb5は、アルキレン基、又は、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子若しくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
Qb5で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb5で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子又は2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb5としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2CH2-、-CH2CH2OCH2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がSi(R)nL3-nに結合する。)。
【0122】
3個の[-Qb5-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0123】
基(3-1A-5)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0124】
【0125】
基(3-1A-6)中のQeの定義は、上述の基(3-1A-4)において定義した通りである。
vは、0又は1である。
【0126】
Qa6は、エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基である。
エーテル性酸素原子を有していてもよいアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qa6としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2OCH2CH2CH2-、-CH2OCH2CH2OCH2CH2CH2-、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-が好ましい(ただし、右側がZaに結合する。)。
【0127】
Zaは、(w2+1)価のオルガノポリシロキサン残基である。
w2は、2~7の整数である。
(w2+1)価のオルガノポリシロキサン残基としては、下記の基が挙げられる。ただし、下式におけるRaは、上述の通りである。
【0128】
【0129】
Qb6は、アルキレン基、又は、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子若しくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
Qb6で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb6で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子又は2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
Qb6としては、化合物を製造しやすい点から、-CH2CH2-、-CH2CH2CH2-が好ましい。
w2個の[-Qb6-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
基(3-1A-6)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0130】
【0131】
基(3-1A-7)において、Zcは(w3+w4+1)価の炭化水素基である。
w3は、4以上の整数である。
w4は、0以上の整数である。
Qe、s4、Qa4、t4、Qb4、及びu4の定義及び好ましい範囲は基(3-1A-4)中の各符号の定義と同じである。
【0132】
Zcは炭化水素鎖からなってもよく、炭化水素鎖の炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよく、炭化水素鎖からなることが好ましい。
Zcの価数は5~10価が好ましく、5~8価がより好ましく、5~6価がさらに好ましい。
Zcの炭素数は7~50が好ましく、10~40がより好ましく、15~30がさらに好ましい。
w3は、4~10が好ましく、4~8がより好ましく、4~5がさらに好ましい。
w4は、0~10が好ましく、0~8がより好ましく、0がさらに好ましい。
[-(O-Qb4)u4-Si(R)nL3-n]が2個以上ある場合は、2個以上の[-(O-Qb4)u4-Si(R)nL3-n]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0133】
基(3-1A-7)の具体例としては、以下の基が挙げられる。下記式中、*は、(OX)mとの結合位置を表す。
【0134】
【0135】
式(3-1)におけるY10は、基(g2-1)(ただし、j1=d1+d3、g1=d2+d4である。)、基(g2-2)(ただし、j1=e1、g1=e2である。)、基(g2-3)(ただし、j1=1、g1=2である。)、基(g2-4)(ただし、j1=h1、g1=h2である。)、基(g2-5)(ただし、j1=i1、g1=i2である。)、基(g2-6)(ただし、j1=1、g1=1である。)、又は基(g2-7)(ただし、j1=1、g1=i3である。)であってもよい。
また、式(3-2)におけるY11及びY12はそれぞれ独立に、基(g2-1)(ただし、g2=d2+d4、k2=d2+d4である。)、基(g2-2)(ただし、g2=e2、k2=e2である。)、基(g2-3)(ただし、g2=2、k2=2である。)、基(g2-4)(ただし、g2=h2、k2=h2である。)、基(g2-5)(ただし、g2=i2、k2=i2である。)、基(g2-6)(ただし、g2=1、k2=1である。)、又は基(g2-7)(ただし、g2=i3、k2=i3である。)であってもよい。
【0136】
【0137】
(-A1-Q12-)e1C(Re2)4-e1-e2(-Q22-)e2 …(g2-2)
-A1-Q13-N(-Q23-)2 …(g2-3)
(-A1-Q14-)h1Z1(-Q24-)h2 …(g2-4)
(-A1-Q15-)i1Si(Re3)4-i1-i2(-Q25-)i2 …(g2-5)
-A1-Q26- (g2-6)
-A1-Q12-CH(-Q22-)-Si(Re3)3-i3(-Q25-)i3
…(g2-7)
【0138】
ただし、式(g2-1)~(g2-7)においては、A1側が(OX)mに接続し、Q22、Q23、Q24、Q25、又はQ26側が[-Si(R)nL3-n]に接続する。
A1は、単結合、-C(O)NR6-、-C(O)-、-OC(O)O-、-NHC(O)O-、-NHC(O)NR6-、-O-、又はSO2NR6-である。
Q11は、単結合、-O-、アルキレン基、又は炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基である。
Q12は、単結合、アルキレン基、又は炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基であり、Y10、Y11、又はY12がQ12を2以上有する場合、2以上のQ12は同一であっても異なっていてもよい。
Q13は、単結合(ただし、A1は-C(O)-である。)、アルキレン基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、若しくはO-を有する基、又はアルキレン基のN側の末端に-C(O)-を有する基である。
Q14は、Q14が結合するZ1における原子が炭素原子の場合、Q12であり、Q14が結合するZ1における原子が窒素原子の場合、Q13であり、Y10、Y11、又は
Y12がQ14を2以上有する場合、2以上のQ14は同一であっても異なっていてもよい。
Q15は、アルキレン基、又は炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基であり、Y10、Y11、又はY12がQ15を2以上有する場合、2以上のQ15は同一であっても異なっていてもよい。
Q22は、アルキレン基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基、アルキレン基のSiに接続しない側の末端に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基、又は炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有しかつSiに接続しない側の末端に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基であり、Y10、Y11、又はY12がQ22を2以上有する場合、2以上のQ22は同一であっても異なっていてもよい。
Q23は、アルキレン基、又は炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基であり、2個のQ23は同一であっても異なっていてもよい。
Q24は、Q24が結合するZ1における原子が炭素原子の場合、Q22であり、Q24が結合するZ1における原子が窒素原子の場合、Q23であり、Y10、Y11、又はY12がQ24を2以上有する場合、2以上のQ24は同一であっても異なっていてもよい。
Q25は、アルキレン基、又は炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基であり、Y10、Y11、又はY12がQ25を2以上有する場合、2以上のQ25は同一であっても異なっていてもよい。
Q26は、アルキレン基、又は炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、又はO-を有する基である。
Z1は、Q14が直接結合する炭素原子又は窒素原子を有しかつQ24が直接結合する炭素原子又は窒素原子を有するh1+h2価の環構造を有する基である。
Re1は、水素原子又はアルキル基であり、Y10、Y11、又はY12がRe1を2以上有する場合、2以上のRe1は同一であっても異なっていてもよい。
Re2は、水素原子、水酸基、アルキル基、又はアシルオキシ基である。
Re3は、アルキル基である。R6は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基である。
【0139】
d1は、0~3の整数であり、1又は2が好ましい。d2は、0~3の整数であり、1又は2が好ましい。d1+d2は、1~3の整数である。
d3は、0~3の整数であり、0又は1が好ましい。d4は、0~3の整数であり、2又は3が好ましい。d3+d4は、1~3の整数である。
d1+d3は、Y10においては1~5の整数であり、1又は2が好ましく、Y11及びY12においては1である。
d2+d4は、Y10においては1~5の整数であり、4又は5が好ましく、Y11及びY12においては3~5の整数であり、4又は5が好ましい。
e1+e2は、3又は4である。e1は、Y10においては1~3の整数であり、1又は2が好ましく、Y11及びY12においては1である。e2は、Y10においては1~3の整数であり、2又は3が好ましく、Y11及びY12においては2又は3である。
h1は、Y10においては1以上の整数であり、1又は2が好ましく、Y11及びY12においては1である。h2は、1以上の整数であり、2又は3が好ましい。
i1+i2は、3又は4である。i1は、Y10においては1~3の整数であり、1又は2が好ましく、Y11及びY12においては1である。i2は、Y10においては1~3の整数であり、2又は3が好ましく、Y11及びY12においては2又は3である。
i3は、2又は3である。
【0140】
Q11、Q12、Q13、Q14、Q15、Q22、Q23、Q24、Q25、及びQ26のアルキレン基の炭素数は、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を製造しやすい点、及び防汚層の耐摩耗性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~4が特に好ましい。ただし、炭素原子-炭素原子間に特定の結合を有する場合のアルキレン基の炭素数の下限値は2である。
【0141】
Z1における環構造としては、上述した環構造が挙げられ、好ましい形態も同様である。なお、Z1における環構造にはQ14やQ24が直接結合するため、例えば、環構造にアルキレン基が連結して、そのアルキレン基にQ14やQ24が連結することはない。
【0142】
Re1、Re2、又はRe3のアルキル基の炭素数は、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を製造しやすい点から、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
Re2のアシルオキシ基のアルキル基部分の炭素数は、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を製造しやすい点から、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
h1は、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を製造しやすい点、並びに、防汚層の耐摩耗性がさらに優れる点から、1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1又は2がさらに好ましく、1が特に好ましい。
h2としては、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を製造しやすい点、並びに、防汚層の耐摩耗性がさらに優れる点から、2~6が好ましく、2~4がより好ましく、2又は3が特に好ましい。
【0143】
Y10の他の形態としては、基(g2-8)(ただし、j1=d1+d3、g1=d2×k3+d4×k3である。)、基(g2-9)(ただし、j1=e1、g1=e2×k3である。)、基(g2-10)(ただし、j1=1、g1=2×k3である。)、基(g2-11)(ただし、j1=h1、g1=h2×k3である。)、基(g2-12)(ただし、j1=i1、g1=i2×k3である。)、基(g2-13)(ただし、j1=1、g1=k3である。)、又は基(g2-14)(ただし、j1=1、g1=i3×k3である。)が挙げられる。
Y11及びY12の他の形態としては、基(g2-8)(ただし、k2=d2×k3、g2=d4×k3である。)、基(g2-9)(ただし、k2=e2×k3、g2=e2×k3である。)、基(g2-10)(ただし、k2=2×k3、g2=2×k3である。)、基(g2-11)(ただし、k2=h2×k3、g2=h2×k3である。)、基(g2-12)(ただし、k2=i2×k3、g2=i2×k3である。)、基(g2-13)(ただし、k2=k3、g2=k3である。)、又は基(g2-14)(ただし、k2=i3×k3、g2=i3×k3である。)が挙げられる。
【0144】
【0145】
(-A1-Q12-)e1C(Re2)4-e1-e2(-Q22-G1)e2 …(g2-9)
-A1-Q13-N(-Q23-G1)2 …(g2-10)
(-A1-Q14-)h1Z1(-Q24-G1)h2 …(g2-11)
(-A1-Q15-)i1Si(Re3)4-i1-i2(-Q25-G1)i2 …(g2-12)
-A1-Q26-G1 …(g2-13)
-A1-Q12-CH(-Q22-G1)-Si(Re3)3-i3(-Q25-G1)i3 …(g2-14)
【0146】
ただし、式(g2-8)~(g2-14)においては、A1側が(OX)mに接続し、G1側が[-Si(R)nL3-n]に接続する。G1は、基(g3)であり、Y10、Y11、又はY12が有する2以上のG1は同一であっても異なっていてもよい。G1以外の符号は、式(g2-1)~(g2-7)における符号と同じである。
-Si(R8)3-k3(-Q3-)k3 …(g3)
ただし、式(g3)においては、Si側がQ22、Q23、Q24、Q25、及びQ26に接続し、Q3側が[-Si(R)nL3-n]に接続する。R8は、アルキル基である。Q3は、アルキレン基、炭素数2以上のアルキレン基の炭素原子-炭素原子間に-C(O)NR6-、-C(O)-、-NR6-、若しくは-O-を有する基、又は(OSi(R9)2)p-O-であり、2以上のQ3は同一であっても異なっていてもよい。k3は、2又は3である。R6は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基である。R9は、アルキル基、フェニル基、又はアルコキシ基であり、2個のR9は同一であっても異なっていてもよい。pは、0~5の整数であり、pが2以上の場合、2以上の(OSi(R9)2)は同一であっても異なっていてもよい。
【0147】
Q3のアルキレン基の炭素数は、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を製造しやすい点、並びに、防汚層の耐摩耗性がさらに優れる点から、1~10が好ましく、1~6がより好ましく、1~4が特に好ましい。ただし、炭素原子-炭素原子間に特定の結合を有する場合のアルキレン基の炭素数の下限値は2である。
R8のアルキル基の炭素数は、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を製造しやすい点から、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
R9のアルキル基の炭素数は、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を製造しやすい点から、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
R9のアルコキシ基の炭素数は、化合物(3-1)及び化合物(3-2)の保存安定性に優れる点から、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
pは、0又は1が好ましい。
【0148】
化合物(3-1)及び化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。下式の化合物は、工業的に製造しやすく、取扱いやすく、防汚層の耐摩耗性がさらに優れる点から好ましい。下式の化合物におけるRf及びQfはそれぞれ、上述した式(3-1)における[Rf1-(OX)m-]及び式(3-2)における-(OX)m-と同様であり、好ましい形態も同様である。
【0149】
Y10が基(g2-1)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0150】
【0151】
Y10が基(g2-2)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0152】
【0153】
【0154】
Y10が基(g2-3)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0155】
【0156】
Y10が基(g2-4)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0157】
【0158】
Y10が基(g2-5)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0159】
【0160】
Y10が基(g2-6)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0161】
【0162】
Y10が基(g2-7)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0163】
【0164】
Y10が基(g2-8)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0165】
【0166】
Y10が基(g2-9)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0167】
【0168】
Y10が基(g2-10)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0169】
【0170】
Y10が基(g2-11)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0171】
【0172】
【0173】
Y10が基(g2-12)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0174】
【0175】
Y10が基(g2-13)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0176】
【0177】
Y10が基(g2-14)である化合物(3-1)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0178】
【0179】
Y11及びY12が基(g2-1)である化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0180】
【0181】
Y11及びY12が基(g2-2)である化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0182】
【0183】
【0184】
Y11及びY12が基(g2-3)である化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0185】
【0186】
Y11及びY12が基(g2-4)である化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0187】
【0188】
Y11及びY12が基(g2-5)である化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0189】
【0190】
Y11及びY12が基(g2-6)である化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0191】
【0192】
Y11及びY12が基(g2-7)である化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0193】
【0194】
Y11及びY12が基(g2-9)である化合物(3-2)としては、例えば、下式の化合物が挙げられる。
【0195】
【0196】
特定含フッ素化合物の具体例としては、下記の文献に記載のものが挙げられる。
特開平11-029585号公報に記載のパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン。
特許第2874715号公報に記載のケイ素含有有機含フッ素ポリマー。
特開2000-144097号公報に記載の有機ケイ素化合物。
特開2000-327772号公報に記載のパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン。
特表2002-506887号公報に記載のフッ素化シロキサン。
特表2008-534696号公報に記載の有機シリコーン化合物。
特許第4138936号公報に記載のフッ素化変性水素含有重合体。
米国特許出願公開第2010/0129672号明細書、国際公開第2014/126064号、特開2014-070163号公報に記載の化合物。
国際公開第2011/060047号、国際公開第2011/059430号に記載のオルガノシリコン化合物。
国際公開第2012/064649号に記載の含フッ素オルガノシラン化合物。
特開2012-72272号公報に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー。
国際公開第2013/042732号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121985号、国際公開第2013/121986号、国際公開第2014/163004号、特開2014-080473号公報、国際公開第2015/087902号、国際公開第2017/038830号、国際公開第2017/038832号、国際公開第2017/187775号に記載の含フッ素エーテル化合物。
特開2014-218639号公報、国際公開第2017/022437号、国際公開第2018/079743号、国際公開第2018/143433号に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル含有シラン化合物。
特開2015-199906号公報、特開2016-204656号公報、特開2016-210854号公報、特開2016-222859号公報に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン。
国際公開第2018/216630号、国際公開第2019/039226号、国際公開第2019/039341号、国際公開第2019/039186号、国際公開第2019/044479号、特開2019-44158号公報、特願2017-251611に記載の含フッ素エーテル化合物。
【0197】
特定含フッ素化合物は市販品を用いてもよい。市販品としては、信越化学工業社製のKY-100シリーズ(KY-178、KY-185、KY-195等)、AGC社製のAfluid(登録商標)S550、ダイキン工業社製のオプツール(登録商標)DSX、オプツール(登録商標)AES、オプツール(登録商標)UF503、オプツール(登録商標)UD509、オプツール(登録商標)UD120等が挙げられる。
【0198】
特定含フッ素化合物の数平均分子量(Mn)は、1,000~20,000が好ましく、2,000~18,000がより好ましく、3,000~15,000が特に好ましい。
Mnが1,000以上であれば、特定含フッ素化合物の分子鎖の流動性及びフッ素含有量が高くなるので、特定含フッ素化合物の防汚性がより優れる。Mnが20,000以下であれば、粘性を適切な範囲内に調節しやすく、また溶解性が向上するので、成膜時のハンドリング性が優れる。
【0199】
防汚層の表面、つまり防汚層におけるプライマー部位とは反対側の面における水の接触角は、防汚性の観点から、100度以上が好ましく、105度以上がより好ましい。
水の接触角は、測定対象である表面に約2μLの蒸留水を垂らし、接触角測定装置(製品名「DM-500」、協和界面科学社製)を用いて測定する。測定対象である表面の5箇所で測定を行い、その平均値を算出する。接触角の算出には2θ法を用いる。以下同様である。
【0200】
本開示の積層体は、基材とプライマー部位と防汚層とを少なくとも有していればよく、基材、プライマー部位、及び防汚層以外の他の部材を有してもよい。
【0201】
[積層体の製造方法]
本開示の積層体の製造方法は、表面の少なくとも一部が金属である基材の表面に、多価ホスホン酸化合物と溶剤とを含む液状組成物を塗布し、塗布された液状組成物から溶剤を除去することで、基材の表面における金属の少なくとも一部に接する第1の部位を得ること(以下「第1の部位形成工程」ともいう)と、第1の部位が設けられた基材の表面に、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と反応性シリル基とを有する化合物を含む組成物を用いて、第1の部位から得られるプライマー部位に接する防汚層を形成すること(以下「防汚層形成工程」ともいう)と、を含む。
本開示の積層体の製造方法では、第1の部位形成工程を経た後に防汚層形成工程を経ることで、第1の部位が特定含フッ素化合物の反応性シリル基と反応して前述のプライマー部位となり、プライマー部位に接する前述の防汚層が形成される。なお、基材、多価ホスホン酸化合物、及び特定含フッ素化合物の詳細は、前述の通りである。
【0202】
本開示の積層体の製造方法は、必要に応じて他の工程をさらに含んでもよい。他の工程としては、例えば、第1の部位形成工程の前に、基材の表面を処理することで、基材の表面における水の接触角を下げる基材表面処理工程等が挙げられる。
【0203】
(基材表面処理工程)
基材表面処理工程は、必要に応じて第1の部位形成工程の前に行われる。基材表面処理工程により基材の表面における水の接触角を下げることで、その後に行われる第1の部位形成工程において液状組成物が基材の表面に付着しやすくなる。そして、液状組成物が基材の表面に付着しやすくなることで、第1の部位が形成されやすく、表面における耐摩耗性が高い積層体が得られやすくなる。
基材表面処理工程における基材の表面の処理は、表面における水の接触角が下がる処理であれば特に限定されず、湿式処理であってもよく、乾式処理であってもよい。
【0204】
湿式処理としては、液状の洗浄剤による洗浄が挙げられ、超音波洗浄機を用いた洗浄、液状の洗浄剤を含浸させた織布、不織布、紙、多孔質基材等での拭き上げによる洗浄等が挙げられる。液状の洗浄剤による洗浄を行った後に、前記洗浄剤を除去する工程を経てもよい。液状の洗浄剤としては、アセトン等の有機溶剤、アルカリ洗浄剤、中性洗浄剤、フッ素系溶剤等が挙げられる。
乾式処理としては、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0205】
(第1の部位形成工程)
第1の部位形成工程では、基材の表面に、多価ホスホン酸化合物と溶剤とを含む液状組成物を塗布し、塗布された液状組成物から溶剤を除去することで、基材の表面における金属の少なくとも一部に接する第1の部位を得る。以下、多価ホスホン酸化合物と溶剤とを含む液状組成物を「第1の組成物」ともいい、第1の組成物に含まれる溶剤を「第1の溶剤」ともいう。
ここで、第1の部位が設けられる前における基材の表面における水の接触角は、表面における耐摩耗性が高い積層体を得る観点から、70度未満が好ましく、60度以下がより好ましく、40度以下がさらに好ましい。基材の表面における水の接触角の下限値は、特に限定されず、例えば5度が挙げられる。
準備した基材の表面における水の接触角が所望の値よりも大きい場合は、基材表面処理工程を経ることで水の接触角を上記範囲内とした上で、第1の部位の形成を行ってもよい。一方、準備した基材の表面における水の接触角が所望の値である場合は、基材表面処理工程を経ずに、第1の部位の形成を行ってもよい。
【0206】
第1の部位形成工程に用いる第1の組成物は、多価ホスホン酸化合物と第1の溶剤とを含み、必要に応じて他の成分を含んでもよい。他の成分としては、浸透剤、ホスホン酸と塩を形成しうる化合物等が挙げられる。第1の組成物全体に占める多価ホスホン酸化合物及び第1の溶剤の合計含有率は、積層体の表面における耐摩耗性向上及び外観不良抑制の観点から、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0207】
第1の組成物における多価ホスホン酸化合物の含有率は、積層体の表面における耐摩耗性向上の観点から、0.3質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。第1の組成物における多価ホスホン酸化合物の含有率の上限値は、特に限定されるものではなく、例えば30質量%が挙げられる。
【0208】
第1の溶剤は、多価ホスホン酸化合物の溶解性に優れる観点から極性溶剤が好ましい。第1の溶剤は、1種の化合物の単体からなってもよく、2種以上の化合物からなる混合溶剤であってもよい。
第1の溶剤としては、水、極性有機溶剤が挙げられる。
極性有機溶剤としては、アルコール系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エステル系有機溶剤、塩素系有機溶剤等が挙げられる。
【0209】
アルコール系有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)等が挙げられる。
ケトン系有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
エステル系有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
塩素系有機溶剤としては、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、(Z)-1,2-ジクロロエチレン、(E)-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン等が挙げられる。
【0210】
第1の溶剤は、これらのなかでも、多価ホスホン酸化合物の溶解性に優れる観点及び基材の表面における濡れ広がりやすさの観点から、水、アルコール系有機溶剤が好ましく、水、イソプロパノールがより好ましく、イソプロパノールがさらに好ましい。
【0211】
第1の組成物は、他の界面活性剤を実質的に含有しないことが好ましい。他の界面活性剤を実質的に含有しないとは、第1の組成物全体に対する他の界面活性剤の含有率が1質量%以下であることを意味する。第1の組成物が他の界面活性剤を実質的に含有しないことで、プライマー部位に残留する他の界面活性剤の作用により第2の組成物が付与されにくくなることが抑制され、防汚性及び耐摩耗性の高い積層体が得られやすくなる。第1の組成物全体に対する他の界面活性剤の含有率は、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましい。プライマー部位に他の界面活性剤が残留することを抑制する観点から、特にポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる界面活性剤を実質的に含有しないことが好ましい。
【0212】
第1の組成物は、上記各成分を混合することで製造できる。
第1の組成物を基材の表面に塗布する方法としては、公知の手法が挙げられ、具体的には、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。また、塗布方法は、手塗り、刷毛塗り等の簡易な方法であってもよい。
【0213】
基材の表面に塗布された第1の組成物から第1の溶剤を除去する方法としては、第1の組成物が塗布された基材を静置する方法等が挙げられる。基材の静置は、例えば、温度10~40℃、湿度5~95%、圧力0.01~0.1MPaの環境下で、1~60分間行われる。
第1の溶剤の除去では、基材の表面に塗布された第1の組成物に含まれる第1の溶剤の少なくとも一部が除去されればよく、第1の溶剤がすべて除去されていてもよい。
【0214】
第1の部位形成工程において形成された第1の部位の厚さとしては、例えば200nm以下が挙げられ、3~200nmであってもよく、5~80nm以下であってもよい。つまり、積層体におけるプライマー部位の厚さとしては、例えば200nm以下が挙げられ、3~200nmであってもよく、5~80nmであってもよい。
第1の部位又はプライマー部位の厚さは、例えば薄膜解析用X線回折計ATXG(RIGAKU社製)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、該干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0215】
(防汚層形成工程)
防汚層形成工程では、第1の部位が設けられた基材の表面に、特定含フッ素化合物を含む組成物を用いて、第1の部位から得られるプライマー部位に接する防汚層を形成する。以下、特定含フッ素化合物を含む組成物を「第2の組成物」ともいう。防汚層は、下記の方法で形成できる。
・特定含フッ素化合物からなる第2の組成物又は特定含フッ素化合物と特定含フッ素化合物以外の成分とを含む第2の組成物を用いたドライコーティング法によって、第1の部位が設けられた基材の表面を処理し、任意に後述する後処理を行い、防汚層を得る方法。
・ウェットコーティング法によって第2の組成物を第1の部位が設けられた基材の表面に塗布し、乾燥させて、任意に後述する後処理を行い、防汚層を得る方法。
【0216】
ドライコーティング法としては、真空蒸着、CVD、スパッタリング等の手法が挙げられる。特定含フッ素化合物の分解を抑える点、及び装置の簡便さの点から、真空蒸着が好適に利用できる。真空蒸着時には、鉄や鋼等の金属多孔体に、第2の溶剤を含む第2の組成物を含浸させたペレット状物質を使用してもよい。ペレット状物質は、第2の溶剤を含む第2の組成物を金属多孔体に含浸させた後、乾燥により第2の溶剤を除去したものであってもよい。
真空蒸着法は、抵抗加熱法、電子ビーム加熱法、高周波誘導加熱法、反応性蒸着、分子線エピタキシー法、ホットウォール蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法等に細分できるが、いずれの方法も適用できる。特定含フッ素化合物の分解を抑制する点、及び装置の簡便さの点から、抵抗加熱法が好適に利用できる。真空蒸着装置は特に制限なく、公知の装置が利用できる。
【0217】
ウェットコーティング法としては、例えば、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法が挙げられる。
【0218】
後処理としては、積層体の摩擦に対する耐久性を向上させるために行う、特定含フッ素化合物と第1の部位との反応を促進するための操作が挙げられる。該操作としては、加熱、加湿、光照射等が挙げられる。
【0219】
また、後処理としては、第1の部位から得られるプライマー部位と化学結合していない特定含フッ素化合物を、除去する操作も挙げられる。プライマー部位と化学結合していない特定含フッ素化合物を除去する具体的な方法としては、例えば、溶剤、例えば第2の溶剤をかけ流す方法や、溶剤、例えば第2の溶剤をしみ込ませた布でふき取る方法が挙げられる。
【0220】
防汚層の厚さとしては、例えば10~100nmが挙げられ、10~50nmであってもよい。防汚層の厚さの測定は、第1の部位又はプライマー部位の厚さの測定方法と同様に行われる。
【0221】
<第2の組成物>
第2の組成物は、特定含フッ素化合物を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。
第2の組成物は、特定含フッ素化合物をそのままの状態、つまりモノマーの状態で含んでもよく、部分加水分解縮合物、つまりオリゴマーの状態で含んでもよく、モノマーとオリゴマーの混合物として含んでもよい。第2の組成物が2種以上の特定含フッ素化合物を含む場合、2種以上の化合物の部分加水分解共縮合物、つまりコオリゴマーの状態で含んでもよい。
以下、第2の組成物が特定含フッ素化合物を含むとは、そのままの状態である特定含フッ素化合物に加えて、特定含フッ素化合物のオリゴマー及びコオリゴマーを包括して含むことを意味する。
【0222】
第2の組成物は、溶剤を含まない組成物であってもよく、特定含フッ素化合物と溶剤とを含む液状組成物であってもよい。以下、第2の組成物に含まれる溶剤を「第2の溶剤」ともいう。
第2の組成物は、特定含フッ素化合物及び溶剤以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、反応性シリル基の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒、塩基性触媒等の公知の添加剤、加水分解性基を有する金属化合物等の添加剤;特定含フッ素化合物の製造工程で生成した副生成物等の不純物:等が挙げられる。
第2の組成物に含まれる特定含フッ素化合物の含有量は、第2の組成物全量に対して、0.001~40質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましく、0.1~10質量%がさらに好ましい。第2の組成物が第2の溶剤を含む場合、特定含フッ素化合物の含有量は、第2の組成物全量に対して、0.01~10質量%であってもよく、0.02~5質量%であってもよく、0.03~3質量%であってもよく、0.05~2質量%であってもよい。
【0223】
第2の組成物が第2の溶剤を含む場合、第2の組成物は、液状であればよく、溶液であってもよく、分散液であってもよい。第2の溶剤は、液状であることが好ましい。
【0224】
第2の溶剤としては、有機溶剤が好ましい。有機溶剤は、フッ素系有機溶剤であってもよく、非フッ素系有機溶剤であってもよく、両溶剤を含んでもよい。また、第2の溶剤は1種の化合物であってもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
フッ素系有機溶剤としては、フッ素化アルカン、フッ素化アルケン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
【0225】
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、例えば、C6F13H(AC-2000:製品名、AGC社製)、C6F13C2H5(AC-6000:製品名、AGC社製)、C2F5CHFCHFCF3(バートレル:製品名、Chemours社製)等が挙げられる。また、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4-ノナフルオロヘキサン等も使用できる。
【0226】
フッ素化アルケンとしては、(E)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、(Z)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(E)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(Z)-1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、(Z)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、(E)-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン、下式で記載されるアルキルペルフルオロアルケニルエーテル(式中、R3は、CH3、C2H5、又はこれらの混合であり、y1及びy2は、独立に、0、1、2、又は3であり、y1+y2=0、1、2、又は3である。)等が挙げられる。
【0227】
CF3(CF2)y1CF=CFCF(OR3)(CF2)y2CF3、
CF3(CF2)y1C(OR3)=CFCF2(CF2)y2CF3、
CF3CF=CFCF(OR3)(CF2)y1(CF2)y2CF3、
CF3(CF2)y1CF=C(OR3)CF2(CF2)y2CF。
【0228】
フッ素化芳香族化合物としては、例えばヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、オルト-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、メタ-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、パラ-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、例えば、CF3CH2OCF2CF2H(AE-3000:製品名、AGC社製)、C4F9OCH3(ノベック-7100:製品名、3M社製)、C4F9OC2H5(ノベック-7200:製品名、3M社製)、C6F13OCH3(ノベック-7300:製品名、3M社製)、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)等が挙げられる。
【0229】
フッ素化アルキルアミンとしては、例えばペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン等が挙げられる。フルオロアルコールとしては、例えば2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
フッ素系有機溶剤としては、第2のシラン化合物の溶解性の点で、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテルが好ましく、フルオロアルキルエーテルが特に好ましい。
【0230】
非フッ素系有機溶剤としては、水素原子及び炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子及び酸素原子のみからなる化合物が好ましい。その例としては、炭化水素系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、エステル系有機溶剤、塩素系溶剤が挙げられる。
【0231】
炭化水素系有機溶剤としては、ヘキサン、へプタン、シクロヘキサン、石油ベンジン、トルエン、キシレン等が好ましい。
アルコール系有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等が好ましい。
【0232】
ケトン系有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が好ましい。
エーテル系有機溶剤としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が好ましい。エステル系有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が好ましい。
【0233】
塩素系溶剤としては、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1,2-テトラクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、(Z)-1,2-ジクロロエチレン、(E)-1,2-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン等が好ましい。
非フッ素系有機溶剤としては、第2のシラン化合物の溶解性の点で、ケトン系有機溶剤が特に好ましい。
【0234】
第2の組成物が第2の溶剤を含む場合、第2の組成物中の固形分の含有割合(固形分濃度)は、0.001~30質量%が好ましく、0.01~20質量%が特に好ましい。第2の組成物の固形分濃度は、加熱前の第2の組成物の質量と、120℃の対流式乾燥機にて4時間加熱した後の質量とから算出する値である。
【実施例0235】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、例1~9、16、及び20~23が実施例であり、例10~15及び17~19が比較例である。
【0236】
<基材>
ステンレス基材(材質:SUS304、寸法:75mm×75mm×1mm)に対し、洗浄剤としてアセトンを使用し、超音波洗浄機を用いて40kHzの周波数にて10分間洗浄を行った。洗浄後の基材の表面に対してエアーブローを行い基材表面の洗浄剤を除去後、乾いた不織布(ベンコットン)にて50回拭き上げを行うことで、基材1を得た。
洗浄剤としてアセトンの代わりにアルカリ洗浄剤(HDM-1、横浜油脂工業製)の5質量%水溶液を用いた以外は、基材1と同様にして、基材2を得た。
ステンレス基材の代わりにガラス基材(材質:無アルカリガラス、寸法:75mm×75mm×1mm)を用いた以外は、基材1と同様にして、基材3を得た。
基材1~3の表面における水の接触角を、それぞれ前述の方法により測定したところ、いずれも70度未満であった。表面における水の接触角は、具体的には、基材1に関しては50~69度、基材2に関しては20~40度、基材3に関しては45度であった。
【0237】
<防汚剤>
化合物(A1):国際公開第2020/071330号の記載に従って合成した。式中のnは13、数平均分子量は5,035である。
化合物(A2):国際公開第2013/121984号の記載に従って合成した。式中のnは14、数平均分子量は5,220である。
化合物(A3):特開2014-218639号公報の合成例11~15の記載に従って合成した。式中のmは18、nは22、数平均分子量は4,600である。なお、m個の(CF2O)鎖と、n個の(CF2CF2O)鎖とはランダムに配列されている。
化合物(A4):特開2015-199906号公報の実施例1の記載に従って合成した。式中のmは20、nは23、数平均分子量は4,470である。なお、m個の(CF2O)鎖と、n個の(CF2CF2O)鎖とはランダムに配列されている。
化合物(A1)~(A4)のそれぞれについて、濃度が0.3質量%となるよう、C6F13C2H5(製品名AC-6000、AGC社製)で希釈して、それぞれ防汚剤1~4とした。
【0238】
【0239】
<例1~13、16、18~23>
表1に示す第1の化合物を、表1に示す濃度となるように、表1に示す第1の溶剤に加え、室温(25℃)下で撹拌することで、プライマー剤を得た。
表1に示す基材の表面に対し、得られたプライマー剤を用いて、スピンコートにより、30秒間かけて回転数を0rpmから500rpmまで上昇させた後、回転数を500rpmに維持してさらに30秒間回転させて、塗工を行った。
次いで、プライマー剤を塗工した後の基材を、イオン交換水を張った浴に5秒間浸漬し、浸漬後の表面をエアーブローで水滴除去した後、室温(25℃)で15分静置し、第1の部位を得た。
【0240】
その後、第1の部位が形成された基材の表面に対し、表1に示す防汚剤を、スピンコートにより、30秒間かけて回転数を0rpmから500rpm/30秒まで上昇させた後、回転数を500rpmに維持してさらに30秒間回転させて、塗工を行った。
次いで、防汚剤を塗工した後、室温(25℃)で36時間養生することで、防汚層を得た。その後、防汚層の表面に対し、AC-6000を染み込ませたベンコットンで50回拭き上げを行い、積層体を作製した。
【0241】
表1中、「EDTA」はエチレンジアミン四酢酸、「コルコートN-103X」はコルコート株式会社製のシロキサン(製品名コルコート)、「IPA」はイソプロパノール、「ATMP」はニトロトリス(メチレンホスホン酸)を表す。
【0242】
<例14>
第1の部位を形成せず、基材の表面に防汚層を直接形成した以外は、例1と同様にして、積層体を作製した。
<例15>
防汚層を形成しなかった以外は、例3と同様にして、積層体を作製した。
<例17>
第1の部位を形成せず、基材の表面に防汚層を直接形成した以外は、例16と同様にして、積層体を作製した。
【0243】
<測定>
得られた積層体について、前述の方法により、蛍光X線分光法により算出されるプライマー部位におけるリン原子の強度を測定し、未塗工基材からの増加量として算出した。結果を表1(表中「リン原子蛍光X線強度(Kcps)」に示す。
【0244】
<評価 外観>
積層体とする前の基材の表面と、得られた積層体の表面と、を目視で確認して比較し、下記基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
A:層の形成前後で外観に変化なし
B:層の形成後に腐食又は塗りムラが残存
【0245】
<評価 初期接触角>
得られた積層体の表面における初期の水の接触角を、前述の方法により測定し、下記基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
A:初期の接触角が100度以上である
B:初期の接触角が100度未満である
【0246】
<評価 擦り耐久性>
得られた積層体の表面に対し、JIS L 0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式平面摩擦試験機(大栄精機社製PA-300A)を用い、金巾(30号)を荷重:1kg/cm2、速度:1分間あたり60往復、振幅:40mmで往復摩擦し、所定の回数毎に上述した方法で水接触角を測定し、下記基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
A:金巾擦り 5万回で接触角100度以上
B:金巾擦り 3万回で接触角100度以上、5万回で100度未満
C:金巾擦り 1万回で接触角100度以上、3万回で100度未満
D:金巾擦り 1万回で接触角100度未満
【0247】
【0248】
表1に示されるように、例1~9、16、及び20~23では、例10~15及び17~19に比べて、層の形成前後で外観に変化が無く、かつ、擦り耐久性も高かった。つまり、例1~9、16、及び20~23では、防汚層の耐摩耗性の向上と外観不良の抑制との両立を実現していた。
本開示の積層体は、例えば、スマートフォン等の筐体、家電用品、蛇口や配管等の水洗金具、エレベーター壁、ドアノブ、手すり、ラック等の広範囲の分野おいて使用できる。