(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174017
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】薬液、及び、薬液の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/38 20060101AFI20241206BHJP
G03F 7/32 20060101ALI20241206BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241206BHJP
G03F 7/004 20060101ALN20241206BHJP
【FI】
G03F7/38 501
G03F7/32
H01L21/304 647A
G03F7/004 501
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024165958
(22)【出願日】2024-09-25
(62)【分割の表示】P 2023001845の分割
【原出願日】2019-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018003505
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】上村 哲也
(57)【要約】
【課題】本発明は、EUV露光によるレジストプロセスに適用した際にも優れた欠陥抑制性能を有する薬液を提供することを課題とする。また、薬液の製造方法を提供することも課題とする。
【解決手段】本発明の薬液は、有機溶剤と、金属原子を含有する、金属含有粒子と、を含有する薬液であって、金属含有粒子のうち、粒子径が0.5~17nmの金属ナノ粒子の、薬液の単位体積あたりの含有粒子数が1.0×10
1~1.0×10
9個/cm
3である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤と、
金属原子を含有する、金属含有粒子と、
を含有する薬液であって、
前記金属含有粒子のうち、粒子径が0.5~17nmの金属ナノ粒子の、薬液の単位体積あたりの含有粒子数が1.0×101~1.0×109個/cm3である、薬液。
【請求項2】
前記金属含有粒子の個数基準の粒子径分布が、粒子径5nm未満の範囲、及び、粒子径17nmを超える範囲からなる群より選択される少なくとも一方の範囲に極大値を有する、請求項1に記載の薬液。
【請求項3】
前記粒子径分布が、粒子径が0.5nm以上、5nm未満の範囲に極大値を有する、請求項2に記載の薬液。
【請求項4】
半導体デバイスの製造に用いられる請求項1~3のいずれか一項に記載の薬液。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子は、前記金属原子の単体からなる粒子A、前記金属原子の酸化物からなる粒子B、並びに、前記金属原子の単体及び前記金属原子の酸化物からなる粒子Cからなる群より選択される少なくとも1種からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬液。
【請求項6】
前記薬液の単位体積あたりの、前記粒子Bの含有粒子数と前記粒子Cの含有粒子数との合計に対する、前記粒子Aの含有粒子数の含有粒子数比が1.0未満である、請求項5に記載の薬液。
【請求項7】
前記含有粒子数比が1.0×10-1以下である、請求項5又は6に記載の薬液。
【請求項8】
更に、沸点が300℃以上の有機化合物を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の薬液。
【請求項9】
前記金属ナノ粒子の少なくとも一部が、前記有機化合物を含有する、粒子Uである、請求項8に記載の薬液。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子の少なくとも一部が、
前記有機化合物を含有する粒子U、及び、
前記有機化合物を含有しない粒子Vであって、
前記薬液の単位体積あたりの、前記粒子Vの含有粒子数に対する、前記粒子Uの含有粒子数の含有粒子数比が1.0×101以上である、請求項8又は9に記載の薬液。
【請求項11】
前記金属ナノ粒子が、Pb原子を含有する金属ナノ粒子、及び、Ti原子を含有する金属ナノ粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の薬液。
【請求項12】
前記金属ナノ粒子が、前記Pb原子を含有する金属ナノ粒子、及び、前記Ti原子を含有する金属ナノ粒子を含有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の薬液。
【請求項13】
前記薬液の単位体積あたりの、Ti原子を含有する金属ナノ粒子の含有粒子数に対する、Pb原子を含有する金属ナノ粒子の含有粒子数の含有粒子数比が1.0×10-3~2.0である、請求項1~12のいずれか一項に記載の薬液。
【請求項14】
フィルタを用いて有機溶剤を含有する被精製物をろ過して薬液を得る、ろ過工程を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の薬液を製造するための、薬液の製造方法。
【請求項15】
前記ろ過工程が、フィルタの材料、細孔径、及び、細孔構造からなる群より選択される少なくとも1種が異なる2種以上のフィルタに前記被精製物を通過させる、多段ろ過工程である請求項14に記載の薬液の製造方法。
【請求項16】
前記フィルタを1つ用いる場合、前記フィルタの細孔径が5nm以下であり、前記フィルタを2つ以上用いる場合、前記フィルタのうち最小の細孔径を有するフィルタの細孔径が5nm以下である、請求項14又は15に記載の薬液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液、及び、薬液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィを含む配線形成工程による半導体デバイスの製造の際、プリウェット液、レジスト液(レジスト組成物)、現像液、リンス液、剥離液、化学機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)スラリー、及び、CMP後の洗浄液等として、又は、それらの希釈液として、水及び/又は有機溶剤を含有する薬液が用いられている。
近年、フォトリソグラフィ技術の進歩によりパターンの微細化が進んでいる。パターンの微細化の手法としては、露光光源を短波長化する手法が用いられ、露光光源として、従来用いられていた紫外線、KrFエキシマレーザー、及び、ArFエキシマレーザー等に代えて、更に短波長であるEUV(極紫外線)等を用いたパターン形成が試みられている。
上記EUV等によるパターン形成は、レジストパターンの幅として10~15nmを目標として開発が進められており、このプロセスに用いる上記の薬液には更なる欠陥抑制性能が求められている。
【0003】
従来のレジストパターン形成に用いられる薬液の製造方法として、特許文献1には、「半導体装置製造工程で使用されるレジスト組成物の製造方法であって、レジスト組成物の製造装置を洗浄液で洗浄し、該洗浄液を製造装置から取り出して評価基板に回転塗布し、該評価基板上における塗布前後での100nm以上のサイズの欠陥における欠陥密度の変化が0.2個/cm2以下となるまで洗浄した後に、製造装置でレジスト組成物を製造することを特徴とするレジスト組成物の製造方法。」が記載され、上記文献には、この方法により製造された薬液(レジスト組成物)を用いてArF露光したところ、パターン欠陥等が抑制されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記製造方法により製造された薬液を含有するレジスト組成物を用いてEUV露光によりパターン形成したところ、欠陥が発生することを知見した。
そこで、本発明は、EUV露光によるレジストプロセスに適用した際にも欠陥が発生しにくい、言い換えれば、EUV露光によるレジストプロセスに適用した際にも優れた欠陥抑制性能を有する薬液を提供することを課題とする。
また、本発明は、薬液の製造方法を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
[1] 有機溶剤と、金属原子を含有する、金属含有粒子と、を含有する薬液であって、金属含有粒子のうち、粒子径が0.5~17nmの金属ナノ粒子の、薬液の単位体積あたりの含有粒子数が1.0×101~1.0×109個/cm3である、薬液。
[2] 金属含有粒子の個数基準の粒子径分布が、粒子径5nm未満の範囲、及び、粒子径17nmを超える範囲からなる群より選択される少なくとも一方の範囲に極大値を有する、[1]に記載の薬液。
[3] 粒子径分布が、粒子径が0.5nm以上、5nm未満の範囲に極大値を有する、[2]に記載の薬液。
[4] 半導体デバイスの製造に用いられる[1]~[3]のいずれかに記載の薬液。
[5] 金属ナノ粒子は、金属原子の単体からなる粒子A、金属原子の酸化物からなる粒子B、並びに、金属原子の単体及び金属原子の酸化物からなる粒子Cからなる群より選択される少なくとも1種からなる、[1]~[4]のいずれかに記載の薬液。
[6] 薬液の単位体積あたりの、粒子Bの含有粒子数と粒子Cの含有粒子数との合計に対する、粒子Aの含有粒子数の含有粒子数比が1.0未満である、[5]に記載の薬液。
[7] 含有粒子数比が1.0×10-1以下である、[5]又は[6]に記載の薬液。
[8] 更に、沸点が300℃以上の有機化合物を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の薬液。
[9] 金属ナノ粒子の少なくとも一部が、有機化合物を含有する、粒子Uである、[8]に記載の薬液。
[10] 金属ナノ粒子の少なくとも一部が、有機化合物を含有する粒子U、及び、有機化合物を含有しない粒子Vであって、薬液の単位体積あたりの、粒子Vの含有粒子数に対する、粒子Uの含有粒子数の含有粒子数比が1.0×101以上である、[8]又は[9]に記載の薬液。
[11] 金属ナノ粒子が、Pb原子を含有する金属ナノ粒子、及び、Ti原子を含有する金属ナノ粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、[1]~[10]のいずれかに記載の薬液。
[12] 金属ナノ粒子が、Pb原子を含有する金属ナノ粒子、及び、Ti原子を含有する金属ナノ粒子を含有する、[1]~[11]のいずれかに記載の薬液。
[13] 薬液の単位体積あたりの、Ti原子を含有する金属ナノ粒子の含有粒子数に対する、Pb原子を含有する金属ナノ粒子の含有粒子数の含有粒子数比が1.0×10-3~2.0である、[1]~[12]のいずれかに記載の薬液。
[14] フィルタを用いて有機溶剤を含有する被精製物をろ過して薬液を得る、ろ過工程を有する、[1]~[13]のいずれかに記載の薬液を製造するための、薬液の製造方法。
[15] ろ過工程が、フィルタの材料、細孔径、及び、細孔構造からなる群より選択される少なくとも1種が異なる2種以上のフィルタに被精製物を通過させる、多段ろ過工程である[14]に記載の薬液の製造方法。
[16] フィルタを1つ用いる場合、フィルタの細孔径が5nm以下であり、フィルタを2つ以上用いる場合、フィルタのうち最小の細孔径を有するフィルタの細孔径が5nm以下である、[14]又は[15]に記載の薬液の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、EUV露光によるレジストプロセスに適用した際にも優れた欠陥抑制性能を有する薬液を提供できる。また、本発明は、薬液の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】多段ろ過工程を実施可能な精製装置の典型例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本発明において、「ppm」は「parts-per-million(10-6)」を意味し、「ppb」は「parts-per-billion(10-9)」を意味し、「ppt」は「parts-per-trillion(10-12)」を意味し、「ppq」は「parts-per-quadrillion(10-15)」を意味する。
また、本発明における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「炭化水素基」とは、置換基を有さない炭化水素基(無置換炭化水素基)のみならず、置換基を有する炭化水素基(置換炭化水素基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
また、本発明における「放射線」とは、例えば、遠紫外線、極紫外線(EUV;Extreme ultraviolet)、X線、又は、電子線等を意味する。また、本発明において光とは、活性光線又は放射線を意味する。本発明中における「露光」とは、特に断らない限り、遠紫外線、X線又はEUV等による露光のみならず、電子線又はイオンビーム等の粒子線による描画も露光に含める。
【0011】
[薬液]
本発明の実施形態に係る薬液(以下「本薬液」ともいう。)は、有機溶剤と、金属原子を含有する、金属含有粒子と、を含有する薬液であって、金属含有粒子のうち、粒子径が0.5~17nmの金属ナノ粒子の薬液中における含有粒子数が1.0×101~1.0×109個/cm3である、薬液である。
本薬液により上記課題が解決される機序は必ずしも明確ではないが、本発明者はその機序について以下のとおり推測する。なお、以下の機序は推測であり、異なる機序により本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれる。
【0012】
本薬液は、金属含有粒子のうち、粒子径が0.5~17nmの金属ナノ粒子の薬液中における含有粒子数を1.0×101~1.0×109個/cm3に制御したことを特徴点の一つとする。
EUV露光が適用されるプロセスでは、レジストのパターン間隔、パターン幅、及び、これらが周期的に並んだ一つのパターン幅とパターン間隔を合計したパターンのピッチ、並びに、製造される配線の間隔、配線の幅、及び、これらが周期的に並んだ一つの配線幅と配線間隔を合計した配線のピッチの狭小化が求められている。
具体的には、パターン幅、及び/又は、パターン間隔は、10~15nm程度であることが多い(この場合、パターンピッチとしては20~30nmであることが多い)。このような場合、従来のプロセスではあまり問題とならなかった、より微細な粒子をその個数単位で制御することが求められることを本発明者らは知見している。
【0013】
上記粒子のうち、粒子径が0.5nm未満の金属含有粒子はより凝集しやすく、結果として粗大な粒子を形成することが多いため、プロセス中に(例えば洗い流されるような形で)除去されることが多く、薬液の欠陥抑制性能への影響はあまり大きくないものと推測される。
一方で、上記粒子のうち、粒子径が17nmを超える金属含有粒子は、求められるレジストピッチと比較して十分に大きいため、上記と同様に、プロセス中に除去されることが多く、薬液の欠陥抑制性能への影響はあまり大きくないものと推測される。
【0014】
粒子径が0.5~17nmの金属ナノ粒子は、基板上からより除去されにくい傾向があるものと推測される。薬液の単位体積あたりの金属ナノ粒子の含有粒子数が、1.0×101個/cm3以上であると、金属ナノ粒子同士が凝集しやすく、プロセス中により除去されやすくなり、結果として薬液は優れた欠陥抑制性能を有するものと推測される。
一方で、薬液の単位体積あたりの金属ナノ粒子の含有粒子数が、1.0×109個/cm3以下であると、金属ナノ粒子自体が欠陥の原因となることが抑制され、結果として薬液は優れた欠陥抑制性能を有するものと推測される。
なお、薬液中における金属ナノ粒子の含有量は、実施例に記載した方法により測定でき、金属ナノ粒子の薬液の単位体積あたりの粒子数(個数)は、有効数字が2桁となるように四捨五入して求める。
【0015】
〔有機溶剤〕
薬液は有機溶剤を含有する。薬液中における有機溶剤の含有量としては特に制限されないが、一般に薬液の全質量に対して、98.0質量%以上が好ましく、99.0質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上が更に好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%未満の場合が多い。
有機溶剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の有機溶剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0016】
なお、本明細書において、有機溶剤とは、上記薬液の全質量に対して、1成分あたり10000質量ppmを超えた含有量で含有される液状の有機化合物を意図する。つまり、本明細書においては、上記薬液の全質量に対して10000質量ppmを超えて含有される液状の有機化合物は、有機溶剤に該当するものとする。
なお、本明細書において液状とは、25℃、大気圧下において、液体であることを意味する。
【0017】
上記有機溶剤の種類としては特に制限されず、公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテルカルボキシレート、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、乳酸アルキルエステル、アルコキシプロピオン酸アルキル、環状ラクトン(好ましくは炭素数4~10)、環を有してもよいモノケトン化合物(好ましくは炭素数4~10)、アルキレンカーボネート、アルコキシ酢酸アルキル、及び、ピルビン酸アルキル等が挙げられる。
また、有機溶剤としては、例えば、特開2016-057614号公報、特開2014-219664号公報、特開2016-138219号公報、及び、特開2015-135379号公報に記載のものを用いてもよい。
【0018】
有機溶剤としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、乳酸エチル(EL)、メトキシプロピオン酸メチル、シクロペンタノン、シクロヘキサノン(CHN)、γ-ブチロラクトン、ジイソアミルエーテル、酢酸ブチル(nBA)、酢酸イソアミル、イソプロパノール、4-メチル-2-ペンタノール、ジメチルスルホキシド、n-メチル-2-ピロリドン、ジエチレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、炭酸エチレン、炭酸プロピレン(PC)、スルホラン、シクロヘプタノン、1-ヘキサノール、デカン、及び、2-ヘプタノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、CHN、PGMEA、PGME、nBA、PC、及び、これらの混合物が好ましい。
なお、有機溶剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、薬液中における有機溶剤の種類及び含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定できる。
【0019】
〔金属含有粒子〕
本薬液は、金属原子を含有する金属含有粒子を含有する。
本薬液の製造方法の好適形態は後述するが、一般に本薬液は、既に説明した有機溶剤と、不純物とを含有する被精製物を精製して製造できる。金属含有粒子は、薬液の製造工程において意図的に添加されてもよいし、もともと被精製物に含有されていてもよいし、又は、薬液の製造過程において、薬液の製造装置等から移行(いわゆるコンタミネーション)したものであってもよい。
【0020】
金属原子としては特に制限されないが、Fe原子、Al原子、Cr原子、Ni原子、Pb原子、Zn原子、及び、Ti原子等が挙げられる。なかでも、Fe原子、Al原子、Pb原子、Zn原子、及び、Ti原子からなる群より選択される少なくとも1種を含有する金属含有粒子の薬液中の含有量を厳密に制御すると、より優れた欠陥抑制性能が得られやすく、Pb原子、及び、Ti原子からなる群より選択される少なくとも1種を含有する金属含有粒子の薬液中における含有量を厳密に制御すると、更に優れた欠陥抑制性能が得られやすい。
すなわち、金属原子としては、Fe原子、Al原子、Cr原子、Ni原子、Pb原子、Zn原子、及び、Ti原子等からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、Fe原子、Al原子、Pb原子、Zn原子、及び、Ti原子からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、Pb原子、及び、Ti原子からなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、金属含有粒子は、Pb原子、及び、Ti原子のいずれをも含有することが特に好ましい。
なお、金属含有粒子は、上記金属原子を1種単独で含有しても、2種以上を併せて含有してもよい。
【0021】
金属含有粒子の粒子径としては特に制限されないが、例えば、半導体デバイス製造用の薬液においては0.1~100nm程度の粒子径を有する粒子の薬液中における含有量が制御の対象とされることが多い。
なかでも、本発明者の検討によれば、特にEUV露光のフォトレジストプレセスに適用される薬液においては、その粒子径が、0.5~17nmの金属含有粒子(以下、「金属ナノ粒子」ともいう。)の薬液中における含有量を制御することにより、優れた欠陥抑制性能を有する薬液が得られやすいことがわかった。すでに説明したとおり、EUV露光のフォトレジストプロセスにおいては、微細なレジスト間隔、レジスト幅、及び、レジストピッチが求められることが多い。このような場合、従来のプロセスではあまり問題とならなかった、より微細な粒子をその個数単位で制御することが求められるのである。
【0022】
金属含有粒子の個数基準の粒子径分布としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、粒子径5nm未満の範囲、及び、粒子径17nmを超える範囲からなる群より選択される少なくとも一方に極大値を有することが好ましい。
言い換えれば、粒子径が5~17nmの範囲には極大値を有しないことが好ましい。粒子径が5~17nmの範囲には極大値を有さないことにより、薬液はより優れた欠陥抑制性能、特に、より優れたブリッジ欠陥抑制性能を有する。なお、ブリッジ欠陥抑制性能とは、実施例に記載した方法により評価される欠陥を意味する。
また、更に優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、個数基準の粒子径分布が、粒子径が0.5nm以上、5nm未満の範囲に極大値を有することが更に好ましい。上記により、薬液は更に優れたブリッジ欠陥抑制能を有する。
【0023】
<金属ナノ粒子>
金属ナノ粒子は、金属含有粒子のうち、その粒子径が0.5~17nmのものをいう。
薬液の単位体積あたりの金属ナノ粒子の含有粒子数は1.0×101~1.0×109個/cm3であり、本薬液がより優れた本発明の効果を有する点で、含有粒子数としては1.0×102個/cm3以上が好ましく、1.0×103個/cm3以上がより好ましく、1.0×106個/cm3以下が好ましく、1.0×105個/cm3以下がより好ましく、1.×104個/cm3以下が更に好ましい。
薬液の単位体積あたりの金属ナノ粒子の含有粒子数が、1.0×102~1.0×106個/cm3であると、薬液はより優れた欠陥抑制性能を有する。
【0024】
金属ナノ粒子に含有される金属原子としては特に制限されないが、金属含有粒子に含有される金属原子としてすでに説明した原子と同様である。なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、金属原子としては、Pb原子、及び、Ti原子からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、金属ナノ粒子はPb原子、及び、Ti原子の両方を含有することがより好ましい。言い換えれば、金属ナノ粒子は、Pb原子を含有する金属ナノ粒子(以下、「Pbナノ粒子」ともいう。)、及び、Ti原子を含有する金属ナノ粒子(以下、「Tiナノ粒子」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましく、Pbナノ粒子及びTiナノ粒子の両方を含有することがより好ましい。
金属ナノ粒子がPb原子及びTi原子の両方を含有するとは、典型的には、薬液が、Pb原子を含有する金属ナノ粒子とTi原子を含有する金属ナノ粒子の両方を含有する形態が挙げられる。
【0025】
なお、薬液中におけるPbナノ粒子、及び、Tiナノ粒子の含有粒子数比(Pb/Ti)としては特に制限されないが、一般に、1.0×10-4~3.0が好ましく、1.0×10-3~2.0がより好ましく、1.0×10-2~1.5が更に好ましい。Pb/Tiが1.0×10-3~2.0であると、薬液はより優れた本発明の効果、特に、より優れたブリッジ欠陥抑制性能を有する。
Pbナノ粒子とTiナノ粒子は、例えば、薬液をウェハ上に塗布した際等に会合しやすく、レジスト膜の現像の際に欠陥の原因(特にブリッジ欠陥の原因)になりやすいことを、本発明者らは知見している。
Pb/Tiが1.0×10-3~2.0であると、驚くべきことに、欠陥の発生がより抑制されやすい。なお、本明細書においてPb/Ti、後述するA/(B+C)及び後述するU/Vは有効数字が2桁となるように四捨五入して求める。
【0026】
金属ナノ粒子は金属原子を含有していればよく、その形態は特に制限されない。例えば、金属原子の単体、金属原子を含有する化合物(以下、「金属化合物」ともいう。)、及び、これらの複合体等が挙げられる。また、金属ナノ粒子は複数の金属原子を含有してもよい。なお、金属ナノ粒子が複数の金属を含有する場合、上記複数の金属のうち最も含有量(atm%)の多い金属原子を主成分とする。従って、Pbナノ粒子というときには、複数の金属を含有している場合にあっては、複数の金属のうちで、Pb原子が主成分であることを意味する。
【0027】
複合体としては特に制限されないが、金属原子の単体と、上記金属原子の単体の少なくとも一部を覆う金属化合物と、を有するいわゆるコア-シェル型の粒子、金属原子と他の原子とを含む固溶体粒子、金属原子と他の原子とを含む共晶体粒子、金属原子の単体と金属化合物との凝集体粒子、種類の異なる金属化合物の凝集体粒子、及び、粒子表面から中心に向かって連続的又は断続的に組成が変化する金属化合物等が挙げられる。
【0028】
金属化合物が含有する金属原子以外の原子としては特に制限されないが、例えば、炭素原子、酸素原子、窒素原子、水素原子、硫黄原子、及び、燐原子等が挙げられ、中でも、酸素原子が好ましい。金属化合物が酸素原子を含有する形態としては特に制限されないが、金属原子の酸化物がより好ましい。
【0029】
より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、金属ナノ粒子としては、金属原子の単体からなる粒子(粒子A)、金属原子の酸化物からなる粒子(粒子B)、並びに、金属原子の単体及び金属原子の酸化物からなる粒子(粒子C)からなる群より選択される少なくとも1種からなることが好ましい。
なお、薬液の単位体積あたりの、金属ナノ粒子の含有粒子数における、粒子Aの含有粒子数、粒子Bの含有粒子数、及び、粒子Cの含有粒子数の関係としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、粒子Bの含有粒子数と粒子Cの含有粒子数との合計に対する、粒子Aの含有粒子数の含有粒子数比(以下、「A/(B+C)」ともいう。)が、1.5以下が好ましく、1.0未満がより好ましく、2.0×10-1以下が更に好ましく、1.0×10-1以下が特に好ましく、1.0×10-3以上が好ましく、1.0×10-2以上がより好ましい。
A/(B+C)が1.0未満であると、薬液は、より優れたブリッジ欠陥抑制性能、より優れたパターン幅の均一性能、及び、シミ状欠陥抑制性能を有する。
また、A/(B+C)が0.1(1.0×10-1)以下であると、薬液は、より優れた残渣欠陥抑制性能を有する。
【0030】
〔その他の成分〕
薬液は、上記以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、有機溶剤以外の有機化合物(特に、沸点が300℃以上の有機化合物)、水、及び、樹脂等が挙げられる。
【0031】
<有機溶剤以外の有機化合物>
薬液は、有機溶剤以外の有機化合物(以下、「特定有機化合物」ともいう。)を含有してもよい。本明細書において、特定有機化合物とは、薬液に含有される有機溶剤とは異なる化合物であって、上記薬液の全質量に対して、10000質量ppm以下の含有量で含有される有機化合物を意味する。つまり、本明細書においては、上記薬液の全質量に対して10000質量ppm以下の含有量で含有される有機化合物は、特定有機化合物に該当し、有機溶剤には該当しないものとする。
なお、複数種の有機化合物が薬液に含有される場合であって、各有機化合物が上述した10000質量ppm以下の含有量で含有される場合には、それぞれが特定有機化合物に該当する。
【0032】
特定有機化合物は、薬液中に添加されてもよいし、薬液の製造工程において意図せず混合されるものであってもよい。薬液の製造工程において意図せず混合される場合としては例えば、特定有機化合物が、薬液の製造に用いる原料(例えば、有機溶剤)に含有されている場合、及び、薬液の製造工程で混合する(例えば、コンタミネーション)等が挙げられるが、上記に制限されない。
【0033】
なお、上記薬液中における特定有機化合物の含有量は、GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析装置;gas chromatography mass spectrometry)を用いて測定できる。
【0034】
特定有機化合物の炭素数としては特に制限されないが、薬液がより優れた本発明の効果を有する点で、8以上が好ましく、12以上がより好ましい。なお、炭素数の上限として特に制限されないが、30以下が好ましい。
【0035】
特定有機化合物としては、例えば、有機溶剤の合成に伴い生成する副生成物、及び/又は、未反応の原料(以下、「副生成物等」ともいう。)等であってもよい。
上記副生成物等としては、例えば、下記の式I~Vで表される化合物等が挙げられる。
【0036】
【0037】
式I中、R1及びR2は、それぞれ独立に、アルキル基、若しくは、シクロアルキル基を表すか、又は、互いに結合し、環を形成している。
【0038】
R1及びR2により表されるアルキル基、又は、シクロアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基、又は、炭素数6~12のシクロアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基、又は、炭素数6~8のシクロアルキル基がより好ましい。
【0039】
R1及びR2が互いに結合して形成する環は、ラクトン環であり、4~9員環のラクトン環が好ましく、4~6員環のラクトン環がより好ましい。
【0040】
なお、R1及びR2は、式Iで表される化合物の炭素数が8以上となる関係を満たすことが好ましい。
【0041】
式II中、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、若しくは、シクロアルケニル基を表すか、又は、互いに結合して環を形成している。但し、R3及びR4の双方が水素原子であることはない。
【0042】
R3及びR4により表されるアルキル基としては、例えば、炭素数1~12のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0043】
R3及びR4により表されるアルケニル基としては、例えば、炭素数2~12のアルケニル基が好ましく、炭素数2~8のアルケニル基がより好ましい。
【0044】
R3及びR4により表されるシクロアルキル基としては、炭素数6~12のシクロアルキル基が好ましく、炭素数6~8のシクロアルキル基がより好ましい。
【0045】
R3及びR4により表されるシクロアルケニル基としては、例えば、炭素数3~12のシクロアルケニル基が好ましく、炭素数6~8のシクロアルケニル基がより好ましい。
【0046】
R3及びR4が互いに結合して形成する環は、環状ケトン構造であり、飽和環状ケトンであってもよく、不飽和環状ケトンであってもよい。この環状ケトンは、6~10員環が好ましく、6~8員環がより好ましい。
【0047】
なお、R3及びR4は、式IIで表される化合物の炭素数が8以上となる関係を満たすことが好ましい。
【0048】
式III中、R5は、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。
【0049】
R5により表されるアルキル基は、炭素数6以上のアルキル基が好ましく、炭素数6~12のアルキル基がより好ましく、炭素数6~10のアルキル基が更に好ましい。
上記アルキル基は、鎖中にエーテル結合を有していてもよく、ヒドロキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0050】
R5により表されるシクロアルキル基は、炭素数6以上のシクロアルキル基が好ましく、炭素数6~12のシクロアルキル基がより好ましく、炭素数6~10のシクロアルキル基が更に好ましい。
【0051】
式IV中、R6及びR7は、それぞれ独立に、アルキル基若しくはシクロアルキル基を表すか、又は、互いに結合し、環を形成している。
【0052】
R6及びR7により表されるアルキル基としては、炭素数1~12のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましい。
【0053】
R6及びR7により表されるシクロアルキル基としては、炭素数6~12のシクロアルキル基が好ましく、炭素数6~8のシクロアルキル基がより好ましい。
【0054】
R6及びR7が互いに結合して形成する環は、環状エーテル構造である。この環状エーテル構造は、4~8員環であることが好ましく、5~7員環であることがより好ましい。
【0055】
なお、R6及びR7は、式IVで表される化合物の炭素数が8以上となる関係を満たすことが好ましい。
【0056】
式V中、R8及びR9は、それぞれ独立に、アルキル基、若しくは、シクロアルキル基を表すか、又は、互いに結合し、環を形成している。Lは、単結合又はアルキレン基を表す。
【0057】
R8及びR9により表されるアルキル基としては、例えば、炭素数6~12のアルキル基が好ましく、炭素数6~10のアルキル基がより好ましい。
【0058】
R8及びR9により表されるシクロアルキル基としては、炭素数6~12のシクロアルキル基が好ましく、炭素数6~10のシクロアルキル基がより好ましい。
【0059】
R8及びR9が互いに結合して形成する環は、環状ジケトン構造である。この環状ジケトン構造は、6~12員環であることが好ましく、6~10員環であることがより好ましい。
【0060】
Lにより表されるアルキレン基としては、例えば、炭素数1~12のアルキレン基が好ましく、炭素数1~10のアルキレン基がより好ましい。
なお、R8、R9及びLは、式Vで表される化合物の炭素数が8以上となる関係を満たす。
特に制限されないが、有機溶剤が、アミド化合物、イミド化合物及びスルホキシド化合物である場合は、一形態において、炭素数が6以上のアミド化合物、イミド化合物及びスルホキシド化合物が挙げられる。また、特定有機化合物としては、例えば、下記化合物も挙げられる。
【0061】
【0062】
【0063】
また、特定有機化合物としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジステアリルチオジプロピオネート(DSTP)、4,4’-ブチリデンビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2’-メチレンビス-(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、及び、特開2015-200775号公報に記載されている酸化防止剤等の酸化防止剤;未反応の原料;有機溶剤の製造時に生じる構造異性体及び副生成物;有機溶剤の製造装置を構成する部材等からの溶出物(例えば、Oリングなどのゴム部材から溶出した可塑剤);等も挙げられる。
【0064】
また、特定有機化合物としては、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ビス(2-プロピルヘプチル)(DPHP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBzP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジイソオクチル(DIOP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジイソブチル(DIBP)、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジイソノニル(DINP)、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(TEHTM)、トリメリット酸トリス(n-オクチル-n-デシル)(ATM)、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHA)、アジピン酸モノメチル(MMAD)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジブチル(DBS)、マレイン酸ジブチル(DBM)、マレイン酸ジイソブチル(DIBM)、アゼライン酸エステル、安息香酸エステル、テレフタレート(例:ジオクチルテレフタレート(DEHT))、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(DINCH)、エポキシ化植物油、スルホンアミド(例:N-(2-ヒドロキシプロピル)ベンゼンスルホンアミド(HP BSA)、N-(n-ブチル)ベンゼンスルホンアミド(BBSA-NBBS))、有機リン酸エステル(例:リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリブチル(TBP))、アセチル化モノグリセリド、クエン酸トリエチル(TEC)、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)、クエン酸トリブチル(TBC)、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、クエン酸トリオクチル(TOC)、アセチルクエン酸トリオクチル(ATOC)、クエン酸トリへキシル(THC)、アセチルクエン酸トリへキシル(ATHC)エポキシ化大豆油、エチレンプロピレンゴム、ポリブテン、5-エチリデン-2-ノルボルネンの付加重合体、及び、以下に例示される高分子可塑剤も挙げられる。
これらの特定有機化合物は、精製工程で触れるフィルタ、配管、タンク、O-ring、及び、容器等から被精製物又は薬液へと混入するものと推定される。特に、アルキルオレフィン以外の化合物は、ブリッジ欠陥の発生に関連する。
【0065】
【0066】
(沸点が300℃以上の有機化合物)
薬液は特定有機化合物のうち、300℃以上の有機化合物(高沸点有機化合物)を含有してもよい。沸点が300℃以上の有機化合物を薬液が含有する場合、沸点が高く、フォトリソグラフィのプロセス中には揮発し難い。そのため、優れた欠陥抑制性能を有する薬液を得るためには、高沸点有機化合物の薬液中における含有量、及び、存在形態等を厳密に管理する必要がある。
そのような高沸点有機化合物としては、例えば、フタル酸ジオクチル(沸点385℃)、フタル酸ジイソノニル(沸点403℃)、アジピン酸ジオクチル(沸点335℃)、フタル酸ジブチル(沸点340℃)、及び、エチレンプロピレンゴム(沸点300~450℃)等が確認されている。
【0067】
高沸点有機化合物が薬液中に含有される場合、様々な形態があることを本発明者らは見出している。高沸点有機化合物の薬液中における存在形態としては、金属原子又は金属化合物からなる粒子と、高沸点有機化合物粒子とが凝集した粒子;金属原子又は金属化合物からなる粒子と、上記粒子の少なくとも一部を被覆するように配置された高沸点有機化合物とを有する粒子;金属原子と高沸点有機化合物とが配位結合して形成された粒子;等が挙げられる。
【0068】
なかでも、薬液の欠陥抑制性能に与える影響が大きい形態として、有機化合物(好ましくは、高沸点有機化合物)を含有する金属ナノ粒子(粒子U)が挙げられる。本発明者らは、上記粒子Uの薬液の単位体積あたりの含有粒子数を制御することで、飛躍的に薬液の欠陥抑制性能が向上することを見出している。
この理由は必ずしも明らかではないが、粒子Uは、有機化合物(好ましくは、高沸点有機化合物)を含有しない金属ナノ粒子(粒子V)と比較して、相対的に表面自由エネルギーが小さくなりやすい。このような粒子Uは、薬液で処理した基板上に残存しにくく、また、残存したとしても、再度薬液に接触した際に、除去されやすい。例えば、薬液を現像液及びリンス液として用いるような場合には、現像時には、基板上に粒子Uがより残存しにくく、更に、リンス等により除去されやすい。すなわち、結果として、有機化合物(好ましくは、高沸点有機化合物)、及び、金属原子を含有する粒子の両方がより除去されやすくなる。
また、一般にレジスト膜は、撥水的であることが多いため、表面エネルギーがより低い粒子Uは基板上に残りにくいと推測される。
【0069】
薬液の単位体積あたりの、粒子Vの含有粒子数に対する、粒子Uの含有粒子数の含有粒子数比としては、より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、10(1.0×101)以上が好ましく、1.0×102以下が好ましく、50以下がより好ましく、35以下が更に好ましく、25以下が特に好ましい。
【0070】
<水>
上記薬液は、水を含有してもよい。水としては特に制限されず、例えば、蒸留水、イオン交換水、及び、純水等を用いることができる。なお、水は、上記有機不純物には含まれない。
水は、薬液中に添加されてもよいし、薬液の製造工程において意図せずに薬液中に混合されるものであってもよい。薬液の製造工程において意図せずに混合される場合としては、例えば、水が、薬液の製造に用いる原料(例えば、有機溶剤)に含有されている場合、及び、薬液の製造工程で混合する(例えば、コンタミネーション)等が挙げられるが、上記に制限されない。
【0071】
上記薬液中における水の含有量としては特に制限されないが、一般に、薬液の全質量に対して、0.05~2.0質量%が好ましい。薬液中における水の含有量は、カールフィッシャー水分測定法を測定原理とする装置を用いて、測定される水分含有量を意味する。
【0072】
<樹脂>
上記薬液は更に樹脂を含有してもよい。樹脂としては、酸の作用により分解して極性基を生じる基を有する樹脂Pが好ましい。上記樹脂としては、酸の作用により有機溶剤を主成分とする現像液に対する溶解性が減少する樹脂である、後述する式(AI)で表される繰り返し単位を有する樹脂がより好ましい。後述する式(AI)で表される繰り返し単位を有する樹脂は、酸の作用により分解してアルカリ可溶性基を生じる基(以下、「酸分解性基」ともいう)を有する。
極性基としては、アルカリ可溶性基が挙げられる。アルカリ可溶性基としては、例えば、カルボキシ基、フッ素化アルコール基(好ましくはヘキサフルオロイソプロパノール基)、フェノール性水酸基、及びスルホ基が挙げられる。
【0073】
酸分解性基において極性基は酸で脱離する基(酸脱離性基)によって保護されている。酸脱離性基としては、例えば、-C(R36)(R37)(R38)、-C(R36)(R37)(OR39)、及び、-C(R01)(R02)(OR39)等が挙げられる。
【0074】
式中、R36~R39は、各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルケニル基を表す。R36とR37とは、互いに結合して環を形成してもよい。
【0075】
R01及びR02は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルケニル基を表す。
【0076】
以下、酸の作用により有機溶剤を主成分とする現像液に対する溶解性が減少する樹脂Pについて詳述する。
【0077】
(式(AI):酸分解性基を有する繰り返し単位)
樹脂Pは、式(AI)で表される繰り返し単位を含有することが好ましい。
【0078】
【0079】
式(AI)に於いて、
Xa1は、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
Tは、単結合又は2価の連結基を表す。
Ra1~Ra3は、それぞれ独立に、アルキル基(直鎖状又は分岐鎖状)又はシクロアルキル基(単環又は多環)を表す。
Ra1~Ra3の2つが結合して、シクロアルキル基(単環又は多環)を形成してもよい。
【0080】
Xa1により表される、置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、及び-CH2-R11で表される基が挙げられる。R11は、ハロゲン原子(フッ素原子等)、水酸基、又は1価の有機基を表す。
Xa1は、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又はヒドロキシメチル基が好ましい。
【0081】
Tの2価の連結基としては、アルキレン基、-COO-Rt-基、及び、-O-Rt-基等が挙げられる。式中、Rtは、アルキレン基又はシクロアルキレン基を表す。
Tは、単結合又は-COO-Rt-基が好ましい。Rtは、炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、-CH2-基、-(CH2)2-基、又は、-(CH2)3-基がより好ましい。
【0082】
Ra1~Ra3のアルキル基としては、炭素数1~4のものが好ましい。
【0083】
Ra1~Ra3のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、若しくはシクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、若しくはアダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。
Ra1~Ra3の2つが結合して形成されるシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、若しくはシクロヘキシル基等の単環のシクロアルキル基、又は、ノルボルニル基、テトラシクロデカニル基、テトラシクロドデカニル基、若しくはアダマンチル基等の多環のシクロアルキル基が好ましい。炭素数5~6の単環のシクロアルキル基がより好ましい。
【0084】
Ra1~Ra3の2つが結合して形成される上記シクロアルキル基は、例えば、環を構成するメチレン基の1つが、酸素原子等のヘテロ原子、又はカルボニル基等のヘテロ原子を有する基で置き換わっていてもよい。
【0085】
式(AI)で表される繰り返し単位は、例えば、Ra1がメチル基又はエチル基であり、Ra2とRa3とが結合して上述のシクロアルキル基を形成している態様が好ましい。
【0086】
上記各基は、置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、アルキル基(炭素数1~4)、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基(炭素数1~4)、カルボキシ基、及びアルコキシカルボニル基(炭素数2~6)等が挙げられ、炭素数8以下が好ましい。
【0087】
式(AI)で表される繰り返し単位の含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、20~90モル%が好ましく、25~85モル%がより好ましく、30~80モル%が更に好ましい。
【0088】
(ラクトン構造を有する繰り返し単位)
また、樹脂Pは、ラクトン構造を有する繰り返し単位Qを含有することが好ましい。
【0089】
ラクトン構造を有する繰り返し単位Qは、ラクトン構造を側鎖に有していることが好ましく、(メタ)アクリル酸誘導体モノマーに由来する繰り返し単位であることがより好ましい。
ラクトン構造を有する繰り返し単位Qは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよいが、1種単独で用いることが好ましい。
ラクトン構造を有する繰り返し単位Qの含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、3~80モル%が好ましく、3~60モル%がより好ましい。
【0090】
ラクトン構造としては、5~7員環のラクトン構造が好ましく、5~7員環のラクトン構造にビシクロ構造又はスピロ構造を形成する形で他の環構造が縮環している構造がより好ましい。
ラクトン構造としては、下記式(LC1-1)~(LC1-17)のいずれかで表されるラクトン構造を有する繰り返し単位を有することが好ましい。ラクトン構造としては式(LC1-1)、式(LC1-4)、式(LC1-5)、又は式(LC1-8)で表されるラクトン構造が好ましく、式(LC1-4)で表されるラクトン構造がより好ましい。
【0091】
【0092】
ラクトン構造部分は、置換基(Rb2)を有していてもよい。好ましい置換基(Rb2)としては、炭素数1~8のアルキル基、炭素数4~7のシクロアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基、炭素数2~8のアルコキシカルボニル基、カルボキシ基、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、及び酸分解性基等が挙げられる。n2は、0~4の整数を表す。n2が2以上のとき、複数存在する置換基(Rb2)は、同一でも異なっていてもよく、また、複数存在する置換基(Rb2)同士が結合して環を形成してもよい。
【0093】
(フェノール性水酸基を有する繰り返し単位)
また、樹脂Pは、フェノール性水酸基を有する繰り返し単位を含有していてもよい。
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位としては、例えば、下記一般式(I)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0094】
【0095】
式中、
R41、R42及びR43は、各々独立に、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基又はアルコキシカルボニル基を表す。但し、R42はAr4と結合して環を形成していてもよく、その場合のR42は単結合又はアルキレン基を表す。
【0096】
X4は、単結合、-COO-、又は-CONR64-を表し、R64は、水素原子又はアルキル基を表す。
L4は、単結合又はアルキレン基を表す。
Ar4は、(n+1)価の芳香環基を表し、R42と結合して環を形成する場合には(n+2)価の芳香環基を表す。
nは、1~5の整数を表す。
【0097】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のアルキル基としては、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基及びドデシル基など炭素数20以下のアルキル基が好ましく、炭素数8以下のアルキル基がより好ましく、炭素数3以下のアルキル基が更に好ましい。
【0098】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のシクロアルキル基としては、単環型でも、多環型でもよい。シクロアルキル基としては、置換基を有していてもよい、シクロプロピル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基などの炭素数3~8で単環型のシクロアルキル基が好ましい。
【0099】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子が好ましい。
【0100】
一般式(I)におけるR41、R42及びR43のアルコキシカルボニル基に含まれるアルキル基としては、上記R41、R42及びR43におけるアルキル基と同様のものが好ましい。
【0101】
上記各基における置換基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基、アミド基、ウレイド基、ウレタン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、アルコキシ基、チオエーテル基、アシル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、及び、ニトロ基等が挙げられ、置換基の炭素数は8以下が好ましい。
【0102】
Ar4は、(n+1)価の芳香環基を表す。nが1である場合における2価の芳香環基は、置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基及びアントラセニレン基などの炭素数6~18のアリーレン基、並びに、チオフェン、フラン、ピロール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、ベンゾピロール、トリアジン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、トリアゾール、チアジアゾール及びチアゾール等のヘテロ環を含む芳香環基が挙げられる。
【0103】
nが2以上の整数である場合における(n+1)価の芳香環基の具体例としては、2価の芳香環基の上記した具体例から、(n-1)個の任意の水素原子を除してなる基が挙げられる。
(n+1)価の芳香環基は、更に置換基を有していてもよい。
【0104】
上述したアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルキレン基及び(n+1)価の芳香環基が有し得る置換基としては、例えば、一般式(I)におけるR41、R42及びR43で挙げたアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、プロポキシ基、ヒドロキシプロポキシ基及びブトキシ基等のアルコキシ基;フェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0105】
X4により表される-CONR64-(R64は、水素原子又はアルキル基を表す。)におけるR64のアルキル基としては、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基及びドデシル基等の炭素数20以下のアルキル基が挙げられ、炭素数8以下のアルキル基がより好ましい。
【0106】
X4としては、単結合、-COO-又は-CONH-が好ましく、単結合又は-COO-がより好ましい。
【0107】
L4におけるアルキレン基としては、置換基を有していてもよい、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基及びオクチレン基等の炭素数1~8のアルキレン基が好ましい。
【0108】
Ar4としては、置換基を有していてもよい炭素数6~18の芳香環基が好ましく、ベンゼン環基、ナフタレン環基又はビフェニレン環基がより好ましい。
【0109】
一般式(I)で表される繰り返し単位は、ヒドロキシスチレン構造を備えていることが好ましい。即ち、Ar4は、ベンゼン環基であることが好ましい。
【0110】
フェノール性水酸基を有する繰り返し単位の含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、0~50モル%が好ましく、0~45モル%がより好ましく、0~40モル%が更に好ましい。
【0111】
(極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位)
樹脂Pは、極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位、特に、極性基で置換された脂環炭化水素構造を有する繰り返し単位を更に含有していてもよい。これにより基板密着性、現像液親和性が向上する。
極性基で置換された脂環炭化水素構造の脂環炭化水素構造としては、アダマンチル基、ジアマンチル基又はノルボルナン基が好ましい。極性基としては、水酸基又はシアノ基が好ましい。
【0112】
樹脂Pが、極性基を有する有機基を含有する繰り返し単位を含有する場合、その含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、1~50モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましく、5~25モル%が更に好ましく、5~20モル%が特に好ましい。
【0113】
(一般式(VI)で表される繰り返し単位)
樹脂Pは、下記一般式(VI)で表される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0114】
【0115】
一般式(VI)中、
R61、R62及びR63は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、又はアルコキシカルボニル基を表す。但し、R62はAr6と結合して環を形成していてもよく、その場合のR62は単結合又はアルキレン基を表す。
X6は、単結合、-COO-、又は-CONR64-を表す。R64は、水素原子又はアルキル基を表す。
L6は、単結合又はアルキレン基を表す。
Ar6は、(n+1)価の芳香環基を表し、R62と結合して環を形成する場合には(n+2)価の芳香環基を表す。
Y2は、n≧2の場合には各々独立に、水素原子又は酸の作用により脱離する基を表す。但し、Y2の少なくとも1つは、酸の作用により脱離する基を表す。
nは、1~4の整数を表す。
【0116】
酸の作用により脱離する基Y2としては、下記一般式(VI-A)で表される構造が好ましい。
【0117】
【0118】
L1及びL2は、各々独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアルキレン基とアリール基とを組み合わせた基を表す。
Mは、単結合又は2価の連結基を表す。
Qは、アルキル基、ヘテロ原子を含んでいてもよいシクロアルキル基、ヘテロ原子を含んでいてもよいアリール基、アミノ基、アンモニウム基、メルカプト基、シアノ基又はアルデヒド基を表す。
Q、M、L1の少なくとも2つが結合して環(好ましくは、5員若しくは6員環)を形成してもよい。
【0119】
上記一般式(VI)で表される繰り返し単位は、下記一般式(3)で表される繰り返し単位であることが好ましい。
【0120】
【0121】
一般式(3)において、
Ar3は、芳香環基を表す。
R3は、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、アシル基又はヘテロ環基を表す。
M3は、単結合又は2価の連結基を表す。
Q3は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はヘテロ環基を表す。
Q3、M3及びR3の少なくとも二つが結合して環を形成してもよい。
【0122】
Ar3が表す芳香環基は、上記一般式(VI)におけるnが1である場合の、上記一般式(VI)におけるAr6と同様であり、フェニレン基又はナフチレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0123】
(側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位)
樹脂Pは、更に、側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位を含有していてもよい。側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位としては、例えば、珪素原子を有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位、及び、珪素原子を有するビニル系繰り返し単位などが挙げられる。側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位は、典型的には、側鎖に珪素原子を有する基を有する繰り返し単位であり、珪素原子を有する基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基、トリシクロヘキシルシリル基、トリストリメチルシロキシシリル基、トリストリメチルシリルシリル基、メチルビストリメチルシリルシリル基、メチルビストリメチルシロキシシリル基、ジメチルトリメチルシリルシリル基、ジメチルトリメチルシロキシシリル基、及び、下記のような環状若しくは直鎖状ポリシロキサン、又は、カゴ型若しくははしご型若しくはランダム型のシルセスキオキサン構造などが挙げられる。式中、R、及び、R1は各々独立に、1価の置換基を表す。*は、結合手を表す。
【0124】
【0125】
上記の基を有する繰り返し単位としては、例えば、上記の基を有するアクリレート化合物又はメタクリレート化合物に由来する繰り返し単位、又は、上記の基とビニル基とを有する化合物に由来する繰り返し単位が好ましい。
【0126】
樹脂Pが、上記側鎖に珪素原子を有する繰り返し単位を有する場合、その含有量は、樹脂P中の全繰り返し単位に対して、1~30モル%が好ましく、5~25モル%がより好ましくは、5~20モル%が更に好ましい。
【0127】
樹脂Pの重量平均分子量は、GPC(Gel permeation chromatography)法によりポリスチレン換算値として、1,000~200,000が好ましく、3,000~20,000がより好ましく、5,000~15,000が更に好ましい。重量平均分子量を、1,000~200,000とすることにより、耐熱性及びドライエッチング耐性の劣化を防ぐことができ、且つ現像性が劣化したり、粘度が高くなって製膜性が劣化したりすることを防ぐことができる。
【0128】
分散度(分子量分布)は、通常1~5であり、1~3が好ましく、1.2~3.0がより好ましく、1.2~2.0が更に好ましい。
【0129】
薬液中において、樹脂Pの含有量は、全固形分中、50~99.9質量%が好ましく、60~99.0質量%がより好ましい。
また、薬液中において、樹脂Pは、1種で使用してもよいし、複数併用してもよい。
【0130】
薬液に含まれるその他の成分(例えば酸発生剤、塩基性化合物、クエンチャー、疎水性樹脂、界面活性剤、及び溶剤等)についてはいずれも公知のものを使用できる。その他の成分としては、例えば、特開2013-195844号公報、特開2016-057645号公報、特開2015-207006号公報、国際公開第2014/148241号、特開2016-188385号公報、及び、特開2017-219818号公報等に記載の感活性光線性又は感放射線性樹脂組成物等に含有される成分が挙げられる。
【0131】
〔薬液の用途〕
上記実施形態に係る薬液は、半導体デバイスの製造に用いられることが好ましい。特に、ノード10nm以下の微細パターンを形成するため(例えば、EUVを用いたパターン形成を含む工程)に用いられることがより好ましい。
上記実施形態に係る薬液は、パターン幅、及び/又は、パターン間隔が17nm以下(好ましくは15nm以下、より好ましくは、12nm以下)、及び/又は、得られる配線幅、及び/又は、配線間隔が17nm以下であるレジストプロセスに使用される薬液(プリウェット液、現像液、リンス液、レジスト液の溶剤、及び、剥離液等)、言いかえれば、パターン幅、及び/又は、パターン間隔が17nm以下であるレジスト膜を用いて製造される半導体デバイスの製造用として、更に好ましく用いられる。
【0132】
具体的には、リソグラフィー工程、エッチング工程、イオン注入工程、及び、剥離工程等を含有する半導体デバイスの製造工程において、各工程の終了後、又は、次の工程に移る前に、有機物を処理するために使用され、具体的には、プリウェット液、現像液、リンス液、及び、剥離液等として好適に用いられる。例えば、レジスト塗布前後の半導体基板のエッジエラインのリンスにも使用できる。
また、上記薬液は、レジスト液に含有される樹脂の希釈液、レジスト液に含有される溶剤としても用いることができる。また、他の有機溶剤、及び/又は、水等により希釈してもよい。
【0133】
また、上記薬液は、半導体デバイスの製造用以外の、他の用途にも用いることができ、ポリイミド、センサー用レジスト、レンズ用レジスト等の現像液、及び、リンス液等としても使用できる。
また、上記薬液は、医療用途又は洗浄用途の溶剤としても用いることができる。特に、容器、配管、及び、基板(例えば、ウェハ、及び、ガラス等)等の洗浄に好適に用いることができる。
【0134】
なかでも、本薬液は、EUV(極紫外線)を用いたパターン形成における、プリウェット液、現像液、及び、リンス液に適用した場合、より優れた効果を発揮する。
【0135】
[薬液の製造方法]
上記薬液の製造方法としては特に制限されず、公知の製造方法が使用できる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、薬液の製造方法は、フィルタを用いて有機溶剤を含有する被精製物をろ過して薬液を得る、ろ過工程を有することが好ましい。
【0136】
ろ過工程において使用する被精製物は、購入等により調達する、及び、原料を反応させることにより得られる。被精製物としては、すでに説明した金属含有粒子、及び/又は、不純物の含有量が少ないものを使用するのが好ましい。そのような被精製物の市販品としては、例えば、「高純度グレード品」と呼ばれるものが挙げられる。
【0137】
原料を反応させて被精製物(典型的には、有機溶剤を含有する被精製物)を得る方法として特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、触媒の存在下において、一又は複数の原料を反応させて、有機溶剤を得る方法が挙げられる。
より具体的には、例えば、酢酸とn-ブタノールとを硫酸の存在下で反応させ、酢酸ブチルを得る方法;エチレン、酸素、及び、水をAl(C2H5)3の存在下で反応させ、1-ヘキサノールを得る方法;シス-4-メチル-2-ペンテンをIpc2BH(Diisopinocampheylborane)の存在下で反応させ、4-メチル-2-ペンタノールを得る方法;プロピレンオキシド、メタノール、及び、酢酸を硫酸の存在下で反応させ、PGMEA(プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート)を得る方法;アセトン、及び、水素を酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウムの存在下で反応させて、IPA(isopropyl alcohol)を得る方法;乳酸、及び、エタノールを反応させて、乳酸エチルを得る方法;等が挙げられる。
【0138】
<ろ過工程>
本発明の実施形態に係る薬液の製造方法は、フィルタを用いて上記被精製物をろ過して薬液を得るろ過工程を有する。フィルタを用いて被精製物をろ過する方法としては特に制限されないが、ハウジングと、ハウジングに収納されたカートリッジフィルタと、を有するフィルタユニットに、被精製物を加圧又は無加圧で通過させる(通液する)のが好ましい。
【0139】
・フィルタの細孔径
フィルタの細孔径としては特に制限されず、被精製物のろ過用として通常使用される細孔径のフィルタが使用できる。なかでも、フィルタの細孔径は、粒子径が0.5~17nmの粒子の薬液中における含有粒子数を所望の範囲により制御しやすい点で、200nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましく、5nm以下が特に好ましく、3nm以下が最も好ましい。下限値としては特に制限されないが、一般に1nm以上が、生産性の観点から好ましい。
なお、本明細書において、フィルタの細孔径、および、細孔径分布とは、イソプロパノール(IPA)又は、HFE-7200(「ノベック7200」、3M社製、ハイドロフロオロエーテル、C4F9OC2H5)のバブルポイントによって決定される細孔径及び細孔径分布を意味する。
【0140】
フィルタの細孔径が、5.0nm以下であると、粒子径が0.5~17nmの粒子の薬液中における含有粒子数をより制御しやすい点で好ましい。以下、細孔径が5nm以下のフィルタを「微小孔径フィルタ」ともいう。
なお、微小孔径フィルタは単独で用いてもよいし、他の細孔径を有するフィルタと併用してもよい。なかでも、生産性により優れる観点から、より大きな細孔径を有するフィルタと併用することが好ましい。この場合、予めより大きな細孔径を有するフィルタによってろ過した被精製物を、微小孔径フィルタに通液させることで、微小孔径フィルタの目詰まりを防ぐことができる。
すなわち、フィルタの細孔径としては、フィルタを1つ用いる場合には、細孔径は5.0nm以下が好ましく、フィルタを2つ以上用いる場合、最小の細孔径を有するフィルタの細孔径が5.0nm以下が好ましい。
【0141】
細孔径の異なる2種以上のフィルタを順次使用する形態としては特に制限されないが、被精製物が移送される管路に沿って、既に説明したフィルタユニットを順に配置する方法が挙げられる。このとき、管路全体として被精製物の単位時間当たりの流量を一定にしようとすると、細孔径のより小さいフィルタユニットには、細孔径のより大きいフィルタユニットと比較してより大きな圧力がかかる場合がある。この場合、フィルタユニットの間に圧力調整弁、及び、ダンパ等を配置して、小さい細孔径を有するフィルタユニットにかかる圧力を一定にしたり、また、同一のフィルタが収納されたフィルタユニットを管路に沿って並列に配置したりして、ろ過面積を大きくすることが好ましい。このようにすることで、より安定して、0.5~17nmの粒子の薬液中における含有粒子数を制御できる。
【0142】
・フィルタの材料
フィルタの材料としては特に制限されず、フィルタの材料として公知のものが使用できる。具体的には、樹脂である場合、6-ナイロン、及び、6,6-ナイロン等のポリアミド;ポリエチレン、及び、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリスチレン;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリ(メタ)アクリレート;ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及び、ポリフッ化ビニル等のポリフルオロカーボン;ポリビニルアルコール;ポリエステル;セルロース;セルロースアセテート等が挙げられる。なかでも、より優れた耐溶剤性を有し、得られる薬液がより優れた欠陥抑制性能を有する点で、ナイロン(なかでも、6,6-ナイロンが好ましい)、ポリオレフィン(なかでも、ポリエチレンが好ましい)、ポリ(メタ)アクリレート、及び、ポリフルオロカーボン(なかでも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)が好ましい。)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。これらの重合体は単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。
また、樹脂以外にも、ケイソウ土、及び、ガラス等であってもよい。
【0143】
また、フィルタは表面処理されたものであってもよい。表面処理の方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。表面処理の方法としては、例えば、化学修飾処理、プラズマ処理、疎水処理、コーティング、ガス処理、及び、焼結等が挙げられる。
【0144】
プラズマ処理は、フィルタの表面が親水化されるために好ましい。プラズマ処理して親水化されたフィルタの表面における水接触角としては特に制限されないが、接触角計で測定した25℃における静的接触角が、60°以下が好ましく、50°以下がより好ましく、30°以下が更に好ましい。
【0145】
化学修飾処理としては、基材にイオン交換基を導入する方法が好ましい。
すなわち、フィルタとしては、上記で挙げた各材料を基材として、上記基材にイオン交換基を導入したものが好ましい。典型的には、表面にイオン交換基を有する基材を含むフィルタが好ましい。表面修飾された基材としては特に制限されず、製造がより容易な点で、上記重合体にイオン交換基を導入したものが好ましい。
【0146】
イオン交換基としては、カチオン交換基として、スルホン酸基、カルボキシ基、及び、リン酸基等が挙げられ、アニオン交換基として、4級アンモニウム基等が挙げられる。イオン交換基を重合体に導入する方法としては特に制限されないが、イオン交換基と重合性基とを有する化合物を重合体と反応させ典型的にはグラフト化する方法が挙げられる。
【0147】
イオン交換基の導入方法としては特に制限されないが、上記の樹脂の繊維に電離放射線(α線、β線、γ線、X線、及び、電子線等)を照射して樹脂中に活性部分(ラジカル)を生成させる。この照射後の樹脂をモノマー含有溶液に浸漬してモノマーを基材にグラフト重合させる。その結果、このモノマーがポリオレフィン繊維にグラフト重合側鎖として結合したものが生成する。この生成されたポリマーを側鎖として有する樹脂をアニオン交換基又はカチオン交換基を有する化合物と接触反応させることにより、グラフト重合された側鎖のポリマーにイオン交換基が導入されて最終生成物が得られる。
【0148】
また、フィルタは、放射線グラフト重合法によりイオン交換基を形成した織布、又は、不織布と、従来のガラスウール、織布、又は、不織布のろ過材とを組み合わせた構成でもよい。
【0149】
イオン交換基を有するフィルタを用いると、金属原子を含有する粒子の薬液中における含有量を所望の範囲により制御しやすい。イオン交換基を有するフィルタの材料としては特に制限されないが、ポリフルオロカーボン、及び、ポリオレフィンにイオン交換基を導入したもの等が挙げられ、ポリフルオロカーボンにイオン交換基を導入したものがより好ましい。
イオン交換基を有するフィルタの細孔径としては特に制限されないが、1~30nmが好ましく、5~20nmがより好ましい。イオン交換基を有するフィルタは、既に説明した最小の細孔径を有するフィルタを兼ねてもよいし、最小の細孔径を有するフィルタとは別に使用してもよい。なかでもより優れた本発明の効果を有する薬液が得られる点で、ろ過工程は、イオン交換基を有するフィルタと、イオン交換基を有さず、最小の細孔径を有するフィルタとを併用する形態が好ましい。
既に説明した最小の細孔径を有するフィルタの材料としては特に制限されないが、耐溶剤性等の観点から、一般に、ポリフルオロカーボン、及び、ポリオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリオレフィンがより好ましい。
【0150】
また、フィルタの材料がポリアミド(特にナイロン)であると、高沸点有機化合物、及び、粒子Uの薬液中における含有量をより容易に制御でき、特に、粒子Uの薬液中における含有量を更に容易に制御できる。
従って、ろ過工程で使用されるフィルタとしては、材料の異なる2種以上のフィルタを使用することが好ましく、ポリオレフィン、ポリフルオロカーボン、ポリアミド、及び、これらにイオン交換基を導入したものからなる群より選択される2種以上を使用することがより好ましい。
【0151】
・フィルタの細孔構造
フィルタの細孔構造としては特に制限されず、被精製物中の成分に応じて適宜選択すればよい。本明細書において、フィルタの細孔構造とは、細孔径分布、フィルタ中の細孔の位置的な分布、及び、細孔の形状等を意味し、典型的には、フィルタの製造方法により制御可能である。
例えば、樹脂等の粉末を焼結して形成すれば多孔質膜が得られ、及び、エレクトロスピニング、エレクトロブローイング、及び、メルトブローイング等の方法により形成すれば繊維膜が得られる。これらは、それぞれ細孔構造が異なる。
【0152】
「多孔質膜」とは、ゲル、粒子、コロイド、細胞、及び、ポリオリゴマー等の被精製物中の成分を保持するが、細孔よりも実質的に小さい成分は、細孔を通過する膜を意味する。多孔質膜による被精製物中の成分の保持は、動作条件、例えば、面速度、界面活性剤の使用、pH、及び、これらの組み合わせに依存することがあり、かつ、多孔質膜の孔径、構造、及び、除去されるべき粒子のサイズ、及び、構造(硬質粒子か、又は、ゲルか等)に依存し得る。
【0153】
被精製物に不純物として粒子U(ゲル状であってもよい)が含有されている場合、高沸点有機化合物を含有する粒子は負に帯電している場合が多く、そのような粒子の除去には、ポリアミド製のフィルタが非ふるい膜の機能を果たす。典型的な非ふるい膜には、ナイロン-6膜及びナイロン-6,6膜等のナイロン膜が含まれるが、これらに制限されない。
なお、本明細書で使用される「非ふるい」による保持機構は、フィルタの圧力降下、又は、細孔径に関連しない、妨害、拡散及び吸着などの機構によって生じる保持を指す。
【0154】
非ふるい保持は、フィルタの圧力降下又はフィルタの細孔径に関係なく、被精製物中の除去対象粒子を除去する、妨害、拡散及び吸着等の保持機構を含む。フィルタ表面への粒子の吸着は、例えば、分子間のファンデルワールス力及び静電力等によって媒介され得る。蛇行状のパスを有する非ふるい膜層中を移動する粒子が、非ふるい膜と接触しないように十分に速く方向を変えることができない場合に、妨害効果が生じる。拡散による粒子輸送は、粒子がろ過材と衝突する一定の確率を作り出す、主に、小さな粒子のランダム運動またはブラウン運動から生じる。粒子とフィルタの間に反発力が存在しない場合、非ふるい保持機構は活発になり得る。
【0155】
UPE(超高分子量ポリエチレン)フィルタは、典型的には、ふるい膜である。ふるい膜は、主にふるい保持機構を介して粒子を捕捉する膜、又は、ふるい保持機構を介して粒子を捕捉するために最適化された膜を意味する。
ふるい膜の典型的な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜とUPE膜が含まれるが、これらに制限されない。
なお、「ふるい保持機構」とは、除去対象粒子が多孔質膜の細孔径よりも大きいことによる結果の保持を指す。ふるい保持力は、フィルタケーキ(膜の表面での除去対象となる粒子の凝集)を形成することによって向上させることができる。フィルタケーキは、2次フィルタの機能を効果的に果たす。
【0156】
繊維層の材質は、繊維層を形成可能なポリマーであれば特に制限されない。ポリマーとしては、例えば、ポリアミド等が挙げられる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、及び、ナイロン6,6等が挙げられる。繊維膜を形成するポリマーとしては、ポリ(エーテルスルホン)であってもよい。繊維膜が多孔質膜の一次側にある場合、繊維膜の表面エネルギーは、二次側にある多孔質膜の材質であるポリマーより高いことが好ましい。そのような組合せとしては、例えば、繊維膜の材料がナイロンで、多孔質膜がポリエチレン(UPE)である場合が挙げられる。
【0157】
繊維膜の製造方法としては特に制限されず、公知の方法を用いることができる。繊維膜の製造方法としては、例えば、エレクトロスピニング、エレクトロブローイング、及び、メルトブローイング等が挙げられる。
【0158】
多孔質膜(例えば、UPE、及び、PTFE等を含む多孔質膜)の細孔構造としては特に制限されないが、細孔の形状としては例えば、レース状、ストリング状、及び、ノード状等が挙げられる。
多孔質膜における細孔の大きさの分布とその膜中における位置の分布は、特に制限されない。大きさの分布がより小さく、かつ、その膜中における分布位置が対称であってもよい。また、大きさの分布がより大きく、かつ、その膜中における分布位置が非対称であってもよい(上記の膜を「非対称多孔質膜」ともいう。)。非対称多孔質膜では、孔の大きさは膜中で変化し、典型的には、膜一方の表面から膜の他方の表面に向かって孔径が大きくなる。このとき、孔径の大きい細孔が多い側の表面を「オープン側」といい、孔径が小さい細孔が多い側の表面を「タイト側」ともいう。
また、非対称多孔質膜としては、例えば、細孔の大きさが膜の厚さ内のある位置においてで最小となるもの(これを「砂時計形状」ともいう。)が挙げられる。
【0159】
非対称多孔質膜を用いて、一次側をより大きいサイズの孔とすると、言い換えれば、一次側をオープン側とすると、前ろ過効果を生じさせることができる。
【0160】
多孔質膜は、PESU(ポリエーテルスルホン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン、四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシアルカンとの共重合体)、ポリアミド、及び、ポリオレフィン等の熱可塑性ポリマーを含んでもよいし、ポリテトラフルオロエチレン等を含んでもよい。
なかでも、多孔質膜の材料としては、超高分子量ポリエチレンが好ましい。超高分子量ポリエチレンは、極めて長い鎖を有する熱可塑性ポリエチレンを意味し、分子量が百万以上、典型的には、200~600万が好ましい。
【0161】
ろ過工程で使用されるフィルタとしては、細孔構造の異なる2種以上のフィルタを使用することが好ましく、多孔質膜、及び、繊維膜のフィルタを有することがより好ましい。具体的には、ナイロン繊維膜のフィルタと、UPE多孔質膜のフィルタとを併用することが好ましい。
【0162】
上記のとおり、本発明の実施形態に係るろ過工程は、フィルタの材料、細孔径、及び、細孔構造からなる群より選択される少なくとも1種が異なる2種以上のフィルタに被精製物を通過させる、多段ろ過工程であることが好ましい。
【0163】
(多段ろ過工程)
多段ろ過工程は公知の精製装置を用いて実施可能である。
図1は、多段ろ過工程を実施可能な精製装置の典型例を表す模式図である。精製装置10は、製造タンク11と、ろ過装置16と、充填装置13とを有しており、上記それぞれのユニットは、管路14で接続されている。
ろ過装置16は、管路14で接続されたフィルタユニット12(a)及び12(b)を有している。上記フィルタユニット12(a)及び12(b)の間の管路には、調整弁15(a)が配置されている。
なお、
図1では、フィルタユニットの数が2つの場合について説明するが、フィルタユニットは3つ以上用いられてもよい。
【0164】
図1において、被精製物は、製造タンク11に貯留される。次に、管路14中に配置された図示しないポンプが稼動し、製造タンク11から管路14を経由して、被精製物が、ろ過装置16へと送られる。精製装置10中における被精製物の移送方向は、
図1中のF
1で示した。
【0165】
ろ過装置16は、管路14で接続されたフィルタユニット12(a)及び12(b)からなり、上記2つのフィルタユニットのそれぞれには、細孔径、材料、及び、細孔構造からなる群より選択される少なくとも1種が異なるフィルタを有するカートリッジフィルタが収納されている。ろ過装置16は、管路を通じて供給される被精製物をフィルタでろ過する機能を有する。
各フィルタユニットに収納されるフィルタとしては特に制限されないが、最小の細孔径を有するフィルタは、12(b)のフィルタユニットに収納されることが好ましい。
【0166】
ポンプが稼動することにより、被精製物は、フィルタユニット12(a)に供給され、ろ過される。フィルタユニット12(a)でろ過された被精製物は、調整弁15(a)で必要に応じて減圧され、フィルタユニット12(b)に供給され、ろ過される。
【0167】
なお、精製装置は、調整弁15(a)を有していなくてもよい。また、調整弁15(a)を有している場合であっても、その位置は、フィルタユニット12(b)の一次側でなくてもよく、フィルタユニット12(a)の一次側であってもよい。
また、被精製物の供給圧力を調整できる装置としては、調整弁以外を使用してもよい。そのような部材としては、例えば、ダンパ等が挙げられる。
【0168】
また、ろ過装置16においては、各フィルタはカートリッジフィルタを形成しているが、本実施形態に係る精製方法に使用できるフィルタは上記の形態に制限されない。例えば、平板状に形成されたフィルタに被精製物を通液する形態であってもよい。
【0169】
また、上記精製装置10においては、フィルタユニット12(b)を経たろ過後の被精製物を充填装置13に移送し、容器に収容する構成となっているが、上記精製方法を実施するろ過装置としては上記に制限されず、フィルタユニット12(b)を経てろ過された被精製物を、製造タンク11に返送し、再度フィルタユニット12(a)及びフィルタユニット12(b)を通液させるよう構成されていてもよい。上記のようなろ過の方法を循環ろ過という。循環ろ過による被精製物の精製では、2種以上のフィルタの少なくとも1つが2回以上用いられることになる。なお、本明細書において、各フィルタユニットによりろ過されたろ過済み被精製物を製造タンクに返送する操作を循環回数1回と数える。
循環回数は、被精製物中の成分等に応じて適宜選択すればよい。
【0170】
上記精製装置の接液部(被精製物、及び、薬液が接触する可能性のある内壁面等を意味する)の材料としては特に制限されないが、非金属材料、及び、電解研磨された金属材料からなる群から選択される少なくとも1種(以下、これらをあわせて「耐腐食材料」ともいう。)から形成されることが好ましい。例えば、製造タンクの接液部が耐腐食材料から形成される、とは、製造タンク自体が耐腐食材料からなるか、又は、製造タンクの内壁面等が耐腐食材料で被覆されている場合が挙げられる。
【0171】
上記非金属材料としては、特に制限されず、公知の材料が使用できる。
非金属材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン-ポリプロピレン樹脂、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂、四フッ化エチレン-エチレン共重合体樹脂、三フッ化塩化エチレン-エチレン共重合樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン共重合樹脂、及び、フッ化ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられるが、これに制限されない。
【0172】
上記金属材料としては、特に制限されず、公知の材料が使用できる。
金属材料としては、例えば、クロム及びニッケルの含有量の合計が金属材料全質量に対して25質量%超である金属材料が挙げられ、なかでも、30質量%以上が好ましい。金属材料におけるクロム及びニッケルの含有量の合計の上限値としては特に制限されないが、90質量%以下が好ましい。
金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、及びニッケル-クロム合金等が挙げられる。
【0173】
ステンレス鋼としては、特に制限されず、公知のステンレス鋼が使用できる。なかでも、ニッケルを8質量%以上含有する合金が好ましく、ニッケルを8質量%以上含有するオーステナイト系ステンレス鋼がより好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えばSUS(Steel Use Stainless)304(Ni含有量8質量%、Cr含有量18質量%)、SUS304L(Ni含有量9質量%、Cr含有量18質量%)、SUS316(Ni含有量10質量%、Cr含有量16質量%)、及び、SUS316L(Ni含有量12質量%、Cr含有量16質量%)等が挙げられる。
【0174】
ニッケル-クロム合金としては、特に制限されず、公知のニッケル-クロム合金が使用できる。なかでも、ニッケル含有量が40~75質量%、クロム含有量が1~30質量%のニッケル-クロム合金が好ましい。
ニッケル-クロム合金としては、例えば、ハステロイ(商品名、以下同じ。)、モネル(商品名、以下同じ)、及び、インコネル(商品名、以下同じ)等が挙げられる。より具体的には、ハステロイC-276(Ni含有量63質量%、Cr含有量16質量%)、ハステロイ-C(Ni含有量60質量%、Cr含有量17質量%)、及び、ハステロイC-22(Ni含有量61質量%、Cr含有量22質量%)等が挙げられる。
また、ニッケル-クロム合金は、必要に応じて、上記した合金の他に、更に、ホウ素、ケイ素、タングステン、モリブデン、銅、及び、コバルト等を含有していてもよい。
【0175】
金属材料を電解研磨する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、特開2015-227501号公報の0011~0014段落、及び、特開2008-264929号公報の0036~0042段落等に記載された方法が使用できる。
【0176】
金属材料は、電解研磨されることにより表面の不動態層におけるクロムの含有量が、母相のクロムの含有量よりも多くなっているものと推測される。そのため、接液部が電解研磨された金属材料から形成された精製装置を用いると、被精製物中に金属含有粒子が流出しにくいものと推測される。
なお、金属材料はバフ研磨されていてもよい。バフ研磨の方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。バフ研磨の仕上げに用いられる研磨砥粒のサイズは特に制限されないが、金属材料の表面の凹凸がより小さくなりやすい点で、#400以下が好ましい。なお、バフ研磨は、電解研磨の前に行われることが好ましい。
【0177】
<その他の工程>
本発明の実施形態に係る薬液の製造方法としてはろ過工程を有していれば特に制限されず、ろ過工程以外の工程を更に有していてもよい。ろ過工程以外の工程としては、例えば、蒸留工程、反応工程、及び、除電工程等が挙げられる。
【0178】
(蒸留工程)
蒸留工程は、有機溶剤を含有する被精製物を蒸留して、蒸留済み被精製物を得る工程である。被精製物を蒸留する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。典型的には、既に説明した精製装置の一次側に、蒸留塔を配置し、蒸留された被精製物を製造タンクに導入する方法が挙げられる。
このとき、蒸留塔の接液部としては特に制限されないが、既に説明した耐腐食材料で形成されることが好ましい。
【0179】
(反応工程)
反応工程は、原料を反応させて、反応物である有機溶剤を含有する被精製物を生成する工程である。被精製物を生成する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。典型的には、既に説明した精製装置の製造タンク(又は、蒸留塔)の一次側に反応槽を配置し、反応物を製造タンク(又は蒸留塔)に導入する方法が挙げられる。
このとき、反応槽の接液部としては特に制限されないが、既に説明した耐腐食材料で形成されることが好ましい。
【0180】
(除電工程)
除電工程は、被精製物を除電することで、被精製物の帯電電位を低減させる工程である。
除電方法としては特に制限されず、公知の除電方法を用いることができる。除電方法としては、例えば、被精製物を導電性材料に接触させる方法が挙げられる。
被精製物を導電性材料に接触させる接触時間は、0.001~60秒が好ましく、0.001~1秒がより好ましく、0.01~0.1秒が更に好ましい。導電性材料としては、ステンレス鋼、金、白金、ダイヤモンド、及び、グラッシーカーボン等が挙げられる。
被精製物を導電性材料に接触させる方法としては、例えば、導電性材料からなる接地されたメッシュを管路内部に配置し、ここに被精製物を通す方法等が挙げられる。
【0181】
被精製物の精製は、それに付随する、容器の開封、容器及び装置の洗浄、溶液の収容、並びに、分析等は、全てクリーンルームで行うことが好ましい。クリーンルームは、国際標準化機構が定める国際標準ISO14644-1:2015で定めるクラス4以上の清浄度のクリーンルームが好ましい。具体的にはISOクラス1、ISOクラス2、ISOクラス3、及び、ISOクラス4のいずれかを満たすことが好ましく、ISOクラス1又はISOクラス2を満たすことがより好ましく、ISOクラス1を満たすことが更に好ましい。
【0182】
薬液の保管温度としては特に制限されないが、薬液が微量に含有する不純物等がより溶出しにくく、結果としてより優れた本発明の効果が得られる点で、保管温度としては4℃以上が好ましい。
【0183】
[薬液収容体]
上記精製方法により製造された薬液は、容器に収容されて使用時まで保管してもよい。
このような容器と、容器に収容された薬液(又はレジスト組成物)とをあわせて薬液収容体という。保管された薬液収容体からは、薬液が取り出され使用される。
【0184】
上記薬液を保管する容器としては、半導体デバイス製造用途向けに、容器内のクリーン度が高く、不純物の溶出が少ないものが好ましい。
使用可能な容器としては、具体的には、アイセロ化学(株)製の「クリーンボトル」シリーズ、及び、コダマ樹脂工業製の「ピュアボトル」等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0185】
容器としては、薬液への不純物混入(コンタミ)防止を目的として、容器内壁を6種の樹脂による6層構造とした多層ボトル、又は、6種の樹脂による7層構造とした多層ボトルを使用することも好ましい。これらの容器としては例えば特開2015-123351号公報に記載の容器が挙げられる。
【0186】
この容器の接液部は、既に説明した耐腐食材料又はガラスからなることが好ましい。より優れた本発明の効果が得られる点で、接液部の面積の90%以上が上記材料からなることが好ましく、接液部の全部が上記材料からなることがより好ましい。
【実施例0187】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0188】
また、実施例及び比較例の薬液の調製にあたって、容器の取り扱い、薬液の調製、充填、保管及び分析測定は、全てISOクラス2又は1を満たすレベルのクリーンルームで行った。測定精度向上のため、有機不純物の含有量の測定、及び、金属原子の含有量の測定においては、通常の測定で検出限界以下のものの測定を行う際には、薬液を体積換算で100分の1に濃縮して測定を行い、濃縮前の溶液の濃度に換算して含有量を算出した。なお、精製に仕様した装置、並びに、フィルター及び容器などの器具は、薬液接液面を、同様の手法で精製しておいた薬液で十分に洗浄してから用いた。
【0189】
[薬液1の精製]
有機溶剤としてシクロヘキサノン(CHN)を含有する被精製物(市販品)を準備し、フィルタユニットが管路に沿って4つ直列に配置され、調整弁を有さないろ過装置を有すること、及び、最も下流側のフィルタユニットでろ過された後、ろ過済み被精製物を製造タンクに返送できる管路を有している点以外は
図1に記載したのと同様の精製装置を用いてろ過して、薬液を製造した。各フィルタユニットには、一次側から、以下のフィルタが配置されていた。(表1中には、それぞれ、第1~第4フィルタとして記載した。)
・ポリプロピレン製フィルタ(細孔径:200nm、多孔質膜、表中では「PP」と記載した。)
・イオン交換基を有するポリフルオロカーボン製フィルタ(細孔径:20nm、PTFEとPES(ポリエチレンスルホン酸)の重合体の繊維膜、表中では「IEX」と記載した。)
・ナイロン製フィルタ(細孔径:10nm、繊維膜、表中では「Nylon」と記載した。)
・UPE製フィルタ(細孔径:3nm、多孔質膜、表中では「UPE」と記載した。)
上記4つのフィルタユニットに通液した被精製物を製造タンクに返送し、これを8回繰り返して、薬液を得た。
【0190】
[薬液2~30の精製]
薬液2~30は、表1に記載した条件で、表1に記載した有機溶剤を含有する被精製物を精製して得た。なお、各薬液は被精製物を表1に記載した各フィルタに第1フィルタから順に第4フィルタまで通液し(なお、フィルタ欄が空欄の薬液は、そのフィルタを用いなかったことを表す。例えば、薬液2であれば、第1フィルタ~第4フィルタまで通液した)、これを「循環回数」に記載した回数繰り返して得た。
なお、表1中に記載された被精製物は、それぞれロットの異なるものを調達したものである。従って、各被精製物に当初含有されている有機溶剤以外の成分は異なる場合がある。
【0191】
なお、表1中における略号は、それぞれ以下の内容を表す。
・PGMEA/PGME (7:3):PGMEAとPGMEの7:3(v/v)混合液
・nBA:n-酢酸ブチル
・iAA:酢酸イソアミル
・MIBC:メチルイソブチルカルビノール
・IPA:イソプロパノール
・PC/PGMEA (1:9):PCとPGMEAの1:9(v/v)混合液
・EL:乳酸エチル
・IEX/10nm:細孔径10nmのIEXフィルタ
・PTFE/:ポリテトラフルオロエチレン製フィルタ(多孔質膜である)
・UPE:超高分子量ポリエチレン製フィルタ(多孔質膜である。)
・Nylon:ナイロン製フィルタ(繊維膜である。)
【0192】
【0193】
[薬液中における粒子径0.5~17nmの含有粒子数の評価]
薬液中における粒子径0.5~17nmの粒子の含有量(含有粒子数)は、以下の方法により測定した。
まず、シリコン基板上に一定量の薬液を塗布して薬液層付き基板を形成し、薬液層付き基板の表面をレーザ光により走査し、散乱光を検出した。これにより、薬液層付き基板の表面に存在する欠陥の位置及び粒子径を特定した。次に、その欠陥の位置を基準にEDX(エネルギー分散型X線)分析法により元素分析し、欠陥の組成を調べた。この方法により、金属ナノ粒子、Pbナノ粒子、及び、Tiナノ粒子の基板上における粒子数を求め、それを薬液の単位体積あたりの含有粒子数(個/cm3)に換算した。また、上記により金属ナノ粒子の粒子径分布も上記方法により求めた。
また同様にして、金属ナノ粒子の組成(金属単体、及び、金属原子の酸化物)、及び、高沸点有機化合物との会合状態等も同定した。
なお、分析には、KLA-Tencor社製のウェハ検査装置「SP-5」と、アプライドマテリアル社の全自動欠陥レビュー分類装置「SEMVision G6」を組み合わせて使用した。また、高沸点有機化合物の含有の有無については、ガスクロマトグラフ質量分析法で測定した。
【0194】
なお、測定装置の分解能等の都合で、所望の粒子径の粒子が検出できなかった試料については、特開2009-188333号公報の0015~0067段落に記載の方法を用いて検出した。すなわち、基板上に、CVD(化学気相成長)法によりSiOX層を形成し、次に、上記層上を覆うように薬液層を形成した。次に、上記SiOX層とその上に塗布された薬液層とを有する複合層をドライエッチングして、得られた突起物に対して光照射して、散乱光を検出し、上記散乱光から、突起物の体積を計算し、上記突起物の体積から粒子の粒径を計算する方法を用いた。
各薬液に係る測定結果、及び、測定結果をもとに計算した含有粒子数比等を表2に示した。
【0195】
なお、表2中、粒子径分布における略号は、粒子径が以下の範囲にある粒子をそれぞれ表すものとする。
・「0.5未満」:粒子径が0.5nm未満の金属含有粒子
・「0.5-3」:粒子径が0.5nm以上、3nm未満の金属ナノ粒子
・「3-5」:粒子径が3nm以上、5nm未満の金属ナノ粒子
・「5-17」:粒子径が5nm以上、17nm以下の金属ナノ粒子
【0196】
【0197】
【0198】
なお、表2は、表2(その1)と表2(その2)に分割して記載した。各薬液の測定結果等は、上記2表の対応する各行にわたって記載してある。例えば、薬液1であれば、有機溶剤としてはシクロヘキサノンを用い、金属ナノ粒子の含有粒子数が1.0×104個/cm3であり、金属含有粒子の個数基準の粒子径分布(個数%)として、粒子径が0.5nm未満の金属含有粒子が20%、粒子径が0.5nm以上、3nm未満の金属ナノ粒子が50%、粒子径が3nm以上、5nm未満の金属ナノ粒子が20%、粒子径が5nm以上、17nm以下の金属ナノ粒子が10%含まれており、粒子Aが金属ナノ粒子の全体に対して個数基準で2%、粒子Bと粒子Cの合計が98%含まれており、A/(B+C)が2.0×10-2であり、高沸点有機化合物を含有し、金属ナノ粒子の全体に対して、個数基準で、粒子Uが94%、粒子Vが6%含まれており、U/Vが1.6×101である。金属ナノ粒子のうち、Pbナノ粒子は1.3×102個/cm3であり、Tiナノ粒子は、5.4×102個/cm3であり、Pb/Tiが2.4×10-1であることを表している。他の薬液についても、薬液1と同様の要領で表中に記載した。
【0199】
[実施例1]
上記で調整した薬液1をプリウェット液として用いて、欠陥抑制性能を評価した。なお、使用したレジスト組成物は以下のとおりである。
【0200】
〔レジスト組成物1〕
レジスト組成物1は、各成分を以下の組成で混合して得た。
・樹脂(A-1):0.77g
・酸発生剤(B-1):0.03g
・塩基性化合物(E-3):0.03g
・PGMEA:67.5g
・EL:75g
【0201】
<樹脂(A)等>
(合成例1)樹脂(A-1)の合成
2Lフラスコにシクロヘキサノン600gを入れ、100mL/minの流量で一時間窒素置換した。その後、重合開始剤V-601(和光純薬工業(株)製)4.60g(0.02mol)を加え、内温が80℃になるまで昇温した。次に、以下のモノマーと重合開始剤V-601(和光純薬工業(株)製)4.60g(0.02mol)とを、シクロヘキサノン200gに溶解し、モノマー溶液を調製した。モノマー溶液を上記80℃に加熱したフラスコ中に6時間かけて滴下した。滴下終了後、更に80℃で2時間反応させた。
4-アセトキシスチレン 48.66g(0.3mol)
1-エチルシクロペンチルメタクリレート 109.4g(0.6mol)
モノマー1 22.2g(0.1mol)
【0202】
【0203】
反応溶液を室温まで冷却し、ヘキサン3L中に滴下しポリマーを沈殿させた。ろ過した固体をアセトン500mLに溶解し、再度ヘキサン3L中に滴下、ろ過した固体を減圧乾燥して、4-アセトキシスチレン/1-エチルシクロペンチルメタクリレート/モノマー1共重合体(A-1)160gを得た。
【0204】
反応容器中に上記で得られた重合体10g、メタノール40mL、1-メトキシ-2-プロパノール200mL、及び、濃塩酸1.5mLを加え、80℃に加熱して5時間攪拌した。反応溶液を室温まで放冷し、蒸留水3L中に滴下した。ろ過した固体をアセトン200mLに溶解し、再度蒸留水3L中に滴下、ろ過した固体を減圧乾燥して樹脂(A-1)(8.5g)を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(溶剤:THF(tetrahydrofuran))による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は11200、分子量分散度(Mw/Mn)は1.45であった。組成等を以下の表3に示した。
【0205】
【0206】
<光酸発生剤(B)>
光酸発生剤としては、以下のものを用いた。
【0207】
【0208】
<塩基性化合物(E)>
塩基性化合物としては、以下のものを用いた。
【0209】
【0210】
(残渣欠陥抑制性能、ブリッジ欠陥抑制性能、及び、シミ状欠陥抑制性能)
以下の方法により、薬液の残渣欠陥抑制性能、ブリッジ欠陥抑制性能、及び、シミ状欠陥抑制性能を評価した。なお、試験には、SOKUDO社製コータデベロッパ「RF3S」を用いた。
まず、シリコンウエハ上にAL412(Brewer Science社製)を塗布し、200℃で60秒間ベークを行い、膜厚20nmのレジスト下層膜を形成した。その上にプリウェット液(薬液1)を塗布し、その上からレジスト組成物1を塗布し、100℃で60秒間ベーク(PB:Prebake)を行い、膜厚30nmのレジスト膜を形成した。
【0211】
このレジスト膜をEUV露光機(ASML社製;NXE3350、NA0.33、Dipole 90°、アウターシグマ0.87、インナーシグマ0.35)を用い、ピッチが20nm且つパターン幅が15nmの反射型マスクを介して露光した。その後、85℃にて60秒間加熱(PEB:Post Exposure Bake)した。次いで、有機溶剤系の現像液で30秒間現像し、20秒間リンスした。続いて、2000rpmの回転数で40秒間ウェハを回転させることにより、ピッチが20nm、且つパターン線幅が15nmのラインアンドスペースのパターンを形成した。
【0212】
上記のパターンの画像を取得し、得られた画像を、上記の分析装置を用いて解析し、単位面積当たりの未露光部における残渣数(表4中で「残渣欠陥抑制性能」と記載した。)、及び、パターン同士の架橋様の不良数(ブリッジ欠陥数、表4中で「ブリッジ欠陥抑制性能」と記載した。)を計測した。また、欠陥が検出された座標においてEDX(エネルギー分散型X線分析)した結果、金属原子が検出されなかった欠陥をシミ状欠陥と定義して、これを計測した(表4中で、「シミ状欠陥抑制性能」と記載した。)。結果は以下の基準により評価し、表4に示した。なお、下記の評価基準において「欠陥数」とあるのは、それぞれ、残渣欠陥数、ブリッジ欠陥数、及び、シミ状欠陥数を表す。
【0213】
AA:欠陥数が30個未満だった。
A:欠陥数が30個以上、60個未満だった。
B:欠陥数が60個以上、90個未満だった。
C:欠陥数が90個以上、120個未満だった。
D:欠陥数が120個以上、150個未満だった。
E:欠陥数が150個以上、180個未満だった。
F:欠陥数が180個以上だった。
【0214】
(パターン幅の均一性能)
上記パターンの画像を取得し、得られた画像を、上記の分析装置を用いて解析し、LWR(Line Width Roughness)を求めた。すなわち、パターン上部から観察する際、パターンの中心からエッジまでの距離を任意のポイントで観測し、その測定ばらつきを3σで評価した。結果は以下の基準により評価し、パターン幅の均一性能の評価とした。結果を表4に示した。
【0215】
AA:3σが、1.5nm未満だった。
A:3σが、1.5nm以上、1.8nm未満だった。
B:3σが、1.8nm以上、2.2nm未満だった。
C:3σが、2.2nm以上、2.5nm未満だった。
D:3σが、2.5nm以上、2.8nm未満だった。
E:3σが、2.8nm以上、3.1nm未満だった。
F:3σが、3.1nm以上だった。
【0216】
[実施例2~21、及び、実施例23~28]
薬液1に代えて、薬液2~21、及び、薬液23~28を用いたことを除いては、上記と同様にして、各薬液の残渣欠陥抑制性能、ブリッジ欠陥抑制性能、シミ状欠陥抑制性能、及び、パターン幅の均一性能を評価した。結果を表4に示した。
【0217】
[比較例1、2]
薬液1に代えて、薬液29及び30を用いたことを除いては、上記と同様にして、残渣欠陥抑制性能、ブリッジ欠陥抑制性能、シミ状欠陥抑制性能、及び、パターン幅の均一性能を評価した。結果を表4に示した。
【0218】
[実施例22]
プリウェット液を用いなかったこと、及び、現像液として、薬液22を用いたことを除いては、上記と同様にして薬液22の残渣欠陥抑制性能、ブリッジ欠陥抑制性能、シミ状欠陥抑制性能、及び、パターン幅の均一性能を評価した。結果を表4に示した。
【0219】
【0220】
[実施例29]
レジスト組成物1におけるPGMEA:67.5g及びEL:75gに代えて、実施例1に記載した薬液1の精製方法により精製したPGMEA:67.5g及びEL:75gを用いたことを除いてはレジスト組成物1と同様の方法、及び、成分を用いて、薬液であるレジスト組成物2を得た。
【0221】
次に、レジスト組成物2について、上記と同様の方法により、薬液中における粒子径0.5~17nmの含有粒子数を評価したところ、実施例1と同程度だった。
また、レジスト組成物2を用い、プリウェット液を用いなかったことを除いては実施例1と同様の方法によりパターン形成し、残渣欠陥抑制性能、ブリッジ欠陥抑制性能、パターン幅の均一性能、及び、シミ状欠陥抑制性能を調べたところ、実施例1と同様の結果だった。
【0222】
表4の結果から、実施例1~21、及び、実施例23~28に記載した薬液は、プリウェット液として用いた場合に、優れた残渣欠陥抑制性能、優れたブリッジ欠陥抑制性能、優れたパターン幅の均一性能、及び、優れたシミ状欠陥抑制性能を有していた。
また、表4の結果から、実施例22に記載した薬液は、現像液として用いた場合に、優れた残渣欠陥抑制性能、優れたブリッジ欠陥抑制性能、優れたパターン幅の均一性能、及び、優れたシミ状欠陥抑制性能を有していた。
【0223】
また、実施例29の薬液は、レジスト液として、優れた残渣欠陥抑制性能、優れたブリッジ欠陥抑制性能、優れたパターン幅の均一性能、及び、優れたシミ状欠陥抑制性能を有していた。
【0224】
粒子径0.5nm以上、5nm未満の範囲に極大値を有する薬液1は、薬液8と比較して、より優れた残渣欠陥抑制性能、より優れたブリッジ欠陥抑制性能、より優れたパターン幅の均一性能、及び、より優れたシミ状欠陥抑制性能を有していた。また、薬液9と比較して、更に優れたブリッジ欠陥抑制性能を有していた。
【0225】
A/(B+C)が1.0未満である薬液1は、薬液10と比較して、より優れた残渣欠陥抑制性能、より優れたブリッジ欠陥抑制性能、より優れたパターン幅の均一性能、及び、より優れたシミ状欠陥抑制性能を有していた。
【0226】
A/(B+C)が1.0×10-1以下である薬液1は、薬液12と比較して、より優れた残渣欠陥抑制性能、より優れたブリッジ欠陥抑制性能、より優れたパターン幅の均一性能、及び、より優れたシミ状欠陥抑制性能を有していた。
【0227】
U/Vが1.0×101以上である薬液1は、薬液16と比較して、より優れた残渣欠陥抑制性能、より優れたブリッジ欠陥抑制性能、より優れたパターン幅の均一性能、及び、より優れたシミ状欠陥抑制性能を有していた。
【0228】
Pb/Tiが1.0×10-3~2.0である薬液1は、薬液17、及び、薬液20と比較してより優れた残渣欠陥抑制性能、より優れたブリッジ欠陥抑制性能、より優れたパターン幅の均一性能、及び、より優れたシミ状欠陥抑制性能を有していた。