(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174042
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】ユリの花の老化遅延法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20241206BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20241206BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20241206BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20241206BHJP
A01H 6/56 20180101ALI20241206BHJP
A01H 5/02 20180101ALI20241206BHJP
A01H 5/04 20180101ALI20241206BHJP
A01H 5/06 20180101ALI20241206BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20241206BHJP
A01H 5/12 20180101ALI20241206BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241206BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241206BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20241206BHJP
C07K 14/415 20060101ALI20241206BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241206BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20241206BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/29 ZNA
C12N5/04
A01H5/00 A
A01H6/56
A01H5/02
A01H5/04
A01H5/06
A01H5/10
A01H5/12
C12N15/113 Z
C12N15/63 Z
C12N15/82 122Z
C07K14/415
C12N15/29
C12N5/10 ZNA
C12N15/09 100
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】37
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024166732
(22)【出願日】2024-09-25
(62)【分割の表示】P 2021144879の分割
【原出願日】2021-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、農林水産省、品質保持期間延長技術の開発委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 健市
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和人
(72)【発明者】
【氏名】野水 利和
(72)【発明者】
【氏名】奥原 宏明
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 仁
(57)【要約】
【課題】ユリ科植物を含む花き一般、有効な品質保持技術の開発。
【解決手段】LhHFSを抑制する因子、例えば、(I)(A)配列番号1に示す配列(LhHFSを自体)もしくは配列番号2をコードする配列;または(B)(B-1)(A)において1もしくは数個の置換、付加もしくは欠失を有する配列改変体、(B-2)(A)の配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、もしくは(B-3)(A)の配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体であって、該配列改変体は(A)の生物学的機能を有する配列を含み、他方の鎖は、(II)(I)の相補配列を含む二本鎖核酸が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その植物が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された植物細胞。
【請求項2】
その植物が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された植物組織、あるいは請求項1に記載の細胞を含む植物組織。
【請求項3】
その植物が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された植物器官、あるいは請求項1に記載の細胞もしくは請求項2に記載の植物組織を含む植物器官。
【請求項4】
その植物が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された植物体またはその一部、あるいは請求項1に記載の細胞、請求項2に記載の植物組織もしくは請求項3に記載の植物器官を含む植物体またはその一部。
【請求項5】
前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部の発現および/または機能が抑制されている、請求項1~4に記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項6】
前記抑制は、RT-PCR法で測定した場合に、vacuolar processing enzyme遺伝子(VPE遺伝子)、またはcysteine protease遺伝子(SAG12遺伝子)の発現を約50%低減させるという基準を下回るものである、請求項5に記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項7】
前記抑制は、RT-PCR法で測定した場合に、vacuolar processing enzyme遺伝子(VPE遺伝子)の発現を約50%低減させるという基準を下回るものである、請求項5に記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項8】
前記LhHFSの抑制が、遺伝子発現レベルの低下、遺伝子コピ-数の低下、遺伝子増幅の低下、RNA活性レベルの低下、mRNA存在量の低下、mRNA合成速度の低下、mRNA安定性の低下、タンパク質活性レベルの低下、タンパク質合成の低下、タンパク質存在量の低下、タンパク質安定性の低下、タンパク質酵素活性の低下、またはこれらの組合せからなる群より選択される方法によって達成される、請求項5~7のいずれか一項に記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項9】
前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部の構造遺伝子が天然のものと比較して変異を有するか、および/またはその遺伝子発現調節因子が天然のものと比較して変異を有するか、および/またはLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部を抑制する天然には存在しない因子を有する、請求項5~8のいずれか一項に記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項10】
前記変異または因子は、LhHFS遺伝子のRNA干渉またはゲノム編集によって提供されるものである、請求項9に記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項11】
LhHFSまたはその相同遺伝子の遺伝子が一部または全部が変異または欠損した植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項12】
前記植物は、ユリ科の植物である、請求項1~11のいずれか一項に記載の植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項13】
前記植物は、ユリ属の植物である、請求項12に記載の植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項14】
前記植物体またはその一部が、球根、種子、花、茎、葉、花粉、りん片、木子、細胞、組織、組織培養物もしくはむかご、またはそれらの全部もしくは一部の組合せである、請求項4~13のいずれか一項に記載の植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項15】
前記植物体またはその一部が花またはその一部を含む、請求項4~14のいずれか一項に記載の植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
【請求項16】
LhHFSまたはその相同遺伝子を抑制する因子。
【請求項17】
前記相同遺伝子は、
(i)
配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする核酸配列の配列改変体であって、該配列改変体は、
(B-1)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする核酸配列において1以上の置換、付加および/もしくは欠失を有する配列改変体、
(B-2)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする核酸配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、
(B-3)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする核酸配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体、
(B-4)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする核酸配列の対立遺伝子変異体である配列改変体、もしくは
(B-5)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする核酸配列、または(B-1)~(B-4)のフラグメントである配列改変体であり、
該配列改変体がコ-ドするタンパク質は、配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする核酸配列がコ-ドするタンパク質の生物学的機能を有するものである、配列改変体、または
(ii)
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が変異しており、該変異が、置換、付加および/もしくは欠失を含むポリペプチドであって、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に示す塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコ-ドされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする遺伝子の相同遺伝子によってコ-ドされる、ポリペプチド;または
(e)(a)~(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも約70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド
を含む、ポリペプチド
を含む、請求項16に記載の因子。
【請求項18】
前記因子は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、RNAまたはDNAを含む核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、合成化学物質、またはこれらの複合分子である、請求項17に記載の因子。
【請求項19】
前記因子は、核酸形態である、請求項16~18のいずれか一項に記載の因子。
【請求項20】
アンチセンス分子、RNAi因子、ゲノム編集用の因子、または突然変異誘発因子からなる群より選択される請求項16~17のいずれか一項に記載の因子。
【請求項21】
前記因子は、二本鎖核酸の形態のLhHFSのRNAi因子である、請求項16に記載の因子。
【請求項22】
前記因子は二本鎖形態であり、その一方の鎖は
(I)
(A)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコ-ドする核酸配列のうちの少なくとも約100塩基を含む核酸配列;または
(B)配列改変体
を含み、他方の鎖は、
(II)(I)の相補配列またはアニ-リングする配列
を含み、
該(B)配列改変体は、
(B-1)(A)の核酸配列において1以上の置換、付加もしくは欠失を有する配列改変体、
(B-2)(A)の核酸配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、
(B-3)(A)の核酸配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体、
(B-4)(A)の対立遺伝子変異体である配列改変体、もしくは
(B-5)(A)または(B-1)~(B-4)のフラグメントである配列改変体であり、
該配列改変体がコ-ドするタンパク質は(A)がコ-ドするタンパク質の生物学的機能を有するものである、請求項16に記載の因子。
【請求項23】
前記(I)は配列番号1のうち塩基22~483位の核酸配列を含まない、請求項22に記載の因子。
【請求項24】
前記(I)は、配列番号1のうち塩基574~864位の核酸配列を含む、請求項22または23に記載の因子。
【請求項25】
LhHFSまたはその相同遺伝子のRNAi因子を含むベクタ-である、請求項22~24のいずれか一項に記載の因子。
【請求項26】
前記ベクタ-は、プロモ-タ-およびタ-ミネ-タ-を含む、請求項25に記載の因子。
【請求項27】
前記因子は、LhHFSの発現および/または機能の抑制を起こすゲノム編集用の因子である、請求項16に記載の因子。
【請求項28】
前記ゲノム編集用の因子は、配列番号1のうち以下の配列の核酸配列を標的にするものである、請求項27に記載の因子。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【請求項29】
前記ゲノム編集用の因子は配列番号1のうち塩基1~483位の核酸配列のゲノム編集を標的にするものである、請求項27に記載の因子。
【請求項30】
請求項16~29のいずれか一項に記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物細胞。
【請求項31】
請求項16~29のいずれか一項に記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物組織または請求項30に記載の細胞を含む植物組織。
【請求項32】
請求項16~29のいずれか一項に記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物器官または請求項30に記載の細胞もしくは請求項31に記載の植物組織を含む植物器官。
【請求項33】
請求項16~29のいずれか一項に記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物体またはその一部、あるいは請求項30に記載の細胞、請求項31に記載の植物組織もしくは請求項32に記載の植物器官を含む植物体またはその一部。
【請求項34】
前記植物は、ユリ科の植物である、請求項33に記載の植物体またはその一部。
【請求項35】
前記植物は、ユリ属の植物である、請求項34に記載の植物体またはその一部。
【請求項36】
前記植物体またはその一部が、球根、種子、花、茎、葉、花粉、りん片、木子、細胞、組織、組織培養物もしくはむかご、またはそれらの全部もしくは一部の組合せである、請求項33~35のいずれか一項に記載の植物体またはその一部。
【請求項37】
前記植物体またはその一部が花またはその一部を含む、請求項33~34のいずれか一項に記載の植物体またはその一部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、花の老化を制御する転写因子ファミリー遺伝子(LhHFS)およびその利用法を提供する。たとえば、ゲノム編集、RNA干渉、または突然変異誘発因子の導入などといった手法によって、LhHFS遺伝子の発現または機能等を一部または完全に欠損させることにより、花の老化を遅延することが可能になる。
【背景技術】
【0002】
ユリでは、有効な日持ち延長剤が開発されておらず、花の老化を制御する遺伝子も特定されていなかった。また、交配に基づく従来のユリの育種では、交配から開花まで3年ほどかかるため、非常に長い年月を必要とし効率が悪い。
【0003】
交配に基づく従来のユリの育種では、交配から開花まで3年ほどの期間がかかるため、交配と選抜を繰り返して目的形質を付与するためには非常に長い年月を必要とし効率が悪い。また、系統ごとの日持ち性が整理されておらず、日持ち性に関するDNAマーカーなども開発されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
花き一般、有効な品質保持技術の開発が求められる。そこで、本開示は、鋭意研究した結果、少なくともユリ科植物全般に保存されている、花きの花の老化を制御する遺伝子を特定し、品質保持技術を開発することを達成した。
【0005】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1) (A)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列;または
(B)配列改変体
を含む核酸分子であって、
該(B)配列改変体は、
(B-1)(A)の核酸配列において1以上の置換、付加および/もしくは欠失を有する配列改変体、
(B-2)(A)の核酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性を有する配列改変体、
(B-3)(A)の核酸配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体、
(B-4)(A)の対立遺伝子変異体である配列改変体、もしくは
(B-5)(A)または(B-1)~(B-4)のフラグメントである配列改変体であり、
該配列改変体がコードするタンパク質は(A)がコードするタンパク質の生物学的機能を有するものである、核酸分子。
(項目2) 前記核酸分子は、配列番号1に示す核酸配列を含む、上記項目のいずれかに記載の核酸分子。
(項目3) 前記核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す核酸配列からなる、上記項目のいずれかに記載の核酸分子。
(項目4) (a)配列番号2に示すアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が変異しており、該変異が、置換、付加および/もしくは欠失を含むポリペプチドであって、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に示す塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子の相同遺伝子によってコードされる、ポリペプチド;または
(e)(a)~(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも約90%であるアミノ酸配列を有し、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド
を含む、ポリペプチド。
(項目5) 上記項目のいずれかに記載の核酸配列の発現および/または該核酸配列もしくは該核酸配列がコードするタンパク質もしくは上記項目のいずれかに記載のポリペプチドの量または機能を抑制する因子。
(項目6) 前記因子は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、RNAまたはDNAを含む核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、合成化学物質、放射線、またはこれらの組み合わせである、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目7) アンチセンス分子、RNAi因子、ゲノム編集用の因子、または突然変異誘発因子からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目8) LhHFSまたはその相同遺伝子を抑制する因子。
(項目9) 前記相同遺伝子は、
(i)
配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列の配列改変体であって、該配列改変体は、
(B-1)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列において1以上の置換、付加および/もしくは欠失を有する配列改変体、
(B-2)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、
(B-3)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体、
(B-4)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列の対立遺伝子変異体である配列改変体、もしくは
(B-5)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列、または(B-1)~(B-4)のフラグメントである配列改変体であり、
該配列改変体がコードするタンパク質は、配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列がコードするタンパク質の生物学的機能を有するものである、配列改変体、または
(ii)
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が変異しており、該変異が、置換、付加および/もしくは欠失を含むポリペプチドであって、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド;
(c)配列番号1に示す塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;
(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子の相同遺伝子によってコードされる、ポリペプチド;または
(e)(a)~(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも約70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド
を含む、ポリペプチド
を含む、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目10) 前記因子は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、RNAまたはDNAを含む核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、合成化学物質、またはこれらの複合分子である、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目11) 前記因子は、核酸形態である、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目12) アンチセンス分子、RNAi因子、ゲノム編集用の因子、または突然変異誘発因子からなる群より選択される、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目13) 前記因子は、二本鎖核酸の形態のLhHFSのRNAi因子である、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目14) 前記因子は二本鎖形態であり、その一方の鎖は
(I)
(A)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列のうちの少なくとも約100塩基を含む核酸配列;または
(B)配列改変体
を含み、他方の鎖は、
(II)(I)の相補配列またはアニーリングする配列
を含み、
該(B)配列改変体は、
(B-1)(A)の核酸配列において1以上の置換、付加もしくは欠失を有する配列改変体、
(B-2)(A)の核酸配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、
(B-3)(A)の核酸配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体、
(B-4)(A)の対立遺伝子変異体である配列改変体、もしくは
(B-5)(A)または(B-1)~(B-4)のフラグメントである配列改変体であり、
該配列改変体がコードするタンパク質は(A)がコードするタンパク質の生物学的機能を有するものである、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目15) 前記(I)は配列番号1のうち塩基22~483位の核酸配列を含まない、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目16) 前記(I)は、配列番号1のうち塩基574~864位の核酸配列を含む、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目17) LhHFSまたはその相同遺伝子のRNAi因子を含むベクターである、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目18) 前記ベクターは、プロモーターおよびターミネーターを含む、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目19) 前記因子は、LhHFSの発現および/または機能の抑制を起こすゲノム編集用の因子である、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目20) 前記ゲノム編集用の因子は、配列番号1のうち以下の配列の核酸配列を標的にするものである、上記項目のいずれかに記載の因子。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
(項目21) 前記ゲノム編集用の因子は配列番号1のうち塩基1~483位の核酸配列のゲノム編集を標的にするものである、上記項目のいずれかに記載の因子。
(項目22) 上記項目のいずれかに記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物細胞。
(項目23) 上記項目のいずれかに記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物組織または上記項目のいずれかに記載の細胞を含む植物組織。
(項目24) 上記項目のいずれかに記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物器官または上記項目のいずれかに記載の細胞もしくは上記項目のいずれかに記載の植物組織を含む植物器官。
(項目25) 上記項目のいずれかに記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物体またはその一部、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞、上記項目のいずれかに記載の植物組織もしくは上記項目のいずれかに記載の植物器官を含む植物体またはその一部。
(項目26) 前記植物は、ユリ科の植物である、上記項目のいずれかに記載の植物体またはその一部。
(項目27) 前記植物は、ユリ属の植物である、上記項目のいずれかに記載の植物体またはその一部。
(項目28) 前記植物体またはその一部が、球根、種子、花、茎、葉、花粉、りん片、木子、細胞、組織、組織培養物もしくはむかご、またはそれらの全部もしくは一部の組合せである、上記項目のいずれかに記載の植物体またはその一部。
(項目29) 前記植物体またはその一部が花またはその一部を含む、上記項目のいずれかに記載の植物体またはその一部。
(項目30) その植物が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された植物細胞。
(項目31) その植物が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された植物組織、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞を含む植物組織。
(項目32) その植物が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された植物器官、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞もしくは上記項目のいずれかに記載の植物組織を含む植物器官。
(項目33) その植物が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された植物体またはその一部、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞、上記項目のいずれかに記載の植物組織もしくは上記項目のいずれかに記載の植物器官を含む植物体またはその一部。
(項目34) 前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部の発現および/または機能が抑制されている、上記項目のいずれかに記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
(項目35) 前記抑制は、RT-PCR法で測定した場合に、vacuolar processing enzyme遺伝子(VPE遺伝子)、またはcysteine protease遺伝子(SAG12遺伝子)の発現を約50%低減させるという基準を下回るものである、上記項目のいずれかに記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
(項目36) 前記抑制は、RT-PCR法で測定した場合に、vacuolar processing enzyme遺伝子(VPE遺伝子)の発現を約50%低減させるという基準を下回るものである、上記項目のいずれかに記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
(項目37) 前記LhHFSの抑制が、遺伝子発現レベルの低下、遺伝子コピー数の低下、遺伝子増幅の低下、RNA活性レベルの低下、mRNA存在量の低下、mRNA合成速度の低下、mRNA安定性の低下、タンパク質活性レベルの低下、タンパク質合成の低下、タンパク質存在量の低下、タンパク質安定性の低下、タンパク質酵素活性の低下、またはこれらの組合せからなる群より選択される方法によって達成される、上記項目のいずれかに記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
(項目38) 前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部の構造遺伝子が天然のものと比較して変異を有するか、および/またはその遺伝子発現調節因子が天然のものと比較して変異を有するか、および/またはLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部を抑制する天然には存在しない因子を有する、上記項目のいずれかに記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
(項目39) 前記変異または因子は、LhHFS遺伝子のRNA干渉またはゲノム編集によって提供されるものである、上記項目のいずれかに記載の細胞、組織、器官あるいは植物体またはその一部。
(項目40) LhHFSまたはその相同遺伝子の遺伝子が一部または全部が変異または欠損した植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
(項目41) 前記植物は、ユリ科の植物である、上記項目のいずれかに記載の植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
(項目42) 前記植物は、ユリ属の植物である、上記項目のいずれかに記載の植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
(項目43) 前記植物体またはその一部が、球根、種子、花、茎、葉、花粉、りん片、木子、細胞、組織、組織培養物もしくはむかご、またはそれらの全部もしくは一部の組合せである、上記項目のいずれかに記載の植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
(項目44) 前記植物体またはその一部が花またはその一部を含む、上記項目のいずれかに記載の植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部。
(項目45) 花の老化が抑制された植物体またはその一部の生産方法であって、該植物体またはその一部において、該植物体またはその一部が有するLhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部が抑制された状態を提供することを含む、方法。
(項目46) 前記抑制は、前記提供工程前の状態よりも前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部の発現および/または機能が抑制されることを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目47) 前記提供工程前の状態よりも前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部の発現および/または機能が抑制されていることを測定または他の方法で決定することをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目48) 前記測定または他の方法で決定することは、前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部のmRNAの存在量、前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部のタンパク質の存在量、前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部のタンパク質の生物学的機能、これらの組合せを測定し、あるいは測定結果から計算することを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目49) 前記LhHFSまたはその相同遺伝子の抑制が、遺伝子発現レベルの低下、遺伝子コピー数の低下、遺伝子増幅の低下、RNA活性レベルの低下、mRNA存在量の低下、mRNA合成速度の低下、mRNA安定性の低下、タンパク質活性レベルの低下、タンパク質合成の低下、タンパク質存在量の低下、タンパク質安定性の低下、タンパク質酵素活性の低下、またはこれらの組合せからなる群より選択される方法によって達成される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目50) 前記LhHFSまたはその相同遺伝子の抑制が、LhHFS遺伝子のRNA干渉またはゲノム編集を実行することによって達成される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目51) 前記植物は、ユリ科の植物である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目52) 前記植物は、ユリ属の植物である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目53) 前記植物体またはその一部が、球根、種子、花、茎、葉、花粉、りん片、木子、細胞、組織、組織培養物もしくはむかご、またはそれらの全部もしくは一部の組合せである、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目54) 前記植物体またはその一部が花またはその一部を含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目55) 前記方法は、
植物細胞におけるLhHFSまたはその相同遺伝子を改変して、その一部または全体に変異を導入するかあるいはその一部または全体を欠損させる工程
LhHFSまたはその相同遺伝子が改変された植物細胞を育てて植物体またはその一部を得る工程
を含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目56) 前記改変が、アンチセンス、RNA干渉、突然変異誘発因子、ゲノム編集によって行われる、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目57) 植物体またはその一部における花の日持ちを延長する方法であって、
1)上記項目のいずれかに記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物体またはその一部、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞、上記項目のいずれかに記載の植物組織もしくは上記項目のいずれかに記載の植物器官を含む植物体またはその一部を提供する工程と、
2)該植物体またはその一部を、開花する条件に供する工程と、
3)該植物体またはその一部において開花後、日持ちする条件および期間に供する工程と
を包含する方法。
(項目58) 前記期間は、前記日持ちする条件下で、前記植物体またはその一部の、前記因子による改変のない場合の日持ちが終了する期間よりも長い期間である、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目45A) LhHFSまたはその相同遺伝子を抑制する因子の、花の老化が抑制された植物体またはその一部の生産方法における使用。
(項目46A) 前記抑制は、前記提供工程前の状態よりも前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部の発現および/または機能が抑制されることを含む、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目47A) 前記提供工程前の状態よりも前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部の発現および/または機能が抑制されていることを測定または他の方法で決定することをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目48A) 前記測定または他の方法で決定することは、前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部のmRNAの存在量、前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部のタンパク質の存在量、前記LhHFSまたはその相同遺伝子の少なくとも一部のタンパク質の生物学的機能、これらの組合せを測定し、あるいは測定結果から計算することを含む、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目49A) 前記LhHFSまたはその相同遺伝子の抑制が、遺伝子発現レベルの低下、遺伝子コピー数の低下、遺伝子増幅の低下、RNA活性レベルの低下、mRNA存在量の低下、mRNA合成速度の低下、mRNA安定性の低下、タンパク質活性レベルの低下、タンパク質合成の低下、タンパク質存在量の低下、タンパク質安定性の低下、タンパク質酵素活性の低下、またはこれらの組合せからなる群より選択される方法によって達成される、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目50A) 前記LhHFSまたはその相同遺伝子の抑制が、LhHFS遺伝子のRNA干渉またはゲノム編集を実行することによって達成される、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目51A) 前記植物は、ユリ科の植物である、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目52A) 前記植物は、ユリ属の植物である、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目53A) 前記植物体またはその一部が、球根、種子、花、茎、葉、花粉、りん片、木子、細胞、組織、組織培養物もしくはむかご、またはそれらの全部もしくは一部の組合せである、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目54A) 前記植物体またはその一部が花またはその一部を含む、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目55A) 前記生産方法は、
植物細胞におけるLhHFSまたはその相同遺伝子を改変して、その一部または全体に変異を導入するかあるいはその一部または全体を欠損させる工程
LhHFSまたはその相同遺伝子が改変された植物細胞を育てて植物体またはその一部を得る工程
を含む、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目56A) 前記改変が、アンチセンス、RNA干渉、突然変異誘発因子、ゲノム編集によって行われる、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目57A) LhHFSまたはその相同遺伝子を抑制する因子の、植物体またはその一部における花の日持ちを延長する方法における使用であって、前記方法は、
1)上記項目のいずれかに記載の因子を含むかまたは該因子によって改変された植物体またはその一部、あるいは上記項目のいずれかに記載の細胞、上記項目のいずれかに記載の植物組織もしくは上記項目のいずれかに記載の植物器官を含む植物体またはその一部を提供する工程と、
2)該植物体またはその一部を、開花する条件に供する工程と、
3)該植物体またはその一部において開花後、日持ちする条件および期間に供する工程と
を包含する使用。
(項目58A) 前記期間は、前記日持ちする条件下で、前記植物体またはその一部の、前記因子による改変のない場合の日持ちが終了する期間よりも長い期間である、上記項目のいずれかに記載の使用。
【0006】
従って、本開示のこれらおよび他の利点は、以下の詳細な説明を読めば、明白である。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、転写因子ファミリー遺伝子(LhHFS)の発現抑制を行うことにより、ユリおよびチューリップ等のユリ科植物の花き一般について、花の老化を遅延することができ、観賞期間を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、野生型(Cont)およびLhHFS発現抑制系統(LNR18-2)の開花後の花の状態の写真を示す。写真の上部に開花後の日数を示す。上の行の写真は、野生型のユリの写真を0~7日後まで示し、下の行の写真は、LhHFS発現抑制系統のユリの写真を0~9日後まで示す。野生型では開花5日後に花被の褐変が示され、LhHFS発現抑制系統では開花8日後に花被の褐変が示された。矢印は、野生型では開花4日後で日持ちが終了し、LhHFS発現抑制系統では開花7日後で日持ちが終了したことを示す。
【
図2】
図2は、野生型(Cont)およびLhHFS発現抑制系統(LNR18)の、開花後4日目での花被におけるLhHFS遺伝子の相対発現量を示す。グラフの縦軸は、LhHFS遺伝子の相対発現量を示し、グラフの軸は、左から順に、野生型(Cont)、LhHFS発現抑制系統(LNR18-2およびLNR18-15)に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。従って、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
(定義)
本明細書において、「約」とは、後に続く値の±10%を意味する。なお、本明細書では、明示的に「約」との記載がなくても、約との記載がない場合の数値範囲について権利放棄を意図するものではないものであることを理解されたい。
【0011】
本明細書において、「LhHFS」とは本開示において見出された、配列番号1または配列番号3に記載の核酸配列を有する遺伝子、および配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、生物学的機能を有するその誘導体、または生物学的機能を有するそのフラグメント、またはその相同体、または高ストリンジェンシー条件または低ストリンジェンシー条件下で、このタンパク質をコードする核酸にハイブリダイズする核酸にコードされる変異体を指す。当業者は文脈に応じて適宜核酸分子またはタンパク質のいずれかのみあるいは両方を意味するかを理解する。「変異体」または「改変体」は、このほか、限定を意図するものではないが、もとのタンパク質に実質的に相同な領域を含む分子を含み、このような分子は、種々の実施形態において、同一サイズのアミノ酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラム(例えばLALIGN(https://embnet.vital-it.ch/software/LALIGN_form.html)等)によってアラインメントを行ってアラインされる配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一であるか、あるいはこのような分子をコードする核酸は、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、またはストリンジェントでない条件下で、もとのタンパク質をコードする配列にハイブリダイズ可能である。これは、それぞれ、アミノ酸置換、欠失および付加によって、天然存在タンパク質を修飾した所産であり、その誘導体がなお天然に存在するタンパク質の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示す、タンパク質を意味する。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このようなタンパク質の生物学的機能を調べることも可能である。
【0012】
本開示では、LhHFSはユリが主に論じられるが、それ以外にもチューリップ(配列番号4)等、ユリ以外の多くの植物がLhHFS遺伝子の相同遺伝子を発現していることが知られている。特にチューリップの相同遺伝子は、ユリのLhHFSに対して約71%の配列同一性を有しており、こうした種間の配列保存性に基づくと、これらの植物、特にユリ科植物についても、本開示の範囲内に入ることが理解される。
【0013】
本明細書で使用される「生物学的機能を有する」は、本明細書において、本開示のポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体が関連する態様に従って、生物学的活性などの、タンパク質の構造的機能、制御機能、または生化学的機能を有する、ポリペプチド、すなわちフラグメントまたは誘導体を指す。
【0014】
本開示の関連において、「(遺伝子またはタンパク質を)抑制する因子」は、目的の遺伝子もしくはその相同遺伝子、またはこれらの遺伝子によってコードされるタンパク質に対して直接または間接的に作用し、目的の遺伝子もしくはその相同遺伝子、またはこれらの遺伝子によってコードされるタンパク質の機能を一時的または永久に抑制、低下または消失させることができる因子(例えば、分子または物質)をいう。抑制する因子は阻害剤(物質)であってもよく、その例としては、抗体またはその抗原性断片、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、siRNA等のRNAi因子、ゲノム編集用の因子、突然変異誘発因子、低分子量分子(LMW)、結合性ペプチド、アプタマー、リボザイムおよびペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができ、例えば目的の遺伝子もしくはその相同遺伝子、またはこれらの遺伝子によってコードされるタンパク質に対して向けられる、特に目的の遺伝子またはその相同遺伝子によってコードされるタンパク質の活性部位に対して向けられる、結合性タンパク質または結合性ペプチド、ならびに目的の遺伝子またはその相同遺伝子に対して向けられる核酸も含まれる。目的の遺伝子またはその相同遺伝子に対する核酸は、例えば目的の遺伝子もしくはその相同遺伝子、またはこれらの遺伝子によってコードされるタンパク質の発現または活性を阻害する、二本鎖または一本鎖DNAまたはRNA、あるいはその修飾物または誘導体を指し、そして限定なしに、アンチセンス核酸、アプタマー、siRNA(低分子干渉RNA)およびリボザイムを含む。目的の遺伝子またはその相同遺伝子に対する核酸としては、例えばLhHFS遺伝子またはその相同遺伝子の発現または活性を阻害する、ゲノム編集用の因子も包含され、ゲノム編集用の因子としては、例えば人工制限酵素(人工ヌクレアーゼ)およびRNA誘導型ヌクレアーゼ等が挙げられる。本明細書において、目的の遺伝子またはその相同遺伝子によってコードされるタンパク質について「結合性タンパク質」または「結合性ペプチド」とは、目的の遺伝子またはその相同遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する種類のタンパク質またはペプチドを指し、そして目的の遺伝子またはその相同遺伝子によってコードされるタンパク質に対して指向されるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、抗体フラグメントおよびタンパク質骨格を含むがこれらに限定されない。
【0015】
本明細書において「情報伝達物質」とは、生体内の生理活性または生物学的機能を調節するための情報伝達を担う物質である。「情報伝達物質」の代表的なものとして、植物ホルモンが挙げられる。
【0016】
本明細書において「アンチセンス分子」とは、標的となる遺伝子の発現を特異的に抑制または減少させることができる分子をいう。より具体的には細胞内に導入したあるヌクレオチド配列に依存して、その配列と相補的なヌクレオチド配列領域をもつ遺伝子のmRNA量を特異的に低下させることで、タンパク質発現量を減少させ得る分子をいう。アンチセンスの手法としては、標的となる遺伝子からつくられるmRNAに相補的なRNA分子を直接的に細胞に導入する方法と、細胞内に目的遺伝子と相補的なRNAを発現させ得る構築ベクターを導入する方法に大別されるが、植物においては、後者のほうが一般的である。具体的には、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的である1つのDNA配列を適当なプロモーターに連結して、その制御下に人工mRNAを発現させるような発現ベクターを構築して、細胞内に導入する手法の他、細胞内に2本鎖RNAを構成できるようにデザインされた発現ベクターが用いる手法が用いられる。アンチセンス分子の基本構造はある標的遺伝子に相補的な1種のDNA配列をプロモーター下に1つを連結し、それと同じ物をさらに逆向きにもう1つ連結してつくられる。この構築遺伝子から転写された1本鎖のmRNAでは、逆向きにつながれた1種類のヌクレオチド配列部分が相補的な関係にあるため対合してヘアピン様の二次構造を持つ2本鎖RNA状態をとり、これがRNAiのメカニズムに従って標的遺伝子のmRNA分解を引き起こす。
【0017】
本明細書において「RNA干渉」または「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、当該分野で一般に知られており、RNAi因子によって媒介される、細胞における遺伝子発現を阻害または下方制御する生物学的プロセスである。例えば、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。RNAiについては、例えば、Zamore and Haley,2005,Science,309,1519-1524;Vaughn and Martienssen,2005,Science,309,1525-1526;Zamore et al.,2000,Cell,101,25-33;Bass,2001,Nature,411,428-429;Elbashiretal.,2001,Nature,411,494-498;およびKreutzer他、国際公開第00/44895号;Zernicka-Goetz他、国際公開第01/36646号;Fire、国際公開第99/32619号;Plaetinck他、国際公開第00/01846号;MelloおよびFire、国際公開第01/29058号;Deschamps-Depaillette、国際公開第99/07409号およびLi他、国際公開第00/44914号;Allshire,2002,Science,297,1818-1819;Volpe et al.,2002,Science,297,1833-1837;Jenuwein,2002,Science,297,2215-2218;およびHall et al.,2002,Science,297,2232-2237;Hutvagner and Zamore,2002,Science,297,2056-60;McManus et al.,2002,RNA,8,842-850;Reinhart et al.,2002,gene & Dev.,16,1616-1626;およびReinhart & Bartel,2002,Science,297,1831を参照。)。また、本明細書では、RNAiという用語は、転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、転写阻害、エピジェネティクスなどの配列特異的RNA干渉の記述に用いられる他の用語と同義のものを示すものとして理解される。
【0018】
本明細書における「RNAi因子」としては、遺伝子発現を阻害する核酸分子またはその類似体、例えば、RNAに基づく分子が挙げられる。RNAi因子は、特定のmRNAを破壊または開裂する因子であってもよく、mRNAなどのRNAのプロセシングまたは翻訳を阻止する因子であってもよいい。RNAi因子には、サイレンシングRNA(siRNA)、エンドリボヌクレアーゼによって調製されたsiRNA(esiRNA)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、またはマイクロRNA(miRNA)、および短鎖干渉核酸(siNA)が含まれるが、これらに限定されない。これらの因子は、RNA干渉「RNAi」または遺伝子サイレンシングを配列特異的に媒介することによって、遺伝子発現またはウイルス複製を阻害または下方制御することができる任意の核酸分子を指す。これらの用語は、個々の核酸分子、複数のかかる核酸分子、またはかかる核酸分子のプールも表し得る。これらの分子は、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む二本鎖核酸分子であり得る。ここで、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列に対応するヌクレオチド配列またはその一部を有するセンス領域を含む。これらの分子は、一方の鎖がセンス鎖であり、他方がアンチセンス鎖である、2個の別々のオリゴヌクレオチドから組み立てることができる。ここで、アンチセンス鎖とセンス鎖は自己相補的である(すなわち、アンチセンス鎖とセンス鎖が二本鎖または二本鎖構造を形成するなど、各鎖は、他方の鎖中のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。ここで、例えば、二本鎖領域は、約15から約30、例えば、約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30塩基対でありうるが、これらより長くてもよい。アンチセンス鎖は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス鎖は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を含む(例えば、その分子の約15から約25個またはそれを超えるヌクレオチドは、標的核酸またはその一部に相補的である)。あるいは、これらの分子は、単一のオリゴヌクレオチドから組み立てられ、これらの分子の自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域は、核酸リンカーまたは非核酸リンカーによって連結されている。これらの分子は、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む、二本鎖、非対称二本鎖、ヘアピンまたは非対称ヘアピン二次構造を有するポリヌクレオチドであり得る。ここで、アンチセンス領域は、別個の標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列に対応するヌクレオチド配列またはその一部を有するセンス領域を含む。これらの分子は、2個以上のループ構造と、自己相補的なセンス領域とアンチセンス領域を含む軸(stem)とを有する、環状一本鎖ポリヌクレオチドであり得る。ここで、アンチセンス領域は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列、および標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有するセンス領域を含み、環状ポリヌクレオチドは、in vivoまたはin vitroでプロセシングを受けて、RNAiを媒介し得る活性な分子を生成し得る。これらの因子は、標的核酸分子中のヌクレオチド配列またはその一部に相補的であるヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドも含み得る(例えば、これらの因子は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列がこれらの因子内に存在する必要がない。)。一本鎖ポリヌクレオチドは、5’リン酸(例えば、Martinez et al.,2002,Cell.,110,563-574およびSchwarz et al.,2002,Molecular Cell,10,537-568参照)、5’,3’-二リン酸などの末端リン酸基を更に含み得る。ある実施形態においては、本開示のLhHFSを抑制する因子は、別々のセンスおよびアンチセンス配列または領域を含む。ここで、センス領域とアンチセンス領域は、当該分野で公知のヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカー分子によって共有結合しており、またはイオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水的相互作用および/またはスタッキング相互作用によって交互に非共有結合している。ある実施形態においては、本開示のLhHFSを抑制する因子は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的であるヌクレオチド配列を含む。別の実施形態においては、本開示のLhHFSを抑制する因子は、標的遺伝子の発現を阻害するように、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。本明細書では、LhHFSを抑制する因子は、RNAのみを含む分子に必ずしも限定されず、化学修飾ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドも包含する。ある実施形態においては、本開示が低分子干渉核酸分子である場合は、2’ヒドロキシ(2’-OH)含有ヌクレオチドを欠いていてもよいく。ある実施形態において、本開示はRNAiを媒介するのに2’ヒドロキシル基を有するヌクレオチドの存在が不要である低分子干渉核酸でありうる。したがって、本開示が低分子干渉核酸分子である場合は、リボヌクレオチド(例えば、2’-OH基を有するヌクレオチド)を含まなくてもよい。しかし、RNAiを維持するのにLhHFSを抑制する因子内のリボヌクレオチドの存在が不要である場合は、2’-OH基を有する1個以上のヌクレオチドを含む、結合したリンカー、または他の結合若しくは会合した基、部分若しくは鎖を有し得る。場合によっては、本開示のLhHFSを抑制する因子は、ヌクレオチド位置の約5、10、20、30、40または50%においてリボヌクレオチドを含み得る。本明細書ではLhHFSを抑制する因子は、配列特異的RNAiを媒介し得る核酸分子、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ミクロRNA(miRNA)、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉修飾オリゴヌクレオチド、化学修飾siRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA(ptgsRNA)であってもよい。
【0019】
本明細書において、「ゲノム編集用の因子」とは、導入された細胞、組織、器官または生物体において、ゲノム編集を生じさせる因子を指す。「ゲノム編集用の因子」は、本技術分野で公知の手法、すなわちCRISPR/Cas9、TALEN、ZFN、メガヌクレアーゼ等の手法によるゲノム編集を生じさせる任意の因子であってよい。ゲノム編集用の因子としては、人工制限酵素(人工ヌクレアーゼ)およびRNA誘導型ヌクレアーゼ、ガイドRNA(gRNA)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において、「突然変異誘発因子」とは、標的遺伝子において突然変異の誘発を促進する因子をいう。「突然変異誘発因子」としては、エチルメタンスルフォン酸(EMS)などの化学物質の他、光、放射線、熱、電気などのエネルギー等も包含される。
【0021】
本明細書において「相同遺伝子」は、2以上の配列間の相同性が高い遺伝子をいう。遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。従って本明細書において「相同体」または「相同遺伝子産物」は、本明細書にさらに記載する複合体のタンパク質構成要素と同じ生物学的機能を発揮する、別の種、好ましくは植物におけるタンパク質を意味する。こうような相同体はまた、「オルソログ遺伝子産物」とも称されることもある。ある特定の植物または他の種からオルソログ遺伝子対を検出するためのアルゴリズムは、これらの生物の全ゲノムまたは部分配列を用いる。部分配列の相同性を分析する場合、本開示においては代表的にLALIGNプログラム(https://embnet.vital-it.ch/software/LALIGN_form.html)が使用される。LALIGNプログラムにより分析する場合、当業者はウェブサイトの指示にしたがって、配列同一性を比較することができる。分析手法の詳細は、X. Huang and W. Miller, Adv. Appl. Math. (1991) 12:337-357等に提供される。他の種の遺伝子に対する、本明細書に提供するタンパク質をコードする遺伝子の配列相同性に基づいて、慣用的技術を適用してそれぞれの遺伝子をクローニングし、そしてこのような遺伝子からタンパク質を発現させることによって、あるいは本明細書に提供する方法に従って、または当該分野で周知の他の適切な方法に従って、類似の複合体を単離することにより、他の種のタンパク質を単離することによって、本明細書に記載のタンパク質の相同体を単離することも可能である。
【0022】
本明細書において、同一性等の数値である「70%以上」は、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%であってもよく、それら起点となる数値のいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記「同一性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、上述したような公知の方法に従って算定される。具体的に説明すると、割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該分野で従来からよく知られている(例えば、上述したBLAST等)。本明細書において「同一性」および「類似性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。
【0023】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、原核生物細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体等の宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本開示のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書においてベクターは、発現ベクター、組換えベクターなどであり得る。
【0024】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の中または下流にも存在し得る。本開示では、LhHFSのRNA干渉を起こす因子の機能を発揮させるプロモーターであればどのようなものでも使用され得る。
【0025】
本明細書において「ターミネーター」とは、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターとしては、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。本開示では、植物においてターミネーターの活性を示すものであれば、どのような配列でも使用することができる。
【0026】
本明細書において、遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドおよびタンパク質等の「発現」とは、その遺伝子などがin vivoで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様である。例えば、LhHFSの発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、LhHFSのmRNAの量、LhHFSタンパク質の量、そしてLhHFSタンパク質の生物学的機能を評価することによって、LhHFSの発現レベルを知ることができる。LhHFSのmRNAやタンパク質の量は、本明細書の他の箇所に詳述したような方法あるいは他の当該分野において公知の方法によって決定することができる。
【0027】
本明細書において、遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドおよびタンパク質等の「機能の抑制」とは、その遺伝子などの生物学的活性が抑制されることをいう。LhHFSの「機能の抑制」は、例えばRT-PCR法を使用して、vacuolar processing enzyme遺伝子(VPE遺伝子)、またはcysteine protease遺伝子(SAG12遺伝子)の発現を測定することによって確認することができる。LhHFSの機能が抑制されていることは、例えば、RT-PCR法によって測定した場合に、VPE遺伝子またはSAG12遺伝子の発現が、対照におけるこれらの発現と比較して約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%、または約10%低減している、好ましくは約50%低減していることによって確認できる。
【0028】
本明細書において「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、クロロフィル、かたい細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在、および運動する能力がない生物により特徴付けられる。代表的には、植物は、細胞壁の形成・クロロフィルによる同化作用をもつ顕花植物をいう。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。好ましい植物としては、例えば、「ユリ科」の植物が挙げられる。「ユリ科」の植物には、代表的には、ユリ、チューリップ、カタクリ、クロユリが包含される。
【0029】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、器官の一部であり得る。器官内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。「組織」は分化した植物体を構成するもの以外にも、「カルス」等の植物細胞塊も包含する。
【0030】
本明細書において、「器官」とは、1つの独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。植物では、根、球根、茎、幹、葉、花、種子、りん片、木子、胚芽、胚、果実、胚乳、むかごなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0031】
本明細書において「生物体」(または、植物の場合「植物体」)とは、当該分野における最も広義に用いられ、生命現象を営むもの(または植物)をいい、代表的には、細胞構造、増殖(自己再生産)、成長、調節性、物質代謝、修復能力など種々の特性を有し、通常、核酸のつかさどる遺伝と、タンパク質のつかさどる代謝の関与する増殖を基本的な属性として有する。生物には、原核生物、真核生物(植物、動物など)などが包含される。好ましくは、本開示では、生物は、植物であり得る。本明細書では、好ましくは、そのような植物体は稔性であり得る。より好ましくは、そのような植物体は、種子を生産し得る。本開示の遺伝子構築物、因子(agent)、組成物および方法は、ユリ科植物だけでなく植物全般において機能することが企図される。
【0032】
本明細書において、「ユリ科」植物とは、生物分類学上のユリ科に属する植物の原種、および交配種を含むことが意図される。ユリ科の植物の例としては、ユリ属(Lilium)、チューリップ属(Tulipa)、カタクリ属(Erythronium)、バイモ属(Fritillaria)、アマナ属(Amana)、ボウィエア属(Bowiea)、カロコルツス属(Calochortus)、ウバユリ属(Cardiocrinum)、ツバメオモト属(Clintonia)、キバナノアマナ属(Gagea)、チシマアマナ属(Lloydia)、メデオラ属(Medeola)、ノモカリス属(Nomocharis)、ノトリリオン属(Notholirion)、プロサルテス属(Prosartes)、タケシマラン属(Streptopus)、ホトトギス属(Tricyrtis)などが挙げられる。
【0033】
本明細書において、「ユリ属」植物とは、生物分類学上のユリ科ユリ属に属する植物の原種、および交配種を含むことが意図される。したがって、「ユリ属」植物には、テッポウユリ、カノコユリ、スカシユリ、オニユリ、ヤマユリ、ササユリ等の原種の他、オリエンタル・ハイブリッド系、アジアティック・ハイブリッド系、ロンギフローラム・ハイブリッド系、マルタゴン・ハイブリッド系、およびトランペット・ハイブリッド系等の交配種も包含される。実施例においては、オリエンタル・ハイブリッド系の品種を用いて老化遅延効果が示されているが、交配種間ではLhHFS遺伝子の相同性が非常に高いため、オリエンタル・ハイブリッド系以外のユリの交配種においても同様に老化遅延効果が示されると考えられる。「オリエンタル・ハイブリッド系」の例には、ティアラ、カサブランカ、およびアカプルコ等の品種が包含される。
【0034】
本明細書において「球根」とは、植物体のうち、根、茎、葉などの特定の部分に養分がたまって変形・肥大化してできた貯蔵器官をいう。球根を生成する植物としては、代表的には、ユリ、チューリップ、およびヒヤシンス等が挙げられる。
【0035】
本明細書において「種子」または「種」とは、種子植物の繁殖器官をいう。
【0036】
本明細書において「花」とは、植物の生殖のための器官の集合体をいう。「花」は、花軸、花被、雄しべ、雌しべ等を組み合わさって出来たものをいう。本明細書において、「花」は代表的には「切り花」として地下部から切り離された状態で提供されてもよく、あるいは「鉢花」、または花壇の花のように地下部が保持された状態で提供されてもよい。「花」は、一般に観賞の対象物として提供され得る。「切り花」は、花単独、または花を含む組織および/もしくは器官の組合せをいう。例えば、「切り花」は、花、茎および/または葉などの組合せであり得る。具体的には、「切り花」は、花、茎、および葉等の組合せであり得る。「鉢花」は、植木鉢において栽培され、花を咲かせる植物をいう。「花の一部」は、上記「花」を構成する要素のうち少なくとも一部が欠落しているものを指す。
【0037】
本明細書における「花被」は、「花冠」と「がく」とを組み合わせた全体の名称をいう。「花冠」とは、複数の花弁からなる器官をいう。
【0038】
本明細書における「花托」は、茎の先端部のうち、花被、花冠、花弁、雄しべ、雌しべ、がくが合着する部位をいう。
【0039】
本明細書において「茎」とは、植物体において花および葉を支持する器官をいう。
【0040】
本明細書において「葉」とは、植物体において光合成および呼吸を行う器官をいう。
【0041】
本明細書において「花粉」とは、花の雄しべに存在する葯によって生成される細胞をいう。
【0042】
本明細書において「りん片」または「りん片葉」とは、植物体の芽および球根などを保護する変態葉をいう。
【0043】
本明細書において「木子」とは、球根の周辺に形成される小球根をいう。
【0044】
本明細書において「むかご」とは、植物体においてわき芽が養分を蓄えて肥大化した器官をいう。
【0045】
本明細書において「カルス」とは、未分化状態の植物細胞塊をいう。
【0046】
本明細書において「老化(senescence)」とは、成熟期以降、生物が死に至るまでに生じる、生物体、細胞、組織または器官の機能、あるいはそれらを統合する機能が低下する現象またはその過程をいう。本開示において「花の老化」に言及する場合、特に開花後(場合によっては開花前)から、日持ちが終了(観賞価値を喪失する)までに時間経過に伴って生じる現象(またはその時間経過そのもの)を指す。
【0047】
本明細書において、「日持ち」および「花の老化」は、園芸学的な観点から定義され、花全体、または花を構成する器官、もしくは組織(例えば、花弁またはその類似器官)の「褐変化」により評価し、色彩色差計を用いたL*a*b*表色系で、開花直後の花被と比較してb*値が一定程度増加した場合(特に評価を厳密にする場合、色彩色差計を用いたL*a*b*表色系で、開花直後の花被と比較してb*値が10以上増加した場合)に、「褐変化」したと評価し、本開示における「老化」と評価するものとし、「老化」と評価される前の状態を「日持ち」と表現するものとする。また、「花の老化の抑制」とは、園芸学的な観点から定義され、本明細書では、花の老化の際のb*値の増加が有意に抑制される場合に、花の老化の抑制という。抑制は、増加の程度における抑制でもよく、一定程度の増加までの時間の延長によって評価されてもよい。他の評価方法(例えば、萎凋の状態、脱離の有無)でも、日持ち、老化は評価され得る。
【0048】
理論に拘束されることを望まないが、老化は、細胞が自発的に死ぬ現象または過程であり、プログラム細胞死の一種と考えられている。花の細胞の老化時には、古くからアサガオなどの植物でオートファジー様の現象が観察されている。
【0049】
「花の老化」またはその抑制は、花全体、または花を構成する器官、もしくは組織(例えば、花被、花冠、花弁またはその類似器官)が開花してから、それが褐変化するまで(または他の同等の評価法)の時間を観察することによって評価することができる。花の老化は、本明細書においては、代表的にユリ科植物を用いて評価しているが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0050】
本明細書において「開花する条件(または期間)」は、花き植物が通常生育する条件(または期間)をいう。
【0051】
本明細書において、「日持ちする条件(または期間)」は、花き植物が開花した状態を持続する条件(または期間)をいう。
【0052】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然アミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
【0053】
本明細書において、「アミノ酸」は、本開示の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0054】
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’-O-メチル-リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’-P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC-5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine-modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’-O-プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’-メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
【0055】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」をさすことがある。
【0056】
本明細書において「ゲノム」とは、生物の遺伝的な情報の全体を指す。ゲノムは、DNAまたはRNAのいずれかにおいてコードされ得る。ゲノムは、タンパク質をコードするコード領域と共に非コード領域を含むことができる。
【0057】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.10.1(2020.6.18 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0058】
本明細書において「ストリンジェント(な)条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本開示のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC(saline-sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1~38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A PRac1tical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。従って、本開示において使用されるポリペプチド(例えば、LhHFSがコードするタンパク質)には、本開示で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。これらの低ストリンジェンシー条件は、35%ホルムアミド、5xSSC、50mM Tris-HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.02% PVP、0.02% BSA、100μg/ml変性サケ精子DNA、および10%(重量/体積)デキストラン硫酸を含む緩衝液中、40℃で18~20時間ハイブリダイゼーションし、2xSSC、25mM Tris-HCl(pH7.4)、5mM EDTA、および0.1% SDSからなる緩衝液中、55℃で1~5時間洗浄し、そして2xSSC、25mM Tris-HCl(pH7.4)、5mM EDTA、および0.1% SDSからなる緩衝液中、60℃で1.5時間洗浄することを含む。
【0059】
本開示で用いられるLhHFSの機能的等価物は、データベース等を検索することによって、見出すことができる。本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444-2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195-197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443-453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本開示において使用される遺伝子には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
【0060】
本開示の機能的等価物としては、アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加されたものを用いることができる。本明細書において、「アミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸の挿入、置換もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加」とは、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により、あるいは天然の変異により、天然に生じ得る程度の複数個の数のアミノ酸の置換等により改変がなされていることを意味する。
【0061】
本明細書において「単離」された生物学的因子(例えば、遺伝子(LhHFS)、核酸またはタンパク質など)とは、その物質または生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいい、天然物と識別するために用いられる。従って、通常、単離された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0062】
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本開示で用いられる物質は、好ましくは「精製された」物質である。
【0063】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、例えば酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S-S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。あるいは、対応するアミノ酸は、二量体化を担うアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
【0064】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。従って、ユリのLhHFSは、例えば、チューリップにおいて、対応するLhHFSを見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。従って、例えば、ある植物(例えば、ユリ)における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、LhHFS等)は、配列番号1または配列番号3等の配列をクエリ配列として用いてその植物(例えばチューリップ)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
【0065】
本明細書において「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、このようなフラグメントは、例えば、全長のものがマーカーとして機能する場合、そのフラグメント自体もまたマーカーとしての機能を有する限り、本開示の範囲内に入ることが理解される。
【0066】
本明細書において「活性」とは、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。本開示において、LhHFSの有する「活性」は、代表的には転写活性(本明細書では「LhHFS転写活性」ともいう)または遺伝子発現誘導活性であり、より具体的には老化関連遺伝子誘導活性またはプログラム細胞死関連遺伝子誘導活性であり得る。
【0067】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な抗体の生成、酵素活性、抵抗性の付与等を挙げることができるがそれらに限定されない。本開示においては、例えば、LhHFS等が花の老化を促進または制御する機能などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写活性または遺伝子発現誘導活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。2つの因子が相互作用する場合、その生物学的活性は、その二分子との間の結合およびそれによって生じる生物学的変化、例えば、一つの分子を抗体を用いて沈降させたときに他の分子も共沈するとき、2分子は結合していると考えられる。従って、そのような共沈を見ることが一つの判断手法として挙げられる。本開示のように、花の老化を遅延する活性の場合は、そのような活性を包含する。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本開示のポリペプチドまたはポリヌクレオチドに直接結合する化合物の親和性、または例えば、いくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が、挙げられる。
【0068】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがin vivoで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたもの(本明細書にいう誘導体)であり得る。例えば、LhHFSの発現レベルは、任意の方法によって決定することができる。具体的には、LhHFSのmRNAの量、LhHFSタンパク質の量、そしてLhHFSタンパク質の生物学的な活性を評価することによって、LhHFSの発現レベルを知ることができる。LhHFSのmRNAやタンパク質の量は、本明細書に記載したような方法によって決定することができる。
【0069】
本明細書において「機能的等価物」とは、対象となるもとの実体に対して、目的となる機能が同じであるが構造が異なる任意のものをいう。従って、「LhHFSまたはその機能的等価物」または「LhHFSおよびその機能的等価物からなる群」という場合は、LhHFS自体のほか、LhHFSの変異体または改変体(例えば、アミノ酸配列改変体等)であって、花の老化を遅延させる作用を有するもの、ならびに、作用する時点において、LhHFS自体またはこのLhHFSの変異体もしくは改変体に変化することができるもの(例えば、LhHFS自体またはLhHFSの変異体もしくは改変体をコードする核酸、およびその核酸を含むベクター、細胞等を含む)が包含されることが理解される。本開示において、LhHFSの機能的等価物は、格別に言及していなくても、LhHFSと同様に用いられうることが理解される。
【0070】
LhHFSの改変アミノ酸配列は、例えば1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~9個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~2個のアミノ酸の挿入、置換、もしくは欠失、またはその一方もしくは両末端への付加がなされたものであることができる。改変アミノ酸配列は、好ましくは、そのアミノ酸配列が、LhHFSのアミノ酸配列において1または複数個(好ましくは1もしくは数個または1、2、3、もしくは4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であってもよい。ここで「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該分野において公知である。具体例を挙げると、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0071】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射線、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されない。ポリヌクレオチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリヌクレオチドの配列に対して一定の配列相同性を(例えば、70%以上の配列同一性)もって相補性を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがそれらに限定されない。ポリペプチドに対して特異的な因子としては、代表的には、そのポリペプチドに対して特異的に指向された抗体またはその誘導体あるいはその類似物(例えば、単鎖抗体)、そのポリペプチドがレセプターまたはリガンドである場合の特異的なリガンドまたはレセプター、そのポリペプチドが酵素である場合、その基質などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0072】
(遺伝子工学、遺伝子改変技術)
本開示において、LhHFSまたはその相同遺伝子を抑制するために使用される遺伝子工学、遺伝子改変技術としては、例えばゲノム編集、アンチセンス、RNAiおよび突然変異誘発が使用される。
【0073】
本明細書において、「ゲノム編集」とは、標的となる遺伝子の発現を特異的に改変(例えば、抑制、減少、向上または増大)させるように変異を導入する技術をいう。より具体的には、部位特異的ヌクレアーゼを使用して、標的遺伝子のゲノム配列中の標的位置で切断し、それによって、ゲノム内の特定の位置に一本鎖または二本鎖切断を生成する技術である。こうして生成されたゲノム中の切断は、通常相同組換え(HDR)および非相同末端修復(NHEJ)等のプロセスによって修復される。標的遺伝子において数塩基がランダムに欠失または挿入されることにより、ナンセンス変異、ミスセンス変異、および/またはフレームシフト等の遺伝子変異が引き起こされ、正常な(生物学的機能を有する)タンパク質が生成されなくなる。ゲノム編集の手法としては、CRISPR/Cas9、TALEN、ZFN、メガヌクレアーゼ等の手法が挙げられる。ゲノム編集の一般的な手法は、例えばCox et al., Nat. Med. 21: 121-131 (2015); Zhang et al., Genome Biol. 19: 210 (2018)に概説されている。ゲノム編集を使用した標的遺伝子への変異導入は、特定の遺伝子に特異的に変異を導入して、目的の性質を有する品種を、従来の突然変異誘発による手法や交配を繰り返す手法などよりもより効率的に作出することができる点で、優れている。加えて、本願出願時の日本国における制度において、「ゲノム編集」技術により、外来遺伝子が残存することなく作出された植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部は、カルタヘナ法上の安全性審査を経ずに使用できる点でも有利である。
【0074】
ゲノム編集により変異を遺伝子に導入する場合、標的DNAとの結合に関わる部分がRNAであり、DNA切断に関わる部分がタンパク質である複合体のCRISPR/Cas9等や、標的DNAとの結合に関わる部分とDNA切断に関わる部分の両方がタンパク質であるTALEN、ZFN等を用いる方法が挙げられる。例えば、CRISPR/Cas9を用いる方法では、ガイドRNA、Cas9等を標的細胞内に導入し、TALEN、ZFNを用いる方法では、DNA結合ドメインとヌクレアーゼが融合した融合タンパク質等を標的細胞に導入することにより、変異をゲノムに導入することができる。標的細胞に導入する方法としては、アグロバクテリア法、RNAウイルスベクター法、プラズマ処理法、パーティクルガン(ボンバートメント)法、PEG法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0075】
ゲノム編集により変異をゲノムに導入する好適な方法としては、標的塩基配列を切断後、切断部位が自然修復される際に変異を発生させる方法であってもよいし、標的塩基配列と相同的な配列に1または数塩基の変異を有するDNA断片を細胞内に導入し、標的塩基配列を切断後、導入した前記DNA断片を鋳型として切断部位が修復される際に1または数塩基の変異が挿入される方法であってもよい。なお、数塩基としては、通常2~6の塩基である。
【0076】
CRISPR/Cas9システムは、CRISPR RNA(crRNA)、trans-activating crRNA(tracrRNA)、Cas9タンパク質の3種類の因子からなる。Streptococcus pyogenes株由来のCas9タンパク質は、標的ゲノム配列の下流にある3つの塩基であるNGG(式中、NはG、A、TまたはCのいずれかである)をPAM配列(Proto-spacer Adjacent Motif)として認識し、その3塩期上流を切断する。本技術分野における一般的な手法は、標的遺伝子配列に対して相補的なcrRNAの3’末端にtracrRNAを連結させたガイドRNA(gRNA)とCas9とを発現させることにより、ゲノムDNA上の狙った部位にDNA二本鎖切断を導入するものである。本明細書において、ガイドRNAの設計は、LhHFS遺伝子の発現が抑制または低減される、またはLhHFS遺伝子がノックアウトされるように設計する。すなわち、配列番号1または配列番号3に示す核酸配列に対して、アミノ酸配列が一部欠失、置換または付加されたタンパク質を発現させるように設計することになる。
【0077】
ZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)システムは、標的DNAを認識し結合するジンクフィンガードメイン(ZF)と、DNAを切断するFokIドメインとからなる人工制限酵素を利用するシステムである。このシステムにおいて、ジンクフィンガードメインは、ゲノム上の特異的な遺伝子配列を認識し、FokIドメインがこの領域でDNAを切断することによって、DNAの二本鎖切断が生じる。
【0078】
TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nucleases)システムは、Xanthomonas属細菌の転写因子TAL effector(TALE)を、DNA結合ドメインとして有する人工ヌクレアーゼを使用するシステムである。TALENによるゲノム編集の作用機序は、ZFNのものと類似しており、標的DNAを認識し結合し、FokIドメインがこの領域でDNAを切断することによって、DNAの二本鎖切断を生じるものである。TALEのDNA結合ドメインは、34アミノ酸を1単位(モジュール)とするリピート構造を有し、1つのモジュールが1塩基を認識することが知られている。モジュール中の12番目と13番目のアミノ酸残基は、Repeat variable di-residue(RVD)とよばれ、RVDが塩基の結合特異性と安定化に寄与する。
【0079】
ゲノム編集により標的遺伝子に変異を導入する手法としては、例えば、アグロバクテリウムを利用した形質転換法、およびプロトプラストにゲノム編集用の因子を直接導入する方法等が挙げられる。アグロバクテリウムを利用した形質転換法は、ゲノム編集用の因子を発現するベクターを含むアグロバクテリウム細菌を、植物細胞に感染させることによって、植物細胞にゲノム編集用の因子を導入する手法である。すなわち、目的とする植物(例えばユリ科植物)から単離された植物細胞または植物組織を、ゲノム編集用の因子を発現するベクターを含むアグロバクテリウム細菌とインキュベートし、植物細胞にゲノム編集用の因子を導入する。その後、適切な培養条件において細胞培養または組織培養を行うことにより、ゲノム編集されたカルスを生成する。その後、ゲノム編集されたカルスを分化誘導することによって、ゲノム編集された植物体を再生することにより、植物体全体のゲノムが編集された植物体を得ることができる。プロトプラストにゲノム編集用の因子を直接導入する方法は、アグロバクテリウムおよびベクターを使用せずに、植物細胞にゲノム編集用の因子を直接導入する手法である。すなわち、目的とする植物(例えばユリ科植物)由来の植物細胞からプロトプラストを調製し、ゲノム編集用の因子を、PEG法またはパーティクルガン法などによって直接プロトプラスト内に導入する。その後、プロトプラストを適切な培養条件でインキュベートすることによって、ゲノムが編集された植物体を得ることができる。
【0080】
突然変異体により変異をゲノムに導入する方法としては、例えば、自然突然変異体、UV照射、ガンマ線などの放射線照射、エチルメタンスルフォン酸(EMS)などの化学物質により誘導された変異体の中から、当該遺伝子に変異を持つものをPCR法、TILLING(Targeting Induced Local Lesions in Genomes)法、HRM(High Resolution Melting)法などにより選抜することによって、当該遺伝子に変異が生じたものを取得することによって行う方法が挙げられる。
【0081】
アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。したがって、本明細書において、「アンチセンス活性」には、遺伝子の発現量の減少が含まれるがそれらに限定されない。
【0082】
一般的なアンチセンス技術については、教科書に記載されている(Murray,JAH eds.,Antisense RNA and DNA,Wiley-Liss Inc,1992)。さらにその後の研究でRNA interference(RNAi)と呼ばれる現象が明らかになり、アンチセンス技術の発展をもたらした。RNAiは、標的遺伝子に相同な配列をもつ短い長さの2本鎖RNA(20ベ-ス程度)を細胞内に導入すると、そのRNA配列に相同な標的遺伝子のmRNAが特異的に分解されて発現レベルが低下する現象である。当初線虫において発見されたこの現象は、植物を含めて生物に普遍的な現象であることがわかってきて、アンチセンス技術で標的遺伝子の発現が抑制される分子レベルのメカニズムは、このRNAiと同様のプロセスを経ることが解明された。従来は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的である1つのDNA配列を適当なプロモーターに連結して、その制御下に人工mRNAを発現させるような発現ベクターを構築して、細胞内に導入することが行われた。最近の知見においては、細胞内に2本鎖RNAを構成できるようにデザインされた発現ベクターが用いられる。基本構造はある標的遺伝子に相補的な1種のDNA配列をプロモーター下に1つを連結し、それと同じ物をさらに逆向きにもう1つ連結してつくられる。この構築遺伝子から転写された1本鎖のmRNAでは、逆向きにつながれた1種類のヌクレオチド配列部分が相補的な関係にあるため対合してヘアピン様の二次構造を持つ2本鎖RNA状態をとり、これがRNAiのメカニズムに従って標的遺伝子のmRNA分解を引き起こすわけである。植物においてはシロイヌナズナで用いられた例が報告されている(Smith,NA et al.,Nature 407.319-320,2000)。またRNAi全般については、総説にまとめられている(森田と吉田、蛋白質・核酸・酵素47、1939-1945、2002)。これらの文献に記載された内容は、本明細書おいてその全体を参考として援用する。
【0083】
本明細書において「RNA干渉」または「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、当該分野で一般に知られており、RNAiを引き起こす因子によって媒介される、細胞における遺伝子発現を阻害または下方制御する生物学的プロセスである。例えば、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書において「RNAi」はまた、場合によっては、「RNAiを引き起こす因子」、「RNAiを起こす因子」、「RNAi因子」などと同義に用いられ得る。RNAiについては、例えば、Zamore and Haley,2005,Science,309,1519-1524;Vaughn and Martienssen,2005,Science,309,1525-1526;Zamore et al.,2000,Cell,101,25-33;Bass,2001,Nature,411,428-429;Elbashiretal.,2001,Nature,411,494-498;およびKreutzer他、国際公開第00/44895号;Zernicka-Goetz他、国際公開第01/36646号;Fire、国際公開第99/32619号;Plaetinck他、国際公開第00/01846号;MelloおよびFire、国際公開第01/29058号;Deschamps-Depaillette、国際公開第99/07409号およびLi他、国際公開第00/44914号;Allshire,2002,Science,297,1818-1819;Volpe et al.,2002,Science,297,1833-1837;Jenuwein,2002,Science,297,2215-2218;およびHall et al.,2002,Science,297,2232-2237;Hutvagner and Zamore,2002,Science,297,2056-60;McManus et al.,2002,RNA,8,842-850;Reinhart et al.,2002,gene & Dev.,16,1616-1626;およびReinhart & Bartel,2002,Science,297,1831を参照。)。また、本明細書では、RNAiという用語は、転写後遺伝子サイレンシング、翻訳阻害、転写阻害、エピジェネティクスなどの配列特異的RNA干渉の記述に用いられる他の用語と同義のものを示すものとして理解される。本明細書では、「RNAi因子」は「RNAi」を起こす限りどのようなものであってもよい。
【0084】
本明細書においてRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2~4ヌクレオチド長のDNA)であり得る。
【0085】
あるいは、本開示において用いられるRNAi因子としては、例えば、短い逆向きの相補的配列(例えば、15bp以上であり、例えば、24bpなど)のペアが挙げられるがそれらに限定されない。
【0086】
理論に束縛されないが、RNAiが働く機構として考えられるものの一つとして、dsRNAのようなRNAiを引き起こす分子が細胞に導入されると、比較的長い(例えば、40塩基対以上)RNAの場合、ヘリカーゼドメインを持つダイサー(Dicer)と呼ばれるRNaseIII様のヌクレアーゼがATP存在下で、その分子を3’末端から約20塩基対ずつ切り出し、短鎖dsRNA(siRNAとも呼ばれる)を生じる。本明細書において「siRNA」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5’-リン酸、3’-OHの構造を有しており、3’末端は約2塩基突出している。このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA-induced-silencing-complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断するmRNAの配列の関係については、100%一致することが好ましい。しかし、siRNAの中央から外れた位置についての塩基の変異については、完全にRNAiによる切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存する。他方、siRNAの中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNAiによるmRNAの切断活性が極度に低下する。このような性質を利用して、変異をもつmRNAについては、その変異を中央に配したsiRNAを合成し、細胞内に導入することで特異的に変異を含むmRNAだけを分解することができる。従って、本開示では、siRNAそのものを、RNAiを引き起こす因子として用いることができるし、siRNAを生成するような因子(例えば、代表的に約40塩基以上のdsRNA)をそのような因子として用いることができる。
【0087】
また、理論に束縛されることを希望しないが、siRNAは、上記経路とは別に、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合してRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)のプライマーとして作用し、dsRNAが合成され、このdsRNAが再びダイサーの基質となり、新たなsiRNAを生じて作用を増幅することも企図される。従って、本開示では、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子もまた、有用である。実際に、昆虫などでは、例えば35分子のdsRNA分子が、1,000コピー以上ある細胞内のmRNAをほぼ完全に分解することから、siRNA自体およびsiRNAが生じるような因子が有用であることが理解される。
【0088】
本開示においてsiRNAと呼ばれる、約20塩基前後(例えば、代表的には約21~23塩基長)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAを用いることができる。このようなsiRNAは、細胞に発現させることにより遺伝子発現を抑制し、そのsiRNAの標的となる病原遺伝子の発現を抑えることから、疾患の治療、予防、予後などに使用することができる。本開示において用いられるsiRNAは、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態を採っていてもよい。
【0089】
別の実施形態において、本開示のRNAiを引き起こす因子は、3’末端に突出部を有する短いヘアピン構造(shRNA;short hairpin RNA)であり得る。本明細書において「shRNA」とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子をいう。そのようなshRNAは、人工的に化学合成される。あるいは、そのようなshRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7RNAポリメラーゼによりin vitroでRNAを合成することによって生成することができる。理論に束縛されることは希望しないが、そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様にRNAiを引き起こし、本開示の処置効果があることが理解されるべきである。このような効果は、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など広汎な生物において発揮されることが理解されるべきである。このように、shRNAは、siRNAと同様にRNAiを引き起こすことから、本開示の有効成分として用いることができる。shRNAはまた、好ましくは、3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド長以上、より好ましくは約20ヌクレオチド長以上であり得る。ここで、3’突出末端は、好ましくはDNAであり得、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド長以上のDNAであり得、さらに好ましくは2~4ヌクレオチド長のDNAであり得る。本開示において用いられるRNAiを引き起こす因子は、人工的に合成した(例えば、化学的または生化学的)ものでも、天然に存在するものでも用いることができ、この両者の間で本開示の効果に本質的な違いは生じない。化学的に合成したものでは、液体クロマトグラフィーなどにより精製をすることが好ましい。
【0090】
本開示において用いられるRNAiを引き起こす因子は、in vitroで合成することもできる。この合成系において、T7RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成する。これらをin vitroでアニーリングした後、細胞に導入すると、上述のような機構を通じてRNAiが引き起こされ、本開示の効果が達成される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法等の任意の適切な方法でそのようなRNAを細胞内に導入することができる。本開示のRNAiを引き起こす因子としてはまた、mRNAとハイブリダイズし得る一本鎖、あるいはそれらのすべての類似の核酸アナログのような因子も挙げられる。そのような因子もまた、本開示において有用である。
【0091】
本明細書においてベクターとしては、遺伝子実験に用いられる一般的なバクテリア(代表的なものとして大腸菌K12株由来の大腸菌株)で複製可能かつ単離精製可能な物があげられる。これは植物に導入する目的遺伝子を構築するために必要である。具体的には、例えば大腸菌のpBR322プラスミドやpUC18、pUC19、pBluescript、pGEM-Tといった市販構築プラスミドがある。エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法といった直接的に遺伝子断片を植物細胞に導入して形質転換する場合には、このような市販されている一般的なプラスミドを用いて導入する遺伝子の構築を行えばよい。また、ベクターの特殊な例として、アグロバクテリウムを介した遺伝子導入法を用いて植物細胞を形質転換する場合は、大腸菌とアグロバクテリウム双方の複製開始点、および植物に導入され得る境界領域を示すT-DNA由来の境界配列(Left borderおよびRight Border)に相当するヌクレオチド配列を有する「バイナリーベクター」と呼ばれるプラスミドを用いる必要がある。例えばpBI101(Clontech社より市販)、pBIN(Bevan,N.,Nucleic Acid Research 12,8711-8721,1984)、pBINPlus(van Engelen,FA et al.,Tranegenic Research 4,288-290、1995)、pTNまたはpTH(Fukuoka H et.al.,Plant Cell Reports 19,2000)、pPZP(Hajdukiewicz P et al.,Plant Molecular Biology 25,989-994,1994)などが挙げられるがそれらに限定されない。このほか、植物に利用され得るベクターとしては、タバコモザイクウイルスベクターも例示されるが、このタイプのベクターは目的遺伝子を植物染色体に導入するわけではないので、遺伝子導入した植物を種子を介して増殖させること必要がない場合に用途が限定されるが、本開示に使用し得る。
【0092】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、AusubelF.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、NewYork、NY;SambrookJら(1987)Molecular Cloning:ALaboratory Manual,2ndEd.およびその3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0093】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法が挙げられる。
【0094】
本明細書において「遺伝子導入試薬」とは、遺伝子導入方法において、導入効率を促進するために用いられる試薬をいう。そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。トランスフェクションの際に利用される試薬の具体例としては、種々なソースから市販されている試薬が挙げられ、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)および ExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0095】
本開示を植物において利用する場合、植物細胞への植物発現ベクターの導入には、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウムを介する方法および直接細胞に導入する方法、が用いられ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Nagelら(1990)、Microbiol.Lett.,67,325)が用いられ得る。この方法は、まず、例えば植物に適切な発現ベクターでエレクトロポレーションによってアグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをGelvinら(Gelvinら編(1994)、Plant Molecular Biology Manual(Kluwer Academic Press Publishers))に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法(Shimamotoら(1989)、Nature、338:274-276;およびRhodesら(1989)、Science、 240:204-207を参照のこと)、パーティクルガン法(Christouら(1991)、Bio/Technology 9:957-962を参照のこと)ならびにポリエチレングリコール(PEG)法(Dattaら(1990)、Bio/Technology 8:736-740を参照のこと)が挙げられる。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
【0096】
植物発現ベクターを導入された細胞は、まずハイグロマイシン耐性、カナマイシン耐性などの薬剤耐性で選択される。次いで、当該分野で周知の方法により、植物組織、植物器官および/または植物体に再分化され得る。さらに、植物体から種子が取得され得る。導入した遺伝子の発現は、ノーザンブロット法またはPCR法により、検出し得る。必要に応じて、遺伝子産物たるタンパク質の発現を、例えば、ウェスタンブロット法により確認し得る。
【0097】
本開示は、植物において特に有用であることが示されているが、他の生物においても利用することができる。本開示において使用される分子生物学技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0098】
形質転換を行う方法において、物理的手法には、ポリエチレングリコール法(PEG法)、電子穿孔(エレクトロポレーション)法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法がある。これらの方法は、単子葉、双子葉の両植物体に適用できる点で有用性が高い。しかし、ポリエチレングリコール法とエレクトロポレーション法では、細胞壁が障害となるため、プロトプラストを用いなければならない上、導入された遺伝子の植物細胞の染色体DNAへの組込み頻度が低いことが問題である。また、プロトプラストを用いずに、カルスや組織を用いたマイクロインジェクション法では、針の太さや組織の固定等に関して困難が多い。組織を用いたパーティクルガン法でも、変異がキメラの形で出現してくる等の問題がある。また、これら物理的手法では、一般に、導入された外来遺伝子が核ゲノムに不完全な状態で多コピーの遺伝子として組込まれやすい。外来遺伝子が多コピー導入されると、その遺伝子が不活化されやすいことが知られている。
【0099】
他方、生物を利用して単離遺伝子を導入する方法には、アグロバクテリウム法、ウイルスベクター法、および花粉をベクターとして用いる方法等がある。これらの方法は、プロトプラストを用いず植物のカルス、組織または植物体を用いて遺伝子導入を行うため、培養が長期間に及ぶことがなく、またソマクローナル変異等の障害を受けにくいという長所を有している。これらのうち花粉をベクターとして用いる方法は、まだ実験例も少なく、植物の形質転換法としては未知数の部分が多い。ウイルスベクター法は、ウイルスに感染した植物体全体に導入すべき遺伝子が広がるという利点はあるものの、各細胞内で増幅されて発現されるだけで、次世代に伝えられるという保証がないという点、および長いDNA断片を導入できないという点に問題がある。アグロバクテリウム法は、約20kbp以上のDNAを大きな再編成なしに染色体に導入できること、導入される遺伝子のコピー数が、数コピーと少ないこと、および再現性が高いこと等、多くの利点がある。イネ科植物等の単子葉植物にとってアグロバクテリウムは宿主範囲外であるため、イネ科植物への外来遺伝子導入は、従来は、先に述べたような物理的手法により行われてきた。しかしながら、近年、単子葉植物でもイネ等、培養系が確立されている植物においては、アグロバクテリウム法が適用されるようになっており、むしろ現在ではアグロバクテリウム法が好んで用いられている。
【0100】
アグロバクテリウム法による外来遺伝子の導入では、TiプラスミドVir領域に植物が合成するアセトシリンゴン等の低分子フェノール化合物が作用すると、TiプラスミドからT-DNA領域が切り出され、幾つかの過程を経て植物細胞の核染色体DNAに組み込まれる。双子葉植物では、植物自身がそのようなフェノール化合物の合成機構を備えているため、リーフディスク法等により容易に外来遺伝子を導入することができ、再現性も高い。これに対し、単子葉植物では、そのようなフェノール化合物を植物自身が合成しないため、アグロバクテリウムによる形質転換植物の作出は困難であった。しかし、アグロバクテリウムの感染時にアセトシリンゴンを添加することで、単子葉植物への外来遺伝子導入も現在では可能となっている。
【0101】
本開示において、形質転換体では、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されていても導入されていなくてもよい。好ましくは、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されており、より好ましくは、2つの染色体の両方に導入されている。
【0102】
(植物)
好ましい植物には、花を観賞するための観賞用植物に限られず、花の老化を防ぐことが有用である任意の植物、例えば、作物、樹木、芝生、雑草なども含まれる。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも包含する。植物器官の例としては、根、球根、葉、茎、花(または花を構成する器官または組織の一部、例えば、花弁またはその類似器官(例えば、花被))、花粉、りん片、木子、およびむかごなどが挙げられる。また、植物は、植物組織または植物器官の組み合わせとして提供されてもよく、この場合例えば、切り花または鉢花(花、茎、葉および/または根の組合せ)として提供され得る。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0103】
植物細胞におけるゲノム編集の方法としては、本明細書において別の場所で詳述したように、いずれも用いることができ、例えば、Yan, R.; Wang, Z.; Ren, Y.; Li, H.; Liu, N.; Sun, H. Establishment of Efficient Genetic Transformation Systems and Application of CRISPR/Cas9 Genome Editing Technology in Lilium pumilum DC. Fisch. and Lilium longiflorum White Heaven. Int. J. Mol. Sci. 2019, 20, 2920.に記載されている手法、および特開2020-130054号公報等に記載されている手法が例示される。
【0104】
植物細胞への組換えベクターの導入方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であれば、本明細書において他の場所で詳述したように、いずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)(特開昭59-140885、特開昭60-70080、WO94/00977)、エレクトロポレーション法(特開昭60-251887)、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法(特許第2606856、特許第2517813)等が例示される。
【0105】
本明細書では、植物の栽培は当該分野において公知の任意の方法により行うことができる。植物の栽培方法は、「ユリをつくりこなす」(今西英雄編著、農文協 2006年)等に記載されている。
【0106】
植物細胞、植物組織および植物体の培養、脱分化、分化および再生のためには、当該分野で公知の手法および培地が用いられる。このような培地には、例えば、Murashige-Skoog(MS)培地、GaMborg B5(B)培地、White培地、Nitsch&Nitsch(Nitsch)培地などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの培地は、通常、植物生長調節物質(植物ホルモン)などが適当量添加されて用いられる。
【0107】
LhHFSまたはその相同遺伝子の遺伝子が一部または全部が変異または欠損した植物細胞、植物組織、植物器官あるいは植物体またはその一部を作成するためには、植物体全体またはその一部を従来の変異誘発因子に曝すことによって変異させてもよい。あるいは、植物体の一部を脱分化させてカルスまたは細胞を形成し、カルスまたは細胞を遺伝子工学などによって改変することによって本開示の因子を含むかまたは本開示の因子が改変されたカルスまたは細胞を得てもよい。
【0108】
本明細書において、植物の場合、「再分化」するとは、未分化の状態の細胞が機能を有する細胞、組織または個体全体等、より分化した実体へと分化する現象を意味する。例えば、カルスの再分化により、細胞(葉、根など)のような組織片を形成させることができ、またこれらの組織片を成長させることにより、器官または植物体を形成させることができる。
【0109】
形質転換体を植物体へと再分化する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118:627-640(1986);Tabata et al.,Plant Cell Physiol.,28:73-82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338:274(1989);Maliga et al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course.Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995)などに記載されるものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、当業者は、上記周知方法を目的とするトランスジェニック植物に応じて適宜使用して、再分化させることができる。このようにして得られたトランスジェニック植物には、目的の遺伝子が導入されており、そのような遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0110】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
【0111】
<LhHFS遺伝子およびタンパク質>
本開示の代表的な局面において、本開示により新規に見出された、LhHFS遺伝子およびこの遺伝子にコードされるLhHFSタンパク質が提供される。LhHFSは、花の老化時に発現量が増加する転写因子ファミリー遺伝子のひとつであるが、LhHFSの発現を抑制した形質転換体(LNR18)を作出した結果、花が褐変化するまでの期間が延長することが、ユリ科植物であるユリ(オリエンタル・ハイブリッド系)において観察された(実施例参照)。これらの結果は、LhHFSが、花の老化を制御(促進)する転写因子ファミリー遺伝子であり、LhHFSの発現抑制により、花の老化を遅延することができることを示している。オリエンタル・ハイブリッド系においては、実施例で使用したティアラ品種と他の品種(カサブランカ品種およびアカプルコ品種)との間で、LhHFS遺伝子の配列相同性は99%以上と非常に高い相同性であるため、LhHFSの抑制因子による老化の抑制は、品種に特異的なものではないことが理解される。加えて、他のユリ科植物においても、LhHFSオルソログを標的としたゲノム編集、遺伝子組換えまたは阻害剤等のLhHFSの抑制因子により、観賞期間を延長することができると理解される。特に、チューリップ(ユリ科チューリップ属)が有するLhHFS遺伝子の相同遺伝子(配列番号4に記載される塩基配列を有する)は、ユリLhHFSをコードする核酸配列(配列番号1)と約71%の配列同一性を有するため、少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体であれば、その発現を抑制することにより、花の老化を遅延させることができると考えられる。LhHFSタンパク質は、少なくともユリ科植物において保存されたDNAに結合すると予想される領域を共通に持つ。特に、理論に束縛されることは望まないが、ユリ科植物では、花の老化時にプログラム細胞死が起きており、また、共通の遺伝子群の発現が誘導されることから(例えば、van Doorn WG, Woltering EJ. Physiology and molecular biology of petal senescence. Journal of Experinental Botany 59:453-80, 2008を参照)、同様の制御機構が存在するものと理解され、LhHFSオルソログの活性阻害は、ユリ以外でも同様に効果を発揮すると理解される。本開示は、実施例以外の他の植物においても同様の効果を奏することが理解される。本開示の因子は、LhHFSの機能を一時的または永久に抑制、低下または消失させることができる因子であれば、どのようなものであってもよく、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ゲノム編集用の因子、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子が挙げられるがそれらに限定されず、場合によっては、物質以外の他の要素(例えば、光、放射線、熱、電気などのエネルギー等の突然変異誘発因子)でもあってもよい。
【0112】
本開示は、ユリ科植物(例えばユリ属やチューリップ属の植物)では、開花後数日で花の褐変化により老化効果が進行する場合において有効である。ユリ科植物(例えばユリ属やチューリップ属の植物)における老化は、それ以外の植物でよくみられる花の萎れや巻き込み(インローリング)が生じることとは異なるため、本開示の技術の老化抑制効果は顕著に有用である。例えばまた、ユリおよびチューリップの花は、3枚の内花被および3枚の外花被から構成されるのに対し、ユリ科植物以外の代表的な植物の花は同様の構成ではなく、例えば花弁から構成される、または花弁が合着した花冠により構成されることも特筆されることであり、3枚の内花被および3枚の外花被の構造でも老化抑制できることは特筆に値する。さらに、単子葉植物における効果も特筆すべきであると考えられる。
【0113】
LhHFS遺伝子の代表的な核酸配列は、配列番号1または配列番号3に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。したがって、一つの局面において、本開示は、配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列;または(B)配列改変体、を含む核酸分子であって、該(B)配列改変体は、(B-1)(A)の核酸配列において1以上(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、51個、52個、53個、54個、55個、56個、57個、58個、59個、60個、61個、62個、63個、64個、65個、66個、67個、68個、69個、70個、71個、72個、73個、74個、75個、76個、77個、78個、79個、80個、81個、82個、83個、84個、85個、86個、87個、88個、89個、90個、91個、92個、93個、94個、95個、96個、97個、98個、99個、100個)の置換、付加および/もしくは欠失を有する配列改変体、(B-2)(A)の核酸配列に対して少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有する配列改変体、(B-3)(A)の核酸配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体、(B-4)(A)の対立遺伝子変異体である配列改変体、もしくは(B-5)(A)または(B-1)~(B-4)のフラグメントである配列改変体であり、該配列改変体がコードするタンパク質は(A)がコードするタンパク質の生物学的機能を有するものである、核酸分子を提供する。より具体的な局面では、前記核酸分子は、配列番号1に示す核酸配列を含む。さらに具体的な局面では、前記核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す核酸配列からなる。
【0114】
一つの局面において、本開示は、(a)配列番号2に示すアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1以上(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、51個、52個、53個、54個、55個、56個、57個、58個、59個、60個、61個、62個、63個、64個、65個、66個、67個、68個、69個、70個、71個、72個、73個、74個、75個、76個、77個、78個、79個、80個、81個、82個、83個、84個、85個、86個、87個、88個、89個、90個、91個、92個、93個、94個、95個、96個、97個、98個、99個、100個)のアミノ酸が変異しており、該変異が、置換、付加および/もしくは欠失からなる群より選択されるポリペプチドであって、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド;(c)配列番号1に示す塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;(d)配列番号2に示すアミノ酸配列の相同遺伝子によってコードされる、ポリペプチド;または(e)(a)~(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%であるアミノ酸配列を有し、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む、ポリペプチドを提供する。より具体的な局面では、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2に示す配列を含む。さらに具体的な局面では、前記ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2に示す配列からなる。
【0115】
本開示は、ユリ科ユリ属植物のみならず、LhHFS相同遺伝子を有するあらゆる植物、特にユリ科植物全般において、LhHFS相同遺伝子の抑制が、花の老化抑制に有効であることを理解する。理論の束縛されることを望まないが、なぜなら、少なくともユリ科植物全体において、LhHFS相同遺伝子の機能は実質的に類似すると考えられるからであり、LhHFS遺伝子は本開示において見いだされたものであるが、本開示における分析において、このLhHFS遺伝子が、ユリ科植物全般において共通して見いだされていることが判明しているからである。
【0116】
<LhHFSの抑制因子>
1つの局面において、本開示は、<LhHFS遺伝子およびタンパク質>に記載される核酸配列もしくはアミノ酸配列、またはこれらの改変配列の機能を抑制する因子を提供する。前記因子は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、RNAまたはDNAを含む核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、合成化学物質、放射線、これらの組み合わせまたは複合因子であってもよい。より具体的な局面では、前記因子は、アンチセンス分子、RNAi因子、ゲノム編集用の因子、突然変異誘発因子からなる群より選択される。
【0117】
1つの局面において、本開示は、LhHFSまたはその相同遺伝子を抑制する因子を提供する。前記相同遺伝子は、(i)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列の配列改変体であって、該配列改変体は、(B-1)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列において1以上の置換、付加および/もしくは欠失を有する配列改変体、(B-2)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列に対して少なくとも約70%の配列同一性を有する配列改変体、(B-3)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体、(B-4)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列の対立遺伝子変異体である配列改変体、もしくは(B-5)配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列、または(B-1)~(B-4)のフラグメントである配列改変体であり、該配列改変体がコードするタンパク質は、配列番号1に示す核酸配列もしくは配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする核酸配列がコードするタンパク質の生物学的機能を有するものである、配列改変体、または(ii)(a)配列番号2に示すアミノ酸配列またはそのフラグメントからなる、ポリペプチド;(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が変異しており、該変異が、置換、付加および/もしくは欠失を含むポリペプチドであって、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド;(c)配列番号1に示す塩基配列のスプライス変異体または対立遺伝子変異体によってコードされる、ポリペプチド;(d)配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする遺伝子の相同遺伝子によってコードされる、ポリペプチド;または(e)(a)~(d)のいずれか1つのポリペプチドに対する同一性が少なくとも約70%であるアミノ酸配列を有し、かつ、(a)のポリペプチドの生物学的活性と同種の生物学的活性を有する、ポリペプチド、を含む、ポリペプチド、を含み得る。LhHFSの抑制は、例えば、遺伝子発現レベルの低下、遺伝子コピー数の低下、遺伝子増幅の低下、RNA活性レベルの低下、mRNA存在量の低下、mRNA合成速度の低下、mRNA安定性の低下、タンパク質活性レベルの低下、タンパク質合成の低下、タンパク質存在量の低下、タンパク質安定性の低下、タンパク質酵素活性の低下、またはこれらの組合せからなる群より選択される方法によって達成される。LhHFSを抑制する因子は、植物体においてLhHFS遺伝子またはタンパク質の生物学的機能を一部または完全に抑制する因子であればどのような物質でもよい。前記因子は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、RNAまたはDNAを含む核酸、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、合成化学物質、放射線、これらの組み合わせまたは複合因子であってもよい。より具体的な局面では、前記因子は、アンチセンス分子、RNAi因子、ゲノム編集用の因子、突然変異誘発因子からなる群より選択される。本明細書では、RNAi因子およびゲノム編集によりLhHFS発現抑制系統を作成し、花の老化を遅延させたことが実証されている(実施例参照)。
【0118】
1つの実施形態において、前記因子は、核酸形態のものである。核酸形態の阻害剤としては、アプタマー、リボザイム、アンチセンス・オリゴヌクレオチド、siRNA等のRNAi因子などを挙げることができる。他の実施形態では、タンパク質形態の因子も用いられうる。このようなタンパク質形態のものとしては、人工ヌクレアーゼ等のゲノム編集用の因子、抗体または抗原性断片、結合性ペプチド、ペプチド模倣体(peptidomimetic)等を挙げることができる。あるいは、本開示の因子は、低分子等の他の分子であってもよい。
【0119】
1つの実施形態では、前記因子は、二本鎖核酸の形態のLhHFSのRNA干渉を起こす因子である。
【0120】
特定の実施形態では、本開示の因子は二本鎖形態であり、その一方の鎖は(I)(A)配列番号1に示す核酸配列(LhHFS自体)もしくは配列番号2をコードする配列のうちの少なくとも約20塩基、約50塩基、約100塩基、約150塩基、約200塩基を含む(あるいはこれらの数の任意の間の数を最低限含む)核酸配列;または(B)配列改変体、を含み、他方の鎖は、(II)(I)の相補配列またはアニーリングする配列を含み、該(B)配列改変体は、(B-1)(A)において1もしくは数個の置換、付加もしくは欠失を有する配列改変体、(B-2)(A)の配列に対して少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有する配列改変体、もしくは(B-3)(A)の配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列改変体、(B-4)(A)の対立遺伝子変異体である配列改変体、もしくは(B-5)(A)または(B-1)~(B-4)のフラグメントである配列改変体であり、該配列改変体がコードするタンパク質は(A)がコードするタンパク質の生物学的機能を有するものである。
【0121】
さらに特定の実施形態において、本開示の因子は、二本鎖形態であり、その一方の鎖(I)は配列番号1のうち塩基22-483位の462塩基の配列を含まない。理論に束縛されることを望まないが、配列番号1のうち塩基22-483位の塩基配列は、DNA結合部位に相当し、この部位を標的とすると、LhHFS遺伝子以外の遺伝子の発現も抑制される可能性があるため、この部位以外の領域を標的とすることが望ましい。より具体定な実施形態では、一方の鎖(I)は、配列番号1のうち塩基574-864位の核酸配列を含む。具体的な実施形態は、これに限定されず、例えば、22-483塩基の長さであれば、どのような範囲でも使用されることが理解される(Wesley et al., Plant Journal 27:581-590)。また、適切なRNAi因子はWesley et al. Plant Journal 27:581-590等を参照して設計することができる。
【0122】
植物のRNAiでは一般的に標的遺伝子の転写物(mRNA)のどの領域の配列を用いてもmRNAの分解を誘導できると考えられている。RNAiの原理からすれば、標的遺伝子の転写された配列を含んでいれば、mRNAの分解が起きるのは当業者には明白である(例えば、Wesley et al. Plant Journal 27:581-590を参照)。どのような領域を選択してもよいが、好ましくは、保存性が非常に高い領域の配列(複数の遺伝子間で共通した配列)を標的にした場合、目的の遺伝子の他にも同じ配列を持った遺伝子のmRNAを分解してしまう可能性があることから、標的配列から保存領域を外すことが有利である。本開示のLhHFSのRNAiコンストラクトにおいても、実施例において行ったものは、念のため保存性が比較的高い領域は外してある。コード領域ではなく、5’UTRおよび3’UTR(非翻訳領域)を標的にしてもRNAiを誘導できることが知られている(例えば、Wesley et al. Plant Journal 27:581-590を参照)。植物では、siRNAも使用しうるが、好ましくは、より長いRNAi因子も使用しうることが理解される(植物では長めのdsRNAを発現させるが、最終的には20塩基ほどのsiRNAにプロセスされてサイレンシングを誘導することになる。)。
【0123】
1つの局面では、本開示はLhHFSのRNA干渉を起こす核酸を含むベクターを提供する。ここで含まれるLhHFSのRNA干渉を起こす核酸は、本開示のLhHFSを抑制する因子で例示される任意の形態であって、LhHFSのRNA干渉を起こす核酸である限り、どのようなものでも使用されることが理解される。
【0124】
別の実施形態では、本開示のベクターは、プロモーターおよび/またはターミネーターを含む。
【0125】
一つの局面では、本開示は、LhHFSの機能および/または機能の抑制を起こすゲノム編集用の因子を提供する。ゲノム編集用の因子としては、CRISPR/Cas9、TALEN、ZFN、メガヌクレアーゼ等の手法に用いられる任意の因子であってよい。
【0126】
ゲノム編集の手法としてCRISPR/Cas9が選択される場合、PAM配列とよばれるNGG(NはATGCのいずれかの塩基である)を3’末端に含む、計23塩基の配列を有するガイドRNAが使用される。ガイドRNAの配列は、例えばCRISPR-P等のプログラムによって設計することができる。ゲノム編集に使用されるガイドRNAの配列は、配列番号1のうち塩基1~483位の核酸配列におけるゲノム編集を標的とするものであることが好ましく、ガイドRNAの配列は、例えば、以下の表に示される配列が挙げられる。
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0127】
一つの局面では、本開示は、本開示のLhHFSを抑制する因子を含むか、または前記因子によって改変された植物細胞を提供する。別の局面では、前記因子を含むかまたは前記因子によって改変された植物組織または前記植物細胞を含む植物組織が提供される。さらに別の局面では、前記因子を含むかまたは前記因子によって改変された植物器官または前記植物細胞もしくは前記植物組織を含む植物器官が提供される。さらに別の局面では、前記因子を含むかまたは前記因子によって改変された植物体またはその一部、あるいは前記植物細胞、前記植物組織もしくは前記植物器官を含む植物体またはその一部が提供される。
【0128】
好ましい実施形態では、本開示の植物細胞は、ユリ科の植物細胞である。このような植物細胞としては、例えば、ユリ属(Lilium)、チューリップ属(Tulipa)、カタクリ属(Erythronium)、バイモ属(Fritillaria)、アマナ属(Amana)、ボウィエア属(Bowiea)、カロコルツス属(Calochortus)、ウバユリ属(Cardiocrinum)、ツバメオモト属(Clintonia)、キバナノアマナ属(Gagea)、チシマアマナ属(Lloydia)、メデオラ属(Medeola)、ノモカリス属(Nomocharis)、ノトリリオン属(Notholirion)、プロサルテス属(Prosartes)、タケシマラン属(Streptopus)、ホトトギス属(Tricyrtis)などを挙げることができ、例えばユリ、チューリップ、カタクリ、クロユリを挙げることができるがこれらに限定されない。さらに好ましい実施形態では、本開示の植物細胞は、ユリの細胞である。
【0129】
1つの実施形態では、LhHFSを抑制する因子を含む植物体またはその一部は、球根、種子、花、茎、葉、花粉、りん片、木子、細胞、組織、組織培養物もしくはむかご、またはそれらの全部もしくは一部の組合せを含む。具体的な実施形態では、例えば、花全体、または花弁、花冠、および花被等の花を構成する器官、または花を含む器官の組合せ(例えば、切り花または鉢花等)の形態で提供され得る。
【0130】
(LhHFSまたはその相同遺伝子が抑制された植物の生産方法)
別の局面では、本開示は、LhHFSが天然の状態よりも抑制された植物細胞を提供する。「天然の状態」は、LhHFSの発現量が、発現のピーク時において、ハウスキーピング遺伝子であるElongation factor 1 alpha(EF1alpha)と同等の発現量である状態を意味する。ここで、LhHFSの発現量は、開花後0日目には低いが、開花後約4~5日目にピークに達するため、開花後約4~5日目の発現レベルが使用される。
このような細胞は、LhHFSが天然の状態よりも抑制される状態は、本開示のLhHFSを抑制する因子を植物細胞に導入することによって達成され得る。LhHFSを抑制する因子を使用して該植物細胞を得る場合、慣用的には、薬剤耐性遺伝子(例えばハイグロマイシン耐性遺伝子)を含むベクターを使用して形質導入を行い、薬剤耐性マーカーを使用したスクリーニングによって、変異が挿入された植物細胞をスクリーニングすることができる。あるいは、LhHFSが抑制された植物は、植物体または植物細胞などを変異誘発因子などで突然変異処理をした集団の中からLhHFSに変異を起こしている植物や細胞をPCRなどによって選抜してもよい。この場合、たとえば、ユリの場合は、本開示で開示した天然のLhHFSよりも発現または活性のレベルが低下しているものが選抜されうる。他の植物の場合も同様に選抜することができる。あるいは、抑制する因子を導入する手法やスクリーングで探すことのほか、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、或いはジーンターゲッティングなどの手法を使って内在LhHFSの配列を改変し発現を抑制する方法を用いてもよい。本開示の実施において、植物におけるジンクフィンガーヌクレアーゼの応用に関しては、Keishi Osakabe,Yuriko Osakabe and Seiichi Toki,Site-directed mutagenesis in Arabidopsis using custom-designed zinc-finger nucleases.Proc.Nat.Acad.Sci.USA(2010)June 29,107(26): 12034-12039を参考にすることができる。ジーンターゲッティングに関しては、Molecular breeding of a novel herbicide-tolerant rice by gene targeting.Endo,Masaki;Osakabe,Keishi;Ono,Kazuko;Handa,Hirokazu;Shimizu,Tsutomu;Toki,Seiichi.The Plant Journal vol.52 issue 1 October 2007.p.157-166;Rie Terada,Hiroko Urawa,Yoshishige Inagaki,Kazuo Tsugane,and Shigeru Iida:Efficient gene targeting by homologous recombination in rice.Nature Biotechnology 20(10)1030-1034 (2002)を参考にすることができる。
【0131】
スクリーニングによって得られた植物細胞、組織、器官または植物体が、天然の状態よりも抑制されたLhHFSを有することは、例えば、遺伝子発現レベルの低下、遺伝子コピー数の低下、遺伝子増幅の低下、RNA活性レベルの低下、mRNA存在量の低下、mRNA合成速度の低下、mRNA安定性の低下、タンパク質活性レベルの低下、タンパク質合成の低下、タンパク質存在量の低下、タンパク質安定性の低下、タンパク質酵素活性の低下、またはこれらの組合せからなる群より選択される方法によって確認することができる。遺伝子発現レベルの低下は、代表的にはリアルタイムPCR(RT-PCR)などの手法によって確認することができる。タンパク質発現レベルの低下は、代表的にはWestern Blotting等の手法により確認することができる。加えて、LhHFSの場合には、タンパク質酵素活性の低下を、下流遺伝子の発現レベルやレポーターアッセイ等によって測定することができる。
【0132】
スクリーニングは、細胞、組織、器官または植物体のいずれの状態で行われてもよい。好ましくは、薬剤耐性によるスクリーニングはカルスで行われる。遺伝子導入の有無、およびゲノム編集による変異導入の有無は、カルスから誘導される不定芽(シュート)から抽出したDNAを用いて、PCRやシーケンスにより解析される。LhHFS遺伝子発現やタンパク質量の低下は花被で解析される。
【0133】
本開示の目的の形質を有する植物細胞は、当該分野で公知の方法によって組織、器官または植物体へと再分化され得る。
【0134】
本開示の目的の形質を有する植物体がいったん形質転換体として得られたら、その形質転換体を花粉親または種子親として使用し、従来の交雑法によって、本開示の目的の形質を有する新たな別の品種を作製してもよい。
【0135】
好ましい実施形態では、本開示の植物細胞は、ユリ科の植物細胞である。このような植物細胞としては、例えば、ユリ属(Lilium)、チューリップ属(Tulipa)、カタクリ属(Erythronium)、バイモ属(Fritillaria)、アマナ属(Amana)、ボウィエア属(Bowiea)、カロコルツス属(Calochortus)、ウバユリ属(Cardiocrinum)、ツバメオモト属(Clintonia)、キバナノアマナ属(Gagea)、チシマアマナ属(Lloydia)、メデオラ属(Medeola)、ノモカリス属(Nomocharis)、ノトリリオン属(Notholirion)、プロサルテス属(Prosartes)、タケシマラン属(Streptopus)、ホトトギス属(Tricyrtis)などを挙げることができ、例えばユリ、チューリップ、カタクリ、クロユリを挙げることができるがこれらに限定されない。さらに好ましい実施形態では、本開示の植物細胞は、ユリの細胞である。
【0136】
一つの実施形態では、本開示における花の老化の抑制は、花を構成する要素の一部または全部の老化が抑制されていればよい。花を構成する要素は以下を含む、花弁、花冠、花被、雄しべ、雌しべ、がく、花托、花軸。花の老化の抑制は花を構成する要素のうち少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つまたはそれ以上の要素の老化の抑制であり得る。好ましい実施形態では、花を構成する要素のうち、例えば、花弁、花冠、花被等のいずれかの老化が抑制されていれば有利であり得る。好ましい実施形態では、花の老化の抑制は、花弁、花冠、花被等のいずれか1つの老化抑制が達成されていればよく、あるいは、花全体の老化抑制が達成されていてもよい。花の老化の抑制についていえば、雄しべ、雌しべ等については老化抑制が達成されていなくてもよい。種々の実施形態では、花の老化の抑制は、代表的には、「花弁」が老化することをいい、花冠が老化すること、花被が老化すること、花托に結合した状態の花被が老化すること、花全体のうち雄しべ、雌しべを除く部分あるいは花全体(すなわち、花被、茎に相当する花軸、雄しべ、雌しべ等、花を構成する要素をすべて含む)、が老化することであってもよい。
【0137】
(花の日持ちを延長する方法)
別の局面では、本開示は、植物体またはその一部における花の日持ちを延長する方法を提供する。花の日持ちを延長する方法としては、1)<LhHFSの抑制因子>に記載の因子を含むか、または該因子によって改変された細胞(例えば植物細胞)、植物組織、あるいは植物体またはその一部を提供する工程と、2)前記細胞、植物組織、または植物体もしくはその一部を、開花する条件に供する工程と、3)前記細胞、植物組織、または植物体もしくはその一部において開花後、日持ちする条件および期間に供する工程と、を包含する。前記期間は、前記日持ちする条件下で、前記植物体またはその一部の、前記因子による改変のない場合の日持ちが終了する期間よりも長い期間であり得る。例えば、ユリのオリエンタル・ハイブリッド系統の一品種である「ティアラ」が使用される場合、前記因子による改変のない場合の日持ちが終了する期間は約5日間であり、この場合、前記因子によって改変された植物体またはその一部の日持ちが終了する期間は、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間等であり得る。好ましい実施形態では、前記植物体またはその一部は、花全体、または花弁、花冠、および花被等の花を構成する器官、または花を含む器官の組合せ(例えば、切り花または鉢花等)であり得る。
【0138】
(スクリーニング)
別の局面では、本開示は、本開示の核酸分子(LhHFSまたはその改変体)またはそれがコードするタンパク質を用いる花の老化を遅延させる薬剤のスクリーニング方法を提供する。スクリーニングの方法としては、当該分野において公知の方法を応用することができる。この方法は、(i)LhHFSまたはそれを含む物質、細胞、植物等と、被験物質とを接触させる工程;および(ii)被験物質を接触させた後の前記物質、細胞、植物等におけるLhHFSの発現を検出する工程を包含する。工程(i)において、使用される細胞等はユリ科植物のものが使用される。花の老化を遅延させる薬剤は、被験物質においてLhHFSの発現または活性を抑制する物質または因子から選択することができる。そのような物質または因子を、さらに、植物または植物細胞に導入して、花の老化を遅延させることができるかどうかを確認することができる。
【0139】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997「植物のPCR実験プロトコール」秀潤社(1997)、モデル植物の実験プロトコール秀潤社(1996)などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0140】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.et al.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0141】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0142】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0143】
必要な場合、以下の実施例で用いる植物等の取り扱いは、日本国政府、または国立研究開発法人農業食品産業技術総合研究機構、新潟県農業総合研究所において定める基準を遵守して行った。また、試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(SIGMA-ALDRICH,和光純薬、ナカライテスク、関東化学等)の同等品でも代用可能である。
【0144】
(植物材料および育成条件)
以下の実施例において、植物はユリのオリエンタル・ハイブリッド系統の一品種である「ティアラ」を用いた。「ティアラ」は、株式会社山喜農園または株式会社中村農園等の国内の球根販売企業から入手した。球根を園芸用培土(調整ピートモス、BVB社)に植え付け、温室で栽培した。花の日持ちは、開花直後の花を植物体から切り取って蒸留水に生け、室内(気温20℃、PPFD 10μmol・m-2・s-1、12時間日長)に保持し、評価した。少なくとも半数の花被が褐変化した時点、または褐変化が認められる花被が少なくとも半数以上になった時点を日持ち終了とした。
【0145】
(実施例1:LhHFSの単離)
本発明者らは、ユリのゲノムについて、鋭意研究を行った結果、花の老化に関連し得る遺伝子を新規に見出した。この遺伝子を単離し、単離した部分配列を基に3’-RACEおよび5’-RACEを行い、ORF全長を含む塩基配列を決定した。RNAの抽出にはRNeasy plant mini kit(Qiagen)を用い、cDNAの合成にはPrimeScript RT Master Mix(Takara bio)を用いた。PCRにはPrimeSTAR HS DNA polymerase(Takara bio)を用いた。全長ORFを含むcDNAクローンは、全長クローニング用プライマーセット(LhHFS-Full-F9:5’-TTCCAACTTTCAACCTTCAACTC-3’(配列番号6)、LhHFS-Full-R1188:5’-TTGTCGACATAAATTGATCCAAG-3’(配列番号7))を用いたRT-PCRにより得た。得られたcDNAクローンをpGEM-T easy vector(Promega)にクローニングし、塩基配列を決定してLhHFSと命名した。
【0146】
(実施例2:LhHFS発現抑制形質転換体の作出)
LhHFSの発現を抑制した形質転換体はRNAi法を用いて作出した。291塩基対のLhHFS cDNA断片(574-864塩基)をpDONR201(Invitrogen)にクローニングし、その後、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT)を持つ植物形質転換用ベクターpH7GWIWG(II)(Karimi M, et al. 2002. GATEWAY vectors for Agrobacterium-mediated plant transformation. Trends Plant Sci 7: 193-195.)に、LR ClonaseII Enzyme mix(Invitrogen)を用いて挿入した。得られた形質転換ベクターpH7-HFSは、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流に、LhHFSのcDNA断片をアンチセンスおよびセンス方向に含み、その下流に35Sターミネーターを含む。pH7-HFSは、アグロバクテリウムEHA101系統を用いてユリ品種「ティアラ」の花糸由来の培養細胞に導入した。具体的には、ユリ品種「ティアラ」の花糸をカルス誘導培地(4g L-1ゲランガム、2mg L-1ピクロラムを添加し、MgSO4・7H2Oを除いたMS培地)で培養してカルスを誘導した。そのカルスを増殖と再分化を同時に誘導する不定芽再生培地(上記の組成からピクロラム添加濃度を0.1mg L-1とし、更に1mg L-1チジアズロンを添加した培地)へ継代して14日間培養した。形質転換ベクターpH7-HFSを有するアグロバクテリウムEHA101系統をカルスへ接種したあと、ハイグロマイシン15mg L-1を添加した不定芽再生培地で選抜した。再生した不定芽は3週間ごとに球根肥大培地(4g L-1ゲランガムを添加し、ホルモンを除いたMS培地)に移植して球根の形成を促し、約12か月間後に特定網室で園芸用培土に移植し馴化した。馴化した球根を育てて開花させた。LhHFS発現抑制系統(LNR18)は、2種類の系統(LNR18-2およびLNR18-15)が得られた。開花したユリの日持ち日数を上記方法で評価した。導入遺伝子の有無はHPT遺伝子のPCR増幅により確認した。
【0147】
(結果および考察)
野生型およびLhHFS発現抑制系統(LNR18)の日持ち日数を、表1に示す。表1において、野生型の日持ち日数は5日間であったのに対し、LhHFS発現抑制系統の2種類の株の日持ち日数は、8日間であった。野生型およびLhHFS発現抑制系統の開花から老化までの写真を、
図1に示す。
図1において、野生型では開花後5日目で3枚以上の花被の一部が褐変化したのに対し、LhHFS発現抑制系統では、開花後7日目でも花被の褐変化は認められず、8日目に3枚以上の花被の一部が褐変化した。この結果から、LhHFSの抑制は、野生型よりも花被の老化を遅延させ、花の日持ち(観賞期間)を1.5~2倍程度延長させることが示される。
【表1】
【0148】
(実施例3:定量的リアルタイムRT-PCRによる遺伝子発現の解析)
野生型およびLhHFS発現抑制系統の開花後4日目の花の内花被からRNeasy plant mini kit(Qiagen)を用いてRNAを抽出した。cDNAの合成にはPrimeScript RT Master Mix(Takara bio)を用い、PCRにはSYBR Premix EX TaqII(Takara bio)を用いた。PCRはThermal Cycler Real Time System(Model TP600、Takara bio)を用いて行った。PCRに使用したLhHFS増幅用プライマーはLhHFS-907Fq(5’-AAGCAGGGGATCAGACAGAG-3’(配列番号8))とLhHFS-1013Rq(5’-TTGTTGCCCACTCCGAGTAT-3’(配列番号9))である。発現量は内部コントロールであるLhEF1alphaを用いてノーマライズし、相対発現量として算出した。LhEF1alpha増幅用のプライマーはLhEF1a-QF2-729(5’-TGAGGTGTTCTTCTATTCATGTCC-3’(配列番号10))とLhEF1a-QR2-867 (5’-CCAAATAGAGCAGCAAAGCA-3’(配列番号11))である。
【0149】
(結果および考察)
野生型およびLhHFS発現抑制系統の、開花後4日目での花被におけるLhHFS遺伝子の相対発現量を、下記の表2および
図2に示す。全てのLhHFS発現抑制系統(LNR18-2、LNR18-15)は、野生型よりもLhHFSの遺伝子発現が大きく低減されたことが示される。この結果から、本実施例において作成されたLhHFS発現抑制系統は、野生型よりも2倍以上LhHFSの発現が抑制されたことが示された。
【表2】
【0150】
(実施例4:ゲノム編集によりLhHFSに変異が導入された形質転換体の作出)
CRISPR/Cas9を利用したゲノム編集法を用いて、LhHFSに変異を導入することによって、LhHFSの発現を抑制または欠損させた形質転換体を作出する。ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT)を有する植物形質転換用ベクターpIG121-Hm(Ohta et al., Plant Cell Physiol. 31: 805-813 (1990))に、ガイドRNAおよびCas9遺伝子を発現する遺伝子発現カセットを挿入する。得られた形質転換ベクターpIG-HFSは、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流に、Cas9遺伝子を含み、その下流にアクチンターミネーターを含む遺伝子発現カセット、および、イネU6プロモーターの下流に表3に記載のガイドRNA配列を含み、その下流にガイドRNAスキャホールド配列とポリT配列を含む遺伝子発現カセットを含む。pIG-HFSは、アグロバクテリウムEHA101系統を用いてユリ品種「ティアラ」の花糸由来の培養細胞に導入する。具体的には、ユリ品種「ティアラ」の花糸をカルス誘導培地(4g L-1ゲランガム、2mg L-1ピクロラムを添加し、MgSO4・7H2Oを除いたMS培地)で培養してカルスを誘導する。そのカルスを増殖と再分化を同時に誘導する不定芽再生培地(上記の組成からピクロラム添加濃度を0.1mg L-1とし、更に1mg L-1チジアズロンを添加した培地)へ継代して14日間培養する。形質転換ベクターpIG-HFSを有するアグロバクテリウムEHA101系統をカルスへ接種したあと、ハイグロマイシン15mg L-1を添加した不定芽再生培地で選抜する。再生した不定芽は3週間ごとに球根肥大培地(4g L-1ゲランガムを添加し、ホルモンを除いたMS培地)に移植して球根の形成を促し、約12か月間後に特定網室で園芸用培土に移植し馴化する。馴化した球根を育てて開花させる。導入遺伝子の有無は、不定芽から抽出したDNAを用いて、HPT遺伝子のPCR増幅により確認する。変異の導入の有無は、不定芽から抽出したDNAを用いて、標的配列を含む領域をPCRで増幅し、シーケンスして確認する。
【0151】
代替的に、ゲノム編集による変異の導入は、Cas9遺伝子およびガイドRNA発現カセットを植物ゲノムに組み込みことなく、ガイドRNAとCas9タンパク質からなる複合体をパーティクルボンバートメントにより植物細胞に直接打ち込むことでも達成できる。例えば、Zhen Liang, Kunling Chen, Yi Zhang, Jinxing Liu1, Kangquan Yin, Jin-Long Qiu & Caixia Gao. Genome editing of bread wheat using biolistic delivery of CRISPR/Cas9 in vitro transcripts or ribonucleoprotein. Nature protocol 13:413-430に記載されている手法が例示される。具体的には、ユリの茎頂分裂組織に、パーティクルボンバートメントを用いて、ガイドRNAとCas9タンパク質複合体を導入する。パーティクルボンバートメントによる導入処理後の茎頂分裂組織を当該分野で公知の方法によって培養して不定芽を再生させる。再生した不定芽からDNAを抽出し、標的配列を含む領域をシーケンスして変異の有無を確認する。変異の導入が確認された不定芽は3週間ごとに球根肥大培地(4g L-1ゲランガムを添加し、ホルモンを除いたMS培地)に移植して球根の形成を促し、約12か月間後に特定網室で園芸用培土に移植し馴化する。馴化した球根を育てて開花させる。
【0152】
(実施例5:ユリ別品種の花被におけるLhHFS発現の検証)
本実施例では、「ティアラ」以外のユリの品種を使用して、花被におけるLhHFSの発現を検証する。「ティアラ」のLhHFS遺伝子配列を基にLhHFS増幅用プライマーを設計し、対象ユリの花被から抽出したRNAを用いてRT-PCRを行うことにより対象ユリのLhHFSを単離する。塩基配列を決定後、リアルタイムPCRによりLhHFSの発現を解析する。具体的には、RNeasy plant mini kit(Qiagen)を用いて花被からRNAを抽出し、PrimeScript RT Master Mix(Takara bio)を用いてcDNAを合成する。PCRにはPrimeSTAR HS DNA polymerase(Takara bio)を用いる。得られたcDNAクローンをpGEM-T easy vector(Promega)にクローニングし、塩基配列を決定する。発現の解析には、開花後4日目の花の内花被からRNeasy plant mini kit(Qiagen)を用いてRNAを抽出し、PrimeScript RT Master Mix(Takara bio)を用いてcDNAを合成する。次いでSYBR Premix EX TaqII(Takara bio)を用いてPCRを行う。PCRにはThermal Cycler Real Time System(Model TP600、Takara bio)を用いる。LhHFSの発現量は内部コントロールであるLhEF1alphaを用いてノーマライズし、相対発現量として算出する。
【0153】
(実施例6:阻害剤のスクリーニング)
LhHFSタンパク質と相互作用するタンパク質を単離し、LhHFSタンパク質との相互作用を試験管内(96穴プレート)でモニタリングできる系を開発する。具体的には、蛍光タンパク質等のレポーターを用いて、化合物による相互作用の阻害の程度を測定する。実施に当たっては、がん研究における分子標的治療薬の探索手法を参考にできる。開発したモニタリング系を用いて、化合物ライブラリーを用いたケミカルスクリーニングを行い、LhHFSタンパク質の活性を阻害する薬剤を見出す。
【0154】
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本開示は、花き園芸分野で利用される可能性がある。花持ちが延長した花き(例えば、ユリ)は商品価値がある。チューリップ等の他のユリ科植物においても、LhHFSオルソログの発現抑制により、花の老化を遅延しうる。