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特開2024-174098加熱卵加工食品用添加剤、加熱卵加工食品、及び、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174098
(43)【公開日】2024-12-13
(54)【発明の名称】加熱卵加工食品用添加剤、加熱卵加工食品、及び、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 15/00 20160101AFI20241206BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20241206BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23D9/013
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024170022
(22)【出願日】2024-09-30
(62)【分割の表示】P 2020056944の分割
【原出願日】2020-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】富沢 直克
(72)【発明者】
【氏名】植西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 敏樹
(57)【要約】
【課題】、加熱卵加工食品用添加剤、該加熱卵加工食品用添加剤を含む加熱卵加工食品、及び、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法を提供すること。
【解決手段】レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を有効成分とする、加熱卵加工食品用添加剤、該加熱卵加工食品用添加剤を含有する加熱卵加工食品、及び、加熱卵加工食品を製造する際の、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を有効成分とする、加熱卵加工食品用添加剤。
【請求項2】
前記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種、又は2種以上である、請求項1に記載の加熱卵加工食品用添加剤。
【請求項3】
前記油脂組成物は、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を合わせて3~20質量%含有する、請求項1又は2に記載の加熱卵加工食品用添加剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の加熱卵加工食品用添加剤を含有する、加熱卵加工食品。
【請求項5】
加熱卵加工食品に、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を配合することによる、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を有効成分とする加熱卵加工食品用添加剤、該加熱卵加工食品用添加剤を含有する加熱卵加工食品、及び、加熱卵加工食品に、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を配合することによる、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
玉子焼き等、溶き卵を鉄板上で焼成し、卵の焼き上がりに合わせて、へら等でこれを反転したり折りたたんだりする作業は、鉄板に油を十分なじませておかないと卵が鉄板に付着して、焼成物が破けたり、焼成物の表面に凹凸ができて外観を損なう問題や、コゲ付いて鉄板の洗浄が手間になる問題があった。
また、食品工場等の大量生産の現場では、焼成機に離型油を塗布することが行われているが、加熱面に均一に塗布する等の作業が必要になることや、離型油が残存したまま、焼成作業を繰り返すと、劣化した離型油が焼成物の味を損なう問題があった。
【0003】
これまで、卵加工品の焼成器具への付着を防止する技術として、卵におからを添加して焼成する卵焼きの製造方法が報告されている(特許文献1)。また、卵黄含有原料を酸性化し、加熱する加工卵黄含有物の製造方法が報告されている(特許文献2)。しかし、より簡便に焼成器具への付着を低減することができ、従来の離型油を塗布しなくても、十分な効果が得られる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-220584号公報
【特許文献2】特開2006-180752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を鑑み、加熱卵加工食品用添加剤、該加熱卵加工食品用添加剤を含む加熱卵加工食品、及び、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、レシチンと特定の乳化剤とを含む油脂組成物を含有する添加剤を使用することで、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減できることを見出し、本発明を完成した。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1)レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を有効成分とする、加熱卵加工食品用添加剤。
(2)前記乳化剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種、又は2種以上である、(1)に記載の加熱卵加工食品用添加剤。
(3)前記油脂組成物は、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を合わせて3~20質量%含有する、(1)又は(2)に記載の加熱卵加工食品用添加剤。
(4)(1)~(3)のいずれか1つに記載の加熱卵加工食品用添加剤を含有する、加熱卵加工食品。
(5)加熱卵加工食品に、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を配合することによる、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を有効成分とする加熱卵加工食品用添加剤を使用することで、玉子焼き等の加熱卵加工食品を調理した時に、焼成機への付着が低減し、焼成機に離型油を塗布する作業や、焼成機の洗浄の手間を省くことができる。また、本発明の加熱卵加工食品用添加剤を使用した加熱卵加工食品は、膨らみが増し、食感が柔らかくなるという効果も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[加熱卵加工食品用添加剤]
本発明の加熱卵加工食品用添加剤は、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を有効成分とし、加熱卵加工食品に添加することで、該加熱卵加工食品の製造時に、焼成機に該加熱卵加工食品がこびりついたり、コゲついたりすることを低減する効果(以下、付着の低減効果ともいう。)を有する。本発明の加熱卵加工食品用添加剤は、加熱卵加工食品中に均一に溶解・分散されていれば、付着の低減効果が得られる。
【0010】
本発明の加熱卵加工食品用添加剤は、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%、最も好ましくは95~100質量%含有する。また、本発明の加熱卵加工食品用添加剤は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、抗酸化剤、ゲル化剤、色素、香料、水等の他の成分を含有することができる。また、本発明の加熱卵加工食品用添加剤は、本発明の効果を損なわない限り、液状、半固形状、又は固形状に加工された態様でもよいが、室温(1~30℃)で液状の態様が望ましい。
【0011】
[レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物]
本発明で用いるレシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物は、該油脂組成物中のレシチンとHLB3~8の乳化剤とを合わせた含有量が、好ましくは3~20質量%、より好ましくは5~15質量%、最も好ましくは7~12質量%である。レシチンとHLB3~8の乳化剤とを合わせた含有量が上記の範囲にあると、付着の低減効果を得やすい。また、前記油脂組成物中のレシチンの含有量は、好ましくは0.1~1.5質量%、より好ましくは0.2~1質量%、最も好ましくは0.3~0.6質量%である。レシチンの含有量が上記の範囲にある場合、HLB3~8の乳化剤の含有量は、上記のレシチンとHLB3~8の乳化剤とを合わせた含有量の範囲となるように、適宜調整すればよい。
前記油脂組成物中の油脂は、食用の油脂であれば特に限定されないが、例えば、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、米油、ゴマ油、綿実油、ひまわり油、紅花油、亜麻仁油、シソ油、オリーブ油、パーム油、及び、中鎖脂肪酸油等から選択される1種の油脂、又はこれらのうち2種以上を組み合わせた混合油脂が挙げられる。また、これらの油脂の分別油、硬化油、エステル交換油等を用いることもできる。前記油脂は、室温(1~30℃)で液状の油脂が好ましい。
前記油脂組成物中の油脂の含有量は、好ましくは80~97質量%、より好ましくは85~95質量%、最も好ましくは88~93質量%である。
【0012】
[レシチン]
本発明で用いるレシチンは、卵黄レシチンあるいは植物由来のレシチンを原料として、製造したものを用いることができる。好ましくは植物由来のレシチンを用いることであるが、植物由来のレシチンの原料としては、大豆、菜種、コーン、ヒマワリ、サフラワー、ゴマ、アマニなどの油糧種子を圧搾および/または抽出して得られる原油、該原油に水または水蒸気を吹き込んで沈澱物としで得られる油滓、分離した該油滓を乾燥して得られる粗レシチン、該粗レシチンから溶剤分別等の公知の方法で中性油脂分を除去した混合レシチン、さらには該混合レシチンから特定のリン脂質を濃縮・分画した濃縮あるいは高純度レシチン等が利用できる。
また、加熱着色、風味の点から、脱糖処理したものを用いることが好ましい。植物由来の原料から脱糖レシチンを得るには、例えば、油滓の場合は、水分を含む油滓を必要に応じて濾過し夾雑物を除き、乾燥して粗レシチンとする。この粗レシチンは、通常トリグリセリドを主成分とする中性油脂や、前記した各種リン脂質、各種糖質成分などを含んでいる。次に上記の粗レシチンを例えばアセトンで処理し、アセトン不溶分として油脂(中性油)等を含まない混合レシチンを得る。該混合レシチンを含水(約30%以上が好ましい)エタノールで分別し、含水エタノール可溶区分(リン脂質成分をほとんど含まない糖質成分)を除去することで脱糖レシチンを得る。なお糖質成分はガラクトース、シュクロース、スタキオース、ラフィノース、マンノース、アラビノースなどの各種糖質が遊離および/またはホスファチドやその他の脂質成分と結合した状態あるいはグリコシドやステロールグリコシドとして存在する成分の混合物である。なお、前記のようにして含水アルコールで分別した際の含水アルコール不溶分、即ち大部分の糖質成分を除いたレシチンから、さらに無水アルコールにより分別して糖質成分を除去することもできる。また原油から本発明の成分を得るには、シリカゲルなどの吸着剤を用いてカラム処理などによって糖質成分を吸着除去することもできるが、無水アルコールを用いた脱糖レシチンがより好ましい。
本発明で用いるレシチンは、レシチン製剤を使用することができる、レシチン製剤中のレシチンの含有量は、例えば、基準油脂分析試験法4.3.1-2013(アセトン不溶物)により求めることができる。
【0013】
[HLB3~8の乳化剤]
本発明で用いるHLB3~8の乳化剤は、多価アルコールの脂肪酸エステルである。前記多価アルコールの脂肪酸エステルは、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。上記乳化剤は、1種類で使用されてもよいし、2種類以上の組み合せで使用されてもよいが、2種類以上を組み合せて使用される場合は、平均HLBを3~8とする。ここで、平均HLBとは、乳化剤の個々のHLBに混合比率(質量)を乗じて算出される数値である。
前記乳化剤のHLBは、好ましくは3~6、より好ましくは3~5、最も好ましくは3.5~4.5である。HLBが上記の範囲にあると、付着の低減効果を得やすい。ここで、HLBとは、乳化剤中の親水基と親油基のバランスを表しており、公知の測定方法により求めた数値である。例えば、前記乳化剤のHLB値の算出はアトラス法の算出法を用いることができる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLB値を算出する方法を言う。
【0014】
本発明で用いるHLB3~8の乳化剤は、好ましくはポリグリセリン脂肪酸エステルである。前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、食用として市販されているものを使用できる。ここで、ポリグリセリンは、グリセリンが重合してできたものであり、様々な重合度を有する混合物として得られる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは分子蒸留等で高純度にしたものを用いることもできるが、一般的に、重合度4以上のものは、単離することが困難なため、様々な重合度のポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物であることを許容する。本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルの平均重合度は、2以上が好ましく、2~30がより好ましく、2~10がさらに好ましい。
また、本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸であることが好ましく、不飽和脂肪酸がオレイン酸であることがより好ましい。上記ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例として、デカグリセリンオレイン酸エステル、ジグリセリンオレイン酸エステル等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いるHLB3~8の乳化剤は、好ましくはプロピレングリコール脂肪酸エステルを使用することができる。前記プロピレングリコール脂肪酸エステルは、食用として市販されているものを使用できる。プロピレングリコール脂肪酸エステルは、脂肪酸とプロピレングリコールとのモノエステル又はジエステルである。本発明で用いるプロピレングリコール脂肪酸エステルは、構成脂肪酸が炭素数12~24の脂肪酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。上記プロピレングリコール脂肪酸エステルの好ましい例として、プロピレングリコールステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0016】
本発明で用いるHLB3~8の乳化剤は、好ましくはグリセリン脂肪酸エステルを使用することができる。前記グリセリン脂肪酸エステルは、食用として市販されているものを使用できる。グリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸とグリセリンとのモノエステルである。本発明で用いるグリセリン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸が炭素数12~24の脂肪酸が好ましく、パルミチン酸、及び/又はステアリン酸がより好ましい。上記グリセリン脂肪酸エステルの好ましい例として、グリセリンパルミチン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0017】
本発明で用いるHLB3~8の乳化剤は、好ましくはソルビタン脂肪酸エステルを使用することができる。前記ソルビタン脂肪酸エステルは、食用として市販されているものを使用できる。ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビットの分子内脱水によりつくられるソルビタンと脂肪酸とのモノエステル、ジエステル、又はトリエステルである。本発明で用いるソルビタン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸が炭素数12~24の脂肪酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。上記ソルビタン脂肪酸エステルの好ましい例として、ソルビタンステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0018】
本発明で用いるHLB3~8の乳化剤は、前記のポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる、1種又は2種以上の混合物を使用することもできるが、ポリグリセリン脂肪酸エステルのみ、又は、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステルの混合物が好ましい。
【0019】
[加熱卵加工食品]
本発明の加熱卵加工食品は、全原料中に卵黄及び/又は全液卵を50質量%以上と、本発明の加熱卵加工食品用添加剤とを含有し、焼成機等で加熱調理して、卵を凝固させた態様であれば特に限定されないが、具体的には、卵焼き、厚焼き卵、薄焼き卵、だし巻き卵、錦糸卵、オムレツ、スクランブルエッグ、キッシュ等や、それらに類する食品が挙げられる。
本発明の加熱卵加工食品は、本発明の効果が阻害されない範囲で他の原料を含有してもよい。例えば、前記の加熱卵加工食品として例示された食品に通常配合される原料や、本発明の加熱卵加工食品用添加剤に含有する油脂以外の油脂等を含有することができる。
【0020】
本発明の加熱卵加工食品中の、本発明の加熱卵加工食品用添加剤の含有量は、加熱前の原料全体に対して、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%、最も好ましくは5~10質量%である。加熱卵加工食品用添加剤の含有量が上記の範囲にあると、本発明の加熱卵加工食品の製造時に、加熱卵加工食品が焼成機に付着することを低減する効果が得られやすい。また、加熱卵加工食品用添加剤の含有量が上記の範囲にあると、本発明の加熱卵加工食品は、膨らみが増す、食感が柔らかくなる等の効果も期待できる。
また、本発明の加熱卵加工食品を製造する方法としては、本発明の効果が阻害されない範囲であれば特に制限されず、上記の加熱卵加工食品として例示された食品について、通常実施される製造方法を用いることができる。
【0021】
[付着の低減方法]
本発明の付着の低減方法は、加熱卵加工食品に、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を配合することで、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法である。ここで、本発明において付着の低減とは、レシチン、及び、HLB3~8の乳化剤を含む油脂組成物を配合しない加熱卵加工食品を製造した場合と比べて、焼成機に残存する付着物が、目視で確認するときに明らかに少ないか、全く無い状態を指す。また、本発明に用いる焼成機は、加熱調理で通常使用される機器であれば特に限定されないが、例えば、フライパン、ホットプレート、オーブン、鉄板、玉子焼成機等が挙げられる。
なお、前記加熱卵加工食品の好ましい態様は、本発明の加熱卵加工食品に記載の内容と同様である。
【実施例0022】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0023】
〔加熱卵加工食品用添加剤の調製〕
表1及び2に示すように、キャノーラ油(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ(株)製)に、レシチンと各種の乳化剤を溶解・均一化し、本発明の加熱卵加工食品用添加剤(添加剤-1、及び添加剤-2)を調製した。なお、表1及び2中のレシチンと乳化剤は、以下を使用した。
・デカグリセリンオレイン酸エステル:商品名「リョートーポリグリエステル O-50D」、三菱ケミカルフーズ(株)製、HLB7
・脱糖レシチン製剤:日清オイリオグループ(株)製造品、脱糖レシチン含量(アセトン不溶物として)40質量%
・ジグリセリンモノオレイン酸エステル:商品名「ポエム DO-100V」、理研ビタミン(株)製、HLB7.4
・プロピレングリコールステアリン酸エステル:商品名「リケマール PS-100」、理研ビタミン(株)製、HLB3.7
・グリセリンモノ脂肪酸エステル:商品名「エマルジー P-100」、理研ビタミン(株)製、構成脂肪酸含量(質量%):パルミチン酸 44,ステアリン酸 53,その他の脂肪酸 3、HLB4.3
・ソルビタンモノステアリン酸エステル:商品名「エマゾール S-10V」、花王(株)製、HLB値4.7
・レシチン製剤:日清オイリオグループ(株)製造品、レシチン含量(アセトン不溶物として)60質量%
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
〔厚焼き玉子の製造〕
以下の手順に従って、各種の厚焼き玉子(実施例1、実施例2、比較例1、対照例)を製造した。
[実施例1]全卵(割卵)を泡立たないように撹拌し、本発明の「添加剤-1」を10質量%含量となるように加え、均一に混合して180gの全卵液を調製した。鉄製の厚焼き玉子用フライパン(四角内寸13×15cm)を150℃に熱し、油はひかず、前記全卵液100gを投入してフライパン全体に拡げ、撹拌しながら8割固まったところで、フライパンの奥側から手前に向けて3つ折りにたたみ、形を整えて奥側に移動した。次に、折りたたんだ玉子焼きの手前底側を持ち上げ、玉子焼き底部に前記全卵液40gを流し込みフライパン全体に拡げ、撹拌しながら8割固まったところで、上記と同様に3つ折りにたたみ、形を整えて奥側に移動した。残りの全卵液40gについて、同様の作業を繰り返し、厚焼き玉子を製造した。
[実施例2]上記と同様に、本発明の「添加剤-2」を5質量%含量となるように加えて全卵液を調製し、焼成して厚焼き玉子を製造した。
[比較例1]上記添加剤をキャノーラ油(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ(株)製)に換えて、10質量%含量となるように加えた以外は、上記と同様の方法で厚焼き玉子を製造した。
[対照例1]全卵以外は何も含有しない全卵液を調製し、上記と同様の方法で厚焼き玉子を製造した。
【0027】
〔付着低減の評価〕
厚焼き玉子の付着低減の評価は、上記の厚焼き玉子の製造後に、フライパンに残存(付着)した玉子生地の面積を求めて行った。具体的には、下記の手順で行った。
1.フライパンの表面をオーバーヘッド・スキャナーでスキャンし、スキャンした画像について、フライパン全体の面積(Q)と、玉子生地の残存部分の面積(P)を、画像解析ソフト(Image J)を用いて算出した。
2.それぞれの厚焼き玉子について、4検体ずつ“Q”及び“P”の面積を測定し、平均値(Q′及びP′)を求めた。
3.以下の計算式で付着率(%)を算出した。結果を表3に示す。
付着率(%)= P′/Q′×100
【0028】
【表3】

【0029】
上記の結果から、本発明の加熱卵加工食品用添加剤を含有する厚焼き玉子は、製造後のフライパン表面に、玉子生地の付着が全く認められず(付着率0%)、非常に優れた付着低減効果を有していた。
【0030】
〔膨らみ、及び柔らかさの評価〕
厚焼き玉子の膨らみ、及び柔らかさの評価は、上記の「厚焼き玉子の製造」の記載に従い、鉄製の厚焼き玉子用フライパン(四角内寸13×15cm)を、ポリテトラフルオロエチレン加工の玉子用フライパン(四角内寸12.5×15cm)に換えた以外は、同様の製造方法で製造した各種の厚焼き玉子について行った。すわなち、実施例3は添加剤-1、実施例4は添加剤-2、比較例2はキャノーラ油を配合した。
【0031】
〔膨らみの評価〕
厚焼き玉子の膨らみの評価は、厚焼き玉子の比容積(V/W)を求めて行った。具体的には、下記の手順で行った。
1.製造した厚焼き玉子の重量(W)を測定し、また、体積(V)をレーザー体積計測機(装置名:Selnac-WinVM2000、(株)アステック製)を用いて測定した。
2.それぞれの厚焼き玉子について、4検体ずつ、重量(W)と体積(V)を測定し、平均値(W′及びV′)を求めた。
3.以下の計算式で比容積を算出した。結果を表4に示す。
比容積 =V′/W′
【0032】
【表4】

【0033】
上記の結果から、本発明の加熱卵加工食品用添加剤を含有する厚焼き玉子は、対照例と比べて比容積が明らかに増加しており、膨らみの効果を有するものであった。
【0034】
〔柔らかさの評価〕
厚焼き玉子の柔らかさの評価は、厚焼き玉子をカットしたときの応力を求めて行った。具体的には、下記の手順で行った。
1.製造した厚焼き玉子を、テクスチャーアナライザー(装置名:テクスチャーアナライザーTA.XT Plus、Stable Micro Systems製)を用い、厚焼き玉子の長側面の中央部分に、上面から板状のプローブを、2mm/sec、歪み98%の条件で圧縮することにより応力最大値(G)を測定した。
2.それぞれの厚焼き玉子について、4検体ずつ応力最大値(G)を測定し、平均値(G′)を求めた。結果を表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
上記の結果から、本発明の加熱卵加工食品用添加剤を含有する厚焼き玉子(実施例3及び4)は、対照例と比べて応力最大値が顕著に減少していた。ここで、応力最大値が低くなるほど、厚焼き玉子をカットする際の力が少なく済む(すわなち、より柔らかい)と考えられるので、本発明の加熱卵加工食品用添加剤を含有する厚焼き玉子は、柔らかさの効果を有するものであった。
また、各種の厚焼き玉子を食したところ、実施例3及び実施例4の厚焼き玉子は、対照例のものと比べて、明らかに柔らかい食感であった。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチン、並びに、HLB3~8の乳化剤として、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステル合わせて3~20質量%含む油脂組成物を有効成分とする、加熱卵加工食品用添加剤(ただし、前記加熱卵加工食品用添加剤は、酵素処理レシチンを含むものを除く)
【請求項2】
請求項に記載の加熱卵加工食品用添加剤を含有する、加熱卵加工食品。
【請求項3】
加熱卵加工食品に、レシチン、並びに、HLB3~8の乳化剤として、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、及びソルビタン脂肪酸エステル合わせて3~20質量%含む油脂組成物を配合することによる、加熱卵加工食品の焼成機への付着を低減する方法(ただし、前記油脂組成物は、酵素処理レシチンを含むものを除く)