(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174300
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】乾燥用保護剤、生体試料測定試薬、及び分析方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/96 20060101AFI20241210BHJP
C12Q 1/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
C12N9/96
C12Q1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092050
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】梶原 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】三宅 由花
(72)【発明者】
【氏名】工藤 和樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 伸
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QR01
4B063QR43
4B063QR44
4B063QR67
4B063QS01
4B063QS22
(57)【要約】
【課題】賦形剤が変形して難溶化し、その中に含まれる生体試料中の特定の成分と反応する反応成分の溶解の長時間化を抑制することができる、乾燥用保護剤を提供することを目的とする。
【解決手段】生体試料中の特定の成分と反応する反応成分の活性の低下を抑制する安定成分と、反応成分の乾燥時の変形を抑制する賦形剤と、を備える乾燥用保護剤。また、前記安定成分の具体例としては、2~4個の単糖を含んで構成された糖類、糖アルコール類、並びに、アミノ酸及びカルボン酸を含む塩からなる群より選択される少なくとも一種を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の特定成分と反応する反応成分の活性の低下を抑制する安定成分と、
前記反応成分の乾燥時の変形を抑制する賦形剤と、
を備える乾燥用保護剤。
【請求項2】
前記安定成分が、2~4個の単糖を含んで構成された糖類、
糖アルコール類、
並びに、アミノ酸及びカルボン酸を含む塩からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の乾燥用保護剤。
【請求項3】
前記賦形剤が、少なくとも6個以上の単糖を含んで構成され、該単糖の個数をnとするとき、
3×n個以上の水酸基を含む多糖類、アミノ酸骨格を有するポリマー、及び非イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の乾燥用保護剤。
【請求項4】
前記多糖類が環状多糖類である、請求項3に記載の乾燥用保護剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の乾燥用保護剤に加えて、前記反応成分をさらに含む、生体試料測定試薬。
【請求項6】
乾燥用保護剤を含む生体試料測定試薬を37℃より高い温度範囲で保存した後、
保存された前記生体試料測定試薬を用いて生体試料を分析する分析方法であって、
前記乾燥用保護剤が、生体試料中の特定の成分と反応する反応成分の活性の低下を抑制する安定成分と、前記反応成分の乾燥時の変形を抑制する賦形剤と、
を備える乾燥用保護剤であることを特徴とする、分析方法。
【請求項7】
前記賦形剤が、少なくとも6個以上の単糖を含んで構成され、該単糖の個数をnとするとき、
3×n個以上の水酸基を含む多糖類、及びアミノ酸骨格を有するポリマー、
からなる群より選択される少なくとも一種を含む、生体試料測定試薬であることを特徴とする、請求項6に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥用保護剤、該乾燥用保護剤を含む生体試料測定試薬、及び該生体試料測定試薬を用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査、生化学分野における研究等において、生体試料中の成分を、酵素を利用した光学的検出、電気化学的検出により定性、定量することが一般的に行われる。また、生体試料中のDNAを複製、増幅する際にも酵素反応が一般的に利用されている。
【0003】
例えば、下記式(1)に示すように、血中のブドウ糖(グルコース)を測定するためには、基質である酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の存在下で、グルコースの脱水素酵素であるグルコースデヒドロキシキナーゼ(GDH)および作用させる。すると、存在するグルコースの量と等モルの還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)が生成するので、その特異的な吸収波長である、約340nmの吸光度を測定することにより、間接的にブドウ糖の量(濃度)を定量することができる。
【0004】
【0005】
酵素は、タンパクの一種であるため、一般的には高温中で分解劣化が進行し、長期保存は難しいとされる。特に、水溶液中では、水酸イオン、水素イオン等による反応が進行し、タンパク内のアミノ酸結合の切断により、分解劣化が進行する。また、タンパクの高次構造が変化することによって分解劣化が進行する。酵素の場合には、これらにより反応活性が劣化する。このため、その水溶液は、冷蔵あるいは冷凍にて保存が必要とされる。
【0006】
酵素の反応活性を利用する場合には、上記のような酵素の反応活性の劣化は、それを用いた試薬等の性能劣化の原因となるため避けるべきものである。上記のように、酵素の反応活性を利用し、ブドウ糖の濃度を定量する場合には、誤差を引き起こすため避けなければならない。酵素の反応活性の劣化を防ぐために、タンパクの水溶液を乾燥させ、固体状態にて保管するのが有効である。乾燥工程には、自然乾燥、温風乾燥、凍結乾燥などが用いられる。しかし、乾燥状態であっても、劣化は進行することが多い。そのため乾燥状態であっても、冷蔵、冷凍保存が必要とされることが多い。また、乾燥状態での冷蔵、冷凍保存であっても分解劣化は徐々に進行する。
【0007】
そこで、酵素等のタンパクを乾燥させる際に、乾燥用保護剤を共存させ、その保存時の安定性を更に向上させることが行われてきた。このような技術は広く検討されており、例えば、以下のような乾燥用保護剤が用いられてきた。
【0008】
(1)糖類の使用
糖類を使用した乾燥用保護剤が知られている(例えば、特許文献1~3参照。)。特許文献1には、乾燥させた生物物質(酵素など)の安定性を向上させる方法が記載されている。該生物物質、保存時の安定性を向上させるための乾燥用保護剤として炭化水素化合物、および、メイラード反応のインヒビターの水溶液を、凍結乾燥等により乾燥させることにより、該生物物質の保存安定性が控除することが記載されている。
【0009】
乾燥用保護剤として用いられる炭化水素化合物として、マルチトール(4-O-β-D-グルコピラノシル-D-グルシトール)、ラクチトール(4-O-β-D-ガラクトピラノシル-D-グルシトール)、イソ-マルツロース、パラチニット(palatinit)及びその構成異性体(GPS、α-D-グルコピラノシル-1→6-ソルビトール及びGPM、α-D-グルコピラノシル-1→6-マンニトール)、イソマルツロース由来の糖アルコール(パラチノース(palatinose))(6-α-D-グルコピラノシル-マンニトール、および6-α-D-グルコピラノシル-ソルビトール)、ショ糖及びその対応する糖アルコールが例示されている。
【0010】
特許文献1では、トレハロースを乾燥用保護剤として用いることにより、制限酵素PstIを、55℃で70日間、また、70℃で35日間保存後にも、活性が保たれたと記載されている。一方で、単糖類、デキストランは乾燥用保護剤としては効果が無かったことが記載されている。
【0011】
特許文献2では、酵素であるホスファターゼを乾燥状態にて安定に保存するために、乾燥用保護剤として、寒天、アルギン、カラギナン、ファーセレラン、ガティガム、トラガカントガム、カラヤガム、グアラン、ローカストビーンガム(= カロブビーンガム)、タマリンドシードガム、アラビノガラクタン、キサンタン(ガム)等の、いわゆる多糖類を使用することが記載されている。
【0012】
特許文献3では、p-ヒドロキシ安息香酸水酸化酵素の乾燥状態での安定化のために、環状の糖であるα-シクロデキストリン、特定の糖類、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸・3ナトリウムなどのカルボン酸、牛血清アルブミンなどを乾燥用保護剤として用いることが記載されている。
【0013】
(2)アミノ酸、アミノ酸誘導体及びその塩の使用
また、アミノ酸、アミノ酸誘導体及びその塩の使用した乾燥用保護剤が知られている(例えば、非特許文献1、特許文献4及び5参照。)。非特許文献1には、塩基性アミノ酸とカルボン酸化合物の塩(アルギニンとクエン酸の塩など)を乾燥用保護剤として用い、乳酸脱水素酵素の凍結乾燥時の活性低下を抑制することが記載されている。
【0014】
特許文献4には、臨床検査用試薬にて用いられる約30種の酵素を対象として、ポリ-γ-L―グルタミン酸を該酵素の水溶液中に共存させることにより、35℃7日の期間内では、酵素活性を95%以上維持させることができたとの記載がある。乾燥状態での保存については実験データが無いものの、乾燥状態にも適用できるとの記載がある。
【0015】
特許文献5では、凍結乾燥により酵素等を乾燥し保存するための乾燥用保護剤として、アルギニンのアミノ基がアシル化された化合物が記載されている。
【0016】
(3)イオン液体の使用
また、イオン液体を使用した乾燥用保護剤が知られている(例えば、特許文献6参照。)。特許文献6においては、4級アンモニウム塩とカルボン酸からなるイオン液体が酵素の保存安定性の向上に寄与することが記載されている。具体的な化合物として、トリエタノールアミンとクエン酸から成るイオン液体、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとクエン酸から成るイオン液体等が記載されている。ウレアーゼ、カタラーゼ等の酵素を、該イオン液体に溶解させ、25℃あるいは40℃で保管し最長90日まで保存した後に、その活性を評価している。
【0017】
(4)タンパクの安定化の機構について
非特許文献2には、乾燥用保護剤として糖を用いた時の、酵素等のタンパク質が安定化される機構について述べられている。すなわち、糖を共存させたタンパク質水溶液を乾燥させていくと、タンパク質の分子は糖分子に囲まれる。この時、タンパク質と糖分子間に水素結合が生成する。水分子と糖の水酸基が置き換わるので、タンパク質の立体構造は水溶液中とほぼ同じとなる。さらに乾燥が進むと、糖は固体として、タンパク質を取り囲む。また、タンパク質との水素結合により、タンパク質の分子運動を阻害する。液体から固体状態になる際にタンパクの構造を壊さないためには、糖は結晶化してはならず、アモルファス固体となる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表平10-505591号公報
【特許文献2】特表2007-519409号公報
【特許文献3】特開2008-206491号公報
【特許文献4】特開2015-8707号公報
【特許文献5】国際公開第2008/68885号
【特許文献6】特開2018-29590号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Chemical & Pharmaceutical Bulletin 2009年、57巻、43-48ページ
【非特許文献2】日本食品工学会誌、2020年、21巻、95~111頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、乾燥用保護剤は冷蔵あるいは冷凍にて保存されるため、凍結後の保存安定性を高めることが課題となっている。なかでも、今般の地球規模の温暖化に伴い、比較的高温の環境下における保存安定性を高めることが要求されている。
【0021】
しかしながら、例えば、上述した特許文献6に示されるように、これまでの一般的な乾燥用保護剤は、グリセリン、アルブミン水溶液等に比して一定の安定効果はあるものの、40℃で保管した場合には90日間保存後に、初期の90%以上の活性を維持できるものは無かった。
【0022】
本発明者らの検討によると、上記のような乾燥用保護剤を用いて、生体試料中の特定の成分と反応する反応成分、すなわち酵素等を、高温で保存した場合には、乾燥用保護剤が徐々に変形し、該酵素等を含む難溶性の固体を生成することが分かった。このような難溶性の固体が生成した場合には、該酵素等を利用するために水等に溶解するために長時間を要する。例えば、該酵素等を用いて生体試料中の特定成分の定量を行おうとした場合には、該酵素等が難溶性の固体から徐放されるために、溶解した酵素の濃度が経時的に変化する。そのため、意図した速度で反応が進行せず、定量値に誤差を生じるという不具合が起きる。このような不具合は、酵素等を含む定量用試薬、特に臨床検査の用途においては重大な欠陥となり得る。
【0023】
特に、このような不具合は、37℃を超える温度で長時間保存した場合に発生することが分かった。そのため、上記の、保管時の乾燥用保護剤の難溶性固体の生成を抑制することが望まれていた。
【0024】
したがって、本発明は、37℃を超える温度で、長時間保存が可能な乾燥用保護剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
そこで、本発明者はこの課題を解決すべく鋭意検討を行い、以下の手段によって解決できることを見出した。
【0026】
すなわち本発明は、
(1)生体試料中の特定成分と反応する反応成分の活性の低下を抑制する安定成分と、前記反応成分の乾燥時の変形を抑制する賦形剤と、を備える乾燥用保護剤であり、
また別の発明は、
(2)前記安定成分が、2~4個の単糖を含んで構成された糖類、並びに、アミノ酸及びカルボン酸を含む塩からなる群より選択される少なくとも一種を含む、(1)に記載の乾燥用保護剤であり、
(3)前記賦形剤が、少なくとも6個以上の単糖を含んで構成され、該単糖の個数をnとするとき、3×n個以上の水酸基を含む多糖類、及びアミノ酸骨格を有するポリマーからなる群より選択される少なくとも一種を含む、(1)又は(2)に記載の乾燥用保護剤であり、
(4)前記多糖類が環状多糖類である、(3)に記載の乾燥用保護剤である。
【0027】
また、別の発明は、
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の乾燥用保護剤に加えて、前記反応成分をさらに含む、生体試料測定試薬である。
【0028】
また、別の発明は、
(6)乾燥用保護剤を含む生体試料測定試薬を37℃より高い温度範囲で保存した後、保存された前記生体試料測定試薬を用いて生体試料を分析する分析方法であって、前記乾燥用保護剤が、生体試料中の特定の成分と反応する反応成分の活性の低下を抑制する安定成分と、前記反応成分の乾燥時の変形を抑制する賦形剤と、を備える乾燥用保護剤であることを特徴とする、分析方法であり、
【0029】
また、別の発明は、
(7)前記賦形剤が、少なくとも6個以上の単糖を含んで構成され、該単糖の個数をnとするとき、3×n個以上の水酸基を含む多糖類、及びアミノ酸骨格を有するポリマーからなる群より選択される少なくとも一種を含む、生体試料測定試薬であることを特徴とする、(6)に記載の分析方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、生体試料中の特定の成分と反応する反応成分の活性の低下を抑制する安定成分と前記反応成分の乾燥時の変形を抑制する賦形剤とを含む。したがって、本発明によれば、37℃よりも高い温度範囲での保管後であっても酵素活性は維持され、さらに賦形剤は保存中に該安定成分の変形を抑制することができる。すなわち、本発明によれば、該賦形剤が変形して難溶化し、その中に含まれる生体試料中の特定の成分と反応する反応成分の溶解の長時間化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の詳細について順に説明する。
[乾燥用保護剤]
本発明の一実施形態に係る乾燥用保護剤は、大きく分けて2つの構成成分を含んで構成される。すなわち、その一つは、生体試料中の特定の成分と反応する反応成分の活性の低下を抑制する安定成分(本発明では、安定成分とも記載)である。さらにもう一つは、該反応成分の乾燥時の変形を抑制する賦形剤(本発明では、賦形剤とも記載)である。
【0032】
本発明において生体試料とは、動物、植物、魚類、水生生物、菌類など、生物の組成物、分泌物、該生物内に存在するウィルスなどの有機体、付着する有機体・無機体などを言う。さらに具体的には生物の体液、血液、体内、体表面の組織物などを指す。本発明において生体試料中の特定の成分は、例を挙げれば体液中のナトリウムなどの無機イオン、体液中の特定のたんぱく質、血液中の酵素、血液中の各種有機化合物、血液中の無機化合物、細胞、表皮、骨などを言う。
【0033】
また本発明において、生体試料中の特定の成分と反応する反応成分(本発明では、反応成分とも記載)とは、上記生体試料中の特定の成分を選択的に反応基質とし、何らかの化学反応を進行せしめる成分のことである。複数の成分が混在する中であっても、特定の成分を選択的に反応せしめる性質を有する。具体的には、酵素、触媒、抗体などを挙げることができる。
【0034】
本発明に係る乾燥用保護剤は、生化学、分子生物学の分野で、好適に適用することができる。生体試料中の特定成分は、本発明の反応成分により異なり、様々なものが用いられる。生体試料の具体的な例を更に挙げれば、ヒトや動物、魚類の血液、該血液より赤血球等を除き得られる血漿、血清には種々の無機イオン、低分子有機物、酵素や抗体等のタンパクが含まれており、これらの定性、定量を行うことにより疾病の診断に有用であるため、臨床検査の分野において一般的に用いられている。また、ヒトや動物の唾液に含まれる細菌、ウィルスも該生体試料の例として挙げることができ、同様に疾病の診断に有用である。特定成分は該定性、該定量の対象となる成分であり、種々の無機イオン、低分子有機物、タンパク等が、これに相当する。例えば該反応成分が酵素の一種であるグルコースオキシダーゼである場合には、該酵素はグルコースを特異的に反応基質とし、その酸化反応を進行せしめるので、該特定成分はグルコースである。また、別の例として、臨床検査において測定意義が認められている酵素の一種である、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼを該反応成分とする場合には、該酵素がアスパラギン酸の酸化反応を特異的に進行せしめることから、該特性の成分はアスパラギン酸である。
【0035】
また、本発明の反応成分として、臨床検査用試薬にて一般に使用されている例を挙げれば表1のとおりである。
【0036】
【0037】
本発明において、前記安定成分を詳細に説明すれば以下のとおりである。
【0038】
ここでは、本発明の反応成分として酵素を例にとって説明する。酵素はタンパクであり、その高次構造の維持が活性維持に重要である。高次構造は、水中での疎水性による穏やかな構成アミノ酸の凝集構造、構成アミノ酸同士の水素結合などにより維持されている。酵素を乾燥状態にて保存した場合には、乾燥する際に酵素の周囲の水が奪われるため、これらの構造を維持する要因が奪われ、構造の組み換え(変性)が起き、結果として該活性が低下する。
【0039】
前記の乾燥時に、水の持つ、水素結合、親水性環境提供のといった機能を代替する不揮発性の化合物が、タンパクの周囲あるいは内部に存在すれば、上記のような構造の組み換えは起き難くなり、該活性の低下も抑制することができる。
【0040】
前記安定成分としては、生体試料中の特定成分と反応する、反応成分の活性の低下を抑制する成分であればよい。該安定成分として具体的には、2~4個の単糖を含んで構成された糖類、糖アルコール、アミノ酸、アミノ酸、及びカルボン酸を含む塩から成る群より選択される一つもしくは複数の化合物を用いることができる。好適に用いることができる化合物を例示すれば、以下のとおりである。
【0041】
2~4個の単糖を含んで構成された糖類として、トレハロース、スクロース(ショ糖)、ラクツロース、ラクトース、マルトース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチオビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ネオラクトース、ガラクトスクロース、シラビオース、ネオヘスペリドース、ルチノース、ルチヌロース、ビシアノース、 キシロビオース、プリメベロースなどの2糖類が、また、ニゲロトリオース、マルトトリオース、メレジトース、マルトトリウロース、ラフィノース、ケストースなどの3糖類が、また、ニストース、ニゲロテトラオース、スタキオース糖の4糖類を挙げることができる。これらの中で、安定化の効果、入手の容易性などの点から好適に用いることができるのは、トレハロース、スクロース、ラクトース、マルトース、パラチノース、マルトトリオース、ラフィノースである。その安定化効果の点から、更に好適に用いることができるのはトレハロース、スクロース、マルトースである。
【0042】
好適に使用できる糖アルコールとしては、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトールマルチトールなどを挙げることができる
【0043】
本発明の安定成分として使用されるアミノ酸に特に制限は無いが、その中で好適に使用できるアミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リシン等の塩基性アミノ酸を挙げることができる。
【0044】
また、アミノ酸の無機塩も好適に使用できる。例を挙げれば、アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、などの酸性アミノ酸の無機塩がある。
【0045】
本発明のアミノ酸とカルボン酸の塩としては特に制限なく用いることはできるが、好適な組み合わせとしては、揮発によるカルボン酸の逸脱を防ぎ、安定成分の効果を長く持続できることから、本発明の塩基性アミノ酸と不揮発性のカルボン酸の塩を挙げることができる。さらに具体的に説明すれば、以下のとおりである。
【0046】
塩基性アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リシン等を挙げることができる。
【0047】
カルボン酸としては、カルボキシル基を分子内に1個有する酢酸、乳酸、酪酸、オクタン酸などを、またカルボキシル基を分子内に2個有するシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸などのジカルボン酸類を、また、クエン酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸などのトリカルボン酸類を挙げることができる。これらのうち、ジカルボン酸類、トリカルボン酸類を用いると、アミノ酸との塩を形成した際に、カルボン酸の揮発による塩の分解を防ぐことができるので、より好適に用いることができる。好適に用いられるカルボン酸を挙げれば、その安定成分としての効果と入手の容易さ等を勘案し、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸が好適である。
【0048】
本発明において、本発明の反応成分の乾燥時の変形を抑制する賦形剤(以下、本発明の賦形剤と呼ぶ)は、本発明の乾燥用保護剤を含む組成物が、長期間の保存により、その含有される本発明の安定成分が変形することを抑制するために用いられる。
【0049】
本発明の乾燥用保護剤は、酵素等のタンパクを含み乾燥状態で保存される、定性用乾燥試薬、定量用乾燥試薬への応用が想定される。このような試薬においては、その操作性、反応時間の制御のために、使用時に容易に水等に溶解され得ることが必要とされる。本発明の賦形剤を用いず、本発明の安定成分のみにて酵素等のタンパクを含有させて乾燥させた組成物の場合には、長時間の保管の間に、本発明の安定成分が徐々に変形し、難溶性の固形物を形成してしまうことがある。そのために、瞬時に水に溶解して酵素が水溶し、酵素反応を開始させる必要があるにもかかわらず、酵素反応の一部が固体化した安定成分に残存したままで酵素反応が始まるという事態を引き起こす。すなわち、必要とされる濃度、量の酵素が水中に存在しないまま反応が進行し、正常な定性、定量ができないという結果をもたらし好ましくない。
【0050】
本発明の賦形剤を、本発明の安定成分と共に乾燥させることにより、本発明の安定成分の変形を防ぎ、上記のような不具合を抑制することができる。本発明の賦形剤は、本発明の安定成分と混合されることにより、該安定成分が物理的に変形することを抑制し、及び、非晶質部分が結晶状態に移行することを抑制すると考えられる。それにより、乾燥時に形成された多孔質構造が維持され、溶解性の維持という効果をもたらすと考えられている。
【0051】
本発明の賦形剤は、目的とする反応を妨害せず、本発明の安定成分と混合した時に高温時においても変形の少ない物質が好適に用いられる。すなわち、本発明の賦形剤として用いられる物質は以下のとおりである。すなわち、多糖類、環状の糖類、界面活性剤、界面活性能を有する合成ポリマーなどである。
【0052】
本発明の賦形剤は、少なくとも6個以上の単糖を含んで構成され、該単糖の個数をn(nは、整数)とするとき、3×n個以上の水酸基を含む多糖類(本発明の多糖類と呼ぶ)、及びアミノ酸骨格を有するポリマーからなる群より選択される少なくとも一種を含む。
【0053】
本発明の多糖類は、一定数の水酸基を含めば、何を用いてもよい。水への溶解度を高めることができるためである。この多糖類としては、例えば、セルロース、キチン、デンプン、グリコーゲン、アガロース、カラギーナン、デキストラン、デキストリン(k、3×k)等の直線状の多糖類が、また、α―シクロデキストリン及びそのメチル化体またはヒドロキシプロピル化体等の誘導体、β-シクロデキストリン及びそのメチル化体またはヒドロキシプロピル化体の誘導体、γ-シクロデキストリン及びそのメチル化体またはヒドロキシプロピル化体等の誘導体などの、環状の多糖類であるシクロデキストリン類が挙げられる。
【0054】
この中でも、多糖類としては、少なくとも6個以上の単糖を含んで構成され、該単糖の個数をn(nは、整数)とするとき、3×n個以上の水酸基を含む多糖類が好ましい。
【0055】
本発明の多糖類として好適な具体例を挙げれば、デンプン、グリコーゲン、デキストラン、デキストリン等の直線状の多糖類や、α―シクロデキストリン及びそのメチル化体またはヒドロキシプロピル化体等の誘導体、β-シクロデキストリン及びそのメチル化体またはヒドロキシプロピル化体の誘導体、γ-シクロデキストリン及びそのメチル化体またはヒドロキシプロピル化体等の誘導体などの、環状の多糖類であるシクロデキストリン類が挙げられる。より好適に用いられる例を挙げれば、水への溶解が容易であることから、デキストラン、シクロデキストリン類が、さらにより好適に用いられる。
【0056】
本発明のアミノ酸骨格を有するポリマーは、単一のアミノ酸が直線状に複数結合したものを言う。すなわち、具体的な例を挙げれば、L-リジンが結合して成るポリリジンや、アルギニンが結合して成るポリ-L-アルギニン及びその塩酸塩などが挙げられる。
【0057】
本発明の賦形剤として使用できる非イオン性界面活性剤は、本発明の安定成分と混合せしめることができるのであれば、特に制限なく用いることができる。一般に入手できるものの例を挙げれば以下のとおりである。すなわち、ポリオキシエチレンラウリルエーテル糖のポリオキシエチレン脂肪酸エーテル類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類が挙げられる。界面活性剤は酵素反応等を阻害する場合があるので、その添加量は多糖類等よりも少なく用いることが一般的である。
【0058】
また、これらの賦形剤は単独で用いてもよいし、複数の賦形剤を同時に用いても良い。また、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩と組み合わせることにより物理的強度と水への易溶性を向上させることもできる。
【0059】
[生体試料測定用試薬]
本発明の乾燥用保護剤を用いて、生体試料測定用試薬を乾燥状態で構成することができる。具体的には、本発明の生体試料測定用試薬は、反応成分を含む主成分(本発明では、基本組成とも記載)と、前記の安定成分と、前記の賦形剤とを含んで構成することができる。このようにして構成した生体試料測定用乾燥試薬(本発明では、乾燥試薬とも記載)は、長期の保存安定性に優れており、冷蔵保存することなく保管し、必要な時に血液試料にて溶解することにより即時に定性測定、定量測定を行うことができるという利点がある。以下に詳細に説明する。
【0060】
臨床検査の分野において、生化学検査と呼ばれる一連の検査(測定)がある。血液等の体液に含まれる、無機物、低分子有機化合物、タンパク質、酵素などの定量を行う。
【0061】
これらの検査は、水溶液中で検査試薬と血液等(血清、血漿、髄液)とを混合し、該生化学検査用の試薬の成分と血液等の成分が反応し、発色反応等による吸光度変化を測定することが多い。
【0062】
該試薬の成分として、酵素を用いることも多く行われている。例えば、血清中のグルコースを測定する試薬は以下の反応により生成するNADPHの量を、NADPH特有の吸収波長である340nmにおける吸光度変化を利用して定量する。
【0063】
(ヘキソキナーゼによる酵素反応)
グルコース + ATP → グルコース-6-リン酸 + ADP
(Mgイオン共存下で反応が進行)
【0064】
(グルコース-6-リン酸脱水素酵素による酵素反応)
グルコース-6-リン酸 + ADP → D-グルコノラクトン-6-リン酸
+NADPH + H+
【0065】
この反応を利用して血清試料中のグルコースを測定する生体試料測定用乾燥試薬を構成することができる。該生体試料測定用乾燥試薬は、上記反応に用いられる、ATP、ヘキソキナーゼ、pH緩衝剤、Mg塩の必要量を、乾燥状態で測定セル中に入れおくことにより構成できる。さらに、酵素の保存安定性を控除させるために該乾燥試薬の基本組成に、本発明の安定成分を添加し、また、本発明の安定成分の変形を防ぐために本発明の賦形剤を添加することにより、長期間の保存後であっても、血清試料を添加した時に即時に全量が溶解し、所定の濃度で反応が開始される該乾燥試薬を構成することできる。
【0066】
生体試料検査用乾燥試薬の基本組成と、本発明の安定成分及び本発明の賦形剤は、分子レベルで混合されている必要がある。すなわち、乾燥後の該基本組成の各成分の各分子が、完全でなくてもできる限り、本発明の安定成分の分子によって、取り囲まれていることが重要である。このような状態で乾燥するには、乾燥前に予め、該基本組成、本発明の安定成分、本発明の賦形剤を同一の溶媒中に混合し、均一な溶液として調製し、その上で乾燥する必要がある。
【0067】
前記基本組成は一般的に水溶液で用いられる組成であるため、上記溶媒は水であるのが一般的である。また乾燥前の基本組成の濃度は、一般的にそれらが水溶液の試薬として設計されたときの濃度を用いる。
【0068】
本発明の安定成分、本発明の賦形剤の乾燥前の濃度は、該基本組成に含まれる酵素の濃度と同じか、それ以上であることが望ましい。また、乾燥操作により、該基本組成の各化合物が容器から逸脱しないためには、ある程度の体積を占めるようにする必要がある。その好適な濃度範囲を示せば、0.01質量%~50質量%であり、さらに好適な濃度範囲を示せば、0.05質量%~20質量%であり、さらに好適な濃度範囲を示せば0.1質量%~10質量%が用いられる。
【0069】
本発明の安定成分、本発明の賦形剤の乾燥後の全体に対する割合は、両者を合わせた時に50質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。本発明の安定成分、本発明の賦形剤が大過剰に存在することにより、本発明の反応成分は互いに凝集することなく、単独で本発明の安定成分に取り囲まれることにより、安定化することができる。
【0070】
本発明の安定成分と、本発明の賦形剤の比率は特に限定されることなく用いることができるが、その好適な範囲を示せば、(本発明の安定成分の質量÷本発明の賦形剤の質量)の算出値が、界面活性剤の場合には10~100,000の範囲が好ましく更に100~100,000の範囲が好ましい。その他の場合には0.01~10、さらに好適な範囲は0.01~5である。
【0071】
生体試料測定用乾燥試薬の基本組成、本発明の安定成分、本発明の賦形剤が含まれる溶液を乾燥する方法は、特に制限されることなく既知の方法を用いることができる。その好適に用いられる方法としては、自然乾燥、温風乾燥、噴霧温風乾燥、凍結乾燥である。生体試料測定用乾燥試薬には酵素が含まれることが多いため、凍結乾燥、自然乾燥がさらに好適に用いられる。
【0072】
上記の方法にて作成された生体試料測定用乾燥試薬は、一般に-20℃~100℃で保存される。より好適には0℃~80℃、さらに好適には40℃~60℃である。
【0073】
[分析方法]
本発明において、本発明の乾燥用保護剤を含む生体試料測定用乾燥試薬を、37℃より高い温度範囲で保存した後、保存された該生体試料測定用乾燥試薬を用いて生体試料を分析する(本発明では、分析方法とも記載)ことができる。
【0074】
従来は、分析に用いる生体試料測定用乾燥試薬を冷蔵又は冷凍で保存し、測定の直前に、該試薬に含まれる酵素等の反応至適温度である37℃にまで加温してから測定に供していたために、測定を開始するまでに数分から数十分の時間を要しており、その短縮化が望まれていた。本発明の分析方法を用いることにより、生体試料測定用観桜試薬を保存場所から取り出したのちに測定に供するまでの時間を大幅に短縮することができる。また、該試薬を冷蔵保存した後に、37℃に加温する際に、該試薬にひび割れを生じ、容器から脱落し、必要な測定が行えなくなるという不具合が生じることがあった。また、酵素や抗体などの本発明の反応成分を含有する生体試料を測定可能な試薬であって、室温で保存できる該試薬は近年開発され市販されているが、30℃程度がその保管の上限温度であり、昨今の夏季の気温上昇には対応できていない。
【実施例0075】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0076】
(実施例1-3) 乾燥した酵素の保存安定化
乾燥した酵素の保存安定化について検証した。下記に示すように、(i)酵素の乾燥、及び(ii)酵素活性の経時変化測定の手順で実施した。
【0077】
(i)酵素の乾燥
表2に示す酵素、本発明の安定成分、本発明の賦形剤を含む水溶液を各1mLずつ調製した。この水溶液を100μLとり、1.5mLのポリプロピレン製チューブ3本に分注した。このチューブを-80℃のフリーザーに1時間入れ、水溶液を凍結させた。フリーザーからチューブを取り出し、棚式凍結乾燥機(東京理科器械株式会社製 FDL-1000)の、乾燥用棚に置いた。20Pa以下の減圧下にて、棚温度を以下のように変化させて乾燥させ、その後に乾燥用棚からチューブを取り出し、チューブのフタを締めた。チューブを、乾燥剤(シリカゲル)を入れたアルミパウチに入れ、アルミパウチを密封し、40℃、60℃、80℃にて保管した。
-40℃20分 → -10℃ 1時間 → 20℃ 5時間
【0078】
【0079】
(ii)ウレアーゼの酵素活性の経時変化測定
上記チューブを入れたアルミパウチを恒温槽から取り出し、室温で30分放置し、チューブ内温度を室温に戻した。アルミパウチを開き、チューブを取り出した。チューブに100μLの水を入れ内容物を溶解した。この水溶液を30μLと、0.1%ブロモクレゾールグリーンの50%エタノール水溶液170μLを、96穴マイクロプレートにそれぞれ分注した。37℃で5分間インキュベートした後に、基質である尿素窒素の濃度15mg/mL溶液を20μL加え、その直後から610nmにおける吸光度を、15秒おきに測定した。10分経過後の吸光度と、測定開始直後の吸光度の差を、吸光度変化として算出した。
【0080】
各温度での保存試験開始直後の吸光度変化の値を100%としたときの、所定日数保存後の吸光度変化の値をパーセントにて算出し、これを酵素活性とした。
各温度、日数での保存試験の結果を表3に示した。
【0081】
(比較例1)
本発明の賦形剤を用いないこと以外は実施例1と同じ操作で、ウレアーゼの酵素活性の経時変化測定を実施した。結果を表3に合わせて示した。
【0082】
(比較例2)
本発明の安定成分を用いないこと以外は実施例2と同じ操作で、ウレアーゼの酵素活性の経時変化測定を実施した。結果を表3に合わせて示した。
【0083】
【0084】
実施例1から3においては、40℃、60℃、80℃の各温度で60日以上経過しても90%以上の活性を保った。これに対し、比較例1では、安定成分が含有されているため、30日の時点では90%以上の活性を保ったが、60日経過後には70%以下にまで活性が減少した。さらに比較例2では、30日の時点でも50%以下に活性が減少し、酵素の劣化が見られた。
【0085】
(実施例4-6) 生体試料測定用乾燥試薬
表4に示す組成物を含む水溶液を1mL調製した。この水溶液を100μLとり、1.5mLのポリプロピレン製チューブ3本に分注した。このチューブを-80℃のフリーザーに1時間入れ、水溶液を凍結させた。フリーザーからチューブを取り出し、棚式凍結乾燥機(東京理科器械株式会社製 FDL-1000)の、乾燥用棚に置いた。30Pa以下の減圧下にて、棚温度を以下のように変化させて乾燥させ、その後に乾燥用棚からチューブを取り出し、チューブのフタを締めた。このようにして、チューブ内に乾燥状態の生体試料測定用乾燥試薬を調製した。チューブを、乾燥剤(シリカゲル)を入れたアルミパウチに入れ、アルミパウチを密封し、室温、40℃、60℃、80℃にて保管した。
-40℃20分 → -10℃ 1時間 → 20℃ 5時間
【0086】
【0087】
(ii)生体試料測定用乾燥試薬の性能の経時変化測定
上記チューブを入れたアルミパウチを恒温槽から取り出し、室温で30分放置し、チューブ内温度を室温に戻した。アルミパウチを開いてチューブを取り出した。チューブに200μLの水溶液(尿素窒素10mg/dL、グルコース100mg/dL、コレステロール180mg/dLを含む)を入れ内容物を溶解した。その直後に、この水溶液を96穴マイクロプレートにそれぞれ分注した。37℃で5分間インキュベートした後に、その直後から6吸光度を、15秒おきに測定した(実施例4,比較例3、比較例4では610nm、実施例5では340nm、実施例6では500nmにて測定)。10分経過後の吸光度と、測定開始直後の吸光度の差を、吸光度変化として算出した。
【0088】
保存試験の開始直後の吸光度変化が、それぞれ用いた濃度に相当するとして、各吸光度変化を濃度に換算した。
各温度、日数での保存試験の結果を表5に示した。
【0089】
(比較例3)
本発明の賦形剤を用いないこと以外は実施例3と同じ操作で、尿素窒素10mg/dLを測定した時の吸光度変化から濃度を算出した。結果を表5に合わせて示した。
【0090】
(比較例4)
本発明の安定成分を用いないこと以外は実施例3と同じ操作で、尿素窒素10mg/dLを測定した時の吸光度変化から濃度を算出した。結果を表5に合わせて示した。
【0091】
【0092】
実施例4から6においては、40℃、60℃、80℃の各温度で60日以上経過しても開始直後の定量値の70%以上の活性を保った。これに対し、比較例3,比較例4では、著しい劣化が見られ、本発明の乾燥用保護剤を用いることにより、高い温度でも生体試料測定用乾燥試薬の性能を維持できることが示された。
【0093】
(実施例7)
実施例4と同じ方法にて生体試料測定用乾燥試薬を10個作製し、40℃で60日間保管した。その後室温に戻すことなく、実施例4-6(ii)生体試料測定用乾燥試薬の性能の経時変化測定と同様の操作を行った。その結果を表6に示した。
【0094】
(比較例5)
実施例4と同じ方法にて生体試料測定用乾燥試薬を10個作製し、4℃で60日間保管した。その後室温に戻し、実施例4-6(ii)生体試料測定用乾燥試薬の性能の経時変化測定と同様の操作を行った。その結果を表6に併せて示した。
【0095】
実勢例7では、10個の生体試料測定用乾燥試薬にて行った測定全てが、既知濃度である10mg/dLの定量値を与えた。しかし、比較例5では、1測定にて既知濃度とは大きく異なる値を与えた。生体試料測定用乾燥試薬が4℃の低温下にて、長時間保管されることにより該試薬が収縮し、その後の測定時に37℃に加温されることに、よりひび割れを生じ、チューブから逸脱したためと考えられた。
【0096】