(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174342
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
B41J2/14 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092118
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】森 尚子
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF08
2C057AF40
2C057AG31
2C057AG44
2C057AG71
2C057AG75
2C057AN01
2C057BA05
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】ノズル密度の低下を抑制しつつ、クロストークの影響を抑制する。
【解決手段】複数のノズル2にそれぞれ連通する複数の個別流路4ごとにアクチュエータがそれぞれ設けられ、複数の個別流路のノズル形成壁110と対向する側に位置する複数の個別流路の各開口部4aに面する共通流路3を備えた液体吐出ヘッド1であって、共通流路内には、着目ノズル2Sに隣接する複数の隣接ノズルのうちの一部の隣接ノズル2Bの個別流路4Bの開口部と着目ノズルの個別流路4Sの開口部との間に、当該開口部間の第一液内圧力伝搬経路長LBを、他の隣接ノズル2Aの個別流路4Aの開口部と着目ノズルの個別流路の開口部との間の第二液内圧力伝搬経路長LAよりも長くする迂回用部材121aが配置され、経路長LBと経路長LAとの差が所定の経路長差ΔLである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルと、
前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路と、
前記複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータと、
前記複数の個別流路のノズル形成壁と対向する側に位置する該複数の個別流路の各開口部に面する共通流路とを備え、
前記アクチュエータを駆動して前記個別流路内の液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッドであって、
前記共通流路内には、着目ノズルに隣接する複数の隣接ノズルのうちの一部の隣接ノズルに対応する個別流路の開口部と該着目ノズルに対応する個別流路の開口部との間に、当該開口部間の第一液内圧力伝搬経路長を、前記複数の隣接ノズルのうちの他の隣接ノズルに対応する個別流路の開口部と前記着目ノズルに対応する個別流路の開口部との間の第二液内圧力伝搬経路長よりも長くする迂回用部材が配置され、
前記第一液内圧力伝搬経路長と前記第二液内圧力伝搬経路長との差が所定の経路長差になるように構成されている、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記所定の経路長差ΔLは、前記個別流路の共振周期をTcとし、前記共通流路内の液体中を伝搬する圧力伝搬速度をCとしたとき、下記の式(1)を満たすように設定される、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【数1】
ただし、nは自然数である。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記迂回用部材は、前記他の隣接ノズルに対応する個別流路の開口部と前記着目ノズルに対応する個別流路の開口部との間には配置されていない、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記第二液内圧力伝搬経路長LAは、前記個別流路の共振周期をTcとし、前記共通流路内の液体中を伝搬する圧力伝搬速度をCとしたとき、下記の式(2)を満たすように設定される、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【数2】
ただし、nは自然数である。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記複数のノズルは、ヘッド長手方向に対して平行に延びる複数のノズル列を構成するように配置され、
前記迂回用部材は、前記複数のノズル列それぞれのノズル列内における前記着目ノズル及び前記一部の隣接ノズルにそれぞれ対応する個別流路の開口部の間を通って、前記複数のノズル列を直線状に横切るように配置される直線状壁部によって構成されている、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記共通流路へ液体を供給する液体供給口は前記ヘッド長手方向に対して直交するヘッド短手方向の一端側に設けられ、
前記共通流路から液体を排出する液体排出口は前記ヘッド短手方向の他端側に設けられている、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記共通流路における前記複数の個別流路の開口部と対向する側にはダンパ部材が設けられている、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記開口部と前記ダンパ部材との最小距離が、隣接する2つの個別流路における前記開口部の最小中心間距離以下である、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記迂回用部材の高さは750[μm]以上である、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及び液体を吐出する装置に関するものである。
【0002】
従来、液体を吐出する複数のノズルと、複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路と、複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータと、複数の個別流路のノズル形成壁と対向する側に位置する複数の個別流路の各開口部に面する共通流路とを備える液体吐出ヘッドが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数のノズル及びアクチュエータが形成されたノズルプレート(ノズル形成壁)と、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の円筒状の個別流路が形成された基板と、ダンパ部材とを備える液体吐出ヘッドが開示されている。アクチュエータは、ノズルと同心の円環形状に形成され、各個別流路内の液体を加圧するように駆動する。ダンパ部材は、ノズルプレートが設けられる基板の面とは反対側の面に設けられる弾性部材であり、各個別流路と同じ内径をもつ円筒状の複数のダンパ室がそれぞれ各個別流路と対向して設けられている。共通流路は、ダンパ部材の各ダンパ室を介して各個別流路に連通している。各個別流路内で生じるアクチュエータ駆動による液体の圧力波は、ダンパ部材の弾性変形によって吸収され、これにより、圧力波が他の個別流路に伝搬するクロストークの影響が抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数の個別流路の各ノズル形成壁のそれぞれにアクチュエータが設けられる液体吐出ヘッドにおいて、従来の構成によれば、クロストークの影響を抑制できる反面、単位面積当たりのノズル数を増やす(ノズル密度を高める)ことが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路と、前記複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータと、前記複数の個別流路のノズル形成壁と対向する側に位置する該複数の個別流路の各開口部に面する共通流路とを備え、前記アクチュエータを駆動して前記個別流路内の液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッドであって、前記共通流路内には、着目ノズルに隣接する複数の隣接ノズルのうちの一部の隣接ノズルに対応する個別流路の開口部と該着目ノズルに対応する個別流路の開口部との間に、当該開口部間の第一液内圧力伝搬経路長を、前記複数の隣接ノズルのうちの他の隣接ノズルに対応する個別流路の開口部と前記着目ノズルに対応する個別流路の開口部との間の第二液内圧力伝搬経路長よりも長くする迂回用部材が配置され、前記第一液内圧力伝搬経路長と前記第二液内圧力伝搬経路長との差が所定の経路長差になるように構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の個別流路の各ノズル形成壁のそれぞれにアクチュエータが設けられる液体吐出ヘッドにおいて、ノズル密度の低下を抑制しつつ、クロストークの影響を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態における液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図2】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す正面図であり、A-A'断面の断面図。
【
図3】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図。
【
図4】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す正面図であり、D-D'断面の断面図。
【
図5】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、E-E'断面の断面図。
【
図6】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、F-F'断面の断面図。
【
図7】同液体吐出ヘッドにおける1つの個別流路の周辺を示す拡大断面図。
【
図8】変形例に係る液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図9】変形例に係る液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図。
【
図10】(a)は、比較例において、クロストーク圧力なしの場合とクロストーク圧力ありの場合とについて、着目ノズルの個別流路内に生じる圧力変動を比較したグラフ。(b)は、実施形態において、クロストーク圧力なしの場合とクロストーク圧力ありの場合とについて、着目ノズルの個別流路内に生じる圧力変動を比較したグラフ。
【
図11】(a)は、アクチュエータがノズル板上に配置された例を示す説明図。(b)は、アクチュエータがノズル板内に配置された例を示す説明図。(c)は、アクチュエータがノズル板の近傍に配置された例を示す説明図。
【
図13】同印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図。
【
図16】本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、液体を吐出する装置に設けられる液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0009】
本実施形態における液体吐出ヘッドは、ノズルを有するノズル板に設けられるアクチュエータにより個別流路の圧力を変動させることにより個別流路内の液体をノズルから吐出するノズル板振動方式の液体吐出ヘッドである。ノズル板振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッド(個別流路のノズルに連通する連通口を有する壁部(ノズル形成壁)に対向する面を振動させて液体を吐出するもの)に比べて小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があり、アクチュエータの省電力化を図ることができる。
【0010】
ノズル密度を高くすると電圧印加のための配線をレイアウトするスペースが限られ、基板表面での配線構築が困難となる。基板内に配線や駆動回路を構築することで、ノズル密度が高い構成でも、配線をレイアウトすることができる。一般に、アクチュエータとして用いられる圧電素子の材料として、圧電特性の高さから、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が広く利用されている。ただし、配線や駆動回路が構築された基板上に圧電膜を成膜する場合、PZTの成膜・結晶化温度は600℃以上を要することから、圧電素子の材料としてPZTを用いると、基板内の駆動回路とその配線が高温に耐えられなくなる。そのため、基板内に配線や駆動回路を構築する構成では、圧電材料としては、PZTよりも成膜温度の低い圧電材料が求められ、PZTに比べ圧電特性の低い材料を選択することを余儀なくされる。しかしながら、上述したノズル板振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッドに比べ小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があるため、PZTに比べ圧電特性の低い材料を選択しても、良好に液体を吐出することが可能である。よって、非鉛材料など成膜・結晶化温度は低いがパワーの小さい圧電材料でも良好に液体を吐出することができる。これにより、基板内に配線や駆動回路を構築することができ、高密度化が可能となる。さらに、ノズル板振動方式は、個別流路の容積を小さくできることから、ヘッドの小型化も可能となる。
【0011】
図1は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図である。
図2は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す正面図であり、A-A'断面の断面図である。
図3は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図である。
図4は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す正面図であり、D-D'断面の断面図である。
図5は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、E-E'断面の断面図である。
図6は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、F-F'断面の断面図である。
【0012】
本実施形態の液体吐出ヘッド1は、ノズル板110と、個別流路基板100と、共通流路基板120と、ダンパ部130と、フレーム部140と、を備えている。
【0013】
ノズル板110は、薄膜状であり、液体を吐出する複数のノズル2と、ノズル2の周囲に配置される環状のアクチュエータである電気機械変換素子としての圧電素子5とを有している。個別流路基板100は、複数のノズル2に各々連通する複数の個別流路(個別流路、加圧液室ともいう。)4を有している。各個別流路4の一面にノズル2(振動膜103)があり、当該一面と対向する側に、個別流路の開口部4a及びダンパ部130が配置される。共通流路基板120は、複数の個別流路4に連通する共通流路3を有している。
【0014】
本実施形態のノズル板110には、断面B-B'に平行な方向(ヘッド長手方向)である
図1中上下方向(B列方向)に沿って各ノズル2が直線状に配列されてなるノズル列が、図中左右方向に複数(図示の例では5列)並べて配置されている。そのため、個別流路基板100に形成される個別流路4も、
図1に示すように、図中上下方向(B列方向)に沿って配列されたノズル列が図中左右方向に複数(図示の例では5列)並べて配置されている。
【0015】
なお、各ノズル列間のノズルは、シングルパスで高密度(例えば600dpi、1000dpi、1200dpiなど)のドット形成が可能なように、B列方向(図中上下方向)の位置が互いにズレるように配列されている。そのため、これに対応して、個別流路4も、
図1に示すように、図中上下方向(B列方向)の位置がノズル列間で互いにズレるように配列されている。
【0016】
また、本実施形態の個別流路4は、基板面方向に平行な断面の形状が円形状である例で説明されているが、その断面形状は楕円柱状や多角形柱状などの他の形状であってもよい。また、その断面形状は、基板厚み方向にわたって均一な断面である必要はない。
【0017】
図7は、1つの個別流路4の周辺を示す拡大断面図である。
個別流路基板100は、SOI(Silicon on InsuMAtor)基板であり、振動膜103が成膜される側に駆動回路101および配線部102を有している。駆動回路101は、トランジスタや抵抗などを含む回路である。配線部102は、第一電極51に駆動波形を印加するための配線部と、第二電極53に駆動波形を印加するための配線部と有している。また、配線部102は、振動膜103に開けられた第三コンタクト7cを介して電気接続パッド55に電気的に接続されている。
【0018】
ノズル板110は、複数のノズル2が形成され、圧電素子5を覆うノズル形成部(膜)111を有しており、このノズル形成部111のノズル面には、撥液膜112が形成されている。液体の吐出を続けた場合、吐出と同時に発生したミストがノズル面に付着する。このミストがノズル面に多量に付着すると、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けて、所望の着弾位置からずれてしまうおそれがある。ノズル面に撥液膜112を形成することで、ノズル面への液体の付着を抑制することができ、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けるのを抑制することができる。
【0019】
ノズル板110の圧電素子5は、第一電極51(下部電極ともいう。)と、圧電膜52と、第二電極53(上部電極ともいう。)とを有している。圧電素子5は第一絶縁膜8aに覆われている。第一絶縁膜8aは、第一電極51への電気的な接続を行うための孔状の第四コンタクト7dと、第二電極53への電気的な接続を行うための孔状の第五コンタクト7eとが形成されている。
【0020】
また、第一絶縁膜8aには、圧電素子5の第一電極51と個別流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第一引出し配線9aと、圧電素子5の第二電極53と個別流路基板100の配線部102とを電気的に連結する第二引出し配線9bとが形成されている。
【0021】
第一引出し配線9aは、第四コンタクト7dを介して第一電極51に電極的に接続され、第一コンタクト7aを介して配線部102に電極的に接続されている。第二引出し配線9bは、第五コンタクト7eを介して第二電極53に電極的に接続され、第二コンタクト7bを介して配線部102に電極的に接続されている。第一引出し配線9aおよび第二引出し配線9bは、第二絶縁膜8bに覆われている。本実施形態では、第二絶縁膜8bは、圧電素子5も覆っており、樹脂からなるノズル形成部111に侵入した湿気が圧電素子5へ侵入するのを防止して圧電素子5を保護する機能を有している。
【0022】
なお、第一電極51及び第二電極53にそれぞれ引き出し配線部を設けて、振動膜に開けられたコンタクトを介して配線部102に直接、電極的に接続してもよい。また、第二絶縁膜8b上にノズル形成部111との密着性を確保するための密着改善膜を形成してもよい。
【0023】
液体吐出ヘッド1内に満たされた液体は、ノズル2に入り込み、ノズル内でメニスカスを形成する。圧電素子5の各電極51,53に所定の駆動波形(電圧)を印加することで、圧電膜52が振動し、振動膜103が
図7中上下方向に振動する。振動膜103が振動することで個別流路内の液体に圧力変化が生じ、ノズル2から液体が吐出される。
【0024】
また、本実施形態の液体吐出ヘッド1は、ノズル2の内周面、個別流路4の内周面および共通流路3の底面に、液体吐出ヘッド1が吐出する液体に対して親液性を有し、液体の浸食を防ぐ表面層としての保護膜11が形成されている。本実施形態では、液体吐出ヘッド1が吐出する液体は、アルカリ性であり、個別流路4を形成する個別流路基板100および振動膜103はシリコン単結晶およびシリコン酸化物からなる。これらの材料は、アルカリ性の液体に対して脆弱性を持ち、アルカリ性溶液に溶出し浸食される。これを防ぐために、液体の浸食を防ぐ耐液性の保護膜11を形成することで、個別流路基板100および振動膜103を液体から保護することができる。
【0025】
また、個別流路4およびノズル2はドライエッチングにて形成される。ドライエッチングのガスにフッ素が含まれることで、エッチング後の個別流路4の内壁面およびノズル2の内周面にはフッ素を含む表皮膜が形成され、個別流路4の内壁面およびノズル内周面が撥液性を持ってしまう。個別流路4の内周面が撥液性を有すると、液体の充填時に液体が、個別流路4の内周面に濡れ広がっていかないため、個別流路4が液体で良好に満たされず、個別流路4の角部などに気泡が生じてしまう場合がある。
【0026】
本実施形態では、個別流路4の内周面やノズル2の内周面に親液性を有する保護膜11を形成するので、個別流路4およびノズル2の内周面に対する液体の濡れ性を向上させることができる。保護膜11は、保護膜11が成膜される個別流路4やノズル2の成膜面(保護膜11の下層面)よりも液体に対する親液性があればよい。液体の溶剤が水性の場合は、親水性の高い保護膜とし、液体の溶剤が油性の場合は、親油性の高い保護膜とすることで親液性の高い保護膜11を形成することができる。
【0027】
振動膜103の材質としては、SiO2やSiN、金属酸化物や樹脂など少なくとも絶縁性を持つ材質であれば良い。しかし、変位を大きくするためにはヤング率が低い材料が望ましく、かつ個別流路基板100との線膨張係数の差を考えるとその差が比較的小さいSiO2(二酸化ケイ素)が、振動膜103の材質として最も望ましい。
【0028】
第一電極51と第二電極53は電気抵抗が小さく反応性の低い金属が望ましく、Ir、Moなどの金属が望ましい。圧電膜52を構成する圧電材料としては、本実施形態のように、密度向上のために個別流路基板100に駆動回路101と配線部102を内蔵する場合は、それらを破壊しないために、その成膜温度が450℃以下である圧電材料が望ましい。成膜温度が450℃以下である圧電材料としては、AlNやAlNよりも圧電定数の高いScAlNが挙げられる。
【0029】
また、圧電材料としてScAlNを用いることで、次の利点も得ることができる。すなわち、圧電膜52の結晶配向を揃えることで圧電特性を向上することができるが、その配向制御のために振動膜103と第一電極51の間に配向制御層を設ける必要がある。圧電膜52の圧電材料がScAlNのときは、配向制御層としてもScAlNを用いることで、Moからなる第一電極51の格子定数をScAlNに近づけることができる。その結果、圧電膜52の結晶配向が揃い、圧電特性の向上が可能となる。
【0030】
本実施形態の液体吐出ヘッド1は、
図2~
図5に示すように、ノズル板110、個別流路基板100、共通流路基板120、ダンパ部130、フレーム部140の順で配置され、構成されている。
【0031】
個別流路基板100は、複数の個別流路4が配列されている領域(個別流路アレイ)の上面(共通流路3側の面)に各個別流路4の開口部4aが開口しており、共通流路基板120に形成されている共通流路3が各個別流路4の開口部4aに面するように配置される。
【0032】
本実施形態では、一例として、個別流路4の寸法(開口部4aの直径)は220[μm]である。また、断面A-A'に平行な方向に配列されるA列方向における個別流路4を区画している隔壁の幅は30[μm]であり、A列方向に隣接する2つの個別流路4における開口部4aの中心間距離MA(
図2参照)は250[μm]となっている。同様に、断面B-B'に平行な方向(ヘッド長手方向)に配列されるB列方向における個別流路4を区画している隔壁の幅も30[μm]であり、B列方向に隣接する2つの個別流路4における開口部4aの中心間距離MB(
図3参照)も250[μm]となっている。
【0033】
共通流路基板120の上面(個別流路基板100とは反対側の面)にはダンパ部130が設けられている。共通流路3は、ダンパ部130に形成されている供給連通路32を介して、フレーム部140に形成されている供給液体貯留室31に連通されている。なお、本実施形態の供給連通路32は、
図6に示すように、区画壁130aによって複数(図示の例では3つ)に分岐されている。同様に、本実施形態の排出連通路34も、
図6に示すように、区画壁130bによって複数(図示の例では3つ)に分岐されている。これらの区画壁130a,130bは、主に補強材として機能し、ダンパ部130の機械的強度を確保するためのものであり、また、共通流路3の全域に対してムラなく液体を供給又は排出するため(偏りなく各個別流路4へ液体を供給又は排出するため)のものである。したがって、ダンパ部130の機械的強度を確保でき、偏りなく液体を供給又は排出できるのであれば、区画壁130a,130b(補強材)を設けず、供給連通路32や排出連通路34をそれぞれ単一の通路で構成してもよい。
【0034】
液体吐出ヘッド1には、外部の液体貯留部に貯留される液体がフレーム部140の液体供給口33を介して供給される。この液体供給口33から供給された液体は、供給液体貯留室31から供給連通路32を通って共通流路3へ供給され、共通流路3から各個別流路4の開口部4aを介して各個別流路4へ供給される。
【0035】
また、共通流路3は、ダンパ部130に形成されている排出連通路34を介して、フレーム部140に形成されている排出液体貯留室35に連通されている。これにより、共通流路3内の液体は、排出連通路34から排出液体貯留室35を通り、液体排出口36から外部のポンプ等を経由して、外部のインク貯留部に戻される。本実施形態は、液体循環方式の液体吐出ヘッド1である。
【0036】
本実施形態によれば、共通流路3内の液体を循環させることが可能となる。これにより、共通流路3などの液体吐出ヘッド1内の流路中に存在する気泡を排除したり、沈降しやすい成分をもつ液体を用いる場合に共通流路3などの液体吐出ヘッド1内の流路内に液体の成分が沈降することを抑制したりすることができる。
【0037】
特に、本実施形態では、供給連通路32と排出連通路34が、個別流路アレイをはさんでヘッド短手方向外方にそれぞれ形成されている。そのため、個別流路アレイに面して共通流路3内を液体が流れる距離(供給連通路32から排出連通路34へ液体が流れるときの最長距離)が、最小限になる構成となっている。そのため、共通流路3内における液体の流体抵抗を低く抑えることができる。
【0038】
なお、本実施形態は、液体循環方式の液体吐出ヘッド1に限らず、例えば共通流路3から液体をヘッド外部へ排出するための構成(排出連通路34、排出液体貯留室35、液体排出口36)を備えていない構成であってもよい。
【0039】
本実施形態において、ダンパ部130は、
図2~
図5に示すように、ダンパ部材としてのダンパフィルム61と、ダンパフィルム61を保持するダンパフィルム保持部材62と、ダンパフィルム61の変位又は振動を確保するための空気室63とから構成されている。空気室63は大気開放孔64を介して外気に開放されている。
【0040】
ダンパフィルム61は、柔軟性の高い材料で構成され、共通流路3を介して各個別流路4の開口部4a(すなわち、個別流路基板100の個別流路アレイの上面)と対向する位置に配置される。すなわち、ダンパフィルム61は、共通流路3の一壁部(上壁面)を構成するものである。このような構成により、ダンパ部130は、ダンパフィルム61が共通流路3内の液体に伝搬するクロストーク圧力に応じて変形し、共通流路3内に生じるクロストーク圧力による圧力変動を低減することができ、クロストーク(流体クロストーク)の抑制効果を発揮する。
【0041】
ノズル板110の圧電素子5により振動膜103を振動させて個別流路4内の液体が加圧されると、その圧力はノズル2から液体を吐出させる力となるが、その一部は個別流路4の開口部4aから共通流路3へ逃げてクロストーク圧力となる。共通流路3へ逃げたクロストーク圧力は、共通流路3内の液体を伝搬して周囲の他の個別流路4へと回り込み、他の個別流路4内の液体の圧力に変動を生じさせ、当該他の個別流路4内の液体をノズル2から吐出する際に影響を及ぼす。
【0042】
本実施形態の液体吐出ヘッド1は、ノズルが二次元方向に配列されているため、1つのノズル(例えば着目ノズル2S。すなわち、クロストークの影響を受けるノズル)に対して2以上のノズル(例えば隣接ノズル2A,2B。すなわち、クロストークの影響を与えるノズル)が隣接して配置される。そのため、着目ノズル2Sの個別流路4Sには、2以上の隣接ノズル2A,2Bの個別流路4A,4B内で生じる各クロストーク圧力が伝搬される。
【0043】
本実施形態のようにノズル密度の高い液体吐出ヘッド1では、互いに隣り合うノズル(着目ノズル2Sと隣接ノズル2A,2B)の個別流路4の開口部4a間の距離(開口部中心間距離MA,MB)が小さい。そのため、2以上の隣接ノズル2A,2Bの個別流路4A,4Bからのクロストーク圧力は、着目ノズル2Sの個別流路4Sに対し、ほとんど時間差なく到達する。そのため、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達する2以上の隣接ノズル2A,2Bの個別流路4A,4Bからのクロストーク圧力は、互いにほとんど位相差が生じず、互いに強め合うことになり、クロストークの影響が大きい。
【0044】
詳しくは、クロストーク圧力の周期は、通常、個別流路4の共振周期Tcに整合するものである。そのため、クロストーク圧力の波長λは、共通流路内の液体中を伝搬する圧力伝搬速度Cを用いて、λ=Tc×Cから求めることができる。このようにして求まるクロストーク圧力の波長λは、ノズル密度の高い液体吐出ヘッド1においては、互いに隣り合うノズル(着目ノズル2Sと隣接ノズル2A,2B)の個別流路開口部間距離(開口部中心間距離MA,MB)よりもずっと長いものとなる。そのため、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達する2以上の隣接ノズル2A,2Bの個別流路4A,4Bからのクロストーク圧力は互いにほとんど位相差が生じることはなく、互いに強め合うことになる結果、クロストークの影響が大きいものとなる。
【0045】
ここで、2以上の隣接ノズル2A,2Bの個別流路4A,4Bからのクロストーク圧力が互いに十分相殺されるような位相差で着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達するように構成できれば、クロストークの影響を抑制することができる。しかしながら、2以上の隣接ノズル2A,2Bのうちの一部の隣接ノズル(例えば隣接ノズル2B)と着目ノズル2Sとの間の個別流路開口部間距離(開口部中心間距離MB)と、当該2以上の隣接ノズルのうちの他の隣接ノズル(例えば隣接ノズル2A)と着目ノズル2Sとの間の個別流路開口部間距離(開口部中心間距離MA)との距離差(MA-MB)を、両者のクロストーク圧力が互いに十分相殺される位相差に合わせて設定すると、ノズル密度が大幅に低下してしまう。すなわち、前者の個別流路開口部間距離(開口部中心間距離MB)を、例えば、後者の個別流路開口部間距離(開口部中心間距離MA)よりも最短の位相差(λ/2)だけ大きくなるように設定したとしても、ノズル密度の高い液体吐出ヘッド1における一般的な個別流路開口部間距離と比較すれば、前者の個別流路開口部間距離(開口部中心間距離MB)はずっと大きいものとなってしまい、ノズル密度を低下させざるを得ない。
【0046】
そこで、本実施形態においては、共通流路3内に、着目ノズル2Sに対してB列方向に隣接する隣接ノズル2Bに対応する個別流路4Bの開口部4aと着目ノズル2Sに対応する個別流路4Sの開口部4aとの間に、当該開口部間の液内圧力伝搬経路長(クロストーク圧力の経路長)を長くする迂回用部材としての迂回用隔壁部121aを配置している。ここでいう「液内圧力伝搬経路長」とは、隣接ノズル2Bの個別流路4Bで発生するクロストーク圧力が共通流路3内の液体中を伝搬して着目ノズル2Sの個別流路4Sに達する最短経路長を意味する。
【0047】
このような迂回用隔壁部121aを配置することで、着目ノズル2Sに対してB列方向に隣接する隣接ノズル2Bの個別流路4Bで発生するクロストーク圧力は、
図3に示すように、共通流路3内の迂回用隔壁部121aを迂回して、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達することになる。これによれば、当該隣接ノズル2Bと着目ノズル2Sとの間における個別流路開口部間距離(開口部中心間距離MB)を維持したままでも、当該隣接ノズル2Bの個別流路4Bから着目ノズル2Sの個別流路4Sまでの液内圧力伝搬経路長(クロストーク圧力の経路長)LBを延ばすことができる。その結果、当該隣接ノズル2Bと着目ノズル2Sとの間の個別流路開口部間距離(開口部中心間距離MB)を広げなくても、当該隣接ノズル2Bの個別流路4Bから着目ノズル2Sの個別流路4Sまでの液内圧力伝搬経路長LBと、他の隣接ノズルであるA列方向の隣接ノズル2Aの個別流路4Aから着目ノズル2Sの個別流路4Sまでの液内圧力伝搬経路長LA(=開口部中心間距離MA)との差(LA-LB)を、それぞれのクロストーク圧力が互いに十分相殺されるような所定の経路長差にすることが可能となる。
【0048】
迂回用隔壁部121aを備える共通流路3の構成について更に説明する。
本実施形態における共通流路基板120は、
図2~
図5に示すように、迂回用隔壁部121aを構成する隔壁部基板121と流路確保基板122とから構成されている。隔壁部基板121及び流路確保基板122は、この順序で個別流路基板100の上に形成されている。流路確保基板122は、隔壁部基板121とダンパ部130との間に共通流路3となる空間を確保するためのものである。
【0049】
隔壁部基板121は、
図1に示すように、A列方向に沿って長尺な貫通長孔121bがB列方向(ヘッド長手方向)に複数並べて配置された構成となっている。各貫通長孔121bは、
図1に示すように、B列方向(ヘッド長手方向)に延びる5つのノズル列をまたがって、各ノズル列間で互いに隣り合う5つのノズル(着目ノズル2Sと隣接ノズル2Aを含む。)の個別流路4の開口部4aに面するように配置される。これにより、複数の貫通長孔121b間を仕切っている仕切り壁は、5つのノズル列それぞれのノズル列内で隣り合うノズル(着目ノズル2Sと隣接ノズル2Bを含む。)の個別流路4の開口部4aの間を通って5つのノズル列を直線状に横切る直線状壁部を構成する。
【0050】
直線状壁部は、共通流路3内において、着目ノズル2Sの個別流路4Sの開口部4aと着目ノズル2Sに対してB列方向に隣接する隣接ノズル2Bの個別流路4Bの開口部4aとの間に形成される。したがって、この直線状壁部は、当該開口部間の液内圧力伝搬経路長(クロストーク圧力の経路長)を長くする迂回用隔壁部121aとして機能する。その結果、着目ノズル2Sに対してB列方向に隣接する隣接ノズル2Bの個別流路4Bで発生するクロストーク圧力は、
図3に示す液内圧力伝搬経路長LBのように、共通流路3内の迂回用隔壁部121aを迂回して、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達することになる。
【0051】
一方、共通流路3内において、着目ノズル2Sの個別流路4Sの開口部4aと着目ノズル2Sに対してA列方向に隣接する隣接ノズル2Aの個別流路4Aの開口部4aとの間は、貫通長孔121bでつながっており、迂回用隔壁部121aが配置されていない。そのため、着目ノズル2Sに対してA列方向に隣接する隣接ノズル2Aの個別流路4Aで発生するクロストーク圧力は、
図2に示す液内圧力伝搬経路長LA(=開口部中心間距離MA)のように、迂回することなく、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達することになる。
【0052】
A列方向のクロストーク圧力についての液内圧力伝搬経路長LAは、着目ノズル2Sに対してA列方向に隣接する隣接ノズル2Aの個別流路4Aの開口部中心間距離MAによって決まる。これに対し、B列方向のクロストーク圧力についての液内圧力伝搬経路長LBは、着目ノズル2Sに対してB列方向に隣接する隣接ノズル2Bの個別流路4Bの開口部中心間距離MBと、迂回用隔壁部121aの高さ(隔壁部基板121の厚み)Hとによって決まる。したがって、迂回用隔壁部121aの高さ(隔壁部基板121の厚み)Hを適宜設定することで、開口部中心間距離MA,MBを広げなくても、A列方向のクロストーク圧力についての液内圧力伝搬経路長LAとB列方向のクロストーク圧力についての液内圧力伝搬経路長LBとの差(LA-LB)が、それぞれのクロストーク圧力を互いに十分相殺できるような所定の経路長差ΔLとすることができる。迂回用隔壁部121aの高さ(隔壁部基板121の厚み)Hは、例えば750[μm]以上であるのが好ましい。
【0053】
このような所定の経路長差ΔLは、個別流路4の共振周期(固有振動周期)をTcとし、共通流路3内の液体中を伝搬する圧力伝搬速度をCとしたとき、下記の式(1)を満たすように設定するのが好ましい。
【0054】
【0055】
前記式(1)を満たすような経路長差ΔLとなるように、A列方向及びB列方向の液内圧力伝搬経路長LA,LBの差(LA-LB)を設定することで、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達する各クロストーク圧力の位相差が1/2±1/4の範囲内となり、各クロストーク圧力間の十分な相殺効果が得られる。
【0056】
このとき、本実施形態では、着目ノズル2Sに対してA列方向から隣接する隣接ノズル2Aの個別流路4Aの開口部4aと着目ノズル2Sの個別流路4Sの開口部4aとの間の液内圧力伝搬経路長LAは、下記の式(2)を満たすように設定されるのが好ましい。
【0057】
【0058】
本実施形態によれば、A列方向についてのクロストーク圧力とB列方向についてのクロストーク圧力とは互いに相殺される位相差をもつ。しかしながら、A列方向についてのクロストーク圧力の経路長(液内圧力伝搬経路長LA)は、B列方向についてのクロストーク圧力の経路長(液内圧力伝搬経路長LB)よりも短いため、A列方向のクロストーク圧力の方がB列方向のクロストーク圧力よりも減衰率が小さい。そのため、B列方向のクロストーク圧力がA列方向のクロストーク圧力をちょうど相殺できる位相差(ΔL=(2n-1)/2×Tc×C)であっても、A列方向のクロストーク圧力が残存することになる。A列方向の隣接ノズル2Aの個別流路4Aの開口部4aと着目ノズル2Sの個別流路4Sの開口部4aとの間の液内圧力伝搬経路長LAが前記式(2)を満たすように設定されることで、残存するA列方向のクロストーク圧力が着目ノズル2Sの駆動時のクロストークの影響を安定して抑制することが可能となる。
【0059】
すなわち、駆動ノズル(着目ノズル2S)に対してクロストークの影響が最も大きな隣接ノズルは、液内圧力伝搬経路長(クロストーク圧力の経路長)が最も短くなるA列方向の隣接ノズル2Aである。そのため、B列方向のクロストーク圧力による相殺後に残存するA列方向のクロストーク圧力の大部分は、隣接ノズル2Aからのクロストーク圧力によるものである。したがって、A列方向の隣接ノズル2Aからのクロストーク圧力が、駆動ノズル(着目ノズル2S)の個別流路4S内に発生する圧力変動(着目ノズル2Sの圧電素子5の駆動によって生じる圧力変動)をちょうど強めてしまう場合、B列方向のクロストーク圧力による相殺後に残存するA列方向のクロストーク圧力により、着目ノズル2Sの個別流路4S内に発生する圧力変動の振幅を過剰に大きくしてしまい、液体の吐出速度が所望の吐出速度から大きく外れるおそれが高い。逆に、A列方向の隣接ノズル2Aからのクロストーク圧力が、着目ノズル2Sの個別流路4S内に発生する圧力変動をちょうど弱めてしまう場合、B列方向のクロストーク圧力による相殺後に残存するA列方向のクロストーク圧力により、着目ノズル2Sの個別流路4S内に発生する圧力変動の振幅を過剰に小さくしてしまい、液体の吐出速度が所望の吐出速度から大きく外れるおそれ、あるいは、不吐出を生じさせるおそれが高い。
【0060】
上述した式(2)を満たす場合、A列方向の隣接ノズル2Aからのクロストーク圧力と着目ノズル2Sの個別流路4S内に発生する圧力変動との位相差が1/4±1/8の範囲内となる。よって、B列方向のクロストーク圧力による相殺後に残存するA列方向のクロストーク圧力の位相が、着目ノズル2Sの個別流路4S内に発生する圧力変動に対して、当該圧力変動をちょうど強めてしまう位相差(すなわち位相差が無い)とも、当該圧力変動をちょうど弱めてしまう位相差(すなわち位相差が1/2ずれた状態)とも、外れることになる。その結果、着目ノズル2Sの個別流路4S内に発生する圧力変動の振幅を過剰に大きくしたり過剰に小さくしたりすることを回避でき、着目ノズル2Sに対するクロストークの影響を安定して抑制することが可能となる。
【0061】
なお、所定の経路長差ΔLが下記の式(3)を満たすように設定すれば、理論上は、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達する各クロストーク圧力の位相差が1/2となり、各クロストーク圧力が互いに相殺されることになる。
【0062】
【0063】
本実施形態によれば、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達する隣接ノズル2A,2Bの個別流路4A,4Bからのクロストーク圧力が互いに十分相殺される結果、着目ノズル2Sの液体吐出に対するクロストークの影響(液体の吐出速度変動や不吐出などの吐出不良など)が抑制される。しかも、本実施形態によれば、迂回用隔壁部121aを利用することで、開口部中心間距離MA,MBを広げなくても、クロストーク圧力を十分相殺できるような所定の経路長差ΔLを実現できる。したがって、A列方向やB列方向のノズルピッチを広げずに(又はノズルピッチを若干広げるだけで)、着目ノズル2Sの個別流路4Sに到達するクロストーク圧力を十分相殺でき、着目ノズル2Sの液体吐出に対するクロストークの影響を抑制できる。
【0064】
特に、本実施形態によれば、構造クロストーク(面振動)による影響も抑制することができる。
すなわち、アクチュエータを駆動した際に発生する振動は基板全体を撓ませる面振動を発生させ、この面振動が共通流路3内の圧力分布を発生させて、上述したクロストーク圧力の伝搬に起因するクロストーク(流体クロストーク)とは別に、構造クロストークを生じさせる。本実施形態のように共通流路基板が隔壁部基板121を備え、共通流路3内に迂回用隔壁部121aが配置されている構成は、共通流路基板が隔壁部基板121を持たず、共通流路3内に迂回用隔壁部121aが配置されていない構成と比較すると、基板構造としての剛性が高くなる。この剛性が高まるほど、発生する面振動の振幅の大きさが小さくなり、かつ、振動周波数も高周波側(液体吐出周波数から遠ざかる周波数帯域)にシフトさせることができる。よって、本実施形態によれば、迂回用隔壁部121aを配置したことで、構造クロストーク(面振動)による影響(液体の吐出速度変動や不吐出などの吐出不良など)も抑制することが可能となる。
【0065】
図10は、着目ノズル2Sのみを駆動した場合(クロストーク圧力なしの場合)と、着目ノズル2Sだけでなく隣接ノズル2A,2Bも駆動した場合(クロストーク圧力ありの場合)とについて、着目ノズル2Sの個別流路4S内に生じる圧力変動を比較したグラフである。なお、
図10(a)のグラフは、迂回用隔壁部121aが配置されておらず、A列方向及びB列方向の液内圧力伝搬経路長LA,LBの差(LA-LB)がゼロである比較例のものであり、
図10(b)のグラフは、迂回用隔壁部121aが配置され、A列方向及びB列方向の液内圧力伝搬経路長LA,LBの差(LA-LB)が前記式(3)を満たす本実施形態のものである。
【0066】
図10(a)に示す比較例においては、クロストーク圧力ありの場合、着目ノズル2Sのみを駆動した場合と比べて、着目ノズル2Sの個別流路4S内に生じる圧力変動の振幅が強まり、かつ、位相もずれたものとなっている。これに対し、
図10(b)に示す本実施形態においては、クロストーク圧力ありの場合でも、着目ノズル2Sの個別流路4S内に生じる圧力変動は、着目ノズル2Sのみを駆動した場合と同様の振幅で、位相ずれもほとんど生じていない。したがって、本実施形態によれば、着目ノズル2Sのみを駆動した場合(クロストーク圧力なしの場合)でも、着目ノズル2Sだけでなく隣接ノズル2A,2Bも駆動した場合(クロストーク圧力ありの場合)でも、吐出速度や吐出タイミングがずれることがなく、所望の吐出速度や吐出タイミングで液体を吐出することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、共通流路3から各個別流路4への液体供給能力を確保しやすいというメリットもある。
すなわち、クロストーク(流体/構造クロストーク)の影響を抑制するために設けられるダンパ部130は、個別流路4の開口部4aの近くに配置されるほど、クロストーク抑制効果が高まる。しかしながら、ダンパ部130を個別流路4の開口部4aに近づけすぎると、共通流路3の高さが低くなり、共通流路3内を液体が流れにくくなる結果、各個別流路4への液体供給能力が下がり、各個別流路4への液体供給不足による吐出不良や不吐出が発生してしまう。本実施形態であれば、共通流路3内に迂回用隔壁部121aを配置してクロストークの影響が抑制されているので、ダンパ部130を個別流路4の開口部4aにあまり近づけなくても、クロストークの影響が抑制される。したがって、各個別流路4への液体供給能力不足を生じさせることなく、クロストークの影響を抑制することができる。
【0068】
特に、本実施形態においては、
図6に示すように、共通流路3へ液体を供給する供給連通路32はB列方向(ヘッド長手方向)に対して直交するヘッド短手方向の一端側に設けられ、共通流路3から液体を排出する排出連通路34はヘッド短手方向の他端側に設けられている。このような構成により、共通流路3内の液体の流れは、供給連通路32からヘッド短手方向に沿って流れて排出連通路34へ向かうという流れが生じる。このとき、本実施形態における共通流路3には、A列方向に沿って長尺な貫通長孔121bがA列方向に並ぶノズルの個別流路4の開口部4aを通るように配置されている。この貫通長孔121bが延びるA列方向は、ヘッド短手方向とのなす角度が小さく、ヘッド短手方向に対しておおよそ平行に近い。そのため、共通流路3内をヘッド短手方向へ流れる液体は、迂回用隔壁部121aに邪魔されることなく、各貫通長孔121b内をスムーズに流れることができる。よって、共通流路3内に迂回用隔壁部121aを設けても、各貫通長孔121bから各個別流路4への液体供給能力を維持することができる。
【0069】
そして、共通流路3内に迂回用隔壁部121aを設けても、各貫通長孔121bから各個別流路4への液体供給能力を維持できることから、ダンパ部130を個別流路4の開口部4aにより近づけることが可能となり、更なるクロストーク抑制効果を得ることが可能である。
【0070】
なお、本実施形態では、共通流路3内に迂回用隔壁部121aを配置してクロストークの影響を抑制するとともに、ダンパ部130も併用してクロストークの影響を抑制しているが、これに限られない。例えば、共通流路3内に迂回用隔壁部121aを配置するだけでクロストークの影響を十分に取り除くことができている場合には、ダンパ部130を配置しない構成を採用することもできる。この場合、ダンパ部130の配置による各個別流路4への液体供給能力の不足が発生することが無くなる。
【0071】
また、本実施形態においては、隔壁部基板121の貫通長孔121bの寸法を、各個別流路4の開口部4aの寸法以上とし、隔壁部基板121の貫通長孔121bが各個別流路4の開口部4aの全体を含むように形成されているが、これに限られない。例えば、
図8及び
図9に示すように、隔壁部基板121の貫通長孔121bの寸法を、各個別流路4の開口部4aの寸法よりも小さく形成してもよい。この場合、各個別流路4の開口部4aの開口面積が狭くなって流体抵抗が高まるので、各個別流路4の開口部4aから出るクロストーク圧力を抑制できる結果、着目ノズル2Sの個別流路4Sでのクロストークの影響を抑制することができる。
【0072】
なお、本実施形態では、ノズル板振動方式の液体吐出ヘッド1の例で説明したが、本発明は、ノズル板(ノズル形成壁)と対向する側に位置する個別流路の開口部に面するように共通流路が設けられた液体吐出ヘッドであれば、駆動方式などの限定はない。
【0073】
例えば、ノズル板振動方式の液体吐出ヘッドのアクチュエータが、
図11(a)に示すように、ノズル板110(ノズル形成壁)上に配置されていてもよいし、
図11(b)に示すように、ノズル板110内に配置されていてもよいし、
図11(c)に示すように、ノズル板110の近傍(個別流路4内におけるノズル板110の近傍)に配置されていてもよい。また、アクチュエータは、
図11(a)及び
図11(b)に示すように、ノズル板110(ノズル形成壁)を図中矢印Aで示すように変位させる電気機械変換素子である圧電素子5やバイメタルのような熱機械変換素子であってもよいし、
図11(c)に示すように、個別流路4内の液体中にバブルBを発生させるヒータ素子5'のような駆動手段に代えても良い。
図11(a)~(c)に例示したアクチュエータの構成は、いずれも、流路構成が簡易となり、個別流路4からノズル2までの流路構成を1つの部品で製作することが可能である。そのため、小型・高密度・低コストで高精細な液体吐出ヘッドを実現しやすい。
【0074】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について、
図12及び
図13を参照して説明する。
図12は、本実施形態における液体を吐出する装置としての画像形成装置であるインクジェット記録装置である印刷装置の概略説明図である。
図13は、本実施形態の印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0075】
この液体を吐出する装置である印刷装置500は、連続体510を搬入する搬入手段501と、搬入手段501から搬入された連続体510を印刷手段505に案内搬送する案内搬送手段503とを備えている。また、印刷装置500は、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥する乾燥手段507と、連続体510を搬出する搬出手段509なども備えている。
【0076】
連続体510は搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段509の巻取りローラ591にて巻き取られる。この連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上をヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が印刷される。
【0077】
本実施形態の印刷装置500では、ヘッドユニット550に、上述した本実施形態に係る2つのヘッドモジュール100A,100Bを共通ベース部材552に備えている。
【0078】
そして、ヘッドモジュール100A,100Bの搬送方向と直交する方向における液体吐出ヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1A1,1A2で同じ色の液体を吐出する。同様に、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1B1、1B2を組とし、ヘッドモジュール100Bのヘッド列1C1、1C2を組とし、ヘッド列1D1、1D2を組として、それぞれ所要の色の液体を吐出する。
【0079】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の他の例について、
図14及び
図15を参照して説明する。
図14は、本例の印刷装置の要部平面説明図である。
図15は、本例の印刷装置の要部側面説明図である。
【0080】
本例の印刷装置500は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0081】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド1及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ヘッド1は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置と接続されて、所要の色の液体が循環供給される。
【0082】
この印刷装置500は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0083】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0084】
このように構成した印刷装置500においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0085】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について、
図16を参照して説明する。
図16は、本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図である。
【0086】
この液体吐出ユニット440は、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド1で構成されている。
【0087】
なお、この液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420を更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0088】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について、
図17を参照して説明する。
図17は、本例の液体吐出ユニットの正面説明図である。
【0089】
この液体吐出ユニット440は、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0090】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0091】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0092】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0093】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0094】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0095】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0096】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0097】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0098】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0099】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
【0100】
なお、ここでは、「液体吐出ユニット」について、液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、「液体吐出ユニット」には上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品、機構が一体化したものも含まれる。
【0101】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニットなどを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0102】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0103】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0104】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0105】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0106】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0107】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0108】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置がる。また、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などもある。
【0109】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0110】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
[第1態様]
第1態様は、液体を吐出する複数のノズル2と、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の個別流路4と、前記複数の個別流路ごとにそれぞれ設けられる複数のアクチュエータ(例えば圧電素子5)と、前記複数の個別流路のノズル形成壁(例えばノズル板110)と対向する側に位置する該複数の個別流路の各開口部4aに面する共通流路3とを備え、前記アクチュエータを駆動して前記個別流路内の液体を前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッド1であって、前記共通流路内には、着目ノズル2Sに隣接する複数の隣接ノズル2A,2Bのうちの一部の隣接ノズル2Bに対応する個別流路4Bの開口部と該着目ノズル2Sに対応する個別流路4Sの開口部との間に、当該開口部間の第一液内圧力伝搬経路長LBを、前記複数の隣接ノズルのうちの他の隣接ノズル2Aに対応する個別流路4Aの開口部と前記着目ノズル2Sに対応する個別流路4Sの開口部との間の第二液内圧力伝搬経路長LAよりも長くする迂回用部材(例えば迂回用隔壁部121a)が配置され、前記第一液内圧力伝搬経路長LBと前記第二液内圧力伝搬経路長LAとの差(LA-LB)が所定の経路長差ΔLになるように構成されている、ことを特徴とするものである。
従来の液体吐出ヘッドのように、共通流路から各個別流路までの流路の壁部を弾性部材からなるダンパ部材で構成する場合、比較的幅(共通流路から各個別流路までの流路方向に対して直交する方向の長さ)があるダンパ部材を配置するためのスペースを確保する必要がある。そのため、隣り合う個別流路の開口部間の距離(個別流路開口部間距離)を短くすることが困難となるので、ノズル間距離を短くすることが困難であり、単位面積当たりのノズル数を増やす(ノズル密度を高める)ことが難しい。
一方、一般的な液体吐出ヘッドでは、1つのノズル(着目ノズル)に対して2以上のノズル(隣接ノズル)が隣接して配置される。そのため、着目ノズルの個別流路には、2以上の隣接ノズルの個別流路内で生じるアクチュエータ駆動による液体の圧力波(クロストーク圧力)がそれぞれ伝搬される。ノズル密度の高い近年の液体吐出ヘッドでは、互いに隣り合うノズル(着目ノズルと隣接ノズル)の個別流路開口部間距離が小さい。したがって、2以上の隣接ノズルの個別流路からのクロストーク圧力は、着目ノズルの個別流路に対し、ほとんど時間差なく到達する。そのため、着目ノズルの個別流路に到達する2以上の隣接ノズルの個別流路からのクロストーク圧力は、互いにほとんど位相差が生じず、互いに強め合うことになり、クロストークの影響(液体の吐出速度変動など)が多い。
詳しくは、クロストーク圧力の周期は、通常、個別流路の共振周期Tcに整合するものであるため、クロストーク圧力の波長λは、共通流路内の液体中を伝搬する圧力伝搬速度をCとすると、λ=Tc×Cから求めることができる。このようにして求まるクロストーク圧力の波長λは、ノズル密度の高い近年の液体吐出ヘッドにおいては、互いに隣り合うノズル(着目ノズルと隣接ノズル)の個別流路開口部間距離よりもずっと長いものとなる。そのため、着目ノズルの個別流路に到達する2以上の隣接ノズルの個別流路からのクロストーク圧力は互いにほとんど位相差が生じることはなく、互いに強め合うことになる結果、クロストークの影響が多いものとなる。
ここで、2以上の隣接ノズルの個別流路からのクロストーク圧力が互いに十分相殺されるような位相差で着目ノズルの個別流路に到達するように構成できれば、クロストークの影響を抑制することができる。しかしながら、2以上の隣接ノズルのうちの一部の隣接ノズルと着目ノズルとの間の個別流路開口部間距離と、当該2以上の隣接ノズルのうちの他の隣接ノズルと着目ノズルとの間の個別流路開口部間距離との距離差を、両者のクロストーク圧力が互いに十分相殺される位相差に合わせて設定すると、ノズル密度が大幅に低下してしまう。すなわち、前者の個別流路開口部間距離を、例えば、後者の個別流路開口部間距離よりも最短の位相差(λ/2)だけ大きくしたとしても、ノズル密度の高い近年の液体吐出ヘッドにおける互いに隣り合うノズルの個別流路開口部間距離と比較すれば、前者の個別流路開口部間距離はずっと大きいものとなり、ノズル密度を低下させざるを得ない。
そこで、本態様においては、共通流路内に、着目ノズルに隣接する複数の隣接ノズルのうちの一部の隣接ノズルに対応する個別流路の開口部と当該着目ノズルに対応する個別流路の開口部との間に、当該開口部間の第一液内圧力伝搬経路長(クロストーク圧力の経路長)を、前記複数の隣接ノズルのうちの他の隣接ノズルに対応する個別流路の開口部と着目ノズルに対応する個別流路の開口部との間の第二液内圧力伝搬経路長よりも長くする迂回用部材を配置している。ここでいう「液内圧力伝搬経路長」とは、隣接ノズルの個別流路で発生するクロストーク圧力が共通流路内の液体中を伝搬して着目ノズルの個別流路に達する最短経路長を意味する。このような迂回用部材を配置することで、当該一部の隣接ノズルの個別流路で発生するクロストーク圧力は、共通流路内の迂回用部材を迂回して、着目ノズルの個別流路に到達することになる。その結果、例えば、当該一部の隣接ノズルと着目ノズルとの間における個別流路開口部間距離を維持したままでも、この迂回用部材の配置により、当該一部の隣接ノズルの個別流路から着目ノズルの個別流路までの第一液内圧力伝搬経路長(クロストーク圧力の経路長)を延ばすことができる。よって、当該一部の隣接ノズルと着目ノズルとの間の個別流路開口部間距離をあまり広げなくても又は全く広げなくても、当該一部の隣接ノズルの個別流路から着目ノズルの個別流路までの第一液内圧力伝搬経路長と、当該他の隣接ノズルの個別流路から当該着目ノズルの個別流路までの第二液内圧力伝搬経路長との差を、それぞれのクロストーク圧力を互いに十分相殺できるような所定の経路長差にすることが可能となる。
したがって、本態様によれば、ノズル密度の低下を抑制しつつも、クロストークの影響を抑制することが可能になる。
【0111】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記所定の経路長差ΔLは、前記個別流路の共振周期をTcとし、前記共通流路内の液体中を伝搬する圧力伝搬速度をCとしたとき、前記式(1)を満たすように設定される、ことを特徴とするものである。
これによれば、着目ノズルの個別流路に到達する各クロストーク圧力の位相差が1/2±1/4の範囲内となり、各クロストーク圧力間の十分な相殺効果が得られる。
【0112】
[第3態様]
第3態様は、第1又は第2態様において、前記迂回用部材は、前記他の隣接ノズル2Aに対応する個別流路4Aの開口部と前記着目ノズル2Sに対応する個別流路4Sの開口部との間には配置されていない、ことを特徴とするものである。
これによれば、前記所定の経路長差ΔLを長く設定することが可能となり、ノズル密度の低下を抑制しつつクロストークの影響を抑制することが容易になる。
【0113】
[第4態様]
第4態様は、第3態様において、前記第二液内圧力伝搬経路長LAは、前記個別流路の共振周期をTcとし、前記共通流路内の液体中を伝搬する圧力伝搬速度をCとしたとき、前記式(2)を満たすように設定される、ことを特徴とするものである。
これによれば、着目ノズル2Sに対するクロストークの影響を安定して抑制することが可能となる。
【0114】
[第5態様]
第5態様は、第1乃至第4態様のいずれかにおいて、前記複数のノズルは、ヘッド長手方向(例えばB列方向)に対して平行に延びる複数のノズル列を構成するように配置され、前記迂回用部材は、前記複数のノズル列それぞれのノズル列内における前記着目ノズル2S及び前記一部の隣接ノズル2Bにそれぞれ対応する個別流路4S,4Bの開口部の間を通って、前記複数のノズル列を直線状に横切るように配置される直線状壁部(例えば複数の貫通長孔121b間を仕切る仕切り壁)によって構成されている、ことを特徴とするものである。
これによれば、個々のノズル間の個別流路開口部の間に迂回用部材が個別に設けられる構成と比べて、ヘッド剛性をより高めることができ、構造クロストーク(面振動)による影響(液体の吐出速度変動や不吐出などの吐出不良など)も抑制することが可能となる。
【0115】
[第6態様]
第6態様は、第5態様において、前記共通流路へ液体を供給する液体供給口(例えば供給連通路32)は前記ヘッド長手方向に対して直交するヘッド短手方向の一端側に設けられ、前記共通流路から液体を排出する液体排出口(例えば排出連通路34)は前記ヘッド短手方向の他端側に設けられている、ことを特徴とするものである。
迂回用部材が直線状壁部で構成される場合、直線状壁部の当該直線方向(複数のノズル列を横切る方向)に直交するような方向へ流れる液体に対しては、直線状壁部が流れを大きく阻害し、各個別流路への液体供給能力が不足するおそれがある。一方で、直線状壁部間の空間(貫通長孔121b)内については、直線状壁部の当該直線方向(複数のノズル列を横切る方向)に沿って液体が流れやすい。本態様によれば、液体供給口から共通流路内に供給される液体は、ヘッド短手方向に沿って共通流路内を液体排出口へと流れることになる。この共通流路内を流れる方向(ヘッド短手方向)は、ヘッド長手方向に対して平行に延びる複数のノズル列を横切る方向に平行な方向、又は、この方向とのなす角が小さい方向となる。したがって、液体供給口から液体排出口に向かって共通流路3内をヘッド短手方向へ流れる液体は、直線状壁部(迂回用部材)に邪魔されることなく、直線状壁部間の空間(貫通長孔121b)内をスムーズに流れることができる。よって、共通流路内に直線状壁部(迂回用部材)を設ける構成を採用しても、直線状壁部間の空間(貫通長孔121b)から各個別流路への液体供給能力を維持することができる。
【0116】
[第7態様]
第7態様は、第1乃至第6態様のいずれかにおいて、前記共通流路における前記複数の個別流路の開口部と対向する側にはダンパ部材(例えばダンパ部130)が設けられている、ことを特徴とするものである。
これによれば、ダンパ部材によるクロストーク圧力の減退効果も、迂回用部材によるクロストーク圧力の相殺効果と併せて発揮でき、クロストークの影響を更に抑制することが可能になる。
【0117】
[第8態様]
第8態様は、第7態様において、前記開口部と前記ダンパ部材との最小距離が、隣接する2つの個別流路における前記開口部の最小中心間距離以下である、ことを特徴とするものである。
本態様においては、複数の個別流路の各開口部とダンパ部材との間の最小距離が、隣接する2つの個別流路の開口部の中心間距離以下となるように、構成されている。この構成であれば、各個別流路の開口部からのクロストーク圧力の大部分が共通流路内の液体を通じて隣接する他の個別流路の開口部に回り込む前に、当該クロストーク圧力はダンパ部材に到達することができる。これにより、各個別流路から他の個別流路の開口部に到達するクロストーク圧力が当該他の個別流路内における液体の圧力変動に与える影響を小さく抑えることができ、クロストークを抑制することができる。
【0118】
[第9態様]
第9態様は、第1乃至第8態様のいずれかにおいて、前記迂回用部材の高さは750[μm]以上である、ことを特徴とするものである。
これによれば、ノズル密度の高い近年の液体吐出ヘッドにおいても、ノズル密度の低下を抑制しつつクロストークの影響を抑制することが可能になる。
【0119】
[第10態様]
第10態様は、液体を吐出する装置であって、第1乃至第9態様のいずれかの液体吐出ヘッドを備えることを特徴とするものである。
本態様によれば、ノズル密度の低下を抑制しつつクロストークの影響を抑制できる液体を吐出する装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0120】
1 :液体吐出ヘッド
2 :ノズル
2A,2B:隣接ノズル
2S :着目ノズル
3 :共通流路
4,4A,4B,4S:個別流路
4a :開口部
5 :圧電素子
5' :ヒータ素子
31 :供給液体貯留室
32 :供給連通路
33 :液体供給口
34 :排出連通路
35 :排出液体貯留室
36 :液体排出口
51 :第一電極
52 :圧電膜
53 :第二電極
61 :ダンパフィルム
62 :ダンパフィルム保持部材
63 :空気室
64 :大気開放孔
100 :個別流路基板
101 :駆動回路
102 :配線部
103 :振動膜
110 :ノズル板
120 :共通流路基板
121 :隔壁部基板
121a :迂回用隔壁部
121b :貫通長孔
122 :流路確保基板
130 :ダンパ部
140 :フレーム部
LA,LB:液内圧力伝搬経路長
MA,MB:開口部中心間距離
ΔL :経路長差
【先行技術文献】
【特許文献】
【0121】