(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174351
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】情報処理装置およびセンシング方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092137
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スタペルブルツク ヴイラム ヨハン
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD05
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK14
(57)【要約】
【課題】対象物をセンシングするための情報処理装置を提供する。
【解決手段】FMCWレーダーを用いて対象物をセンシングする情報処理装置であって、受信信号に対して角度FFTを実行することで、前記対象物との角度に関する角度パワースペクトルを取得するデータ処理部と、前記角度パワースペクトルに基づいて、前記対象物との角度を示す角度ピークビンを取得する取得部と、前記パワースペクトル信号に応じた出力信号を抽出する抽出部と、複数のピークビンのビン番号に応じて、出力信号の位相を補正する補正部とを備え、前記データ処理部は、前記受信信号に矩形窓よりも高次の窓関数を適用し、前記補正部は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に応じて、加算又は減算される位相差が(N-1)/2×π×sin(θ(i))[rad]となるように前記出力信号の位相を補正する情報処理装置。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCWレーダーを用いて対象物をセンシングする情報処理装置であって、
前記FMCWレーダーの受信波に基づく複数のアンテナの受信信号を処理して、予め定められたビン数のパワースペクトル信号を生成するデータ処理部であって、前記受信信号に対して角度FFTを実行することで、前記対象物との角度に関する角度パワースペクトルを取得する、データ処理部と、
前記パワースペクトル信号に基づいて、前記対象物に応じた複数のピークビンを取得する取得部であって、前記角度パワースペクトルに基づいて、前記対象物との角度を示す角度ピークビンを取得する、取得部と、
前記パワースペクトル信号に応じた出力信号を抽出する抽出部と、
前記複数のピークビンのビン番号に応じて、前記出力信号の位相を補正する補正部と
を備え、
前記データ処理部は、前記受信信号に矩形窓よりも高次の窓関数を適用し、
前記補正部は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に応じて、加算又は減算される位相差が(N-1)/2×π×sin(θ(i))[rad]となるように前記出力信号の位相を補正し、
Nは、前記複数のアンテナの数であり、
iは、前記角度ピークビンの前記ビン番号であり、
θ(i)[rad]は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に対応する角度である
情報処理装置。
【請求項2】
前記複数のピークビンは、予め定められた第1ビン番号のピークビンと、前記第1ビン番号と異なる第2ビン番号のピークビンとを含み、
前記補正部は、前記第1ビン番号のピークビンの位相を補正せずに、前記第2ビン番号のピークビンの位相を補正する
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記データ処理部は、前記受信信号に対して距離FFTを実行することで、前記対象物との距離に関する距離パワースペクトルを取得し、
前記取得部は、前記距離パワースペクトルに基づいて、前記対象物との距離を示す距離ピークビンを取得する
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記距離FFTによって特定された前記距離ピークビンの位置に応じたデータ列に基づいて、前記角度FFTの前記角度ピークビンを取得する
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記補正部は、前記距離ピークビンの前記ビン番号に応じて、前記出力信号の位相を補正する
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記データ処理部は、
第1の窓関数を適用した前記受信信号に対して前記距離FFTを実行することで、前記距離パワースペクトルを取得し、
前記第1の窓関数とは異なる第2の窓関数を適用した前記受信信号に対して前記角度FFTを実行することで、前記角度パワースペクトルを取得し、
前記第2の窓関数は、前記第1の窓関数よりも高次の窓関数である
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記データ処理部は、前記受信信号に対して速度FFTを実行することで、前記対象物との速度に関する速度パワースペクトルを取得し、
前記取得部は、前記速度パワースペクトルに基づいて、前記対象物との速度を示す速度ピークビンを取得する
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記取得部は、距離FFTによって特定された距離ピークビン位置に応じたデータ列に基づいて、前記速度FFTの前記速度ピークビンを取得する
請求項7に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記対象物に対応する複数のデータをクラスタリングしたデータに変換するデータ変換部を備える
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項10】
予め定められた期間において、前記対象物に対応するデータが得られなかった場合に、過去の前記対象物のデータに基づいて、前記対象物をトラッキングする追跡部を備える
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記抽出部は、前記取得部が取得したピークビンから、同相成分と前記同相成分に直交する直交成分とを含むIQデータを抽出する
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項12】
前記データ処理部は、CAPON法または圧縮センシングのアルゴリズムを用いて、前記受信信号を処理する
請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項13】
FMCWレーダーを用いて対象物をセンシングするセンシング方法であって、
前記FMCWレーダーの受信波に基づく複数のアンテナの受信信号を処理して、予め定められたビン数のパワースペクトル信号を生成する段階であって、前記受信信号に対して角度FFTを実行することで、前記対象物との角度に関する角度パワースペクトルを生成する、段階と、
前記パワースペクトル信号に基づいて、前記対象物に応じた複数のピークビンを取得する段階であって、前記角度パワースペクトルに基づいて、前記対象物との角度を示す角度ピークビンを取得する、段階と、
前記パワースペクトル信号に応じた出力信号を抽出する段階と、
前記複数のピークビンのビン番号に応じて、前記出力信号の位相を補正する段階と
を備え、
前記パワースペクトル信号を生成する段階は、前記受信信号に矩形窓よりも高次の窓関数を適用する段階を含み、
前記出力信号の位相を補正する段階は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に応じて、加算又は減算される位相差が(N-1)/2×π×sin(θ(i))[rad]となるように前記出力信号の位相を補正する段階を含み、
Nは、前記複数のアンテナの数であり、
iは、前記角度ピークビンの前記ビン番号であり、
θ(i)[rad]は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に対応する角度である
センシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置およびセンシング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドップラーレーダーを用いて対象物をセンシングする情報処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1 特許第6029108号公報
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、FMCWレーダーを用いて対象物をセンシングする情報処理装置であって、前記FMCWレーダーの受信波に基づく複数のアンテナの受信信号を処理して、予め定められたビン数のパワースペクトル信号を生成するデータ処理部であって、前記受信信号に対して角度FFTを実行することで、前記対象物との角度に関する角度パワースペクトルを取得する、データ処理部と、前記パワースペクトル信号に基づいて、前記対象物に応じた複数のピークビンを取得する取得部であって、前記角度パワースペクトルに基づいて、前記対象物との角度を示す角度ピークビンを取得する、取得部と、前記パワースペクトル信号に応じた出力信号を抽出する抽出部と、前記複数のピークビンのビン番号に応じて、前記出力信号の位相を補正する補正部とを備え、前記データ処理部は、前記受信信号に矩形窓よりも高次の窓関数を適用し、前記補正部は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に応じて、加算又は減算される位相差が(N-1)/2×π×sin(θ(i))[rad]となるように前記出力信号の位相を補正し、Nは、前記複数のアンテナの数であり、iは、前記角度ピークビンの前記ビン番号であり、θ(i)[rad]は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に対応する角度である、情報処理装置を提供する。
【0004】
上記情報処理装置において、前記複数のピークビンは、予め定められた第1ビン番号のピークビンと、前記第1ビン番号と異なる第2ビン番号のピークビンとを含んでよい。前記補正部は、前記第1ビン番号のピークビンの位相を補正せずに、前記第2ビン番号のピークビンの位相を補正してよい。
【0005】
上記いずれかの情報処理装置において、前記データ処理部は、前記受信信号に対して距離FFTを実行することで、前記対象物との距離に関する距離パワースペクトルを取得てよい。前記取得部は、前記距離パワースペクトルに基づいて、前記対象物との距離を示す距離ピークビンを取得してよい。
【0006】
上記いずれかの情報処理装置において、前記取得部は、前記距離FFTによって特定された前記距離ピークビンの位置に応じたデータ列に基づいて、前記角度FFTの前記角度ピークビンを取得してよい。
【0007】
上記いずれかの情報処理装置において、前記補正部は、前記距離ピークビンの前記ビン番号に応じて、前記出力信号の位相を補正してよい。
【0008】
上記いずれかの情報処理装置において、前記データ処理部は、第1の窓関数を適用した前記受信信号に対して前記距離FFTを実行することで、前記距離パワースペクトルを取得し、前記第1の窓関数とは異なる第2の窓関数を適用した前記受信信号に対して前記角度FFTを実行することで、前記角度パワースペクトルを取得してよい。前記第2の窓関数は、前記第1の窓関数よりも高次の窓関数であってよい。
【0009】
上記いずれかの情報処理装置において、前記データ処理部は、前記受信信号に対して速度FFTを実行することで、前記対象物との速度に関する速度パワースペクトルを取得してよい。前記取得部は、前記速度パワースペクトルに基づいて、前記対象物との速度を示す速度ピークビンを取得してよい。
【0010】
上記いずれかの情報処理装置において、前記取得部は、距離FFTによって特定された距離ピークビン位置に応じたデータ列に基づいて、前記速度FFTの前記速度ピークビンを取得してよい。
【0011】
上記いずれかの情報処理装置は、前記対象物に対応する複数のデータをクラスタリングしたデータに変換するデータ変換部を備えてよい。
【0012】
上記いずれかの情報処理装置は、予め定められた期間において、前記対象物に対応するデータが得られなかった場合に、過去の前記対象物のデータに基づいて、前記対象物をトラッキングする追跡部を備えてよい。
【0013】
上記いずれかの情報処理装置において、前記抽出部は、前記取得部が取得したピークビンから、同相成分と前記同相成分に直交する直交成分とを含むIQデータを抽出してよい。
【0014】
上記いずれかの情報処理装置において、前記データ処理部は、CAPON法または圧縮センシングのアルゴリズムを用いて、前記受信信号を処理してよい。
【0015】
本発明の第2の態様においては、FMCWレーダーを用いて対象物をセンシングするセンシング方法であって、前記FMCWレーダーの受信波に基づく複数のアンテナの受信信号を処理して、予め定められたビン数のパワースペクトル信号を生成する段階であって、前記受信信号に対して角度FFTを実行することで、前記対象物との角度に関する角度パワースペクトルを生成する、段階と、前記パワースペクトル信号に基づいて、前記対象物に応じた複数のピークビンを取得する段階であって、前記角度パワースペクトルに基づいて、前記対象物との角度を示す角度ピークビンを取得する、段階と、 前記パワースペクトル信号に応じた出力信号を抽出する段階と、前記複数のピークビンのビン番号に応じて、前記出力信号の位相を補正する段階とを備え、前記パワースペクトル信号を生成する段階は、前記受信信号に矩形窓よりも高次の窓関数を適用する段階を含み、前記出力信号の位相を補正する段階は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に応じて、加算又は減算される位相差が(N-1)/2×π×sin(θ(i))[rad]となるように前記出力信号の位相を補正する段階を含み、Nは、前記複数のアンテナの数であり、iは、前記角度ピークビンの前記ビン番号であり、θ(i)[rad]は、前記角度ピークビンの前記ビン番号に対応する角度であるセンシング方法を提供する。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1B】送信部120が送信する送信波220の一例を示す。
【
図1C】情報処理装置500による信号処理の一例を説明するための図である。
【
図1D】対象物210の距離R、速度Vおよび角度θを説明するための図である。
【
図1E】対象物210の距離R、速度V、角度θ1および角度θ2を説明するための図である。
【
図2】システム600の動作原理を説明するための図である。
【
図3A】対象物210までの距離Rを検知する原理を説明するための図である。
【
図3B】対象物210の速度Vを検知する原理を説明するための図である。
【
図3C】対象物210の角度θを検知する原理を説明するための図である。
【
図4A】体動のある対象物210をセンシングする方法を説明するための図である。
【
図5C】データ処理部410および取得部420のより詳細な構成を説明するための図面である。
【
図5D】補正部440の位相補正アルゴリズムの一例である。
【
図5E】補正部440の位相補正アルゴリズムの変形例である。
【
図6A】ビン番号に対する信号強度と位相の関係の一例を示す。
【
図6B】ビン番号に対する信号強度と位相の関係の一例を示す。
【
図6C】ビン番号に対する信号強度と位相の関係の一例を示す。
【
図6D】ビン番号に対する信号強度と位相の関係の一例を示す。
【
図8B】データ処理部410および取得部420のより詳細な構成を説明するための図面である。
【
図9C】データ制御部450によるデータ変換の一例を示す。
【
図10】情報処理装置500による位相補償結果の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
図1Aは、システム600の構成の概要を示す。システム600は、送受信部100および情報処理装置500を備える。送受信部100は、送信部120および受信部140を有する。
【0020】
送信部120は、対象物210に周波数変調連続波レーダー(FMCWレーダー:Frequency Modulated Continuous Wave radar)を送信波220として送信する。FMCWレーダーは、周波数を変調した連続発振レーダーである。例えば、FMCWレーダーは、複数のチャープを含むバースト波を有する。各チャープでは、周波数が時間的に掃引されている。送信部120は、複数の送信アンテナを有してよい。
【0021】
受信部140は、対象物210で反射したFMCWレーダーの反射波を受信する。本例の受信部140は、受信波230を復調してアナログのビート信号150を生成する。受信部140は、複数の受信アンテナを有してよい。複数の受信アンテナを設けることにより、送受信部100からみた対象物210の角度θに関する情報を取得することができる。
【0022】
ビート信号150は、反射波のTOF(Time of Flight)に比例したIF(Intermediate Frequency)周波数にダウンコンバートしたIF信号の一例である。TOFは、送信された送信波220が反射波として受信されるまでの時間であり、情報処理装置500と対象物210との距離Rが離れるほど大きくなる。ビート信号150の周波数は、TOFに比例するので、距離Rにも比例して変化する。
【0023】
送受信制御部160は、送信部120および受信部140による信号の送受信を制御する。一例において、送受信制御部160は、送信波220のチャープの周波数の変調幅および周期を制御する。
【0024】
情報処理装置500は、ビート信号150をAD変換し、信号処理することにより、対象物210の距離Rおよび速度Vを算出する。本例の情報処理装置500は、距離Rを位相で計算することにより、数mm単位の微小振動を検知することができる。情報処理装置500は、入力部300および信号処理部400を有する。
【0025】
入力部300は、受信部140から入力されたアナログのビート信号150をデジタルの受信信号に変換する。受信信号は、受信部140が有する複数のアンテナの受信信号であってよい。入力部300は、RFIC等の集積回路により構成されたADCであってよい。
【0026】
信号処理部400は、入力部300が出力したデジタルの受信信号に基づいて、FFTなどの信号処理を実行するデジタルシグナルプロセッサ(DSP)である。信号処理部400は、デジタルの受信信号を処理することにより、対象物210を検知する。本明細書において、対象物210の検知とは、対象物210の距離R、速度Vおよび角度θ等を取得して、対象物210の存在を検出することを指す。なお、対象物210の距離R、速度Vおよび角度θについては後述する。
【0027】
また、信号処理部400は、対象物210の微小振動データに基づいて対象物210をセンシングする。本明細書において、対象物210のセンシングとは、対象物210の微小振動データ等の生体信号を取得することを指す。生体信号は、対象物210が生体である場合に存在するものであり、呼吸や心拍などにより発生する。
【0028】
微小振動データは、対象物210の心拍や呼吸に基づくデータである。一例において、情報処理装置500は、微小振動データとして、FMCWレーダーの波長を最大とした解像度を得ることができる。例えば、情報処理装置500は、FMCWレーダーで用いられるミリ波帯(30~300GHz程度の周波数帯)の1波長の100倍~1000倍の解像度を得ることができる。
【0029】
システム600は、対象物210にFMCWレーダーを送信することにより、対象物210をセンシングする。システム600は、FMCWレーダーの変調された周波数に基づく受信信号を適切に信号処理することにより、システム600と対象物210との相対速度が0の場合であっても、対象物210をセンシングすることができる。
【0030】
図1Bは、送信部120が送信する送信波220の一例を示す。送信波220は、1バースト中にm個のチャープを含む。mは、2以上の整数である。送受信部100は、チャープの周波数を変調し、送信波220と受信波230の差分を解析することにより、対象物210の距離R、速度Vおよび角度θを算出する。送受信部100は、対象物210の位置等に応じて、チャープの周波数の変調幅または周期を適宜調整してよい。本例の送信波220は、m個の同一波形のチャープを含むが、異なる波形のチャープを含んでもよい。
【0031】
FMCWレーダーは、対象物210からのエコーが返ってくる時間差を利用して、ターゲットまでの距離と相対速度を検知するレーダーである。例えば、FMCWレーダーは、数μ秒から数百μ秒程度の周期で周波数をリニアにアップダウンさせ、アップもしくはダウンの一方のみを検知に用いる。但し、FMCW方式では、アップおよびダウンの両方を検知に用いてもよい。
【0032】
FMCWレーダーは、複数のチャンネルを配置することで角度情報も同時に検知できる。例えば、FMCWレーダーは、76G帯(76~77GHz)において長距離検知を実現し、79G帯(77~81GHz)において中距離検知または短距離検知を実現する。なお、FMCWレーダーは、数ミリ秒から数百ミリ秒程度の周期で周波数をリニアに上下させる方式であってもよい。
【0033】
図1Cは、情報処理装置500による信号処理の一例を説明するための図である。
【0034】
送信波220のチャープの周波数は、時刻T0から時刻Tmの期間において、低周波数から線形的に上昇している。受信波230は、対象物210までの距離Rに応じて遅延時間Td後に受信される。遅延時間Tdは、対象物210との距離Rに応じて変化する。
【0035】
ビート信号150は、送受信部100において生成される。ビート信号150は、送信波220のチャープと受信波230のチャープの差分から生成される。ビート信号150の周波数は、遅延時間Tdの大きさに比例する。
【0036】
スペクトルデータは、信号処理部400により、ビート信号150の周波数が比較的安定する時刻Tdと時刻Tmの間の信号を用いて算出される。スペクトルデータの具体的な算出方法については後述する。
【0037】
図1Dは、対象物210の距離R、速度Vおよび角度θを説明するための図である。本例では、簡略化のため、送信部120および受信部140を同一の位置として考えている。
【0038】
対象物210は、送受信部100から距離Rの位置において、速度Vで変動している。速度Vは、送受信部100と対象物210との相対速度である。角度θは、送受信部100からみた対象物210の角度である。具体的には、受信部140が配列された方向をX軸方向とし、FMCWレーダーを出射する方向をY軸とした場合、角度θは、XY平面において、Y軸と対象物210の位置がなす角度である。
【0039】
図1Eは、対象物210の距離R、速度V、角度θ1および角度θ2を説明するための図である。情報処理装置500は、XY平面と垂直な新たな軸(Z軸)を検知する、いわゆる3Dレーダーとしても同様の原理で対象物210を検知し、センシングすることができる。その場合、情報処理装置500は、対象物210をXY平面に投影した角度θ1に加えて、YZ平面に投影した角度θ2を用いることにより、3次元の情報を取得する。なお、本明細書において、単に角度θと称する場合、角度θ1と角度θ2の両方を含むものと読み替てもよい。
【0040】
図2は、システム600の動作原理を説明するための図である。システム600は、データキューブ38を用いて、対象物210の距離R、速度Vおよび角度θに関する情報をそれぞれ取得する。
【0041】
送受信部100は、複数のチャネルを有する。一例において、送受信部100は、1個の送信アンテナと、k個の受信アンテナを有する。kは、1以上の整数である。送受信部100は、複数のチャネルを有することにより、角度θを検出することができる。k個の受信アンテナには、対象物210aと対象物210bからの反射信号がそれぞれ入力される。
【0042】
データキューブ38は、距離R、速度Vおよび角度θに関するデータ列をそれぞれ含む。データキューブ38は、距離FFTにより得られた距離データ列、速度FFTにより得られた速度データ列および角度FFTにより得られた角度データ列のそれぞれを含む。
【0043】
距離データ列をパワー変換することによって、ビン数がn/2の距離パワースペクトルが得られる。距離パワースペクトルは、対象物210aおよび対象物210bとの距離に応じた2つの距離ピークビンを含む。距離ピークビンとは、距離パワースペクトルにおいて、対象物210の距離に応じたピークを有するビンであってよい。
【0044】
距離パワースペクトルの距離ピークビン位置に対応したデータ列に速度FFTを実行し、新たに得られた速度データ列をパワー変換することによって、ビン数がmの速度パワースペクトルが得られる。速度パワースペクトルは、対象物210aもしくは対象物210bの速度に対応する速度ピークビンを含む。速度ピークビンとは、速度パワースペクトルにおいて、対象物210の速度に対応するピークを有するビンであってよい。どちらの生体の速度に対応するかは、選択した距離パワースペクトルの距離ピークビン位置に依存する。
【0045】
距離パワースペクトルの距離ピークビン位置に対応したデータ列に角度FFTを実行し、新たに得られた角度データ列をパワー変換することによって、ビン数がkの角度パワースペクトルが得られる。角度パワースペクトルは、対象物210aもしくは対象物210bの角度に対応する角度ピークビンを含む。角度ピークビンとは、角度パワースペクトルにおいて、対象物210の角度に対応するピークを有するビンであってよい。どちらの生体の角度に対応するかは、選択した距離パワースペクトルの距離ピークビン位置に依存する。
【0046】
情報処理装置500は、角度FFTで得られた対象物210の角度データ列を位相変換することで得られる位相情報を時系列に算出し、対象物210の生体信号データを取得する。なお、生体信号情報として用いる位相情報のビン位置は、角度パワースペクトルの角度ピークビン位置に対応する。生体信号データは、情報処理装置500の出力信号の一例である。
【0047】
図3Aは、対象物210までの距離Rを検知する原理を説明するための図である。対象物210までの距離Rは、少なくとも1つのチャープの距離FFTにより算出される。グラフの実線は送信波220を示し、破線は受信波230を示す。縦軸は周波数を示し、横軸は時間を示す。
【0048】
IF周波数は、FMCWレーダーの送信波220および受信波230をミキシングして得られるビート信号150の周波数である。IF周波数は、情報処理装置500と対象物210との距離Rが大きいほど高くなる。情報処理装置500は、一定期間、対象物210までの距離Rに比例したIF周波数を得ることができる。即ち、情報処理装置500は、IF周波数を解析することにより、対象物210までの距離Rを取得できる。
【0049】
情報処理装置500は、チャープ毎に距離FFT処理を実行する。例えば、FFTポイント数がnポイントの場合、実部と虚部のデータ列がそれぞれn/2ポイント得られ、ビン数がn/2となる。情報処理装置500は、距離FFTの結果に基づいてパワー変換することにより、距離ピークビンを算出する。情報処理装置500は、ピークが現れる周波数に基づいて対象物210までの距離Rを算出できる。
【0050】
図3Bは、対象物210の速度Vを検知する原理を説明するための図である。バースト内の複数回のチャープに対する距離FFTで得られた各データ列に対し、距離パワースペクトルの距離ピークビン位置に対応する新たなデータ列に対して、速度FFTを実行する。1バーストには、m回のチャープが含まれる。対象物210の速度Vは、速度FFTの結果に基づいてパワー変換することにより算出される。
【0051】
情報処理装置500は、1バースト分で速度FFT処理を実行する。例えば、1バースト中のチャープ数がmの場合、実部と虚部のデータ列がそれぞれmポイント得られ、ビン数がmとなる。情報処理装置500は、速度FFTの結果に基づいてパワー変換することにより、速度ピークビン位置を算出する。情報処理装置500は、速度FFTの速度ピークビンの周波数から速度Vを計算することができる。
【0052】
図3Cは、対象物210の角度θを検知する原理を説明するための図である。角度θは、各チャネルのチャープに対する距離FFTで得られた各データ列に対し、距離パワースペクトルの距離ピークビン位置に対応する新たなデータ列に対して、角度FFTを実行する。1回のチャープにより、k個のチャネルに応じたk個のチャープが含まれてよく、全体として1個のチャープが含まれてもよい。一例として、MIMO(Multi―Input and Multi-Output)技術が用いられる場合、k個のチャネルに応じたk個のチャープが含まれる。
【0053】
情報処理装置500は、kチャネル分で角度FFT処理を実行する。例えば、kチャネルの場合、実部と虚部のデータ列がそれぞれkポイント得られ、ビン数がkとなる。情報処理装置500は、X軸方向に配列したkチャネルの受信部140で受信波230を受信する。それぞれの受信部140が受信する受信波230には、対象物210の角度θに応じた位相差が生じるので、情報処理装置500は、kチャネルの受信信号を解析することにより、対象物210の角度θを算出できる。
【0054】
図4Aは、体動のある対象物210をセンシングする方法を説明するための図である。対象物210の体動は、心拍等の生体信号と比べて、大きな動きである。対象物210の体動があると、角度パワースペクトルの角度ピークビンの位置が移動する場合がある。対象物210が同一のビンに存在せず、ビンが変更されると、位相の不連続性(即ち、位相シフト)が生じる場合がある。
【0055】
情報処理装置500は、FMCWレーダーによる生体センシングの基本原理として、対象物210が角度FFTの角度ピークビンをトラックすることにより、対象物210の正確な角度情報を得ることができる。一方で、角度ピークビンが変更した場合においても、同一のビンのみをトラックすると、角度ピークビンに比べて得られる位相情報精度が劣化してしまう場合がある。本例の情報処理装置500は、位相シフトを補償することにより、このような位相情報の精度の劣化を抑制することができる。
【0056】
図4Bは、対象物210の体動の影響の一例を示す。このような体動を抽出するために、チャープの多数の点で位相を取得している。しかしながら、位相値を取得する角度ピークビンが変化すると、位相信号が不連続となり、 およそπ[rad]かそれより小さい位相シフトが生じる場合がある。位相シフトの値は、遷移するビン数によって異なる。本例では、0秒から10秒までの期間において、角度ピークビンがビン番号9から17の間で変化した場合に、いくつかの位相シフトが生じている。
【0057】
図5Aは、信号処理部400の構成の一例を示す。信号処理部400は、データ処理部410と、取得部420と、抽出部430と、補正部440とを備える。
【0058】
データ処理部410は、受信波230に基づく複数のアンテナの受信信号を処理して、予め定められたビン数のパワースペクトル信号を生成する。本例のデータ処理部410は、距離FFT、速度FFTまたは角度FFTの少なくとも1つを実行して、パワースペクトル信号を生成する。一例として、データ処理部410は、受信信号に対して角度FFTを実行することで、対象物210との角度に関する角度パワースペクトルを取得する。別の例として、データ処理部410は、受信信号に対して距離FFTを実行することで、対象物210との距離に関する距離パワースペクトルを取得してよく、受信信号に対して速度FFTを実行することで、対象物210との速度に関する速度パワースペクトルを取得してよい。なお、データ処理部410は、CAPON法または圧縮センシングなどの他のアルゴリズムを用いて、受信信号を処理してよい。
【0059】
取得部420は、データ処理部410が出力したパワースペクトル信号に基づいて、対象物210に応じたピークビンを取得する。取得部420は、対象物210が属するピークビンのビン番号が変更された場合は、取得するピークビンを変更してもよい。一例として、取得部420は、角度パワースペクトルに基づいて、対象物210との角度を示す角度ピークビンを取得する。別の例として、取得部420は、距離パワースペクトルに基づいて、対象物210との距離を示す距離ピークビンを取得してよく、速度パワースペクトルに基づいて、対象物210との速度を示す速度ピークビンを取得してよい。
【0060】
抽出部430は、パワースペクトル信号から予め定められた出力信号を抽出する。本例の抽出部430は、取得部420が取得したピークビンに基づいて、同相成分と、同相成分に直交する直交成分とを含むIQデータを抽出する。一例として、抽出部430は、角度パワースペクトルに応じた出力信号を抽出してよい。別の例として、抽出部430は、距離パワースペクトルに応じた出力信号を抽出してよく、速度パワースペクトルに応じた出力信号を抽出してよい。
【0061】
補正部440は、抽出部430が抽出したIQデータと取得部420の検出結果に基づいて、位相補正アルゴリズムを実行する。補正部440は、複数のピークビンのビン番号に応じて、出力信号の位相を補正する。これにより、補正部440は、時間変化に応じて対象物210の属するビン番号が変更した場合に生じる位相シフトの影響を抑制することができる。補正部440の具体的な動作については後述する。
【0062】
図5Bは、信号処理部400の動作の一例を示す。信号処理部400は、入力部300でAD変換されたデジタルの受信信号を受信している。
【0063】
データ処理部410は、距離FFT処理を実行する。データ処理部410は、受信信号に対して窓関数処理と距離FFTを実行することにより、距離パワースペクトルを取得する。また、データ処理部410は、角度FFTを実行する。データ処理部410は、受信信号に対して窓関数処理と角度FFTを実行することで、角度パワースペクトルを取得する。データ処理部410は、生成した距離パワースペクトルと角度パワースペクトルを取得部420に出力する。
【0064】
取得部420は、距離パワースペクトルに基づいて、対象物210との距離Rを示す距離ピークビンを取得する。取得部420は、単純なピーク検出アルゴリズムによりピーク位置を取得してもよいし、CFARアルゴリズムなどの他のアルゴリズムを用いてピーク位置を取得してもよい。取得部420は、取得した対象物210との距離Rに関する情報を抽出部430に出力する。取得部420は、取得した対象物210との距離Rに関する情報を補正部440にも出力してもよい。
【0065】
取得部420は、角度パワースペクトルに基づいて、対象物210との角度θを示す角度ピークビンを取得する。本例の取得部420は、距離FFTによって特定された距離ピークビン位置に応じたデータ列に基づいて、角度FFTの角度ピークビンを取得している。これにより、距離Rに応じて選択した任意の対象物210の角度θを取得できる。
【0066】
抽出部430は、データ処理部410による距離FFTと角度FFTの結果から、取得部420が取得したピークビンに対応するIQデータを取得する。抽出部430は、パワースペクトル信号からIQデータを直接抽出してもよいし、圧縮センシングなどの他のアルゴリズムを使用してもよい。抽出部430は、IQデータの抽出結果を補正部440に出力する。
【0067】
補正部440は、データ処理部410の出力信号の位相を補正する。本例の補正部440は、角度FFT後の角度取得結果に基づいて、出力信号の位相を補正している。例えば、補正部440は、角度FFTによって取得された角度ピークビンのビン番号に応じて、角度パワースペクトルの角度ピークビンの位相を補正する。
【0068】
図5Cは、データ処理部410および取得部420のより詳細な構成を説明するための図面である。データ処理部410は、窓関数実行部411、距離FFT実行部412、窓関数実行部413および角度FFT実行部414を有する。
【0069】
窓関数実行部411は、デジタルの受信信号に予め定められた窓関数を実行する。窓関数実行部411は、矩形窓、ハン窓、ハミング窓またはブラックマン窓のような任意の窓関数を用いてよい。窓関数実行部411は、矩形窓よりも高次の窓関数を用いて受信信号を切り出してよい。ハン窓、ハミング窓およびブラックマン窓は、矩形窓よりも高次の窓関数の一例である。
【0070】
本例では、窓関数実行部411がデジタルの受信信号を切り出した後に、距離FFT実行部412が距離FFTを実行して周波数ドメインの距離パワースペクトルに変換する。但し、FFT処理と窓関数処理の順序はこれに限定されない。距離FFT実行部412が距離FFTして周波数ドメインの距離パワースペクトルに変換した後に、窓関数実行部411が信号を切り出してもよい。スペクトル変換には、CAPON法または圧縮センシングなどの他のアルゴリズムが使用されてよい。
【0071】
窓関数実行部413は、デジタルの受信信号に予め定められた窓関数を作用させる。窓関数実行部413は、矩形窓、ハン窓、ハミング窓またはブラックマン窓のような任意の窓関数を用いてよい。窓関数実行部413は、矩形窓よりも高次の窓関数を用いて受信信号を切り出してよい。ハン窓、ハミング窓およびブラックマン窓は、矩形窓よりも高次の窓関数の一例である。
【0072】
本例では、窓関数実行部413がデジタルの受信信号を切り出した後に、角度FFT実行部414が角度FFTを実行して周波数ドメインの角度パワースペクトルに変換する。但し、FFT処理と窓関数処理の順序はこれに限定されない。角度FFT実行部414が角度FFTして周波数ドメインの角度パワースペクトルに変換した後に、窓関数実行部413が信号を切り出してもよい。スペクトル変換には、CAPON法または圧縮センシングなどの他のアルゴリズムが使用されてよい。
【0073】
窓関数実行部411と窓関数実行部413とは、異なる次数の窓関数を用いてよい。すなわち、データ処理部410は、第1の窓関数を適用した受信信号に対して距離FFTを実行することで、距離パワースペクトルを取得してよく、第1の窓関数とは異なる第2の窓関数を適用した受信信号に対して角度FFTを実行することで、角度パワースペクトルを取得してよい。この場合において、第2の窓関数は、第1の窓関数よりも高次の窓関数であってよい。ただし、第1の窓関数と第2の窓関数の次数は同一であってよく、第2の窓関数は第1の窓関数よりも低次の窓関数であってもよい。
【0074】
距離FFTを実行する受信信号に対して適用する窓関数の次数が高次になると、同一の距離にある異なる対象物210の位相信号が互いに変調するおそれがある。一方、角度FFTを実行する受信信号に対して適用する窓関数の次数が高次になると、後述する位相シフトπの個数を低減することができ、出力信号の位相誤差を低減することができる。したがって、第2の窓関数を第1の窓関数よりも高次の窓関数とすることで、同一の距離にある異なる対象物210の位相信号の変調を抑制しつつ、出力信号の位相誤差を低減することができる。
【0075】
取得部420は、距離FFT実行部412または角度FFT実行部414が出力した周波数ドメインのパワースペクトル信号から、予め定められた検出アルゴリズムを用いて、対象物210の距離Rまたは角度θを示したピーク位置を検出する。取得部420は、単純なピーク検出アルゴリズムによりピーク位置を取得してもよいし、CFARアルゴリズムなどの他のアルゴリズムを用いてピーク位置を取得してもよい。取得部420は、取得した対象物210の距離Rおよび/または角度θに対応するピークビンを抽出部430および補正部440に出力する。本例の取得部420は、距離ピークビンおよび角度ピークビンを抽出部430に出力し、角度ピークビンを補正部440に出力している。
【0076】
図5Dは、補正部440の位相補正アルゴリズムの一例である。補正部440は、位相選択部441および回転部442を有する。
【0077】
位相選択部441は、角度パワースペクトルの角度ピークビンのビン番号に基づいて、(N-1)/2×π×sin(θ(i))[rad]に応じた大きさの位相を選択する。Nは複数のアンテナの数であり、iは角度ピークビンのビン番号であり、θ(i)[rad]は角度ピークビンのビン番号iに対応する角度である。
【0078】
回転部442は、位相選択部441が選択した位相でIQデータの位相を回転する。これにより、補正部440は、角度ピークビンのビン番号の変化に応じて、角度ピークビンの位相を補正することができる。
【0079】
図5Eは、補正部440の位相補正アルゴリズムの変形例である。補正部440は、位相選択部441、位相変換部443および加減算部444を有する。本例の補正部440は、角度ピークビンのビン番号に応じて、加算又は減算される位相差が(N-1)/2×π×sin(θ(i))[rad]となるように角度ピークビンの位相を補正する。Nは複数のアンテナの数であり、iは角度ピークビンのビン番号であり、θ(i)[rad]は角度ピークビンのビン番号iに対応する角度である。
【0080】
位相変換部443は、IQデータを位相データに変換する。本例の位相変換部443は、IQデータからtan-1(Q/I)を計算することによって、位相データに変換している。
【0081】
加減算部444は、取得部420が取得したビン番号に基づいて、位相変換部443が変換した位相データに対して、(N-1)/2×π×sin(θ(i))[rad]に応じた位相を加算または減算する。
【0082】
なお、データ処理部410は、およそπの位相シフトを除去するために、受信信号に矩形窓よりも高次の窓関数を適用してよい。高次の窓関数と、およそπの位相シフトの除去との関係については、後述する。
【0083】
以上のように、本例の情報処理装置500は、角度ピークビンのビン番号に応じて、出力信号の位相を補正する。角度FFTに用いられるデータ数は、複数のアンテナの数に依存しているので、距離FFTに用いられるデータ数よりも少ない場合がある。このことから、出力信号の位相を補正するためには、ゼロパディングFFTまたは他の複雑な変換アルゴリズムが必要となる場合がある。本例の情報処理装置500は、角度ピークビンのビン番号に応じて、出力信号の位相を補正することで、複雑なアルゴリズムを用いずに出力信号の位相を補正することができる。
【0084】
図6Aは、ビン番号に対する信号強度と位相の関係の一例を示す。本例のデータ処理部410は、窓関数として矩形窓を用いている。出力信号の位相誤差は、対象物210の角度θに応じた正弦関数に従う。また、出力信号の位相誤差は、角度ピークビンのビン番号に応じて位相シフトπを有する場合がある。位相シフトπの数は、使用する複数のアンテナの数Nに依存する。矩形窓を使用した場合の位相シフトπの合計数はN-1である。正弦関数に従う位相誤差は対象物210の角度θのみに依存し、対象物210の距離Rに依存しない。一方、位相シフトπが生じる角度θは、対象物210の距離Rに依存する。
【0085】
図6Bは、ビン番号に対する信号強度と位相の関係の一例を示す。本例のデータ処理部410は、窓関数としてハン窓を用いている。窓関数としてハン窓を用いる場合、矩形窓を用いた場合と比較して、位相シフトπが実際の目標位置からさらに離れてシフトする。
【0086】
図6Cは、ビン番号に対する信号強度と位相の関係の一例を示す。本例のデータ処理部410は、窓関数としてハミング窓を用いている。窓関数としてハミング窓を用いる場合、ハン窓を用いた場合と比較して、位相シフトπが実際の目標位置からさらに離れてシフトする。また、位相シフトπの数が2つ減少する。
【0087】
図6Dは、ビン番号に対する信号強度と位相の関係の一例を示す。本例のデータ処理部410は、窓関数としてブラックマン窓を用いている。窓関数としてブラックマン窓を用いる場合、ハミング窓を用いた場合と比較して、位相シフトπが実際の目標位置からさらに離れてシフトする。また、位相シフトπの数が2つ減少する。
【0088】
以上のように、矩形窓以外の窓関数においは、矩形窓よりも位相シフトπが実際の目標位置から離れてシフトする。また、窓関数の次数が高いほど、発生する位相シフトは少なくなる。
【0089】
なお、情報処理装置500は、矩形窓よりも高次の窓関数を用いることにより、対象物210が移動した場合であっても、対象物210が存在するビンの位置を特定しやすくなる。複数の対象物210が存在する場合、対象物間の距離に応じて、適宜最適な窓関数を選択してよい。
【0090】
図7は、信号処理部400の変形例を示す。本例では、
図5Bの実施例と相違する点について特に説明する。その他の点は、
図5Bと同一であってもよい。本例の取得部420は、取得した対象物210との距離Rに関する情報を補正部440にも出力する。本例の補正部440は、距離取得結果に基づく補正と角度取得結果に基づく補正の双方を行ってよい。角度取得結果に基づく補正についての説明は、
図5Bに関連して説明した通りであるので、本例では省略する。
【0091】
本例の補正部440は、距離FFT後の距離取得結果に基づいて、出力信号の位相を補正している。例えば、補正部440は、距離FFTによって取得された距離ピークビンのビン番号に応じて、距離パワースペクトルの距離ピークビンの位相を補正する。一例として、補正部440は、奇数のビン番号に加算又は減算する位相と、偶数のビン番号に加算又は減算する位相との差が(2×j+1)π[rad]となるように出力信号の位相を補正してよい。jは、任意の整数であってよい。
【0092】
図8Aは、信号処理部400の変形例を示す。本例では、
図5Bの実施例と相違する点について特に説明する。その他の点は、
図5Bと同一であってもよい。本例のデータ処理部410は、距離FFTおよび角度FFTに加えて、速度FFTをそれぞれ実行する。
【0093】
データ処理部410は、受信信号に対して速度FFTを実行することで、速度パワースペクトルを取得する。また、データ処理部410は、受信信号に対して角度FFTを実行することで、角度パワースペクトルを取得する。本例のデータ処理部410は、距離FFTを実行した後に、距離FFTによって特定された距離ピークビン位置に応じたデータ列に基づいて、速度FFTおよび角度FFTを実行している。
【0094】
取得部420は、対象物210の距離Rおよび角度θに加えて、速度Vに関するピークビンを取得する。取得部420は、速度パワースペクトルに基づいて、対象物210の速度Vを示す速度ピークビンを取得する。本例の取得部420は、距離FFTによって特定された距離ピークビン位置に応じたデータ列に基づいて、速度FFTの速度ピークビンを取得している。これにより、距離Rに応じて選択した任意の対象物210の速度Vを取得できる。
【0095】
抽出部430は、対象物210の距離R、速度Vおよび角度θを示すピークビンに基づいて、それぞれのIQデータを抽出する。本例の抽出部430は、対象物210の距離Rの距離ピークビンに応じたビンの速度Vおよび角度θからIQデータを抽出する。抽出部430は、IQデータを直接抽出してもよいし、圧縮センシングなどの他のアルゴリズムを用いて抽出してもよい。
【0096】
補正部440は、抽出部430が抽出した距離R、速度Vまたは角度θの少なくとも1つから抽出されたIQデータに基づいて、位相補正アルゴリズムを実行する。例えば、補正部440は、対象物210の距離R、速度Vおよび角度θから抽出されたIQデータに基づいて、距離R、速度Vおよび角度θのそれぞれの出力信号の位相を補正する。
【0097】
本例の情報処理装置500は、距離R、速度Vおよび角度θのそれぞれについて位相を補正した出力信号を出力することができる。情報処理装置500は、距離R、速度Vまたは角度θのうちいずれかの出力信号の位相のみを補正してもよい。
【0098】
図8Bは、データ処理部410および取得部420のより詳細な構成を説明するための図面である。本例では、速度FFTに関する処理を説明する。本例のデータ処理部410は、窓関数実行部415および速度FFT実行部416を有する。
【0099】
窓関数実行部415は、入力された信号を切り出すために、予め定められた窓関数を実行する。速度FFT実行部416は、窓関数実行部415が切り出した信号を速度FFT処理することにより周波数ドメインの速度パワースペクトルに変換する。
【0100】
本例では、窓関数実行部415がデジタルの受信信号を切り出した後に、速度FFT実行部416が速度FFTして周波数ドメインの速度パワースペクトルに変換する。但し、FFT処理と窓関数処理の順序はこれに限定されない。速度FFT実行部416が速度パワースペクトルに変換した後に、窓関数実行部415が信号を切り出してもよい。スペクトル変換には、CAPON法または圧縮センシングなどの他のアルゴリズムが使用されてよい。
【0101】
取得部420は、速度FFT実行部416が出力した周波数ドメインのパワースペクトル信号から、予め定められた検出アルゴリズムを用いて、対象物210の速度Vを示したピーク位置を検出する。取得部420は、単純なピーク検出アルゴリズムによりピーク位置を取得してもよいし、CFARアルゴリズムなどの他のアルゴリズムを用いてピーク位置を取得してもよい。取得部420は、取得した対象物210の速度Vに対応する速度ピークビンを抽出部430および補正部440に出力する。
【0102】
図9Aは、信号処理部400の変形例を示す。本例では、
図8Aの実施例と相違する点について特に説明する。その他の点は、
図8Aと同一であってもよい。本例の信号処理部400は、データ制御部450を有する。データ制御部450は、データ変換部452および追跡部454を有している。
【0103】
データ変換部452は、取得部420が取得した対象物210に対応する複数のデータをクラスタリングしたデータに変換する。例えば、データ変換部452は、同じ対象物210に属する可能性のある複数の検出点が発生した場合に、対象物210に対応する複数の検出点を1つの検出点に置き換える。これにより、情報処理装置500は、同じ対象物210に対応するグループを1つの検出点にクラスタリングして、処理を簡略化することができる。
【0104】
追跡部454は、予め定められた期間において、対象物210に対応するデータが得られなかった場合に、過去の対象物210のデータに基づいて、対象物210をトラッキングする。追跡部454は、予め定められた時間内の処理で対象物210を検出できず、対象物210の振動の検出にデータの欠落が発生した場合であっても、トラッキングアルゴリズムを用いることにより、対象物210のデータを補完することができる。これにより、情報処理装置500は、予め定められた時間内に測定データがない場合であっても、対象物210の位置を予測することができる。
【0105】
本例では、データ制御部450がクラスタリングしたデータを抽出部430および補正部440に出力するので、抽出部430および補正部440における処理を簡略化することができる。また、データ制御部450がトラッキングしたデータを抽出部430および補正部440に出力するので、抽出部430および補正部440においてもデータの欠落を回避することができる。
【0106】
図9Bは、信号処理部400の動作の一例を示す。データ制御部450は、対象物210の距離R、速度Vまたは角度θの少なくとも1つに対応する検出点について、クラスタリング処理またはトラッキング処理を実行してよい。データ制御部450は、処理したデータをそれぞれ抽出部430および補正部440に出力する。
【0107】
図9Cは、データ制御部450によるデータ変換の一例を示す。本例のデータ変換方法は、一例でありこれに限定されない。
【0108】
ステップS100において、データ制御部450は、取得部420で取得された取得データをクラスタリングする。例えば、取得データの分布に応じてそれぞれの取得データを各クラスタにクラスタリングする。本例のデータ制御部450は、3つのクラスタにクラスタリングしている。データ制御部450は、各クラスタを代表する代表値d1~d3を設定している。代表値は、クラスタの分布の中心近傍の値であってよい。
【0109】
ステップS102において、算出された代表値は、過去のトラッキングされた代表値t1~t3と関連付けられ、新しい代表値と過去の代表値のペアが形成される。本例では、代表値d2が過去の代表値t1と関連付けられ、代表値d3が過去の代表値t2と関連付けられる。
【0110】
ステップS104において、データ制御部450は、ターゲットを管理して、関連付けられたデータに正しいIDをリンクさせる。
【0111】
代表値d1は、対応する代表値が存在しないので、新たな対象物210として新しいIDが付与される。代表値d2とd3は、それぞれトラッキングされた過去の代表値t1、t2が存在するので、対象物210に対応するIDと関連付けられる。過去の代表値t3は、今回の代表値に対応する代表値がないので除去されている。
【0112】
ステップS106において、カルマンフィルタによってフィルタリングされる。本例では、新たにトラッキングされた代表値t1、t2、t4が存在している。代表値t1およびt2は、引き続きトラッキングされた代表値として存在している。代表値t4は、代表値d1に基づく新たな代表値としてトラッキングされる。トラッキングされた代表値t1、t2およびt4は、ステップS102のターゲット連携のために使用されてよい。
【0113】
なお、検出アルゴリズムまたはトラッキングアルゴリズムによっては、隣接するビンが選択される場合がある。隣接するビンが選択され位相シフトが生じるような場合であっても、情報処理装置500は、出力信号の位相シフトを補償することができる。
【0114】
図10は、情報処理装置500による位相補償結果の一例を示す。情報処理装置500は、位相を補償することにより、位相補償がない場合と比較して位相の不連続性を除去することができる。本例の補正部440は、角度ピークビンがビン番号9から17の間で変化した際にいくつかの角度ピークビンの位相を補正している。なお、位相補正するビン番号はこれに限定されない。
【0115】
情報処理装置500は、対象物210の移動に伴う位相シフトを補償して、時間経過に応じて、より正確に対象物210をセンシングすることができる。情報処理装置500は、非接触で対象物210の小さな体動を検出することができるので様々な分野において使用できる。情報処理装置500は、心拍または呼吸のような生体信号を検出する医療分野に応用することができる。また、情報処理装置500は、建物または橋などの構造物の振動をセンシングして欠陥を検知するために使用されてもよいし、モーターなどの振動をセンシングするために使用されてもよい。
【0116】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0117】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0118】
38・・・データキューブ、100・・・送受信部、120・・・送信部、140・・・受信部、150・・・ビート信号、160・・・送受信制御部、210・・・対象物、220・・・送信波、230・・・受信波、300・・・入力部、400・・・信号処理部、410・・・データ処理部、411・・・窓関数実行部、412・・・距離FFT実行部、413・・・窓関数実行部、414・・・角度FFT実行部、415・・・窓関数実行部、416・・・速度FFT実行部、420・・・取得部、430・・・抽出部、440・・・補正部、441・・・位相選択部、442・・・回転部、443・・・位相変換部、444・・・加減算部、450・・・データ制御部、452・・・データ変換部、454・・・追跡部、500・・・情報処理装置、600・・・システム