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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174552
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】遠隔制御システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/00 20240101AFI20241210BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20241210BHJP
   B60L 15/40 20060101ALI20241210BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20241210BHJP
【FI】
G05D1/00 B
H04Q9/00 301B
B60L15/40 J
G05D1/02 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092436
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】玉置 真也
(72)【発明者】
【氏名】成川 聖
(72)【発明者】
【氏名】久保 亮吾
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 優太
【テーマコード(参考)】
5H125
5H301
5K048
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CC04
5H125EE52
5H125EE55
5H301AA01
5H301AA05
5H301AA06
5H301BB05
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC04
5H301CC06
5H301CC07
5H301CC10
5H301DD07
5H301DD17
5H301KK02
5H301KK18
5K048BA43
5K048DC01
5K048EB02
5K048EB10
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、移動体を遠隔から制御するイベント駆動型の遠隔制御システムにおいて、制御性能を一定レベルに保ちつつ、制御情報の送受信に関わる通信トラヒックを削減可能にすることにある。
【解決手段】本開示は、移動体に搭載される1以上の移動体制御装置と、前記移動体を制御する制御情報を生成し、前記移動体制御装置へ送信する遠隔制御装置と、を備える遠隔制御システムであって、前記移動体制御装置は、制御情報を受信する受信部と、前記受信部で受信した制御情報に従って、前記移動体を制御する制御部と、前記移動体で計測された計測情報を送信する送信部と、を備え、前記送信部は、前記計測情報の情報鮮度に基づいて、前記計測情報を送信するか否かを判定する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を制御する制御情報を受信する受信部と、
前記受信部で受信した制御情報に従って、前記移動体を制御する制御部と、
前記移動体で計測された計測情報を送信する送信部と、
を備え、
前記送信部は、前記計測情報の情報鮮度に基づいて、前記計測情報を送信するか否かを判定する、
移動体制御装置。
【請求項2】
前記送信部は、前記計測情報の計測時からの経過時間を用いて定められる評価値を算出し、前記評価値が予め定められたしきい値に達したときに、前記計測情報を送信する、
請求項1に記載の移動体制御装置。
【請求項3】
前記送信部は、異なる時間に計測された複数の前記計測情報を用いて定められる評価値を算出し、前記評価値が予め定められたしきい値に達したときに、前記計測情報を送信する、
請求項1に記載の移動体制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の移動体制御装置が搭載されている移動体。
【請求項5】
移動体に搭載される、請求項1から3のいずれかに記載の移動体制御装置と、
前記移動体を制御する制御情報を生成し、前記移動体制御装置へ送信する遠隔制御装置と、
を備える遠隔制御システムであって、
前記移動体制御装置は、前記制御情報を送信させる送信指示を、前記計測情報と共に送信し、
前記遠隔制御装置は、前記送信指示を受信すると、前記制御情報を前記移動体制御装置に送信する、
遠隔制御システム。
【請求項6】
受信部が、移動体を制御する制御情報を受信する手順と、
制御部が、前記受信部で受信した制御情報に従って、前記移動体を制御する手順と、
送信部が、前記移動体で計測された計測情報を送信する手順と、
を備え、
前記送信部は、前記計測情報の情報鮮度に基づいて、前記計測情報を送信するか否かを判定する、
方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載の移動体制御装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体を遠隔から制御する遠隔制御システムに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の制御を効率的に実現する手法として、車両と地上装置との間の通信を利用するCBTC(Communication-Based Train Control)がある。CBTCを用いて車両の遠隔制御を実現する場合、通信ネットワークの品質(遅延、データ損失など)が制御性能に大きな影響を及ぼすことが知られている。また、データが取得されてからの経過時刻を表す情報の鮮度(AoI:Age of Information)はネットワーク遅延だけでなく装置内の情報処理遅延も含み、制御性能を維持する指標として重要となるため、CBTCシステムにおけるAoIの最適化手法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
一方、CBTCでは車両数や各種アプリケーション数の増大により通信トラヒックの増大が見込まれる。通信トラヒックを削減する手法として、モータの遠隔制御システムにおいて制御誤差に基づいてデータの送信タイミングを制御するイベント駆動型の制御手法が提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】X. Wang, L. Liu, L. Zhu, and T. Tang, “Train -Centric CBTC Meets Age of Information in Train-to Train Communications,” IEEE Transactions on Intelligent Transportation Systems, Vol.21, No.10, pp. 4072-4085, Oct 2020.
【非特許文献2】T. Yamanaka, T. Iwai, and R. Kubo, “Quality of Performance Aware Data Transmission for Energy-Efficient Networked Control,” IEEE Access, Vol. 9, pp. 5769-5778, January 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CBTCの通信トラヒック削減に前記イベント駆動型の制御手法を用い、制御誤差に基づいてデータの送信タイミングを制御することが考えられる。しかしながら、フィードバック制御ループ内に通信ネットワークが存在するネットワーク化制御システムにおいて制御誤差に基づいたしきい値を用いてデータを送信するか否かを判定する場合、フィードバック経路のデータ送信が停止されている状態では遠隔制御装置側でリアルタイムに制御誤差が計算できずに、制御性能が劣化してしまうという課題があった。
【0006】
本開示は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、移動体を遠隔から制御するイベント駆動型の遠隔制御システムにおいて、制御性能を一定レベルに保ちつつ、制御情報の送受信に関わる通信トラヒックを削減可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の遠隔制御システムは、1以上の移動体を遠隔制御装置が制御する遠隔制御システムにおいて、AoIに基づいてフィードバック制御ループのデータ送信を行う。
【0008】
本開示の遠隔制御システムは、前記移動体を制御する移動体制御装置を備えていてもよい。この場合、本開示の遠隔制御システムは、1以上の移動体に搭載される1以上の移動体制御装置と、前記移動体を制御する制御情報を生成し、前記移動体制御装置へ送信する遠隔制御装置と、を備える遠隔制御システムにおいて、前記移動体制御装置及び前記遠隔制御装置の少なくともいずれかが、AoIに基づいてフィードバック制御ループのデータ送信を行う。
【0009】
本開示の移動体制御装置は、移動体に搭載される移動体制御装置であって、
移動体を制御する制御情報を受信する受信部と、
前記受信部で受信した制御情報に従って、前記移動体を制御する制御部と、
前記移動体で計測された計測情報を送信する送信部と、
を備え、
前記送信部は、前記計測情報の情報鮮度に基づいて、前記計測情報を送信するか否かを判定する。
【0010】
本開示の方法は、移動体に搭載される移動体制御装置が実行する方法であって、
受信部が、移動体を制御する制御情報を受信する手順と、
制御部が、前記受信部で受信した制御情報に従って、前記移動体を制御する手順と、
送信部が、前記移動体で計測された計測情報を送信する手順と、
を備え、
前記送信部は、前記計測情報の情報鮮度に基づいて、前記計測情報を送信するか否かを判定する。
【0011】
本開示の移動体制御装置の前記送信部は、前記制御情報を送信させる送信指示を、前記計測情報と共に送信してもよい。前記遠隔制御装置は、前記送信指示を受信すると、前記制御情報を前記移動体制御装置に送信する。これにより、本開示の移動体制御装置は、前記計測情報に適した前記制御情報を前記遠隔制御装置から受信することができる。
【0012】
本開示の遠隔制御システムでは、前記移動体制御装置が計測情報の情報鮮度に基づいて前記計測情報を送信するため、AoIに基づいてフィードバック経路のデータ送信を維持することができる。このため、本開示の遠隔制御システムは、制御性能を一定レベルに保ちつつ、前記制御情報の送受信に関わる通信トラヒックを削減することができる。
【0013】
前記移動体制御装置に備わる前記送信部は、前記計測情報の情報鮮度の評価値を算出し、前記評価値が予め定められたしきい値に達したときに、前記計測情報を送信してもよい。ここで、前記評価値の算出方法は任意である。例えば、前記評価値は、前記計測情報の計測時からの経過時間を用いて算出することができる。また、前記評価値は、異なる時間に計測された複数の前記計測情報を用いて算出してもよい。
【0014】
本開示のプログラムは、本開示に係る移動体制御装置又は遠隔制御装置に備わる各機能部をコンピュータに実現させるためのプログラムであり、本開示に係る移動体制御装置又は遠隔制御装置が実行する方法に備わる各手順をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0015】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示は、移動体を遠隔から制御するイベント駆動型の遠隔制御システムにおいて、制御性能を一定レベルに保ちつつ、制御情報の送受信に関わる通信トラヒックを削減可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】遠隔制御システムの構成例の一例を示す。
図2】遠隔制御装置に備わる機能部の一例を示す。
図3】移動体制御装置に備わる機能部の一例を示す。
図4】遠隔制御装置に備わる機能部の一例を示す。
図5】移動体制御装置に備わる機能部の一例を示す。
図6】制御情報の送信フローの一例を示す。
図7】計測情報の送信フローの一例を示す。
図8】遠隔制御装置に備わる機能部の一例を示す。
図9】移動体制御装置に備わる機能部の一例を示す。
図10】計測情報の送信フローの一例を示す。
図11】制御情報の送信フローの一例を示す。
図12】計測情報の送信フローの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本開示の遠隔制御システムの実施形態例を示す。本実施形態の遠隔制御システムは、CBTCなど、遠隔制御装置20が複数の車両100を制御するシステムである。本実施形態の遠隔制御システムは、各車両100に、車両100を制御するための移動体制御装置10が搭載されている。
【0020】
移動体制御装置10は、車両100で計測された計測情報を遠隔制御装置20に送信する。遠隔制御装置20は、各移動体制御装置10から受信した計測情報を取得し、計測情報に基づいて各車両100を制御するため制御情報を生成し、移動体制御装置10に制御情報を送信する。移動体制御装置10は、遠隔制御装置20から受信した制御情報に従い、車両100を制御する。
【0021】
各車両100で計測する計測情報としては、例えば車両100の位置応答値、速度応答値などが考えられる。遠隔制御装置20から移動体制御装置10へ送信される制御情報としては、例えば、車両100を駆動するための電流参照値、電圧参照値、速度参照値などが考えられる。これらの計測情報および制御情報は通信ネットワーク30を介して送受信される。例えば、移動体制御装置10と遠隔制御装置20との間を第5世代移動通信システム(5G)などの通信ネットワーク30により接続することが考えられる。本実施形態では、計測情報及び制御情報の一例として、計測情報が車両速度応答vresであり、制御情報が制御入力urefである例を示す。
【0022】
図2に、遠隔制御装置20に備わる機能部の一例を示す。遠隔制御装置20は、速度生成部21、受信部22、速度制御部23、送信部24、を備える。
受信部22は、各移動体制御装置10から車両速度応答vresを受信する。
速度生成部21は、車両運行計画で定められた参照走行プロファイルに基づいて、各車両100の目標速度vcmdを生成する。
速度制御部23は、車両速度応答vresを取得し、速度生成部21で得られた目標速度vcmdになるよう、各車両100を制御するための制御入力urefを生成する。
送信部24は、速度制御部23で生成された制御入力urefを、各移動体制御装置10へ送信する。
【0023】
図3に、移動体制御装置10に備わる機能部の一例を示す。移動体制御装置10は、受信部11、演算処理部12、送信部13を備える。
受信部11は、遠隔制御装置20からの制御入力urefを受信する。
演算処理部12は、本開示における「制御部」として機能し、受信部11の受信した制御入力urefに基づいて、車両100を制御する。また、演算処理部12は、車両速度応答vresとして、車両100の速度を取得する。
送信部13は、車両速度応答vresを遠隔制御装置20に送信する。
【0024】
移動体制御装置10に備わる演算処理部12は、モータを駆動し車両100を移動させるとともに、車両速度を一定周期で計測する。例えば、車両速度の計測周期は、遠隔制御装置20から移動体制御装置10への制御周期と一致させる。車両速度は、例えば、モータあるいは車輪の回転角速度から推定することができる。あるいは、車両軌道上のセンサやGNSS(Global Navigation Satellite System)等により計測しても構わない。
【0025】
遠隔制御装置20から送信された制御入力uref,sは、通信ネットワーク30の遅延や情報損失の影響を受ける。このため、移動体制御装置10に備わる受信部11で受信される制御入力uref,rは、制御入力uref,sよりもネットワーク遅延分遅れた情報となり、情報損失が生じた場合には情報が存在しない。このように、受信部11が制御入力uref,d[k]を受信することができない場合、演算処理部12は、制御入力uref,d[k]に代えて、1サンプリング時刻前に使用した制御入力uref,d[k-1]を使用することができる。サンプリング周期は、例えば遠隔制御装置20から移動体制御装置10への制御周期と同一とする。
【0026】
移動体制御装置10から送信された車両速度応答vres,sは、通信ネットワーク30の遅延や情報損失の影響を受ける。このため、遠隔制御装置20に備わる受信部22で受信される車両速度応答vres,rは、車両速度応答vres,sよりもネットワーク遅延分遅れた情報となり、情報損失が生じた場合には情報が存在しない。このように、受信部22が車両速度応答vres,d[k]を受信することができない場合、速度制御部23は、車両速度応答vres,d[k]に代えて、1サンプリング時刻前に使用した車両速度応答vres,d[k-1]を使用することができる。サンプリング周期は、例えば遠隔制御装置20から移動体制御装置10への制御周期と同一とする。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の遠隔制御システムは、通信ネットワーク30を介して、遠隔制御装置20が1以上の車両100を制御することができる。
【0028】
(第2の実施形態)
図4及び図5に、本実施形態の遠隔制御装置20及び移動体制御装置10に備わる機能部の一例を示す。本実施形態の遠隔制御装置20は、制御誤差eに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する。また本実施形態の移動体制御装置10は、制御誤差eに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する。制御誤差eは、例えば、目標速度vcmdと車両速度応答vres,dとの差である。制御誤差eは、例えば、遠隔制御装置20から受信した目標速度vcmd,dと車両速度応答vresとの差である。
【0029】
図6に、遠隔制御装置20に備わる送信部24が制御情報を送信する送信フローの一例を示す。まず、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth1以上の場合(S21においてYes)、送信部24は、制御入力urefを移動体制御装置10へ送信する(S22)。この時、urefとuref,sは同一の値である。一方、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth1未満の場合(S21においてNo)、送信部24は、制御入力urefの送信を一定期間Ts1経過するまで停止する(S23及びS24)。
【0030】
ステップS23の送信停止後に一定期間Ts1が経過した場合(S24においてNo)、送信部24は、制御入力urefを移動体制御装置10へ送信し(S22)、ステップS21へ移行する。制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth1未満となった場合(S21においてNo)、送信部24は、制御入力urefの送信を一定期間Ts1経過するまで停止する(S23及びS24)。以降、この操作を繰り返す。
【0031】
また、ステップS22では、送信部24は、制御入力urefを送信するタイミングで、同時に目標速度vcmdを移動体制御装置10へ送信する。この時、vcmdとvcmd,sは同一の値である。目標速度vcmdの情報は速度制御部23から得る。
【0032】
図7に、移動体制御装置10に備わる送信部13が計測情報を送信する送信フローの一例を示す。送信部13は、制御誤差eに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する(S11)。
【0033】
まず、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2以上の場合(S11においてYes)、送信部13は、車両速度応答vresを遠隔制御装置20へ送信する(S12)。この時、vresとvres,sは同一の値である。一方、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2未満の場合(S11においてNo)、送信部13は、車両速度応答vresを現在時刻において遠隔制御装置20へ送信し(S13)、その後車両速度応答vresの送信を一定期間Ts2経過するまで停止する(S14、S15)。
【0034】
ステップS14の送信停止後に一定期間Ts2が経過した場合(S15)、送信部13は、車両速度応答vresを遠隔制御装置20へ送信し(S12)、ステップS11に移行する。制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2未満となった場合(S11においてNo)、送信部13は、車両速度応答vresの送信を一定期間Ts2経過するまで停止する(S14、S15)。以降、この操作を繰り返す。
【0035】
本実施形態では、移動体制御装置10の受信部11は、制御入力uref,rと同時に目標速度vcmd,rを受信する。遠隔制御装置20から送信された目標速度vcmd,sは、制御入力uref,sと同様に、通信ネットワーク30の遅延や情報損失の影響を受けるため、移動体制御装置10に備わる受信部11で受信される目標速度vcmd,rは、目標速度vcmd,sよりもネットワーク遅延分遅れた情報となり、情報損失が生じた場合には情報が存在しない。そのため、サンプリング時刻k(kは正の整数)において情報損失が生じた場合、受信部11は目標速度vcmd,d[k]を受信することができない。この場合、演算処理部12は、目標速度vcmd,d[k]に代えて、1サンプリング時刻前に使用した目標速度vcmd,d[k-1]を使用することができる。サンプリング周期は、例えば、遠隔制御装置20から移動体制御装置10への制御周期と同一とする。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の遠隔制御システムは、制御誤差に基づくイベント駆動型の制御を行うため、通信ネットワーク30における通信トラヒックを削減することができる。
【0037】
通信ネットワーク30の構成によっては、移動体制御装置10と遠隔制御装置20との通信において数十ミリ秒から数秒の遅延が発生することもあり、遠隔制御システムにおける制御性能を劣化させる要因となっている。遠隔制御装置20と各移動体制御装置10との通信頻度は制御システムにより異なるが、ミリ秒オーダから秒オーダとなることが想定される。特に、遠隔制御装置20側に各車両100の駆動モータを制御する制御機能を実装する場合にはミリ秒オーダの制御周期が求められる可能性があり、通信頻度の増加は通信トラヒックの増大をもたらす。
【0038】
通信トラヒックの増大により通信ネットワーク30の輻輳が発生すると、ネットワーク遅延やパケット損失が増加するため、制御情報の送信において通信ネットワーク30の輻輳回避は重要な課題である。一方で、フィードバック制御ループの通信頻度が低減すると、制御性能の劣化を引き起こす。したがって、車両100を遠隔から制御するイベント駆動型の遠隔制御システムにおいて、制御性能を一定レベルに維持しつつ、通信頻度を抑制することが求められている。
【0039】
そこで、本開示では、AoIに基づいて、フィードバック制御ループのデータ送信タイミングを決定する。本実施形態では、本開示の一例として、移動体制御装置10がAoIに基づいて送信指示wを送信し、遠隔制御装置20が受信した送信指示wに基づいて制御入力urefを送信する。これにより、本開示は、AoIで定められたある一定の間隔でデータを送信し、制御性能を一定レベルに維持することを可能にする。以下、詳細に説明する。
【0040】
(第3の実施形態)
図8及び図9に、本実施形態の遠隔制御装置20及び移動体制御装置10に備わる機能部の一例を示す。本実施形態では、遠隔制御装置20及び移動体制御装置10は、それぞれ、第2の実施形態と同様に、制御誤差に基づいてデータ送信を行うタイミングを判定する。これに加え、本実施形態では、移動体制御装置10が、情報鮮度Aに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する。
【0041】
移動体制御装置10に備わる送信部13は、車両速度応答vres及びその情報鮮度Aを用いて評価値を算出し、情報鮮度Aが落ちることによって前記評価値が予め定められたしきい値に達したときに、車両速度応答vresを送信する。
【0042】
情報鮮度Aは、例えば、現在時刻と車両速度応答vresが計測された時刻tとの差である。遠隔制御装置20と移動体制御装置10の時刻同期については、例えばGNSSを用いるなど必要とされる精度により適切な方法を選択できる。
【0043】
図10に、移動体制御装置10に備わる送信部13が計測情報を送信する送信フローの一例を示す。送信部13は、制御誤差eおよび車両速度応答の情報鮮度Aに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する(S111、S115、S116)。
【0044】
まず、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2以上の場合(S111においてYes)、送信部13は、車両速度応答vresを遠隔制御装置20へ送信する(S112)。この時、vresとvres,sは同一の値である。一方、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2未満の場合(S111においてNo)、送信部13は、現在時刻において車両速度応答vresを遠隔制御装置20へ送信し(S113)、その後車両速度応答vresの送信を停止する(S114)。
【0045】
ステップS114の送信停止後に情報鮮度Aと車両速度応答vresとの積がしきい値xth1よりも大きくなった場合(S115においてNo)、または制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2以上となった場合(S116においてYes)、送信部13は、車両速度応答vres及び送信指示wを遠隔制御装置20へ送信し(S112)、ステップS111へ移行する。以降、この操作を繰り返す。
【0046】
移動体制御装置10から送信された送信指示wは通信ネットワーク30の遅延や情報損失の影響を受けている。このため、遠隔制御装置20に到達した時点の送信指示wは、送信指示wよりもネットワーク遅延分遅れた情報となり、情報損失が生じた場合には情報が存在しない。このように、受信部22がサンプリング時刻k(kは正の整数)における送信指示w[k]を受信することができない場合、送信部24は、制御入力uref[k]を送信しない。情報損失が生じていない場合、wとwは同一の値または指示内容である。
【0047】
図11に、遠隔制御装置20に備わる送信部24が制御情報を送信する送信フローの一例を示す。送信部24は、制御誤差eおよび送信指示wに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する(S121、S124、S125)。
【0048】
まず、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth1以上の場合(S121においてYes)、送信部24は、制御入力urefを移動体制御装置10へ送信する(S122)。この時、urefとuref.sは同一の値である。一方、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth1未満の場合(S121においてNo)、送信部24は、制御入力urefの送信を停止する(S123)。
【0049】
ステップS123の送信停止後に送信指示wを受信した場合(S124)、または制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth1以上となった場合(S125)、送信部24は、制御入力uref及び目標速度vcmdを移動体制御装置10へ送信し(S122)、ステップS121に移行する。以降、この操作を繰り返す。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、移動体制御装置10が情報鮮度Aに基づいてデータ送信を行うため、フィードバック経路のデータ送信を維持することができる。ここで、移動体制御装置10は、車両速度応答vresの送信の際に送信指示wも送信する。このため、移動体制御装置10は、車両100の制御が必要なタイミングで制御入力urefを受信することができる。したがって、本実施形態の遠隔制御システムは、制御性能を一定レベルに保ちつつ、制御情報の送受信に関わる通信トラヒックを削減可能にすることができる。
【0051】
なお、本実施形態では、情報鮮度の評価値に車両速度応答及びその情報鮮度を用いたが、本開示はこれに限定されるものではない。すなわち、車両速度応答に代えて又はこれと共に、車両100で計測された任意の計測情報とその情報鮮度を用いることができる。
【0052】
(第4の実施形態)
本実施形態では、遠隔制御装置20及び移動体制御装置10は、それぞれ、第2の実施形態と同様に、制御誤差に基づいてデータ送信を行うタイミングを判定する。これに加え、本実施形態では、情報鮮度の評価値として、異なる時間に計測された車両速度応答vresの積分値Iを用いる。
【0053】
本実施形態の移動体制御装置10に備わる送信部13は、積分値Iを算出し、評価値Iが予め定められたしきい値に達したときに、車両速度応答vresを送信する。車両速度応答の積分値Iは、例えば、車両速度応答vresと車両速度応答vresの計測周期とを積算することで計算することができる。
【0054】
図12に、移動体制御装置10に備わる送信部13が計測情報を送信する送信フローの一例を示す。送信部13は、遠隔制御装置20から受信した目標速度vcmd,dと車両速度応答vresとの差である制御誤差e、および車両速度応答の積分値Iに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する(S111、S131、S116)。
【0055】
まず、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2以上の場合(S111においてYes)、送信部13は、車両速度応答vresを遠隔制御装置20へ送信する(S112)。この時、vresとvres,sは同一の値である。一方、制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2未満の場合(S111においてNo)、送信部13は、現在時刻において車両速度応答vresを遠隔制御装置20へ送信する(S113)。その後、送信部13は、車両速度応答vresの送信を停止する(S114)。
【0056】
ステップS114の送信停止後に車両速度応答の積分値Iがしきい値xth2よりも大きくなった場合(S131においてNo)、または制御誤差の絶対値|e|がしきい値eth2以上となった場合(S116においてYes)、送信部13は、車両速度応答vres及び送信指示wを遠隔制御装置20へ送信し(S112)、ステップS111に移行する。送信部13は、車両速度応答vresを遠隔制御装置20へ送信したタイミングで、積分値Iを0に初期化する(S132)。以降、この操作を繰り返す。
【0057】
以上説明したように、本実施形態では、移動体制御装置10が車両速度応答の積分値Iに基づいて計測情報を送信し、このときに送信指示wも送信する。このため、移動体制御装置10は、車両100の制御が必要なタイミングで制御情報を受信することができる。したがって、本実施形態の遠隔制御システムは、制御性能を一定レベルに保ちつつ、制御情報の送受信に関わる通信トラヒックを削減可能にすることができる。
【0058】
なお、本実施形態では、異なる時間に計測された車両速度応答の積分値Iを情報鮮度の評価値に用いたが、本開示はこれに限定されるものではない。すなわち、車両速度応答に代えて又はこれと共に、車両100で異なる時間に計測された任意の複数の計測情報を情報鮮度の評価値に用いることができる。
【0059】
(その他の実施形態)
上述の実施形態における制御誤差e及びeは、瞬時値を用いてもよいし、単純移動平均ないし指数移動平均を用いてもよい。単純移動平均ないし指数移動平均を用いることで、過渡状態における制御誤差の一時的な減少による送信停止を回避できる。
【0060】
また、しきい値eth1およびしきい値eth2は、要求される速度追従性能に基づいて一定値を取ってもよいし、車両位置ないし車両速度あるいは他車両との車間距離に基づいて決定してもよい。また、しきい値xth1及びxth2は、要求される位置追従性能に基づいて一定値を取ってもよいし、車両位置ないし車両速度あるいは他車両との車間距離に基づいて決定してもよい。
【0061】
また、情報鮮度A及びAは、時間差に限らず、車両100の移動距離であってもよい。これにより、ある一定の走行距離間隔で車両速度応答vresを送信することができる。
【0062】
また、上述の実施形態において、送信部24及び送信部13の少なくとも一方が、送信停止後の一定期間経過後に、データの強制送信を行う機能を具備しても構わない。
【0063】
また、上述の実施形態では遠隔制御装置20が車両100の速度を制御する例を示したが、本開示における制御対象は車両100の速度に限定されず、車両100に備わる任意の機能に適用することができる。さらに本開示は、車両100に代えて、移動可能な任意の移動体を採用することができる。例えば、車両以外の地上を走行可能な移動体であってもよいし、ドローンなどの空中や水中を移動可能な移動体であってもよい。
【0064】
また、移動体制御装置10及び遠隔制御装置20に備わる各機能部は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、通信ネットワークを通して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
10:移動体制御装置
11、22:受信部
12:演算処理部
13、24:送信部
20:遠隔制御装置
21:速度生成部
23:速度制御部
30:通信ネットワーク
100:車両
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図12