(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174572
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】遠隔車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B61L 27/16 20220101AFI20241210BHJP
G05D 1/00 20240101ALI20241210BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
B61L27/16
G05D1/00 B
B60L15/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092465
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】玉置 真也
(72)【発明者】
【氏名】成川 聖
(72)【発明者】
【氏名】久保 亮吾
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 優太
【テーマコード(参考)】
5H125
5H161
5H301
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125CA04
5H125CC04
5H125EE52
5H161AA01
5H161JJ01
5H161JJ27
5H301AA03
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD07
5H301DD17
(57)【要約】
【課題】所望の制御性能を維持しつつ、通信トラヒックの削減も実現できる遠隔制御装置、遠隔車両制御システム、及び遠隔車両制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る遠隔制御装置は、車両100の走行に関する計測情報(車両速度応答v
res)を車両100から受信する受信部22と、前記計測情報と目標値(目標速度v
cmd)とから、車両100の走行が前記目標値に近づくように車両100を駆動する制御情報(目標速度と制御入力u
ref)を生成する制御部23と、前記制御情報及び前記車両に前記計測情報を送信させる送信指示(w)を車両100に送信する送信部24と、を備える。送信部24は、前記計測情報と前記目標値との差分である制御誤差(e
c)、及び前記計測情報の情報鮮度(A
1)に基づいて、前記制御情報及び前記送信指示を車両100に送信するか否かを判定することを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標値に基づいて単数又は複数の車両の走行を遠隔制御する遠隔制御装置であって、
前記車両の走行に関する計測情報を前記車両から受信する受信部と、
前記計測情報と前記目標値とから、前記車両の走行が前記目標値に近づくように前記車両を駆動する制御情報を生成する制御部と、
前記制御情報及び前記車両に前記計測情報を送信させる送信指示を前記車両に送信する送信部と、
を備え、
前記送信部は、前記計測情報と前記目標値との差分である制御誤差、及び前記計測情報の情報鮮度に基づいて、前記制御情報及び前記送信指示を前記車両に送信するか否かを判定すること
を特徴とする遠隔制御装置。
【請求項2】
前記送信部は、前記制御誤差が閾値未満の場合、前記制御情報及び前記送信指示の送信を停止すること
を特徴とする請求項1に記載の遠隔制御装置。
【請求項3】
前記送信部は、前記情報鮮度と前記計測情報との積が所定の判定値より大きくなったとき、又は前記制御誤差が閾値以上となったときに、前記制御情報及び前記送信指示の送信を再開すること
を特徴とする請求項2に記載の遠隔制御装置。
【請求項4】
前記送信部は、前記制御情報及び前記送信指示の送信を停止してから一定期間経過後に前記制御情報及び前記送信指示の送信を行うことを特徴とする請求項2に記載の遠隔制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の遠隔制御装置と、
前記車両に搭載される車両制御部と、
を備える遠隔車両制御システムであって、
前記車両制御部は、前記遠隔制御装置から受信した前記目標値と前記車両が計測した前記計測情報との差分である車両側制御誤差が車両側閾値未満の場合、前記計測情報と前記計測情報の測定時刻を前記遠隔制御装置へ送信することを停止すること
を特徴とする遠隔車両制御システム。
【請求項6】
前記車両制御部は、前記車両側制御誤差が前記車両側閾値以上となったとき、又は前記遠隔制御装置から前記送信指示を受信したときに、前記計測情報と前記計測情報の測定時刻を前記遠隔制御装置へ送信することを再開すること
を特徴とする請求項5に記載の遠隔車両制御システム。
【請求項7】
前記車両制御部は、
前記計測情報と前記計測情報の測定時刻を前記遠隔制御装置へ送信することを停止してからの前記計測情報の積分値を計算しており、
前記車両側制御誤差が前記車両側閾値以上となったとき、又は前記遠隔制御装置から前記送信指示を受信したとき且つ前記積分値が規定値より大きいときに、前記計測情報と前記計測情報の測定時刻を前記遠隔制御装置へ送信することを再開すること
を特徴とする請求項5に記載の遠隔車両制御システム。
【請求項8】
目標値に基づいて単数又は複数の車両の走行を遠隔制御する遠隔車両制御方法であって、
前記車両の走行に関する計測情報を前記車両から受信すること、
前記計測情報と前記目標値とから、前記車両の走行が前記目標値に近づくように前記車両を駆動する制御情報を生成すること、及び
前記制御情報及び前記車両に前記計測情報を送信させる送信指示を前記車両に送信すること、
を行っており、
前記制御情報及び前記送信指示を前記車両に送信するか否かを、前記計測情報と前記目標値との差分である制御誤差、及び前記計測情報の情報鮮度に基づいて判定すること
を特徴とする遠隔車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔車両制御システムのデータ送信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の制御を効率的に実現する手法として、車両と地上装置(制御装置)との間の通信を利用する無線式列車制御システム(CBTC:Communication-Based Train Control)がある。CBTCを用いて車両の遠隔制御を実現する場合、通信ネットワークの品質(遅延、データ損失など)が制御性能に大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
また、データが取得されてからの経過時刻を表す情報の鮮度(AoI:Age of Information)はネットワーク遅延だけでなく装置内の情報処理遅延も含み、制御性能を維持する指標として重要となるため、CBTCシステムにおけるAoIの最適化手法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0004】
一方、CBTCでは車両数や各種アプリケーション数の増大により通信トラヒックの増大が見込まれる。通信トラヒックを削減する手法として、モータの遠隔制御システムにおいて制御誤差に基づいてデータの送信タイミングを制御するイベント駆動型の制御手法が提案されている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】X. Wang, L. Liu, L. Zhu, and T. Tang, “Train -Centric CBTC Meets Age of Information in Train-to Train Communications,” IEEE Transactions on Intelligent Transportation Systems, Vol.21, No.10, pp. 4072-4085, Oct 2020.
【非特許文献2】T. Yamanaka, T. Iwai, and R. Kubo, “Quality of Performance Aware Data Transmission for Energy-Efficient Networked Control,” IEEE Access, Vol. 9, pp. 5769-5778, January 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CBTCの通信トラヒック削減のためには、前述のイベント駆動型の制御手法を用い、制御誤差とそのしきい値に基づいてデータの送信タイミングを制御することが有効と考えられる。しかし、フィードバック制御ループ内に通信ネットワークが存在するネットワーク化制御システムでは、通信トラヒック削減のためにフィードバック経路へのデータ送信も停止される時間が発生することがある。このような時間には、制御装置はリアルタイムに制御誤差を計算することができず、制御誤差のしきい値を用いてデータを送信するか否かの判定が困難となる。このように、CBTCにおけるイベント駆動型の制御手法には、通信トラヒック削減との兼ね合い上、所望の制御性能を維持することが困難という課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、前記課題を解決するために、本発明は、所望の制御性能を維持しつつ、通信トラヒックの削減も実現できる遠隔制御装置、遠隔車両制御システム、及び遠隔車両制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る遠隔制御装置は、イベント駆動型の制御に使用する制御誤差に加え、車両からフィードバックされる車両速度情報と当該車両速度情報の情報鮮度にも基づいてデータ送信タイミングを決定することとした。なお、情報鮮度(AoI:Age of Information)とは、データが取得されてからの経過時刻である。
【0009】
具体的には、本発明に係る遠隔制御装置は、目標値に基づいて単数又は複数の車両の走行を遠隔制御する遠隔制御装置であって、
前記車両の走行に関する計測情報を前記車両から受信する受信部と、
前記計測情報と前記目標値とから、前記車両の走行が前記目標値に近づくように前記車両を駆動する制御情報を生成する制御部と、
前記制御情報及び前記車両に前記計測情報を送信させる送信指示を前記車両に送信する送信部と、
を備え、
前記送信部は、前記計測情報と前記目標値との差分である制御誤差、及び前記計測情報の情報鮮度に基づいて、前記制御情報及び前記送信指示を前記車両に送信するか否かを判定すること
を特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る遠隔車両制御方法は、目標値に基づいて単数又は複数の車両の走行を遠隔制御する遠隔車両制御方法であって、
前記車両の走行に関する計測情報を前記車両から受信すること、
前記計測情報と前記目標値とから、前記車両の走行が前記目標値に近づくように前記車両を駆動する制御情報を生成すること、及び
前記制御情報及び前記車両に前記計測情報を送信させる送信指示を前記車両に送信すること、
を行っており、
前記制御情報及び前記送信指示を前記車両に送信するか否かを、前記計測情報と前記目標値との差分である制御誤差、及び前記計測情報の情報鮮度に基づいて判定すること
を特徴とする。
【0011】
本遠隔制御装置は、イベント駆動型の制御を行うのでデータの送信タイミングを制御でき、通信トラヒックを削減できる。さらに、本遠隔制御装置は、情報鮮度に基づいて車両からのデータ送信を再開させることができ、所望の制御性能を維持することができる。従って、本発明は、所望の制御性能を維持しつつ、通信トラヒックの削減も実現できる遠隔制御装置を提供することができる。
【0012】
前記送信部が、前記制御誤差が閾値未満の場合、前記制御情報及び前記送信指示の送信を停止することでデータの送信タイミングを制御できる。
前記送信部は、前記情報鮮度と前記計測情報との積が所定の判定値より大きくなったとき、又は前記制御誤差が閾値以上となったときに、前記制御情報及び前記送信指示の送信を再開することで所望の制御性能を維持することができる。
また、前記送信部は、前記制御情報及び前記送信指示の送信を停止してから一定期間経過後に前記制御情報及び前記送信指示の送信を行うことでも所望の制御性能を維持することができる。
【0013】
本発明に係る遠隔車両システムは、前記遠隔制御装置と、前記車両に搭載される車両制御部と、を備える遠隔車両制御システムであって、
前記車両制御部は、前記遠隔制御装置から受信した前記目標値と前記車両が計測した前記計測情報との差分である車両側制御誤差が車両側閾値未満の場合、前記計測情報と前記計測情報の測定時刻を前記遠隔制御装置へ送信することを停止すること
を特徴とする。
【0014】
車両側の制御部は、前記車両側制御誤差が車両側閾値未満の場合に計測情報とそのタイムスタンプ情報を遠隔制御装置へ送信することを停止するので通信トラヒックを削減できる。
【0015】
計測情報とそのタイムスタンプ情報の送信の再開のタイミングは、次の通りである。
前記車両制御部は、前記車両側制御誤差が前記車両側閾値以上となったとき、又は前記遠隔制御装置から前記送信指示を受信したときに、前記計測情報と前記計測情報の測定時刻を前記遠隔制御装置へ送信することを再開する。
また、前記車両制御部は、
前記計測情報と前記計測情報の測定時刻を前記遠隔制御装置へ送信することを停止してからの前記計測情報の積分値を計算しており、
前記車両側制御誤差が前記車両側閾値以上となったとき、又は前記遠隔制御装置から前記送信指示を受信したとき且つ前記積分値が規定値より大きいときに、前記計測情報と前記計測情報の測定時刻を前記遠隔制御装置へ送信することを再開してもよい。
【0016】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、所望の制御性能を維持しつつ、通信トラヒックの削減も実現できる遠隔制御装置、遠隔車両制御システム、及び遠隔車両制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】遠隔車両制御システムの遠隔制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図5】遠隔車両制御システムの車両の動作を説明するフローチャートである。
【
図6】本発明に係る遠隔車両制御システムを説明する図である。
【
図7】本発明に係る遠隔車両制御システムの遠隔制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図8】本発明に係る遠隔車両制御システムの車両の動作を説明するフローチャートである。
【
図9】本発明に係る遠隔車両制御システムの車両の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0020】
(実施形態1)
本実施形態では、遠隔車両制御システム(例えば、CBTC)の基本動作を説明する。
図1は、遠隔車両制御システムの基本構成を説明する図である。遠隔制御装置20は、各車両(100-1、100-2)が計測した計測情報を収集し、車両運行計画に基づいて制御信号を生成して各車両の速度を制御する。各車両から収集する計測情報は、例えば車両の位置応答値、及び速度応答値などの車両で計測される情報である。以降の実施形態では、計測情報が速度応答値(v
res)である例を説明する。遠隔制御装置20から各車両へ送信される制御情報(u
ref)は、例えば、車両を駆動するための電流参照値、電圧参照値、速度参照値などの目標となる情報である。
【0021】
これらの計測情報および速度情報は無線通信ネットワーク30を介して車両および制御装置に設置された通信装置によって送受信される。無線通信ネットワーク30は、例えば、車両と制御装置との間を第5世代移動通信システム(5G)などのモバイル無線通信ネットワークである。無線通信ネットワーク30の構成によっては、車両と制御装置との通信において数十ミリ秒から数秒の遅延が発生することもあり、遠隔車両制御システムにおける制御性能を劣化させる要因となっている。
【0022】
遠隔車両制御に関わる制御装置と各車両との通信頻度は制御システムにより異なるが、ミリ秒オーダから秒オーダとなることが想定される。特に、制御装置側に各車両の駆動モータを制御する制御装置を実装する場合にはミリ秒オーダの制御周期が求められる可能性があり、通信頻度の増加は通信トラヒックの増大をもたらす。
【0023】
通信トラヒックの増大によりネットワーク輻輳が発生すると、ネットワーク遅延やパケット損失が増加するため、制御通信においてネットワークの輻輳回避は重要な課題である。一方で、通信頻度の低減も制御性能の劣化を引き起こすため、制御性能を一定レベルに維持しつつ、通信頻度を抑制することが求められている。
【0024】
図2は、遠隔車両速度制御を実現する遠隔車両制御システム301の構成例を説明する図である。遠隔車両制御システム301は、単数又は複数の車両100、及び遠隔制御装置20で構成される。なお、以降の説明は車両100が単数の場合を説明するが、車両が複数であっても遠隔車両制御システムは車両それぞれの参照走行プロファイルに基づいて車両毎に制御する。
【0025】
遠隔制御装置20は車両100とは異なる制御センタ内に設置されており、運行計画に基づいた車両の参照走行プロファイルprが遠隔制御装置20に入力される。遠隔制御装置20は速度生成部21、速度制御部23、制御データを送信する送信部24、及び計測データを受信する受信部22を備える。
【0026】
速度生成部21は、参照走行プロファイルprに基づき現在時刻の追従すべき目標速度vcmdを出力する。目標速度vcmdの決定方法としては、例えば、走行環境や乗り心地を考慮して加速度や速度に上限を設け、かつ最短時間で目標地点に到達するように速度を決定する。
【0027】
受信部22は、各車両100から車両速度応答vres,rを受信する。車両速度応答vres,rは、無線通信ネットワーク30の遅延や情報損失の影響を受けており、車両100から送信された車両速度応答vres,sよりもネットワーク遅延分遅れた情報となり、情報損失が生じた場合には情報が存在しない。情報損失が生じた場合、例えば、速度制御部23は、サンプリング時刻k(kは正の整数)の車両速度応答vres,d[k]として、1サンプリング時刻前に使用した車両速度応答vres,d[k-1]を使用することができる。サンプリング周期は、例えば制御周期と同一とする。
【0028】
速度制御部23は、目標速度vcmdと車両速度応答vres,dをもとに制御入力urefを決定する。制御入力の計算には、例えば、汎用的なフィードバック制御器としてPID(Proportional-Integral-Derivative)制御器を用いることができる。また、制御入力urefとしては、例えば、モータへの参照電圧値や参照電流値を用いることができる。
【0029】
送信部24は、制御入力urefをuref,sとして車両へ送信する。制御入力urefとuref,sは同一の値である。
【0030】
各車両100には、制御部10が備わっており、制御部10は、受信部11、演算処理部12、及び送信部13を有する。
【0031】
受信部11は、遠隔制御装置20からの制御入力uref,rを受信する。制御入力uref,rは無線通信ネットワーク30の遅延や情報損失の影響を受けており、遠隔制御装置20から送信された制御入力uref,sよりもネットワーク遅延分遅れた情報となり、情報損失が生じた場合には情報が存在しない。情報損失が生じた場合、例えば、演算処理部12は、本来サンプリング時刻kに受信されるべき制御入力uref,d[k]として1サンプリング時刻前に使用した車両速度応答uref,d[k-1]を使用することができる。サンプリング周期は、例えば制御周期と同一とする。
【0032】
演算処理部12は、モータを駆動し車両を移動させるとともに、車両速度を一定周期で計測し、車両速度応答vresを生成する。例えば、車両速度の計測周期は制御周期と一致させる。車両速度は、例えば、モータあるいは車輪の回転角速度から推定することができる。あるいは、車両軌道上のセンサやGNSS(Global Navigation Satellite System)等により計測しても構わない。
【0033】
送信部13は、車両速度応答vresをvres,sとして遠隔制御装置20へ送信する。車両速度応答vresとvres,sは同一の値である。
【0034】
(実施形態2)
本実施形態では、イベント駆動型の制御手法を採用する遠隔車両制御システムの動作を説明する。
図3は、本実施形態の遠隔車両制御システム302を説明する構成図である。遠隔車両制御システム302は、
図2の遠隔車両制御システム301と同様に、単数又は複数の車両100、及び遠隔制御装置20で構成される。本実施形態では、
図2の遠隔車両制御システム301と異なる動作部分のみ説明する。
【0035】
制御装置10の受信部11は、制御入力uref,rと同時に目標速度vcmd,rを受信する。目標速度vcmd,rは無線通信ネットワーク30の遅延や情報損失の影響を受けており、遠隔制御装置20から送信された目標速度vcmd,sよりもネットワーク遅延分遅れた情報となり、情報損失が生じた場合には情報が存在しない。情報損失が生じた場合、例えば、演算処理部12は、サンプリング時刻kに受信されるべき目標速度vcmd,d[k]として1サンプリング時刻前に使用した目標速度vcmd,d[k-1]を使用することができる。サンプリング周期は、例えば制御周期と同一とする。
【0036】
図4は、イベント駆動型の制御手法で車両100に向けてデータ送信を行う遠隔制御装置20の動作を説明するフローチャートである。
遠隔制御装置20の送信部24は、速度制御部23から得た目標速度v
cmdと受信部22が受信した車両速度応答v
res,dとの差である制御誤差e
cに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する(ステップS111)。制御誤差の絶対値|e
c|がしきい値e
th1以上の場合(ステップS111で“Yes”)、送信部24は制御入力u
ref,sと目標速度v
cmd,sを車両100へ送信する(ステップS112)。なお、制御入力u
refとu
ref,sは同一の値であり、目標速度v
cmdとv
cmd,sは同一の値である。
【0037】
一方、制御誤差の絶対値|ec|がしきい値eth1未満の場合(ステップS111で“No”)、送信部24は制御入力urefの送信を一定期間Ts1経過するまで停止する(ステップS113、S114で“Yes”)。送信停止後、一定期間Ts1が経過した場合(S114で“No”)、送信部24は制御入力urefを車両へ送信する(ステップS112)。以降、ステップS111からを繰り返す。
【0038】
図5は、イベント駆動型の制御手法で遠隔制御装置20に向けて計測データ送信を行う車両100の制御装置10の動作を説明するフローチャートである。
制御装置10の送信部13は、遠隔制御装置20から受信した目標速度v
cmd,dと車両速度応答v
resとの差である制御誤差e
mに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する(ステップS121)。制御誤差の絶対値|e
m|がしきい値e
th2以上の場合(ステップS121にて“Yes”)、送信部13は車両速度応答v
resを遠隔制御装置20へ送信する(ステップS122)。なお、車両速度応答v
resとv
res,sは同一の値である。
【0039】
一方、制御誤差の絶対値|em|がしきい値eth2未満の場合(ステップS121にて“No”)、送信部13は車両速度応答vresを現在時刻において遠隔制御装置20へ送信(ステップS123)した後、車両速度応答vresの送信を一定期間Ts2が経過するまで停止する(ステップS124、S125で“Yes”)。送信停止後、一定期間Ts2が経過した場合(ステップS125で“No”)、送信部13は車両速度応答vresを遠隔制御装置20へ送信する(ステップS122)。以降、ステップS121からを繰り返す。
【0040】
(実施形態3)
本実施形態では、AoIも考慮するイベント駆動型の制御手法を採用する遠隔車両制御システムの動作を説明する。
図6は、本実施形態の遠隔車両制御システム303を説明する構成図である。遠隔車両制御システム303は、
図3の遠隔車両制御システム302と同様に、単数又は複数の車両100、及び遠隔制御装置20で構成される。
【0041】
遠隔制御装置20は、
車両100の走行に関する計測情報(車両速度応答v
res)を車両100から受信する受信部22と、
前記計測情報と目標値(目標速度v
cmd)とから、車両100の走行が前記目標値に近づくように車両100を駆動する制御情報(目標速度と制御入力u
ref)を生成する制御部23と、
前記制御情報及び前記車両に前記計測情報を送信させる送信指示(w)を車両100に送信する送信部24と、
を備える。
送信部24は、前記計測情報と前記目標値との差分である制御誤差(e
c)、及び前記計測情報の情報鮮度(A
1)に基づいて、前記制御情報及び前記送信指示を車両100に送信するか否かを判定することを特徴とする。
本実施形態では、
図3の遠隔車両制御システム302と異なる動作部分のみ説明する。
【0042】
図7は、AoIも考慮するイベント駆動型の制御手法で車両100に向けてデータ送信を行う遠隔制御装置20の動作を説明するフローチャートである。
遠隔制御装置20の送信部24は、速度制御部23から得た目標速度v
cmd、受信部22が受信した車両速度応答v
res,dとの差である制御誤差e
c、および車両速度応答の情報鮮度A
1に基づいてデータ送信を行うか否かを判定する。制御誤差の絶対値|e
c|がしきい値e
th1以上の場合(ステップS211で“Yes”)、送信部24は制御入力u
ref,s、目標速度v
cmd,s、及び送信部起動指示w
sを車両100へ送信する(ステップS212)。制御入力u
refとu
ref,sは同一の値であり、目標速度v
cmdとv
cmd,sは同一の値である。
【0043】
一方、制御誤差の絶対値|ec|がしきい値eth1未満の場合(ステップS211で“No”)、送信部24は制御入力uref,s、目標速度vcmd,s、及び送信部起動指示wsの車両100への送信を停止する(ステップS213)。
【0044】
ここで、情報鮮度A1を、現在時刻と車両速度応答vresが計測された時刻ttとの差とする。車両100は、車両速度応答vresが計測された時刻ttをタイムスタンプ情報tsとし、車両速度応答vres,sとともに遠隔制御装置20へ送信する。遠隔制御装置20で受信したタイムスタンプ値をtrとする。遠隔制御装置20で受信できた最新の車両速度応答vres,dのタイムスタンプ値をtdとすると、情報鮮度A1は現在時刻とタイムスタンプ値tdとの差で計算できる。
なお、車両100から遠隔制御装置20へ車両速度応答及びタイムスタンプ情報の送信が停止されている状態では、最後に受信したタイムスタンプ情報を用いて情報鮮度A1が計算される。つまり、当該状態では時間とともに情報鮮度A1の値は増大していく。
【0045】
送信部24は、送信停止後に情報鮮度A1と車両速度応答vres,dとの積がしきい値xth1よりも大きくなった場合(ステップS214で“No”)、または制御誤差の絶対値|ec|がしきい値eth1以上となった場合(ステップS215で“Yes”)、制御入力uref,s、目標速度vcmd,s、及び送信部起動指示wsの車両100への送信を再開する(ステップS212)。以降、ステップS211からを繰り返す。
なお、車両100から遠隔制御装置20へ車両速度応答及びタイムスタンプ情報の送信が停止されている状態では、最後に受信した車両速度応答vres,dを用いて制御誤差ecが計算される。
【0046】
遠隔制御装置20と車両100の時刻同期については、例えばGNSSを用いるなど必要とされる精度により適切な方法を選択できる。なお、ネットワーク遅延が数ミリ秒である場合など影響が小さい場合、送信部24は、タイムスタンプ値tdの代わりに遠隔制御装置20が車両速度応答vres,dを受信した時刻を用いても構わない。
【0047】
車両100は、車両制御部10を備える。車両制御部10は、受信部11、演算処理部12及び送信部13を備えており、遠隔制御装置20から受信した前記目標値(目標速度vcmd)と車両100が計測した前記計測情報(車両速度応答vres)との差分である車両側制御誤差(em)が車両側閾値(eth2)未満の場合、前記計測情報と前記計測情報の測定時刻(ts)を遠隔制御装置20へ送信することを停止すること
を特徴とする。
【0048】
図6にて各車両100の受信部11の機能を説明する。受信部11は、制御入力u
ref,rと同時に、目標速度v
cmd,rおよび送信部起動指示w
rを受信する。目標速度v
cmd,rおよび送信部起動指示w
rは無線通信ネットワーク30の遅延や情報損失の影響を受けており、制御装置から送信された目標速度v
cmd,sおよび送信部起動指示w
sよりもネットワーク遅延分遅れた情報となり、情報損失が生じた場合には情報が存在しない。
【0049】
情報損失が生じた場合、例えば、演算処理部12は、サンプリング時刻kにおいて送信部13で利用される目標速度vcmd,d[k]として1サンプリング時刻前に使用した目標速度vcmd,d[k-1]を使用することができる。サンプリング周期は、例えば制御周期と同一とする。情報損失が生じていない場合、目標速度vcmd,dとvcmd,rは同一の値である。
【0050】
また、サンプリング時刻kにおいて送信部13で利用される送信部起動指示wd[k]は情報損失が生じた場合には送信されない。情報損失が生じていない場合、送信部起動指示wdとwrは同一の値または指示内容である。
【0051】
[第1の計測データ送信方法]
図8は、AoIも考慮するイベント駆動型の制御手法で遠隔制御装置20に向けて計測データ送信を行う車両100の制御装置10の動作(その1)を説明するフローチャートである。
【0052】
本方法では、送信部13は、遠隔制御装置20から受信した目標速度vcmd,dと車両速度応答vresとの差である制御誤差emおよび送信部起動指示wdに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する。
まず、制御誤差の絶対値|em|がしきい値eth2以上の場合(ステップS221にて“Yes”)、送信部13は車両速度応答vres,s及びタイムスタンプ情報ttを遠隔制御装置20へ送信する(ステップS222)。なお、車両速度応答vresとvres,sは同一の値である。タイムスタンプ情報ttは、車両100が車両速度応答vresを計測した時刻である。
【0053】
一方、制御誤差の絶対値|em|がしきい値eth2未満の場合(ステップS221にて“No”)、送信部13は現在時刻における車両速度応答vres,s及びタイムスタンプ情報ttを遠隔制御装置20へ送信(ステップS223)した後、車両速度応答vres,s及び時刻ttの送信を停止する(ステップS224)。
【0054】
ここで、情報鮮度A2を、現在時刻と時刻ttとの差とする。車両100は、車両速度応答vresが計測された時刻ttをタイムスタンプ情報tsとし、車両速度応答vres,sとともに遠隔制御装置20へ送信している。情報鮮度A2は現在時刻と送信したタイムスタンプ値tsとの差で計算できる。
【0055】
送信部13は、ステップS224の後に送信部起動指示wdを受信した場合(ステップS225で“Yes”)、または制御誤差の絶対値|em|がしきい値eth2以上となった場合(ステップS226で“Yes”)、車両速度応答vres,sおよびタイムスタンプ情報tsの遠隔制御装置20への送信を再開する(ステップS222)。以降、ステップS221からを繰り返す。
【0056】
[第2の計測データ送信方法]
図9は、AoIも考慮するイベント駆動型の制御手法で遠隔制御装置20に向けて計測データ送信を行う車両100の制御装置10の動作(その2)を説明するフローチャートである。
【0057】
本方法では、送信部13は、遠隔制御装置20から受信した目標速度vcmd,dと車両速度応答vresとの差である制御誤差em、車両速度応答の積分値I、および送信部起動指示wdに基づいてデータ送信を行うか否かを判定する。
まず、制御誤差の絶対値|em|がしきい値eth2以上の場合(ステップS221にて“Yes”)、送信部13は車両速度応答vres,s及びタイムスタンプ情報ttを遠隔制御装置20へ送信する(ステップS222)。なお、vresとvres,sは同一の値である。
【0058】
一方、制御誤差の絶対値|em|がしきい値eth2未満の場合(ステップS221にて“No”)、送信部13は現在時刻における車両速度応答vres,s及び及びタイムスタンプ情報ttを遠隔制御装置20へ送信(ステップS223)した後、車両速度応答vres,s及び及びタイムスタンプ情報ttの送信を停止する(ステップS224)。
【0059】
送信部13は、例えば、車両速度応答の積分値Iを、車両速度応答vresとその計測周期との積を積算することで計算する。また、送信部13は、車両速度応答vres,sを遠隔制御装置20へ送信したタイミングで積分値Iを0に初期化する(ステップS225b)。
【0060】
ステップS224の後に車両速度応答の積分値Iがしきい値xth2よりも大きく、かつ送信部起動指示wdを受信した場合(ステップS225a)、または制御誤差の絶対値|em|がしきい値eth2以上となった場合(ステップS226)、送信部13は、車両速度応答vres,sおよびタイムスタンプ情報tsの遠隔制御装置20への送信を再開する。以降、ステップS221からを繰り返す。
【0061】
(他の実施形態)
上述した実施形態において、各パラメータには次のようなバリエーションがある。
イベント駆動制御データ送信機能において用いる制御誤差ecおよびイベント駆動計測データ送信機能で用いる制御誤差emは瞬時値を用いても構わないし、単純移動平均ないし指数移動平均を用いても構わない。単純移動平均ないし指数移動平均を用いることで、過渡状態における制御誤差の一時的な減少による送信停止を回避できる。
しきい値eth1およびしきい値eth2は要求される速度追従性能に基づいて一定値を取っても構わないし、車両位置ないし車両速度あるいは他車両との車間距離に基づいて決定しても構わない。
また、しきい値eth1およびしきい値eth2は要求される位置追従性能に基づいて一定値を取っても構わないし、車両位置ないし車両速度あるいは他車両との車間距離に基づいて決定しても構わない。
さらに、本システムが、イベント駆動制御データ送信機能ないしイベント駆動計測データ送信機能の送信停止後(ステップS213又はステップS224の後)、一定期間経過後にデータの強制送信を行う機能を具備しても構わない。
さらに、本発明の遠隔制御装置はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0062】
(発明の効果)
本発明は、通信トラヒックを削減するためのイベント駆動型のネットワーク化制御がなされているCBTCにおいて、制御誤差に加えてフィードバックされる車両速度情報と当該車両速度情報のAoIに基づいてデータ送信タイミングを決定する機能を追加している。このため、本発明は、ある一定の車両走行距離間隔でデータを送信し、制御性能を一定レベルに維持することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10:制御装置
11:受信部
12:演算処理部
13:送信部
20:遠隔制御装置
21:速度生成部
22:受信部
23:速度制御部
24:送信部
30:無線通信ネットワーク
100:車両
301~303:遠隔車両制御システム