(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174669
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】試料希釈装置、試料希釈方法、化学分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 1/38 20060101AFI20241210BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20241210BHJP
【FI】
G01N1/38
G01N1/00 101L
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092618
(22)【出願日】2023-06-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発/機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」委託研究、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】中里 哲也
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AD26
2G052AD46
2G052CA03
2G052CA04
2G052CA35
2G052FD01
2G052GA13
2G052GA24
2G052GA27
2G052JA03
2G052JA07
(57)【要約】
【課題】定量分析における試料の希釈を、高精度に、かつ簡便に行える試料希釈装置、試料希釈方法および試料希釈装置を備えた化学分析システムの提供である。
【解決手段】希釈容器18と、容器内の液の抜出流路L4と、試料液供給流路L1と、試料液流路と抜出流路とに接続する共通流路L6と、希釈液供給流路L2と、希釈液の計量ポンプ10と、容器に試料液と希釈液を供給する希釈試料液流路L3と、共通流路に接続する流路を試料液流路と抜出流路とに切替えるバルブ16と、共通流路からの供給液の排出流路L5と、排出流路に設けた吸引ポンプ12と、供給液の一定量を貯留するサンプルループ24を有し、さらに、共通流路、サンプルループを経由又は経由せず、排出流路に接続する流路と、希釈液流路、サンプルループを経由又は経由せず、希釈試料液流路に接続する流路とを切り替え可能なバルブ14とを備えた試料希釈装置および試料希釈方法等である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈対象の試料液と希釈液とが供給される容器と、
前記容器内の混合液を抜き出す抜出流路と、
前記試料液を供給する試料液流路と、
前記試料液流路と前記抜出流路とに接続する共通流路と、
前記希釈液を供給する希釈液流路と、
前記希釈液流路に設けられ、所定量の希釈液を送液する送液手段と、
前記容器に試料液と希釈液を供給する希釈試料液流路と、
前記共通流路に接続する流路を前記試料液流路と前記抜出流路とに切り替える第一流路切替器と、
前記共通流路から供給される液を排出する排出流路と、
前記排出流路に設けた排出手段と、
供給される液の一定量を一時的に貯留する定量貯留流路と、
前記共通流路から前記定量貯留流路を経由して前記排出流路に接続する流路1と、前記希釈液流路から前記定量貯留流路を経由して前記希釈試料液流路に接続する流路2と、前記共通流路から前記定量貯留流路を経由せずに前記排出流路に接続する流路3と、前記希釈液流路から前記定量貯留流路を経由せずに前記希釈試料液流路に接続する流路4とを切り替え可能な第二流路切替器と
を備えたことを特徴とする試料希釈装置。
【請求項2】
反応器と、前記反応器に原料液を供給する原料液供給流路と、前記反応器で生成した生成物を含む液を前記試料液流路に供給する生成物供給流路と
を設けたことを特徴とする請求項1に記載の試料希釈装置。
【請求項3】
前記試料液流路を複数備え、第一流路切替器は前記共通流路に接続する流路を各試料液流路と抜出流路とに切り替えるものであり、
さらに、第二流路切替器が、前記希釈液流路から供給され、前記定量貯留流路を経由する又は経由しない流路と前記共通流路から供給され、前記定量貯留流路を経由する又は経由しない流路とが並列するように、複数直列に接続し、かつ最上流側の第二流路切替器は前記希釈液流路と前記共通流路に接続し、最下流側の第二流路切替器は前記希釈試料液流路と前記排出流路に接続していることを特徴とする請求項1に記載の試料希釈装置。
【請求項4】
前記第一流路切替器により前記試料液流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器により前記流路1とし、試料液流路から供給される試料液を前記排出手段により前記定量貯留流路に貯留させる工程1、
前記第二流路切替器を流路2に切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量供給して前記定量貯留流路に貯留された試料液と希釈液とを前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程2、
前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路1に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記定量貯留流路に前記容器内の混合液を貯留させる工程3、
前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路3に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記容器内の混合液を排出する工程4、
前記第二流路切替器を流路4に接続するように切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量、前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程5、
前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路3に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記容器内の希釈液を全量排出する工程6、
前記第二流路切替器を流路2に接続するように切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量供給して前記定量貯留流路に貯留された混合液と希釈液とを前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程7を、
前記工程1-7の順に実行する機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の試料希釈装置。
【請求項5】
前記工程1-7の後に、前記工程3-7を1以上繰り返す機能を備えたことを特徴とする請求項4に記載の試料希釈装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の試料希釈装置により試料液を希釈する試料希釈方法であって、
前記第一流路切替器により前記試料液流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器により前記流路1とし、試料液流路から試料液を供給して前記排出手段により前記定量貯留流路に試料液を貯留させる工程1、
前記第二流路切替器を流路2に切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量供給して前記定量貯留流路に貯留された試料液と希釈液とを前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程2
前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路1に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記定量貯留流路に前記容器内の混合液を貯留させる工程3、
前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路3に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記容器内の混合液を排出する工程4、
前記第二流路切替器を流路4に接続するように切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量、前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程5、
前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路3に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記容器内の希釈液を全量排出する工程6、
前記第二流路切替器を流路2に接続するように切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量供給して前記定量貯留流路に貯留された混合液と希釈液とを前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程7を、
前記工程1-7の順に実行することを特徴とする試料希釈方法。
【請求項7】
前記工程1-7の後に、前記工程3-7を1以上繰り返すことを特徴とする請求項6に記載の試料希釈方法。
【請求項8】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、
前記容器を前記化学分析装置の測定セルとしたことを特徴とする化学分析システム。
【請求項9】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、
前記容器内の混合液を排出する第1排出手段と、前記第1排出手段により排出された混合液を前記化学分析装置の測定セルに供給する供給手段と、前記供給手段により供給された混合液を測定セルから排出する第2排出手段と
を設けたことを特徴とする化学分析システム。
【請求項10】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、
前記容器内の混合液を排出する排出手段と、前記排出手段により排出された混合液を前記化学分析装置に供給する供給手段と
を設けたことを特徴とする化学分析システム。
【請求項11】
請求項4または請求項5に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、
前記容器を前記化学分析装置の測定セルとし、前記工程1-7の順に実行して試料液の希釈と測定を連続的に行うことを特徴とする化学分析システム。
【請求項12】
請求項4または請求項5に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、
前記容器内の混合液を排出する第1排出手段と、前記第1排出手段により排出された混合液を前記化学分析装置の測定セルに供給する供給手段と、前記供給手段により供給された混合液を測定セルから排出する第2排出手段とを設け、
前記工程1-7の順に実行して試料液を希釈するとともに、前記第1排出手段、前記供給手段および前記第2排出手段により、試料液の希釈と測定を同時又は連続的に行うことを特徴とする化学分析システム。
【請求項13】
請求項4または請求項5に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、
前記容器内の混合液を排出する排出手段と、前記排出手段により排出された混合液を前記化学分析装置に供給する供給手段とを設け、
前記工程1-7の順に実行して試料液を希釈するとともに、前記排出手段および前記供給手段により、試料液の希釈と測定を同時又は連続的に行うことを特徴とする化学分析システム。
【請求項14】
前記試料液の希釈と測定を、オンラインで行うことを特徴とする請求項11に記載の化学分析システム。
【請求項15】
前記試料液の希釈と測定を、オンラインで行うことを特徴とする請求項12に記載の化学分析システム。
【請求項16】
前記試料液の希釈と測定を、オンラインで行うことを特徴とする請求項13に記載の化学分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の化学成分の定量分析をする際に、必要な状態に希釈する試料希釈装置、試料希釈方法、および試料希釈装置を備えた化学分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光分析、質量分析、原子スペクトル分析(発光、吸光等)、液体クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどの高感度分析方法では、液体試料中の化学成分の定量のために、高濃度(%レベル)の化学成分をppmレベル以下の低濃度に希釈する必要がある。例えば、特許文献1には、ペリスタリックポンプにより試料液と希釈液とを各々計量して混合することで希釈倍率を調整する方法が開示されている。また、特許文献2には、試料液と希釈液を共通のアスピレーターで吸引してアスピレーターの出口で混合し、希釈する方法が開示されている。さらに、特許文献3には、ネブライザーによる負圧吸引法で試料液をチューブに導入して計量しつつポンプで希釈液を計量し送液して混合希釈する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献4には、1台のポンプにより、希釈液をチューブの一端から吸引してチューブ内を希釈液で満たした後、チューブの他端を試料液に入れてポンプを逆回転させることで規定量の試料液をチューブに吸引し、吸引した試料液とチューブ内の希釈液をチューブの他端から希釈容器に排出する方法が開示されている。そして、特許文献5には、1台の吸引吐出ノズルを用いて、少量の空気、所定量の希釈液、少量の空気、所定量の試料液の順に吸引し、前記希釈液から試料液を希釈容器に吐出して、希釈する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献6には、調圧手段により減圧状態として試料液および希釈液を別々のチューブに引き込み、それぞれのチューブに光照射することで流通を検知し、一定量の液量をチューブ内に貯留した後に、流路を切り替えて、貯留した試料液および希釈液を希釈容器に導入する方法が開示されている。そして、特許文献7には、希釈液を計量器に充填し、圧縮空気により希釈容器に排出した後に、試料液を別の計量管に充填し、圧縮空気で押し出して希釈容器に排出して、希釈する方法が開示されている。また、二段階目の希釈では、希釈容器内の一次希釈液と希釈液を別の希釈容器に導入して希釈している。さらに、特許文献8には、希釈液を送液するポンプと、任意の流路(長さや内径が異なるチューブ)の選択や試料液の注入が可能なバルブを複数個配した装置が開示されている。この装置により、試料液をチューブに貯留した後に、バルブで流路を切り替えてポンプにより希釈液を送液して、貯留した試料液及び希釈液を、選択した流路に導入することで混合希釈を行っている。また、従来の方法として、試料液の希釈に、一つの低容量(例えば1μL)のマイクロシリンジを用いて試料液を採取して希釈する方法では、一段階目の希釈と二段階目の希釈との間でマイクロシリンジを数回洗浄することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-6788号公報
【特許文献2】特許第3605818号公報
【特許文献3】特開2012-083188号公報
【特許文献4】特開2000-146784号公報
【特許文献5】特公平8-010214号公報
【特許文献6】特許第4150271号公報
【特許文献7】特開2012-220246号公報
【特許文献8】特開平6-308137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、試料液と希釈液とを各々計量するため、双方とも高精度のポンプが必要であり、また計量誤差も生じやすくなる。さらに、高倍率希釈には対応するものではない。そして、特許文献2-3に記載の方法では、試料液を負圧吸引して計量しつつ希釈液を送液して混合し、希釈するが、計量精度の確保が難しい。また、高倍率希釈では、大量の希釈液が必要となる。
【0007】
特許文献4に記載の方法では、チューブの容量の制限により希釈倍率の範囲が狭く、またポンプを逆回転させることで試料液と希釈液とをそれぞれ吸引するものであることから操作が煩雑となる。そして、特許文献5に記載の方法では、吸引吐出ノズルの容量の制限により希釈倍率を高めることは難しい。また、特許文献6に記載の方法では、光照射器や光検出器、調圧器などの複雑で高価な装置が必要であり、操作も煩雑となる。そして、特許文献7に記載の方法では、希釈液と試料液をそれぞれ計量する計量器や計量管、および多数の切り替えバルブが必要であり、また多段階希釈の場合は希釈容器を増やす必要がある。さらに、特許文献8に記載の方法では、複数の種類のチューブを揃える必要があり、また希釈倍率の範囲も限られる。
【0008】
上記高感度分析方法における高精度の定量分析を実現するためには、高濃度試料から10万倍を超えるような高倍率希釈を高精度に簡便かつ迅速に行うことが望ましい。また分光分析など分析法の種類によっては、分析感度のダイナミックレンジの大きさに制限を有するものもあり、種々の濃度範囲の試料液に応じて低倍率から高倍率の広い範囲の希釈操作を行う必要がある。この希釈操作による希釈精度は分析精度に直接影響を与えるものであり、希釈精度を決める要因の一つに、試料液および希釈液の計量精度が挙げられる。さらに、ほとんどの高感度化学分析が必要とする分析試料量は数mL以下であるものの、10万倍を超えるような高い希釈倍率の場合には、1μLなどの極少量のマイクロシリンジを用いたとしても100mLを超えるなど大量の希釈液が必要となり、加えて高価なマイクロシリンジ、高価な大型希釈器の使用や大量の廃液処理などの高コスト化も招いてしまう。また、高倍率希釈時の希釈液量を抑制するために多段階希釈を行うこともあり、一段階目の希釈と二段階目以後の希釈で、高価なマイクロシリンジの使用数を削減するために、希釈前の試料液や一段階希釈後の試料液に同じマイクロシリンジを用いるが、内部に残留した試料液を除去するために洗浄を数十回繰り返し行う必要があり、作業負担にもなるとともに、大量の洗浄液が必要となる。
【0009】
本発明の課題は、定量分析における試料の希釈を、高精度に、かつ簡便に行うことが可能な試料希釈装置、試料希釈方法および試料希釈装置を備えた化学分析システムの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、正確な量を測定、貯留可能な定量貯留流路を、試料原液の計量のみならず、希釈した試料液の計量にも用いることで、試料の希釈を、高精度に、かつ簡便に行えることを見いだし、本発明を完成させた。この試料希釈装置および試料希釈方法において、希釈液の調製は簡便、低コストでできるものである。
【0011】
具体的には、本発明は、下記(1)-(5)の試料希釈装置に関する。
(1)希釈対象の試料液と希釈液とが供給される容器と、前記容器内の混合液を抜き出す抜出流路と、前記試料液を供給する試料液流路と、前記試料液流路と前記抜出流路とに接続する共通流路と、前記希釈液を供給する希釈液流路と、前記希釈液流路に設けられ、所定量の希釈液を送液する送液手段と、前記容器に試料液と希釈液を供給する希釈試料液流路と、前記共通流路に接続する流路を前記試料液流路と前記抜出流路とに切り替える第一流路切替器と、前記共通流路から供給される液を排出する排出流路と、前記排出流路に設けた排出手段と、供給される液の一定量を一時的に貯留する定量貯留流路と、前記共通流路から前記定量貯留流路を経由して前記排出流路に接続する流路1と、前記希釈液流路から前記定量貯留流路を経由して前記希釈試料液流路に接続する流路2と、前記共通流路から前記定量貯留流路を経由せずに前記排出流路に接続する流路3と、前記希釈液流路から前記定量貯留流路を経由せずに前記希釈試料液流路に接続する流路4とを切り替え可能な第二流路切替器とを備えた試料希釈装置。
(2)反応器と、前記反応器に原料液を供給する原料液供給流路と、前記反応器で生成した生成物を含む液を前記試料液流路に供給する生成物供給流路とを設けた前記(1)に記載の試料希釈装置。
(3)前記試料液流路を複数備え、第一流路切替器は前記共通流路に接続する流路を各試料液流路と抜出流路とに切り替えるものであり、さらに、第二流路切替器が、前記希釈液流路から供給され、前記定量貯留流路を経由する又は経由しない流路と前記共通流路から供給され、前記定量貯留流路を経由する又は経由しない流路とが並列するように、複数直列に接続し、かつ最上流側の第二流路切替器は前記希釈液流路と前記共通流路に接続し、最下流側の第二流路切替器は前記希釈試料液流路と前記排出流路に接続している、前記(1)に記載の試料希釈装置。
(4)前記第一流路切替器により前記試料液流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器により前記流路1とし、試料液流路から供給される試料液を前記排出手段により前記定量貯留流路に貯留させる工程1、前記第二流路切替器を流路2に切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量供給して前記定量貯留流路に貯留された試料液と希釈液とを前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程2、前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路1に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記定量貯留流路に前記容器内の混合液を貯留させる工程3、前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路3に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記容器内の混合液を排出する工程4、前記第二流路切替器を流路4に接続するように切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量、前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程5、前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路3に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記容器内の希釈液を全量排出する工程6、前記第二流路切替器を流路2に接続するように切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量供給して前記定量貯留流路に貯留された混合液と希釈液とを前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程7を、前記工程1-7の順に実行する機能を備えた前記(1)に記載の試料希釈装置。
(5)前記工程1-7の後に、前記工程3-7を1以上繰り返す機能を備えた前記(4)に記載の試料希釈装置。
また、本発明は、下記(6)-(7)の試料希釈方法に関する。
(6)前記(1)または(2)に記載の試料希釈装置により試料液を希釈する試料希釈方法であって、前記第一流路切替器により前記試料液流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器により前記流路1とし、試料液流路から試料液を供給して前記排出手段により前記定量貯留流路に試料液を貯留させる工程1、前記第二流路切替器を流路2に切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量供給して前記定量貯留流路に貯留された試料液と希釈液とを前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程2、前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路1に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記定量貯留流路に前記容器内の混合液を貯留させる工程3、前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路3に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記容器内の混合液を排出する工程4、前記第二流路切替器を流路4に接続するように切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量、前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程5、前記第一流路切替器により前記抜出流路から前記共通流路に接続し、かつ前記第二流路切替器を流路3に接続するように切り替えて、前記排出手段により前記容器内の希釈液を全量排出する工程6、前記第二流路切替器を流路2に接続するように切り替えて、前記送液手段により希釈液を所定量供給して前記定量貯留流路に貯留された混合液と希釈液とを前記希釈試料液流路から前記容器に供給する工程7を、前記工程1-7の順に実行する試料希釈方法。
(7)前記工程1-7の後に、前記工程3-7を1以上繰り返す、前記(6)に記載の試料希釈方法。
【0012】
また、本発明は、下記(8)-(16)の化学分析システムに関する。
(8)前記(1)から(3)のいずれか1つに記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、前記容器を前記化学分析装置の測定セルとした、化学分析システム。
(9)前記(1)から(3)のいずれか1つに記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、前記容器内の混合液を排出する第1排出手段と、前記第1排出手段により排出された混合液を前記化学分析装置の測定セルに供給する供給手段と、前記供給手段により供給された混合液を測定セルから排出する第2排出手段とを設けた化学分析システム。
(10)前記(1)から(3)のいずれか1つに記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、前記容器内の混合液を排出する排出手段と、前記排出手段により排出された混合液を前記化学分析装置に供給する供給手段とを設けた化学分析システム。
(11)前記(4)または(5)に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、前記容器を前記化学分析装置の測定セルとし、前記工程1-7の順に実行して試料液の希釈と測定を連続的に行う化学分析システム。
(12)前記(4)または(5)に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、前記容器内の混合液を排出する第1排出手段と、前記第1排出手段により排出された混合液を前記化学分析装置の測定セルに供給する供給手段と、前記供給手段により供給された混合液を測定セルから排出する第2排出手段とを設け、前記工程1-7の順に実行して試料液を希釈するとともに、前記第1排出手段、前記供給手段および前記第2排出手段により、試料液の希釈と測定を同時又は連続的に行う化学分析システム。
(13)前記(4)または(5)に記載の試料希釈装置と、前記容器内の混合液を分析する化学分析装置とを備えた化学分析システムであって、前記容器内の混合液を排出する排出手段と、前記排出手段により排出された混合液を前記化学分析装置に供給する供給手段とを設け、前記工程1-7の順に実行して試料液を希釈するとともに、前記排出手段および前記供給手段により、試料液の希釈と測定を同時又は連続的に行う化学分析システム。
(14)前記試料液の希釈と測定を、オンラインで行う前記(11)に記載の化学分析システム。
(15)前記試料液の希釈と測定を、オンラインで行う前記(12)に記載の化学分析システム。
(16)前記試料液の希釈と測定を、オンラインで行う前記(13)に記載の化学分析システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、定量分析における試料の希釈を、高精度に、かつ簡便に行うことが可能な試料希釈装置、試料希釈方法および試料希釈装置を備えた化学分析システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試料希釈装置の構成を示した図である。(実施形態1)
【
図2】インジェクションバルブおよび三方バルブの流路切り替え状態を示した図である。
【
図3】試料希釈装置の液のルートを示した図である。(操作1)
【
図4】試料希釈装置の液のルートを示した図である。(操作2)
【
図5】試料希釈装置の液のルートを示した図である。(操作3)
【
図6】試料希釈装置の液のルートを示した図である。(操作4、操作6)
【
図7】試料希釈装置の液のルートを示した図である。(操作5)
【
図8】試料希釈装置の液のルートを示した図である。(操作7)
【
図9】他の実施形態の試料希釈装置の構成を示した図である。(実施形態2)
【
図10】他の実施形態の試料希釈装置の構成を示した図である。(実施形態3)
【
図11】インジェクションバルブおよび四方バルブの流路切り替え状態を示した図である。(実施形態3)
【
図12】試料希釈装置を備えた化学分析システムの構成を示した図である。(実施形態4)。
【
図13】試料希釈装置を備えた化学分析システムの構成を示した図である。(実施形態5)。
【
図14】試料希釈装置を備えた化学分析システムの構成を示した図である。(実施形態6)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
本実施形態の試料希釈装置の構成例を
図1に示す。この試料希釈装置1は、主に、計量ポンプ10、吸引ポンプ12、流路切替器となる6ポート二方インジェクションバルブ(以下、インジェクションバルブという。)14や三方バルブ16、試料液と希釈液の混合液が貯留される希釈容器18等で構成される。また、希釈対象の試料液が貯留される試料液容器20、希釈液が貯留される希釈液容器22などが配置されている。そして、試料液と希釈液等の流路系統(チューブ等)として、希釈対象の試料液を供給する試料液流路L1と、計量ポンプ10により所定量の希釈液を供給する希釈液流路L2と、希釈液流路L2に接続する希釈試料液流路L3と、希釈容器18内の液を抜き出す抜出流路L4と、試料液流路L1と抜出流路L4とに接続する共通流路L6と、共通流路L6に接続し、吸引ポンプ12により共通流路L6から供給される液を排出する排出流路L5等を備えている。なお、図中同一符号は同一又は相当部分を示す。また、本明細書中、数値範囲を示す場合は、上限および下限を含むものとする。
【0016】
インジェクションバルブ14には、供給される液の一定量を一時的に貯留する定量貯留流路となるサンプルループ24が接続している。なお、定量貯留流路としては、正確な量を測定、貯留可能であれば、ループ状に限らず定容積の直管などでもよい。そして、三方バルブ16は、共通流路L6に接続する流路を、試料液流路L1と抜出流路L4とに切り替える流路切替器の一例である。この他の例として、三方バルブ16の代わりに、各流路L1、L4に開閉弁を設けても良い。
図2には、インジェクションバルブ14および三方バルブ16の流路切り替え状態を示す。インジェクションバルブ14は、ポートP1-P6の6つのポートを有しており、(A)に示すモードAと(B)に示すモードBの二つのモードに流路を変更可能である。また、三方バルブ16は、(C)に示すモードCと(D)に示すモードDの二つのモードに流路を変更可能である。
【0017】
インジェクションバルブ14のポートP1は希釈液流路L2に接続しており、ポートP5は共通流路L6に接続している。各ポートP1、P5は、各流路L2、L6から供給される液の流入口となっている。また、ポートP2は希釈試料液流路L3に接続しており、ポートP4は排出流路L5に接続している。各ポートP2、P4は、各流路L3、L5に液を供給する液の流出口となっている。
【0018】
インジェクションバルブ14がモードAの場合は、ポートP1とP2が接続した流路と、ポートP5とポートP6が接続し、サンプルループ24を介してポートP3とポートP4が接続した流路とが形成される。このモードAでは、ポートP1に供給される液はサンプルループ24を経由せずに、ポートP2から希釈試料液流路L3に供給される。また、ポートP5に供給される液はサンプルループ24を経由して、ポートP4から排出流路L5に供給される。
【0019】
そして、インジェクションバルブ14がモードBの場合は、ポートP1とポートP6が接続し、サンプルループ24を介してポートP3とポートP2が接続した流路と、ポートP5とポートP4が接続した流路とが形成される。このモードBでは、ポートP1に供給される液はサンプルループ24を経由して、ポートP2から希釈試料液流路L3に供給される。また、ポートP5に供給される液はサンプルループ24を経由せずに、ポートP4から排出流路L5に供給される。また、三方バルブ16は、モードCでは試料液流路L1から共通流路L6に接続し、モードDでは抜出流路L4から共通流路L6に接続することで流路を切り替え可能になっている。なお、三方バルブ16を用いずに、試料液流路L1や抜出流路L4にそれぞれ開閉弁を設けて、各流路の切り替えを行ってもよいが、三方バルブ16を用いることで、部材の数が削減されて簡素な構成となるので好ましい。
【0020】
そして、三方バルブ16とインジェクションバルブ14の切り替えにより、例えば、以下のルートが形成される。インジェクションバルブ14がモードA、三方バルブ16がモードCの場合、試料液流路L1から共通流路L6とサンプルループ24を経由して排出流路L5に接続するルート1、また、インジェクションバルブ14がモードBの場合、三方バルブ16のモードに関わらず、希釈液流路L2からサンプルループ24を経由して希釈試料液流路L3に接続するルート2、インジェクションバルブ14がモードA、三方バルブ16がモードDの場合、抜出流路L4から共通流路L6とサンプルループ24を経由して排出流路L5に接続するルート3、インジェクションバルブ14がモードB、三方バルブ16がモードDの場合、抜出流路L4から共通流路L6に接続し、サンプルループ24を経由せずに排出流路L5に接続するルート4などがある。また、インジェクションバルブ14がモードAの場合は、三方バルブ16のモードに関わらず、希釈液流路L2からサンプルループ24を経由せずに希釈試料液流路L3に接続するルート5がある。
【0021】
図3-7は、各ルートを説明するための図であり、分かりやすいように、各ルートを太線で示している。
ルート1(
図3)では、試料液容器20内の試料液が、吸引ポンプ12により試料液流路L1から共通流路L6、サンプルループ24を通って排出流路L5に供給され、一部がドレン水となって、排出される。サンプルループ24には、試料液の一定量が一時的に貯留される。分析に供する試料液には様々な種類のものを用いることが可能である。特にポリマー製またはステンレス製のバルブ、サンプルループ、接続チューブ等を使用することで、汚染や残留が発生しやすい部材(ガラス、ルビー、サファイヤ)やそのような構造(シリンジ式、プランジャー式)を有するポンプに比べて、汚染や残留が防止でき好適である。
ルート2(
図4)では、希釈液容器22内の希釈液(例えば、超純水などの水や酸、アルカリ、メタノール、アセトニトリル、トルエンなどの有機溶媒)が、計量ポンプ10により希釈液流路L2からサンプルループ24を経由して希釈試料液流路L3に供給されて、希釈容器18内に貯留される。サンプルループ24内に試料液等が貯留されている場合は、試料液等を希釈容器18に送液する役割を有するものである。また、希釈液によりサンプルループ24内を洗浄することもできる。
【0022】
そして、ルート3(
図5)では、吸引ポンプ12により、希釈容器18内の液を抜出流路L4から共通流路L6とサンプルループ24を経由して排出流路L5に供給され、一部がドレン水となって、排出される。この時、サンプルループ24には、希釈容器18内の液の一定量が一時的に貯留される。
そして、ルート4(
図6)では、希釈容器18内の液が抜出流路L4から共通流路L6を経由してサンプルループ24を経由せずに排出流路L5に供給され、ドレン水となって、排出される。このルートでは、希釈容器18内の液を全て排出することができる。
ルート5(
図7)では、希釈液容器22内の希釈液が、計量ポンプ10により希釈液流路L2からサンプルループ24を経由せずに希釈試料液流路L3に供給され、希釈容器18内に希釈液が貯留される。希釈液用の計量ポンプ10は精度を確保するため、定流速か容量を計量できるポンプがよい。例えば、前者として連続送液できるポンプであるプランジャー式ポンプ、ペリスタリックポンプ、ダイヤフラムポンプ、後者(容量を計量できるポンプ)としてシリンジポンプ、計量管などがある。
【0023】
次に、例えば、表1および
図3-8を用いて多段階希釈操作の手順を説明する。
【表1】
【0024】
まず、操作1として、インジェクションバルブ14と三方バルブ16をルート1となるように設定し、吸引ポンプ12を作動させて、試料液容器20内の試料液をインジェクションバルブ14のサンプルループ24に吸引する(
図3)。次に、操作2として、インジェクションバルブ14を切り替えて、ルート2になるように設定し、希釈液容器22内の希釈液を、計量ポンプ10を用いて正確に計量し、サンプルループ24に導入する。なお、三方バルブ16はモードCでもモードDでもどちらでも構わない。サンプルループ24内の試料液は希釈液により全量押し出されて希釈容器18に供給される。希釈容器18には、試料液と希釈液との混合液が貯留され、一次希釈液を得ることができる(
図4)。この一次希釈液は、計量ポンプ10により計量された正確な量の希釈液と定容積のサンプルループ24に貯留された試料液との混合液であることから、高精度の希釈試料液である。なお、混合効率を高めるため、希釈容器18内の混合液を撹拌する攪拌機(図示せず)を備えてもよい。例えば、希釈容器18に攪拌子や攪拌棒を挿入して攪拌したり、または空気などの気体を導入することで攪拌してもよい。混合液を撹拌することで、均一な希釈試料液となる。
【0025】
次に、操作3として、三方バルブ16を抜出流路L4側に切り替えて、ルート3となるように設定する。そして、吸引ポンプ12により希釈容器18内の一次希釈液をサンプルループ24に貯留する(
図5)。この一次希釈液を一次希釈試料液という。なお、この操作では、操作1において共通流路L6に残存する試料液もサンプルループ24に流れるが、希釈容器18内の一次希釈液の流入量を多めにすることで、共通流路L6に残存する試料液は洗い流されるため、サンプルループ24内の一次希釈液の精度には影響を与えるものではない。
次いで、希釈容器18からの一次希釈液の排出および希釈容器18内の洗浄を行う。まず、操作4として、インジェクションバルブ14を切り替えて、ルート4となるように設定する。ここでは、吸引ポンプ12により希釈容器18内に残留した一次希釈液を吸引し、ほぼ全量を排出する(
図6)。その後、操作5として、インジェクションバルブ14を切り替えて、ルート5となるように設定して、希釈容器18内の洗浄を行う。なお、三方バルブ16はモードCでも構わないが、試料液の混入防止の点から、モードDのまま続行することが好ましい。洗浄は、計量ポンプ10により一定量(希釈容器18に貯蔵した一次希釈液の容量と同じ量)の希釈液を希釈容器18に供給することで行い(
図7)、その後、操作6として、インジェクションバルブ14を切り替えて、ルート4となるように設定し、吸引ポンプ12により希釈容器18内に残留した一次希釈液および洗浄液を排出する(
図6)。なお、希釈容器18内の一次希釈液の残留を抑制するために、前記操作4-5を繰り返して行ってもよい。また、希釈容器18内の一次希釈液や洗浄液を排出する別の手段として、希釈容器18の下部にバルブ(図示せず)を設けて、バルブを開けることで排出してもよい。このことは、他の実施形態にも共通する。
【0026】
次に、二次希釈液を調製するため、操作7として、サンプルループ24に貯留した一次希釈試料液(操作3)を上述の一次希釈方法と同様に、計量ポンプ10により希釈液を計量して希釈容器18に導入し希釈することで二段階目の希釈を行う(
図8)。すなわち、サンプルループ24内の一次希釈試料液は希釈液により全量押し出されて希釈容器18に供給される。三段階目以降の希釈はこの二段階目の操作(操作3-7)を繰り返すことで行うことができる。この多段階希釈は、試料液や希釈後の試料液の計量が定容積のサンプルループ24の全量で正確に行われ、かつ希釈液は高精度の計量ポンプ10で正確に計量しサンプルループ24に導入されることで、一定量の試料液または一次希釈試料液等を希釈液により洗い流しながら希釈容器18に導入し、混合される。このように、本実施形態によれば、試料液や一次希釈液は同一のサンプルループ24により正確な量を計量できること、また、一次希釈液や二次希釈液を同一の希釈容器18に貯留できることから、それぞれの液の計量管や貯留容器を必要とせず、試料の希釈を、高精度に、かつ簡便に行うことができる。
【0027】
また、希釈容器18中の一次希釈液や二次希釈液等は上記の吸引ポンプ12の作動および希釈液の導入、洗浄により排出され、残留液は無くなる。さらに、希釈倍率は、希釈液の量を調整し、また、多段階希釈を行うことで広範囲で調整可能である。したがって、試料液用の高精度の計量ポンプが不要で、かつ装置の増設を行わずに高倍率の広い範囲で高精度に試料液の多段階希釈を行うことが可能となる。なお、計量ポンプはプランジャーポンプ、シリンジポンプ、ダイヤフラムポンプなど必要な希釈精度に応じて自由に選択することができる。また、試料液の成分、溶媒、バルブ、容器なども上記の希釈原理を満たせば自由に選択することができる。さらに、制御装置30(
図1)により、計量ポンプ10、吸引ポンプ12、インジェクションバルブ14、三方バルブ16等の作動を制御することで(例えば、予めプログラムされていてもよい)、自動で試料液の希釈を行うことができる。また、この試料希釈装置と化学分析装置(例えば、蛍光分析、質量分析、原子スペクトル分析(発光、吸光等)、液体クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなど)をオンラインで接続したオンライン多段階希釈化学分析も可能である。このことは、他の実施形態にも共通する。
【0028】
(実施形態2)
そして、本実施形態の試料希釈装置によれば、容器に入った試料液だけではなく、オンラインで行われる化学反応のように、チューブや配管等の中を流れている反応液についても、上記の希釈方法により採取、希釈、および分析が可能となる。この場合の試料希釈装置の構成例を
図9に示す。この試料希釈装置3では、原料を反応させて得た反応生成物を、試料液として試料液流路L1に供給する点で、
図1の試料希釈装置1とは異なるが、それ以外の構成は
図1の試料希釈装置1と同様であるため、共通部分の説明は省略する。
二種類の原料液容器31、33内に貯留された各原料液を、触媒等を収容した反応器35に導入して反応させることで生成物を得る。生成物は当該生成物を含む液として生成物流路L7から生成物容器39に貯留されるが、生成物流路L7に設けた切替弁(三方バルブなど)37を切り替えることで、生成物が試料液流路L1に導入される。そして、生成物を含む液は、実施形態1と同様の希釈操作により希釈される。なお、切替弁37の代わりに、各流路L1、L7に開閉弁を設けても良いし、生成物流路L7と試料液流路L1を兼用してもよい。また、反応器35は単なる混合器として、複数種の試料液の混合希釈に使用することもできるし、原料液を一種類または三種類以上としてもよい。例えば、原料液を二種類とした場合、アセトニトリルに溶解したジメチルアントラセン溶液とN-エチルマレイミド溶液からエチルジメチル-アザペンタシクロノナデカ-ヘキサエンジオンを合成する反応などがある。このように、本実施形態においても、上記の希釈原理により反応液を吸引採取して、上記のオンライン多段階希釈が可能となる。
【0029】
(実施形態3)
別実施形態の試料希釈装置の構成例を
図10に示す。また、この装置のバルブ切り替え例を
図11に示す。
図11(A)、(B)は、インジェクションバルブ14aのバルブ切り替え例を示し、
図11(C)、(D)は、インジェクションバルブ14bのバルブ切り替え例を示し、
図11(E)-(G)は、三方バルブに代えて四方バルブとした場合のバルブ切り替え例を示す。この試料希釈装置4では、主に二つのインジェクションバルブ14a、14bを備えた点で、
図1の試料希釈装置1とは異なるが、それ以外の構成は
図1の試料希釈装置1と同様であるため、共通部分の説明は省略する。
【0030】
この装置は、二つの試料液容器20a、20bと二つのインジェクションバルブ14a、14bを備えており、サンプルループ24a、24bを有する各インジェクションバルブ14a、14bが流路L8、L9により直列接続されているものである。具体的には、インジェクションバルブ14aのポートP2とインジェクションバルブ14bのポートP1が流路L8により接続し、インジェクションバルブ14aのポートP4とインジェクションバルブ14bのポートP5が流路L9により接続している。また、希釈液流路L2はインジェクションバルブ14aのポートP1に接続し、共通流路L6はインジェクションバルブ14aのポートP5に接続し、希釈試料液流路L3はインジェクションバルブ14bのポートP2に接続し、排出流路L5はインジェクションバルブ14bのポートP4に接続している。異なる容積(容量)のサンプルループを用いた場合は、必要な希釈倍率に応じてインジェクションバルブを切り替えてサンプルループを選択し、試料液を当該サンプルループに導入して希釈することが可能である。したがって、希釈倍率の調整範囲の拡大や同一希釈倍率の試料液量の変更もできる。また、二つの試料液容器20a、20bに、異なる試料液を貯留することで、異なる試料の混合希釈にも用いることができる。
【0031】
例として、試料液の希釈倍率を低くする場合の操作例を表2に示す。
【表2】
【0032】
例えば、容量の異なるサンプルループ24a、24bとした場合に、容量の小さいサンプルループ24bの代わりに容量の大きいサンプルループ24aに試料液を導入して希釈操作を行うことで、希釈倍率を低くすることができる。
操作1では、試料液容器20a内の試料液を試料液流路L1aから一方のインジェクションバルブ14aのサンプルループ24aに吸引する。このとき、試料液はサンプルループ24aから他方のインジェクションバルブ14bに流れるが、サンプルループ24bを経由せずに排出流路L5から排出される。操作2では、希釈液容器22内の希釈液がサンプルループ24aに導入されて、他方のインジェクションバルブ14bからサンプルループ24bを経由せずに、希釈試料液流路L3に供給されて、希釈容器18内に貯留される。操作3では、吸引ポンプ12により希釈容器18内の一次希釈液がサンプルループ24aに貯留される。操作4では、吸引ポンプ12により希釈容器18内に残留した一次希釈液が吸引されて、ほぼ全量が排出される。操作5では、計量ポンプ10により一定量の希釈液(洗浄液)が希釈容器18に供給される。操作6では、吸引ポンプ12により希釈容器18内に残留した一次希釈液および洗浄液が排出される。操作7では、サンプルループ24a内の一次希釈試料液が希釈液により全量押し出されて希釈容器18に供給される。三段階目以降の希釈はこの二段階目の操作(操作3-7)を繰り返すことで行うことができる。
【0033】
また、二つのサンプルループ24a、24bに同一の試料液を導入して希釈操作を行うことで、試料量を増やして希釈倍率を下げることも可能である。この操作例を表3に示す。
【表3】
【0034】
操作1では、試料液容器20a内の試料液を試料液流路L1aからインジェクションバルブ14aのサンプルループ24aに吸引する。このとき、試料液はサンプルループ24aから他方のインジェクションバルブ14bのサンプルループ24bに流れて、排出流路L5から排出される。したがって、試料液は、二つのサンプルループ24a、24b内に貯留される。操作2では、希釈液容器22内の希釈液が二つのサンプルループ24a、24bに導入されて、希釈試料液流路L3に供給されて、希釈容器18内に貯留される。操作3では、吸引ポンプ12により希釈容器18内の一次希釈液が二つのサンプルループ24a、24bに貯留される。操作4では、吸引ポンプ12により希釈容器18内に残留した一次希釈液が吸引されて、ほぼ全量が排出される。操作5では、計量ポンプ10により一定量の希釈液(洗浄液)が希釈容器18に供給される。操作6では、吸引ポンプ12により希釈容器18内に残留した一次希釈液および洗浄液が排出される。操作7では、二つのサンプルループ24a、24b内の一次希釈試料液が希釈液により全量押し出されて希釈容器18に供給される。三段階目以降の希釈はこの二段階目の操作(操作3-7)を繰り返すことで行うことができる。
【0035】
さらに、二つのサンプルループに異なる試料液を導入して各々希釈操作を行うことで、二種類の試料液の混合希釈も可能である。この場合の操作例を表4に示す。
【表4】
【0036】
操作1では、一方の試料液容器20a内の試料液を試料液流路L1aからインジェクションバルブ14aのサンプルループ24aに吸引する。操作2では、他方の試料液容器20b内の試料液が試料液流路L1bからインジェクションバルブ14bのサンプルループ24bに吸引される。操作3では、希釈液容器22内の希釈液が二つのサンプルループ24a、24bに導入されて、希釈試料液流路L3に供給されて、希釈容器18内に貯留される。操作4では、吸引ポンプ12により希釈容器18内の一次希釈液がサンプルループ24aに貯留される。操作5では、吸引ポンプ12により希釈容器18内に残留した一次希釈液が吸引されて、ほぼ全量が排出される。操作6では、計量ポンプ10により一定量の希釈液(洗浄液)が希釈容器18に供給される。操作7では、吸引ポンプ12により希釈容器18内に残留した一次希釈液および洗浄液が排出される。操作8では、サンプルループ24a内の一次希釈試料液が希釈液により全量押し出されて希釈容器18に供給される。三段階目以降の希釈はこの二段階目の操作(操作4-8)を繰り返すことで行うことができる。また、各段階の希釈でサンプルループ24a、24bを各々または組み合わせて選択することができる。この組み合わせによって、より綿密な倍率の希釈やより多様な試料液の混合希釈が可能となる。また、試料液容器20a、20bやインジェクションバルブ14a、14bをさらに増設することで、これらの希釈の倍率や混合希釈の範囲を一層大きくしたり、緻密にしたりすることもできる。
【0037】
(実施形態4)
図12には、試料希釈装置1と化学分析装置5とにより化学分析システム6を構築した例を示す。このシステムによれば、試料希釈装置1の希釈容器18を測定セルとして化学分析装置5内に設置することで、実施形態1と同様の希釈操作により得られた一次希釈液や二次希釈液を、希釈容器18から直接測定でき、化学成分を検出できる。化学分析装置5は蛍光分析、吸光分析、ラマン分光分析、核磁気共鳴分析などがあるが、測定セル内の化学成分を検出できれば種類は問わない。また、希釈容器18を貯留用と測定用に併用し、希釈操作と測定操作を連続的に行うことで迅速化も可能であり、分析時間も短縮できる。この希釈操作と測定は、制御装置30により自動で行うこともできるし、オンラインで行うことも可能である。
【0038】
(実施形態5)
図13には、試料希釈装置1と化学分析装置5とにより
図12とは別の化学分析システム7を構築した例を示す。このシステムでは、希釈容器18とは別に測定セルを設けた点で、
図12のシステムとは異なるが、それ以外の構成は
図12の化学分析システムと同様である。
複数の試料液を二段階希釈して三次元蛍光分析を順次行う場合の操作例を表5に示す。
【表5】
【0039】
なお、二段階希釈とは、二次希釈液を得る希釈操作のことをいう。最初の試料液(SA)について、実施形態1と同様の希釈操作1-7を行い、得られた希釈試料液(二次希釈液)を、操作8において、ポンプ41を用いて流路L10から化学分析装置5内に設置した測定セル40に導入し測定を行う。この測定と同時に次の試料液(SB)の準備をする。すなわち、操作8a-8dにより、試料液(SA)の測定と並行して次の試料液(SB)の二段階希釈を行う。具体的には、希釈容器18内の現希釈試料液(SA)の排出および希釈容器18、各流路の洗浄を行った後、次の試料液(SB)の二段階希釈を行い希釈容器18に貯留する。この後、操作9-10により、測定が終了した希釈試料液(SA)を測定セル40からポンプ43を用いて流路L11に排出し、次の希釈試料液(SB)を希釈容器18から測定セル40に導入し測定を行う。以後の試料液はこれらの操作を繰り返すことで複数の試料液の多段階希釈分析の時間を短縮し迅速に実施することができる。測定中に、次の試料液の準備(実施形態1の希釈操作)を行うことで、次の試料液の希釈操作と測定とを同時に、また連続的に行うことができる。この希釈操作と測定は、制御装置30により自動で行うこともできるし、オンラインで行うことも可能である。
【0040】
(実施形態6)
図14には、試料希釈装置1と化学分析装置5とにより
図12とは別の化学分析システム8を構築した例を示す。このシステムでは、測定セルを用いずに、実施形態1と同様の希釈操作により得られ、希釈容器18に貯留された希釈試料液をポンプ41により流路L10から直接化学分析装置5に導入し、測定するものである。この分析装置の例としては、ICP-MS等の質量分析計、原子吸光光度計、ICP発光分析計、フローセル型の吸光や蛍光などの分光検出器がある。このシステムでは、希釈容器18に測定対象の希釈試料液が導入されると、フロー形式で連続的に測定されるため、簡素な構成となると共に、迅速な分析が可能となる。また、希釈操作と測定とを同時に行うこともできる。そして、この希釈操作と測定は、制御装置30により自動で行うこともできるし、オンラインで行うことも可能である。また、これらの実施形態は、適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0041】
以下、実施例を用いて本発明の製造方法の一例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、濃度の%は質量%を示す。
【実施例0042】
(実施例1)
アミノ酸の高感度蛍光分析用の低濃度分析試料液の調製のために二段階の高倍率希釈を行い、希釈精度を評価した。希釈装置は
図1の装置を用いた。装置はベリタスリックチューブ型吸引ポンプ(ギルソン社製MINIPULS3)、プランジャー式計量ポンプ(HP社製G1312A)、ステンレス製の10μLのサンプルループが接続されたステンレス製インジェクションバルブ(6ポート二方インジェクションバルブ、HP社製G1316A)と、PEEK製三方バルブ(三方切り替えバルブ、VICI社製C2)、蓋付きガラス瓶である希釈容器で構成され、各々はフッ素樹脂製チューブ(外径1/16インチ)で以下の通り接続した。
【0043】
試料液を入れたガラス瓶の試料液容器20と三方バルブ16をチューブで接続し、バルブ出口からインジェクションバルブ14にチューブを接続した。この接続口からサンプルループ24に接続し、その出口と吸引ポンプ12を接続してポンプ出口を排出口とした。次に、希釈液を入れたガラス瓶の希釈液容器22と計量ポンプ10を接続し、その出口と上記のインジェクションバルブ14と接続し、サンプルループ24へ接続して、その出口から蓋にチューブを貫通させて容積5mLの希釈容器18に挿入した。もう1本のチューブを上記の蓋を貫通させて希釈容器18の底面に接触する形で設置し、このチューブのもう一方の端を上記の三方バルブ16に接続した。
【0044】
本発明の希釈法の評価は以下のように行った。試料液は2500ppmのトリプトファン水溶液(トリプトファン試薬(富士フイルム和光純薬社製)を超純水に溶解した。)を用い、希釈液として超純水を用いた。希釈操作は二段階希釈で表1に従い行った。
一段階目の希釈は、操作1に基づき、三方バルブ16をモードCに切り替えて、試料液容器20とインジェクションバルブ14を接続させると共に、インジェクションバルブ14をモードAに切り替えてサンプルループ24に接続後、吸引ポンプ12で試料液を吸引してサンプルループ24に導入、貯留した(
図3)。次の操作2では、インジェクションバルブ14をモードBに切り替えて、計量ポンプ10とサンプルループ24に接続後、計量ポンプ10を駆動させ3.5mL計量して送液し、サンプルループ24内の試料液を希釈液とともに希釈容器18に洗い入れた(
図4)。なお、混合効率を高めるため、希釈容器18にテフロン(登録商標)で被覆した攪拌子を入れて行った。
【0045】
次に二段階目の希釈は、操作3により三方バルブ16をモードDに切り替えると共に、インジェクションバルブ14をモードAに切り替えて、希釈容器18の一次希釈液を上記の吸引ポンプ12によりサンプルループ24に導入、貯留した(
図5)。さらに、操作4により、インジェクションバルブ14をモードBに切り替えて、吸引ポンプ12で希釈容器18に残留した一次希釈液を吸引、排出した後(
図6)、操作5によりインジェクションバルブ14をモードAに切り替えて、上記希釈用の計量ポンプ10により希釈液を希釈容器18に3.5mL導入した後に(
図7)、操作6により、インジェクションバルブ14をモードBに切り替えて、吸引ポンプ12で洗浄液を排出し、希釈容器18内を空とした(
図6)。この一連の洗浄操作4-6を計3回行った。そして、操作7により、サンプルループ24に貯留した一次希釈試料液を、計量ポンプ10で希釈液を3.5mL計量して希釈容器18に導入、希釈することで二次希釈液を得て、二段階目の希釈を完了した。この二段階の希釈操作により12万倍の希釈を5回繰り返し行い、得られた二次希釈液(サンプル数5)を、フローインジェクション蛍光分析法で分析した結果を表6に示す。なお、分析装置として、HP社製ポンプG1312A、オートサンプラーG1329A、およびアジレントテクノロジー株式会社製蛍光分析装置G7121Bを組み合わせた装置を使用し、キャリア溶液は超純水、分析試料量は100μL、励起波長280nm、蛍光波長350nmの条件で分析した。
【表6】
【0046】
二段階希釈ではピーク面積の平均値が41.38、標準偏差は0.24、相対標準偏差は0.58%であった。なお、同じ装置により一段階希釈で350倍希釈の条件では、希釈試料液中のトリプトファン濃度が7.1ppmの場合は、相対標準偏差は0.2%であった。なお、20ppbのトリプトファン標準液(水溶液)を前記フローインジェクション蛍光分析法で分析した場合の分析精度は、5回繰り返しの分析時で0.2%であった。したがって、本実施例の希釈方法によれば、10万倍を超える高倍率を含む広範囲の希釈を、相対標準偏差が0.6%未満の高精度で、簡素な装置により簡便に行えることが示された。また、計量ポンプの精度をより高めることで、さらなる高精度化も可能である。
【0047】
また、希釈操作の精度を評価するため、比較例として、マイクロシリンジを試料液の計量に用いた希釈法と比較した。なお、以下の比較例において、使用した化合物や装置および条件等は、特に断りのない限り、実施例1と同様の化合物や装置および条件等で実施した。
希釈条件は、実施例と同じ2500ppmのトリプトファン水溶液を、超純水を希釈液として用いて12万倍の希釈を行った。一段階目の希釈操作では1μLのマイクロシリンジ(ハミルトン社製7101KH)を用いて試料液を採取し、ガラス容器に入れた後、ダブルプランジャー式計量ポンプで超純水120mLを計量して加えた。得られた希釈試料液をフローインジェクション蛍光分析法(励起波長280nm、蛍光波長350nm)で分析した。この希釈から分析操作までの一連の操作を5回繰り返し行い、希釈試料液中の20ppbのトリプトファンを検出したピークの面積の相対標準偏差を求めた。得られた相対標準偏差は1.7%であり、実施例の12万倍希釈時の0.58%より高いものであった。
【0048】
次に、実施例と同じ試料液量と希釈液量の条件である、10μLの試料量を3.5mLの希釈液で希釈することを二回繰り返す条件の12万倍希釈を行った。具体的には10μLマイクロシリンジ(アジレントテクノロジー株式会社製9301-0725)を用いて2500ppmのトリプトファン試料液を採取し、ガラス容器に入れた後秤量し、希釈液として超純水をダブルプランジャー式計量ポンプで3.5mL計量して加え秤量した。次の二段階目の希釈の前に、マイクロシリンジに残存する試料液の残留影響を除くため、超純水で25回洗浄した後に、一次希釈液を25回共洗いして10μL採取し、別のガラス容器に上記のプランジャー式ポンプで3.5mL計量して加えて秤量した。得られた希釈試料液をフローインジェクション蛍光分析法(励起波長280nm、蛍光波長350nm)で分析した。この希釈から分析操作までの一連の操作を5回繰り返し行った。得られた相対標準偏差は1.6%であり、実施例の0.58%より大きくなった。この相対標準偏差が大きくなった原因を調べるため、試料液および希釈液の計量精度について評価した。シリンジおよびプランジャー式ポンプで計量した試料液および希釈液を各々の秤量値から希釈倍率を計算した。この操作を5回繰り返して計量値に基づく希釈倍率の相対標準偏差を求めたところ0.3%であったことから、試料液および希釈液の採取量の精度の影響に加えて、洗浄および共洗い操作をそれぞれ25回行ったにもかかわらず試料液および一次希釈液の残留による影響が大きいためと考えられた。また、洗浄と共洗いをそれぞれ10回、20回に減少させると表6のように精度が著しく低下し、残留の影響がさらに大きくなることから、多くの回数を必要とするが、25回まで増やしても1%後半の精度に留まる。
【0049】
また、10μLの試料量を3.5mLの希釈液で一回希釈するという低倍率希釈条件(350倍)でも比較した。具体的には10μLマイクロシリンジを用いて2500ppmのトリプトファン試料液を採取し、ガラス容器に入れた後秤量し、希釈液として超純水を上記のプランジャー式ポンプで3.5mL計量して加え秤量した。得られた希釈試料液をフローインジェクション蛍光分析法(励起波長280nm、蛍光波長350nm)で分析した。この希釈から分析操作までの一連の操作を5回繰り返し行った。得られた相対標準偏差は0.5%であり、実施例の0.2%より高いものであった。この相対標準偏差が大きくなった原因を調べるため、上記の二段階希釈の試験と同じく、試料液および希釈液の計量値に基づく希釈倍率の相対標準偏差を求めたところほぼ同程度の0.6%となり、10μLのシリンジによる試料液の採取量の精度に起因することを示唆している。
【0050】
以上のことから、本実施例によれば、高倍率の広い範囲で高精度に試料液の多段階希釈を行うことが可能となる。また、操作面においても、シリンジの洗浄や希釈試料液の数十回の共洗いなどの煩雑な操作は不要であることから、簡便に行うことができる。さらに、本実施例によれば、試料液や一次希釈液を、同一のサンプルループ等の定量管により正確な量で計量でき、また一次希釈液や二次希釈液を同一の希釈容器に貯留できることから、配管や容器の数を低減でき、簡便性、装置の簡素性、コスト面にも優れるものである。