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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174671
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】立体メガネ
(51)【国際特許分類】
   G02B 30/22 20200101AFI20241210BHJP
   G02B 30/25 20200101ALI20241210BHJP
   G02B 30/23 20200101ALI20241210BHJP
   G02B 30/24 20200101ALI20241210BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20241210BHJP
   G02C 7/12 20060101ALN20241210BHJP
   G02C 7/10 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
G02B30/22
G02B30/25
G02B30/23
G02B30/24
G02C7/06
G02C7/12
G02C7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092626
(22)【出願日】2023-06-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日:令和5年2月14日、掲載アドレス:https://www.ite.or.jp/ken/paper/20230307WALd/ ウェブサイトの掲載日:令和5年2月27日、掲載アドレス:https://www.ite.or.jp/content/tech-rep/ 集会名:一般社団法人 映像情報メディア学会 立体メディア技術研究会、開催日:令和5年3月7日
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】391007507
【氏名又は名称】伊藤光学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 康博
(72)【発明者】
【氏名】宮島 泰史
【テーマコード(参考)】
2H006
2H199
【Fターム(参考)】
2H006BD03
2H006BE00
2H199BA03
2H199BA04
2H199BA54
2H199BA56
2H199BA69
2H199BB02
2H199BB10
2H199BB24
(57)【要約】
【課題】立体内視鏡手術における術者の疲労感を軽減することが可能な立体メガネを提供する。
【解決手段】立体メガネ10は、画像表示装置の表示画面に表示された左目用画像と右目用画像に対して左目用画像のみを透過する左目用光学フィルタ14aと、左目用画像と右目用画像に対して右目用画像のみを透過する右目用光学フィルタ14bと、左目用光学フィルタ14aと光透過方向に重なり合うように配設された左目用光学板16aと、右目用光学フィルタ14bと光透過方向に重なり合うように配設された右目用光学板16bと、を備えている。左目用および右目用光学板16a,16bには、光学中心Oから離れるほど平均度数がマイナス側に変化する中央領域21と、中央領域21よりも外側において平均度数線の視角度1度当りの傾きが絶対値で0.01ディオプタ以下の周辺領域22と、が設けられている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示装置の表示画面に表示された左目用画像と右目用画像に対して、前記左目用画像のみを透過する左目用光学フィルタと、
前記左目用画像と前記右目用画像に対して、前記右目用画像のみを透過する右目用光学フィルタと、
前記左目用光学フィルタと光透過方向に重なり合うように配設された左目用光学板と、
前記右目用光学フィルタと光透過方向に重なり合うように配設された右目用光学板と、を備え、立体内視鏡手術に用いられる立体メガネであって、
前記左目用および右目用光学板は、
光学中心から離れるほど平均度数がマイナス側に変化する中央領域と、
前記中央領域よりも外側において平均度数線の視角度1度当りの傾きが絶対値で0.01ディオプタ以下の周辺領域と、が設けられている、立体メガネ。
【請求項2】
前記中央領域は、視角度15度の仮想円の領域を含んで構成され、光学中心~視角度15度の範囲内における度数変化量が絶対値で0.25~0.40ディオプタである、請求項1に記載の立体メガネ。
【請求項3】
前記中央領域は、視角度25度の仮想円の領域を含んで構成され、光学中心~視角度25度の範囲内における度数変化量が絶対値で0.49~0.64ディオプタである、請求項2に記載の立体メガネ。
【請求項4】
前記中央領域は、視角度35度の仮想円の領域を含んで構成され、光学中心~視角度35度の範囲内における度数変化量が絶対値で0.79~0.94ディオプタである、請求項3に記載の立体メガネ。
【請求項5】
前記左目用および右目用光学板は、光学中心を通る前後方向の軸をz軸、光学板の後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、光学板の前面および後面の少なくとも一方のz座標値に、a33+a44+a66+a88+a1010(但し、rはz軸からの距離、a3,a4,a6,a8,a10は定数)で表される非球面成分が付加されている、請求項2~4の何れかに記載の立体メガネ。
【請求項6】
前記左目用および右目用光学板は、近視、遠視、乱視の少なくとも何れかを矯正するための処方度数成分が更に付加されている、請求項5に記載の立体メガネ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体内視鏡手術に好適に用いられる立体メガネに関する。
【背景技術】
【0002】
立体映画、立体テレビなど、画像の立体表示を可能とするものが実用化されている。それらの多くは立体メガネを用いた2眼式立体表示である。このような2眼式立体表示においては、輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労が問題点として挙げられている。
【0003】
輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を簡便な構成で軽減する手段としては、本発明の発明者らが下記特許文献1で提案したように、光軸直交方向に屈折力(度数)を変化させた広焦点レンズを立体メガネに組み込みことが有効である。広焦点レンズを介して立体視することで快適に立体視できる立体画像の範囲が拡大し、利用者の視覚疲労を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2020/008804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、内視鏡手術の分野においても、術部の画像を立体表示させる立体内視鏡の利用が図られている。立体映画や立体テレビなどの場合、利用者は立体画像を見続けるのに対して、立体内視鏡を用いた立体内視鏡手術にあっては、異なる位置に配置された複数の3Dモニタを見ながら施術を行うほか、手術中に3Dモニタ以外の周囲の状況から様々な情報を得る必要があり、利用者である術者は視線を大きく移動させる。このため立体メガネに組み込まれたレンズの周辺部において見え方に歪みが生じると、術者に違和感や不快感を感じさせることになってしまい、術者の疲労感を高める一因となっていた。
本発明は、上述した問題を解決するものであり、立体内視鏡手術における術者の疲労感を軽減することが可能な立体メガネを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而してこの発明の第1の局面の立体メガネは、
画像表示装置の表示画面に表示された左目用画像と右目用画像に対して、前記左目用画像のみを透過する左目用光学フィルタと、
前記左目用画像と前記右目用画像に対して、前記右目用画像のみを透過する右目用光学フィルタと、
前記左目用光学フィルタと光透過方向に重なり合うように配設された左目用光学板と、
前記右目用光学フィルタと光透過方向に重なり合うように配設された右目用光学板と、を備え、立体内視鏡手術に用いられる立体メガネであって、
前記左目用および右目用光学板は、
光学中心から離れるほど平均度数がマイナス側に変化する中央領域と、
前記中央領域よりも外側において平均度数線の視角度1度当りの傾きが絶対値でが0.01ディオプタ以下の周辺領域と、が設けられている。
【0007】
このように規定された第1の局面の立体メガネによれば、光学板の中央領域を通じて立体画像を観察することにより快適に立体視できる輻輳の範囲を画像表示装置の前方に広げて輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労が軽減されるとともに、光学板の周辺領域における画像の歪みを抑えることで画像歪みに起因する違和感や不快感の発生を抑制することができるため、立体内視鏡手術における術者の疲労感を軽減することができる。
【0008】
ここで前記中央領域は、視角度15度の仮想円の領域を含んで構成することができる。この場合、光学中心~視角度15度の範囲内における度数変化量を絶対値で0.25~0.40ディオプタとすることができる。
【0009】
また前記中央領域は、視角度25度の仮想円の領域を含んで構成することができる。この場合、光学中心~視角度25度の範囲内における度数変化量を絶対値で0.49~0.64ディオプタとすることができる。
【0010】
また前記中央領域は、視角度35度の仮想円の領域を含んで構成することができる。この場合、光学中心~視角度35度の範囲内における度数変化量を絶対値で0.79~0.94ディオプタとすることができる。
【0011】
上記のように度数を変化させた左目用および右目用光学板は、光学中心を通る前後方向の軸をz軸、光学板の後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、光学板の前面および後面の少なくとも一方のz座標値に、a33+a44+a66+a88+a1010(但し、rはz軸からの距離、a3,a4,a6,a8,a10は定数)で表される非球面成分を付加させることで実現させることができる。
【0012】
またこの発明では、前記左目用および右目用光学板に、近視、遠視、乱視の少なくとも何れかを矯正するための処方度数成分を更に付加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の立体メガネの構成を示した図である。
図2図1の光学板を示した図で、(A)は正面図、(B)は縦断面図である。
図3】調節と輻輳との関係を説明するための図である。
図4】同光学板の光軸直交方向に沿った平均度数の変化を示した図である。
図5】(A)は光学板無しの状態で異なる位置の視標を撮影した写真、(B)は光学板を介して異なる位置の視標を撮影した写真である。
図6図4とは異なる平均度数の変化を示した図である。
図7図4図6とは異なる平均度数の変化を示した図である。
図8】左右の光学フィルタを一体のアイシールドで構成した変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の一実施形態に係る立体メガネを、図面に基づいて説明する。
図1において、10は2眼式立体表示で用いられる立体メガネで、更に詳しくは、立体内視鏡手術に用いられる立体メガネである。立体メガネ10は、フレーム12に左目用光学フィルタ14aと右目用光学フィルタ14bが取り付けられている。左目用光学フィルタ14aと右目用光学フィルタ14bの前方(眼球と反対側)あるいは後方(眼球側)には、これら光学フィルタ14a,14bとそれぞれ重なり合う位置に、左目用光学板16aと右目用光学板16bが取り付けられている。なお、以下の説明では、左目用光学フィルタ14aと右目用光学フィルタ14bを単に「光学フィルタ14」と称する場合がある。また、左目用光学板16aと右目用光学板16bを単に「光学板16」と称する場合がある。
【0015】
光学フィルタ14aと14bは、それぞれ、左目用画像と右目用画像を選択的に透過させる機能を有する。立体メガネ10では、図示を省略する3Dモニタ(画像表示装置)の表示画面に表示された左目用画像と右目用画像に対して、右目用画像に関する光が左目用光学フィルタ14aにより遮断され、左目用画像に関する光のみが左目用光学フィルタ14aを透過するように構成されている。また、左目用画像に関する光が右目用光学フィルタ14bにより遮断され、右目用画像に関する光のみが右目用光学フィルタ14bを透過するように構成されている。このため、利用者の左目18aでは左目用画像が、また利用者の右目18bでは右目用画像が見えることとなる。
【0016】
本例において、光学フィルタ14a,14bは偏光方式に対応した偏光子で構成されている。2眼式立体表示では、左右の画像を分離する方式として偏光方式の他、液晶シャッタ方式や分光フィルタ方式があり、光学フィルタ14aと14bを液晶シャッタや分光フィルタで構成することも可能である。
【0017】
図2は光学板16を示した図で、(A)は光学板16の正面図、(B)は光学板16の縦断面図である。この光学板16はフレーム12の形状に合わせて外形を加工する前の形状であり、正面視で円形状をなしている。なお、以下の説明において光学板16の「上方」、「下方」とは、立体メガネを装用した利用者にとっての「上方」、「下方」とする。
【0018】
光学板16は、図2(A)で示すように、中央領域21と、中央領域21よりも外側に設けられた周辺領域22と、中央領域21と周辺領域22との間に位置する中間領域23と、を備えている。
【0019】
中央領域21は、光学板16の光学中心Oを含む領域で立体視の際に使用される。
上記特許文献1に記載されているように、立体視において、輻輳位置と調節位置が一致していれば、輻輳調節矛盾による視覚疲労は生じない。しかし、視覚疲労が生じない快適な立体視を実現するためには、輻輳位置と調節位置が完全に一致している必要はなく、輻輳位置と調節位置の一致には、ある程度の許容範囲があることが知られている。
【0020】
図3は、輻輳と調節の関係を示した図である。同図において、横軸は輻輳を、縦軸は調節を示している。単位はディオプタ(D)で、距離をメートルで表して逆数をとったものである。輻輳と調節とが一致していない場合であっても、これらが、図3に示すDfarとDnearとの間に位置するような関係にあれば、視覚疲労が生じない快適な立体視が可能とされてる。すなわち、快適な立体視を実現する輻輳と調節の一致には許容範囲がある。
ここで、快適に立体視可能な立体画像の表示領域は、輻輳により知覚される奥行きDvに対応する遠位端Dfarおよび近位端Dnearを用いて表すことができる。Dfar,DnearはDvを用いて、
far=1.129Dv+0.442 ・・・式(1)
near=1.035Dv-0.626 ・・・式(2)
と与えられる。
【0021】
例えば、立体内視鏡手術における3Dモニタの画面(表示画面)までの観察距離が1.4m(0.71D)であるとする。この観察距離に目のピントを合わせた場合、式(1)~(2)でDfar=0.71D、Dnear=0.71DとしてDvを求めると、快適に立体視できる輻輳の範囲M1は0.77m(1.3D)~4.1m(0.24D)と求まる。ここで、立体内視鏡手術においては主に3Dモニタの前方側に立体表示されることを考慮すれば、術者の視覚疲労を軽減するためには3Dモニタの前方側に存在する不快な領域(輻輳調節矛盾が生じる領域)を解消させることが重要である。この場合、光学板16の焦点が合っているとみなす範囲(被写界深度)を3Dモニタの前方側に延伸させることで、視覚疲労が生じない快適な立体視が可能な領域を3Dモニタの前方側に広げることができる。
【0022】
例えば、光学板16を介して観察時の焦点距離を6.25m(-0.16D)~-∞(0D)の範囲で変化させると、目がピント合わせできる範囲が0.71D~0.87Dとなる。式(1)~(2)でDfar=0.71D、Dnear=0.87DとしてDvを求めると、快適に立体視できる輻輳の範囲M2が0.69m(1.44D)~4.1m(0.24D)に広がる。すなわち、3Dモニタ前方に快適な領域が広がることが分かる。このため本例では、中央領域21において光学中心Oから離れるほど平均度数をマイナス側に変化させることで、光学板16の被写界深度を3Dモニタの前方側に延伸させている。
【0023】
図4は、光学板16の光軸直交方向に沿った平均度数の変化を示した図である。
同図で示す視角度αは、光学板16の光軸上でレンズ後面側の屈折面から距離25mmの位置に眼球中心が配置されている場合の角度を示すもので、光学板16の周縁部に向かう程、視角度αの値は大きくなる(図2(B)参照)。
【0024】
図4の例では、光学中心Oを含む中央領域21は、視角度25度の仮想円の領域を含む大きさとされており、中央領域21において平均度数は光学中心Oから光学板周縁部に向けてマイナス側に略直線的に変化している。詳しくは光学中心O~視角度15度の範囲内における度数変化量L1図4参照)が絶対値で0.25~0.40ディオプタ、また光学中心~視角度25度の範囲内における度数変化量L2が絶対値で0.49~0.64ディオプタとされている。
【0025】
度数変化量を大きくすることで、快適な立体視が可能な領域をより広げることができる一方、過度に度数変化量を大きくした場合には像の分解能は低下する。このため本例では実際に立体内視鏡手術において立体像が表示される範囲等を考慮して度数変化量を上記のように規定している。
【0026】
一方、中央領域21よりも外側の周辺領域22は、度数変化を抑えた度数一定の領域とされている。光学板周辺部での画像の歪みを抑えるためである。本例では、図4の部分拡大図で示すように、光学板16の周辺領域22における平均度数線の傾きβが絶対値で視角度1度当り0.01ディオプタ以下と規定されている。好ましくは0.005ディオプタ以下、より好ましくは0.0025ディオプタ以下である。
なお、図4で示すように、中央領域21において略一定の傾きで漸次マイナス側に変化した平均度数線は、中央領域21と周辺領域22との間の中間領域23においてその傾きを徐々に小さくし、周辺領域22において平均度数は略一定とされている。
このような光軸直交方向に沿った平均度数の変化は光学板16の前面および後面の少なくとも一方に非球面成分を付加することで得ることができる。
【0027】
次に光学板16の形状について説明する。図2で示すように、光学板16は、後面25が式(i)で定義される凹面とされ、前面26が式(ii)で定義される凸面とされている。なお、光学板16の光学中心O(後面25では基点O1、前面26では基点O2)を通る前後方向の軸をz軸とし、光学板16の後方に向かう方向をz軸の正方向とする。z軸は光学板16の光軸に一致する。
【0028】
z=r2/(R1+(R1 2-Kr21/2)+δ …式(i)
z=r2/(R2+(R2 2-Kr21/2) …式(ii)
【0029】
式(i)、(ii)のrは、z軸からの距離である。すなわち、後面25では基点O1、前面26では基点O2を中心として、z軸に直交する左右方向、上下方向の軸をそれぞれx軸、y軸とする直交座標系を考えた場合、r=(x2+y21/2である。R1、R2は面の頂点における曲率半径、Kはコーニック係数である。
光学板16の後面25は上記式(i)で表される回転対称の非球面形状とされている。後面25を定義する式(i)において、δは、a33+a44+a66+a88+a1010(但し、rはz軸からの距離、a3,a4,a6,a8,a10は定数)で表される非球面成分である。
したがって、本例の光学板16は、前面26が球面、後面25が非球面となる。なお、R1、R2は、処方度数(本例では0D)によって決まる。
【0030】
例えば、図4で示す平均度数の変化は、屈折率n:1.608の素材から成る中心厚2.1mmの光学板16において、上記式(i)、(ii)における各定数を以下のように規定したものである。
後面曲率半径R1:146.78mm、前面曲率半径R2:147.57mm、K:-0.6、a3:1.84×10-05、a4:8.10×10-08、a6:-3.79×10-10、a8:2.79×10-13、a10:-7.42×10-17
【0031】
図5は光学板16を用いた場合の効果を示した図である。ここでの評価は以下のようにして行った。入射瞳径を人間の平均瞳孔径である5mmとしたカメラのレンズ前方、距離1.4m(3Dモニタの表示画面までの距離に相当)の位置に「SCREEN」と表記された視標1を配置するとともに、距離1.15m(表示される立体像までの距離に相当)の位置に「3D IMAGE」と表記された視標2を配置し、視標2にカメラのピントを合わせた状態で視標1と視標2を撮影した。図5の(A)は光学板無しの状態で視標を撮影した写真、(B)は光学板16を介して視標を撮影した写真である。
【0032】
図5の(A)と(B)を比較すると、光学板無しの(A)において視標1の文字がぼけて見えるのに対し、光学板有りの(B)では視標1の文字の見え方は(A)の場合に比べて鮮明であり、ピント合わせされた視標2の文字と比べても変化は少なく、(A)と(B)とで被写界深度の差が大きいことが分かる。即ち、光学板16を用いることでピント合わせできる範囲が広がり、これに伴ない立体視した場合での快適な立体視できる範囲についても拡大させることができる。
【0033】
以上のように構成された立体メガネ10によれば、光学板16の中央領域21を通じて立体画像を観察することにより、良好に立体視できる領域を拡大させることできるとともに、光学板16の周辺領域22における画像の歪みを抑えることができるため、立体内視鏡手術における輻輳調節矛盾や画像の歪みに起因する術者の疲労感を軽減することができる。
【0034】
なお本発明では、光学板16における中央領域21の大きさを適宜変更可能である。
図6は、光学板16における中央領域21を小さくして、光学板周辺に設けられた度数一定の領域を広げた場合の平均度数の変化を示した図である。
この例において、中央領域21は、視角度15度の仮想円の領域を含む大きさとされており、光学中心~視角度15度の範囲内における度数変化量L1が絶対値で0.25~0.40ディオプタとされている。このため図6の例においても、中央領域21における平均度数線の傾きは図4の場合と略同じであり、中央領域21を通じて得られる快適に立体視できる輻輳の範囲を3Dモニタの前方に広げる効果は図4の場合と同様に得ることができる。一方で、度数変化を抑えた周辺領域22は、図4の場合よりも広範囲に設けられており、光学板16の広い範囲で歪を抑える効果を得ることができる。
【0035】
例えば、図6で示す平均度数の変化は、屈折率n:1.608の素材から成る中心厚2.1mmの光学板16において、上記式(i)、(ii)における各定数を以下のように規定することで実現させることができる。
K:-3.0、a3:2.22×10-05、a4:-2.86×10-07、a6:4.24×10-11、a8:3.56×10-14、a10:-1.72×10-17
【0036】
また図7は、光学板16における中央領域21を図6とは逆に大きくして、光学板周辺に設けられた度数一定の領域を狭めた場合の平均度数の変化を示した図である。
この例において、中央領域21は、視角度35度の仮想円の領域を含む大きさとされており、光学中心~視角度15度の範囲内における度数変化量L1が絶対値で0.25~0.40ディオプタで、光学中心~視角度25度の範囲内における度数変化量L2が絶対値で0.49~0.64ディオプタで、光学中心~視角度35度の範囲内における度数変化量L3が絶対値で0.79~0.94ディオプタとされている。
この図7の例によれば、光学板周辺での画像の歪を抑えつつ、図4の場合よりも広い範囲に亘って(即ち、視線を光学中心からずらした状態であっても)快適に立体視できる輻輳の範囲を3Dモニタの前方に広げる効果を得ることができる。
【0037】
例えば、図7で示す平均度数の変化は、屈折率n:1.608の素材から成る中心厚2.1mmの光学板16において、上記式(i)、(ii)における各定数を以下のように規定することで実現させることができる。
K:0.2、a3:1.84×10-05、a4:-1.88×10-08、a6:-6.21×10-12、a8:-6.85×10-14、a10:3.53×10-17
【0038】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、これはあくまでも一例示であり、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で実施可能である。
例えば、上記実施形態では左右別体の光学フィルタをそれぞれフレームに取り付ける構成としたが、図8で示すように左右の光学フィルタを一体のアイシールド40で構成することも可能である。このようにすることで血液などの飛沫から術者の目を保護する効果を高めることができる。
また上記実施形態では、光学板の後面に非球面成分を付加したが、場合によっては光学板の前面に非球面成分を付加しても良いし、前面および後面に非球面成分を付加することも可能である。
また上記実施形態では、光学板の周辺領域を全周に亘って度数一定の領域としたが、場合によっては周方向の一部にのみ度数一定の領域を設けることも可能である。
また上記実施形態では、立体メガネに用いる光学板として、実質的に度の入っていないプラノレンズを用いているが、光学板に近視、遠視、乱視の少なくとも何れかを矯正するための度数成分を更に付加することも可能である。
また上記実施形態では、光学フィルタと光学板とを別体で構成したが、場合によっては光学板の内部に光学フィルタに相当する偏光フィルムを内層するなどして光学フィルタと光学板を一体に構成することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 立体メガネ
14,14a,14b 光学フィルタ
16,16a,16b 光学板
21 中央領域
22 周辺領域
1,L2,L3 度数変化量
O 光学中心
α 視角度
β 平均度数線の傾き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8