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特開2024-17470無機物の製造方法、及び複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017470
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】無機物の製造方法、及び複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20240201BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20240201BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
C08J11/16
B29C70/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120116
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】田村 孝明
【テーマコード(参考)】
4F205
4F401
【Fターム(参考)】
4F205AA36
4F205AB25
4F205AD16
4F205HA19
4F205HA33
4F205HA35
4F205HC16
4F205HC17
4F205HF05
4F401AA21
4F401AB06
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA02
4F401CA22
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401EA07
4F401EA24
(57)【要約】
【課題】無機物の液切れを改善し、分解液からのフェノール化合物の回収量が増加し、効率の良い無機物の製造方法、即ちケミカルリサイクルの方法を提供する。
【解決手段】
本発明の一形態は、無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料から、無機物を製造する方法であって、以下の工程1~工程4を含む、無機物の製造方法。
工程1:無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料を、アルカリ金属化合物を含有する処理液に接触させて、無機物を含有する分解液Aを得る工程
工程2:工程1で得られた分解液Aを中和して、中和液Bを得る工程
工程3:工程2で得られた中和液Bを固液分離して、粗無機物Cと分離液Dを得る工程
工程4:工程3で得られた粗無機物Cを洗浄して、無機物を得る工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料から、無機物を製造する方法であって、以下の工程1~工程4を含む、無機物の製造方法。
工程1:無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料を、アルカリ金属化合物を含有する処理液に接触させて、無機物を含有する分解液Aを得る工程
工程2:工程1で得られた分解液Aを中和して、中和液Bを得る工程
工程3:工程2で得られた中和液Bを固液分離して、粗無機物Cと分離液Dを得る工程
工程4:工程3で得られた粗無機物Cを洗浄して、無機物を得る工程
【請求項2】
前記無機物が、炭素繊維及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂硬化物がエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
以下の工程5を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
工程5:前記分離液Dからフェノール化合物を回収する工程
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法で得られた無機物と、熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物を硬化する工程、を含む複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物の製造方法、及び複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた接着性、電気特性、耐熱性により、接着剤、絶縁材、塗料、注型材料、複合材料などの様々な用途に使用されている重要な材料である。このエポキシ樹脂を硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物は、溶融せず、汎用な溶媒に溶解させることが困難である。これは、エポキシ樹脂硬化物が三次元的に架橋された、複雑な構造を有する所以である。
【0003】
昨今のカーボンニュートラルに鑑み、無機物及びエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂硬化物からなる複合材料も無機物やモノマー原料に戻すケミカルリサイクルが求められている。
無機物については、熱分解方法や溶解方法によりリサイクルする方法が知られているものの、エポキシ樹脂硬化物をモノマー原料に戻す方法については、前述のエポキシ樹脂硬化物の特性により困難であった。
【0004】
無機繊維材料及びエポキシ樹脂硬化物からなる複合材料から、無機繊維材料である炭素繊維を回収する方法が知られている。たとえば、溶解液により、無機繊維材料及びエポキシ樹脂硬化物からなる複合材料から無機繊維材料である炭素繊維を得る方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-45407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無機繊維材料及びエポキシ樹脂硬化物からなる複合材料から無機繊維材料である炭素繊維を回収する方法では、溶解液が塩基性であるため溶解液の粘度が増加し、無機繊維材料に付着する溶解液の量が増加する。そのため、回収される溶解液のロスが多くなる問題があった。この溶解液のロスを低減するために、液切れの時間を十分に確保したとしても、溶解液の粘度が高いため長時間要してしまい、効率の良い方法とは言えなかった。
【0007】
特許文献1の実施例1によれば、炭素繊維は回収できるが、上記理由により炭素材料に付着する溶解液の量が多く、溶解液に含まれるビスフェノールの回収量が低下してしまう。また、炭素繊維を回収する際に、溶解液の粘度が高いために液切れが悪く、炭素繊維の取り扱いが困難であるといった問題があった。
このように、工業的に複合材料をケミカルリサイクルするためには、更なる改良が求められていた。本発明は、無機物の液切れを改善し、分解液からのフェノール化合物の回収量が増加し、効率の良い無機物の製造方法、即ちケミカルリサイクルの方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、無機物及び熱硬化性樹脂硬化物を含む複合材料を分解した後、無機物を回収する前に分解液を中和することで、無機物の液切れを改善し、分解液からのフェノール化合物の回収量が増加し、効率の良い無
機物の回収及びフェノール化合物の回収方法を見出した。また、得られた無機物と熱硬化性樹脂とを用いた無機物及び熱硬化性樹脂硬化物複合材料の製造方法を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を含み得る。
[1]無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料から、無機物を製造する方法であって、以下の工程1~工程4を含む、無機物の製造方法。
工程1:無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料を、アルカリ金属化合物を含有する処理液に接触させて、無機物を含有する分解液Aを得る工程
工程2:工程1で得られた分解液Aを中和して、中和液Bを得る工程
工程3:工程2で得られた中和液Bを固液分離して、粗無機物Cと分離液Dを得る工程
工程4:工程3で得られた粗無機物Cを洗浄して、無機物を得る工程
[2]前記無機物が、炭素繊維及びガラス繊維からなる群より選択される1種以上を含む、[1]に記載の製造方法。
[3]前記熱硬化性樹脂硬化物がエポキシ樹脂を含む、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]以下の工程5を更に含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
工程5:前記分離液Dからフェノール化合物を回収する工程
[5][1]~[4]のいずれかに記載の方法で得られた無機物と、熱硬化性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物を硬化する工程、を含む複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、無機物の液切れを改善し、分解液からのフェノール化合物の回収量が増加し、効率の良い無機物の製造方法、即ちケミカルリサイクルの方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0012】
本発明の一形態は、無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料から、無機物を製造する方法であって、以下の工程1~工程4を含む、無機物の製造方法である。
工程1:無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料を、アルカリ金属化合物を含有する処理液に接触させて、無機物を含有する分解液Aを得る工程
工程2:工程1で得られた分解液Aを中和して、中和液Bを得る工程
工程3:工程2で得られた中和液Bを固液分離して、粗無機物Cと分離液Dを得る工程
工程4:工程3で得られた粗無機物Cを洗浄して、無機物を得る工程
また、以下の工程5を更に含んでもよい。
工程5:前記分離液Dからフェノール化合物を回収する工程
【0013】
<工程1>
工程1は、無機物と熱硬化性樹脂硬化物とを含む複合材料を、アルカリ金属化合物を含有する処理液に接触させて、無機物を含有する分解液Aを得る工程である。
【0014】
(複合材料)
分解の対象となる複合材料は、無機物と熱硬化性樹脂硬化物を含む。
熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂のうち、エポキシ樹脂はエポキシ基を構成要素に持つ樹脂であり、フェノール樹脂は芳香族化合物であるフェノールを構成要素に持つ樹脂
である。
該熱硬化性樹脂よりなる硬化物は、これらの熱硬化性樹脂の1種のみよりなるものであってもよく、2種以上の熱硬化性樹脂よりなるものであってもよい。
【0015】
エポキシ樹脂としては、特に制限されず、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール化合物のジグリシジルエーテル化物、アルコール化合物のジグリシジルエーテル化物、これらのアルキル置換体、これらのハロゲン化物、これらの水素添加物などが挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
これらの熱硬化性樹脂の硬化剤としては、酸無水物、アミン化合物、フェノール化合物、イソシアネート化合物等が挙げられる。硬化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、硬化促進剤としては、特に制限されず、アルカリ金属化合物、イミダゾール化合物、第三級アミン化合物、第四級アンモニウム塩、有機リン化合物等が挙げられる。硬化促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
無機物としては、特に限定されるものではなく、例えば炭素、ガラス、金属、金属化合物等が挙げられる。また、無機材料の形状としては、繊維、粒子、箔等が挙げられる。繊維は、不織布状であっても織布状であってもよく、織布状の場合、繊維束を織って作製したクロス材であってもよく、繊維束を一方向に配列したUD(Uni-Direction)材であってもよい。無機材料は、1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0018】
(処理液)
処理液は、アルカリ金属化合物及び有機溶媒を含む。アルカリ金属化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属の水素化物、水酸化物、ホウ水素化物、アミド化合物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、ホウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機酸塩、アルコラート、フェノラート、アルコキシド等が挙げられる。アルカリ金属化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、工業的な入手容易性より、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド を用いることが好ましい。
【0019】
有機溶媒は、特に制限されず、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒等が挙げられる。
【0020】
アルコール系溶媒は、特に制限されず、メタノール、エタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、2-エチルヘキサノール、ドデカノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、1-(2-ヒドロキシエチル)
-2-ピロリドン、ジアセトンアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量200~400)、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。アルコール系溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
エーテル系溶媒は、特に制限されず、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ブチルエチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ヘキシルメチルエーテル、オクチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジシクロペンチルエーテル等が挙げられる。エーテル系溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
芳香族系溶媒は、特に制限されず、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼンなどのアルキルベンゼン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、ジメチルナフタレンなどのアルキルナフタレン等が挙げられる。芳香族系溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、アルコール系溶媒の1種又は2種以上とエーテル系溶媒の1種又は2種以上を併用してもよく、アルコール系溶媒の1種又は2種以上と芳香族系溶媒の1種又は2種以上とを併用してもよく、エーテル系溶媒の1種又は2種以上と芳香族系溶媒の1種又は2種以上とを併用してもよく、アルコール系溶媒の1種又は2種以上とエーテル系溶媒の1種又は2種以上と芳香族系溶媒の1種又は2種以上とを併用してもよい。
【0024】
これらのうち、熱硬化性樹脂硬化物の分解物の溶解性に優れることから、アルコール系溶媒が好ましい。
【0025】
また、有機溶媒は、熱硬化性樹脂硬化物の処理工程で加熱を必要とする観点から、大気圧下での沸点が100℃以上の有機溶媒であることが好ましく、この沸点は120℃以上がより好ましく、150℃以上が特に好ましい。
このような観点からも、ベンジルアルコール(沸点205℃)は好ましい有機溶媒である。
【0026】
処理液は、必要に応じてアルカリ金属化合物及び有機溶媒以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、界面活性剤、低粘度溶媒等が挙げられる。
【0027】
処理液に含まれるアルカリ金属化合物の濃度は、熱硬化性樹脂硬化物の分解効率を向上させる観点から、処理液1L中に0.001mol~100molが好ましく、0.005mol~50molがより好ましく、0.01mol~20molが特に好ましい。アルカリ金属化合物の濃度が高くなるほど、熱硬化性樹脂硬化物を効率的に分解することができる。アルカリ金属化合物の濃度が低くなるほど、処理液の粘度を上昇させることなく熱硬化性樹脂硬化物を分解することができる。
【0028】
処理液の調製に際して、アルカリ金属化合物は、固体の状態で有機溶媒と混合してもよく、溶液の状態で有機溶媒と混合してもよい。
【0029】
複合材料を処理液に接触させる際の処理液の加熱温度は、熱硬化性樹脂硬化物の分解効率を向上させる観点から、100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、150℃以上が特に好ましい。一方、この温度は溶媒および分解生成物の変性を抑制する観点から300℃以下、特に250℃以下であることが好ましい。
【0030】
接触時間は、熱硬化性樹脂硬化物が十分に分解されて溶解する時間であればよく、熱硬化性樹脂の種類、用いたアルカリ金属化合物及び有機溶媒の種類や濃度、処理温度によっても異なるが、通常2~50時間程度で熱硬化性樹脂硬化物の50重量%以上を分解して溶解させることができる。
接触処理を行う容器は、複合材料と処理液とを接触させることが可能であれば特に限定されない。分解槽として用いることができる容器であれば、箱型であってもよく、筒形であってもよく、網目状のかご型であってもよく、多孔質材料からなる容器であってもよい。また、材質も特に限定されないが、ステンレス鋼を含む容器であることが好ましい。
容器の体積に対する、容器内に配置する複合材料の体積の割合(充填率)は、溶解効率の観点から5%~25%の範囲内であることが好ましい。
【0031】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた分解液Aを中和して、中和液Bを得る工程である。従来行われていた方法では、溶解液が塩基性であるため溶解液の粘度が増加し、無機物に付着する溶解液の量が増加する。そのため、回収される溶解液のロスが多くなる問題があった。この溶解液のロスを低減するために、液切れの時間を十分に確保したとしても、溶解液の粘度が高いため長時間要してしまうが、分解液を中和することで粘度が下がり、無機物の液切れが改善された。
【0032】
中和に用いられる酸としては特に限定されず、酢酸、蟻酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。酸の混合による中和は、中和液BのpHが、10以下となるように行うことが好ましく、8以下となることがより好ましい。
また、中和液Bの粘度は、無機物の液切れの観点から5mPa・s以下であることが好ましく、3mPa・s以下であることがより好ましい。
【0033】
<工程3>
工程3は、工程2で得られた中和液Bを固液分離して、粗無機物Cと分離液Dを得る工程である。固液分離の方法は、特に限定されるものではなく、ろ過、デカンテーション、比重分離、遠心分離などの方法を用いることができる。ろ過は常圧で行ってもよいが、加圧又は減圧下で行うことで分離に要する時間を短縮することができる。
【0034】
<工程4>
工程4は、工程3で得られた粗無機物Cを洗浄して、無機物を得る工程である。
洗浄は、有機溶剤及び水からなる群より選択される少なくとも1種を用いて行うことが好ましく、有機溶剤による洗浄と、水による洗浄を組み合わせることが、より好ましい。洗浄に用いる有機溶剤は、例えばアルコール系の溶剤、エーテル系の溶剤、ケトン系の溶剤などを用いることができる。洗浄に用いる水は、純水、蒸留水の他に、希塩酸、希硫酸、希硝酸、リン酸などの無機酸、ギ酸や酢酸などの有機酸を用いることができる。洗浄は、粗無機物Cに付着している分解液の溶媒等を洗い流すのに十分な時間行うことが好ましい。例えば無機物が炭素繊維である場合、その外観が市販の炭素繊維と目視で同等となる程度まで洗浄することが好ましい。
【0035】
<工程5>
工程5は、前記分離液Dからフェノール化合物を回収する工程である。
分離液Dには、フェノール化合物以外に、多くの油溶成分が含まれることから、油水分離を行うことで、水相からフェノール化合物を回収することができる。
油水分離の方法は特に限定されるものではなく、分離液Dに純水や蒸留水などの水を加えて混合した後、透過膜を用いた分離、比重分離による分離、遠心分離による分離、などにより分離することができる。
【0036】
工程5で分離した水相から、フェノール化合物を回収することができる。フェノール化合物としては、特に限定されないが、エピクロルヒドリンと反応してエポキシ樹脂を合成できるフェノール化合物が好ましい。フェノール化合物としては、ビスフェノール化合物が好ましく、ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールAF、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールG、ビスフェノールS、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0037】
<複合材料の製造工程>
上記工程4で得られた無機物は、熱硬化性樹脂と混合し、硬化することで、再度複合材料を得ることが可能である。また、前記熱硬化性樹脂は、上記工程5で得られたフェノール化合物から合成したものでもよい。例えば、工程5で得られたフェノール化合物は、エピクロルヒドリンと反応させることでエポキシ樹脂を製造できる。また、前記エポキシ樹脂と無機物とを含むエポキシ樹脂組成物を調製し、該エポキシ樹脂組成物を硬化することで、再度複合材料を得ることが可能である。このように、本発明により、新たなケミカルリサイクルを確立することができる。
【実施例0038】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0039】
[原料及び試薬]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量950及び183)及びは、三菱ケミカル株式会社の製品を使用した。
リカシッド(酸無水物)M-700は、新日本理化株式会社の製品を使用した。
キュアゾール2E4MZ(硬化触媒)は、四国化成工業株式会社の製品を使用した。
48質量%の水酸化ナトリウム水溶液、ジシレンジアミド(DICY)、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、塩酸、トルエンは、富士フィルム和光純薬株式会社の製品を使用した。
ベンジルアルコールは、三協化学株式会社の製品を使用した。
炭素繊維は、吉野株式会社製の炭素繊維チョップ3mmを使用した。
ガラス繊維は、アズワン株式会社製の石英ウールを使用した。
【0040】
[分析]
ビスフェノールAの生成確認、純度、定量は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:JASCO社製RHPLC、JASCO社製03150-3M Unifinepak C18 3μm 150mm×3.0mmID
・方式:グラジェント法
・分析温度:40℃
・溶離液組成:
A液 アセトニトリル
B液 水
分析時間0分では、A液:B液=30:70(体積比、以下同様。)、分析時間0~2
5分で徐々にA液:B液=100:0にした。
・流速:0.40mL/分
・検出波長:280nm
【0041】
<参考例1:熱硬化性樹脂=酸無水物硬化物のCFRP調製>
アルミ製のカップに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量183)100g、リカシッド100g及びキュアゾール2E4MZ1gを入れてよく混合させることで混合物1を得た。得られた混合物1に、炭素繊維A(新品)100gを加えて混合し、混合物2を得た。得られた混合物2を平板の型に流し込み、100℃で3時間加熱し、その後140℃で3時間加熱することで、炭素繊維複合材料Aを得た。
【0042】
<参考例2:熱硬化性樹脂=酸無水物硬化物のGFRP調製>
参考例1において、炭素繊維A100gの代わりに、石英ウールA100gに代えた以外は、参考例1と同様に実施し、ガラス繊維複合材Aを得た。
【0043】
<参考例3:熱硬化性樹脂=アミン硬化物のCFRP調製>
アルミ製のカップに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量183)100g、DICY1g及びDCMU1gを入れてよく混合させることで混合物3を得た。得られた混合物3を平板の型に流し込み、150℃で3時間加熱することで、炭素繊維複合材Bを得た。
【0044】
<参考例4:熱硬化性樹脂=アミン物硬化物のGFRP調製>
参考例3において、炭素繊維A100gの代わりに、石英ウールA100gに代えた以外は、参考例3と同様に実施し、ガラス繊維複合材Bを得た。
【0045】
<実施例1>
攪拌翼、冷却管、及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でベンジルアルコール1100g及び48質量%の水酸化ナトリウム水溶液80gを入れた。セパラブルフラスコ内をフル真空とした後に、内温を徐々に上げ、水及びベンジルアルコールの一部を抜き出すことで、セパラブルフラスコ内の水を完全に留去した。セパラブルフラスコ内を窒素で復圧することで、処理液1040gを得た。
得られた処理液1000gに参考例1で得られた炭素繊維複合材A200g(無機物は
炭素繊維であり、含有量は66g。樹脂含有量は134g。)を加えた後、常圧で1時間
かけて200℃まで昇温した。セパラブルフラスコの内液を200℃で3時間維持して、炭素繊維を含有するスラリー液Aを得た。得られたスラリー液Aの温度を70℃まで下げた後に、塩酸を用いて中和した。中和して得られた液を、ガラスロートの上にろ紙を置いて自重によりろ過することで、ろ紙に粗炭素繊維90gとろ液を得た。ろ過速度は非常に良好であった。得られた粗炭素繊維の取り扱いの容易さも、非常に良好であった。
得られた粗炭素繊維をアセトンと水で十分に洗浄し、乾燥させることで、炭素繊維60gを回収した。
【0046】
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、得られたろ液を入れた。静置させて、油水分離して、有機相1を得た。得られた有機相1に5質量%水酸化ナトリウム水溶液550gを加え、混合した。その後、静置させて油水分離し、下相をセパラブルフラスコより抜き出して、水相1を得た。セパラブルフラスコに残った有機相に水500gを加え、混合した。その後、静置させて油水分離し、下相をセパラブルフラスコより抜き出して、水相2を得た。
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、得られた水相1及び水相2に、トルエン200gを加えて混合し、内温を80℃まで昇温させた。内温を80℃に維持したまま、塩酸で水相を中和した。その後、静置
して油水分離させ、水相3を抜き出して、有機相2を得た。得られた有機相2に水200gを加え、内温を80℃に維持したまま混合した。その後、静置して油水分離させ、水相4を抜き出して、有機相3を得た。得られた有機相3を、10℃まで降温させ、スラリー液を得た。得られたスラリー液を減圧濾過で濾別して、ケーキを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、ケーキ全量をオイルバス温度85℃、15Torr、3時間で乾燥させ、固体26gを得た。得られた固体を高速液体クロマトグラフィーで確認したところ、ビスフェノールAであり、純度は99%であった。
【0047】
<比較例1>
攪拌翼、冷却管、及び温度計を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でベンジルアルコール1000g及び48質量%の水酸化ナトリウム水溶液80gを入れた。セパラブルフラスコ内をフル真空とした後に、内温を徐々に上げ、水及びベンジルアルコールの一部を抜き出すことで、セパラブルフラスコ内の水を完全に留去した。セパラブルフラスコ内を窒素で復圧することで、処理液1070gを得た。
得られた処理液1070gに参考例1で得られた炭素繊維複合材A200g(無機物は
炭素繊維であり、含有量は66g。樹脂含有量は134g。)を加えた後、常圧で1時間
かけて200℃まで昇温した。セパラブルフラスコの内液を200℃で3時間維持して、
炭素繊維を含有するスラリー液Aを得た。得られたスラリー液Aの温度を70℃まで下げた。得られた液を、ガラスロートの上にろ紙を置いて自重によりろ過することで、ろ紙に粗炭素繊維153gとろ液を得た。ろ過速度は非常に悪かった。得られた粗炭素繊維の取り扱いの容易さも、液が滴り落ち、非常に悪かった。
得られた粗炭素繊維をアセトンと水で十分に洗浄し、乾燥させることで、炭素繊維59gを回収した。
【0048】
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、得られたろ液を入れた。静置させて、油水分離して、有機相1を得た。得られた有機相1に5質量%水酸化ナトリウム水溶液550gを加え、混合した。その後、静置させて油水分離し、下相をセパラブルフラスコより抜き出して、水相1を得た。セパラブルフラスコに残った有機相に水500gを加え、混合した。その後、静置させて油水分離し、下相をセパラブルフラスコより抜き出して、水相2を得た。
ジムロート冷却管、攪拌翼、温度計を備えたジャケット式セパラブルフラスコに、窒素雰囲気下、得られた水相1及び水相2に、トルエン200gを加えて混合し、内温を80℃まで昇温させた。内温を80℃に維持したまま、塩酸で水相を中和した。その後、静置して油水分離させ、水相3を抜き出して、有機相2を得た。得られた有機相2に水200gを加え、内温を80℃に維持したまま混合した。その後、静置して油水分離させ、水相4を抜き出して、有機相3を得た。得られた有機相3を、10℃まで降温させ、スラリー液を得た。得られたスラリー液を減圧濾過で濾別して、ケーキを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、ケーキ全量をオイルバス温度85℃、15Torr、3時間で乾燥させ、固体20gを得た。得られた固体を高速液体クロマトグラフィーで確認したところ、ビスフェノールAであり、純度は99%であった。
【0049】
実施例1及び比較例1において、スラリー液Aの中和有無、得られた粗炭素繊維の量及び取扱いやすさ、ろ紙でのろ過速度、ビスフェノールAの取得量を、表1に纏めた。表1より、スラリー液Aを中和することで、ろ紙でのろ過速度が非常に良好となり、ビスフェノールAの回収量も改善されることが分かる。この結果は、中和することで、得られる液の粘度が低下し、粗炭素繊維に含まれる液量を低減できることによるものである。また、得られる液の粘度を低下させることで、粗炭素繊維の取り扱いが非常に良好となり、ろ過性も非常に良好となることから、効率的に炭素繊維である無機物とビスフェノールを得ることが出来ることも分かる。
【0050】
【表1】

※1 ◎・・・スラリー液の粘度が低いため、粗炭素繊維を含むスラリー液を容易にろ紙上に配置することが可能であった。×・・・スラリー液の粘度が高いため、粗炭素繊維を含むスラリー液をろ紙上に配置することが困難であった。
※2 ◎・・・3分以内でろ過完了、〇・・・3~5分以内でろ過完了、△・・・5~10分以内でろ過完了、×・・・ろ過完了まで10分以上を要する
【0051】
<実施例2>
実施例1において、参考例1で得られた炭素繊維複合材A200g(無機物は炭素繊維
であり、含有量は66g。樹脂含有量は134g。)の代わりに、参考例2で得られたガ
ラス繊維複合材A200g(無機物はガラスであり、含有量は66g。樹脂含有量は13
4g。)を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
得られた粗ガラス繊維の量は、91gであった。また、粗ガラス繊維の取扱いやすさは、非常に良好であった。また、中和によって得られた液のろ紙でのろ過速度も、非常に良好であった。得られたビスフェノールAは、27gであった。
【0052】
<実施例3>
実施例1において、参考例1で得られた炭素繊維複合材A200g(無機物は炭素繊維
であり、含有量は66g。樹脂含有量は134g。)の代わりに、参考例3で得られた炭
素繊維複合材B200g(無機物は炭素繊維であり、含有量は99g。樹脂含有量は10
1g。)を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
得られた粗炭素繊維の量は、95gであった。また、粗炭素繊維の取扱いやすさは、非常に良好であった。また、中和によって得られた液のろ紙でのろ過速度も、非常に良好であった。得られたビスフェノールAは、23gであった。
【0053】
<実施例4>
実施例1において、参考例1で得られた炭素繊維複合材A200g(無機物は炭素繊維
であり、含有量は66g。樹脂含有量は134g。)の代わりに、参考例4で得られたガ
ラス繊維複合材B200g(無機物はガラス繊維であり、含有量は99g。樹脂含有量は
101g。)を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
得られた粗ガラス繊維の量は、92gであった。また、粗ガラス繊維の取扱いやすさは、非常に良好であった。また、中和によって得られた液のろ紙でのろ過速度も、非常に良好であった。得られたビスフェノールAは、22gであった。
【0054】
実施例1~4において、スラリー液Aの中和有無、得られた粗無機物繊維の量及び取扱いやすさ、ろ紙でのろ過速度、ビスフェノールAの取得量を、表2に纏めた。表2より、スラリー液Aを中和することで、複合材が変わっても、効率的に無機物繊維である無機物とビスフェノールが得られることが出来ることが分かる。
【0055】
【表2】

※1 ◎・・・スラリー液の粘度が低いため、粗炭素繊維を含むスラリー液を容易にろ紙上に配置することが可能であった。×・・・スラリー液の粘度が高いため、粗炭素繊維を含むスラリー液をろ紙上に配置することが困難であった。
※2 ◎・・・3分以内でろ過完了、〇・・・3~5分以内でろ過完了、△・・・5~10分以内でろ過完了、×・・・ろ過完了まで10分以上を要する
【0056】
<実施例5>
温度計、撹拌装置、冷却管を備えた内容量1Lの四口フラスコに、実施例1及び2で得られたビスフェノールA50g、エピクロルヒドリン260g、イソプロパノール100g、水40gを仕込み、40℃に昇温して均一に溶解させた後、48質量%の水酸化ナトリウム水溶液40gを90分かけて滴下した。滴下と同時に、40℃から65℃まで90分かけて昇温した。その後、65℃で30分保持し反応を完了させ、1Lの分液ロートに反応液を移し、65℃の水69gを加えて65℃の状態で1時間静置した。静置後、分離した油相と水相から水相を抜き出し、副生塩及び過剰の水酸化ナトリウムを除去した。その後、150℃の減圧下でエピクロルヒドリンを完全に除去した。
その後、メチルイソブチルケトン110gを仕込み、65℃に昇温して均一に溶解させた後、48質量%の水酸化ナトリウム水溶液2gを仕込み、60分反応させた後、メチルイソブチルケトン60gを仕込み、水200gを用いて水洗を4回行った。
その後、150℃の減圧下でメチルイソブチルケトンを完全に除去して実施例5のエポキシ樹脂を得た。
JISK7236(2009)に従い、得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量を測定した結果、185g/当量であった。
【0057】
アルミ製のカップに、前記得られたエポキシ樹脂(エポキシ当量185)50g、リカシッド50g及びキュアゾール2E4MZ0.5gを入れてよく混合させることで混合物5を得た。得られた混合物5に、実施例1で得られた炭素繊維50gを加えて混合し、混合物6を得た。得られた混合物6を平板の型に流し込み、100℃で3時間加熱し、その後140℃で3時間加熱することで、炭素繊維複合材料Cを得た。