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特開2024-174701放射線照射システム、放射線治療システムおよび放射線照射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174701
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】放射線照射システム、放射線治療システムおよび放射線照射方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20241210BHJP
【FI】
A61N5/10 Q
A61N5/10 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092676
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 拓人
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】豊田 高士
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友紀
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC04
4C082AE02
4C082AG12
4C082AG52
4C082AP02
4C082AR12
(57)【要約】
【課題】異なる強度の放射線を低コストかつ高信頼性で照射できるようにしたシステム、および方法を提供すること。
【解決手段】放射線照射システム106は、異なる強度の放射線103を照射対象へ照射する放射線照射システムであって、放射線を検出して放射線情報を取得する放射線モニタ部202,206と、放射線情報が検出される際のパラメータの値を、放射線の強度に応じて変更するモニタ制御部209と、モニタ制御部によるパラメータの値の変更が正しいかを判定する判定部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる強度の放射線を照射対象へ照射する放射線照射システムであって、
放射線を検出して放射線情報を取得する放射線モニタ部と、
前記放射線情報が検出される際のパラメータの値を、放射線の強度に応じて変更するモニタ制御部と、
前記モニタ制御部による前記パラメータの値の変更が正しいかを判定する判定部と、
を備える放射線照射システム。
【請求項2】
前記判定部は、前記放射線を前記照射対象へ照射する前に、前記パラメータの値の変更が正しいかを判定する
請求項1に記載の放射線照射システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記パラメータの値の変更が正しくないと判定すると、警告情報を出力する
請求項1に記載の放射線照射システム。
【請求項4】
前記モニタ制御部は、前記照射対象へ放射線を照射する治療計画情報に基づき、前記パラメータの値を放射線の強度に応じて変更する
請求項1に記載の放射線照射システム。
【請求項5】
前記パラメータは、前記放射線モニタ部が放射線の強度を検出する信号処理回路に関するパラメータである
請求項1に記載の放射線照射システム。
【請求項6】
前記パラメータは、前記信号処理回路に含まれる、前記放射線モニタ部で検出されたモニタ電流値を電圧値へ変換するフィードバック抵抗の抵抗値である
請求項5に記載の放射線照射システム。
【請求項7】
前記フィードバック抵抗へ検査用の電流を供給する電流源をさらに備え、
前記判定部は、前記検査用の電流を供給されたときの前記フィードバック抵抗の抵抗値に基づいて、前記モニタ制御部による前記パラメータの値の変更が正しいかを、放射線を前記照射対象へ照射する前に判定する
請求項6に記載の放射線照射システム。
【請求項8】
前記放射線モニタ部は、放射線を検出して電流信号を出力するセンサ部と、前記センサ部からの電流信号を処理して前記放射線情報として出力する信号処理回路とを備え、
前記パラメータは、前記センサ部の感度を変更するパラメータである
請求項1に記載の放射線照射システム。
【請求項9】
前記センサ部は電離箱であり、前記電離箱に含まれる電極間に印加される電圧の値を前記パラメータとして変更させることにより、前記センサ部の感度を変更する
請求項8に記載の放射線照射システム。
【請求項10】
前記判定部は、前記センサ部の感度を変更するパラメータが変更された後で、前記照射対象の存在しない空間へ放射線を試射させ、前記モニタ制御部による前記パラメータの変更が正しいかを判定する
請求項8に記載の放射線照射システム。
【請求項11】
前記判定部は、前記センサ部の感度を変更するパラメータが変更された後で、前記照射対象へ放射線を試射させ、前記試射された放射線の線量を前記治療計画に記載された目標線量から差し引かせる
請求項8に記載の放射線照射システム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の放射線照射システムと、
前記放射線照射システムへ異なる強度の放射線を供給する加速器およびビーム輸送系と、
前記加速器およびビーム輸送系から供給された放射線を前記照射対象へ照射する照射装置と、を備える
放射線治療システム。
【請求項13】
放射線照射システムにより、異なる強度の放射線を照射対象へ照射する放射線照射方法であって、
前記放射線照射システムは、放射線を検出して放射線情報を取得する放射線モニタ部を備え、
前記放射線情報が検出される際のパラメータの値を、放射線の強度に応じて変更し、
前記パラメータの値の変更が正しいかを判定する
放射線照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線照射システム、放射線治療システムおよび放射線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、X線や電子線、陽子線、重粒子線といった放射線を患者体内の腫瘍に向けて照射し線量を付与することで、腫瘍の根絶や疼痛の緩和を狙う治療法である。一般に放射線治療においては、線形加速器やシンクロトロンなどから成る加速器系にて加速させた放射線(以降、ビームと略記。)を照射ノズルまで輸送し、腫瘍へ照射する。主なビーム照射手法としては、パッシブ法とスキャニング法の2つが挙げられる。パッシブ法では、散乱体やコリメータなどによってビームを拡大し、腫瘍形状に合致させる。一方でスキャニング法は、ペンシルビームと呼ばれる細いビームの方向を走査電磁石によって調整し、腫瘍全体を順に照射する方法である。いずれの照射手法においても、照射線量はビーム経路上の線量モニタによって監視される。照射制御装置は線量モニタの測定値から積算線量を計算し、予め治療計画装置にて作成された照射指示データ(以降、処方箋)に含まれる目標照射量への到達が確認されると、次の照射への移行、あるいは照射完了を指示する。従って、線量分布の形成精度ひいては治療効果の向上には、線量モニタに高い測定精度が求められる。
【0003】
線量モニタには電離箱が広く用いられる。電離箱は2つ以上の電極の間隙を気体や液体といった流体で満たした容器であり、放射線が入射されるとその軌跡上で流体の電離によって陽イオンと電子が発生する。電極間に電圧を印加することで、陽イオンと電子はそれぞれ反対の電極へ移動し、短時間だけ電流が流れる。この電流を電圧に変換するなどして測定することで、電離反応数、ひいては線量が計算される。パルス電流の強度は照射ビームの線量率に凡そ比例するため、治療で使用されるビーム線量率の範囲と信号処理系の入力可能電圧を考慮して、適切な電流電圧変換係数をアナログ回路などで設定する。
【0004】
近年では超高線量率の放射線治療、いわゆるFLASH治療が注目を集めるなど、従来よりも高線量率な照射の需要が高まっている。FLASH治療では、従来の1Gy/min程度の線量率に対し、およそ40Gy/s以上の線量率での章氏が要求される。従って従来の線量率とFLASHに適した線量率には1000倍程度の差があるため、従来治療とFLASH治療の両方に対応した放射線治療システムでは、指示される幅広い線量率を精度よく照射することが要求される。
【0005】
特許文献1には、線量モニタ信号処理系の電流電圧変換アンプおよび後段のパルスカウンタを複数系統接続し、治療計画に含まれる線量率情報に基づいて線量監視、制御に利用する系統を選択することで、線量率に依らず高精度に照射線量を監視、制御する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-154630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、線量モニタの信号処理系を複数接続する必要があるため、装置コストおよび運転コストが増大する。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、治療計画に基づき照射線量率に適したモニタ系のパラメータに安全に切替えることで、従来線量率でもFLASH向けの線量率でも低コストで高い精度でのビーム監視が可能となる放射線治療システムを開示するものである。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、その目的は、異なる強度の放射線を低コストかつ高信頼性で照射できるようにした放射線照射システム、放射線治療システムおよび放射線照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本開示に従う放射線照射システムは、異なる強度の放射線を照射対象へ照射する放射線照射システムであって、放射線を検出して放射線情報を取得する放射線モニタ部と、放射線情報が検出される際のパラメータの値を、放射線の強度に応じて変更するモニタ制御部と、モニタ制御部によるパラメータの値の変更が正しいかを判定する判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放射線モニタ部のパラメータの値を変更することにより、異なる強度の放射線の放射線情報を取得することができ、さらに、パラメータの値の変更が正しいか判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】放射線照射システムを含む放射線治療システムの全体構成図である。
図2】照射ノズルの構成を示す図である。
図3】線量モニタの構成の一例を示す図である。
図4】放射線治療のフローチャートである。
図5】線量モニタの設定の切替えを判定する方法を示す図である。
図6】線量モニタの設定の切替が正常であるか判定する回路構成の例である。
図7】実施例2に係り、線量モニタの設定の切替が正常であるか判定する回路構成の他の一例を示す。
図8】実施例3に係り、照射ノズルの構成を示す図である。
図9】実施例4に係り、放射線治療のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態に係る放射線照射システムでは、線量モニタの出力する信号を処理する信号処理系を一系統とし、回路のパラメータの値を線量率に応じて切替えることで、コストを低減させる。しかしながら、高い信頼性を維持するためには、単純に、線量モニタ系のパラメータの値を切り替えるだけでは足りず、パラメータの値が正しく設定されたかを確かめる必要がある。
【0014】
例えばFLASH治療に対応した場合のように、パラメータ間の差が1000倍ほどある場合、切替えの誤作動による誤照射や信号処理系への影響が懸念される。例えば、電流から電圧へ変換する係数の値を小さくしすぎた場合、信号の大きさはノイズよりも小さくなるため、ビーム照射時の値とビーム停止時の値とが近くなり得る。これとは逆に、電流から電圧へ変換する係数の値を大きく設定しすぎた場合、処方線量の1000分の1程度の照射でビームが停止してしまう。
【0015】
従って、FLASH治療と従来治療とを組合せた治療を高精度かつ適切に実施するには、線量率に応じた線量モニタ系パラメータ値の切替えを行うとともに、切替えから照射開始までに切替えの妥当性を検証するのが望ましい。
【0016】
そこで、本開示の放射線照射システムは、治療計画に基づき、照射線量率に適したモニタ系のパラメータ値に安全に切替えることで、従来線量率またはFLASH向けの線量率のいずれであっても、低コストかつ高精度でビームを監視でき、信頼性の高いビーム照射を実現する。
【実施例0017】
図1図6を用いて、実施例1に係る放射線治療システム101を説明する。本実施例では、スキャニング法を用いて放射線治療を実施する。放射線治療システム101としては、陽子線または重粒子線をビームとして用いる放射線治療システムを想定するが、X線などの他の放射線を用いたスキャニング法であってもよい。
【0018】
最初に、放射線治療システム101の全体構成について図1を用いて説明する。図1は放射線治療システム101の全体構成を示す図である。
【0019】
放射線治療システム101は、照射対象102に対してビーム103を照射して治療するシステムである。放射線治療システム101は、例えば、加速器系104と、ビーム輸送系105と、照射ノズル106と、治療台107と、全体制御装置108と、加速器・ビーム輸送系制御装置109と、照射制御装置110と、治療計画装置111と、を備えている。
【0020】
加速器系104は、ビーム103を生成し、加速する装置である。図1では、入射器112と、シンクロトロン加速器113と、イオン源114とを含む加速器の例を示したが、これに限らず、例えば、サイクロトロン加速器または線形加速器など、粒子線を加速させる他の装置群であってもよい。
【0021】
ビーム輸送系105は、照射ノズル106までビームを輸送する装置群である。「放射線照射システム」の一例である照射ノズル106は、照射対象102へビーム103を照射する。ビーム輸送系105は、加速器104で加速されたビーム103を照射ノズル106へ輸送するものであり、加速器104と照射ノズル106とを接続している。本実施例のビーム輸送系105は、回転ガントリを有する。回転ガントリに代えて、固定照射ポートでもよい。ビーム輸送系105を省略して、加速器系104が照射ノズル106に直接接続されてもよい。
【0022】
照射ノズル106は、ビーム輸送系105から輸送されたビーム103を調整して照射対象102へ照射する。照射ノズル106は、さらに、照射されたビーム103の特性を測定する装置群を備える。照射ノズル106の詳細は、図2を用いて後述する。
【0023】
治療計画装置111は、例えば、演算装置、メモリ、記憶装置、通信インターフェース装置、ユーザインターフェース装置(いずれも不図示)などを有するコンピュータシステムとして構成される。治療計画装置111は、医師などにより作成される治療計画を実施して処方箋を作成し、その処方箋を全体制御装置108へ転送する。作成される処方箋には、照射単位ごとのビーム電流に関する情報が含まれる。
【0024】
全体制御装置108は、治療計画装置111と、加速器・ビーム輸送系制御装置109と、照射制御装置110と、治療台107とに接続されており、治療計画装置111から転送された処方箋に基づいて各機器の動作を制御する。
【0025】
加速器・ビーム輸送系制御装置109は、全体制御装置108からの指示に基づき、加速器系104やビーム輸送系105を構成する、各機器の動作を制御する。
【0026】
照射制御装置110は、全体制御装置108からの指示に基づき、照射ノズル106を構成する各機器の動作を制御する。照射制御装置110は、照射ノズル106の各モニタから送信される計測結果を処理し、全体制御装置108へ転送する。照射制御装置110の詳細な構成は、図6を用いて後述する。
【0027】
これら全体制御装置108と、加速器・ビーム輸送系制御装置109と、照射制御装置110とは、CPUおよびCPUに接続されたメモリを有する。
【0028】
なお、実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、複数のプログラムに分かれていてもよく、さらにはそれらの組み合わせでもよい。
【0029】
各装置の保有するプログラムの一部またはすべては専用ハードウェアで実現してもよく、モジュール化されていてもよい。さらには、各種プログラムは、プログラム配布サーバまたは外部記憶メディアによって、各装置にインストールされてもよい。
【0030】
各装置は、各々が独立した装置であって、有線あるいは無線のネットワークで接続されてもよい。複数の装置が一つにまとめられてもよい。
【0031】
治療台107は、照射対象102を載せるベッドである。治療台107は、いわゆる6軸方向へ移動可能である。治療台107は、全体制御装置108からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらにそれぞれの軸を中心として回転することもできる。治療台107は、これらの移動と回転により、照射対象102を所望の位置に移動させることができる。
【0032】
加速器・ビーム輸送系制御装置109は、加速器104とビーム輸送系105とを制御する装置である。
【0033】
図2を用いて、照射ノズル106の詳細な構成について説明する。図2は、スキャニング法でビームを照射する照射ノズル106の例を示す。
【0034】
照射ノズル106内には、例えば、複数の走査電磁石201A,201Bと、線量モニタ202と、位置モニタ203とが配置されている。さらに、照射ノズル106には、必要に応じて、リッジフィルタ204と、レンジシフタ205とを設置してもよい。
【0035】
照射ノズル106は、さらに、線量モニタ信号処理系206と、位置モニタ信号処理系207と、走査電磁石制御装置208と、モニタ設定制御装置209とを備える。
【0036】
照射制御装置110は、線量モニタ信号処理系206と、位置モニタ信号処理系207と、走査電磁石制御装置208と、モニタ設定制御装置209とに接続されている。
【0037】
走査電磁石201A,201Bは、発生させた磁場によって、ビーム103を偏向させる。走査電磁石201A,201Bは、互いに垂直な方向へビームを偏向させる。これにより、ビーム103は、2次元方向に走査され、照射対象102内の標的体積210へ照射される。がん患者を治療する場合、照射対象102は患者を表し、標的体積210は腫瘍にマージン(照射位置の誤差を考慮した余白領域)を加えた領域などを表す。
【0038】
リッジフィルタ204は、線量分布を入射方向に拡大させる場合に使用される。レンジシフタ205は、ビーム103の到達深さを調整するために用いられる。
【0039】
線量モニタ202は、照射されるビーム103の線量率ひいては線量を測定するためのモニタである。線量モニタ202は、線量率に対応する大きさの線量モニタ出力を、線量モニタ信号処理系206へ送信する。
【0040】
本実施例では、線量モニタ202として、例えば電離箱を用いる。この場合、線量モニタ出力は、電離箱の収集電流に対応する。線量モニタ202は、蛍光体または半導体検出器などの、ビームの線量率と検出信号との間に相関のある他種のモニタでもよい。線量モニタ信号処理系206は、線量モニタ202から入力された線量モニタ出力を加工し、線量信号として照射制御装置110へ出力する。照射制御装置110は、線量モニタ信号処理系206から入力された線量信号に基づいて、照射された線量を演算する。線量モニタ信号処理系206は、線量モニタ信号処理部206と呼ぶこともできる。
【0041】
位置モニタ203は、照射されるビーム103の位置およびサイズを測定するためのモニタである。位置モニタ203の出力は、位置モニタ信号処理系207へ入力される。本実施例では、位置モニタ203としてマルチワイヤ型電離箱を用いる。この場合、位置モニタ出力は、電離箱の各ワイヤから出力される収集電流値の集合に対応する。位置モニタ203は、マルチストリップ型電離箱または2次元アレイ蛍光体検出器など、2次元面内の各点における、ビームの線量率に相関のある検出信号群が出力される他種のモニタであってもよい。
【0042】
位置モニタ信号処理系207は、位置モニタ出力を加工して位置・サイズ信号として照射制御装置110に出力する。位置・サイズ信号とは、ビームの位置とビームのサイズを示す信号である。
【0043】
照射制御装置110は、位置モニタ信号処理系207から入力された位置・サイズ信号に基づいて、照射されたビームの位置およびサイズを演算する。位置モニタ信号処理系207は、位置モニタ信号処理部207と呼ぶこともできる。
【0044】
モニタ設定制御装置209は、線量モニタ信号処理系207および位置モニタ信号処理系208のいずれか、または両方に接続されており、接続されているモニタ信号処理系のパラメータ(以降、モニタ設定と呼ぶ、)を切替える指示を送る。
【0045】
図3を用いて、線量モニタ信号処理系206の回路の一例を示す。
【0046】
ここで、線量モニタ202および線量モニタ信号処理系206は、「放射線モニタ部」の例である。線量モニタ202は、「センサ部」の例である。線量モニタ信号処理系206は、「信号処理回路」の例である。線量または線量率は、「放射線情報」の例である。モニタ設定制御装置209は、「モニタ制御部」の例である。「判定部」は、例えば後述する図4中のステップS111およびS112、あるいは、ステップS111またはS112のいずれか一つ、である。さらに、「判定部」は、ステップS113を備えることもできる。全体制御部108は、「判定部」および/または「モニタ制御部」の例に該当してもよい。
【0047】
電離箱型の線量モニタ202から出力された収集電流は、後段の電流電圧変換回路301へ入力され、この回路301により電圧信号に変換される。電圧信号は、電圧周波数変換器302によって周波数信号に変換され、照射制御装置110へ線量モニタ信号として送信される。電圧周波数変換器302は、電圧信号を周波数信号に変換する回路であり、図中「VFコンバータ」と表示する。

電流電圧変換回路301の抵抗値は、スイッチ303によって複数の抵抗値のうちいずれか一つへ切り替えることができる。スイッチ303は、モニタ設定制御装置209によって制御される。ここで、2つの並列回路(第1並列回路および第2並列回路とする。)第1並列回路は、抵抗値R1を持つ。第2並列回路は、抵抗値R2を持つ。
【0048】
例えば、R1=R2×1000の関係がある場合、第2並列回路へ切替えたときの出力電圧は、第1並列回路の出力電圧と比べて1000分の1になる。従って、従来治療と超高線量率治療とでビーム強度に1000倍の差があっても、2つの並列回路を切り替えて使用することで同程度の電圧出力を得ることができ、信号が飽和したり、信号ノイズ比が低下したりしない。
【0049】
図3では、モニタ設定として、電流電圧変換回路301の抵抗値を想定した。図3では、抵抗値R1を持つ第1並列回路と抵抗値R2を持つ第2並列回路との2つの並列回路を例示したが、これに限らず、3つ以上の並列回路を用いてもよい。抵抗値が固定された固定抵抗を用いてもよいし、抵抗値を連続的または段階的に変化可能な可変抵抗を用いてもよい。
【0050】
モニタ設定制御装置209を介して、電圧周波数変換器302の変換係数を変更してもよい。信号処理系206の回路構成は上記に限らず、例えば、コンデンサまたは他の増幅回路などが含まれてもよい。
【0051】
異なる信号変換回路系を用いることで、周波数信号以外を照射制御装置110に送信してもよい。
【0052】
放射線治療システム101の構成および各装置の詳細の説明は以上である。以降は、実施例1における同システムの動作手順を説明する。
【0053】
放射線治療システム101による治療手順を、図4を用いて説明する。図4は、放射線治療のフローチャートである。
【0054】
一般に放射線治療においては、目標となる線量を数回に分けて付与する分割照射が行われる。これは、一度に高線量が付与されることで正常組織が損傷を受けることを防止するためである。本実施例では、治療期間を例えば30日に分割して目標線量を照射する治療を想定するが、分割回数および照射量は特に問わない。分割単位は1日である必要はなく、1日の治療を複数回に分けてももよい。
【0055】
各日の治療が開始されると(S101)、最初に治療計画装置111は治療計画を実施する(S102)。治療計画の詳細な手順は、以下の通りである。
【0056】
治療計画装置111は、X線CTなどによって撮像された患者の患部周辺の体内画像を読み込む。次に、ユーザインターフェース装置に表示された体内画像を基に、医師が腫瘍および危険臓器の輪郭を抽出し、これらの輪郭に予め定められたマージンを加えて標的体積210および危険臓器の輪郭を決定する。
【0057】
治療計画装置111は、処方箋を作成する。最初に、治療計画装置111は、標的体積210および危険臓器に対する目標線量と目標ビーム強度指標とを設定する。ビーム強度指標とは、ビーム強度に依存し患者体内の微小領域毎に決められる任意の指標を表しており、例えば線量を照射に要した時間で割った平均線量率などがある。
【0058】
目標線量および目標ビーム強度指標は、ユーザインターフェース装置を介して、医師により入力される。治療計画装置111は、目標線量および目標ビーム強度指標を付与するための照射最適化計算を実施し、処方箋を決定する。
【0059】
処方箋には、各ペンシルビームの照射位置、照射量、照射強度、照射方向および照射順序が指定されている。処方箋によって形成された線量分布およびビーム強度指標分布は、ユーザインターフェース装置を介して医師に提示される。医師により承認された処方箋は、全体制御装置108へ送信される。
全体制御装置108は、治療計画装置111から受信した処方箋に基づいて、照射群毎の制御指示データを作成し、加速器・ビーム輸送系制御装置109および照射制御装置110へ送信する。送信されたデータは、加速器・ビーム輸送系制御装置109内のメモリおよび照射制御装置110内のメモリ(いずれも図示せず)に記憶される。
【0060】
以上で処方箋が作成される。医師が処方箋を承認しない場合は、目標線量あるいは目標ビーム強度指標が再設定される。
【0061】
患者は、治療台107に載せられる。全体制御装置108は、体内画像の撮影時と合致するように治療台107を動かして、患者の位置を合わせる。その後、放射線治療システム101は、ビーム103の照射準備を開始する。
【0062】
各日の照射は、いくつかの照射群に分割される。照射群の境界は、例えば照射位置が大きく変更される点や、照射方向または照射強度が変更される点に設定される。1番目の照射群への照射準備が開始されると(S103)、加速器・ビーム輸送系制御装置109が制御指示データに従って、ビームの加速を開始する。照射制御装置110は、処方箋に示された照射位置情報に基づいて、走査電磁石制御装置208により走査電磁石201A,201Bの電流値を変更する。これらの準備と並行して、全体制御装置108は、モニタ設定の切替え有無を判定する(S104)。
【0063】
図5を用いて、第1照射群から第3照射群までの照射を例にとり、モニタ設定切替えの有無を判定する手順を説明する。
【0064】
全体制御装置108は、モニタ設定値(図3中の電流電圧変換回路301の抵抗値R1,R2)毎に対応する照射強度範囲RA1,RA2を設定値として、図示せぬメモリに記憶している。照度強度が閾値Thを超える範囲は、高い強度の放射線を照射する範囲RA1である。照射強度が閾値Th以下の範囲は、低い強度の放射線を照射する範囲RA2である。
【0065】
図5の下側に示すように、最初に実施される第1照射群では、モニタ設定を切り替える必要ありと判定される。第1照射群で照射される放射線の強度は閾値Th以下のため、モニタ設定値は「2」(抵抗R2を使用)となる。第1照射群での放射線照射が終わり、第2照射群での照射に移る場合、治療計画によれば放射線の強度が大きくなるため、モニタ設定を切り替える必要ありと判定される。第2照射群で照射される放射線の強度は、閾値Thを超えるため、モニタ設定値「1」(抵抗R1を使用)となる。第2照射群での放射線照射が終わり、第3照射群での照射に移行する場合、治療計画によれば放射線の強度は変わらない。したがって、モニタ設定を切り替える必要無しと判定される。モニタ設定値は「2」のままである。
【0066】
全体制御装置108は、ステップS104において、第n(n=1、2、3)照射群の照射強度を読込み、読み込んだ照射強度を照射強度範囲RA1,RA2に含むモニタ設定値を算出する。
【0067】
算出された抵抗値が、前回の照射群(第n―1照射群)の照射時の設定値と異なる場合は、モニタ設定切替えありと判定される(S104:YES)。前回の照射群での設定値と今回算出された設定値(抵抗値)とが一致する場合、モニタ設定の切替え無しと判定される(S104:NO)。ただし、一番最初の第1照射群については、便宜上モニタ設定切替えありとする。
【0068】
なお、照射群ごとの判定処理は、各照射群の照射開始後にそれぞれ実行してもよいし、第1照射群の照射開始までに、治療計画に基づいて全ての照射群についての切替の判定処理をまとめて実行しておき、それら判定結果を全体制御装置108のメモリに記憶しておいてもよい。
【0069】
図4に戻る。モニタ設定切替えありと判定されると(S104:YES)、モニタ設定切替えが実施される(S110)。全体制御装置108は、モニタ設定制御装置209に対して、切替えるモニタ設定とその値とを指示する。モニタ設定制御装置209は、その指示に基づいて、線量モニタ信号処理系206あるいは位置モニタ信号処理系207のモニタ設定を切替える。
【0070】
次に、モニタ設定が正しいか判定される(S111)。ここで図6を参照する。図6は、図3に示す線量モニタ信号処理系206に対して、モニタ設定を判定するための構成要素を追加した回路図である。電流電圧変換回路301の入力側には、電流源401が接続される。モニタ設定の判定が開始されると、電流源401は指定の電流(テスト電流)を印加する。電流の大きさは、ビーム群の照射強度に応じて変更してもよいし、照射強度に依らず一定であってもよい。電流源401から入力された電流は、電流電圧変換回路301によって、電圧に変換される。この電圧の値は、電流電圧変換回路301の出力側に接続された電圧計402によって測定される。
【0071】
電圧計402で測定された電圧は、照射制御装置110を介して全体制御装置108に送信される。全体制御装置108は、モニタ設定値として指示した電流電圧変換回路301の抵抗値と、印加電流値から予測される電圧値および測定電圧値とを比較し、差分が閾値以下であればモニタ設定が正常であると判定し、差分が閾値よりも大きければモニタ設定が異常と判定する(S111)。
【0072】
電圧差分の閾値は、全体制御装置108内のメモリに予め記憶されている。閾値は、電圧値に対する差分の相対的大きさで規定されてもよいし、電圧差分の絶対的大きさで規定されてもよいし、モニタ設定値毎に異なってもよい。
【0073】
図6は、電流電圧変換回路301の抵抗値を切替えるモニタ設定とした場合のモニタ設定判定方法の一例であり、他の判定方法も考えられる。例えばスイッチ303の位置あるいは動作を検知して信号を出力する機構を用いてもよい。電圧周波数変換器302の設定を切替える場合は、現在の設定値をデジタル信号として出力させてもよい。
【0074】
図4に戻る。ステップS112では、モニタ設定が正常であるか否か判定される。モニタ設定が異常と判定されると(S112:NO)、ステップS113でユーザに向けて警告が出力され、ステップS110に戻る。ステップS110では、再度モニタ設定の切替えが行われる。
【0075】
モニタ設定が正常と判定され(S112:YES)、ビーム103の加速および走査電磁石201A,201Bの電流値変更も完了すると、放射線の照射および線量測定が開始される(S105)。
【0076】
電流値の変更が完了すると、加速器・ビーム輸送系制御装置109は、ビームの出射を開始する。出射されたビーム103は、照射ノズル106を通過して標的体積210へ照射される。
【0077】
照射ビーム103の特性は、線量モニタ202および位置モニタ203によって計測され、照射制御装置110内で照射線量が積算される。照射線量が目標線量へ達すると、照射制御装置110は、全体制御装置108へ満了信号を送信する(S106)。満了信号を受信した全体制御装置108は、本日の最後の照射群での放射線照射が完了したか判定し(S107)、未実行の照射群がある場合(S107:NO)、加速器・ビーム輸送系制御装置109および照射制御装置110へ指示を発し(S108)、2番目の照射群への照射準備を指示する。
【0078】
放射線治療システム101は、照射制御装置110と加速器・ビーム輸送系制御装置109とを接続し、加速完了や照射満了の信号を照射制御装置110と加速器・ビーム輸送系制御装置109との間で直接送受信させるシステムでもよい。
【0079】
以上の手順を処方箋に記録された全照射群に対して繰り返し(S107:YES)、一日の治療は終了となる(S109)。同様の手順を最終治療日まで実施することで(S109:YES)、本実施例における粒子線治療は終了となる。放射線治療システム101による治療手順は以上である。
【0080】
なお、治療中は照射強度の大きな変化が無く、モニタ設定の切替えありと判定されるのが第1照射群のみであることが自明な場合、患者の入室前や治療台への固定中など、第1照射群の照射準備開始前に、モニタ設定の切替えおよび正常判定を実行してもよい。
【0081】
このように構成される本実施例の放射線治療システム101では、モニタ信号処理系206の一部を切替え可能にし、治療計画で指定された照射強度に基づいてモニタ設定を切替える。これにより、本実施例では、ビームの強度が大きく変化しても、線量の監視と制御精度とを高く保つことができる。モニタ信号処理系206は一系統であり、回路の一部のみが切替え可能な機構に変更される。従って、複数の信号処理系を設け、異なるモニタ設定値で同時に計測する場合と比較すると、全体コストが抑制される。
【0082】
さらに、本実施例では、モニタ設定の切替え後に、テスト電流を実測することによって、切替えが正常であるか異常であるか判定し、モニタの切替設定が正常であると判定されてから照射が開始される。したがって、本実施例によれば、モニタ設定切替えの誤作動を回避することができる。モニタ設定の切替えおよび正常判定は、ビームの加速や偏向電磁石の電流変更などの他の照射準備と並行して実施されるため、異常判定がなされない限りは治療フローに影響を与えることは無く、治療時間は延長されない。
【0083】
この結果、本実施例の放射線治療システムでは、従来線量率による治療、あるいはFLASH向けの高い線量率による治療のいずれの治療でも、低コストかつ高精度でビームを監視することができる。
【実施例0084】
図7を用いて、実施例2について説明する。本実施例を含む以下の各実施例では、実施例1との相違を中心に説明する。
【0085】
実施例2における放射線治療システム101の全体構成は実施例1と同様であるが、線量モニタあるいは位置モニタおよび対応するモニタ信号処理系の構成、さらには治療フローの一部に差異が生じる得る。本実施例では、実施例1で述べたテスト電流の印加に代えて、ビームを試験照射することによって、モニタ切替設定が正常であるか異常であるか判定する。
【0086】
切替えを実行するモニタ設定として、本実施例では、電離箱型線量モニタの印加電圧を例にあげる。図7は、ビームを試験照射することによる、モニタ切替設定の判定を実行する回路図を示す。
【0087】
図3では省略したが、電離箱型線量モニタでは、集電極と高圧電極との間に電圧を印加するための高圧電源501が接続されている。印加する電圧の大きさによって、ガス増幅度、すなわち同一のビーム強度に対する収集電流の大きさは変化する。従って、モニタ設定制御装置209が、ビームの照射強度に応じて高圧電源501の印加電圧を切替えることで、電流電圧変換回路502および電圧周波数変換器503の変換係数が可変でなくとも、照射強度に依らず同程度の線量モニタ出力を得ることができる。
【0088】
しかしながら、本実施例は、実施例1と異なり、線量モニタ202本体の設定が切替えられる。このため、図6の構成を用いて線量モニタ信号処理系206へテスト電流を印加しても、モニタ設定の状態を実測することはできない。そこで本実施例では、モニタ設定の切替え後に、試験的なビーム照射を行い、線量モニタ202での計測結果を予測値と比較することで、モニタ設定が正常に切り替えられたか判定する。
【0089】
なお、切替えられるモニタ設定は、線量モニタ202の印加電圧に限らず、例えば電離箱の電極間隔であってもよいし、位置モニタの印加電圧でもよいし、電極間隔であってもよい。
【0090】
以下、本実施例の放射線治療フローを説明する。治療フローの概要は実施例1と同様に図4で示される。ただし、本実施例では、モニタ設定切替えありと判定されてモニタ設定が切替えられた後、ステップS111にてモニタ設定判定が開始されるまでに、ビーム加速および偏向電磁石の電流変更は完了しておく必要がある。
【0091】
モニタ設定判定が開始されると(S111)、全体制御装置108は、試験照射として微小時間だけビームを照射するために、加速器・ビーム輸送系制御装置109および照射制御装置110に指示を送る。
【0092】
微小時間は、ビーム群の照射強度によって可変であり、予め全体制御装置108に記憶されている。微小時間の照射中は、線量モニタ202で計測する。線量モニタ202の出力を、切替え時に指定したモニタ設定と照射した微小時間と照射強度ろから予測される値と比較し、差分が閾値以下であれば、モニタ設定が正常と判定する。差分が閾値より大きければモニタ設定は異常と判定する。
【0093】
なお、閾値は、線量モニタ出力に対する差分の相対値で規定してもよいし、差分の絶対値で規定してもよい。また、比較する線量モニタ出力は、電流電圧変換回路502の直後での電圧値であってもよいし、電圧周波数変換器503の直後のパルス信号数であってもよい。さらには、上記の電圧値を一定期間で積分した値であってもよい。
【0094】
患者が治療台107に存在しない状態でのみモニタ設定切替えが実行される場合は、上記の試験照射によって、患者が追加で被ばくすることは無い。一方で、治療中のモニタ設定切替えなど、患者が治療台107に存在する状態でモニタ設定切替えが発生すると、試験照射のために患者が被ばくすることとなる。試験照射を実行する微小時間内の被ばく量が十分小さい場合は、試験照射後に治療計画通りの照射を実行すればよい。試験照射による被ばく量が無視できない場合は、試験照射直後の治療用照射の目標線量から試験照射による線量を差っ引いてもよい。モニタ設定判定(S105)以降の治療フローは、実施例1と同様のため省略する。
【0095】
このように構成される本実施例も、実施例1と同様の作用効果を奏する。さらに、本実施例では、モニタ設定判定として試験照射を行うため、患者が治療台に存在する場合は、照射量に応じて治療時の目標線量を修正するなど、追加の処理が必要となる。
【0096】
さらに、ビーム加速や偏向電磁石の電流変更を待ってから試験照射を行うため、本実施例を適用しない場合と比較すると治療時間が僅かに長くなる。一方で、本実施例では、実際にビームを照射してモニタ系の応答を計測するため、実施例1では正常判定が不可能であったモニタ本体の設定切替えの妥当性を検証できる。
【実施例0097】
図8を用いて、実施例3を説明する。実施例1および実施例2では、スキャニング法を用いた放射線治療システムを例に挙げて説明した。本実施例では、パッシブ法を用いる放射線治療システムやX線治療システムを例に挙げて説明する。
【0098】
放射線治療システム101Aの全体構成の大部分は図1と同様であるが、X線治療システムの場合は、加速器系104として電子線線形加速器が用いられ、さらに、ビーム輸送系105の最下流には電子線をX線に変換するためのターゲットが設置される(いずれも図示せず)。
【0099】
照射ノズル106Aの構成要素はスキャニング法と異なる。図8にパッシブ法における照射ノズル106Aの構成の一例を示す。
【0100】
散乱体601は、ビームサイズの拡大とビームの分布の平坦化のために設置される。線量モニタ602および線量モニタ信号処理系603は、実施例1あるいは実施例2と同様の構成を有し、通過したビームの強度を計測する働きを持つ。モニタ設定制御装置604は、線量モニタ602あるいは線量モニタ信号処理系603の、モニタ設定を切替える指令を与える。
【0101】
マルチリーフコリメータ605は、金属の薄板がビームに垂直な方向に多数積層された遮蔽体であり、各薄板が独立に駆動することで任意のコリメータ形状を形成できる装置である。コリメータ制御装置606は、照射制御装置110の指示に従ってマルチリーフコリメータ605の形状を制御する。
【0102】
リッジフィルタ607およびボーラス607は、放射線治療システム101Aの場合に設置され、深さ方向の線量分布が標的体積210と合致するように、ームの特性を変化させる。以上の構成要素によって、次元的に標的体積210と合致した線量分布が形成される。
【0103】
治療計画装置111が作成する処方箋が含む情報はスキャニング法と異なり、照射方向毎のマルチリーフコリメータ605のジオメトリ、およびビームの照射量と照射強度が指定される。
【0104】
放射線治療システム101Aの構成および各装置の詳細の説明は、以上である。本実施例における同システムの動作手順は、実施例1あるいは実施例2で示した手順と概ね同様である。ただし、偏向電磁石は存在しないため、ステップS103の照射準備では、マルチリーフコリメータ605の形状が変更される。位置モニタは存在しないため、モニタ設定切替えが適用されるのは線量モニタのみである。

このように構成される本実施例も実施例1と同様の作用効果を奏する。本実施例では、パッシブ法を用いる放射線治療システム101Aにも適用できる。
【実施例0105】
図9を用いて、実施例4を説明する。本実施例では、モニタ設定の切替の実績を記憶し、ユーザに情報を提供する。
【0106】
図9は、放射線治療システム101による治療処理のフローチャートである。本実施例では、モニタ設定の切替が正常であるか否か判定されると(S111)、その切替の履歴が全体制御部108のメモリへ保存される(S114)。そして、放射線治療が終了すると(S109:YES)、全体制御部108は、切替履歴に基づいてレポート700を作成し、ユーザへ提供する(S115)。レポート700には、治療計画に対応するモニタ設定の切替の履歴が含まれる。医師などの放射線治療システム101を操作するユーザは、そのレポート700を参考にして、他の治療計画の作成に活かすことができる。
【0107】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる 。上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0108】
また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0109】
上記の実施例では線量モニタおよび線量モニタ信号処理系のモニタ設定切替えを示したが、スキャニング法を用いた放射線治療システムにおける位置モニタも線量モニタと類似の原理や信号処理方法が用いられていることが多い。従って、実施例1および実施例2は位置モニタの設定切替えおよび正常判定方法にも適用可能である。
【0110】
また、放射線治療システムには正線量モニタおよび副線量モニタの2台が設置されていることが多いが、上記の実施例を一方のモニタのみに適用してもよいし、両方のモニタに適用してもよい。
【0111】
図4の各ステップのうち少なくともステップS104またはステップS111のいずれか一方は、機械学習にて実現することもできる。
【0112】
本開示には、以下の構成がいわゆる当業者であれば実施可能な程度に記載されていることは明らかである。
【0113】
(構成1)異なる強度の放射線を照射対象へ照射する放射線照射システムであって、放射線を検出して放射線情報を取得する放射線モニタ部と、前記放射線情報が検出される際のパラメータの値を、放射線の強度に応じて変更するモニタ制御部と、前記モニタ制御部による前記パラメータの値の変更が正しいかを判定する判定部と、を備える放射線照射システム。
【0114】
(構成2)前記判定部は、前記放射線を前記照射対象へ照射する前に、前記パラメータの値の変更が正しいかを判定する構成1に記載の放射線照射システム。
【0115】
(構成3)前記判定部は、前記パラメータの値の変更が正しくないと判定すると、警告情報を出力する構成1または2のいずれかに記載の放射線照射システム。
【0116】
(構成4)前記モニタ制御部は、前記照射対象へ放射線を照射する治療計画情報に基づき、前記パラメータの値を放射線の強度に応じて変更する構成1~3のいずれか一つに記載の放射線照射システム。
【0117】
(構成5)前記パラメータは、前記放射線モニタ部が放射線の強度を検出する信号処理回路に関するパラメータである構成1~4のいずれか一つに記載の放射線照射システム。
【0118】
(構成6)前記パラメータは、前記信号処理回路に含まれる、前記放射線モニタ部で検出されたモニタ電流値を電圧値へ変換するフィードバック抵抗の抵抗値である構成1~5のいずれか一つに記載の放射線照射システム。
【0119】
(構成7)前記フィードバック抵抗へ検査用の電流を供給する電流源をさらに備え、前記判定部は、前記検査用の電流を供給されたときの前記フィードバック抵抗の抵抗値に基づいて、前記モニタ制御部による前記パラメータの値の変更が正しいかを、放射線を前記照射対象へ照射する前に判定する構成1~6のいずれか一つに記載の放射線照射システム。
【0120】
(構成8)前記放射線モニタ部は、放射線を検出して電流信号を出力するセンサ部と、前記センサ部からの電流信号を処理して前記放射線情報として出力する信号処理回路とを備え、前記パラメータは、前記センサ部の感度を変更するパラメータである構成1~7のいずれか一つに記載の放射線照射システム。
【0121】
(構成9)前記センサ部は電離箱であり、前記電離箱に含まれる電極間に印加される電圧の値を前記パラメータとして変更させることにより、前記センサ部の感度を変更する構成1~8のいずれか一つに記載の放射線照射システム。
【0122】
(構成10)前記判定部は、前記センサ部の感度を変更するパラメータが変更された後で、前記照射対象の存在しない空間へ放射線を試射させ、前記モニタ部制御部による前記パラメータの変更が正しいかを判定する構成1~8のいずれか一つに記載の放射線照射システム。
【0123】
(構成11)前記判定部は、前記センサ部の感度を変更するパラメータが変更された後で、前記照射対象へ放射線を試射させ、前記試射された放射線の線量を前記治療計画に記載された目標線量から差し引かせる構成1~4のいずれか一つに記載の放射線照射システム。
【0124】
(構成12)構成1~11のいずれか一項に記載の放射線照射システムと、前記放射線照射システムへ異なる強度の放射線を供給する加速器およびビーム輸送系と、前記加速器およびビーム輸送系から供給された放射線を前記照射対象へ照射する照射装置と、を備える放射線治療システム。
【0125】
(構成13)
放射線照射システムにより、異なる強度の放射線を照射対象へ照射する放射線照射方法であって、前記放射線治療システムは、放射線を検出して放射線情報を取得する放射線モニタ部を備え、前記放射線情報が検出される際のパラメータの値を、放射線の強度に応じて変更し、前記パラメータの値の変更が正しいかを判定する放射線照射方法。
【符号の説明】
【0126】
101:放射線治療システム、102:照射対象、103:ビーム、104:加速器系、105:ビーム輸送系、106:照射ノズル、107:治療台、108:全体制御装置、109:加速器・ビーム輸送系制御装置、110:照射制御装置、111:治療計画装置、202:線量モニタ、203:位置モニタ、204:リッジフィルタ、205:レンジシフタ、206:線量モニタ制御装置、207:位置モニタ制御装置、208:走査電磁石制御装置、 209:モニタ設定制御装置、301:電流電圧変換回路、302:電圧周波数変換器、303:スイッチ、401:電流源、402:電圧計、501:高圧電源、502:電流電圧変換回路、503:電圧周波数変換器、601:散乱体、602:線量モニタ、603:線量モニタ信号処理系、604:モニタ設定制御装置、605:マルチリーフコリメータ、606:コリメータ制御装置、607:リッジフィルタ、608:ボーラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9