(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174713
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】スケール、エンコーダ、およびスケールの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20241210BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20241210BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20241210BHJP
C03C 17/38 20060101ALI20241210BHJP
B23K 26/361 20140101ALI20241210BHJP
G01D 5/20 20060101ALN20241210BHJP
【FI】
G01D5/245 110R
C03C19/00 A
C03C15/00 E
C03C17/38
B23K26/361
G01D5/20 110F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092693
(22)【出願日】2023-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100134511
【弁理士】
【氏名又は名称】八田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 耕作
【テーマコード(参考)】
2F077
4E168
4G059
【Fターム(参考)】
2F077AA42
2F077NN05
2F077NN08
2F077NN11
2F077PP06
2F077PP09
2F077QQ01
2F077TT06
4E168AD03
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA40
4E168DA46
4E168DA47
4E168JA03
4E168JA04
4E168JA27
4G059AA01
4G059AB09
4G059AC01
4G059AC04
4G059AC11
4G059BB04
4G059BB13
4G059BB14
4G059DA01
4G059DA02
4G059DA04
4G059DA05
4G059FA12
4G059FA15
4G059FA21
4G059GA01
4G059GA04
4G059GA15
(57)【要約】
【課題】ガラス基板の下面に設けられた膜や素子等の形成物に損傷が生じ難くすること。
【解決手段】スケール100は、磨りガラス状の上面11を有するガラス基板10と、ガラス基板10の上面11に所定の間隔で配列された複数の導体パターン20と、ガラス基板10の下面12に設けられた導体膜30(形成物)とを備える。スケール100の製造方法は、ガラス基板10の上面11を磨りガラス状に粗化する工程と、ガラス基板10の下面12に導体膜30を形成する工程と、ガラス基板10の上面11を磨りガラス状に粗化しかつ導体膜30を形成した後、ガラス基板10の上面11にレーザ加工によって所定の間隔で配列された複数の導体パターン20を形成する工程とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磨りガラス状の上面を有するガラス基板と、
前記ガラス基板の前記上面上に所定の間隔で配列された複数の導体パターンと、
前記ガラス基板の下面上に設けられた形成物と、を備えることを特徴とするスケール。
【請求項2】
前記ガラス基板の前記上面は、前記複数の導体パターンが設けられた第1領域と、前記複数の導体パターンの間に位置する第2領域と、を有し、
前記第2領域のうち少なくとも前記第1領域に隣接する部分は、前記第1領域に対して凹んでいて、
前記第2領域は、前記第1領域との境界において前記複数の導体パターンよりも深く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスケール。
【請求項3】
前記第2領域のうち少なくとも前記第1領域に隣接する部分の底面は、前記第1領域より表面粗さが大きいことを特徴とする請求項2に記載のスケール。
【請求項4】
前記ガラス基板の前記下面は磨りガラス状であることを特徴とする請求項1または2に記載のスケール。
【請求項5】
前記ガラス基板の前記下面と前記形成物との間に設けられた樹脂膜を備え、
前記形成物は導体膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のスケール。
【請求項6】
請求項1または2に記載のスケールを備えることを特徴とするエンコーダ。
【請求項7】
ガラス基板の上面を磨りガラス状に粗化する工程と、
前記ガラス基板の下面上に形成物を形成する工程と、
前記ガラス基板の前記上面を磨りガラス状に粗化しかつ前記形成物を形成した後、前記ガラス基板の前記上面上にレーザ加工によって所定の間隔で配列された複数の導体パターンを形成する工程と、を備えることを特徴とするスケールの製造方法。
【請求項8】
前記ガラス基板の前記上面を磨りガラス状に粗化した後、前記ガラス基板の前記上面上に導体膜を形成する工程を備え、
前記複数の導体パターンを形成する工程は、前記レーザ加工によって前記導体膜をパターニングすることで前記複数の導体パターンを形成することを特徴とする請求項7に記載のスケールの製造方法。
【請求項9】
前記ガラス基板の前記上面を磨りガラス状に粗化した後、前記ガラス基板の前記上面上に複数の仮の導体パターンを形成する工程を備え、
前記複数の導体パターンを形成する工程は、前記レーザ加工によって前記複数の仮の導体パターンのエッジ部分を加工することで前記複数の導体パターンを形成することを特徴とする請求項7に記載のスケールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケール、エンコーダ、およびスケールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンコーダ等に用いられるスケールとして、ガラス基板上に鏡面の凹部と粗面の凸部とを繰り返し有する樹脂層が設けられ、凸部上に酸化シリコン層、アルミニウム層、酸化シリコン層が順に設けられたスケールが知られている(例えば特許文献1)。また、フッ酸に硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムを単独または複合して溶解し、必要に応じて硫酸、塩酸、硝酸を単独または複合して添加した溶液を用いてガラス面を処理することで、ガラス面に微細な凹凸が形成されることが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-201906号公報
【特許文献2】特開平7-237934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス基板の上面にレーザ加工を用いてスケール用の導体パターンを形成することで、導体パターンを形成する際の加工時間の短縮および/または導体パターンの加工再現性を良好にすることができる。ガラス基板の上面に導体パターンを形成する場合、ガラス基板に反りが発生することを抑制する理由や、電磁誘導式エンコーダスケールの場合では、エンコーダ装置の取付面下部の部材の不均質さに伴うノイズを抑制するための電磁シールドとして、ガラス基板の下面に導体膜を設けることがある。また、ガラス基板の下面に基準点や回路を構成する素子を有するスケールを形成する場合もある。この場合に、レーザ加工を用いてガラス基板の上面に導体パターンを形成するときに、ガラス基板の下面に設けられた膜や素子等の形成物が加工中に貫通したレーザの影響を受けて損傷し、スケール下面に不良が発生することがある。
【0005】
1つの側面では、本発明は、ガラス基板の下面に設けられた膜や素子等の形成物に損傷が生じ難くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、本発明に係るスケールは、磨りガラス状の上面を有するガラス基板と、前記ガラス基板の前記上面上に所定の間隔で配列された複数の導体パターンと、前記ガラス基板の下面上に設けられた形成物と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記スケールにおいて、前記ガラス基板の前記上面は、前記複数の導体パターンが設けられた第1領域と、前記複数の導体パターンの間に位置する第2領域と、を有し、前記第2領域のうち少なくとも前記第1領域に隣接する部分は、前記第1領域に対して凹んでいて、前記第2領域は、前記第1領域との境界において前記複数の導体パターンよりも深く形成されていてもよい。
【0008】
上記スケールにおいて、前記第2領域のうち少なくとも前記第1領域に隣接する部分の底面は、前記第1領域より表面粗さが大きくてもよい。
【0009】
上記スケールにおいて、前記ガラス基板の前記下面は磨りガラス状であってもよい。
【0010】
上記スケールにおいて、前記ガラス基板の前記下面と前記形成物との間に設けられた樹脂膜を備え、前記形成物は導体膜であってもよい。
【0011】
1つの態様では、本発明に係るエンコーダは、上記に記載のスケールを備えることを特徴とする。
【0012】
1つの態様では、本発明に係るスケールの製造方法は、ガラス基板の上面を磨りガラス状に粗化する工程と、前記ガラス基板の下面上に形成物を形成する工程と、前記ガラス基板の前記上面を磨りガラス状に粗化しかつ前記形成物を形成した後、前記ガラス基板の前記上面上にレーザ加工によって所定の間隔で配列された複数の導体パターンを形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上記スケールの製造方法において、前記ガラス基板の前記上面を磨りガラス状に粗化した後、前記ガラス基板の前記上面上に導体膜を形成する工程を備え、前記複数の導体パターンを形成する工程は、前記レーザ加工によって前記導体膜をパターニングすることで前記複数の導体パターンを形成してもよい。
【0014】
上記スケールの製造方法において、前記ガラス基板の前記上面を磨りガラス状に粗化した後、前記ガラス基板の前記上面上に複数の仮の導体パターンを形成する工程を備え、前記複数の導体パターンを形成する工程は、前記レーザ加工によって前記複数の仮の導体パターンのエッジ部分を加工することで前記複数の導体パターンを形成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
ガラス基板の下面に設けられた膜や素子等の形成物に損傷を生じ難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(a)は、第1実施形態に係るスケールを備えた電磁誘導式エンコーダの構成を例示する図、
図1(b)は、検出される正弦波信号を例示する図、
図1(c)は、送信コイルおよび受信コイルを例示する図である。
【
図2】
図2(a)は、第1実施形態に係るスケールを例示する平面図、
図2(b)は、
図2(a)のA-A線断面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(d)は、第1実施形態に係るスケールの製造方法を例示する断面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、比較例1に係るスケールの製造方法を例示する断面図である。
【
図5】
図5(a)は、第2実施形態に係るスケールを例示する平面図、
図5(b)は、
図5(a)のA-A線断面図である。
【
図6】
図6(a)は、第3実施形態に係るスケールを例示する平面図、
図6(b)は、
図6(a)のA-A線断面図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(d)は、第3実施形態に係るスケールの製造方法を例示する断面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、比較例2に係るスケールの製造方法を例示する断面図である。
【
図9】
図9(a)は、第4実施形態に係るスケールを例示する平面図、
図9(b)は、
図9(a)のA-A線断面図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(d)は、第4実施形態に係るスケールの製造方法を例示する断面図である。
【
図11】
図11(a)から
図11(d)は、サンプルA~Dにおけるガラス基板の上面の光学顕微鏡による画像の例である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、サンプルA~Dのガラス基板を用いて作製したデバイスの断面図である。
【
図13】
図13(a)から
図13(d)は、サンプルA~Dのガラス基板を用いて作製したデバイスAの上面および下面の光学顕微鏡による画像の例である。
【
図14】
図14(a)および
図14(b)は、サンプルA、Dのガラス基板を用いて作製したデバイスBの上面および下面の光学顕微鏡による画像の例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1(a)は、第1実施形態に係るスケール100を備えた電磁誘導式エンコーダ1000の構成を例示する図である。
図1(a)で例示するように、電磁誘導式エンコーダ1000は、スケール100と測定軸方向に相対移動する検出ヘッド40とを有する。スケール100と検出ヘッド40は、それぞれ略平板形状を有し、所定の隙間を介して対向配置されている。また、電磁誘導式エンコーダ1000は、送信信号生成部50および変位量測定部60等を備えている。
図1(a)において、X軸は検出ヘッド40の変位方向(測定軸)を表している。スケール100が構成する平面において、X軸と直交する方向をY軸とする。スケール100を構成する平面に対して垂直な方向をZ軸とする。
【0019】
検出ヘッド40には、送信コイル42および受信コイル44等が設けられている。送信コイル42は、X軸方向に長さ方向を有する矩形コイルを構成している。受信コイル44は、送信コイル42の内側に配置されている。
【0020】
スケール100は、ガラス基板10の上面11上に導体からなる複数の導体パターン20が設けられている。複数の導体パターン20は、X軸方向に沿って、基本周期λで配列されている。基本周期λは、X軸方向において、2つの隣接する導体パターン20の中心同士の間隔に相当する。導体パターン20は、例えば孔が無い板状のパターンまたは閉じられた閉ループコイルである。導体パターン20は、送信コイル42と電磁結合するとともに、受信コイル44と電磁結合する。
【0021】
送信信号生成部50は、単相交流の送信信号を生成し、送信コイル42に供給する。この場合、送信コイル42に磁束が発生する。それにより、複数の導体パターン20に起電流が発生する。複数の導体パターン20は、送信コイル42が発生する磁束と電磁結合することで、X軸方向に所定の空間周期で変化する磁束を発生する。導体パターン20が発生する磁束は、受信コイル44に起電流を生じさせる。検出ヘッド40の変位量に応じて、導体パターン20と受信コイル44との間の電磁結合が変化する。それにより、
図1(b)で例示するように、基本周期λと同じ周期の正弦波信号が得られる。したがって、受信コイル44は、複数の導体パターン20が発生する磁束の位相を検出する。
【0022】
変位量測定部60は、この正弦波信号を電気的に内挿することによって最小分解能のデジタル量として用いることができ、検出ヘッド40の変位量を測定する。なお、
図1(b)において、横軸は検出ヘッド40の変位量を表し、縦軸は受信コイル44の出力電圧を表す。
【0023】
互いに電磁結合する送信コイル42、受信コイル44、および導体パターン20が1つのトラックを構成する。したがって、本実施形態においては、電磁誘導式エンコーダ1000は1つのトラックを備えている。なお、電磁誘導式エンコーダ1000は、2つのトラックがY軸方向に所定の間隔を開けて配列されている場合でもよい。この場合、2つのトラック間で基本周期λが異なっていてもよい。これにより、アブソリュート(ABS)式エンコーダとして機能させることができる。
【0024】
図1(c)は、検出ヘッド40に備わる送信コイル42および受信コイル44を例示する図である。
図1(c)で例示するように、受信コイル44は矩形コイルを構成する送信コイル42の内側に配置されている。受信コイル44は、例えば円形コイルであるが、その他の構成をしている場合でもよい。
【0025】
図2(a)は、第1実施形態に係るスケール100を例示する平面図、
図2(b)は、
図2(a)のA-A線断面図である。
図2(a)および
図2(b)で例示するように、スケール100は、ガラス基板10の上面11上に複数の導体パターン20が設けられ、下面12上に例えば導体膜30が設けられている。複数の導体パターン20は、X軸方向に沿って所定の間隔で配列されている。複数の導体パターン20は、+Z方向から見た平面視において、Y軸方向が長手方向のほぼ矩形形状をしている。
【0026】
ガラス基板10は、例えば石英ガラス、ソーダライムガラス(ソーダ石灰ガラス)、または無アルカリガラスにより形成されるが、その他の場合でもよい。石英ガラスは、ほぼ二酸化ケイ素(SiO2)からなり不純物が非常に少ないガラスである。ソーダライムガラスは、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とし、さらに酸化ナトリウム(Na2O)と酸化カルシウム(CaO)を含むガラスである。無アルカリガラスは、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とし、ナトリウムおよびカリウム等のアルカリ成分を含まないガラスである。ガラス基板10の厚さは、例えば0.5mm~5.0mm程度である。
【0027】
導体パターン20は、例えば銅、銀、金、またはアルミニウム等の導体により形成されている。導体パターン20の厚さは、例えば5μm~30μm程度である。導体パターン20の幅は、例えば500μm~3000μm程度である。導体パターン20の間隔も、例えば500μm~3000μm程度である。
【0028】
導体膜30は、例えば銅、銀、金、またはアルミニウム等の導体により形成されている。導体膜30は、例えば導体パターン20と同じ材料により形成されている。導体膜30の厚さは、例えば5μm~30μmである。導体膜30の厚さは、例えば、導体パターン20の厚さと同程度であり、導体パターン20の厚さの0.8倍以上1.2倍以下であり、0.9倍以上1.1倍以下でもよい。
【0029】
ガラス基板10の上面11は、磨りガラス状となって不透明であり、微細な凹凸が形成されている。上面11は、導体パターン20が設けられた第1領域13と、隣接する導体パターン20の間に位置する第2領域14と、を有する。上面11の算術平均粗さは、第1領域13および第2領域14共に0.20μm以上である。したがって、上面11は第1領域13と第2領域14との両方で不透明な状態となっている。上面11は、第2領域14では第1領域13に比べて表面粗さが同じ程度か、あるいは、加工による損傷によって大きくなっている。また、第2領域14は加工による損傷によって着色していてもよい。ガラス基板10の下面12は、ほぼ平滑面となっている。下面12の算術平均粗さRaは例えば0.01μm以下である。
【0030】
ガラス基板10の上面11が磨りガラス状となっていることで、上面11に入射する光の透過性が悪くなっている。例えば、導体パターン20および導体膜30が設けられていない状態において、上面11の第1領域13に赤色光(波長:630nm~670nm)を垂直に直接入射させた場合に、赤色光が上面11から下面12に透過する透過率は90%以下であり、87%以下でもよく、85%以下でもよい。上面11の第2領域14に赤色光を垂直に直接入射させた場合でも、赤色光が上面11から下面12に透過する透過率は90%以下であり、87%以下でもよく、85%以下でもよい。透過率は、上面11に入射する光の強度に対する下面12から放射される光の強度の割合である。
【0031】
ガラス基板10の上面11は、第2領域14が第1領域13に対して-Z方向に凹んだ形状をしている。第2領域14は、第1領域13との境界において導体パターン20よりも深く形成されている。すなわち、第1領域13との境界における第2領域14の底部は、導体パターン20よりもガラス基板10の下面12の近くに位置している。
【0032】
[製造方法]
図3(a)から
図3(d)は、第1実施形態に係るスケール100の製造方法を例示する断面図である。
図3(a)で例示するように、まず、ガラス基板10を準備する。この段階では、ガラス基板10の上面11と下面12はともに平滑面であり、算術平均粗さRaは例えば0.01μm以下である。
【0033】
図3(b)で例示するように、ガラス基板10の上面11を粗化する処理を行って微細な凹凸を有する磨りガラス状にする。例えば、ブラスト処理またはフッ酸等による化学処理によって上面11を粗化して磨りガラス状にする。上面11を磨りガラス状にすることで、上面11に入射する光は上面11において乱反射する。このため、上面11に入射する光が上面11から下面12に透過する透過率が低下する。例えば上面11の算術平均粗さRaが0.20μm以上となるように粗化して磨りガラス状にする。
【0034】
図3(c)で例示するように、ガラス基板10の上面11上に導体膜22を形成し、下面12上に導体膜30を形成する。導体膜22および導体膜30は、例えば無電解めっき法を用いて形成する。なお、導体膜22および導体膜30は、下地導電層を形成した後、下地導電層上に電解めっき法を用いて導電膜を形成することで形成してもよい。導体膜22と導体膜30は同時に形成(成膜)することが好ましい。この場合、導体膜22と導体膜30は、同じ材料により形成され、ほぼ同じ厚さを有する。
【0035】
図3(d)で例示するように、レーザ光70を用いたレーザ加工によって導体膜22をパターニングして複数の導体パターン20を形成する。レーザ加工は、例えば赤外線(例えば波長が1032nm)、緑色(例えば波長が532nm)、または紫外線(例えば波長が355nm)のレーザ光70を用いたパルスレーザ加工により行う。パルスレーザ加工は、例えばパルス幅がフェムト秒~ピコ秒オーダーで0.1~10J/cm
2のエネルギー密度のパルスレーザが用いられる。短パルスレーザを10kHz~5MHzといった高速で直線的に繰り返し照射することで、導体パターン20の側面を60°~80°前後のフラットなテーパ面にすることができる。
【0036】
ガラス基板10の上面11が粗化されて磨りガラス状になっていることで、レーザ光70は上面11にて乱反射され、エネルギーが上面11で吸収される。このため、導体膜22をレーザ光70によってエッチングして導体パターン20を形成する場合に、ガラス基板10の上面11のうち隣接する導体パターン20の間に位置する第2領域14は、レーザ光70によってエッチングされて、エッチング深さが上面11に到達した際に、表面粗さが大きい状態を維持する。このため、レーザ光70は上面11にて乱反射され続けるようになり、レーザ光70が上面11から下面12に透過して下面12に設けられた導体膜30に損傷を与えることが抑制される。
【0037】
また、第2領域14における上面11は、レーザ光70が照射されることで不透明から黒色に着色するような加工条件が選ばれることもある。加工条件として、レーザ強度、パルス周波数、スポット径、スポット間隔、焦点深度、加工軌道、および照射タイミングといった諸条件の組み合わせが挙げられる。ガラス基板10の上面11が磨りガラス状になっていない場合、導体膜22のエッチングによってガラス基板10の平滑な上面11が露わになった状態でレーザ光70が照射されるため、レーザ光70がガラス基板10を貫通する場合がある。しかしながら、予めガラス基板10の上面11を粗化して磨りガラス状にしておくことで、レーザ光70によるエッチング中にガラス基板10の上面11が露わになった場合でも上面11は磨りガラス状であるため、レーザ光70がガラス基板10を貫通することが抑制される。
【0038】
また、ガラス基板10の上面11は、レーザ光70が照射されてエッチングされることによって、第2領域14が第1領域13より凹んだ形状となる。すなわち、上面11は、第2領域14が第1領域13に対して凹んだ凹部となる。この凹部の内側面は着色や凹凸を含む荒れた面であり、レーザ光70を全反射するようなテーパ形状となっていてもよい。例えば凹部の底面と内側面の角度は30°以下であってもよい。凹部の底面や導体パターン20を含むテーパ面にはレーザ光70と同じ波長からなる周期的なナノサイズの凹凸模様(Laser-induced periodical surface structure: LIPSS)が形成されていてもよい。この凹凸模様は意図せずして形成されたものでありスケールの一部として用いることはない。また、凹凸模様はナノサイズであるため、スケール100を用いた測長への影響は抑えられる。
【0039】
[比較例1]
図4(a)から
図4(c)は、比較例1に係るスケール500の製造方法を例示する断面図である。
図4(a)で例示するように、ガラス基板10を準備する。ガラス基板10の上面11と下面12はともに平滑面となっている。
図4(b)で例示するように、ガラス基板10の上面11を粗化して磨りガラス状にする処理を行わずに、ガラス基板10の上面11上に導体膜22を形成し、下面12上に導体膜30を形成する。
【0040】
図4(c)で例示するように、レーザ光70を用いたレーザ加工によって導体膜22をパターニングして複数の導体パターン20を形成する。ガラス基板10の上面11が粗化されずに平滑面であるため、レーザ光70は上面11で乱反射され難い。このため、レーザ光70は上面11から下面12に透過し易くなる。例えば透過率は第2領域14の一部で90%より大きくなる場合がある。ガラス基板10の上面11から下面12に透過したレーザ光70によって下面12に設けられた導体膜30に焦げ72等の損傷が生じることがある。焦げ72が導体膜30の下面から突出して形成された場合、その後の導体膜22のパターニングにおいてガラス基板10の姿勢が変化してしまい、レーザ光70のフォーカスがずれてパターニングが正常に行えなくなる場合がある。また、スケール500をエンコーダ装置の平坦な載置面に接着剤等を用いて載置したときに、スケール500が傾いてしまってスケールとして用いることができなくなる場合がある。更に、スケール500がエンコーダ装置の載置面から剥がれ易くもなる場合もある。
【0041】
これに対し、第1実施形態では、
図3(b)のように、ガラス基板10の上面11を磨りガラス状に粗化している。このため、
図3(d)のように、ガラス基板10の上面11にレーザ光70を用いたレーザ加工によって複数の導体パターン20を形成した場合でも、レーザ光70が上面11にて乱反射されるため、レーザ光70が下面12に形成された導体膜30に及ぼす影響を抑制できる。よって、導体膜30に損傷が生じることを抑制できる。
【0042】
このように、第1実施形態によれば、ガラス基板10は、磨りガラス状の上面11を有する。これにより、上述したように、レーザ加工によって導体パターン20を形成した場合でも、ガラス基板10の下面12に設けられた導体膜30(形成物)に損傷が生じ難くなる。また、磨りガラス状の上面11に導体パターン20が設けられているため、上面11と導体パターン20の接合面積が大きくなり、導体パターン20の接合強度が向上する。
【0043】
また、第1実施形態では、
図3(d)のように、ガラス基板10の上面11に形成された導体膜22を、レーザ光70を用いたレーザ加工によってパターニングして導体パターン20を形成している。このため、ガラス基板10の上面11もレーザ光70によってエッチングされる。これにより、ガラス基板10の上面11のうち第2領域14は、第1領域13に対して凹み、第1領域13との境界において導体パターン20より深く形成される。これにより、導体パターン20を形成した後に導体パターン20の下端に裾残りが生じることが抑制される。よって、導体パターン20を流れる電流に乱れが生じることが抑制される。導体パターン20を流れる電流の乱れを抑制する観点から、第2領域14の第1領域13との境界における底部と導体パターン20との間の距離L(
図2(b)参照)は1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい、一方、加工時間を短くする観点からは、距離Lは10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、6μm以下が更に好ましい。また、ガラス基板10の上面11がレーザ光70によってエッチングされるため、第2領域14は第1領域13より表面粗さが大きくなることがある。
【0044】
また、第1実施形態では、ガラス基板10の上面11に導体膜22を形成し、下面12に導体膜30を形成した後、レーザ加工を用いて導体膜22をパターニングして複数の導体パターン20を形成している。導体膜22と導体膜30の両方が形成されていることでガラス基板10の反りが抑制されるため、レーザ加工を用いた導体膜22のパターニングを良好に行うことができる。また、例えば、上面11にのみ導体膜22を形成し、導体膜22をパターニングして複数の導体パターン20を形成した後、下面12に導体膜30を形成する場合、製造工数の増加等が生じてしまう。これに対して、導体膜22と導体膜30を同時に形成した後、導体膜22をパターニングして複数の導体パターン20を形成することで、製造工数の増加等を抑制できる。
【0045】
(第2実施形態)
図5(a)は、第2実施形態に係るスケール200を例示する平面図、
図5(b)は、
図5(a)のA-A線断面図である。
図5(a)および
図5(b)で例示するように、スケール200では、ガラス基板10の下面12は、磨りガラス状となって不透明であり、微細な凹凸が形成されている。例えば、下面12は、第1領域13における上面11と同程度の表面粗さとなっている。第1領域13における上面11の算術平均粗さRaおよび下面12の算術平均粗さRaは例えば0.20μm以上であり、0.25μm以上でもよいし、0.30μm以上でもよい。下面12の算術平均粗さRaは、第1領域13における上面11の算術平均粗さRaの例えば0.9倍~1.1倍であり、例えば0.95倍~1.05倍である。その他の構成は第1実施形態のスケール100と同じであるため説明を省略する。
【0046】
[製造方法]
第2実施形態に係るスケール200は、第1実施形態の
図3(b)において、ガラス基板10の上面11と下面12の両方に対して粗化処理を行い、上面11および下面12の両方を磨りガラス状にする。下面12の粗化処理は、上面11の粗化処理と同じ方法によって行う。製造工数の削減のため、上面11と下面12を同時に(1つの処理工程で)粗化することが好ましい。これにより、上面11と下面12は同程度の表面粗さとなる。その後、第1実施形態の
図3(c)および
図3(d)と同じ工程を行う。
【0047】
第2実施形態においても、第1実施形態と同じく、ガラス基板10は、磨りガラス状の上面11を有する。このため、ガラス基板10の上面11にレーザ光70を用いたレーザ加工によって導体パターン20を形成した場合でも、ガラス基板10の下面12に設けられた導体膜30に損傷が生じ難くなる。
【0048】
また、第2実施形態では、ガラス基板10の下面12も磨りガラス状となっている。これにより、レーザ光70は下面12においても乱反射し易くなるため、下面12に設けられた導体膜30に損傷が生じ難くなる。また、下面12の表面粗さが大きいことで、下面12と導体膜30の接合面積が大きくなるため、導体膜30の接合強度が向上する。
【0049】
(第3実施形態)
図6(a)は、第3実施形態に係るスケール300を例示する平面図、
図6(b)は、
図6(a)のA-A線断面図である。
図6(a)および
図6(b)で例示するように、スケール300は、第2実施形態と同じく、ガラス基板10の下面12も磨りガラス状となっている。ガラス基板10の上面11と導体パターン20との間に樹脂膜80が設けられ、下面12と導体膜30との間に樹脂膜82が設けられている。樹脂膜80は例えばガラス基板10と導体パターン20とを接着させる接着層として機能し、樹脂膜82はガラス基板10と導体膜30とを接着させる接着層として機能してもよい。樹脂膜80、82は、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等により形成される。その他の構成は第1実施形態のスケール100と同じであるため説明を省略する。
【0050】
[製造方法]
図7(a)から
図7(d)は、第3実施形態に係るスケール300の製造方法を例示する断面図である。
図7(a)で例示するように、まず、ガラス基板10を準備する。この段階では、ガラス基板10の上面11と下面12はともに平滑面となっている。
【0051】
図7(b)で例示するように、第2実施形態と同じく、ガラス基板10の上面11と下面12の両方に対して粗化処理を行い、上面11および下面12の両方を磨りガラス状にする。
【0052】
図7(c)で例示するように、ガラス基板10の上面11に樹脂膜80を接着層として用いて金属箔を貼り付けて、上面11に導体膜22を形成する。同様に、ガラス基板10の下面12に樹脂膜82を接着層として用いて金属箔を貼り付けて、下面12に導体膜30を形成する。金属箔は、ラミネート法により貼り付けてもよいし、プレス加工法により貼り付けてもよい。樹脂膜80は、樹脂を塗布したり、シート状の樹脂膜を貼り付けたりすることで、ガラス基板10の上面11に形成してもよい。また、樹脂膜80が塗布された金属箔をガラス基板10の上面11に貼り付けてもよい。樹脂膜82についても同様である。
【0053】
図7(d)で例示するように、レーザ光70を用いたレーザ加工によって導体膜22および樹脂膜80をパターニングして複数の導体パターン20を形成する。レーザ加工は第1実施形態に示した方法により行う。ガラス基板10の上面11が磨りガラス状となっているため、第1実施形態と同様、下面12に設けられた樹脂膜82および導体膜30に損傷を及ぼすことが抑制される。
【0054】
[比較例2]
図8(a)から
図8(c)は、比較例2に係るスケール600の製造方法を例示する断面図である。
図8(a)で例示するように、ガラス基板10を準備する。ガラス基板10の上面11と下面12はともに平滑面となっている。
【0055】
図8(b)で例示するように、ガラス基板10の上面11に樹脂膜80を接着層として用いて金属箔を貼り付けて、上面11上に導体膜22を形成する。ガラス基板10の下面12に樹脂膜82を接着層として用いて金属箔を貼り付けて、下面12上に導体膜30を形成する。
【0056】
図8(c)で例示するように、レーザ光70を用いたレーザ加工によって導体膜22および樹脂膜80をパターニングして複数の導体パターン20を形成する。ガラス基板10の上面11が粗化されずに磨りガラス状になっていないため、比較例1と同様に、ガラス基板10の上面11から下面12に透過したレーザ光70によって、下面12に設けられた樹脂膜82および導体膜30に焦げ72が生じることがある。また、樹脂膜82に膨れ74が生じることもある。この場合、比較例1と同様、導体膜22および樹脂膜80のパターニングが正常に行えなくなったり、スケール600がエンコーダ装置に傾いて載置されてスケールとして用いることができなくなったりする場合がある。
【0057】
これに対し、第3実施形態では、ガラス基板10は、磨りガラス状の上面11を有する。このため、第1実施形態と同じく、ガラス基板10の上面11にレーザ光70を用いたレーザ加工によって導体パターン20を形成した場合でも、レーザ光70が下面12に形成された樹脂膜82および導体膜30に及ぼす影響を抑制でき、樹脂膜82および導体膜30に損傷を生じ難くすることができる。
【0058】
また、第3実施形態では、ガラス基板10の下面12と導体膜30(形成物)との間に樹脂膜82が設けられている。この場合、比較例2で説明したように、ガラス基板10の上面11が磨りガラス状でない場合、レーザ光70によって樹脂膜82に膨れ74が生じてスケールとして用いることができなくなる場合がある。したがって、樹脂膜82が設けられている場合では、ガラス基板10の上面11を磨りガラス状にして、レーザ光70が樹脂膜82に及ぼす影響を抑制することが好ましい。
【0059】
(第4実施形態)
図9(a)は、第4実施形態に係るスケール400を例示する平面図、
図9(b)は、
図9(a)のA-A線断面図である。
図9(a)および
図9(b)で例示するように、スケール400は、第2実施形態と同じく、ガラス基板10の下面12も磨りガラス状となっている。第1実施形態から第3実施形態では、ガラス基板10の上面11において、第2領域14全体が第1領域13に対して同程度に凹んでいたが、第4実施形態では、第2領域14のうち第1領域13に隣接する隣接部分15がX軸方向において中央に位置する中央部分16に比べて更に深く凹んでいる。例えば、隣接部分15が中央部分16に対して5μm以上凹んでいてもよいし、10μm以上凹んでいてもよい。隣接部分15は、V字型の断面を持つ溝となっていてもよい。中央部分16は、第1領域13に対して少し凹んでいてもよいし、第1領域13に対して凹んでなくて第1領域13と同程度の高さになっていてもよい。また、隣接部分15は、第1領域13より表面粗さが大きくなっていてもよい。中央部分16の表面粗さは、第1領域13の表面粗さと同程度の場合でもよいし、大きい場合でもよい。隣接部分15と中央部分16は、第1実施形態と同様、黒色に着色していてもよい。その他の構成は第1実施形態のスケール100と同じであるため説明を省略する。
【0060】
[製造方法]
図10(a)から
図10(d)は、第4実施形態に係るスケール400の製造方法を例示する断面図である。まず、
図10(a)および
図10(b)で例示するように、第3実施形態の
図7(a)および
図7(b)で例示した工程と同じ工程を行う。
【0061】
図10(c)で例示するように、ガラス基板10の上面11にスクリーン印刷等を用いて導電性ペーストを塗布することで、上面11に複数の仮の導体パターン24を形成する。ガラス基板10の下面12に導電性ペーストを塗布することで、下面12に導体膜30を形成する。上面11が粗化されて磨りガラス状となっていることで、導電性ペーストのスキージ送り方向への伸びおよび/またはカスレといった欠陥が抑制される。
【0062】
導電性ペーストの塗布によって仮の導体パターン24を形成すると仮の導体パターン24の側面が角度の緩いテーパ形状になる場合がある。このため、
図10(d)で例示するように、仮の導体パターン24のエッジ部分を、レーザ光70を用いてレーザ加工し、角度の急な側面を有する導体パターン20を形成する。レーザ光70が照射されたガラス基板10の上面11はエッチングされることから、第2領域14のうち第1領域13に隣接する隣接部分15は、第1領域13に対して凹む。また、隣接部分15は、第1領域13より表面粗さが大きくなることや、V字型の断面を持つ溝となることもある。第2領域14のうちX軸方向において中央に位置する中央部分16は、レーザ光70が短時間だけ照射されて第1領域13に対して少し凹むこともあるし、レーザ光70がほとんど照射されずに第1領域13に対して凹まずに第1領域13と同程度の高さのままになることもある。レーザ光70が短時間だけ照射される場合、中央部分16の表面粗さは第1領域13の表面粗さより大きくなることがあり、レーザ光70がほとんど照射されない場合、中央部分16の表面粗さは第1領域13の表面粗さと同程度のままである。
【0063】
第4実施形態においても、第1実施形態と同じく、ガラス基板10は、磨りガラス状の上面11を有する。このため、仮の導体パターン24のエッジ部分にレーザ光70を照射して仮の導体パターン24のエッジ部分を加工することで導体パターン20を形成する場合でも、レーザ光70が下面12に形成された導体膜30に及ぼす影響を抑制でき、導体膜30に損傷が生じ難くすることができる。
【0064】
また、第4実施形態では、仮の導体パターン24のエッジ部分をレーザ加工することで導体パターン20を形成している。このため、ガラス基板10の上面11において、第2領域14は、第1領域13に隣接する隣接部分15が第1領域13に対して凹み、第1領域13との境界において導体パターン20より深く形成されている。これにより、導体パターン20の側面において下端部分が裾を引くようにテーパ状に残ることを抑制でき、導体パターン20を流れる電流に乱れが生じることを抑制できる。
【0065】
(実験例)
図11(a)から
図11(d)は、サンプルA~Dにおけるガラス基板10の上面11の光学顕微鏡による画像の例である。
図11(a)に例示するサンプルAは、ガラス基板10の上面11および下面12に対して粗化処理を行ってなく、上面11および下面12は平滑面となっている。ガラス基板10はソーダライムガラスにより形成されている(サンプルB~Dのガラス基板10においても同じ)。上面11および下面12の算術平均粗さRaおよび最大高さRzは0.00±0.00μmであった。また、赤色光をガラス基板10の上面11に垂直に入射した場合において、赤色光が上面11から下面12に透過する透過率は93%であった。
【0066】
図11(b)に例示するサンプルBは、ガラス基板10の上面11および下面12に対して粗化処理を行って、上面11および下面12を磨りガラス状にした。上面11および下面12の算術平均粗さRaは0.05±0.02μm、最大高さRzは0.48±0.17μmであった。また、赤色光をガラス基板10の上面11に垂直に入射した場合において、赤色光が上面11から下面12に透過する透過率は88%であった。
【0067】
図11(c)に例示するサンプルCは、ガラス基板10の上面11および下面12に対して粗化処理を行って、上面11および下面12を磨りガラス状にした。上面11および下面12の算術平均粗さRaは0.30±0.14μm、最大高さRzは1.43±0.36μmであった。また、赤色光をガラス基板10の上面11に垂直に入射した場合において、赤色光が上面11から下面12に透過する透過率は87%であった。
【0068】
図11(d)に例示するサンプルDは、ガラス基板10の上面11および下面12に対して粗化処理を行って、上面11および下面12を磨りガラス状にした。上面11および下面12の算術平均粗さRaは0.72±0.08μm、最大高さRzは2.10±0.47μmであった。また、赤色光をガラス基板10の上面11に垂直に入射した場合において、赤色光が上面11から下面12に透過する透過率は86%であった。
【0069】
サンプルA~Dのガラス基板10を用いて、
図12(a)および
図12(b)に示すデバイスA、Bを作製した。
図12(a)に例示するデバイスAは、ガラス基板10の上面11に樹脂膜80を介して導体膜22が形成されている。ガラス基板10の下面12に樹脂膜82を介して導体膜30が形成されている。ガラス基板10の上面11に、導体膜22および樹脂膜80を貫通し、ガラス基板10の一部まで掘り込んだ凹部76が形成されている。凹部76は緑色のレーザ光を用いたレーザ加工により形成した。レーザ加工は、パルス幅が約20psで、パワーが約10Wのパルスレーザ加工を用いた。導体膜22、30は銅により形成されている。ガラス基板10の厚さは1.1mm、樹脂膜80、82の厚さは20μm、導体膜22、30の厚さは12μmである。凹部76の幅は250μm、深さは35μmである。
【0070】
図12(b)に例示するデバイスBは、ガラス基板10の上面11に導体膜22が形成されている。ガラス基板10の下面12に導体パターン32が形成されている。ガラス基板10の上面11に、導体膜22を貫通し、ガラス基板10の一部まで掘り込んだ凹部78が形成されている。凹部78は緑色のレーザ光を用いたレーザ加工により形成した。レーザ加工は、パルス幅が約20psで、パワーが約10Wのパルスレーザ加工を用いた。導体膜22および導体パターン32は銀により形成されている。ガラス基板10の厚さは1.1mm、導体膜22および導体パターン32の厚さは12μmである。凹部78の幅は250μm、深さは50μmである。
【0071】
図13(a)から
図13(d)は、サンプルA~Dのガラス基板10を用いて作製したデバイスAの上面および下面の光学顕微鏡による画像の例である。
図13(a)から
図13(d)に例示するように、サンプルA、BではデバイスAの下面において導体膜30に損傷が生じているが、サンプルC、Dは導体膜30の損傷が抑制されていることが確認された。
【0072】
図14(a)および
図14(b)は、サンプルA、Dのガラス基板10を用いて作製したデバイスBの上面および下面の光学顕微鏡による画像の例である。
図14(a)および
図14(b)に例示するように、サンプルAではデバイスAの下面において導体パターン32に損傷が生じているが、サンプルDは導体パターン32の損傷が抑制されていることが確認された。
【0073】
図13(a)から
図14(b)のように、例示したレーザ加工条件では、赤色光がガラス基板10の上面11から下面12に透過する透過率を87%以下にすることで、レーザ加工を用いて導体膜22を加工した場合に、下面12に設けられた導体膜30または導体パターン32に損傷が生じることを抑制できることが確認された。また、上面11と下面12を粗化処理によって磨りガラス状にする場合、上面11および下面12の算術平均粗さRaを0.16μm以上とすることで、赤色光が上面11から下面12に透過する透過率を87%以下にできることが確認された。このとき、上面11および下面12の最大高さRzは1.07μm以上であることが確認された。なお、レーザ光の波長や、パワー、パルス密度といったパラメータにおいて異なるレーザ加工条件とすることで、ガラス基板10の透過率や粗化の度合いを更に大きくしないと導体膜30等に損傷を与える場合もあるし、反対に小さくても導体膜30等に損傷を与えない場合もある。
【0074】
なお、上記実施形態では、ガラス基板10の下面12に設けられた形成物としてべた膜状の導体膜30が設けられている場合を例に示したが、この場合に限られない。下面12に設けられた形成物は、導体膜以外のべた膜の場合でもよいし、パターン化された膜の場合でもよいし、センサ素子等の回路を構成する素子の場合でもよい。
【0075】
なお、上記実施形態では、電磁誘導式エンコーダ1000の場合を例に示したが、光電式エンコーダ等のその他の場合でもよい。また、リニアエンコーダに用いられるスケールの場合を例に示したが、ロータリーエンコーダに用いられるスケールの場合でもよいし、円弧エンコーダ等のその他のエンコーダまたはセンサに用いられるスケールの場合でもよい。
【0076】
なお、
図1(a)では、電磁誘導式エンコーダ1000は第1実施形態のスケール100を備える場合を例に示したが、第2実施形態から第4実施形態のスケールを備える場合でもよい。
【0077】
以上、本願発明の実施形態について詳述したが、本願発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本願発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
10 ガラス基板
11 上面
12 下面
13 第1領域
14 第2領域
15 隣接部分
16 中央部分
20 導体パターン
22 導体膜
24 仮の導体パターン
30 導体膜(形成物)
32 導体パターン
40 検出ヘッド
42 送信コイル
44 受信コイル
50 送信信号生成部
60 変位量測定部
70 レーザ光
76、78 凹部
80 樹脂膜
82 樹脂膜
100、200、300、400、500、600 スケール
1000 電磁誘導式エンコーダ