(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024174794
(43)【公開日】2024-12-17
(54)【発明の名称】魚類飼料用組成物
(51)【国際特許分類】
A23K 10/37 20160101AFI20241210BHJP
A23K 50/80 20160101ALI20241210BHJP
A01K 61/10 20170101ALI20241210BHJP
【FI】
A23K10/37
A23K50/80
A01K61/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191744
(22)【出願日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2023092718
(32)【優先日】2023-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】深田 陽久
(72)【発明者】
【氏名】泉水 彩花
(72)【発明者】
【氏名】西村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】萩野 武史
【テーマコード(参考)】
2B005
2B104
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005KA04
2B005LB07
2B104AA02
2B104BA00
2B104EC01
2B150AA08
2B150AB01
2B150AE02
2B150AE49
2B150BC04
2B150BD01
2B150BD06
2B150BE01
2B150BE04
2B150CA40
2B150CE30
2B150DD45
2B150DD57
(57)【要約】
【課題】回遊魚の低水温時における飼料効率の改善剤、当該剤を含有する魚類飼料用組成物、及び当該剤を利用する回遊魚の養殖方法の提供。
【解決手段】焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を有効成分とする、回遊魚の低水温時における飼料効率の改善剤、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有し、低水温時に回遊魚に摂取させるための魚類飼料用組成物、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量が、組成物全体に対して固形分比で0.5質量%以上である、前記魚類飼料用組成物、及び、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有する魚類飼料用組成物を、低水温時に、回遊魚に摂取させる、回遊魚の養殖方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を有効成分とする、回遊魚の低水温時における飼料効率の改善剤。
【請求項2】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有し、低水温時に回遊魚に摂取させるための魚類飼料用組成物。
【請求項3】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量が、組成物全体に対して固形分比で0.5質量%以上である、請求項2に記載の魚類飼料用組成物。
【請求項4】
前記回遊魚が、ブリ属、マグロ属、サケ属、又はサバ属の魚である、請求項2又は3に記載の魚類飼料用組成物。
【請求項5】
前記回遊魚が、ブリ、ヒラマサ、又はカンパチである、請求項2又は3に記載の魚類飼料用組成物。
【請求項6】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有する魚類飼料用組成物を、低水温時に、回遊魚に摂取させる、回遊魚の養殖方法。
【請求項7】
前記魚類飼料用組成物の前記焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量が、組成物全体に対して固形分比で0.5質量%以上である、請求項6に記載の回遊魚の養殖方法。
【請求項8】
前記魚類飼料用組成物の前記焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量が、組成物全体に対して固形分比で2.0質量%以下である、請求項6に記載の回遊魚の養殖方法。
【請求項9】
前記回遊魚が、ブリ属、マグロ属、サケ属、又はサバ属の魚である、請求項6又は7に記載の回遊魚の養殖方法。
【請求項10】
前記回遊魚が、ブリ、ヒラマサ、又はカンパチである、請求項6又は7に記載の回遊魚の養殖方法。
【請求項11】
前記魚類飼料用組成物を、水温が適水温よりも3℃以上低い時に、回遊魚に摂取させる、請求項6又は7に記載の回遊魚の養殖方法。
【請求項12】
前記魚類飼料用組成物を、水温が20.3℃以下の時に、回遊魚に摂取させる、請求項6又は7に記載の回遊魚の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回遊魚の低水温時における飼料効率の改善に資する魚類飼育用組成物、及び当該組成物を魚類に摂取させて養殖する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖魚の飼料としては、生餌や魚粉を主成分とした配合飼料が使用されている。当該配合飼料には、魚の健康状態の改善や養殖環境の改善等を目的として様々な成分が配合される。例えば、不足する栄養成分を補うため、ビタミン剤やミネラル等が配合される場合がある。また、病気の予防や治療のために、抗生物質や抗菌剤等が配合される場合がある。
【0003】
近年の漁獲量の減少及び水質資源保護のため、原料の生餌や魚粉の使用量をより抑え、魚粉に代替する原料素材の配合が行われている。魚粉等の代替として配合される食品素材としては、例えば、大豆油粕、小麦粉、コーングルテンミール等が挙げられる。
【0004】
一方で、コーヒー飲料は古くから広く親しまれている嗜好性飲料であり、大量に工業生産されている。このため、SDGsの観点より、毎年多量に生産される焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を再利用する方法について、様々な方法が提案されている。例えば、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓自体を、魚粉の代替として使用する方法が開示されている(特許文献1)。また、ヒラメの養殖においては、生育や飼料効率に悪影響を及ぼすことなく、コーヒー豆の熱水抽出物を10%程度配合した飼料用組成物が使用できることが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
また、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓には、カフェインをはじめとする様々な生理活性が含まれており、これらの生理活性を利用するために、魚類飼料用組成物に焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を少量添加することも行われている。例えば、養殖魚に寄生する寄生虫を軽減させるために、魚類飼料用組成物に焙煎コーヒー豆の熱水抽出物を配合する方法が開示されている(特許文献2)。コイの養殖において、魚類飼料用組成物に焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を少量配合することにより、飼料効率には影響しないものの、コイの免疫を改善し、亜鉛毒性と魚体内の生物蓄積の影響を軽減できることも報告されている(非特許文献2)。また、ティラピアを、焙煎コーヒー豆の熱水抽出物を配合した魚類飼料用組成物で養殖することにより、ティラピアの成長促進や飼料効率の改善に加えて、免疫機能の改善もなし得ることが報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-039260号公報
【特許文献2】特許第5010809号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rahimnejad et al., Fisheries and Aquatic Sciences, 2015, vol.18(3), p.257-264.
【非特許文献2】Abdel-Tawwab et al., Aquaculture, 2015, vol.448, p.207-213.
【非特許文献3】Doan et al., Fish and Shellfish Immunology, 2022, vol.120, p.67-74.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献2によれば、適水温で養殖されたコイに焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を摂取させても飼料効率には影響しないことが報告されているが、非特許文献3によれば、適水温におけるティラピアの養殖では、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓により飼料効率が改善されることが報告されている。すなわち、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を摂取させた場合の効果は、魚類の種類によって様々である。
また、特許文献1~2及び非特許文献1~3には、焙煎コーヒー豆の熱水抽出物や熱水抽出滓を魚類飼料用組成物に配合することは記載されているものの、回遊魚に対して熱水抽出滓を摂取させた場合の影響についての記載はない。
【0009】
本発明は、回遊魚の低水温時における飼料効率の改善剤、当該剤を含有する魚類飼料用組成物、及び当該剤を利用する回遊魚の養殖方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を回遊魚の飼料用組成物に少量配合することにより、低水温時における飼料効率を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
[1] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を有効成分とする、回遊魚の低水温時における飼料効率の改善剤。
[2] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有し、低水温時に回遊魚に摂取させるための魚類飼料用組成物。
[3] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量が、組成物全体に対して固形分比で0.5質量%以上である、前記[2]の魚類飼料用組成物。
[4] 前記回遊魚が、ブリ属、マグロ属、サケ属、又はサバ属の魚である、前記[2]又は[3]の魚類飼料用組成物。
[5] 前記回遊魚が、ブリ、ヒラマサ、又はカンパチである、前記[2]又は[3]の魚類飼料用組成物。
[6] 焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有する魚類飼料用組成物を、低水温時に、回遊魚に摂取させる、回遊魚の養殖方法。
[7] 前記魚類飼料用組成物の前記焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量が、組成物全体に対して固形分比で0.5質量%以上である、前記[6]の回遊魚の養殖方法。
[8] 前記魚類飼料用組成物の前記焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量が、組成物全体に対して固形分比で2.0質量%以下である、前記[6]又は[7]の回遊魚の養殖方法。
[9] 前記回遊魚が、ブリ属、マグロ属、サケ属、又はサバ属の魚である、前記[6]~[8]のいずれかの回遊魚の養殖方法。
[10] 前記回遊魚が、ブリ、ヒラマサ、又はカンパチである、前記[6]~[8]のいずれかの回遊魚の養殖方法。
[11] 前記魚類飼料用組成物を、水温が適水温よりも3℃以上低い時に、回遊魚に摂取させる、前記[6]~[10]のいずれかの回遊魚の養殖方法。
[12] 前記魚類飼料用組成物を、水温が20.3℃以下の時に、回遊魚に摂取させる、
前記[6]~[11]のいずれかの回遊魚の養殖方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る飼料効率の改善剤及びこれを用いた魚類飼料用組成物は、低水温時における回遊魚の飼料効率を改善することができる。このため、本発明により、必要な飼料量を抑え、経済的かつ効率よく回遊魚を養殖することができる。
さらに、当該飼料効率の改善剤は焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を有効成分とするものであり、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の再利用によりSDGsの点からも有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明及び本願明細書において、「コーヒー熱水抽出滓」とは、焙煎コーヒー豆を熱水抽出した残渣を意味し、「コーヒー粕」、「コーヒーグラウンズ」等と称されることもある。言い換えると、焙煎コーヒー豆から水溶性固形分の少なくとも一部が除去された残りである。コーヒー熱水抽出滓には、焙煎コーヒー豆の水溶性固形分が含まれていてもよい。
【0014】
本発明及び本願明細書において、「回遊魚」とは、成長段階や環境の変化に応じて、広い海域で移動する魚、又は海と川を移動する魚を意味する。
【0015】
本発明及び本願明細書において、「低水温」とは、魚の生育する水温が、当該魚の適水温よりも3℃以上低い温度であることを意味する。魚の「適水温」とは、当該魚が最大成長となる水温を意味する。また、「魚の生育する水温」とは、魚が生育する環境水の1日の最高水温を意味する。
【0016】
本発明及び本願明細書において、魚類の「飼料効率」とは、魚類の飼料摂取量に対する、体重増加量の割合を意味する。具体的には、下記式で求められる。なお、「食餌量」は、摂取させた餌の乾燥重量(g)を意味する。
【0017】
[飼料効率(%)]=([測定終了時の体重(g)]-[測定開始時の体重(g)])/[測定期間中に摂取した食餌量(g)]×100(%)
【0018】
本発明に係る飼料効率の改善剤は、低水温時における飼料効率を改善させるために回遊魚に摂取させるものであり、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を有効成分とする。養殖効率の点からは、より少量の飼料で速やかに出荷可能な大きさにまで成育させることが重要であり、飼料効率の改善は重要な課題である。一方で、魚類は水温の影響を受けやすく、適水温よりも低い水温環境下では、代謝が低下し、食餌摂取量も低下して、飼料効率は低下する。これに対して、適量の焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を魚類飼料用組成物に含有させることにより、回遊魚の低水温における飼料効率を向上させることができる。すなわち、本発明に係る回遊魚の養殖方法は、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有する魚類飼料用組成物を、低水温時に、回遊魚に摂取させる方法である。
【0019】
焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓により、回遊魚の低水温時における飼料効率が改善される理由は明らかではないが、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓には回遊魚の代謝を活性化させる成分が含まれており、当該成分による代謝促進効果に寄るのではないかと推察される。一方で、回遊魚に対して適水温時に焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を摂取させると、かえって飼料効率は低下する。これは、適水温時には、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓による代謝促進によって過剰に産生されたエネルギーは、運動にその多くを使用されてしまい、体重増加には至らないためと推察される。
【0020】
本発明で用いられる焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓は、焙煎コーヒー豆又はその粉砕物に加熱した水を接触させて水溶性固形分を抽出した後に得られる残渣である。水溶性固形分の抽出方法は、一般的にコーヒーを淹れる際に用いられる方法や、インスタントコーヒーを製造する際に、焙煎コーヒー豆の粉砕物から可溶性固形分を抽出する際に用いられる方法により行うことができる。具体的には、ドリップ式、エスプレッソ式、サイフォン式、パーコレーター式、コーヒープレス(フレンチプレス)式、カラム式等のいずれを用いて行ってもよい。抽出は常圧式であってもよく、加圧式であってもよい。また、コーヒー熱水抽出滓は、熱水抽出を一回のみ行った後の残渣であってもよく、複数回熱水抽出を繰り返した後の残渣であってもよい。焙煎コーヒー豆からの熱水抽出の温度や圧力条件は、特に限定されるものではない。例えば、常圧(大気圧)下、100℃以下で抽出して得られたコーヒー熱水抽出滓でもよく、高温高圧条件、例えば、加圧下、100℃超250℃以下で抽出して得られたコーヒー熱水抽出滓でもよい。
【0021】
本発明で用いられる熱水抽出滓を得るための焙煎コーヒー豆は、コーヒー豆の種類や産地は特に限定されず、アラビカ種であってもよく、ロブスタ種であってもよく、2種以上の品種のコーヒー豆をブレンドしたものであってもよい。また、焙煎方法も特に限定されるものではなく、一般的にコーヒー豆の焙煎に使用されるいずれの方法で行ったものであってもよい。コーヒー豆の焙煎方法としては、例えば、直火焙煎法、熱風焙煎法、遠赤外線焙煎法、炭火式焙煎法、マイクロ波焙煎リベリカ種等が挙げられる。
【0022】
本発明で用いられる熱水抽出滓を得るための焙煎コーヒー豆の焙煎度は、特に限定されるものではなく、極浅煎りであってもよく、浅煎りであってもよく、中煎りであってもよく、深煎りであってもよい。また、焙煎コーヒー豆の粉砕度は特に限定されるものではなく、粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状の焙煎コーヒー豆を用いることができる。
【0023】
本発明で用いられる焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓は、粉砕されていることが好ましい。粉砕は、ロールミル等の一般的な粉砕機を用いて行うことができる。
【0024】
本発明で用いられる焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓は、液性成分を除去することにより濃縮することができ、液性成分を完全に除去することにより固形状としてもよい。液性成分の除去は、エバポレーターを用いた減圧蒸留法等の一般的に水や溶媒を除去する際に用いられる方法を適宜利用することができる。保存安定性が良好であり、また、魚類飼料用組成物への添加量の調整も容易であることから、魚類飼料用組成物に含有される焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓は、粉末状や顆粒状のような固形であることが好ましい。
【0025】
本発明に係る魚類飼料用組成物は、低水温時に回遊魚に摂取させるための飼料組成物であって、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有する。本発明に係る魚類飼料用組成物における焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量は、当該熱水抽出滓による回遊魚の低水温時における飼料効率改善効果が奏されるために十分な量であれば、特に限定されるものではない。例えば、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量は、魚類飼料用組成物の組成物全体に対して、固形分比で0.4質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量が多すぎると、かえって飼料効率が低下するおそれがある。そこで、本発明に係る魚類飼料用組成物の焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓の含有量は、5質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
本発明に係る魚類飼料用組成物は、回遊魚の養殖に一般的に使用されている魚類飼料に、適量の焙煎コーヒー豆の熱水抽出滓を含有させることにより調製できる。当該魚類飼料としては、生餌、魚粉等の動物性タンパク質;小麦粉、各種澱粉等の穀粉類;小麦グルテン、コーングルテンミール、大豆粕、菜種粕等の植物性タンパク質;大豆油粕、菜種油粕等の脂質原料;酵母類、海藻粉末、ビタミン類、ミネラル、アミノ酸、各種添加剤等を原料として常法により製造されたものを用いることができる。当該添加剤としては、魚類飼料用組成物に一般的に配合される物質であれば、特に限定されるものではなく、例えば、賦形剤、結合剤、展着剤、流動性改良剤(固結防止剤)、安定剤、保存剤、pH調整剤、溶解補助剤、希釈化剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤等が挙げられ、また、抗生物質や抗菌剤、免疫賦活化剤等であってもよい。これらの添加剤は、常法により製造されたものを用いることができる。
【0027】
本発明に係る魚類飼料用組成物の形状は、特に限定されるものではない。例えば、モイストペレットやドライペレット、エクストルーダーペレット等の形態に調製することができる。これらの形態の製造は、常法により行うことができる。
【0028】
本発明に係る魚類飼料用組成物を摂取させて低水温時の飼料効率を改善させる回遊魚としては、例えば、ブリ(Seriola quinqueradiata Temminck & Schlegel)、ヒラマサ(Seriola lalandi Valenciennes)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana Valenciennes)、及びミナミカンパチ(Seriola hippos Guenther)等のブリ属(Seriola)の魚;クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、及びビンナガマグロ(Thunnus alalunga)等のマグロ(Thunnus)属の魚;サケ(Oncorhynchus keta)、ギンザケ(Oncorhynchus kisutch)、及びベニザケ(Oncorhynchus nerka)等のサケ(Oncorhynchus)属の魚;マサバ(Scomber japonicus)、ゴマサバ(Scomber australasicus)、太平洋サバ(Scomber scombrus)等のサバ属(Scomber)の魚等である。本発明において低水温時の飼料効率を改善させる回遊魚としては、ブリ属の魚が好ましく、広く養殖されており、飼料効率改善の要望が強い点から、ブリ、ヒラマサ、又はカンパチであることがより好ましい。本発明においては、特に、ブリ、ヒラマサ、又はカンパチの養殖を水温が20.3℃以下の時に行う場合に、本発明に係る魚類飼料用組成物を摂取させることで、飼料効率を改善させることができる。
【実施例0029】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0030】
<飼育成績の評価>
以降の実験において、養殖における飼育成績を評価する項目として、体重(g)、増重率(%)、飼料効率(%)、日間摂餌率(%)、及び生残率(%)を用いた。統計には、T検定を用い、危険率0.05又は0.1で判定を行った。なお、「総給餌量」、「摂餌量」は、いずれも乾燥重量である。
【0031】
[増重率(%)]=([実験終了時の総体重(g)]-[実験開始時の総体重(g)])/[実験開始時の総体重(g)]×100(%)
【0032】
[飼料効率(%)]=([実験終了時の総体重(g)]-[実験開始時の総体重(g)])/[総給餌量(g)]×100(%)
【0033】
[日間摂餌率(%/BW/day)]=100×[摂餌量(g)]/([実験開始時の総尾数]+[実験終了時の総尾数])/2×([実験終了時の平均体重(死魚を含む;g)]+[(実験開始時の平均体重(g)]/2×[給餌日数(日)]
【0034】
[生残率(%)]=[試験終了時尾数]/[試験開始時尾数]×100(%)
【0035】
[実施例1]
飼料用組成物にコーヒー熱水抽出滓を配合して、ブリの養殖における摂餌行動に対する影響を調べた。
【0036】
<コーヒー熱水抽出滓の調製>
焙煎コーヒー豆(アラビカ品種50質量%、ロブスタ品種50質量%)を粉砕した。得られた粉砕物を熱水で抽出し、コーヒー熱水抽出滓を得た。抽出は、ドリップコーヒーマシン(c-22 Premium Brewing System、BREW MATIC社製)を用いて、焙煎コーヒー豆の粉砕物60g当たり、出来上がり湯量1138gで行った。得られた抽出液は、Brix収率25.4質量%(平均値)であった。得られたコーヒー熱水抽出滓(熱水抽出後のコーヒー粉)を金属製のバットに広げて恒温器にて、乾燥後水分1質量%未満となるように乾燥させた。乾燥後のコーヒー熱水抽出滓は、餌作製時に再粉砕して粒度を調整した。
【0037】
<魚類飼料用組成物の調製>
市販のブリ用飼料(EP6号、日清丸紅飼料社製)に、展着剤としてカルボキシメチルセルロースを1質量%となるように、前記で得られたコーヒー熱水抽出滓を0.5質量%となるように、それぞれ混合して、熱水抽出滓含有飼料用組成物を調製した。対照飼料として、コーヒー熱水抽出滓を含有させていない以外は同様にして、熱水抽出滓非含有飼料用組成物を調製した。
【0038】
<低水温時における養殖>
1.1トン容FRP水槽6基に、平均体重142.0gのブリを8匹ずつ収容した。これらに、飼料として、熱水抽出滓含有飼料用組成物又は熱水抽出滓非含有飼料用組成物を1日1回、飽食になるまで与えた。飼育期間は9週間とし、3週間隔で計測を行った。この期間、水温は18.0℃から21.9℃に上昇した。表1に測定結果を示す。表中、「Control」が熱水抽出滓非含有飼料用組成物を摂取させた群の結果であり、「CG0.5」が熱水抽出滓含有飼料用組成物を摂取させた群の結果である。
【0039】
【0040】
試験期間を通して死魚はなく、生残率はすべての水槽で100%であった。また、対照群(熱水抽出滓非含有飼料用組成物を摂取させた群)と比較して、熱水抽出滓非含有飼料用組成物を摂取させた群では、平均体重、摂餌量、増重率、飼料効率が有意に向上した。この傾向は、6週後(水温20.3℃)まで継続した。9週後(21.9℃)にはすべての項目における有意差が消失した。
【0041】
[実施例2]
飼料用組成物にコーヒー熱水抽出滓を配合して、ブリの養殖の高温期又は低温期における摂餌行動に対する影響を調べた。
【0042】
表2の組成からなる5種の飼料用組成物(モイストペレット)を調製した。表中、「EP6号」は市販のブリ用飼料(EP6号、日清丸紅飼料社製)を表す。また、コーヒー熱水抽出滓は、実施例1で調製したものを用いた。具体的には、ブリ用EP飼料(日清丸紅飼料)1kgに、展着剤としてカルボキシメチルセルロースとコーヒー熱水抽出滓を、水50mLとともに混合した。
【0043】
【0044】
<高温期の養殖>
1.1トン容FRP水槽10基に、ブリ当年魚を5匹(252.8g)ずつ収容した。試験期間は、2022年11月18日~2022年12月8日までの3週間とした。この間、週6日、1日1回、試験魚が飽食になるまで餌を与えた。試験期間中の水温は、試験開始時点で23.2℃、試験終了時点で22.3℃であった。
【0045】
体重等の成績は、one-way ANOVAの後にTukey multiple range test にて試験区間の有意差を検定した(p<0.05)。評価結果を表3に示す。
【0046】
【0047】
表3に示すように、コーヒー熱水抽出滓0.5%添加区(CG0.5)では、対照の非添加区(Control)と比較して有意に成長の低下が見られた。コーヒー熱水抽出滓1%添加区(CG1.0)と2%添加区(CG2.0)でも、成長成績が低下する傾向が観察された。
【0048】
<低水温期の養殖>
1.1トン容FRP水槽10基に、ブリ当年魚を6匹(360.1g)ずつ収容した。試験期間は、2023年1月13日~2023年3月10日までの8週間とした。この間、週6日、1日1回、試験魚が飽食になるまで餌を与えた。試験期間中の水温は、試験開始時点で19.2℃、試験終了時点で16.8℃であった。
【0049】
8週経過時の成長等の成績は、one-way ANOVAの後にTukey multiple range test にて試験区間の有意差を検定した(p<0.05)。体重の変化は、two-way ANOVAの後にTukey multiple range testにて試験区間の有意差を検定した(p<0.05)。評価結果を表4に示す。
【0050】
【0051】
表4に示すように、コーヒー熱水抽出滓0.5%添加区(CG0.5)では、対照の非添加区(Control)と比較して有意に体重が増えて成長が見られ、飼料効率も有意に改善されていた。コーヒー熱水抽出滓1%添加区(CG1.0)と2%添加区(CG2.0)でも、飼料効率が向上する傾向が観察された。