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特開2024-1751窒化物半導体ウェーハ、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001751
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】窒化物半導体ウェーハ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20231227BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100615
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
(72)【発明者】
【氏名】久保埜 一平
【テーマコード(参考)】
5F102
5F152
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GJ03
5F102GK04
5F102GK08
5F102GL04
5F102GM04
5F102GQ01
5F102HC01
5F152LL05
5F152LM08
5F152LN05
5F152LN12
5F152LN14
5F152LN19
5F152MM18
5F152NN03
5F152NP09
5F152NQ09
(57)【要約】
【課題】、反りを抑制した窒化物半導体ウェーハを提供することを目的とする。
【解決手段】シリコン系基板と、該シリコン系基板上に積層された窒化物半導体からなるバッファ層と、該バッファ層上に積層された少なくともGaN層を含む機能層とを備えたものである窒化物半導体ウェーハであって、前記バッファ層にFeがドープされており、前記バッファ層における積層方向のFe濃度分布は、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から前記機能層に向かってFe濃度が減少するような濃度分布であり、前記Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度が2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下であり、かつ、前記バッファ層の前記機能層側の上面のFe濃度が4.0×1017atoms/cm以下であることを特徴とする窒化物半導体ウェーハ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン系基板と、該シリコン系基板上に積層された窒化物半導体からなるバッファ層と、該バッファ層上に積層された少なくともGaN層を含む機能層とを備えたものである窒化物半導体ウェーハであって、
前記バッファ層にFeがドープされており、前記バッファ層における積層方向のFe濃度分布は、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から前記機能層に向かってFe濃度が減少するような濃度分布であり、
前記Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度が2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下であり、かつ、前記バッファ層の前記機能層側の上面のFe濃度が4.0×1017atoms/cm以下であることを特徴とする窒化物半導体ウェーハ。
【請求項2】
前記シリコン系基板は、シリコン単結晶基板、又はSOI(シリコン・オン・インシュレーター)基板であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項3】
前記バッファ層は、AlGaN層と、GaN層とAlN層とが交互に積層された超格子層と、からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化物半導体ウェーハ。
【請求項4】
窒化物半導体ウェーハを製造する方法であって、
(1)シリコン系基板上に窒化物半導体からなるバッファ層を積層する工程、及び
(2)前記バッファ層上に少なくともGaN層を含む機能層を積層して窒化物半導体ウェーハを製造する工程
を含み、かつ、
前記工程(1)において、Feをドープするためのドーピングガスを流し、該ドーピングガスの流量を調整することによって、前記バッファ層における積層方向のFe濃度分布を、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から前記機能層に向かってFe濃度が減少するような濃度分布とし、
前記Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度を2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下とし、かつ、前記バッファ層の前記機能層側の上面のFe濃度を4.0×1017atoms/cm以下とすることを特徴とする窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)において、前記シリコン系基板を、シリコン単結晶基板、又はSOI(シリコン・オン・インシュレーター)基板とすることを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記工程(1)において、前記バッファ層を、AlGaN層と、GaN層とAlN層とが交互に積層された超格子層と、からなるものとすることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の窒化物半導体ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体ウェーハに関し、特に反りが抑制された窒化物半導体ウェーハに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶基板上に初期AlN層、バッファ層、及びGaN-HEMT構造エピタキシャル層をこの順で積層した窒化物半導体ウェーハは、パワーデバイス用、RFデバイス用エピタキシャル基板として用いられている。
【0003】
また、SOI基板上に窒化物半導体をエピタキシャル成長したウェーハも用いられるが、SOI基板上にエピタキシャル成長した場合、ウェーハの反りがシリコン単結晶基板に比べて大きくなる。反りを抑制するために、バッファ層を工夫し、且つ、in-situの反りデータを見ながら反りを低減する必要がある(特許文献1)。
【0004】
シリコン単結晶基板は比較的反りを小さくできるが、SOI基板上に窒化物半導体をエピタキシャル成長させる場合、反りの抑制が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6473017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、反りを抑制した窒化物半導体ウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、
シリコン系基板と、該シリコン系基板上に積層された窒化物半導体からなるバッファ層と、該バッファ層上に積層された少なくともGaN層を含む機能層とを備えたものである窒化物半導体ウェーハであって、
前記バッファ層にFeがドープされており、前記バッファ層における積層方向のFe濃度分布は、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から前記機能層に向かってFe濃度が減少するような濃度分布であり、
前記Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度が2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下であり、かつ、前記バッファ層の前記機能層側の上面のFe濃度が4.0×1017atoms/cm以下である窒化物半導体ウェーハを提供する。
【0008】
このような濃度分布でFeがドープされていることで、窒化物半導体ウェーハの構造を変えることなく反りを抑制することができる。バッファ層内のFeの最も高い濃度が2.5×1018atoms/cm以上であれば反りを顕著に抑制することができる。また、6.0×1018atoms/cm以下とすることでバッファ層上面のFe濃度が4.0×1017atoms/cm以下とすることが可能となる。バッファ層上面のFe濃度が4.0×1017atoms/cm以下であれば、Feのメモリー効果によりデバイス表面のFe濃度が高くなってしまいデバイスの特性を悪化させてしまうことを防止できる。
【0009】
また、前記シリコン系基板は、シリコン単結晶基板、又はSOI(シリコン・オン・インシュレーター)基板であることが好ましい。
【0010】
本発明では、このようなシリコン系基板を用いることができるが、中でもSOI基板を用いた場合は反りが大きいので本発明が特に有効となる。
【0011】
また、前記バッファ層は、AlGaN層と、GaN層とAlN層とが交互に積層された超格子層と、からなることが好ましい。
【0012】
このような構造とすることでより反りの抑制に有効である。
【0013】
また本発明では、窒化物半導体ウェーハを製造する方法であって、
(1)シリコン系基板上に窒化物半導体からなるバッファ層を積層する工程、及び
(2)前記バッファ層上に少なくともGaN層を含む機能層を積層して窒化物半導体ウェーハを製造する工程
を含み、かつ、
前記工程(1)において、Feをドープするためのドーピングガスを流し、該ドーピングガスの流量を調整することによって、前記バッファ層における積層方向のFe濃度分布を、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から前記機能層に向かってFe濃度が減少するような濃度分布とし、
前記Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度を2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下とし、かつ、前記バッファ層の前記機能層側の上面のFe濃度を4.0×1017atoms/cm以下とする窒化物半導体ウェーハの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の反りを抑制した窒化物半導体ウェーハはこのようにして製造することができる。
【0015】
また、前記工程(1)において、前記シリコン系基板を、シリコン単結晶基板、又はSOI(シリコン・オン・インシュレーター)基板とすることが好ましい。
【0016】
本発明では、このようなシリコン系基板を用いることができるが、中でもSOI基板を用いた場合は反りが大きいので本発明が特に有効となる。
【0017】
また、前記工程(1)において、前記バッファ層を、AlGaN層と、GaN層とAlN層とが交互に積層された超格子層と、からなるものとすることが好ましい。
【0018】
このような構造とすることでより反りの抑制に有効である。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明であれば、シリコン単結晶基板またはSOI基板上に窒化物半導体をエピタキシャル成長させた窒化物半導体ウェーハであって、バッファ層等の構造を変えることなく反りを抑制した窒化物半導体ウェーハ、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の窒化物半導体ウェーハの一例を示す概略図である。
図2】実施例1、2で製造した窒化物半導体ウェーハ(シリコン系基板:シリコン単結晶基板)の積層方向のFe濃度分布をSIMSで測定した結果である。
図3】実施例1、2で製造した窒化物半導体ウェーハ(シリコン系基板:SOI基板)の積層方向のFe濃度分布をSIMSで測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述のように、反りを抑制した窒化物半導体ウェーハの開発が求められていた。
【0022】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、窒化物半導体ウェーハのバッファ層中のFe濃度分布を適切に制御することによって、窒化物半導体ウェーハの反りを抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、本発明は、シリコン系基板と、該シリコン系基板上に積層された窒化物半導体からなるバッファ層と、該バッファ層上に積層された少なくともGaN層を含む機能層とを備えたものである窒化物半導体ウェーハであって、前記バッファ層にFeがドープされており、前記バッファ層における積層方向のFe濃度分布は、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から前記機能層に向かってFe濃度が減少するような濃度分布であり、前記Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度が2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下であり、かつ、前記バッファ層の前記機能層側の上面のFe濃度が4.0×1017atoms/cm以下である窒化物半導体ウェーハである。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
[窒化物半導体ウェーハ]
本発明の窒化物半導体ウェーハについて図1を用いて説明する。なお、図1の窒化物半導体ウェーハの構造は一例であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
図1に示す窒化物半導体ウェーハ10は、シリコン系基板1と、シリコン系基板1上に積層された窒化物半導体からなるバッファ層3と、バッファ層3上に積層された少なくともGaN層を含む機能層4を有している。機能層4は、例えば、GaNからなるチャネル層(C-GaN)とチャネル層とバンドギャップの異なるAlGaNからなるバリア層(不図示)で構成される。また、バッファ層3とチャネル層の間に高抵抗GaN層(耐圧層:R-GaN)を形成することが好ましい。
【0027】
ここで、シリコン系基板1は特に限定されないが、シリコン単結晶基板、又はSOI(シリコン・オン・インシュレーター)基板とすることが好ましく、例えば、150mmφ、675μm、(111)のSi基板または150mmφ、675μm、(111)のSOI基板である。
【0028】
シリコン系基板1と、バッファ層3の間に厚さ100~200nmのAlNからなる初期層2を設けてもよい。
【0029】
バッファ層3は特に限定されないが、AlGaN層と、GaN層とAlN層とが交互に積層された超格子層とからなることが好ましく、例えば、厚さ100~200nmのAlGaN層上に厚さ5~30nmのGaN層と厚さ3~10nmのAlN層とが交互に例えば23ペア積層された超格子層(SLs)からなるものとすることができる。
【0030】
ここで本発明の窒化物半導体ウェーハは、バッファ層3にFeがドープされており、バッファ層3における積層方向のFe濃度分布は、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から機能層4に向かってFe濃度が減少するような濃度分布であり、Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度が2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下であり、かつ、バッファ層3の機能層4側の上面のFe濃度が4.0×1017atoms/cm以下である。なお本発明において、Fe濃度分布はSIMSの測定結果から求めることができる。
【0031】
バッファ層中におけるFe濃度分布を、後述の実施例の結果を示す図2、3を参照してより具体的に説明する。図2にシリコン単結晶基板上にエピタキシャル成長させた窒化物半導体ウェーハのSIMSによるFe濃度分布を示す。また、図3にはSOI基板上に同様な条件でエピタキシャル成長させた場合のFe濃度分布を示す。図2、3のいずれにおいても、バッファ層中においてFe濃度が最大となる点(図中横軸の深さ1.2μmの付近)を有しており、この点からFe濃度は機能層側に向かって減少(漸減)し、バッファ層の機能層側の上面(図中横軸の深さ0.55μmの付近)においてFe濃度が4.0×1017atoms/cm以下となる。このようにFe濃度はバッファ層でピークとなり、デバイス層に向けて減少(漸減)しているのが分かる。
【0032】
Fe濃度の最高値が2.5×1018atoms/cmより低い場合は、反りに対して顕著な抑制効果が見られず、また、6.0×1018atoms/cmを超えるとバッファ層上面の濃度を4.0×1017atoms/cm以下とするのが難しくなる。バッファ層上面の濃度が4.0×1017atoms/cmを超えると、Feのメモリー効果によりデバイス表面のFe濃度が高くなってしまいデバイスの特性を悪化させてしまう。
【0033】
このようなFe濃度分布とするには、MOCVD装置で、例えば超格子層の下部約1/3及びその下のAlGaN層のエピタキシャル成長時にCpFe(ビスクロペンタジエニル鉄)等のドーピングガスを流し、その流量を調整することで所望の濃度のFeをドープすることができる。このようにFeをドープすることでSOI基板を用いた場合に限らず、シリコン単結晶基板を用いた場合にもバッファ層の構造を変えることなく反りを抑制することができるが、SOI基板を用いた場合により顕著な効果が得られる。
【0034】
機能層4として、バッファ層3上には厚さ300~900nmの高抵抗GaN層(耐圧層)を設けることが好ましい。このような高抵抗層をデバイス層とバッファ層との間に設けることで、電流コラプス現象の悪化と高温時の横方向リーク電流をより確実に抑制することができるとともに、チャネル層へのFeの混入をより確実に抑制できるので、移動度の低下等の順方向特性の劣化を防止することができる。高抵抗GaN層の上には、デバイス層となるGaN層からなるチャネル層が形成されている。図1には示されていないが、GaN層からなるチャネル層上にAlGaN層からなるバリア層を形成し、ソース電極、ドレイン電極、及び、ゲート電極を設けることで、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)とすることができる。
【0035】
[窒化物半導体ウェーハの製造方法]
また本発明は、窒化物半導体ウェーハを製造する方法であって、(1)シリコン系基板上に窒化物半導体からなるバッファ層を積層する工程、及び(2)前記バッファ層上に少なくともGaN層を含む機能層を積層して窒化物半導体ウェーハを製造する工程を含み、かつ、前記工程(1)において、Feをドープするためのドーピングガスを流し、該ドーピングガスの流量を調整することによって、前記バッファ層における積層方向のFe濃度分布を、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から前記機能層に向かってFe濃度が減少するような濃度分布とし、前記Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度を2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下とし、かつ、前記バッファ層の前記機能層側の上面のFe濃度を4.0×1017atoms/cm以下とする窒化物半導体ウェーハの製造方法である。
【0036】
本発明の窒化物半導体ウェーハは、このようにして製造することができる。以下、本発明の窒化物半導体ウェーハの製造方法について詳細に説明する。
【0037】
[工程(1)]
工程(1)は、シリコン系基板上に窒化物半導体からなるバッファ層を積層する工程である。
【0038】
本工程では、まず、シリコン単結晶基板やSOI(シリコン・オン・インシュレーター)基板等のシリコン系基板を準備する。次に、MOCVD装置内にて、シリコン系基板上に窒化物半導体からなるバッファ層をエピタキシャル成長させればよい。もしくは、シリコン系基板上にAlNからなる初期層をエピタキシャル成長させ、その上に窒化物半導体からなるバッファ層をエピタキシャル成長させてもよい。バッファ層としては、上述のようにAlGaN層と、GaN層とAlN層とが交互に積層された超格子層とからなるものとすることが好ましい。
【0039】
エピタキシャル成長の際、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMAl)、Ga源としてTMGa、N源としてNHを用いることができ、これらに限定されない。また、キャリアガスはNおよびH、またはそのいずれかとすることができ、プロセス温度は例えば900~1200℃程度とすることが好ましい。
【0040】
本発明では、バッファ層における積層方向のFe濃度分布を、Fe濃度が最大となる点を有し、該Fe濃度が最大となる点から機能層に向かってFe濃度が減少するような濃度分布とし、Fe濃度が最大となる点におけるFe濃度を2.5×1018atoms/cm以上6.0×1018atoms/cm以下とし、かつ、バッファ層の機能層側の上面のFe濃度を4.0×1017atoms/cm以下とする。
【0041】
このようなFe濃度分布とするには、MOCVD装置で、例えば超格子層の下部約1/3及びその下のAlGaN層のエピタキシャル成長時にCpFe(ビスクロペンタジエニル鉄)等のドーピングガスを流し、その流量を調整することで所望の濃度のFeをドープすることができる。
【0042】
[工程(2)]
工程(2)は、バッファ層上に少なくともGaN層を含む機能層を積層して窒化物半導体ウェーハを製造する工程である。
【0043】
本工程では、窒化物半導体ウェーハの用途に応じて、適切な機能層をエピタキシャル成長により積層すればよい。例えば、MOCVD装置内にて、上述のような高抵抗GaN層をエピタキシャル成長させ、その上にデバイス層となるGaN層をエピタキシャル成長させ、さらにその上に、AlGaN層からなるバリア層をエピタキシャル成長させることができる。その上にソース電極、ドレイン電極、及び、ゲート電極を設けることで、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)とすることができる。
【0044】
このようにして製造された窒化物半導体ウェーハは、バッファ層内のFe濃度分布が適切に制御されることによって、反りの抑制されたものとなる。
【実施例0045】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
シリコン系基板として、以下のシリコン単結晶基板及びSOI基板を準備した。
(1)シリコン単結晶基板
150mmφ p-Type(111) 675μm Oi:25.6ppmaASTM79 5000Ωcm
(2)SOI基板
150mmφ SOI層:100nm/Box層:200nm/Si基板:675μm
SOI層:(111) CZ 1kΩcm N(窒素):5e14atoms/cm Oi:25.6ppmaASTM79
Si基板:(100) 8mΩcm Oi:16ppmaASTM79
【0047】
次に、これらの2枚のウェーハをMOCVD装置で同一のバッチでエピタキシャル成長を行い、以下の条件で窒化物半導体ウェーハを製造した。
【0048】
最初に厚さ150nmのAlNからなる初期層を形成し、次に厚さ160nmのAlGaN層を成長させた。このときCpFeを50sccmの流量で流すことでFeドープを開始した。次に厚さ25nmのGaN層と厚さ4.2nmのAlN層を交互に成長させた。GaN層とAlN層のペアを8ペア成長した時点で、CpFeの供給を止めた。その後もGaN層とAlN層を交互に成長させ全部で23ペアの超格子層(SLs)を形成し、AlGaN層と超格子層からなるバッファ層を形成した。次に高抵抗GaN層を670nm成長させ、次にチャネル層となるGaN層を200nm成長させた。
【0049】
その後、2枚のウェーハを取り出し、反り量を測定した。その結果を表1に示す。また、SIMSにより深さ方向のFe濃度を測定した。シリコン単結晶基板を用いたウェーハのFe濃度分布を図2に、SOI基板を用いたウェーハのFe濃度分布を図3に示す。いずれのウェーハもバッファ層中のFeの最大濃度は6.0×1018atoms/cmでバッファ層上面のFe濃度は4.0×1017atoms/cmであった。表1から明らかなように、実施例1はいずれのウェーハも後述する比較例1、2に比べ反り量が抑制されていることが判る。
【0050】
なお本発明において、反り量は3点支持ステージに基準となるフラットなシリコン単結晶基板を載せ、水平面を出し、その平面との差異によって測定した。
【0051】
(実施例2)
CpFeを20sccmの流量としたことを除き、実施例1と同様の条件で窒化物半導体ウェーハを製造した。図2、3に示すように、いずれのウェーハもバッファ層中のFeの最大濃度は2.5×1018atoms/cmでバッファ層上面のFe濃度は2.5×1017atoms/cmであった。表1に示す通り、実施例2ではいずれのウェーハも実施例1ほどではないものの比較例1,2に比べて反りが抑制されているのが判る。
【0052】
(比較例1)
CpFeの流量をさらに低くして、バッファ層中の最大Fe濃度を2.0×1018atoms/cmとしたことを除き実施例1と同様な方法で窒化物半導体ウェーハを製造した。表1に示す通り、比較例1はいずれのウェーハも比較例2よりは反りが改善しているものの、実施例1,2ほどの顕著な効果は見られなかった。
【0053】
(比較例2)
CpFeを流さなかったことを除き、実施例1と同様の条件で窒化物半導体ウェーハを製造した。表1に示す通り、比較例2はいずれのウェーハも実施例1,2に比べて反りが大きいことが判る。
【0054】
【表1】
【0055】
以上のように、本発明であれば、シリコン単結晶基板またはSOI基板上に窒化物半導体をエピタキシャル成長させた窒化物半導体ウェーハであって、バッファ層等の構造を変えることなく反りを抑制した窒化物半導体ウェーハ、及びその製造方法を提供することができることが明らかになった。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0057】
1…シリコン系基板、 2…初期層、 3…バッファ層、 4…機能層、
10…窒化物半導体ウェーハ。
図1
図2
図3