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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175226
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】コンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241211BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20241211BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20241211BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/38 B
C04B24/38 Z
C04B24/32 A
C04B24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092813
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋東 弘直
(72)【発明者】
【氏名】小西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】桜井 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】伊佐治 優
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB16
4G112PB36
4G112PB39
4G112PB40
4G112PC03
4G112PC11
(57)【要約】
【課題】流動性と材料分離抵抗性を保持したまま、優れた耐凍害性を有する流動性の高いコンクリート組成物を提供する。
【解決手段】(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を含み、(F)ポリエチレングリコール誘導体が、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、GPC分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体であり、スランプフローが、35cm以上75cm以下であるコンクリート組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を含むコンクリート組成物であって、
上記(F)ポリエチレングリコール誘導体が、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体であり、
スランプフローが、35cm以上75cm以下であるコンクリート組成物。
【請求項2】
さらにガム類及び/又は消泡剤を含む請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
さらに撥水剤を含む請求項1又は2に記載のコンクリート組成物。
【請求項4】
上記(F)成分が、下記一般式(F1)及び(F2)で表されるポリエチレングリコール誘導体のうち、少なくともいずれか1つのポリエチレングリコール誘導体である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物。
RCOO-(CO)-H (F1)
(RCOO-(CO)n1((OCn2-OH)
(F2)
〔式(F1)、(F2)中、R、nは、上記と同じであり、Rは、2~5個の水酸基を有する多価アルコールから該水酸基を除いた残基であって、2~5価の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であり、t及びuは、それぞれ1~4の整数であって、tとuの和は2~5の整数であり、n1、n2は、それぞれ0以上の整数であり、n1×t+n2×uは=3~30を満たす。〕
【請求項5】
上記(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロースが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロキシエチルメチルセルロースである請求項1又は2に記載のコンクリート組成物。
【請求項6】
上記(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度が、15,000~450,000mPa・sである請求項1又は2に記載のコンクリート組成物。
【請求項7】
2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定される充填高さが30cm以上(障害:ランク2)であり、上記スランプフローが55cm以上75cm以下の高流動コンクリート組成物である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物。
【請求項8】
東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定される充填高さが28cm以上(障害:ランク3)であり、且つ上記スランプフローが35cm以上50cm以下の中流動コンクリート組成物である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に使用されるコンクリート組成物(普通コンクリート組成物)に混和材を添加して、流動性の高いコンクリート組成物が得られることが知られている。流動性の高いコンクリート組成物には、高流動コンクリート組成物や中流動コンクリート組成物と呼ばれるものがある。
【0003】
高流動コンクリート組成物は、スランプフローが50~70cm程度の高い流動性を有するため、コンクリート自体が鉄筋構造の隙間を通過し、型枠の隅々まで均質に充填できる。従って、コンクリート施工時の締固め作業(型枠に流し込んだコンクリート組成物に対してバイブレータによって振動を与える作業)を省略できるため、施工性が格段に向上する。
【0004】
また、中流動コンクリート組成物は、スランプフローが35~50cm程度の高い流動性を有するため、普通コンクリート組成物に比べて流動性や鉄筋構造への充填性が高く、締固め作業を簡略化できる。
【0005】
高流動コンクリート組成物や中流動コンクリート組成物は、水溶性セルロースエーテルなどの増粘剤を添加して、高い流動性を有しながら材料分離抵抗性を確保したコンクリート組成物が幅広く使用されている。しかし、水溶性セルロースエーテルは空気連行性も有しているため、コンクリート組成物中の空気量を通常(4.5±1.5%)よりも増加させ、コンクリート硬化物の圧縮強度を低下させるおそれがあった。そのため、消泡剤を併用して気泡を消して空気量を低減する方法も考えられるが、この方法では耐凍害性に有効な微細な気泡も消してしまうことから、耐凍害性を損ねる場合があった。
【0006】
そこで、水溶性セルロースエーテルを用いても耐凍害性にも優れるコンクリート組成物として、例えば、セメント結合材、骨材、水、減水剤及びAE剤からなるコンクリート配合物に、セメント結合材に対して0.02~0.5重量%のスルホエチルセルロースのアルカリ金属塩と非イオン性水溶性セルロースエーテルを添加したコンクリート組成物が提案されている(特開平05-085791号公報(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05-085791号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“乳化処方設計へのアプローチ(日本語版) p.2-9”[online]、日本エマルジョン株式会社、有機概念図による乳化処方設計とは?[2023年1月10日検索]、インターネット<https://www.nihon-emulsion.co.jp/tech/organic.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1で使用されているスルホエチルセルロースは空気連行性が低いものの、流動性を悪化させてしまう点で問題があった。また、スルホエチルセルロースは量産化されておらず、工業的な利用が制限されており、改善の余地が残されていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、流動性と材料分離抵抗性を保持したまま、優れた耐凍害性を有する流動性の高いコンクリート組成物を提供することを目的とする。
【発明を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、水溶性セルロースエーテルとある特定の化学構造を持つポリエチレングリコール(PEG)誘導体とを併用することにより、流動性の高いコンクリート組成物の流動性と材料分離抵抗性を保持しながら、課題であった耐凍害性を改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、下記のコンクリート組成物を提供する。
1.
(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を含むコンクリート組成物であって、
上記(F)ポリエチレングリコール誘導体が、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体であり、
スランプフローが、35cm以上75cm以下であるコンクリート組成物。
2.
さらにガム類及び/又は消泡剤を含む1に記載のコンクリート組成物。
3.
さらに撥水剤を含む1又は2に記載のコンクリート組成物。
4.
上記(F)成分が、下記一般式(F1)及び(F2)で表されるポリエチレングリコール誘導体のうち、少なくともいずれか1つのポリエチレングリコール誘導体である1~3のいずれかに記載のコンクリート組成物。
RCOO-(CO)-H (F1)
(RCOO-(CO)n1((OCn2-OH)
(F2)
〔式(F1)、(F2)中、R、nは、上記と同じであり、Rは、2~5個の水酸基を有する多価アルコールから該水酸基を除いた残基であって、2~5価の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であり、t及びuは、それぞれ1~4の整数であって、tとuの和は2~5の整数であり、n1、n2は、それぞれ0以上の整数であり、n1×t+n2×uは=3~30を満たす。〕
5.
上記(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロースが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロキシエチルメチルセルロースである1~4のいずれかに記載のコンクリート組成物。
6.
上記(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度が、15,000~450,000mPa・sである1~5のいずれかに記載のコンクリート組成物。
7.
2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定される充填高さが30cm以上(障害:ランク2)であり、上記スランプフローが55cm以上75cm以下の高流動コンクリート組成物である1~6のいずれかに記載のコンクリート組成物。
8.
東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定される充填高さが28cm以上(障害:ランク3)であり、且つ上記スランプフローが35cm以上50cm以下の中流動コンクリート組成物である1~6のいずれかに記載のコンクリート組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリート組成物としての流動性及び材料分離抵抗性を保持したまま、耐凍害性が改善された流動性の高いコンクリート組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<コンクリート組成物>
以下に、本発明に係るコンクリート組成物の一実施の形態における構成について説明する。
本発明のコンクリート組成物は、(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を含むコンクリート組成物であって、上記(F)ポリエチレングリコール誘導体が、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体であり、スランプフローが35cm以上75cm以下であることを特徴とするものである。
【0015】
本実施形態において、コンクリート組成物は、高流動コンクリート組成物(自己充填コンクリート組成物)及び中流動コンクリート組成物を含む。
【0016】
高流動コンクリート組成物とは、2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定される充填高さが30cm以上(障害:ランク2)であり、且つスランプフローが55cm以上75cm以下のコンクリート組成物をいう。また、高流動コンクリート組成物は、2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定される500mmフロー到達時間が3~15秒であり、且つJIS A 1123に基づくブリーディング率が普通コンクリート組成物と同等以下であることが好ましい。高流動コンクリ―ト組成物は、例えば、鉄筋コンクリート構造(RC構造)を採用する構造物に用いられる。
【0017】
一方、中流動コンクリート組成物とは、東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定される充填高さが28cm以上(障害:ランク3)であり、且つスランプフローが35cm以上50cm以下のコンクリート組成物をいう。また、中流動コンクリート組成物は、JIS A 1123に基づくブリーディング率が普通コンクリート組成物と同等以下であることが好ましい。中流動コンクリート組成物は、例えば、トンネルの覆工コンクリートに用いられる。
【0018】
((A)セメント、(B)水、(C)骨材)
セメント、水、骨材は、通常のコンクリート組成物調製時に使用される様々な材料を用いることができる。
【0019】
本発明で使用する(A)成分のセメントは、例えば、ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等)や混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等)、特殊セメント(アルミナセメント等)である。セメントの含有量としては、強度確保の観点から、コンクリート組成物1mあたり、好ましくは270~550kgであり、より好ましくは280~440kgである。なお上記好ましい範囲は、後述の無機粉体系混和材を含めた含有量である。
【0020】
(B)成分である水は、例えば上水道水やJIS A 5308に示される「上水道水以外の水」である。なお、コンクリート組成物1mあたりの単位水量について、土木分野では175kg以下が好ましく、建築分野では185kg以下が好ましい。
【0021】
コンクリート組成物中の水/セメント比は、材料分離抑制の観点から、好ましくは30~70質量%、より好ましくは35~65質量%である。
【0022】
(C)成分である骨材は、細骨材及び粗骨材を含む。
細骨材は、陸砂、川砂、山砂、珪砂、砕砂等である。細骨材の粒子径(最大粒子径)は、好ましくは5mm以下である。また、粗骨材は、砕石、川砂利、山砂利、陸砂利等である。粗骨材の粒子径(最大粒子径)は細骨材の粒子径より大きく、好ましくは40mm以下、より好ましくは25mm以下である。
【0023】
本実施形態に係るコンクリート組成物に対する細骨材の単位量は、好ましくはコンクリート組成物1mあたり700kg~1,100kgである。本実施形態に係るコンクリート組成物に対する粗骨材の単位量は、好ましくはコンクリート組成物1mあたり700kg~1,100kgである。なお、2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]では、粗骨材寸法40mmの骨材を用いる場合の最低セメント量の目安を250kg/m以上とされており、粗骨材寸法20mmの骨材を用いる場合の最低セメント量の目安を270kg/m以上とされている。
【0024】
骨材中における細骨材率(容積百分率)は、本発明のコンクリート組成物の場合、流動性又は十分な強度を保持する観点から、好ましくは30~65容積%、より好ましくは35~60容積%、より一層好ましくは40~55容積%である。なお、細骨材率(容積%)=細骨材の容積/(細骨材の容積+粗骨材の容積)×100である。
【0025】
本発明のコンクリート組成物には、必要に応じて無機粉体系混和材を添加することができる。無機粉体系混和材としては、スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石微粉末等が挙げられる。
【0026】
((D)減水剤)
(D)成分である減水剤の種類としては、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤が挙げられ、一般的な減水率は、減水剤が4%以上、AE減水剤が10%以上、高性能AE減水剤が18%以上である。成分としては、リグニン系、ポリカルボン酸系、メラミン系等が挙げられる。また、後述の(E)、(F)成分を減水剤に含む添加剤の形態で用いる場合は、液体(すなわち、液体減水剤)を選択する。
【0027】
リグニン系減水剤の具体例としては、リグニンスルホン酸塩及びその誘導体等が挙げられる。
ポリカルボン酸系減水剤の具体例としては、ポリカルボン酸エーテル系、ポリカルボン酸エーテル系と架橋ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と配向ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と高変性ポリマーの複合体、ポリエーテルカルボン酸系高分子化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、カルボキシル基含有ポリエーテル系、末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー、ポリカルボン酸系グラフトコポリマー、ポリカルボン酸系化合物、ポリカルボン酸エーテル系ポリマー等が挙げられる。
メラミン系減水剤の具体例としては、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩縮合物、メラミンスルホン酸塩ポリオール縮合物等が挙げられる。
【0028】
本発明のコンクリート組成物には、少ない水量で高い流動保持性を得るために、上述の減水剤を単独で又は2種類以上を併用して用いる。
【0029】
減水剤の本発明のコンクリート組成物1mあたりの添加量としては、1mあたりの単位セメント量に対して、好ましくは0.5~2.5質量%となる量であり、より好ましくは0.5~2質量%となる量である
【0030】
((E)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース)
(E)成分であるヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、非イオン性の水溶性セルロースエーテルであり、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びヒドロキシエチルエチルセルロース等が挙げられる。これらのうち、流動性とブリーディング低減両立の観点から、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」ともいう。)及びヒドロキシエチルメチルセルロース(以下、「HEMC」ともいう。)が好ましい。
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により製造したものを用いてもよい。また、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、目的に応じて、単独で又は2種類以上を併用して用いてもよい。
【0031】
上記ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのうち、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)において、メトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは1.00~2.20であり、より好ましくは1.30~1.90であり、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.10~0.60であり、より好ましくは0.10~0.50である。
【0032】
また、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)において、メトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは1.00~2.20であり、より好ましくは1.30~1.90であり、ヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.10~0.60であり、より好ましくは0.20~0.40である。
【0033】
さらに、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)において、エトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは1.00~2.20であり、より好ましくは1.20~2.00であり、ヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.05~0.60であり、より好ましくは0.10~0.50である。
【0034】
なお、置換度(DS)とは、無水グルコース1単位あたりのアルコキシ基の平均個数のことをいう。置換モル数(MS)とは、無水グルコース1モルあたりのヒドロキシアルコキシ基の平均モル数のことをいう。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度及びヒドロキシアルコキシ基の置換モル数は、第18改正日本薬局方記載のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC))の置換度分析方法により測定できる値を換算することによって求めることができる。
【0035】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースは、コストの観点で高分子量(高粘度)が好ましい。すなわち、本発明のコンクリート組成物に用いるヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度は、15,000~450,000mPa・sが好ましく、20,000~370,000mPa・sがより好ましく、30,000~350,000mPa・sが更に好ましい。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの20℃における2質量%水溶液の粘度は、第18改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定することができる。
【0036】
上記(E)成分の添加量は、本発明のコンクリート組成物の流動性と材料分離抵抗性両立の観点から、コンクリート組成物1mあたりの(E)ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの添加量として、10~1,500g/mが好ましく、15~1,000g/mがより好ましい。
【0037】
上記(E)成分は、粉末で用いてもよいし、上記(B)成分の水に溶解した水溶液で用いてもよい。また、上記(E)成分は後述の増粘剤又は増粘剤含有添加剤の1成分として含まれる態様で添加してもよい。
【0038】
((F)ポリエチレングリコール誘導体)
本発明で用いるポリエチレングリコール誘導体((F)成分)は、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であり、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500である、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、末端官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール(PEG)誘導体である。
【0039】
[IOB値]
(F)成分のPEG誘導体の有機概念図におけるIOB値は、0.3~1.8であり、好ましくは0.7~1.6であり、より好ましくは0.9~1.5である。IOB値が0.3未満である場合、PEG誘導体の水への溶解性が悪くなり、1.8を超える場合には、界面活性剤の効果が強まって消泡効果が得られず、コンクリート組成物に耐凍害性を付与できない。
【0040】
コンクリート組成物の流動性が低くなると混練中に空気連行されやすくなるため、強い消泡性能が必要になる。そのため、本発明のコンクリート組成物の流動性と選択されるポリエチレングリコール誘導体の有機概念図におけるIOB値は相関する。
【0041】
具体的には、東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定されるスランプフローが35cm以上50cm以下の中流動コンクリート組成物及び2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定されるスランプフロー55cm以上75cm以下の高流動コンクリート組成物では、PEG誘導体の有機概念図におけるIOB値は好ましくは0.9~1.8であり、より好ましくは0.9~1.6であり、更に好ましくは0.9~1.5である。
【0042】
なお、有機概念図におけるIOB(Inorganic Organic Balance)値とは、有機概念図に基づいて求められる有機性値(OV)に対する無機性値(IV)の比であり、すなわち「無機性値(IV)/有機性値(OV)=IOB値」となる。ある化合物の有機性値(OV)、無機性値(IV)は、化合物の基(部位)ごとにあらかじめ決められた値を、それぞれ分子全体について合計することによって求められる。これは、“乳化処方設計へのアプローチ(日本語版)p.2-9[online]、日本エマルジョン株式会社、有機概念図による乳化処方設計とは?”(非特許文献1)等で説明されている。
【0043】
PEG誘導体は、目的に応じて、単独又は2種以上を併用して用いてもよい。(F)成分を2種以上用いる場合においても、それぞれのPEG誘導体の有機概念図におけるIOB値は、0.3~1.8である。
【0044】
[重量平均分子量Mw]
(F)成分のPEG誘導体のゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは300~2500であり、好ましくは700~2500、より好ましくは700~1700である。上記重量平均分子量Mwが300未満である場合、水への分散性が悪くなり、2500を超える場合にはコンクリート組成物の材料分離抵抗性を保持できない。
【0045】
(F)成分のPEG誘導体の重量平均分子量Mwは、テトラヒドロフランを展開溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができ、具体的には、サイズ排除カラムを用いる高速液体クロマトグラム装置に試験溶液を注入し、得られた溶出時間をポリスチレン換算の標準物質の検量線と比較することにより、算出される(実施例において同じ)。
【0046】
PEG誘導体において、分子量に影響するエチレンオキシ基(-CO-、EO)の平均付加モル数nとIOB値は相関することから、IOB値と同様に本発明のコンクリート組成物の流動性と、選択される重量平均分子量も相関する。具体的には、東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定されるスランプフローが35cm以上50cm以下の中流動コンクリート組成物及び2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定されるスランプフロー55cm以上75cm以下の高流動コンクリート組成物では、PEG誘導体のゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、好ましくは700~2500、より好ましくは700~1700である。
【0047】
[PEG誘導体の構造]
(F)成分のPEG誘導体は、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有する(すなわち、末端に-OH基以外の官能基を有さない)非対称直鎖型又は分岐型構造を有する。
【0048】
(F)成分のPEG誘導体において、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を有する数は、少なくとも1であり、好ましくは1~4であり、より好ましくは1である。
【0049】
上記Rは、流動性及び耐凍害性向上の観点並びにPEG誘導体の水に対する分散性の観点から、炭素数10~24、好ましくは16~22の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基である。
【0050】
Rの1価炭化水素基としては、ラウリル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基、ウンデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ヘンイコシル基等の直鎖状のアルキル基;イソステアリル基、オクチルドデシル基、デシルテトラデシル基、イソヘプタデシル基、16-メチルヘキサデシル基、2-オクチルウンデシル基、2-デシルトリデシル基等の分岐鎖状のアルキル基;オレイル基等の直鎖状のアルケニル基が挙げられる。Rは、化合物調達の容易さとハンドリングの観点から、ヘプタデシル基、イソヘプタデシル基等の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基が好ましい。
【0051】
また、上記PEG誘導体は、コンクリート組成物の耐凍害性向上の観点からエステル結合(-COO-)を有する。
【0052】
上記nは、エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数であり、コンクリート組成物の材料分離抵抗性付与と耐凍害性及び泡立ち防止の観点から3~40の整数であり、好ましくは5~30、より好ましくは15~30の整数である。
【0053】
ここで、(F)成分のPEG誘導体は、下記一般式(F1)(以下、「化合物(F1)」ともいう。)及び下記一般式(F2)(以下、「化合物(F2)」ともいう。)で表される化合物のうち、少なくともいずれか1つのものであることが好ましい。
RCOO-(CO)-H (F1)
(RCOO-(CO)n1((OCn2-OH)
(F2)
〔式(F1)、(F2)中、Rは、それぞれ独立して、炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基であり、Rは、2~5個の水酸基を有する多価アルコールから該水酸基を除いた残基であって、2~5価の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であり、nは、エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数であって、3~40の整数であり、t及びuは、それぞれ1~4の整数であって、tとuの和は2~5の整数(Rとなる多価アルコールの有する水酸基の数に相当するもの)であり、n1、n2は、それぞれ0以上の整数(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数)であり、n1×t+n2×u=3~30を満たす。〕
【0054】
[化合物(F1)]
本発明で用いる化合物(F1)は、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であり、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500である上記一般式(F1)で表される化合物である。
【0055】
上記一般式(F1)におけるRは、上記にて定義した通りであり、それぞれ独立して、流動性及び耐凍害性向上の観点並びにPEG誘導体の水に対する溶解性の観点から、炭素数10~24、好ましくは16~22の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基である。また、Rの1価炭化水素基としては、上記にて例示した炭化水素基が挙げられる。
【0056】
また、上記一般式(F1)において、上述のとおり、コンクリート組成物の耐凍害性向上の観点からエステル結合(-COO-)を有する。上記一般式(F1)におけるnは、上記にて定義した通りである。
【0057】
化合物(F1)としては、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数5、10、20、30)、モノイソステアリン酸ポリエチレングリコール(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数6、8、10、12,16)、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数6、10)が挙げられる。
【0058】
化合物(F1)を粉末として用いる場合の乾式レーザー法による平均粒子径は、溶解不良によるコンクリート組成物の流動性低下の観点から、好ましくは10~280μmであり、より好ましくは10~200μm、更に好ましくは10~150μmであり、かつ粒子径300μm以上の体積割合は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~3%である。
【0059】
上記粉末の平均粒子径(D50(メジアン径))及び粒子径300μm以上の体積割合は、英国Malvern社製のマスターサイザー3000やドイツSympatec社のHELOS装置を用いて、圧縮空気で粉体サンプルを噴出させたものにレーザー光を照射し、その回折強度により体積換算平均粒子径を測定する乾式レーザー回析法により測定できる(実施例において同じ)。
【0060】
[化合物(F2)]
本発明で用いる化合物(F2)は、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であり、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500である上記一般式(F2)で表される化合物である。
【0061】
上記一般式(F2)におけるRは、上記にて定義した通りであり、それぞれ独立して、流動性及び耐凍害性向上の観点並びにPEG誘導体の水に対する溶解性の観点から、炭素数10~24、好ましくは16~22の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基である。また、Rの1価炭化水素基としては、上記にて例示した炭化水素基が挙げられる。
【0062】
上記一般式(F2)において、耐凍害性向上の観点からエステル結合(-COO-)を有する。
【0063】
上記一般式(F2)におけるRは、好ましくは2~5個、より好ましくは2又は3個の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基であって、好ましくは2~5価、より好ましくは2又は3価の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基である。炭素数が2未満(すなわち、1)の場合、化合物が製造しづらくなり、一方で炭素数が5超の場合、疎水性が高くなり、水への溶解が困難になる可能性がある。
【0064】
上記多価アルコールとしては、1,2-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール等の2価アルコール(水酸基が2個);グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール(水酸基が3個);ジグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビタン、メチルグルコシド等の4価アルコール(水酸基が4個);キシリトール、トリグリセリン等の5価アルコール(水酸基が5個)が挙げられる。中でもコンクリート組成物の泡立ち防止の観点から好ましくは2~3価アルコールであり、より好ましくは1,2―ブタンジオール、1,3-ブチレングリコールである。
【0065】
上記一般式(F2)におけるt及びuは、それぞれ1~4の整数である。tはブリーディング低減の観点から好ましくは1であり、uはコンクリート組成物の泡立ち防止の観点から好ましくは1~2である。tとuの和(t+u)は、Rとなる多価アルコールの有する水酸基の数に相当する2~5であり、コンクリート組成物の泡立ち防止の観点から好ましくは2又3、より好ましくは2である。
【0066】
上記一般式(F2)におけるn1、n2は、それぞれ独立してエチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数であり、0以上の整数である。また、n1×t+n2×uは、3~30を満たし、好ましくは5~30、より好ましくは8~20、更に好ましくは10~20を満たす。
【0067】
化合物(F2)としては、イソステアリン酸PEG-10BG(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数の合計(n1+n2)が10である)、イソステアリン酸PEG-15BG(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数の合計(n1+n2)が15である)、イソステアリン酸PEG-20BG(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数の合計(n1+n2)が20である)、イソステアリン酸PEG-25BG(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数の合計(n1+n2)が25である)が挙げられる。
【0068】
化合物(F2)は、常温で液体又は粉砕困難なワックス状固体であり、粉砕することができないため、粉末で用いることが困難である。
【0069】
なお、上記PEG誘導体は、その形態が固体の場合でも液体の場合でも制限なく使用できる。
【0070】
また、上記(F)成分の添加量は、コンクリート組成物の流動性、材料分離抵抗性及び耐凍害性の観点から、コンクリート組成物1mあたりの(F)成分の添加量として、10~300g/mが好ましく、10~150g/mがより好ましい。
また、上記(F)成分は、後述の増粘剤又は増粘剤含有添加剤の1成分として含まれる態様で添加してもよい。
【0071】
(その他の成分(その1))
本発明のコンクリート組成物は、上記(A)~(F)成分に加えて、ガム類、消泡剤、撥水剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
【0072】
なお、これらの成分は、後述の増粘剤及び増粘剤含有添加剤に含まれる態様でもよい。特にこれらの成分が液体の場合、後述の増粘剤含有添加剤又はコンクリート組成物製造時に使用する水に溶解、分散して使用するのが好ましい。
【0073】
[ガム類]
ガム類は、従来の高流動コンクリート及び中流動コンクリートに使用されるものであれば特に制限されないが、コンクリート組成物の流動性と材料分離抵抗性両立の観点から、ダイユータンガム、ウェランガム、キサンタンガム、ジェランガムが好ましい。ガム類は、一種類又は二種類以上のガム類を用いることができる。
【0074】
ダイユータンガムは、D-グルコース、D-グルクロン酸、D-グルコースとL-ラムノース及び2つのL-ラムノースより構成されており、例えば、商品名KELCO-CRETE-DG-F(CP Kelco社)などの市販品を用いることができる。
ウェランガムは、D-グルコース、D-グルクロン酸及びL-ラムノースが2:2:1の割合で結合した主鎖に、L-ラムノース又はL-マンノース側鎖が結合した構造である。例えば、商品名CP KELCO K1A-96(CP Kelco社)などの市販品を用いることができる。
キサンタンガムは、セルロースと同様、主鎖がD-グルコースのβ-1,4 結合であり、側鎖がマンノース2個とグルクロン酸1個より構成されている。例えば、商品名KELZAN(CP Kelco社)などの市販品を用いることができる。
ジェランガムは、D-グルコース、D-グルクロン酸及びL-ラムノースが2:1:1の割合で結合した4つの糖を反復単位とするヘテロ多糖類である。例えば、商品名KELCOGELAFT(CP Kelco社)などの市販品を用いることができる。
【0075】
ガム類は粉体又は水溶液のいずれの形態で添加してもよいが、ハンドリングの観点から粉体での添加が好ましい。
【0076】
コンクリート組成物1mあたりのガム類の添加量としては、流動性と材料分離抵抗性両立の観点から、配合する場合5~100g/mとなる量が好ましく、5~30g/mとなる量がより好ましく、10~30g/mとなる量がさらに好ましい。
【0077】
[消泡剤]
コンクリート組成物の強度を得るために、消泡剤を必要に応じて添加してもよい。消泡剤は、消泡性能の観点から、オキシアルキレン系、シリコーン系、アルコール系、脂肪酸エステル系等が使用されるが、耐凍害性の観点から好ましくはオキシアルキレン系消泡剤である。
【0078】
オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2-エチルヘキシルエーテル、炭素原子数8以上の高級アルコールや炭素原子数12~14の2級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール,3-メチル-1-ブチン-3-オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等が挙げられる。
【0079】
シリコーン系消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
【0080】
アルコール系消泡剤としては、例えば、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等が挙げられる。
【0081】
脂肪酸エステル系消泡剤としては、例えば、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等が挙げられる。
【0082】
コンクリート組成物1mあたりの消泡剤の添加量としては、流動性と材料分離抵抗性両立の観点から、配合する場合、5~100g/mとなる量が好ましく、5~30g/mとなる量がより好ましく、10~30g/mとなる量がさらに好ましい。消泡剤は粉体及び液体のいずれの形態のものを使用できるがハンドリングの観点から粉体での添加が好ましい。
【0083】
[撥水剤]
本発明で使用される撥水剤は、水と接すると接触角を大きくし水を弾く性質を付与する物質であり、従来の水硬性組成物に使用されるものであれば特に制限されないが、例えば、流動パラフィン、スクワラン、パラフィン、ワセリン等炭化水素類、ミツロウ、ホホバ油、カルナバロウ等のロウ類、トリイソステアリン酸グリセリル、トリオクタン酸グリセリル等のトリグリセリド、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸セチル等エステル油、セタノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、オリーブ油、ヒマシ油等の植物油類、ステアリン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸マグネシウム等脂肪酸塩類が挙げられる。その中で特に脂肪酸塩類を用いることが好ましく、添加量削減の観点から、ステアリン酸カルシウムを用いることがより好ましい。ステアリン酸カルシウムは、例えば富士フィルム和光純薬社製の試薬を用いることができる。
撥水剤は、ハンドリングの観点から粉末での添加が好ましい。
【0084】
コンクリート組成物1mあたりの撥水剤の添加量としては、撥水性付与の観点から、配合する場合、0.05~200g/mとなる量が好ましく、10~100g/mとなる量がより好ましい。
【0085】
((E)成分及び(F)成分の配合の態様)
本発明のコンクリート組成物における(E)成分及び(F)成分は、個別に配合してもよいし、(E)成分と(F)成分を混合した(i)増粘剤の形態として配合してもよい。また、(E)成分と(F)成分に加えて、水及び/又は液体減水剤を含有した(ii)増粘剤含有添加剤の形態として配合に用いてもよい。該水及び/又は液体減水剤は、増粘剤含有添加剤を調製する際に加熱して温度調整して用いてもよい。
【0086】
((i)増粘剤)
(i)増粘剤は、(E)成分及び(F)成分を含有し、上記その他の成分(その1)、すなわち、前述のガム類、消泡剤及び撥水剤を含んでいてもよい。
【0087】
増粘剤中の(E)成分の含有量としては、好ましくは0.025~70質量%、より好ましくは0.20~65質量%、更に好ましくは0.9~60質量%である。また、増粘剤中の(F)成分の含有量としては、好ましくは0.0125~85質量%、より好ましくは0.04~80質量%、更に好ましくは0.45~75質量%である。なお、上記(E)成分と(F)成分の含有比率(質量比、(E):(F))は、耐凍害性、流動性及び材料分離抵抗性を改善する観点から、好ましくは95:5~5:95、より好ましくは93:7~10:90、更に好ましくは90:10~15:85である。
【0088】
増粘剤中のガム類の含有量としては、配合する場合、好ましくは0.0125~15質量%、より好ましくは0.004~12.5質量%である。
【0089】
増粘剤中の消泡剤の含有量としては、配合する場合、好ましくは0.0025~15質量%、より好ましくは0.008~12.5質量%である。
増粘剤中の撥水剤の含有量としては、配合する場合、好ましくは0.01~35質量%、より好ましくは5.0~30質量%である。
なお、増粘剤における上記(E)成分、(F)成分、ガム類、消泡剤、撥水剤の含有量の合計は100質量%である。
【0090】
また(F)成分が液体の場合には、その配合前に該(i)増粘剤を水及び/又は液体減水剤(上述の減水剤のうち、液体のもの)に溶解、分散させ、(ii)増粘剤含有添加剤として、配合するか、コンクリート組成物製造時に使用する(B)成分の水に溶解、分散して使用することが好ましい。
【0091】
((ii)増粘剤含有添加剤)
(ii)増粘剤含有添加剤は、(E)成分、(F)成分、水及び/又は液体減水剤を含有し、上記その他の成分(その1)、すなわち、前述のガム類、消泡剤及び撥水剤を含んでいてもよい。
【0092】
増粘剤含有添加剤中の(E)成分の含有量としては、好ましくは0.005~20質量%、より好ましくは0.008~10質量%、更に好ましくは0.01~5質量%である。また、増粘剤含有添加剤中の(F)成分の含有量としては、好ましくは0.005~15質量%、より好ましくは0.008~10質量%、更に好ましくは0.01~5質量%である。なお、上記(E)成分と(F)成分の含有比率(質量比、(E):(F))は、耐凍害性、流動性及び材料分離抵抗性を改善する観点から、好ましくは95:5~5:95、より好ましくは93:7~10:90更に好ましくは90:10~15:85である。
【0093】
増粘剤含有添加剤中のガム類の含有量としては、配合する場合、好ましくは0.001~2質量%、より好ましくは0.005~1質量%である。
【0094】
増粘剤含有添加剤中の消泡剤の含有量としては、配合する場合、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.005~3質量%である。
【0095】
増粘剤含有添加剤中の撥水剤の含有量としては、配合する場合、好ましくは0.002~8質量%、より好ましくは0.005~5質量%である。
【0096】
更に水及び/又は液体減水剤の含有量は、好ましくは70.0~99.98質量%、より好ましくは85.0~99.97質量%、更に好ましくは90~99.96質量%である。このとき、水及び/又は液体減水剤と前述の(E)、(F)成分、ガム類、消泡剤の含有量の合計は100質量%である。
【0097】
(E)成分、(F)成分及び上記その他の成分(その1)を(i)増粘剤又は(ii)増粘剤含有添加剤として用いる場合、本発明のコンクリート組成物における(i)増粘剤の添加量、又は(ii)増粘剤含有添加剤の添加量は、流動性、材料分離抵抗性及び耐凍害性の観点から、それぞれコンクリート組成物1mあたり、好ましくは0.025~10kg/m、より好ましくは0.05~5kg/mである。
【0098】
(その他の成分(その2))
さらに、本発明のコンクリート組成物には、その他の成分(その2)として、AE剤、凝結遅延材、膨張材を必要に応じて添加してもよい。
【0099】
[AE剤]
本発明のコンクリート組成物には、所定の空気量を確保し、コンクリート組成物の耐久性を得るために、AE剤(Air Entraining Agent)を必要に応じて併用してもよい。AE剤としては、陰イオン界面活性剤系、陽イオン界面活性剤系、非イオン界面活性剤系、両性界面活性剤系、ロジン系界面活性剤系等のAE剤が挙げられる。陰イオン界面活性剤系としては、樹脂酸塩型、カルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型等が挙げられる。陽イオン界面活性剤系としては、アミン塩型、第1級アミン塩型、第2級アミン塩型、第3級アミン塩型、第4級アミン塩型等が挙げられる。非イオン界面活性剤系としては、エステル型、エステル・エーテル型、エーテル型、アルカノールアミド型等が挙げられる。両性界面活性剤系としては、アミノ酸型、スルホベタイン型等が挙げられる。ロジン系界面活性剤系としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸等が挙げられる。
【0100】
AE剤のコンクリート組成物1mあたりの添加量としては、1mあたりの単位セメント量Cに対して、好ましくは0.0001~0.050質量%である。
【0101】
[凝結遅延剤]
本発明のコンクリート組成物には、練混ぜ直後のコンクリート組成物の物性を管理するため、塩化カルシウム、塩化リチウム、蟻酸カルシウム等の凝結促進剤や、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等の凝結遅延剤を必要に応じて使用することができる。
【0102】
コンクリート組成物中の凝結遅延剤の添加量は、1mあたりの単位セメント量に対して、好ましくは0.3~1.2質量部である。
【0103】
[膨張材]
更に、本発明のコンクリート組成物には、硬化・乾燥による収縮ひび割れ、セメントの水和反応熱による温度応力に伴うひび割れ防止のために、アウイン系や石灰系の膨張材を必要に応じて添加することができる。
【0104】
コンクリート組成物中の膨張材の添加量は、1mあたりの単位セメント量に対して、好ましくは3~20質量部である。
【0105】
耐凍害性を良好にするためには、コンクリート組成物中の空気量のうち、空気の泡の大きさの評価指数として気泡間隔係数が用いられ、目安としては、気泡間隔係数が250μmより小さいと耐凍害性が良好になるといわれている。エアボイドアナライザーによる気泡間隔係数の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。また気泡間隔係数を評価する際、空気量の増減によって気泡間隔係数も変化するため、コンクリートもしくはモルタルの空気量を統一して評価することが好ましい。
【0106】
<コンクリート組成物の製造方法>
本発明のコンクリート組成物の製造方法は、(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を含むコンクリート組成物の製造方法であって、
上記(F)成分が、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500である、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体であり、
(I)該(F)PEG誘導体と、(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロースとを混合して増粘剤を調製し、
(II)該増粘剤に、さらに上記コンクリート組成物を構成する水(すなわち、(B)成分の水の少なくとも一部)及び/又は液体減水剤を添加した増粘剤含有添加剤を調製し、又は
(III)上記(F)PEG誘導体を単独で準備し、
上記増粘剤、増粘剤含有添加剤又は(F)PEG誘導体を上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程に投入することを特徴とするスランプフローが、35cm以上75cm以下であるコンクリート組成物の製造方法である。
【0107】
((I)増粘剤の調製)
(i)増粘剤は、上述した成分、すなわち(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(F)成分のPEG誘導体及び好ましくは上記その他の成分(その1)(すなわち、ガム類及び/又は消泡剤、あるいは撥水剤)を常法により混合することによって調製することができる。混合方法は、特に制限されず、例えば、撹拌機を用いて行うことができる。
【0108】
この場合の混合の際に投入する材料の順番には特に制限はないが、例えば、まず撹拌機に粉末状の(E)成分を投入し、撹拌しつつ、次いで(F)成分、必要に応じて更に上記その他の成分(その1)を投入し撹拌するとよい。なお、このときの(F)成分のPEG誘導体は粉末、液体のいずれの形態で添加してもよいが、ハンドリング性及びコンクリート組成物を製造する際の溶解性の観点から、(E)成分及び(F)成分が粉末状の形態であることが好ましい。すなわち、増粘剤は、粉末状であることが好ましい。
【0109】
((II)増粘剤含有添加剤の調製)
(ii)増粘剤含有添加剤は、上記増粘剤に、さらに水(上記コンクリート組成物を構成する(B)水の少なくとも一部)及び/又は液体減水剤を添加したものであり、例えば80~95℃に加熱した高温の水(熱水)及び/又は液体減水剤に、(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、(F)成分のPEG誘導体、水及び/又は液体減水剤の残りがあればその残り、及び好ましくは上記その他の成分(その1)を添加して撹拌混合して溶解させた後、室温(25±15℃)に冷却して更に15分間~1時間撹拌することによって調製することができる。混合方法は、特に制限されず、例えば、撹拌機を用いて行うことができる。
【0110】
(コンクリート組成物を構成する成分の混合工程)
本発明に係るコンクリート組成物の製造方法は、上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程を少なくとも含み、該コンクリート組成物を構成する成分の混合工程に、調製された上記増粘剤、増粘剤含有添加剤又は(F)PEG誘導体を投入して混合することを特徴とする。
【0111】
ここで、上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程は、上記水及び/又は液体減水剤以外の粉末状の成分(粉体材料)すべてを空練りし、これに液体材料として水及び/又は液体減水剤を加えて混練する工程を有することが好ましく、上記増粘剤、増粘剤含有添加剤及び(F)PEG誘導体のうち、粉末状のもの、即ち増粘剤及び粉末状の(F)PEG誘導体である場合はこのいずれかを空練り工程に投入することが好ましい。また、上記増粘剤、増粘剤含有添加剤及び(F)PEG誘導体のうち、液体状のもの、即ち増粘剤含有添加剤及び液体状の(F)PEG誘導体である場合はこのいずれかを混練工程に投入することが好ましい。
【0112】
例えば、まず、強制二軸練りミキサーに、粉体材料として(A)セメント及び(C)骨材(細骨材及び粗骨材)、場合によっては消泡剤、さらに上記(i)増粘剤を入れ、空練りを行う。その後、液体材料として(B)水又は(B)水及び液体減水剤を加えて混練してコンクリート組成物(i)を得る。又は、強制二軸練りミキサーに、粉体材料として(A)セメント、(C)骨材(細骨材及び粗骨材)、場合によっては消泡剤を入れ、空練りを行う。その後、液体材料として、(B)水、及び(ii)増粘剤含有添加剤を加えて混練してコンクリート組成物(ii)を得る。又は、強制二軸練りミキサーに、(E)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、粉末状の(F)有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500である、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体、(A)セメント及び(C)骨材(細骨材及び粗骨材)、場合によっては消泡剤を入れ、空練りを行う。その後、液体材料として、(B)水又は(B)水及び液体減水剤を加えて混練してコンクリート組成物(iii)を得る。あるいは、強制二軸練りミキサーに、粉体材料として(A)セメント及び(C)骨材(細骨材及び粗骨材)、場合によっては消泡剤を入れ、空練りを行う。その後、液体材料として、(F)成分を水及び/又は液体減水剤に溶解、分散した水溶液又は分散液、及び(B)水又は(B)水及び液体減水剤を加えて混練してコンクリート組成物(iii)を得る。
【0113】
以上のようにして、高い流動性を有しながら材料分離抵抗性が確保され、且つ優れた耐凍害性を有する流動性の高いコンクリート組成物が得られる。
【実施例0114】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの2質量%水溶液粘度は、第18改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定した20℃における粘度である。
【0115】
I)「増粘剤又は増粘剤含有添加剤の調製」
以下の材料を使用して増粘剤又は増粘剤含有添加剤を調製した。
<使用材料>
(1)水((B)成分の一部):上水道水
(2)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース((E)成分):明細を表1に示す。
(3)ポリエチレングリコール(PEG)誘導体((F)成分):明細を表2に示す。
<IOB値の計算>
使用したポリエチレングリコール(PEG)誘導体のIOB(Inorganic Organic Balance)値を以下のようにして求めた。
対象の化合物の有機性値、無機性値を、化合物の基(部位)ごとにあらかじめ決められた値を、それぞれ分子全体について合計することによって求めた。各化合物の基(部位)ごとにあらかじめ決められた値は、“乳化処方設計へのアプローチ(日本語版)p.2-9[online]、日本エマルジョン株式会社、有機概念図による乳化処方設計とは?”(非特許文献1)のp.2の図2「計算方法例」及びp.9の付表1「無機性基、有機性兼有無機性基表」を参照した。
得られた無機性値(IV)及び有機性値(OV)を以下の式に当てはめてIOB値を求めた。
IOB値=無機性値(IV)/有機性値(OV)
その計算例を以下に示す。
B1:モノステアリン酸ポリエチレングリコール(C1735COO(CO)30H)の場合、構造式を「C1735CO・OCHCH(OCHCH30-1-OH」のように、繰り返し単位(CO)の1つ目の単位を使って、(-COOR)「‐OCHCH」となるように変形して求めた。
・有機性値=78(Cの個数)×20(Cの有機性値)=1560
・無機性値=60(-COORの無機性値)+75(-OCHCHの無機性値)×29(-OCHCHの個数)+100(-OHの無機性値)=2335
以上より、IOB値=2335/1560≒1.50となった。
<重量平均分子量の測定>
重量平均分子量は、GPC測定装置(HLC-8220GPC(東ソー株式会社製))、検出器(示差屈折計 RI-71S(昭和電工株式会社製))、カラム(TSK-gel G5000HxL(7.8×300mm)×1、G4000HxL(7.8×300mm)×1、G3000HxL(7.8×300mm)×1、G2000HxL(7.8×300mm)×1(東ソー株式会社製))を用いてテトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量として求めた。具体的には以下のように測定した。
使用したポリエチレングリコール(PEG)誘導体約0.01gを採取し、THF(テトラヒドロフラン)約10mL加え、ポリエチレングリコール(PEG)誘導体を溶解させ、得られた液を試験溶液とした。試験溶液及び標準品のポリスチレン(東ソー株式会社製)をGPC測定装置に100μm注入し、THF(テトラヒドロフラン)を移動相に用いて、1.0mL/minの流速で、カラム温度40℃の測定条件にて測定した。得られた結果を480IIデータステーションGPCプログラム(システム・インスツルメンツ株式会社)を用いて解析した。分子量の計算は、外挿線法(一次)を用いてAUTO Fittingにて計算し、重量平均分子量(Mw)を測定した。分子量の推定は分子量標準品のポリスチレン溶液の溶出時間及び分子量をもとに作成した検量線を用いて行った。
(4)消泡剤I(DF-1):ポリエーテル系消泡剤I(消泡剤成分をシリカへ含浸したもの)
(5)ガム類:キサンタンガム(「KELZAN」、CP Kelco社製)
(6)撥水剤:ステアリン酸カルシウム(StCa)(試薬(富士フィルム和光純薬株式会社製))
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
[(i)増粘剤の調製]
表3に示す材料の種類及び配合比率(質量%)で混合し、(i)増粘剤を調製した。なお、ステアリン酸PEG-20及びステアリン酸PEG-30については、事前にワンダーブレンダー(WB-1アズワン社製)を使用して、粉砕時間5秒で粉砕し、目開き300μm篩で分級した平均粒子径148μm及び126μm(D50)、且つ粒子径300μm以上の体積割合0.5%及び0.3%のものを使用した(実施例1~8、比較例1,2)。
【0119】
[(ii)増粘剤含有添加剤の調製]
5000mLのビーカー中に90℃の熱水2480gを撹拌機(東京理化器械社製NZ-1000)にて100rpmの条件で撹拌しながら、添加する材料の合計重量が20gになるように表3に示す材料の種類及び配合比率(質量%)で熱水中に投入し、室温(25℃)で60分間撹拌することで、(ii)増粘剤含有添加剤(1質量%の増粘剤水溶液)を調製した(実施例9~12)。
【0120】
[個別添加]
表3に示す材料を混合(調製)せず後述するコンクリート組成物の調製時に、PEG誘導体のイソステアリン酸PEG-10BGは液体材料として、それ以外は粉体材料としてコンクリート組成物へ添加した(実施例14、15)。但し、イソステアリン酸PEG-10BGは、予め純水と該イソステアリン酸PEG-10BGとを質量比99:1で混合撹拌してイソステアリン酸PEG-10BGの100倍希釈液を調製しておき、その100倍希釈液を上記液体材料として使用した。
【0121】
II)「コンクリート組成物の調製」
以下の材料を使用してコンクリート組成物を調製した。
<使用材料>
(1)増粘剤又は増粘剤含有添加剤等:増粘剤No.1~8、13、添加剤No.9~12、比較増粘剤No.1、2(表3)
(2)水(W)((B)成分の一部):上水道水
(3)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース((E)成分):表1におけるHPMC-1
(4)ポリエチレングリコール(PEG)誘導体((F)成分):表2におけるステアリン酸PEG-30又はイソステアリン酸PEG-10BG(100倍希釈液で使用)
(5)消泡剤I(DF-1):ポリエーテル系消泡剤I(消泡剤成分をシリカへ含浸したもの)
(6)ガム類:キサンタンガム(「KELZAN」、CP Kelco社製)
(7)セメント(C)((A)成分):普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm、太平洋セメント(株)製)
(8)減水剤(高性能AE減水剤((D)成分)):ポリカルボン酸コポリマー(チューポールHP-11、竹本油脂(株)製)(C×1.15、1.45%)
(9)AE剤:樹脂酸塩型陰イオン界面活性剤(AE-300、竹本油脂(株)製、100倍希釈液で使用:1A=C×0.001%)
(10)消泡剤II(DF-2)ポリエーテル系消泡剤(100倍希釈液で使用)、1T=C×0.002%)
(11)細骨材(S)((C)成分(1)):陸砂(信濃川産、表乾密度:2.60g/cm、吸水率:2.07%、粗粒率:2.79、実積率:66.3%)
(12)粗骨材(G)((C)成分(2)):砕石(20-5mm,表乾密度 2.69g/cm, 吸水率 1.35%,粗粒率6.55,実積率 58.5%)
【0122】
表4に示すコンクリート配合により試験した。すなわち、水セメント比は、55.0%、細骨材率は、52.9%とし、水175kg/m、セメント318kg/m、細骨材931kg/m、粗骨材861kg/mの単位量とした。
【0123】
また、表3に示すコンクリートへの処方(添加成分)で、コンクリート組成物を製造した。なお、表3中、増粘剤又は増粘剤含有添加剤としての(F)、(G)成分、消泡剤、ガム類及び撥水剤(ステアリン酸カルシウム)の添加量はコンクリート組成物1mに対するグラム数(g/m)であり、減水剤(高性能AE減水剤)の添加量はセメント(C)に対して記載の質量%となる使用量(C×%)であり、AE剤の添加量は記載の量(単位A:1Aはセメント(C)に対して0.001質量%となる量)である。また、消泡剤IIの添加量は、記載の量(単位T:1Tはセメント(C)に対して0.002質量%となる量)である。
【0124】
なお、空気量が4.5±0.5%となるようにAE剤、場合によって消泡剤IIの添加量を調整した。
実施例1~11、比較例2について、後述するスランプフローが60.0±2.0cmとなるように高性能AE減水剤の添加量を1.45(C×%)で一定とした。
比較例1について、スランプフローを55.0cm以上、後述する充填高さを30cm以上(障害:ランク2)とするため、高性能AE減水剤の添加量を変更した。
実施例12,13についてスランプフローを45.0±2.0cmとするため、高性能AE減水剤の添加量を変更した。
【0125】
コンクリート組成物の製造は、60リットルの強制二軸練りミキサー(WHQ-60A (株)北川鉄工所製)により行った。まず粉体材料を投入した。すなわち、粉体材料としてセメント、細骨材、粗骨材、実施例1~8,13,比較例1,2では、上記Iで調製した増粘剤(増粘剤No.1~8,13,比較増粘剤No.1,2)を、実施例14,15の個別添加の場合は、イソステアリン酸PEG-10BG以外の構成材料を各々入れ、空練りを10秒間行った。その後、液体材料を投入した。すなわち液体材料として、実施例1~8,13,14、比較例1,2では水、高性能AE減水剤、AE剤、必要に応じて消泡剤IIを加え、実施例9~12では、水、高性能AE減水剤、AE剤及び消泡剤IIと、上記Iで調製した増粘剤含有添加剤(添加剤No.9~12)とを加え、実施例15の個別添加の場合は、水、高性能AE減水剤、AE剤及び消泡剤IIと、イソステアリン酸PEG-10BGの100倍希釈液とを加えて、90秒間混練し、コンクリート組成物を得た。1バッチあたりのコンクリート組成物の練り混ぜは50リットルとした。なお、この段階で添加する水の量は、表4のコンクリート配合における水の必要質量(175000g/m)から上記液体材料(増粘剤含有添加剤(添加剤No.9~12)、実施例15(個別添加)のイソステアリン酸PEG-10BGの100倍希釈液、高性能AE減水剤、AE剤、消泡剤II))の質量を差し引いた質量分である。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
得られたコンクリート組成物について、下記の条件で試験を行った。
<フレッシュ物性>
(コンクリート温度)
コンクリート組成物の練り上がり温度は、20±3℃になるように材料温度を調整した。
デジタル式温度計(型番SN3200II、(株)熱研製)の測温センサーをコンクリート組成物中に挿入し、コンクリート温度を測定した。その結果、すべてのコンクリート組成物が20±3℃の範囲内に収まっていた。
(スランプフロー)
JIS A 1150に準じて試験を行った。
(500mmフロー到達時間)
JSCE-F 516-2011(高流動コンクリートの500mmフロー到達時間試験方法) に準じて試験を行った。なお、実施例11及び12は中流動コンクリートであるため、この試験項目は行っていない。
(空気量試験)
製造直後(練混ぜ直後)のコンクリート組成物について、JSCE-F 513-2010(高流動コンクリートの空気量の圧力による試験方法)(空気室圧力方法)に準拠して空気量(容積%)を測定した。
(ブリーディング率)
製造直後(練混ぜ直後)のコンクリート組成物について、JIS A 1123に準拠してブリーディング率を測定した。
ブリーディング率によって、材料分離の評価を行った。
(充填高さ)
JSCE-F 511-2011(高流動コンクリートの充填試験方法(案))に準じて試験を行った。実施例12,13については、障害ランク3、それ以外は、障害ランク2により試験を行った。
(エアボイドアナライザー(AVA)試験)
((気泡間隔係数))
エアボイドアナライザー(AVA;商品名、ジャーマンインストゥルメンツ社製)にて耐凍害性の指標となる気泡間隔係数の測定を行った。予めグリセリン(和光純薬工業(株)製)及び水を質量比でグリセリン/水=83/17の割合で混合し、AVA測定用溶液を調製した。
練混ぜ後のコンクリート組成物を目開き5mmの篩に通し、気泡間隔係数評価用モルタル組成物を得て、専用のシリンジに20ml採取した。測定用カラムに水約2000mlを注入し、カラム壁面に付着した気泡を刷毛で取り除いた後、予め上記で調製したAVA測定用溶液250mlを専用の器具を用いてカラムの底部に注入した。注入後、カラムの水面付近に気泡採取用のペトリ皿を設置し、測定部分に固定した。シリンジに採取したモルタル組成物20mlをカラムの底部に注入した後、モルタル組成物を30秒間撹拌し、液中にモルタル組成物の連行空気を十分に放出させた。放出させた気泡を経時で測定することにより、気泡間隔係数を測定した。
気泡間隔係数の計算に際して、フレッシュコンクリートの空気量以外にモルタル組成物全体積より5mm以上の骨材の占める体積を除いた値(モルタル容積率)及びペーストの占める体積(ペースト容積率)が必要となる。モルタル容積率及びペースト容積率は下記の式(I)及び(II)より算出した。
モルタル容積率(%)=[(VB+VW+VS)/1000]×100 (I)
ペースト容積率(%)=[(VB+VW)/1000]×100 (II)
B:セメントの体積(=セメント単位量(kg)/セメントの比重)
W:水、AE剤及び減水剤等の液体添加剤の体積(単位水量と同じとする)
S:5mm以下の骨材の体積(=細骨材の単位量/細骨材の比重)
((気泡径区分ごとの気泡割合))
上述の手順により、エアボイドアナライザー(AVA;商品名、ジャーマンインストゥルメンツ社製)を起動させると自動的に測定が開始される。粗く、大きな気泡は、より早くカラム内を上昇してペトリ皿の下に捕集され、細かく、小さな気泡は、より遅くカラム内を上昇する。ペトリ皿の経時の重量測定により、気泡径区分ごとの気泡割合が自動的に算出される。
((空気量(容積%)))
気泡径区分ごとの気泡割合の総和が空気量(容積%)となる。
<硬化物性>
(圧縮強度)
JIS A 1108準じて、材齢28日のコンクリート硬化体について圧縮強度試験を行った。供試体寸法はφ10×20cmとし、供試体本数は3本として、平均値を各水準の圧縮強度として評価した。
(凍結融解試験)
JIS A 1148-2010中のA法に準じて試験を行い、最大300サイクルまでの相対動弾性係数を測定した。供試体の寸法(縦×横×長さ)は、100×100×400mmとし、供試体本数は3本として、平均値を各水準の相対動弾性係数として、算出した。また、300サイクル到達前に相対動弾性係数が60%以下になった場合は、そのサイクルで試験終了とした。
得られた相対動弾性係数を用いて、次式により、耐久性指数を算出し、四捨五入によって整数に丸めたものを耐久性指数とした。得られた耐久性指数が60以上を耐凍害性に優れると判断した。
耐久性指数=P×N/M
(式中、P;Nサイクルのときの相対動弾性係数(%)、N;相対動弾性係数が60%になるサイクル数、又は300サイクルのいずれか小さいもの、M;300サイクル)
以上の試験結果を表5に示す。
【0129】
【表5】
【0130】
以上の結果、実施例1~2及び比較例1~2より、(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロースと(F)成分のPEG誘導体の併用によって、流動性、ブリーティング低減効果及び規定の充填高さを維持したまま、耐凍害性が優位に改善されることが示された。なお、材料分離抵抗性はブリーディング率と上記充填高さが指標となり、ブリーディング率は低減されているほど、且つ充填高さが高流動コンクリートでは、30cm以上(障害:ランク2)、中流動コンクリートでは、28cm以上(障害:ランク3)であれば材料分離抵抗性があると評価できる。
また、実施例1~7より、(E)成分のヒドロキシアルキルアルキルセルロースの粘度や置換度、化学構造が変化しても、コンクリート組成物の流動性、ブリーディング低減効果及び規定の充填高さを維持したまま(即ち材料分離抵抗性が保持されたまま)、耐凍害性が優位に改善されることがわかった。また、(F)成分のPEG誘導体の添加量が変化しても、コンクリート組成物の流動性、ブリーディング低減効果及び規定の充填高さを維持したまま(即ち材料分離抵抗性が保持されたまま)、耐凍害性が優位に改善される効果があることがわかった。
また、実施例2と実施例8の比較から、ステアリン酸カルシウムを加えることにより、コンクリート組成物の流動性、ブリーディング低減効果及び規定の充填高さを維持したまま、耐凍害性がさらに改善されることがわかった。
さらに、実施例9~15より、処方の形態を変化した場合やコンクリート組成物の流動性が変化した場合においても同様に、コンクリート組成物の流動性、ブリーディング低減効果及び規定の充填高さを維持したまま(即ち材料分離抵抗性が保持されたまま)、耐凍害性が優位に改善されることがわかった。
【0131】
なお、これまで本発明を上記実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。