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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175227
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】コンクリート組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241211BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20241211BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20241211BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20241211BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/04
C04B24/32 A
C04B24/38 B
C04B24/38 Z
B28C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092814
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋東 弘直
(72)【発明者】
【氏名】桜井 邦昭
(72)【発明者】
【氏名】伊佐治 優
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB32
4G112PB16
4G112PB36
4G112PB39
4G112PB40
4G112PC03
4G112PC11
4G112PE01
(57)【要約】
【課題】耐凍害性、流動性及び材料分離抵抗性が改善されたコンクリート組成物を容易に製造できるコンクリート組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】(i)有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するPEG誘導体を水溶性多孔質粉体に含浸させた粉末状添加剤を調製し、又は(ii)粉末状添加剤にさらに水溶性セルロースエーテルを添加した粉末状増粘剤を調製し、粉末状添加剤又は粉末状増粘剤をコンクリート組成物を構成する成分の混合工程に投入するコンクリート組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)水溶性セルロースエーテル及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を含むコンクリート組成物の製造方法であって、
上記(F)ポリエチレングリコール誘導体が、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体であり、
(I)該ポリエチレングリコール誘導体を水溶性多孔質粉体に含浸させた粉末状添加剤を調製し、又は
(II)該粉末状添加剤にさらに上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルの少なくとも一部を添加した粉末状増粘剤を調製し、
上記粉末状添加剤又は粉末状増粘剤を上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程に投入することを特徴とするスランプフローが35cm以上75cm以下であるコンクリート組成物の製造方法。
【請求項2】
上記(F)成分が下記一般式(F1)及び(F2)で表される化合物のうち、少なくともいずれか1つのものである請求項1に記載のコンクリート組成物の製造方法。
RCOO-(CO)-H (F1)
(RCOO-(CO)n1((OCn2-OH)
(F2)
〔式(F1)、(F2)中、R、nは上記と同じであり、Rは、2~5個の水酸基を有する多価アルコールから該水酸基を除いた残基であって、2~5価の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であり、t及びuは、それぞれ1~4の整数であって、tとuの和は2~5の整数であり、n1、n2は、それぞれ0以上の整数であり、n1×t+n2×uは3~30の整数である。〕
【請求項3】
上記水溶性多孔質粉体が水溶性多孔質の多糖類である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項4】
上記水溶性多孔質粉体の嵩比重が0.10~0.25g/cmである請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項5】
ゲル浸透クロマトグラフィー分析により求めた上記水溶性多孔質粉体の積算分子量分布における分子量10,000の濃度分率が30~90%である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項6】
上記水溶性多孔質粉体のデキストロース当量(DE)が2~18である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項7】
上記水溶性多孔質粉体の乾式レーザー法による平均粒子径が10~230μmであり、かつ粒子径300μm以上の体積割合が0~10%である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項8】
上記(F)成分のポリエチレングリコール誘導体を含浸させた水溶性多孔質粉体の乾式レーザー法による平均粒子径が40~280μmであり、かつ粒子径300μm以上の体積割合が0~10%である請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項9】
上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルがヒドロキシアルキルアルキルセルロースである請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項10】
上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液の粘度が、15,000~450,000mPa・sである請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項11】
上記(II)工程で、さらにガム類及び/又は消泡剤を添加して粉末状増粘剤を調製する請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項12】
上記(II)工程で、さらに撥水剤を添加して粉末状増粘剤を調製する請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項13】
上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程のうち、上記コンクリート組成物の成分のうち、(B)成分の水を少なくとも除く粉末状の成分を混合する空練り工程に、上記調製した粉末状添加剤又は粉末状増粘剤を投入する請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項14】
2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定される充填高さが30cm以上(障害:ランク2)であり、かつ上記スランプフローが55cm以上75cm以下の高流動コンクリート組成物を得るものである請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項15】
東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定される充填高さが28cm以上(障害:ランク3)であり、かつ上記スランプフローが35cm以上50cm以下の中流動コンクリート組成物を得るものである請求項1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性の高いコンクリート組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に使用されるコンクリート組成物(普通コンクリート組成物)に混和剤を添加して、流動性の高いコンクリート組成物が得られることが知られている。流動性の高いコンクリート組成物には、高流動コンクリート組成物や中流動コンクリート組成物と呼ばれるものがある。
【0003】
高流動コンクリート組成物は、スランプフローが50~70cm程度の高い流動性を有するため、コンクリート自体が鉄筋構造の隙間を通過し、型枠の隅々まで均質に充填できる。従って、コンクリート施工時の締固め作業(型枠に流し込んだコンクリート組成物に対してバイブレータによって振動を与える作業)を省略できるため、施工性が格段に向上する。
【0004】
また、中流動コンクリート組成物は、スランプフローが35~50cm程度の高い流動性を有するため、普通コンクリート組成物に比べて流動性や鉄筋構造への充填性が高く、締固め作業を簡略化できる。
【0005】
高流動コンクリート組成物や中流動コンクリート組成物としては、水溶性セルロースエーテルなどの増粘剤を添加して、高い流動性を有しながら材料分離抵抗性を確保したコンクリート組成物が幅広く使用されている。しかし、水溶性セルロースエーテルは空気連行性も有しているため、コンクリート組成物中の空気量が通常(4.5±1.5%)よりも増加してしまい、コンクリート硬化物の圧縮強度を低下させるおそれがあった。そのため、消泡剤を併用して気泡を消して空気量を低減する方法などが行われていた。
【0006】
消泡剤としては種々の化合物が知られているが、例えば、特開2008-037663号公報(特許文献1)においては、非イオン系の消泡剤である界面活性剤として、ポリエーテル系化合物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-037663号公報
【特許文献2】特開2011-184236号公報
【特許文献3】特開2017-065995号公報
【特許文献4】特開平05-085791号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“乳化処方設計へのアプローチ(日本語版) p.2-9”[online]、日本エマルジョン株式会社、有機概念図による乳化処方設計とは?[2023年1月10日検索]、インターネット<https://www.nihon-emulsion.co.jp/tech/organic.html>
【非特許文献2】コンクリート構造物の耐久性シリーズ 凍害(長谷川寿夫,藤原忠司:技報堂出版,pp.63,1988.2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ポリエーテル系化合物は、液体又はワックス状の固体であるために、AE減水剤などに溶解させて使用する必要があり、取り扱いが煩雑であるという課題があった。この課題については、特許文献1及び特開2011-184236号公報(特許文献2)に記載されているようなシリカなどの吸油性の高い無機粉体に含浸させ、粉体化したものを用いることにより解消できる。しかしながら、引用文献1及び2で報告されているセメント組成物や水硬性組成物について、特開2017-065995号公報(特許文献3)で提案されている気泡間隔係数を測定すると、無機系粉体に含浸された消泡剤は、含浸させない場合(消泡剤単独の場合)と比較して、耐凍害性に有用であるとされる直径50~500μmの微細な気泡であるエントレインドエア(非特許文献2)を選択的に消泡してしまう傾向にあることがわかった。このように、特許文献1及び2で提案されている無機粉体に含浸された消泡剤は耐凍害性を悪化させてしまう場合があり、改善の余地が残されていた。
【0010】
また、水溶性セルロースエーテルを用いても耐凍害性にも優れる水硬性組成物として、例えば、セメント結合材、骨材、水、減水剤及びAE剤からなるコンクリート配合物に、セメント結合材に対して0.02~0.5重量%のスルホエチルセルロースのアルカリ金属塩と非イオン性水溶性セルロースエーテルを添加したコンクリート組成物が提案されている(特開平05-085791号公報(特許文献4))。
しかしながら、特許文献4で使用されているスルホエチルセルロースは、水硬性組成物の空気連行性を増加させることはないものの、流動性を悪化させてしまう点で問題があった。また、スルホエチルセルロースは高価であるため、経済的観点からも好ましくないため、改善の余地が残されていた。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐凍害性、流動性及び材料分離抵抗性が改善されたコンクリート組成物を容易に製造することのできるコンクリート組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、水溶性セルロースエーテルとある特定の化学構造を持つポリエチレングリコール(PEG)誘導体とを併用することにより、コンクリート組成物の流動性と材料分離抵抗性を保持したまま、課題であった耐凍害性を改善できることを見出し、さらには特定の化学構造を持つポリエチレングリコール(PEG)誘導体を水溶性多孔質粉体に含浸させた粉末状添加剤を用いることにより、上記コンクリート組成物の流動性、材料分離抵抗性及び耐凍害性の改善を維持したまま、添加剤の取り扱いの煩雑さを改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は下記のコンクリート組成物の製造方法を提供する。
1.
(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)水溶性セルロースエーテル及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を含むコンクリート組成物の製造方法であって、
上記(F)ポリエチレングリコール誘導体が、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体であり、
(I)該ポリエチレングリコール誘導体を水溶性多孔質粉体に含浸させた粉末状添加剤を調製し、又は
(II)該粉末状添加剤にさらに上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルの少なくとも一部を添加した粉末状増粘剤を調製し、
上記粉末状添加剤又は粉末状増粘剤を上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程に投入することを特徴とするスランプフローが35cm以上75cm以下であるコンクリート組成物の製造方法。
2.
上記(F)成分が下記一般式(F1)及び(F2)で表される化合物のうち、少なくともいずれか1つのものである1に記載のコンクリート組成物の製造方法。
RCOO-(CO)-H (F1)
(RCOO-(CO)n1((OCn2-OH) (F2)
〔式(F1)、(F2)中、R、nは上記と同じであり、Rは、2~5個の水酸基を有する多価アルコールから該水酸基を除いた残基であって、2~5価の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であり、t及びuは、それぞれ1~4の整数であって、tとuの和は2~5の整数であり、n1、n2は、それぞれ0以上の整数であり、n1×t+n2×uは3~30の整数である。〕
3.
上記水溶性多孔質粉体が水溶性多孔質の多糖類である1又は2に記載のコンクリート組成物の製造方法。
4.
上記水溶性多孔質粉体の嵩比重が0.10~0.25g/cmである1~3のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
5.
ゲル浸透クロマトグラフィー分析により求めた上記水溶性多孔質粉体の積算分子量分布における分子量10,000の濃度分率が30~90%である1~4のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
6.
上記水溶性多孔質粉体のデキストロース当量(DE)が2~18である1~5のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
7.
上記水溶性多孔質粉体の乾式レーザー法による平均粒子径が10~230μmであり、かつ粒子径300μm以上の体積割合が0~10%である1~6のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
8.
上記(F)成分のポリエチレングリコール誘導体を含浸させた水溶性多孔質粉体の乾式レーザー法による平均粒子径が40~280μmであり、かつ粒子径300μm以上の体積割合が0~10%である1~7のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
9.
上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルがヒドロキシアルキルアルキルセルロースである1~8のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
10.
上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液の粘度が、15,000~450,000mPa・sである1~9のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
11.
上記(II)工程で、さらにガム類及び/又は消泡剤を添加して粉末状増粘剤を調製する1~10のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
12.
上記(II)工程で、さらに撥水剤を添加して粉末状増粘剤を調製する1~11のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
13.
上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程のうち、上記コンクリート組成物の成分のうち、(B)成分の水を少なくとも除く粉末状の成分を混合する空練り工程に、上記調製した粉末状添加剤又は粉末状増粘剤を投入する1~12のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
14.
2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定される充填高さが30cm以上(障害:ランク2)であり、かつ上記スランプフローが55cm以上75cm以下の高流動コンクリート組成物を得るものである1~13のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
15.
東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定される充填高さが28cm以上(障害:ランク3)であり、かつ上記スランプフローが35cm以上50cm以下の中流動コンクリート組成物を得るものである1~13のいずれかに記載のコンクリート組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンクリート組成物の流動性及び材料分離抵抗性を保持したまま、耐凍害性が改善された流動性の高いコンクリート組成物を容易に製造し、提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、まず上記添加剤の取り扱いの煩雑さの改善等の検討を行った。具体的には、無機系粉体に含浸された消泡剤を用いた場合にコンクリート組成物において耐凍害性に有利とされるエントレインドエアと呼ばれる気泡径50μm超500μm以下の微細な気泡を選択的に消泡してしまう原因として、コンクリート組成物製造時に消泡剤の無機系粉体からの溶出が遅いためであると考えた。また、消泡剤そのものについても、エントレインドエアを消泡せず、耐凍害性に不利とされるエントラップドエアと呼ばれる気泡径500μm超2,000μm以下の粗大な気泡を消泡できる物質を選択する必要があると考えた。
そこで、本発明者は、特定の構造を有するポリエチレングリコール誘導体(以下、「PEG誘導体」ともいう。)が、消泡剤として機能する際の消泡しやすい気泡径と消泡性に影響すると考え(耐凍害性)、また含浸体として水溶性多孔質粉体に着目した。鋭意検討の結果、PEG誘導体は粗大な気泡を消泡して微細な気泡を消泡しない傾向にありながら流動性や材料分離抵抗性の保持効果もあること、さらに含浸体として水溶性多孔質粉体を用いると溶出性が改善されて粗大な気泡をより選択的に消泡することを発見し、水溶性多孔質粉体にPEG誘導体が含浸された粉末状のもの、即ち後述の粉末状添加剤がコンクリート組成物の流動性及び材料分離抵抗性を保持しながら、耐凍害性を優位に改善することを見出した。
以下に、本発明の一実施の形態における構成について説明する。
【0016】
<コンクリート組成物の製造方法>
以下に、本発明に係るコンクリート組成物の製造方法の一実施の形態における構成について説明する。
本発明のコンクリート組成物の製造方法は、(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)水溶性セルロースエーテル及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を含むコンクリート組成物の製造方法であって、前記(F)ポリエチレングリコール誘導体が、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であって、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量Mwが300~2,500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール誘導体であり、
(I)該ポリエチレングリコール誘導体を水溶性多孔質粉体に含浸させた粉末状添加剤を調製し、又は
(II)該粉末状添加剤にさらに上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルの少なくとも一部を添加した粉末状増粘剤を調製し、
上記粉末状添加剤又は粉末状増粘剤を上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程に投入することを特徴とするスランプフローが35cm以上75cm以下であるコンクリート組成物の製造方法である。
【0017】
本実施形態において、コンクリート組成物は、高流動コンクリート組成物(自己充填コンクリート)及び中流動コンクリート組成物を含む。
【0018】
高流動コンクリート組成物とは、2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定される充填高さが30cm以上(障害:ランク2)であり、かつスランプフローが55cm以上75cm以下のコンクリート組成物をいう。また、高流動コンクリート組成物は、2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定される500mmフロー到達時間が3~15秒であり、かつJIS A 1123に基づくブリーディング率が普通コンクリート組成物と同等以下であることが好ましい。高流動コンクリ―ト組成物は、例えば、鉄筋コンクリート構造(RC構造)を採用する構造物に用いられる。すなわち、本発明のコンクリート組成物の製造方法は、上記高流動コンクリート組成物を得るものであることが好ましい。
【0019】
一方、中流動コンクリート組成物とは、東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定される充填高さが28cm以上(障害:ランク3)であり、かつスランプフローが35cm以上50cm以下のコンクリート組成物をいう。また、中流動コンクリート組成物は、JIS A 1123に基づくブリーディング率が普通コンクリート組成物と同等以下であることが好ましい。中流動コンクリート組成物は、例えば、トンネルの覆工コンクリートに用いられる。すなわち、本発明のコンクリート組成物の製造方法は、上記中流動コンクリート組成物を得るものであることが好ましい。
【0020】
また、本発明の製造方法で得られるコンクリート組成物は、(A)セメント、(B)水、(C)骨材、(D)減水剤、(E)水溶性セルロースエーテル及び(F)ポリエチレングリコール誘導体を少なくとも含む、スランプフローが35cm以上75cm以下のものである。
【0021】
((A)セメント、(B)水、(C)骨材)
セメント、水、骨材は、通常のコンクリート組成物に使用される様々な材料を用いることができる。
【0022】
本発明で使用する(A)成分のセメントは、例えば、ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等)や混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等)、特殊セメント(アルミナセメント等)である。セメントの含有量としては、強度確保の観点から、コンクリート組成物が1mあたり、好ましくは270~550kgであり、より好ましくは280~440kgである。なお上記好ましい範囲は、後述の無機粉体系混和材を含めた含有量である。
【0023】
(B)成分である水は、例えば上水道水やJIS A 5308に示される「上水道水以外の水」である。なお、コンクリート組成物1mあたりの単位水量について、土木分野では175kg以下が好ましく、建築分野では185kg以下が好ましい。
【0024】
コンクリート組成物中の水/セメント比は、材料分離抑制の観点から、好ましくは30~70質量%、より好ましくは35~65質量%である。
【0025】
(C)成分である骨材は、細骨材及び粗骨材を含む。
細骨材は、陸砂、川砂、山砂、珪砂、砕砂等である。細骨材の粒子径(最大粒子径)は、好ましくは5mm以下である。また、粗骨材は、砕石、川砂利、山砂利、陸砂利等である。粗骨材の粒子径(最大粒子径)は細骨材の粒子径より大きく、好ましくは40mm以下、より好ましくは25mm以下である。
【0026】
本実施形態におけるコンクリート組成物に対する細骨材の単位量は、好ましくはコンクリート組成物1mあたり700kg~1,100kgである。本実施形態におけるコンクリート組成物に対する粗骨材の単位量は、好ましくはコンクリート組成物1mあたり700kg~1,100kgである。なお、2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]では、粗骨材寸法40mmの骨材を用いる場合の最低セメント量の目安を250kg/m以上とされており、粗骨材寸法20mmの骨材を用いる場合の最低セメント量の目安を270kg/m以上とされている。
【0027】
骨材中における細骨材率(容積百分率)は、本発明のコンクリート組成物の場合、流動性又は十分な強度を保持する観点から、好ましくは30~65容積%、より好ましくは35~60容積%、より一層好ましくは40~55容積%である。なお、細骨材率(容積%)=細骨材の容積/(細骨材の容積+粗骨材の容積)×100である。
【0028】
本発明のコンクリート組成物には、必要に応じて無機粉体系混和材を添加することができる。無機粉体系混和材としては、スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石灰石微粉末等が挙げられる。
【0029】
((D)減水剤)
(D)成分である減水剤の種類としては、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤が挙げられ、一般的な減水率は、減水剤が4%以上、AE減水剤が10%以上、高性能AE減水剤が18%以上である。成分としては、リグニン系、ポリカルボン酸系、メラミン系等が挙げられる。本発明においては、液体状の減水剤が好ましい。
【0030】
リグニン系減水剤の具体例としては、リグニンスルホン酸塩及びその誘導体等が挙げられる。
ポリカルボン酸系減水剤の具体例としては、ポリカルボン酸エーテル系、ポリカルボン酸エーテル系と架橋ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と配向ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と高変性ポリマーの複合体、ポリエーテルカルボン酸系高分子化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、カルボキシル基含有ポリエーテル系、末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー、ポリカルボン酸系グラフトコポリマー、ポリカルボン酸系化合物、ポリカルボン酸エーテル系ポリマー等が挙げられる。
メラミン系減水剤の具体例としては、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩縮合物、メラミンスルホン酸塩ポリオール縮合物等が挙げられる。
【0031】
本発明のコンクリート組成物には、少ない水量で高い流動保持性を得るために、上述の減水剤を単独で又は2種類以上を併用して用いる。
【0032】
減水剤のコンクリート組成物1mあたりの添加量としては、1mあたりの単位セメント量に対して、好ましくは0.5~2.5質量%となる量であり、より好ましくは0.5~2質量%となる量である。
【0033】
((E)水溶性セルロースエーテル)
本発明に用いる(E)水溶性セルロースエーテルは、非イオン性であり、メチルセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びヒドロキシエチルエチルセルロース等のヒドロキシアルキルアルキルセルロースが挙げられる。(E)水溶性セルロースエーテルは、目的に応じて、単独で又は2種類以上を併用して用いてもよい。
【0034】
上記アルキルセルロースのうち、メチルセルロース(MC)において、メトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは1.00~2.20であり、より好ましくは1.20~2.00である。
【0035】
上記ヒドロキシアルキルセルロースのうち、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)において、ヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.30~3.00であり、より好ましくは0.50~2.80であり、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)において、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.30~3.30であり、より好ましくは0.10~3.00である。
【0036】
上記ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのうち、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)において、メトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは1.00~2.20であり、より好ましくは1.30~1.90であり、ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.10~0.60であり、より好ましくは0.10~0.50である。また、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)において、メトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは1.00~2.20であり、より好ましくは1.30~1.90であり、ヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.10~0.60であり、より好ましくは0.20~0.40である。さらに、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)において、エトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは1.00~2.20であり、より好ましくは1.20~2.00であり、ヒドロキシエトキシ基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.05~0.60であり、より好ましくは0.10~0.50である。
【0037】
置換度(DS)とは、無水グルコース1単位あたりのアルコキシ基の平均個数のことをいう。置換モル数(MS)とは、無水グルコース1モルあたりのヒドロキシアルコキシ基の平均モル数のことをいう。なお、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基の置換度及びヒドロキシアルコキシ基の置換モル数は、第18改正日本薬局方記載のヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)の置換度分析方法により測定できる値を換算することによって求められる(実施例において同じ)。
【0038】
(E)水溶性セルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液は、コンクリート組成物に所定の粘性を与える観点から、好ましくは15,000~450,000mPa・sであり、より好ましくは20,000~370,000mPa・sであり、更に好ましくは30,000~350,000mPa・s、特に好ましくは30,000~300,000mPa・sである。水溶性セルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液の粘度は、第18改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定される(実施例において同じ)。
【0039】
なお、普通コンクリート組成物のように流動性が低いコンクリートでは、流動性低下の観点から低分子量(低粘度)の水溶性セルロースエーテルが好ましいが、高流動コンクリート組成物のように流動性が高いコンクリート組成物では、流動性低下の現象が見られなくなることから、コストの観点で高分子量(高粘度)の水溶性セルロースエーテルが好ましい。
【0040】
(E)水溶性セルロースエーテルとしては、コンクリート組成物の流動性と材料分離抵抗性付与の観点から、上記例示したもののうち、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)等のヒドロキシアルキルアルキルセルロースが好ましい。
(E)水溶性セルロースエーテルは、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により製造したものを用いてもよい。
【0041】
上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルの添加量は、コンクリート組成物の流動性と材料分離抵抗性付与の観点から、コンクリート組成物1mあたり10~500g/mが好ましく、15~250g/mがより好ましく、15~100g/mが更に好ましい。
【0042】
((F)ポリエチレングリコール誘導体)
本発明で用いる(F)ポリエチレングリコール誘導体は、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であり、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2,500であり、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、末端官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有するポリエチレングリコール(PEG)誘導体である。
【0043】
[IOB値]
(F)成分のPEG誘導体の有機概念図におけるIOB値は、0.3~1.8であり、好ましくは0.7~1.6であり、より好ましくは0.9~1.5である。IOB値が0.3未満である場合、PEG誘導体の水への溶解性が悪くなり、1.8を超える場合には、界面活性剤の効果が強まって消泡効果が得られず、コンクリート組成物に耐凍害性を付与できない。
【0044】
コンクリート組成物の流動性が低くなると混練中に空気連行されやすくなるため、強い消泡性能が必要になる。そのため、本発明のコンクリート組成物の流動性と選択されるポリエチレングリコール誘導体の有機概念図におけるIOB値は相関する。
具体的には、東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定されるスランプフローが35cm以上50cm以下の中流動コンクリート組成物及び2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定されるスランプフロー55cm以上75cm以下の高流動コンクリート組成物では、PEG誘導体の有機概念図におけるIOB値は好ましくは0.9~1.8であり、より好ましくは0.9~1.6であり、更に好ましくは0.9~1.5である。
【0045】
なお、有機概念図におけるIOB(Inorganic Organic Balance)値とは、有機概念図に基づいて求められる有機性値(OV)に対する無機性値(IV)の比であり、すなわち「無機性値(IV)/有機性値(OV)=IOB値」となる。ある化合物の有機性値(OV)、無機性値(IV)は、化合物の基(部位)ごとにあらかじめ決められた値を、それぞれ分子全体について合計することによって求められる。これは、“乳化処方設計へのアプローチ(日本語版)p.2-9[online]、日本エマルジョン株式会社、有機概念図による乳化処方設計とは?”(非特許文献1)等で説明されている。
【0046】
PEG誘導体は、目的に応じて、単独又は2種以上を併用して用いてもよい。(F)成分を2種以上用いる場合においても、それぞれのPEG誘導体の有機概念図におけるIOB値は、0.3~1.8である。
【0047】
[重量平均分子量Mw]
(F)成分のPEG誘導体のゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは300~2,500であり、好ましくは700~2,500、より好ましくは700~1,700である。上記重量平均分子量Mwが300未満である場合、水への分散性が悪くなり、2,500を超える場合にはコンクリート組成物の材料分離抵抗性を保持できない。
【0048】
(F)成分のPEG誘導体の重量平均分子量Mwは、テトラヒドロフランを展開溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量として求めることができ、具体的には、サイズ排除カラムを用いる高速液体クロマトグラム装置に試験溶液を注入し、得られた溶出時間をポリスチレン換算の標準物質の検量線と比較することにより、算出される(実施例において同じ)。
【0049】
PEG誘導体において、分子量に影響するエチレンオキシ基(-CO-、EO)の平均付加モル数nとIOB値は相関することから、IOB値と同様に本発明のコンクリート組成物の流動性と、選択される重量平均分子量も相関する。具体的には、東・中・西日本高速道路トンネル施工管理要領で規定されるスランプフローが35cm以上50cm以下の中流動コンクリート組成物及び2017年制定コンクリート標準示方書[施工編]で規定されるスランプフロー55cm以上75cm以下の高流動コンクリート組成物では、PEG誘導体のゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwは、好ましくは700~2,500、より好ましくは700~1,700である。
【0050】
[PEG誘導体の構造]
(F)成分のPEG誘導体は、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を少なくとも1つ有し、官能基としてポリエチレングリコール末端OH又は-OH基を有する(すなわち、末端に-OH基以外の官能基を有さない)非対称直鎖型又は分岐型構造を有する。
【0051】
(F)成分のPEG誘導体において、分子中にRCOO(CO)-(Rは炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基、nは3~40の整数である。)を有する数は、少なくとも1であり、好ましくは1~4であり、より好ましくは1である。
【0052】
上記Rは、流動性及び耐凍害性向上の観点並びにPEG誘導体の水に対する分散性の観点から、炭素数10~24、好ましくは16~22の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基である。
【0053】
Rの1価炭化水素基としては、ラウリル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基、ウンデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ヘンイコシル基等の直鎖状のアルキル基;イソステアリル基、オクチルドデシル基、デシルテトラデシル基、イソヘプタデシル基、16-メチルヘキサデシル基、2-オクチルウンデシル基、2-デシルトリデシル基等の分岐鎖状のアルキル基;オレイル基等の直鎖状のアルケニル基が挙げられる。Rは、化合物調達及び取り扱いの容易さの観点から、ヘプタデシル基、イソヘプタデシル基等の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基が好ましい。
【0054】
また、上記PEG誘導体は、コンクリート組成物の耐凍害性向上の観点からエステル結合(-COO-)を有する。
【0055】
上記nは、エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数であり、コンクリート組成物の材料分離抵抗性付与と耐凍害性及び泡立ち防止の観点から3~40の整数であり、好ましくは5~30、より好ましくは10~30の整数である。
【0056】
ここで、(F)成分のPEG誘導体は、下記一般式(F1)で表される化合物(以下、「化合物(F1)」ともいう。)及び下記一般式(F2)で表される化合物(以下、「化合物(F2)」ともいう。)のうち、少なくともいずれか1つのものであることが好ましい。
RCOO-(CO)-H (F1)
(RCOO-(CO)n1((OCn2-OH)
(F2)
〔式(F1)、(F2)中、Rは、それぞれ独立して、炭素数10~24の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基であり、Rは、2~5個の水酸基を有する多価アルコールから該水酸基を除いた残基であって、2~5価の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であり、nは、エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数であって、3~40の整数であり、t及びuは、それぞれ1~4の整数であって、tとuの和は2~5の整数(Rとなる多価アルコールの有する水酸基の数に相当するもの)であり、n1、n2は、それぞれ0以上の整数(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数)であり、n1×t+n2×u=3~30を満たす。〕
【0057】
[化合物(F1)]
本発明で用いる化合物(F1)は、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であり、重量平均分子量Mwが300~2,500である上記一般式(F1)で表される化合物である。
【0058】
上記一般式(F1)におけるRは、上記にて定義した通りであり、それぞれ独立して、流動性保持及び耐凍害性向上の観点並びにPEG誘導体の水に対する溶解性の観点から、炭素数10~24、好ましくは16~22の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基である。また、Rの1価炭化水素基としては、上記にて例示した炭化水素基が挙げられる。
【0059】
また、上記一般式(F1)において、上述のとおり、コンクリート組成物の耐凍害性向上の観点からエステル結合(-COO-)を有する。上記一般式(F1)におけるnは、上記にて定義した通りである。
【0060】
化合物(F1)としては、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数5、10、20、30)、モノイソステアリン酸ポリエチレングリコール(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数6、8、10、12,16)、モノオレイン酸ポリエチレングリコール(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数6、10)が挙げられる。
【0061】
[化合物(F2)]
本発明で用いる化合物(F2)は、有機概念図におけるIOB値が0.3~1.8であり、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが300~2,500である上記一般式(F2)で表される化合物である。
【0062】
上記一般式(F2)におけるRは、上記にて定義した通りであり、それぞれ独立して、流動性保持及び耐凍害性向上の観点並びにPEG誘導体の水に対する溶解性の観点から、炭素数10~24、好ましくは16~22の直鎖状又は分岐鎖状の1価炭化水素基である。また、Rの1価炭化水素基としては、上記にて例示した炭化水素基が挙げられる。
【0063】
上記一般式(F2)において、耐凍害性向上の観点からエステル結合(-COO-)を有する。
【0064】
上記一般式(F2)におけるRは、好ましくは2~5個、より好ましくは2又は3個の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基であって、好ましくは2~5価、より好ましくは2又は3価の炭素数2~5の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基である。炭素数が2未満(すなわち、1)の場合、化合物が製造しづらくなり、一方で炭素数が5超の場合、疎水性が高くなり、水への溶解が困難になる可能性がある。
【0065】
上記多価アルコールとしては、1,2-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール等の2価アルコール(水酸基が2個);グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール(水酸基が3個);ジグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビタン、メチルグルコシド等の4価アルコール(水酸基が4個);キシリトール、トリグリセリン等の5価アルコール(水酸基が5個)が挙げられる。中でもコンクリート組成物の泡立ち防止の観点から好ましくは2~3価アルコールであり、より好ましくは1,2―ブタンジオール、1,3-ブチレングリコールである。
【0066】
上記一般式(F2)におけるt及びuは、それぞれ1~4の整数である。tはブリーディング低減の観点から好ましくは1であり、uはコンクリート組成物の泡立ち防止の観点から好ましくは1~2である。tとuの和(t+u)は、Rとなる多価アルコールの有する水酸基の数に相当する2~5であり、コンクリート組成物の泡立ち防止の観点から好ましくは2又3、より好ましくは2である。
【0067】
上記一般式(F2)におけるn1、n2は、それぞれ独立してエチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数であり、0以上の整数である。また、n1×t+n2×uは、3~30を満たし、好ましくは5~30、より好ましくは8~20、更に好ましくは10~20を満たす。
【0068】
化合物(F2)としては、イソステアリン酸PEG-10BG(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数の合計(n1+n2)が10である)、イソステアリン酸PEG-15BG(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数の合計(n1+n2)が15である)、イソステアリン酸PEG-20BG(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数の合計(n1+n2)が20である)、イソステアリン酸PEG-25BG(エチレンオキシ基(-CO-)の平均付加モル数の合計(n1+n2)が25である)が挙げられる。
化合物(F2)は、常温で液体又は粉砕困難なワックス状固体であり、粉砕することができないため、粉末で用いることが困難である。
【0069】
上記(F)成分の添加量は、コンクリート組成物の流動性、材料分離抵抗性及び耐凍害性の観点から、コンクリート組成物1mあたり10~300g/mが好ましく、10~150g/mがより好ましい。
【0070】
なお、(F)成分であるPEG誘導体は、後述するように本発明のコンクリート組成物の製造方法において、水溶性多孔質粉体に含浸された粉末状の形態(粉末状添加剤)、又はこの粉末状添加剤にさらに(E)成分の水溶性セルロースエーテルの少なくとも一部を添加した粉末状の形態(粉末状増粘剤)で取り扱われる。
【0071】
ここで、本発明のコンクリート組成物の製造方法は、上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程を少なくとも含むものであって、(I)上記(F)PEG誘導体を水溶性多孔質粉体に含浸させた粉末状添加剤を予め調製し、又は(II)該粉末状添加剤にさらに上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルの少なくとも一部を添加した粉末状増粘剤を調製し、上記粉末状添加剤又は粉末状増粘剤を上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程に投入することを特徴とするものである。
【0072】
((I)粉末状添加剤の調製)
上述した(F)成分のPEG誘導体を水溶性多孔質粉体に含浸させて粉末状もの(粉末状添加剤)を調製する。なお、上記PEG誘導体は、その形態が液体の場合にはそのまま水溶性多孔質粉体に含浸させることが可能であり、その形態が固体の場合であっても水溶性多孔質粉体に含浸させる際に加温して液体の状態とすることができる限りにおいて制限なく使用でき、これにより(F)PEG誘導体を粉末状態で取扱うことを可能にするものである。
【0073】
水溶性多孔質粉体に(F)成分のPEG誘導体を含浸させる方法は、特に限定されるものではなく、粉末に液体を含浸させる公知の方法を使用することができ、例えば、小型攪拌造粒機のジャケット内に水溶性多孔質粉末を投入し、ブレードとチョッパーを一般的な造粒条件の回転数で回転させ、(F)成分のPEG誘導体をジャケット内に滴下する方法等が挙げられる。(F)成分のPEG誘導体が室温で固体又は半固体の場合は、あらかじめPEG誘導体を加熱融解して液体状とした後に添加して、含浸させる。その際ジャケット内は(F)成分のPEG誘導体の融点付近に温調することが好ましい。ここでは、攪拌造粒機、V型混合機、リボンミキサー、ナウターミキサー、スーパーミキサー等の公知の粉体混合機を使用できる。なお、水溶性多孔質粉体に(F)成分のPEG誘導体を含浸させて作製した粉体を目開き300μmの篩で分級し、篩を通過したものを本発明で使用する粉末状もの(粉末状添加剤)とすることが好ましい。
【0074】
(水溶性多孔質粉体)
本発明で使用する水溶性多孔質粉体は、上記(F)成分のPEG誘導体を含浸させた状態で該PEG誘導体を担持することによりPEG誘導体を粉末状添加剤として粉体の状態で扱うことを可能にするものである(PEG誘導体担持体)。水溶性多孔質粉体としては、上記PEG誘導体を含浸させることが可能な程度に多孔質で水溶性の粒子からなり水に溶解しても少なくともコンクリート組成物の特性に悪影響を及ぼさない成分からなるものであればよく、水溶性多孔質の多糖類や炭酸ナトリウムなどが挙げられるが、水硬性組成物のアルカリシリカ反応を抑制する観点から、水溶性多孔質の多糖類が好ましい。
【0075】
水溶性多孔質の多糖類としては、例えば、水溶性多孔質セルロースエーテル、水溶性多孔質マルトデキストリン、水溶性多孔質デキストリンなどが挙げられるが、コンクリート組成物の粘度抑制やコンクリート組成物調製時の溶解性(すなわち、PEG誘導体の溶出性)の観点から水溶性多孔質マルトデキストリンが好ましい。
【0076】
本発明で用いる水溶性多孔質セルロースエーテルとしては、(E)水溶性セルロースエーテルのうち、粉体の嵩比重が、好ましくは0.10~0.25g/cmであり、より好ましくは0.14~0.20g/cmであるものを使用できる。
また、水溶性多孔質セルロースエーテルは、(E)水溶性セルロースエーテルを多孔質化し、含浸能を付与したものであり、コンクリート組成物への影響の観点では、(E)水溶性セルロースエーテルと同様の効果を奏する。
【0077】
本発明で用いる水溶性多孔質マルトデキストリン、水溶性多孔質デキストリンは、澱粉分解物及び/又は還元澱粉分解物を含む溶液を用いて調製される。
【0078】
(澱粉分解物)
ここでいう澱粉分解物は、澱粉を酸分解、アルカリ分解、酵素分解、又は焙焼処理等、これらを1種又は2種以上を任意に組み合わせることにより加水分解したものをいう。当該澱粉分解物は、1種の加水分解物を含むものであっても、また複数の加水分解物を組み合わせて含有するものであってもよい。なお、ここで用いられる澱粉には、例えば、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ等の天然澱粉;それらの加工澱粉(アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、リン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉)などの各種澱粉が挙げられる。
【0079】
(還元澱粉分解物)
また、ここでいう還元澱粉分解物は、上記の澱粉分解物を還元して糖アルコール化したものをいう。当該還元澱粉分解物は、1種の還元澱粉分解物を含むものであっても、また複数の還元澱粉分解物を組み合わせて含有するものであってもよい。
【0080】
(溶液)
澱粉分解物及び/又は還元澱粉分解物を含む溶液は、上記の澱粉分解物及び還元澱粉分解物から選択される少なくとも1種を溶媒に溶解させて得られるものである。ここで溶媒としては、特に制限されないが、例えば水、含水アルコールなどを用いることができ、好ましくは水である。かかる溶媒に溶解した溶液中の澱粉分解物及び還元澱粉分解物から選択される少なくとも1種の濃度は、制限はされないが、総量で10~60質量量%であることが好ましい。より好ましくは20~55質量%、更に好ましくは30~50質量%である。なお、デキストロース当量(DE)が低い澱粉分解物の溶液は粘度が高くなる傾向がある。そのため、DEが低い澱粉分解物を用いる場合、溶液の粘度が高くなりすぎないように溶液の濃度を低くすることが好ましい。例えば、DEが6以下の場合、溶液濃度を50質量%未満にすることが好ましい。
【0081】
本発明で用いる水溶性多孔質マルトデキストリン、水溶性多孔質デキストリンは、得られた当該溶液をドラムドライヤーで乾燥することにより製造される。乾燥操作に用いるドラムドライヤーは、公知のシングル式、ダブル式のドラムドライヤーがいずれも使用できるが好ましくはダブル式を用いる。その運転条件は、水溶性多孔質マルトデキストリン、水溶性多孔質デキストリンが得られる限り特に制約されず、通常の温度圧力、回転数が使用できるが通常ドラム内圧300~600kPa(140~170℃)、ドラム回転数0.8~1.33rpmとするのが好ましい。一般にドラム内蒸気温度が高い程好ましい嵩高い水溶性多孔質マルトデキストリン、水溶性多孔質デキストリンが得られるが、あまりに高くなりすぎると粉末が焦げついたりするおそれがあるため、上記乾燥条件を適宜選択するのがよい。
【0082】
水溶性多孔質粉体の嵩比重は、含浸のしやすさ、作業性及びコストの観点から、好ましくは0.10~0.25g/cmであり、より好ましくは0.14~0.20g/cmである。
【0083】
嵩比重は、以下の方法により算出される(実施例において同じ)。
すなわち、測定対象の水溶性多孔質粉体10g当量を充分乾燥したメスシリンダーに静かに投入し、そのメスシリンダーの目盛からその体積(ml)を測定する。これを10回繰り返して、測定された体積から平均体積A(ml)を算出して、次の数式から嵩比重を算出する。
嵩比重(g/cm)=10/A
【0084】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により求めた水溶性多孔質粉体の積算分子量分布における分子量10,000の濃度分率(すなわち、GPC分析で求めた微分分子量分布における総ピーク面積に対する分子量10,000以下の範囲のピーク面積の割合)は、溶解性及び材料分離抵抗性付与の観点から、好ましくは30~90%、より好ましくは45~85%、更に好ましくは70~85%である。
【0085】
上記積算分子量分布及び微分分子量分布の測定は、サイズ排除カラムを用いる高速液体クロマトグラム装置(GPC測定装置)に試験溶液を注入し、溶出時間を測定し、標準溶液の検量線により算出することができ、これらから水溶性多孔質粉体の積算分子量分布における分子量10,000の濃度分率を求めることができる。例えば、GPC測定装置(Shodex GPC-101(昭和電工株式会社製))、検出器(示差屈折計 RI-71S(昭和電工株式会社製))、カラム(TSKgel GMPWXL、φ7.8mm×300mmを2本連結したもの(東ソー株式会社製))を用いて測定される水溶性多孔質粉体の積算分子量分布から分子量10,000の濃度分率が求められる(実施例において同じ)。
【0086】
水溶性多孔質粉体(特には、水溶性多孔質マルトデキストリン、水溶性多孔質デキストリン)のデキストロース当量(DE)は、溶解性及び材料分離抵抗性付与の観点から、好ましくは2~18であり、より好ましくは6~16であり、更に好ましくは9~15である。
【0087】
ここで、デキストロース当量(DE)とは、Dextrose Equivalentの略であり、澱粉分解物の分解度(糖化率)の指標となる値であり、下式に示すように、試料中の還元糖をぶどう糖として表し、固形分に対する百分率として表されるソモギー変法による分析値である(実施例において同じ)。
「DE」=〔(直接還元糖(ブドウ糖として表示)の質量)/(固形分の質量)〕×100
なお、DEの最大値は100であり、澱粉を加水分解して得られた固形分の全てがぶどう糖であることを意味する。つまり、澱粉を完全に分解するとき、ぶどう糖100%となるため、DEは100となる。DEが小さくなるほど、分解の程度が低いことを意味する。
【0088】
本発明で用いる水溶性多孔質粉体は、上記要件を満たすものであれば特に制限はなく、また市販品でもよく、例えば多孔質澱粉分解物(多孔質デキストリン)であるパインフロー(松谷化学工業(株)製)、多孔質加工澱粉であるオイルQ No.50(日澱化學(株)製)等が挙げられる。
【0089】
水溶性多孔質粉体に対する(F)成分のPEG誘導体の含浸量は、PEG誘導体の含浸量が多すぎて粉末状添加剤がべたつかない程度の量であればよく、質量比で(水溶性多孔質粉体)/((F)成分のPEG誘導体)=1.0~3.3であることが好ましく、(水溶性多孔質粉体)/((F)成分のPEG誘導体)=1.5~2.5であることがより好ましい。(F)成分のPEG誘導体が多すぎると粉末状添加剤がべたつく場合があり、粉体の流動性が悪化する。一方、水溶性多孔質粉体が多すぎるとコンクリート組成物の凝結遅延が生じ、ブリーディング及び材料分離が生じる可能性がある。
【0090】
したがって、粉末状添加剤における上記PEG誘導体と水溶性多孔質粉体の含有比率(質量比PEG誘導体:水溶性多孔質粉体)は、粉体の流動性及び凝結遅延によるブリーディング及び材料分離抑制の観点から、好ましくは23.3:76.7~50:50であり、より好ましくは28.6:71.4~40:60である。
【0091】
(F)成分のPEG誘導体を含浸する前の水溶性多孔質粉体の乾式レーザー法による平均粒子径は、粉末状添加剤の溶解不良によるコンクリート組成物の流動性低下の観点から、好ましくは10~230μmであり、より好ましくは10~150μm、更に好ましくは10~50μmであり、かつ粒子径300μm以上の体積割合は、好ましくは0~10%であり、より好ましくは0~5%である。なお、粒子径300μm以上の体積割合が10%以上の場合、目開き300μmの篩で分級し、該篩を通過したものを使用することが好ましい。
【0092】
本発明で用いる粉末状添加剤(すなわち、(F)成分のPEG誘導体を含浸させた水溶性多孔質粉体)の乾式レーザー法による平均粒子径は、粉末状添加剤の溶解不良によるコンクリート組成物の流動性低下の観点から、好ましくは40~280μmであり、より好ましくは50~200μmであり、更に好ましくは60~150μm、特に好ましくは85~110μmであり、かつ粒子径300μm以上の体積割合は、好ましくは0~10%であり、より好ましくは0~3%である。
【0093】
水溶性多孔質粉体及び粉末状添加剤の平均粒子径(D50(メジアン径))及び粒子径300μm以上の体積割合は、英国Malvern社製のマスターサイザー3000やドイツSympatec社のHELOS装置を用いて、圧縮空気で粉体サンプルを噴出させたものにレーザー光を照射し、その回折強度により体積換算平均粒子径を測定する乾式レーザー回析法により測定される(実施例において同じ)。
【0094】
また、上記水溶性多孔質粉体の添加量は、質量比で(水溶性多孔質粉体)/(PEG誘導体)=1.0~3.3であることが好ましいため、コンクリート組成物1mあたり10~990g/mが好ましく、10~495g/mがより好ましい。
【0095】
((II)粉末状増粘剤の調製)
上述した粉末状添加剤にさらに上記(E)成分の水溶性セルロースエーテルの少なくとも一部を添加して粉末状増粘剤を調製する。このとき、(E)成分は、コンクリート組成物における規定量の少なくとも一部を添加すればよいが、その全部を添加することが好ましい。また、その他の成分として後述するガム類、消泡剤及び撥水剤から選ばれる少なくとも1種をさらに添加して粉末状増粘剤を調製してもよい。
【0096】
粉末状増粘剤中の(E)成分の水溶性セルロースエーテルの含有量は、好ましくは6~45質量%、より好ましくは7~40質量%、更に好ましくは8~35質量%である。
【0097】
また、粉末状増粘剤中の(F)成分のPEG誘導体の含有量としては、好ましくは10~35質量%であり、より好ましくは12~33質量%であり、更に好ましくは15~30質量%である。
【0098】
さらに、粉末状増粘剤中の水溶性多孔質粉体の含有量としては、好ましくは30~65質量%であり、より好ましくは33~63質量%であり、更に好ましくは35~60質量%である。
【0099】
なお、(F)成分のPEG誘導体と水溶性多孔質粉体の含有比率(質量比、PEG誘導体:水溶性多孔質粉体)は、上述した通りである。
【0100】
このとき、粉末状増粘剤中の(E)成分の水溶性セルロースエーテルと前述のPEG誘導体、水溶性多孔質粉体、及びその他の成分(添加された場合)の添加量の合計は、100質量%である。
【0101】
粉末状増粘剤中のガム類の含有量としては、添加された場合、好ましくは0.5~9質量%、より好ましくは2~7質量%である。
粉末状増粘剤中の消泡剤の含有量としては、添加された場合、好ましくは0.5~9質量%、より好ましくは2~7質量%である。
粉末状増粘剤中の撥水剤の含有量としては、添加された場合、好ましくは0.01~30質量%、より好ましくは1.8~20質量%である。
【0102】
粉末状増粘剤の調製にあたっては、粉体の一般的な混合方法によればよく、例えば攪拌造粒機、V型混合機、リボンミキサー、ナウターミキサー、スーパーミキサー等の公知の粉体混合機を使用し、標準の回転数で数10秒~数分程度混合攪拌すればよい。この場合の混合の際に投入する材料の順番は特に制限ないが、例えば、先ず撹拌機に上記粉末状添加剤を投入し、攪拌しつつ、次いで(E)成分、必要に応じて更に後述するその他の成分(ガム類、消泡剤、撥水剤)を投入し、攪拌するとよい。
【0103】
(コンクリート組成物を構成する成分の混合工程)
本発明に係るコンクリート組成物の製造方法は、上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程を少なくとも含み、該コンクリート組成物を構成する成分の混合工程に、調製された上記粉末状添加剤又は粉末状増粘剤を投入して混合することを特徴とする。
【0104】
ここで、上記コンクリート組成物を構成する成分の混合工程は、上記(B)成分の水以外の粉末状の成分すべてを空練りし、これに(B)水を加えて混練する工程、又は(B)水、(D)減水剤(液体状)以外の粉末状の成分すべてを空練りし、これに(B)水及び(D)減水剤(液体状)を加えて混練する工程を有することが好ましく、上記空練り工程で、上記粉末状添加剤又は粉末状増粘剤を投入することが好ましい。
【0105】
例えば、まず、強制二軸練りミキサーに、上記粉末状添加剤、(A)セメント、(C)骨材(細骨材及び/又は粗骨材)、(E)水溶性セルロースエーテル、(D)減水剤が粉末状の場合には(D)減水剤を入れ、空練りを行う。その後、(B)水を((D)減水剤が液体状の場合には(D)減水剤も)加えて混練してコンクリート組成物を得る。又は、強制二軸練りミキサーに、上記粉末状増粘剤(粉末状増粘剤に(E)成分の一部が添加された場合には(E)水溶性セルロースエーテルの残りも)、(A)セメント、(C)骨材(細骨材及び/又は粗骨材)、(D)減水剤が粉末状の場合には(D)減水剤を入れ、空練りを行う。その後、(B)水を((D)減水剤が液体状の場合には(D)減水剤も)加えて混練してコンクリート組成物を得る。これらの製造過程において、上記粉末状添加剤及び上記粉末状増粘剤は、粉末状であることからその取り扱いが容易であり、コンクリート組成物を容易に製造することができる。
【0106】
本発明のコンクリート組成物の製造方法における粉末状添加剤の添加量は粉末状増粘剤の添加量は、流動性、材料分離抵抗性付与及び耐凍害性の観点から、それぞれコンクリート1mあたり、好ましくは0.025~10.0kg/m、より好ましくは0.05~5.0kg/mである。
【0107】
(その他の成分(その1))
本発明のコンクリート組成物の製造方法において、上記(A)~(F)成分に加えて、ガム類、消泡剤、撥水剤等のその他の成分を添加してもよい。特にこれらの成分が液体の場合、コンクリート組成物製造時に使用する水に溶解、分散して使用するのが好ましい。
なお、ガム類、消泡剤、撥水剤の成分は、粉末状である場合、上述の粉末状増粘剤に含まれる態様でもよい。
【0108】
(ガム類)
ガム類は、従来のコンクリート組成物に使用されるものであれば特に制限されないが、コンクリート組成物の流動性と材料分離抵抗性付与の観点から、ダイユータンガム、ウェランガム、キサンタンガム、ジェランガムが好ましい。ガム類は、一種類又は二種類以上のガム類を用いることができる。
【0109】
ダイユータンガムは、D-グルコース、D-グルクロン酸、D-グルコースとL-ラムノース及び2つのL-ラムノースより構成されており、例えば、商品名KELCO-CRETE-DG-F(CPKelco社)などの市販品を用いることができる。
ウェランガムは、D-グルコース、D-グルクロン酸及びL-ラムノースが2:2:1の割合で結合した主鎖に、L-ラムノース又はL-マンノース側鎖が結合した構造である。例えば、商品名CP KELCO K1A-96(CP Kelco社)などの市販品を用いることができる。
キサンタンガムは、セルロースと同様、主鎖がD-グルコースのβ-1,4結合であり、側鎖がマンノース2個とグルクロン酸1個より構成されている。例えば、商品名KELZAN(三晶(株))などの市販品を用いることができる。
ジェランガムは、D-グルコース、D-グルクロン酸及びL-ラムノースが2:1:1の割合で結合した4つの糖を反復単位とするヘテロ多糖類である。例えば、商品名KELCOGELAFT(CPKelco社)などの市販品を用いることができる。
【0110】
ガム類は粉体又は水溶液のいずれの形態で添加してもよいが、取り扱いの容易さの観点から粉体での添加が好ましい。
【0111】
コンクリート組成物1mあたりのガム類の添加量としては、流動性と材料分離抵抗性付与の観点から、配合する場合5~100g/mとなる量が好ましく、5~30g/mとなる量がより好ましく、10~30g/mとなる量がさらに好ましい。
【0112】
(消泡剤)
コンクリート組成物の強度を得るために、消泡剤を必要に応じて添加してもよい。消泡剤は、消泡性能の観点から、オキシアルキレン系、シリコーン系、アルコール系、脂肪酸エステル系等が使用されるが、耐凍害性の観点から好ましくはオキシアルキレン系消泡剤である。
【0113】
オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2-エチルヘキシルエーテル、炭素原子数8以上の高級アルコールや炭素原子数12~14の2級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類; 2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール,3-メチル-1-ブチン- 3-オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等が挙げられる。
【0114】
シリコーン系消泡剤としては、例えば、ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
【0115】
アルコール系消泡剤としては、例えば、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等が挙げられる。
【0116】
脂肪酸エステル系消泡剤としては、例えば、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等が挙げられる。
【0117】
コンクリート組成物1mあたりの消泡剤の添加量としては、流動性と材料分離抵抗性両立の観点から、配合する場合、5~100g/mとなる量が好ましく、10~30g/mとなる量がより好ましい。
【0118】
(撥水剤)
本発明で使用される撥水剤は、水と接すると接触角を大きくし水を弾く性質を付与する物質であり、従来のコンクリート組成物に使用されるものであれば特に制限されないが、例えば、流動パラフィン、スクワラン、パラフィン、ワセリン等炭化水素類、ミツロウ、ホホバ油、カルナバロウ等のロウ類、トリイソステアリン酸グリセリル、トリオクタン酸グリセリル等のトリグリセリド、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸セチル等エステル油、セタノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、オリーブ油、ヒマシ油等の植物油類、ステアリン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸マグネシウム等脂肪酸塩類が挙げられる。その中で特に脂肪酸塩類を用いることが好ましく、添加量削減の観点から、ステアリン酸カルシウムを用いることがより好ましい。ステアリン酸カルシウムは、例えば富士フィルム和光純薬社製の試薬を用いることができる。
撥水剤は、取り扱いの煩雑さの観点から粉末での添加が好ましい。
【0119】
コンクリート組成物1mあたりの撥水剤の添加量としては、撥水性付与の観点から、配合する場合、0.05~200g/mとなる量が好ましく、10~100g/mとなる量がより好ましい。
【0120】
(その他の成分(その2))
さらに、本発明のコンクリート組成物の製造方法において、その他の成分(その2)として、AE剤、凝結遅延剤、膨張材を必要に応じて添加してもよい。
【0121】
(AE剤)
本発明のコンクリート組成物には、所定の空気量を確保し、コンクリート組成物の耐久性を得るために、AE剤(Air Entraining Agent)を必要に応じて併用してもよい。AE剤としては、陰イオン界面活性剤系、陽イオン界面活性剤系、非イオン界面活性剤系、両性界面活性剤系、ロジン系界面活性剤系等のAE剤が挙げられる。陰イオン界面活性剤系としては、樹脂酸塩型、カルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型等が挙げられる。陽イオン界面活性剤系としては、アミン塩型、第1級アミン塩型、第2級アミン塩型、第3級アミン塩型、第4級アミン塩型等が挙げられる。非イオン界面活性剤系としては、エステル型、エステル・エーテル型、エーテル型、アルカノールアミド型等が挙げられる。両性界面活性剤系としては、アミノ酸型、スルホベタイン型等が挙げられる。ロジン系界面活性剤系としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸等が挙げられる。
AE剤のコンクリート組成物1mあたりの添加量としては、1mあたりの単位セメント量Cに対して、好ましくは0.0001~0.050質量%である。
【0122】
(凝結遅延剤)
本発明のコンクリート組成物には、練混ぜ直後のコンクリート組成物の物性を管理するため、塩化カルシウム、塩化リチウム、蟻酸カルシウム等の凝結促進剤や、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等の凝結遅延剤を必要に応じて使用することができる。
コンクリート組成物中の凝結遅延剤の添加量は、1mあたりの単位セメント量に対して、好ましくは0.3~1.2質量部である。
【0123】
(膨張材)
更に、本発明のコンクリート組成物には、硬化・乾燥による収縮ひび割れ、セメントの水和反応熱による温度応力に伴うひび割れ防止のために、アウイン系や石灰系の膨張材を必要に応じて添加することができる。
コンクリート組成物中の膨張材の添加量は、1mあたりの単位セメント量に対して、好ましくは3~20質量部である。
【0124】
コンクリート組成物の耐凍害性を良好にするためには、コンクリート組成物中の空気量のうち、気泡径500μm超2000μm以下の大きな気泡を減らし、気泡径50μm超500μm以下の小さな気泡を増やすことが好ましい。空気の泡の大きさの評価指数として気泡間隔係数が用いられ、目安としては、気泡間隔係数が250μmより小さいと耐凍害性が良好になるといわれている。エアボイドアナライザーによる気泡間隔係数の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。また気泡間隔係数を評価する際、空気量の増減によって気泡間隔係数も変化するため、コンクリートもしくはモルタルの空気量を統一して評価することが好ましい。
【0125】
以上のようにして、コンクリート組成物の高い流動性を有しながら材料分離抵抗性が確保され、かつ優れた耐凍害性を有する流動性の高いコンクリート組成物が得られる。
【実施例0126】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの2質量%水溶液粘度は、第18改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定した20℃における粘度である。
【0127】
I)「粉末状添加剤及び粉末状増粘剤の調製」
以下の材料を使用して粉末状添加剤及び粉末状増粘剤を調製した。
<使用材料>
(1)ポリエチレングリコール(PEG)誘導体((F)成分):明細を表1に示す。
<IOB値の計算>
使用したポリエチレングリコール(PEG)誘導体のIOB(Inorganic Organic Balance)値を以下のようにして求めた。
対象の化合物の有機性値、無機性値を、化合物の基(部位)ごとにあらかじめ決められた値を、それぞれ分子全体について合計することによって求めた。各化合物の基(部位)ごとにあらかじめ決められた値は、“乳化処方設計へのアプローチ(日本語版)p.2-9[online]、日本エマルジョン株式会社、有機概念図による乳化処方設計とは?(非特許文献1)のp.2図2「計算方法例」及びp.9付表1「無機性基、有機性兼有無機性基表」を参照した。
得られた無機性値(IV)及び有機性値(OV)を以下の式に当てはめてIOB値を求めた。
IOB値=無機性値(IV)/有機性値(OV)
その計算例を以下に示す。
F1:モノステアリン酸ポリエチレングリコール(C1735COO(CO)30H)の場合、構造式を「C1735CO・OCHCH(OCHCH30-1-OH」のように、繰り返し単位(CO)の1つ目の単位を使って、(-COOR)「‐OCHCH」となるように変形して求めた。
・有機性値=78(Cの個数)×20(Cの有機性値)=1560
・無機性値=60(-COORの無機性値)+75(-OCHCHの無機性値)×29(-OCHCHの個数)+100(-OHの無機性値)=2335
以上より、IOB値=2335/1560≒1.50となった。
<重量平均分子量の測定>
重量平均分子量は、GPC測定装置(HLC-8220GPC(東ソー株式会社社製))、検出器(示差屈折計 RI-71S(昭和電工株式会社製))、カラム(TSK-gel G5000HxL(7.8×300mm)×1、G4000HxL(7.8×300mm)×1、G3000HxL(7.8×300mm)×1、G2000HxL(7.8×300mm)×1(東ソー株式会社製))を用いてテトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析によるポリスチレン換算の重量平均分子量として求めた。具体的には以下のように測定した。
使用したポリエチレングリコール(PEG)誘導体約0.01gを採取し、THF(テトラヒドロフラン)約10mL加え、ポリエチレングリコール(PEG)誘導体を溶解させ、得られた液を試験溶液とした。試験溶液及び標準品のポリスチレン(東ソー株式会社製)をGPC測定装置に100μm注入し、THF(テトラヒドロフラン)を移動相に用いて、1.0mL/minの流速で、カラム温度40℃の測定条件にて測定した。得られた結果を480IIデータステーションGPCプログラム(システム・インスツルメンツ株式会社)を用いて解析した。分子量の計算は、外挿線法(一次)を用いてAUTO Fittingにて計算し、重量平均分子量(Mw)を測定した。分子量の推定は分子量標準品のポリスチレン溶液の溶出時間及び分子量をもとに作成した検量線を用いて行った。
(2)水溶性多孔質粉体:明細を表2に示す。
<積算分子量分布における分子量10,000の濃度分率(%)>
ここで使用した水溶性多孔質粉体の積算分子量分布における分子量10,000の濃度分率(%)の測定方法を示す。
分子量分布の測定は、サイズ排除カラムを用いる高速液体クロマトグラム装置(GPC測定装置)に試験溶液を注入し、溶出時間を測定し、標準溶液の検量線により算出することができ、これらから水溶性多孔質粉体の積算分子量分布における分子量10,000の濃度分率を求めることができる。ここでは、GPC測定装置(Shodex GPC-101(昭和電工株式会社製))、検出器(示差屈折計 RI-71S(昭和電工株式会社製))、カラム(TSKgel GMPWXL、φ7.8mm×300mmを2本連結したもの(東ソー株式会社製))を用いて以下のように測定した。
水溶性多孔質粉体約0.01gを採取し、0.1mol/L硝酸ナトリウム溶液約10mLを加えた。室温で一晩放置した後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、得られた液を試験溶液とした。試験溶液及び標準品のプルラン溶液(昭和電工株式会社製)をGPC測定装置に100μL注入し、0.1mol/Lの硝酸ナトリウム溶液を移動相に用いて、1.0mL/minの流速で、カラム温度40℃の測定条件にて測定した。得られた結果を480IIデータステーションGPCプログラム(システム・インスツルメンツ株式会社)を用いて解析した。得られたピーク曲線にベースラインを引き、ピークを指定した後、検量線を用いて溶出時間を分子量に換算し、ピーク面積を求め、それぞれの溶出時間の濃度分率を求めた。濃度分率を順次積算していき、横軸に分子量(対数値)、縦軸に濃度分率の積算値をプロットすることで積分分子量分布を作成した。作成した積分分子量分布から分子量10,000の濃度分率を求めた。分子量の推定は分子量標準品のプルラン溶液の溶出時間及び分子量をもとに作成した検量線を用いて行った。
<嵩比重>
ここで、嵩比重は、以下の方法により算出した。
すなわち、測定対象の水溶性多孔質粉体10g当量を充分乾燥したメスシリンダーに静かに投入し、そのメスシリンダーの目盛からその体積(ml)を測定した。これを10回繰り返して、測定された体積から平均体積A(ml)を算出した。嵩比重(g/cm)=10/Aの数式にAを代入し、嵩比重を求めた。
(3)ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(CE)((E)成分):明細を表3に示す(信越化学工業株式会社製)。
(4)撥水剤:ステアリン酸カルシウム(StCa):(試薬(富士フィルム和光純薬株式会社製))
(5)消泡剤I(DF-1):ポリエーテル系消泡剤I(消泡剤成分をシリカへ含浸したもの)
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
(粉末状添加剤及び粉末状増粘剤(実施例1~13)の調製)
表4に示す材料の組み合わせで粉末状添加剤を調製した。すなわち、小型攪拌造粒機としてバーチカルグラニュレーター(FM-VG-05パウレック社製)を使用し、水溶性多孔質粉体とPEG誘導体の合計重量が200gとなるように表4に示す配合割合(質量%)に基づいて水溶性多孔質粉体を計量してバーチカルグラニュレーターのジャケット内にこの水溶性多孔質粉体を投入し、ジャケット内温度を、投入するPEG誘導体が常温(20℃(以下、同じ))で固体の場合、PEG誘導体の融点±2℃に調整し、常温で液体の場合、20±2℃に調整した。次いでPEG誘導体を所定の重量(上記水溶性多孔質粉体と合計して200gとなる量)で計量し、バーチカルグラニュレーターに付属の漏斗に投入した。但しPEG誘導体が常温で固体の場合、事前に湯浴により融解させて計量した。バーチカルグラニュレーターのブレードを450rpm、チョッパーを3000rpmに設定し、攪拌を開始し、漏斗のバルブを開き、30秒間でPEG誘導体を投入した。さらに2.5分間攪拌を継続した。攪拌を終えた後、作製した粉体を目開き300μmの篩で分級し、粉末状添加剤を得た。
【0132】
得られた粉末状添加剤に、さらに表4に示す水溶性セルロースエーテルを所定の配合割合(質量%)となるように添加し、バーチカルグラニュレーターにより粉末状添加剤調製時と同じ回転数(ブレードを450rpm、チョッパーを3000rpm)で30秒間混合して、粉末状増粘剤(増粘剤No.1)を調製した(実施例1)。
また、実施例1(増粘剤No.1)において、水溶性セルロースエーテルの添加量を変更し、さらに消泡剤及びガム類を添加したものを実施例2~8,10~13(増粘剤No.2~8,10~13)とし、実施例1(増粘剤No.1)において、水溶性セルロースエーテルの添加量を変更し、さらに消泡剤、ガム類及び撥水剤(ステアリン酸カルシウム)を添加したものを実施例9(増粘剤No.9)とした。
なお、実施例1(増粘剤No.1)において、粉末状増粘剤におけるPEG誘導体をイソステアリン酸PEG-10BGに変更したものを実施例10(増粘剤No.10)とし、実施例1(増粘剤No.1)において、粉末状増粘剤におけるPEG誘導体をステアリン酸PEG-20に変更したものを実施例11、12(増粘剤No.11および12)とした。
実施例1~13の粉末状増粘剤(増粘剤No.1~13)はいずれもべたつくことがなく、取り扱いが容易な粉体であった。
また、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC-1)及び消泡剤Iをバーチカルグラニュレーターにより粉末状増粘剤調製時と同じ回転数で30秒間混合したもの比較例1とし、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC-1)及び消泡剤Iを、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC-1)、消泡剤I及びガム類に変更したもの(比較増粘剤No.2)を比較例2とした。
【0133】
【表4】
【0134】
II)「コンクリート組成物の調製」
以下の材料を使用してコンクリート組成物を調製した。
<使用材料>
(1)粉末状増粘剤等:増粘剤No.1~13、比較増粘剤No.1,2(表4)
(2)水(W):上水道水
(3)セメント(C):普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/cm、太平洋セメント(株)製)
(4)減水剤(高性能AE減水剤(D成分)):ポリカルボン酸コポリマー(チューポールHP-11、竹本油脂(株)製)(C×1.15質量%,C×1.45質量%)
(5)AE剤:樹脂酸塩型陰イオン界面活性剤(AE-300、竹本油脂(株)製、100倍希釈液で使用:1A=C×0.001質量%)
(6)細骨材(S)((C)成分(1)):陸砂(信濃川産、表乾密度:2.60g/cm、吸水率:2.07%、粗粒率:2.79、実積率:66.3%)
(7)粗骨材(G):砕石((C)成分(2))(20-5mm、表乾密度:2.69g/cm、吸水率:1.35%、粗粒率:6.55、実積率:58.5%)
【0135】
表5に示すコンクリート配合により試験した。すなわち、水セメント比は、55.0%、細骨材率は、52.9%とし、水175kg/m、セメント318kg/m、細骨材931kg/m、粗骨材861kg/mの単位量とした。
【0136】
また表5に示すコンクリートへの処方(添加成分)で、コンクリート組成物を製造した。なお、表4中、粉末状増粘剤としてのPEG誘導体、水溶性多孔質粉体、水溶性セルロースエーテル、消泡剤I、ガム類及び撥水剤(ステアリン酸カルシウム)の添加量はコンクリート組成物1mに対するグラム数(g/m)であり、高性能AE減水剤の添加量はセメント(C)に対して記載の質量%となる量(C×%)であり、AE剤の添加量は記載の量(単位A:1Aはセメント(C)に対して0.001質量%となる量)である。
【0137】
なお、空気量が4.5±0.5%となるように、AE剤及び消泡剤IIの添加量を調整した。
実施例1~11、比較例1,2について、後述するスランプフローが60.0±2.0cmとなるように高性能AE減水剤の添加量を1.45(C×%)で一定とした。
実施例12,13についてスランプフローを45.0±2.0cmとするため、高性能AE減水剤の添加量を変更した。
【0138】
コンクリート組成物の製造は、60リットルの強制二軸練りミキサー(WHQ-60A (株)北川鉄工所製)により行った。粉体材料としてセメント、細骨材、粗骨材、表4に示す粉末状増粘剤等(増粘剤No.1~13、比較増粘剤No.1,2)を入れ、空練りを10秒間行った。その後、液体材料として高性能AE減水剤、AE剤、場合によって消泡剤II及び水を加えて、90秒間混練し、コンクリート組成物を得た。1バッチあたりのコンクリート組成物の練り混ぜは50リットルとした。なお水は、必要重量から液体材料として使用した水以外の液体材料の重量を差し引いた重量を使用した。
【0139】
【表5】
【0140】
得られたコンクリート組成物について、下記の条件で試験を行った。
<フレッシュ物性>
(コンクリート温度)
コンクリート組成物の練り上がり温度は、20±3℃になるように材料温度を調整した。
デジタル式温度計(型番SN3200II、(株)熱研製)の測温センサーをコンクリート組成物中に挿入し、コンクリート温度を測定した。その結果、すべてのコンクリート組成物が20±3℃の範囲内に収まっていた。
(スランプフロー)
JIS A 1150に準じて試験を行った。
(500mmフロー到達時間)
JSCE-F 516-2012(高流動コンクリートの500mmフロー到達時間試験方法)に準じて試験を行った。なお、実施例12及び13は中流動コンクリートであるため、この試験項目は行っていない。
(充填高さ)
JSCE-F 511-2018(高流動コンクリートの充填試験方法(案))に準じて試験を行った。実施例12,13については、障害ランク3、それ以外は、障害ランク2により試験を行った。
(空気量試験)
製造直後(練混ぜ直後)のコンクリート組成物について、JSCE-F 513-2018(高流動コンクリートの空気量の圧力による試験方法)(空気室圧力方法)に準拠して空気量(容積%)を測定した。
(ブリーディング率)
製造直後(練混ぜ直後)のコンクリート組成物について、JIS A 1123に準拠してブリーディング率を測定した。
ブリーディング率によって、材料分離の評価を行った。
(エアボイドアナライザー(AVA)試験)
((気泡間隔係数))
エアボイドアナライザー(AVA;商品名、ジャーマンインストゥルメンツ社製)にて耐凍害性の指標となる気泡間隔係数の測定を行った。予めグリセリン(和光純薬工業(株)製)及び水を質量比でグリセリン/水=83/17の割合で混合し、AVA測定用溶液を調製した。
練混ぜ後のコンクリート組成物を目開き5mmの篩に通し、気泡間隔係数評価用モルタル組成物を得て、専用のシリンジに20ml採取した。測定用カラムに水約2000mlを注入し、カラム壁面に付着した気泡を刷毛で取り除いた後、予め上記で調製したAVA測定用溶液250mlを専用の器具を用いてカラムの底部に注入した。注入後、カラムの水面付近に気泡採取用のペトリ皿を設置し、測定部分に固定した。シリンジに採取したモルタル組成物20mlをカラムの底部に注入した後、モルタル組成物を30秒間撹拌し、液中にモルタル組成物の連行空気を十分に放出させた。放出させた気泡を経時で測定することにより、気泡間隔係数を測定した。
気泡間隔係数の計算に際して、フレッシュコンクリートの空気量以外にモルタル組成物全体積より5mm以上の骨材の占める体積を除いた値(モルタル容積率)及びペーストの占める体積(ペースト容積率)が必要となる。モルタル容積率及びペースト容積率は下記の式(I)及び(II)より算出した。
モルタル容積率(%)=[(VB+VW+VS)/1000]×100 (I)
ペースト容積率(%)=[(VB+VW)/1000]×100 (II)
B:セメントの体積(=セメント単位量(kg)/セメントの比重)
W:水、AE剤及び減水剤等の液体添加剤の体積(単位水量と同じとする)
S:5mm以下の骨材の体積(=細骨材の単位量/細骨材の比重)
((気泡径区分ごとの気泡割合))
上述の手順により、エアボイドアナライザー(AVA;商品名、ジャーマンインストゥルメンツ社製)を起動させると自動的に測定が開始される。粗く、大きな気泡は、より早くカラム内を上昇してペトリ皿の下に捕集され、細かく、小さな気泡は、より遅くカラム内を上昇する。ペトリ皿の経時の重量測定により、気泡径区分ごとの気泡割合が自動的に算出される。
((空気量(容積%)))
気泡径区分ごとの気泡割合の総和が空気量(容積%)となる。
<硬化物性>
(圧縮強度)
JIS A 1108準じて、材齢28日のコンクリート硬化体について圧縮強度試験を行った。供試体寸法はφ10×20cmとし、供試体本数は3本として、平均値を各水準の圧縮強度として評価した。
(凍結融解試験)
JIS A 1148-2010中のA法に準じて試験を行い、最大300サイクルまでの相対動弾性係数を測定した。供試体の寸法(縦×横×長さ)は、100×100×400mmとし、供試体本数は3本として、平均値を各水準の相対動弾性係数として、算出した。また、300サイクル到達前に相対動弾性係数が60%以下になった場合は、そのサイクルで試験終了とした。
得られた相対動弾性係数を用いて、次式により、耐久性指数を算出し、四捨五入によって整数に丸めたものを耐久性指数とした。得られた耐久性指数が60以上を耐凍害性に優れると判断した。
耐久性指数=P×N/M
(式中、P;Nサイクルのときの相対動弾性係数(%)、N;相対動弾性係数が60%になるサイクル数、又は300サイクルのいずれか小さいもの、M;300サイクル)
以上の試験結果を表6に示す。
【0141】
【表6】
【0142】
以上の結果、実施例1~8より、(F)成分のPEG誘導体の添加量が変化した場合や(E)成分の水溶性セルロースエーテルの粘度や置換度、化学構造が変化した場合であっても、(F)成分のPEG誘導体を水溶性多孔質粉体に含浸させてなる粉末状添加剤を使用することによって、コンクリート組成物の流動性、ブリーディング低減効果及び規定の充填高さを維持したまま(すなわち材料分離抵抗性が保持されたまま)、耐凍害性が優位に改善されることがわかった。なお、材料分離抵抗性は上記ブリーディング率と充填高さが指標となり、ブリーディング率は低減されているほど、かつ充填高さが高流動コンクリートでは、30cm以上(障害:ランク2)、中流動コンクリートでは、28cm以上(障害:ランク3)であれば材料分離抵抗性があると評価できる。
また、実施例9より、撥水剤であるステアリン酸カルシウムを加えることで、コンクリート組成物の流動性、ブリーディング低減効果及び規定の充填高さを維持したまま(すなわち材料分離抵抗性が保持されたまま)、耐凍害性がさらに改善されることがわかった。
また、実施例10、11のPEG誘導体の構造が変化した場合や、実施例12,13のコンクリート組成物の流動性が変化した場合においても同様に、コンクリート組成物の流動性、ブリーディング低減効果及び規定の充填高さを維持したまま(すなわち材料分離抵抗性が保持されたまま)、耐凍害性が優位に改善されることがわかった。
また本実施例では、粉末状増粘剤は粉末で使用でき、取り扱い性は、良好であった。
一方、消泡剤I(DF-1):ポリエーテル系消泡剤I(消泡剤成分をシリカへ含浸したもの)と水溶性セルロースエーテル(HPMC-1)とを組み合わせた比較例1及び消泡剤Iと水溶性セルロースエーテル(HPMC-1)及びガム類とを組み合わせた比較例2では、粉末で使用できるため、取り扱い性の改善は見られるものの、流動性、ブリーディング低減効果及び耐凍害性の3点の改善は見られなかった。
【0143】
なお、これまで本発明を上記実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。