(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175242
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】混練状態推定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/28 20060101AFI20241211BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20241211BHJP
B29B 7/10 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
B29B7/28
G01M99/00 Z
B29B7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092857
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀 雅文
(72)【発明者】
【氏名】大橋 政孝
(72)【発明者】
【氏名】折内 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】笹村 達也
【テーマコード(参考)】
2G024
4F201
【Fターム(参考)】
2G024AD08
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA28
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
4F201AJ08
4F201AM23
4F201AQ02
4F201AR08
4F201AR10
4F201AR20
4F201BA01
4F201BC02
4F201BC13
4F201BK01
4F201BK21
4F201BK80
(57)【要約】
【課題】混練状態を精度よく推定可能な混練状態推定装置及び方法を提供する。
【解決手段】混練状態推定装置1は、混練機10に設けられ、振動を検知するセンサ11と、センサ11の出力を周波数解析すると共に、周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、区間毎のセンサ11の出力の強度の分布を示すスペクトルを求める解析処理部22と、混練が十分に行われた正常混練時におけるスペクトルを含む学習用データを用いて予め学習を行い作成された学習済モデル33を用いて、混練状態の推定対象となるスペクトルに対応する混練状態を推定する推定処理部23と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練機に設けられ、振動を検知するセンサと、
前記センサの出力を周波数解析すると共に、前記周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、前記区間毎の前記センサの出力の強度の分布を示すスペクトルを求める解析処理部と、
混練が十分に行われた正常混練時における前記スペクトルを含む学習用データを用いて予め学習を行い作成された学習済モデルを用いて、混練状態の推定対象となる前記スペクトルに対応する混練状態を推定する推定処理部と、を備えた、
混練状態推定装置。
【請求項2】
前記推定処理部は、
正常混練時における前記スペクトルを繰り返し学習したオートエンコーダからなる前記学習済モデルに、混練状態の推定対象となる前記スペクトルを入力し、前記オートエンコーダから出力された前記スペクトルである予測スペクトルを求めるスペクトル予測処理部と、
混練状態の推定対象となる前記スペクトルと、前記予測スペクトルとの乖離の度合を基に、混練状態を推定する混練状態推定処理部と、を有する、
請求項1に記載の混練状態推定装置。
【請求項3】
前記混練状態推定処理部は、前記乖離の度合の指標として、混練状態の推定対象となる前記スペクトルと、前記予測スペクトルの対応する区間同士での強度差の二乗を総和した異常度を用いる、
請求項2に記載の混練状態推定装置。
【請求項4】
前記センサが、アコースティックエミッションセンサ、または加速度センサである、
請求項1に記載の混練状態推定装置。
【請求項5】
混練機に設けられ、振動を検知するセンサの出力を周波数解析すると共に、前記周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、前記区間毎の前記センサの出力の強度の分布を示すスペクトルを求める解析工程と、
混練が十分に行われた正常混練時における前記スペクトルを含む学習用データを用いて予め学習を行い作成された学習済モデルを用いて、混練状態の推定対象となる前記スペクトルに対応する混練状態を推定する推定工程と、を備えた、
混練状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練状態推定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、バッチ式混練機や押出機等を用いて、プラスチックやゴム材料とフィラー(例えば、金属水酸化物、ガラス繊維、炭素繊維など)を混練してコンパウンドを製造することが行われている。特許文献1では、混練機に設けたアコースティックエミッションセンサの出力をフーリエ変換し波形分析を行うことで、混練状態を把握することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、波形分析の結果を基にどのよう処理を行って混練状態を推定するかが不明であった。波形分析の結果は膨大なデータとなるため、膨大なデータを効率よく処理しつつも、混練状態を精度よく推定することが望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、混練状態を精度よく推定可能な混練状態推定装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、混練機に設けられ、振動を検知するセンサと、前記センサの出力を周波数解析すると共に、前記周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、前記区間毎の前記センサの出力の強度の分布を示すスペクトルを求める解析処理部と、混練が十分に行われた正常混練時における前記スペクトルを含む学習用データを用いて予め学習を行い作成された学習済モデルを用いて、混練状態の推定対象となる前記スペクトルに対応する混練状態を推定する推定処理部と、を備えた、混練状態推定装置を提供する。
【0007】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、混練機に設けられ、振動を検知するセンサの出力を周波数解析すると共に、前記周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、前記区間毎の前記センサの出力の強度の分布を示すスペクトルを求める解析工程と、混練が十分に行われた正常混練時における前記スペクトルを含む学習用データを用いて予め学習を行い作成された学習済モデルを用いて、混練状態の推定対象となる前記スペクトルに対応する混練状態を推定する推定工程と、を備えた、混練状態推定方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、混練状態を精度よく推定可能な混練状態推定装置及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る混練状態推定装置の概略構成図である。
【
図4】(a)は異常度の変化の一例を示すグラフ図であり、(b)は、(a)における実施例1の1917sでの実測スペクトルであり、(c)は(a)における実施例2の1782sでの実測スペクトルである。
【
図5】本実施の形態に係る混練状態推定方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る混練状態推定装置1の概略構成図である。
図1に示すように、混練状態推定装置1は、混練機10に設けられた振動を検知するセンサ11の出力を基に、混練が正常に行われているか、あるいは異常があるかといった混練状態の推定を行う装置である。
【0012】
混練機10は、例えば、バッチ式の二軸混練機などである。本実施の形態では、センサ11として、アコースティックエミッションセンサ(以下、AEセンサ)11aを用いた。AEセンサ11aは、混練時に材料の内部での局所的な破壊等の弾性エネルギの解放によって生じる弾性波を検出するセンサである。本実施の形態では、センサ11としてAEセンサ11aを用いたが、これに限らず、例えばより低周波でのセンシングが望まれる場合には、加速度センサを用いることができる。また、AEセンサ11aと加速度センサの組合せ等、種々のセンサを組合せて用いてもよい。
【0013】
混練状態推定装置1は、制御部2と記憶部3とを有する演算装置12を備えている。演算装置12には、表示器4が接続されており、混練状態の推定結果や各種のデータ等を表示器4に表示可能に構成されている。また、演算装置12にはキーボード等の入力装置5が設けられており、入力装置5の入力により各種設定や表示器4の表示内容の操作が行えるようになっている。なお、表示器4をタッチパネルディスプレイで構成して、表示器4が入力装置5を兼ねるように構成してもよい。さらに、表示器4や入力装置5は、演算装置12と有線接続されていなくてもよく、無線により接続されていてもよい。この場合、表示器4や入力装置5は、例えばスマートフォンやタブレットであってもよい。
【0014】
制御部2には、データ取得処理部21、解析処理部22、及び推定処理部23が搭載されている。これらデータ取得処理部21、解析処理部22、及び推定処理部23は、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ソフトウェア、インターフェイス、記憶装置等を適宜組み合わせて実現されている。各部の詳細については後述する。記憶部3は、メモリや記憶装置の所定の記憶領域により実現されている。
【0015】
(データ取得処理部21)
データ取得処理部21は、混練時に、AEセンサ11aからの出力を受信し、受信したデータを測定データ31として記憶部3に記憶するデータ取得処理を行う。
【0016】
(解析処理部22)
AEセンサ11aでは、例えば、1秒間に2百万点程度のデータが得られるため、そのままではデータ量が多すぎて効率的な処理が困難である。そこで、解析処理部22は、AEセンサ11aの出力(すなわち測定データ31)を周波数解析すると共に、周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、区間毎のAEセンサ11aの出力の強度の分布を示すスペクトルを求める解析処理を行う。解析処理は、本発明の解析工程に相当する。
【0017】
より詳細には、
図2に示すように、解析処理部22は、AEセンサ11aから得た測定データ31のうち所定の期間(例えば8秒など)のデータに対して、高速フーリエ変換(FFT)を行い、周波数毎の強度のデータへと変換する(
図2の右上)。なお、使用する測定データ31の期間が短すぎると周期性が損なわれて推定精度が低下するため、ある程度長い時間(周期性が損なわれない程度の時間)に設定する必要がある。
【0018】
上記の高速フーリエ変換を行ったのみではまだデータ数が多すぎるため、解析処理部22は、周波数を所定の区間毎に区切り、区間毎のAEセンサ11aの出力の強度の分布を積算してヒストグラム化を行い、強度スペクトルを得る(
図2の左下)。本実施の形態では、さらに、得られた強度スペクトルから所定の周波数範囲のみを抽出して不要な周波数のデータを削除してデータ数を削減した(
図2の右下)。削減後のデータ数は、例えば20~100程度とするとよい。使用する周波数範囲については、予め実験を行い、混練状態の正常、異常を判定しやすい周波数範囲に設定するとよく、混練する材料や混練機10の種類等に応じて適宜設定することができる。解析処理により得られたスペクトル(以下、実測スペクトルという)のデータは、スペクトルデータ32として記憶部3に記憶される。
【0019】
(推定処理部23)
推定処理部23は、予め作成された学習済モデル33を用いて、混練状態の推定対象となるスペクトルに対応する混練状態を推定する推定処理を行う。この学習済モデル33は、混練が十分に行われた正常混練時におけるスペクトルを含む学習用データを用いて学習を行い作成されたものである。なお、推定処理は、本発明の推定工程に相当する。推定処理部23は、スペクトル予測処理部231と、混練状態推定処理部232と、を有している。
【0020】
(スペクトル予測処理部231)
スペクトル予測処理部231は、予め作成されたオートエンコーダからなる学習済モデル33に、混練状態の推定対象となる実測スペクトルを入力し、オートエンコーダから出力されたスペクトルである予測スペクトルを求めるスペクトル予測処理を行う。スペクトル予測処理で得られた予測スペクトルは、予測スペクトルデータ34として記憶部3に記憶される。
【0021】
図3は、スペクトル予測処理を説明する図である。
図3に示すように、スペクトル予測処理では、学習済モデル33であるオートエンコーダに、実測スペクトル(各区間の強度)を入力し、オートエンコーダから出力される予測スペクトル(各区間の強度)を求める。ここで、学習済モデル33として用いるオートエンコーダとしては、予め正常混練時におけるスペクトルを繰り返し学習したものを用いる。正常混練時におけるスペクトルを繰り返し学習したオートエンコーダでは、何らかの異常を含む実測スペクトルを入力した場合でも、異常のない予測スペクトルを出力する。そのため、実測スペクトルに何らかの異常が含まれる場合には、実測スペクトルと予測スペクトルとの間に乖離(誤差)が生じる。本実施の形態では、この乖離の度合を、混練状態推定処理部232における混練状態の推定に用いる。
【0022】
(混練状態推定処理部232)
混練状態推定処理部232は、実測スペクトルと予測スペクトルとの乖離の度合を基に、混練状態を推定する。本実施の形態では、混練状態推定処理部232は、乖離の度合の指標として、混練状態の推定対象となるスペクトルと、予測スペクトルの対応する区間同士での強度差の二乗を総和した異常度を用いる。すなわち、各区間での実測スペクトルの強度をA
i、予測スペクトルの強度をP
iとすると、異常度eは下式(1)で与えられる。
【数1】
【0023】
混練状態推定処理部232は、上式(1)により異常度を演算し、得られた異常度を異常度データ35として記憶部3に記憶する。そして、混練状態推定処理部232は、異常度があらかじめ設定した閾値より大きいときに混練状態が異常であると推定し、異常度が閾値以下となったときに、混練状態が正常であると推定する。
【0024】
ここで、実際の混練時における異常度の変化について説明する。
図4(a)は、異常度の変化の一例を示すグラフ図である。
図4(b)は、
図4(a)における実施例1の1917sでの実測スペクトルであり、
図4(c)は
図4(a)における実施例2の1782sでの実測スペクトルである。
図4(a)~(c)の例では、容量6Lの混練機10を用い、EVAと水酸化マグネシウムフィラーを混練した場合のデータを示している。
【0025】
図4(a)の実施例1(実線)に示されるように、混練初期には、材料を順次投入しているために正常な混練状態となっておらず異常度が高くなっているが、全ての材料の投入が終わり安定した混練状態になってくると、異常度は低下する。作業者は、異常度を監視することで、混練が正常であるか、あるいは異常であるかを判断することができる。なお、
図4(a)の実施例2(破線)は、混練が失敗した例である。実施例2では、時間が経過しても異常度が高いままであり、混練状態が異常となっていることが分かる。
【0026】
(混練状態推定方法)
図5は、本実施の形態に係る混練状態推定方法のフロー図である。本実施の形態では、混練の開始時に、
図5のフローを開始する。
【0027】
図5に示すように、まず、ステップS1にて、データ取得処理部21が、混練機10に設けられたAEセンサ11aから出力されるデータの取得を開始する。取得されたデータは測定データ31として記憶部3に記憶される。
【0028】
その後、ステップS2にて、解析処理を行う。解析処理では、
図6に示すように、ステップS21にて、解析処理部22が、所定期間(例えば8秒など)の測定データ31に対して、高速フーリエ変換(FFT)を行い、周波数毎の強度に変換する。その後、ステップS22にて、解析処理部22が、周波数を所定の区間毎に区切り、区間毎のAEセンサ11aの出力の強度の分布を積算してヒストグラム化を行い、強度スペクトルを得る。その後、ステップS23にて、解析処理部22が、ステップS22で得た強度スペクトルから不要な周波数のデータを削除し、所定の周波数範囲のデータのみを実測スペクトルとして抽出する。その後、ステップS24にて、解析処理部22が、抽出した実測スペクトルをスペクトルデータ32として記憶部3に記憶する。その後、リターンし、
図5のステップS3に進む。
【0029】
ステップS3では、推定処理を行う。推定処理では、
図7に示すように、ステップS31にて、スペクトル予測処理部231が、オートエンコーダからなる学習済モデル33に実測スペクトルを入力し、予測スペクトルを求める。求めた予測スペクトルは、予測スペクトルデータ34として記憶部3に記憶される。その後、ステップS32にて、混練状態推定処理部232が、実測スペクトルと予測スペクトルとから、上式(1)により異常度を求める。求めた異常度は、異常度データ35として記憶部3に記憶される。その後、ステップS34にて、混練状態推定処理部232が、ステップS33で求めた異常度が予め設定した閾値より大きいかを判定する。ステップS34でYES(Y)と判定された場合、ステップS34にて、混練状態が異常と判定し、リターンする(
図5のステップS4に進む)。ステップS34でNO(N)と判定された場合、ステップS35にて、混練状態が正常と判定し、リターンする(
図5のステップS4に進む)。
【0030】
ステップS4では、混練が終了されたかを判定する。ステップS4でNO(N)と判定された場合、ステップS2に戻る。ステップS4でYES(Y)と判定された場合、ステップS5にて、データ取得処理部21によるデータ取得を停止した後に、処理を終了する。
【0031】
(変形例)
本実施の形態では、混練終了の判断について言及しなかったが、混練終了の判断は、演算装置12により自動で行われてもよい。すなわち、混練状態推定装置1は、混練状態の推定結果(より詳細には、異常度の値)を基に、混練終了の判定を行う混練終了判定部をさらに備えてもよい。混練終了判定部は、例えば、異常度の値が閾値以下となる状態が所定時間継続したときに、混練が正常に終了したとして混練終了の判定を行ってもよい。また、混練終了判定部は、例えば、混練開始から所定時間経過しても、異常度の値が閾値より大きい状態となっているときに、混練が失敗したとして混練終了の判定を行ってもよい。
【0032】
また、本実施の形態では、オートエンコーダを用いて混練状態を推定したが、使用する機械学習のアルゴリズムはオートエンコーダに限定されない。例えば、サポートベクターマシンを用いて混練状態を正常と異常とに分類することにより、混練状態を推定することも可能である。この場合、正常時と異常時の両方のデータを学習用データとして用いてサポートベクターマシンの学習を予め行うとよい。
【0033】
さらにまた、混練状態が正常のときのみならず、異常であるときのスペクトルを学習させておくことで、装置の故障も判定が可能になる。すなわち、正常時のスペクトルを学習したオートエンコーダと、異常時のスペクトルを学習したオートエンコーダの両方を備えておき、両方のオートエンコーダで異常度が高くなったときに、装置が故障したと判定してもよい。
【0034】
また、実測スペクトルを基に混練物の物性値(引張強度や引張伸びなど)を推定し、推定により得た物性値を指標として、混練状態を推定することも可能である。この場合、実測スペクトルの各区間の強度の値を説明変数とし、混練の結果得られた混練物の物性値(引張強度や引張伸びなど)を目的変数として機械学習を行い、説明変数と目的変数との相関性を示す学習済モデルを作成し、当該作成した学習済モデルを用いて、混練時の実測スペクトルから混練物の物性値を予測するとよい。そして、予測した物性値が予め設定した正常範囲内にあるときは混練状態が正常であり、正常範囲外であるときは混練状態が異常であると判定することができる。
【0035】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る混練状態推定装置1では、混練機10に設けられ、振動を検知するセンサ11と、センサ11の出力を周波数解析すると共に、周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、区間毎のセンサ11の出力の強度の分布を示すスペクトル(実測スペクトル)を求める解析処理部22と、混練が十分に行われた正常混練時におけるスペクトルを含む学習用データを用いて予め作成された学習済モデル(33)を用いて、混練状態の推定対象となるスペクトル(実測スペクトル)に対応する混練状態を推定する推定処理部23と、を備えている。
【0036】
周波数解析の結果をヒストグラム化して実測スペクトルとすることで、データ数を減らして効率的なデータ処理が可能になり、処理時間を短縮してほぼリアルタイムでの混練状態の推定が可能になる。また、データ数を減らした実測スペクトルを用いることで、機械学習を利用した混練状態の推定が可能になり、混練状態を精度よく推定することが可能になる。
【0037】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0038】
[1]混練機(10)に設けられ、振動を検知するセンサ(11)と、前記センサ(11)の出力を周波数解析すると共に、前記周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、前記区間毎の前記センサ(11)の出力の強度の分布を示すスペクトルを求める解析処理部(22)と、混練が十分に行われた正常混練時における前記スペクトルを含む学習用データを用いて予め学習を行い作成された学習済モデル(33)を用いて、混練状態の推定対象となる前記スペクトルに対応する混練状態を推定する推定処理部(23)と、を備えた、混練状態推定装置(1)。
【0039】
[2]前記推定処理部(23)は、正常混練時における前記スペクトルを繰り返し学習したオートエンコーダからなる前記学習済モデル(33)に、混練状態の推定対象となる前記スペクトルを入力し、前記オートエンコーダから出力された前記スペクトルである予測スペクトルを求めるスペクトル予測処理部(231)と、混練状態の推定対象となる前記スペクトルと、前記予測スペクトルとの乖離の度合を基に、混練状態を推定する混練状態推定処理部(232)と、を有する、[1]に記載の混練状態推定装置(1)。
【0040】
[3]前記混練状態推定処理部(232)は、前記乖離の度合の指標として、混練状態の推定対象となる前記スペクトルと、前記予測スペクトルの対応する区間同士での強度差の二乗を総和した異常度を用いる、[2]に記載の混練状態推定装置(1)。
【0041】
[4]前記センサ(11)が、アコースティックエミッションセンサ(11a)、または加速度センサである、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の混練状態推定装置(1)。
【0042】
[5]混練機(10)に設けられ、振動を検知するセンサ(11)の出力を周波数解析すると共に、前記周波数解析の解析結果に基づき、周波数を所定の区間毎に区切り、前記区間毎の前記センサ(11)の出力の強度の分布を示すスペクトルを求める解析工程と、混練が十分に行われた正常混練時における前記スペクトルを含む学習用データを用いて予め学習を行い作成された学習済モデル(33)を用いて、混練状態の推定対象となる前記スペクトルに対応する混練状態を推定する推定工程と、を備えた、混練状態推定方法。
【0043】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…混練状態推定装置
2…制御部
21…データ取得処理部
22…解析処理部
23…推定処理部
231…スペクトル予測処理部
232…混練状態推定処理部
3…記憶部
31…測定データ
32…スペクトルデータ
33…学習済モデル
34…予測スペクトルデータ
35…異常度データ
10…混練機
11…センサ
11a…AEセンサ(アコースティックエミッションセンサ)