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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175304
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】積層造形装置および積層造形方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/32 20210101AFI20241211BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20241211BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241211BHJP
   B22F 12/70 20210101ALI20241211BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20241211BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241211BHJP
   B22F 10/38 20210101ALN20241211BHJP
【FI】
B22F10/32
B22F10/28
B22F1/00 S
B22F12/70
B33Y30/00
B33Y10/00
B22F10/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092984
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 徳雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】塚本 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】井濱 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】東條 公資
(72)【発明者】
【氏名】宇野 進吾
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA13
4K018CA44
4K018DA33
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】センサが菌液中の菌を確実に検出できるようにすることである。
【解決手段】チャンバ(チャンバ2)と、チャンバ(チャンバ2)内に雰囲気ガスを供給するガス供給装置(ガス供給装置88)と、三次元の造形物(造形物7)を積層造形するために、チャンバ(チャンバ2)内において粉末が敷かれたパウダーベッド(パウダーベッド50)が設けられる造形領域(造形領域54)に対して、エネルギービームを照射する照射装置(照射装置83)と、造形物(造形物7)の積層造形に関する制御を行なう制御装置(制御装置82)とを備え、制御装置(制御装置82)は、造形物(造形物7)が積層造形される場合に、チャンバ内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバ内に雰囲気ガスを供給するガス供給装置と、
三次元の造形物を積層造形するために、前記チャンバ内において粉末が敷かれたパウダーベッドが設けられる造形領域に対して、エネルギービームを照射する照射装置と、
前記造形物の積層造形に関する制御を行なう制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記造形物が積層造形される場合に、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、積層造形装置。
【請求項2】
前記制御装置は、少なくとも前記パウダーベッドに前記エネルギービームが照射される時期に、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記チャンバ内における空間の温度よりも低温の前記雰囲気ガスを前記ガス供給装置から供給させる制御をすることにより、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、請求項1または請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの温度を変化させることにより、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、請求項1または請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記チャンバの容積を変化させることにより、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、請求項1または請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項6】
前記粉末は、鉄系材料の粉末である、請求項1または請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項7】
チャンバ内にガス供給装置から雰囲気ガスを供給するステップと、
三次元の造形物を積層造形するために、前記チャンバ内において粉末が敷かれたパウダーベッドが設けられる造形領域に対して、照射装置からエネルギービームを照射するステップと、
前記造形物が積層造形される場合に、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップとを備える、積層造形方法。
【請求項8】
前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップは、前記制御装置は、少なくとも前記パウダーベッドに前記エネルギービームが照射される時期に、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする、請求項7に記載の積層造形方法。
【請求項9】
前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップは、前記チャンバ内における空間の温度よりも低温の前記雰囲気ガスを前記ガス供給装置から供給させることにより、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする、請求項7または請求項8に記載の積層造形方法。
【請求項10】
前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップは、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの温度を変化させることにより、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする、請求項7または請求項8に記載の積層造形方法。
【請求項11】
前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップは、前記チャンバの容積を変化させることにより、前記チャンバ内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする、請求項7または請求項8に記載の積層造形方法。
【請求項12】
前記粉末は、鉄系材料の粉末である、請求項7または請求項8に記載の積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置および積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層造形装置としては、パウダーベッド方式等の各種の積層造形方式を用いて3次元の積層造形を行なう積層造形装置が知られている。このような積層造形装置においては、造形物の品質の低下の抑制をするために、積層造形装置に用いられる不活性ガスに関する制御をするものがあった。
【0003】
造形物の品質の低下の抑制をするために不活性ガスに関する制御をする第1の例としては、造形室内の酸素濃度を短時間で低減させる構成を備えたものがあった(特許文献1)。積造形物の品質の低下の抑制をするために不活性ガスに関する制御をする第2の例としては、造形装置内において造形物を酸化させる酸素を滞留させないように酸素を効果的に排出させる構成を備えたものがあった(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-74957号
【特許文献2】特開2017-109355号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、パウダーベッド方式を用いて積層造形を行なう従来の積層造形装置では、パウダーベッドにレーザ光等のエネルギービームを照射して造形物を造形する場合に、プルームと呼ばれる金属蒸気が爆発的に発生して拡散する場合がある。このような金属蒸気が過剰に拡散すると、パウダーベッドに含まれる金属の粉末および溶融した金属が飛散することにより、スパッタが発生したり、空孔が発生したりして、造形物に欠陥が生じるという問題があった。
【0006】
この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、積層造形を行なう場合に、造形物における欠陥の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のある局面に従う積層造形装置は、チャンバと、チャンバ内に雰囲気ガスを供給するガス供給装置と、三次元の造形物を積層造形するために、チャンバ内において粉末が敷かれたパウダーベッドが設けられる造形領域に対して、エネルギービームを照射する照射装置と、造形物の積層造形に関する制御を行なう制御装置とを備える。制御装置は、三次元造形物が積層造形される場合に、チャンバ内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう。
【0008】
この発明の別の局面に従う積層造形方法は、チャンバ内にガス供給装置から雰囲気ガスを供給するステップと、三次元の造形物を積層造形するために、チャンバ内において粉末が敷かれたパウダーベッドが設けられる造形領域に対して、照射装置からエネルギービームを照射するステップと、造形物が積層造形される場合に、チャンバ内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップとを備える。
【発明の効果】
【0009】
パウダーベッドが設けられた造形領域にエネルギービームを照射して造形物を積層造形する場合に、チャンバ内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御がされることにより、プルームの拡散が抑制され、パウダーベッドにおける粉末の挙動が安定するので、造形物を積層造形する場合において、スパッタおよび空孔の発生を抑制することが可能となり、造形物における欠陥の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の積層造形装置1の構成を示す図である。
図2】積層造形装置1の制御構成を示すブロック図である。
図3】雰囲気ガスの圧力とプルームと粉末飛散との関係を示す図である。
図4】鉄系材料における雰囲気ガスの圧力と溶融断面積との関係をグラフ形式で示す図である。
図5】積層造形装置1における雰囲気ガスの圧力制御方法を示すフローチャートである。
図6】第3実施形態の積層造形装置1における容積調整装置90の構成を示す積層造形装置1の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一の符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。以下では、複数の実施の形態について説明するが、各実施の形態で説明された構成を適宜組み合わせることは出願当初から予定されている。
<第1実施形態>
第1実施形態では、パウダーベッド法と呼ばれる積層造形方法を用いて三次元造形物を製造する場合において、雰囲気ガスを大気圧よりも高くする制御を実行することによって、三次元造形物における欠陥の発生を抑制する技術を説明する。
【0012】
[積層造形装置1の全体構成]
図1は、第1実施形態の積層造形装置1の構成を示す断面図である。積層造形装置1は、チャンバ2、照射装置83、ガス供給装置88、および、制御装置82を含む。照射装置83は、レーザ発振装置84、および、ガルバノミラー装置3を含む。
【0013】
チャンバ2は、気密性を有する金属製の第1筐体20により構成される容器である。ガス供給装置88は、チャンバ2の内部空間に不活性ガス等の雰囲気ガスを供給する。雰囲気ガスとして用いられるガスは、例えば窒素ガスである。なお、雰囲気ガスとしては、ヘリウムガス、アルゴンガス、または、ネオンガス等のその他の不活性ガスを用いてもよい。レーザ発振装置84は、エネルギービームとしてのレーザ光35を発振する。
【0014】
照射装置83は、レーザ発振装置84、および、ガルバノミラー装置3を含む。レーザ発振装置84は、レーザ光35を発振する。ガルバノミラー装置3は、レーザ発振装置84から発振されたレーザ光35を反射して、反射したレーザ光35をチャンバ2内に入射させる光学装置である。ガルバノミラー装置3は、レーザ光35を反射させる光学装置として、第1ミラー31と第2ミラー32とを含む。ガルバノミラー装置3においては、第2筐体30の内部に、第1ミラー31および第2ミラー32が設けられる。
【0015】
第1ミラー31は、鉛直方向に軸が設けられた第1回転軸310を回転軸として、図中の矢印に示すように回動可能である。第2ミラー32は、水平方向に軸が設けられた第2回転軸320を回転軸として、図中の矢印に示すように回動可能である。
【0016】
ガルバノミラー装置3の第2筐体30には、レーザ光35が入射可能な透明の入射窓33と、レーザ光35が出射可能な透明の出射窓34とが設けられる。出射窓34には、レーザ光35を集光する走査Fθレンズ340が設けられている。レーザ発振装置84から発振されたレーザ光35は、入射窓33からガルバノミラー装置3の第2筐体30の内部に入射させられる。
【0017】
第2筐体30の内部においては、入射窓33から入射したレーザ光35が、第1ミラー31で反射し、第2ミラー32に入射される。そして、第2ミラー32に入射したレーザ光35は、第2ミラー32で反射し、走査Fθレンズ340で集光され、出射窓34からチャンバ2に向けて出射される。
【0018】
チャンバ2の第1筐体20の内部には、造形ユニット10が設けられる。造形ユニット10は、粉末供給装置4、加工ステージ装置5、および、リコータ装置60を含む。
【0019】
チャンバ2の第1筐体20において、ガルバノミラー装置3の出射窓34と対向する部分には、ガルバノミラー装置3の出射窓34から出射されたレーザ光35が入射される透明の入射窓21が設けられる。
【0020】
チャンバ2の第1筐体20の一部には、ガス供給装置88により発生させられる雰囲気ガスをチャンバ2の内部に供給するための管状のガス供給路22が設けられる。
【0021】
粉末供給装置4は、第1ガイド室41、第1ステージ42、および、第1可動支柱43を含む。第1ステージ42は、第1可動支柱43上に取付けられる。第1ステージ42と、第1可動支柱43の一部とは、第1ガイド室41の内部に設けられる。第1ガイド室41の内部空間においては、第1ガイド室41の内壁に沿って第1ステージ42が昇降可能となるように、第1可動支柱43および第1ステージ42が設けられる。
【0022】
第1ステージ42の上面側には、例えば鉄系の金属の粉末よりなる粉末9が載せられる。これにより、第1ステージ42の上面と、第1ガイド室41の内壁とで構成される空間には、粉末9が収容される。粉末供給装置4において、粉末9が収容される空間は、粉末収容領域44と呼ばれる。
【0023】
第1可動支柱43は、図中の矢印に示すように、軸長方向に上下動作をすることが可能である。これにより、第1ステージ42は、第1可動支柱43の上下動作に応じて昇降動作することが可能である。第1ステージ42の外周部にリング状の気密保持部材(図示省略)が設けられることにより、第1ステージ42の外周部と、第1ガイド室41の内壁との間は、気密保持される。
【0024】
加工ステージ装置5は、第2ガイド室51、第2ステージ52、および、第2可動支柱53を含む。第2ステージ52は、第2可動支柱53上に取付けられる。第2ステージ52と、第2可動支柱53の一部とは、第2ガイド室51の内部に設けられる。第2ガイド室51の内部空間においては、第2ガイド室51の内壁に沿って第2ステージ52が昇降可能となるように、第2可動支柱53および第2ステージ52が設けられる。
【0025】
第2可動支柱53は、図中の矢印に示すように、軸長方向に上下動作をすることが可能である。これにより、第2ステージ52は、第2可動支柱53の上下動に応じて昇降動作することが可能である。第2ステージ52の外周部にリング状の気密保持部材(図示省略)が設けられることにより、第2ステージ52の外周部と、第2ガイド室51の内壁との間は、気密保持される。
【0026】
第2ステージ52の上面と、第2ガイド室51の内壁とで構成される空間には、粉末供給装置4から供給される粉末9が収容可能である。粉末供給装置4から加工ステージ装置5には、リコータ6の動作にしたがって粉末9が運ばれることより粉末9が供給される。
【0027】
リコータ6は、ブレード状の部材であり、粉末9を粉末供給装置4および加工ステージ装置5よりも上方に設けられる。リコータ6は、図中の矢印に示すように、粉末供給装置4および加工ステージ装置5の上方を水平方向に往復動作することにより、粉末供給装置4上の粉末9を加工ステージ装置5上まで押し運ぶことが可能な部材である。リコータ6は、リコータ6を動作させるリコータ駆動装置を備えたリコータ装置60に含まれる。
【0028】
また、リコータ6は、粉末9を水平方向に押す態様で水平方向に移動することにより、加工ステージ装置5における第2ステージ52上において、粉末9を均一に敷き詰める機能を有する。このように、第2ステージ52上において敷き詰められた粉末9の集合体が、パウダーベッド50を構成する。
【0029】
第2ステージ52上の領域には、ガルバノミラー装置3の出射窓34から出射されたレーザ光35が、チャンバ2の入射窓21を透過して入射する。したがって、第2ステージ52上の領域におけるパウダーベッド50には、チャンバ2の入射窓21を透過して入射したレーザ光35が照射される。このように照射されるレーザ光35のエネルギーにより、パウダーベッド50においては、入射したレーザ光35の熱エネルギーによって、粉末9が溶融し、その後、溶融した金属が固まることにより、造形物7が造形される。
【0030】
このように、第2ステージ52の上面と、第2ガイド室51の内壁とで構成される空間には、粉末9と、粉末9を原材料としてレーザ光35により造形された造形物7とが収容される。このように、粉末9が収容される領域は、パウダーベッド50にレーザ光35が照射されることにより造形物7が積層造形される領域であり、造形領域54と呼ばれる。
【0031】
造形領域54では、造形物7が上方向に積層する態様で多数の層に分けて形成されて積層することにより、3次元の造形物7が造形される。
【0032】
チャンバ2の内部には、チャンバ2の内部空間の圧力を検出する圧力検出装置85が設けられる。圧力検出装置85により、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力等が検出される。
【0033】
制御装置82は、レーザ発振装置84、ガルバノミラー装置3、粉末供給装置4、加工ステージ装置5、リコータ6、および、ガス供給装置88を含む積層造形装置1における各種機器を制御する。
【0034】
[積層造形装置1の制御構成]
図2は、積層造形装置1の制御構成を示すブロック図である。図2を参照して、積層造形装置1の制御構成を説明する。
【0035】
積層造形装置1は、図1で説明した構成に加え、3Dモデルデータ記憶装置80、CAM(Computer-Aided Manufacturing)装置81、および、制御装置82を含む。3Dモデルデータ記憶装置80は、造形物7に関する3次元モデルのデータが記憶される。CAM装置81は、3Dモデルデータ記憶装置80に記憶された3次元モデルのデータに基づいて、コンピュータ支援製造をするために用いるデータを作成し、そのデータを制御装置82へ送る。
【0036】
制御装置82は、CPU(Central Processing Unit)82a、メモリ82b(ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory、および、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリなどを含む各種記憶装置)、および、各種信号を入出力するための入出力バッファ(図示せず)等を含むコンピュータにより構成される。
【0037】
制御装置82には、各種のデータの入力をするための入力装置(図示省略)が接続されている。入力装置は、例えばキーボードおよびマウスなどの各種の入力機器を含む。制御装置82には、各種の画像を表示する表示装置(図示省略)が接続されている。
【0038】
ROMには、制御装置82が実行する制御に関する処理手順が示された各種のソフトウェアプログラムが記憶される。CPU82aは、ROMに格納されているソフトウェアプログラムをRAM等に展開して実行する。
【0039】
図2に示すガルバノミラー装置3には、第1ミラー31を駆動する駆動装置、および、第2ミラー32を駆動する駆動装置が含まれる。図2に示す粉末供給装置4には、第1可動支柱43を駆動する駆動装置が含まれる。図2に示す加工ステージ装置5には、第2可動支柱53を駆動する駆動装置が含まれる。図2に示すリコータ装置60には、リコータ6を駆動する駆動装置が含まれる。
【0040】
制御装置82は、ソフトウェアプログラムに従って動作し、レーザ発振装置84、ガルバノミラー装置3、粉末供給装置4、加工ステージ装置5、リコータ装置60、および、ガス供給装置88等の各種装置に制御信号を供給し、当該各種機器の制御を行なう。また、制御装置82には、圧力検出装置85からチャンバ2内における雰囲気ガスの圧力の検出信号が入力される。
【0041】
[積層造形装置1の基本動作]
積層造形装置1は、造形物7を造形する場合に、基本的に以下のような動作を行なうように制御される。以下に説明する動作は、制御装置82によって制御される。
【0042】
粉末供給装置4においては、第1可動支柱43が1段階上方に動作することに応じて、第1ステージ42が、1段階上昇する動作がさせられる。これにより、粉末供給装置4の上部においては、粉末収容領域44に収容された粉末9が1段階盛り上げられる。リコータ6は、粉末供給装置4の上部に盛り上げられた粉末9を水平方向に押して加工ステージ装置5の上部まで水平方向に移動させる動作がさせられる。これにより、粉末供給装置4の上部の粉末9がリコータ6の動作によって加工ステージ装置5の上部に運ばれる態様で、粉末9が加工ステージ装置5に供給される。
【0043】
このように、リコータ6は、粉末供給装置4の第1ステージ42上の粉末9を加工ステージ装置5の第2ステージ52上に運び、第2ステージ52上において、粉末9を均一敷き詰める動作をさせられる。
【0044】
リコータ6は、粉末9を水平方向に押す態様で水平方向に移動することにより、加工ステージ装置5における第2ステージ52上において、粉末9を均一に敷き詰めることが可能である。このように、第2ステージ52上において敷き詰められた粉末9の集合体が、パウダーベッド50を構成する。
【0045】
ガルバノミラー装置3の出射窓34から出射されたレーザ光35は、チャンバ2の入射窓21を透過して、パウダーベッド50に照射される。パウダーベッド50においては、入射したレーザ光35の熱エネルギーによって、粉末9が溶融し、その後、溶融した金属が固まることにより、造形物7が造形される。
【0046】
ガルバノミラー装置3においては、第1ミラー31が回動することにより、レーザ光35の放射方向が変化する。第1ミラー31が回動することにより、パウダーベッド50の上面におけるレーザ光35の照射位置が例えばx軸方向に変化する。したがって、第1ミラー31が回動することにより、パウダーベッド50の上面において、レーザ光35の照射位置がx軸方向に走査される。
【0047】
ガルバノミラー装置3においては、例えば、第2ミラー32が回動することにより、レーザ光35の放射方向が変化する。第2ミラー32が回動することにより、パウダーベッド50の上面におけるレーザ光35の入射位置が例えばy軸方向に変化する。y軸方向は、前述したx軸方向と直交する方向である。したがって、第2ミラー32が回動することにより、パウダーベッド50の上面において、レーザ光35の照射位置がy軸方向に走査される。
【0048】
積層造形装置1では、ガルバノミラー装置3において第1ミラー31および第2ミラー32の動作制御をすることにより、パウダーベッド50の上面において、照射されるレーザ光35の走査制御がされ、レーザ光35の走査位置に応じた形状で造形物7の1層が造形される。
【0049】
積層造形装置1では、造形物7を積層することにより、3次元の造形物7を造形するため、パウダーベッド50の上面における1回目のレーザ光35の走査制御が終了すると、加工ステージ装置5においては、第2可動支柱53が下方に1段階動作することに応じて、第2ステージ52が1段階下降する動作がさせられる。これにより、加工ステージ装置5の上部の造形領域54においては、粉末9および造形物7の上面の位置が1段階下げられ、加工ステージ装置5の上部の造形領域54においては、新たに粉末9を入れるスペースが生じる。
【0050】
そして、造形物7の次の層を造形するために、前述した粉末供給装置4およびリコータ6による加工ステージ装置5への粉末9の供給動作を繰り返し実行することにより、加工ステージ装置5の上部において、造形物7が形成された層の上方に、新たな粉末9が敷き詰められたパウダーベッド50が構成される。
【0051】
このように新たな粉末9が敷き詰められたパウダーベッド50において、造形物7に関して次の層の造形をするためのレーザ光35がガルバノミラー装置3から出射され、そのレーザが新たにパウダーベッド50上に入射して走査される。これにより、造形物7について次の層の造形が行なわれる。このような粉末供給装置4、リコータ6、加工ステージ装置5、および、ガルバノミラー装置3の動作が繰り返されることにより、第2ステージ52上において三次元の造形物7が積層造形される。
【0052】
このように積層造形装置1において、造形物7の積層造形が行なわれる場合には、チャンバ2の内部空間に供給された雰囲気ガスの圧力を、大気圧よりも高い圧力にする制御が制御装置82により行なわれる。
【0053】
[雰囲気ガスの圧力とプルームと粉末飛散との関係]
図3は、雰囲気ガスの圧力とプルームと粉末飛散との関係を示す図である。図3においては、プルームと粉末飛散との関係が表の枠700内に3種類に分けて示される。プルームとは、パウダーベッドにレーザを照射させた場合に急激に加熱された金属の粉末が蒸発することにより生じる金属蒸気をいう。プルームは、蒸気流およびガス流を生じさせるため、溶融した金属を飛散させてスパッタを生じさせたり、レーザの照射位置の周辺に存在する粉末を飛散させて剥離させたりすることがある。
【0054】
図3(A1)においては、雰囲気ガスの圧力が大気圧未満の状態でパウダーベッド50の上方で発生する第1プルーム36aの状態がパウダーベッド50の側面図として示される。図3(A2)においては、図3(A1)に示す第1プルーム36aが生じた場合のパウダーベッド50の状態がパウダーベッド50の平面図により示される。
【0055】
図3(A1)に示すように、雰囲気ガスの圧力が大気圧未満の圧力の状態で、レーザ光35がパウダーベッド50に照射される場合には、金属の蒸気が広範囲に拡散する第1プルーム36aがパウダーベッド50の上方で発生じる。
【0056】
このように拡散する範囲が広い第1プルーム36aでは、蒸気の膨張により、高速の蒸気流および高速のガス流が生じる。これにより、雰囲気ガスの圧力が大気圧未満の状態で、レーザ光35がパウダーベッド50に照射される場合には、粉末9が飛散する。その場合には、図3(A1)に示すように、スパッタが生じたり、図3(A2)に示すように、パウダーベッド50において、造形物7を構成するビード71の周辺でパウダーベッド50から粉末9が剥離した剥離領域72が生じたりする。
【0057】
図3(B1)に示すように、雰囲気ガスの圧力が大気圧と同じ圧力の状態で、レーザ光35がパウダーベッド50に照射される場合には、金属の蒸気として第2プルーム36bがパウダーベッド50の上方で発生じる。第2プルーム36bは、図3(A1)の第1プルーム36aよりも膨張する範囲が小さい。
【0058】
このような第2プルーム36bでは、蒸気の膨張により、第2プルーム36bの周囲において上昇気流37が生じる。これにより、雰囲気ガスの圧力が大気圧と同じ圧力の状態で、レーザ光35がパウダーベッド50に照射される場合には、粉末9が上昇気流37によって吸引される。その場合には、図3(B1)に示すように、粉末9が移動したり、図3(B2)に示すように、パウダーベッド50において、造形物7を構成するビード71の周辺でパウダーベッド50から粉末9が剥離した剥離領域72が生じたりする。
【0059】
図3(C1)に示すように、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い圧力の状態で、レーザ光35がパウダーベッド50に照射される場合には、金属の蒸気として第3プルーム36cがパウダーベッド50の上方で発生する。第3プルーム36cは、図3(B1)の第2プルーム36bよりも膨張する範囲が小さい。
【0060】
このような第3プルーム36cでは、蒸気の膨張が抑制されることにより、レーザ光35がパウダーベッド50に照射される場合には、前述の第1プルーム36aおよび第2プルーム36bと比べて、生じる蒸気流、ガス流、および、上昇気流が小さい。これにより、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い圧力の状態で、レーザ光35がパウダーベッド50に照射される場合には、発生する第3プルーム36c、前述の第1プルーム36aおよび第2プルーム36bと比べて粉末9の挙動が安定する。
【0061】
したがって、このような場合には、図3(C1)に示すように、粉末9の移動が抑制されたり、図3(C2)に示すように、パウダーベッド50において、造形物7を構成するビード71の周辺でパウダーベッド50から粉末9が剥離した剥離領域72の範囲の広がりが抑制されたりする。このように、第3プルーム36cでは、蒸気の膨張が抑制されることにより、パウダーベッド50における粉末9の挙動が安定するので、良好な構成のビード71が形成される。
【0062】
造形物の材料となる粉末9において鉄および鉄系材料は、チタンなどに比べて蒸気圧が高いためプルームの影響で粉末の挙動が不安定になりやすい。そのため、鉄および鉄系材料では、雰囲気ガスの圧力制御の効果が顕著となる。
【0063】
雰囲気ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、または、ネオンガス等の各種のガスを使用することが可能である。プルームが拡散する範囲を比較的に小さい領域に収めるためには、より分子量が多い雰囲気ガスを採用すればよい。
【0064】
第1実施形態の積層造形装置1では、以上に説明したような雰囲気ガスの圧力とプルームと粉末飛散との関係を考慮し、レーザ光35をパウダーベッド50に照射する場合には、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い圧力の状態となるように、雰囲気ガスの圧力が制御される。
【0065】
[雰囲気ガスの圧力と溶融断面積との関係]
図4は、鉄系材料における雰囲気ガスの圧力と溶融断面積との関係をグラフ形式で示す図である。図4においては、横軸にレーザ光のエネルギー密度が示され、縦軸に溶融断面積が示される。
【0066】
図4では、エネルギー密度と、溶融断面積との関係が、雰囲気ガスの圧力が大気圧未満の圧力である場合と、雰囲気ガスの圧力が大気圧と同じ圧力である場合と、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い圧力である場合とについて、比較可能に示される。
【0067】
図4においては、雰囲気ガスの圧力が大気圧未満の圧力(例えば16kPa)である第1状態101の場合が破線で示される。図4においては、雰囲気ガスの圧力が大気圧と同じ圧力(例えば100kPa)である第2状態102の場合が一点鎖線で示される。図4においては、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い圧力(例えば120kPa)である第3状態103の場合が実線で示される。
【0068】
溶融断面積とは、造形物7に関する1層を造形するレーザ光35をパウダーベッド50に照射したことに応じて粉末9が溶融して得られる造形物7のビード(例えば図3に示すようなビード71)の断面積である。
【0069】
図4においては、溶融断面積とエネルギー密度との関係によって、パウダーベッド50における粉末9の挙動が安定し、構成が良好なビードが得られる範囲106が示されている。第1状態101の場合は、粉末9が飛散する量が多いことにより、良好なビードが得られる範囲106内とならず、良好なビードが得られない。第2状態102の場合は、粉末9の溶融量が多過ぎることにより、良好なビードが得られる範囲106内とならず、良好なビードが得られない。これらに対し、第3状態103の場合は、第1状態101および第2状態102と比べて、粉末9が飛散する量が少なく、溶融量が多過ぎないことにより、良好なビードが得られる範囲106内となるので、良好なビードが得られる。
【0070】
以上に説明した雰囲気ガスの圧力と溶融断面積との関係に基づけば、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い圧力(例えば120kPa)である第3状態103となるように制御すれば、良好なビードを得ることができる。したがって、積層造形装置1においては、パウダーベッド50にレーザ光35を照射して造形をするときに、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高い圧力(例えば120kPa)にする制御が制御装置82により実行される。
【0071】
[積層造形装置1における雰囲気ガスの圧力制御方法の処理]
図5は、層造形装置1における雰囲気ガスの圧力制御方法を示すフローチャートである。図5に示す雰囲気ガスの圧力制御は、制御装置82におけるCPU82aが実行する。
【0072】
CPU82aは、雰囲気ガスの圧力制御を実行する前に、ステップS0において、ガス供給装置88からガス供給路22を経てチャンバ2内に、雰囲気ガスを供給する。これにより、チャンバ2の内部空間には、雰囲気ガスが封入される。
【0073】
CPU82aは、ステップS1において、層造形装置1において現在が造形物7を造形する造形動作時であるか否かを判定する。CPU82aは、ステップS1で造形動作時ではない場合に、処理を終了する。一方、CPU82aは、ステップS1で造形動作時である場合に、ステップS2において、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い設定圧力(例えば120kPa)以上であるか否かを判定する。具体的に、ステップS2では、圧力検出装置85の検出信号によりチャンバ2内の雰囲気ガスの圧力を確認し、その圧力が大気圧よりも高い設定圧力以上であるか否かを判定する。
【0074】
CPU82aは、ステップS2で、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い設定圧力以上ではない場合に、ステップS3において、雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御を実行する。具体的に、ステップS2では、例えば、チャンバ2内の空間の温度よりも低温の雰囲気ガスをガス供給装置88から供給させ、チャンバ2内の熱エネルギーによりその雰囲気ガスを膨張させることにより、雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御を実行する。ステップS2およびステップS3によれば、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い設定圧力以上となるまで、雰囲気ガスの圧力が上昇させられる。
【0075】
CPU82aは、ステップS2で、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い設定圧力以上である場合に、ステップS4において、加工ステージ装置5において積層造形をするためにレーザ光35の照射を実行する。具体的に、ステップS4では、前述したように、レーザ発振装置84においてレーザ光を発振させ、そのレーザ光35を、ガルバノミラー装置3を経て、チャンバ2内に設けられた加工ステージ装置5の造形領域54におけるパウダーベッド50に照射させる。これにより、造形領域54におけるパウダーベッド50にレーザ光35が照射されて造形物7が積層造形される。
【0076】
造形動作時においては、ステップS1~S4が繰り返し実行されることにより、パウダーベッド50にレーザ光35が照射される時期に限り、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御が行なわれる。レーザ光35が照射されない時期においては、雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御が行なわれないことにより、チャンバ2の内部の雰囲気ガスの圧力は、ヒューム(溶融した金属の蒸気が雰囲気ガス中で個体の粒子となったもの)の排気などを行なうと低下することがある。
【0077】
なお、図5に示す雰囲気ガスの圧力制御は、雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高い設定圧力以上とする場合を説明したが、雰囲気ガスの圧力は、大気圧以上の圧力であればよい。また、雰囲気ガスの圧力を大気圧以上にする場合の圧力は、予め定められた圧力の上限値(例えば10気圧)を設けてもよい。
【0078】
第1実施形態では、以上に説明したような雰囲気ガスの圧力制御が実行されることにより、パウダーベッド50にレーザ光35を照射して造形物を積層造形する場合に、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高くされることにより、プルームの拡散が抑制され、パウダーベッド50における粉末9の挙動が安定するので、造形物7を積層造形する場合において、スパッタおよび空孔の発生を抑制することが可能となり、造形物における欠陥の発生を抑制することができる。
【0079】
また、第1実施形態では、雰囲気ガスの圧力制御では、パウダーベッド50にレーザ光35が照射される時期に限り、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御が行なわれることにより、制御装置82における制御処理の負荷を軽減することができる。
【0080】
また、第1実施形態では、チャンバ2内の空間の温度よりも低温の雰囲気ガスがガス供給装置88からチャンバ2内に供給されることにより、チャンバ2内の熱エネルギーによって、その雰囲気ガスを膨張させることができる。これにより、チャンバ2内の熱エネルギーによって、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を実現することができる。
【0081】
なお、造形物の材料となる粉末9は、鉄、および、鉄を含む鉄系の金属以外の金属の粉末であってもよい。また、第1実施形態では、チャンバ2内の空間の温度よりも低温の雰囲気ガスがガス供給装置88からチャンバ2内に供給されることにより、チャンバ2内の熱エネルギーによって、その雰囲気ガスを膨張させることができる。これにより、チャンバ2内の熱エネルギーによって、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を実現することができる。
<第2実施形態>
第2実施形態では、図5に示した雰囲気ガスの圧力制御のステップS4において雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御のその他の例を説明する。
【0082】
第2実施形態では、図5に示した雰囲気ガスの圧力制御のステップS4において雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御を実行する場合に、チャンバ2内の空間の温度よりも低温の雰囲気ガスをガス供給装置から供給させることに代えて、チャンバ2内の雰囲気ガスの温度を変化させることにより雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御を実行する例を説明する。
【0083】
第2実施形態では、チャンバ2内の雰囲気ガスの温度を変化させる装置として、図1のチャンバ2内において破線で示されるようなヒータ装置89が設けられる。図2の破線で示されるようにヒータ装置89は、制御装置82により動作が制御される。例えば、第2実施形態では、図5に示した雰囲気ガスの圧力制御のステップS4において雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御を実行する場合に、CPU82aが、ヒータ装置89を動作させ、ヒータ装置89の熱エネルギーにより、チャンバ2内の雰囲気ガスの温度を上昇させる制御が実行される。第2実施形態では、チャンバ2内の雰囲気ガスの温度を上昇させることにより、チャンバ2内の雰囲気ガスの温度を大気圧よりも高い設定圧力以上にすることができる。
【0084】
第2実施形態では、ヒータ装置89によりチャンバ2内の雰囲気ガスの温度を変化させることによって雰囲気ガスの圧力を上昇させることにより、パウダーベッド50にレーザ光35を照射して造形物を積層造形する場合に、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高くされる。これにより、第2実施形態では、プルームの拡散が抑制され、パウダーベッド50における粉末9の挙動が安定するので、造形物7を積層造形する場合において、スパッタおよび空孔の発生を抑制することが可能となり、造形物における欠陥の発生を抑制することができる。
【0085】
また、第2実施形態では、チャンバ2内における雰囲気ガスの温度を変化させることにより、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうので、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力制御を容易化することができる。
<第3実施形態>
第3実施形態では、図5に示した雰囲気ガスの圧力制御のステップS4において雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御のさらにその他の例を説明する。
【0086】
第3実施形態では、図5に示した雰囲気ガスの圧力制御のステップS4において雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御を実行する場合に、チャンバ2内の空間の温度よりも低温の雰囲気ガスをガス供給装置から供給させることに代えて、チャンバ2の容積を変化させることにより、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を実行する例を説明する。
【0087】
図6は、第3実施形態の積層造形装置1における容積調整装置90の構成を示す積層造形装置1の断面図である。図6の構成が図1の構成と異なるのは、チャンバ2の内部に容積調整装置90が設けられていることである。
【0088】
容積調整装置90は、第3ガイド室91、第3ステージ92、および、第3可動支柱93を含む。第3ステージ92は、第3可動支柱93上に取付けられる。第3ステージ92および第3可動支柱93は、第3ガイド室91の内部に設けられる。第3ガイド室91の内部空間においては、第3ガイド室91の内壁に沿って第3ステージ92が昇降可能となるように、第3可動支柱93および第3ステージ92が設けられる。
【0089】
第3可動支柱93は、図中の矢印に示すように、軸長方向に上下動することが可能である。これにより、第3ステージ92は、第3可動支柱93の上下動に応じて昇降動作することが可能である。第3ステージ92の外周部にリング状の気密保持部材(図示省略)が設けられることにより、第3ステージ92の外周部と、第3ガイド室91の内壁との間は、気密保持される。
【0090】
第3ステージ92の上面と、第3ガイド室91の内壁とで構成される空間94は、第3ステージ92が下降するに従って広くなる。これにより、第3ステージ92が下降するに従って、チャンバ2の内部空間の容積が増加する。一方、第3ステージ92が上昇するに従って、チャンバ2の内部空間の容積が増加する。
【0091】
容積調整装置90は、第3ステージ92の位置を変更することにより、チャンバ2の内部空間の容積を変化させることが可能である。これにより、第3実施形態では、容積調整装置90によってチャンバ2の内部空間の容積を変化させることにより、チャンバ2内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くすることが可能となる。
【0092】
図2の破線で示されるように容積調整装置90は、制御装置82により動作が制御される。図2に示す容積調整装置90は、第3可動支柱93を駆動する駆動装置を含む。第3実施形態では、図5に示した雰囲気ガスの圧力制御のステップS4において雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御を実行する場合に、CPU82aが、容積調整装置90を動作させ、第3ステージ92を上昇させて空間94を狭くしてチャンバ2の内部空間の容積を減少させる。これにより、第3実施形態では、チャンバ2内の雰囲気ガスを圧縮して雰囲気ガスの圧力を上昇させる制御が実行される。第3実施形態では、チャンバ2内の容積を減少させることにより、チャンバ2内の雰囲気ガスの温度を大気圧よりも高い設定圧力以上にすることができる。
【0093】
第3実施形態では、容積調整装置90によりチャンバ2内の容積を変化させることによって雰囲気ガスの圧力を上昇させることにより、パウダーベッド50にレーザ光35を照射して造形物を積層造形する場合に、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力が大気圧よりも高くされる。これにより、第3実施形態では、プルームの拡散が抑制され、パウダーベッド50における粉末9の挙動が安定するので、造形物7を積層造形する場合において、スパッタおよび空孔の発生を抑制することが可能となり、造形物における欠陥の発生を抑制することができる。
【0094】
また、第3実施形態では、チャンバ2の容積を変化させることにより、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうので、チャンバ2以外の機器を制御することなく、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を実現することができる。
【0095】
[実施の形態の変形例]
(1) 第1実施形態~第3実施形態では、積層造形装置1が積層造形をする場合において、パウダーベッド50にエネルギービームとして、レーザ光35を照射する例を示した。しかし、これに限らず、積層造形装置1が積層造形をする場合においては、電子ビーム等のその他のエネルギービームを用いてもよい。
【0096】
(2) 第1実施形態~第3実施形態では、雰囲気ガスとして、不活性ガスを用いる例を示した。しかし、これに限らず、雰囲気ガスとしては、不活性ガス以外の雰囲気ガスを用いてもよい。また、粉末9は、例えば樹脂等の金属以外の材料を用いてもよい。
【0097】
(3) 第1実施形態~第3実施形態では、積層造形装置1のチャンバ2の内部空間の圧力は、パウダーベッド50にレーザ光35を照射して造形物7を積層造形する期間に限り、大気圧よりも高い圧力に制御する例を示した。しかし、積層造形装置1のチャンバ2の内部空間の圧力は、パウダーベッド50にレーザ光35を照射する期間以外の期間においても、大気圧よりも高い圧力に制御してもよい。例えば、積層造形装置1のチャンバ2の内部空間の圧力は、常時、大気圧よりも高い圧力に制御してもよい。したがって、制御装置82は、少なくともパウダーベッド50にレーザ光35が照射される時期に、チャンバ2内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行えばよい。
【0098】
(4) 積層造形装置1のチャンバ2の内部空間の雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高い圧力に制御する場合には、ガス供給装置88からは、チャンバ2の内部に供給する雰囲気ガス自体を大気圧よりも高い圧力に制御するようにしてもよい。
【0099】
(5) 第3実施形態では、チャンバ2内の容積を変化させることによって雰囲気ガスの圧力を上昇させる構成としては、チャンバ2内部空間に可動する気密性の壁部を設け、当該可動する気密性の壁部を動作させ、チャンバ2内の容積を変化させることによって雰囲気ガスの圧力を上昇させる構成等、その他の構成を採用してもよい。
【0100】
[付記]
以上のように、本実施形態は以下のような開示を含む。
[構成1]
チャンバ(チャンバ2)と、
前記チャンバ(チャンバ2)内に雰囲気ガスを供給するガス供給装置(ガス供給装置88)と、
三次元の造形物(造形物7)を積層造形するために、前記チャンバ(チャンバ2)内において粉末(粉末9)が敷かれたパウダーベッド(パウダーベッド50)が設けられた造形領域(造形領域54)に対して、エネルギービーム(レーザ光35)を照射する照射装置(照射装置83)と、
前記造形物(造形物7)の積層造形に関する制御を行なう制御装置(制御装置82)とを備え、
前記制御装置(制御装置82)は、前記造形物(造形物7)が積層造形される場合に、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、積層造形装置(積層造形装置1)。
【0101】
このような構成によれば、パウダーベッド(パウダーベッド50)が設けられた造形領域(造形物7)にエネルギービーム(レーザ光35)を照射して造形物(造形物7)を積層造形する場合に、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御がされることにより、プルームの拡散が抑制され、パウダーベッド(パウダーベッド50)における粉末の挙動が安定するので、造形物(造形物7)を積層造形する場合において、スパッタおよび空孔の発生を抑制することが可能となり、造形物(造形物7)における欠陥の発生を抑制することができる。
[構成2]
前記制御装置(制御装置82)は、少なくとも前記パウダーベッド(パウダーベッド50)に前記エネルギービーム(レーザ光35)が照射される時期に、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、構成1に記載の積層造形装置(積層造形装置1)。
【0102】
このような構成によれば、パウダーベッド(パウダーベッド50)にエネルギービーム(レーザ光35)が照射される時期に限り、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御が行なわれることにより、制御装置(制御装置82)における制御処理の負荷を軽減することができる。
[構成3]
前記制御装置(制御装置82)は、前記チャンバ(チャンバ2)内における空間の温度よりも低温の前記雰囲気ガスを前記ガス供給装置(ガス供給装置88)から供給させる制御をすることにより、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、構成1または構成2に記載の積層造形装置(積層造形装置1)。
【0103】
このような構成によれば、チャンバ(チャンバ2)内の空間の温度よりも低温の雰囲気ガスがガス供給装置(ガス供給装置88)からチャンバ(チャンバ2)内に供給されることにより、チャンバ(チャンバ2)内の熱エネルギーによって、その雰囲気ガスを膨張させることができる。これにより、チャンバ(チャンバ2)内の熱エネルギーによって、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を実現することができる。
[構成4]
前記制御装置(制御装置82)は、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの温度を変化させることにより、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、構成1または構成2に記載の積層造形装置(積層造形装置1)。
【0104】
このような構成によれば、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの温度を変化させることにより、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうので、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力制御を容易化することができる。
[構成5]
前記制御装置(制御装置82)は、前記チャンバ(チャンバ2)の容積を変化させることにより、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なう、構成1または構成2に記載の積層造形装置(積層造形装置1)。
【0105】
このような構成によれば、チャンバ(チャンバ2)の容積を変化させることにより、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうので、チャンバ(チャンバ2)以外の機器を制御することなく、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を実現することができる。
[構成6]
前記粉末(粉末9)は、鉄系材料の粉末(粉末9)である、構成1~構成5のいずれかに記載の積層造形装置(積層造形装置1)。
【0106】
このような構成によれば、粉末(粉末9)が、鉄系材料の粉末(粉末9)であることにより、蒸気圧の高い鉄系材料の粉末(粉末9)においてプルームの拡散を抑制することができる。
[構成7]
チャンバ(チャンバ2)内にガス供給装置(ガス供給装置88)から雰囲気ガスを供給するステップ(ステップS0)と、
三次元の造形物(造形物7)を積層造形するために、前記チャンバ(チャンバ2)内において粉末(粉末9)が敷かれたパウダーベッド(パウダーベッド50)が設けられた造形領域(造形領域54)に対して、照射装置(照射装置83)からエネルギービーム(レーザ光35)を照射するステップ(ステップS4)と、
前記造形物(造形物7)が積層造形される場合に、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップ(ステップS3)とを備える、積層造形方法。
【0107】
このような構成によれば、パウダーベッドが設けられた造形領域にエネルギービームを照射して造形物を積層造形する場合に、チャンバ内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御がされることにより、プルームの拡散が抑制され、パウダーベッドにおける粉末の挙動が安定するので、造形物を積層造形する場合において、スパッタおよび空孔の発生を抑制することが可能となり、造形物における欠陥の発生を抑制することができる。
[構成8]
前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップ(ステップS3)は、前記制御装置(制御装置82)は、少なくとも前記パウダーベッド(パウダーベッド50)に前記エネルギービーム(レーザ光35)が照射される時期に、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする、構成1に記載の積層造形方法。
【0108】
このような構成によれば、パウダーベッド(パウダーベッド50)にエネルギービーム(レーザ光35)が照射される時期に限り、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御が行なわれることにより、制御装置(制御装置82)における制御処理の負荷を軽減することができる。
[構成9]
前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップ(ステップS3)は、前記チャンバ(チャンバ2)内における空間の温度よりも低温の前記雰囲気ガスを前記ガス供給装置(ガス供給装置88)から供給させることにより、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする、構成7または構成8に記載の積層造形方法。
【0109】
このような構成によれば、チャンバ(チャンバ2)内の空間の温度よりも低温の雰囲気ガスがガス供給装置(ガス供給装置88)からチャンバ(チャンバ2)内に供給されることにより、チャンバ(チャンバ2)内の熱エネルギーによって、その雰囲気ガスを膨張させることができる。これにより、チャンバ(チャンバ2)内の熱エネルギーによって、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を実現することができる。
[構成10]
前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップ(ステップS3)は、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの温度を変化させることにより、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする、構成7または構成8に記載の積層造形方法。
【0110】
このような構成によれば、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの温度を変化させることにより、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうので、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力制御を容易化することができる。
[構成11]
前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうステップ(ステップS3)は、前記チャンバ(チャンバ2)の容積を変化させることにより、前記チャンバ(チャンバ2)内における前記雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする、構成7または構成8に記載の積層造形方法。
【0111】
このような構成によれば、チャンバ(チャンバ2)の容積を変化させることにより、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を行なうので、チャンバ(チャンバ2)以外の機器を制御することなく、チャンバ(チャンバ2)内における雰囲気ガスの圧力を大気圧よりも高くする制御を実現することができる。
[構成12]
前記粉末(粉末9)は、鉄系材料の粉末(粉末9)である、構成7~構成11のいずれかに記載の積層造形方法。
【0112】
このような構成によれば、粉末(粉末9)が、鉄系材料の粉末(粉末9)であることにより、蒸気圧の高い鉄系材料の粉末(粉末9)においてプルームの拡散を抑制することができる。
【0113】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0114】
2 チャンバ、7 造形物、9 粉末、35 レーザ光、54 造形領域、50 パウダーベッド、82 制御装置、1 積層造形装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6