(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175434
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】冷却塔の性能判断方法および冷却システム
(51)【国際特許分類】
F28F 27/00 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
F28F27/00 511H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093224
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】飯村 晶
(57)【要約】
【課題】稼働している冷却塔の冷却水の水量およびファンによる風量と、冷却塔の周囲の外気の温度、湿度等を測定することなく、簡便に冷却塔の性能を判断する冷却塔の性能判断方法および冷却システムを提供する。
【解決手段】冷却塔の性能判断方法は、性能の比較対象の冷却塔の出口水温の外部データを取得する第1ステップと、このデータを基に、性能の判断対象の冷却塔の湿球温度を推定する第2ステップと、推定された湿球温度から冷却塔の性能を判断する第3ステップで構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機で熱を回収し温められた冷却水を、前記冷凍機と冷却塔との間に配設された供給ポンプおよび供給側外部配管によって前記冷却塔に供給するとともに、ファンの送風に接触させることによって冷却された冷却水を、前記冷却塔から排出側外部配管を通って前記冷凍機に戻す冷却システムにおける冷却塔の性能判断方法であって、
近接地域内に複数の冷却塔が点在し、前記複数の冷却塔のうちから選択される1つの冷却塔である第1冷却塔を判断対象の冷却塔とし、前記第1冷却塔以外の残りの冷却塔のうちの少なくとも1つの冷却塔である第2冷却塔を比較対象の冷却塔とするとき、
前記第1冷却塔の正常稼働時における冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データを測定し、測定した前記冷却水の出口水温、前記湿球温度及び前記負荷率データの関係を表した性能曲線を予め用意し、
前記第2冷却塔における、時刻tにおける冷却水の出口水温のデータを取得する第1ステップと、
前記第1ステップで取得した前記第2冷却塔における冷却水の出口水温のデータから、前記性能曲線を用いて、前記第1冷却塔における湿球温度を推定する第2ステップと、
前記第2ステップで推定された湿球温度である推定湿球温度と、前記第1冷却塔の実際の稼働時における冷却水の出口水温である実冷却水出口水温とに基づいて、前記第1冷却塔の性能を判断する第3ステップとを含む、冷却塔の性能判断方法。
【請求項2】
前記第1ステップで、前記第2冷却塔における負荷率データをさらに取得し、
前記第2ステップで、前記第2冷却塔における、前記出口水温のデータと前記負荷率データとから、前記性能曲線を用いて、第1冷却塔における湿球温度を推定する、請求項1に記載の冷却塔の性能判断方法。
【請求項3】
前記第3ステップで、前記第1冷却塔の負荷率データをさらに取得し、取得した前記負荷率データと、前記推定湿球温度と、前記第1冷却塔の出口水温とを基に、前記第1冷却塔の性能を判断する、請求項1又は2に記載の冷却塔の性能判断方法。
【請求項4】
前記複数の冷却塔の間でのデータのやり取りは、インターネットを介して行う、請求項1に記載の冷却塔の性能判断方法。
【請求項5】
冷凍機で熱を回収し温められた冷却水を、前記冷凍機と冷却塔との間に配設された供給ポンプおよび供給側外部配管によって前記冷却塔に供給するとともに、ファンの送風に接触させることによって冷却された冷却水を、前記冷却塔から排出側外部配管を通って前記冷凍機に戻す冷却システムにおいて、
近接地域内に複数の冷却塔が点在し、前記複数の冷却塔のうちから選択される1つの冷却塔である第1冷却塔を判断対象の冷却塔とし、前記第1冷却塔以外の残りの冷却塔のうちの少なくとも1つの冷却塔である第2冷却塔を比較対象の冷却塔とするとき、
前記第1冷却塔の正常稼働時における冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データを測定し、測定した前記冷却水の出口水温、前記湿球温度及び前記負荷率データの関係を表した性能曲線を予め用意する第1の手段と、
前記第2冷却塔における、時刻tにおける冷却水の出口水温のデータを取得し、
前記第2冷却塔における冷却水の出口水温のデータから、前記性能曲線を用いて、前記第1冷却塔における湿球温度を推定する第2の手段と、
推定された湿球温度である推定湿球温度と、前記第1冷却塔の実際の稼働時における冷却水の出口水温である実冷却水出口水温とに基づいて、前記第1冷却塔の性能を判断する第3の手段と
を備える、冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却塔の性能判断方法および冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント、化学プラント、冷空調プラント等の設備プラントでは、大量に発生した熱を冷凍機で回収しながらプラントを操業している。これら大量に回収した熱を制御しながら継続的に安定して操業するためには、水等の流体で構成される冷却塔で冷却して、繰り返し使用して稼働させている。冷却塔の設計能力は、具体的には、外気湿球温度27℃において、37℃に温められた冷却水を32℃に低下させて繰り返し使用している。しかし、冷却塔の効率が悪化すると、外気湿球温度27℃において、37℃に温められた冷却水を32℃に低下させることが出来なくなり、冷却塔から送水される水の温度が33℃や34℃と高い温度になってしまう。
【0003】
冷却塔から送水される温度の上昇は、冷凍機の冷却効率の悪化を招き、冷却水を必要な温度に冷却することが困難になる。また、そのうえに、冷凍機における冷却水の冷却時間の増加、冷凍機の消費エネルギーが増加するなどの問題が発生する。この問題が発生するのを防止するために、冷却塔の冷却水を冷却する性能を高く維持することが必要である。
また、冷却塔の性能の判断は、「JIS B 8609:2008強制通風式クーリングタワー性能試験方法」に準拠した試験方法によって判断されている。しかし、この性能試験方法は冷却塔の循環水量や風量、外気湿球温度を測定しなければならず、冷却塔の性能判断に対して非常に時間がかかるという問題がある。
【0004】
例えば、特許文献1は、冷却塔に関する複数のパラメータの理想値の関係の情報を示すパラメータマップを予め記憶するマップ記憶部と、前記冷却塔に関する複数のパラメータの実測値及び前記パラメータマップに基づいて、前記パラメータの理想値を推定する推定部と、を備える推定装置が開示されている。しかし、特許文献1は、冷却塔におけるファンの回転数等をパラメーターとして記録し、理想値と実測値との差から冷却塔の劣化を判断するもので、時間に関して効率的に判断するという問題が解決されていない。
また、特許文献2は、冷凍機の負荷率を演算する工程と、予め求められた前記冷凍機の負荷率と冷却水往還温度差との関係を示す一次式を用いて、前記冷却水往還温度差が、前記演算された前記冷凍機の負荷率に対応する前記冷却水往還温度差となるように、前記冷却水ポンプのモータの回転数を可変に制御する工程と、を含む熱源システム制御方法が開示されている。しかし、引用文献2は、冷凍機の負荷率を演算して、熱源システムの仕様に合わせた一次式を作成し制御するもので、汎用性を有するが、時間に関して効率的に制御するという問題が解決されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-181662号公報
【特許文献2】特開2021-055975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、稼働している冷却塔の冷却水の水量およびファンによる風量と、冷却塔の周囲の外気の温度、湿度等を測定することなく、冷却塔の性能を簡便であり、かつ、時間に関して効率的に判断する冷却塔の性能判断方法および冷却システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、本発明の実施形態の特徴を列記して説明する。
(1)冷凍機で熱を回収し温められた冷却水を、前記冷凍機と冷却塔との間に配設された供給ポンプおよび供給側外部配管によって前記冷却塔に供給するとともに、ファンの送風に接触させることによって冷却された冷却水を、前記冷却塔から排出側外部配管を通って前記冷凍機に戻す冷却システムにおける冷却塔の性能判断方法であって、近接地域内に複数の冷却塔が点在し、前記複数の冷却塔のうちから選択される1つの冷却塔である第1冷却塔を判断対象の冷却塔とし、前記第1冷却塔以外の残りの冷却塔のうちの少なくとも1つの冷却塔である第2冷却塔を比較対象の冷却塔とするとき、前記第1冷却塔の正常稼働時における冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データを測定し、測定した前記冷却水の出口水温、前記湿球温度及び前記負荷率データの関係を表した性能曲線を予め用意し、前記第2冷却塔における、時刻tにおける冷却水の出口水温のデータを取得する第1ステップと、前記第1ステップで取得した前記第2冷却塔における冷却水の出口水温のデータから、前記性能曲線を用いて、前記第1冷却塔における湿球温度を推定する第2ステップと、前記第2ステップで推定された湿球温度である推定湿球温度と、前記第1冷却塔の実際の稼働時における冷却水の出口水温である実冷却水出口水温とに基づいて、前記第1冷却塔の性能を判断する第3ステップとを含む、冷却塔の性能判断方法。
(2)前記第1ステップで、前記第2冷却塔における負荷率データをさらに取得し、前記第2ステップで、前記第2冷却塔における、前記出口水温のデータと前記負荷率データとから、前記性能曲線を用いて、第1冷却塔における湿球温度を推定する、請求項1に記載の冷却塔の性能判断方法。
(3)前記第3ステップで、前記第1冷却塔の負荷率データをさらに取得し、取得した前記負荷率データと、前記推定湿球温度と、前記第1冷却塔の出口水温とを基に、前記第1冷却塔の性能を判断する、請求項1又は2に記載の冷却塔の性能判断方法。
(4)前記複数の冷却塔の間でのデータのやり取りは、インターネットを介して行う、請求項1に記載の冷却塔の性能判断方法。
【0008】
(5)冷凍機で熱を回収し温められた冷却水を、前記冷凍機と冷却塔との間に配設された供給ポンプおよび供給側外部配管によって前記冷却塔に供給するとともに、ファンの送風に接触させることによって冷却された冷却水を、前記冷却塔から排出側外部配管を通って前記冷凍機に戻す冷却システムにおいて、
近接地域内に複数の冷却塔が点在し、前記複数の冷却塔のうちから選択される1つの冷却塔である第1冷却塔を判断対象の冷却塔とし、前記第1冷却塔以外の残りの冷却塔のうちの少なくとも1つの冷却塔である第2冷却塔を比較対象の冷却塔とするとき、前記第1冷却塔の正常稼働時における冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データを測定し、測定した前記冷却水の出口水温、前記湿球温度及び前記負荷率データの関係を表した性能曲線を予め用意する第1の手段と、前記第2冷却塔における、時刻tにおける冷却水の出口水温のデータを取得し、前記第2冷却塔における冷却水の出口水温のデータから、前記性能曲線を用いて、前記第1冷却塔における湿球温度を推定する第2の手段と、推定された湿球温度である推定湿球温度と、前記第1冷却塔の実際の稼働時における冷却水の出口水温である実冷却水出口水温とに基づいて、前記第1冷却塔の性能を判断する第3の手段とを備える、冷却システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、稼働している冷却塔の冷却水の水量およびファンによる風量と、冷却塔の周囲の外気の温度、湿度等を測定することなく、冷却塔の性能を、簡便であり、かつ、時間に関して効率的に判断する冷却塔の性能判断方法および冷却システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の冷却塔の性能判断方法の一実施形態を示す図である。
【
図2】本発明の冷却塔の性能判断方法の一実施形態を説明するフローチャートを示す図である。
【
図3】本発明の冷却塔の性能判断方法における第1冷却塔の性能曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明は、本発明における実施の形態の一例であって、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0012】
本発明の冷却塔の冷却システムは、第2冷却塔における、時刻tにおける冷却水の出口水温のデータを取得する第1の手段と、前記第1の手段で取得した前記第2冷却塔における冷却水の出口水温のデータから、前記性能曲線を用いて、前記第1冷却塔における湿球温度を推定する第2の手段と、前記第2の手段で推定された湿球温度である推定湿球温度と、前記第1冷却塔の実際の稼働時における冷却水の出口水温である実冷却水出口水温とに基づいて、前記第1冷却塔の性能を判断する第3の手段とを実施する制御装置を備えている。
【0013】
図1は、本発明の冷却塔の性能判断方法を実施する冷却システムの一実施形態を示す図である(以降、
図1の説明においてのみ符号を付して説明する。)。
本発明の冷却塔の性能判断方法を実施する冷却システム100は、
図1に示すように、図示していない熱負荷となるボイラー等の冷却対象物に接続している。冷却システム100は、制御装置1、インターネット2又は通信回線21、22、通信装置4、冷却塔(第1冷却塔)5、冷却水を循環させる循環ポンプ52、冷凍機6とを備えている。その他に、冷却システム100をウェブ上に配置することで、インターネット2、中間サーバー3に接続することができる。中間サーバ3には、大気データを供給するサーバー31、性能の判断対象の冷却塔(第1冷却塔)5以外の他の比較対象の冷却塔(第2冷却塔)を制御している他の冷却システム32を設ける。比較対象の第2冷却塔をインターネット2に接続させることで比較対象の第2冷却塔の冷却水の水温を容易に取得することができる。
【0014】
制御装置1は、通信装置4から第1冷却塔5の冷却水の水温、第1冷却塔5の周囲の大気における温度、湿度、大気圧等のデータを受信することができる。さらに、インターネット2上にある比較対象の冷却塔(第2冷却塔)の冷却水の水温、周囲の大気における温度等のデータを取得することができる。その取得したデータを用いて第1冷却塔5の性能を判断することができる。さらに、第1冷却塔の性能を判断することで、ファン51、循環ポンプ52を制御することができる。
また、制御装置1は、図示していない入力装置から、性能の判断対象の第1冷却塔5以外の他の比較対象の第2冷却塔の冷却水の水温、周囲の大気における温度、湿度、大気圧等のデータを入力し、判断対象の第1冷却塔5の性能を判断し、第1冷却塔5を制御することができる。
【0015】
第1冷却塔5は、冷却水を冷やして、冷却水と外気を直接接触させることで冷却を行う開放式、外気と直接接触することはなく配管内にある冷却水が冷やす密封式とがある。いずれの方式でもよいが、以下、内部配管により冷却する密封式により説明する。
冷却システム100における第1冷却塔5は、冷凍機6で熱を回収し温められた冷却水を、冷凍機6と第1冷却塔5との間に配設された供給ポンプ52および供給側外部配管53によって第1冷却塔5の内部配管54に供給する。次に、内部配管54をファン51の送風された空気に接触させることで、内部配管54に供給された冷却水の熱量を移動させて冷却する。このときに、ファン51の回転数、風量を制御するために大量の電力を消費する。これによって冷却された冷却水を、第1冷却塔5から排出側外部配管55を通って冷凍機6に戻して再びボイラー等の冷却対象物から熱を回収することに利用する。
【0016】
また、冷却システム100は、冷凍機6から第1冷却塔5へ冷却水を供給する供給側外部配管53内の冷却水の温度を測定する水温計41を設けている。水温計41は、供給側外部配管53に付着させることで接触させ、または、供給側外部配管53内部に挿入して測定することができる。また、第1冷却塔5から冷凍機6に冷却水を排出する排出側外部配管55内の冷却水の温度を測定する水温計42を設けている。
また、第1冷却塔5の近傍環境の大気の乾球温度と湿球温度、相対湿度、大気圧等を測定することができる温湿度計43を設けることができる。さらに、水温計41、42と温湿度計43とを集積する通信装置4を設けて、制御装置1にインターネット2又は通信回線21、22を通して送信する。また、水温計等のデータは、通信装置4を介することなく、制御装置1に直接送信することもできる。
【0017】
冷凍機6は、図示しない給水ポンプにより冷却対象物で熱を受けて高温になった与熱流体と第1冷却塔5の冷却水とで熱交換する。与熱流体も多くの場合、水を利用することが多い。冷凍機6は、与熱流体の温度を制御することで、冷却対象物につながる様々のプラントの操業における効率、経済性を大きく左右する。
【0018】
本発明の冷却塔の性能判断方法は、近接地域内に複数の冷却塔が点在し、前記複数の冷却塔のうちから選択される1つの冷却塔である第1冷却塔を判断対象の冷却塔とし、前記第1冷却塔以外の残りの冷却塔のうちの少なくとも1つの冷却塔である第2冷却塔を比較対象の冷却塔とするとき、第2冷却塔が送水する冷却水の出口水温と、第1冷却塔5が送水する排出側外部配管55の冷却水の水温を比較して性能の劣化を判断することができることを見出した。第1冷却塔5の冷却水の温度を連続的に測定することが望ましく、また、インターネット2等により遠隔監視することで、離れた場所からでも第1冷却塔5の性能の劣化を判断することができる。
【0019】
本発明の冷却塔の性能判断方法は、冷凍機で熱を回収し温められた冷却水を、前記冷凍機と冷却塔との間に配設された供給ポンプおよび供給側外部配管によって前記冷却塔に供給するとともに、ファンの送風に接触させることによって冷却された冷却水を、前記冷却塔から排出側外部配管を通って前記冷凍機に戻す冷却システムにおける冷却塔の性能判断方法であって、近接地域内に複数の冷却塔が点在し、前記複数の冷却塔のうちから選択される1つの冷却塔である第1冷却塔を判断対象の冷却塔とし、前記第1冷却塔以外の残りの冷却塔のうちの少なくとも1つの冷却塔である第2冷却塔を比較対象の冷却塔とするとき、前記第1冷却塔の正常稼働時における冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データを測定し、測定した前記冷却水の出口水温、前記湿球温度及び前記負荷率データの関係を表した性能曲線を予め用意し、前記第2冷却塔における、時刻tにおける冷却水の出口水温のデータを取得する第1ステップと、前記第1ステップで取得した前記第2冷却塔における冷却水の出口水温のデータから、前記性能曲線を用いて、前記第1冷却塔における湿球温度を推定する第2ステップと、前記第2ステップで推定された湿球温度である推定湿球温度と、前記第1冷却塔の実際の稼働時における冷却水の出口水温である実冷却水出口水温とに基づいて、前記第1冷却塔の性能を判断する第3ステップとを含む。
【0020】
図2は、本発明の冷却塔の性能判断方法を実施するフローチャートを示している。
図2に示すように、本発明の冷却塔の性能判断方法は、性能の比較対象の第2冷却塔の出口水温の外部データを取得する第1ステップと、このデータを基に、性能の判断対象の第1冷却塔の湿球温度を推定する第2ステップと、推定された湿球温度から第1冷却塔の性能を判断する第3ステップで構成されている。以下に、本発明の冷却塔の性能判断方法について詳細に説明する。
【0021】
なお、冷却塔の性能とは、以下の(式1)で表している。
(式1):冷却塔の性能=(冷却塔の実冷却水出口水温―冷却塔の推定される出口水温)
ここでは、判断対象の第1冷却塔からの実冷却水出口水温が、比較対象の第2冷却塔の出口水温等から推測される第1冷却塔の水温より、例えば、5℃高い場合に性能低下していると判断することができる。
詳細には、第2冷却塔を清浄と仮定し、あらかじめ準備した第2冷却塔の運転負荷と湿球温度と冷却塔送水温度の関係を表す式を用いて、時間tにおける第2冷却塔の運転負荷と冷却塔送水温度から湿球温度を算出する。時間tにおける第1冷却塔の湿球温度を時間tにおける第2冷却塔の湿球温度と等しいとし、第2冷却塔の運転負荷を計測し、あらかじめ準備した第1冷却塔の運転負荷と湿球温度と冷却水温度の性能曲線を用いて、第1冷却塔が清浄な場合の時間tにおける冷却塔送水温度を求め、第1冷却塔の時間tにおける冷却塔送水温度と比較判断する。ここで第1冷却塔、第2冷却塔の負荷は実測してもいいし、負荷率を100%と仮定してもよい。
【0022】
(第1の実施形態)
初めに、本発明の冷却塔の性能判断方法は、近接地域内に複数の冷却塔が点在し、前記複数の冷却塔のうちから選択される1つの冷却塔である第1冷却塔を判断対象の冷却塔とし、前記第1冷却塔以外の残りの冷却塔のうちの少なくとも1つの冷却塔である第2冷却塔を比較対象の冷却塔とが存在する。また、第1冷却塔の正常稼働時における冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データを測定し、測定した冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データの関係を表した性能曲線を予め用意する。
【0023】
第1冷却塔への冷却水の流量と送風する風量が一定の場合、送水温度は冷却対象物からもらう熱量と外気湿球温度および冷却塔効率によって決まる。冷却対象物からもらう熱量は第1冷却塔の設計値が最大値となり、冷却対象物の負荷が無い場合が最小値のゼロになる。
ここで、冷却塔の効率とは、以下の(式2)で表している。
(式2)=(現在のレンジ/設計におけるレンジ)×100
レンジとは、冷却塔の入口水温と出口水温の差、
現在のレンジとは、実測するレンジ、
設計におけるレンジとは、設計時のその湿球温度におけるレンジを表している。
【0024】
図3は、本発明の冷却塔の性能判断方法における第1冷却塔の性能曲線を示す図である。
図3は、横軸が湿球温度(℃)、縦軸が冷却水出口水温〈℃〉、および、負荷率20%、40%、60%、80%、100%における曲線を示している。冷却水の出口水温は、湿球温度以下には低下することはない。
図3から、湿球温度が20℃の時は、第1冷却塔の負荷率を100%にすることで、冷却水入口温度が27℃であっても、冷却水出口水温を20℃に制御することができることがわかる。
この冷却塔の性能曲線は、設置当初の設計した能力である。しかし、経年の稼働によって、冷却水の汚れ、配管の汚れの付着による狭小化、ファンの回転数等の送風能力の低下によって、冷却塔の性能曲線は変化する。したがって、「正常稼働時における」とは、設置当初の設計した能力をいう。
【0025】
従来は、冷却塔ごとの効率を診断しており、第1冷却塔の出口水温が湿球温度と負荷率データから計算される水温と同等になっていれば、第1冷却塔の効率が良好、水温以上であれば第1冷却塔の効率が悪化していると判断していた。しかし、冷却塔の性能は、JIS B 8609(クーリングタワー性能試験方法)によるために、測定に長い時間が必要である。したがって、冷却塔および冷却システムを実施しながら、この方法で測定するには時間がかかるので実用的ではない。そこで、発明者は、JIS B 8609(クーリングタワー性能試験方法)に準拠することなく、つまり、第1冷却塔の冷却水の水量およびファンによる風量と、第1冷却塔の周囲の外気の温度、湿度等を測定することなく、簡便に、かつ、時間に関して効率的に第1冷却塔の性能を判断する冷却塔の性能判断方法を見出した。
【0026】
図2より、初めに、第1ステップにおいて、複数の第2冷却塔における、時刻tにおける第2冷却水の出口水温を取得する(ステップS1)。
第2冷却塔は、
図1に示すように、インターネットを介して、第1冷却塔5の近接地域内に設置されている複数を選択される。選択される第2冷却塔が多いほうが、信頼性が高くなる。選択される第2冷却塔が、劣化していて性能が低下していても、それを判断しない。したがって、複数の第2冷却塔を測定することで、本発明の冷却塔の性能判断方法の信頼性を向上させることができる。
また、第2冷却塔は、第1冷却塔の近接地域内に設置されていることが好ましい。例えば、工業団地であれば半径1km以内に他の工場もあるが、点在している工場もあるので、現実的には10km以内が好ましい。これにより、本発明の冷却塔の性能判断方法の信頼性を向上させることができる。
また、天候の変わり目であれば激変するが、通常は30分以内であれば天候の変化がないか又は小さい。さらに、JIS B 8609(クーリングタワー性能試験方法)では、60分以内に測定するので、60分間は大きな変動が無いことを前提にしている。したがって、時刻tにおける第2冷却塔の冷却水の出口水温は、判断対象の第1冷却塔の出口水温の取得から、±60分以内、望ましくは±30分以内、さらに±10分以内が好ましい。これにより、本発明の冷却塔の性能判断方法の信頼性を向上させることができる。
【0027】
次に、第2ステップにおいて、第1ステップで取得した第2冷却塔における冷却水の出口水温から、第1冷却塔の性能曲線の関係を用いて、第1冷却塔における湿球温度を推定する(ステップS2)。
ここで、第1冷却塔と第2冷却塔とが、同じ外気環境条件で動作していると仮定することで、第2冷却塔の冷却水の出口水温から、第1冷却塔の性能曲線と第1冷却塔の負荷率100%として適用し、第1冷却塔の湿球温度を推定することができる。
【0028】
次に、第3ステップにおいて、第2ステップで推定された第1冷却塔の湿球温度である推定湿球温度と、第1冷却塔の実際の稼働時における冷却水の出口水温である実冷却水出口水温とに基づいて、第1冷却塔の性能を判断する(ステップS3)。これは、第1冷却塔の推定湿球温度と、予め用意した第1冷却塔の性能曲線とから、第1冷却塔の冷却水の出口水温を推定することができる。したがって、第1冷却塔の推定出口水温と第1冷却塔の実冷却水出口水温とに基づいて、第1冷却塔の性能を判断することができる。
また、第1冷却塔周囲の湿球温度と冷却水の実冷却水出口水温とから、第1冷却塔の負荷率を導きだすことができる。導き出された負荷率が100%以下と計算上仮定した値と同じ又は小さければ、第1冷却塔の性能は劣化していないと判断することができる。導き出された負荷率が100%を超えると、第1冷却塔の性能が劣化していると判断することができる。
【0029】
第1冷却塔の近隣地域内に存在する第2冷却塔では同じ湿球温度を有すると仮定して、特に、湿球温度等の外気条件を測定せずに、第1冷却塔の性能を判断することができる。例えば、近隣地域内の第2冷却塔の水温が20~26℃で、第1冷却塔の実冷却水出口水温が30℃であれば、第1冷却塔の性能が劣化していることが分かる。
しかし、さらに、第2冷却塔の出口水温を複数測定することで、出口水温の平均値を用いることで、本発明の冷却塔の性能判断方法の信頼性を向上させることができる。
【0030】
本発明の冷却塔の性能判断方法は、冷却水の配管およびポンプの動力や冷凍機の冷凍方式や容量などが異なる場合でも適用することができる。本発明の冷却塔の性能判断方法は、冷凍システムの仕様、例えば、冷凍機の圧縮方式や容量、冷却水の配管、冷却水ポンプの動力等に合わせて予め求められた冷却塔の性能曲線を用いて、冷却水の出口水温を制御対象とすることによって、冷却システムを最適に制御することができる。
【0031】
(第2の実施形態)
また、本発明の冷却塔の性能判断方法は、第1ステップで、複数の第2冷却塔の負荷率データをさらに取得する。性能の判断対象の第1冷却塔の負荷率データに対して、近隣地域内の第2冷却塔の負荷率データを取得することで、本発明の冷却塔の性能判断方法の信頼性を向上させることができる。
ここで、設計値通りの循環水量で運転されている場合、負荷率は、以下の(式3)で表している。
(式3):負荷率=(冷却水出口温度-冷却水入口温度)÷定格温度差
定格温度差は冷却塔の設計値となり、多くの場合は5℃で設計されている。したがって、正確には循環水量と冷却水入口温度の測定が必要であるが、循環水量は設計値、負荷率は一定値(例えば、60%。)と仮定し算出している。これによって、誤差が生じますが、第2冷却塔の数を多くして平均値を用いることで、誤差を少なくすることができる。また、あらかじめ算出した100%負荷時における必要な冷却水補給水量と、実際の補給水量の比率から負荷率を算出することもできる。
ここでは、循環水量は設計値、負荷率は一定値と仮定し算出することができる。第2ステップで、負荷率データを取得した第2冷却塔における出口水温と負荷率データとから、負荷率データを取得した第1冷却塔における湿球温度を推定する。
【0032】
ここで、第1ステップでは、第2冷却塔の負荷率データをさらに取得する。次に、第2ステップでは、さらに、第2冷却塔の負荷率データと第2冷却塔の出口水温データから第2冷却塔の効率を100%と仮定したときに、第2冷却塔の湿球温度を推定する。次に、第3ステップでは、推定された湿球温度と第1冷却塔の負荷率データから算出される第1冷却塔の効率を100%としたときの第1冷却塔の出口水温を推定する。第1冷却塔と第2冷却塔の負荷率データを求めることで、信頼性を向上させることができる。
【0033】
(第3の実施形態)
また、本発明の冷却塔の性能判断方法は、第3ステップでさらに第1冷却塔から取得した負荷率データと、推定湿球温度と、第1冷却塔の実冷却水出口水温とを基に、第1冷却塔の性能を判断する。
ここでは、第3ステップでは、推定された湿球温度と第1冷却塔の負荷率データから算出される第1冷却塔の効率を100%とした際の第1冷却塔出口水温を推定する。さらに、その時に、推定された第1冷却塔出口水温と、実際の第1冷却塔の実冷却水出口水温を比較し、実際の第1冷却塔の実冷却水出口水温が高い場合に冷却塔の性能が劣化していると判断する。
第3ステップで取得する負荷率データよって、湿球温度に0~5℃程度の差が生じ、結果として、推定された第1冷却塔の出口水温でも0~5℃程度の差が生ずる。しかし、近隣地域内における複数の第2冷却塔の負荷率データを取得することで、0~5℃程度の幅は狭くすることができる。
【0034】
(第4の実施形態)
また、本発明の冷却塔の性能判断方法は、インターネットを介して第1冷却塔の性能を判断する。冷却システムをウェブ上に配置することで、インターネット2、中間サーバーに接続することができる。インターネットを介さずに直接にLAN回線を通して制御装置に接続していてもよい。これにより、制御装置は、冷却塔の性能判断方法を実施するための必要な気象予測情報を扱う気象予測サーバー、性能の比較対象の第2冷却塔などに接続することができる。
また、冷却システムの通信装置を介して、第1冷却塔と第2冷却塔の冷却水の水温等のデータを水温計と温湿度計とから適宜取得し、継続的に冷却塔の性能を判断することで冷却システムを制御することができる。
【0035】
以上、説明したように、本発明の冷却塔の性能判断方法は、性能の判断対象の第1冷却塔の冷却水の水量およびファンによる風量と、第1冷却塔の周囲の外気の温度、湿度等を測定することなく、環境的に、地理的に近接した領域内の比較対象の第2冷却塔の出口水温、負荷率データを測定することで、第1冷却塔の性能を判断することができる。また、本発明の冷却塔の性能判断方法は、性能の判断対象の第1冷却塔が遠隔地にあって、実際の測定を実施することが難しい場合であっても、容易に性能の判断をすることができる。
また、性能の判断対象の第1冷却塔と性能の比較対象の第2冷却塔が近接地域内あっても、第1冷却塔の出口水温を測定し、第1冷却塔の存在する地域の温度、湿度等の外気条件を取得することで、継続的に第1冷却塔の性能を判断することができる。この場合、第1冷却塔の性能の劣化を継続的に把握することができ、冷却塔の修理、メンテナンス等を予測することができる。
【実施例0036】
以下に本発明の形態とその効果を、具体的な実施例で詳細に説明する。ここで記載する実施例は本発明の形態の一例を示すものであって、下記の実施例を以って本発明の範囲や効果を制限するものではない。
この実施例は、冷却塔の性能判断方法を、以下に示す順序で実施した。
【0037】
実施例は、冷却塔を備える冷却システムにおいて、本発明の冷却塔の性能判断方法を以下の各ステップにしたがって、実施した。
実験例1~3は、山梨県、神奈川県から3地域を選定した。この3地域から、判断対象である第1冷却塔として各1機を選定し、その選定した冷却塔から半径10km以内に設置してある冷却塔各3機を比較対象の第2冷却塔として選定した。
冷却システムは、冷却塔、循環ポンプ、熱交換器、および循環する冷却水、外気温・相対湿度・気圧を測定する測定手段、データを収集する収集盤を備える制御装置を備えている。また、冷却塔には、ファン、配水管、ファンを稼働する電流の電流値・周波数・電力値を測定する測定手段、冷却塔に供給する冷却水の温度、排出する冷却水の温度を測定する測定手段とを配置している。
【0038】
なお、冷却システムの運転条件は以下とする。
測定時期:2022年4月~2023年1月
測定条件:それぞれの地域において同時刻の第1冷却塔と第2冷却塔の冷却水送水温度を比較した。
【0039】
実験は、以下の3ステップ(1)第1ステップ、(2)第2ステップ、(3)第3ステップで実施した。
(1)初めに、各第1冷却塔の正常稼働時における冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データを測定し、測定した冷却水の出口水温、湿球温度及び負荷率データの関係を表した性能曲線を予め用意する。その後、第2冷却塔における、時刻tにおける冷却水の出口水温のデータを取得する。このときに、第2冷却塔を複数選択し、それぞれの冷却水の出口水温のデータを取得する。次に、第2冷却塔の平均値を計算する。これにより、第2冷却塔の極端な変動を無視することができる。
【0040】
実験領域と第1冷却塔の湿球温度を示している。
【表1】
【0041】
(2)次に、第2冷却塔における冷却水の出口水温のデータと負荷率から、第2冷却塔の性能曲線を用いて、第1冷却塔における湿球温度を推定する。 ここで、第2冷却塔の負荷率が不明の場合負荷率100%として、第1冷却塔における湿球温度を推定することもできる。
【表2】
【0042】
(3)次に、推定された第1冷却塔湿球温度と第1冷却塔の負荷率から、第1冷却塔の性能曲線を用いて、第1冷却塔の清浄時の出口温度を推定する。次に、推定された第1冷却塔の出口温度と、実際の出口温度を比較し冷却塔性能を判断した。
また、第1冷却塔の湿球温度と第1冷却塔における推定湿球温度とを比較することで、冷却塔の性能を判断することができる。このときに、負荷率を同じくすることで、冷却塔の性能、実験地の違いを無視することができる。また、第1冷却塔と同等性能の第2冷却塔を選定し、更に負荷率を等しいと仮定することで、性能曲線を使わずに、第1冷却塔と第2冷却塔の出口水温差から第1冷却塔の性能を算出することができる。ここで算出した冷却塔性能と、JIS準拠で判定した冷却塔効率から判断した冷却塔性能を比較した。冷却塔の性の判断として、JIS準拠で判定した冷却塔効率が90%以上の場合に「〇:良好」と、90%未満の場合に「×:不良」とした。なお、JIS準拠で判定した冷却塔効率は、冷却塔入口水温、冷却塔出口水温、湿球温度から算出することができる。なお、JIS準拠で判定した第1冷却塔の効率が、100%を超える場合は、測定誤差、特に、第2冷却塔の測定誤差が考えられるが、第1冷却塔の判断に大きな影響を与えることはない。なお、JIS準拠で判定した第1冷却塔の効率は、冷却塔入口水温、冷却塔出口水温、湿球温度からJIS準拠で算出している。
【0043】
【0044】
以上説明したように、本発明の冷却塔の性能判断方法は、判断対象の第1冷却塔の出口水温と近隣に点在する比較対象の第2冷却塔の出口水温を測定することで、第1冷却塔の性能を判断することができることがわかった。