(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175578
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】トロリ線の架線方法
(51)【国際特許分類】
B60M 1/28 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
B60M1/28 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093466
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 浩義
(72)【発明者】
【氏名】田村 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 起基
(57)【要約】
【課題】光ファイバを内蔵するトロリ線の架線方法であって、新規な手段により光ファイバの伸び歪みを抑えることのできるトロリ線の架線方法を提供する。
【解決手段】ドラム50に横巻きに巻きつけられた前記トロリ線1を延線する延線工程と、前記トロリ線本体10の端末に端末金具2を固定して、前記トロリ線本体10の端末から延びる前記光ファイバ17を前記トロリ線本体10に固定しない状態で前記端末金具2に含まれるファイバ収容トレイ20に収容する収容工程と、電車の通過による振動により、前記光ファイバ17の前記ファイバ収容トレイ20に収容された部分の一部を前記トロリ線本体10に引き込ませる引込工程と、を含む、トロリ線1の架線方法を提供する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線の両側に設けられた2つの摩耗検知線用孔を内部に有するトロリ線本体と、前記2つの摩耗検知線用孔に収容された、摩耗検知線としての2本の光ファイバとを備えたトロリ線の架線方法であって、
ドラムに横巻きに巻きつけられた前記トロリ線を延線する延線工程と、
前記トロリ線本体の端末に端末具を固定して、前記トロリ線本体の端末から延びる前記光ファイバを前記トロリ線本体に固定しない状態で前記端末具に含まれる収容部に収容する収容工程と、
電車の通過による振動により、前記光ファイバの前記収容部に収容された部分の一部を前記トロリ線本体に引き込ませる引込工程と、
を含む、トロリ線の架線方法。
【請求項2】
前記延線工程の後、前記トロリ線本体の端末の余長部分に対して、前記ドラムへの横巻きにより付与される曲げと反対方向の曲げを付与する真直工程を含む、
請求項1に記載のトロリ線の架線方法。
【請求項3】
前記収容工程において、前記収容部に収容される前記光ファイバの長さが3m以上である、
請求項1又は2に記載のトロリ線の架線方法。
【請求項4】
前記収容工程において、前記光ファイバが環状に巻かれた状態で前記収容部に収容される、
請求項1又は2に記載のトロリ線の架線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗検知線としての光ファイバを内蔵するトロリ線の架線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ入りトロリ線の架線方法であって、ドラムに横巻きに巻き付けられたトロリ線に内蔵された光ファイバの伸び歪みを抑制する方法が知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
一般的に、トロリ線をドラムに巻き付ける際には、横巻きにすることにより、架線後にトロリ線が波打つことに起因する波状摩耗の発生を抑えることができる。このとき、トロリ線が左右両側に収容された2本の光ファイバを備える場合、ドラムに近い方の光ファイバに圧縮歪みが生じる。この光ファイバの圧縮歪みは、トロリ線の延線後に伸び歪みに変わり、光ファイバの寿命の低下などの原因となる。
【0004】
特許文献1に記載の光ファイバ入りトロリ線の架線方法によれば、延線後に除去されるトロリ線の余長部分に対して、ドラムへの横巻きによりトロリ線に付与される曲げと反対方向の曲げを付与することにより、トロリ線がドラムに巻かれていたときにドラムに近い方にあった光ファイバのトロリ線への引き込み量を大きくし、伸び歪みを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法を用いた場合であっても、トロリ線に内蔵される光ファイバの伸び歪みを十分に抑えられるほどのトロリ線への引き込み量を確保することが難しい場合がある。このため、特許文献1に記載の方法などの従来の方法とは異なる工程により光ファイバの伸び歪みを抑えることのできるトロリ線の架線方法が望まれる。
【0007】
本発明の目的は、光ファイバを内蔵するトロリ線の架線方法であって、新規な手段により光ファイバの伸び歪みを抑えることのできるトロリ線の架線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、中心線の両側に設けられた2つの摩耗検知線用孔を内部に有するトロリ線本体と、前記2つの摩耗検知線用孔に収容された、摩耗検知線としての2本の光ファイバとを備えたトロリ線の架線方法であって、ドラムに横巻きに巻きつけられた前記トロリ線を、線路に沿って延線する延線工程と、前記トロリ線本体の端末に端末具を固定して、前記トロリ線本体の端末から延びる前記光ファイバを前記トロリ線本体に固定しない状態で前記端末具に含まれる収容部に収容する収容工程と、電車の通過による振動により、前記光ファイバの前記収容部に収容された部分の一部を前記トロリ線本体に引き込ませる引込工程と、を含む、トロリ線の架線方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光ファイバを内蔵するトロリ線の架線方法であって、新規な手段により光ファイバの伸び歪みを抑えることのできるトロリ線の架線方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るトロリ線の径方向の断面図である。
【
図2】
図2は、ドラムに巻き付けられた状態のトロリ線の断面を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係るトロリ線を含む架線の構成例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係るトロリ線の架線方法に用いる端末金具の構成例を示す図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、本実施の形態に係るトロリ線の架線方法を説明する説明図である。
【
図6】
図6(a)、(b)は、収容工程においてトロリ線本体の端末に固定された状態の端末金具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係るトロリ線の架線方法は、中心線の両側に設けられた2つの摩耗検知線用孔を内部に有するトロリ線本体と、前記2つの摩耗検知線用孔に収容された、摩耗検知線としての2本の光ファイバとを備えたトロリ線の架線方法であって、ドラムに横巻きに巻きつけられた前記トロリ線を延線する延線工程と、前記トロリ線の端部に端末具を固定して、前記トロリ線本体の端部から延びる前記光ファイバを前記トロリ線本体に固定しない状態で前記端末具に含まれる収容部に収容する収容工程と、電車の通過による振動により、前記光ファイバの前記収容部に収容された部分の一部を前記トロリ線本体に引き込ませる引込工程と、を含む。以下、この本発明の実施の形態に係るトロリ線の架線方法の詳細を説明する。
【0012】
(トロリ線の構造)
図1は、本発明の実施の形態に係るトロリ線1の径方向の断面図である。トロリ線1は、2つの摩耗検知線用孔14を内部に有するトロリ線本体10と、2つの摩耗検知線用孔14内に収容された摩耗検知線としての2本の光ファイバ17とを有する。トロリ線1は、新幹線路などの架線区間の距離に応じた長さを有し、例えば、1000~1850mの長さを有する。
【0013】
トロリ線1のトロリ線本体10は、異形丸形のトロリ線であり、上部の小弧面11、下部の大弧面12、両側部の小弧面11と大弧面12の間のV字状のイヤー溝13と、大弧面12の底部から所定の距離の位置にトロリ線本体10の長手方向に沿って設けられた線状の摩耗検知線用孔14とを有する。トロリ線本体10は、JISE2101、IEC62917に規定されたみぞ付硬銅トロリ線に該当する。
【0014】
トロリ線本体10の公称断面積は、例えば、150mm2(150SQ)以上かつ175mm2(175SQ)以下である。ここで、公称断面積とは、摩耗検知線用孔14が設けられていないと仮定した場合の計算断面積を示すものとする。
【0015】
トロリ線本体10は、銅合金、例えば、Cu-Sn-In系合金又はCu-Sn系合金を主成分とする。具体的には、例えば、トロリ線本体10は、錫(Sn)が0.4質量%超かつ0.6質量%以下、インジウム(In)が0質量%超かつ0.1質量%以下で含有され、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金や、錫が0.3±0.05%、インジウムが0.15±0.1%で含有され、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金からなることが好ましい。
【0016】
トロリ線1を介して電車に給電が行われる際には、トロリ線本体10の大弧面12の底部が、パンタグラフ等の電車の集電装置に接触する。このため、集電装置の摺動により、トロリ線本体10は大弧面12の底部から摩耗する。摩耗が進むと、設定された摩耗限度位置15に達する前に光ファイバ17が断線し、断線検知システムが作動して、トロリ線本体10が使用限界に近いところまで摩耗していることが検知される。
【0017】
摩耗検知線用孔14は、その上端の位置がトロリ線本体10の摩耗限度位置15に一致するような位置に設けられる。トロリ線本体10においては、トロリ線本体10の中心線16の両側に1つずつ、計2つの摩耗検知線用孔14が設けられ、それら2つの摩耗検知線用孔14の各々に1本ずつ光ファイバ17が収容されている。2本の光ファイバ17を用いることにより、偏摩耗が生じた場合にも摩耗を検知することができる。
【0018】
光ファイバ17の直径は、例えば、0.9mm以上かつ1.1mm以下である。直径が1.1mmよりも小さい光ファイバ17は、例えば、従来一般的に用いられている直径が1.1mmの光ファイバの外部被覆を薄くすることにより得ることができる。
【0019】
図2は、ドラム50に巻き付けられた状態のトロリ線1の断面を示す模式図である。
図2に示されるように、トロリ線1は、通常、架線後の波状摩耗の発生を抑えるため、ドラム50に横巻きで巻き付けられる。すなわち、トロリ線本体10の中心線16がドラム50の軸(胴51の軸)に対して垂直な方向よりも平行な方向に近くなるように巻かれる。
図2に示される例では、トロリ線本体10の中心線16はドラム50の軸に対してほぼ平行になっている。
【0020】
トロリ線1がドラム50に横巻きに巻き付けられると、2本の光ファイバ17のうちの、ドラム50に近い、すなわち胴51に近い光ファイバ17(光ファイバ17aとする)には圧縮歪みが生じ、ドラム50から遠い、すなわち胴51から遠い光ファイバ17(光ファイバ17bとする)には伸び歪みが生じる。
【0021】
より詳細には、例えば、トロリ線本体10の全長が1000mのトロリ線1をドラム50に横巻きに巻き付ける場合を考えると、光ファイバ17aを収容する摩耗検知線用孔14の経路長は1000mよりも短く、例えば990mとなる。トロリ線1をドラム50に巻き付ける際に光ファイバ17aの一部がトロリ線本体10から突出するものの、摩耗検知線用孔14の内周面との摩擦の影響や、摩耗検知線用孔14内での蛇行により、実際の経路長よりも長い、例えば995mの光ファイバ17aがトロリ線本体10に含まれる。このように、例えば990mの摩耗検知線用孔14に995mの光ファイバ17aが収容されていることになり、トロリ線1をドラム50に横巻きに巻き付けた状態においては、光ファイバ17aに圧縮歪みが生じている。
【0022】
同様に、光ファイバ17bを収容する摩耗検知線用孔14の経路長は1000mよりも長く、例えば1010mとなる。トロリ線1をドラム50に巻き付ける際に光ファイバ17bの一部がトロリ線本体10に引き込まれるものの、摩耗検知線用孔14の内周面との摩擦の影響により、実際の経路長よりも短い、例えば1005mの光ファイバ17bがトロリ線1に含まれる。このように、例えば1010mの摩耗検知線用孔14に1005mの光ファイバ17bが収容されていることになり、トロリ線1をドラム50に横巻きに巻き付けた状態においては、光ファイバ17bに伸び歪みが生じている。
【0023】
ドラム50からトロリ線1を引き出して延線作業を行うと、両光ファイバ17a、17bを収容する摩耗検知線用孔14の経路長が共に1000mの長さになる。しかしながら、光ファイバ17aは、例えば995mしか摩耗検知線用孔14に収容されていないため、延線作業を行い摩耗検知線用孔14の経路長が1000mになると、伸び歪みが生じた状態になる。このように、トロリ線1がドラム50に横巻きで巻き付けられた状態では、光ファイバ17aに圧縮歪みが生じているが、延線作業を行うと伸び歪みが生じた状態になる。
【0024】
同様に、光ファイバ17bは、例えば1005mの摩耗検知線用孔14に収容されているため、延線作業を行い摩耗検知線用孔14の経路長が1000mになると、圧縮歪みが生じた状態になる。このように、トロリ線1がドラム50に横巻きで巻き付けられた状態では、光ファイバ17bに伸び歪みが生じているが、延線作業を行うと圧縮歪みが生じた状態になる。
【0025】
トロリ線1の架線後に残留する光ファイバ17aの伸び歪み(残留伸び歪み)は、光ファイバ17aの寿命の低下などの原因となる。このため、トロリ線1をドラム50から引き出した後の、光ファイバ17aの余長部分(トロリ線本体10の摩耗検知線用孔14から外部に延びた部分)のトロリ線本体10の内部への引き込み量を増やし、光ファイバ17aの残留伸び歪みを抑えることが重要である。
【0026】
なお、トロリ線1をドラム50に横巻きに巻き付けることにより光ファイバ17bに生じる伸び歪みは、トロリ線1の延線後に圧縮歪みに変わるが、トロリ線1の架線後に残留する圧縮歪みは光ファイバ17bの寿命にほとんど影響を及ぼさない。このため、基本的に光ファイバ17bの寿命は光ファイバ17aの寿命よりも長く、光ファイバ17aを長寿命化することにより、2本の光ファイバ17を長寿命化することができる。
【0027】
ここで、スクリーニングレベル(スクリーニングにより加えられた伸び歪みの値)が1.3%である光ファイバを光ファイバ17として用いる場合に、約15年の光ファイバ17の寿命を確保することのできる残留伸び歪みの最大値を、安全率を考慮して算出すると、約0.35%となる。このことから、光ファイバ17の残留伸び歪みは0.35%以下であることが好ましい。なお、上述のように光ファイバ17bには圧縮歪みが残留するため、光ファイバ17aの残留伸び歪みが0.35%以下であれば、光ファイバ17(17a、17b)の残留伸び歪みが0.35%以下となる。
【0028】
(架線の構成)
図3は、トロリ線1を含む架線の構成例を示す模式図である。
図3に示されるように、トロリ線1は、図示しない電車が走行する線路100の上方の空間に架線される。ここでは、一例として、架線の構成がコンパウンドカテナリー方式である場合を説明する。なお、架線の構成は、シンプルカテナリー方式であってもよい。
【0029】
コンパウンドカテナリー方式では、吊架線31からドロッパ32により補助吊架線33を吊り下げ、補助吊架線33からハンガ34によりトロリ線1を吊り下げた構成となっている。補助吊架線33とトロリ線1は、それぞれ引留クランプ35、36の一端に固定され、引留クランプ35、36の他端が、それぞれターンバックル37、38を介してヨーク金具39に連結されている。ヨーク金具39は、補助吊架線33とトロリ線1の張力のバランスをとる役割を果たしている。
【0030】
引留クランプ36に固定されたトロリ線1の端末部分の先端には、本発明の実施の形態に係るトロリ線の架線方法に用いる端末具としての端末金具2が固定されており、端末金具2の内部において、トロリ線1に含まれる光ファイバ17と断線検知システムなどに接続された光ケーブル3に含まれる光ファイバが接続されている。
【0031】
(端末具の構造)
図4は、本発明の実施の形態に係るトロリ線の架線方法に用いる端末具としての端末金具2の構成例を示す図である。
図4に示される端末金具2は、光ファイバ17を収容する収容部としてのファイバ収容トレイ20と、トロリ線1を固定するトロリ線固定金具21と、光ケーブル3を固定する光ケーブル固定金具22と、ファイバ収容トレイ20が固定され、トロリ線固定金具21と光ケーブル固定金具22を連結する連結金具23と、光ケーブル3のテンションメンバを保持するテンションメンバクランプ24と、ファイバ収容トレイ20内において光ファイバ17と光ケーブル3に含まれる光ファイバの融着部のホルダを保持する接続部ホルダ25と、トロリ線固定金具21及びその近傍のトロリ線1の一部を覆うトロリ線側エンドベル26と、光ケーブル固定金具22及びその近傍の光ケーブル3の一部を覆う光ケーブル側エンドベル27と、連結金具23の周囲を囲む金属製のスリーブ28と、スリーブ28及び光ケーブル側エンドベル27の周囲を覆う熱収縮スリーブ29とを備える。
【0032】
そして、端末金具2のトロリ線側エンドベル26側の端部及びそこから伸びるトロリ線1の一部には防水テープ61が巻かれ、端末金具2の光ケーブル側エンドベル27側の端部及びそこから伸びる光ケーブル3の一部には防水テープ62が巻かれる。トロリ線1に含まれる光ファイバ17と光ケーブル3に含まれる光ファイバは、端末金具2のファイバ収容トレイ20内で接続される。なお、
図4においては、トロリ線1に含まれる光ファイバ17と光ケーブル3に含まれる光ファイバの図示を省略している。
【0033】
(トロリ線の架線方法)
図5(a)~(c)は、本実施の形態に係るトロリ線の架線方法を説明する説明図である。本実施の形態に係るトロリ線の架線方法は、準備工程と、延線工程と、真直工程と、端末処理工程と、を含んでいる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0034】
(準備工程)
準備工程では、所定の長さ(例えば、1000~1850m程度の長さ)のトロリ線1が横巻きで巻き付けられているドラム50を、延線作業を行うための延線車両53に設置する。
【0035】
(延線工程)
延線工程では、
図5(a)に示されるように、延線車両53に設置されたドラム50から所定の速度でトロリ線1を順次送り出して、線路100の上方の空間部分に延線を行う。トロリ線1の架線始めには、ドラム50に巻かれているトロリ線1の始端部分(送り出し始めの端末から8.5m以上までの部分)を、延線後にトロリ線本体10を除去する余長部分として確保する。次いで、確保した余長部分以降のトロリ線1をドラム50から順次送り出して延線する。トロリ線1の延線終わりには、ドラム50に巻かれているトロリ線1の終端部分(送り出し終わりの端末から8.5m以上の部分)を、延線後にトロリ線本体10を除去するトロリ線1の余長部分(後述する余長部分1a)として確保する。
【0036】
トロリ線1は、その中心線16が略鉛直方向に沿うように架線される。ドラム50に横巻きに巻き付けられた状態では、トロリ線1は、その中心線16が略水平方向に沿うように配置されているため、延線工程においては、ドラム50から送り出されたトロリ線1は、その中心軸(横断面視における中心)まわりに略90度回転されつつ(捩れさせつつ)延線されることになる。
【0037】
なお、
図5では、一例として、旧トロリ線70が既に架線されており、この旧トロリ線70をトロリ線1に張り替える場合について示している。この場合、図示しない金具を用いて旧トロリ線70にトロリ線1を吊り下げながら延線を行う。
【0038】
(真直工程)
真直工程では、延線後に除去されるトロリ線本体10の端末の余長部分に対して、ドラム50への横巻きによりトロリ線本体10に付与される曲げと反対方向の曲げを付与することにより、余長部分を真直な状態に近付ける。
図5では、一例として、トロリ線1の終端部分に確保した余長部分1aのトロリ線本体10に対して、真直工程を実施する場合について説明する。なお、以下に説明する真直工程は、トロリ線1の始端部分(送り出し始めのトロリ線本体10の端末から8.5m以上までの部分)に確保した余長部分のトロリ線本体10にも同様に行う。
【0039】
具体的には、まず、延線工程によりトロリ線1の延線が行われた後、トロリ線1の余長部分1aをドラム50から引き出す。その後、
図5(b)に示すように、トロリ線1がドラム50に巻き付けられ張力が付与されている状態で、矯正器としての真直器54によりトロリ線本体10に曲げを付与する。
【0040】
真直工程では、余長部分1aのトロリ線本体10の端末から所定距離までの範囲において、1か所以上に曲げを付与するとよい。また、真直工程で2か所以上に曲げを付与する場合は、長手方向に所定の間隔で曲げを加えてもよい。特に、余長部分1aのトロリ線本体10の端末から所定距離までの範囲において連続的に曲げを加えることが好ましい。ここでは、余長部分1aのトロリ線本体10に1か所曲げを付与する場合について説明する。
【0041】
本実施の形態では、余長部分1aのトロリ線本体10の長さ(端末からの長さ)を8.5m以上とした。曲げを付与する位置がトロリ線本体10の端末から離れすぎると十分に効果が得られない場合があるため、真直工程では、トロリ線本体10の端末から約8.5mまでの部分に曲げを付与することが望ましい。
【0042】
また、曲げを付与する作業は、トロリ線本体10に張力が作用している方が行いやすいことから、真直工程では、この余長部分1aのトロリ線本体10のうち8.5m以上(端末から8.5m以上10m未満)がドラム50に巻き付けられた状態で、トロリ線本体10に曲げを付与するとよい。
【0043】
一般に、ドラム50への横巻きによりトロリ線本体10に付与される曲げ(巻き癖の原因となる曲げ)の曲率半径は500~1100mm程度であることから、真直工程では、真直器54により、巻き癖と反対の方向に500mm以上1100mm以下の曲げをトロリ線本体10に付与するとよい。トロリ線本体10に曲げを付与することにより、
図5(c)に示されるように、余長部分1aのトロリ線本体10は、ドラム50への巻き癖と反対側に曲がり癖が付与されることになり、真直器54で曲げを付与した部分を基準として、一点鎖線で示される水平位置よりも上方に向かって反る。
【0044】
余長部分1aのトロリ線本体10に曲げを付与しない状態においては、光ファイバ17aはドラム50から開放されたままの自然な状態(付与された巻き癖により自然に曲がり、垂れ下がっている状態)となる。このままの状態では、光ファイバ17aは、ドラム50に巻き付けられた状態(圧縮ひずみが付与された状態)で維持されてしまい、光ファイバ17aのトロリ線本体10内への引き込みが妨げられてしまう。なお、
図5(c)では、トロリ線本体10に曲げを付与しない場合の余長部分1aの位置を破線にて示している。
【0045】
本実施の形態のように、ドラム50への横巻きにより付与される曲げと反対方向の曲げを余長部分1aのトロリ線本体10に付与する(つまり、巻き癖と反対方向の曲がり癖が付与されるように局部ひずみを付与する)ことにより、余長部分1aにおける光ファイバ17aの圧縮歪みを伸び歪みに変化させることができる。より具体的には、真直工程を行うことによって、延線前のトロリ線1において光ファイバ17aに生じている0.1~0.3%の圧縮歪みが、0.1~0.3%程度の伸び歪みに矯正される。その結果、トロリ線1の延線によって光ファイバ17aが余長部分1aから長手方向に引き込まれる量が大きくなり、光ファイバ17aの残留伸び歪みを低減させることが可能になる。
【0046】
なお、トロリ線本体10の端末を真直に矯正するだけでは、光ファイバ17aを十分に引き込ませることが困難な場合がある。少なくとも余長部分1aのトロリ線本体10が水平位置よりも上方に反る程度(巻き癖と反対側に曲がり癖が付与される程度)に曲げを付与することが望まれる。
【0047】
真直工程を行うと、余長部分1aの光ファイバ17aがトロリ線本体10の最終的に架線に残される部分(以下、架線部分と呼ぶ)へと引き込まれる。具体的には、この際に光ファイバ17が1m~3m程度、架線部分のトロリ線本体10へと引き込まれる。その結果、トロリ線1に内蔵される光ファイバ17aの残留伸び歪みが低減されることになる。
【0048】
なお、真直工程を行うと、トロリ線1の延線により圧縮歪みが生じた状態となる光ファイバ17bは、トロリ線本体10の端末から突出し易くなる。すなわち、真直工程を行うことにより、光ファイバ17bの圧縮歪みも抑制される。
【0049】
(端末処理工程)
真直工程を行った後、トロリ線1の端末処理(端末加工)を行う。この際、真直工程にて曲げを付与された余長部分のトロリ線本体10(
図5における余長部分1aのトロリ線本体10)は切断され除去される。例えば、トロリ線本体10の両端部分に確保した8.5mの余長部分のうち端末から5.5mを切断して除去し、引留クランプ36への取り付け作業を行う。
【0050】
また、この端末処理において、余長部分のトロリ線本体10を除去し、引留クランプ36への取り付け作業を行った後、トロリ線本体10の少なくとも一方の端末に端末金具2を固定して、トロリ線本体10の端末から延びる光ファイバ17をトロリ線本体10に固定しない状態で端末金具2に含まれる収容部としてのファイバ収容トレイ20に収容する収容工程を行う。このとき、トロリ線本体10は、端末金具2のトロリ線固定金具21に固定される。
【0051】
図6(a)、(b)は、上記の収容工程においてトロリ線本体10の端末に固定された状態の端末金具2の斜視図である。
図6(a)は、ファイバ収容トレイ20にカバー201を被せる前の状態を示し、
図6(b)は、ファイバ収容トレイ20にカバー201を被せた後の状態を示す。カバー201は、ファイバ収容トレイ20の底面から突出する円柱状の突起202を通す孔を有する。カバー201をファイバ収容トレイ20に被せた状態で突起202にキャップ203を被せることにより、カバー201がファイバ収容トレイ20に固定される。
【0052】
通常、ファイバ収容トレイ20には1mの光ファイバ17を光ケーブル3に含まれる光ファイバとの接続用に確保して収容するが、本実施の形態においては、収容工程に実施される後述する引込工程での光ファイバ17aの引き込みを行うために、1mよりも長い光ファイバ17を収容する。引込工程では、2m以上の光ファイバ17aをトロリ線本体10に引き込ませることが好ましく、その場合、3m以上の光ファイバ17をファイバ収容トレイ20に収容することが好ましい。
【0053】
トロリ線本体10の端末から延びる光ファイバ17は、
図6(a)に示されるように、環状に巻かれた状態でファイバ収容トレイ20に収容されることが好ましい。この場合、引込工程において、ファイバ収容トレイ20に収容された光ファイバ17aを円滑にトロリ線本体10に引き込ませることができる。
【0054】
また、通常、ファイバ収容トレイ20に収容される光ファイバ17は、この時点でトロリ線本体10の端末に塗布された接着剤によりトロリ線本体10の端末に固定されるが、本実施の形態では、引込工程を行うために、この時点ではトロリ線本体10に固定しない。
【0055】
また、引込工程においてファイバ収容トレイ20に収容される光ファイバ17が全てトロリ線本体10内に引き込まれることを防ぐために、ファイバ収容トレイ20に収容される光ファイバ17の所定の位置(例えば、トロリ線本体10の端末から2m以上離れた位置)にストッパーを設けることが好ましい。このストッパーは、光ファイバ17の周囲に固定される、外径が摩耗検知線用孔14の径よりも大きい部品、例えば、光ファイバ17を通す孔を有する円筒状の部品や、ボルトクリップ、光ファイバに巻き付けたテープなどである。
【0056】
例えば、引込工程において3mの光ファイバ17をファイバ収容トレイ20に収容する場合、光ファイバ17の端末から0.5mの位置にストッパーを設けることにより、光ファイバ17aを2.5mまでトロリ線本体10に引き込ませることができる。トロリ線本体10の両側の端末からトロリ線本体10に光ファイバ17aを2.5mずつ引き込ませる場合、合計の引き込み量は5mとなり、光ファイバ17aの伸び歪み量を0.27~0.5%低減することができる。
【0057】
収容工程においては、後述する引込工程においてトロリ線本体10の両側の端末からトロリ線本体10へ光ファイバ17aを引き込ませて、引き込み量を増やすために、トロリ線本体10の両側の端末に端末金具2をそれぞれ固定し、光ファイバ17を収容することが好ましい。
【0058】
収容工程の後、ハンガ34などの接続を旧トロリ線70からトロリ線1に切り替え、その後、旧トロリ線70をドラム50に巻き取って回収する。
【0059】
収容工程の後、電車の通過による振動により、光ファイバ17aのファイバ収容トレイ20に収容された部分の一部をトロリ線本体10に引き込ませる引込工程を行う。この引込工程においては、線路を通過する電車のパンタグラフ等の集電装置の摺動により、トロリ線本体10が振動し、そのトロリ線本体10の振動とトロリ線本体10の摩耗検知線用孔14内の光ファイバ17aの伸び歪みによって光ファイバ17aのファイバ収容トレイ20に収容された部分の一部がトロリ線本体10に引き込まれる。この引込工程は、ある程度の光ファイバ17aの引き込み量が得られる期間、例えば1~8週間実施される。
【0060】
引込工程によって光ファイバ17aの余長部分をトロリ線本体10に引き込むことにより、トロリ線1に内蔵される光ファイバ17aの伸び歪みが低減される。引込工程は、光ファイバ17aのトロリ線本体10への引き込み量を大きくし、より効果的に伸び歪みを低減するため、上述のように、真直工程と組み合わせて行うことが好ましい。例えば、トロリ線本体10の長さが1850mである場合、引込工程を真直工程と組み合わせて行い、かつ引込工程でトロリ線本体10の両側の端末からトロリ線本体10に2.5m以上の光ファイバ17aを引き込ませることにより、光ファイバ17aの残留伸び歪みを0.35%以下に抑えることができる。
【0061】
引込工程を行った後、端末金具2のトロリ線固定金具21に光ケーブル3を固定し、端末金具2の内部で光ケーブル3に含まれる光ファイバを光ファイバ17の端末に融着接続などにより光学的に接続する。また、このとき、トロリ線本体10の端面に接着剤を塗布し、光ファイバ17をトロリ線本体10に接着する。なお、トロリ線1の端末が、摩耗検知システムのシステム終端末に位置する場合には、トロリ線1に含まれる光ファイバ17aと光ファイバ17bの端末同士を接続する場合もある。
【0062】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係るトロリ線の架線方法によれば、電車の通過による振動を利用して光ファイバの余長部分をトロリ線本体に引き込むことにより、トロリ線に内蔵される光ファイバの残留伸び歪みを低減し、この残留伸び歪みに起因する寿命低下などを抑制することができる。また、この電車の通過による振動を利用した光ファイバのトロリ線本体への引き込みを真直工程による光ファイバのトロリ線本体への引き込みと組み合わせることにより、より効果的にトロリ線に内蔵される光ファイバの残留伸び歪みを低減することができる。
【0063】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0064】
[1]中心線(16)の両側に設けられた2つの摩耗検知線用孔(14)を内部に有するトロリ線本体(10)と、前記2つの摩耗検知線用孔(14)に収容された、摩耗検知線としての2本の光ファイバ(17)とを備えたトロリ線(1)の架線方法であって、ドラム(50)に横巻きに巻きつけられた前記トロリ線(1)を延線する延線工程と、前記トロリ線本体(10)の端末に端末具(2)を固定して、前記トロリ線本体(10)の端末から延びる前記光ファイバ(17)を前記トロリ線本体(10)に固定しない状態で前記端末具(2)に含まれる収容部(20)に収容する収容工程と、電車の通過による振動により、前記光ファイバ(17)の前記収容部(20)に収容された部分の一部を前記トロリ線本体(10)に引き込ませる引込工程と、を含む、トロリ線(1)の架線方法。
【0065】
[2]前記延線工程の後、前記トロリ線本体(10)の端末の余長部分に対して、前記ドラム(50)への横巻きにより付与される曲げと反対方向の曲げを付与する真直工程を含む、上記[1]に記載のトロリ線(1)の架線方法。
【0066】
[3]前記収容工程において、前記収容部に収容される前記光ファイバの長さが3m以上である、上記[1]又は[2]に記載のトロリ線(1)の架線方法。
【0067】
[4]前記収容工程において、前記光ファイバ(17)が環状に巻かれた状態で前記収容部(20)に収容される、上記[1]又は[2]に記載のトロリ線の架線方法。
【0068】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0069】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0070】
1 トロリ線
1a 余長部分
10 トロリ線本体
14 摩耗検知線用孔
17、17a、17b 光ファイバ
2 収容具
20 ファイバ収容トレイ
50 ドラム