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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175591
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】耐腐食膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/12 20060101AFI20241211BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241211BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20241211BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20241211BHJP
   B32B 15/18 20060101ALI20241211BHJP
【FI】
C23C18/12
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B15/04 B
B32B15/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093492
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】井戸 彬文
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 誠
【テーマコード(参考)】
4F100
4K022
【Fターム(参考)】
4F100AA19C
4F100AA19E
4F100AA20B
4F100AA21D
4F100AB04A
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA08
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100GB51
4F100JB02D
4F100JJ03C
4F100JJ03E
4K022AA02
4K022BA02
4K022BA15
4K022BA20
4K022BA22
4K022BA36
4K022DA06
(57)【要約】
【課題】熱膨張係数が大きい部材に施工しても、熱膨張収縮による剥離を抑制する。
【解決手段】部材5と酸化アルミニウムを主成分とした耐熱膜12との間に熱膨張収縮に耐性を有するケイ素酸化物膜11(SiO2)を形成し、耐熱膜12の表面に耐熱膜12の成分の溶け込みが抑制されたチタン酸化物膜13(TiO2)を形成し、部材5の熱膨張収縮による内部応力によるクラックの発生が防止された状態で耐腐食性を有した状態にする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に設けられ、前記基材の熱膨張収縮に耐性を有するケイ素酸化物膜と、
前記ケイ素酸化物膜の表面に設けられ、酸化アルミニウムを主成分とした耐熱膜と、
前記耐熱膜の表面に設けられ、前記耐熱膜の成分の溶け込みが抑制されたチタン酸化物膜とを備えた
ことを特徴とする耐腐食膜。
【請求項2】
請求項1に記載の耐腐食膜において、
前記チタン酸化物膜の表面に設けられ、酸化アルミニウムを主成分とした第2耐熱膜と、
前記第2耐熱膜の表面に設けられ、前記第2耐熱膜の成分の溶け込みが抑制された第2チタン酸化物膜とを備えた
ことを特徴とする耐腐食膜。
【請求項3】
請求項1に記載の耐腐食膜において、
前記チタン酸化物膜の表面に設けられる機能性塗膜を備えた
ことを特徴とする耐腐食膜。
【請求項4】
請求項2に記載の耐腐食膜において、
前記第2チタン酸化物膜の表面に設けられる機能性塗膜を備えた
ことを特徴とする耐腐食膜。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の耐腐食膜において、
前記基材は、オーステナイト系ステンレスである
ことを特徴とする耐腐食膜。
【請求項6】
請求項5に記載の耐腐食膜おいて、
前記基材は、ボイラの過熱器の部材である
ことを特徴とする耐腐食膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温腐食に対する耐腐食膜に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、火力発電設備などでは、燃料を燃焼させた際に発生するガスによって、構造部材の高温伝熱管(水冷壁管、過熱器管、再熱器管など)の外面の高温腐食が問題となっていた。腐食対策の技術として、肉盛溶接、溶射皮膜の施工、耐熱塗装などが挙げられる。
【0003】
例えば、酸化チタン粒子をコーティングして(耐熱塗装して)酸化チタンからなる被膜を構造材などに設けることにより、構造材の耐硫化腐食性を向上させることが提案されている(特許文献1)。耐熱塗装は安価かつ簡便であるという利点があり、実際の火力発電ボイラでも高温腐食対策技術として広く使われている。
【0004】
火力発電設備のボイラの伝熱管のうち、過熱器の伝熱管は、管内面の蒸気温度、管外面のガス温度が最も高いことから、高温耐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼が用いられることが多い。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼はクロムモリブデン鋼などの熱交換器用の低合金鋼に比べて熱膨張係数が大きい。このため、500℃から600℃以上の高温状態にさらされた場合、熱膨張収縮により耐熱塗装が剥離する虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-272990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、熱膨張収縮による剥離を抑制することができる耐腐食膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の耐腐食膜は、基材の表面に設けられ、前記基材の熱膨張収縮に耐性を有するケイ素酸化物膜(SiO2)と、前記ケイ素酸化物膜の表面に設けられ、酸化アルミニウムを主成分とした耐熱膜と、前記耐熱膜の表面に設けられ、前記耐熱膜の成分の溶け込みが抑制されたチタン酸化物膜(TiO2)とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項1に係る本発明では、ケイ素酸化物膜(SiO2)が基材との間に介在することで、基材の熱膨張収縮による内部応力によるクラックの発生が防止される。熱膨張係数が大きい基材に施工しても、熱膨張収縮による剥離を抑制することが可能になる。
【0009】
基材としては、鉄鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金などが適用される。そして、膨張係数が高い部材で高温にさらされる、ボイラの過熱器の部材であるオーステナイト系ステンレスに施工しても、熱膨張収縮による剥離を抑制することが可能になる。ケイ素酸化物膜(SiO2)、チタン酸化物膜(TiO2)の膜厚は、それぞれ、最大で1μm程度が好ましく、ケイ素酸化物膜(SiO2)、酸化アルミニウムを主成分とした耐熱膜、チタン酸化物膜(TiO2)のトータルの膜厚は、20μmから40μm程度が好ましい。
【0010】
そして、請求項2に係る本発明の耐腐食膜は、請求項1に記載の耐腐食膜において、前記チタン酸化物膜の表面に設けられ、酸化アルミニウムを主成分とした第2耐熱膜と、前記第2耐熱膜の表面に設けられ、前記第2耐熱膜の成分の溶け込みが抑制された第2チタン酸化物膜とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る本発明では、第2耐熱膜と、第2チタン酸化物膜(TiO2)を設けたことにより膜厚を厚くすることができ、熱膨張収縮による剥離を抑制した状態で、クラックの発生を抑制して耐食性能、及び、耐用年数を向上させた耐腐食膜とすることができる。
【0012】
また、請求項3に係る本発明の耐腐食膜は、請求項1に記載の耐腐食膜において、前記チタン酸化物膜の表面に設けられる機能性塗膜を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る本発明では、チタン酸化物膜(TiO2)の表面に機能性塗膜を形成したので、剥離が抑制された耐腐食機能に加えて耐腐食性以外の機能を有する複合塗膜とすることができる。
【0014】
また、請求項4に係る本発明の耐腐食膜は、請求項2に記載の耐腐食膜において、前記第2チタン酸化物膜の表面に設けられる機能性塗膜を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る本発明では、第2チタン酸化物膜(TiO2)の表面に機能性塗膜を形成したので、膜厚を厚くして剥離が抑制された耐腐食機能に加えて耐腐食性以外の機能を有する複合塗膜とすることができる。
【0016】
また、請求項5に係る本発明の耐腐食膜は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の耐腐食膜において、前記基材は、オーステナイト系ステンレスであることを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る本発明では、熱膨張係数が大きいオーステナイト系ステンレスに施工しても熱膨張収縮による剥離が抑制された耐腐食膜となる。
【0018】
また、請求項6に係る本発明の耐腐食膜は、請求項5に記載の耐腐食膜おいて、前記基材は、ボイラの過熱器の部材であることを特徴とする。
【0019】
請求項6に係る本発明では、高温にさらされるボイラの過熱器の部材である熱膨張係数が大きいオーステナイト系ステンレス製の部材に施工しても、熱膨張収縮による剥離が抑制された耐腐食膜となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の耐腐食膜は、熱膨張係数が大きい基材に施工しても、熱膨張収縮による剥離を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例に係る耐腐食膜が適用される過熱器を有するボイラの概略構成図である。
図2】本発明の第1実施例に係る耐腐食膜の断面図である。
図3】本発明の第2実施例に係る耐腐食膜の断面図である。
図4】本発明の第3実施例に係る耐腐食膜の断面図である。
図5】本発明の第4実施例に係る耐腐食膜の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には本発明の実施例に係る耐腐食膜が外面に施工される過熱器(過熱器の伝熱管)を有するボイラの全体を表す概略構成を示してある。
【0023】
図に示すように、火力発電設備におけるボイラ1には、水冷管を有する火炉2、過熱蒸気を作る過熱器3、高圧側タービン(高圧タービン)で仕事を終えた蒸気を加熱する再熱器4などが備えられている。過熱器3で作られた過熱蒸気は高圧側タービンに送られて膨張され、膨張後の蒸気は再熱器4で加熱される。再熱器4で加熱された蒸気は低圧側タービン(中圧タービン、低圧タービン)に送られて膨張される。
【0024】
過熱器3、再熱器4などは伝熱面群(伝熱管)で構成され、例えば、過熱器3は、管内面の蒸気温度、菅外面のガス温度が最も高いことから、機器の部材5(基材)としては、高温耐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼が用いられている。過熱器3の部材5の外面(基材の表面)には、本発明の耐腐食膜が施工されている。
【0025】
本発明の耐腐食膜は、部材5の熱膨張収縮に耐性を有するケイ素酸化物膜(SiO2)と、ケイ素酸化物層の表面に設けられる酸化アルミニウムを主成分とした耐熱膜と、酸化アルミニウムを主成分とした耐熱膜の表面に設けられ、耐熱膜の成分の溶け込みが抑制されたチタン酸化物膜(TiO2)とを備えている。
【0026】
このため、部材5の熱膨張収縮による内部応力によるクラックの発生が防止された状態で耐腐食性を有した状態になり、熱膨張係数が大きい部材5に施工されていても、熱膨張収縮による剥離が抑制されるようになっている。
【0027】
尚、基材としては、過熱器3の部材以外の物に適用することが可能であり、例えば、鉄鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金などに適用することが可能である。
【0028】
図2から図5に基づいて本発明の耐腐食膜を具体的に説明する。図2から図5には、本発明の第1実施例から第4実施例に係る耐腐食膜を拡大状態で表した概念を示してある。
【0029】
図2に基づいて第1実施例を説明する。
【0030】
図に示すように、第1実施例に係る耐腐食膜10は、基材としての過熱器3(図1参照)の部材5の表面には、部材5の熱膨張収縮に耐性を有するケイ素酸化物膜(SiO2)11が、例えば、塗布(例えば、噴霧法による塗装)により形成されている。
【0031】
そして、ケイ素酸化物膜11の表面には酸化アルミニウムを主成分とした耐熱膜12が、例えば、塗布(例えば、噴霧法による塗装)により形成されている。更に、耐熱膜12の表面には、耐熱膜12の成分の溶け込みが抑制されたチタン酸化物膜(TiO2)13が、例えば、塗布(例えば、噴霧法による塗装)により形成されている。
【0032】
図1に示した耐腐食膜10は、ケイ素酸化物膜11が耐熱性を有する耐熱膜12と部材5との間に介在することで、部材5の熱膨張収縮による内部応力によるクラックの発生が防止される。
【0033】
ケイ素酸化物膜11、チタン酸化物膜13の膜厚は、それぞれ、最大で1μm程度が好ましく、ケイ素酸化物膜11、耐熱膜12、チタン酸化物膜13のトータルの膜厚t(耐腐食膜10の膜厚t)は、20μmから40μm程度が好ましい。
【0034】
上述した耐腐食膜10は、熱膨張係数が大きいオーステナイト系ステンレス鋼に施工しても、熱膨張収縮による剥離を抑制することが可能になる。
【0035】
図2に示した耐腐食膜10の熱膨張収縮の追従性を確認するため、熱サイクル試験を実施した。試験片には過熱器3の部材5として用いられるSUS304の基材を使用した。熱サイクル試験の条件は以下の通りである。
【0036】
温度サイクル:500℃-600℃
1サイクル時間:60分
サイクル数:500回
雰囲気:N2/O2/CO2/H2O/SO2=78.8/1.4/12.6/7.2%/734ppm
【0037】
熱サイクル試験を行った結果、剥離は見られなかった。このことから、耐腐食膜10を熱膨張係数が大きいオーステナイト系ステンレス鋼に適用した場合でも、高温での耐熱膨張収縮への追従性が高いことが確認された。
【0038】
図3に基づいて第2実施例を説明する。図2に示した第1実施例の耐腐食膜10と同一部材には同一符号を付してある。
【0039】
図に示すように、第2実施例に係る耐腐食膜15は、図2に示した耐腐食膜10のチタン酸化物膜13の表面に酸化アルミニウムを主成分とした第2耐熱膜16が、例えば、塗布(例えば、噴霧法による塗装)により形成されている。更に、第2耐熱膜16の表面に第2耐熱膜16の成分の溶け込みが抑制された第2チタン酸化物膜(TiO2)17が、例えば、塗布(例えば、噴霧法による塗装)により形成されている。
【0040】
図3に示した実施例では、第2耐熱膜16と、第2チタン酸化物膜17を設けたことにより膜厚を厚くすることができ、熱膨張収縮による剥離を抑制した状態で(クラックの発生を抑制して)、耐食性能、及び、耐用年数を向上させた耐腐食膜15とすることができる。
【0041】
図4に基づいて第3実施例を説明する。図2に示した第1実施例の耐腐食膜10と同一部材には同一符号を付してある。
【0042】
図に示すように、第3実施例に係る耐腐食膜20は、図2に示した耐腐食膜10のチタン酸化物膜13の表面に機能性部材の塗料が塗布されて機能性塗膜21が形成されている。チタン酸化物膜13の表面に機能性塗膜21を形成したので、剥離が抑制された耐腐食機能に加えて他の機能を有する複合塗膜とすることができる。
【0043】
図5に基づいて第4実施例を説明する。図3に示した第2実施例の耐腐食膜15と同一部材には同一符号を付してある。
【0044】
図に示すように、第4実施例に係る耐腐食膜25は、図3に示した耐腐食膜15の第2チタン酸化物膜17の表面に機能性部材の塗料が塗布されて機能性塗膜21が形成されている。第2チタン酸化物膜17の表面に機能性塗膜21を形成したので、膜厚を厚くして剥離が抑制された耐腐食機能に加えて他の機能を有する複合塗膜とすることができる。
【0045】
本発明の耐腐食膜は、部材5と酸化アルミニウムを主成分とした耐熱膜12との間に熱膨張収縮に耐性を有するケイ素酸化物膜11(SiO2)を形成し、耐熱膜12の表面に耐熱膜12の成分の溶け込みが抑制されたチタン酸化物膜13(TiO2)を形成したので、部材5の熱膨張収縮による内部応力によるクラックの発生が防止された状態で耐腐食性を有した状態になり、熱膨張係数が大きい部材5に施工されていても、熱膨張収縮による剥離を抑制することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は耐腐食膜の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 ボイラ
2 火炉
3 過熱器
4 再熱器
5 部材
10、15、20、25 耐腐食膜
11 ケイ素酸化物膜(SiO2
12 耐熱膜
13 チタン酸化物膜(TiO2
16 第2耐熱膜
17 第2チタン酸化物膜(TiO2
21 機能性塗膜
図1
図2
図3
図4
図5