(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175609
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】ポリマー分解システム、ポリマー分解方法、および分解生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/10 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093537
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】石崎 博基
(72)【発明者】
【氏名】河津 貴大
(72)【発明者】
【氏名】孝治 慎之助
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401BA06
4F401CA04
4F401CA14
4F401CA22
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401CA91
4F401EA60
4F401FA20Z
(57)【要約】
【課題】高分子化合物の分解処理の効率性を向上させることができるポリマー分解システム、ポリマー分解方法、および分解生成物の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、ポリマーを分解するシステムであって、ポリマーおよび液状媒体が流れる流路と、前記流路内で前記液状媒体をプラズマ化させるプラズマ発生器と、を備える、ポリマー分解システムが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを分解するシステムであって、
ポリマーおよび液状媒体が流れる流路と、
前記流路内で前記液状媒体をプラズマ化させるプラズマ発生器と、
を備える、ポリマー分解システム。
【請求項2】
前記ポリマーの分解により生成した分解生成物を回収する回収部をさらに備える、
請求項1に記載のポリマー分解システム。
【請求項3】
前記ポリマーの分解により生成した分解生成物を前記液状媒体から分離する分離手段をさらに備える、
請求項1または2に記載のポリマー分解システム。
【請求項4】
前記流路は、前記ポリマーおよび前記液状媒体を循環させるように構成される、
請求項1または2に記載のポリマー分解システム。
【請求項5】
前記プラズマ発生器は、電磁波を送信する電磁波送信部と、前記電磁波送信部から電磁波を受信する電磁波受信部と、を備える、
請求項1または2に記載のポリマー分解システム。
【請求項6】
前記電磁波送信部は、周波数が100MHz以上300GHz以下のマイクロ波を前記電磁波受信部へ送信する、
請求項5に記載のポリマー分解システム。
【請求項7】
前記電磁波受信部は、導電性を有するコアと、前記コアを少なくとも部分的に被覆する誘電体被覆と、を備える、
請求項5に記載のポリマー分解システム。
【請求項8】
ポリマーを分解するシステムであって、
ポリマーおよび液状媒体を内部に収容する液体収容構造と、
前記液体収容構造内に設けられた電磁波受信部であって、導電性コアを含む電磁波受信部と、
を備える、ポリマー分解システム。
【請求項9】
流路内を流れるポリマーを分解する方法であって、
前記流路内で、前記ポリマーと、プラズマ化した液状媒体とを接触させることを含む、ポリマー分解方法。
【請求項10】
前記プラズマ化した液状媒体による前記ポリマーの分解により生成した分解生成物を回収することをさらに含む、
請求項9に記載のポリマー分解方法。
【請求項11】
導電性コアを含む電磁波受信部が前記流路内で液状媒体に接触している状態で、前記電磁波受信部に電磁波を送信することをさらに含み、
前記電磁波受信部は、前記電磁波を受信したことに応答して、前記流路内を流れる前記液状媒体をプラズマ化させる、
請求項9または10に記載のポリマー分解方法。
【請求項12】
前記ポリマーは、当該ポリマーの分解反応のための触媒が存在しない状態で、前記プラズマ化した液状媒体と接触する、
請求項9または10に記載のポリマー分解方法。
【請求項13】
液体収容構造の内部に液状媒体とともに収容されたポリマーを分解する方法であって、
導電性コアを含む電磁波受信部が前記液体収容構造内で前記液状媒体に接触している状態で、前記電磁波受信部に電磁波を送信することを含む、ポリマー分解方法。
【請求項14】
流路内を流れるポリマーを処理することによって分解生成物を製造する方法であって、
前記ポリマーと、プラズマ化した液状媒体とを接触させることを含む、分解生成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ポリマー分解システム、ポリマー分解方法、および分解生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子化合物を解重合反応によって原料のモノマーに分解して再利用する、いわゆるケミカルリサイクル技術が注目を集めており、開発が進められている。特許文献1には、触媒を用いて高分子化合物を分解する技術が記載されている。特許文献2には、水の存在下、ポリエステルにマイクロ波を照射し、高温高圧下で解重合反応を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-88096号公報
【特許文献2】特開2015-168741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術は、後工程で触媒を除去する必要がある。特許文献2の技術は、高温高圧といった特殊な反応条件を必要とする。このため、高分子化合物の分解処理をさらに効率化する余地がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来技術に対して高分子化合物の分解処理の効率性を向上させることができるポリマー分解システム、ポリマー分解方法、および分解生成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含み得る。
[1]ポリマーを分解するシステムであって、ポリマーおよび液状媒体が流れる流路と、前記流路内で前記液状媒体をプラズマ化させるプラズマ発生器と、を備える、ポリマー分解システム。
[2]前記ポリマーの分解により生成した分解生成物を回収する回収部をさらに備える、[1]に記載のポリマー分解システム。
[3]前記ポリマーの分解により生成した分解生成物を前記液状媒体から分離する分離手段をさらに備える、[1]または[2]に記載のポリマー分解システム。
[4]前記流路は、前記ポリマーおよび前記液状媒体を循環させるように構成される、[1]~[3]のいずれか1つに記載のポリマー分解システム。
[5]前記プラズマ発生器は、電磁波を送信する電磁波送信部と、前記電磁波送信部から電磁波を受信する電磁波受信部と、を備える、[1]~[4]のいずれか1つに記載のポリマー分解システム。
[6]前記電磁波送信部は、周波数が100MHz以上300GHz以下のマイクロ波を前記電磁波受信部へ送信する、[5]に記載のポリマー分解システム。
[7]前記電磁波受信部は、導電性を有するコアと、前記コアを少なくとも部分的に被覆する誘電体被覆と、を備える、[5]または[6]に記載のポリマー分解システム。
[8]ポリマーを分解するシステムであって、ポリマーおよび液状媒体を内部に収容する液体収容構造と、前記液体収容構造内に設けられた電磁波受信部であって、導電性コアを含む電磁波受信部と、を備える、ポリマー分解システム。
[9]流路内を流れるポリマーを分解する方法であって、前記流路内で、前記ポリマーと、プラズマ化した液状媒体とを接触させることを含む、ポリマー分解方法。
[10]前記プラズマ化した液状媒体による前記ポリマーの分解により生成した分解生成物を回収することをさらに含む、[9]に記載のポリマー分解方法。
[11]導電性コアを含む電磁波受信部が前記流路内で液状媒体に接触している状態で、前記電磁波受信部に電磁波を送信することをさらに含み、前記電磁波受信部は、前記電磁波を受信したことに応答して、前記流路内を流れる前記液状媒体をプラズマ化させる、[9]または[10]に記載のポリマー分解方法。
[12]前記ポリマーは、当該ポリマーの分解反応のための触媒が存在しない状態で、前記プラズマ化した液状媒体と接触する、[9]~[11]のいずれか1つに記載のポリマー分解方法。
[13]液体収容構造の内部に液状媒体とともに収容されたポリマーを分解する方法であって、導電性コアを含む電磁波受信部が前記液体収容構造内で前記液状媒体に接触している状態で、前記電磁波受信部に電磁波を送信することを含む、ポリマー分解方法。
[14]流路内を流れるポリマーを処理することによって分解生成物を製造する方法であって、前記ポリマーと、プラズマ化した液状媒体とを接触させることを含む、分解生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高分子化合物の分解処理の効率性を向上させることができるポリマー分解システム、ポリマー分解方法、および分解生成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るポリマー分解システム1の概略図である。
【
図3】第1実施形態の第1変形例に係るポリマー分解システム1の部分拡大図である。
【
図4】第1実施形態の第2変形例に係るポリマー分解システム1の概略図である。
【
図5】第1実施形態の第3変形例に係るポリマー分解システム1の断面図である。
【
図6】第1実施形態の第4変形例に係るポリマー分解システム1の断面図である。
【
図7】第1実施形態の第5変形例に係るポリマー分解システム1の部分拡大図である。
【
図8】第2実施形態に係るポリマー分解システム2の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のポリマー分解システム、ポリマー分解方法、および分解生成物の製造方法を、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。また、図面に示すxyz座標は、説明の便宜上定義されたものであり、発明を限定するものではない。
【0010】
<第1実施形態>
図1および
図2を参照して、第1実施形態に係るポリマー分解システム1について説明する。
図1は、第1実施形態に係るポリマー分解システム1の概略図である。
図2は、
図1のAで示す領域の部分拡大図である。
【0011】
[ポリマー分解システム1]
本実施形態によれば、ポリマーPを分解するシステムであって、ポリマーPおよび液状媒体Mが流れる流路と、流路内で液状媒体Mをプラズマ化させるプラズマ発生器30と、を備える、ポリマー分解システム1が提供される。
【0012】
別の側面として、本実施形態によれば、ポリマーPを分解するシステムであって、ポリマーPおよび液状媒体Mを内部に収容する液体収容構造と、液体収容構造内に設けられた電磁波受信部34であって、導電性コア44を含む電磁波受信部34と、を備える、ポリマー分解システム1が提供される。
【0013】
ポリマー分解システム1は、ポリマーPを分解するためのシステムである。たとえば、ポリマー分解システム1は、高分子化合物であるポリマーPを、より小さい分子量を有するモノマー、オリゴマー、またはポリマーに変換するシステムである。本明細書において、ポリマーの「分解」とは、ある分子量を有するポリマーを、たとえば化学結合の切断を含む処理によって、より小さい分子量を有するモノマー、オリゴマー、またはポリマーに変換することを意味する。「分解」は、ポリマーをその繰り返し単位であるモノマーやオリゴマーなどの低分子化合物に変換する「解重合」を含む概念であるが、これに限定されない。たとえば、あるポリマーの分解生成物Dは、当該ポリマーの繰り返し単位である低分子化合物に限定されず、その置換体や誘導体などであってもよい。
【0014】
図1に示すように、ポリマー分解システム1は、容器10、流管12、導入管14、回収管16、ポンプ18、およびプラズマ発生器30を含む。容器10は、導入管14および回収管16を介して流管12と連結される。流管12、導入管14、および回収管16は、容器10からスタートして容器10に戻る循環流路を形成する。このように形成される流路、ならびに、流路を構成する容器10、流管12、導入管14、および回収管16は、いずれも「液体収容構造」の一例である。
【0015】
ポンプ18は、流管12を含む循環流路の流れを生じさせる循環型ポンプである。ポンプ18の構成は特に限定されないが、たとえばインペラの回転によって流路内で流体を循環させることができる。プラズマ発生器30については後述する。
【0016】
(流路の構成)
容器10、流管12、導入管14、および回収管16の材質は、特に限定されない。材質の例として、金属、ガラス、セラミックス、ホーロー、ゴム、プラスチックなどが挙げられる。ただし、後述のようにプラズマ発生器30が流管12の管壁20を通して電磁波を照射する場合には、管壁20のうち少なくとも電磁波が透過する部分は、絶縁体からなることが好ましい。具体的には、管壁20の材料の例として、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
容器10には、液状媒体Mが収容される。液状媒体Mには、ポリマーPが分散または溶解している。液状媒体Mは、ポリマーPとともに、容器10から導入管14を通って流管12内に導入され、流管12を通って回収管16から再び容器10に戻る。容器10に戻った液状媒体Mは、再び導入管14から流管12内に導入される。このようにして、液状媒体Mは、ポリマーPとともに、容器10、流管12、導入管14、および回収管16からなる流路を循環する。
【0018】
(液状媒体M)
液状媒体Mは、ポリマー分解システム1によるポリマーPの処理を媒介する。液状媒体Mは、ポリマーPの分散媒または溶媒としても機能し得る。本明細書において、「液状媒体」とは、大気圧の下で液体である媒体を意味する。たとえば、液状媒体Mは、温度20℃、大気圧の下で液体である。液状媒体Mの沸点は、特に限定されないが、たとえば、20℃以下、10℃以下、または0℃以下であってよい。液状媒体Mの沸点は、特に限定されないが、たとえば、20℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、100℃以上、150℃以上、または200℃以上であってよい。液状媒体Mの粘度などの特性は特に限定されない。液状媒体Mには、分散剤や粘度調整剤など任意の添加剤が添加されてもよい。
【0019】
液状媒体Mの種類は特に限定されず、任意の1種類以上の液状物質が使用可能である。液状媒体Mの例として、水、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、芳香族化合物、ニトリル、ハロゲン化アルキルなどが挙げられる。アルコールの例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチンレングリコール、グリセロール、アリルアルコールなどが挙げられる。ケトンの例として、アセトン、アセチルアセトン、エチルメチルケトンなどが挙げられる。エーテルの例として、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどが挙げられる。エステルの例として、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。カルボン酸の例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸などが挙げられる。アミンの例として、アニリン、エタノールアミン、ジエタノールアミンなどが挙げられる。芳香族化合物の例として、ベンゼンなどが挙げられる。ニトリルの例として、アセトニトリルなどが挙げられる。ハロゲン化アルキルの例として、クロロホルム、ジクロロメタンなどが挙げられる。液状媒体Mは、任意の物質が溶解した溶液であってもよく、任意の物質が分散した分散液であってもよい。
【0020】
たとえば、液状媒体Mは、極性分子を含む。これは、液状媒体Mが極性を有することで電磁波(特にマイクロ波)との相互作用が大きくなるため、プラズマ化しやすい点で好ましい。好ましくは、液状媒体Mは、水、アルコール、ケトン、エーテル、およびエステルからなる群から選択された1以上を含む。
【0021】
(ポリマーP)
ポリマーPは、ポリマー分解システム1による処理の対象である。ポリマーPは、1種類または2種類以上のモノマーの重合により得られる高分子化合物である。本明細書において、「ポリマー」とは、1種類または2種類以上の化学構造単位を繰り返し含む構造を有する化合物を意味する。ここで、ポリマーの繰り返し単位の数は特に限定されず、いわゆるオリゴマー(繰り返し単位の数が2~100程度の重合性化合物)もポリマーに包含される。ポリマーPの種類は、特に限定されず、天然に存在するポリマー(タンパク質、デンプン、セルロースなど)であってもよく、人工的に合成されたポリマーであってもよい。合成されたポリマーPの例として、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートなど)、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド(ポリアクリルアミドなど)、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリハロゲン化ビニル(ポリ塩化ビニルなど)、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、合成ゴム、繊維強化プラスチックなどが挙げられる。
【0022】
ポリマーPは、容器10および流管12中で液状媒体Mに接触している。具体的には、
図1および
図2に示すように、ポリマーPは、微粒子として液状媒体Mに分散しているか、または液状媒体Mに溶解している。ただし、ポリマーPの存在形態は上記例に限定されない。たとえば、ポリマーPは、目視可能な大きさの塊として、液状媒体M中に存在してもよい。
【0023】
ポリマーPと液状媒体Mとの質量比は、たとえば、0.001:99.999~50:50、0.01:99.99~30:70、0.1:99.9~20:80、1:99~10:90、または2:98~5:95である。
【0024】
(プラズマ発生器30)
プラズマ発生器30は、液状媒体Mをプラズマ化処理する。具体的には、プラズマ発生器30は、流管12内の液状媒体Mに作用して、液状媒体Mをプラズマ化させることができる。具体的には、
図1および
図2に示すように、プラズマ発生器30は、電磁波を送信する電磁波送信部32と、電磁波送信部32から電磁波を受信する電磁波受信部34と、を含む。電磁波送信部32は、流管12の外部に配置され、電磁波受信部34は、流管12の内部に配置される。
【0025】
電磁波送信部32は、電磁波受信部34に向けて電磁波を送信する。電磁波送信部32は、電磁波受信部34と協働して液状媒体Mをプラズマ化できる電磁波を出力する。電磁波送信部32の構成は特に限定されず、上記のような電磁波を送信可能な任意の構成であってよい。たとえば、
図1および
図2に示すように、電磁波送信部32は、電磁波を出力する電磁波出力部40と、電磁波出力部40から出力された電磁波を電磁波受信部34に向けて放射する電磁波放射部42と、を有する。電磁波出力部40は、電源と、電磁波を発振する発振器(たとえば、マグネトロン)と、必要に応じて発振された電磁波を増幅する増幅器と、を有する。電磁波放射部42は、流管12の内部に電磁波を放射する発信アンテナとして機能する。
【0026】
電磁波送信部32から放射される電磁波は、電磁波受信部34に照射されることにより、電磁波受信部34に電子を放出させる。たとえば、電磁波は、周波数が100MHz以上300GHz以下のマイクロ波である。より具体的には、電磁波の周波数は、日本で家庭用に使用することが認められている2.45GHz、食品解凍用に使用される915MHzなどであってよい。
【0027】
電磁波受信部34は、電磁波送信部32から送信された電磁波を受信する受信アンテナとして機能する。電磁波受信部34は、電磁波送信部32から電磁波を受信したことに応答して、表面から電子を放出する。放出された電子は、流管12内の液状媒体Mを攻撃して活性化させることにより、液状媒体Mをプラズマ化する。たとえば、電磁波受信部34は、金属材料を含む。金属材料は、電磁波送信部32から電磁波を照射されると、表面から電子を容易に放出する。
【0028】
電磁波受信部34は、流管12の内部に配置されて、液状媒体Mに接触している。具体的には、
図1および
図2に示すように、電磁波受信部34は、流管12の管壁20から上方(z方向)に延在する細長い形状を有する。なお、電磁波受信部34は、管壁20と一体に形成されてもよい。電磁波受信部34の形状および配置は、特に限定されない。たとえば、電磁波受信部34は、糸状、膜状、板状、台状、柱状、網状、繊維状、球状など、任意の形状を有し得る。電磁波受信部34は、電子を放出しやすくするように表面に凹凸が形成された形状を有してもよい。また、電磁波受信部34は、必ずしも
図1のように回収管16の付近に設けられる必要はなく、流管12のどこに設けられてもよい。電磁波受信部34は、導入管14または回収管16の内部に設けられてもよい。
【0029】
電磁波受信部34は、導電性を有するコア44と、導電性コア44を少なくとも部分的に被覆する誘電性被覆46と、を有する。
図1および
図2に示すように、導電性コア44の外面は、誘電性被覆46によって覆われている。
【0030】
導電性コア44は、金属材料を含む導電性部材である。導電性コア44は、電磁波(たとえばマイクロ波)を照射されると、表面から自由電子を放出する。放出された電子は、導電性コア44を覆う誘電性被覆46を通過して電磁波受信部34を飛び出し、周囲の液状媒体Mの分子をプラズマ化する。
【0031】
たとえば、導電性コア44の材質は、金属である。金属材料の例として、銅、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、ゲルマニウム、パラジウム、インジウム、スズ、銀、モリブデン、タンタル、タングステン、金、白金などの単体金属;これらの1以上を主成分とする合金;金属物性を有する金属酸化物、金属炭化物、金属シリサイド、金属窒化物、これらをベースとする複合材料などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
誘電性被覆46は、導電性コア44の周囲の一部または全部を覆う。誘電性被覆46は、液状媒体Mへの導電性コア44の溶出を抑制する。誘電性被覆46は、導電性コア44を構成する金属元素と、液状媒体M、ポリマーP、または分解生成物Dとの反応を抑制する。これにより、誘電性被覆46は、導電性コア44の腐食を防ぐ保護層として機能し得る。一方で、誘電性被覆46は、電磁波送信部32から照射された電磁波、および、導電性コア44から放出された電子を、少なくとも部分的に透過させることができる。また、導電性コア44から放出された電子のうち誘電性被覆46を透過できなかった電子が、誘電性被覆46の内側に蓄積すると、誘電性被覆46の両側に電位差が生じ得る。これにより、誘電性被覆46が誘電分極を起こし、誘電性被覆46の表面に電荷が発生する。誘電性被覆46を透過した電子と、誘電分極により誘電性被覆46の表面に生じた電荷と、の両方が、液状媒体Mのプラズマ化に寄与し得る。
【0033】
誘電性被覆46の材質は、誘電体である。誘電性被覆46の材質の例として、ガラス、セラミックスなどが挙げられる。ガラスの例として、非晶質の酸化ケイ素(たとえば二酸化ケイ素SiO2)、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。セラミックスの例として、金属酸化物、金属炭化物、金属シリサイド、金属窒化物、金属元素を含まない無機材料(たとえば、ダイヤモンド、シリコン、炭素繊維、炭化ケイ素、フラーレン、炭化ホウ素)などが挙げられる。より具体的には、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
誘電性被覆46の厚さは、たとえば、1μm~500μm、10μm~300μm、または50μm~200μmである。厚さが1μm以上であれば、一定の絶縁性を確保できるとともに、絶縁破壊が生じる可能性を低減できる。厚さが500μm以下であれば、電子が誘電性被覆46を透過できない可能性を低減できる。
【0035】
図1および
図2に示す電磁波放射部42の先端と導電性コア44との間の距離dは、たとえば、以下の関係式1を満たす。たとえば、d=λ/4である。たとえば、電磁波放射部42が周波数2.45GHzのマイクロ波を照射する場合には、dが27mm以上34mm以下であることが好ましい。dが関係式1を満たす場合、電磁波受信部34によるプラズマ化が安定的に起こる点で好ましい。
[関係式1]
0.9×λ/4≦d≦1.1×λ/4 (λ:電磁波の波長)
【0036】
[ポリマー分解システム1の使用方法]
次いで、ポリマー分解システム1の使用方法について説明する。
本実施形態によれば、流路内を流れるポリマーPを分解する方法であって、流路内で、ポリマーPと、プラズマ化した液状媒体Mとを接触させることを含む、ポリマー分解方法が提供される。
【0037】
別の側面として、本実施形態によれば、液体収容構造の内部に液状媒体Mとともに収容されたポリマーPを分解する方法であって、導電性コア44を含む電磁波受信部34が液体収容構造内で液状媒体Mに接触している状態で、電磁波受信部34に電磁波を送信することを含む、ポリマー分解方法が提供される。
【0038】
さらに別の側面として、本実施形態によれば、流路内を流れるポリマーPを処理することによって分解生成物Dを製造する方法であって、ポリマーPと、プラズマ化した液状媒体Mとを接触させることを含む、分解生成物Dの製造方法が提供される。
【0039】
上記のポリマー分解方法または分解生成物の製造方法は、具体的には以下のようなステップを含み得る。以下、ポリマーPの処理について、ステップごとに順を追って説明する。
【0040】
(混合ステップ)
まず、液状媒体Mのプラズマ化処理の前に、液状媒体MおよびポリマーPを容器10内で混合することができる。これに先立って、ポリマーPを粉砕してもよい。たとえば、ポリマーPを微粒子の状態で液状媒体M中に分散させるか、液状媒体Mに溶解させることができる。なお、ポリマーPを液状媒体Mに投入するタイミングは、上記例に限定されない。たとえば、液状媒体Mのプラズマ化処理と同時にポリマーPを液状媒体Mに投入してもよい。また、液状媒体Mのプラズマ化処理の後、プラズマ化処理された液状媒体MにポリマーPを投入してもよい。
【0041】
(送液ステップ)
次いで、ポンプ18を作動させて、容器10内の液状媒体MおよびポリマーPを、容器10に接続された流管12に送液することができる。具体的には、容器10内の液状媒体MおよびポリマーPを、導入管14から流管12に導入することができる。流管12に導入された液状媒体MおよびポリマーPは、流管12を通って回収管16から容器10へ循環され得る。
図1に示す構成においては、この送液処理により、液状媒体MおよびポリマーPは、容器10、流管12、導入管14、および回収管16から形成される流路を継続的に循環する。
【0042】
(プラズマ化処理ステップ)
次いで、流管12内の液状媒体Mのプラズマ化処理を行う。具体的には、
図2に示すように、液状媒体MおよびポリマーPが流管12内を流れている状態で、電磁波送信部32を操作することにより、電磁波を流管12内の電磁波受信部34に照射する。電磁波受信部34の導電性コア44は、電磁波のエネルギーを受けて、表面から自由電子を放出する。導電性コア44から放出された自由電子の少なくとも一部は、誘電性被覆46を透過して、電磁波受信部34の周りの液状媒体Mの分子に衝突する。電子の衝突によって、
図2に示すように、液状媒体Mの一部がプラズマ化して発光(スパークS)が生じる。たとえば、液状媒体Mの分子同士の間で、励起電子のキャッチボールが行われ、液状媒体Mの分子が連鎖的にラジカル化および/またはイオン化すると推測される。たとえば、液状媒体Mがエチレングリコールである場合には、電子からの攻撃によって、以下のように、エチレングリコールの構造中の炭素原子、酸素原子、水素原子などに電荷が発生すると推測される。ただし、プラズマ化した液状媒体Mの構造は、下記に限定されず、複数の電荷を有するもの、化学結合が開裂したもの、ラジカル化したものなど、様々なバリエーションが考えられる。
【化1】
【0043】
また、導電性コア44から放出された電子のうち誘電性被覆46を透過できなかった電子が、誘電性被覆46の内側に蓄積することによって、誘電性被覆46の誘電分極が生じ得る。これにより、誘電性被覆46の外面に発生した電荷も、液状媒体Mを励起させることができる。
【0044】
このように、電磁波受信部34が流路内で液状媒体Mと接触している状態で、電磁波送信部32から電磁波受信部34に電磁波を照射すると、電磁波受信部34の導電性コア44が自由電子を放出する。放出された電子は、誘電性被覆46を透過し、および/または誘電性被覆46の誘電分極を介して、液状媒体Mをプラズマ状態に励起することができる。このようにして液状媒体Mをプラズマ化処理することにより、上記のような液状媒体Mのラジカルを発生させることができる。
【0045】
(分解ステップ)
プラズマ化した液状媒体Mは、化学的に不安的な状態にあるので、非常に反応性が高い。このため、プラズマ化した液状媒体Mは、ポリマーPと反応して、ポリマーPを分解する。たとえば、ラジカル化した液状媒体Mの不対電子が、ポリマーPを攻撃する。これにより、ポリマーPの構造中の1以上の化学結合が切断されて、ポリマーPが、より分子量の小さいポリマー(オリゴマーでも可)、および/または、ポリマーPの最小構成単位であるモノマーまで分解される。このように、プラズマ化していない液状媒体MとポリマーPとが接触している状態で、液状媒体Mをプラズマ化処理することにより、プラズマ化した液状媒体MによってポリマーPを分解することができる。より具体的には、プラズマ化していない液状媒体MにポリマーPが分散または溶解している状態で、液状媒体Mをプラズマ化処理することにより、プラズマ化した液状媒体MによってポリマーPを分解することができる。このように、ポリマーPと、プラズマ化した液状媒体Mとを接触させることにより、
図1および
図2に示すように、ポリマーPから分解された分解生成物Dが生成する。なお、
図1および
図2では、ポリマーPと分解生成物Dとを区別するために異なる大きさで示しているが、これは単に概念的な区別である。分解生成物Dは、ポリマーPより小さい分子量を有するが、必ずしも粒子径などの物理的な大きさがポリマーPより実質的に小さくなるとは限らない。
【0046】
上記の原理によるポリマーPの分解は、特別な触媒を必要としない。すなわち、ポリマーPは、高分子化合物の分解反応のための触媒が存在しない状態で、プラズマ化した液状媒体Mと接触する。このため、触媒を使用する分解処理に比べてコストが軽減でき、効率的である。
【0047】
(温度条件)
液状媒体Mのプラズマ化処理を行う際の温度(たとえば、電磁波送信部32による電磁波の照射を行う際の液状媒体Mの温度)は、特に限定されないが、たとえば、いずれも10℃以上150℃以下であってよい。ポリマーPとプラズマ化した液状媒体Mとを接触させる際の温度は、特に限定されないが、たとえば、10℃以上150℃以下であってよい。これらの温度は、ポリマーPと液状媒体Mとが接触した状態でプラズマ化処理を行う場合には、実質的に同じ温度である。なお、ここでの「温度」とは、流管12内の液状媒体M全体の平均温度を意味する。
【0048】
プラズマ化処理を行う際の温度は、たとえば、15℃以上、20℃以上、25℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、または100℃以上であってよい。プラズマ化処理を行う際の温度は、たとえば、140℃以下、120℃以下、100℃以下、80℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下、または30℃以下であってよい。
【0049】
ポリマーPとプラズマ化した液状媒体Mとを接触させる際の温度は、たとえば、15℃以上、20℃以上、25℃以上、30℃以上、40℃以上、50℃以上、60℃以上、70℃以上、80℃以上、90℃以上、または100℃以上であってよい。ポリマーPとプラズマ化した液状媒体Mとを接触させる際の温度は、たとえば、140℃以下、120℃以下、100℃以下、80℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下、または30℃以下であってよい。
【0050】
原理的に、上記の液状媒体Mのプラズマ化処理において積極的な加熱操作を行う必要はないので、コストおよび効率の点で、容器10、流管12、および液状媒体Mを加熱することなく、液状媒体Mのプラズマ化処理を行うことが好ましい。液状媒体Mのプラズマ化処理を行う際の温度、および/または、ポリマーPとプラズマ化した液状媒体Mとを接触させる際の温度は、室温であってよい。ただし、液状媒体Mが、プラズマ化した他の液状媒体Mの分子や電磁波(たとえばマイクロ波)自体によって加熱される可能性がある。この場合には、液状媒体Mのプラズマ化処理として電磁波を照射している間、液状媒体Mの温度が増加し得る。液状媒体Mの蒸発を防ぐためには、温度が液状媒体Mの沸点を超えないように電磁波の出力を調整することが好ましい。
【0051】
(圧力条件)
液状媒体Mのプラズマ化処理を行う際の圧力、および、ポリマーPとプラズマ化した液状媒体Mとを接触させる際の圧力は、いずれも特に限定されないが、0.05MPa以上1.5MPa未満であってよい。プラズマ化処理を行う圧力は、たとえば、0.06MPa以上、0.07MPa以上、0.08MPa以上、0.09MPa以上、0.1MPa以上、または大気圧以上であってよい。プラズマ化処理を行う圧力は、たとえば、1.4MPa以下、1.3MPa以下、1.2MPa以下、1.1MPa以下、または大気圧以下であってよい。
【0052】
原理的に、上記の液状媒体Mのプラズマ化処理において積極的な加圧操作を行う必要はないので、コストおよび効率の点で、流路の内部空間や液状媒体Mを加圧することなく、液状媒体Mのプラズマ化処理を行うことが好ましい。好ましくは、液状媒体Mのプラズマ化処理、および/または、ポリマーPとプラズマ化した液状媒体Mとの接触は、大気圧下で行われ得る。
【0053】
(回収ステップ)
分解処理後、ポリマーPの分解によって生成した分解生成物Dを回収する。ポリマーPを流路内で循環させて、プラズマ化した液状媒体Mによる分解処理を繰り返すことにより、容器10の内部に分解生成物Dが蓄積されていく。このようにして分解生成物Dを容器10に回収できるので、容器10は、ポリマーPの分解により生成した分解生成物Dを回収する「回収部」に相当する。分解生成物Dは、必要に応じて液状媒体Mから分離されてよい。ポリマーPが容器10内に残留している場合には、分解生成物Dを残留しているポリマーPおよび液状媒体Mから分離することにより、分解生成物Dを回収することができる。
【0054】
生成分解物Dの分離方法は特に限定されず、既知の1以上の手法を使用可能である。分離方法の例として、乾燥、濾過、抽出、蒸留、精製、クロマトグラフィーなどが挙げられる。たとえば、乾燥による液状媒体Mの除去には、任意の加熱装置または減圧装置が使用可能である。濾過による分解生成物Dと液状媒体Mとの分離(ポリマーPが残留している場合には、さらに分解生成物DとポリマーPとの分離)には、任意のフィルタが使用可能である。抽出、蒸留、および精製による分離には、それぞれ任意の抽出装置、蒸留装置、および精製装置が使用可能である。クロマトグラフィーの例としては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:high performance liquid chromatography)、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC:ultra-performance liquid chromatography)などが挙げられる。たとえば、分解生成物Dが液状媒体Mに溶解し、ポリマーPが液状媒体Mに溶解しない場合には、まず分解生成物Dが溶解した液状媒体MとポリマーPとを分離する。その後、液状媒体Mから分解生成物Dを分離することにより、分解生成物Dを回収することができる。このようにして、分解生成物Dを回収することができる。各操作に使用可能な装置は、いずれも分解生成物Dを液状媒体Mから分離する「分離手段」に相当する。なお、容器10内にポリマーPは吸着しないが分解生成物Dは吸着する部材を設けることにより、ポリマーPの分解処理を繰り返しながら分解生成物Dを蓄積して回収することができる。容器10内に適当な仕切りを設けることにより、分解処理前のポリマーPと分解処理後の分解生成物Dとが混ざらないようにしてもよい。これらの吸着部材または仕切り部材も、分解生成物Dを液状媒体Mから分離する「分離手段」に相当する。
【0055】
以上のようなポリマー分解システム1および方法によれば、触媒を必要とせず、かつ、積極的な加熱操作または加圧操作を行う必要もなく、ポリマーPの分解を効率的に行うことができる。これにより、ポリマーPの再利用を効率化することができる。したがって、環境負荷の軽減やサーキュラーエコノミーの実現に貢献できる。なお、触媒を使用したり、積極的な加熱操作または加圧操作を行ったりすることによって、さらにポリマーPの分解の効率性を向上させてもよい。
【0056】
上記のように、流路がポリマーPおよび液状媒体Mを循環させるように構成される場合、ポリマーPを循環させることによってプラズマ発生器30による分解処理を繰り返すことができるので、効率よくポリマーPを分解することができる。
【0057】
<第1変形例>
図3を参照して、第1実施形態の第1変形例に係るポリマー分解システム1について説明する。第1変形例は、複数のプラズマ発生器30が設けられる点で第1実施形態と相違する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図3は、第1実施形態の第1変形例に係るポリマー分解システム1の部分拡大図である。
【0058】
図3に示すように、第1変形例に係るポリマー分解システム1は、2つのプラズマ発生器30を含む。具体的には、流管12の外部に2つの電磁波送信部32が設けられ、これらの電磁波送信部32に対応して、流管12内に2つの電磁波受信部34が設けられる。このように、複数のプラズマ発生器30が設けられることにより、ポリマーPの分解効率を向上させることができる。
【0059】
<第2変形例>
図4を参照して、第1実施形態の第2変形例に係るポリマー分解システム1について説明する。第2変形例は、プラズマ発生器30の電磁波送信部32が流管12の管壁20に取り付けられている点で第1実施形態と相違する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図4は、第1実施形態の第2変形例に係るポリマー分解システム1の概略図である。
【0060】
図4に示すように、第2変形例においては、電磁波放射部42が、流管12の管壁20を貫通して設けられる。これにより、電磁波放射部42は、部分的に流管12の内部に位置するとともに、部分的に流管12の外部に位置する。したがって、電磁波送信部32の一部は、流管12の内部に位置し、電磁波送信部32の一部は、流管12の外部に位置する。なお、電磁波送信部32の全体が流管12の内部に配置されてもよい。すなわち、電磁波送信部32の少なくとも一部が、流管12の内部に配置され得る。電磁波放射部42が流管12と一体に形成されてもよく、電磁波送信部32の全体が流管12と一体に形成されてもよい。
【0061】
図1および
図2に示す第1実施形態では、管壁20は、電磁波送信部32からの電磁波を遮断しないように絶縁性材料で構成されている。これに対し、第2変形例では、電磁波放射部42の先端が流管12の内部に配置されるので、管壁20の材料は、絶縁性材料に限定されない。たとえば、管壁20は、金属材料など他の材料から構成されてもよい。
【0062】
なお、電磁波受信部34が金属材料などの導電性材料からなる管壁20に取り付けられる場合には、誘電性被覆46は、導電性コア44と管壁20などの外部構造体との間に介在することにより、導電性コア44を接地させない機能を有し得る。たとえば、もし導電性コア44が導電性の管壁20に直接接触して接地していると、電磁波によって励起された導電性コア44の電子が管壁20側に逃げることにより、液状媒体Mのプラズマ化が効率よく進行しない可能性がある。導電性コア44と外部構造体との間に設けられた誘電性被覆46は、導電性コア44と当該外部構造体とを電気的に絶縁する。誘電性被覆46のうち、導電性コア44と外部構造体との間に位置する部分は、実質的に電子を通過させない厚さを有することができる。たとえば、誘電性被覆46は、導電性コア44と管壁20との間に位置する底部において、他の部分より大きな厚さを有し得る。
【0063】
第2変形例に係るポリマー分解システム1では、流管12の内部で電磁波を放射するので、流管12の管壁20によって電磁波が減衰しない点で有利である。一方、第1実施形態のように電磁波送信部32が流管12の外部に配置される場合には、液状媒体Mに接触することによる電磁波送信部22の劣化を防止することができるという利点がある。
【0064】
<第3変形例>
図5を参照して、第1実施形態の第3変形例に係るポリマー分解システム1について説明する。第3変形例は、電磁波受信部34がy方向に延在している点で第1実施形態と相違する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図5は、第1実施形態の第3変形例に係るポリマー分解システム1の流管12およびプラズマ発生器30をxy平面に沿って切断した断面図である。
【0065】
図5に示すように、第3変形例では、電磁波受信部34は、
図1のようにz方向に延在するのではなく、管壁20の一側と他側との間でy方向に延在する。電磁波放射部42と電磁波受信部34との最短距離dは、第1実施形態と同様に設定される。このような構成によれば、電磁波受信部34の両端が管壁20に固定されるので、電磁波受信部34の機械的強度を向上させることができる。これにより、電磁波受信部34が液状媒体Mの流れに長時間曝されることによる位置ずれを抑制することができる。
【0066】
<第4変形例>
図6を参照して、第1実施形態の第4変形例に係るポリマー分解システム1について説明する。第4変形例は、電磁波受信部34の導電性コア44が球体形状を有する点で第1実施形態と相違する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図6は、第1実施形態の第4変形例に係るポリマー分解システム1の流管12およびプラズマ発生器30をxy平面に沿って切断した断面図である。
【0067】
図6に示すように、第4変形例では、電磁波受信部34は、球体形状の導電性コア44と、導電性コア44の外面を被覆する誘電性被覆46と、を含む。電磁波受信部34は、xy平面視で流管12の中央部に配置され、管壁20の内面から電磁波受信部34まで延在する2つの支持部48によって支持される。電磁波放射部42と電磁波受信部34との最短距離dは、第1実施形態と同様に設定される。このような構成によれば、電磁波受信部34が管壁20から延在する支持部48によって支持される。これにより、第3変形例と同様に、電磁波受信部34が液状媒体Mの流れに長時間曝されることによる位置ずれを抑制することができる。なお、
図6では、2つの支持部48がy方向に延在しているが、支持部48の数、配置、および延在方向は特に限定されない。たとえば、3つ以上の支持部48が、電磁波受信部34をより強固に支持されてもよい。導電性コア44の数および配置も上記例に限定されない。
【0068】
<第5変形例>
図7を参照して、第1実施形態の第5変形例に係るポリマー分解システム1について説明する。第5変形例は、流管12の管壁20に窓部22が設けられている点で第1実施形態と相違する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図7は、第1実施形態の第5変形例に係るポリマー分解システム1の部分拡大図である。
【0069】
図7に示すように、第5変形例では、流管12の管壁20は、電磁波放射部42からの電磁波が通過する部分に窓部22を有する。窓部22は、電磁波を遮断しないように、絶縁性材料から構成される。管壁20のうち窓部22を除く部分は、電磁波を遮断する必要がないので、金属材料から構成されてもよい。このような構成によれば、加工しやすく汎用的な金属材料で流管12の大部分を形成し、電磁波が通過する部分のみ絶縁性材料からなる窓部22を設けることによって、流管12の製造を容易にすることができる。
【0070】
<第2実施形態>
図8を参照して、第2実施形態に係るポリマー分解システム1について説明する。第2実施形態は、分解生成物DをポリマーPが入っていた容器10に戻さない点で第1実施形態と相違する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図8は、第2実施形態に係るポリマー分解システム2の概略図である。
【0071】
図8に示すように、ポリマー分解システム2は、送液部110、流管112、回収部114、および1以上のプラズマ発生器130を含む。流管112の一端は、送液部110に接続され、他端は回収部114に接続される。送液部110は、ポリマーPが分散または溶解した液状媒体Mを流管112に流し込む。流管112に流入した液状媒体Mは、流管112内を通って回収部114まで流れる。
【0072】
プラズマ発生器130は、第1実施形態と同様に、電磁波送信部132および電磁波受信部134を含む。
図8では、6つのプラズマ発生器130が設けられている。電磁波送信部132は、流管112の外部に配置され、電磁波出力部140および電磁波放射部142を含む。電磁波受信部134は、流管112の内部に配置され、導電性コア144と、導電性コア144の外面を被覆する誘電性被覆146とを含む。電磁波送信部132は、流管112内の電磁波受信部134と対応する位置に配置されて、電磁波受信部134に向けて電磁波を送信する。第1実施形態と同様に、電磁波を受信した導電性コア144は、周囲の液状媒体Mをプラズマ化し、プラズマ化した液状媒体MがポリマーPを分解する。これにより、流管112の上流から下流に進むにつれて、ポリマーPが分解生成物Dに変換される。回収部114は、分解生成物Dが分散または溶解した液状媒体Mを流管112から回収する。好ましくは、ポリマー分解システム2は、回収部114において、分解生成物Dを液状媒体Mから分離する分離手段を含む。
【0073】
なお、ポリマー分解システム2の構成は上記例に限定されない。たとえば、送液部110が液状媒体Mだけを送液し、流管112内を流れる液状媒体MにポリマーPを投入する投入手段が設けられてもよい。回収部114で分解生成物Dと分離された液状媒体Mが、再び送液部110に戻されてもよい。あるいは、液状媒体Mが循環して流管112内を流れている状態で、流管112の上流側にポリマーPを投入する投入手段が設けられ、流管112の下流側に分解生成物Dを回収する回収手段が設けられてもよい。また、上記の第1変形例~第5変形例の内容が、単独で、または任意に組み合わされて、第2実施形態に対しても適用可能である。
【0074】
<その他の変形例>
上記例は、ポリマーPが分散または溶解した液状媒体Mを流路内に流しながらポリマーPの分解処理を行うものであるが、液状媒体Mを流さなくてもよい。たとえば、容器10内に電磁波受信部34を設けて、電磁波受信部34に電磁波を照射することによって、容器10内の液状媒体Mに分散または溶解したポリマーPの分解処理を行ってもよい。この場合、容器10を流管12に接続する必要はなく、液状媒体Mを流す必要もない。後述の実施例2および実施例3は、このような構成に対応する実験例である。この場合の容器10は、「液体収容構造」の一例である。
【実施例0075】
<実施例1>
まず、
図1のように、プラスチック製の容器10と、Al
2O
3製の流管12と、SiO
2ガラス製の導入管14および回収管16と、流管12に接続されたポンプ18と、プラズマ発生器30と、を含むポリマー分解システム1を用意した。
図1に示すように、流管12、導入管14、および回収管16は、流体が容器10から出て容器10に戻る循環流路を形成するように構成した。電磁波送信部32は、流管12の外部に配置し、電磁波受信部34は、流管12の内部に配置した。電磁波送信部32としては、Sairem社製のマイクロ波出力装置(型式:GMP30K)を使用した。電磁波受信部34としては、SiO
2ガラスで銅線をコーティングしたものを使用した。電磁波放射部42の先端と導電性コア44との間の距離は、使用するマイクロ波(2.45GHz)の波長の約1/4に相当する約30mmとした。
【0076】
容器10内に液状媒体Mとしてエチレングリコールを投入した。次いで、処理対象のポリマーPとしてポリエチレンテレフタレート(PET:polyethylene terephthalate)を細かく砕いた粉末を用意し、容器10内に投入して、エチレングリコールに分散させた。PETおよびエチレングリコールの投入量は、PETおよびエチレングリコールが質量比で3:97となるように調製した。
【0077】
次いで、ポンプ18を作動させ、PETが分散したエチレングリコールを、導入管14を介して容器10から流管12に導入し、容器10と流管12との間で循環させた。流速は26CCMとした。エチレングリコールは、予め約100℃に加熱した。
【0078】
次いで、電磁波出力部40を作動させ、大気中、常圧下で電磁波放射部42から電磁波受信部34へ、2.45GHzのマイクロ波を放射した。マイクロ波の出力は300Wに設定し、マイクロ波の照射を15分間継続した。その結果、電磁波受信部34の周囲でスパークが生じ、電磁波受信部34の近傍で継続的にプラズマ発光が観察された。マイクロ波の照射によって電磁波受信部34の導電性コア44から自由電子が放出され、周囲のエチレングリコール分子をプラズマ化したと推測される。
【0079】
マイクロ波を15分間照射した後、Water社製の超高速液体クロマトグラフィー装置(型式:ACQUITY UPLC system D)を使用して、容器10内のエチレングリコール中に溶解している分解生成物Dを検出した。分析条件は以下のように設定した。
・固定相:ACQUITY UPLC BEH C8 1.7μm 100mm
・移動相:メタノール/水=7/3(v/v)
・測定溶液の調製方法:分解生成物をメタノール/水=7/3(v/v)で希釈したのち、シリンジフィルターでろ過することで測定溶液を作製した
・流速:0.4mL/min
・検出波長:254nm
【0080】
その結果、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)の単量体、二量体、および三量体がエチレングリコールに溶解していることが検出された。分解生成物DであるBHETの単量体、二量体、および三量体の量を測定した。また、分解生成物Dと推測されるガスが流管12中に発生することも確認された。
【0081】
上記から、PETは、一部がBHETの単量体、二量体、および三量体に分解されてエチレングリコール中に存在し(A部)、一部がガス成分まで分解され(B部)、それ以外は十分に分解されていない状態でエチレングリコール中に残存していると考えられる。検出された分解生成物Dの量を原料であるPETのモル数に換算することにより、A部の量を算出した。処理前後のPETの質量減少分を測定することにより、B部の量を算出した。次いで、「分解率」として、これらA部およびB部に相当するPETの物質量を処理前のPETの物質量で割った値を算出した。すなわち、「分解率」は、投入したPETの物質量に対する、分解されたPETの物質量の比である。算出された分解率は、80%であった。すなわち、投入したPETのうち80モル%が、ポリマー分解システム1によってBHETの単量体、二量体、または三量体に分解されたことが確認された。
【0082】
<実施例2>
実施例2では、実施例1のポリマー分解システム1に代えて、試料を流さない構成を採用した。液体を静止した状態で貯蔵するSiO2ガラス製の容器を用意し、実施例1と同様にPETを分散させたエチレングリコールを、当該容器に充填した。容器の内部には、実施例1と同様の電磁波受信部34を容器の底壁上に設けた。また、容器の外部には電磁波送信部32の電磁波出力部40を配置し、電磁波出力部40に接続された電磁波放射部42を容器の側壁を貫通するように設けた。電磁波放射部42の先端と導電性コア44との間の距離は、使用するマイクロ波(2.45GHz)の波長の約1/4に相当する約30mmとした。
【0083】
電磁波出力部40を作動させ、大気中、常圧下で電磁波放射部42から電磁波受信部34へ、2.45GHzのマイクロ波を放射した。マイクロ波の出力は300Wに設定し、マイクロ波の照射を10分間継続した。その結果、実施例1と同様に、電磁波受信部34の周囲でスパークが生じ、電磁波受信部34の近傍で継続的にプラズマ発光が観察された。
【0084】
マイクロ波を10分間照射した後、実施例1と同様にして、容器内のエチレングリコール中に溶解している分解生成物Dを検出し、PETの分解率を算出した。その結果、BHETの単量体、二量体、および三量体がエチレングリコールに溶解していることが検出された。なお、実施例1のようなガスの発生は観測されなかった。PETの分解率は、37%であった。このように、静止した状態の試料に対して実施例1と同様の処理を行った場合でも、PETを分解することができることが確認された。
【0085】
<実施例3>
マイクロ波の照射時間を10分から25分に変更した点を除き、実施例2と同様にしてPETを処理した。その結果、BHETの単量体、二量体、および三量体がエチレングリコールに溶解していることが検出された。なお、実施例1のようなガスの発生は観測されなかった。PETの分解率は87%であった。
【0086】
<比較例1>
電磁波受信部24を設けず、マイクロ波を照射せず、オイルバスを用いてエチレングリコールの温度を100℃に保持した点を除き、実施例2と同様にしてPETを処理した。PETの分解は観測されず、分解率は0%であった。すなわち、実施例1の構成でPETを分解するためには、加熱では足りず、マイクロ波の照射が必要であることが示された。
【0087】
実施例および比較例の実験条件およびPETの分解率を下記表1にまとめた。
【表1】
1、2…ポリマー分解システム、10…容器、12…流管、14…導入管、16…回収管、18…ポンプ、20…管壁、30…プラズマ発生器、32…電磁波送信部、40…電磁波出力部、42…電磁波放射部、34…電磁波受信部、44…導電性コア、46…誘電性被覆、M…液状媒体、P…ポリマー、D…分解生成物