(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175610
(43)【公開日】2024-12-18
(54)【発明の名称】多価カチオン性有機化合物と高分子化合物とを接触させる、高分子化合物の分解物の製造方法、高分子化合物の分解方法、及び高分子化合物の分解剤
(51)【国際特許分類】
C08J 11/28 20060101AFI20241211BHJP
【FI】
C08J11/28 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093538
(22)【出願日】2023-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】河津 貴大
(72)【発明者】
【氏名】石崎 博基
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA23
4F401AA24
4F401AA25
4F401AA26
4F401BA06
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401EA46
4F401EA58
4F401EA59
4F401EA60
4F401EA62
4F401EA63
4F401EA66
4F401FA01Z
4F401FA02Y
(57)【要約】
【課題】ケミカルリサイクル法は、廃棄物を一度原料モノマーへ解重合し、再重合するため、あらゆる形態の廃棄物のリサイクルが可能であり、また、得られる再生製品が幅広い用途に使用され得る。したがって、利用割合を上昇させるために、より高効率及び省エネルギーでの、高分子化合物のケミカルリサイクル法の提案が求められている。
【解決手段】正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)と高分子化合物とを接触させる工程を含む、高分子化合物の分解物の製造方法によって達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)と高分子化合物とを接触させる工程を含む、高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項2】
前記多価カチオン性有機化合物(A)が、正電荷を有する原子を1以上含むカチオン(a1)が連結基(X)を介して2以上結合した、多価カチオン性有機化合物を含む、請求項1に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項3】
前記カチオン(a1)が、アンモニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、及びホスホニウムからなる群から選択されるカチオンを含む、請求項2に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項4】
前記連結基(X)が、C1~C20のアルキレン基、C3~C20のシクロアルキレン基、C1~C20のアルケニレン基、C1~C20のポリオキシアルキレン基、C6~C20の芳香族基、並びにC1~C20のアルキレン基が結合されてもよい、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NH-、及び-N(C1~C20のアルキル)-からなる群から選択される、請求項2に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項5】
前記多価カチオン性有機化合物(A)が、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3CF2SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、F-、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、NO3
-、BF4
-、PF6
-、CH3COO-、CF3COO-、CF3CF2CF2COO-、CF3SO3
-、CF3(CF2)3SO3
-、AsF6
-、SbF6
-、およびF(HF)n
-からなる群から選択される、1以上の対イオンを含む、請求項1に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項6】
前記多価カチオン性有機化合物(A)の総カチオン数が2~8である、請求項1に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項7】
前記接触させる工程が、溶媒中で前記多価カチオン性有機化合物(A)と前記高分子化合物とを混合することを含む、請求項1に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が、水、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒からなる群から選択される1以上を含む、請求項7に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項9】
前記接触させる工程が、150℃~250℃の温度で行われる、請求項1に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項10】
前記接触させる工程が、常圧で行われる、請求項1に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項11】
前記分解物が、前記高分子化合物のオリゴマーを含む、請求項1に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項12】
前記高分子化合物は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、及びポリエーテルからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の高分子化合物の分解物の製造方法。
【請求項13】
高分子化合物を、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)と接触させて分解する工程を含む、高分子化合物の分解方法。
【請求項14】
正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)を含む高分子化合物の分解剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価カチオン性有機化合物と高分子化合物とを接触させる、高分子化合物の分解物の製造方法、高分子化合物の分解方法、及び高分子化合物の分解剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリアミド及びポリウレタンなどの高分子化合物は、化学的及び機械的な安定性が優れることから、繊維、フィルム、及び成形体などの形態で、あらゆる産業において、幅広く使用されている。生産量及び使用量の増大に伴って発生する、様々な形態の高分子化合物の廃棄物処理は、持続可能な社会を目指す人類が解決すべき大きな課題となっている。しかしながら、未だに、高分子化合物の廃棄物の多くが、燃焼によるエネルギー回収(サーマルリサイクル)にとどまっているのが現状である。
【0003】
高分子化合物のリサイクル方法の一種として知られるケミカルリサイクル法は、廃棄物を化学反応により他の物質に変化させ、その物質を原料として新たな製品を作るリサイクル方法である。特に、ケミカルリサイクル法として、使用済みPETからモノマーを得て、再生PETを製造するために、ポリエチレンテレフタレート(PET)を、ビス-(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)に分解(解重合)する様々な方法が提案されてきた。
【0004】
特許文献1には、回収PETフレークスを、PET解重合触媒を含むエチレングリコール(EG)中に投入して175℃~190℃の温度、0.1~0.5MPaの圧力下において処理し、ビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)を得る、PETの解重合方法が開示されている。しかしながら、この方法では、解重合に要する時間が4時間以上と長いため、生産性が低かった。
【0005】
特許文献2には、粗製ポリエチレンテレフタレートフレークを得る前処理工程と、過剰のエチレングリコールを加えて解重合を行い粗製ビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)を得る解重合工程と、混合溶液中からポリエチレンテレフタレート樹脂以外の異プラスチック類及び固形異物及び/又は沈殿物を除去する異物除去工程を経て、蒸留・蒸発操作を施して濃縮BHETを得、これを真空蒸発させることにより精製ビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレートを得る方法が開示されている。しかしながら、この方法に使用される触媒は、亜鉛触媒であり、触媒回収の工程を必要とすること、また、解重合に要する時間が3時間と長いことから、生産性が低かった。
【0006】
特許文献3には、触媒物質が磁性ナノ粒子に架橋した、再使用可能な触媒錯体を、ポリマーに供給して、ホモポリマー又はコポリマーであるポリマーを、オリゴマー、トリマー、ダイマー、及び/又はモノマーに分解する改良された方法が開示されている。しかしながら、この方法に使用される触媒錯体の調製は煩雑であり、また、触媒回収の工程を必要とすること、高効率でBHETを得るためには、高温での処理が必要であることから、生産性が低かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-119316号公報
【特許文献2】特開2000-169623号公報
【特許文献3】特表2018-502977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ケミカルリサイクル法は、材料を燃焼して熱として回収するサーマルリサイクル法や、材料をそのまま再利用するマテリアルリサイクル法とは異なり、上記の通り、工程数が多く、解重合のために高い温度又は圧力を長時間かける必要がある高エネルギー消費プロセスであるため、再生製品の価格上昇を招き、利用される割合が低かった。
【0009】
しかしながら、ケミカルリサイクル法は、廃棄物を一度原料モノマーへ解重合し、再重合するため、あらゆる形態の廃棄物のリサイクルが可能であり、また、得られる再生製品が幅広い用途に使用され得る。したがって、利用割合を上昇させるために、より高効率及び省エネルギーでの、高分子化合物のケミカルリサイクル法の提案が求められている。
【0010】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであり、高分子化合物の分解を、低温・低圧・短時間で行うことができ、またモノマー収率の高い、高効率な高分子化合物の分解物の製造方法、高分子化合物の分解方法、及び高分子化合物の分解剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の目的は、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)と高分子化合物とを接触させる工程を含む、高分子化合物の分解物の製造方法によって達成される。
【0012】
本発明の製造方法に使用される多価カチオン性有機化合物(A)は、正電荷を有する原子を1以上含むカチオン(a1)が連結基(X)を介して2以上結合した、多価カチオン性有機化合物を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の製造方法に使用される多価カチオン性有機化合物(A)のカチオン(a1)は、アンモニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、及びホスホニウムからなる群から選択されるカチオンを含むことが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法に使用される多価カチオン性有機化合物(A)の連結基(X)は、C1~C20のアルキレン基、C3~C20のシクロアルキレン基、C1~C20のアルケニレン基、C1~C20のポリオキシアルキレン基、C6~C20の芳香族基、並びにC1~C20のアルキレン基が結合されてもよい、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NH-、及び-N(C1~C20のアルキル)-からなる群から選択されることが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法に使用される多価カチオン性有機化合物(A)は、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3CF2SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、F-、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、NO3
-、BF4
-、PF6
-、CH3COO-、CF3COO-、CF3CF2CF2COO-、CF3SO3
-、CF3(CF2)3SO3
-、AsF6
-、SbF6
-、およびF(HF)n
-からなる群から選択される、1以上の対イオンを含むことが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法に使用される多価カチオン性有機化合物(A)は、総カチオン数が2~8であることが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法の接触させる工程は、溶媒中で多価カチオン性有機化合物(A)と高分子化合物とを混合することを含むことが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法の接触させる工程で使用される溶媒は、水、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒からなる群から選択される1以上を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法の接触させる工程は、150℃~250℃の温度で行われることが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法の接触させる工程は、常圧で行われることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法で得られる分解物は、高分子化合物のオリゴマーを含むことが好ましい。
【0022】
本発明の製造方法で使用される高分子化合物は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、及びポリエーテルからなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明の目的は、高分子化合物を、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)と接触させて分解する工程を含む、高分子化合物の分解方法によっても達成される。
【0024】
さらに、本発明の目的は、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)を含む高分子化合物の分解剤によっても達成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の高分子化合物の分解物の製造方法、高分子化合物の分解方法、あるいは高分子化合物の分解剤によれば、高分子化合物の分解を、分解剤によって、低温・低圧・短時間で行うことができ、高いモノマー収率の分解物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、まずは本発明の高分子化合物の分解物の製造方法について詳細に説明する。本発明の高分子化合物の分解物の製造方法は、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)と高分子化合物とを接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0027】
[多価カチオン性有機化合物(A)]
一実施形態において、多価カチオン性有機化合物(A)は、正電荷を有する原子を1以上含むカチオン(a1)が連結基(X)を介して2以上結合した、多価カチオン性有機化合物を含んでもよい。
【0028】
一実施形態において、正電荷を有する原子は、炭素、酸素、窒素、硫黄及びリンからなる群から選択されてもよい。好ましくは、窒素である。
【0029】
一実施形態において、正電荷を有する原子を1以上含むカチオン(a1)は、アンモニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピペリジニウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、トリアゾリウム、スルホニウム及びホスホニウムからなる群から選択されてもよく、C1~C20のアルキル基で置換されていてもよい。
【0030】
正電荷を有する原子を1以上含むカチオン(a1)は、アンモニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、及びホスホニウムからなる群から選択されるカチオンを含むことが好ましく、より好ましくは、イミダゾリウムカチオンである。
【0031】
C1~C20のアルキル基は、直鎖又は分岐鎖の1価の飽和炭化水素基であり、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、へプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル及びエイコシルからなる群から選択されてもよい。
【0032】
一実施形態において、連結基(X)は、2~12の価数で、正電荷を有する原子を1以上含むカチオン(a1)と結合していてもよい。好ましくは、連結基(X)の価数は2~8であり、より好ましくは、2~6、さらに好ましくは2である。
【0033】
一実施形態において、連結基(X)は、C1~C20のアルキレン基、C3~C20のシクロアルキレン基、C1~C20のアルケニレン基、C1~C20のポリオキシアルキレン基、C6~C20の芳香族基、並びにC1~C20のアルキレン基が結合されてもよい、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-NH-、及び-N(C1~C20のアルキル)-からなる群から選択されてもよい。
【0034】
好ましくは、連結基(X)は、C1~C20のアルキレン基、又はC6~C20の芳香族基であり、より好ましくは、C1~C20のアルキレン基である。
【0035】
C1~C20のアルキレン基は、直鎖又は分岐鎖の2価の飽和炭化水素基であり、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、ウンデシレン、ドデシレン、トリデシレン、テトラデシレン、ペンタデシレン、ヘキサデシレン、ヘプタデシレン、オクタデシレン、ノナデシレン及びエイコシレンからなる群から選択されてもよく、好ましくは、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン及びヘキシレンであり、より好ましくは、メチレン、エチレン及びプロピレンであり、さらに好ましくはエチレンである。
【0036】
C6~C20の芳香族基は、置換もしくは非置換の、2価~12価の芳香族基であり、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、フェノール、ベンジルアルコール、アニソール、アセトフェノン、クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ビフェニル、ベンゾフェノン、及びトリフェニルメタンからなる群から選択されてもよく、より好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン又はクメンであり、さらに好ましくは、ベンゼンである。C6~C20の芳香族基の芳香環内の水素、又は置換基の水素が2以上脱離して、連結基として作用してもよいし、水素が脱離した芳香環にC1~C20のアルキレン基が結合して連結基として作用してもよい。
【0037】
一実施形態において、多価カチオン性有機化合物(A)は、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、(CF3CF2SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、F-、Cl-、Br-、I-、AlCl4
-、Al2Cl7
-、NO3
-、BF4
-、PF6
-、CH3COO-、CF3COO-、CF3CF2CF2COO-、CF3SO3
-、CF3(CF2)3SO3
-、AsF6
-、SbF6
-、およびF(HF)n
-からなる群から選択される、1以上の対イオンを含んでもよい。好ましくは、対イオンは、(FSO2)2N-、(CF3SO2)2N-、Cl-、Br-、I-、又はCH3COO-であり、より好ましくは、CH3COO-である。
【0038】
対イオンの個数は、多価カチオン性有機化合物(A)に含まれる正電荷を有する原子を1以上含むカチオン(a1)の数に対応する。
【0039】
一実施形態において、多価カチオン性有機化合物(A)は固体又は液体であってもよく、好ましくは固体である。多価カチオン性有機化合物(A)が固体であることで、水分を含みにくく、分解物の副生成物が生成しにくいという利点がある。
【0040】
一実施形態において、多価カチオン性有機化合物(A)は、総カチオン数が2~8であってもよく、好ましくは、総カチオン数が2~6、より好ましくは、2である。
【0041】
多価カチオン性有機化合物(A)は、分子内にカチオンを2以上有するため、分子内にカチオンを1有するカチオン性化合物より、プロトン供与性が高く、分子内反応で分解(解重合)を促進させることができる。すなわち、正電荷を有する原子を1以上含むカチオン(a1)が連結基(X)を介して2以上結合された多価カチオン性有機化合物(A)を高分子化合物の分解剤として使用することによって、高分子化合物を、より高効率で分解することができる。
【0042】
一実施形態において、多価カチオン性有機化合物(A)は、高分子化合物1モルに対して、0.05~1.0当量で、高分子化合物に接触する。好ましくは、多価カチオン性有機化合物(A)は、高分子化合物1モルに対して、0.1~0.5当量、より好ましくは、0.15~0.45当量で、高分子化合物に接触する。
【0043】
[高分子化合物の分解物の製造方法]
一実施態様において、接触させる工程は、溶媒中で多価カチオン性有機化合物(A)と高分子化合物とを混合することを含むことが好ましい。
【0044】
一実施態様において、接触とは、高分子化合物が、溶媒に溶解していてもよいし、溶解していなくてもよい。多価カチオン性有機化合物(A)は、溶媒に溶解している。分解が進行するにつれて、高分子化合物がモノマーに分解されるため、溶解していない高分子化合物はなくなる。
【0045】
一実施態様において、接触させる工程で使用される溶媒は、水、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒及びエステル系溶媒からなる群から選択される1以上を含むことが好ましい。
【0046】
アルコール系溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリンからなる群から選択されてもよく、好ましくは、エタノール、プロパノール又はエチレングリコールであり、より好ましくはエチレングリコールである。
【0047】
アミン系溶媒は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、n-メチル-2-ピロリドン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、及びN,N-ジメチルホルムアミドからなる群から選択されてもよい。
【0048】
ケトン系溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びシクロペンタノンからなる群から選択されてもよい。
【0049】
エーテル系溶媒は、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルグリコールモノエチルエーテル、ジエチルグリコールモノプロピルエーテル、ジエチルグリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテルからなる群から選択されてもよい。
【0050】
エステル系溶媒は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチルセロソルブアセテート、1,1-ジメチルエチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、γ-ブチロラクトン、デカノラクトン、バレロラクトン、メバロノラクトン及びカプロラクトンからなる群から選択されてもよい。
【0051】
一実施態様において、接触させる工程で使用される溶媒は、エチレングリコールが好ましい。高分子化合物としてPET、及び溶媒としてエチレングリコールを使用することによって、分解によってビス-(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートが得られる。得られたビス-(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートはPETの再重合に使用され得る。
【0052】
一実施態様において、溶媒は、分解される高分子化合物100質量部に対して、50~5000質量部で使用されてもよい。好ましくは、使用される溶媒は、500~3000質量部、より好ましくは、1000~2500質量部で使用される。
【0053】
一実施態様において、接触させる工程は、150℃~250℃の温度で行われてもよい。好ましくは、160℃~200℃、より好ましくは、160℃~180℃の温度で行われることが好ましい。多価カチオン性有機化合物(A)を使用することによって、従来技術より低温で分解物を得ることが可能であり、製造方法の消費エネルギーを低減し得る。
【0054】
一実施態様において、接触させる工程は、0.08~0.5MPaの圧力で行われてもよい。好ましくは0.08~0.15MPa、より好ましくは、常圧で行われる。常圧とは、加圧も減圧もしない圧力であり、大気圧として表されてもよい。多価カチオン性有機化合物(A)を使用することによって、分解を常圧で行うことが可能であり、加圧を要する製造方法より、消費エネルギーを低減し得る。
【0055】
一実施態様において、接触させる工程は、0.5~6時間で行われてもよい。好ましくは、0.5~3時間、より好ましくは、0.5~2時間で行われる。多価カチオン性有機化合物(A)を使用することによって、従来技術より分解の時間を低減することができ、製造方法の消費エネルギーを低減し得る。
【0056】
一実施態様において、製造方法で得られる分解物は、高分子化合物のオリゴマー及び/又はモノマーを含んでいてもよい。好ましくは、高分子化合物のオリゴマーを含む。得られたオリゴマー及びモノマーは高分子化合物の再重合に使用され得る。
【0057】
高分子化合物のオリゴマーは、高分子化合物のモノマーが2~5個結合したものであってもよい。好ましくは、高分子化合物のモノマーが3~4個結合したものである。
【0058】
高分子化合物のオリゴマーは、高分子化合物の分解によって、10~90%の収率で得られてもよい。好ましくは、10~70%、より好ましくは、10~50%の収率で得られる。
【0059】
高分子化合物のモノマーは、高分子化合物の分解によって、10~90%の収率で得られてもよい。好ましくは、30~90%、より好ましくは、50~90%の収率で得られる。
【0060】
一実施態様において、製造方法は、分解物として得られたオリゴマー及び/又はモノマーを回収する工程を含んでいてもよい。オリゴマー及び/又はモノマーを回収する工程は、溶媒を蒸発させる濃縮工程、並びにオリゴマー及び/又はモノマーを晶析させたのちに溶媒と分離させる分離工程から選択されてもよいが、これらに限定されない。回収されたオリゴマー及び/又はモノマーは高分子化合物の再重合に使用することが可能である。
【0061】
一実施態様において、製造方法に使用される高分子化合物は、付加重合又は縮合重合によって得られる高分子化合物であってもよい。好ましくは縮合重合によって得られる高分子化合物である。
【0062】
付加重合によって得られる高分子化合物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ブタジエンゴム、及びイソプレンゴム並びにこれらの共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
縮合重合によって得られる高分子化合物は、セルロース、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアセタール、ポリウレタン、及びポリエーテル並びにこれらの共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
一実施態様において、製造方法に使用される高分子化合物は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、及びポリエーテルからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。好ましくは、ポリエステル、ポリカーボネート及びポリウレタンから選択され、より好ましくは、ポリエステル、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0065】
[高分子化合物の分解方法]
本発明の分解方法は、高分子化合物を、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)と接触させて分解する工程を含むことを特徴とする。
【0066】
一実施態様において、分解方法に使用される、高分子化合物、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)は上述のとおりである。また、一実施態様において、分解方法の、接触させて分解する工程は、上述の通りである。
【0067】
[高分子化合物の分解剤]
本発明の高分子化合物の分解剤は、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)を含むことを特徴とする。
【0068】
一実施態様において、分解剤に含まれる、正電荷を有する原子を分子内に2個以上含む多価カチオン性有機化合物(A)は上述の通りである。
【0069】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。
【実施例0070】
実施例において、以下の試料を使用した。
[試料]
・高分子化合物
ポリエチレンテレフタレート(PET)(積水化学工業株式会社製)
・多価カチオン性有機化合物(A)
【化1】
・溶媒
エチレングリコール
【0071】
モノマーの収率は、Water社製の超高速液体クロマトグラフィー装置(型式:ACQUITY UPLC system D)によって、下記条件で測定した。
<UPLC分析条件>
・固定相:ACQUITY UPLC BEH C8 1.7μm 100mm
・移動相:メタノール/水=7/3(v/v)
・測定溶液の調製方法:分解生成物をメタノール/水=7/3(v/v)で希釈したのち、
シリンジフィルターでろ過することで測定溶液を作製した
・流速:0.4mL/min
・検出波長:254nm
【0072】
(実施例1)
PET100mg(0.52mmol)及び化合物1(0.48当量)をエチレングリコール2.0gに分散させ、180℃で1時間反応させた。得られた溶液をHPLCに供して、分解によって得られたビス-(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)の収率を算出したところ、69%であった。
【0073】
【0074】
(実施例2~4)
反応温度及び化合物1の量を下記表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様の方法で分解反応を行った。
【0075】
(比較例1)
化合物1を下記化合物2に変更した以外は、実施例1と同様の方法で分解反応を行った。
【0076】
【0077】
【0078】
実施例1と比較例1を比較すると、実施例1の方がより高収率でBHETが得られたことがわかる。実施例2と比較例1を比較すると、実施例2の方がより低温で分解反応を行うことができることがわかる。実施例4と比較例1と比較すると、実施例4の方がより少量の分解剤量でより高収率でBHETが得られたことがわかる。
本発明は、高効率及び省エネルギーで高分子化合物をモノマー又はオリゴマーに分解することができるため、ケミカルリサイクル法として高分子化合物の廃棄物の再生処理に利用することができ、石油資源の有効活用に寄与することができる。