(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017568
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】潜像印刷物及びその作成方法
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20240201BHJP
B42D 25/337 20140101ALI20240201BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/337
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120288
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】木内 正人
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
【Fターム(参考)】
2C005HA06
2C005HA17
2C005JB26
2H113AA01
2H113AA06
2H113BA00
2H113BB02
2H113BB07
2H113BB09
2H113BB10
2H113CA34
2H113CA35
2H113CA39
2H113CA44
2H113CA45
2H113EA05
2H113FA44
2H113FA45
(57)【要約】
【課題】予め印刷物における潜像模様の位置を把握していなくても、印刷物の意匠性を損なうことなく簡単に作製することができ、また、潜像模様を読取る際の煩わしさがなく、容易に潜像模様の読み取りを可能とする潜像印刷物及びその作成方法を提供する。
【解決手段】本発明は、基材上に潜像模様を備えた印刷模様が形成された印刷物において、基材上のいずれの位置でも判別ツールにより潜像模様を出現させることで真正性を確認可能な潜像印刷物であって、印刷模様は、潜像要素が少なくとも一つ形成されたユニットが複数配置されて成る潜像模様ユニットにより形成された潜像模様が、隣接又は判別ツールに少なくとも一部が出現可能な間隔で複数配置されたことで、同じ潜像模様が複数形成されて成ることを特徴とする潜像印刷物に関するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に潜像模様を備えた印刷模様が形成された印刷物において、前記基材上のいずれの位置でも判別ツールにより前記潜像模様を出現させることで真正性を確認可能な潜像印刷物であって、
前記印刷模様は、潜像要素が少なくとも一つ形成されたユニットが複数配置されて成る潜像模様ユニットにより形成された潜像模様が、隣接又は前記判別ツールに少なくとも一部が出現可能な間隔で複数配置されたことで、同じ前記潜像模様が複数形成されて成ることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項2】
前記潜像模様ユニットが、少なくとも第1の色成分に対応して形成された第1の潜像要素、第2の色成分に対応して形成された第2の潜像要素のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットが所定間隔で配置されることで形成され、
前記第1の潜像要素と前記第2の潜像要素は、全てのユニットにおいて面積率が等しく、かつ、配置される角度又は形状が相互に異なることを特徴とする請求項1に記載の潜像印刷物。
【請求項3】
前記潜像模様ユニットは、前記潜像模様ユニットの縦及び横にそれぞれ400ドット以上の前記ユニットにより形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の潜像印刷物。
【請求項4】
前記印刷模様がさらに可視模様を有し、
前記可視模様は、前記潜像模様ユニット内に、前記可視模様の階調濃度に対応した面積率の可視領域が形成されて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の潜像印刷物。
【請求項5】
前記印刷模様がさらに可視模様を有し、
前記可視模様は、前記潜像模様ユニット内に、前記可視模様の階調濃度に対応した面積率の可視領域が形成されて成ることを特徴とする請求項3に記載の潜像印刷物。
【請求項6】
潜像要素が少なくとも一つ形成されたユニットが複数配置されて成る潜像模様ユニットにより形成された潜像模様が、隣接又は判別ツールに少なくとも一部が出現可能な間隔で複数配置されたことで、同じ前記潜像模様が複数形成されて成る印刷物の作成方法であって、
前記潜像模様の基となる基模様データを入力する潜像模様データ入力工程と、
入力された前記基模様データを用いて、前記潜像模様を構成する前記潜像要素を少なくとも一つ形成された前記ユニットを複数配置した前記潜像模様ユニットを作製し、前記潜像模様ユニットを基材の寸法に対応して、隣接又は前記判別ツールに少なくとも一部が出現可能な間隔で複数配置した潜像模様ユニット作成工程と、
前記潜像模様ユニット作成工程で作成されたデータを用いて、前記基材に印刷又はレーザで形成する形成工程と、を備えることを特徴とする潜像印刷物の作成方法。
【請求項7】
前記潜像模様ユニット作成工程は、前記潜像模様ユニットが、少なくとも第1の色成分に対応して形成する第1の潜像要素、第2の色成分に対応して形成する第2の潜像要素のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットを所定間隔で配置して形成し、
前記第1の潜像要素と前記第2の潜像要素は、全ての前記ユニットにおいて面積率が等しく、かつ、配置される角度又は形状が相互に異なることを特徴とする請求項5に記載の潜像印刷物の作成方法。
【請求項8】
前記潜像模様ユニット作成工程における潜像模様ユニットは、前記潜像模様ユニットの縦及び横にそれぞれ400ドット以上の前記ユニットで形成することを特徴とする請求項6又は7に記載の潜像印刷物の作成方法。
【請求項9】
前記印刷模様に、さらに可視模様を形成するための可視模様データ入力工程を備え、
前記潜像模様ユニット作成工程は、前記潜像模様ユニット内に、前記可視模様データを用いて前記可視模様の階調濃度に対応した面積率の可視領域を形成することを特徴とする請求項6又は7に記載の潜像印刷物の作成方法。
【請求項10】
前記印刷模様に、さらに可視模様を形成するための可視模様データ入力工程を備え、
前記潜像模様ユニット作成工程は、前記潜像模様ユニット内に、前記可視模様データを用いて前記可視模様の階調濃度に対応した面積率の可視領域を形成することを特徴とする請求項8に記載の潜像印刷物の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判別ツールにおいて真正性の確認を可能とする潜像印刷物において、潜像が印刷物のどの箇所に施されているかを利用者が予め把握していなくても、容易に真正性を確認することが可能な潜像印刷物及びその作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、旅券、印紙、切手などの諸証券類、重要書類やチケット類、身分証明証をはじめとした各種証明書やカード等のセキュリティ印刷物には高度な偽造防止技術が用いられている。それらの偽造防止技術の一つとして、セキュリティ印刷物に潜像を施す技術がある。これらの技術としては、従来から印刷物を複写機でコピーすると複写物上に潜像を発現させるコピー牽制画線が一般に知られている。
【0003】
また、本出願人は、赤外線吸収色素を含むブラックインキと、赤外線吸収色素を含まないインキを用いて構成された潜像印刷物であり、判別ツールとして赤外カメラ又はIRビューア等による赤外線視により潜像が可視化される技術を出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、本出願人は、複数の手段による真偽判別可能な偽造防止印刷物として、複写機で再生される第1の要素と複写機で再生されない第2の要素を異なる位相に形成し、第1の要素が形成された位置に判別ツールとしてレンチキュラーレンズの中心を重ねると、潜像模様が視認される偽造防止印刷物を出願している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、本出願人は、印刷機やプリンタの種類によらずに印刷可能な潜像印刷物であり、潜像の特異点を判別ツールとしてスマートフォンにアプリケーションをインストールした読取装置を用いて読み取り、潜像を可視化して画面表示することで、その原本の真偽を容易に判定できる潜像印刷物を出願している(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
ところで、前述で挙げた技術は、潜像を印刷物に施すことが可能であるが、肉眼で認識できない潜像であるがゆえに、印刷物に施された潜像を読み取るためには、利用者が予め潜像領域を知っているか、また、機械又は装置により潜像領域を自動的に探し出す必要がある。利用者が予め潜像領域を把握していない場合、利用者は、判別ツールを用いて潜像領域を探し出す必要があるが、例えば、比較的サイズの大きい印刷物に、比較的小さいサイズの潜像が施されているような場合、利用者が判別ツールを用いて潜像領域を探し出す手間がかかり、煩わしさがあった。そのため、すぐに潜像を出現させることができず、印刷物の真正性の確認をすることができないため、広く一般的に使いやすい情報判別手段には成り得ていない。
【0007】
これに関する従来技術として、偽造防止用の二次元コードおよびその二次元コードを有した印刷物がある。これは、偽造防止および真贋判定を可能とする音声コードを提供するため、データ要素領域の切り出しと位置決めを行うためのデータ認識用T字形マーカを有する二次元コードを備える印刷物である(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
また、別の技術として、筒状容器に付与されるバーコード等の読取コードについて、読取時に筒状容器の読取コードを探し出す手間をなくすために、筒状容器の外表面に読取コードの電子透かし画像を印刷することで、読み取り範囲を特定の印刷箇所に合わせることなく読み取りが可能となるとともに、外表面の印刷層に目隠し層を設けることで、電子透かし画像を視認し難くした技術が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3544536号公報
【特許文献2】特許第6991514号公報
【特許文献3】特許第6976527号公報
【特許文献4】特開2019-95953号公報
【特許文献5】国際公開2020/067099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献4に記載の印刷物は、データ認識用T字形マーカが付与されているため、読み取りやすいが、T字形マーカの付与により潜像のエレメント領域が特定されるという点で、潜像としての偽造防止効果が低下するとともに、旅券、切手、証明書等のセキュリティ印刷物に求められる意匠性が損なわれるという問題が生じる。
【0011】
また、特許文献5に記載の技術は、筒状容器の外表面に読取コードの電子透かし画像を印刷することにより、簡単に読み取れるようにした構成であるが、筒状容器の外表面に印刷した電子透かし画像を視認し難くするための目隠し層を必要としており、これをセキュリティ印刷物に適用すると、読取コードの電子透かし画像のみでは、読取コードが目視されてしまうことから、潜像としての機能を果たしておらず、また、読取コードを視認し難くするために目隠し層を設けることについても、セキュリティ印刷物の製造が複雑となることから、実現は困難である。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、予め印刷物における潜像模様の位置を把握していなくても、潜像模様ユニットが複数配置された印刷物とすることで、印刷物の意匠性を損なうことなく簡単に作製することができ、また、潜像模様を読取る際の煩わしさがなく、容易に潜像模様の読み取りを可能とする潜像印刷物及びその作成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、基材上に潜像模様を備えた印刷模様が形成された印刷物において、基材上のいずれの位置でも判別ツールにより潜像模様を出現させることで真正性を確認可能な潜像印刷物であって、印刷模様は、潜像要素が少なくとも一つ形成されたユニットが複数配置されて成る潜像模様ユニットにより形成された潜像模様が、隣接又は判別ツールに少なくとも一部が出現可能な間隔で複数配置されたことで、同じ潜像模様が複数形成されて成ることを特徴とする潜像印刷物である。
【0014】
また、本発明の潜像印刷物は、潜像模様ユニットが、少なくとも第1の色成分に対応して形成された第1の潜像要素、第2の色成分に対応して形成された第2の潜像要素のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットが所定間隔で配置されることで形成され、第1の潜像要素と第2の潜像要素は、全てのユニットにおいて面積率が等しく、かつ、配置される角度又は形状が相互に異なることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の潜像印刷物における潜像模様ユニットは、潜像模様ユニットの縦及び横にそれぞれ400ドット以上のユニットにより形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の潜像印刷物は、潜像印刷物がさらに可視模様を有し、可視模様は、潜像模様ユニット内に、可視模様の階調濃度に対応した面積率の可視領域が形成されて成ることを特徴とする。
【0017】
本発明は、前述した潜像印刷物の作成方法であって、潜像模様の基となる基模様データを入力する潜像模様データ入力工程と、入力された基模様データを用いて、潜像模様を構成する潜像要素を少なくとも一つ形成されたユニットを複数配置した潜像模様ユニットを作製し、潜像模様ユニットを基材の寸法に対応して、隣接又は判別ツールに少なくとも一部が出現可能な間隔で複数配置した潜像模様ユニット作成工程と、潜像模様ユニット作成工程で作成されたデータを用いて、基材に印刷又はレーザで形成する形成工程と、を備えることを特徴とする潜像印刷物の作成方法である。
【0018】
また、本発明の潜像印刷物の作成方法における潜像模様ユニット作成工程は、潜像模様ユニットが、少なくとも第1の色成分に対応して形成する第1の潜像要素、第2の色成分に対応して形成する第2の潜像要素のいずれか一つをそれぞれ含む複数のユニットを所定間隔で配置して形成し、第1の潜像要素と第2の潜像要素は、全てのユニットにおいて面積率が等しく、かつ、配置される角度又は形状が相互に異なることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の潜像印刷物の作成方法は、潜像模様ユニットの縦及び横にそれぞれ400ドット以上のユニットで形成することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の潜像印刷物の作成方法は、印刷模様にさらに可視模様を形成するための可視模様データ入力工程を備え、潜像模様ユニット作成工程は、潜像模様ユニット内に、可視模様データを用いて可視模様の階調濃度に対応した面積率の可視領域を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、潜像模様ユニットが複数配置されて成る潜像印刷物とすることで、予め印刷物に施されている潜像模様の位置を把握していなくても、印刷物としての意匠性が保たれ簡単に作製することができるとともに、判別ツールを用いて潜像模様を読み取る際に、潜像模様の位置を探し出す煩わしさがなく、容易に潜像模様を読み取ることができる。
【0022】
本発明は、潜像印刷物が旅券や身分証明書等のセキュリティ印刷物であり、潜像模様を顔模様等のパーソナル情報とした場合に特に有効であり、潜像印刷物の真正性、つまり本人認証の際に、特別な機械又は装置を必要とせず、カメラ付き情報端末等の判別ツールを用いて、容易に本人認証が行うことができる。
【0023】
さらに本発明は、可変情報を必要とする旅券や身分証明書のように、それぞれの印刷物において、個々のパーソナル情報を潜像模様として付与することで、より強力にセキュリティ性を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1の実施の形態による潜像印刷物を示す図。
【
図2】第1の実施の形態による第1の潜像模様ユニットを説明する図。
【
図3】第1の実施の形態によるユニットの構成を説明する図。
【
図4】第1の実施の形態によるユニットの別の形状を説明する図。
【
図5】第1の実施の形態によるユニットの寸法が影響する潜像画線の視認状態を示す図。
【
図6】第1の実施の形態による第1の潜像模様ユニットの構成を示す図。
【
図7】第1の実施の形態による潜像印刷物と判別ツールとの適正な距離に関する検証結果を示す図。
【
図8】第1の実施の形態による潜像印刷物と判別ツールとの適正な距離に関する検証対象サイズを示す図。
【
図9】第1の実施の形態による潜像印刷物と判別ツールとの適正な距離に関する潜像模様数を示す図。
【
図10】第1の実施の形態による潜像印刷物と判別ツールとの適正な距離に関する検証条件を説明する図。
【
図11】第1の実施の形態による第1の潜像模様ユニット内のユニットの配置例を示す図。
【
図12】第1の実施の形態による各ユニットの配置状態を説明する図。
【
図13】第1の実施の形態による第1の潜像模様ユニットの配置例を示す図。
【
図14】第1の実施の形態による第1の潜像画線の形状を説明する図。
【
図15】第1の実施の形態による作成方法を示すフロー図。
【
図16】第1の実施の形態による作成方法の各ステップの詳細を説明する図。
【
図17】第2の実施の形態による潜像印刷物を示す図。
【
図18】第2の実施の形態によるユニット内における可視領域を示す図。
【
図19】第2の実施の形態による可視領域で連続階調を形成した図。
【
図20】第2の実施の形態による連続階調を形成するためのテンプレートによる濃度を説明する図。
【
図21】第2の実施の形態による潜像画線の色彩例を示す図。
【
図22】第2の実施の形態による作成方法の各ステップの詳細を説明する図。
【
図23】第2の実施の形態による可視模様の濃度階調を説明する図。
【
図24】第3の実施の形態による潜像印刷物の構成を示す図。
【
図25】第3の実施の形態による潜像模様を示す図。
【
図26】第3の実施の形態による作成方法を示すフロー図。
【
図27】第3の実施の形態による作成方法の各ステップの詳細を説明する図。
【
図28】第3の実施の形態による潜像模様ユニットの不可視領域の適用状態を説明する図。
【
図29】第4の実施の形態による潜像印刷物の構成を示す図。
【
図30】第4の実施の形態による潜像模様を示す図。
【
図31】第4の実施の形態による作成方法の各ステップの詳細を説明する図。
【
図32】第4の実施の形態による潜像模様ユニットの不可視領域の適用状態を説明する図。
【
図33】第4の実施の形態による不可視領域において連続階調を形成するための濃度設計を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0026】
本発明の潜像印刷物(1)は、
図1(a)に示すように、目視で確認すると一見して単調な画線が基材(2)上に一様に形成された印刷模様(3)であり、可視光下では潜像模様(4)を視認することはできないが、
図1(b)に示すように、判別ツール(12)を使用することにより、潜像模様(4)が可視化される印刷物である。
【0027】
(基材)
本発明の潜像印刷物(1)に用いられる基材(2)は、紙、樹脂素材、それらの複合素材、金属、ガラス等、基材(2)の表面に印刷を施すことができるものであれば、特に限定されない。また、基材(2)への印刷は、印刷機、デジタル印刷機、各種プリンタ(インクジェット方式、レーザープリンタ)、カラー複合機等、方式は問わない。また、本発明において、基材(2)表面にレーザによりレーザ痕を形成したものについても潜像印刷物(1)の概念に含まれる。なお、潜像印刷物(1)に用いられるインキについて特に限定はなく、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)(以下「CMY」という。)及びブラック(K)(以下「K」という。)トナー又は顔料インク等、任意のインキを用いることができる。
【0028】
(判別ツール)
本発明において、潜像印刷物(1)に施された潜像模様(4)を可視化するための判別ツール(12)としては、潜像模様(4)を可視化することができるアプリケーションをインストールしたスマートフォンをはじめとするカメラ付き情報端末(以下、「情報端末」という。)、潜像印刷物(1)を赤外線視することにより潜像模様(4)を可視化することができるIRカメラやIRビューア、潜像印刷物(1)上に配置することにより潜像模様(4)を可視化することができるレンチキュラーレンズ等が挙げられる。これらの判別ツール(12)により、潜像模様(4)を可視化することで、容易に本人認証を行うことができる。
【0029】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態では、判別ツール(12)として、情報端末を用いた例で説明する。
【0030】
(潜像印刷物)
第1の実施の形態の潜像印刷物(1)は、
図1(a)に示すように、基材(2)上に印刷模様(3)が形成されている。また、潜像印刷物(1)は、可視光下では一見して単調な画線が一様に形成された印刷模様(3)であり、潜像模様(4)を肉眼で視認することができないが、
図1(b)に示すように、判別ツール(12)を用いると、例えば、潜像模様(4)として顔模様が可視化されて画面に表示される。
【0031】
(潜像模様)
本発明の潜像印刷物(1)に施される潜像模様(4)は、文字、数字、記号、マーク、顔模様、風景等、特に限定されない。
【0032】
(第1の潜像模様ユニット)
潜像印刷物(1)は、
図2に示すように、第1の潜像模様ユニット(10)が基材(2)上に複数形成されている。第1の実施の形態では、
図2に示すように、縦3×横3の合計9個の第1の潜像模様ユニット(10)が規則的に基材(2)の全面にわたり隙間なく隣接して複数形成されているが、隣り合う第1の潜像模様ユニットの配置関係については、必ずしも隙間なく隣接してなくてもよい。この第1の潜像模様ユニットの配置関係についての詳細は後述する。なお、
図2において、第1の潜像模様ユニット(10)同士の境界を点線で示しているが、本発明の潜像印刷物(1)の構成の説明用に付与したものであり、実際の潜像印刷物(1)には点線は形成されていない。
【0033】
本発明における潜像印刷物(1)が、第1の潜像模様ユニット(10)が規則的に複数形成される理由は、潜像模様(4)を確認しようとした際に、どの箇所に判別ツール(12)を当てても、必ず潜像模様(4)を確認することを可能とするためである。
【0034】
第1の潜像模様ユニット(10)は、
図2の拡大図に示すように、最小単位である第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)が隙間なく複数配列させて形成される。なお、第1の実施の形態において、第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)の3種類のユニットを用いて説明するが、最小単位のユニットの種類は、これに限定されず、2種類でもよいし4種類以上でもよい。最小単位のユニットを2種類以上とする理由は、潜像印刷物(1)に判別ツール(12)を用いて2色以上の潜像模様(4)を可視化させるためであり、詳しくは後述する。
【0035】
(ユニット)
図3(a)に第1のユニット(6a)、
図3(b)に第2のユニット(6b)及び
図3(c)に第3のユニット(6c)を示す。第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)は、いずれも同一の形状と大きさを有する。なお、
図3において点線で示す四角囲いは、第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)の形状を説明するために付与したものであり、実際の各ユニットには点線は形成されていない。以降、本発明において同じである。
【0036】
また、
図3に示すように、ユニットにおける縦横の寸法(u)は、180μmから500μmの範囲で形成されることが望ましい。ユニット寸法(u)が500μmを超えるとユニット内の潜像要素(26)が視認されやすくなり、潜像模様(4)の秘匿性が低くなり、意匠性を損なってしまう。また、ユニット寸法(u)が180μmを下回ると、プリンタ等で潜像要素(26)を形成することが困難になってしまう。ただし、このユニットの寸法については、現状のプリンタの性能を考慮したものであり、将来に亘り、プリンタの性能が向上するに伴い、この範囲も適宜異なってくることは言うまでもなく、また、確認者の視力や視認角度による条件の差によっても異なるものではあるが、あくまでも例としての記載であり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0037】
図3では、第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)の形状が正方形である場合について説明している。しかし、本発明における各ユニット(6a、6b、6c)の形状は、
図4(a)から(c)に示すように、縦寸法(u)と横寸法(w)が異なる長方形であってもよく、
図4(d)から(f)に示すように縦寸法(u)と横寸法(w)から成る六角形であってもよく、ひし形、平行四辺形、その他の多角形でもよい。
【0038】
第1の潜像模様ユニット(10)は、潜像模様(4)を形成するための複数の潜像要素(26)を少なくとも備えて成る。この潜像要素(26)は、画線、網点、及び画素等、本発明における潜像要素(26)を形成可能な最小単位であれば特に限定しない。本発明では、画線、網点及び画素等を総称して「潜像画線(7)」という。本第1の実施の形態では、潜像要素(26)を画線とした潜像画線(7)として以下説明する。なお、前述のとおり、第1の実施の形態においては、潜像要素(26)を備えたユニットが複数配置されて第1の潜像模様ユニット(10)が形成されている。また、印刷模様(3)において、可視模様(5)を形成する場合には、第1の潜像模様ユニット(10)は、更に可視要素(9)を備えている。可視模様(5)についての詳細は後述する。
【0039】
(潜像画線)
第1の実施の形態の潜像印刷物(1)は、目視で確認すると単調な潜像画線が一様に形成された印刷模様(3)であるため、第1のユニット(6a)には第1の潜像画線(7a)が、第2のユニット(6b)には第2の潜像画線(7b)が、さらに第3のユニット(6c)には第3の潜像画線(7c)が、それぞれ形成される。具体的には、
図3(a)に示すように、第1のユニット(6a)には第1の潜像画線(7a)が左上から右下への斜め線で形成され、
図3(b)に示すように、第2のユニット(6b)には第2の潜像画線(7b)右上から左下への斜め線で形成され、第3のユニット(6c)には第3の潜像画線(7c)が左中央から右中央への横線で形成される。
【0040】
また、
図3に示すように、各ユニット(6a、6b、6c)の潜像画線(7a、7b、7c)は、ユニット内における面積率が全て等しい。
図3においては、
図3(a)と
図3(b)とは、二つともユニット(6a、6b)の一端から対角線の一端までの斜めの潜像画線(7a、7b)が配置されているため、長さ及び画線幅(V1、V2)はいずれも等しいことから、面積率は等しい。また、
図3(c)の第3の潜像画線(7c)については、第3のユニット(6c)の横(水平)方向に配置されているため、長さは第1のユニット(6a)の第1の潜像画線(7a)及び第2のユニット(6b)の第2の潜像画線(7b)よりも短い。ただし、画線幅(V3)については、第1の潜像画線(7a)の画線幅(V1)及び第2の潜像画線(7b)の画線幅(V2)よりも太くなっており、面積率は、第3の潜像画線(7c)も第1の潜像画線(7a)及び第2の潜像画線(7b)と等しくなっている。
【0041】
したがって、本発明において「ユニット内の面積率が等しい」とは、一つのユニットに配置された潜像画線が、ユニットにおいて占める面積の割合が等しいということである。前述したように、
図3を例にとれば、
図3(a)の第1の潜像画線(7a)と
図3(b)の第2の潜像画線(7b)は、一つのユニット内における潜像画線(7)の占める割合が仮に20%とすれば、
図3(c)の第3の潜像画線(7c)は、画線の長さは第1の潜像画線(7a)と第2の潜像画線(7b)よりも短いが、画線幅(V3)が太くなっているため、ユニット内に占める面積率は同じ20%となっている。以上のとおり、各潜像画線の長さ及び画線幅とを調整することにより、全てのユニットにおける潜像画線の面積率を等しく形成することができる。
【0042】
図3においては、潜像画線の長さ及び画線幅が異なっていても面積率が等しい例で説明したが、
図4では、全ての潜像画線を同じ形状及び大きさとし、配置角度のみ異ならせて各潜像画線(7a、7b、7c)を形成した例を示している。このように、全ての潜像画線の形状及び大きさを等しくすれば、画線の長さ及び画線幅を調整しなくても面積率を全て等しくすることが可能である。
【0043】
第1の潜像画線(7a)、第2の潜像画線(7b)及び第3の潜像画線(7c)の角度(又は形状)は、判別ツール(12)を用いて可視化される潜像模様(4)の色に対応して配置されて成る。例えば、本第1の実施の形態では、
図3に示すように、第1のユニット(6a)の第1の潜像画線(7a)には白を、第2のユニット(6b)の第2の潜像画線(7b)には黒を、第3のユニット(6c)の第3の潜像画線(7c)には橙を割り当てている。また、詳細は後述するが、判別ツール(12)を用いて各潜像画線(7a、7b、7c)の角度又は形状の違いを読み取り、各潜像画線(7a、7b、7c)にそれぞれ割り当てられた色を潜像模様(4)として可視化することで、この色により顔模様等をカラーの潜像模様(4)として再現することができる。
【0044】
第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)における各潜像画線(7a、7b、7c)の画線幅(V)は、各ユニットの寸法(u)の1/5~1/10の範囲内が望ましい。各潜像画線(7a、7b、7c)の画線幅(V)がユニットの寸法(u)の1/5~1/10の範囲内であれば、
図5(a)のように近見視力では画線が認識されずに一様の濃度として観察されるため望ましい。一方、画線幅(V)がユニットの寸法(u)の1/5を超えると、
図5(b)のように各潜像画線(7a、7b、7c)が視認されやすくなり、潜像模様(4)の秘匿性が低くなるとともに、意匠性を損なうことになる。また、1/10を下回ると、判別ツール(12)により各潜像画線(7a、7b、7c)が読み取りにくく、潜像模様(4)の再現性が低くなる。
【0045】
第1のユニット(6a)における第1の潜像画線(7a)、第2のユニット(6b)における第2の潜像画線(7b)及び第3のユニット(6c)における第3の潜像画線(7c)は、全て同じ色であることが望ましい。各潜像画線(7a、7b、7c)の色が同じである場合、潜像模様(4)の隠蔽性を高めることができる。しかしながら、各潜像画線(7a、7b、7c)の色が異なっていても、潜像印刷物(1)に潜像模様(4)が視認されないよう構成できればよい。
【0046】
図6に、第1の潜像模様ユニット(10)の構成を示す。第1の潜像模様ユニット(10)は、第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)が縦10個×横10個の計100個が複数配置されている。例えば、第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)の寸法(u)として、各潜像画線(7a、7b、7c)を読み取ることができるように180μmで構成した場合、第1の潜像模様ユニット(10)の縦寸法(s)及び横寸法(s)は、1,800μmとなる。なお、第1の潜像模様ユニット(10)を構成する各ユニット(6a、6b、6c)の数は、例えば、各ユニットが縦3×横3個の計9個により構成されていてもよいし、縦4×横4個の計16個により構成されていてもよく、任意の数で構成することができる。
【0047】
図6による第1の潜像模様ユニット(10)では、各ユニット(6a、6b、6c)の寸法を、縦及び横を同じ寸法(u)としているため、第1の潜像模様ユニット(10)の縦及び横の寸法(s)も同じとなっているが、
図4に示したユニットの寸法のように、縦の寸法(u)と横の寸法(w)が異なってもよいことから、その場合には、第1の潜像模様ユニット(10)も縦と横の寸法は異なる。
【0048】
次に、本発明において潜像印刷物(1)と判別ツール(12)との適正な距離に基づく潜像ユニットの適正な大きさについて説明する。潜像印刷物(1)と判別ツール(12)である情報端末との適正な距離については、判別ツール(12)の解像度によって読み取りの距離が異なる。判別ツール(12)のスペックを指定すると、一つの潜像模様ユニットを構成するユニット数を、少なくとも9ピクセルで構成した場合に潜像模様として読み取ることが可能であれば、潜像印刷物(1)の読み取りが可能となる。また、このスペックの上限については指定せず、どれだけ高解像であってもよい。しかし、解像度だけでなく、判別ツール(12)と潜像印刷物(1)の距離によってピントが合い、読み取りを行うことができるかは別の問題である。
【0049】
本第1の実施の形態では、判別ツール(12)としてスマートフォンのカメラを使用して読み取りを行っているため、今回使用したスマートフォンのカメラと潜像印刷物との距離について検証を行った。
【0050】
今回使用したスマートフォンに搭載されたカメラのスペックは、通常使用されているスマートフォンの解像度で960×720であり、640×480以上の解像度があれば読取は可能であると考えられる。
【0051】
図7に示すように、読み取り距離については、通常一般的に読み取るであろう距離を5cm又は50cmと仮定し、
図8の(1)及び(2)のように、通常セキュリティ印刷物の基材(2)となり得る身分証明書等に使用されるカード型のサイズと、
図8の(3)及び(4)のように、通常重要書類に使用されるA4サイズの紙の2パターンを用意した。
【0052】
さらに、潜像模様(4)の数については、複数個配置という条件の最小の個数である2個(
図9(2)及び(4)参照)と、カード基材のサイズ又はA4サイズに隙間なく3個以上の複数を配置(
図9(1)及び(3)参照)した2パターンを用意して読み取りを行った。
【0053】
また、潜像模様(4)の作成条件を次のように設定した。
図10(a)に示すように、通常家庭用で使用されるプリンタの一般的な解像度は600dpiであり、これを条件とする時、最小単位である第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)、第3のユニット(6c)の縦横の寸法(u)が10ピクセルとなる。この条件の時、顔模様を目視で確認することができる第1の潜像模様ユニット(10)の最低のユニット数は、
図10の(b)に示すように、縦40個×横40個の縦400ピクセル×横400ピクセルとなる。これにより、第1の潜像模様ユニット(10)の最小単位である第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)、第3のユニット(6c)のピクセル数を固定し、それぞれ設定した8パターンについて検証を行った。
【0054】
なお、ここで言う「ピクセル」は、データ上における画像(主にビットマップ形式)として用いられる単位で、「ピクセル/インチ」のことあるが、本発明における潜像模様(4)を基材(2)上にインクジェットプリンタによって形成する際の出力解像度で表すと、「ドット/インチ」となるため、画像解像度としてみれば、「ドット」=「ピクセル」となる。以降の説明では、主に画像形成における内容であることを考慮するとともに、用語の統一的な表記を目的に「ピクセル」として記載する。
【0055】
この検証の結果を
図7に示す。今回使用したスマートフォンに搭載されたカメラのスペックでは、2パターンの配置、用紙サイズにおいて、5cmの距離であれば読み取りが可能で認識をすることができた。しかし、50cmの距離ではピントがうまく合わず、読み取りが不可能であった。読み取り可能な限界の距離は、カード型サイズとA4サイズの双方とも潜像模様ユニット2個の場合、20cmの距離が限界で、カード型サイズとA4サイズの双方とも第1の潜像模様ユニット(10)を隙間なく配置した場合、15cmの距離が限界であった。
【0056】
前述した検証結果を踏まえ、本発明の特徴点である潜像印刷物(1)の基材(2)に対して、どの位置を判別ツール(12)で読み取っても、必ず潜像模様(4)が確認可能とするための潜像模様ユニット(10)の寸法(大きさ)は、潜像要素(26)が形成されているユニット(6)が縦及び横のそれぞれに400ピクセル以上で形成される必要があり、400ピクセル以上のユニット数で形成すれば、実際の潜像模様ユニットの寸法及び配置数は、対象とする基材(2)の寸法(大きさ)により適宜設定すればよい。
【0057】
各ユニット(6a、6b、6c)の配置については、各ユニットが隙間なく配置されれば、
図11(a)に示すように、複数のユニットがマトリクス状に隙間なく配置されてもよいし、
図11(b)のように複数のユニットが水平方向にレンガ状に配置されてもよく、
図11(c)のように複数のユニットが垂直方向にレンガ状に配置されてもよい。さらに、
図11(d)のように、ユニットの大きさが異なって隣接されて配置されていてもよい。この
図11(d)のユニットの配置については、後述する第3の実施の形態において詳細を説明する。なお、
図11(d)のようなユニットの配置及び大きさにおいても、ユニット内に配置された潜像画線(7)は、前述したように、全てのユニットにおいて、面積率は等しくなっている。
【0058】
また、ユニットの形状が
図4(d)~(f)に示すような六角形である場合、複数のユニットをハニカム構造状に配置されてもよい(図示せず)。
【0059】
図6及び
図11において、第1の潜像模様ユニット(10)の形状は正方形の例で説明しているが、前述した各ユニット(6a、6b、6c)と同様、第1の潜像模様ユニット(10)の形状についても特に限定はなく、長方形でもよいし、その他の多角形等、どのような形状であってもよい。
【0060】
また、第1の潜像模様ユニット(10)の配置は、
図12(a)に示すように、潜像印刷物(1)の端部から端部まで、第1の潜像模様ユニット(10)が互いに隣接して隙間なく形成されてもよいし、
図12(b)に示すように、第1の潜像模様ユニット(10)間が離間していてもよい。なお、第1の潜像模様ユニット(10)間は隣接しているものが望ましいが、隣接せず離れていても、判別ツール(12)で読み取る際に、必ず潜像模様(4)の少なくとも一部が確認できる範囲の間隔以内であればよい。この場合、判別ツール(12)の性能や解像度によっても異なるが、現在、一般的に使用されているスマートフォン等の解像度を考慮すれば、第1の潜像模様ユニット(10)の寸法の1/2以内の間隔でれば、潜像模様ユニットがどの箇所に配置されていても、必ず潜像模様が何であるかの程度までを確認することが可能になることから、好ましい。ただし、判別ツール(12)の技術の進歩や観察条件等によって、この潜像模様ユニット(10)同士の間隔は異なるため、対象となる判別ツール(12)に合わせて、潜像模様ユニットの間隔は適宜設定すればよい。また、
図12(c)や
図12(d)に示すように、潜像印刷物(1)の縁部分に第1の潜像模様ユニット(10)が形成されなくてもよい。
【0061】
また、第1の潜像模様ユニット(10)の配列については、
図13(a)に示すように、複数の第1の潜像模様ユニット(10)がマトリクス状に隙間なく配置されてもよいし、
図13(b)に示すように、複数の第1の潜像模様ユニット(10)が水平方向にレンガ状に配置してもよく、
図13(c)のように、複数の潜像模様ユニットを垂直方向にレンガ状に配置してもよい。さらに、
図13(d)に示すように、第1の潜像模様ユニット(10)の大きさが異なって隣接されて配置されていてもよい。なお、第1の潜像模様ユニット(10)の形状についても正方形に限定はなく、例えば、長方形や
図13(e)に示したひし形、
図13(f)に示した六角形でも構わない。
【0062】
各ユニット(6a、6b、6c)内に形成される各潜像画線(7a、7b、7c)は、
図14(a)に示すように、第1のユニット(6a)における第1の潜像画線(7a)が、ユニットの一方の角から他方の角まで画線が配置されていてもよいし、
図14(b)に示すように、第1の潜像画線(7a)がユニットの一方の角から他方の角まで配置されていなくてもよい。第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)についても同様である(図示せず)。
【0063】
また、本第1の実施の形態では、第1のユニット(6a)における第1の潜像画線(7a)、第2のユニット(6b)における第2の潜像画線(7b)及び第3のユニット(6c)における第3の潜像画線(7c)を斜め線、横線で形成している。しかしながら各潜像画線(7a、7b、7c)の形状はこれに限定されず、例えば、縦線等、他の任意の線で構成してもよく、あるいは一本の線でなく二本線以上の線で構成してもよい。さらには、各潜像画線(7a、7b、7c)は線には限定されず、例えば「◎」、「〇」、「×」の記号等を用いて形成してもよい。この場合には、判別ツール(12)の情報端末により、それぞれの記号が有する特徴、例えば「◎」は閉図形が2つ、「〇」は閉図形が1つ、「×」は交点を有するという特徴に基づいて読み取ることができる。
【0064】
このようにして、得られた潜像印刷物(1)を判別ツール(12)の情報端末により読み取ると、各ユニット(6a、6b、6c)から各潜像画線(7a、7b、7c)が抽出されるとともに、
図3に示すように、各潜像画線(7a、7b、7c)が任意の色として、例えば、第1の潜像画線(7a)を白色、第2の潜像画線(7b)を黒色、第3の潜像画線(7c)を橙色に変換されると、
図1(b)に示すように、判別ツール(12)の情報端末の画面上に潜像模様(4)として顔模様が視認される。
【0065】
(潜像印刷物の作成方法)
次に、本発明の第1の実施の形態で説明した潜像印刷物(1)の作成方法について、
図15を用いて説明する。第1の実施の形態は、ステップ1として潜像模様データ入力工程と、ステップ2として第1の潜像模様ユニット作成工程と、ステップ3として第2の潜像模様ユニット作成工程と、ステップ4として印刷工程を有する。以下それぞれのステップについて説明する。
【0066】
まず、ステップ1の潜像模様データ入力工程では、潜像印刷物(1)の潜像模様(4)とする潜像模様データ(13)をパーソナルコンピュータなどに入力する。なお、潜像模様データ(13)は、文字、数字、記号、マーク、顔模様、風景等、特に限定されない。
【0067】
次に、ステップ2の第1の潜像模様ユニット作成工程では、
図16のステップ2-1に示すように、ステップ1の潜像模様データ入力工程で得られた潜像模様データ(13)を特色分解で橙色成分模様データ(14)と黒色成分模様データ(15)に分解する。
【0068】
次に、
図16のステップ2-2に示すように、得られた橙色成分模様データ(14)と黒色成分模様データ(15)を解像度60dpiに変換し、更に誤差拡散ディザによって2階調化すると、橙色成分階調模様データ(16)と黒色成分階調模様データ(17)が生成される。なお、ここでは、潜像模様データ(13)を特色分解しているが、特色分解には限定されず、RGB(R=レッド、G=グリーン及びB=ブルー(以下「RGB」という。))色分解やCMY色分解等、任意の複数の色に分解することができる。また、解像度を例として60dpiとしているが、比較的粗い解像度に変換できればよいため、60dpiに限定されない。
【0069】
本実施の形態では、2階調化した橙色成分階調模様データ(71)と黒色成分階調模様データ(72)とを生成するために誤差拡散ディザを用いているが、これは、
図1又は
図2に示すように、印刷物上に形成されている一様な印刷模様(3)とするために望ましい手段として選択したものであり、色成分階調模様データを作成するための二値化処理が出来ればこれに限定はしない。
【0070】
この二値化の処理については、単純二値化とハーフトーニングがあり、更にハーフトーニングについては、ドット集中型ハーフトーニングとドット分散型ハーフトーニングがある。更にドット集中型ハーフトーニングについては、AMスクリーンや特殊形状のスクリーン等があり、またドット分散型ハーフトーニングについては、パターンディザや本発明で用いた誤差拡散ディザ等がある。なお、近年の技術進歩により、ドット集中型ハーフトーニングとドット分散型ハーフトーニングにおいては、ニューラルネットワーク(機械学習)を用いる方法も可能である。どの手段を用いるかは、作成者の用途により適宜選択すればよい。
【0071】
次に、
図16のステップ2-3に示すように、橙色成分階調模様データ(16)と黒色成分階調模様データ(17)にそれぞれ橙色と黒色を着色したものが橙着色データ(18)と黒着色データ(19)となる。また、この橙着色データ(18)と黒着色データ(19)を600dpiに変換し合成したものが疑似カラー模様データ(20)となる。
【0072】
前述では橙着色データ(18)と黒着色データ(19)を600dpiに変換した後に合成しているが、二つのデータを合成した後に600dpiに変換してもよい。また、解像度については、600dpiに限らず、ステップ2-2における解像度より細かい解像度であればよい。
【0073】
なお、ステップ2-2において解像度を一旦60dpiに変換して2階調化を行い、ステップ2-3において再度600dpiに変換する理由は、
図16に示す顔写真のような滑らかな階調表現の潜像模様データ(13)から、
図16に示す疑似カラーデータ(20)のように、画素の粗密が荒い、いわゆるモザイク状の多階調化された模様を得るためである。
【0074】
さらに、ステップ2-4として、疑似カラー模様データ(20)における白色成分模様データに第1のユニット(6a)を適用すると、白色成分潜像画線データ(21a)が生成され、疑似カラー模様データ(20)における黒着色データに第2のユニット(6b)を適用すると、黒色成分潜像画線データ(21b)が生成され、疑似カラー模様データ(20)における橙着色データに第3のユニット(6c)を適用すると、橙色成分潜像画線データ(21c)が生成される。これらの3色の色成分模様データを合成することにより、第1の潜像模様ユニット(10)である第1の模様データ(22)を生成する。
【0075】
本発明は、ステップ2により潜像模様データ(13)を色分解して潜像模様(4)の作成を行うが、実際に得られる潜像印刷物(1)は、各潜像画線(7a、7b、7c)に用いることができる色に限定はなく、いかなる色でも読み取りに影響することなく、再現したい色を潜像模様(4)として表現することができる。
【0076】
ステップ3の第2の潜像模様ユニット作成工程では、
図16に示すように、ステップ2で得られた第1の潜像模様ユニット(10)である第1の模様データ(22)を多面化し、第2の潜像模様ユニット(11)である第2の模様データ(23)を生成する。なお、第1の模様データ(22)の多面化については、特に限定はなく、
図12に示したように、基材(2)に複数形成することができるように作成できればよい。
【0077】
本第1の実施の形態及び後述する第2の実施の形態においては、1つの潜像模様ユニットを形成する工程をステップ2として第1の潜像模様ユニット作成工程、その第1の潜像模様ユニットを複数配置して多面化する工程をステップ3として分けて説明するが、いずれも潜像模様ユニットを作成する工程であることから、特に区分けする必要はなく、本発明では、1つの潜像模様ユニットの作成から複数配置した多面化までが潜像模様ユニット作成工程である。
【0078】
ステップ4では、ステップ3で得られた第2の模様データ(23)を基材(2)に形成する。基材(2)への形成は、印刷により形成する場合には、各種印刷機、各種プリンタのほか、レーザ照射によるレーザ印刷等を用いることができ、また、基材(2)にレーザを照射することでレーザ痕による潜像画線(7)を形成してもよい。このレーザ照射については、基材(2)にレーザ痕を形成可能であれば特に限定はなく、例えば、一般的なYAGレーザを用いることができる。以上が、第1の実施の形態に関する説明である。
【0079】
(第2の実施の形態)
続いて、本発明の第2の実施の形態による潜像印刷物(1)について説明する。第2の実施の形態における潜像印刷物(1)は、目視で確認すると
図17(a)に示すように、可視光下では潜像模様(4)を視認することはできず、可視模様(5)が表されているが、判別ツール(12)を使用することにより、潜像模様(4)が可視化される印刷物である。なお、第2の実施の形態についても、第1の潜像模様ユニット(10)には、潜像模様(4)を形成するための潜像要素(26)を潜像画線(7)で形成し、その潜像画線(7)を備えたユニット(6)が複数配置されたものとして以下説明する。したがって、第1の実施の形態と同じ内容については説明を省略する。
【0080】
(可視模様)
第2の実施の形態において、潜像印刷物(1)で表される可視模様(5)は、鳳凰の例を示しているが、可視模様(5)は、文字、数字、記号、マーク、顔模様、風景等、特に限定されない。
【0081】
(可視領域)
図17(a)に示すとおり、潜像印刷物(1)は、鳳凰の可視模様(5)が印刷で形成されている。
図17(b)の拡大図(円囲い)に示すように、可視模様(5)は、前述した第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)から成る。さらに各ユニットは、
図18(a)から(c)に示すように、ユニット内の可視模様(5)を表現する第1の可視領域(8a)、第2の可視領域(8b)及び第3の可視領域(8c)により階調表現される。この各ユニット(6a、6b、6c)における各可視領域(8a、8b、8c)は、各潜像画線(7a、7b、7c)の下側に画線面積が広がる構成となっているのが特徴である。
【0082】
これによって連続階調を伴う可視模様(5)の付与と、判別ツール(12)である情報端末による読み取り効率を高めている。具体的には、情報端末により潜像印刷物(1)の各潜像画線(7a、7b、7c)のみを読み取り、各可視領域(8a、8b、8c)を対象外とすることで、潜像模様(4)が可視化され画面に表示される。なお、情報端末による潜像模様(4)の検出方法については、各潜像画線(7a、7b、7c)を抽出し、可視化することができれば、特に限定されない。
【0083】
潜像印刷物(1)に形成される可視模様(5)は、
図19に示すように、表現したい可視模様(5)の階調濃度に対応して、第1のユニット(6a)の第1の可視領域(8a)、第2のユニット(6b)の第2の可視領域及び第3のユニット(6c)の第3の可視領域(8c)内の面積率を変化して形成されることにより、連続階調を有する可視模様(5)が形成される。
【0084】
例えば、
図20(a)に示すように、可視模様テンプレートの濃度が0%の場合、第1のユニット(6a)の第1の可視領域(8a)、第2のユニット(6b)の第2の可視領域及び第3のユニット(6c)の第3の可視領域(8c)に、各可視要素(9a、9b、9c)は生成されない。あるいは、トーンカーブで濃度10%に変換され、ユニット内に10%に相当する潜像要素の各潜像画線(7a、7b、7c)のみが形成されるようにする。
【0085】
また、
図20(c)に示すように、可視模様テンプレートの濃度が50%の場合、トーンカーブで濃度24%に変換され、第1のユニット(6a)の第1の可視領域(8a)、第2のユニット(6b)の第2の可視領域及び第3のユニット(6c)の第3の可視領域(8c)に、10%に相当する各潜像画線(7a、7b、7c)に加えて、14%に相当する可視要素が、各可視要素(9a、9b、9c)として形成される。
【0086】
また、
図20(e)に示すように、可視模様テンプレートの濃度が100%の場合、トーンカーブで濃度38%に変換され、第1のユニット(6a)の第1の可視領域(8a)、第2のユニット(6b)の第2の可視領域及び第3のユニット(6c)の第3の可視領域(8c)に、10%に相当する各潜像画線(7a、7b、7c)に加えて、28%に相当する可視要素が、各可視要素(9a、9b、9c)として形成される。
【0087】
前述では、トーンカーブによる濃度変換を行い、可視要素(9)を形成する例で説明したが、可視模様テンプレートの濃度に応じて、第1の可視領域(8a)に第1の可視要素(9a)を、第2の可視領域(8b)に第2の可視要素(9b)を、第3の可視領域(8c)に第3の可視要素(9c)をそれぞれ形成することができれば、特に限定はない。
【0088】
また、前述では、ユニットの下辺に向けて各可視領域(8a、8b、8c)が大きくなるようにすることで、可視模様(5)を綺麗に形成することができるが、各ユニット(6a、6b、6c)における各可視領域(8a、8b、8c)の形状に特に限定はない。
【0089】
また、前述では、可視模様テンプレートの濃度の増加に伴い、各潜像画線(7a、7b、7c)を境にして、ユニットの下辺に向けて各可視要素(9a、9b、9c)が広がる例で説明したが、これに限定されず、各潜像画線(7a、7b、7c)を境にしてユニットの上辺に向けて各可視要素(9a、9b、9c)が形成されてもよいし、また各潜像画線(7a、7b、7c)を境にしてユニットの上辺及び下辺に向けて各可視要素(9a、9b、9c)が形成されてもよい。
【0090】
さらに、前述では、第1の可視要素(9a)、第2の可視要素(9b)及び第3の可視要素(9c)は、各潜像画線(7a、7b、7c)と接している例で説明したが、各潜像画線(7a、7b、7c)と各可視要素(9a、9b、9c)がユニット寸法の半分以上離れていなければ、ユニットは問題なく読み取ることができる。
【0091】
このように、第1のユニット(6a)の第1の可視領域(8a)、第2のユニット(6b)の第2の可視領域(8b)及び第3のユニット(6c)の第3の可視領域(8c)において、面積率の異なる第1の可視要素(9a)、第2の可視要素(9b)及び第3の可視要素(9c)がそれぞれ形成されることで、階調を有する可視模様(5)を形成することができる。
【0092】
図21(a)は、第2の実施の形態の潜像印刷物(1)が緑色で印刷されたものであり、
図21(b)は、第2の実施の形態の潜像印刷物(1)が黒色で印刷されたものであり、
図21(c)は、第2の実施の形態の潜像印刷物(1)が紫色で印刷されたものであり、それぞれにおいて、第1のユニット(6a)の第1の潜像画線(7a)と第1の可視要素(9a)、第2のユニット(6b)の第2の潜像画線(7b)と第2の可視要素(9b)及び第3のユニット(6c)の第3の潜像画線(7c)と第3の可視要素(9c)の色が同じであることが望ましい。各潜像画線(7a、7b、7c)と各可視要素(9a、9b、9c)の色が同じである場合、潜像模様(4)の隠蔽性を高めることができる。しかしながら、各潜像画線(7a、7b、7c)と各可視要素(9a、9b、9c)の色がそれぞれ異なっていても、潜像印刷物(1)に潜像模様(4)が視認されないよう構成できればよい。
【0093】
また、前述した第2の実施の形態において、
図21(a)から(c)には、それぞれ緑色、黒色及び紫色により潜像印刷物(1)を形成した例で説明したが、本発明は、判別ツール(12)により読み取りが可能な程度の明度を有していれば、特に色の限定はない。
【0094】
このようにして、得られた潜像印刷物(1)は、目視では可視模様(5)が視認されるが、判別ツール(12)の情報端末により読み取ると、第1のユニット(6a)から第1の潜像画線(7a)が、第2のユニット(6b)から第2の潜像画線(7b)が、更に第3のユニット(6c)から第3の潜像画線(7c)が抽出されるとともに、前述のとおり、情報端末の画面上に潜像模様(4)として顔模様が視認される。
【0095】
次に本発明の第2の実施の形態で説明した可視模様(5)を有する潜像印刷物(1)の作成方法について、
図15、
図16及び
図22を用いて説明する。なお、本第2の実施の形態の作成方法は、第1の実施の形態の作成方法にステップ1’として可視模様データ入力工程が加わったものであり、第1の実施の形態と同じ内容については説明を省略する。
【0096】
図15に示すステップ1’の可視模様データ入力工程では、潜像印刷物(1)の可視模様(5)とする可視模様データ(13)をパーソナルコンピュータなどに入力する。例えば、
図22のステップ1’に示すように、階調濃度を有する鳳凰の可視模様データ(24)をパーソナルコンピュータなどに入力する。なお、例として鳳凰の可視模様データ(24)を用いているが、可視模様データ(24)は、文字、数字、記号、マーク、顔模様、風景等、特に限定されない。
【0097】
図22に示すように、ステップ1’で入力された可視模様データ(24)は、可視模様データ(24)が有する階調濃度に応じて、第1の実施の形態で得られた第2の潜像模様ユニット(11)である第2の模様データ(23)における第1の可視領域(8a)、第2の可視領域(8b)及び第3の可視領域(8c)に着色する。
【0098】
例えば、
図23に示すように、可視模様データ(24)の階調濃度0%に位置する第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)では、各可視領域(8a、8b、8c)にそれぞれ各可視要素(9a、9b、9c)は形成されない。
【0099】
また、可視模様データ(24)の階調濃度50%に位置する第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)では、各可視領域(8a、8b、8c)に50%の面積率を有する各可視要素(9a、9b、9c)がそれぞれ形成される。
【0100】
また、可視模様データ(24)の最も高い階調濃度100%に位置する第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)及び第3のユニット(6c)では、各可視領域(8a、8b、8c)に100%の面積率を有する各可視要素(9a、9b、9c)がそれぞれ形成される。
【0101】
このようにして、
図22及び
図23に示すように、第1の潜像画線(7a)、第2の潜像画線(7b)及び第3の潜像画線(7c)に加えて、それぞれの第1の可視領域(8a)、第2の可視領域(8b)及び第3の可視領域(8c)に、階調濃度に応じた面積率を有する第1の可視要素(9a)、第2の可視要素(9b)及び第3の可視要素(9c)がそれぞれ形成された第1のユニット(6a)、第2のユニット(6b)、第3のユニット(6c)による第1の潜像模様ユニット(10)から成る第1の模様データ(22)を生成する。なお、その他のステップについては、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。以上が、第2の実施の形態に関する説明である。
【0102】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態による潜像印刷物(1)について作成方法を含めて説明する。なお、第3の実施の形態においては、潜像模様ユニット(10)を構成する潜像要素(26)を網点で形成するものとして以下説明するが、網点に限定されるものではなく、画素、画線であってもよい。前述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態で説明した内容と重複するところは省略する。
【0103】
第3の実施の形態における潜像印刷物(1)は、目視で確認すると、
図24に示すように、可視模様(5)を形成するための可視領域を、CMYで形成した可視模様(5)の鳳凰が表されているが、前述した第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様、
図25(a)に示すように、潜像印刷物(1)は、複数の潜像模様ユニット(10)(
図25では9個)から構成されているため、可視模様(5)内には、
図25(b)に示すように、複数の潜像模様(4)が形成されている。
【0104】
図24の潜像模様ユニット(10)の拡大図に示すように、潜像模様ユニット(10)は、ユニット(6)が規則的に複数配置されている。この潜像模様(4)を形成するための不可視領域をKインキで形成することで、
図25(c)に示すように、Kインキに含まれるカーボンを赤外線吸収の機能を搭載したカメラ等により読み取り、潜像模様(4)を確認することができる。可視模様(5)は、表現したい可視模様(5)の階調濃度に対応した可視領域内の面積率を変化して形成されることにより、連続階調を有する可視模様(5)が形成される。
【0105】
この第3の実施の形態における潜像印刷物(1)の作成方法について、
図24から
図28を用いて説明する。
【0106】
本第3の実施の形態における潜像印刷物(1)の作成方法は、
図26のフロー図に示すように、ステップ1として潜像模様データ入力工程、ステップ2として潜像模様ユニット作成工程、ステップ3として印刷工程を有する。また、ステップ3にはステップ1’の可視模様の作成工程が入る。以下、それぞれのステップについて説明する。
【0107】
まず、ステップ1の潜像模様データ入力工程では、潜像印刷物(1)の潜像模様(4)となる潜像模様データ(13)を、パーソナルコンピュータなどに入力する。なお、潜像模様データ(13)は、文字、数字、記号、マーク、顔模様、風景等、特に限定されない。
【0108】
次に、ステップ2の潜像模様ユニット作成工程では、
図27のステップ2-1に示すように、ステップ1の潜像模様データ入力工程で得られた潜像模様データ(13)をグレースケールに変換する。
【0109】
次に、
図27のステップ2-2に示すように、ステップ2-1で得られたグレースケール模様データ(28)を不可視領域に適用する。この時、
図28(b-1)に示すように、ポジ模様データからの生成は、不可視領域のK(潜像要素(26)に該当)にあたる部分へ適用され、ネガ模様データからの生成は、不可視領域のCMYにあたる相殺模様部分へ適用される。これにより、潜像模様ユニット(10)である第1の模様データ(22)を生成する。なお、本発明におけるCMYの相殺模様というのは、潜像模様を表す不可視領域のKをカモフラージュし、潜像が付与されている事を目立ちにくくする部分の模様のことをいう。
【0110】
次に、ステップ2で得られた潜像模様ユニット(10)である第1の模様データ(22)から、
図27のステップ2-3に示すように、複数配置して多面化した第2の模様データ(23)が生成される。
【0111】
次に、可視模様(5)を付与するステップ1’の可視模様データ入力工程について説明する。まず、潜像印刷物(1)の可視模様(5)とする可視模様データ(24)をパーソナルコンピュータなどに入力する。なお、可視模様データ(24)は、文字、数字、記号、マーク、顔模様、風景等、特に限定されない。
【0112】
図26のステップ1’及び
図28(b-2)に示すように、ステップ1’で入力された可視模様データ(24)は、可視模様データ(24)が有する階調濃度に応じて可視領域のCMY(可視要素(9)に該当)にあたる部分へ適用される。
【0113】
図26のステップ1からステップ3及び
図27に示すように、潜像模様ユニット(10)を複数配置して多面化した第2の模様データ(23)に対して、全ての潜像模様ユニット(10)の可視領域を用いて可視模様データ(24)の階調濃度に応じた色成分を適用し、可視模様が形成された第2の模様データ(23)が生成できる。
【0114】
このようにして作成された潜像印刷物(1)は、可視模様(5)のどの箇所を赤外線吸収の機能を搭載したカメラ等で撮像しても、潜像模様(4)を確認することが可能となることが、本発明の特徴点である。
【0115】
(第4の実施の形態)
次に、本発明の第4の実施の形態による潜像印刷物(1)について、前述の第3の実施の形態で説明した作成フローの
図26と、新たに
図29から
図33を用いて作成方法を含めて説明する。なお、前述した第1の実施の形態から第3の実施の形態で説明した内容と重複するところは省略する。
【0116】
第4の実施の形態における潜像印刷物(1)は、目視で確認すると、
図29に示すように、可視模様(5)の鳳凰が表されているが、前述した第1の実施の形態から第3の実施の形態と同様、潜像印刷物(1)は複数の潜像模様ユニット(10)(
図30(a)では9個)から構成されているため、可視模様(5)内には、
図30(b)に示すように、複数の潜像模様(4)が形成されている。この潜像印刷物(1)は、
図29の一部拡大図に示したように、可視要素(9)及び潜像要素(26)が配置されたユニット(6)が規則的に複数配置されて成り、この潜像印刷物(1)の読み取りには、
図30(c)に示すようなレンチキュラーレンズ等の判別ツール(12)を使用し、レンチキュラーレンズにより潜像領域と相殺領域を異なる配置を指定して生成することで、潜像模様を読み取ることができる。
【0117】
潜像印刷物(1)を構成している複数の潜像模様ユニット(10)の一つを拡大した
図29の一部拡大図に示すように、一つの潜像模様ユニット(10)は、更に複数のユニット(6)が配置されて成る。このユニット(6)には、潜像模様(4)を構成するための不可視領域(A、A’)と、可視模様(5)を構成するための可視領域(C)が配置されて成る。
【0118】
不可視領域(A、A’)については、ユニット(6)の拡大図に示すように、中心を境に左右対称に配置されている二つの不可視領域(A)、中心を境に上下対称に配置されている二つの不可視領域(A’)は、それぞれが対を成しており、相互にオンオフの関係にある。このオンオフの関係とは、例えば、一方が黒(オン)のときは他方は白(オフ)、一方が有着色のときは他方が無着色であるという、基本的には双方ともに黒又は双方ともに白であることがないということである。
【0119】
そして、不可視領域(A)と不可視領域(A’)とは、面積が同一である。このような不可視領域(A、A’)が存在することで通常の可視条件下では視認されず、不可視領域(A)のみにより潜像模様(4)(ネガ又はポジ)、不可視領域(A’)のみにより潜像模様(4)(ポジ又はネガ)がそれぞれ形成されている。なお、本発明でいう面積が同一とは、画線面積率が略同一であるものを含むものである。
【0120】
不可視領域(A、A’)には、
図29の潜像模様ユニット(10)の拡大図に示すように、潜像模様(4)を形成するための潜像要素(26)が配置されて成り、可視領域(C)には、可視模様(5)を形成するための可視要素(9)が配置さて成る。なお、潜像模様(4)及び可視模様(5)は、表現したい潜像模様(4)及び可視模様(5)の階調濃度に対応した可視領域及び不可視領域内の面積率を変化して形成されることにより、連続階調を有する潜像模様(4)及び可視模様(5)が形成される。
【0121】
本発明の第4の実施形態における潜像印刷物(1)の作成方法は、
図26に示すように、ステップ1として潜像模様データ入力工程と、ステップ2として潜像模様ユニット作成工程と、ステップ3として印刷工程を有する。また、ステップ3にはステップ1’の可視模様の作成工程が入る。以下、それぞれのステップについて説明する。
【0122】
まずステップ1の潜像模様データ入力工程では、潜像印刷物(1)の潜像模様(4)とする潜像模様データ(13)を、パーソナルコンピュータなどに入力する。なお、潜像模様データ(13)は、文字、数字、記号、マーク、顔模様、風景等、特に限定されない。
【0123】
次のステップ2の潜像模様ユニット作成工程では、
図31のステップ2-1に示すように、ステップ1の潜像模様データ入力工程で得られたRGBの潜像模様データ(13)を色分解し、CMY及びKに変換することで各CMYのチャンネルを作成する。これをステップ2-2において、ステップ2-1で得られた各色成分データをネガ模様データとポジ模様データに変換する。
【0124】
次に、
図31のステップ2-3に示すように、ステップ2-2で得られた各CMYのチャンネルのネガ模様データ及びポジ模様データを、
図32の不可視領域(A)及び不可視領域(A’)に適用する。この時、
図32に示すように、ポジ模様データからの生成は不可視領域Aへ適用され、ネガ模様データからの生成は不可視領域(A’)にあたる相殺模様部分へ適用される。不可視領域(A、A’)に適用された各CMYのチャンネルのネガ模様データ及びポジ模様データを各色それぞれ合成し、更にこれらの各チャンネルの模様データを合成することで、潜像模様ユニット(10)である第1の模様データ(22)を生成する。また、
図33に示すように、この不可視領域(A)と不可視領域(A’)については、潜像模様データ(13)の有する階調濃度によって画線面積率を一定に保ち生成する。
【0125】
次に、
図31のステップ2-4に示すように、ステップ2-3で得られた合成された第1の模様データ(22)を複数配置して多面化した第2の模様データ(23)を生成する。
【0126】
次に、ステップ2-4で得られた第2の模様データ(23)において、可視模様(5)を付与するステップ1’の可視模様データ入力工程について説明する。
【0127】
まず、潜像印刷物(1)の可視模様(5)とする可視模様データ(24)をパーソナルコンピュータなどに入力する。なお、可視模様データ(24)は、文字、数字、記号、マーク、顔模様、風景等、特に限定されない。
【0128】
次に、
図31に示すように、ステップ1’で入力された可視模様データ(24)は、可視模様データ(24)が有する階調濃度に応じて、ステップ2-4で得られた多面化した第2の模様データ(23)の全ての潜像模様ユニット(10)の可視領域(C)(
図32参照)へ適用される。このようにして、
図26のステップ1からステップ3及び
図31に示すように、不可視領域(A、A’)を持つ潜像模様ユニット(10)が多面化された第2の模様データ(23)の全ての潜像模様ユニットに、可視模様データ(24)の階調濃度に応じた色成分を適用し、可視模様が形成された第2の模様データ(23)を生成する。
【0129】
このようにして作成された潜像印刷物(1)は、可視模様(5)のどの箇所をレンチキュラーレンズ等の判別ツールで確認しても、潜像模様(4)を確認することが可能となることが、本発明の特徴点である。
【符号の説明】
【0130】
1 潜像印刷物
2 基材
3 印刷模様
4 潜像模様
5 可視模様
6 ユニット
6a 第1のユニット
6b 第2のユニット
6c 第3のユニット
7 潜像画線
7a 第1の潜像画線
7b 第2の潜像画線
7c 第3の潜像画線
8 可視領域
8a 第1の可視領域
8b 第2の可視領域
8c 第3の可視領域
9 可視要素
9a 第1の可視要素
9b 第2の可視要素
9c 第3の可視要素
10 第1の潜像模様ユニット
11 第2の潜像模様ユニット
12 判別ツール
13 潜像模様データ
14 橙色成分模様データ
15 黒色成分模様データ
16 橙色成分階調模様データ
17 黒色成分階調模様データ
18 橙着色データ
19 黒着色データ
20、21a、21b、21c 疑似カラー模様データ
22 第1の模様データ
23 第2の模様データ
24 可視模様データ
26 潜像要素
28 グレースケール模様データ