IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 丸善製薬株式会社の特許一覧

特開2024-175748バリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175748
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】バリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/63 20060101AFI20241212BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20241212BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K8/63
A61K31/19
A61Q19/00
A61K36/48
A61P17/00
A61P1/04
A61P17/16
A61P37/08
A61K31/704
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093716
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132207
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】河本 美幸
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AD531
4C083AD532
4C083EE12
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZA89
4C086ZB13
4C088AB60
4C088BA08
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA66
4C088ZA89
4C088ZB13
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA14
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA66
4C206ZA89
4C206ZB13
(57)【要約】
【課題】安全性の高い天然物の中からバリア機能亢進作用又は経上皮電気抵抗上昇作用を有する物質を見出し、それを有効成分とするバリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤を提供する。
【解決手段】バリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤は、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、並びに甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするバリア機能亢進剤。
【請求項2】
前記グリチルリチン酸の誘導体が、グリチルリチン酸ジカリウムであることを特徴とする請求項1に記載のバリア機能亢進剤。
【請求項3】
ヒスタミン刺激により生じる皮膚バリア機能障害を改善する作用を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のバリア機能亢進剤。
【請求項4】
グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、並びに甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする経上皮電気抵抗上昇作用剤。
【請求項5】
前記グリチルリチン酸の誘導体が、グリチルリチン酸ジカリウムであることを特徴とする請求項4に記載の経上皮電気抵抗上昇作用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体においてその内外を隔てる構造の一つに、上皮細胞から構成される上皮組織がある。上皮組織は、物質透過を制御するバリア機能を有しており、これにより生体において外界とは異なる内部環境を作り上げている。このようなバリア機能は、主に細胞間の接着により形成されるが、かかる接着の一つがタイトジャンクション(以下「TJ」という場合がある。)である。TJは、隣接する上皮細胞同士を密着させるだけでなく、細胞と細胞との隙間をシールすることで物質の透過を制御する細胞間接着構造である。TJを構成しているクローディンやオクルディン、ZO-1やZO-2等のタンパク質は、TJストランドの骨格を構成し、TJのバリア機能を制御すると考えられている(非特許文献1参照)。これらのタンパク質の発現の減少によりTJの機能低下が引き起こされると、例えば、消化管においては、食物アレルゲンや病原性微生物等が体内へ侵入してしまい、炎症性腸疾患や各種感染症等の一因になると考えられる。また、皮膚におけるTJの機能低下が引き起こされると、乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎や各種感染症等の皮膚症状の一因になると考えられる。
【0003】
肥満細胞内のヒスタミンが細胞外に遊離すると、遊離されたヒスタミンが炎症反応を引き起こし、アレルギー性疾患や炎症性疾患が増悪する。近年、ヒスタミンが表皮ケラチノサイト分化を抑制し、皮膚におけるバリア機能の障害に寄与するとのメカニズムが知られている(非特許文献2参照)。したがって、ヒスタミン刺激に起因して生じる皮膚バリア機能の障害の改善により、上皮組織におけるバリア機能を強化し、消化管においては炎症性腸疾患や食物アレルギー、各種感染症等を予防又は改善することができ、一方表皮においては乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎や各種感染症等の皮膚症状を予防又は改善することができると考えられる。
【0004】
上皮細胞では、TJによって管腔側と基底膜側との間でイオンの透過が制限されるため、経上皮電気抵抗(Trans-epithelial electric resistance,TER)が生じる。そのため、上皮細胞におけるバリア機能に障害が生じると、TERも低下する。よって、TERを上昇させることで、バリア機能を回復することができ、バリア機能の低下に起因する疾患を予防又は改善することができると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本香粧品科学会誌,2007年,vol.31,pp.296-301
【非特許文献2】Gschwandtner M et al.,Allergy,2013年1月,vol.68(1),pp.37-47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全性の高い天然物の中からバリア機能亢進作用又は経上皮電気抵抗上昇作用を有する物質を見出し、それを有効成分とするバリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のバリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤は、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、並びに甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。上記グリチルリチン酸の誘導体としては、グリチルリチン酸ジカリウムであればよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れたバリア機能亢進作用又は経上皮電気抵抗上昇作用を有し、安全性の高いバリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態に係るバリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤は、いずれも、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。
【0010】
グリチルリチン酸誘導体は、例えば、グリチルリチン酸(C426216)とアルカリとを反応させることにより得ることができる。グリチルリチン酸誘導体としては、例えば、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等が挙げられ、グリチルリチン酸ジカリウムが好適に用いられ得る。
【0011】
グリチルリチン酸ジカリウムは、グリチルリチン酸と水酸化カリウム(KOH)等とを反応させることにより得ることができ、グリチルリチン酸(C426216)は、グリチルリチン酸を含有する植物抽出物から単離・精製することにより得ることができる。なお、グリチルリチン酸を含有する植物抽出物には、グリチルリチン酸を含有する植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0012】
グリチルレチン酸誘導体は、公知の方法により合成され得る。グリチルレチン酸誘導体としては、例えば、グリチルレチン酸ステアリル、サクシニルグリチルレチン酸2Na、ステアリン酸グリチルレチニル等が挙げられる。例えば、グリチルレチン酸ステアリルは、グリチルリチン酸を含有する植物抽出物から単離・精製することにより得られるグリチルリチン酸を、酸(塩酸、硫酸等)の水溶液を用いた加水分解によりグリチルレチン酸(C3046)を得て、当該グリチルレチン酸とステアリルアルコールとのエステル化反応により合成され得る。
【0013】
グリチルリチン酸を含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。グリチルリチン酸を含有する植物としては、例えば、甘草等が挙げられる。
【0014】
甘草は、マメ科カンゾウ属に属する多年生草本である。当該甘草としては、例えば、グリチルリーザ・グラブラ(Glychyrrhiza glabra)、グリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)、グリチルリーザ・ウラレンシス(Glychyrrhiza uralensis)、グリチルリーザ・アスペラ(Glychyrrhiza aspera)、グリチルリーザ・ユーリカルパ(Glychyrrhiza eurycarpa)、グリチルリーザ・パリディフロラ(Glychyrrhiza pallidiflora)、グリチルリーザ・ユンナネンシス(Glychyrrhiza yunnanensis)、グリチルリーザ・レピドタ(Glychyrrhiza lepidota)、グリチルリーザ・エキナタ(Glychyrrhiza echinata)、グリチルリーザ・アカンソカルパ(Glychyrrhiza acanthocarpa)等の種が存在する。これらのうち、いずれの種類の甘草を抽出原料として使用してもよいが、特にグリチルリーザ・グラブラ(Glychyrrhiza glabra)を抽出原料として使用することが好ましい。
【0015】
抽出原料として使用し得る甘草の構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、花部等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根部である。
【0016】
グリチルリチン酸を含有する植物抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0017】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0018】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0019】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0020】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1~90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1~40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10~90容量部を混合することが好ましい。
【0021】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0022】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物からグリチルリチン酸を単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、植物抽出物を、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、水、アルコールの順で溶出させ、アルコールで溶出される画分としてグリチルリチン酸を得ることができる。
【0023】
カラムクロマトグラフィーにて溶出液として使用し得るアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール又はそれらの水溶液等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0024】
さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られたアルコール画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液-液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0025】
このようにして得られるグリチルリチン酸を、常法により水酸化カリウム(KOH)等のアルカリと反応させることで、グリチルリチン酸ジカリウム等のグリチルリチン酸誘導体を得ることができる。
【0026】
また、当該グリチルリチン酸を、常法により酸(塩酸、硫酸等)の水溶液を用いて加水分解することでグリチルレチン酸を得て、当該グリチルレチン酸とステアリルアルコールとをエステル化反応させることで、グリチルレチン酸ステアリル等のグリチルレチン酸誘導体を得ることができる。
【0027】
以上のようにして得られるグリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物は、後述する実施例からも明らかなように、バリア機能亢進作用、経上皮電気抵抗上昇作用を有しており、特にヒスタミン刺激によるバリア機能障害を改善する作用を有しているため、それらの作用を利用してバリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤の有効成分として使用することができる。
【0028】
本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤は、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種のみからなるものであってもよいし、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種を製剤化したものであってもよい。
【0029】
グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0030】
なお、本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤は、必要に応じて、バリア機能亢進作用又は経上皮電気抵抗上昇作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。
【0031】
本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤の投与方法としては、一般に経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0032】
本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤は、有効成分であるグリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種が有するバリア機能亢進作用又は経上皮電気抵抗上昇作用を通じて、上皮組織におけるバリア機能を亢進し、炎症性腸疾患や食物アレルギー、消化管から感染する各種感染症等;乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎、敏感肌、皮膚老化症状、乾癬、ざ瘡(化膿性汗腺炎を含む)、火傷、おむつかぶれ、ネザートン症候群、日光角化症、皮膚真菌症、皮膚症、外胚葉異形成症、接触性皮膚炎、皮膚炎、脂漏性皮膚炎、尋常性魚鱗癬、口腔・呼吸器からの感染症等の皮膚症状や各種感染症;アレルギー性鼻炎、喘息、過敏性腸症候群、全身性自己免疫疾患(関節リウマチ、エリテマトーデス等)、アレルギー(食物アレルギー、花粉症等)、生活習慣病(肥満、1型又は2型糖尿病、高血圧、高脂血症、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、動脈硬化等)等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤は、これらの用途以外にもバリア機能亢進作用又は経上皮電気抵抗上昇作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0033】
また、本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤は、優れたバリア機能亢進作用又は経上皮電気抵抗上昇作用を有するため、例えば、皮膚外用剤又は経口組成物に配合するのに好適である。この場合に、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種をそのまま配合してもよいし、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種から製剤化したバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤を配合してもよい。
【0034】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0035】
皮膚外用剤におけるグリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種の配合量は、皮膚外用剤の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、0.0001~10質量%であり、特に好適な配合率は、0.001~1質量%である。
【0036】
経口組成物とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「経口組成物」は、経口的に摂取される一般食品、飼料、健康食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。本実施形態における経口組成物は、当該経口組成物又はその包装に、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種が有する好ましい作用を表示することのできる経口組成物であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、医薬部外品又は医薬品であることが特に好ましい。
【0037】
経口組成物におけるグリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種の配合量は、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜変更することができるが、添加対象となる経口組成物の一般的な摂取量を考慮して、成人1日あたりの抽出物摂取量が約1~1000mgになるようにするのが好ましい。なお、添加対象経口組成物が顆粒状、錠剤状又はカプセル状の場合、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸誘導体、及び甘草抽出物からなる群より選択される少なくとも1種の添加量は、添加対象経口組成物に対して通常0.0001~10質量%であり、好ましくは0.001~1質量% である。
【0038】
また、本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤は、優れたバリア機能亢進作用又は経上皮電気抵抗上昇作用、特にヒスタミン刺激によるバリア機能障害を改善する作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0039】
なお、本実施形態のバリア機能亢進剤又は経上皮電気抵抗上昇作用剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例0040】
以下、試験例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。なお、下記の試験例においては、被験試料としてグリチルリチン酸ジカリウム(丸善製薬社製)を使用した。
【0041】
〔試験例1〕皮膚バリア機能亢進作用試験(電気抵抗値TER測定及びFITC-Dexによる透過性評価)
ヒト正常新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を、ヒト正常新生児表皮角化細胞用培地(KGM)を用いて培養した後、トリプシン処理により回収した。回収した細胞を2.2×10cells/mLの細胞密度になるようにKGMで希釈した後、12wellトランズウェル(Corning社製、直径12mm、0.4μmポア)の上層に1well当たり0.5mLずつ播種し、さらに下層に1.5mLずつKGMを加え3日間培養した。培養終了後、1.5mmol/LのCaClを含むKGMにて溶解した被験試料(試料濃度は表1を参照)を各wellの上層に0.5mLずつ添加し、1.5mmol/LのCaCl含有KGMを各wellの下層に1.5mLずつ加え、4日間培養してタイトジャンクション形成を誘導した。被験試料添加時、並びに被験試料添加から24時間後、48時間後、72時間後及び96時間後の各時点でMillicell-ERS抵抗値測定システム(ミリポア社製)を用いて電気抵抗値(TER)を測定し、下記式により、コントロールと比較した被験試料のバリア形成促進率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0042】
バリア形成促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「被験試料添加時のTER」を、Bは「被験試料無添加時のTER」を表す。
【0043】
また、TER測定後、PBS(-)で上下層を洗浄し、HBSS(-)で1mg/mLとなるように溶解したFITC-Dextran 4000-conjugate(FITC-Dex,Sigma社製)を上層に0.5mL、HBSS(-)を下層に1mL添加して、37℃で90分間培養した。培養終了後、各下層から200μLずつ採取して、励起波長485nm、蛍光波長545nmにおける蛍光強度を測定し、検量線を基に上層から下層に透過したFITC-Dex量を求め、下記式によりコントロールと比較した被験試料の透過抑制率(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0044】
透過抑制率(%)=(1-A/B)×100
式中、Aは「被験試料添加時の透過量」を、Bは「被験試料無添加時の透過量」を表す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1及び表2に示すように、グリチルリチン酸ジカリウムは、優れた皮膚バリア機能亢進作用及び経上皮電気抵抗上昇作用を有することが確認された。
【0048】
[試験例2]ヒスタミン刺激による皮膚バリア機能亢進作用試験(電気抵抗値TER測定及びFITC-Dexによる透過性評価)
ヒト正常新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を、ヒト正常新生児表皮角化細胞用培地(KGM)を用いて培養した後、トリプシン処理により回収した。回収した細胞を2.2×10cells/mLの細胞密度になるようにKGMで希釈した後、12wellトランズウェル(Corning社製、直径12mm、0.4μmポア)の上層に1well当たり0.5mLずつ播種し、さらに下層に1.5mLずつKGMを加え3日間培養した。培養終了後、1000μmol/Lのヒスタミン及び1.5mmol/LのCaClを含むKGMにて溶解した被験試料(試料濃度は表3を参照)を各wellの上層に0.5mLずつ添加し、1000μmol/Lのヒスタミン及び1.5mmol/LのCaClを含むKGMを各wellの下層に1.5mLずつ加え、4日間培養してタイトジャンクション形成を誘導した。被験試料添加時、並びに被験試料添加から24時間後、48時間後、72時間後及び96時間後の各時点でMillicell-ERS抵抗値測定システム(ミリポア社製)を用いて電気抵抗値(TER)を測定し、下記式により、コントロールと比較した被験試料のバリア形成促進率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0049】
バリア形成促進率(%)=A/B×100
式中、Aは「被験試料添加時のTER」を、Bは「被験試料無添加時のTER」を表す。
【0050】
また、TER測定後、PBS(-)で上下層を洗浄し、HBSS(-)で1mg/mLとなるように溶解したFITC-Dextran 4000-conjugate(FITC-Dex,Sigma社製)を上層に0.5mL、HBSS(-)を下層に1mL添加して、37℃で90分間培養した。培養終了後、各下層から200μLずつ採取して、励起波長485nm、蛍光波長545nmにおける蛍光強度を測定し、検量線を基に上層から下層に透過したFITC-Dex量を求め、下記式によりコントロールと比較した被験試料の透過抑制率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0051】
透過抑制率(%)=(1-A/B)×100
式中、Aは「被験試料添加時の透過量」を、Bは「被験試料無添加時の透過量」を表す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表3及び表4に示すように、グリチルリチン酸ジカリウムは、ヒスタミン刺激による皮膚バリア機能障害を改善する作用に優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本実施形態に係るバリア機能亢進剤及び経上皮電気抵抗上昇作用剤は、上皮組織におけるバリア機能の亢進(炎症性腸疾患や食物アレルギー、消化管から感染する各種感染症等の予防、治療または改善;乾燥肌、荒れ肌、アトピー性皮膚炎等の皮膚症状や各種感染症等の予防、治療又は改善等)に大きく貢献することができる。