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特開2024-175837コンテナターミナルの保全管理システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175837
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】コンテナターミナルの保全管理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/0631 20230101AFI20241212BHJP
   G06Q 10/087 20230101ALI20241212BHJP
   G06Q 10/20 20230101ALI20241212BHJP
【FI】
G06Q10/0631
G06Q10/087
G06Q10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093877
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 輝行
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA09
5L010AA16
5L049AA09
5L049AA16
(57)【要約】
【課題】コンテナターミナルにおける保全の優位性を事前に把握できるコンテナターミナルの保全管理システムおよび方法を提供する。
【解決手段】各設備3の稼働状況とコンテナ2の入出庫数とを含むコンテナターミナル1の運用状況とコンテナターミナル1での損益との関係を予め取得しておき、保全管理システム10の演算処理部12により、保全計画データD1と入出庫計画データD2と予め取得しておいた関係とに基づいてそれぞれを予定どおりに実施した状況での損益を基準として、保全計画データD1で予定されているそれぞれの保全について、その保全を実施しない状況での損益を予測するデータ処理を実行し、予測したそれぞれの損益を指標として承認された保全が保全計画データD1の予定どおりに実施される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテナターミナルの多数種類の設備についての多数の保全が予定されている保全計画データと、前記コンテナターミナルでの多数のコンテナの入出庫数が予定されている入出庫計画データと、が記憶された補助記憶部と演算処理部と出力部とを備えるコンテナターミナルの保全管理システムにおいて、
それぞれの前記設備の稼働状況および前記コンテナの入出庫数を含む前記コンテナターミナルの運用状況と前記コンテナターミナルでの損益との関係が前記補助記憶部に予め入力されていて、
前記保全計画データのそれぞれの前記保全を承認する際に、前記演算処理部は、前記保全計画データと前記入出庫計画データと予め入力されていた前記関係とに基づいて、前記保全計画データと前記入出庫計画データとのそれぞれを予定どおりに実施した状況を前記運用状況とした場合の前記損益を基準として、前記保全計画データで予定されているそれぞれの前記保全について、その保全を実施しない状況を前記運用状況とした場合の前記損益を予測するデータ処理と、予測したその損益を前記出力部に出力するデータ処理とを実行し、
前記出力部から出力されたそれぞれの前記損益が指標として用いられて承認された前記保全が前記保全計画データの予定通りに実施されるコンテナターミナルの保全管理システム。
【請求項2】
前記保全が承認されると、承認されたその保全が実施されるよりも前に、前記演算処理部は、その保全の準備として、その保全に要する前記設備の部品とその保全を実施する保全作業者とを調達するデータ処理を実行する請求項1に記載のコンテナターミナルの保全管理システム。
【請求項3】
前記準備での前記部品の調達には電子商取引が用いられる請求項2に記載のコンテナターミナルの保全管理システム。
【請求項4】
所定の期間での前記保全に要する予算の目標値を前記補助記憶部に予め入力しておき、
前記演算処理部が、前記保全計画データに基づいて前記所定の期間毎に前記予算を算出するデータ処理と、算出したそれぞれの前記予算の中で入力された前記目標値に対して超過する超過予算を特定して、特定したその超過予算を前記出力部に出力するデータ処理とを実行する請求項1に記載のコンテナターミナルの保全管理システム。
【請求項5】
前記超過予算が存在しない場合に、前記演算処理部が、前記損益を予測せずに前記保全計画データのそれぞれの前記保全が承認されたと見做すデータ処理を実行する請求項4に記載のコンテナターミナルの保全管理システム。
【請求項6】
前記演算処理部が、前記予算を算出するデータ処理の実行後に、前記目標値を基準としてそれぞれの前記予算を平準化するデータ処理を実行する請求項4または5に記載のコンテナターミナルの保全管理システム。
【請求項7】
前記保全計画データで予定されるそれぞれの前記保全には、点検、事後保全、および、改良保全が含まれていて、それぞれの前記保全に予知保全および/または定期保全を含めるか否かを前記保全計画データの作成前に予め選択しておく請求項1に記載のコンテナターミナルの保全管理システム。
【請求項8】
コンテナターミナルの多数種類の設備についての保全が予定されている保全計画データと、前記コンテナターミナルでのコンテナの入出庫数が予定されている入出庫計画データと、を用いるコンテナターミナルの保全管理方法において、
それぞれの前記設備の稼働状況と前記コンテナの入出庫数とを含む前記コンテナターミナルの運用状況と前記コンテナターミナルでの損益との関係を予め把握しておき、
前記保全計画データのそれぞれの前記保全を承認する際には、前記保全計画データと前記入出庫計画データと予め把握しておいた前記関係とに基づいて演算処理部により、前記保全計画データと前記入出庫計画データとのそれぞれを予定どおりに実施した状況を前記運用状況とした場合の前記損益を基準として、前記保全計画データで予定されているそれぞれの前記保全について、その保全を実施しない状況を前記運用状況とした場合の前記損益を予測し、
予測したそれぞれの前記損益を指標として用いて前記保全計画データに記載のそれぞれの前記保全の実施についての承認、否認を決定して、承認された前記保全を前記保全計画データの予定どおりに実施するコンテナターミナルの保全管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテナターミナルの保全管理システムおよび方法に関し、より詳しくは、コンテナターミナルで予定されている保全の優位性を事前に把握できるコンテナターミナルの保全管理システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナターミナルにおける機器の稼働状況と稼働予定から保守点検予定を決定する保守管理システムが提案されている(特許文献1参照)。このように、コンテナターミナルでは予知保全(状態基準保全)や定期保全(時間基準保全)の導入が進められている。しかしながら、従来からコンテナターミナルでは労働安全衛生法やクレーン等安全規則などの規則により定期的な点検(使用前点検、月例点検、年次点検など)が実施されている。したがって、特許文献1で提案されている発明をコンテナターミナルに適用すると、従来からの点検と新たに導入された予知保全や定期保全との併用により、コンテナターミナルでの保全に要する費用が増加する。
【0003】
コンテナターミナルでの保全は、最終的にコンテナターミナルを運用するユーザーにより承認されて実施される。ユーザーの中には、コンテナターミナルでの保全について、所定の期間での保全に要する予算の目標値が決められているユーザーが存在していて、予算が目標値を超過すると、予定されている保全を承認できない場合がある。そのようなユーザーに対しては、超過の要因となる保全を実施することの優位性を事前に示すことで、仮に予算が目標値を超過した場合でも、保全を実施することを効果的に促すことができる。それ故、コンテナターミナルにおける保全の優位性を事前に把握するには改善の予知がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-7597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、コンテナターミナルにおける保全の優位性を事前に把握できるコンテナターミナルの保全管理システムおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明のコンテナターミナルの保全管理システムは、コンテナターミナルの多数種類の設備についての多数の保全が予定されている保全計画データと、前記コンテナターミナルでの多数のコンテナの入出庫数が予定されている入出庫計画データと、が記憶された補助記憶部と演算処理部と出力部とを備えるコンテナターミナルの保全管理システムにおいて、予め把握されている関係として、それぞれの前記設備の稼働状況および前記コンテナの入出庫数を含む前記コンテナターミナルの運用状況と前記コンテナターミナルでの損益との関係が前記補助記憶部に予め入力されていて、前記保全計画データのそれぞれの前記保全を承認する際に、前記演算処理部は、前記保全計画データと前記入出庫計画データと予め入力されていた前記関係とに基づいて、前記保全計画データと前記入出庫計画データとのそれぞれを予定どおりに実施した状況を前記運用状況とした場合の前記損益を基準として、前記保全計画データで予定されているそれぞれの前記保全について、その保全を実施しない状況を前記運用状況とした場合の前記損益を予測するデータ処理と、予測したその損益を前記出力部に出力するデータ処理とを実行し、前記出力部から出力されたそれぞれの前記損益が指標として用いられて承認された前記保全が前記保全計画データの予定通りに実施されることを特徴とする。
【0007】
本発明のコンテナターミナルの保全管理方法は、コンテナターミナルの多数種類の設備についての保全が予定されている保全計画データと、前記コンテナターミナルでのコンテナの入出庫数が予定されている入出庫計画データと、を用いるコンテナターミナルの保全管理方法において、それぞれの前記設備の稼働状況と前記コンテナの入出庫数とを含む前記コンテナターミナルの運用状況と前記コンテナターミナルでの損益との関係を予め把握しておき、前記保全計画データのそれぞれの前記保全を承認する際には、前記保全計画データと前記入出庫計画データと予め把握しておいた前記関係とに基づいて演算装置により、前記保全計画データと前記入出庫計画データとのそれぞれを予定どおりに実施した状況を前記運用状況とした場合の前記損益を基準として、前記保全計画データで予定されているそれぞれの前記保全について、その保全を実施しない状況を前記運用状況とした場合の前記損益を予測し、予測したそれぞれの前記損益を指標として用いて前記保全計画データに記載のそれぞれの前記保全の実施についての承認、否認を決定して、承認された前記保全を前記保全計画データの予定どおりに実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記保全計画データと前記入出庫計画データとを前記運用状況と見做して予め把握しておいた前記関係を用いることにより、前記保全計画データで予定されている保全の実施の有無による様々な状況でのコンテナターミナルにおける損益を精度よく予測できる。この損益は、前記入出庫計画データでのコンテナの入出庫の予定に基づいた荷役作業数を熟すのに要する時間(荷役効率)に起因していて、稼働している設備の種類や台数によって異なる。したがって、保全の実施の有無により保全の対象の設備が故障しない状況や故障した状況などの様々な状況でのコンテナターミナルの損益を予測して、予測したその損益を指標として用いることにより、保全計画データで予定されているそれぞれの保全の優位性を事前に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】コンテナターミナルを例示する説明図である。
図2】コンテナターミナルの保全管理システムの実施形態を例示する説明図である。
図3】保全計画データを例示する説明図である。
図4】保全計画基準データを例示する説明図である。
図5】入出庫計画データを例示する説明図である。
図6】コンテナターミナルの保全管理方法の実施形態の手順を例示するフロー図である。
図7】コンテナターミナルの運用状況と損益との関係を表す予測モデルを例示する説明図である。
図8図3のそれぞれの保全に対する承認、否認が決定された保全計画データを例示する説明図である。
図9】ユーザー在庫データを例示する説明図である。
図10】サービス提供者在庫データを例示する説明図である。
図11】変形例1でのコンテナターミナルの保全管理方法の手順を例示するフロー図である。
図12】目標値を例示する説明図である。
図13】予算データを例示する説明図である。
図14】変形例2でのコンテナターミナルの保全管理方法の手順を例示するフロー図である。
図15】変形例2での予算データを例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のコンテナターミナルの保全管理システムおよび方法を、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0011】
まず、図1に例示するコンテナターミナル1について説明する。
【0012】
コンテナターミナル1は、コンテナ2を一時的に保管することで物流の拠点となっている。コンテナターミナル1では、多数種類の設備3が運用されている。設備3は、単一あるいは複数の部品4で構成されている。設備3は、例えば、コンテナ2を荷役する公知の種々のクレーンや構内シャシである。また、設備3は、例えば、リーファコンテナに電力を供給する電源設備、コンテナターミナル1の各所に設置された照明機器、コンテナターミナル1の出入口に設置されたゲート装置などである。また、設備3には、蔵置レーンなどの保管エリアも含めてもよい。
【0013】
コンテナターミナル1では、各設備3での保全作業に用いる部品4の在庫が管理されている。部品4の在庫は、例えば、管理棟7の内部にある保管庫やコンテナターミナル1から出荷されないコンテナ2aに保管されている。即ち、コンテナターミナル1では、荷物として扱われるコンテナ2と荷物として扱われずに各部品4の在庫が格納されたコンテナ2aとが存在している。コンテナ2aは、保全を実施する場所にクレーンや構内シャシなどの設備3により運ばれる。それ故、コンテナ2aがコンテナターミナル1の各所に点在している。
【0014】
コンテナ2は、船舶5や外来シャシ6により外部からコンテナターミナル1へ入庫されて、コンテナターミナル1から外部へ出庫されている。したがって、コンテナターミナル1におけるコンテナ2の入出庫数は、船舶5や外来シャシ6の発着状況に応じる。
【0015】
管理棟7には、本実施形態の保全管理システム10と荷役管理システム11とが設置されている。各システムの詳細については後述するが、保全管理システム10は、コンテナターミナル1における保全を管理していて、荷役管理システム11は、コンテナターミナル1におけるコンテナ2の荷役を管理している。
【0016】
コンテナターミナル1はユーザーにより管理、運用されている。ユーザーはコンテナターミナル1を管理、運用している組織であり、同じユーザーが異なる複数のコンテナターミナル1を管理、運用してもよく、異なる複数のユーザーが個別に複数のコンテナターミナル1のそれぞれを管理、運用してもよい。コンテナターミナル1における種々のサービス(設備3の製造、販売、設備3の保全の準備など)はサービス提供者により提供されている。サービス提供者は、設備3の製造、販売などを実施する組織である。保全管理システム10や荷役管理システム11は、サービス提供者により製造、販売されている。コンテナターミナル1の保全はユーザーにより承認されて、依頼を受けた保全作業者により実施されている。保全作業者は、ユーザーが契約しているメンテナンス会社の人員、サービス提供者が組織した人員、各部品4を製造、販売しているメーカーの人員で構成される。例えば、点検では保全作業者はメンテナンス会社の人員で構成され、事後保全ではメンテナンス会社、サービス提供者、メーカーのそれぞれの人員で構成される場合がある。
【0017】
次に、図2に例示する保全管理システム10について説明する。
【0018】
保全管理システム10の実施形態を用いてコンテナターミナルの保全管理方法が実施される。保全管理システム10および保全管理方法は、コンテナターミナル1を管理、運用するユーザーが、コンテナターミナル1での保全を実施するために使用される。即ち、この実施形態によって、後述する図3に例示する保全計画データD1と図5に例示する入出庫計画データD2を用いて、ユーザーにより保全計画データD1で予定されているそれぞれの保全の承認、否認が決定される。コンテナターミナル1では、承認された保全が保全計画データD1の予定どおりに実施される。
【0019】
コンテナターミナル1での保全には、点検、予防保全(予知保全、定期保全)、事後保全、改良保全などが含まれる。点検は、労働安全衛生法やクレーン等安全規則などの予め定められた規則に基づいて実施される。点検には、使用前点検、月例点検、年次点検などの定期点検の他に災害後(地震後)の点検が含まれる。予防保全には、定期保全(時間基準保全)や予知保全(状態基準保全)が含まれる。定期保全は、設備3ごとに所定の期間や使用回数(例えば、3ヶ月間、1年間、5年間、荷役回数10万回など)を設定し、その期間や回数が経過した場合に実施される。予知保全は、各設備3の状態を監視して、故障が発生する兆候を予測し、故障が発生するよりも前に実施される。事後保全は、実際に故障した設備3に対する保全であり、突発的に実施される。改良保全は、設備3の性能を維持するために、設備3の劣化防止や劣化回復などの設計改善や設備改善であり、定期保全、予知保全、事後保全などの他の保全と併せて実施されたり、単独で実施されたりする。
【0020】
保全管理システム10は、コンピュータで構成されていて、種々のデータが入力、記憶され、これらデータを用いてデータ処理を行う。保全管理システム10は公知の種々のコンピュータを用いることができる。コンピュータとしては、物理サーバーや仮想サーバーなどの公知の種々のサーバーを用いることもできる。保全管理システム10は、コンテナターミナル1に設置されていてもよく、コンテナターミナル1の外部に設置されていてもよい。保全管理システム10は、演算処理部(CPU)12、主記憶部(メモリ)13、補助記憶部(例えば、HDD)14、入力部(キーボード、マウス)15、および、出力部(ディスプレイ)16を有している。補助記憶部14には、後述する図3に例示する保全計画データD1と図5に例示する入出庫データD2とが記憶されている。また、補助記憶部14には、図示しないが、後述する図4図9図10に例示する保全計画基準データD0、ユーザー在庫データD3、サービス提供者在庫データD4が記憶されている。
【0021】
保全管理システム10は、コンテナターミナル1における各設備3の保全を管理している。保全管理システム10は、保全計画データD1を作成し、作成した保全計画データD1に記載の各保全の中からユーザーにより承認された保全を予定どおりに実施するデータ処理を実行する。保全計画データD1およびその作成手法の詳細については後述する。
【0022】
荷役管理システム11は、コンテナターミナル1でのコンテナ2や各設備3の管理を行っている。荷役管理システム11は、公知のコンピュータを用いることができ、例えばターミナルオペレーションシステムである。荷役管理システム11は、公知の種々のコンテナ2の入出庫の計画手法を用いることにより、入出庫計画データD2を作成している。
【0023】
保全管理システム10と荷役管理システム11とは相互に通信可能に接続されている。保全管理システム10と荷役管理システム11とは、同一のネットワーク(LAN)を介して相互に接続されていてもよく、複数のネットワークがインターネットルータを介して相互に接続された広域通信網(WAN)を介して相互に接続されていてもよく、インターネットを介して相互に接続されていてもよい。保全管理システム10と荷役管理システム11とは個別のコンピュータであることが望ましいが、それぞれを統合して、一台のコンピュータにすることもできる。
【0024】
図3に例示する保全計画データD1は、保全管理システム10により作成されていて、補助記憶部14に記憶されている。保全計画データD1には、コンテナターミナル1の多数種類の設備3についての保全が予定されている。実際の保全計画データD1には、数年先の実施日や実施期間の保全についても記載されているが、図3中では、1ヶ月以内に実施日や実施期間が含まれる保全の予定が示されている。
【0025】
詳述すると、保全計画データD1は、図3の表の最左列に記載された各設備3(クレーン1号機、クレーン2号機、・・・、クレーンn号機、・・・、構内シャシm号機、・・・、照明装置i号機、・・・、蔵置レーンj番、・・・)についての保全の予定が集積している。保全の予定として、各保全(点検、定期保全、予知保全、事後保全、改良保全など)の保全内容、実施日や実施期間(YYYY/MM/DDなど)、保全の対象の設備3や部品4の使用限界予定日(YYYY/MM/DD)とが記載されている。保全内容の詳細は、図3中では、括弧書きで記載されていて、保全を実施した際の作業内容が把握できればよく、例えば、保全の対象となる設備3または部品4の名称が記載されている。点検に関する内容としては、予め設定された期間(例えば、使用前、月例(1ヶ月)、年次(1年))毎に異なるため、その期間が記載されている。予知保全、定期保全、事後保全や改良保全に関する内容としては、作業の対象となる設備3または部品4の名称が記載されている。使用限界予定日は、予知保全や定期保全以外の保全では、図3中の「-」で示すように記載されていない。それぞれの保全に関する実施日や実施期間は、「YYYY/MM/DD」や「YYYY/MM/DD~YYYY/MM/DD」が記載されているが、実際は実施日の年月日や実施期間の開始の年月日と終了の年月日とが記載されている。
【0026】
保全計画データD1の各保全の予定は、保全管理システム10により決定されるが、ユーザーやサービス提供者により人的に決定されてもよく、保全管理システム10による決定と人的な決定とが併用されてもよい。例えば、点検、予知保全、定期保全についての予定は、実施日や実施期間の基準を予め設定しておき、設定しておいたその基準に従って保全管理システム10により決定される。実施日や実施期間の基準については各保全に応じて任意に設定できる。また、事後保全や改良保全についての予定は、故障した、あるいは、改良する予定の設備3や部品4を保全管理システム10に人的に入力することにより決定される。
【0027】
図4に例示する保全計画基準データD0は、点検、予知保全、定期保全についての予定を決定するために用いられている。保全計画基準データD0は、保全管理システム10の補助記憶部14に記憶されている。保全計画基準データD0は、初回のみ期間、閾値が空欄になっていて、保全管理システム10の入力部15によりそれらの空欄が人的に入力されることにより作成される。それらの空欄への入力は、基本的にユーザーにより行われるが、予知保全や定期保全についてはサービス提供者により行われてもよい。保全計画基準データD0は、各設備3の部品4毎の保全内容、基準としての期間や閾値が集積している。保全計画基準データD0の期間、閾値は、適宜変更可能である。
【0028】
詳述すると、保全計画基準データD0は、図4の表中の左側2列の設備3(クレーン、構内シャシ、照明装置、・・・、蔵置レーンなど)と部品4(ワイヤーロープ、モータ、・・・など)について、保全内容として点検、予知保全、定期保全などが区分されていて、それぞれの保全内容に対しての期間や閾値(使用前、月例(1ヶ月)、年次(1年)、荷役回数:XX回など)が集積している。点検についての期間は、労働安全衛生法やクレーン等安全規則などの予め定められた規則に基づいている。定期保全についての閾値は、部品4毎に異なっていて、例えばワイヤーロープであれば荷役回数を用いて、走行装置のモータであれば走行時間を用いる。定期保全の閾値に関しては、部品4を製造、販売しているメーカーが推奨している値を基準として、ユーザー、サービス提供者が従来から培ってきた知見に基づいた値を用いることができる。予知保全についての閾値は、任意に設定することができる。予知保全の閾値に関しては、例えば、部品4が新品の状態の劣化度を0とし、部品4が使用限界に達した状態の劣化度を100とした場合、劣化度80程度である。即ち、設備3の稼働状況に基づいてその設備3、あるいはその設備3に使用されている部品4の劣化度を予測し、予測した劣化度が設定した閾値を超えると予測される日時が使用限界予定日となる。
【0029】
点検については、期間の設定が必須であるが、定期保全や予知保全については、期限、閾値の設定が任意になっている。即ち、ユーザー側で各設備3の保全として、点検に合わせて、定期保全のみを実施するか、予知保全のみを実施するか、定期保全と予知保全の両方を実施するか、両方を実施しないかを選択できる。コンテナターミナル1をより安定して運用するには、点検に加えて定期保全と予知保全の両方を実施することが望ましいが、定期保全と予知保全の両方を実施することでコンテナターミナル1の運用に要するコストが増加する。そこで、保全計画データD1で予定されるそれぞれの保全には、点検、事後保全、および、改良保全が含まれていて、それぞれの保全に予知保全および/または定期保全を含めるか否かを保全計画データD1の作成前に予め選択しておくとよい。これにより、ユーザーにより保全の内容が選択可能になり、コンテナターミナル1における保全の自由度が増して、ユーザー側の運用コストを考慮した保全計画を作成することができる。
【0030】
保全計画基準データD0を用いた予知保全や定期保全についての予定の決定は例えば以下のように行われる。まず、各設備3(あるいは部品4)の稼働状態を取得する。稼働状態は、コンテナターミナル1の各設備3に設置されたセンサにより行われて、荷役管理システム11に集積されて、保全管理システム10に送信されることで取得される。それぞれのセンサが保全管理システム10に電気的に接続されている場合、稼働状態は、荷役管理システム11を介さずに直に保全管理システム10に取得されてもよい。稼働状態は、最終的に保全管理システム10の補助記憶部14に記憶されていればよく、各センサを用いて荷役管理システム11とは別のコンピュータに集積されて、保全管理システム10に送信されてもよい。また、稼働状態は、保全管理システム10に人的に入力されてもよい。人的な稼働状態の取得には、コンテナターミナル1での作業日報や各設備3の点検結果などが用いられる。次いで、保全管理システム10は、取得した各設備3の稼働状態と保全計画基準データD0とに基づいて、予知保全や定期保全の予定を決定する。具体的に、保全管理システム10は、取得した稼働状態と保全計画基準データD0の期間や閾値に基づいて設備3または部品4の使用限界予定日を予測し、予測した使用限界予定日よりも前に実施日や実施期間を設定する。予知保全や定期保全の予定の設定には、公知の種々の機械学習を用いた予測モデルを用いることができる。
【0031】
以上のように、保全計画データD1は、コンテナターミナル1の各設備3についての保全の予定が記載されている。保全が実施された設備3は保全の実施中の期間は稼働することができない。即ち、保全計画データD1は、将来のコンテナターミナル1での日毎の各設備3の稼働状況を示していると見做せる。
【0032】
図5に例示する入出庫計画データD2は、荷役管理システム11により作成されていて、荷役管理システム11でのコンテナ2の管理に用いられるとともに、保全管理システム10の補助記憶部14に記憶されている。入出庫計画データD2には、コンテナターミナル1での多数のコンテナ2の入出庫数が日毎に予定されている。
【0033】
詳述すると、入出庫計画データD2は、横軸を日時とし、縦軸を入出庫数とした度数分布で表されている。図5中では、白棒グラフが船舶5による入出庫数を示し、斜線棒グラフが外来シャシ6による入出庫数を示している。入出庫数は、コンテナ2のコンテナターミナル1への入庫をプラス、コンテナ2のコンテナターミナル1からの出庫をマイナスとして表されている。日毎の入出庫数を合計した値は、コンテナターミナル1での荷役作業数(クレーンなどのコンテナ荷役用の設備3の作業数)に概ね比例する。即ち、入出庫計画データD2は、日毎に予測されるコンテナターミナル1での荷役作業数(クレーンなどの荷役機器の作業数)を表している。
【0034】
日毎の入出庫数は、船舶5や外来シャシ6の発着状況に応じていて、発着数が多くなるにつれて多くなり、発着数が少なくなるにつれて少なくなる。入出庫数は、主に船舶5の発着状況に左右される。この入出庫数は、船舶5や外来シャシ6の発着状況に基づいて荷役管理システム11により予測される。入出庫計画データD2は、度数分布に限定されるものではなく、例えば、コンテナターミナル1におけるコンテナ2の管理に関する各種データが集積した管理データでもよい。
【0035】
次に、コンテナターミナルの保全管理方法について説明する。
【0036】
図6は、保全管理方法の実施形態の手順の一例を示す。この手順では、まず、それぞれの設備3の稼働状況とコンテナ2の入出庫数とを含むコンテナターミナル1の運用状況とコンテナターミナル1での損益との関係を予め取得しておく(S110)。次いで、各データと予め取得しておいた関係とに基づいて演算処理部12により保全計画データD1のそれぞれの保全についての損益が予測される(S120)。次いで、予測されたそれぞれの損益を指標として用いて各保全についての承認、否認が決定される(S130)。最終的に、承認された保全が保全計画データD1の予定どおりに実施される(S140)。以下に各ステップ(S110~S140)の内容を詳述する。
【0037】
ステップ(S110)では、コンテナターミナル1を運用していく過程でそれぞれの設備3の稼働状況とコンテナ2の入出庫数とを含むコンテナターミナル1の運用状況とコンテナターミナル1での損益との関係を予め取得しておく。このステップ(S110)は、保全計画データD1のそれぞれの保全に対する承認、否認を決定するよりも前の任意のタイミングで実行できる。また、このステップ(S110)は、一度、運用状況と損益との関係を取得して、その関係を保全管理システム10の補助記憶部14に記憶させておけば、次回以降、記憶させたその関係を用いることができるので、省略することができる。
【0038】
損益は、入出庫計画データD2を予定どおりに実施した状況を基準として、その基準に対する損益の度合い(基準に対して損した度合い)を示す。入出庫計画データD2は、船舶5や外来シャシ6の発着状況に遅れが無く、かつ、コンテナターミナル1における各設備3を使用可能な理想的な運用状況を示している。コンテナターミナル1では、保全の実施により全ての設備3が使用可能な状況でない場合もある。したがって、コンテナターミナル1での実際の損益は、入出庫計画データD2に対して概ね損失になる。この損益は、入出庫データD2に基づく荷役作業数を熟すのに要する時間が長いほど(コンテナターミナル1での荷役効率が低下するほど)損失が大きくなり、その荷役作業数を熟すのに要する時間が短いほど損失が小さくなる。損益は、日時の単位を任意に設定でき、例えば、一日毎、一週間毎、一月毎などに設定できる。
【0039】
損益は、同じ荷役作業数についての基準の状況におけるその荷役作業数を熟すのに要する時間と所定の状況におけるその荷役作業数を熟すのに要する時間との差分で表すことができる。また、損益は、同じ期間についての基準の状況における荷役効率と所定の状況における荷役効率との差分で表すこともできる。さらに、損益は、金額換算することもできる。損益金額には様々な種類の金額を含めることができ、適宜設定可能である。損益金額としては、例えば、船舶5の停船料、外来シャシ6がコンテナターミナル1の外部の仮置き施設にコンテナ2を仮置きし、仮置きしたそのコンテナ2をコンテナターミナル1に入庫するのに要する費用である。仮置き施設は、コンテナターミナル1での作業の遅延によりコンテナターミナル1に入場できない外来シャシ6の渋滞を緩和するための施設であり、コンテナターミナル1の近傍に設置される施設である。仮置き施設に仮置きされたコンテナ2は、コンテナターミナル1に別のシャシを用いて入庫する必要がり、その別のシャシの運搬費用や仮置き施設の維持、管理費用などが発生する。また、損益金額には、実際には損益金額として算出できない状況を金額として換算したものを用いることもでき、例えば、船舶5の不定期運航による信頼度の低下を損益金額に換算したものを用いることもできる。このように、損益は金額で表すことが好ましく、例えば荷役作業数を熟すのに要する時間や荷役効率の差分を金額換算してもよい。損益を金額で表すことにより、保全による費用対効果を把握するにはより有利になる。なお、損益には、保全計画データD1に予定されている保全に要する費用を含めてもよいが、含めなくてもよい。
【0040】
損益は、コンテナターミナル1の運用状況により変化する。より具体的に、損益は、コンテナターミナル1での各設備3の稼働状況とコンテナ2の入出庫数とが複雑に関係して変化する。損益は、コンテナ2の入出庫数(荷役作業数)が同じであれば、稼働可能な設備3の数が少ないほど損失として大きくなり、その数が多いほど損失として小さくなる。このように、コンテナターミナル1での損益は、コンテナターミナル1の運用状況として、各設備3の稼働状況やコンテナ2の入出庫数とが複雑に影響し合っている。
【0041】
図7に例示する予測モデル18は、教師データ19を用いた機会学習により構築されていて、コンテナターミナル1の運用状況と損益との関係を表している。予測モデル18は、コンテナターミナル1の運用状況に基づいてコンテナターミナル1の損益を予測するコンピュータプログラムの一種である。予測モデル18の構築には、公知の種々の機械学習を用いることができる。機械学習のアルゴリズムとしては、ロジスティック回帰、サポートベクターマシーン、決定木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク(畳み込みニューラルネットワーク、再起型ニューラルネットワーク、残差ネットワークなど)、単純ベイズ、k近傍法などが例示される。また、複数のアルゴリズムを用いるアンサンブル学習も例示される。
【0042】
予測モデル18の構築では、教師データ19を用いるが、この教師データ19としては、ラベル有りやラベル無しのどちらの教師データも用いることができる。ラベル有りの教師データ19としては、例えば、設備3毎に設定された影響度が用いられる。影響度は、コンテナターミナル1での荷役作業数を熟すのに要する時間(荷役効率)の変化に影響を及ぼす度合いを示す。影響度が低い設備3が稼働していない状況ではコンテナターミナル1での荷役作業数を熟すのに要する時間(荷役効率)の変化が乏しいが、影響度が高い設備3が稼働していない状況ではコンテナターミナル1での荷役作業数を熟すのに要する時間(荷役効率)が大きく変化する(大きく低下する)。影響度が高い設備3は、例えばクレーンや蔵置レーンである。この影響度の程度は、ユーザーやサービス提供者が蓄積しているコンテナターミナル1の運用の過程で得られる膨大なデータ、実験や試験あるいはコンピュータシミュレーションなどの結果の蓄積などにより概ね把握されている。したがって、以上のようなユーザーやサービス提供者の知見を利用して設備3毎に設定された影響度をラベル有りの教師データ19として用いることができる。ラベル無しの教師データ19としては、前述したユーザーやサービス提供者が蓄積しているコンテナターミナル1の運用の過程で得られる膨大なデータ、実験や試験あるいはコンピュータシミュレーションなどの結果の蓄積などが用いられる。なお、損益を金額で表す場合、教師データ19では、コンテナターミナル1での荷役作業数を熟すのに要する時間(荷役効率)の変化を金額換算しておくとよい。このように、教師データ19を用いた機械学習により構築された予測モデル18により、運用状況に応じたコンテナターミナル1での荷役作業数を熟すのに要する時間(荷役効率)の変化が損益として予測される。
【0043】
予測モデル18により予測される損益は、各設備3の稼働状況やコンテナ2の入出庫数に伴うコンテナターミナル1の運用状況が複雑に影響し合う。構築された予測モデル18は、コンテナターミナル1の実体に則した教師データ19を用いた機械学習により構築されているため、コンテナターミナル1の運用状況と損益との関係が紐づけされていて、損益に対するコンテナターミナル1の運用状況の影響具合が分析、評価された状態になっている。それ故、異なる運用状況が入力された予測モデル18から出力されるそれぞれの損益は、各設備3の稼働状況やコンテナ2の入出庫数の違いなどによるコンテナターミナル1の運用状況の相違程度のそれぞれの場合における荷役作業数を熟すのに要する時間(荷役効率)の変化を高精度に表している。
【0044】
コンテナターミナル1の運用状況と損益との関係は、機械学習により構築された予測モデル18に限定されるものではない。その関係は、コンテナターミナル1をモデル化したシミュレーションにより取得することもできる。
【0045】
ステップ(S120)では、保全計画データD1と入出庫計画データD2と予め取得した関係(予測モデル18)に基づいて演算処理部12により、保全計画データD1のそれぞれの保全を実施しない状況を運用状況とした場合の損益を予測するデータ処理が実行される。具体的に、演算処理部12は、保全計画データD1と入出庫計画データD2とのそれぞれのデータをコンテナターミナル1の運用状況と見做して損益を予測する。損益の予測では、保全計画データD1と入出庫計画データD2とのそれぞれを予定どおりに実施した状況を運用状況とした場合の損益を基準として、保全計画データD1で予定されているそれぞれの保全について、その保全を実施しない状況を運用状況とした場合の損益を予測する。
【0046】
保全を実施しない状況は、保全の種類により異なる。点検は必ず実施されるため、点検を実施しない状況は無い。予知保全や定期保全を実施しない状況では、その予知保全や定期保全の対象の設備3が使用限界予定日に故障する可能性が高い。そこで、予知保全や定期保全を実施しない状況では、保全計画データD1での使用限界予定日に対象の設備3が故障した状況を運用状況として用いる。予知保全や定期保全を実施しない運用状況では、使用限界予定日に対象の設備3が故障した後に事後保全が予定されて実施される。したがって、予知保全や定期保全を実施しない運用状況でのそれらの保全の対象の設備3が使用できない期間は、予知保全や定期保全を実施した運用状況でのそれらの保全の対象の設備3が使用できない期間に比してより長い。このように、予知保全や定期保全を実施しない状況で予測される損益は、その予知保全や定期保全の対象の設備3によりその大小が異なるが、予知保全や定期保全を実施した状況で予測される損益に比して損失が大きくなる。
【0047】
事後保全を実施しない状況では、故障した設備3を稼働することができない。そこで、事後保全を実施しない状況では、対象の設備3が稼働しない状況を運用状況として用いる。したがって、事後保全を実施しない状況で予測される損益は、事後保全を実施した状況で予測される損益に比して損失が大きくなる。
【0048】
改良保全は実施しなくてもその改良保全の対象の設備3には突発的な故障が生じる可能性は低い。改良保全を実施しない状況は、定期保全を実施しない状況と同様に対象の設備3が故障しない状況を運用状況として用いる。つまり、改良保全を実施することにより対象の設備3が稼働できず、改良保全を実施しないことにより対象の設備3を稼働できるため、改良保全を実施しない状況で予測される損益が改良保全を実施した状況で予測される損益に比して損失が小さくなる。
【0049】
以上のように、保全計画データD1のそれぞれの保全を実施しない状況は、保全の種類に応じて様々であり、その状況で予測される損益も異なる。点検は規則上、実施せざるを得ないため、損益を予測する必要がない。そこで、このステップ(S120)では、保全計画データD1の中から点検を除いた残りの保全についての損益を予測するとよい。また、このステップ(S120)では、保全を実施しない状況と実施した状況とでより損益が大きく変化する予知保全や定期保全についての損益のみを予測してもよい。
【0050】
ステップ(S130)では、予測したそれぞれの損益を指標として用いて保全計画データD1のそれぞれの保全についての承認、否認を決定する。具体的に、保全管理システム10の出力部16に後述する図8の保全計画データD1aが出力される。出力された保全計画データD1aには、それぞれの保全についての承認、否認を入力する項目が存在する。その項目に入力部15により承認、否認が入力される。
【0051】
図8に例示する保全計画データD1aは、上述した図3の保全計画データD1のそれぞれの保全について上述したステップ(S120)で予測した損益が追加されている。また、この保全計画データD1aは、ステップ(S130)での結果が反映されている。詳述すると、保全計画データD1aは、図8の表の最左列の各設備3についての保全の予定と、その保全を実施しない状況で予測モデル18により予測された損益と、承認または否認とが記載されている。図8中では、各損益が「・・・」によって省略された記載になっているが実際には損益を換算した金額が記載されている。なお、保全を実施しない状況での設備3の故障による損益は、その設備3が使用可能になるまでに発生する損益とする。
【0052】
ステップ(S140)では、保全計画データD1aの中で承認された保全を保全計画データD1の予定どおりに実施する。保全の実施には、保全を実施する前に行われる準備が含まれる。この準備では、保全管理システム10により保全に関する部品4や保全作業者の調達が行われる。
【0053】
準備について詳述すると、部品4の調達は、以下の手順で行われる。まず、演算処理部12は、承認された保全に要する部品4を特定して、特定した部品4の在庫を確認するデータ処理を実行する。次いで、演算処理部12は、電子商取引(EC)を利用して、その部品4を調達するデータ処理を実行する。部品4の特定では、保全計画データD1aの保全内容が用いられる。部品4の在庫の確認には、後述する図9に例示するユーザー部品データD3や図10に例示するサービス提供者部品データD4が用いられる。電子商取引には、BtoB-EC、BtoC-ECなどの公知の種々の電子商取引を利用できる。演算処理部12による部品4を調達するデータ処理では、電子商取引を利用するものに限定されない。そのデータ処理は、例えば、演算処理部12により見積書や発注書を作成して、作成した見積書や発注書を出力部16に出力するデータ処理でもよい。
【0054】
図9に例示するユーザー部品データD3は、保全管理システム10の補助記憶部14に記憶されている。ユーザー部品データD3は、ユーザーが保有する多数種類の部品4についての在庫状況を有している。詳述すると、ユーザー部品データD3は、図9中の表の最左列に記載されたそれぞれの部品4(モータ、・・・、ワイヤロープ、・・・)についての在庫数、保管場所が集積している。図9中では、一部の部品4、在庫数、保管場所が「・・・」で省略されているが、実際には部品4の名称、個数や位置座標(あるいは、コンテナターミナル1での番地)などが記載されている。
【0055】
ユーザー部品データD3の在庫数は、部品4の入荷や使用の履歴に基づいてユーザーが入力部15により保全管理システム10に直に入力されてもよく、演算処理部12により保全計画データD1aに基づいた保全の作業結果や電子商取引の結果を反映させてもよい。部品4によっては、保管期間が長期に渡る場合があり、部品4の耐久性や性能が低下している可能性がある。そこで、ユーザー部品データD3に保管期間を記載しておくとよい。保管期間を記載するには、部品4が有する固有の識別番号が必要となるため、合わせてその識別番号も記載しておく。ユーザー部品データD3に保管期間を記載することにより、保全に使用する部品4として保管期間がより長いものを選択可能になり、保管期間の長期化を効果的に回避できる。
【0056】
保管場所は、ユーザーが入力部15により保全管理システム10に直に入力することもできるが、演算処理部12が自動的に取得することもできる。上述した図1のコンテナターミナル1において、ユーザーが保有する部品4は管理棟7の保管庫に加えて荷物として扱われずに各部品4の在庫が格納されたコンテナ2bで保管されている。管理棟7の保管庫に保管された部品4の位置は容易に特定できる。演算処理部12によるコンテナ2bの位置の特定には、全球測位衛星システム(GNSS)、ビーコン測位、超広帯域無線(UWB)測位、IEEE802.11規格の無線LAN測位などの屋内測位システム(IPS)、および、RFIDなどの公知の種々の電波式測位装置を用いることができる。例えば、全球測位衛星システムのアンテナが内蔵されたパレットを用いて、このパレットにコンテナ2bを蔵置する。コンテナ2bに収納されている部品4が特定されていれば、そのアンテナが受信する位置座標を取得することにより、演算処理部12が自動的に部品4の保管場所を取得できる。部品4が収納されたコンテナ2bは、保全の実施によりその場所が移動することになり、ユーザーがその場所を逐次、保全管理システム10に直に入力するには手間が掛かる。電波式測位装置を利用して演算処理部12が自動的に部品4の保管場所を取得することで、コンテナターミナル1での部品4の保管場所を常時、把握可能になる。これにより、保全を実施する際に速やかに保全の対象となる部品4を準備することができる。
【0057】
図10に例示するサービス提供者部品データD4は、保全管理システム10の補助記憶部14に記憶されている。サービス提供者部品データD4は、サービス提供者が保有する多数種類の部品4についての在庫状況を有している。詳述すると、サービス提供者部品データD4は、図10中の表の最左列に記載されたそれぞれの部品4(モータ、・・・、ワイヤロープ、・・・)についての在庫数、納期、費用が集積している。図10中では、一部の部品4、在庫数、納期、費用が「・・・」で省略されているが、実際には部品4の名称、個数、期間や金額が記載されている。
【0058】
部品データD4における在庫数、納期、費用は、サービス提供者が入力部15により保全管理システム10に直に入力する。納期や費用は、部品4がサービス提供者からユーザーに納品される場合の納期や費用である。部品4の中には、メーカーが製造、販売している汎用的な部品4の他に、その汎用的な部品4を加工した専用的な部品4が含まれる。専用的な部品4の納期や費用に関しては、メーカーからの汎用的な部品4の仕入れ状況が加味される。したがって、専用的な部品4に関しては、在庫が無い場合でも、納期や費用が記載されていることがある。
【0059】
部品4の在庫の確認には、上述したユーザー部品データD3、サービス提供者部品データD4に加えて、メーカーが保有する部品4についての在庫状況を有するメーカー部品データを用いることもできる。メーカー部品データは、メーカーが保有する汎用的な部品4の在庫数、納期、費用が集積している。
【0060】
電子商取引では、部品4に関する見積、発注が保全管理システム10の出力部16に出力されて、ユーザーが入力部15により入力することで、部品4の取り引きが行われる。電子商取引では、外部のECサイトを利用することもできる。電子商取引での部品4に関する見積、発注に関しては、在庫状況に応じて複数の見積を出力することができる。例えば、サービス提供者が保有する部品4の費用よりもメーカーが保有する部品4の費用が安いが、サービス提供者が保有する部品4の納期がメーカーが保有する部品4の納期よりも早い場合がある。このような場合、両方の見積をユーザーに提示することもできる。
【0061】
保全作業者の調達は、以下の手順で行われる。まず、演算処理部12は、承認された保全の作業に要する保全作業者の人数を特定するデータ処理を実行する。次いで、演算処理部12は、特定した人数のサービスマンを確保する旨を保全作業者の派遣会社に通達するデータ処理を実行する。人数の特定では、保全計画データD1aの保全内容が用いられる。派遣会社への通達には、電子メールなどの公知の通信手段を用いることができる。
【0062】
以上のように、本実施形態によれば、保全計画データD1と入出庫計画データD2とをコンテナターミナル1の運用状況と見做して、予め取得しておいた運用状況と損益との関係を示す予測モデル18を用いることにより、保全計画データD1で予定されている保全を実施の有無による様々な状況でのコンテナターミナル1における損益を精度よく予測できる。この損益は、コンテナターミナル1でのコンテナ2の荷役作業数を熟すのに要する時間(荷役効率)に起因していて、稼働している設備3の種類や台数によって異なる。したがって、保全の実施の有無により保全の対象の設備3が故障しない状況や故障した状況などの様々な状況でのコンテナターミナル1の損益を予測して、予測したその損益を指標として用いることにより、保全計画データD1で予定されているそれぞれの保全の優位性を事前に把握できる。これにより、保全を実施する選択が優位である場合、その保全を承認して予定どおりに実施することにより、保全を実施しない状況で予測され得る損失を効果的に回避できる。
【0063】
予測したそれぞれの保全についての損益は、基準に対しては概ね損失になる。この損失は、予定されている保全を実施してその保全の対象の設備3の故障を回避することで得られる利益と見做せる。それ故、その損失を指標として用いることにより、予知保全の導入によりユーザーの所望の予算を超過する場合が生じたとしても、超過したその予算による費用対効果の妥当性を判断できので、リスク回避に大いに寄与する。
【0064】
また、予定された保全を否認して保全計画データD1での予定どおりに実施しない選択肢を与えることにより、コンテナターミナル1における保全の予定の自由度が増す。例えば、コンテナターミナル1で使用されるクレーンは、複数の走行装置のモータを有している。複数のモータの中の一つのモータが突発的に故障したとしてもクレーンの走行が停止することはなく、正常な状態に比して荷役効率が低下するがコンテナ2の荷役が全くできない訳ではない。したがって、コンテナ2の入出庫状況によっては、保全の対象になったクレーンをその保全を予定どおりに実施せずに使用する方が、コンテナターミナル1での荷役効率を向上するには有利な場合がある。本実施形態によれば、予測モデル18により予測される損益が、コンテナターミナル1の実体に則している。それ故、クレーンの走行装置のモータに対する予知保全が予定された場合、その予知保全について予測される損益は小さく見積もられる。このように、保全の実施の有無をコンテナターミナル1での損益で判断することが可能になることにより、コンテナターミナル1の管理に大いに寄与する。
【0065】
否認された保全は、上述した図3の保全計画データD1に記載の予定を変更して実施してもよい。否認された保全の予定に関しては、ユーザーにより適宜変更できる。ただし、保全の種類によっては、予定を変更できない場合があり、予定を変更できない保全に関しては、上述したステップ(S130)で演算処理部12により強制的に承認してもよい。例えば、点検は、予め設定された期間毎に実施する必要があり、予定を大幅に変更することができない。事後保全は、既に故障した設備3に対する保全であり、放置すればするほど故障した設備3を使用できないことによる損失が増える。一方で、設備3によっては事後保全を後回しにすることで、コンテナターミナル1の荷役効率の低下を抑制できることもある。例えば、クレーンの事後保全は迅速に実施した方がよく、照明装置の事後保全は急を要するものではない。改良保全は、実施することでコンテナターミナル1の荷役効率の向上に寄与する一方で、大幅な改修の場合、改良保全を実施することによるコンテナターミナル1の荷役の効率が大きく低下するおそれがある。
【0066】
予測した損益が発生するリスクは、予知保全や定期保全における使用限界予定日が近づくにつれて大きくなり、その使用限界予定日以後、更に大きくなる。そこで、予知保全や定期保全の実施についての承認、否認の決定の指標として、予測した損失に加えて使用限界予定日に対する日数を用いてもよい。このように、使用限界予定日に対する日数を指標として用いることにより、使用限界に達するリスクがより高い予知保全や定期保全を予定どおりに実施して、発生するリスクがより低い予知保全や定期保全を後回しにすることもできる。
【0067】
保全計画データD1と入出庫計画データD2とは互いに独立したデータとして保全管理システム10の補助記憶部14に記憶されているが、保全計画データD1と入出庫計画データD2とが連携していてもよい。具体的には、保全管理システム10の演算処理部12により、入出庫計画データD2が予定どおりに実施可能に保全計画データD1に予定されているそれぞれの保全が変更されるデータ処理が実行される。例えば、船舶5の発着によりコンテナ2の入出庫数の増加が予測される期間では、その期間に予定されているそれぞれの保全の中から予定を変更可能な保全が特定されて、特定された保全の予定がその期間の範囲外に変更される。この変更により、コンテナターミナル1での実際のコンテナ2の入出庫数の変動が、入出庫計画データD2に予定されている入出庫数の変動に近似し易くなる。このように、保全計画データD1は、入出庫計画データD2に基づいてコンテナターミナル1における荷役作業数への影響が考慮されるとよい。
【0068】
次に、図11に例示するコンテナターミナルの保全管理システムおよび方法の変形例1について説明する。
【0069】
変形例1での保全管理方法での手順では、上述した図6の手順に対して別のステップ(S210、S220)が追加されている。即ち、変形例1の手順では、まず、保全管理システム10に所定の期間に予定されている保全に費やせる予算の目標値D5を予め入力しておく(S210)。次いで、保全計画データD1に基づいて演算処理部12により所定の期間毎の予算の中で目標値D5に対して超過する超過予算を特定し、特定した超過予算を出力部16に出力する(S230)。したがって、変形例1では、ユーザーが超過予算を把握して、超過予算と保全計画データD1aに記載の損益とを比較することにより、超過予算に組み込まれた保全に対する承認、否認が決定される(S130)。
【0070】
ステップ(S210)では、ユーザーにより保全管理システム10に目標値D5が入力される。具体的に、演算処理部12により目標値D5の入力画面を出力部16に出力するデータ処理が実行され、その入力画面に入力部15により目標値D5として所望の期間と金額が入力される。所望の期間は、任意の日数を入力できるが、1ヶ月を入力単位として複数月を含むように、例えば、1年や上半期、下半期が入力される。所望の金額は、所望の期間毎にコンテナターミナル1の保全に費やせる予算の目標値であり、任意の金額を入力できる。所定の期間の金額は、単一の期間と金額との組み合わせに限定されるものではなく、例えば、所望の期間として1年間と3ヶ月との2種類の期間が入力されて、それぞれの期間毎の所望の金額が入力されてもよい。また、同じ期間でも時期によって金額を異ならせることもでき、例えば、上半期の3ヶ月と下半期の3ヶ月とのそれぞれの金額を異ならせる。このように、目標値D5はユーザーの事情に合わせて入力可能になっていればよい。
【0071】
図12に例示する目標値D5は、ユーザーにより保全管理システム10に入力される。目標値D5は、ユーザーが所望する期間と金額との組み合わせが集積している。図12では、期間として、1年と3ヶ月との2種類が入力されていて、金額として、入力されたそれぞれの期間での金額が入力されている。図12中では、金額が「・・・」で省略されているが、実際には所望の金額が入力されている。なお、期間として複数の期間が入力される場合、入力された複数の期間の中で最も短い期間での金額が入力されることで、他の期間の金額が入力したその金額に基づいて算出されてもよい。
【0072】
ステップ(S220)では、保全計画データD1に基づいて演算処理部12により入力された所望の期間毎の予算を算出して、算出した予算の中で目標値D5に対して超過する超過予算を特定して、特定した超過予算を出力するデータ処理が実行される。算出される予算は、目標値D5として入力された期間内に保全計画データD1で予定されているそれぞれの保全の費用の合計である。保全の費用には、実施された保全に要する費用が含まれていて、保全の準備段階で要する費用(部品4や保全作業者の調達費用)も含まれている。
【0073】
超過予算は、保全計画データD1に基づいて算出された予算の中で目標値D5として入力された金額を超過すると見做せる予算である。算出される予算は、予算の算出時点でのユーザー部品データD3やサービス提供者部品データD4、メーカーの納期や費用を用いるため、実際の準備段階で要する費用と異なる場合がある。そこで、超過予算は、算出された予算が目標値D5として入力された金額を超過したものに加えて、その予算が金額に対して予め設定した許容範囲に収まるものも含むようにするとよい。許容範囲は、例えば、入力された金額に対して±5%程度の範囲である。
【0074】
図13に例示する予算データD6は、保全管理システム10の出力部16に出力される。予算データD6は、目標値D5として入力された期間毎のコンテナターミナル1の保全に要する予算を有する。詳述すると、予算データD6は、3ヶ月毎の期間(P1、P2、・・・、Pn)の予算と、1年毎の期間(P1~P4、・・・、P(n-4)~Pn)の予算とが集積していて、図13の表中の最左列に目標値D5で入力された金額に対して超過した超過予算には「超過」が記載されている。図13中では、期間P2の予算と期間P1~P4の予算とが超過予算になっている。
【0075】
変形例1では、図8の保全計画データD1aと図13の予算データD6とが出力部16により出力されることで、ユーザーは、それぞれのデータを比較することができる。例えば、超過予算となっている期間P2に実施される保全の損益を保全計画データD1aにより確認して、超過予算の要因となる保全を承認するか否かを判断できる。以上のように、変形例1では、目標値D5に対して超過する超過予算を特定して、特定した超過予算を出力することにより、ユーザーに対して、超過の要因となる保全を実施することの優位性を事前に示すことができる。これにより、仮に予算が目標値D5を超過した場合でも、保全を実施することを効果的に促すことができる。
【0076】
変形例1では、超過予算に含まれる保全を特定することにより、ステップ(S120)において、演算処理部12により超過予算に含まれるそれぞれの保全を実施しない状況での損益を予測するデータ処理を実行することもできる。即ち、変形例1では、超過予算に組み込まれた保全についての損益のみを予測して、予測したその損益に基づいて超過予算に組み込まれた保全に対する承認、否認が決定されてもよい。
【0077】
変形例1において、保全計画データD1で予定されている全ての保全を予定どおりに実施した場合の予算が、ユーザーが所望する金額の範囲内に収まっていれば、ユーザーが逐次、判断することなく、保全計画データD1で予定されている全ての保全が準備段階を含めて自動的に実施される。これにより、コンテナターミナル1での保全に関する業務のユーザーの負担を大幅に軽減できる。
【0078】
また、変形例1では、超過予算が存在しなければ演算処理部12での損失を予測するためのデータ処理が必要なく、超過予算が存在した場合でも超過予算に含まれる保全を実施しない状況での損益のみを予測するため、演算処理部12でのデータ処理の負荷を軽減できる。予知保全や定期保全では、設備3の稼働状況に基づいてその設備3の使用限界予定日が予測されていて、その使用限界予定日が数年先の場合がある。例えば、インバータやプログラマブルロジックコントローラなどの電子部品の寿命は概ね7年~12年程度である。それ故、保全計画データD1には、数年から十数年先の予知保全や定期保全の予定が含まれる場合がある。保全計画データD1のそれぞれの予知保全や定期保全についての損益を予測することもできるが、その場合の演算処理部12でのデータ処理の負荷が過大になる。そこで、変形例1のように、損益を予測する保全を超過予算に含まれるものに限定することにより、演算処理部12でのデータ処理の負荷の軽減には有利になる。
【0079】
次に、コンテナターミナルの保全管理システムおよび方法の変形例2について説明する。
【0080】
図14に例示する変形例2での保全管理方法での手順では、上述した図11の手順に対して別のステップ(S310)が追加されている。即ち、変形例2の手順では、保全計画データD1に基づいて演算処理部12により所定の期間毎の予算が平準化される(S310)。したがって、変形例2では、後述する図15に例示する予算データD6aが出力されるが、この予算データD6aは、上述した図13の予算データD6に比して所定の期間毎の予算が平準化されている。
【0081】
ステップ(S310)では、保全計画データD1に基づいて演算処理部12により入力された所望の期間毎の予算を算出して、算出した予算を平準化するデータ処理が実施される。予算の平準化では、目標値D5として入力された金額を基準として用いて、期間毎の予算がその金額に近づくように保全計画データD1が更新される。具体的に、演算処理部12は、算出した予算の中で目標値D5に対して超過する超過予算と目標値D5に対して不足する不足予算とを特定する。次いで、演算処理部12は、超過予算に含まれる保全の中から不足予算に含めることが可能な保全(予定を変更可能な保全)を特定して、特定した保全の予定を変更して、保全計画データD1を更新する。以後のデータ処理では、更新した保全計画データD1を用いる。
【0082】
保全の予定の変更の可否や変更の具合は、その保全の種類によって異なっている。点検は、予め設定された期間内に行われていればよく、ある程度(例えば、数日程度や数週間程度)の変更が可能である。予知保全や定期保全は、使用限界予定日が近づくにつれて対象の設備3の故障のリスクが高くなるが、予定をより早く実施することもできるため、変更が可能である。改良保全は、いつ実施してもよいため、その予定は自在に変更可能である。
【0083】
図15に例示する予算データD6aは、保全管理システム10の出力部6に出力される。予算データD6aは、上述した図13の予算データD6に対して期間毎の予算が平準化されている。具体的に、平準化された予算データD6aでは、予算データD6に比して、期間P2の超過予算がより小さくなり、期間P(n-4)~Pnの予算がより大きくなっている。したがって、平準化された予算データD6aの各期間における予算は、ユーザーが入力した目標値D5により近似した予算になっている。
【0084】
以上のように、変形例2ではユーザーが入力した目標値D5に基づいて保全計画データD1における予算を平準化することにより、超過予算が発生し難くなる。これにより、ユーザーがより満足のいくコンテナターミナル1における中・長期的な保全計画を提案することが可能になる。保全計画データD1における予算の平準化には、目標値D5を基準として用いる他に、予め設定した金額を基準としてもよい。また、保全計画データD1における所定の期間毎の予算の代表値(平均値、最頻値、中央値)を基準としてもよい。
【0085】
変形例2では、予算が平準化された保全計画データD1に基づいて、年間保全計画、3年~5年程度の中期保全計画、10年以上の長期保全計画をユーザーに提示することができる。コンテナターミナル1の保全に要する予算を平準化することにより、その予算を変動費ではなく極力、固定費に近づけることが可能になる。これにより、コンテナターミナル1の運用コストを長期に渡って把握できる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明のコンテナターミナルの保全管理システムおよび方法は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0087】
既述した実施形態や変形例1、2では、上述した図5のステップ(S130)での決定をユーザーが行ったが、決定の基準を予め保全管理システム10に入力しておくことにより、その決定を入力した基準を用いて演算処理部12により行うこともできる。この決定の基準は、任意に設定できるが、実施形態や変形例1、2を繰り返し行う過程でユーザーが行った決定に基づいて設定することもできる。
【0088】
保全計画データD1や入出庫計画データD2には、一つのコンテナターミナル1における保全の予定やコンテナ2の入出庫の予定に限定されずに、複数のコンテナターミナル1における保全の予定やコンテナ2の入出庫の予定が記載されていてもよい。保全管理システム10は、複数のコンテナターミナル1で共通のシステムとして機能することにより、複数のコンテナターミナル1での連携を強化できる。例えば、部品4の在庫や保全作業者の予定などを複数のコンテナターミナル1で調節することが可能となり、部品4の不良在庫化の解消や保全作業者の作業予定の平準化には有利になる。
【符号の説明】
【0089】
1 コンテナターミナル
2 コンテナ
3 設備
4 部品
10 保全管理システム
11 荷役管理システム
12 演算処理部
13 主記憶部
14 補助記憶部
15 入力部
16 出力部
18 予測モデル
19 教師データ
D0 保全計画基準データ
D1、D1a 保全計画データ
D2 入出庫計画データ
D3 ユーザー在庫データ
D4 サービス提供者在庫データ
D5 目標値
D6、D6a 予算データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15