(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175892
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】メタノール改質型水素製造触媒と、その製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/53 20240101AFI20241212BHJP
C01B 3/32 20060101ALI20241212BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20241212BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20241212BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241212BHJP
B01J 23/72 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B01J35/08 B
C01B3/32 A
B01J37/16
B01J37/02 101D
B01J37/08
B01J23/72 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093976
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】黎 暁紅
(72)【発明者】
【氏名】畑中 達也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 英路
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G140EA02
4G140EA06
4G140EC07
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA07A
4G169BA08A
4G169BA21C
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC66A
4G169BC68A
4G169BC70A
4G169BE06C
4G169BE32A
4G169BE32B
4G169CB81
4G169DA05
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC08X
4G169EE01
4G169FB13
4G169FB19
4G169FB27
4G169FB34
4G169FB43
4G169FB78
4G169FC04
4G169FC07
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】従来のシリカを担持体とし触媒成分として銅粒子を担持するメタノール改質型水素製造触媒では、触媒内部までメタノールが届きにくく触媒金属の利用率が上がらなかった。
【解決手段】上記課題解決のため、多孔質コアに分散させた触媒金属量の重量%よりも、コア表面に形成したシェルに分散させた触媒金属(コアに分散させた触媒金属と同一)の重量%を大きくしたコアシェル構造の触媒とすることによって、同じ触媒金属量を用いた触媒よりもメタノール転換効率の高い触媒(すなわち触媒金属の利用率の高い触媒)を提供することができる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属が央部にまで分散された触媒分散多孔質コアと、
前記触媒分散多孔質コアの表面に前記触媒金属を分散させた触媒分散シェルと、
からなり、反応槽中のメタノール蒸気及び水蒸気が触媒分散シェルを透過して触媒分散多孔質コア中の分散触媒金属並びに触媒分散シェルの分散触媒金属に接触可能な構造からなるメタノール改質型水素製造触媒。
【請求項2】
前記触媒金属は、銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択されるいずれか一以上の金属、又は銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物であって触媒分散多孔質コアと触媒分散シェルの触媒金属が同一金属である請求項1に記載のメタノール改質型水素製造触媒。
【請求項3】
前記触媒分散多孔質コアは、酸化シリコン、酸化アルミニウム、ゼオライト、カーボン、メタルオキサイドのいずれかである一以上からなる請求項1又は請求項2に記載のメタノール改質型水素製造触媒。
【請求項4】
触媒分散多孔質コア中の触媒金属の割合は5から25wt%であり、触媒分散シェル中の触媒金属の割合は45から55wt%である請求項1又は請求項2に記載のメタノール改質型水素製造触媒。
【請求項5】
メタノール改質型水素製造触媒の平均粒径が1ミリメートルから5ミリメートルである請求項1又は請求項2に記載のメタノール改質型水素製造触媒。
【請求項6】
多孔質の粒状コアを準備するコア準備工程と、
準備された多孔質コアを洗浄し不純物を除去する前処理工程と、
水溶性触媒金属塩を溶解した溶液中に前処理された多孔質コアを浸漬するコア浸漬工程と、
多孔質コアに分散された触媒金属塩を加熱分解し、多孔質コアに触媒金属を担持させるコア触媒金属担持工程と、
水溶性触媒金属塩を溶解したシリコンアルコラートの加水分解ゾル溶液にコア触媒金属担持工程を経た多孔質コアを浸漬し、多孔質コア表面に前駆体膜を形成する前駆体膜形成工程と、
前駆体膜形成工程で形成された前駆体膜中の水溶性触媒金属塩を加熱分解し、触媒分散シェルを形成するシェル形成工程と、
からなるメタノール改質型水素製造触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のメタノール改質型水素製造触媒に対して、使用前に280℃~320℃の温度範囲の還元雰囲気で活性化処理を行う活性化工程を有するメタノール改質型水素製造触媒の製造方法。
【請求項8】
前記触媒金属は、銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択されるいずれか一以上の金属、又は銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物であってコアとシェルの触媒金属が同一金属である請求項6又は請求項7のいずれか一に記載のメタノール改質型水素製造触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノール改質により水素を製造するための触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
現在自動車など内燃機関の燃料として石油や天然ガスなどの化石燃料が使用されている。内燃機関が化石燃料を燃焼した際に生じる二酸化炭素は地球温暖化の原因として、環境問題の原因と指摘されている。自動車の動力としてガソリンなどを燃料とする内燃機関の代わりに、蓄電池にためた電気でモーターを駆動する電気自動車や、水素を燃料とする内燃機関で起動する水素自動車や、水素と酸素の電気化学反応で生じた電気でモーターを駆動する燃料電池車などが開発、実用化されている。再生可能エネルギーから得られた電気を用いる電気自動車が、最もCO2排出量が少ないと考えられるものの、電気をためるリチウムイオン電池に用いるリチウムやコバルトなど多様多量な鉱物資源を必要とするため、その生産と精錬は水質汚染や土壌汚染などの環境問題を抱える。他方で燃料電池車は、電気自動車ほど製造時の環境負荷が大きくないことに加え、リチウムイオン電池よりもエネルギー密度の高い燃料を積載することで、特に大型車の航続距離を確保できる技術として期待されている。燃料として、再生可能エネルギーから得られる電力を使って水電解で製造されるいわゆるグリーン水素や、植物由来のバイオ燃料を改質して用いる場合は、CO2排出量は系統電力から充電した電池自動車よりも少ないと見込まれている。
【0003】
炭化水素類の分解反応により行われる水素の製造は、部分酸化反応や水蒸気改質、オートサーマルなどの方法が用いられている。現在の水素製造方法の主流は天然ガス(主成分はメタン)の水蒸気改質であるが、700℃程度の高温の反応となっている。各種炭化水素類の中でメタノール水蒸気改質(以下本明細書ではメタノール改質法又はメタノール改質と表記する)は、可搬性に優れた液体燃料を300℃程度の低温で反応が進行する点がすぐれている。原料となるメタノールは、天然ガスを原料とするほかに、環境負荷が大幅に減らせるバイオマスを原料として得ることもできる。
【0004】
メタノール改質による水素の製造において極めて重要な役割を果たすのが触媒である。触媒に求められる主たる事項として、改質効率に寄与する触媒活性の向上、触媒活性の安定性、改質に利用される触媒金属の率(利用率)の向上、有害な副生成物の生成抑制が挙げられる。
【0005】
メタノール改質に使われる金属は、貴金属であるルテニウムを除けば、銅、ニッケル、鉄といった一般的な材料であるものの、各種需要の高まりにより既にこれらの金属の価格は高騰しており、使用量を下げる(触媒活性を上げる又は/及び利用率の向上することが必要となる。
【0006】
特許文献1に開示されている発明は、本発明の発明者が先に発明した、シリカを担持体として銅粒子を分散配置した水素生成用のメタノール改質型水素製造触媒であって、シリカと銅との重量比が1:1から1:1.63の間であるメタノール改質型水素製造触媒である。シリコンアルコキシドと水の混合液に銅粒子を加えて攪拌して調製したゾルからゾルゲル法により、銅を前記範囲に有した多孔質触媒が、優れた触媒活性を得ることができる触媒として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、特許文献1記載の触媒は、当時の従来品よりも優れた触媒ではあるが、担持体としてゾルゲル法により作製したシリカを使用しており、多孔質とはいえ、実用的な数mmの粒径にバインダー成形あるいは圧粉成形などで造粒した場合、その内部までシリカの細孔を通って反応ガスは届きにくく、触媒金属の利用率が上がりにくいという問題がある。そこで、本発明においては、より一層の触媒利用率の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために第一の発明として、
触媒金属が央部にまで分散された触媒分散多孔質コアと、
前記触媒分散多孔質コアの表面に前記触媒金属を分散させた触媒分散シェルと、
からなり、反応槽中のメタノール蒸気及び水蒸気が触媒分散シェルを透過して触媒分散多孔質コア中の分散触媒金属並びに触媒分散シェルの分散触媒金属に接触可能な構造からなるメタノール改質型水素製造触媒を提供する。
【0010】
さらに第二の発明として、第一の発明を基礎とする、
前記触媒金属は、銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択されるいずれか一以上の金属、又は銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物であって触媒分散多孔質コアと触媒分散シェルの触媒金属が同一金属であるメタノール改質型水素製造触媒を提供する。
【0011】
さらに第三の発明として、第一又は第二の発明のいずれか一を基礎とする、
前記触媒分散多孔質コアは、酸化シリコン、酸化アルミニウム、ゼオライト、カーボン、メタルオキサイドのいずれかである一以上からなるメタノール改質型水素製造触媒を提供する。
【0012】
さらに第四の発明として、第一から第三の発明のいずれか一を基礎とする、
触媒分散多孔質コア中の触媒金属の割合は5から25wt%であり、触媒分散シェル中の触媒金属の割合は45から55wt%であるメタノール改質型水素製造触媒を提供する。
【0013】
さらに第五の発明として、第一から第四の発明のいずれか一を基礎とする、
メタノール改質型水素製造触媒の平均粒径が1ミリメートルから5ミリメートルであるメタノール改質型水素製造触媒を提供する。
【0014】
さらに第六の発明として、
多孔質の粒状コアを準備するコア準備工程と、
準備された多孔質コアを洗浄し不純物を除去する前処理工程と、
触媒金属を溶解した溶液中に前処理された多孔質コアを浸漬するコア浸漬工程と、
水溶性触媒金属塩を溶解した溶液中に前処理された多孔質コアを浸漬するコア浸漬工程と、
多孔質コアに分散された触媒金属塩を加熱分解し、多孔質コアに触媒金属を担持させるコア触媒金属担持工程と、
水溶性触媒金属塩を溶解したシリコンアルコラートの加水分解ゾル溶液にコア触媒金属担持工程を経た多孔質コアを浸漬し、多孔質コア表面に前駆体膜を形成する前駆体膜形成工程と、
前駆体膜形成工程で形成された前駆体膜中の水溶性触媒金属塩を加熱分解し、触媒分散シェルを形成するシェル形成工程と、
からなるメタノール改質型水素製造触媒の製造方法を提供する。
【0015】
さらに第七の発明として、
第六の発明のメタノール改質型水素製造触媒に対して、使用前に280℃~320℃の温度範囲の還元雰囲気で活性化処理を行う活性化工程を有するメタノール改質型水素製造触媒の製造方法を提供する。
【0016】
さらに第八の発明として、第六又は第七の発明のいずれか一を基礎とする、
前記触媒金属は、銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択されるいずれか一以上の金属、又は銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物であってコアとシェルの触媒金属が同一金属であるメタノール改質型水素製造触媒の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
以上のような構成をとる本発明によって、従来のシリカを担持体とし触媒成分として銅粒子を担持するメタノール改質型水素製造触媒に対して、より一層触媒利用率を向上させたメタノール改質型水素製造触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のメタノール改質型水素製造触媒の概略断面図
【
図2】コアに分散させた触媒金属(Cu)量(wt%)(コアのみに分散、シェルに分散なし)とメタノール転換率(%)の関係図
【
図3】シェル材料単体でゾルゲル法にて試作した試料の細孔分布
【
図4】シェルに分散させた触媒金属(Cu)量(wt%)(コアには分散なし)とメタノール転換率(%)の関係図
【
図5】シェルコーティング回数とメタノール転換率(%)の関係図
【
図6】シェル1回コーティング時における、コアに分散させた触媒金属(Cu)量(wt%)とメタノール転換率(%)の関係図
【
図7】触媒1g当たりの触媒金属(Cu)重量(g)を尺度とした各仕様でのメタノール転換率(%)の関係図
【
図8】本発明のコアシェル構造メタノール改質型水素製造触媒の製造方法説明図
【
図9】本発明のコアシェル構造メタノール改質型水素製造触媒の製造フローチャート1
【
図10】本発明のコアシェル構造メタノール改質型水素製造触媒の製造フローチャート2
【
図11】富士シリシア化学株式会社製シリカゲルの表面SEM写真
【発明を実施するための形態】
【0019】
<メタノールの水蒸気改質反応>
まず、触媒金属を担持した触媒とメタノールの反応を説明する。蒸気化したメタノールと水蒸気を混合してメタノール改質用の触媒を収めた反応槽等へ導く。反応槽内を例えば250℃から350℃の温度に保つと、反応槽へ導かれたメタノールは触媒金属の介在により、メタノールの水酸基ほかの水素が外れてH2が生成される。例えば、反応式の例としては、CH3OH+H2O → 3H2+CO2である。メタノール改質の際、意図しない副生成物として、CH3OH → CO+2H2、あるいはH2+CO2→CO+H2Oのように一酸化炭素なども生成される。副生成物であるCO2や、人体に有害な一酸化炭素等の生成を減らす、又は除去することも重要である。
【0020】
<メタノールの水蒸気改質反応:副生成物:一酸化炭素の生成抑制と除去>
メタノール改質時の、人体に有毒な一酸化炭素の生成を抑制するには、触媒金属としてCuを用いたり、メタノール改質を行う前に触媒金属を還元し活性化し触媒金属の表面積を増やしたり、反応温度を下げたり(温度を上げると一酸化炭素の生成量が増える)、水蒸気とメタノール蒸気の比率を調整したりする方法がある。生成してしまった一酸化炭素は、酸化触媒を使用して酸化し二酸化炭素としたり、一酸化炭素と水蒸気を反応させて二酸化炭素と水素としたり(ウォーターガスシフト反応(WGS))、圧力変換吸着法(PSA)を使用したりする方法がある。
【0021】
<メタノールの水蒸気改質反応:副生成物:二酸化炭素の生成抑制と除去>
メタノール改質反応によって生じた二酸化炭素を、水素と選択的に収集除去するには液体吸収法や膜分離法などを使用して行う。液体吸収法では、吸収用の液体として、メチルジエタノールアミン(MDEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルエタノールアミン(DMEA)、ポリアミン(PA)、ジエチレングリコール(DEG)などから適宜選択して用いる。
【0022】
例えば燃料電池にメタノール改質型水素製造装置を取り付けて運用する場合、メタノール改質反応槽の出口側に水素は透過するが一酸化炭素と二酸化炭素は通さない膜を設置すること(膜分離法)によって、水素のみを燃料電池へ供給するように構成できる。分離に用いる膜は例えば、スルホ化されたテトラフルオロエチレンを基にしたフッ素樹脂の共重合体であるナフィオン(登録商標)の膜や、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレン(PE)などのポリマー膜や、酸化アルミニウムやジルコニウムなどのセラミックス材料によるセラミック膜や、PdまたはVなどを用いた水素透過金属膜などが使われる。
【0023】
以下に、図を用いて本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明はこれら実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0024】
本明細書では、メタノール転換率(%)は、改質前のメタノールの量に対し、水素や二酸化炭素などへ改質されたメタノールの量の比を示す。また、仕様毎の触媒の評価は、各触媒のメタノール転換率(%)を測定し行った。
【0025】
<実施形態1 概要>
本実施形態のメタノール改質型水素製造触媒は、多孔質コアの内部に所定の触媒金属を分散した粒状の触媒分散多孔質コアを、ゾルゲル法で作製した水溶性触媒金属塩を含む触媒分散シェルでコーティングしたコアシェル構造を有するように構成される。特に、コアとシェルに分散した触媒金属が同一金属であり、さらにコアに分散した触媒金属の量(コアに対する重量%)よりも、シェルに分散した触媒金属の量(シェルに対する重量%)の方が大きいことを特徴とする。
【0026】
本明細書の実施例ではコアもシェルも共に、触媒金属としてCu、担持体としてSiO2を用いる例で説明する。なお本明細書中では、触媒分散多孔質コアをコアと、触媒分散シェルをシェルと略記する場合がある。以下、まずメタノール改質型水素製造触媒の構成について説明し、その次に製造方法を説明する。構成の説明時に触媒金属の重量%(wt%と表記する場合がある)の範囲についても説明する。
【0027】
<実施形態1 構成>:主に請求項1対応
実施形態1のメタノール改質型水素製造触媒は、多孔質コアの担持体の央部まで触媒金属が分散された触媒分散多孔質コアと、前記触媒分散多孔質コアの触媒金属と同一の触媒金属を有する触媒分散シェルによって前記触媒分散多孔質コアの表面の少なくとも一部、好ましくはすべてが覆われているコアシェル構造を有する(
図1参照)。
【0028】
<実施形態1 コアシェル構造の目的>
本発明の触媒は、後記するように触媒金属の重量%がコアよりも、コアを覆うシェルの方が高くなるように構成している。これはメタノールが触媒のコアの細孔を進行して、コアの央部付近の触媒金属と反応するよりも、触媒の表層のシェルで反応する率の方が高いと考えられるためである。とはいえシェルだけに触媒金属を多く集中させすぎると、改質反応時の温度で、シェルの触媒金属が集まって凝集するシンタリングが起きてしまう。シンタリングはシェルだけではなくコアに分散した触媒金属でも起きうるが、メタノール改質時の反応温度(例:300℃)のような高温では、触媒金属の融点以下であっても、シェルやコアの担持体物質表面に分散した触媒金属の粒子表面の金属原子が活発に動くために、担持体表面へ移動する表面拡散が起こる。表面拡散した原子が次々に移動していき、nm台の距離にある隣接触媒金属粒子に接触し一体化する。大きな触媒金属粒子ほど、その粒子表面の表面エネルギーが小さくより安定であるために、表面拡散が起こると、小さい触媒金属粒子はその原子が離脱していってより小さく、大きい粒子は原子が集まってより大きくなる粒子成長が起きる。又シンタリングには、融点以下の温度に加熱した際に、金属粒子表面が溶融し角や突起などが丸くなって滑らかになる(表面エネルギーが小さくなる)半融も含まれる。シンタリングが起きて凝集した触媒金属の表面積は、凝集前の分散した触媒金属の総表面積より小さくなるために触媒としての利用率が下がり、メタノール転換率が低下する。そのため、多孔質コア内にもシェルよりも少ない重量%の触媒金属を分散担持させ、メタノール改質に寄与させる。
【0029】
<実施形態1 構成:触媒分散多孔質コア(0101)>
触媒分散多孔質コアは、触媒金属が央部にまで分散されているように構成される。分散させるためにCuを含む硝酸銅等の水溶液を多孔質コアに浸透させる場合、単に水溶液に浸漬させても毛細管現象などによって浸透するが、一層効果的に浸透させるには真空浸透法(真空中で硝酸銅等の水溶液を加えた後、徐々に大気圧へ戻す)、振動(超音波振動など)による浸透促進や、温度調整法(温度を上げて浸透させる液体の粘度を下げる)などによって行うことができる。また触媒金属が央部まで分散される多孔質コアは、球形、立方体、直方体、短い柱状、細かく破砕された破片などの形状をした粒状の物体である。
【0030】
<実施形態1 構成:触媒分散多孔質コア(0101):触媒金属>:主に請求項2対応
コアの細孔に分散される触媒金属は、銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択されるいずれか一以上の金属、又は銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物であって触媒分散多孔質コアと後記する触媒分散シェルの触媒金属が同一金属であるように構成される。
【0031】
触媒用金属としては、反応性に富むd電子をもち、様々な酸化数をとることができる遷移金属が適している。メタノール改質用の触媒金属としては遷移金属の中でも、メタノール転換率が高く、所望の反応生成物ではないCOの生成が少なく、反応時の温度や環境への耐性が高く、比較的安価で入手しやすいCu、Fe、Ni、Ruなどが適している。そのため前記Cu、Fe、Ni、Ruから選択されるいずれか一以上の金属、又はCu、Fe、Ni、Ruから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物が好ましい。その他遷移金属としてはCo、Pt、Rh、Pd、Ir、Mo、W、La、Ceなどや、遷移金属の合金として、CuNi、CuCoなどを使うことができる。また金属間化合物としては、Cu―Zn―Al系、Cu―Zn―Cr系、Cu-Ni―Zn系、Rh―Mn系、Pd―Zn系、Cu―ZrO2系、Ni-Cl系や、ZrO2などを触媒として使うことができる。
【0032】
<実施形態1 構成:触媒分散多孔質コア(0101):コア素材>:主に請求項3対応
本明細書の実施例では、触媒分散多孔質コアは酸化シリコンを例としているが、酸化シリコン、酸化アルミニウム、ゼオライト、カーボン、メタルオキサイドのいずれかである一以上から構成されていてもよい。
【0033】
コアの素材としては、気体の反応に用いる触媒金属を担持する物質として、例えば次のような4つの特性が要求される。
(1)高い担持能力:担持体物質中に微細な孔が多く存在する多孔性構造を持つことで触媒金属粒子を均一に分散させ、触媒金属の大きな表面積を確保することにより、反応物との接触面積が増え反応速度を向上させることができるといった触媒金属を効果的に担持する高い担持能力が求められる。
(2)熱安定性:気体反応は通常高温下で行われることがあるため、熱的な膨張や収縮が少なく化学的な安定性が求められる。
(3)化学的安定性:担持体の物質は、反応条件下で、反応物や生成物との不要な相互作用を避けるために化学的な活性持たず、化学的に安定であることが望まれる。
(4)担持触媒金属との相互作用:触媒金属との親和性が高く、担持触媒金属の粒子が安定な状態で担持されることが望まれる。また触媒金属との間で電子伝達が起こり、触媒反応が効率的に進行することも重要である。このような触媒金属と担持体との相互作用が良好である必要がある。
これらの特性を満たす担持体物質として前記の酸化シリコン、酸化アルミニウム、ゼオライト、カーボン、メタルオキサイドのいずれかである一以上から構成された担持体を用いる。
【0034】
<実施形態1 構成:触媒分散多孔質コア(0101):触媒金属の重量%範囲>:主に請求項4対応
コアの細孔中に分散された触媒金属の割合は、5から25wt%であるように構成される。この割合の範囲は、本発明の水素製造触媒のコア単体(シェルなし)に分散させたCuの重量%を分流して作製した試料(1g)毎に、メタノール転換率(%)(触媒に接触する前のメタノールの量と、改質反応されたメタノールの量との比)を調査した結果(
図2)から求めた範囲である。コアの細孔中に分散された触媒金属の割合が0wt%以上5wt%未満の範囲においては、触媒活性点が少ないため、下限は5wt%以上とした。コアの細孔中に分散された触媒金属の割合が25wt%を超えると、メタノール改質反応時の温度による触媒金属のシンタリングが起きることを本発明の発明者は実験時に見出した。シンタリングが起きるとメタノール転換率が下がるため、コアの細孔中に分散された触媒金属の割合の上限を25wt%とした。下限は
図2に示すように、コアのCu重量%を10、20、30wt%と分流した際のメタノール転換率測定結果に対する2次の近似線から求めた。コアに分散されたCuの重量%の範囲下限は、上記のように5wt%未満では触媒活性点が少ないため、Cuの重量%は5wt%以上(メタノール転換率50%以上)が好ましく、メタノール転換率60%以上となる7.5wt%がより好ましく、65%以上となる10wt%以上が最も好ましい。上限は上記シンタリングによる理由から前記のように25wt%以下となる。
【0035】
触媒金属のシンタリングの確認方法としては、微細な部分の評価であればTEM(透過型電子顕微鏡)を使用したり、X線回折法によって結晶構造が変化していないか確認したりすることができる。一酸化炭素或いは水素の化学吸着法を用いることもできる。一酸化炭素と水素は、多くの金属に選択的に吸着する。この特性を利用することで金属表面積を評価することができる。または、触媒表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察してもよい。
【0036】
<実施形態1 構成:触媒分散シェル(0102)>
触媒分散シェルは、前記触媒分散多孔質コアの表面に前記触媒金属を分散させるように構成される。触媒分散シェルは、例えばゾルゲル法によって形成された三次元網目構造を持つシリカである。前記ゾルゲル法で作製した触媒分散シェルは、シェル自身の内部に分散する触媒金属とメタノールを反応させたり、下層のコア表面及びコアの内部に分散した触媒金属とメタノールを反応させたりするために、多孔質であることが好ましい。コアの多孔質を反映した細孔を有する多孔質であってもよいが、コアの多孔質を必ずしも反映せずに(反映してもよい)シェル自身が多孔質であることが最も好ましい。
【0037】
シェル材料の多孔質性評価のため、完成時シェルが、Cuが55wt%、SiO
2が45wt%の組成となるようなシェル形成材料を、コアを用いずに前記シェル材料単体で用いてゾルゲル法により試作した。前記試作品の細孔分布を調べた結果を
図3に示す。細孔分布はガス吸着法であるSF-Plot解析(マイクロトラック・ベル(株)、窒素吸着による測定)で調べた。第一ピークの細孔直径は0.66nm、第二ピークの細孔直径は0.97nmと、本明細書の実施形態のシェルは細孔を有する多孔質シェルであることが確認できた。
【0038】
<実施形態1 構成:触媒分散シェル(0102):シェル素材>
シェルを構成する触媒金属以外の素材は、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなどのシリコンアルコラートから得られるシリカであるが、酸化セリウム(CeO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化ベリリウム(BeO)等の担持体としての機械特性、伝熱特性、耐熱性等を向上する無機結晶成分、又はアルミニウム等の金属を添加してもよい。
【0039】
<実施形態1 構成:触媒分散シェル(0102):触媒金属の種類>:主に請求項2対応
シェルに分散される触媒金属は、銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択されるいずれか一以上の金属、又は銅、ニッケル、鉄、ルテニウムから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物であって前記触媒分散多孔質コアと触媒分散シェルの触媒金属が同一金属であるように構成される。
【0040】
触媒用金属としては、反応性に富むd電子をもち、様々な酸化数をとることができる遷移金属が適している。メタノール改質用の触媒金属としては遷移金属の中でも、メタノール転換率が高く、所望の反応生成物ではないCOの生成が少なく、反応時の温度や環境への耐性が高く、比較的安価で入手しやすいCu、Fe、Ni、Ruなどが適している。そのため前記Cu、Fe、Ni、Ruから選択されるいずれか一以上の金属、又はCu、Fe、Ni、Ruから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物が好ましい。その他遷移金属としてはCo、Pt、Rh、Pd、Ir、Mo、W、La、Ceなどや、遷移金属の合金として、CuNi、CuCoなどを使うことができる。また金属間化合物としては、Cu―Zn―Al系、Cu―Zn―Cr系、Cu-Ni―Zn系、Rh―Mn系、Pd―Zn系、Cu―ZrO2系、Ni-Cl系や、ZrO2などを触媒として使うことができる。
【0041】
<実施形態1 構成:触媒分散シェル(0102):触媒金属の重量%範囲>:主に請求項4対応
シェルに分散させる触媒金属の重量%を決めるために、触媒金属を分散していないコア(富士シリシア株式会社製シリカゲル(CARiACT(登録商標) G―10:平均粒径1.7mm))に、後記する製造方法で作製した水溶性触媒金属塩である酢酸銅(酢酸銅には限定されない、以下同じ)を含むシリコンアルコラートゾル溶液を3回コーティングした。前記のようにコアを3回コーティングした試料を、前記ゾル溶液中のCuの重量%を変えて作製した。完成したシェルに分散された触媒金属であるCuの量はシェルの総重量に対し45、50、55wt%である。このようなシェルにしか触媒金属であるCuが存在しない触媒の試料を用いて、各仕様(Cuの重量%)の試料1g当たりのメタノール転換率(%)を測定する実験を行った。
【0042】
その実験結果を
図4に示す。
図4は、横軸がシェルのCuの重量%を、縦軸がメタノール転換率(%)を示しており、測定結果に対する近似線も併記している。シェルのCu以外の成分はSiO
2である。シェルに対するCuの重量%が45wt%で、メタノール転換率が80.4%、50wt%で同93.0%、55wt%で同86.0%の結果だった。メタノール転換率が50%以上となるCuの重量%の範囲は約40.5%から約61.5%である。この実験では触媒分散シェルを3回コーティングしているが、製造工程負荷を考慮しコーティング回数を減らす場合には、シェルのメタノール転換率が高いCu重量%の仕様でコーティング回数を減らすことが好ましい。そのためメタノール転換率が80%以上となるように、Cu重量%下限は45wt%以上が好ましい。メタノール転換率80%以上となるCu重量%の上限は、
図4に示した近似線によれば55wt%以上である。しかし本発明の発明者は実験時にシェルのCuが55wt%を超えると、メタノール改質反応時の温度においてシンタリングが起きやすくなることを見出した。シンタリングが起きるとメタノール転換率低下が起こるため、シェルのCu重量%の上限は55wt%以下が好ましい。そのためメタノール転換率が80%以上となる好ましいシェルのCu重量%は、45wt%~55wt%である。より好ましいシェルのCuの重量%範囲は、メタノール転換率が90%以上となる48.1~53.9wt%である。
【0043】
<実施形態1 構成:触媒分散シェル(0102):製造工程負荷>
本発明の製造方法については、構成の説明の後に例を用いて説明を記載している。
【0044】
<コアへの触媒金属の分散>
コアへの触媒金属の分散は後記する本発明の触媒の製造方法にあるように、多孔質の粒状のシリカゲルなどを金属塩水溶液に浸漬し、シリカゲルなどの細孔に前記水溶液を浸透させることによって行う。粘性の低い金属塩水溶液を用いるために前記細孔に金属塩を分散させることができる。金属塩の分散量は、水溶液に溶かす触媒金属塩濃度を調整して対応する。浸透後に乾燥を例えば120℃12時間環境で行う。最終的には例えば400℃などといった触媒金属塩が分解する高温で加熱し、触媒金属塩中の触媒金属以外の物質を気体として分離除去する。このため、コアへの触媒金属の分散は1回のみ行う。高温加熱を繰り返すと触媒金属が凝集するシンタリングが起きやすくなることと、乾燥後に再浸漬すると、せっかく乾燥した触媒金属塩が、浸透した触媒金属塩水溶液に溶けだしてしまい、所望の分散量となりづらいためである。
【0045】
<シェルのコーティング>
例えばテトラエトキシシランなどのシリコンアルコラートを触媒金属塩水溶液に加えて作製したゾル溶液を、例えば多孔質の粒状のシリカゲルなどに加えて攪拌し、前記シリカゲルの表面にコーティングする。コーティング後にコーティングされたゾル溶液を乾燥(例:120℃12時間)する。所定の回数コーティングし乾燥実施後、高温加熱(例:400℃3時間)して、触媒金属塩中の触媒金属以外の物質を気体として分離除去するとともに、シリコンアルコラートを焼成しSiO2化し、シェルを形成する。コーティングの際、ゾル溶液は粘性が高いために、コーティングの土台として多孔質の粒状シリカゲルなどを用いても、その細孔にゾル溶液が浸透することは困難である。またコーティングしたゾル溶液を乾燥しゲルとした後であれば、その上に重ねて再度コーティングを行うことができる。コーティングされゲル化した元ゾル溶液に含まれる触媒金属塩の重量%は、1回目のコーティング、2回目のコーティング、3回目のコーティング、、、など、回数ごと、回数間で一定であるため、最終的に形成されたシェルの触媒金属の重量%はコーティング回数に拠らず一定となる(シェルに含まれる総触媒金属量(g)は当然コーティング回数によって変わる)。シェルは、コーティングのたびに乾燥が必要となるため、コーティング回数を増やすと、特に乾燥工程が増え、製造期間が長くなってしまい、コアへの触媒金属分散よりも工程負荷が増える。
【0046】
<実施形態1 構成:触媒分散シェル(0102):コーティング回数>
触媒分散シェルに分散するCuの重量%の検討試作時にはコーティングを3回行ったが、製造工程の負荷を考慮するとコーティング回数は少ない方がよい。そのため、コーティング回数とメタノール転換率の関係を調べる実験を行った。実験の試料はCuを分散していないコアを用い、完成時にシェルに対しCuが50wt%となるような(前記シェルCu重量%分流時にメタノール転換率がほぼ最大となった仕様)、例えば酢酸銅(酢酸銅には限定されない、以下同じ)を含むシリコンアルコラートゾル溶液を、回数を変えて前記コアへコーティングして作製した。作製した試料を用いて、メタノール転換率を測定した。コーティング回数とメタノール転換率の関係を調べた結果を
図5に示す。
図5には、コーティング回数を増やすとメタノール転換率が増加することが示されている。メタノール転換率50%を超えるのは2回コーティング以上の試料であり、80%を超えるのは3回コーティングした試料であった。なお前記のようにコーティング回数を増やしても、シェルに含有される触媒金属の重量%は一定であって増えないために、1回コーティングで形成したシェルに含まれる触媒金属重量%が、シンタリングが起こらない55wt%以下であるような材料でコーティング回数を増やしても、シェルに含まれる触媒金属はシンタリングが起きない。
【0047】
ところで前記したように、コーティング回数が増えると、製造工程の負荷が増えるため、できるだけコーティング回数を少なく抑えたいという要望がある。コアへのCu分散1回、またはシェル1回コーティングではメタノール転換率80%には届かない。2回コーティングでもまだメタノール転換率80%には届かないため、製造工程負荷としては2回コーティング(コア担持なし)と近い、コアへのCu1回分散かつシェル1回コーティングといったコアシェル構造を次に検討した。
【0048】
<実施形態1 構成:コアシェル構成>:主に請求項4対応
次にコアとシェルの両方にCuを分散させ担持した仕様について説明する。
図6は、Cuの重量%を変えて分散したコアに、シェルを1回コーティング(シェルのCuは前記同様全て50wt%)して作製した触媒のメタノール転換率(黒丸と、実線の近似線のグラフ)を示す。コアに分散されたCu重量%が0wt%のデータは、シェルのコーティング回数を分流した試料のデータ(
図5)を流用した。
図6の横軸はコアに分散させたCuの重量%、縦軸はメタノール転換率(%)を示す(近似線も併記した)。コアにCuを20wt%分散した時のメタノール転換率は88.6%だった。
【0049】
さらに、
図6のCuの重量%を変えて分散したコアにシェルを1回コーティング(シェルのCuは前記同様全て50wt%)して作製した触媒のメタノール転換率のデータと、
図2、4、5のデータを基に、Cuの重量%を変えて分散したコアにシェルを1回コーティングして作製した触媒のメタノール転換率のグラフとしてシェルのCu重量%が45wt%と55wt%の時のグラフを見積り併記した。シェルのCu重量%45wt%のグラフは
図6では白丸と、点線の近似線で示され、55wt%のグラフは白三角と、点線の近似線で示されている。
【0050】
図6に示すように、コアに分散したCu重量%の下限は、5wt%未満では触媒活性点が少ないため、5wt%以上であり、その時のコアシェル構造の触媒のメタノール転換率は40%以上である。同様にメタノール転換率40%となる上限は、コアに分散したCuのシンタリングが起きない25wt%(メタノール転換率80%以上)である。そのため触媒としては、シェル1回コーティング(シェルに分散したCuの重量%は45~55wt%)時のコアに分散したCuの重量%の範囲は5~25wt%であり、好ましくはメタノール転換率が約60%以上となる10~25wt%である。より好ましくはメタノール転換率80%以上となる条件として(
図6の近似線から範囲を求めると)、コアに分散したCu重量%15wt%以上25wt%以下、かつ1回コーティングのシェルに分散したCuの重量%が47wt%以上53.8wt%以下の範囲である。
【0051】
図6の結果から、コアのCuの重量%が0のときよりも10wt%の試料の方が、同じシェル1回コーティングであってもメタノール転換率が向上している。同様にコアのCuの重量%が10wt%よりも20wt%の試料のメタノール転換率の方が上がっている。これはメタノール改質反応にシェルの触媒金属であるCuだけではなく、コアに分散したCuも寄与していることを示している。触媒分散シェルの説明の最初の方で、シェル材料単体での多孔質性評価(細孔分布評価)結果(
図3)からシェルが多孔質であると述べた。
図6に示されたメタノール転換率の結果からも、シリコンアルコラートと水溶性触媒金属塩を基にゾルゲル法で形成したシェルは、緻密構造かつコアを完全被覆しているのではなく、メタノール蒸気と水蒸気を通すような多孔質構造または隙間を有していることがわかる。
【0052】
<実施形態1 構成:コアシェル構成:触媒1g当たりCu重量を尺度とした場合>
図7は、触媒金属と担持体物質から構成される各仕様の触媒1g当たりのCu重量(g)を横軸とし、縦軸はメタノール転換率(%)として、いままで説明に使用した
図2、4、6を一つにまとめた図である。
図7中の白丸と点線のグラフはシェルなし(コア担持のみと表記)で、コアにCuの重量%を変えて分散した場合のメタノール転換率を示す(
図2対応)。
図7中の白丸と実線のグラフは、コアへCuを分散せず(コア担持なしと表記)、シェルのコーティング回数を1から3回へ変えた場合のメタノール転換率を示す(
図4対応)。
図7中の黒丸と実線のグラフは、シェルは1回コーティングで、コアに分散するCuの重量%を変えた場合のメタノール転換率を示す(
図6対応)。個々のグラフについての説明は、
図2、3、5の初出時に説明しているため省略する。
【0053】
図7から、シェルのみ2回コーティングした試料のメタノール転換率と、シェル1回コーティングでコアにCuを10wt%または20wt%分散させた試料のメタノール転換率を比較すると、後者の方が高い。これらの試料はシェルのみコーティングを2回行う2工程で作製する触媒と、コアにCuを分散後にシェル1回コーティングする2工程で作製する触媒である。
図7に示す各グラフからはシェル3回コーティングした試料のメタノール転換率が最も高いが、Cuを分散したシェルを形成する工程を3回繰り替えさなければならず、3工程と製造工程負荷が大きくなる。そのため、コアへもCuを分散させ、シェルを1回コーティングで形成する2工程で作製する仕様が、製造負荷とメタノール転換率で示される触媒性能のバランスが最もよい。今回検討した製造方法では、コアに1回Cuを20wt%分散させ、シェルを1回コーティング(Cu50wt%)する2工程で作製する仕様がメタノール転換率88.6%となってもっとも良い。なお製造負荷増大が許容できるのであれば、よりメタノール転換率を向上させるために、コーティング回数を2回、3回と増やし総工程数を増やしてもよい。
【0054】
<実施形態1 構成:コアシェル構成:コアシェル構成のメリット>
本発明のメタノール改質型水素製造触媒では、上記説明のように触媒分散多孔質シェルのほうが触媒分散多孔質コアよりも触媒金属の重量%を大きくしていることが特徴である。そのほかの特徴として、触媒分散多孔質シェルの細孔径は、細孔径分布の第一ピークが0.66nmであり第二ピークが0.972nm、第三ピークが1.49nm(
図3)のように、1.5nm以下の細孔分布を持つ(1.5nm:第三ピークの径が大きい方の裾野、細孔分布の下限は第一ピークの径が小さい方の裾野である0.63nm)。触媒分散多孔質コアとして本実施形態で使用したシリカゲル(G-10)の平均細孔径は10nm(メーカウェブサイトによる)とシェルの細孔よりも1桁大きいサイズとしている。メタノール分子の直径は約0.4nmである。シェルの細孔よりもコアの細孔10nmのほうが、メタノール分子が央部付近まで進行しやすいと考えられる。したがってコアに用いる多孔質な物質の平均細孔径はメタノール分子直径の10倍以上となる6nm以上が好ましく、細孔径が大きくなりすぎると触媒金属の重量%を維持するには触媒金属の粒子径が大きくなり触媒としての効率が落ちるため、14nm以下程度であることが好ましい。一方、実験結果ではコアに担持するCuの量20wt%でメタノール転換率が80%弱とピークとなり、それ以上Cuを増やしてもシンタリングの影響もあってメタノール転換率は下がってしまう。したがって担持体の細孔に後からCuを分散させた場合には、分散させられるCuの量(wt%)と得られるメタノール転換率には限界がある。
【0055】
一方、Cuを担持していないコアにシェルをコーティングし、シェル内にCuを50wt%含むように構成した触媒では前記のように3回コーティングでメタノール転換率93%を達成した。その時の触媒1g当たりのCuの量は0.21gであり、コアに対するシェルの重量比(0.71)から見積もったシェルの厚さは、約0.1mm(コアの直径約1.7mm)であった。この方法ではコーティング3回と3工程要し製造工程の負荷が大きい。比較のため、シェルの形成材料を使ってゾルゲル法で製造した従来技術の粒状触媒を検討した場合、その表層の0.1mm厚程度のところでほとんどの反応が行われ、央部ではあまり反応が起こらず、央部の触媒金属が使われないと考えられる。Cuが50wt%の仕様では、1gの触媒に対しCuが0.5g含まれる。表層0.1mm厚部分のCuの重量は約0.13g、表層の下の直径1.7mmの球体に含まれるCuは約0.37gであり、このコアに含まれるCu約0.37gが有効利用されていないこととなる。
【0056】
前記説明のように、多孔質コアのみを使いコアの細孔に後からCuを分散配置する構成では多くのCuを担持できずメタノール転換効率も高い値を得にくい。シェルを3回コーティングすれば高いメタノール転換率を得られるが製造工程負荷が高い。コアを構成する素材にCuを含むように(例えばゾルゲル法で)製造すれば(従来技術)、高いメタノール転換率が見込めるが、表層0.1mm厚の下のCuが有効利用されずCuの利用率が低い。コアだけまたはシェルだけにCuを分散させる場合や、多孔質の粒状触媒に均一に同じ量のCuを分散させる場合には、このような問題がある。
【0057】
そのため本発明では、コアにCuを分散させて担持し、そのコア表面にコアより多くのCuを含むシェルを形成するコアシェル構造とすることにより、製造工程への負荷を大きく増やさずに、高いメタノール転換率を得たうえで、Cuの利用率を従来技術よりも向上した触媒を得ることができる。例えばコアシェル構造のコアにCu20wt%/シェルにCu50wt%1回コーティングした触媒であれば、メタノール転換率88.6%でCuが触媒中に0.29gという仕様であり、上記説明の従来技術の表面から央部まで均一にCuが分布する粒状触媒のCu0.5gよりも40%以上のCuを節約できる。
【0058】
<実施形態1 触媒の平均粒径>:主に請求項5対応
本発明のメタノール改質型水素製造触媒の平均粒径は1~5mmが好ましい。製造した触媒の平均粒径は小さい方が、反応槽内に収納した触媒の総表面積が大きくなるため反応効率が高くなる。しかし1mm以下の径では、触媒粒子間の空隙が狭くなって、反応槽の中へ原料となるメタノール蒸気と水蒸気が進行しにくくなってしまい、反応槽の入り口と出口の圧力差ΔPが大きくなるとともに(出口の方が、圧力が高い)、メタノール転換率が低くなる。ビーズ径が5mm以上の場合は、反応槽中触媒総表面積が小さくなるために、メタノール転換率が低くなる。そのため前記範囲が好ましい。
【0059】
<実施形態1 製造方法>:主に請求項6対応
以下、まず本発明のコアシェル構造の触媒の製造方法を、
図8、9を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明の検証のために行った実験を基に説明するが、使用する薬品や原料の量、加熱時間などに関しては、組成比を維持しつつ製造する触媒の量に応じて調整できる。
【0060】
<実施形態1 製造方法:コア:コア準備工程(S0901)>
コア準備工程は、所望の径の多孔質の粒状コアを準備する工程である。本実施形態1では、多孔質の粒状コアとしてシリカゲルを使用する。実験では富士シリシア株式会社製シリカゲル(CARiACT(登録商標) G―10:平均粒径1.7mm)を用いた。使用するコアの平均粒径は1~5mm程度が好ましい。コアに後の工程でコーティングするシェルは、触媒金属が45~55wt%含まれるため、厚さとして0.1mm程度となる。そのためコアも前記範囲が好ましい。
【0061】
コア準備工程で、触媒を製造する目的に対し十分に清浄なコアを入手できるのであれば、不純物除去等の、後記する前処理工程を次に行わなくてよい。清浄性に懸念ある場合には、水や酸等適切な溶媒で洗浄したり、加熱処理したりして不純物を除去する前処理工程を実施することで不純物を除去できる。
【0062】
コア準備工程には、製造され一般に市販されているコアを購入したり、これから製造しようとしている触媒の量に見合ったコアの量を取り分けたり、取り分けたコアを触媒製造に用いる装置や器具の所定の場所にセットしたりすることを含む。コアを触媒製造者が自身で製造する場合は多孔質なコアを製造するコア製造工程を含めてもよい。多孔質シリカゲルを触媒製造者自身がコアとして製造する場合には、シリコンアルコラート(例:テトラエトキシシラン)の加水分解反応によりケイ酸モノマーを発生させるゾルゲル法や、分相法、水酸化ナトリウム法など適宜製造方法を選択できる。
【0063】
<実施形態1 製造方法:コア:コア準備工程(S0901):材質>
本明細書では触媒分散多孔質コアとして酸化シリコン(シリカ、SiO2)を例として説明しているが、酸化シリコン、酸化アルミニウム、ゼオライト、カーボン、メタルオキサイドのいずれかである一以上からなる触媒分散多孔質コアであってもよい。
【0064】
コアの素材としては、気体の反応に用いる触媒金属を担持する物質として、前記のように、例えば高い担持能力、熱安定性、化学的安定性、担持触媒金属との相互作用といった4つの特性が要求される。これらの特性を満たす担持体物質として前記の酸化シリコン、酸化アルミニウム、ゼオライト、カーボン、メタルオキサイドのいずれかである一以上から構成された担持体を用いる。
【0065】
<実施形態1 製造方法:コア:前処理工程(S0902)>
前処理工程は、準備された多孔質コアを洗浄し不純物を除去する工程である。そのため、コア準備工程で触媒を製造する目的に対し十分に清浄なコアを入手できるのであれば、不純物除去を除去する前処理工程を行わなくともよい。
【0066】
前処理の方法として、清浄な水(蒸留水、より好ましくは純水)に浸しての洗浄や、酸素を含む雰囲気(空気中でも可)で高温加熱などが考えられる。本実施形態では、大気中で500℃2時間加熱を行う(本実施形態でコアとして使用したシリカゲルの焼成を兼ねて行う)。
【0067】
<実施形態1 製造方法:コア:コア浸漬工程(S0903)>
コア浸漬工程は、水溶性触媒金属塩を溶解した溶液中に前処理された多孔質コアを浸漬する工程である。触媒金属塩を溶解した溶液中に多孔質コアを浸漬すると、多孔質コアの央部まで前記溶液が浸透する。浸漬時間などの浸漬条件を調整することによって多孔質コアのどこまで浸透させるかを調整することができる。メタノール転換率を考慮すると央部まで浸透させることが好ましい。
【0068】
触媒金属がCuの場合、例えば硝酸銅溶液を使用する。硝酸銅溶液の濃度は、コアに分散するCuの量に応じて適宜設定することができる。硝酸銅以外にCuを含む無機塩(硫酸銅など)や、Cuを含む酢酸銅のような有機酸塩といった水溶性触媒金属塩を使用することができる。例えば、塩化銅、硫酸銅、炭酸銅、酢酸銅、銅エトキシドなどである。溶液に対してコアを浸漬するのではなく、コアに対し溶液を散布したりコアを収めた容器へ注入したりする態様でもよい。
【0069】
Cu以外の触媒金属としては、例えばニッケル、鉄、ルテニウムのいずれか一以上の金属、合金又は金属間化合物を使用することができる。ただし、後記するシェルの触媒金属と同じ金属となるように選択する。溶液は溶媒として水を用いる例で説明しているが、エタノール等の有機溶媒でもよく、水と混合可能な有機溶媒であれば水と有機溶媒の混合物でもよい。
【0070】
前記のように、触媒用金属としては、反応性に富むd電子をもち、様々な酸化数をとることができる遷移金属が適している。メタノール改質用の触媒金属としては遷移金属の中でも、メタノール転換率が高く、所望の反応生成物ではないCOの生成が少なく、反応時の温度や環境にへの耐性が高く、比較的安価で入手しやすいCu、Fe、Ni、Ruなどが適している。そのため前記Cu、Fe、Ni、Ruから選択されるいずれか一以上の金属、又はCu、Fe、Ni、Ruから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物が好ましい。その他遷移金属としてはCo、Pt、Rh、Pd、Ir、Mo、W、La、Ceなどや、遷移金属の合金として、CuNi、CuCoなどを使うことができる。また金属間化合物としては、Cu―Zn―Al系、Cu―Zn―Cr系、Cu-Ni―Zn系、Rh―Mn系、Pd―Zn系、Cu―ZrO2系、Ni-Cl系や、ZrO2などを触媒として使うことができる。
【0071】
触媒金属塩を溶解した溶液中に多孔質コアを浸漬すると、コアの孔内に前記溶液の溶媒が残留する。残留した溶媒を除去するために、溶液が浸透した多孔質コアを乾燥する乾燥工程を行ってもよい。乾燥は、例えば換気される恒温槽など用い空気雰囲気で120℃、12時間の条件で行う。
【0072】
本実施形態では、コアに浸漬する溶液として、触媒金属であるCuの塩である硝酸銅を溶解した硝酸銅水溶液を用いる。多孔質の担持体に溶媒に溶解した触媒金属塩を吸着させる際には、一般的に使用されるincipient wetness法を用いた。多孔質コアに対して、触媒金属塩を溶かした溶液を徐々に加え、担持体の細孔に吸着しきる量よりもやや多い(多すぎない、1.5倍以下)量まで加えるという方法である。先に説明した本実施形態のデータ(
図2、6、7)を取得した実験では、以下のようにコア浸漬工程を行った。なお、コアに溶液を浸漬(含侵)させる方法として、incipient wetness法以外の方法を用いてもよい。
【0073】
<実施形態1 製造方法:コア:コア浸漬工程:溶液調整>
コア担持体として前記のように富士シリシア化学株式会社製シリカゲルG-10を用いた場合、製造メーカが開示している細孔容積は1.3ml/gである、この細孔容積によって浸漬に用いる溶液量が定まり、溶液に溶解する硝酸銅濃度を調整する。本実施形態では、9gのシリカゲルG-10に対し、硝酸銅(II)三水和物3.8gを14mlの水に溶解した14mlの硝酸銅水溶液を作製した。9gのシリカゲルG-10の細孔容積は11.7ml(メーカウェブサイト掲載データ:細孔容積1.3ml/gによる)であるため、若干の尤度(+20%)を含め14mlとしている。
【0074】
<実施形態1 製造方法:コア:コア浸漬工程:含侵>
前記調整した水溶液を、9gのシリカゲルG-10に含侵(浸漬)させた。シリカゲルを入れた容器に水溶液を注いだが、含侵法によっては逆に水溶液を入れた容器にシリカゲルを入れてもよい。
【0075】
硝酸銅水溶液などを多孔質コアに含侵(浸漬)させる場合、単に水溶液に浸漬させても毛細管現象などによって細孔内へ浸透するが、一層効果的に浸透させるには真空浸透法(真空中で硝酸銅等の水溶液を加えた後、徐々に大気圧へ戻す)、振動(超音波振動など)による浸透促進や、温度調整法(温度を上げて浸透させる液体の粘度を下げる)などの方法によって行うことができる。
【0076】
<実施形態1 製造方法:コア:コア浸漬工程:乾燥>
前記水溶液を含侵(浸漬)させた前記シリカゲルG-10から、溶媒である水を除去する。120℃空気雰囲気内で12時間加熱処理することにより、前記水を気化させて除去し、硝酸銅を前記シリカゲルG-10の細孔内に分散配置した。
【0077】
<実施形態1 製造方法:コア:コア触媒金属担持工程(S0904)>
コア触媒金属担持工程は、多孔質コアに分散された触媒金属塩を加熱分解し、多孔質コアに触媒金属を担持させる工程である。コアに分散された触媒金属塩を加熱分解するために、コアを高温加熱し、コアに浸漬した触媒金属塩溶液の触媒金属以外の成分を除去し、触媒金属又は酸化した触媒金属の粒子としてコアに形成し担持するための処理である。その条件の一例は、空気雰囲気において400℃加熱を行う。例えば溶液として前記コア浸漬工程で硝酸銅を使用した場合には、400℃3時間加熱処理により硝酸成分は酸素と反応して、窒素酸化物として排出され除去できる。
【0078】
コアの細孔内に分散した触媒金属が酸化している場合、メタノール改質に用いる前に還元した方がよいが、還元工程はシェル形成後にシェルの触媒金属と一括で一度に行ってもよい。シェル形成時に空気中の加熱処理を行うことから、コア単体で還元処理を行ってもシェル関連の工程実施時に再度酸化する可能性があるため、一括で還元を行う方が1工程省略でき好ましい。
【0079】
<実施形態1 製造方法:シェル:前駆体膜形成工程(S0905)>
前駆体膜形成工程は、水溶性触媒金属塩を溶解したシリコンアルコラートの加水分解ゾル溶液に前記コア触媒金属担持工程を経た多孔質コアを浸漬し、多孔質コア表面に前駆体膜を形成する工程である。前駆体膜は、後記するシェル形成工程での加熱により、触媒金属を担持するシリカ膜を形成することとなる前段階の膜である。
【0080】
加水分解ゾル溶液の例としては、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなどのシリコンアルコキシドと水の混合液に水溶性触媒金属塩を加えて攪拌し調製したゾルである。水溶性触媒金属塩としては、水に溶解するCuの塩や加水分解反応する有機銅化合物が使用できる。具体的には、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、炭酸銅、酢酸銅、銅エトキシド、等をあげることができる。前記水溶性触媒金属塩に変えて微細な銅粒子を混合するようにしてもよい。
【0081】
製造方法の説明では、触媒金属の例としてCuを用いて説明している。一般に触媒用金属としては、反応性に富むd電子をもち、様々な酸化数をとることができる遷移金属が適している。メタノール改質用の触媒金属としては遷移金属の中でも、メタノール転換率が高く、所望の反応生成物ではないCOの生成が少なく、反応時の温度や環境への耐性が高く、比較的安価で入手しやすいCu、Fe、Ni、Ruなどが適している。そのため前記Cu、Fe、Ni、Ruから選択されるいずれか一以上の金属、又はCu、Fe、Ni、Ruから選択される一以上の金属を含む合金又は金属間化合物が好ましい。その他遷移金属としてはCo、Pt、Rh、Pd、Ir、Mo、W、La、Ceなどや、遷移金属の合金として、CuNi、CuCoなどを使うことができる。また金属間化合物としては、Cu―Zn―Al系、Cu―Zn―Cr系、Cu-Ni―Zn系、Rh―Mn系、Pd―Zn系、Cu―ZrO2系、Ni-Cl系や、ZrO2などを触媒として使うことができる。
【0082】
<実施形態1 製造方法:シェル:前駆体膜形成工程:ゾル溶液の作製>
本実施形態では、特記しない限りシェル完成時にシェルの組成が50wt%Cu/SiO2となるように調製したゾル溶液を使用した(例外はシェルの組成を分流する実験である)。水(蒸留水。純水がより好ましい)120mlへ、水溶性触媒金属塩として酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社)7.85gを40℃で、溶解するまで攪拌した。溶解した酢酸銅水溶液の温度が室温まで戻った後、前記酢酸銅水溶液へテトラエトキシシラン(関東化学株式会社)8.67gを2時間程かけて一滴ずつ滴下した。滴下し終えた後、約12時間弱く攪拌し、その後室温で1日放置した。このようにしてゾル溶液を作製した。
【0083】
<実施形態1 製造方法:シェル:前駆体膜形成工程:ゾル溶液のコーティング>
作製したゾル溶液に前記多孔質コアを浸漬してもよいし、前記コアに対しゾル溶液をコーティングしたり、加えたりしてもよい。ゾル溶液を前記コアにコーティングする際、コア同士が近接し塊を形成する可能性がある。コア同士を分離するために適宜攪拌する。前記コアにゾル溶液がコーティングされたら、空気雰囲気中で120度、12時間乾燥する。乾燥中にも、シリカゲル同士が固着し塊とならないように適宜攪拌するとよい。コーティングされたゾル溶液は乾燥しゲルとなる。
【0084】
<実施形態1 製造方法:シェル:シェル形成工程(S0906)>
シェル形成工程は、前駆体膜形成工程で形成された前駆体膜中の水溶性触媒金属塩を加熱分解し、触媒分散シェルを形成する工程である。シェル形成工程では例えば空気雰囲気中で400℃3時間加熱することにより、シェルのシリコンアルコラート中のアルコールを蒸発させ、水溶性触媒金属塩(本実施形態の例では酢酸銅)を加熱分解し触媒金属以外の成分を除去し、触媒金属又は酸化した触媒金属の粒子として、3次元の網目構造を有するシリカからなるシェルに担持する。
【0085】
シェル形成工程で作製されたシェルのシリカは、多孔質であることが望ましい。シリカが接しているコアの多孔質形状を反映した多孔質となっていてもよい。
【0086】
多孔質コアに分散させた触媒金属量の重量%よりも、コア表面に形成したシェルに分散させた触媒金属(コアに分散させた触媒金属と同一)の重量%を大きくしたコアシェル構造の触媒とすることにより、同じ触媒金属量を用いた触媒よりもメタノール転換効率の高い触媒とすることができる。
【0087】
<実施形態2 概要>:主に請求項7対応
実施形態1で作製したメタノール改質型水素製造触媒に含まれる触媒金属に対し、メタノール改質反応実施前に、還元を行う活性化工程を有するように構成された製造方法である。実施形態1の製造方法を基礎とする実施形態2の製造方法について
図10を用いて説明する。
図10に示す、コア準備工程(S1001)からシェル形成工程(S1006)までは実施形態1と同様のため説明を省略する。実施形態2の製造方法特有の工程である活性化工程(S1007)のみ説明する。
【0088】
<実施形態2 製造方法:活性化工程(S1007)>
活性化工程は、実施形態1の製造方法のコア準備工程からシェル形成工程までを経て作製されたメタノール改質型水素製造触媒に対して、使用前に280℃~320℃の温度範囲の還元雰囲気で活性化処理を行う工程である。還元雰囲気とするために還元剤であるガスを供給する。前記ガスは、例えば水素ガスや、COガスまたはCOとCO2の混合ガスなどを使用できる。
【0089】
触媒のシェル及びコアに分散された酸化触媒金属(本実施形態では少なくとも表面が酸化された酸化銅)を還元し、触媒金属(本実施形態ではCu)とする活性化工程を、実施形態1の製造方法のコア準備工程からシェル形成工程までを経て作製された直後のメタノール改質型水素製造触媒に対し1回だけ行うだけではなく、メタノール改質の実施から中断といったバッチ処理1回毎に、メタノール改質実施前に行うように構成することが好ましい。
【0090】
還元用の前記ガスは新規に供給してもよいが、メタノール改質で生じる水素ガス、COガス、COとCO2の混合ガスのいずれか一以上を一定量保存して置き、次回のメタノール改質前に還元剤として使用するように構成することができる。メタノール改質反応で生じる物質のみであるため、触媒の汚染等の不安なく使用できる。
【0091】
活性化工程での還元反応後、大気等酸素を含む雰囲気に置換せずにメタノール蒸気と水蒸気を導入しメタノール改質反応を行う。メタノール改質を中断(再開の予定がある中断)する時は、装置内に大気などを導入せず、装置内を不活性ガス(窒素ガス)で充てんすることによって、触媒金属(Cuなど)表面に酸化膜が形成され、改質反応の効率が低下することを防止できる。
【0092】
<効果>
本発明のコアシェル構造のメタノール改質型水素製造触媒である、多孔質コアに分散させた触媒金属量の重量%よりも、コア表面に形成したシェルに分散させた触媒金属(コアに分散させた触媒金属と同一)の重量%を大きくしたコアシェル構造の触媒とすることによって、同じ触媒金属量を用いた触媒よりもメタノール転換効率の高い触媒(すなわち触媒金属の利用率の高い触媒)とすることができる。