IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特開2024-175922印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置
<>
  • 特開-印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置 図1
  • 特開-印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置 図2
  • 特開-印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置 図3
  • 特開-印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置 図4
  • 特開-印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置 図5
  • 特開-印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175922
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20241212BHJP
   B41M 1/40 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
B41J2/01 109
B41J2/01 303
B41J2/01 305
B41J2/01 203
B41J2/01 209
B41J2/01 401
B41J2/01 307
B41M1/40 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094025
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】松元 遼太
(72)【発明者】
【氏名】裏地 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】満間 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】古川 和明
【テーマコード(参考)】
2C056
2H113
【Fターム(参考)】
2C056EA01
2C056EB37
2C056EC07
2C056EC11
2C056EC12
2C056EC33
2C056FA13
2C056FB01
2C056FB09
2C056FB10
2C056FC06
2C056HA07
2C056HA29
2C056HA38
2H113AA04
2H113AA05
2H113BB09
2H113BB23
(57)【要約】
【課題】屈曲部を有する板にインクジェット法を用いて印刷層を効率良く形成できる印刷層付き板の製造方法を提供すること。
【解決手段】印刷層付き板の製造方法は、板厚方向に屈曲する屈曲部を有する板の主面にインクジェット法を用いて印刷層を形成する印刷層付き板の製造方法であって、それぞれ少なくとも1つのノズルを備える複数のプリントヘッドを用い、前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させつつ前記複数のプリントヘッドの前記ノズルからインクを吐出することにより、前記主面に印刷層を形成するに際し、前記インクを吐出する前記ノズルから前記主面までの距離が20mm以下になるように、前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚方向に屈曲する屈曲部を有する板の主面にインクジェット法を用いて印刷層を形成する印刷層付き板の製造方法であって、
それぞれ少なくとも1つのノズルを備える複数のプリントヘッドを用い、
前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させつつ前記複数のプリントヘッドの前記ノズルからインクを吐出することにより、前記主面に印刷層を形成するに際し、前記インクを吐出する前記ノズルから前記主面までの距離が20mm以下になるように、前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させる、印刷層付き板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させる処理として、前記板を動かさずに、前記複数のプリントヘッドを前記主面の前記屈曲部の形状に応じて上昇または下降させつつ印刷進行向きに移動させる処理を行う、印刷層付き板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記複数のプリントヘッドは、前記印刷進行向きの位置が異なる複数の前記ノズルをそれぞれ備え、
前記複数のプリントヘッドを前記複数のノズルの開口面が水平面に対し平行な状態を維持したまま移動させ、前記主面の傾きに応じて、前記印刷進行向きの位置が異なる前記複数のノズルのうち、前記主面までの距離が20mm以下の前記印刷進行向き側または当該印刷進行向き側に対する反対側の前記ノズルのみから前記インクを吐出する、印刷層付き板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記主面までの距離が10mm以下の前記ノズルから前記インクを吐出する、印刷層付き板の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記複数のプリントヘッドは、前記印刷進行向きの位置が異なる2つ以上の前記プリントヘッドにより構成され、かつ、前記印刷進行向きに直交する印刷幅方向に並ぶように配置された複数の前記ノズルを備え、前記印刷進行向き側から見たときに、互いに隣り合う一方の前記プリントヘッドにおける前記印刷幅方向一端側の部位と、他方の前記プリントヘッドにおける前記印刷幅方向他端側の部位とが重なるように配置されている、印刷層付き板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記複数のプリントヘッドは、前記印刷幅方向に互いにずれた状態で配置された3つ以上の前記プリントヘッドにより構成されている、印刷層付き板の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記互いに隣り合う前記プリントヘッドにおける前記印刷進行向き側から見たときに重なる部位には、それぞれ前記ノズルが配置されており、
前記主面の印刷領域における単位面積当たりの前記インクの着弾数が等しくなるように、前記ノズルからの前記インクの吐出状態を制御する、印刷層付き板の製造方法。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記印刷層付き板は、前記印刷層が形成された印刷領域と、前記印刷層が形成されていない非印刷領域と、を備え、
前記互いに隣り合う前記プリントヘッドにおける前記印刷進行向き側から見たときに重なる部位には、それぞれ前記ノズルが配置されており、
前記印刷領域と前記非印刷領域との境界のうち前記印刷進行向きに対して交差する前記境界の形状に応じて、前記ノズルからの前記インクの吐出タイミングを制御する、印刷層付き板の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記複数のプリントヘッドは、1回の前記印刷進行向きへの移動により、前記主面の印刷領域における前記印刷幅方向全体に前記印刷層を形成できるように配置されている、印刷層付き板の製造方法。
【請求項10】
請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記印刷層形成時における前記ノズルのメニスカスの圧力設定値に対する圧力変動の絶対値を0.2kPa以下に維持しながら前記インクを吐出する、印刷層付き板の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記屈曲部は、1つの曲げ軸を中心にして屈曲している、印刷層付き板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の印刷層付き板の製造方法において、
前記屈曲部の曲率半径は、10mm以上10000mm未満である、印刷層付き板の製造方法。
【請求項13】
板厚方向に屈曲する屈曲部を有する板の主面にインクジェット法を用いて印刷層を形成することにより印刷層付き板を製造する印刷装置であって、
それぞれ少なくとも1つのノズルを備える複数のプリントヘッドと、
前記複数のプリントヘッドの前記ノズルからインクを吐出させることにより前記主面に前記印刷層を形成する吐出制御部と、
前記インクを吐出する前記ノズルから前記主面までの距離が20mm以下になるように、前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させる相対移動部と、を備える、印刷装置。
【請求項14】
請求項13に記載の印刷装置において、
前記相対移動部は、
前記板を動かない状態で保持する板保持部と、
前記複数のプリントヘッドを移動させるプリントヘッド移動部と、
前記複数のプリントヘッドを前記主面の前記屈曲部の形状に応じて上昇または下降させつつ印刷進行向きに移動させるように前記プリントヘッド移動部を制御するプリントヘッド移動制御部と、を備える、印刷装置。
【請求項15】
請求項14に記載の印刷装置において、
前記複数のプリントヘッドは、前記印刷進行向きの位置が異なる複数の前記ノズルをそれぞれ備え、
前記プリントヘッド移動制御部は、前記複数のプリントヘッドを前記複数のノズルの開口面と水平面とが平行な状態を維持したまま移動させるように前記プリントヘッド移動部を制御し、
前記吐出制御部は、前記主面の傾きに応じて、前記印刷進行向きの位置が異なる前記複数のノズルのうち、前記主面までの距離が20mm以下の前記ノズルから前記インクを吐出させる、印刷装置。
【請求項16】
請求項14に記載の印刷装置において、
前記複数のプリントヘッドは、前記印刷進行向きに直交する印刷幅方向に並ぶように配置された複数の前記ノズルを備え、前記印刷進行向き側から見たときに、互いに隣り合う一方の前記プリントヘッドにおける前記印刷幅方向一端側の部位と、他方の前記プリントヘッドにおける前記印刷幅方向他端側の部位とが重なるように配置されている、印刷装置。
【請求項17】
請求項16に記載の印刷装置において、
前記複数のプリントヘッドは、前記印刷幅方向に互いにずれた状態で配置された3つ以上の前記プリントヘッドにより構成されている、印刷装置。
【請求項18】
請求項16または請求項17に記載の印刷装置において、
前記互いに隣り合う前記プリントヘッドにおける前記印刷進行向き側から見たときに重なる部位には、それぞれ前記ノズルが配置されており、
前記吐出制御部は、前記主面の印刷領域における単位面積当たりの前記インクの着弾数が等しくなるように、前記ノズルからの前記インクの吐出状態を制御する、印刷装置。
【請求項19】
請求項16または請求項17に記載の印刷装置において、
前記印刷層付き板は、前記印刷層が形成された印刷領域と、前記印刷層が形成されていない非印刷領域と、を備え、
前記互いに隣り合う前記プリントヘッドにおける前記印刷進行向き側から見たときに重なる部位には、それぞれ前記ノズルが配置されており、
前記吐出制御部は、前記印刷領域と前記非印刷領域との境界のうち前記印刷進行向きに対して交差する前記境界の形状に応じて、前記ノズルからの前記インクの吐出タイミングを制御する、印刷装置。
【請求項20】
請求項14から請求項17のいずれか一項に記載の印刷装置において、
前記複数のプリントヘッドは、1回の前記印刷進行向きへの移動により、前記主面の印刷領域における前記印刷幅方向全体に前記印刷層を形成できるように配置されている、印刷装置。
【請求項21】
請求項14から請求項17のいずれか一項に記載の印刷装置において、
前記印刷層形成時における前記ノズルのメニスカスの圧力設定値に対する圧力変動の絶対値を0.2kPa以下に維持する水頭圧維持部を備える、印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーナビゲーションシステムまたはオーディオなどの車載用情報機器、あるいは、携帯通信機器は、表示装置を備える。表示装置におけるディスプレイの前面には、接着層を介して板状の透明板である保護カバーが設けられる。保護カバーのディスプレイ側の面には、例えば、遮光性の印刷層が枠状に設けられる。印刷層は、ディスプレイ側の配線を隠蔽し美観を保つ機能、または、バックライトの照明光を隠蔽してディスプレイの周囲から照明光が漏れるのを防止する機能を有する。
近年、車載用表示装置のカバーガラス形状として、大型で屈曲部を備えた複雑な形状が求められている。曲面への印刷層の形成方法としては、例えば特許文献1に記載のインクジェット法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-197850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、インクジェット法のプリントヘッドが単一であるため、印刷対象物が大型化すると、プリントヘッドを複数回往復させて印刷を行う必要があり、生産効率が低いという課題があった。
【0005】
本発明は、屈曲部を有する板にインクジェット法を用いて印刷層を効率良く形成できる印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の印刷層付き板の製造方法は、板厚方向に屈曲する屈曲部を有する板の主面にインクジェット法を用いて印刷層を形成する印刷層付き板の製造方法であって、それぞれ少なくとも1つのノズルを備える複数のプリントヘッドを用い、前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させつつ前記複数のプリントヘッドの前記ノズルからインクを吐出することにより、前記主面に印刷層を形成するに際し、前記インクを吐出する前記ノズルから前記主面までの距離が20mm以下になるように、前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させる。
【0007】
本発明の一態様の印刷装置は、板厚方向に屈曲する屈曲部を有する板の主面にインクジェット法を用いて印刷層を形成することにより印刷層付き板を製造する印刷装置であって、それぞれ少なくとも1つのノズルを備える複数のプリントヘッドと、前記複数のプリントヘッドの前記ノズルからインクを吐出させることにより前記主面に前記印刷層を形成する吐出制御部と、前記インクを吐出する前記ノズルから前記主面までの距離が20mm以下になるように、前記複数のプリントヘッドと前記板とを相対移動させる相対移動部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屈曲部を有する板にインクジェット法を用いて印刷層を効率良く形成できる印刷層付き板の製造方法、および、印刷装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷層付き板の模式図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のIB-IB線に沿う断面図である。
図2】前記一実施形態における印刷装置の概略構成を示す側面図である。
図3】前記一実施形態における印刷装置の概略構成を示す平面図である。
図4】前記一実施形態におけるインクヘッドにおけるノズルの配置状態を示す模式図である。
図5】前記一実施形態における印刷層形成時におけるインクヘッドと板との位置関係を示す模式図であり、(A)は板水平面部に印刷層を形成する場合の位置関係を示し、(B)は第1の板傾斜面部に印刷層を形成する場合の位置関係を示す。
図6】前記一実施形態における制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、数値については四捨五入の範囲が含まれる。
【0011】
(印刷層付き板)
まず、本実施形態の印刷層付き板の構成について説明する。
図1は、印刷層付き板の模式図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のIB-IB線に沿う断面図である。
図1(A),(B)に示す印刷層付き板GPは、板Gと、板G上に形成される印刷層Pと、を備える、平面視で長方形状の積層体である。
印刷層付き板GPの用途は、任意であって良いが、ディスプレイ用のカバーガラスとして使用されることが好ましく、車載ディスプレイ用のカバーガラスとして使用されることが好ましい。すなわち、本実施形態においては、図示しないディスプレイの表示面側に印刷層付き板GPが設けられることにより、表示装置、好ましくは車載表示装置が製造されることが好ましい。ディスプレイは、印刷層付き板GPの印刷層Pの側と貼合されることが好ましい。
なお、以下の説明において、印刷層付き板GPの長手方向をX軸方向とし、短手方向をY軸方向とし、厚み方向をZ軸方向とする。X軸方向に沿う図1(A),(B)における右方向をX1方向とし、左方向をX2方向とする。Y軸方向に沿う図1(A)における上方向をY1方向とし、下方向をY2方向とする。Z軸方向に沿う図1(B)における上方向をZ1方向とし、下方向をZ2方向とする。
【0012】
(板)
板Gは、印刷層Pが形成される第1の主面G1と、第1の主面G1の反対側に位置する第2の主面G2と、を備える。板Gは、第1の平坦部GA1と、第1の屈曲部GB1と、傾斜部GCと、第2の屈曲部GB2と、第2の平坦部GA2と、を備える。第1,第2の平坦部GA1,GA2および傾斜部GCは、本実施形態においては曲率半径が10000mm以上の平面であるが、これに限られず、曲面であっても良い。なお、本願において、曲率半径が10000mm以上の面を平面とし、10000mm未満の面を曲面と定義する。第1,第2の屈曲部GB1,GB2の曲率半径は、第1,第2の平坦部GA1,GA2および傾斜部GCの曲率半径よりも小さい。第1,第2の屈曲部GB1,GB2の曲率半径は、10000mm未満であり、例えば1000mm以下であり、500mm以下、300mm以下である。第1,第2の屈曲部GB1,GB2の曲率半径は、10mm以上であることが好ましく、50mm以上であることがさらに好ましい。
【0013】
第1の平坦部GA1は、板GにおけるX2方向側の部位を構成する。
第1の屈曲部GB1は、第1の平坦部GA1のX1方向側に隣接し、第1の主面G1が凹形状になり、第2の主面G2が凸形状になるように屈曲している部位である。第1の屈曲部GB1は、Y軸方向に平行な曲げ軸を中心にして屈曲している。曲げ軸は、第2の主面G2における第1の屈曲部GB1を構成する部位の曲率円の中心軸といえる。
傾斜部GCは、第1の屈曲部GB1のX1方向側に隣接し、第1の平坦部GA1に対して傾斜角度θ1傾いている。第1の平坦部GA1が、XY平面、すなわち水平面Mに対して平行である場合、傾斜部GCは、水平面Mに対して傾斜角度θ1傾いている。
第2の屈曲部GB2は、傾斜部GCのX1方向側に隣接し、第1の主面G1が凸形状になり、第2の主面G2が凹形状になるように屈曲している部位である。第2の屈曲部GB2は、第1の屈曲部GB1と同様に、Y軸方向に平行な曲げ軸を中心にして屈曲している。曲げ軸は、第1の主面G1における第2の屈曲部GB2を構成する部位の曲率円の中心軸といえる。
第2の平坦部GA2は、第2の屈曲部GB2のX1方向側に隣接し、板GにおけるX1方向側の部位を構成する。第2の平坦部GA2は、第1の平坦部GA1に対して平行である。
【0014】
なお、板Gは、上述の形状に限られず、少なくとも1つの屈曲部を備えれば良く、任意の形状であって良いが、第1の主面G1側に凹面となる湾曲面を有する形状が好ましい。このような形状としては、例えば、第1の主面G1全体が曲面となるような湾曲形状、第1の主面G1側に凹または凸となる屈曲部を少なくとも1つずつ備えるS字形状、第1の平坦部GA1および第1の屈曲部GB1を備えない形状、第2の屈曲部GB2および第2の平坦部GA2を備えない形状、などが挙げられる。S字形状としては、上述のような第1の平坦部GA1と、第1の屈曲部GB1と、傾斜部GCと、第2の屈曲部GB2と、第2の平坦部GA2とを有するものや、さらに、第1の平坦部GA1、傾斜部GC、第2の平坦部GA2が湾曲面に置き換えられた形状が挙げられる。また、屈曲部を3つ以上備えた形状であってもよい。このような形状であると、スクリーン印刷などのその他の手段で印刷層を形成することが難しく、本実施形態による印刷方法が特に有効である。第2の平坦部GA2は、第1の平坦部GA1に対して傾いていても良い。第2の屈曲部GB2の曲率半径は、第1の屈曲部GB1の曲率半径と同じであっても良いし、異なっていても良い。板Gは、X1方向側またはX2方向側の端部に、さらに屈曲部および平坦部を備えても良い。曲げ軸は、Y軸方向に平行でなくとも良い。
また、板Gは、平面視において長方形状であるが、多角形、円形、楕円形、その他のいかなる形状であっても良い。
【0015】
板Gは、1つの屈曲部において、方向が異なる複数の曲げ軸が存在しない、つまり一方向の曲げ軸のみが存在することが好ましい。
板Gは、複数の屈曲部を備える場合、図1(A),(B)に示すように、各屈曲部の曲げ軸が互いに平行であることが好ましいが、互いに平行でなくても良い。
【0016】
板Gが例えばガラスの場合、板Gの厚みは、特に制限されるものではないが、化学強化処理を効果的に行うために、通常は5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。また、カーナビゲーションなどの車載用ディスプレイ装置のカバーガラスに用いる場合には、強度の観点から、ガラスの厚みは0.2mm以上が好ましく、0.8mm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましい。すなわち、ガラスである場合の板Gの厚みは、好ましくは0.2mm以上5mm以下、より好ましくは0.8mm以上3mm以下、さらに好ましくは1mm以上3mm以下である。
【0017】
板Gにおける第1,第2の屈曲部GB1,GB2の曲げ軸に平行な方向の長さ、つまり板Gの幅は、100mm以上300mm以下であることが好ましい。ここでの幅とは、第1,第2の屈曲部GB1,GB2の曲げ軸に平行な方向における、板Gの一方側の端部から他方側の端部までの第1の主面G1に沿う長さを指す。
板Gにおける第1,第2の屈曲部GB1,GB2の曲げ軸に直交する方向の長さは、350mm以上1000mm以下であることが好ましい。ここでの長さとは、第1,第2の屈曲部GB1,GB2の曲げ軸に直交する方向における、板Gの一方側の端部から他方側の端部までの第1の主面G1に沿う長さを指す。
幅および第1,第2の屈曲部GB1,GB2の曲げ軸に直交する方向の長さが上述の好ましい範囲の板Gは、車載用表示装置のカバーガラス用途に好適に用いられ、本実施形態における印刷方法が有用である。
【0018】
板Gの材料は、任意の材料であって良く、ガラスや、セラミクス、樹脂、木材、金属などを挙げられるが、ガラスであることが好ましい。
板Gがガラス製である場合、板Gは、強化ガラスであることが好ましく、化学強化ガラスであることがより好ましい。板Gが化学強化ガラスである場合、DOL、つまり板Gの圧縮応力層の厚みは、例えば5μm以上であることが好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。また、DOLは、例えば180μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0019】
CS、つまり圧縮応力層における表面圧縮応力は、500MPa以上が好ましく、650MPa以上がより好ましく、750MPa以上がさらに好ましい。CSの上限は特に限定されないが、例えば、CSは、1200MPa以下が好ましい。
ガラスに化学強化処理を施して化学強化ガラスを得る方法は、公知の方法を用いて良い。化学強化処理に用いられる溶融塩としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウムなどのアルカリ硝酸塩、アルカリ硫酸塩およびアルカリ塩化物塩などが挙げられる。これらの溶融塩は単独で用いることに限られず、複数種を組み合わせて用いても良く、化学強化特性を調整するために、その他の塩を混ぜても良い。これにより、板Gの表層において、LiイオンまたはNaイオンなどのアルカリイオンを、溶融塩中のイオン半径の大きい他のアルカリイオン、例えばNaイオンまたはKイオンとイオン交換した後、室温付近まで冷却する。このイオン交換によって、板Gの表層に、高密度化によって圧縮応力が発生した層、つまり圧縮応力層を形成する。このようにして、板Gを強化できる。溶融塩の温度や浸漬時間などの処理条件は、CSおよびDOLなどが所望の値となるように設定すれば良い。
【0020】
化学強化処理を施した板Gに、さらに、酸処理およびアルカリ処理を施しても良い。
酸処理は、化学強化処理を施した板Gを、酸性溶液中に浸漬させる処理である。これにより、化学強化処理を施した板Gの表面のNaおよびKのうち少なくとも一方が、Hに置換される。すなわち、化学強化処理を施した板Gにおける圧縮応力層の表層が変質し、低密度化された低密度層となる。
また、アルカリ処理は、酸処理を施した板Gを、塩基性溶液中に浸漬させる処理である。これにより、酸処理で形成された低密度層の一部または全部が除去される。こうして、板Gの表面に存在するクラックや潜傷を、低密度層と共に除去できる。
【0021】
板Gの材料は、任意であるが、例えば、アルミノシリケートガラスであるSiO-Al-NaO系ガラスまたはSiO-Al-LiO-NaO系ガラス、もしくは、ソーダライムガラスなどを挙げられる。なかでも、強度の観点からは、アルミノシリケートガラスが好ましい。
板Gの材料としては、例えば、酸化物基準のモル%表示で、SiOを50%以上80%以下、Alを1%以上20%以下、NaOを6%以上20%以下、KOを0%以上11%以下、MgOを0%以上15%以下、CaOを0%以上6%以下、および、ZrOを0%以上5%以下含有するガラス材料や、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを50%以上80%以下、Alを2%以上25%以下、LiOを0.1%以上20%以下、NaOを0.1以上18%以下、KOを0%以上10%以下、MgOを0%以上15%以下、CaOを0%以上5%以下、Pを0%以上5%以下、Bを0%以上5%以下、Yを0%以上5%以下、および、ZrOを0%以上5%以下含有するガラス材料が挙げられる。
また、板Gの材料としては、アルミノシリケートガラスをベースとする化学強化用ガラス、例えば、AGC社製「ドラゴントレイル(登録商標)」も好適に用いられる。
【0022】
(印刷層)
印刷層Pは、板Gの第1の主面G1上に形成される。印刷層Pは、板Gと材質が異なる任意の層であって良く、例えば、可視光および赤外光のうち少なくとも一方の光を遮光する遮光層であって良い。
印刷層Pは、第1の印刷層P1と、一対の第2の印刷層P2と、第3の印刷層P3と、一対の第4の印刷層P4と、第5の印刷層P5と、を備える。
第1の印刷層P1は、第1の平坦部GA1におけるX2方向側の端部に形成されている。第1の印刷層P1は、印刷層付き板GPの幅方向全体にわたる長方形状に形成されている。
一対の第2の印刷層P2は、第1の印刷層P1におけるY1方向側およびY2方向側のそれぞれの端部から、第1の平坦部GA1と第1の屈曲部GB1の境界近傍の部位にかけて、X1方向に延びる長方形状に形成されている。
第3の印刷層P3は、一対の第2の印刷層P2におけるX1方向側の端部から、第2の屈曲部GB2と第2の平坦部GA2の境界近傍の部位にかけて、形成されている。第3の印刷層P3は、印刷層付き板GPの幅方向全体にわたる長方形状に形成されている。
一対の第4の印刷層P4は、第3の印刷層P3におけるY1方向側およびY2方向側のそれぞれの端部から、第2の平坦部GA2におけるX1方向側の端縁近傍の部位にかけて、X1方向に延びる長方形状に形成されている。
第5の印刷層P5は、一対の第4の印刷層P4におけるX1方向側の端縁同士を接続するように、第2の平坦部GA2におけるX1方向側の端縁に沿って、長方形状に形成されている。
【0023】
印刷層付き板GPにおける印刷層Pが形成された領域は、印刷領域GQを構成する。印刷層付き板GPにおける印刷層Pが形成されていない領域は、非印刷領域GRを構成する。非印刷領域GRは、第1の印刷層P1、一対の第2の印刷層P2および第3の印刷層P3により囲まれた第1の非印刷領域GR1と、第3の印刷層P3、一対の第4の印刷層P4および第5の印刷層P5により囲まれた第2の非印刷領域GR2と、を備える。
非印刷領域GRには、ディスプレイの点灯時に画像が表示される。印刷層Pが遮光層の場合、印刷領域GQは遮光領域として機能し、非印刷領域GRは光を透過する光透過領域として機能する。印刷領域GQは、表示装置において、配線などを隠蔽して美観を向上する役割を果たす。
印刷層Pは、1層であっても良く、複数の層が積層されていても良い。
【0024】
印刷層Pの厚みは、3.0μm以上10.0μm以下であることが好ましく、3.5μm以上5.0μm以下であることがより好ましく、4.0μm以上5.0μm以下であることがさらに好ましい。印刷層Pの厚みがこの範囲となることで、印刷層Pからの光漏れを抑制できる。
【0025】
第1の非印刷領域GR1と第1の印刷層P1との第1の境界B1、第1の非印刷領域GR1と第3の印刷層P3との第2の境界B2、第2の非印刷領域GR2と第3の印刷層P3との第3の境界B3、および、第2の非印刷領域GR2と第5の印刷層P5との第4の境界B4は、Y軸方向に平行な直線状に形成されている。第1の非印刷領域GR1と一対の第2の印刷層P2との一対の第5の境界B5、および、第2の非印刷領域GR2と一対の第4の印刷層P4との一対の第6の境界B6は、X軸方向に平行な直線状に形成されている。
【0026】
なお、第1~第4の境界B1~B4のうち少なくともいずれか1つの境界は、Y軸方向に対して傾いていても良いし、第5,第6の境界B5,B6のうち少なくともいずれか1つの境界は、X軸方向に対して傾いていても良い。
第1~第6の境界B1~B6のうち少なくともいずれか1つの境界は、曲線部を有していても良いし、鋭角または鈍角の角部を有していても良い。
また、印刷層Pは、図1(A)に示す形状に限られず、例えば、板Gにおける外周の一部に形成されなくても良いし、1つまたは3つ以上の非印刷領域GRが設けられるように形成されても良い。印刷層Pは、板Gの端縁から離れた位置に形成されても良いし、第1の主面G1全体に形成されても良い。
【0027】
(印刷装置の構成)
次に、板Gにインクジェット法を用いて印刷層Pを形成することにより印刷層付き板GPを製造する印刷装置について説明する。
図2は、印刷装置の概略構成を示す側面図である。図3は、印刷装置の概略構成を示す平面図である。図4は、インクヘッドにおけるノズルの配置状態を示す模式図である。図5は、印刷層形成時におけるインクヘッドと板との位置関係を示す模式図であり、(A)は板水平面部に印刷層を形成する場合の位置関係を示し、(B)は第1の板傾斜面部に印刷層を形成する場合の位置関係を示す。図6は、制御装置の概略構成を示すブロック図である。図3は、印刷装置を図2のZ1方向側から見た図であり、図4は、インクヘッドを図2のZ1方向側から見た図であり、図5(A),(B),(C)は、インクヘッドと板とを図2のY2方向側から見た図である。
【0028】
図2および図3に示す印刷装置1は、印刷部2と、水頭圧維持部3と、相対移動機構4と、後述する制御装置5と、を備える。以下の説明において、X1方向を印刷進行向きと称し、X2方向を印刷進行逆向きと称し、X1方向およびX2方向をまとめて、つまりX軸方向を印刷進行方向と称し、Y軸方向を印刷幅方向と称する場合がある。
【0029】
印刷部2は、制御装置5の制御に基づいて、インクNをインクジェット法により吐出する。
印刷部2は、複数のプリントヘッド21と、インク供給部22と、を備える。
複数のプリントヘッド21は、それぞれ直方体状のヘッド本体211を備える。ヘッド本体211のZ2方向側の面には、ノズルプレート211Aが設けられている。複数のプリントヘッド21は、相対移動機構4により保持された板GよりもZ1方向側、つまり上方に設置されている。複数のプリントヘッド21は、ヘッド本体211のZ2方向側の面における長手方向が印刷幅方向に対して平行になるように配置され、かつ、印刷幅方向に対して平行な2つの列を形成するように配置されている。複数のプリントヘッド21は、印刷幅方向に互いにずれた状態で、かつ、印刷進行向き側および印刷進行逆向き側に交互にずれた状態で配置されている。つまり、複数のプリントヘッド21は、いわゆる千鳥状に配置されている。複数のプリントヘッド21は、印刷進行向き側から見たときに、互いに隣り合うプリントヘッド21において、Y1方向側のプリントヘッド21のY2方向側の部位と、Y2方向側のプリントヘッド21のY1方向側の部位とが重なるように配置されている。各プリントヘッド21におけるヘッド本体211の印刷進行方向の長さW21は、5mm以上であることが望ましい。各プリントヘッド21におけるノズルプレート211Aの印刷進行方向の長さV21は、5mm以上であることが望ましい。
【0030】
以下の説明において、印刷進行向き側のプリントヘッド21の列を第1のプリントヘッド列21Aと称し、印刷進行逆向き側のプリントヘッド21の列を第2のプリントヘッド列21Bと称する。
なお、本実施形態では、図3に示すように、印刷装置1に、6個のプリントヘッド21を設ける構成を例示するが、2個以上5個以下、または、7個以上のプリントヘッド21を設けても良い。また、複数のプリントヘッド21は、印刷幅方向に対して平行な1つまたは3つ以上の列を形成するように配置されても良く、3つ以上の列を形成する場合、千鳥状に配置されても良いし、千鳥状に配置されなくても良い。また、複数のプリントヘッド21は、XY平面状においてX軸方向に対して傾いた方向に1列に並ぶように配置されても良い。
【0031】
各プリントヘッド21は、ヘッド本体211に設けられた複数のノズル212と、図6に示す圧電素子213と、をさらに備える。
圧電素子213は、ノズル212と同じ個数だけ設けられている。圧電素子213は、制御装置5の制御に基づき駆動することにより、インク供給部22からノズル212に供給されるインクNを液滴として吐出させる。また、圧電素子213は、制御装置5の制御に基づいて、各ノズル212のメニスカスに振動を付与する。
複数のノズル212は、ヘッド本体211の内部において、インクNを吐出する開口がノズルプレート211Aの平面状の下面から露出するように配置されている。
図3および図4に示すように、複数のノズル212は、印刷幅方向に対して複数の列を形成するように配置されている。
【0032】
以下の説明において、図4および図5に示すように、各プリントヘッド21におけるノズル212の列を、印刷進行向き側の列から順に、第1のノズル列215A、第2のノズル列215B、第3のノズル列215C、第4のノズル列215Dと称する。第1のノズル列215Aおよび第2のノズル列215Bは、第1のノズル列群216Aを構成する。第3のノズル列215Cおよび第4のノズル列215Dは、第2のノズル列群216Bを構成する。なお、各プリントヘッド21のノズル212の列は、1列、2列、3列、または、5列以上であっても良い。
【0033】
第1のノズル列215Aのノズル212と第2のノズル列215Bのノズル212は、印刷幅方向に互いにずれた状態で、かつ、印刷進行向き側および印刷進行逆向き側に交互にずれた状態で配置されている。つまり、第1のノズル列群216Aを構成するノズル212は、いわゆる千鳥状に配置されている。同様に、第2のノズル列群216Bを構成するノズル212も千鳥状に配置されている。第1のノズル列群216Aを構成するノズル212と第2のノズル列群216Bを構成するノズル212は、印刷幅方向の位置が互いに異なるように配置されている。
図4に示すような、第1のノズル列215Aのノズル212からノズルプレート211Aの印刷進行向き側端部までの距離R21と、第4のノズル列215Dのノズル212からノズルプレート211Aの印刷進行逆向き側端部までの距離R21は、0mm以上20mm以下であることが好ましい。
【0034】
以下の説明において、図4に示すように、第1のプリントヘッド列21Aの第1のノズル列群216Aを構成するノズル212のうち、Y1方向側端部の2つのノズル212を第1の端部ノズル212Aと称し、Y2方向側端部の2つのノズルを第2の端部ノズル212Bと称する場合がある。第1のプリントヘッド列21Aの第2のノズル列群216Bを構成するノズル212のうち、Y1方向側端部の2つのノズル212を第3の端部ノズル212Cと称し、Y2方向側端部の2つのノズルを第4の端部ノズル212Dと称する場合がある。
第2のプリントヘッド列21Bの第1のノズル列群216Aを構成するノズルのうち、Y1方向側端部の2つのノズルを第5の端部ノズル212Eと称し、Y2方向側端部の2つのノズルを第6の端部ノズル212Fと称する場合がある。第2のプリントヘッド列21Bの第2のノズル列群216Bを構成するノズル212のうち、Y1方向側端部の2つのノズル212を第7の端部ノズル212Gと称し、Y2方向側端部の2つのノズルを第8の端部ノズル212Hと称する場合がある。
【0035】
各プリントヘッド21において、複数のノズル212は、印刷幅方向の距離が最も小さい一対のノズル212の印刷幅方向の距離Dが5mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下になるように配置されている。例えば、印刷幅方向の距離が最も小さい一対のノズル212は、第1のノズル列215Aの最もY1方向側に位置するノズル212と、第3のノズル列215Cの最もY1方向側に位置するノズル212である。
また、各プリントヘッド21は、印刷進行向き側から見たときに互いに隣り合うプリントヘッド21における第1の端部ノズル212Aと第6の端部ノズル212Fの印刷幅方向の位置が同じになり、第2の端部ノズル212Bと第5の端部ノズル212Eの印刷幅方向の位置が同じになり、第3の端部ノズル212Cと第8の端部ノズル212Hの印刷幅方向の位置が同じになり、第4の端部ノズル212Dと第7の端部ノズル212Gの印刷幅方向の位置が同じになるように配置されている。
【0036】
また、図3に示すように、各プリントヘッド21は、最もY1方向側に位置するノズル212から、最もY2方向側に位置するノズル212までの幅WH、つまり印刷有効幅WHが、板Gの幅WGよりも大きくなるように配置されている。このような構成により、各プリントヘッド21を印刷進行向きに1回移動させるだけで、板Gに所望の形状の印刷層Pを形成できる。
【0037】
なお、プリントヘッド21に設けられるノズル212の数は、1つでも良い。また、複数のノズル212は、印刷幅方向に対して平行な1つ、2つ、3つまたは5つ以上のノズル列を形成するように配置されても良い。複数のノズル212が複数のノズル列を形成する場合、複数のノズル212は、千鳥状に配置されても良いし、千鳥状に配置されなくても良い。また、複数のノズル212は、X軸方向に対して平行な1つの列を形成するように配置されても良い。
【0038】
図2および図5(A),(B)に示すように、インク供給部22は、第1のインクタンク221と、第2のインクタンク222と、図6に示すインク圧調整部223と、を備える。
第1のインクタンク221は、第1のプリントヘッド列21Aの各プリントヘッド21に供給するインクNを収容する。第1のプリントヘッド列21Aを構成する各プリントヘッド21と第1のインクタンク221には、第1のインクタンク221内のインクNを各プリントヘッド21の各ノズル212に供給する供給配管224と、各プリントヘッド21内のインクNを第1のインクタンク221に戻す戻し配管225と、が接続されている。
第2のインクタンク222は、第2のプリントヘッド列21Bの各プリントヘッド21に供給するインクNを収容する。第2のプリントヘッド列21Bを構成する各プリントヘッド21と第2のインクタンク222にも、供給配管224および戻し配管225と同様の機能を有する供給配管226および戻し配管227が接続されている。
インク圧調整部223は、制御装置5の制御に基づいて、各プリントヘッド21のノズル212のメニスカスの圧力を、大気圧よりも小さい所定の圧力設定値に調整する。
なお、インク供給部22は、戻し配管225,227を備えなくても良い。また、例えば、第1のインクタンク221は、第1のプリントヘッド列21Aを構成する各プリントヘッド21と同数のタンクを備え、各タンクから各プリントヘッド21にそれぞれインクNを供給するようにしても良い。
【0039】
水頭圧維持部3は、第1の印刷部保持部材31と、第2の印刷部保持部材32と、を備える。
第1の印刷部保持部材31は、第1のプリントヘッド列21Aの各プリントヘッド21と第1のインクタンク221を保持する。第2の印刷部保持部材32は、第2のプリントヘッド列21Bの各プリントヘッド21と第2のインクタンク222を保持する。
第1,第2の印刷部保持部材31,32により保持された第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの各プリントヘッド21と第1,第2のインクタンク221,222は、相対移動機構4の駆動により同じ距離だけ昇降する。このため、各プリントヘッド21の昇降に伴うインクNの水頭圧の変動が抑制され、印刷層P形成時におけるノズル212のメニスカスの圧力設定値に対する圧力変動の絶対値を0.2kPa以下に維持できる。
【0040】
相対移動機構4は、複数のプリントヘッド21を有する印刷部2と板GとをX軸方向に相対移動させる。
相対移動機構4は、板保持部41と、プリントヘッド移動部42と、を備える。
【0041】
板保持部41は、例えば吸着により、板Gを第2の主面G2側から動かない状態で、かつ、第1,第2の平坦部GA1,GA2が水平面Mに対して平行になるように保持する。板Gの三次元形状に応じて、互いに異なる板保持部41を用いることが好ましい。
【0042】
プリントヘッド移動部42は、制御装置5の制御に基づいて、第1,第2の印刷部保持部材31,32にそれぞれ保持された各プリントヘッド21のヘッド本体211の下面と、水平面Mとが平行な状態を維持したまま、第1,第2の印刷部保持部材31,32をX軸方向に移動させる。つまり、プリントヘッド移動部42は、ノズル212の開口面と、水平面Mとが平行な状態を維持したまま、第1,第2の印刷部保持部材31,32をX軸方向に移動させる。
【0043】
また、プリントヘッド移動部42は、制御装置5の制御に基づいて、板Gの第1の主面G1の形状に応じて、第1,第2の印刷部保持部材31,32を個別にZ軸方向に昇降させる。
例えば、図5(A)に示すように、プリントヘッド移動部42は、水平面Mに対して平行な板水平面部GHに印刷層Pを形成する場合、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを構成する全てのプリントヘッド21のノズル212の開口面から、板水平面部GHまでの距離L1が20mm以下になるように、好ましくは10mm以下になるように、第1,第2の印刷部保持部材31,32をZ軸方向に移動させる。図1(A),(B)に示す板Gにおいて、第1,第2の平坦部GA1,GA2は、板水平面部GHに該当する。
【0044】
図5(B)に示すように、プリントヘッド移動部42は、X1方向側がX2方向側よりも高くなるように水平面Mに対して傾斜する第1の板傾斜面部GK1に印刷層Pを形成する場合、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを構成するプリントヘッド21の第1,第2のノズル列群216A,216Bのうち、X1方向側に位置する第1のノズル列群216Aのノズル212の開口面から、第1の板傾斜面部GK1までの距離L2が20mm以下になるように、好ましくは10mm以下になるように、第1,第2の印刷部保持部材31,32をZ軸方向に移動させる。図1(A),(B)に示す板Gにおいて、傾斜部GCおよび第1,第2の屈曲部GB1,GB2は、第1の板傾斜面部GK1に該当する。
【0045】
図示はしないが、プリントヘッド移動部42は、X2方向側がX1方向側よりも高くなるように水平面Mに対して傾斜する第2の板傾斜面部に印刷層Pを形成する場合、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを構成するプリントヘッド21の第1,第2のノズル列群216A,216Bのうち、X2方向側に位置する第2のノズル列群216Bのノズル212の開口面から、第2の板傾斜面部までの距離が20mm以下になるように、好ましくは10mm以下になるように、第1,第2の印刷部保持部材31,32をZ軸方向に移動させる。
【0046】
なお、プリントヘッド移動部42としては、第1,第2の印刷部保持部材31,32をX軸方向に移動させるスライダ機構とZ軸方向に昇降させるピストン機構の組み合わせ、または、6軸ロボットなど、第1,第2の印刷部保持部材31,32を上述のように移動させる機構を適用できる。
【0047】
制御装置5は、印刷部2および相対移動機構4を制御する。図6に示すように、制御装置5は、プリントヘッド位置検出部51と、入力部52と、表示部53と、記憶部54と、制御部55と、を備える。制御部55には、圧電素子213と、インク圧調整部223と、プリントヘッド移動部42と、プリントヘッド位置検出部51と、入力部52と、表示部53と、記憶部54とが電気的に接続されている。
【0048】
プリントヘッド位置検出部51は、各プリントヘッド21のX軸方向およびZ軸方向の位置を検出し、検出した位置に対応する信号を制御部55へ出力する。
【0049】
入力部52は、例えばタッチパネル、物理ボタンまたは二次元コードリーダにより構成されている。入力部52は、各種情報の入力に用いられ、入力に対応する信号を制御部55へ出力する。入力部52により入力される情報としては、板Gおよび印刷層Pの三次元形状を特定する形状特定情報を例示できる。
【0050】
表示部53は、制御部55の制御に基づいて、各種情報を表示する。
【0051】
記憶部54は、例えばHDD(Hard Disk Drive)などの周知の記憶装置により構成されている。記憶部54は、印刷制御プログラムと、利用候補ノズル情報と、印刷装置1の動作に必要な各種情報とを記憶する。利用候補ノズル情報は、第1の候補情報と、第2の候補情報と、第3の候補情報と、を備える。
【0052】
第1の候補情報は、図5(B)に示すように、X1方向側がX2方向側よりも高い第1の板傾斜面部GK1に印刷層Pを形成する際の利用候補のノズル212を表す。
以下の説明において、利用候補のノズル212を、利用候補ノズル212と称する。
第1の候補情報は、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを構成するノズル212のうち、第1のノズル列群216Aのノズル212のみが利用候補ノズル212として設定されていることを表す。つまり、第1の候補情報は、第2のノズル列群216Bよりも第1の板傾斜面部GK1に近いノズル212であって、第1の板傾斜面部GK1までの距離L2を20mm以下、好ましくは10mm以下にできるノズル212のみが、利用候補ノズル212として設定されていることを表す。
【0053】
第1の候補情報に基づき利用候補ノズル212として設定されたノズル212のうち、第1の端部ノズル212Aと第6の端部ノズル212Fの印刷幅方向の位置が同じであり、第2の端部ノズル212Bと第5の端部ノズル212Eの印刷幅方向の位置が同じであるが、それ以外のノズル212の印刷幅方向の位置は、互いに異なる。このため、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを等速で移動させつつ、第1,第2,第5,第6の端部ノズル212A,212B,212E,212FにおけるインクNの吐出周波数を、それ以外のノズル212における吐出周波数の0.5倍にすると、単位面積当たりのインクNの着弾数は等しくなる。
なお、所定の印刷幅方向の位置に2つの利用候補ノズル212が印刷進行向きに並んでいるため、印刷幅方向の位置が同じ利用候補ノズル212における吐出周波数を、それ以外の利用候補ノズル212における吐出周波数の0.5倍、つまり1/2倍に設定すれば、単位面積当たりのインクNの着弾数は等しくなる。所定の印刷幅方向の位置にF個(Fは3以上の整数)の利用候補ノズル212が印刷進行向きに並んでいる場合、印刷幅方向の位置が同じ利用候補ノズル212における吐出周波数を、それ以外の利用候補ノズル212における吐出周波数の1/F倍に設定すれば、単位面積当たりのインクNの着弾数は等しくなる。
【0054】
なお、第1のノズル列群216Aのノズル212の開口面から第1の板傾斜面部GK1までの距離L2が20mm以下、好ましくは10mm以下になる場合に、図5(B)に示すように、第2のノズル列群216Bのノズル212の開口面から第1の板傾斜面部GK1までの距離L3も20mm以下、好ましくは10mm以下になる場合、第1,第2のノズル列群216A,216Bを構成する全てのノズル212が利用候補ノズル212として設定されても良い。
【0055】
第2の候補情報は、X1方向側がX2方向側よりも低い第2の板傾斜面部に印刷層Pを形成する際の利用候補ノズル212を表す。
第2の候補情報は、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを構成するノズル212のうち、第2のノズル列群216Bのノズル212のみが利用候補ノズル212として設定されていることを表す。つまり、第2の候補情報は、第1のノズル列群216Aよりも第2の板傾斜面部に近いノズル212であって、第2の板傾斜面部までの距離を20mm以下、好ましくは10mm以下にできるノズル212のみが、利用候補ノズル212として設定されていることを表す。
【0056】
第2の候補情報に基づき利用候補ノズル212として設定されたノズル212のうち、第3の端部ノズル212Cと第8の端部ノズル212Hの印刷幅方向の位置が同じであり、第4の端部ノズル212Dと第7の端部ノズル212Gの印刷幅方向の位置が同じであるが、それ以外のノズル212の印刷幅方向の位置は、互いに異なる。このため、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを等速で移動させつつ、第3,第4,第7,第8の端部ノズル212C,212D,212G,212Hにおける吐出周波数を、それ以外のノズル212における吐出周波数の0.5倍にすると、単位面積当たりのインクNの着弾数は等しくなる。
【0057】
なお、第2のノズル列群216Bのノズル212の開口面から第2の板傾斜面部までの距離が20mm以下、好ましくは10mm以下になる場合に、第1のノズル列群216Aのノズル212の開口面から第2の板傾斜面部までの距離L3も20mm以下、好ましくは10mm以下になる場合、第1,第2のノズル列群216A,216Bを構成する全てのノズル212が利用候補ノズル212として設定されても良い。
【0058】
第3の候補情報は、図5(A)に示す板水平面部GHに印刷層Pを形成する際の利用候補ノズル212を表す。
第3の候補情報は、第1の候補情報または第2の候補情報と同じ情報を備える。印刷幅方向の位置が同じ利用候補ノズル212における吐出周波数を、それ以外の利用候補ノズル212における吐出周波数の0.5倍にすると、単位面積当たりのインクNの着弾数は等しくなる。
なお、板水平面部GHに印刷層Pを形成する場合、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを構成する全てのノズル212から、板水平面部GHまでの距離L1を20mm以下、好ましくは10mm以下にできる。このため、第3の候補情報は、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを構成する全てのノズル212が利用候補ノズル212として設定されていることを表しても良い。
【0059】
ノズル212から吐出されるインクNは濡れ性を有するため、互いに隣り合うノズル212から吐出されたインクNの着弾位置が離れていても、これらの着弾位置の間の領域までインクNが濡れ広がり、図1に示すような塗りつぶされた印刷層Pが形成される。このため、印刷層Pの形状に応じて、例えば、第1のプリントヘッド列21Aを構成する第1のノズル列群216Aの利用候補ノズル212のみからインクNが吐出される場合、第1の主面G1には、当該利用候補ノズル212のうち最もY1方向側に位置する利用候補ノズル212から、最もY2方向側に位置する利用候補ノズル212までの距離よりも、若干広い幅の印刷層Pが形成される。
【0060】
制御部55は、例えばCPU(Central Processing Unit)を備える。制御部55は、記憶部54に記憶された印刷制御プログラムをCPUが実行することにより、形状特定部551、吐出制御部552およびプリントヘッド移動制御部553として機能する。
【0061】
形状特定部551は、入力部52から入力された形状特定情報を取得して、当該形状特定情報に基づいて、板Gおよび印刷層Pの三次元形状を特定する。例えば、印刷層付き板GPの型式と、当該印刷層付き板GPを構成する板Gおよび印刷層Pの三次元形状とが関連付けられたテーブル構造のデータが記憶部54に記憶されている場合、形状特定部551は、印刷層付き板GPの型式を表す形状特定情報と、前記テーブル構造のデータとに基づいて、板Gおよび印刷層Pの三次元形状を特定する。
【0062】
吐出制御部552は、形状特定部551により特定された印刷層Pの三次元形状に基づいて、利用候補ノズル情報から板Gの各部位に応じた情報を取得する。そして、吐出制御部552は、取得された情報と印刷層Pの三次元形状とに基づき圧電素子213を制御して、ノズル212からのインクNの吐出状態を制御する。
【0063】
プリントヘッド移動制御部553は、形状特定部551により特定された板Gの三次元形状に基づきプリントヘッド移動部42を制御して、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを移動させる。プリントヘッド移動制御部553、相対移動機構4は、相対移動部を構成する。
【0064】
(印刷層付き板の製造方法)
次に、印刷装置1を用いる印刷層付き板GPの製造方法について説明する。
以下において、図1(A),(B)に示す印刷層付き板GPの製造方法を説明するが、他の三次元形状の板に対しても、同様の方法で印刷層付き板を製造できる。
【0065】
まず、作業者は、例えば、入力部52を用いて形状特定情報を入力する。制御部55の形状特定部551は、入力された形状特定情報に基づいて、板Gおよび印刷層Pの三次元形状を特定する。なお、形状特定部551は、センサによる検出結果またはカメラによる撮像結果に基づく形状特定情報を取得して、板Gおよび印刷層Pの三次元形状を特定しても良い。
次に、作業者または図示しない板搬送装置は、図2に示すように、板Gを板保持部41にセットする。板保持部41は、セットされた板Gを保持する。
なお、板Gが板保持部41にセットされてから、作業者は、形状特定情報を入力しても良い。
【0066】
形状特定部551により印刷層Pの三次元形状が特定されると、吐出制御部552は、板GのX軸方向の各部位における利用候補ノズル212を表す情報を、利用候補ノズル情報から選択する。吐出制御部552は、第1,第2の平坦部GA1,GA2における利用候補ノズル212を表す情報として、第3の候補情報を選択する。吐出制御部552は、傾斜部GCおよび第1,第2の屈曲部GB1,GB2における利用候補ノズル212を表す情報として、第1の候補情報を選択する。
【0067】
吐出制御部552は、板GのX軸方向の各部位における利用候補ノズル212の中から、印刷層Pの平面形状に応じて、実際に利用するノズル212を利用ノズル212として設定する。つまり、吐出制御部552は、印刷領域GQの鉛直上方に位置する利用候補ノズル212を利用ノズル212として選択し、非印刷領域GRの鉛直上方に位置する利用候補ノズル212を利用ノズル212として選択しない。
【0068】
吐出制御部552は、印刷層Pの厚さに応じて、印刷領域GQにおける単位面積当たりのインクNの着弾数が等しくなるように、印刷幅方向の位置が同じ2つずつの利用ノズル212の吐出周波数を、それ以外の利用ノズル212の吐出周波数の0.5倍に設定する。例えば、第1の候補情報に基づき第1,第2,第5,第6の端部ノズル212A,212B,212E,212Fを含むノズル212を利用ノズル212として選択した場合、第1,第2,第5,第6の端部ノズル212A,212B,212E,212Fの吐出周波数を、それ以外の利用ノズル212の吐出周波数の0.5倍に設定する。吐出周波数は、圧電素子213の駆動状態により調整できる。
吐出制御部552は、インク圧調整部223を制御して、各プリントヘッド21に供給されるインクNの圧力を圧力設定値に調整する。
吐出制御部552は、圧電素子213を制御して、印刷待機中の各ノズル212のインクNのメニスカスに振動を付与する。
【0069】
形状特定部551により板Gの三次元形状が特定されると、プリントヘッド移動制御部553は、板GのX軸方向の各部位において、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2が、20mm以下になるように、好ましくは10mm以下になるように、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの移動軌跡を設定する。
プリントヘッド移動制御部553は、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bが第1,第2の平坦部GA1,GA2の鉛直上方を移動する場合、図5(A)に示すように、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを構成する全てのプリントヘッド21の下面が同一面上に位置し、かつ、利用ノズル212を含む全てのノズル212の開口面から板水平面部GHまでの距離L1が20mm以下になるように、好ましくは10mm以下になるように、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの移動軌跡を設定する。
プリントヘッド移動制御部553は、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bが第1,第2の屈曲部GB1,GB2または傾斜部GCの鉛直上方を移動する場合、図5(B)に示すように、第1のプリントヘッド列21Aを構成するプリントヘッド21の下面が第2のプリントヘッド列21Bを構成するプリントヘッド21の下面よりも上方に位置し、かつ、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの第1のノズル列群216Aに含まれる利用ノズル212の開口面から第1,第2の屈曲部GB1,GB2または傾斜部GCまでの距離L2が20mm以下になるように、好ましくは10mm以下になるように、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの移動軌跡を設定する。
【0070】
この後、プリントヘッド移動制御部553は、プリントヘッド位置検出部51における各プリントヘッド21のX軸方向およびZ軸方向の位置の検出結果に基づきプリントヘッド移動部42を制御して、設定された移動軌跡に沿って、第1,第2のプリントヘッド列21A,21BをX軸方向およびZ軸方向に移動させる。このとき、プリントヘッド移動制御部553は、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを等速でX軸方向に移動させる。
【0071】
一方、吐出制御部552は、圧電素子213を制御して、インクNのメニスカスへの振動の付与を停止する。
吐出制御部552は、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの位置に応じて圧電素子213を制御して、設定された吐出周波数で各利用ノズル212からインクNを吐出させる。この際、吐出制御部552は、印刷進行向きに対して交差する印刷領域GQと非印刷領域GRとの第1~第4の境界B1~B4の形状に応じて圧電素子213を制御して、利用ノズル212からのインクNの吐出タイミングを制御する。例えば、吐出制御部552は、第1,第3の境界B1,B3の形状に応じて、第1のプリントヘッド列21Aの利用ノズル212からのインクNの吐出停止タイミングを第2のプリントヘッド列21Bの利用ノズル212からのインクNの吐出停止タイミングよりも早くする。吐出制御部552は、第2,第4の境界B2,B4の形状に応じて、第1のプリントヘッド列21Aの利用ノズル212からのインクNの吐出開始タイミングを第2のプリントヘッド列21Bの利用ノズル212からのインクNの吐出開始タイミングよりも早くする。
【0072】
以上のような制御部55の制御に基づいて、1回だけ印刷進行向きに移動する印刷部2における、第1の主面G1までの距離L1,L2が20mm以下、好ましくは10mm以下の利用ノズル212のみから吐出されたインクNにより、図1(A),(B)に示すように、印刷領域GQにおける印刷幅方向全体に印刷層Pが形成される。また、第1のプリントヘッド列21Aと第1のインクタンク221が同時に同じ距離だけ昇降するとともに、第2のプリントヘッド列21Bと第2のインクタンク222が同時に同じ距離だけ昇降するため、利用ノズル212のメニスカスの圧力設定値に対する圧力変動の絶対値が0.2kPa以下に維持された状態で、印刷層Pが形成される。
【0073】
(実施形態の効果)
印刷装置1は、第1,第2の屈曲部GB1,GB2を有する板Gの第1の主面G1に印刷層Pを形成して印刷層付き板GPを製造するに際し、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2が20mm以下になるように、印刷幅方向の位置が異なる複数のプリントヘッド21と板Gを相対移動させる。
このため、単一のプリントヘッド21を用いる場合と比べて、印刷有効幅WHを大きくでき、板Gが大型化しても、印刷層Pを効率良く形成できる。また、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2を20mm以下に維持した状態で印刷層Pを形成するため、利用ノズル212から吐出されたインクNがミスト状になることを抑制でき、印刷層Pの品質低下を抑制できる。
特に、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2が10mm以下になるように、複数のプリントヘッド21と板Gを相対移動させることにより、インクNがミスト状になることをさらに抑制でき、印刷層Pの品質低下をさらに抑制できる。
【0074】
印刷装置1は、印刷層付き板GPを製造するに際し、板Gを動かさずに、複数のプリントヘッド21を第1の主面G1の形状に応じて上昇または下降させつつ印刷進行向きに移動させる。
このように、板Gよりも小さいプリントヘッド21を移動させる構成にすることにより、板Gとプリントヘッド21とを相対移動させる機構の小型化を図れる。
【0075】
各プリントヘッド21は、印刷進行向きの位置が互いに異なるノズル212を有する第1のノズル列群216Aおよび第2のノズル列群216Bをそれぞれ備える。印刷装置1は、第1,第2の屈曲部GB1,GB2または傾斜部GCに印刷層Pを形成する場合、各ノズル212の開口面と水平面Mとが平行な状態を維持したまま、各プリントヘッド21の第1のノズル列群216Aから第1の主面G1までの距離L1,L2が、20mm以下になるように、各プリントヘッド21を印刷進行向きに移動させつつ、第1のノズル列群216Aを構成する利用ノズル212からインクNを吐出する。
このため、複数のプリントヘッド21を第1,第2の屈曲部GB1,GB2または傾斜部GCの形状に合わせて回転させずに上昇または下降させることにより、印刷層Pを形成できるため、プリントヘッド移動部42の構成を簡略にできるとともに、プリントヘッド移動部42に対する制御が複雑になることを抑制できる。
【0076】
複数のプリントヘッド21は、印刷進行向き側から見たときに、互いに隣り合うY1方向側のプリントヘッド21におけるY2方向側の部位と、Y2方向側のプリントヘッド21におけるY1方向側の部位とが重なるように配置されている。
このため、各プリントヘッド21により形成される印刷層Pのつなぎ目を見えなくすることができる。
【0077】
複数のプリントヘッド21は、印刷幅方向に互いにずれた状態で、かつ、印刷進行向き側および印刷進行逆向き側に交互にずれた状態で配置されている。
このため、複数のプリントヘッド21により構成されるプリントヘッド群の印刷進行向きの長さを短くできる。
【0078】
印刷装置1は、第1の主面G1の印刷領域GQにおける単位面積当たりのインクNの着弾数が等しくなるように、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bにおける利用ノズル212からのインクNの吐出状態を制御する。
このため、印刷領域GQの印刷層Pの厚さを均一にでき、印刷層Pの品質が向上する。
【0079】
印刷装置1は、印刷進行向きに対して交差する第1~第4の境界B1~B4の形状に応じて、利用ノズル212からのインクNの吐出タイミングを制御する。
このため、印刷層Pの第1~第6の境界B1~B6を所望の形状にでき、印刷層Pの品質が向上する。
【0080】
複数のプリントヘッド21は、印刷有効幅WHが板Gの幅WGよりも大きくなるように配置され、1回の印刷進行向きへの移動により、印刷領域GQにおける印刷幅方向全体に印刷層Pを形成できるように構成されている。
このため、印刷層付き板GPの生産性が向上する。
【0081】
印刷装置1は、利用ノズル212のメニスカスの圧力設定値に対する圧力変動の絶対値を0.2kPa以下に維持した状態で、印刷層Pを形成する。
このため、各利用ノズル212から安定した状態でインクNを吐出でき、印刷層Pの品質低下を抑制できる。
特に、例えば、第1の印刷部保持部材31により第1のプリントヘッド列21Aの各プリントヘッド21と第1のインクタンク221を保持する簡単な構成を適用するだけで、印刷層Pの品質低下を抑制できる。
【0082】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の種々の改良並びに設計の変更などがあっても本発明に含まれる。
【0083】
例えば、印刷幅方向に並ぶ複数のノズル212をそれぞれ有する複数のプリントヘッド21を、印刷進行向きに沿う1つの列を形成するように、かつ、互いに印刷幅方向にずれないように配置しても良い。
このような構成にすれば、単一のプリントヘッド21を用いる場合と比べて、厚い印刷層Pを形成でき、所望の厚さを有する印刷層Pを効率良く形成できる。また、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2を20mm以下に維持した状態で印刷層Pを形成することにより、印刷層Pの品質低下を抑制できる。
【0084】
各プリントヘッド21を、ヘッド本体211の下面が同一面上に位置する状態を維持したまま、X軸方向およびZ軸方向に移動させるとともに、Y軸方向に平行な回転軸を中心にして回転させることにより、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2を20mm以下にしても良い。
各プリントヘッド21をヘッド本体211の下面が水平面Mに対して平行になるように固定して、板Gを例えばロボットアームなどによりX軸方向およびZ軸方向に移動させるとともに、Y軸方向に平行な回転軸を中心にして回転させることにより、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2を20mm以下にしても良い。
印刷部2および板Gのうち少なくとも一方を、X軸方向およびZ軸方向に移動させるとともに、Y軸方向に平行な回転軸を中心にして回転させることにより、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2を20mm以下にしても良い。
【0085】
印刷領域GQにおける単位面積当たりのインクNの着弾数が等しくなるように、利用ノズル212からのインクNの吐出状態を制御する方法として、以下の方法を適用しても良い。
例えば、第1の板傾斜面部GK1に印刷層Pを形成する際の利用候補ノズル212として、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの第1のノズル列群216Aを構成するノズル212のうち、印刷幅方向の位置が互いに異なる1つずつのノズル212のみを、利用候補ノズル212として設定する。そのために、印刷幅方向の位置が同じ第1の端部ノズル212Aと第6の端部ノズル212Fのうち、第1の端部ノズル212Aのみを利用候補ノズル212として設定し、印刷幅方向の位置が同じ第2の端部ノズル212Bと第5の端部ノズル212Eのうち、第2の端部ノズル212Bのみを利用候補ノズル212として設定する。
そして、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bを等速で移動させつつ、印刷幅方向の位置が互いに異なる1つずつの利用ノズル212から同じ吐出周波数でインクNを吐出させることにより、印刷領域GQにおける単位面積当たりのインクNの着弾数を等しくしても良い。
【0086】
印刷進行向きに対して交差する第1~第4の境界B1~B4の形状に応じて、利用ノズル212からのインクNの吐出タイミングを制御したが、このような制御を行わなくても良い。
【0087】
複数のプリントヘッド21を印刷有効幅WHが板Gの幅WGよりも小さくなるように配置して、印刷幅方向の位置を異ならせて印刷進行向きのみへ複数回移動させることにより、または、少なくとも1回往復させることにより、印刷領域GQにおける印刷幅方向全体に印刷層Pを形成しても良い。
【0088】
例えば、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの各プリントヘッド21の昇降に伴うインクNの水頭圧の変動を抑制する水頭圧維持部3として、第1,第2の印刷部保持部材31,32を適用したが、第1,第2の印刷部保持部材31,32の代わりにインク圧調整部223を水頭圧維持部3として機能させるとともに、第1,第2のインクタンク221,222を固定して、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの各プリントヘッド21の昇降に伴うインクNの水頭圧の変動を抑制するように、インク圧調整部223によりインクNの圧力を調整しても良い。
また、水頭圧維持部3を印刷装置1に設けなくても良く、例えば、第1,第2のインクタンク221,222を固定して、第1,第2のプリントヘッド列21A,21Bの各プリントヘッド21を昇降させても良い。
【0089】
板Gは、1つの屈曲部に方向が異なる複数の曲げ軸が存在する形状であっても良い。この場合、各プリントヘッド列21A,21Bの印刷幅方向に互いに隣り合うプリントヘッド21間で高低差を生じさせられるように、プリントヘッド移動部42を構成し、各プリントヘッド21にそれぞれ別々のタンクからインクNを供給できるように、インク供給部22を構成する。そして、利用ノズル212から第1の主面G1までの距離L1,L2が20mm以下になるように、印刷幅方向に互いに隣り合うプリントヘッド21を、第1の主面G1の形状に応じて互いに異なる高さだけ上昇または下降させつつ、印刷進行向きに移動させれば良い。
【実施例0090】
次に、本発明の実施例について説明する。例2~6は実施例であり、例1,7は比較例である。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0091】
(印刷層付き板の製造方法、および、製造結果)
<例1>
例1の板として、AGC社製「Doragontrail(登録商標)」を用い、図1(A),(B)に示す板Gと同様に、加熱成形により第1,第2の平坦部GA1,GA2、第1,第2の屈曲部GB1,GB2および傾斜部GCを形成した。例1の板の長さLGは700mmであり、幅WGは180mmである。水平面Mに対する傾斜部GCの傾斜角度θ1は、10°であった。
また、例1の印刷装置として、上記実施形態の印刷装置1と同様の構成を有する装置を準備した。例1の印刷装置は、1つのプリントヘッドを備えていた。例1のプリントヘッドの図4に示す印刷幅方向の長さL21は、150mmであった。
例1のプリントヘッドは、上記実施形態のプリントヘッド21の第1,第2のノズル列群216A,216Bと同様の第1,第2のノズル列群を備えていた。第1,第2のノズル列群は、図3に示す印刷有効幅WHが50mmになるように構成されていた。第1,第2のノズル列群は、Y軸方向である印刷幅方向の印刷画素数、つまりインクの着弾数が600dpiになるように構成されていた。第1のノズル列群を構成する第1のノズル列のノズルからプリントヘッドの印刷進行向き側端部までの図4に示す距離R21と、第4のノズル列のノズルからプリントヘッドの印刷進行逆向き側端部までの図4に示す距離R21は、6mmであった。
【0092】
上記構成を有する例1の印刷装置を用いて、例1の板の第1の主面全体に印刷層を形成することにより、例1の印刷層付き板を製造した。
全ての印刷層の形成の際、第1,第2のノズル列群を構成する全てのノズルを利用ノズルとして用いた。つまり、傾斜部GCにおいて利用するプリントヘッドのノズル列群を、印刷進行向き側に位置する第1のノズル列群および印刷進行逆向き側に位置する第2のノズル列群に設定した。このような設定により、印刷層形成時における印刷進行方向の印刷画素数が600dpiになった。利用ノズルの開口面から板までの最大距離、つまり、図5(A),(B)に示す距離L1,L2の最大値が、1.6mmになるように、ノズルの開口面と水平面とが平行な状態を維持したまま、プリントヘッドを100mm/秒の印刷速度で印刷進行向きに移動させるとともに昇降させた。また、印刷進行方向の印刷画素数、つまりインクの着弾数が600dpiになるような吐出周波数で、利用ノズルからインクを吐出させた。つまり、印刷幅方向および印刷進行方向の印刷画素数が600dpiになる条件で利用ノズルからインクを吐出させた。
そして、印刷有効幅WHが例1の板の幅WGの約27%の大きさであったため、プリントヘッドを2往復させ、印刷進行向きまたは印刷進行逆向きへの移動時の印刷幅方向の位置を変更することにより、第1の主面全体に印刷層を形成した。つまり、印刷パス数は、4パスであった。印刷時間は、28秒であった。なお、印刷時間は、インクを吐出している時間のみを含み、プリントヘッドの移動時間などのインクを吐出していない時間を含まない。
例1の印刷層付き板の印刷層の表面を光学顕微鏡で観察して印刷品質を評価したところ、印刷の抜けやムラが無く、また目的のインク吐出位置以外へのインク付着が無い高品質な印刷層が形成されていた。このような高品質な印刷層を、以下の説明において、印刷品質が「A」の印刷層と称する。
【0093】
<例2>
例2の板として、例1の板と同じ形状の板を準備した。
また、例2の印刷装置として、例1の印刷装置と同様の構成を有する装置を準備した。例2の印刷装置は、3つの例2のプリントヘッドを備えていた。例2のプリントヘッドは、例1のプリントヘッドと同様に、第1,第2のノズル列群を備えていた。例2のプリントヘッドは、第1のノズル列のノズルからプリントヘッドの印刷進行向き側端部までの距離R21が18mmであること以外は、例1のプリントヘッドと同じ構成を有していた。
3つの例2のプリントヘッドは、印刷有効幅WHが150mmになるように、かつ、印刷有効幅WH全域において印刷幅方向の印刷画素数が600dpiになるように、印刷幅方向に沿って千鳥状に配置されていた。例2の第1のプリントヘッド列は1つのプリントヘッドにより構成され、第2のプリントヘッド列は2つのプリントヘッドにより構成されていた。例2の各プリントヘッドは、上記実施形態の印刷装置1と同様に、第1のプリントヘッド列に含まれる印刷幅方向端部に位置するノズルの印刷幅方向の位置が、第2のプリントヘッド列に含まれる印刷幅方向端部に位置するノズルの印刷幅方向の位置と同じになるように配置されていた。
【0094】
上記構成を有する例2の印刷装置を用いて、例2の板の第1の主面全体に印刷層を形成することにより、例2の印刷層付き板を製造した。
全ての印刷層の形成の際、傾斜部GCにおいて利用する各プリントヘッドのノズル列群を、例1と同じように、第1,第2のノズル列群に設定した。利用ノズルの開口面から板までの最大距離が3.7mmになるように各プリントヘッドを移動させたこと以外は、例1と同じ条件で各プリントヘッドを移動させるとともに、印刷幅方向および印刷進行方向の印刷画素数が600dpiになる条件で利用ノズルからインクを吐出させた。そして、印刷有効幅WHが例2の板の幅WGの約83%であったため、プリントヘッドを1往復させ、印刷進行向きまたは印刷進行逆向きへの移動時の印刷幅方向の位置を変更することにより、第1の主面全体に印刷層を形成した。つまり、印刷パス数は、2パスであった。また、印刷時間は、14秒であった。
例1と同様に、例2の印刷層付き板の印刷品質を評価したところ、印刷品質が「A」の印刷層が形成されていた。
【0095】
<例3>
例3の板として、例1の板と同じ形状の板を準備した。
また、例3の印刷装置として、例2の印刷装置と同様の構成を有する装置を準備した。例3の印刷装置は、6つの例3のプリントヘッドを備えていた。例3のプリントヘッドは、例2のプリントヘッドと同じ構成を有していた。
6つの例3のプリントヘッドは、印刷有効幅WHが300mmになるように、かつ、印刷有効幅WH全域において印刷幅方向の印刷画素数が600dpiになるように、印刷幅方向に沿って千鳥状に配置されていた。例3の第1,第2のプリントヘッド列は、上記実施形態の印刷装置1と同様に、それぞれ3つずつのプリントヘッドにより構成されていた。例3の各プリントヘッドは、例2の各プリントヘッドと同様に、第1のプリントヘッド列に含まれる印刷幅方向端部に位置するノズルの印刷幅方向の位置が、第2のプリントヘッド列に含まれる印刷幅方向端部に位置するノズルの印刷幅方向の位置と同じになるように配置されていた。
【0096】
上記構成を有する例3の印刷装置を用いて、例3の板の第1の主面全体に印刷層を形成することにより、例3の印刷層付き板を製造した。
全ての印刷層の形成の際、傾斜部GCにおいて利用する各プリントヘッド21のノズル列群を、例1,2と同じように、第1,第2のノズル列群に設定した。また、例2と同じ条件で各プリントヘッドを移動させるとともに、印刷幅方向および印刷進行方向の印刷画素数が600dpiになる条件で利用ノズルからインクを吐出させた。そして、印刷有効幅WHが例3の板の幅WGよりも大きかったため、プリントヘッドを印刷進行向きに1回移動させることにより、第1の主面全体に印刷層を形成した。つまり、印刷パス数は、1パスであった。また、印刷時間は、7秒であった。
例1と同様に、例3の印刷層付き板の印刷品質を評価したところ、印刷品質が「A」の印刷層が形成されていた。
【0097】
<例4>
例4の板として、水平面Mに対する傾斜部GCの傾斜角度θ1が32°であること以外は、例1の板と同じ構成を有する板を準備した。
また、例4の印刷装置として、例3の印刷装置と同様の構成を有する装置を準備した。例4の印刷装置は、6つの例4のプリントヘッドを備えていた。例4のプリントヘッドは、例1のプリントヘッドと同じ構成を有していた。
6つの例4のプリントヘッドは、例3と同じように千鳥状に配置されていた。
【0098】
上記構成を有する例4の印刷装置を用いて、例4の板の第1の主面全体に印刷層を形成することにより、例4の印刷層付き板を製造した。
全ての印刷層の形成の際、各プリントヘッドの第1のノズル列群のみを構成するノズルを利用ノズルとして用いた。つまり、傾斜部GCにおいて利用する各プリントヘッドのノズル列群を、印刷進行向き側に位置する第1のノズル列群のみに設定した。このような設定により、印刷層形成時における印刷進行方向の印刷画素数が300dpiになった。利用ノズルの開口面から板までの最大距離が4.2mmになるように各プリントヘッドを移動させたこと以外は、例1~3と同じ条件で各プリントヘッドを移動させるとともに、印刷進行方向の印刷画素数が1200dpiになるような吐出周波数で利用ノズルからインクを吐出させた。つまり、印刷幅方向および印刷進行方向の印刷画素数がそれぞれ300dpiおよび1200dpiになる条件で、利用ノズルからインクを吐出させた。例3と同様に、印刷パス数は1パスであり、印刷時間は7秒であった。
例1と同様に、例4の印刷層付き板の印刷品質を評価したところ、印刷品質が「A」の印刷層が形成されていた。
なお、傾斜部GCおよび第1,第2の屈曲部GB1,GB2で利用する各プリントヘッドのノズル列群を第1のノズル列群のみに設定し、第1,第2の平坦部GA1,GA2で利用する各プリントヘッドのノズル列群を第1のノズル列群および第2のノズル列群に設定すれば、上記例4の場合よりも短時間で印刷品質が「A」の印刷層を形成できる。
【0099】
<例5>
例5の板として、例4の板と同じ形状の板を準備した。
また、例5の印刷装置として、例3の印刷装置を準備した。
例5の印刷装置を用いて、例5の板の第1の主面全体に印刷層を形成することにより、例5の印刷層付き板を製造した。
全ての印刷層の形成の際、傾斜部GCにおいて利用する各プリントヘッドのノズル列群を、例1~3と同じように、第1,第2のノズル列群に設定した。利用ノズルの開口面から板までの最大距離が11.7mmになるように各プリントヘッドを移動させたこと以外は、例1~4と同じ条件で各プリントヘッドを移動させるとともに、印刷幅方向および印刷進行方向の印刷画素数が600dpiになる条件で利用ノズルからインクを吐出させた。例3,4と同様に、印刷パス数は1パスであり、印刷時間は7秒であった。
なお、例4と例5で同じ形状の板に対して印刷層を形成したにもかかわらず、例5における利用ノズルの開口面から板までの最大距離が例4より大きいのは、傾斜部において、プリントヘッドを板に接触しないように移動させると、第2のノズル列群の利用ノズルの開口面から板までの距離が、第1のノズル列群の利用ノズルの開口面から板までの距離よりも長くなるからである。
例1と同様に、例5の印刷層付き板の印刷品質を評価したところ、印刷ムラが若干生じているが製品としては問題ないレベルの印刷層が形成されていた。以下の説明において、印刷ムラが若干生じているが製品としては問題ないレベルの印刷層を、印刷品質が「B」の印刷層と称する。
【0100】
<例6>
例6の板として、水平面Mに対する傾斜部GCの傾斜角度θ1が60°であること以外は、例1の板と同じ構成を有する板を準備した。
また、例6の印刷装置として、例4の印刷装置を準備した。
例6の印刷装置を用いて、例6の板の第1の主面全体に印刷層を形成することにより、例6の印刷層付き板を製造した。
全ての印刷層の形成の際、傾斜部GCにおいて利用する各プリントヘッドのノズル列群を、例4と同じように、第1のノズル列群に設定した。利用ノズルの開口面から板までの最大距離が10.9mmになるように各プリントヘッドを移動させたこと以外は、例1~5と同じ条件で各プリントヘッドを移動させるとともに、印刷幅方向および印刷進行方向の印刷画素数がそれぞれ300dpiおよび1200dpiになる条件で利用ノズルからインクを吐出させた。例3~5と同様に、印刷パス数は1パスであり、印刷時間は7秒であった。
なお、例4と例6で第1のノズル列群のみを利用したにもかかわらず、例6における利用ノズルの開口面から板までの最大距離が例4よりも大きいのは、例6の傾斜部の傾斜角度が例4よりも大きいため、プリントヘッドを板に接触しないように移動させると、第6の第1のノズル列群の利用ノズルの開口面から板までの距離が、例4よりも長くなるからである。
例1と同様に、例6の印刷層付き板の印刷品質を評価したところ、印刷品質が「B」の印刷層が形成されていた。
【0101】
<例7>
例7の板として、例6の板と同じ形状の板を準備した。
また、例7の印刷装置として、例5の印刷装置を準備した。
例7の印刷装置を用いて、例7の板の第1の主面全体に印刷層を形成することにより、例7の印刷層付き板を製造した。
全ての印刷層の形成の際、傾斜部GCにおいて利用する各プリントヘッドのノズル列群を、例1~3,5と同じように、第1,第2のノズル列群に設定した。利用ノズルの開口面から板までの最大距離が31.7mmになるように各プリントヘッドを移動させたこと以外は、例1~6と同じ条件で各プリントヘッドを移動させるとともに、印刷幅方向および印刷進行方向の印刷画素数が600dpiになる条件で利用ノズルからインクを吐出させた。例3~6と同様に、印刷パス数は1パスであり、印刷時間は7秒であった。
なお、例6と例7で同じ形状の板に対して印刷層を形成したにもかかわらず、例7における利用ノズルの開口面から板までの最大距離が例6より大きいのは、例4おける利用ノズルの開口面から板までの最大距離が例5より大きい理由と同じ理由からである。
例1と同様に、例7の印刷層付き板の印刷品質を評価したところ、印刷ムラが多く、所定の位置にインクが着弾していない箇所が見られ、製品として問題があるレベルの印刷層が形成されていた。このような製品として問題があるレベルの印刷層を、以下の説明において、印刷品質が「C」の印刷層と称する。
【0102】
(考察)
上述した例1~7の印刷層付き板の製造方法、および、製造結果を以下の表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
<プリントヘッド数について>
同じ形状の板を用いて印刷層付き板を製造するに際し、プリントヘッドが1つの例1の印刷装置を用いる場合の印刷パス数が4パスであったのに対し、プリントヘッドが複数の例2~例7の印刷装置を用いる場合の印刷パス数は、2パス以下であった。
このことから、印刷幅方向の位置が異なる複数のプリントヘッドを用いることにより、単一のプリントヘッドを用いる場合と比べて、印刷層を効率良く形成できることを確認できた。
【0105】
<利用ノズルの開口面から板までの最大距離について>
利用ノズルの開口面から板までの最大距離が20mmを超える例7の印刷層付き板の印刷品質が「C」であり、10mmを超え、かつ、20mm以下の例5,6の印刷層付き板の印刷品質が「B」であり、10mm以下の例1~例4の印刷層付き板の印刷品質が「A」であった。
このように、利用ノズルの開口面から板までの最大距離が大きくなるにしたがって印刷品質が低くなるのは、利用ノズルが板から離れるほど、インクが板に着弾するまでの間にミスト状になりやすくなるためと考えられる。
このことから、利用ノズルの開口面から板までの最大距離が20mm以下の状態で印刷層を形成することにより、印刷層の印刷品質の低下を抑制でき、10mm以下の状態で印刷層を形成することにより、高品質の印刷層を形成できることが確認できた。
【符号の説明】
【0106】
1…印刷装置、21…プリントヘッド、212…ノズル、3…水頭圧維持部、4…相対移動機構(相対移動部)、552…吐出制御部、553…プリントヘッド移動制御部(相対移動部)、B1,B2,B3,B4…第1,第2,第3,第4の境界、G…板、G1…第1の主面、GA1,GA2…第1,第2の平坦部、GB1,GB2…第1,第2の屈曲部、GC…傾斜部、GP…印刷層付き板、GQ…印刷領域、GR…非印刷領域、M…水平面、N…インク、P…印刷層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6