(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175923
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】被検液の汲み取り容器及び電気化学的測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/28 20060101AFI20241212BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01N27/28 301B
G01N27/416 311L
G01N27/28 341A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094026
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真佐知
(57)【要約】
【課題】被検物質濃度の電気化学的測定を安定して高精度で行う技術を提供する。
【解決手段】一定量の被検液を汲み取る機能と、個体電極を搭載した電気化学センサを脱着可能に保持する保持機構と、を備え、保持機構に電気化学センサを装着した状態で被検液を汲み取ることが可能に構成されており、電気化学センサを装着した状態で被検液を汲み取ることにより被検液中に個体電極を浸漬させ、被検液を保持することにより個体電極を被検液に浸漬した状態を保持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定量の被検液を汲み取る機能と、
個体電極を搭載した電気化学センサを脱着可能に保持する保持機構と、を備え、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した状態で前記被検液を汲み取ることが可能に構成されており、
前記電気化学センサを装着した状態で前記被検液を汲み取ることにより前記被検液中に前記個体電極を浸漬させ、前記被検液を保持することにより前記個体電極を前記被検液に浸漬した状態を保持する、
被検液の汲み取り容器。
【請求項2】
前記容器の底面から一定の高さ位置における側面には、1つ又は複数の排液口が設けられており、
過剰に汲み取った前記被検液を前記排液口から排出することにより一定量の前記被検液を汲み取るように構成されている、請求項1に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項3】
前記被検液の流動を抑制する機構が、前記保持機構に装着した状態の前記電気化学センサと干渉しないように設けられている、請求項1又は2に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項4】
前記被検液の流動を抑制する前記機構は、前記容器の内周側面及び底面のうち少なくともいずれかに固定された板状部材である、請求項3に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項5】
前記保持機構は、前記電気化学センサを装着した際に、前記個体電極が定位置に位置するように構成された位置決め機構を備える、請求項1又は2に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項6】
前記位置決め機構は、前記容器の内周面及び底面のうち少なくともいずれかに固定され、前記電気化学センサの先端が当接するように構成された部材であり、
前記保持機構が前記電気化学センサの先端が前記部材に当接する位置で前記電気化学センサを保持することで、前記個体電極を定位置に位置させるように構成されている、
請求項5に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項7】
上部に開口を有する円筒形状に形成されている、請求項1又は2に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項8】
汲み置かれる前記被検液の量は20ml以上200ml以下である、請求項1又は2に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項9】
前記保持機構は、前記電気化学センサを嵌合させて保持することが可能な形状に形成されているとともに、前記電気化学センサを装着した際に前記個体電極を定位置に固定させる機構を備える、
請求項1又は2に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項10】
透明又は半透明の樹脂で構成されている、請求項1又は2に記載の被検液の汲み取り容器。
【請求項11】
請求項1に記載の被検液の汲み取り容器を用意する工程と、
前記容器が備える保持機構に電気化学センサを装着する工程と、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した状態で一定量の被検液を前記容器内に汲み取り、前記電気化学センサに搭載された個体電極を前記被検液に浸漬させた状態とする工程と、
前記個体電極を前記被検液に浸漬させた状態を維持しつつ前記被検液が静止状態となるように前記容器を保持する工程と、
前記電気化学センサを用いて前記被検液中の被検物質濃度を電気化学的に測定する工程と、
を有する、電気化学的測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検液の汲み取り容器及び電気化学的測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドを含む材料で構成された電極膜を有する作用電極を備える電気化学センサを用い、被検液中の被検物質濃度を電気化学的に測定することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、被検物質濃度の電気化学的測定を安定して高精度で行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
一定量の被検液を汲み取る機能と、
個体電極を搭載した電気化学センサを脱着可能に保持する保持機構と、を備え、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した状態で前記被検液を汲み取ることが可能に構成されており、
前記電気化学センサを装着した状態で前記被検液を汲み取ることにより前記被検液中に前記個体電極を浸漬させ、前記被検液を保持することにより前記個体電極を前記被検液に浸漬した状態を保持する、
被検液の汲み取り容器が提供される。
【0006】
本開示の他の態様によれば、
被検液の汲み取り容器を用意する工程と、
前記容器が備える保持機構に電気化学センサを装着する工程と、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した状態で一定量の被検液を前記容器内に汲み取り、前記電気化学センサに搭載された個体電極を前記被検液に浸漬させた状態とする工程と、
前記個体電極を前記被検液に浸漬させた状態を維持しつつ前記被検液が静止状態となるように前記容器を保持する工程と、
前記電気化学センサを用いて前記被検液中の被検物質濃度を電気化学的に測定する工程と、
を有する、電気化学的測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、被検物質濃度の電気化学的測定を安定して高精度で行う技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)は、本開示の一態様における被検液の汲み取り容器の概略構成の一例を示す図であって、保持機構に電気化学センサを装着した状態の容器を縦断面で示す図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示す容器を上面から見た図である。
【
図2】
図2(a)は、本開示の一態様における汲み取り容器の変形例を縦断面で示す図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示す容器を上面から見た図である。
【
図3】
図3(a)は、本開示の一態様における汲み取り容器のさらに他の変形例を縦断面で示す図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示す容器を上面から見た図である。
【
図4】
図4(a)は、本開示の一態様の変形例における汲み取り容器の概略構成の一例を示す図であって、保持機構に電気化学センサを装着した状態の容器を正面から見た際の縦断面で示す図であり、
図4(b)は、
図4(a)に示す容器を側面から見た際の縦断面で示す図であり、
図4(c)は、
図4(a)に示す容器を背面(正面と反対側の面)から見た際の縦断面で示す図であり、
図4(d)は、
図4(a)に示す容器を上面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、上述の実情に鑑みてなされたものであり、被検液中の被検物質濃度の電気化学的測定を安定して精度よく行うことが可能な技術に関するものである。
【0010】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について図面を参照しながら説明する。
【0011】
(1)被検液の汲み取り容器の構成
図1(a)及び
図1(b)に、本態様にかかる被検液の汲み取り容器100(以下、容器100とも称する)の概略構成の一例を示す。被検液としては、オゾン(O
3)が水(水道水等)中に溶存するオゾン水が挙げられる。被検液がオゾン水である場合、測定対象である被検物質としては、オゾン水中に溶存するオゾン(溶存オゾン)が挙げられる。
【0012】
容器100は、後述の保持機構110に電気化学センサ20(以下、「センサ20」とも称する)を装着した状態で、例えば被検液が流れる流路から、一定量の被検液を汲み取って保持するように構成されている。流路は、例えば、図示しないオゾン水生成装置で生成されたオゾン水を流す搬送ライン(配管)である。容器100の具体的な態様については後述する。
【0013】
センサ20は、作用電極21、対電極22、及び参照電極23が搭載された3電極センサ、又は、作用電極21及び対電極22が搭載された2電極センサとすることができる。本態様では、センサ20が3電極センサである例について説明する。なお、本明細書では、作用電極21、対電極22、及び参照電極23をまとめてセンサ電極26とも称する。このように、センサ20には、複数の電極が搭載されており、センサ20に搭載される複数の電極は、全て個体電極で(別体で)構成されている。各電極21,22,23の配置は、特に限定されるものではなく、被検液、被検物質、各電極21,22,23の形状等に応じて適宜変更可能である。センサ20に搭載されるこれらの電極21,22,23は、被検物質に応じて、形状、材料などが適宜決定される。被検物質が溶存オゾンである場合、少なくとも作用電極21、好ましくは作用電極21、対電極22、及び参照電極23を、ダイヤモンド電極とすることができる。ダイヤモンド電極とは、ダイヤモンドを含む材料で構成された電極膜を有する電極、例えば、ホウ素(ボロン)がドープされたダイヤモンド多結晶で構成された電極膜を表面に有する電極である。
【0014】
センサ20には、例えばポテンショスタットの機能を有する測定器24が装着される。測定器24は、センサ20に装着可能に構成され、センサ20が備える導体配線(図示せず)を介してセンサ電極26に電気的に接続される。測定器24は、センサ電極26への印加電圧を制御するとともに、電圧印加により作用電極21で生じる電気化学反応に応じて作用電極21と対電極22との間に流れる電流値(電気化学反応により生じる電流値)を測定するように構成されている。例えば、測定器24は、センサ電極26に被検液を接触させた状態で、作用電極21と対電極22との間に電圧を印加しつつ参照電極23の電位を基準にして作用電極21の電位を掃引することにより、作用電極21の表面で電気化学反応を生じさせ、その際に作用電極21と対電極22との間を流れる電流値の測定を行うことが可能なように構成されている。測定器24は、表示部25を有し、測定によって得られた被検物質の濃度を示すデータを表示部25に表示することが可能なように構成されている。また、測定器24は、無線通信手段や有線通信手段等を介して、通信機能等を備えたコンピュータ(スマートフォン、タブレット、PC等)に、測定によって得られた被検物質の濃度を示すデータを送信することが可能なように構成されていてもよい。
【0015】
(容器の一態様)
以下に、容器100の一態様について説明する。
【0016】
容器100は、後述の保持機構110にセンサ20を装着した状態で、容器100内に被検液を汲み取ることが可能なように構成されている。容器100は、オゾンを含む被検液に接触させても腐食することがない材料(化学的に安定な材料)により構成されている。容器100は、透明又は半透明の樹脂で構成されていることが好ましい。容器100は、断熱性に優れた材料により構成されていることがより好ましく、これにより、容器100内に汲み取られた被検液の温度が変化しにくくなる。容器100の具体的な材質としては、収容する被検液との反応性を考慮して選択する必要があるが、UV硬化アクリル樹脂、シリコーンゴム、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等)、芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等が例示される。
【0017】
容器100は、例えば円筒形状に形成されており、容器100の上端には、被検液の流出入口となる開口101(
図1(b)参照)が設けられている。開口101は、断面形状が円形、楕円形、矩形等の穴により構成されている。開口101の断面積(開口面積)は、少なくともセンサ20を貫通させることができる大きさであれば、適宜調整できる。容器100には、汲み取った被検液を保持しつつセンサ電極26に接触させる空間102が形成されており、この空間102内で溶存オゾン濃度の電気化学的測定が行われる。電気化学的測定としては、リニアスイープボルタンメトリー(LSV測定)、サイクリックボルタンメトリー(CVM測定)、クロノアンペロメトリー(CA測定)等が例示される。
【0018】
容器100は、センサ20を脱着(装着及び取り外し)可能に保持する保持機構110を備えている。保持機構110は、容器100内に汲み取られた被検液中にセンサ電極26が浸漬(センサ電極26が被検液に接触)するようにセンサ20を保持する。保持機構110は、オゾンを含む被検液に接触させても腐食することがない材料により構成されている。保持機構110は、センサ20を、例えば嵌合させて保持することが可能な形状に形成されている(センサ20を嵌合させて保持する嵌合保持部112を備えている)。
【0019】
オゾン水中のオゾン濃度(水中の溶存オゾン濃度)を電気化学的に測定する際、被検液(オゾン水)に流れ(動き)があると、被検液中のセンサ電極26に供給される被検物質(オゾン)の量が被検液の動きによって変化し、その結果、濃度の測定結果が不安定になったり、濃度の測定精度が低くなったりすることがある。このため、オゾン水中のオゾン濃度を電気化学的に測定する際、オゾン濃度を安定して正確に測定するためには、被検液を静止状態としつつセンサ電極26に接触させて測定する必要がある。なお、ここでいう「被検液を静止状態とする」とは、被検液を実質的に流れのない状態にすることを意味する。
【0020】
また、オゾンの半減期(オゾン濃度が1/2になるまでの時間)は、静止状態のオゾン水であっても二十数分程度であるとの報告がある。このため、オゾン濃度の電気化学的測定を行う際、容器100内にオゾン水を汲み取った後できるだけ早くオゾン濃度の測定を行う必要がある。
【0021】
容器100によれば、保持機構110にセンサ20を装着した状態で被検液を汲み取ることで、センサ20に搭載されたセンサ電極26の周囲を被検液で満たし、被検液中にセンサ電極26を浸漬させた状態(以下、「センサ電極26の浸漬状態」とも称する)にすることができる。また、容器100によれば、保持機構110にセンサ20を装着した状態で容器100内に被検液を保持することにより、センサ電極26の浸漬状態を維持しつつ容器100内の被検液を静止状態にできる。したがって、容器100によれば、保持機構110にセンサ20を装着した状態で、濃度測定の実施直前に被検液を汲み取るだけで、静止状態の被検液をセンサ電極26に接触させた状態とすることができる。また、容器100によれば、容器100内に汲み取られた被検液が静止状態になった後すぐに、濃度測定を実施できる。これらの結果、被検物質がオゾンである場合であっても、濃度測定を安定して高精度で行うことが可能となる。
【0022】
容器100は、被検液が流れる流路等から一定量の被検液を汲み取る機能を備えている。例えば、容器100の側面には、底面から一定の高さの位置に、1つ又は複数の排液口103が設けられており、これにより、容器100は、一定量の被検液を汲み取る機能を備えることができる。すなわち、容器100は、汲み取られた被検液のうち過剰に汲み取られた被検液(以下、「余剰液」とも称する)を排液口103から排出することで、一定量の被検液を汲み取るように構成されている。なお、排液口103の設置に代えて容器100に目盛り線を設け、目盛り線に合わせて余剰液を開口101等から排出することで、一定量の被検液を汲み取るようにしてもよい。このように排液口103の設置等により、容器100内に汲み取られる被検液の量を常に一定にでき、結果、濃度測定実施時における被検液の量を常に一定にできる。これにより、濃度測定を複数回実施した際に、異なる測定間において測定条件が変わることを回避できる、すなわち、異なる測定間で測定条件を一定にできる。その結果、濃度測定をより安定して高精度で行うことが可能となる。
【0023】
容器100の側面における排液口103の設置位置(高さ位置)を調整することで、容器100内に汲み取られる被検液の量を調整できる。すなわち、排液口103の設置位置が低くなるほど(容器100の下端に近くなるほど)、汲み取られる被検液の量が少なくなり、排液口103の設置位置が高くなるほど(容器100の上端に近くなるほど)、汲み取られる被検液の量が多くなる。容器100内に汲み置かれる被検液の量(容器100内に汲み取られて保持される被検液の量)は、例えば20ml以上200ml以下とすることができる。これにより、保持機構110にセンサ20を装着した状態で被検液の汲み取りを確実に行えるとともに、容器100内での濃度測定を高精度で確実に行うことができる。容器100内に汲み置かれる被検液の量が20ml未満である場合、センサ電極26の周囲を被検液で満たすことができなかったり、濃度の測定精度が低下したりすることがある。また、容器100内に汲み置かれる被検液の量が200ml超である場合、保持機構110にセンサ20を装着した状態で被検液の汲み取りを行えないことがある。例えば、測定者が保持機構110に装着された状態のセンサ20の一端(上端)(センサ20に装着された測定器24)を把持して被検液を汲み取った際、センサ20が保持機構110から脱落したり、センサ20が測定器24から脱落したりすることがある。
【0024】
なお、排液口103は、断面形状が円形、楕円形、矩形等の穴(開口)により構成されている。排液口103の断面積(開口面積)は、余剰液を排出することができる大きさであれば、容器100の形状や大きさ、容器100内に汲み取られる被検液の量等に応じて適宜調整できる。
【0025】
容器100の内部には、汲み取った被検液の流動を抑制する機構(以下、「流動抑制機構」とも称する)が、保持機構110に装着した状態のセンサ20と干渉しないように設けられていることが好ましい。例えば、容器100の内周側面及び底面のうち少なくともいずれかには、流動抑制機構としての板状部材が、保持機構110に装着した状態のセンサ20と干渉しないように設けられて(固定されて)いることが好ましい。流動抑制機構としては、容器100の下端側から上端側に向かう方向に沿って容器100の内周側面に設けられた板状部材104a(
図1(a)参照)や、容器100の内周側面に設けられた環状の板状部材104b(
図2(a)及び
図2(b)参照)や、容器100の底面に設けられた板状部材(又は棒状部材)104c(
図3(a)及び
図3(b)参照)が例示される。本明細書では、流動抑制機構としての板状部材104a,104b,104cを総称して板状部材104とも称する。板状部材104は、容器100の内周側面及び底面のうちの少なくともいずれかに、1つ以上設けられていればよい。
【0026】
上述のように、容器100内に流動抑制機構が設けられていることで、容器100内に汲み取られた被検液を、速やかに静止状態にできる。これにより、容器100内への被検液の汲み取りから濃度測定の実施開始までに要する時間を短くできる。また、容器100内に流動抑制機構が設けられていることで、容器100内に汲み取られた被検液を、確実に静止状態にでき、かつ、被検液の静止状態を確実に維持することもできる。これらの結果、濃度測定を一層安定して高精度で行うことが可能となる。
【0027】
保持機構110は、センサ20を装着した際に、センサ電極26が容器100内の定位置に位置するように構成された機構(位置決め機構)を備えていることが好ましい。例えば、容器100の内周面(内周側面)及び底面のうち少なくともいずれかには、位置決め機構として、センサ20の先端(下端)が当接するように構成された部材(位置決め部材)111が設けられて(固定されて)いることが好ましい。
図1(a)に示すように、保持機構110が、センサ20の先端(下端)が位置決め部材111に当接する(突き当たる)位置でセンサ20を保持することで、センサ電極26は容器100内の定位置に位置することとなる。これにより、センサ20の脱着や(同一の型の)他のセンサ20との交換等を行っても、容器100内の定位置にセンサ電極26を位置させることが可能となる。その結果、濃度測定を複数回実施した際に、異なる測定間で測定条件が変わることを確実に回避でき、濃度測定をより一層安定して高精度で行うことが可能となる。
【0028】
また、保持機構110は、センサ20を装着した際に、センサ電極26を容器100内の定位置に固定させる機構(固定機構)を備えていることが好ましい。すなわち、保持機構110は、濃度測定中にセンサ電極26が動かないようにセンサ20を保持することが好ましい。例えば、保持機構110は、測定者がセンサ20に装着された測定器24を把持した状態で濃度測定を実施したとしても、濃度測定中に、被検液中でセンサ電極26が動かないようにセンサ20を保持することが好ましい。固定機構として、例えば、保持機構110のうちセンサ20の嵌合保持部112を固定する部材113(
図1(b)参照)を設けることができる。また例えば、固定機構として、容器100の内部(内周側面及び底面のうち少なくともいずれか)に、センサ20を固定する部材が設けられていてもよい。濃度測定中にセンサ電極26が動かないように固定されていることで、濃度測定をさらに一層安定して高精度で行うことが可能となる。
【0029】
(2)電気化学的測定方法
上述の容器100を用い、被検液中の被検物質の濃度を電気化学的に測定する方法について説明する。
【0030】
まず、上述の容器100を用意する(容器の用意)。そして、容器100が備える保持機構110にセンサ20を装着する(電気化学センサの装着)。このとき、センサ20に搭載されたセンサ電極26が容器100内に位置するように、すなわち、容器100内に被検液が汲み取られた際にセンサ電極26が被検液中に浸漬するように、センサ20を保持機構110に装着する。またこのとき、容器100の内周側面及び底面のうち少なくともいずれかに設けられた位置決め部材111にセンサ20の下端が当接するように、センサ20を保持機構110に装着する。
【0031】
センサ20の装着が完了したら、測定器24をセンサ20に装着し、センサ20と測定器24とを電気的に接続させる。
【0032】
保持機構110にセンサ20を装着した状態で、例えばオゾン水が流れる流路から被検液としてのオゾン水を汲み取る(被検液の汲み取り)。測定者は、例えばセンサ20に装着した測定器24を把持した状態で被検液の汲み取りを行うことができる。被検液を汲み取った際、汲み取った被検液のうち過剰に汲み取られた被検液(余剰液)は、排液口103から排出される。これにより、容器100内には、一定量(例えば20ml以上200ml以下)の被検液が汲み取られることとなる。また、被検液が容器100内に汲み取られることで、センサ電極26の周囲が被検液で満たされ、センサ電極26は被検液中に浸漬した状態となる。
【0033】
被検液の汲み取りが完了し、センサ電極26が被検液中に浸漬した状態となったら、センサ電極26の浸漬状態を維持しつつ汲み取った被検液が静止状態になるように容器100を保持する(容器の保持)。
【0034】
容器100内の被検液が静止状態になったら、被検液の静止状態を維持しつつ、被検液中に含まれる被検物質の濃度の電気化学的測定を行う(電気化学的測定)。具体的には、静止状態の被検液をセンサ電極26に接触させた状態を維持しつつ、測定器24からのセンサ電極26への印加電圧の制御により、作用電極21と対電極22との間に電圧を印加し、参照電極23の電位を基準にして作用電極21の電位を掃引し、その際に作用電極21と対電極22との間に流れる電流値を測定する。測定器24により電流値を測定した後は、コンピュータ装置等が測定した電流値に基づいてオゾン濃度を算定するために必要な処理を行う。
【0035】
電気化学的測定が完了したら、測定器24をセンサ20から取り外すとともに、センサ20を保持機構110から取り外す。そして、容器100内の被検液を開口101等から排出する。そして、必要に応じて、被検液排出後の容器100内の洗浄や、取り外したセンサ20の洗浄等を行う。なお、測定器24を装着したまま、容器100内の被検液の排出等を行ってもよい。
【0036】
(3)効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0037】
(a)容器100によれば、保持機構110にセンサ20を装着した状態で、濃度測定の実施直前に被検液を汲み取るだけで、静止状態の被検液をセンサ電極26に接触させた状態とすることができる。また、容器100によれば、容器100内に汲み取られた被検液が静止状態になった後すぐに、濃度測定を実施できる。これらの結果、被検物質がオゾンである場合であっても、濃度測定を安定して高精度で行うことが可能となる。
【0038】
(b)容器100が一定量の被検液を汲み取る機能を備えることで、すなわち、容器100内に汲み取られる被検液の量が常に一定であることで、濃度測定実施時における被検液の量を常に一定にできる。これにより、濃度測定を複数回実施した際に、異なる測定間で測定条件を一定にでき、結果、濃度測定をより安定して高精度で行うことが可能となる。
【0039】
(c)容器100の内部に流動抑制機構が設けられていることで、容器100内に汲み取った被検液を速やかに、かつ、確実に静止状態にできる。また、被検液の静止状態を確実に維持できる。これらの結果、濃度測定を一層安定して高精度で行うことが可能となる。
【0040】
(d)保持機構110が、センサ20を装着した際にセンサ電極26を容器100内の定位置に保持する機構(位置決め機構)を備えることで、センサ20の脱着や交換等を行っても、容器100内の定位置にセンサ電極26を位置させることが可能となる。これにより、濃度測定を複数回実施した際に、異なる測定間で測定条件を確実に一定にできる。その結果、濃度測定をより一層安定して高精度で行うことが可能となる。
【0041】
(e)保持機構110がセンサ20を嵌合させて保持することが可能な形状に形成されていることで、保持機構110へのセンサ20の脱着を簡便に行うことが可能となる。また、保持機構110が、センサ20を装着した際に、センサ電極26を容器100内の定位置に固定させる機構を備えていることで、すなわち、保持機構110が、濃度測定中にセンサ電極26が動かないようにセンサ20を保持することで、濃度測定をさらに一層安定して高精度で行うことが可能となる。
【0042】
(f)容器100内に汲み置かれる被検液の量が20ml以上200ml以下であることで、保持機構110にセンサ20を装着した状態で被検液の汲み取りを確実に行うことが可能となるとともに、容器100内での濃度測定をさらに一層安定して高精度で行うことが可能となる。
【0043】
(4)変形例
本態様は、以下の変形例のように変形することができる。なお、以下の変形例の説明において、上述の態様と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。また、上述の態様及び以下の変形例は任意に組み合わせることができる。
【0044】
例えば、容器100は、以下のように変形することもできる。本変形例にかかる容器100Aは、測定器24に接続されたクレードルに容器100Aを載置することで、センサ20に搭載されたセンサ電極26とクレードルに設けられた電極とが電気的に接続されるように構成されている。
図4(a)~
図4(d)に、本変形例にかかる容器100Aの概略構成図の一例を示す。
図4(a)~
図4(d)に示すように、容器100Aは、被検液が流れる流路等から一定量の被検液を汲み取る機能及び保持機構110に加え、電気配線120及び金属電極121をさらに備えている。なお、
図4(a)~
図4(d)には、排液口103、流動抑制機構、位置決め機構、固定機構等を備えない容器100Aを示している。しかしながら、上述の容器100と同様に、容器100Aも、これらを備えてもよいことは言うまでもない。
【0045】
電気配線120は、センサ電極26に電気的に接続可能に構成されている。例えば、電気配線120は、センサ20に設けられた図示しない導体配線を介してセンサ電極26(作用電極21、対電極22、参照電極23)に電気的に接続可能に構成されている。また、電気配線120は、樹脂材料等で覆われて絶縁被覆されている。金属電極121は、容器100Aの外表面(外周側面又は外周底面)に設けられており、電気配線120に接続されている。なお、
図4(a)~
図4(d)では、金属電極121が容器100Aの外周側面に設けられる例を示している。また、金属電極121は、測定器24(測定装置)が接続されたクレードル(図示せず)が備える電極と電気的に接続可能に構成されている。
【0046】
容器100Aは、保持機構110にセンサ20を装着することで、センサ電極26と金属電極121とが電気配線120及びセンサ20に設けられた導体配線を介して電気的に接続されるように構成されている。また、容器100Aは、測定器24に接続されたクレードルに容器100Aを載置することで、センサ電極26とクレードルが備える電極とが、電気配線120及びセンサ20が備える導体配線(図示せず)を介して電気的に接続され、結果、センサ電極26と測定器24とが電気的に接続されるように構成されている。
【0047】
以下に、容器100Aを用い、被検液中の被検物質の濃度を電気化学的に測定する方法について説明する。まず、上述の構成を備える容器100Aを用意する(容器の用意)。そして、容器100Aが備える保持機構110にセンサ20を装着する(電気化学センサの装着)。保持機構110にセンサ20を装着することで、電気配線120及びセンサ20に設けられた導体配線を介して、センサ電極26と金属電極121とが電気的に接続されることとなる。センサ20の装着が完了したら、保持機構110にセンサ20を装着した状態で、一定量の被検液を汲み取る(被検液の汲み取り)。被検液の汲み取りが完了したら、保持機構110にセンサ20が装着され、内部に被検液が保持された状態の容器100Aを、測定器24が接続されたクレードルに載置する(クレードルへの載置)。このとき、金属電極121とクレードルが備える電極とが電気的に接続されるように容器100Aをクレードルに載置する。これにより、センサ電極26とクレードルが備える電極とが、金属電極121、電気配線120、及びセンサ20に設けられた導体配線を介して電気的に接続され、結果、センサ電極26と測定器24とが電気的に接続され、電気化学的測定の実施(センサ電極26に対する電圧印加等)が可能となる。容器100Aをクレードルに載置し、センサ電極26の浸漬状態を維持しつつ汲み取った被検液が静止状態になったら、電気化学的測定を実施する。すなわち、容器100A内の被検液が静止状態になったら、被検液の静止状態を維持しつつ、被検液中に含まれる被検物質の濃度を電気化学的に測定する(電気化学的測定)。
【0048】
容器100Aにおいても、保持機構110にセンサ20を装着した状態で、濃度測定の実施直前に被検液を汲み取るだけで、静止状態の被検液をセンサ電極26に接触させた状態とすることができる。また、容器100Aにおいても、容器100A内に汲み取られた被検液が静止状態になった後すぐに、濃度測定を実施できる。これらの結果、被検物質がオゾンである場合であっても、濃度測定を安定して高精度で行うことが可能となる。このように、本変形例においても上述の態様と同様の効果が得られる。
【0049】
また、容器100Aの構成によれば、保持機構110にセンサ20を装着した状態で被検液を汲み取った後、測定器24が接続されたクレードルに容器100Aを載置するだけで、電気化学的測定を行うことが可能となる。
【0050】
<他の態様>
以上、本開示の態様及び変形例を具体的に説明した。但し、本開示は上述の態様や変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0051】
例えば、上述の態様や変形例では、被検液がオゾン水であり、被検物質がオゾン水中の溶存オゾンである場合を例に挙げたが、必ずしもこれに限定されることはなく、電気化学反応を利用して濃度測定を行い得るものであれば、他の種類の被検液及び特定成分にも適用可能である。
【0052】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様について付記する。
【0053】
(付記1)
本開示の一態様によれば、
一定量の被検液を汲み取る機能と、
個体電極を搭載した電気化学センサを脱着可能に保持する保持機構と、を備え、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した状態で前記被検液を汲み取ることが可能に構成されており、
前記電気化学センサを装着した状態で前記被検液を汲み取ることにより前記被検液中に前記個体電極を浸漬させ、前記被検液を保持することにより前記個体電極を前記被検液に浸漬した状態を保持する、
被検液の汲み取り容器が提供される。
【0054】
(付記2)
付記1に記載の容器であって、好ましくは、
前記容器の底面から一定の高さ位置における側面には、1つ又は複数の排液口が設けられており、
過剰に汲み取った前記被検液を前記排液口から排出することにより一定量の前記被検液を汲み取るように構成されている。
【0055】
(付記3)
付記1又は2に記載の容器であって、好ましくは、
前記被検液の流動を抑制する機構が、前記保持機構に装着した状態の前記電気化学センサと干渉しないように設けられている。
【0056】
(付記4)
付記3に記載の容器であって、好ましくは、
前記被検液の流動を抑制する前記機構は、前記容器の内周側面及び底面のうち少なくともいずれかに固定された板状部材である。
【0057】
(付記5)
付記1~4のいずれか1項に記載の容器であって、好ましくは、
前記保持機構は、前記電気化学センサを装着した際に、前記個体電極が定位置に位置するように構成された位置決め機構を備える。
【0058】
(付記6)
付記5に記載の容器であって、好ましくは、
前記位置決め機構は、前記容器の内周面及び底面のうち少なくともいずれかに固定され、前記電気化学センサの先端が当接するように構成された部材であり、
前記保持機構が前記電気化学センサの先端が前記部材に当接する位置で前記電気化学センサを保持することで、前記個体電極を定位置に位置させるように構成されている。
【0059】
(付記7)
付記1~6のいずれか1項に記載の容器であって、好ましくは、
上部に開口を有する円筒形状に形成されている。
【0060】
(付記8)
付記1~7のいずれか1項に記載の容器であって、好ましくは、
汲み置かれる前記被検液の量は20ml以上200ml以下である。
【0061】
(付記9)
付記1~8のいずれか1項に記載の容器であって、好ましくは、
前記保持機構は、前記電気化学センサを嵌合させて保持することが可能な形状に形成されているとともに、前記電気化学センサを装着した際に前記個体電極を定位置に固定させる機構を備える。
【0062】
(付記10)
付記1~9のいずれか1項に記載の容器であって、好ましくは、
透明又は半透明の樹脂で構成されている。
【0063】
(付記11)
本開示の他の態様によれば、
付記1~10のいずれか1項に記載の被検液の汲み取り容器を用意する工程と、
前記容器が備える保持機構に電気化学センサを装着する工程と、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した状態で一定量の被検液を前記容器内に汲み取り、前記電気化学センサに搭載された個体電極を前記被検液に浸漬させた状態とする工程と、
前記個体電極を前記被検液に浸漬させた状態を維持しつつ前記被検液が静止状態となるように前記容器を保持する工程と、
前記電気化学センサを用いて前記被検液中の被検物質濃度を電気化学的に測定する工程と、
を有する、電気化学的測定方法が提供される。
【0064】
(付記12)
本開示のさらに他の態様によれば、
一定量の被検液を汲み取る機能と、
個体電極を搭載した電気化学センサを脱着可能に保持する保持機構と、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した際に前記個体電極と接続可能に構成され、絶縁被覆された電気配線と、
外周面に設けられ、前記電気配線に接続された金属電極と、
を備え、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着することで、前記個体電極と前記金属電極とが前記電気配線を介して電気的に接続されるように構成されており、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した状態で前記被検液を汲み取ることが可能に構成されており、
前記電気化学センサを装着した状態で前記被検液を汲み取ることにより前記被検液中に前記個体電極を浸漬させ、前記被検液を保持することにより前記個体電極を前記被検液に浸漬した状態が保持される、
被検液の汲み取り容器が提供される。
【0065】
(付記13)
本開示のさらに他の態様によれば、
付記12に記載の被検液の汲み取り容器を用意する工程と、
前記容器が備える保持機構に電気化学センサを装着し、前記電気化学センサに搭載された個体電極と前記容器が備える金属電極とを、前記容器が備える電気配線を介して電気的に接続する工程と、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着した状態で一定量の被検液を前記容器内に汲み取り、前記個体電極を前記被検液に浸漬させた状態とする工程と、
前記保持機構に前記電気化学センサを装着するとともに前記被検液を保持した状態の前記容器を電気化学的測定装置に接続されたクレードルに載置し、前記金属電極と前記クレードルが備える電極とを電気的に接続する工程と、
前記個体電極を前記被検液に浸漬させた状態を保持しつつ、前記被検液を静止状態とする工程と、
前記電気化学センサを用いて前記被検液中の被検物質濃度を電気化学的に測定する工程と、
を有する、電気化学的測定方法が提供される。
【符号の説明】
【0066】
20 電気化学センサ
100,100A 被検液の汲み取り容器
103 排液口
104a,104b,104c 流動抑制機構
110 保持機構
111 位置決め機構
113 固定部材