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  • 特開-細胞外小胞の解析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024175939
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】細胞外小胞の解析方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/00 20060101AFI20241212BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20241212BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C12Q1/00 C ZNA
C07K14/435
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094053
(22)【出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 恵
(72)【発明者】
【氏名】井上 宗宣
(72)【発明者】
【氏名】荻原 望
(72)【発明者】
【氏名】松永 太一
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR82
4B063QS15
4B063QS31
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA50
4H045DA83
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】 細胞外小胞のオミックス解析を簡便かつ精度高く実施可能な方法を提供すること。
【解決手段】 試料中に含まれる細胞外小胞を不溶性担体と当該担体に固定化した、スフィンゴミエリン結合性タンパク質を含むスフィンゴミエリン認識分子とを含む吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した細胞外小胞に存在する分子を解析する工程とを含む方法で、細胞外小胞をオミックス解析することにより、前記課題を解決する
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれる細胞外小胞を、細胞外小胞を吸着可能な吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した細胞外小胞に存在する分子を解析する工程とを含む、細胞外小胞のオミックス解析方法であって、
前記吸着剤が、不溶性担体と、前記不溶性担体に固定化した、スフィンゴミエリン結合性タンパク質を含むスフィンゴミエリン認識分子とを含む吸着剤である、前記解析方法。
【請求項2】
スフィンゴミエリン認識分子が、スフィンゴミエリン結合性タンパク質、および不溶性担体との結合能を有した固定化補助タンパク質をさらに含む、請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
細胞外小胞に存在する分子が、細胞外小胞に存在するタンパク質である、請求項1に記載の解析方法。
【請求項4】
スフィンゴミエリン結合性タンパク質がイクイナトキシンである、請求項1から3のいずれかに記載の解析方法。
【請求項5】
イクイナトキシンが以下の(a)から(c)のいずれかから選択されるタンパク質である、請求項4に記載の解析方法:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含む、タンパク質;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし前記アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつスフィンゴミエリン結合能を有するタンパク質;
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつスフィンゴミエリン結合能を有するタンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる細胞外小胞の解析方法に関する。特に本発明は、当該細胞外小胞のオミックス解析を精度高く実施可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞は、その内部にマイクロRNA、メッセンジャーRNAなどの核酸やタンパク質などの物質を含んでおり、細胞間の情報伝達を担っていると考えられていることから、がんなどの各種疾患のバイオマーカーとして注目されるだけでなく、新規治療薬やドラックデリバリーシステムとしての応用も期待されている(非特許文献1)。
【0003】
前記目的で細胞外小胞を利用する場合、試料中に含まれる細胞外小胞を単離し、当該単離した細胞外小胞中に含まれるタンパク質や核酸などを解析(いわゆるオミックス[omics]解析)する必要がある。
【0004】
オミックス解析使用を目的とした細胞外小胞を単離する方法として、細胞外小胞表面に存在するホスファチジルセリンに対し結合性を有するアネキシンVやTim4を利用した方法が知られており(特許文献1および非特許文献2)、当該方法は細胞外小胞を簡便な操作で単離できる。しかしながら、当該方法によって単離された細胞外小胞の精製度は低く、オミックス解析用途には不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2016/088689号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Proteomics,2013年,13巻,1637-1653頁
【非特許文献2】日本薬理学雑誌,2017年,149巻,119-122頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、細胞外小胞のオミックス解析を簡便かつ精度高く実施可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、試料中に含まれる細胞外小胞を、不溶性担体と当該担体に固定化したスフィンゴミエリン認識分子とを含む吸着剤を用いて単離することで、前記細胞外小胞を簡便、かつオミックス解析に利用可能な精製度で単離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[1]から[5]に記載の態様を包含する。
【0010】
[1]試料中に含まれる細胞外小胞を、細胞外小胞を吸着可能な吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した細胞外小胞に存在する分子を解析する工程とを含む、前記細胞外小胞のオミックス解析方法であって、前記吸着剤が、不溶性担体と、前記不溶性担体に固定化したスフィンゴミエリン結合性タンパク質を含むスフィンゴミエリン認識分子とを含む吸着剤である、前記解析方法。
【0011】
[2]スフィンゴミエリン認識分子が、スフィンゴミエリン結合性タンパク質、および不溶性担体との結合能を有した固定化補助タンパク質をさらに含む、前記[1]に記載の解析方法。
【0012】
[3]細胞外小胞に存在する分子が、細胞外小胞に存在するタンパク質である、前記[1]または[2]に記載の解析方法。
【0013】
[4]スフィンゴミエリン結合性タンパク質がイクイナトキシンである、前記[1]から[3]のいずれかに記載の解析方法。
【0014】
[5]イクイナトキシンが以下の(a)から(c)のいずれかから選択されるタンパク質である、前記[4]に記載の解析方法:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含む、タンパク質;
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし前記アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつスフィンゴミエリン結合能を有するタンパク質;
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつスフィンゴミエリン結合能を有するタンパク質。
【0015】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明において細胞外小胞とは、真核細胞から分泌された脂質二重膜で構成された20nm以上数μm以下の粒子のことを指し、その大きさや由来により、エクソソーム(Exosome)、マイクロベシクル(Microvesicles)、アポトーシス小胞(Apoptotic vesicles)に分類される。中でも、疾患診断や治療に有効性が認められている(例えば、Biology(Basel),2021年,10巻,359頁)点で、粒径50nm以上500nm以下のエクソソームおよびマイクロベシクルが好ましい。
【0017】
本発明は、試料中に含まれる細胞外小胞のオミックス解析をする際、不溶性担体と当該担体に固定化したスフィンゴミエリン結合性タンパク質を含むスフィンゴミエリン認識分子とを含む吸着剤(以下、「細胞外小胞吸着剤」とも表記)に吸着させることで前記小胞を単離してから解析することを特徴としている。
【0018】
不溶性担体は、水溶液に対して不溶性の担体であれば特に制限されない。一例として、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン等の多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタン等の合成高分子を原料とした担体や、シリカなどのセラミックスを原料とした担体、常磁性酸化鉄等を原料とした磁性微粒子が挙げられる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましく、具体的には、トヨパール(東ソー製)等のヒドロキシ基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(サイティバ製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC製)等のセルロースゲルがあげられる。不溶性担体の形状については特に限定はなく、粒状物または非粒状物、多孔性または非多孔性、いずれであってもよい。中でも、表面積が大きく、スフィンゴミエリン認識分子の固定化量を多くできる点で、粒状物が好ましい。また、その粒径は、細胞外小胞が不溶性担体の隙間を目詰まりすることなく通過でき、かつ入手が容易な点で、直径1μm以上10μm以下が好ましい。
【0019】
スフィンゴミエリン認識分子は、少なくともスフィンゴミエリン特異的に結合能を有するタンパク質(以下、「スフィンゴミエリン結合性タンパク質」とも表記)を含んでいればよく、当該タンパク質のN末端側またはC末端側にスフィンゴミエリン結合能を有さないポリペプチドや分子が付加されていてもよい。前記付加してよい、ポリペプチドや分子の一例として、タンパク質タグであるSpyTagまたはSpyCatcher、可溶性の高いタンパク質であるStaphylococcus aureus由来Protein A(SpA)のZドメイン、GSリンカー(グリシン4残基とセリン1残基の繰り返しからなるリンカー)などのリンカー配列、HRV 3Cプロテアーゼ認識配列などのプロテアーゼ認識配列、ポリヒスチジン、c-mycタグ、FLAGタグなどの分離精製用タグ、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、セルロース結合性ドメイン(CBD)などの不溶性担体への固定化用タンパク質が挙げられる。中でも、SpAのZドメインが大腸菌による組換えスフィンゴミエリン結合性タンパク質の生産性を向上できる点で、SpyCatcherがスフィンゴミエリン結合性タンパク質の分子密度や配向性を制御できる点で、それぞれ好ましい。
【0020】
スフィンゴミエリン結合性タンパク質の一例として、ウメボシイソギンチャク(Actinia equina)由来のイクイナトキシンII(Equinatoxin II、以下「EqtII」とも表記)、シマミミズ(Eisenia foetida)由来のライセニン(Lysenin)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)由来のプルロトライシンA2(Pleurotolysin A2)やオストレオリシンA(Ostreolysin A)が挙げられる。中でも、EqtIIは、大腸菌による組換えタンパク質の生産が容易な点で、スフィンゴミエリン結合性タンパク質の好ましい態様といえる。
【0021】
またスフィンゴミエリン結合性タンパク質は、天然に存在するスフィンゴミエリン結合性タンパク質(その部分領域も含む、以下同様)に限らず、スフィンゴミエリン結合能を有する限り、前記タンパク質においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上有してもよい。
【0022】
スフィンゴミエリン結合性タンパク質がEqtIIである場合の好ましい態様として、以下の(a)から(c)のいずれかから選択されるタンパク質があげられる。なお配列番号1は天然型(変異未導入の)EqtIIの部分配列であり、具体的にはUniProt Accession No.P61914の36番目から214番目までのアミノ酸配列に相当する。
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含む、タンパク質
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基において1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上をさらに有し、かつスフィンゴミエリン結合能を有するタンパク質
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつスフィンゴミエリン結合能を有するタンパク質。
【0023】
前記(b)において「1もしくは数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、例えば、1個以上20個以下、1個以上10個以下、1個以上5個以下、1個以上3個以下のいずれかを意味する。また前記(b)に記載の「置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上」には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いなどに基づく、天然にも生じ得る変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0024】
(b)に記載の「置換」の例として、配列番号1の8番目のバリンおよび69番目のリジンのシステインへの置換があげられる(配列番号2)。なお当該置換は、膜孔形成毒素(Pore Forming Toxin)である天然型のEqtII(配列番号1)を無毒化し、安全性を高める置換である(J.Biol.Chem.,2004年,279巻,46509-46517頁)。
【0025】
(c)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上であればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。なお本発明において相同性とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。アミノ酸配列間の同一性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の類似性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(Alignment program)を利用して決定できる。
【0026】
スフィンゴミエリン認識分子1分子当たりに含まれるスフィンゴミエリン結合性タンパク質の数に制限はないが、スフィンゴミエリンへの親和性が高く、かつ大腸菌での組換えタンパク質を用いた作製も容易な点で、3個以上9個以下が好ましい。また、細胞外小胞吸着剤に含まれるスフィンゴミエリン認識分子の種類に制限はなく、2種類以上のスフィンゴミエリン認識分子が固定化されていてもよい。
【0027】
スフィンゴミエリン結合性タンパク質の具体例として、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質があげられる。なお配列番号3のうち、5番目のセリンから183番目のアラニンまでがNT-EqtII(配列番号2)のアミノ酸配列であり、189番目のグリシンから202番目のグリシンまでがGSリンカー配列であり、207番目のグリシンから322番目のイソロイシンまでがタンパク質タグSpyCatcher(Protein Data Bank No.4MLIのChain AおよびB[116残基]、以下「SpyC」とも表記)のアミノ酸配列である。
【0028】
なお不溶性担体上には、スフィンゴミエリン結合性タンパク質が細胞外小胞に対する特異的な結合能を有している限り、スフィンゴミエリンを認識しない物質(以下、「スフィンゴミエリン非結合性物質」とも表記)を結合(固定化)させてもよい。スフィンゴミエリン非結合性物質として、固定化補助タンパク質、ウシ血清アルブミンなど不溶性担体表面の非特異的な吸着を防ぐタンパク質、デキストランなどの担体表面の親水性を向上させる非タンパク質成分、を例示できる。このうち固定化補助タンパク質は、スフィンゴミエリン結合性タンパク質との結合能を有し、かつスフィンゴミエリン結合性タンパク質を不溶性担体に固定化する際に当該タンパク質の密度や配向を制御する機能を有したタンパク質である。1つのスフィンゴミエリン認識分子固定化担体におけるスフィンゴミエリン非結合性物質の結合数や種類に制限はなく、2種類以上のスフィンゴミエリン非結合性物質が固定化(結合)されていてもよい。
【0029】
不溶性担体に固定化するスフィンゴミエリン非結合性物質としては、スフィンゴミエリン結合性タンパク質の密度や配向を制御しスフィンゴミエリン結合性タンパク質の細胞外小胞への結合性を最適化する点で、固定化補助タンパク質が好ましく、3量体構造を有した固定化補助タンパク質が、スフィンゴミエリン結合性タンパク質の多価効果による親和性向上が得られ、かつ作製も容易な点から、さらに好ましい。
【0030】
C末端側に前述したSpyCを付加したスフィンゴミエリン結合性タンパク質と、アビジンやストレプトアビジンなどのビオチン結合性タンパク質を固定化した不溶性担体とを用いた場合における、固定化補助タンパク質の具体例として、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質があげられる。
【0031】
なお、配列番号4のうち5番目が前記不溶性担体へ固定化させる際のビオチン標識に用いるシステイン残基であり、15番目のアスパラギン酸から72番目のバリンまでがSpAのZドメイン(GenBank Accession No.AL052730の4番目から61番目まで)のアミノ酸配列であり、78番目のグリシンから92番目のセリンまで、112番目のグリシンから126番目のセリンまで、および162番目のグリシンから176番目のセリンまでがGSリンカー配列であり、129番目のアラニンから142番目のアラニンまで、および179番目のアラニンから192番目のアラニンまでがαヘリックスリンカー配列であり、95番目のアラニンから107番目のリジンまで、145番目のアラニンから157番目のリジンまで、および200番目のアラニンから212番目のリジンまでがタンパク質タグSpyTag(以下「SpyT」とも表記)のアミノ酸配列である。
【0032】
スフィンゴミエリン認識分子の不溶性担体への固定化は、当業者が通常用いる一般的なものであれば特に制限はない。例えば、
不溶性担体にマレイミド基やカルボキシ基等の反応性官能基を導入後、当該官能基にスフィンゴミエリン認識分子を直接固定化してもよいし、
スフィンゴミエリン結合性タンパク質と固定化補助タンパク質とを例えばSpyT/SpyCのアミノ酸配列を含む多量体形成タンパク質を介して結合させスフィンゴミエリン認識分子を調製後、アビジン、ストレプトアビジンなどのビオチン結合性タンパク質を導入した不溶性担体に、前記認識分子が有するビオチンを介して固定化してもよいし、
反応性官能基を介して固定化補助タンパク質などのスフィンゴミエリン非結合性物質を不溶性担体に固定化後、スフィンゴミエリン結合性タンパク質をスフィンゴミエリン非結合性物質に結合させることで、前記不溶性担体に固定化してもよいし、
不溶性担体にスフィンゴミエリン認識分子を接触させ、当該認識分子を物理的吸着によって不溶性担体に固定化してもよい。
【0033】
中でもスフィンゴミエリン結合性タンパク質を固定化補助タンパク質を介して不溶性担体に固定化させることで、スフィンゴミエリン認識分子を不溶性担体に固定化させると、固定化工程時の反応が穏やかになりスフィンゴミエリン結合性タンパク質の変性が少なくなる点、およびスフィンゴミエリン結合性タンパク質の担体上での配向や密度を制御できる点で、好ましい。
【0034】
本発明において試料中に含まれる細胞外小胞を細胞外小胞吸着剤に吸着させる工程は、当業者が通常用いる一般的な方法であれば特に制限はない。細胞外小胞を含む試料は特に制限はなく、生体組織、培養した細胞などの生体に由来するものや、培地や緩衝液等の溶液に細胞外小胞を懸濁させたものであってもよい。前記細胞外小胞を含む試料を調製するための溶媒は、細胞外小胞を安定な状態で保持可能であり、かつ細胞外小胞吸着剤への細胞外小胞の吸着を阻害しなければ特に制限はないが、スフィンゴミエリン認識分子や溶液中に含まれる細胞外小胞の変性を防ぐ点で、pH6.0以上8.0以下に調製した緩衝液が好ましく、具体的にはTBS(Tris [Tris(hydroxymethyl)aminomethane] Buffered Saline)、PBS(Phosphate Buffered Saline)、HBS(HEPES[4-(2-HydroxyEthyl)-1-PiperazineEthaneSulfonic acid] Buffered Saline)が例示できる。さらに前記溶媒は、スフィンゴミエリン認識分子と溶液中成分との非特異的吸着を防ぐために界面活性剤をさらに含んでもよく、具体的には、0.00001%(w/v)以上0.5%(w/v)以下の非イオン性界面活性剤をさらに含んでもよい。非イオン性界面活性剤の好ましい例として、Tween 20(商品名)があげられる。
【0035】
細胞外小胞吸着剤と細胞外小胞を含む試料とを接触させる温度は、細胞外小胞やスフィンゴミエリン認識分子の変性を防ぐ点で2℃以上40℃以下が好ましい。また細胞外小胞吸着剤と細胞外小胞を含む試料との接触時間は、スフィンゴミエリン認識分子と細胞外小胞が接触する時間を確保し、かつ細胞外小胞の変性を防ぐ点で、30分以上24時間以下が好ましく、1時間以上12時間以下がより好ましい。
【0036】
細胞外小胞吸着剤へは試料中に含まれる細胞外小胞とともに、夾雑物も非特異的に吸着する。したがって、当該夾雑物を除去する洗浄工程を追加するとよい。洗浄工程は、当業者が通常用いる方法から適宜選択すればよい。洗浄用の緩衝液やpHは、例えば、前記の細胞外小胞を含む溶液を調製するための溶媒と同様のものを用いればよい。温度についても、細胞外小胞吸着剤に細胞外小胞を吸着させる工程と同様に実施すればよい。
【0037】
細胞外小胞吸着剤に吸着した細胞外小胞のオミックス解析を行なう際は、当該細胞外小胞を吸着剤から解離させ解析してもよいし、当該細胞外小胞を吸着させたまま内包分子を抽出し解析してもよい。前記解離は当業者が通常用いる方法で行なえばよい。例えば、50℃以上の高温処理によりスフィンゴミエリン認識分子を変性させ解離させる方法や、高濃度の塩、アミノ酸や界面活性剤などを添加し解離させてもよい。前記抽出も当業者が通常用いる方法で行なえばよい。例えば、細胞外小胞の膜を可溶化できる濃度の界面活性剤で処理し抽出する方法や、細胞外小胞の膜を超音波で破砕し抽出する方法があげられる。膜を可溶化するための界面活性剤も特に限定はなく、Tween 20、Tween 80、Triton X-100、NP-40(以上、商品名)、SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)などの中から適宜選択すればよい。
【0038】
本発明においてオミックス解析とは、解析対象である細胞外小胞に存在する分子の解析であれば特に限定はない。一例として、前記小胞中に存在するタンパク質を解析するプロテオミクス(proteomics)解析、前記小胞中に存在する核酸を解析するゲノミクス(genomics)解析やトランスクリプトミクス(transcriptomics)解析、前記小胞中に存在する代謝物質を解析するメタボロミクス(metabolomics)解析があげられる。中でも本発明は、プロテオミクス解析を行なう際、特に有用な方法である。
【0039】
解析方法も特に限定はなく、一例としてオミックス解析がプロテオミクス解析の場合、質量分析計を利用した方法があげられる。具体的には、S-Trap micro kit(ProtiFi社製)やDetergent-free Exosomal Protein Extraction Kit(101 Bio社製)といった市販の前処理キットを利用し、細胞外小胞に存在するタンパク質の抽出、還元、アルキル化、およびトリプシン処理などを行なった後、質量分析計に供し、解析すればよい。
【発明の効果】
【0040】
本発明は、試料中に含まれる細胞外小胞のオミックス解析を行なう際、不溶性担体と当該担体に固定化した、スフィンゴミエリン結合性タンパク質を含むスフィンゴミエリン認識分子とを含む吸着剤に吸着させることで前記小胞を単離してから解析することを特徴としており、前記解析を簡便かつ精度高く実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施例で作製した、スフィンゴミエリン結合性タンパク質、固定化補助タンパク質、スフィンゴミエリン認識分子、および細胞外小胞吸着剤の模式図。
【実施例0042】
以下、実施例および比較例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1 スフィンゴミエリン結合性タンパク質の作製
(1)無毒化イクイナトキシン(NT-EqtII、配列番号2)とSpyCatcher(Protein Data Bank No.4MLIのChain AおよびB[116残基]、以下「SpyC」とも表記)との融合タンパク質((NT-EqtII)-SpyC、配列番号3)のN末端側にStaphylococcus aureus由来Protein AのZドメイン(SpA-Z、GenBank Accession No.AL052730の4番目から61番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチド)を付加したポリペプチド(SpA-Z)-(NT-EqtII)-SpyC(配列番号5)をコードするポリヌクレオチド(配列番号6)を、pET28a(+)(メルク製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、(SpA-Z)-(NT-EqtII)-SpyC(配列番号5)を大腸菌で発現可能なベクターpET_(SpA-Z)-(NT-EqtII)-SpyCを作製した。
【0044】
(2)(1)で作製した発現ベクターpET_(SpA-Z)-(NT-EqtII)-SpyCで、大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、組換え大腸菌(形質転換体)を得た。
【0045】
(3)得られた形質転換体を、30μg/mLのカナマイシンを添加したLB(Luria-Bertani)培地(10g/L Tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行なった。
【0046】
(4)(3)の前培養液を30μg/mLのカナマイシンを添加したTB(Terrific broth)培地(24g/L Yeast extract、12g/L Tryptone、9.4g/L KHPO、2.2g/L KHPOおよび4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。
【0047】
(5)培養液の濁度(OD600nm)が約0.6になった時点で、培養温度を20℃に切り替え、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を0.1mM添加した後、さらに一晩培養することで(SpA-Z)-(NT-EqtII)-SpyCを発現させた。
【0048】
(6)培養液から集菌後、BugBuster Protein extraction kit(メルク製)を用いて、メーカープロトコルに従い、菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。
【0049】
(7)可溶性タンパク質抽出液中からの(SpA-Z)-(NT-EqtII)-SpyCの精製をニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行ない、限外ろ過フィルターを用いて保存用緩衝液(150mM 塩化ナトリウムを含む50mM Tris-HCl(pH7.5))に置換した。
【0050】
(8)(SpA-Z)-(NT-EqtII)-SpyCからヒスチジンタグおよびSpA-Zを除去するため、ヒスチジンタグペプチドを融合したHRV 3Cプロテアーゼ(メルク製)を用いてメーカープロトコルに従い(SpA-Z)-(NT-EqtII)-SpyCを消化した。
【0051】
(9)消化液に5mMのイミダゾールを添加後、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより精製することで、(NT-EqtII)-SpyC(配列番号3)溶液を得た。
【0052】
実施例2 固定化補助タンパク質の作製
(1)N末端側にビオチン標識用システイン残基(Cys)を付加したSpA-Zと3コピーのSpyTag(Protein Data Bank No.4MLIのChain B[13残基]、以下「SpyT」とも表記)との融合タンパク質(Cys-(SpA-Z)-3SpyT、配列番号4)をコードするポリヌクレオチドを、pGEX(サイティバ製)のマルチクローニングサイトに挿入することで、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)とCys-(SpA-Z)-3SpyTとの融合タンパク質GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号7)を大腸菌で発現可能なベクターpGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを作製した(GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号8に示す)。
【0053】
(2)(1)で作製した発現ベクターpGEX_GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTで大腸菌BL21株を形質転換し、組換え大腸菌(形質転換体)を得た。
【0054】
(3)得られた形質転換体を60μg/mLのカルベニシリンを添加したLB培地に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養後、当該前培養液を60μg/mLのカルベニシリンを添加したLB培地に接種し、37℃で振盪培養した。
【0055】
(4)培養液の濁度(OD600nm)が約0.6になった時点で、培養温度を30℃に切り替え、IPTGを0.5mM添加した後、さらに5時間培養することで、GST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを発現させた。
【0056】
(5)培養液から集菌後、BugBuster Protein extraction kit(メルク製)を用いて、メーカープロトコルに従い菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。
【0057】
(6)可溶性タンパク質抽出液中からのGST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTの精製を、グルタチオン固定化担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより行なった。
【0058】
(7)前記固定化担体に結合したGST-Cys-(SpA-Z)-3SpyTを、GST融合HRV 3Cプロテアーゼ(メルク製)を用いてメーカープロトコルに従い消化し、上清を回収することで、Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号4)溶液を得た。
【0059】
実施例3 スフィンゴミエリン認識分子の作製
(1)実施例2で得た固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号4)溶液を、限外ろ過フィルターを用いてD-PBS(Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)に置換し、EZ-Link Maleimide-PEG2-Biotin(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用い、メーカープロトコルに従ってシステイン残基のスルフヒドリル基をビオチン標識した。
【0060】
(2)(1)でビオチン標識した固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号4)および実施例1で得たスフィンゴミエリン結合性タンパク質(NT-EqtII)-SpyC(配列番号3)を、それぞれ濃度0.3mg/mL以上となるよう、D-PBS(+)またはpH7.0以上pH8.0以下のTBS-T(0.15M NaClおよび0.05%(w/v) Tween 20(商品名)を含む25mM Tris-HCl(pH7.2))に懸濁した。
【0061】
(3)ビオチン標識Cys-(SpA-Z)-3SpyTに対し、(NT-EqtII)-SpyCがモル比で4以上となるよう両懸濁液を混合後、4℃で一昼夜以上放置することでSpyTとSpyCとを結合させ、固定化補助タンパク質にスフィンゴミエリン結合性タンパク質を3つ結合したスフィンゴミエリン認識分子である、((NT-EqtII)-SpyC)/Cys-(SpA-Z)-3SpyTを作製した。
【0062】
実施例4 スフィンゴミエリン認識分子を含む細胞外小胞吸着剤の作製
(1)不溶性担体として、ストレプトアビジン固定化磁性微粒子であるMagnoshere MS300/Streptavidin(粒径3μm)(JSRライフサイエンス製)を採用した。当該磁性微粒子のスラリー溶液(微粒子含有率1%(w/v))を250μL採取し、上清を除去後、PBS-T(0.05%(w/v) Tween 20(商品名)を含むD-PBS)で洗浄した。
【0063】
(2)実施例3で作製したスフィンゴミエリン認識分子を固定化補助タンパク質Cys-(SpA-Z)-3SpyT(配列番号4)の濃度に換算して0.1mg/mL以上の濃度に調整した。
【0064】
(3)(1)で洗浄した磁性微粒子に、(2)で調製したスフィンゴミエリン認識分子溶液を、固定化補助タンパク質量に換算して25μg添加し、室温で15分間混和し、反応させた。
【0065】
(4)反応後の上清を除去し、PBS-Tで3回洗浄することで、スフィンゴミエリン認識分子を含む細胞外小胞吸着剤を作製した。
【0066】
実施例5 スフィンゴミエリン認識分子を含む細胞外小胞吸着剤を用いた、試料中に含まれる細胞外小胞のオミックス解析
(1)細胞外小胞を含む試料の調製
(1-1)前立腺がん細胞株(PC3細胞)を、15%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)を含むHam’s F-12K培地(富士フイルム和光純薬製)を用いて37℃で培養した。
【0067】
(1-2)培養したPC3細胞を、15%(v/v)のFBS(あらかじめ限外濾過膜処理により細胞外小胞を除去済)を含むHam’s F-12K培地でさらに2日間培養後、培養上清150mLを回収した。
【0068】
(1-3)回収した培養上清を300×Gで10分間、室温で遠心分離して浮遊細胞を除去後、上清を回収した。さらに0.22μmフィルターを通過させ、細胞デブリを除去した濾液を細胞培養上清とした。
【0069】
(1-4)(1-3)で得た細胞培養上清を、限外ろ過フィルターを用いて500μLに濃縮し、これを細胞外小胞を含む試料とした。
【0070】
(2)細胞外小胞吸着剤による、試料中に含まれる細胞外小胞の吸着
(2-1)実施例4で作製したスフィンゴミエリン認識分子を含む細胞外小胞吸着剤が入った容器に、(1)で調製した試料およびPBS-Tをそれぞれ500μLずつ添加後、当該容器を4℃で3時間、振とうした。
【0071】
(2-2)上清を除去後、500μLのPBS-Tで2回洗浄することで、試料中に含まれる細胞外小胞を吸着した吸着剤を得た。
【0072】
(3)吸着剤に吸着した細胞外小胞のオミックス解析
(3-1)(2)で得られた細胞外小胞を吸着した吸着剤が入った容器に、0.1%(w/v)SDS(Sodium Dodecyl Sulfate)を含むRIPAバッファー(ナカライテスク製)50μLを添加することで、当該吸着した細胞外小胞を可溶化した。
【0073】
(3-2)遠心濃縮器で溶媒を一部除去後、S-Trap micro kit(ProtiFi製)を用いてメーカープロトコルに従い、タンパク質抽出、抽出したタンパク質の還元・アルキル化、および酵素(トリプシン/リシルエンドペプチダーゼ)処理を行なった。
【0074】
(3-3)(3-2)の処理で回収したペプチド断片を、15μLの0.1%(v/v)ギ酸-5%(v/v)アセトニトリル水溶液に溶解し、これを測定サンプルとした。当該サンプル中に含まれるタンパク質量は、BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いて定量した。
【0075】
(3-4)(3-3)で得られた測定サンプル10μgを、Easy-nLC 1200(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)に供し、液体クロマトグラフィー分析を行なった。なお、カラムは3μm C18 NANO HPLC CAPILLARY COLUMN(日京テクノス製)を、溶離液は0.1%(v/v)ギ酸-蒸留水および0.1%(v/v)ギ酸-80%(v/v)アセトニトリルを、それぞれ用いた。
【0076】
(3-5)液体クロマトグラフィー分析後のサンプルは引き続き、Orbitrap Fusion(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)に供し、エレクトロスプレーイオン化ポジティブモードで質量分析した。
【0077】
(3-6)質量分析結果をProteome Discoverer 2.2(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用い、タンパク質を同定した。データベースはHomo sapiens(SwissProt)を用いた。なお当該タンパク質に帰属したペプチドアミノ酸配列の全数が2つ以上同定されたものを同定タンパク質とした。
【0078】
比較例1 ホスファチジルセリン認識分子を含む細胞外小胞吸着剤の作製
(1)不溶性担体として、ストレプトアビジン固定化磁性微粒子であるMagnoshere MS300/Streptavidin(粒径3μm)(JSRライフサイエンス製)を採用した。当該磁性微粒子のスラリー溶液(微粒子含有率1%(w/v))を250μL採取し、上清を除去後、MagCapture Exosome Isolation Kit PS Ver.2(富士フイルム和光純薬製、以下「FW製キット」とも表記)に添付のExosome Capture Immobilizing/Washing Buffer(1×)で洗浄した。
【0079】
(2)(1)で洗浄した磁性微粒子に、ホスファチジルセリン認識分子溶液(Biotin-labeled Exosome Capture、FW製キットに添付)を41.65μL添加し、室温で15分間混和し、反応させた。
【0080】
(3)反応後の上清を除去し、FW製キットに添付のExosome Capture Immobilizing/Washing Buffer(1×)で3回洗浄することで、ホスファチジルセリン認識分子を含む細胞外小胞吸着剤を作製した。
【0081】
比較例2 ホスファチジルセリン認識分子を含む細胞外小胞吸着剤を用いた、試料中に含まれる細胞外小胞のオミックス解析
(1)比較例1で作製したホスファチジルセリン認識分子を含む細胞外小胞吸着剤が入った容器に、実施例5(1)で調製した試料500μL、TBS-T 500μLおよびFW製キットに添付のExosome Binding Enhancer(500×)2μLを添加後、当該容器を4℃で3時間、振とうした。
【0082】
(2)上清を除去後、FW製キットに添付のExosome Capture Immobilizing/Washing Buffer(1×) 500μLで2回洗浄することで、試料中に含まれる細胞外小胞を吸着した吸着剤を得た。
【0083】
(3)実施例5(3)に記載の方法で、吸着剤に吸着した細胞外小胞のオミックス解析を行なった。
【0084】
実施例5および比較例2の解析で同定できたタンパク質を表1に示す。スフィンゴミエリン認識分子を含む吸着剤で吸着した細胞外小胞の解析結果(実施例5)からは、細胞外小胞に関連するタンパク質(具体的には、CD9、Syntenin-1、AlixおよびHSP60の4種類)のみ同定できた。一方、ホスファチジルセリン認識分子を含む吸着剤で吸着した細胞外小胞の解析結果(比較例2)からは、前述した細胞外小胞に関連するタンパク質4種類の他に、小胞体に関連するタンパク質(具体的には、Calnexin、Calreticulin、DNAJA1、GANAB、HSPH1、P4HB、PDIA6、PRKCSH、Rpn1、Ubiquilin-2およびVCP)も同定された。以上の結果より、細胞外小胞のオミックス解析をする際、試料中に含まれる細胞外小胞をスフィンゴミエリン認識分子を含む吸着剤で吸着させることで、ホスファチジルセリン認識分子を含む吸着剤で吸着させるよりも、精度高く解析可能なことがわかる。
【0085】
【表1】
図1
【配列表】
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