(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017595
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】反射鏡、面発光レーザー、面発光レーザーの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20240201BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240201BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01S5/183
G02B5/30
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120338
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】横田 信英
(72)【発明者】
【氏名】八坂 洋
(72)【発明者】
【氏名】揖場 聡
(72)【発明者】
【氏名】池田 和浩
【テーマコード(参考)】
2H149
2H249
5F173
【Fターム(参考)】
2H149BA01
2H149BA24
2H149DA13
2H149FD10
2H149FD48
2H249AA12
2H249AA55
2H249AA59
2H249AA61
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC22
5F173AC26
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC52
5F173AF96
5F173AG03
5F173AH02
5F173AP32
5F173AP33
5F173AP42
5F173AR36
(57)【要約】
【課題】高速変調の面発光レーザーに適用できる反射鏡を提供する。
【解決手段】この反射鏡は、高屈折領域と低屈折領域とを備える。高屈折領域は、それぞれが第1方向に延びる複数の第1ラインと、それぞれが前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の第2ラインと、を有する。低屈折領域は、厚み方向から平面視した際に高屈折領域に囲まれる。第1ラインの幅を第1幅とし、隣接する第1ライン間の周期を第1周期とし、第1幅を第1周期で割った値を第1デューティー比とし、第2ラインの幅を第2幅とし、隣接する第2ライン間の周期を第2周期とし、第2幅を第2周期で割った値を第2デューティー比とした際に、第1幅と第2幅、第1周期と第2周期、第1デューティー比と第2デューティー比の組のうち少なくとも一つは互いに異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが第1方向に延びる複数の第1ラインと、それぞれが前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の第2ラインと、を有する高屈折領域と
厚み方向から平面視した際に前記高屈折領域に囲まれ、前記高屈折領域より屈折率が低い低屈折領域と、を備え、
前記第1ラインの前記第1方向と直交する方向の幅を第1幅とし、隣接する前記第1ライン間の周期を第1周期とし、前記第1幅を前記第1周期で割った値を第1デューティー比とし、前記第2ラインの前記第2方向と直交する方向の幅を第2幅とし、隣接する前記第2ライン間の周期を第2周期とし、前記第2幅を前記第2周期で割った値を第2デューティー比とした際に、
前記第1幅と前記第2幅、前記第1周期と前記第2周期、前記第1デューティー比と前記第2デューティー比の組のうち少なくとも一つは互いに異なり、
前記第1方向の直線偏光及び前記第2方向の直線偏光のいずれに対しても反射率が90%以上であり、複屈折を示す、反射鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の反射鏡からなる第1反射鏡と、
前記第1反射鏡と対向する第2反射鏡と、
前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とに挟まれ発光する活性層と、
前記活性層にアップスピンの電子を注入する第1電極と、
前記活性層にダウンスピンの電子を注入する第2電極と、を備える、面発光レーザー。
【請求項3】
使用する波長帯域を設定する工程と、
高屈折領域と低屈折領域とを備える反射鏡を作製する工程と、
前記反射鏡を第1反射鏡として、前記第1反射鏡と第2反射鏡との間に前記波長帯域の光を発光する活性層を配置する工程と、を有し、
前記高屈折領域は、それぞれが第1方向に延びる複数の第1ラインと、それぞれが前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の第2ラインと、を有し、
前記第1ラインの前記第1方向と直交する方向の第1幅、隣接する前記第1ライン間の第1周期、前記第1幅を前記第1周期で割った第1デューティー比、前記第2ラインの前記第2方向と直交する方向の第2幅、隣接する前記第2ライン間の第2周期、及び、前記第2幅を前記第2周期で割った第2デューティー比を、前記波長帯域に応じて設定する、面発光レーザーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射鏡、面発光レーザー、面発光レーザーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データトラフィックの増加に伴い、データセンター内の短距離の光通信システムの高速化が求められている。半導体レーザーは、光通信システムに用いられる光源として広く利用されている。
【0003】
半導体レーザーの一つとして、電流変調方式の半導体レーザーがある。電流変調方式の半導体レーザーは、注入電子と光子とが相互作用することで、発振する。電流変調方式の半導体レーザーは、注入電子と光子とが相互作用する緩和振動の周波数を上限とする高周波領域において、変調感度が急激に低下するため、変調周波数は30GHz程度が上限と考えられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属と誘電体とからなる回折格子型偏光子を有する電流変調方式の面発光レーザーが開示されている。特許文献1に係る面発光レーザーは、偏波方向を固定するために、金属と誘電体とからなる回折格子偏光子を用いている。
【0005】
また例えば、特許文献2には、90°の回転対称性を有する井桁状の2次元格子構造体を有する面発光レーザーが開示されている。特許文献2は、90°の回転対称性を有する井桁状の2次元格子構造体を反射鏡として用いることで、偏光に依存せずに高い反射率を実現できる。
【0006】
また半導体レーザーの一つとして、スピン偏極変調方式の面発光レーザーにも注目が集まっている。スピン偏極変調方式の面発光レーザーは、注入電子のスピン偏極度を変調する。スピン偏極変調方式の面発光レーザーは、電流変調方式の面発光レーザーと異なり、注入電子及び光子の緩和振動の周波数によらない高速偏光変調が可能である。
【0007】
例えば、非特許文献1には、スピン偏極変調方式の面発光レーザーが開示されている。非特許文献1には、面発光レーザーの直線複屈折が互いに直交する直線偏光モード間の周波数分離を生み出し、この周波数分離量が面発光レーザーの変調周波数の上限に対応することが記載されている。非特許文献1には、面発光レーザーに複屈折が生じることで、変調周波数の3dB帯域幅が100GHz以上となることが記載されている。
【0008】
非特許文献2は、面発光レーザーをレーザー加工で機械的に歪ませることで、面発光レーザーに複屈折を生み出すことができることが記載されている。また非特許文献3には、面発光レーザーにヒータを設け、ヒータの熱により面発光レーザーの複屈折を制御できることが記載されている。また非特許文献4には、外部回折格子を用いて、面発光レーザーに複屈折を生み出すことが記載されている。
【0009】
また非特許文献5には、1次元周期構造を有するサブ波長回折格子を面発光レーザーの反射鏡として用いることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8-56049号公報
【特許文献2】特許第6019522号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】N. Yokota et al., Appl. Phys. Lett. Vol.113, 171102, 2018.
【非特許文献2】N. Yokota et al., IEEE Photon. Technol. Lett. Vol. 29, No. 9, MAY 1, 2017.
【非特許文献3】T. Pusch et al., APPLIED PHYSICS LETTERS 110, 151106 (2017).
【非特許文献4】T. Pusch et al., ELECTRONICS LETTERS Vol.55, No. 19, pp. 1055-1057.
【非特許文献5】C. F. R. Mateus et al., IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, Vol. 16, No. 2, FEBRUARY 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
光通信システムの高速化に伴い、高速変調可能な面発光レーザーが求められている。例えば、特許文献1、特許文献2及び非特許文献5に記載の面発光レーザーは、電流変調方式の半導体レーザーであり、原理的に変調周波数には緩和振動による上限がある。また、特許文献1は、金属/誘電体回折格子型偏光子を備えることで複屈折を与えているが、偏光に依存した光損失が生じるため、発振偏光の安定化には適するが、スピン偏極変調方式を用いた偏光変調には適さない。また、特許文献2には、2次元格子構造体を用いているが、90°回転対称性を有することから、面発光レーザーに複屈折を与える効果はない。さらに、非特許文献5は、1次元格子構造体を用いて、面発光レーザーに複屈折を与えているが、スピン偏極変調方式の面発光レーザーに適用するためには、反射鏡の偏光依存性を排除する必要があり、この1次元格子構造体はこの問題を解決することができない。
【0013】
非特許文献1に開示されたスピン偏極変調方式の面発光レーザーは、面発光レーザーが複屈折を示すことで、高速変調が可能である。しかしながら、非特許文献1には、具体的な有効な複屈折については検討がされていない。また、非特許文献2に記載のレーザ加工は、大量生産に適さず、レーザー加工が面発光レーザーの発振特性の劣化の原因となりうる。また、例えば、非特許文献3に記載のヒータ加熱は、素子構造の複雑化を生み出す。また、例えば、非特許文献4に記載の外部回折格子は、光損失の原因となり、十分な出力を得るためには消費電力が増大する。また、例えば、非特許文献5には1次元周期構造を有するサブ波長回折格子が記載されているが、1次元周期構造を有するサブ波長回折格子は、1次元周期であるため、非特許文献1に開示された面発光レーザーに有効な複屈折を与えることができない。複屈折を有する面発光レーザーを実現する方法はいくつかあるが、より簡便で出力特性の低下を生じにくい構造が求められている。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、高速変調の面発光レーザーに適用できる反射鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)第1の態様にかかる反射鏡は、高屈折領域と低屈折領域とを備える。高屈折領域は、それぞれが第1方向に延びる複数の第1ラインと、それぞれが前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の第2ラインと、を有する。低屈折領域は、厚み方向から平面視した際に前記高屈折領域に囲まれ、前記高屈折領域より屈折率が低い。前記第1ラインの前記第1方向と直交する方向の幅を第1幅とし、隣接する前記第1ライン間の周期を第1周期とし、前記第1幅を前記第1周期で割った値を第1デューティー比とし、前記第2ラインの前記第2方向と直交する方向の幅を第2幅とし、隣接する前記第2ライン間の周期を第2周期とし、前記第2幅を前記第2周期で割った値を第2デューティー比とした際に、前記第1幅と前記第2幅、前記第1周期と前記第2周期、前記第1デューティー比と前記第2デューティー比の組のうち少なくとも一つは互いに異なる。この反射鏡は、前記第1方向の直線偏光及び前記第2方向の直線偏光のいずれに対しても反射率が90%以上であり、複屈折を示す。
【0016】
(2)第2の態様にかかる面発光レーザーは、上記態様に係る反射鏡からなる第1反射鏡と、前記第1反射鏡と対向する第2反射鏡と、前記第1反射鏡と前記第2反射鏡とに挟まれ光を発光する活性層と、前記活性層にアップスピンの電子を注入する第1電極と、前記活性層にダウンスピンの電子を注入する第2電極と、を備える。
【0017】
(3)第3の態様にかかる面発光レーザーの製造方法は、使用する波長帯域を設定する工程と、高屈折領域と低屈折領域とを備える反射鏡を作製する工程と、前記反射鏡を第1反射鏡として、前記第1反射鏡と第2反射鏡との間に、前記波長帯域の光を発光する活性層を配置する工程と、を有する。前記高屈折領域は、それぞれが第1方向に延びる複数の第1ラインと、それぞれが前記第1方向と交差する第2方向に延びる複数の第2ラインと、を有する。前記第1ラインの前記第1方向と直交する方向の第1幅、隣接する前記第1ライン間の第1周期、前記第1幅を前記第1周期で割った第1デューティー比、前記第2ラインの前記第2方向と直交する方向の第2幅、隣接する前記第2ライン間の第2周期、及び、前記第2幅を前記第2周期で割った第2デューティー比を、前記波長帯域に応じて設定する。
【発明の効果】
【0018】
上記態様に係る反射鏡は、高速変調の面発光レーザーに適用できる。上記態様にかかる面発光レーザーは高速変調が可能である。上記態様にかかる面発光レーザーの製造方法は、高速変調が可能な面発光レーザーを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る面発光レーザーの断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る面発光レーザーの平面図である。
【
図4】シミュレーションに用いた反射鏡の斜視図である。
【
図5】実施例において、反射鏡に入射する入射平面波の波長及び高屈折領域の厚みを変更した際の反射鏡の反射率の変化を示す。
【
図6】実施例において、周期又はデューティー比を変化させた際の反射鏡の反射率の変化を示す。
【
図7】実施例において、周期又はデューティー比を変化させた際の反射鏡からの反射光の位相変化を示す。
【
図8】実施例において、位相変化が0となる条件を回避可能な、周期とデューティー比の関係を示す。
【
図9】実施例において、周期を変更した際における偏光モードの周波数分離結果を示す。
【
図10】実施例において、デューティー比を変更した際における偏光モードの周波数分離結果を示す。
【
図11】実施例において、周期を基準条件に対して±1%変化させた際の反射鏡の反射率の波長依存性を示す。
【
図12】実施例において、デューティー比を基準条件に対して±1%変化させた際の反射鏡の反射率の波長依存性を示す。
【
図13】第1実施形態に係る反射鏡をスピン偏極変調方式の面発光レーザーに適用した際の周波数応答特性を示す。
【
図14】第1実施形態に係る反射鏡を有するスピン偏極変調方式の面発光レーザーの100Gb/sの疑似ランダム信号に対するアイパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法、配置、数、数値、構成等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
まず方向について規定する。反射鏡の広がる面内の一方向をX方向とし、面内においてX方向と直交する方向をY方向とする。また反射鏡が広がる面と直交する方向をZ方向とする。Z方向は、反射鏡の厚み方向の一例である。Z方向は、X方向及びY方向と直交する。活性層から反射鏡に向かう方向を+Z方向とし、反対方向を-Z方向とする。本明細書において、+Z方向を「上」、-Z方向を「下」として表す場合があるが、これら表現は便宜上のものであり、重力方向を規定するものではない。また本明細書で「X方向に延びる」とは、例えば、X方向、Y方向、及びZ方向の各寸法のうち最小の寸法よりもX方向の寸法が大きいことを意味する。他の方向に延びる場合も同様である。
【0022】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る面発光レーザー100の断面図である。
図2は、第1実施形態に係る面発光レーザー100の平面図である。
図1は、
図2のA-A線に沿った断面である。
【0023】
面発光レーザー100は、反射鏡10と基板11と反射層12とスペーサ層13と活性層14と酸化層15とキャリア輸送層16と第1電極17と第2電極18と支持体19とを有する。
【0024】
基板11は、例えば、半導体基板である。基板11は、例えば、ガリウムヒ素、インジウムリン、窒化ガリウム、シリコン、ゲルマニウム等である。基板11の下面には、正孔注入用のオーミック電極を有してもよい。
【0025】
反射層12は、例えば、基板11上にある。反射層12は、反射鏡10と対向する。反射層12は、例えば、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層された積層膜である。高屈折率層は、低屈折率層より屈折率が高い。反射層12は、例えばIII-V族の化合物半導体であり、例えばアルミニウムガリウムヒ素(AlxGa1-xAs)である。例えば、高屈折率層と低屈折率層は、いずれもアルミニウムガリウムヒ素であり、組成比が異なる。
【0026】
スペーサ層13は、反射層12と活性層14との間にある。スペーサ層13は、半導体層である。スペーサ層13は、例えば、アンドープの半導体である。
【0027】
活性層14は、半導体である。活性層14は、注入電子が正孔と再結合し、発光する。活性層14は、例えば、反射層12と反射鏡10とに挟まれる。活性層14は、例えば、ガリウムヒ素、インジウムガリウムヒ素、アルミニウムガリウムヒ素、インジウムリン、窒化ガリウム、窒化インジウムガリウム、シリコンゲルマニウム等である。活性層14から発光する光の波長は、活性層14を構成する材料によって設計でき、例えば400nm以上2000nm以下である。
【0028】
酸化層15は、例えば、アルミニウム酸化物である。酸化層15は、活性層14上にある。酸化層15は、キャリア輸送層16の一部の面積を狭めることで、電流を狭窄する。酸化層15によってキャリア輸送層16の所定の部分に電流集中が生じ、効率的に光を生み出すことができる。酸化層15は、外側面からの選択的な酸化によって形成できる。
【0029】
キャリア輸送層16は、活性層14に接する。キャリア輸送層16は、半導体層である。キャリア輸送層16は、例えば、アルミニウム濃度の低いアルミニウムガリウムヒ素である。キャリア輸送層16は、第1電極17又は第2電極18から注入された電子スピンを活性層14まで輸送する。
【0030】
第1電極17は、キャリア輸送層16に接する。第1電極17は、例えば、キャリア輸送層16上にある。第1電極17とキャリア輸送層16との間には、非磁性層を有してもよい。第1電極17は、強磁性体を含む。第1電極17は、強磁性体により生じる磁化M17を有する。第1電極17からキャリア輸送層16に電流を流すと、磁化M17によってスピン偏極した電子がキャリア輸送層16に注入される。例えば、第1電極17は、キャリア輸送層16を介して、活性層14にアップスピンの電子を注入する。
【0031】
第2電極18は、キャリア輸送層16に接する。第2電極18は、例えば、キャリア輸送層16上にある。第2電極18とキャリア輸送層16との間には、非磁性層を有してもよい。第2電極18は、強磁性体を含む。第2電極18は、強磁性体により生じる磁化M18を有する。磁化M18は、磁化M17が配向する方向とは反対方向に配向する。第2電極18からキャリア輸送層16に電流を流すと、磁化M18によってスピン偏極した電子がキャリア輸送層16に注入される。第2電極18からキャリア輸送層16に注入されるスピン電子の偏極方向は、第1電極17からキャリア輸送層16に注入されるスピン電子とは、反対方向である。例えば、第2電極18は、キャリア輸送層16を介して、活性層14にダウンスピンの電子を注入する。
【0032】
支持体19は、例えば、キャリア輸送層16上にある。支持体19は、反射鏡10を支持する。支持体19は、例えば、半導体又はポリイミド等の有機物である。反射鏡10は、支持体19によってキャリア輸送層16の上面と離間する。
【0033】
反射鏡10は、反射層12と共に、活性層14を挟む位置にある。反射鏡10は、例えば、酸化層15の開口部とZ方向に重なる位置にある。
図2に示すように、反射鏡10は、高屈折領域5と低屈折領域6とを有する。低屈折領域6は、高屈折領域5より屈折率が低い。低屈折領域6は、高屈折領域5に囲まれる。高屈折領域5は、例えば、シリコンであり、低屈折領域6は、例えば、空気である。低屈折領域6は、高屈折領域5を構成する材料より低屈折な材料で充填されていてもよい。
【0034】
図3は、第1実施形態に係る反射鏡10の斜視図である。高屈折領域5は、Z方向から平面視して、低屈折領域6を囲む。高屈折領域5は、それぞれが第1方向に延びる複数の第1ライン1と、それぞれが第1方向と交差する第2方向に延びる複数の第2ライン2と、を有する。
図3における第1方向はX方向であり、第2方向はY方向であり、第1ライン1のそれぞれと第2ライン2のそれぞれとは直交する。
【0035】
第1ライン1のそれぞれはX方向に延びる。第1ライン1のY方向の幅を第1幅Wyと称する。第1ライン1は、Y方向に第1周期Λyで配列している。第1周期Λyは、隣接する二つの第1ライン1のY方向の第1端間の距離である。第1幅Wyを第1周期Λyで割った値(Wy/Λy)を第1デューティー比ηyと称する。
【0036】
第2ライン2のそれぞれはY方向に延びる。第2ライン2のX方向の幅を第2幅Wxと称する。第2ライン2は、X方向に第2周期Λxで配列している。第2周期Λxは、隣接する二つの第2ライン2のX方向の第1端間の距離である。第2幅Wxを第2周期Λxで割った値(Wx/Λx)を第2デューティー比ηxと称する。
【0037】
高屈折領域5は、第1幅Wyと第2幅Wx、第1周期Λyと第2周期Λx、第1デューティー比ηyと第2デューティー比ηxのうち少なくとも一つが異なる。例えば、高屈折領域5の第1幅Wyと第2幅Wxとが異なり、第1周期Λyと第2周期Λxとが異なり、第1デューティー比ηyと第2デューティー比ηxが一致してもよい。また例えば、高屈折領域5の第1幅Wyと第2幅Wxが一致し、第1周期Λyと第2周期Λxが異なり、第1デューティー比ηyと第2デューティー比ηxが異なってもよい。例えば、高屈折領域5の第1幅Wyと第2幅Wxとが異なり、第1周期Λyと第2周期Λxが異なり、第1デューティー比ηyと第2デューティー比ηxが異なってもよい。これらのパラメータのうち少なくとも一つが異なることで、X方向の直線偏光が反射鏡10で反射する場合とY方向の直線偏光が反射鏡10で反射する場合とで位相差が生じる。
【0038】
第1幅Wy及び第2幅Wxは、例えば、10nm以上3000nm以下であり、好ましくは80nm以上1600nm以下である。第1幅Wy及び第2幅Wxは、例えば、任意の10箇所を測定した平均値である。第1周期Λy及び第2周期Λx例えば、100nm以上4000nm以下であり、好ましくは400nm以上2000nm以下である。第1周期Λy及び第2周期Λxは、例えば、任意の10箇所を測定した平均値である。第1デューティー比ηy及び第2デューティー比ηxは、例えば、1%以上99%以下であり、好ましくは20%以上80%以下である。
【0039】
また高屈折領域5の厚みTは、例えば、10nm以上8000nm以下であり、好ましくは40nm以上4000nm以下である。高屈折領域5の厚みTは、例えば、任意の10箇所を測定した平均値である。高屈折領域5の厚みTは、反射鏡10の反射率に影響を及ぼす。高屈折領域5の厚みTは、活性層14から出力される光の波長に合わせて設計できる。
【0040】
反射鏡10は、複屈折を示す。複屈折は、物質中を光が通過する際に、振動面の向きによってその進む速度が異なることを言う。反射鏡10が複屈折を示すことで、反射鏡10を通過するX方向の直線偏光と反射鏡10を通過するY方向の直線偏光との間に、位相差が生じる。その結果、それぞれの直線偏光モード間で周波数分離が生じ、高い変調周波数を有する面発光レーザーを実現できる。
【0041】
反射鏡10は、第1方向の直線偏光及び第2方向の直線偏光のいずれに対しても反射率が90%以上である。反射鏡10の第1方向の直線偏光及び第2方向の直線偏光のいずれに対しても反射率は、95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。反射鏡10のそれぞれの直線偏光に対する反射率は、第1幅Wy、第2幅Wx、第1周期Λy、第2周期Λx、第1デューティー比ηy、第2デューティー比ηx及び厚みTを設計することで、波長に合わせて調整できる。
【0042】
次に、第1実施形態に係る面発光レーザー100の動作について説明する。まず基板11と第1電極17との間に電位差を与える。当該電位差に従い、第1電極17からキャリア輸送層16に電子が注入される。注入される電子は、磁化M17によってスピン偏極し、アップスピンの電子となる。アップスピンの電子は、キャリア輸送層16を介して、活性層14に至る。また基板11側からは正孔が活性層14に注入される。
【0043】
活性層14では、アップスピンの電子と正孔とが再結合し、光子が発生する。例えば、アップスピンの電子は、価電子帯の重い正孔と再結合するときに、左回り円偏光(σ-)を放出する。
【0044】
次いで、基板11と第2電極18との間に電位差を与える。当該電位差に従い、第2電極18からキャリア輸送層16に電子が注入される。注入される電子は、磁化M18によってスピン偏極し、ダウンスピンの電子となる。ダウンスピンの電子は、キャリア輸送層16を介して、活性層14に至る。また基板11側からは正孔が活性層14に注入される。
【0045】
活性層14では、ダウンスピンの電子と正孔とが再結合し、光子が発生する。例えば、ダウンスピンの電子は、価電子帯の重い正孔と再結合するときに、右回り円偏光(σ+)を放出する。
【0046】
面発光レーザー100は、活性層14における電子のスピン偏極状態によって発振円偏光状態が変化する。なお、アップスピンの電子及びダウンスピンの電子は、重い正孔への遷移と軽い正孔への遷移があるが、面発光レーザー100の共振モードを適切に設計することで重い正孔への遷移のみを抽出できる。
【0047】
活性層14で生じた光は、反射鏡10と反射層12との間で反射し、光を誘導放出する。反射鏡10は複屈折を有するため、面発光レーザー100の共振長は、X方向の直線偏光とY方向の直線偏光とのそれぞれに対して異なる。その結果、各偏光モード間に複屈折に依存した一定の周波数分離が生じる。
【0048】
次ぎに、第1実施形態に係る面発光レーザー100の製造方法について説明する。第1実施形態に係る面発光レーザー100の製造方法には、波長帯域設定工程と、反射鏡作製工程と、マウント工程と、を有する。
【0049】
波長帯域設定工程は、使用する波長帯域を設定する。すなわち、波長帯域設定工程では、活性層14から生じる光の波長帯域を設定する。波長帯域の設定は任意であり、使用用途等に応じて設定できる。
【0050】
次いで、基板11上に、反射層12とスペーサ層13と活性層14とキャリア輸送層16とを順に積層する。キャリア輸送層16の一部は、外側面からの選択的な酸化によって酸化層15となる。各層の成膜及び加工は、蒸着等の公知の方法で行うことができる。また各層の材料、厚み等は、波長帯域設定工程で設定された波長帯域に合わせて設定される。
【0051】
次いで、反射鏡作製工程では、高屈折領域5と低屈折領域6とを備える反射鏡10を作製する。反射鏡10は、例えば、フォトリソグラフィー等の公知の方法で作製できる。
【0052】
反射鏡10を作製する際には、高屈折領域5を構成する第1ライン1及び第2ライン2の形状を設定する。反射鏡作製工程では、第1ライン1の第1幅Wy、隣接する第1ライン1間の第1周期Λy、第1幅Wyを第1周期Λyで割った第1デューティー比ηy、第2ライン2の第2幅Wx、隣接する第2ライン2間の第2周期Λx、及び、第2幅Wxを第2周期Λxで割った第2デューティー比を、波長帯域に応じて設定する。また反射鏡作製工程では、高屈折領域5の厚みTを設定してもよい。
【0053】
これらのパラメータは、反射鏡10の複屈折に相当する位相変化、反射鏡10の反射率に影響を及ぼす。これらのパラメータを設計することで、反射鏡10の使用する波長帯域における複屈折の大きさ、X方向の直線偏光に対する反射率、Y方向の直線偏光に対する反射率を制御できる。
【0054】
次いで、マウント工程では、作製した反射鏡10を、キャリア輸送層16上に設置する。反射鏡10は、キャリア輸送層16上に設置された支持体19と接着される。このような手順で、第1実施形態に係る面発光レーザー100を作製できる。
【0055】
上述のように、第1実施形態に係る反射鏡10は、複屈折を示し、且つ、X方向及びY方向のいずれの直線偏光に対しても高い反射率を示すため、スピン偏極変調方式の面発光レーザー100に適用できる。第1実施形態に係る面発光レーザー100は、複屈折によりスピン偏極変調時に変調周波数が高い。すなわち、第1実施形態に係る面発光レーザー100は、高速変調が可能であり、短距離光通信等に適用できる。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態および変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0057】
電磁界計算を用いたシミュレーションを行い、反射鏡の反射率及び位相が特定のパラメータを変更した際にどのように変化するかを求めた。
【0058】
図4は、シミュレーションに用いた反射鏡の斜視図である。
図4に示す反射鏡10Aは、1次元周期構造を有する。反射鏡10Aは、それぞれがY方向に延びる複数の第2ライン2Aからなる高屈折領域5Aと、隣接する第2ライン2Aの間にある低屈折領域6Aと、を有する。上述に示す第1実施形態に係る反射鏡10は、2次元周期構造を有するが、
図4に示す反射鏡10Aを用いてX方向の直線偏光に対する回折応答とY方向の直線偏光に対する回折応答とを分離して計算し、これらの回折応答を合成することで、第1実施形態に係る反射鏡10の評価が可能である。
【0059】
反射鏡10Aにおいて、第2ライン2Aの幅Wを526.4nm、第2ライン2Aの周期Λを940nm、W/Λで求められるデューティー比ηを56%とした。高屈折領域5Aは屈折率が3.48のシリコンとし、低屈折領域6Aは屈折率が1の空気とした。反射鏡10Aに対する入射平面波の入射方向は、反射鏡10Aに対して垂直なZ方向とした。また反射鏡10Aに対する入射平面波は、X方向に電界を有するTE偏光とした。
【0060】
図5は、前述の条件で、反射鏡10Aに入射する入射平面波の波長及び高屈折領域5Aの厚みT’を変更した際の反射鏡10Aの反射率の変化を示す。
図5に示すように、例えば、高屈折領域5Aの厚みT’が376nmの場合、1400nm以上1700nm以下の広い波長域の光に対して反射鏡10Aは高い反射率を示した。また1550nm近傍では、反射鏡10Aの反射率は99%以上であった。
図5に示すように、使用する波長帯域が決まれば、高屈折領域5Aの厚みT’を制御することで、反射鏡10Aの反射率を高めることができる。また
図4の系を90°回転させた系で同様の検討を行い、
図5の結果と合わせることで、X方向の直線偏光及びY方向の直線偏光のいずれに対しても高い反射率を示す反射鏡を実現できる。
【0061】
図6は、周期Λ又はデューティー比ηを変化させた際の反射鏡10Aの反射率の変化を示す。
図6は、
図5で高反射率が得られることが確認できた条件を基準条件として、基準条件に対して周期Λ又はデューティー比ηを変更した結果である。Wが526.4nm、周期Λが940nm、デューティー比ηが56%、厚みT’が376nm、入射光の波長が1550nmを基準条件とした。
図6におけるΔΛは、基準条件に対する周期のずれであり、Δηは基準条件に対するデューティー比のずれである。
【0062】
周期Λ及びデューティー比ηを±5%の範囲でずらしても、反射鏡10Aは90%以上の高い反射率を有していた。したがって、反射鏡10の場合、例えば、第1ライン1を基準条件として、第2ライン2の第2幅Wx及び第2ライン2の第2周期Λxの基準条件に対するずれを±5%の範囲内とすると、反射鏡10はX方向の直線偏光に対してもY方向の直線偏光に対しても高い反射率を有することができる。
【0063】
図7は、周期Λ又はデューティー比ηを変化させた際の反射鏡10Aからの反射光の位相変化を示す。
図7は、
図6と同じ基準条件を基準としている。
図7におけるΔΛは、基準条件に対する周期のずれであり、Δηは基準条件に対するデューティー比のずれである。
【0064】
図7に示すように、第2ライン2Aの周期Λ又は第2ライン2Aのデューティー比を変えることで、反射鏡10Aからの反射光の位相が変化する。すなわち、反射鏡10において、X方向の第2周期Λ
xとY方向の第1周期Λ
y又はX方向の第2デューティー比η
xとY方向の第1デューティー比η
yを変えることで、反射鏡10に複屈折を生み出すことができる。反射鏡10Aからの反射光の位相変化は、第2ライン2Aの周期Λを変えた場合の方が、第2ライン2Aのデューティー比ηを変えた場合より大きかった。なお、Δηに対し、ΔΛの方が位相変化を与えやすい傾向にある。例えば、
図8に斜線で示すように、ΔΛ>-ΔηかつΔΛ>0の範囲、または、ΔΛ<-ΔηかつΔΛ<0の範囲からΔΛとΔηの値を選ぶことで、位相変化が0となる条件を回避しやすい。すなわち、ΔΛとΔηは、ΔΛ>-ΔηかつΔΛ>0の範囲、または、ΔΛ<-ΔηかつΔΛ<0の範囲を満たすことが好ましい。
【0065】
図9は、周期Λを変更した際における偏光モードの周波数分離結果を示し、
図10は、デューティー比ηを変更した際における偏光モードの周波数分離結果を示す。
図9に示すように、周期Λを変更すると、偏光モードの周波数は大きく分離した。これに対し、
図10に示すように、デューティー比ηを変更すると、偏光モードの周波数はわずかに分離した。
図9、
図10に示すように、第1実施形態に係る反射鏡において、第1ライン1を基準条件として、第2ライン2の周期Λを基準条件に対してずらすことで大きな周波数分離を得ることができ、且つ、第2ライン2のデューティー比ηを基準条件に対してずらすことで周波数分離の微調整が可能である。
【0066】
図11は、周期Λを基準条件に対して±1%変化させた際の反射鏡10Aの反射率の波長依存性を示す。
図12は、デューティー比ηを基準条件に対して±1%変化させた際の反射鏡10Aの反射率の波長依存性を示す。
図11、
図12に示すように周期Λ又はデューティー比ηを変化させると、反射鏡10Aの反射スペクトルがシフトする。しかしながら、
図11、
図12に示すように、周期Λ又はデューティー比ηを変化させても広い波長範囲で反射スペクトルが高い反射率を示す。したがって、反射鏡10の場合、例えば、第1ライン1を基準条件として、第2ライン2の第2幅W
x及び第2ライン2の第2周期Λ
xの基準条件に対するずれを±1%の範囲内とすると、広い波長範囲で反射スペクトルが高い反射率を示す。
【0067】
図13は、第1実施形態に係る反射鏡をスピン偏極変調方式の面発光レーザー100に適用した際の周波数応答特性を示す。また
図14は、第1実施形態に係る反射鏡を有するスピン偏極変調方式の面発光レーザー100の100Gb/sの疑似ランダム信号に対するアイパターンである。
図13及び
図14は、非特許文献1に記載のレート方程式モデルを用いて計算した。
図13に示すように、面発光レーザー100は、周波数応答特性の計算結果から100GHz以上の3dB帯域幅を有する。また
図14に示すアイパターンの計算結果から、2値の信号レベルを面発光レーザー100に印加した際に、明瞭なアイ開口が確認できた。すなわち、第1実施形態に係る反射鏡をスピン偏極変調方式の面発光レーザー100に適用することで、超高速光通信用の信号光を生成できることが確認できた。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、以下のような種々の変形・変更が可能である。
【0069】
例えば、第1実施形態では、基板11上に反射層12、支持体19上に反射鏡10を設ける例を示したが、反射層12と、反射鏡10とは逆の位置に設けても、本発明の効果を奏する。
【0070】
また、基板11の下に、第1電極17との間の電位差を制御するための電極を設けてもよい。
1…第1ライン、2,2A…第2ライン、5,5A…高屈折領域、6,6A…低屈折領域、10,10A…反射鏡、11…基板、12…反射層、13…スペーサ層、14…活性層、15…酸化層、16…キャリア輸送層、17…第1電極、18…第2電極、100…面発光レーザー、W…幅、Wx…第2幅、Wy…第1幅、Λ…周期、Λx…第2周期、Λy…第1周期、η…デューティー比、ηx…第2デューティー比、ηy…第1デューティー比、