(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176209
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】通信品質予測装置、及び、情報量削減装置
(51)【国際特許分類】
H04B 17/373 20150101AFI20241212BHJP
H04W 24/02 20090101ALI20241212BHJP
H04B 17/391 20150101ALI20241212BHJP
【FI】
H04B17/373
H04W24/02
H04B17/391
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094584
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】永田 尚志
(72)【発明者】
【氏名】工藤 理一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 馨子
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
(72)【発明者】
【氏名】西尾 理志
(72)【発明者】
【氏名】太田 翔己
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA42
5K067LL11
(57)【要約】
【課題】環境センサが取得した物理空間情報を適切に削減可能な技術を提供する。
【解決手段】通信品質予測装置1は、環境センサから無線通信路の周辺環境を表す物理空間情報を取得する物理空間情報取得部11と、前記無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように前記物理空間情報の情報量を削減する情報量削減部12と、情報量削減後の物理空間情報を基に前記無線通信路の未来の通信品質を計算する通信品質予測部14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境センサから無線通信路の周辺環境を表す物理空間情報を取得する取得部と、
前記無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように前記物理空間情報の情報量を削減する削減部と、
情報量削減後の物理空間情報を基に前記無線通信路の未来の通信品質を計算する予測部と、
を備える通信品質予測装置。
【請求項2】
前記環境センサは、回転式であり、
前記物理空間情報は、前記周辺環境内のオブジェクトを点で表した点群データであって、
前記削減部は、
前記点群データによる仰角方向のレーザリングについて、複数のレーザリングの中から所定高度に対応するレーザリングを抽出し、抽出したレーザリングを前記環境センサからの距離に関するスカラ関数に変換する請求項1に記載の通信品質予測装置。
【請求項3】
前記削減部は、
前記スカラ関数に欠損がある場合、欠損している方位角に対する距離情報を予め定めた値で補完する請求項2に記載の通信品質予測装置。
【請求項4】
前記削減部は、
前記スカラ関数に対してハイパスフィルタを適用する請求項2に記載の通信品質予測装置。
【請求項5】
前記削減部は、
前記スカラ関数に対してサンプリング処理を適用する請求項2に記載の通信品質予測装置。
【請求項6】
無線通信路の周辺環境を表す物理空間情報について、前記無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように前記物理空間情報の情報量を削減する削減部、
を備える情報量削減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信品質予測装置、及び、情報量削減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信では、周囲環境の影響を強く受ける。ミリ波帯やテラヘルツ波帯の無線通信では、人体等の遮蔽によって通信品質が急峻に低下する(非特許文献1)。このような通信品質の急峻な変化は、体感通信品質を大きく低下させる要因となる。
【0003】
そこで、RGBカメラ等の環境センサで現在の物理空間情報を取得し、通信品質予測装置において、現在の物理空間情報より機械学習を行うことで未来の無線通信路の状態を予測し、予測結果を基に無線通信路のハンドオーバ制御や送信電力制御を行う技術がある(特許文献1、非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sylvain Collonge、外2名、“Influence of the Human Activity on Wide-Band Characteristics of the 60 GHz Indoor Radio Channel”、IEEE Transactions on Wireless Communications、Vol.3、No.6、2004年11月、p.2396-p.2406
【非特許文献2】Shoki Ohta、外3名、“Millimeter-wave Received Power Prediction Using Point Cloud Data”、Proceedings of IEEE VTC-Spring、Helsinki、Finland、2022年6月
【非特許文献3】Takayuki Nishio、外7名、“Proactive Received Power Prediction Using Machine Learning and Depth Images for mmWave Networks”、IEEE Journal on Selected Areas in Communications、Vol.37、No.11、2019年11月、p.2413-p.2427
【非特許文献4】太田翔己、外4名、“点群を用いたミリ波通信品質予測の点群データ量削減に関する基礎的検討”、社団法人電子情報通信学会、信学技報、SeMI研究会講演論文集、2022年度1月
【非特許文献5】Shunyao Wu、外2名“LiDAR-Aided Mobile Blockage Prediction in Real-World Millimeter Wave Systems”、Proc. IEEE WCNC, Austin, TX, USA、2022年、p.2631-p.2636
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、環境センサが収集した情報量の大きい物理空間情報をそのまま通信品質予測装置へ送信していたため、環境センサから通信品質予測装置までの通信路の帯域を圧迫し、通信品質予測装置での通信品質予測に時間がかかり、通信品質予測用プログラム以外のプログラムに悪影響を及ぼす、という課題があった。
【0007】
この課題に対し、点群データ(物理空間情報)に対してランダムダウンサンプリングを適用する技術(非特許文献4)、点群データをヒートマップに変換する技術(非特許文献5)、を適用することも考えられる。しかし、物理空間情報内の特徴に依らずに点群データの一部を削除するため、通信品質に影響を与える重要な特徴を削除してしまう可能性がある。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、環境センサが取得した物理空間情報を適切に削減可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様の通信品質予測装置は、環境センサから無線通信路の周辺環境を表す物理空間情報を取得する取得部と、前記無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように前記物理空間情報の情報量を削減する削減部と、情報量削減後の物理空間情報を基に前記無線通信路の未来の通信品質を計算する予測部と、を備える。
【0010】
本開示の一態様の情報量削減装置は、無線通信路の周辺環境を表す物理空間情報について、前記無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように前記物理空間情報の情報量を削減する削減部、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、環境センサが取得した物理空間情報を適切に削減可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、通信品質予測装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、通信品質予測システムの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、情報量削減装置の構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、1つのレーザリングの距離関数を示す図である。
【
図6】
図6は、合成関数適用前後の距離関数を示す図である。
【
図7】
図7は、距離関数に対する高速フーリエ変換の適用結果を示す図である。
【
図8】
図8は、ハイパスフィルタ適用前後の距離関数を示す図である。
【
図9】
図9は、サンプリング定理適用後の距離関数を示す図である。
【
図11】
図11は、各削減手法でのスループットの測定値及び予測値を示す図である。
【
図12】
図12は、通信品質予測装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。
【0014】
[概要]
本開示は、通信品質予測に用いる物理空間情報の情報量を削減する技術を開示する。通信品質予測装置に加えて情報量削減手段を設け、通信品質予測に必要な空間の特徴を失うことなく物理空間情報の情報量を削減する。
【0015】
具体的には、通信品質予測装置の前段に、環境センサが収集した物理空間情報の情報量を削減する情報量削減手段を配置する。例えば、通信品質予測装置内において、情報量削減部を通信品質予測部の前に配置する。例えば、環境センサと通信品質予測装置との間に、通信品質予測装置を配置する。
【0016】
通信品質予測装置で通信品質予測を実行するのに並行し、情報量削減手段で環境センサが収集した物理空間情報の情報量を通信品質予測に必要な情報を保ちつつ削減することにより、通信品質予測装置に対する物理空間情報の情報量を削減する。このとき、環境センサの設置環境と通信局との位置関係や元の情報量をもとに、適切な削減率を設定し、送信にかかるトラヒックやデータ収集コストを削減する。
【0017】
本開示により、環境センサから得られる物理空間情報の情報量が大きい状況においても、通信品質予測装置に送信する際の帯域を圧迫することなく、他のアプリケーションやシステムに影響が少ない通信品質予測が可能となる。
【0018】
[通信品質予測装置の構成例]
図1は、本実施形態に係る通信品質予測装置の構成例を示す図である。通信品質予測装置1は、物理空間情報取得部11と、情報量削減部12と、端末位置取得部13と、通信品質予測部14と、通信制御部15と、を備える。
【0019】
物理空間情報取得部(取得部)11は、環境センサ2から無線通信路の周辺環境を表す物理空間情報を取得する機能を備える。
【0020】
情報量削減部(削減部)12は、物理空間情報取得部11で取得された物理空間情報について、無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように物理空間情報の情報量を削減する機能を備える。
【0021】
端末位置取得部13は、ユーザ端末3の位置情報を取得する機能を備える。
【0022】
通信品質予測部(予測部)14は、情報量削減後の物理空間情報やユーザ端末3の位置情報等を用いて、機械学習により、無線通信路の未来の通信品質を計算する機能を備える。
【0023】
通信制御部15は、無線通信路の未来の通信品質の予測結果を基に、通信局4の無線通信を制御する機能を備える。
【0024】
[通信品質予測システムの構成例]
図1では、情報量削減部12が通信品質予測装置1の内部に位置する場合を説明した。以降では、情報量削減部12を情報量削減装置12とし、情報量削減装置12が環境センサ2と通信品質予測装置1との間に位置する場合を説明する。
【0025】
図2は、本実施形態に係る通信品質予測システムの構成例を示す図である。通信品質予測システムは、環境センサ2と、複数のユーザ端末3と、通信局4と、通信品質予測装置1と、情報量削減装置12と、を備える。
【0026】
環境センサ2は、無線通信エリアの物理空間情報を収集するセンサである。例えば、RGBカメラ、深度カメラ、LiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)である。物理空間情報とは、例えば、RGBカメラで撮影されたRGB画像、深度カメラで撮影された深度画像、LiDARで計測されたオブジェクトの点群データ、オブジェクトの位置、速度、加速度である。
【0027】
ユーザ端末3は、無線通信エリアに位置する無線端末である。例えば、パソコン、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末である。通信局4は、複数のユーザ端末3のそれぞれに無線通信を提供する局である。例えば、基地局、無線LANルータである。
【0028】
(通信品質予測装置1の構成例)
通信品質予測装置1は、物理空間情報取得部11と、端末位置取得部13と、通信品質予測部14と、通信制御部15と、通信情報収集部16と、を備える。
【0029】
通信情報収集部16は、予測対象の通信局4で現在行われている無線通信について、その無線通信の通信品質(例えば、受信電力、スループット)を測定し、測定した通信品質情報を収集する機能を備える。
【0030】
物理空間情報取得部11は、環境センサ2から、情報量削減装置12を介して、情報量削減後の物理空間情報(例えば、RGB画像、点群データ)を収集する機能を備える。
【0031】
端末位置取得部13は、ユーザ端末3の位置情報を取得する機能を備える。
【0032】
通信品質予測部14は、情報量削減後の物理空間情報、ユーザ端末3の位置情報、ユーザ端末3や通信局4や取得した学習時の正解データ用の通信品質情報等を用いて、機械学習により、通信局4とユーザ端末3との間の無線通信路の未来の通信品質を計算する機能を備える。
【0033】
通信制御部15は、通信情報収集部16で収集された通信品質情報と、通信品質予測部14で予測された未来の通信品質の予測結果と、を基に、通信局4に対して無線通信路のハンドオーバ制御や送信電力制御等を実行させる機能を備える。
【0034】
(情報量削減装置12の構成例)
情報量削減装置12は、環境センサ2と通信品質予測装置1との間に配置される。情報量削減装置12は、環境センサ2から無線通信エリアの物理空間情報(例えば、RGB画像、点群データ)を取得し、その物理空間情報の情報量を通信品質予測に必要な情報を保ちつつ削減する装置である。
【0035】
図3は、情報量削減装置12の構成例を示す図である。情報量削減装置12は、スカラ関数変換部121と、周波数領域処理部122と、削減処理部123と、を備える。
【0036】
スカラ関数変換部(削減部)121は、無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように物理空間情報の情報量を削減する機能を備える。具体的には、環境センサ2から取得した物理空間情報の次元数を削減すること、次元数削減後の物理空間情報を距離のスカラ関数に変換することにより、物理空間情報の情報量を削減する。
【0037】
例えば、物理空間情報である点群データによる仰角方向のレーザリングについて、複数のレーザリングの中から所定高度に対応するレーザリングを抽出することにより、物理空間情報の次元数を削減する。そして、抽出した点群データを環境センサ2からの距離に関するスカラ関数に変換することにより、物理空間情報を更に削減する。このとき、スカラ関数に欠損がある場合には、欠損している方位角に対する距離情報を予め定めた値で補完する。
【0038】
周波数領域処理部122は、スカラ関数について、周波数領域の解析を行う機能を備える。
【0039】
削減処理部(削減部)123も、無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように物理空間情報の情報量を削減する機能を備える。具体的には、スカラ関数について行われた周波数領域の解析を基に、物理空間情報の情報量を更に削減する。例えば、スカラ関数に対し、周波数領域の解析結果を踏まえて当該特徴が残るようにハイパスフィルタやサンプリング処理を適用することにより、物理空間情報の情報量を削減する。
【0040】
[情報量削減装置12の具体的機能]
環境センサ2として回転式LiDARを用いた場合、LiDARを中心に水平方向360度全方位が計測される。また、LiDARでは、仰角方向に16本から128本程度の光を発して、その反射光を観測することでオブジェクトを検知している。
【0041】
この仰角方向のレーザ1つをレーザリングと呼ぶ。レーザリングは、ある仰角についての360度分の反射点の情報を含む。
図4にレーザリングの例を示す。
図4の上図には、仰角が-15度から15度を2度きざみで取り出された16個のレーザリングが示されている。レーザリングを取り出す仰角については、LiDARを設置した場所、通信品質に影響を及ぼす物体の大きさや動く範囲等の環境に応じて決定可能である。
【0042】
このレーザリングそれぞれに対して、スカラ関数変換部121、周波数領域処理部122を適用する。また、より情報量の制約が強かったり、計算リソースの確保が難しかったりする環境においては、代表となる1つのレーザリングのみに適用することも可能である。例えば、仰角方向にある複数のレーザリングの中から無線通信に影響を与えるオブジェクト(周辺物)が移っている1つのレーザリングを選択する。このとき、複数のレーザリングを選択してもよい。
【0043】
これは、人体や車両などの通信品質に影響を与える物体が仰角方向において変化が少ないため、1つの仰角のみを使用しても予測精度に対して影響が少ないためである。全てのレーザリングを用いる場合、それぞれの適用結果の平均を取ることで、1つのレーザリングを使用した場合との互換性を持たせる。以下の例では、
図4の下図のように、1つのレーザリングのみを使用した場合を示す。
【0044】
レーザリングを用いることでスカラ関数へ変換することができる。さらに、スカラ関数では、人体や車両に対応する部分の周波数が背景となる壁等のオブジェクトと周波数領域で異なる性質を用いて、通信品質に影響を与える部分を効率的に抽出することができる。
【0045】
レーザリングに含まれる点は、それぞれLiDARからの距離に関する情報を持つ。これを、水平角軸方向の関数と見做すことで、レーザリングをスカラ関数に変換することができる。それゆえ、スカラ関数変換部121は、1つのレーザリングを距離関数に変換する。
図5(a)に1つのレーザリングを単純な距離関数に変換した例を示す。
【0046】
また、LiDARが点を取得できなかった角度においては非連続となるため、内挿を行うことで連続となるように処理する。つまり、スカラ関数変換部121は、距離関数の非連続箇所に対して内挿を行う。
図5(a)の-50度や70度付近に存在するNull点に対して線形内挿を行い、連続関数に変換した例を
図5(b)に示す。
【0047】
図5(b)の例では、60度から130度付近に人体遮蔽による距離変化、つまり人が移動している様子が波として現れている。レーザリングの次元数を落としているので、対象を認識しやすいと言える。
【0048】
一方、単純に距離関数を用いると、屋外環境等で通信品質に影響を与えることが少ないような非常に遠い点を観測し、外れ値が発生することが考えられる。そのような場合、予測に影響を与える可能性が高い。そこで、スカラ関数変換部121は、距離関数に対して合成関数を適用することで、大きな外れ値が発生しないように処理する。合成関数としては、例えば、逆数関数、指数関数、対数関数が考えられる。
【0049】
逆数関数では、距離dに対して1/dを返すことで、大きな距離に対応させる。但し、1<dの場合には、定数1を返すようにする。
図6(a)に逆数関数を合成する前後の例を示す。
【0050】
指数関数では、距離dに対して、10
1-dを返すことで、大きな距離に対応させる。但し、1<dの場合には、定数1を返すようにする。
図6(b)に指数関数を合成する前後の例を示す。
【0051】
対数関数では、距離dに対して、logdを返すことで、大きな距離に対応させる。但し、1<dの場合には、定数0を返すようにする。
【0052】
ここまで、スカラ関数変換部121について説明した。以上の通り、スカラ関数変換部121は、距離関数、又は距離関数の合成関数を使用することで、1つのレーザリングをスカラ関数に変換する。
【0053】
次に、周波数領域処理部122について説明する。
【0054】
周波数領域処理部122は、スカラ関数に対し、フーリエ変換を用いて周波数領域の解析を行う。壁等の大きな構造物は、距離空間において変動周期が長い。すなわち、低い周波数成分で構成されている。一方、人体や車両などの通信品質に影響を与えるオブジェクトは、構造物と比べて小さく高い周波数成分で構成される。そこで、後段の削減処理部123において、変動のない大きな構造物に対応する周波数成分を削除することにより、情報量を更に削減する。
【0055】
図7に、距離関数に対して高速フーリエ変換を適用した例に示す。横軸の周波数の単位は「1/degree」である。直流成分を除去するために平均を求めてから高速フーリエ変換を適用している。この結果より、距離関数がどのような周波数特性を持っているのかを把握できる。この特性をもとに、後段の削減処理部123では、削減率や削減手法を決定する。
【0056】
次に、削減処理部123について説明する。
【0057】
削減処理部123は、スカラ関数の周波数特性を基に、スカラ関数の情報量を削減する。情報量削減方法は、ハイパスフィルタによる特徴抽出処理と、標本化定理に基づくデータ量削除処理と、の2ステップで構成される。各処理は、単独で行ってもよい。
【0058】
それら2つの処理は、周波数領域処理部122で行われた周波数特性情報を基に、スカラ関数変換部121で求めたスカラ関数へ適用することで、情報量を削減する。また、スカラ関数自体が情報量の削減対象となっているため、スカラ関数をそのまま使用する方法も考えられる。それぞれについて以下詳述する。
【0059】
まず、ハイパスフィルタによる特徴抽出処理について説明する。
【0060】
通信品質に影響を与える人体や車両等のオブジェクトは、周囲の壁や建物に比べて水平各方向に相対的に小さい。そこで、この特徴を活用し、周波数領域において高い成分のみを残すことにより、人体や車両等の通信品質に影響を与える要因のみを残しつつ、情報量を削減することができる。
【0061】
ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、振幅の最大値をとる周波数の2倍を用いる。
図8に、距離関数の逆数関数合成に対するハイパスフィルタの適用例を示す。
図7よりカットオフ周波数は1とした。
図8の上図はハイパスフィルタの適用前(距離関数の逆数関数合成)であり、
図8の下図はハイパスフィルタの適用後である。
【0062】
図8の下図より、人体が現れる5radの部分のみを残して他の部分を削除できており、この処理により特徴抽出について実現できる。ハイパスフィルタ適用後の距離関数の最大値と比較して、0.1倍以下の値を持つ水平角を削除することにより、点群データのデータ量の削減ができる。
【0063】
次に、標本化定理に基づくデータ量削除処理について説明する。
【0064】
標本化定理(サンプリング定理)は、「元の信号の最大周波数の2倍以上の周波数で標本化すれば、完全に元の波形を再構成可能である」という定理である。これをもとに、周波数領域処理部122で得た周波数特性に対して、最大となる周波数の2倍程度の周波数で水平角軸の再サンプリングを行うことにより、人体や車両等の通信品質に影響を与える特徴を残しつつ、情報量を削減することができる。
【0065】
再サンプリングのための周波数は、振幅の平均値を超える周波数の最大値の2倍を使用する。
図9(a)(b)に、距離関数に対して適用した例を示す。
図7より、最大周波数を2(1/degree)としているため、4度毎に再サンプリングを行った。100度付近が人体を表しているが、再サンプリング後も人体の特徴が残存しており、人体の特徴を残しつつ情報量の削減が可能であることを把握できる。
【0066】
[情報量削減装置12の動作例]
図10は、情報量削減方法のフローを示す図である。
【0067】
まず、スカラ関数変換部121は、回転式LiDARにより測定された点群データについて、複数のレーザリングから例えば1つのレーザリングのみを使用することにより次元数の削減を行い、その1つのレーザリングをスカラ関数に変換する(ステップS1)。スカラ関数が非連続であれば、内挿を行い連続とする。スカラ関数に対して、逆数関数、指数関数、対数関数を適用してもよい。
【0068】
次に、周波数領域処理部122は、スカラ関数に対し、フーリエ変換を用いて周波数領域の解析を行う(ステップS2)。
【0069】
最後に、削減処理部123は、スカラ関数の周波数領域の解析結果を基に、スカラ関数に対して、通信品質に影響を与える特徴のみを残すために、ハイパスフィルタを適用することにより、又は/更には、サンプリング定理を適用することにより、更なる情報量の削減を行う(ステップS3)。
【0070】
[通信品質の予測結果]
LiDARで屋内環境の点群データを測定し、情報量削減装置12で点群データのデータ量を削減した後に、通信品質予測装置1で通信品質を予測した。通信品質予測装置1では、勾配ブースティング決定木を使用した通信品質予測モデルにおいて、500ms先の通信品質を予測した。
【0071】
表1に今回用いた実験データについて各削減手法でのデータ量の削減結果を示す。
【0072】
【0073】
どの削減手法でも当初の点群データよりデータ量が減少していることがわかる。また、各削減手法を順に行うことにより、データ量が次第に減少していることもわかる。
【0074】
図11に各削減手法における、スループットの測定値及び予測値を示す。
図11(a)は、距離関数による予測(RMSE、0.293)である。
図11(b)は、サンプリング定理に基づくダウンサンプリング後の距離関数による予測(RMSE、0.296)である。
図11(c)は、ハイパスフィルタ適用後の距離関数による予測(RMSE、0.308)である。
【0075】
どの削減手法についても、測定値(実測値)で通信品質が大きく減衰している箇所において、予測値も大きく減衰をしている。この実験結果から、どの削減手法についても、通信品質の人体遮蔽による減衰を予測することができたと言える。以上より、本削減手法を用いることで、通信品質予測精度を保ったまま物理空間情報の情報量を削減することが示された。
【0076】
[効果]
本実施形態によれば、無線通信路の通信品質に影響を与える特徴を残すように物理空間情報の情報量を削減するので、環境センサが取得した物理空間情報を適切に削減できる。
【0077】
つまり、環境センサから得られる物理空間情報の情報量が大きい状況においても、通信品質予測装置に送信する際の帯域を圧迫することなく、他のアプリケーションやシステムに影響が少ない通信品質予測が可能となる。
【0078】
本実施形態によれば、複数のレーザリングの中から所定高度に対応するレーザリングを抽出し、抽出したレーザリングを環境センサからの距離に関するスカラ関数に変換するので、環境センサが取得した物理空間情報をより適切に削減できる。
【0079】
本実施形態によれば、スカラ関数に欠損がある場合、欠損している方位角に対する距離情報を予め定めた値で補完するので、環境センサが取得した物理空間情報をより更に適切に削減できる。
【0080】
本実施形態によれば、スカラ関数に対してハイパスフィルタを適用するので、環境センサが取得した物理空間情報をより更に適切に削減できる。
【0081】
本実施形態によれば、スカラ関数に対してサンプリング処理を適用するので、環境センサが取得した物理空間情報をより更に適切に削減できる。
【0082】
[その他]
本開示は、上記実施形態に限定されない。本開示は、本開示の要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0083】
本開示は、無線LAN、特にミリ波通信機能を搭載した機器において、通信品質を安定化させる技術であり、工場内のセンシングデータ収集やVR(Virtual Reality)/AR(Augmented Reality)アプリケーション等、大容量かつ安定した無線ネットワークが必要な用途において、特に有用な発明である。
【0084】
上記説明した本実施形態の通信品質予測装置1は、例えば、
図12に示すように、CPU901と、メモリ902と、ストレージ903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906と、を備えた汎用的なコンピュータシステムを用いて実現できる。
【0085】
メモリ902及びストレージ903は、記憶装置である。当該コンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、通信品質予測装置1の各機能が実現される。
【0086】
通信品質予測装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよい。通信品質予測装置1は、複数のコンピュータで実装されてもよい。通信品質予測装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであってもよい。
【0087】
通信品質予測装置1用のプログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD、DVD等のコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。コンピュータ読取り可能な記録媒体は、例えば、非一時的な(non-transitory)記録媒体である。通信品質予測装置1用のプログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【0088】
情報量削減装置12も、
図12に示した通信品質予測装置1と同様のハードウェア構成を備える。
【符号の説明】
【0089】
1 通信品質予測装置
2 環境センサ
3 ユーザ端末
4 通信局
11 物理空間情報取得部
12 情報量削減部、情報量削減装置
13 端末位置取得部
14 通信品質予測部
15 通信制御部
16 通信情報収集部
121 スカラ関数変換部
122 周波数領域処理部
123 削減処理部
901 CPU
902 メモリ
903 ストレージ
904 通信装置
905 入力装置
906 出力装置