(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176235
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】土壌観察装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/24 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G01N33/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094641
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】上仲 恵美
(72)【発明者】
【氏名】高谷 和宏
(72)【発明者】
【氏名】瀧ノ上 正浩
(72)【発明者】
【氏名】山村 雅幸
(57)【要約】
【課題】土壌の物理構造と化学特性を制御できる土壌観察装置を提供することを目的とする。
【解決手段】土粒を保持し、かつ、液体が流通可能なチャンバ部と、チャンバ部に液体を導入する液体導入部を備える土壌観察装置が提供される。チャンバ部を有しマスク合わせがなされた透明基材のチャンバ部に土粒および光硬化樹脂を導入すること、マスクを通してチャンバ部に露光を行い、マスクでマスキングされていない領域において光硬化樹脂を硬化させて樹脂を形成することを含む、土壌観察装置の製造方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土粒を保持し、かつ、液体が流通可能なチャンバ部と、
前記チャンバ部に液体を導入する液体導入部を備える、
土壌観察装置。
【請求項2】
前記土粒が、団粒構造を形成する、請求項1に記載の土壌観察装置。
【請求項3】
前記土粒が、樹脂による固着を通じて前記チャンバ部に保持されている、請求項1に記載の土壌観察装置。
【請求項4】
前記チャンバ部は、深さ方向に渡り前記土粒および前記樹脂を含まない領域を含む、請求項3に記載の土壌観察装置。
【請求項5】
前記液体が、微生物懸濁液である、請求項1~4のいずれか一項に記載の土壌観察装置。
【請求項6】
土壌観察装置の製造方法であって、
チャンバ部を有しマスク合わせがなされた透明基材の前記チャンバ部に土粒および光硬化樹脂を導入すること、
前記マスクを通して前記チャンバ部に露光を行い、前記マスクでマスキングされていない領域において前記光硬化樹脂を硬化させて樹脂を形成すること、を含む
土壌観察装置の製造方法。
【請求項7】
前記マスクでマスキングされていない領域において前記光硬化樹脂を硬化させることが、前記チャンバ部内に深さ方向に渡り前記土粒および前記樹脂を含まない領域を形成する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記土粒が、団粒構造を形成する、請求項6または7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、土壌観察装置およびその製造方法に関する。観察装置は、土壌環境を再現するデバイスであり、例えば微生物活動と土壌団粒構造の関係性を解析することに有用となる。
【背景技術】
【0002】
山林、草原、農地等に見られる土壌はしばしば団粒構造と呼ばれる立体構造を持ち、例えば農地における肥沃性と関連している。土壌中に含まれる水分および有機物によって、土粒は集合し、より大きな団粒となる。異なる土壌は、異なるサイズおよび形状の団粒が異なる割合および分布で混じって形成されている。また、疎水性や溶解性など、土粒自体の化学的性状も微生物、栄養物質、毒性物質等の土壌中動態に影響を与え得る。土壌団粒構造は土壌の微生物活動、保水性および水はけ、ならびに炭素隔離に影響を与えることが知られている。土壌の物理構造と微生物活動の関係性が明確になれば、所与の土壌の物理構造の評価によって微生物活動を評価乃至予測することが可能となる。しかし、土壌は可視光が通らないため、土壌団粒構造が微生物活動に与える影響を直接観察することが難しく、その因果関係を求めることがむずかしい。
【0003】
土壌中の微生物(菌根菌等の真菌を含む)の活動を観察する方法として、ポット内で土壌を観察する方法(非特許文献1)、およびマイクロ流体デバイスを用いる方法(非特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Storer, Kate, Aisha Coggan, Phil Ineson, and Angela Hodge. 2018. “Arbuscular Mycorrhizal Fungi Reduce Nitrous Oxide Emissions from N2O Hotspots.” The New Phytologist 220 (4): 1285-95.
【非特許文献2】Doktycz, and Scott T. Retterer. 2019. “Pore-Scale Hydrodynamics Influence the Spatial Evolution of Bacterial Biofilms in a Microfluidic Porous Network.” PloS One 14 (6): e0218316.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、先行技術の方法では、土壌の物理構造と化学特性を同時に制御することが難しいという問題があることを本発明者らは認識した。例えば非特許文献1のデバイスは、土壌の特定区域の化学性をコントロールするように設計されているが、土壌の微細な物理性をコントロールすることが難しい。非特許文献2のデバイスでは、マイクロ流体力学的プラットフォームによって土粒の形態と密度を含む土壌の微細な物理構造を擬態しているが、土壌の化学性を再現することは難しい。
【0006】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、土壌の物理構造と化学特性を制御できる土壌観察装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の土壌観察装置は、土粒を保持し、かつ、液体が流通可能なチャンバ部と、前記チャンバ部に液体を導入する液体導入部を備える。
【0008】
本開示の一態様の土壌観察装置の製造方法は、チャンバ部を有しマスク合わせがなされた透明基材の前記チャンバ部に土粒および光硬化樹脂を導入すること、前記マスクを通して前記チャンバ部に露光を行い、前記マスクでマスキングされていない領域において前記光硬化樹脂を硬化させて樹脂を形成することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、土壌の物理構造と化学特性を制御できる土壌観察装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の土壌観察装置の全体および部分を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態の土壌観察装置の製造方法の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
<土壌観察装置>
【0013】
図1aは、実施形態の土壌観察装置の一例の全体および部分を示す模式図である。同図に示す土壌観察装置は、チャンバ部1、液体導入部21、液体排出部22、土粒導入部31、および土粒排出部32を有する。
図1a左は、この土壌観察装置を上から見た概観を示しており(チャンバ部1のカバー下にある土粒の図示は省略している)、
図1a右は、土粒11を入れたチャンバ部1を上から見た場合の模式図を示す。このような土壌観察装置は、個々のアプリケーションに応じて異なる大きさで提供することができ、例えばチャンバ部の直径(あるいは最大径)が10cm以下または5cm以下であるマイクロ流体デバイス様装置とすることができる。
【0014】
チャンバ部1は、観察のための土粒11を保持するための空間を有する部位である。チャンバ部1は、液体が流通可能なように構成されており、このような特徴によって、液体導入部21からの液体を導入し、また液体排出部22へ液体を排出することが可能となる。チャンバ部1の基材としては、外部からの観察が容易であるように、ガラス等の透明基材が用いられ得る。
【0015】
土粒11は、団粒を含んでもよい。団粒とは、土粒または砂の粒子が固まったものであり、大きさによってミクロ団粒(直径1mm未満のもの)とマクロ団粒(直径1mm以上のもの)に分類される。本開示では「土粒」と「砂」という用語は互換的に用いられ得る。自然界において、ミクロ団粒は、典型的には、土粒が細菌分泌物等によって固まったものであり、マクロ団粒は典型的にはミクロ団粒、糸状菌菌糸、および植物の根などが絡まって形成されたものである。本開示における団粒は、ミクロ粒子、マクロ粒子、またはそれらの混合物のいずれであってもよい。
【0016】
一般に団粒は、水に触れることで壊れる団粒と、水に触れても構造を保つ団粒に分けられ、後者は疎水性団粒と呼ばれ得る。本開示の団粒は、これらのいずれの団粒であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0017】
本開示において、団粒という用語は個々の団粒を、団粒構造という用語は団粒の集団が形成する土壌の構造を意味するものとする。
【0018】
例えば土粒11は、ふるいに掛けた土であってもよく、人為的に固めたものであってもよい。このために用いる土は滅菌されたものであってもよい。土の滅菌はオートクレーブなどの当業者に知られた方法によって行われ得る。
【0019】
土粒および団粒の大きさ、形状、および化学的組成を変更することによって、土壌観察装置が再現する土壌の物理構造と化学特性を制御することができる。
【0020】
図1bは、チャンバ部1を横から見た模式的断面図の一例であり、図の下側がチャンバ部1の底面を表している。
図1bに示すように、土粒11は樹脂12による固着を通じてチャンバ部の基材に保持されている。樹脂12の種類は土粒11を固着し得るものであれば限定されず当業者が通常の知識に基づいて選択することができる。樹脂12は光硬化樹脂15を硬化させて得られた樹脂であることが好ましい。図示していないが、樹脂12によってチャンバ部の基材に直接固着されていない土粒も、固着された土粒との相互作用(例えば、2つ以上の固着土粒による挟み込み)を通じてチャンバ部1内に保持され得る。樹脂12の量は、土粒11を固着させるために十分な量であればよく、個々の土粒11の表面全体が樹脂12で覆われる必要はない。土粒11の表面全体が樹脂12で覆われず表面の少なくとも一部が(典型的には大部分が)露出することにより、本物の土壌と同様に液体が浸透できる間隙が土粒間に維持され、土粒11の化学的性状の影響を再現することができる。
【0021】
チャンバ部1は、カバー16を有していてもよい。例えば
図1bにおいて、チャンバ部1の底面とは反対側においてカバー16が配置される(
図2eも参照されたい)。その結果、チャンバ部1は、底面、側壁面、およびカバー16によって閉じられた空間を形成し、その空間内に土粒11が封入される。カバー16は、外部からの観察が容易であるように、ガラス等の透明なものとし得る。
【0022】
本開示における光硬化樹脂という用語は、光の照射によって少なくとも部分的に硬化する樹脂またはその前駆体を指す。光硬化樹脂は感光性樹脂とも呼ばれる。光硬化樹脂15は、紫外線(UV)の照射によって硬化するUV硬化樹脂であってもよい。本開示における光硬化樹脂という用語は、文脈により、光の照射によって硬化する前の非固体の、あるいは液体の成分を指し得る。例えば本開示における光硬化樹脂15は、光の照射によって重合する前のモノマーまたはオリゴマー成分を含むものであり得る。
【0023】
本開示における光硬化樹脂15は、溶剤系、非溶剤系、または水性系のいずれの光硬化樹脂であってもよい。また、本開示の光硬化樹脂は、ラジカル硬化型であってもよいし、カチオン硬化型であってもよい。本開示の光硬化樹脂15は、重合禁止剤その他の添加剤を含むものであってもよい。
【0024】
光硬化樹脂15の成分の例としては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、アクリルアクリレート、ポリエステルアクリレート、多官能アクリレートなどのアクリレートが挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
樹脂12の例としては、光硬化樹脂15の成分として本明細書で例示されたアクリレートを含む光硬化樹脂に光照射をして得られる樹脂、有機-無機ハイブリッド樹脂、アミドイミド樹脂、ポリシロキサン複合型樹脂、およびビニルエステル樹脂が挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
チャンバ部1は、好ましくは、深さ方向に渡り土粒11および樹脂12を含まない領域17(本開示において、「土粒フリー領域」ともいう)を含む。チャンバ部1の文脈における「深さ方向」とは、チャンバ部1内に保持された土粒の集団を層として見た場合のその層の厚さ方向を意味する。より具体的には、深さ方向は、後述するようにチャンバ部をマスキングする際のマスクの面に対して垂直な方向である。本明細書は全体として、チャンバ部1内の土粒集団の層が水平になるようにして土壌観察装置を使用することを典型的な実施形態として仮定して説明しているが、これは、例えば上記層が垂直になるようにして同様の土壌観察装置を使用する実施形態を必ずしも排除するものではない。チャンバ部1の深さ(あるいは、チャンバ部1内の土粒集団の層の厚さ)は、個々のアプリケーションに応じて変更し得るが、例えば1cm以下、5mm以下、1mm以下、100μm以下、または10μmでもあり得る。
【0027】
深さ方向に渡り土粒11および樹脂12を含まないチャンバ部1内の領域すなわち土粒フリー領域17は、例えば、上から見た場合、通路形状(例えばコーンメイズのように)、ウェル形状、またはその他の任意の形状であり得る。チャンバ部1内に複数の土粒フリー領域17があってもよい。土粒フリー領域17を設けることによって、チャンバ部1内の物理構造のさらなる多様化が可能になり、特定の液体流通動態をデザインすることができるようになる。
【0028】
下記においてさらに詳しく説明するように、光硬化樹脂15を用いて、チャンバ部1内に樹脂12(そしてひいては再現土壌)の任意のパターンを形成することができる。このようなパターン形成によって、土壌の物理構造をさらに自由にコントロールしながら微生物または栄養物質もしくは毒性物質等の物質の動態を分析可能な環境を構築することができる。
【0029】
液体導入部21を通じて、チャンバ部1に液体を導入することができる。液体導入部21によってチャンバ部1に導入される液体は、微生物懸濁液であってもよい。それに加えてまたはそれに代えて、液体導入部21によってチャンバ部1に導入される液体は、緩衝液、培地、薬品溶液、その他、土粒11の化学特性を制御し得る溶液であってもよい。液体導入部21には、液体を導入するための、ポンプまたはシリンジが接続されていてもよい。
【0030】
液体導入部21によってチャンバ部1に導入される微生物懸濁液が含む微生物は、特に限定されず、装置の使用目的に応じて当業者が適宜選択することができる。前記微生物は例えば、細菌、古細菌、真菌類、動物、植物、または藻類であってもよい。前記微生物は土壌微生物であってもよく、土壌細菌であってもよい。
【0031】
液体排出部22を通じて、チャンバ部1内の液体を排出することができる。液体排出部22には液体を排出するためのポンプまたはシリンジが接続されていてもよい。
図1aに示す例では、液体導入部21および液体排出部22はそれぞれ、多段階でU字型に分岐していく流路を有するものとなっているが、これは単に例示であって、液体導入部21および液体排出部22の形状はこのようなものに限定されない。例えば、より単純な実施形態において、液体導入部21および液体排出部22はそれぞれ、チャンバ部1の内部空間に接続する1つだけの通路であり得る。チャンバ部1のうち液体導入部21および液体排出部22がそれぞれ接続する箇所は、個々の実施形態の目的に応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、液体導入部21および液体排出部22は、
図1aに示すように互いに反対側からチャンバ部1に接続してもよいし、同じ側からチャンバ部1に接続してもよい。液体導入部21および液体排出部22の一方または両方が、(
図1aに示すように)チャンバ部1の横側からではなく、上側または底側からチャンバ部1に接続される実施形態も企図される。
【0032】
土壌観察装置は、任意で、土粒導入部31を有し得る。土粒導入部31を通じて、チャンバ部1に土粒を導入することができる。土粒は例えば液体中の懸濁物としてチャンバ部1に導入され得る。導入される土粒は、団粒であってもよい。土粒導入部31を通じたチャンバ部1への土粒の導入は、例えば土壌観察装置の製造過程において行われ得る。あるいは、土壌観察装置の使用開始前にチャンバ部1に保持されていた土粒11とは別の土粒を、土壌観察装置の使用過程においてチャンバ部1に追加導入するために土粒導入部31が使用され得る。例えば、土粒導入部31からさらに通路形状の上記土粒フリー領域17を通じて、チャンバ部1に追加の土粒を導入し得る。あるいは、大粒の土粒11が形成している間隙を通過できるような微細な土粒をチャンバ部1に導入し得る。
【0033】
土壌観察装置は、任意で、土粒排出部32を有し得る。土粒排出部32を通じて、例えば、土壌観察装置の製造過程で導入された過剰の土粒、土壌観察装置の使用過程における非固着の流動土粒、または土壌観察装置の使用後における非固着土粒および液体を、チャンバ部1から排出することができる。使用後の土壌観察装置からこのように排出を行うことによって、同じ土壌観察装置を繰り返し使用することも可能である。
【0034】
<製造方法>
【0035】
図2は、実施形態の土壌観察装置の製造方法の例を示す。同図に示す製造方法は、(a)チャンバ形成工程、(b)マスキング工程、(c)土粒、光硬化樹脂充填工程、(d)光硬化工程、および(e)封入工程を含む。上記土壌観察装置の実施形態に関して提供された各要素の説明は、この製造方法の実施形態にも適用され得、その逆も然りである。
【0036】
(a)チャンバ形成工程では、透明基材13にチャンバ1’(
図2a中、中央部の窪み)を形成する。ここでいうチャンバは、土粒を保持することができる容量をもった窪みであり、最終的にチャンバ部1となる部分である。つまり、チャンバ形成工程では、当業者に知られる手段を用いて透明基材13に新たにチャンバ1’を形成する。あるいは、初めからチャンバ1’を有する透明基材が利用可能である場合には、チャンバ形成工程は省略できる。透明基材の種類は限定されず当業者が適宜選択できるが、例えばホウケイ酸ガラス等のガラスであり得る。実施形態の方法は全体として、チャンバ部内に土粒含有領域/土粒フリー領域のパターンをエッチングすることに関するが、ガラスその他の基材13にチャンバ1’を形成することも、公知のエッチング法によって行い得る。従って、土粒フリー領域とは別に、本開示のチャンバ部1自体も、例えば分岐、蛇行、連結等する流路のように様々なパターンで提供され得る。例えば透明基材13がガラス板である場合は、反応性イオンエッチング(RIE)法などの公知のエッチング方法を用いてチャンバ1’を形成することができる。透明基材13の大きさは限定されないが、例えば縦と横がそれぞれ10cm以内または5cm以内であり得、厚さが0.4~10mmであり得る。特定の一例において、30mm×40mm×0.5mmの透明基材が用いられる。透明基材へのエッチングの深さは、例えば5μm~1000μmの範囲内であり得る。チャンバ形成工程を経た透明基材13は、任意で超音波洗浄等の洗浄処理を受けてもよい。
【0037】
(b)マスキング工程では、透明基材13にマスク14をアラインメント(マスク合わせ)する。マスキングおよびマスク合わせ等の用語は、一般的なエッチング技術の原理を知る当業者に理解される通常の意味を有する。マスク合わせは、典型的には、透明基材13の底面すなわちチャンバ1’の開口面とは反対の面に対して行われる。マスク14は、事前にデザインされた土粒フリー領域17の形状に対応するパターンのもの、すなわち、チャンバ部1内で樹脂12によって画定されるパターンと相補的なパターンのものを使用する。マスク14は、後述する(d)光硬化工程で用いる光を目的のパターン通りに遮光し得るものであれば限定されず、公知の方法で製造されたフォトマスクを用いることができる。フォトマスクの例としては、ガラス、石英等にクロムの薄膜もしくは黒化金属銀で遮光膜部分を形成することで製造されたフォトマスクが挙げられる。
【0038】
あるいは、初めからマスキングを有する透明基材が利用可能である場合には、マスキング工程は省略できる。従って一態様における土壌観察装置の製造方法は、チャンバ部を有しマスク合わせがなされた透明基材のチャンバ部に土粒および光硬化樹脂を導入することを含む。該方法はさらに、透明基材13にチャンバ1’を形成すること、および/または、透明基材13にマスク14をアラインメント(マスク合わせ)することを含み得る。
図2の例では工程(a)の後に工程(b)が示されているが、チャンバを形成することとマスク合わせをすることは、どちらが先に行われてもよく、同時に行われてもよい。
【0039】
(c)土粒、光硬化樹脂充填工程では、チャンバ部1に土粒11と光硬化樹脂15を導入する。導入される土粒11および光硬化樹脂15は、<土壌観察装置>のセクションで記載した土粒および光硬化樹脂を用いることができる。導入される土粒11は団粒構造を形成するものであってもよい。土粒または団粒の直径がチャンバ1’の深さ以下となるように、チャンバ1’への導入前に土粒または団粒をふるいに掛けてもよい。チャンバ1’に土粒を導入することと、チャンバ1’に光硬化樹脂を導入することとは、どちらが先に行われてもよく、同時に行われてもよい。例えば、土粒に光硬化樹脂を添加してから両者の混合物をチャンバ1’に導入してもよい。
【0040】
(d)の光硬化工程では、マスク14を通してチャンバ部1に光照射を行うことで、マスク14でマスキングされていない領域において光硬化樹脂15を硬化させて、樹脂12を形成する。硬化した樹脂12の形成によって、土粒11が透明基材13のチャンバ内に固着されることが理解される。またマスキングされていない領域において光硬化樹脂15が硬化することに伴って、土粒フリー領域17、すなわちチャンバ部内の深さ方向に渡り土粒11および樹脂12を含まない領域が、マスキングのパターンに対応した位置と形状で生じる。照射する光の波長は、光硬化樹脂15を硬化し得るものであれば限定されず、使用される具体的な光硬化樹脂15の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。照射する光の波長としては、例えば、UV(10~400nm)を用いることができるが、320~400nmを用いることが好ましく、360~370nmを用いることがより好ましい。照射される光の強度は、非マスキング領域の深さ方向に渡り光硬化樹脂15が適切に硬化するように調節され得る。あえて照射強度を控えめにすることにより、比較的下側(照射源に近い側)の位置で選択的に硬化を達成する実施形態も企図される。光照射により光硬化樹脂15の硬化が行われたのち、硬化しなかった光硬化樹脂15が洗い流される。デバイス内で土を固める場合、固めたくない部分をどのように洗い流すかが問題となるが、実施形態の製造方法ではデバイスをカバーする前にパターンエッチングを介して土を固めて、固まっていない光硬化樹脂15を洗い流し、その後カバーを接着する方法を取ることでこの問題を解決している。あるいは、カバー16を接着した後に、例えば上述した土粒導入部31および土粒排出部32を通じてこの洗い流しを行うことも可能である。これら一連の操作によって、チャンバ部1内に樹脂12および土粒11のパターンが形成された土壌観察装置を作製することができる。
【0041】
(e)の封入工程では、カバー16を装着することによってチャンバ部1を封鎖する。カバー16の装着方法は限定されず、パーマネントな装着であってもよいし、一時的なすなわちカバー16の取り外しを許容する装着であってもよい。例えば、ガラス板である透明基材13上でチャンバの辺縁部に薄めた中性洗剤を滴下した後、チャンバの開口部を完全に覆って尚マージンを有する大きさのガラス板(カバー16)を載せて透明基材13に密着させ、上記マージン部分をクリップでしっかりととめて10時間程度放置することで、カバー16を装着することができる。
【0042】
上記いくつかの実施形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上記いくつかの実施形態によって限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本開示の範囲内で様々な変更をすることができる。
【0043】
<付記>
(付記1)
土粒を保持し、かつ、液体が流通可能なチャンバ部と、
前記チャンバ部に液体を導入する液体導入部を備える、
土壌観察装置。
(付記2)
前記土粒が、団粒構造を形成する、付記1に記載の土壌観察装置。
(付記3)
前記土粒が、樹脂による固着を通じて前記チャンバ部に保持されている、付記1または2に記載の土壌観察装置。
(付記4)
前記チャンバ部は、深さ方向に渡り前記土粒および前記樹脂を含まない領域を含む、付記1~3のいずれか一つに記載の土壌観察装置。
(付記5)
前記液体が、微生物懸濁液である、付記1~4のいずれか一項に記載の土壌観察装置。
(付記6)
土壌観察装置の製造方法であって、
チャンバ部を有しマスク合わせがなされた透明基材の前記チャンバ部に土粒および光硬化樹脂を導入すること、
前記マスクを通して前記チャンバ部に露光を行い、前記マスクでマスキングされていない領域において前記光硬化樹脂を硬化させて樹脂を形成すること、を含む
土壌観察装置の製造方法。
(付記7)
前記マスクでマスキングされていない領域において前記光硬化樹脂を硬化させることが、前記チャンバ部内に深さ方向に渡り前記土粒および前記樹脂を含まない領域を形成する、付記6に記載の製造方法。
(付記8)
前記土粒が、団粒構造を形成する、付記6または7に記載の製造方法。
【符号の説明】
【0044】
1 チャンバ部
11 土粒
12 樹脂
13 透明基材
14 マスク
15 光硬化樹脂
16 カバー
17 土粒フリー領域
21 液体導入部
22 液体排出部
31 土粒導入部
32 土粒排出部