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特開2024-176255放射性物質アスタチン-211除去材
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  • 特開-放射性物質アスタチン-211除去材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176255
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】放射性物質アスタチン-211除去材
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/10 20060101AFI20241212BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20241212BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20241212BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20241212BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G21F1/10
B01J20/04 A
B01J20/22 A
B01J20/28 Z
G21F1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094683
(22)【出願日】2023-06-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)第4回日本保健物理学会・日本放射線安全管理学会合同大会講演予稿集,2A3-2,一般社団法人日本保健物理学会・日本放射線安全管理学会予稿集編集委員会、令和4年10月6日にhttp://www.2022fukuoka.jrsm.jp/jrsmjhps/2022/10/06/%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%a0%e3%83%86%e3%83%bc%e3%83%96%e3%83%ab%e3%80%81%e4%b8%80%e8%88%ac%e6%bc%94%e9%a1%8c%e4%b8%80%e8%a6%a7/にて掲載 (2)第4回日本保健物理学会・日本放射線安全管理学会合同大会、九州大学椎木講堂(福岡県福岡市西区元岡744)にて令和4年11月25日に開催
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】394025245
【氏名又は名称】株式会社ワカイダ・エンジニアリング
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】野川 憲夫
(72)【発明者】
【氏名】若井田 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA05B
4G066AA05C
4G066AA33B
4G066AA35B
4G066AB10B
4G066AB12B
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA25
4G066BA26
4G066CA12
4G066CA31
4G066DA03
(57)【要約】
【課題】アスタチン-211を用いた薬剤を生成又は使用する際に室内に飛散したアスタチン-211を効率良く捕集して室内を清浄化するための除去材を提供する。
【解決手段】活性炭を主成分とする多孔質材料に1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン及びアルカリ金属ヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化学物質を担持させて構成されていることを特徴とする放射性物質アスタチン-211除去材。化学物質の担持量は活性炭1gあたり0.3×10-3~3.0×10-3molであることが好ましい。多孔質材料は、繊維直径10~25μmの繊維状活性炭であり、繊維状活性炭のBET法による比表面積が1000~2000m/gであることが好ましい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭を主成分とする多孔質材料に1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン及びアルカリ金属ヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化学物質を担持させて構成されていることを特徴とする放射性物質アスタチン-211除去材。
【請求項2】
多孔質材料における化学物質の担持量が活性炭1gあたり0.3×10-3~3.0×10-3molであることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質アスタチン-211除去材。
【請求項3】
多孔質材料が繊維直径10~25μmの繊維状活性炭であり、繊維状活性炭のBET法による比表面積が1000~2000m/gであることを特徴とする請求項2に記載の放射性物質アスタチン-211除去材。
【請求項4】
放射性物質アスタチン-211除去材の嵩密度が0.05~0.30g/cmであることを特徴とする請求項3に記載の放射性物質アスタチン-211除去材。
【請求項5】
放射性物質アスタチン-211除去材が、厚み1.0~15mmのシート状物であることを特徴とする請求項4に記載の放射性物質アスタチン-211除去材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕集効率に優れた放射性物質アスタチン-211除去材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん治療薬としてα線放出核種が注目されている。これらの放射線は、飛程が短いため、正常細胞への影響を小さくしながら、標的となるがん細胞のみを選択的に攻撃することができる。α線放出核種の中でも、半減期が短いアスタチン-211は、最も有望な放射性物質である。
【0003】
アスタチン-211を用いた薬剤は、ビスマス-209(209Bi)にサイクロトロンで発生したヘリウム-4(He)を照射して作成される。具体的には、(209Bi(He,2n)211At)の核反応によって得られる。この核反応では、アスタチン-211が生成される他に、種々の不純核種が生成される。従って、アスタチン-211を使用するためには、照射物からアスタチン-211のみを分離し、得られたアスタチン-211をエタノールで溶解してVバイアルに入れた後、エタノールを除いて固化し、使用する場所に運搬する。こうした分離作業やエタノールの取り扱い、また得られた試薬の取り扱いの際、アスタチン-211が空気中に飛散し、室内を汚染するおそれがある。また、この室内の空気を吸入した場合、深刻な内部被ばくの危険性がある。
【0004】
かかる問題に対処するため、アスタチン-211を生成する設備に系外への拡散防止のための排気フィルターを設けることが行なわれている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1では、アスタチン-211の捕集効率に優れたフィルターの構成や材料について何ら具体的な提案がなされていない。一方、特許文献2においては、同様のアスタチンの拡散防止のための排気フィルターとして無水硫酸ナトリウムや活性炭が使用されている。しかしながら、かかる構成のフィルターは、アスタチン-211の捕集効率が十分ではなく、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-92483号公報
【特許文献2】再公表2019/176585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術の問題を解消するために創案されたものであり、その目的は、アスタチン-211を用いた薬剤を生成又は使用する際に室内に飛散したアスタチン-211を効率良く捕集して室内を清浄化するための除去材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる目的を達成するためにアスタチン-211の捕集効率に優れた構成や材料について鋭意検討した結果、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン及びアルカリ金属ヨウ化物がアスタチン-211に対して高い吸着能力を示し、これらの化学物質のいずれかを、活性炭を主成分とする多孔質材料に好適な態様で担持させた除去材によって、アスタチン-211を高い捕集効率で除去できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)~(5)の構成を有するものである。
(1)活性炭を主成分とする多孔質材料に1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン及びアルカリ金属ヨウ化物からなる群から選択される少なくとも1種の化学物質を担持させて構成されていることを特徴とする放射性物質アスタチン-211除去材。
(2)多孔質材料における化学物質の担持量が活性炭1gあたり0.3×10-3~3.0×10-3molであることを特徴とする(1)に記載の放射性物質アスタチン-211除去材。
(3)多孔質材料が繊維直径10~25μmの繊維状活性炭であり、繊維状活性炭のBET法による比表面積が1000~2000m/gであることを特徴とする(2)に記載の放射性物質アスタチン-211除去材。
(4)放射性物質アスタチン-211除去材の嵩密度が0.05~0.30g/cmであることを特徴とする(3)に記載の放射性物質アスタチン-211除去材。
(5)放射性物質アスタチン-211除去材が、厚み1.0~15mmのシート状物であることを特徴とする(4)に記載の放射性物質アスタチン-211除去材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の放射性物質アスタチン-211除去材は、アスタチン-211を生成または使用する室内や設備に設置することによってアスタチン-211を効果的に吸収して系内の濃度を低減し、安全な室内環境を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のアスタチン-211除去材を用いたプリーツフィルターの一例の概略図を示す。
図2】本発明のアスタチン-211除去材を用いた場合の室内および排気ボックスの一例の概略図を示す。
図3】実施例で使用したアスタチン-211捕集効率の評価装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の放射性物質アスタチン-211除去材は、サイクロトロンなどの放射性同位元素を発生する設備内、または放射性物質を使用する実験室内などの系内に漏洩したアスタチン-211を効率良く吸着して除去することができる材料である。特に、本発明のアスタチン-211除去材は、活性炭を主成分とする多孔質材料に1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン及びアルカリ金属ヨウ化物からなる群から選択された少なくとも1種の化学物質が担持されて構成されるものである。
【0012】
本発明で使用する多孔質材料は、活性炭を主成分とするものを用いる。ここで主成分とは、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上含有することを意味する。多孔質材料には、活性炭以外にゼオライトに代表される無機系吸着材、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体で構成される有機系の多孔質材などの材料を含有することができる。
【0013】
活性炭は、それ以外の吸着材料、例えばゼオライトや金属酸化物を主成分とするセラミック系、スチレン-ジビニルベンゼン共重合で得られる有機系多孔質材料に比べて吸着に寄与する部分の表面積が大きく、成型性に富むため、気相の濾過材として好適である。活性炭には、粒状、粉末、粉末を造粒したもの、繊維状などがあるが、本発明では、繊維状活性炭を使用することが好ましい。繊維状活性炭は、高い吸着速度で高い吸着率を特徴とし、粉末又は粒状の活性炭に比べると単位体積当たりの充填量がより少ない条件で同等の捕集効率を得ることができる。
【0014】
使用する繊維状活性炭の繊維直径は、10~25μmであることが好ましい。繊維状活性炭は、単位容積あたりの幾何学的な表面積が多い方が高い除去効率を得られるため、繊維直径は、22μm以下、さらには20μm以下であることがより好ましい。繊維直径が前記下限未満の場合、繊維を焼成して炭化する際に重量収率が低くなる関係で繊維が細くなり、焼成後の強度が極端に低くなるため、その後のフィルター製造が困難になるおそれがある。一方、繊維直径が前記上限より大きくなると、焼成・炭化時の熱分解にともなう熱分解物質の繊維外への拡散が困難になり、焼成後の繊維がもろくなるおそれがある。
【0015】
使用する繊維状活性炭の窒素吸着におけるBET法による比表面積は、1000m/g以上、特に1200m/g以上、2000m/g以下であることが好ましい。比表面積が前記下限未満の場合、細孔径が小さくなりすぎて、担持する化学物質によって細孔が閉塞されて吸着能力が低下するおそれがある。また、比表面積が前記上限を越えると、性能の問題は特にないが、活性炭の製造時の歩留まりが極端に低くなるため、強度面や価格面で現実的ではない。
【0016】
なお、活性炭のみでアスタチン-211をある程度吸着することは可能であるが、吸着特性が安定せず、平均を取ると除去率が総じて低くなる。そのため、本発明では、活性炭を主成分とする多孔質材料に対して1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン及びアルカリ金属ヨウ化物からなる群から選択される化学物質を担持させることを特徴とする。これらの化学物質の担持により、アスタチン-211の安定した高い吸着量を示すことができる。アルカリ金属ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが好適である。これらの化学物質の担持量は、担持する物質や使用する活性炭素繊維の比表面積によって異なるが、活性炭素繊維1gあたり0.3×10-3mol以上、好ましくは0.4×10―3mol以上、3.0×10-3mol以下の範囲であることが好ましい。担持量が前記下限未満では、アスタチン-211の吸着や化学物質との反応の効果が効率的に行われないおそれがあり、前記上限より多いと、繊維状活性炭に存在する細孔が化学物質で閉塞し、吸着が行われにくくなって捕集効率の低下となるおそれがある。
【0017】
本発明のアスタチン-211除去材は、繊維状の形態をしたものはそのまま綿状でカラムに充填して使用できるほか、シート状に成形して使用することが可能である。カラム充填時又はシート状成形時の本発明のアスタチン-211除去材の嵩密度は、通気性、取り扱い性の点で0.05g/cm以上、特に0.06g/cm以上、0.30g/cm以下であることが好ましい。嵩密度が前記下限未満の場合、一定の捕集効率を得るためにかなりの充填高さが必要になり、フィルターとして使用する場合に場所を多く占拠してしまい、あまり現実的ではない。また、前記上限より大きい場合、通気性が極端に低下してフィルターとして使用に適さなくなる可能性がある。
【0018】
本発明のアスタチン-211除去材は、不織布、織布、編地などのシート状に成形して利用されることが可能である。アスタチン-211が発生し漏洩する環境は、実際には局所的ではなく建物や室内などの広い範囲になると予想され、高い風量で換気することが必要であるが、シート状に成形することによってこれを容易に達成することができる。シート状物の本発明のアスタチン-211除去材の厚みは、1.0mm以上、特に1.2mm以上、15mm以下のシート化されたものが好適に利用することができる。シートの厚みや嵩密度は、プリーツフィルターとして使用できる空間に対する充填量と処理する風量によって最適に設計されるが、厚みが前記下限未満の場合、シートがあまりに薄いためフィルターとしての成形性が困難になるおそれがある。
【0019】
シート状物の除去材を利用したものとしては、例えば図1に示すようなプリーツ型フィルターを組み込んだものが挙げられる。具体的には、フィルターろ材2としてシート状の除去材をジグザグに折りたたんでプリーツ化したものを複数用意し、その間の部分に整流用のスペーサー1を挿入し、それらを枠材3で枠取りすることによってパッケージ化されたフィルターとして利用することができる。
【0020】
本発明のアスタチン-211除去材の製造方法の典型例について述べると、まず活性炭の原料となる炭化可能な繊維、例えばレーヨン、キュプラ、綿などのセルロース系、ポリアクリロニトリル系、ノボロイド系、ポリビニルアルコール系、ピッチ系繊維を公知の方法で炭化・賦活することによって繊維状活性炭を得る。これをシート化するには、例えば予め原料となる繊維を不織布・織布等のシート状にし、炭化・賦活すればよい。あるいは、原料となる繊維、この場合長繊維もしくは短繊維を炭化・賦活させて得られたものを公知の方法でシート化してもよい。また、前述の綿状の繊維状活性炭は、骨材となる天然、もしくは合成繊維の短繊維や接着成分などと混合して紙状にしてもよい。次に、得られた繊維状活性炭に対して1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン及び/又はアルカリ金属ヨウ化物の化学物質を担持する。担持方法は、化学物質を溶解させた溶液に繊維状活性炭を浸漬して乾燥する方法が一般的に用いられるが、繊維表面に均一に化学物質を担持できる方法であれば特に限定されない。なお、本発明では、担持量は、担持前と担持後の乾燥重量をそれぞれ測定し、担持後の測定重量から担持前の測定重量を差し引きし、それを分子量からモル換算して担持前の重量当たりのモル数として算出する。
【0021】
本発明のアスタチン-211除去材を使用する方法としては、除去材を充填した充填カラムをアスタチン-211の発生源近傍に設置してアスタチン-211を除去するか、又は除去材をプリーツフィルターとして成形したものを室内の汚染された空気を排気するための排気ボックスに取り付けてアスタチン-211を除去する方法が挙げられる。後者の方法として、図2に室内および排気ボックスの概略図を示す。図2に示すように、室内4にて発生源5から発生したアスタチン-211を含む汚れた空気6は、排気口ダクト10から図1のプリーツフィルター7、除塵フィルター8、排気ファン9からなる排気ボックスに通して強制排気されることにより効果的にアスタチン-211を除去することができる。あるいは、汚染された室内、特に壁(11A)や天井(11B)にシート状物の除去材を単体で吊るしたり貼り付けたりして送風に頼らない方法でもアスタチン-211の除去は可能である。
【0022】
本発明のアスタチン-211除去材は、上述のように構成されることによって、実施例の測定方法に従ったアスタチン-211捕集効率において97.0%以上、さらには98.0%以上、99.0%以上を達成することができる。
【実施例0023】
以下の実施例において本発明の効果を示すが、本発明は、これらに制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することができる。なお、実施例中の特性値の評価は、以下の方法に依った。
【0024】
(1)繊維直径
試料を走査型電子顕微鏡又は光学顕微鏡で500~1000倍に拡大して撮影し、繊維の直径をノギスで測定した。
【0025】
(2)嵩密度
試料を直径50mmに抜き取り、100℃で1時間加熱乾燥し、デシケーター中で一晩放置後の重量を測定した。この測定値を単位面積当たりの重量に換算して厚みで除して求めた。
【0026】
(3)厚み
(2)嵩密度で使用した直径50mmの試料を0.147N/cmの荷重のダイヤルゲージで測定した。
【0027】
(4)比表面積
液体窒素温度における窒素吸着等温線からBET法により(相対圧0.02~0.2)算出した。
【0028】
(5)アスタチン-211捕集効率
図3に概略的に示す評価装置を使用した。評価装置は、サンプルセット12を装着するサンプルホルダー13、アクリルボックス14、アスタチン-211が入っているVバイアル15、吸引ポンプとサンプルホルダーを接続する耐圧チューブ16から構成されている。試料を直径60mmの大きさに打ち抜き、上流側から除塵用ろ材(QR-100:アドバンテック東洋製)17、試料6枚分18、バックアップフィルターCHC-50(アドバンテック東洋製)19の順にサンプルセット12としてサンプルホルダー13に装着した。このサンプルセット12の通気時の有効直径は50mmである。サンプルホルダー13は、上流側を幅32cm、奥行32cm、高さ29cmの寸法のアクリルボックス14の上部開口部分に取り付け、下流側に耐圧チューブ16を介して吸引ポンプを取り付けた。アスタチン-211が溶解したエタノールが封入されているVバイアル15をアクリルボックス14中にて開封し、吸引ポンプを起動して風量29L/minで約3時間通気した。アスタチン-211の放射能は、各試料をガンマカウンター(PerkinElmer WIZARD2)で測定した。試料の捕集効率は、試料6枚18のうち最上流の1枚のカウント値を上流側3枚の合計のカウント値で除して算出した。
【0029】
(実施例1)
目付205g/m、厚み3.0mm、比表面積1520m/g、繊維直径13μmの繊維状活性炭不織布(嵩密度0.068g/cm)に浸漬法により1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0030】
(実施例2)
目付198g/m、厚み2.8mm、比表面積1510m/g、繊維直径18μmの繊維状活性炭不織布(嵩密度0.071g/cm)に浸漬法により1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0031】
(実施例3)
実施例1で用いたものと同様の繊維状活性炭不織布に浸漬法によりヨウ化ナトリウムを0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0032】
(実施例4)
実施例1で用いたものと同様の繊維状活性炭不織布に浸漬法によりヨウ化カリウムを0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0033】
(実施例5)
目付210g/m、厚み2.9mm、比表面積1270m/g、繊維直径18μmの繊維状活性炭不織布(0.072g/m)に浸漬法により1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0034】
(実施例6)
実施例1で用いたものと同様の繊維状活性炭不織布に浸漬法によりヨウ化カリウムを0.5×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0035】
(実施例7)
目付150g/m、厚み4.0mm、比表面積1270m/g、繊維直径18μmの繊維状活性炭不織布(0.038g/cm)に浸漬法により1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0036】
(実施例8)
目付220g/m、厚み3.2mm、比表面積850m/g、繊維直径20μmの繊維状活性炭不織布(0.068g/m)に浸漬法により1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0037】
(比較例1)
実施例1で用いたものと同様の繊維状活性炭不織布に何も化学物質を担持しないものを試料とした。
【0038】
(比較例2)
実施例1で用いたものと同様の繊維状活性炭不織布に浸漬法により塩化ナトリウムを0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0039】
(比較例3)
実施例1で用いたものと同様の繊維状活性炭不織布に浸漬法により臭化ナトリウムを0.9×10-3mol/g担持させたものを試料とした。
【0040】
実施例1~8及び比較例1~3の試料の詳細及び評価結果を以下の表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1からわかるように、本発明の要件を満足する実施例1~8の除去材は、98.0%以上のアスタチン-211捕集効率を示し、特に実施例1~6の除去材は、99.0%を越える高いアスタチン-211捕集効率を示した。一方、本発明の化学物質を担持しない除去材は、実施例1~8に比べて劣ったアスタチン-211捕集効率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のアスタチン-211除去材は、アスタチン-211を生成または使用する室内や設備に設置することによってアスタチン-211を効果的に吸収して系内の濃度を低減し、安全な室内環境を提供することができるので、当業界において極めて有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 スペーサー
2 フィルターろ材
3 枠材
4 室内
5 アスタチン-211発生源
6 室内に拡散したアスタチン-211を含む空気
7 プリーツフィルター
8 除塵フィルター
9 ファン
10 排気ダクト
11A シート状物の除去材(壁面)
11B シート状物の除去材(天井)
12 サンプルセット
13 サンプルホルダー
14 アクリルボックス
15 Vバイアル
16 耐圧チューブ
17 除塵用ろ材
18 試料(6枚)
19 バックアップホルダー
図1
図2
図3