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特開2024-176392ノンハロゲン難燃樹脂組成物および絶縁電線
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  • 特開-ノンハロゲン難燃樹脂組成物および絶縁電線 図1
  • 特開-ノンハロゲン難燃樹脂組成物および絶縁電線 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176392
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ノンハロゲン難燃樹脂組成物および絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20241212BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20241212BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20241212BHJP
   C08K 7/24 20060101ALI20241212BHJP
   C08K 5/52 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08L67/02
H01B7/295
C08L23/08
C08K7/24
C08K5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094890
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 周
(72)【発明者】
【氏名】橋本 充
【テーマコード(参考)】
4J002
5G315
【Fターム(参考)】
4J002BB072
4J002BG072
4J002CD003
4J002CF071
4J002DA017
4J002DJ007
4J002DJ037
4J002ER008
4J002EU228
4J002EU238
4J002EW046
4J002EW156
4J002FA097
4J002FD017
4J002FD136
4J002FD203
4J002FD208
4J002GQ01
5G315CA02
5G315CB02
5G315CC09
5G315CD12
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性および発煙特性の優れたノンハロゲン難燃樹脂組成物、ならびにその樹脂組成物を用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体11aと、導体11aの周囲に設けられ、絶縁内層11bと絶縁外層11cを備える絶縁層と、を有し、絶縁外層11cが、ベースポリマであるポリブチレンテレフタレート樹脂を含む結晶性ポリマと、リン系化合物と、エチレングリシジルメタクリレート共重合体と、無機多孔質充填剤と、耐加水分解性改良剤と、を含有し、ベースポリマ100質量部に対して、リン系化合物を1~30質量部、エチレングリシジルメタクリレート共重合体を1~50質量部、無機多孔質充填剤を0.1~50質量部、耐加水分解性改良剤を0.05~10質量部、を含む、ノンハロゲン難燃樹脂組成物から構成される、絶縁電線。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマであるポリブチレンテレフタレート樹脂を含む結晶性ポリマと、リン系化合物と、エチレングリシジルメタクリレート共重合体と、無機多孔質充填剤と、耐加水分解性改良剤と、を含有するノンハロゲン難燃樹脂組成物であって、
前記ベースポリマ100質量部に対して、前記リン系化合物を1~30質量部、前記エチレングリシジルメタクリレート共重合体を1~50質量部、前記無機多孔質充填剤を0.1~50質量部、前記耐加水分解性改良剤を0.05~10質量部、を含む、ノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のノンハロゲン難燃樹脂組成物において、
前記耐加水分解性改良剤が、カルボジイミド化合物である、ノンハロゲン難燃樹脂組成物。
【請求項3】
導体と、前記導体の周囲に設けられた絶縁層と、を有する絶縁電線であって、
前記絶縁層は、ベースポリマであるポリブチレンテレフタレート樹脂を含む結晶性ポリマと、リン系化合物と、エチレングリシジルメタクリレート共重合体と、無機多孔質充填剤と、耐加水分解性改良剤と、を含有し、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記リン系化合物を1~30質量部、前記エチレングリシジルメタクリレート共重合体を1~50質量部、前記無機多孔質充填剤を0.1~50質量部、前記耐加水分解性改良剤を0.05~10質量部、を含む、ノンハロゲン難燃樹脂組成物から構成される、絶縁電線。
【請求項4】
請求項3に記載の絶縁電線において、
前記耐加水分解性改良剤が、カルボジイミド化合物である、絶縁電線。
【請求項5】
請求項3に記載の絶縁電線において、
前記絶縁層の厚さが、0.1~0.5mmである、絶縁電線。
【請求項6】
導体と、前記導体の周囲に設けられ、絶縁内層と絶縁外層の2層構造である絶縁層と、を有する絶縁電線であって、
前記絶縁内層が、ポリオレフィン樹脂と、金属水酸化物と、を含有し、前記ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、前記金属水酸化物を100~300質量部、含む、難燃樹脂組成物から構成され、
前記絶縁外層が、ベースポリマであるポリブチレンテレフタレート樹脂を含む結晶性ポリマと、リン系化合物と、エチレングリシジルメタクリレート共重合体と、無機多孔質充填剤と、耐加水分解性改良剤と、を含有するノンハロゲン難燃樹脂組成物であって、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記リン系化合物を1~30質量部、前記エチレングリシジルメタクリレート共重合体を1~50質量部、前記無機多孔質充填剤を0.1~50質量部、前記耐加水分解性改良剤を0.05~10質量部、を含む、ノンハロゲン難燃樹脂組成物から構成される、絶縁電線。
【請求項7】
請求項6に記載の絶縁電線において、
前記耐加水分解性改良剤が、カルボジイミド化合物である、絶縁電線。
【請求項8】
請求項6に記載の絶縁電線において、
前記絶縁内層に含まれる前記金属水酸化物が、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムを含む、絶縁電線。
【請求項9】
請求項6に記載の絶縁電線において、
前記絶縁層の合計厚さが、0.1~0.5mmである、絶縁電線。
【請求項10】
請求項6に記載の絶縁電線において、
前記絶縁内層の厚さTbと前記絶縁外層の厚さTcの比が、Tb:Tc=1:4~4:1である、絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃樹脂組成物および絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両、自動車、機器用などに適用される電線被覆材料として、一般的にはポリ塩化ビニル樹脂(PVC)が使われる。PVCは、高い実用特性を有し安価であるが、廃却後の焼却時に塩素を含んだハロゲンガスを発生するなどの廃棄物処理に伴う環境汚染の問題が生じることから、近年PVC以外のノンハロゲン材料が適用されつつある。また、鉄道車両や自動車などの輸送分野において、省エネに対する車体の軽量化および省スペース化に伴い、電線の軽量・薄肉化が求められている。このような電線の軽量化、薄肉化に対して従来のPVC材料を用いた場合は、難燃性や耐摩耗特性の要求特性が達成できないなどの問題があった。
【0003】
一方、汎用エンジニアリングプラスチックポリマーであるポリエステル樹脂、中でもポリブチレンテレフタレート(PBT)は、結晶性ポリマであり、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐薬品性、成形性に優れ、また吸水性が小さく寸法安定性に優れており、難燃化が比較的容易であるなどの特徴を生かし、自動車、電気、電子、絶縁材、OA分野など幅広い分野で使用されている。
【0004】
しかしながら、PBTは結晶性であるがゆえに、製造工程や特定の環境下で結晶化度が変化してしまい、例えば引張伸び特性が低下する懸念がある。これらの課題を解決するためにポリオルガノシロキサンを添加した技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところが、この技術においても、さらなる摩耗特性の要求の高いレベルの仕様には不十分で、さらには燃焼時に発生する煙の抑制効果が小さいことも課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5233609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐摩耗性および発煙特性の優れたノンハロゲン難燃樹脂組成物およびその樹脂組成物を用いた絶縁電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態であるノンハロゲン難燃樹脂組成物は、ベースポリマであるポリブチレンテレフタレート樹脂を含む結晶性ポリマと、リン系化合物と、エチレングリシジルメタクリレート共重合体と、無機多孔質充填剤と、耐加水分解性改良剤と、を含有するノンハロゲン難燃樹脂組成物であって、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記リン系化合物を1~30質量部、前記エチレングリシジルメタクリレート共重合体を1~50質量部、前記無機多孔質充填剤を0.1~50質量部、前記耐加水分解性改良剤を0.05~10質量部、を含む。
【0009】
一実施の形態である絶縁電線は、導体と、前記導体の周囲に設けられた絶縁層と、を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は、ベースポリマであるポリブチレンテレフタレート樹脂を含む結晶性ポリマと、リン系化合物と、エチレングリシジルメタクリレート共重合体と、無機多孔質充填剤と、耐加水分解性改良剤と、を含有し、前記ベースポリマ100質量部に対して、前記リン系化合物を1~30質量部、前記エチレングリシジルメタクリレート共重合体を1~50質量部、前記無機多孔質充填剤を0.1~50質量部、前記耐加水分解性改良剤を0.05~10質量部、を含む、ノンハロゲン難燃樹脂組成物から構成される。
【発明の効果】
【0010】
本実施の形態によれば、耐摩耗性および発煙特性の優れたノンハロゲン難燃樹脂組成物およびその樹脂組成物を用いた絶縁電線を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施の形態である絶縁電線の構成例を示す断面図である。
図2】一実施の形態であるケーブルの構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
<ノンハロゲン難燃樹脂組成物>
[ポリマ成分]
本実施形態において使用する樹脂組成物のポリマ成分は、ベースポリマとして結晶性ポリマを使用する。結晶性ポリマを含有させることで、絶縁層の耐摩耗性を向上させるためである。そのため、ベースポリマとして非結晶ポリマを含まないことが好ましい。
【0014】
結晶性ポリマとしては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂が用いられる。PBT樹脂とは、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を主成分とするポリエステルであって、多価アルコール成分として1,4-ブタンジオール、多価カルボン酸成分としてテレフタル酸、またはそのエステル系生成誘導体を用いて得られるブチレンテレフタレート単位を主たる繰り返しとするポリエステルである。
【0015】
主たる繰り返し単位とは、ブチレンテレフタレート単位が、全多価カルボン酸-多価アルコール単位中の70モル%以上であることを意味する。さらに、ブチレンテレフタレート単位は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0016】
PBT樹脂に用いられるテレフタル酸以外の多価カルボン酸成分の一例としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸などの芳香族多価カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、あるいは上記多価カルボン酸のエステル形成性誘導体(例えば、テレフタル酸ジメチルなどの多価カルボン酸の低級アルキルエステル類)、などが挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は単独でもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0017】
一方、1,4-ブタンジオール以外の多価アルコール成分の一例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの脂肪族多価アルコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族多価アルコール、ビスフェノールA、ビスフェノールZなどの芳香族多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングルコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコールなどのポリアルキレングリコールなどが挙げられる。これら多価アルコール成分は単独で用いてもよいし、複数で用いてもよい。さらに、本実施形態で使用するPBT樹脂は、耐加水分解性の観点から末端カルボキシル基当量が50(eq/T)以下であり、好ましくは40(eq/T)以下、より好ましくは30(eq/T)以下である。末端カルボキシ基当量が50(eq/T)を超えると、耐加水分解性が悪くなる。
【0018】
本実施の形態におけるPBT樹脂は、上述した要件を満たせば、単独であってもよいし、あるいは末端カルボキシル基濃度、融点、触媒量などの異なる複数の混合物であってもよい。
【0019】
また、PBT樹脂以外の結晶性ポリマを混合して用いることもできる。このとき用いることができる結晶性ポリマとしては、公知の結晶性ポリマであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマ(LCP)などのノンハロゲン結晶性エンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
【0020】
なお、結晶性ポリマを複数種混合する場合、結晶性ポリマ中に、PBT樹脂を80質量%以上含有させることが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
【0021】
[リン系化合物]
本実施形態において使用するリン系化合物としては、難燃剤として公知のリン系化合物を用いることができ、例えば、リン酸エステル、ホスホニトリル化合物、ポリリン酸塩などが挙げられ、中でもリン酸エステルが好ましい。
【0022】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェートなどが挙げられる。中でも、以下の化学式(1)に示すリン酸エステル化合物が好ましい。
【0023】
化学式(1)中、R~Rは水素原子または炭素数6以下のアルキル基を示す。ここで、耐加水分解性を向上させるためには炭素数6以下のアルキル基が好ましく、中でもメチル基が好ましい。nは0~10の整数を表す。ここで、nは、好ましくは1~3、特に好ましくは1である。
【0024】
また、Rは2価以上の有機基を表す。この場合、2価以上の有機基とは、有機基からアルキル基、シクロアルキル基、アリール基などの炭素に結合している水素原子の1個以上を除いてできる2価以上の基を意味する。具体的には、以下に示した化学式(2)に示す構造が好ましく挙げられる。
【0025】
【化1】
【0026】
【化2】
【0027】
また、リン系化合物としては、以下に示した化学式(3)に示す基を有するホスホニトリル化合物も好適に用いられる。
【0028】
化学式(3)中、R10、R11は炭素数1~20のアリール基、アルキル基、シクロアルキル基を表し、具体例としては、メチル、エチル、ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、ナフチルなどの基が挙げられる。n、mは整数を表し、一般に1~4が、特に3または4が好ましい。
【0029】
また、ホスホニトリル化合物は、線状重合体であっても環状重合体であってもかまわないが、中でも環状重合体が好適に用いられる。Xは-O-,-S-,-N(-H)-の原子または基を表すが、中でも-O-,-N(-H)-がより好ましく、特には-O-が好ましい。
【0030】
【化3】
【0031】
また、ポリリン酸塩としては、ポリリン酸メレムが挙げられる。他にポリリン酸アンモニウムを好ましく用いることができる。このリン系化合物の好ましい平均粒径は0.05~100μm、さらに好ましくは0.1~80μmである。
【0032】
リン系化合物の配合量は、ベースポリマ100質量部に対して、1~30質量部であり、好ましくは2~25質量部であり、より好ましくは3~20質量部、特に好ましくは5~15質量部である。リン系化合物が30質量部を超えるとブルームし、1質量部未満では難燃性が不十分となるおそれがある。
[エチレングリシジルメタクリレート共重合体]
【0033】
本実施形態において使用するエチレングリシジルメタクリレート共重合体は、メタクリル酸グリシジル(GMA)とエチレンとの共重合体であって、PBT樹脂を含有する樹脂組成物に耐衝撃吸収作用を付与する成分である。また、PBT樹脂を含有する樹脂組成物を増粘させ、燃焼時の炎の伝搬を抑制する作用を付与する成分でもある。そのため、耐衝撃吸収作用により耐摩耗性を向上させ、炎の伝搬を抑制し、樹脂組成物の燃焼エリアを小さくすることができるため、燃焼時に発生する煙の発煙密度を低減することができる。
【0034】
エチレングリシジルメタクリレート共重合体の配合量は、ベースポリマ100質量部に対して、1~50質量部であり、好ましくは2~40質量部であり、より好ましくは3~30質量部、特に好ましくは5~20質量部である。エチレングリシジルメタクリレート共重合体が50質量部を超えると摩耗特性が低下するおそれがあり、1質量部未満では耐熱性が低下するおそれがある。
【0035】
また、エチレングリシジルメタクリレート共重合体のGMA変性量は特に限定されないが、6質量%以下が押出成形のハンドリングがしやすいため好ましい。
[無機多孔質充填剤]
【0036】
本実施形態において使用する無機多孔質充填剤は、樹脂組成物中に含まれるイオンをトラップする作用を有する無機多孔質充填剤であり、これにより絶縁電線の絶縁層の劣化を抑制し、安定化を図るための成分である。この無機多孔質充填剤は、上記作用を十分に発揮するために、その比表面積が5m/g以上であることが好ましい。
【0037】
この無機多孔質充填剤としては、例えば、焼成クレー、ゼオライト、メサライト、アンスラサイト、パーライト発泡体、活性炭などが挙げられ、これらの1種を単独で、または2種以上を併せて用いることができる。無機多孔質充填剤は、焼成クレーを含有することが好ましい。
【0038】
この無機多孔質充填剤の配合量は、ベースポリマ100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましい。無機多孔質充填剤の含有量が0.1重量部よりも少ないとイオンを十分にトラップできずに、本発明の効果が発揮しにくくなるおそれがあり、50質量部より多いと無機多孔質充填剤の分散性が低下したり、絶縁電線の引張特性が低下したりするおそれがある。
【0039】
[耐加水分解性改良剤]
本実施形態において使用する耐加水分解性改良剤は、PBT樹脂の加水分解を抑制する化合物を含むものである。すなわち、耐加水分解性改良剤は、樹脂組成物中の耐加水分解性を向上させる(改良する)添加剤であり、公知の化合物を使用できる。ここで、PBT樹脂は、外部雰囲気に含まれる水蒸気などにより加水分解を受け、分子量低下を起こすと同時に、機械的強度などが低下する場合があるため、この耐加水分解性改良剤により、これを抑制し、絶縁電線の絶縁層の特性を安定して維持するものとできる。
【0040】
この耐加水分解性改良剤としては、例えば、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物などが挙げられ、中でもカルボジイミド化合物が樹脂組成物の被覆加工性を悪化させず使用でき、好ましい。
【0041】
カルボジイミド化合物は、1分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を少なくとも2個有する化合物であって、例えば、分子中にイソシアネート基を少なくとも2個有する多価イソシアネート化合物を、カルボジイミド化触媒の存在下、脱二酸化炭素縮合重合反応(カルボジイミド反応)を行わせることによって製造できる。
【0042】
カルボジイミド化反応は、公知の方法によって行うことができ、具体的には、イソシアネートを不活性な溶媒に溶解するか、あるいは無溶剤で窒素などの不活性気体の気流下またはバブリング下でフォスフォレンオキシド類に代表される有機リン系化合物などのカルボジイミド化触媒を加え、150~200℃の温度範囲で加熱および撹拌することにより、脱二酸化炭素を伴う縮合反応(カルボジイミド化反応)を進めることができる。
【0043】
この反応に用いる多価イソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を2個有する2官能イソシアネートが特に好適であるが、3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物をジイソシアネートと併用して用いることもできる。また、多価イソシアネート化合物は、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネートのいずれであってもよい。
【0044】
多価イソシアネート化合物の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12-ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、2,4-ビス-(8-イソシアネートオクチル)-1,3-ジオクチルシクロブタン(ODI)、4.4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,4,6-トリイソプロピルフェニルジイソシアネート(TIDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、水添トリレンジイソシアネート(HTDI)などが挙げられる。
【0045】
より詳細には、本実施形態で使用するカルボジイミド化合物としては、HDMIあるいはMDIから得られるカルボジイミド化合物が好適に用いられ、市販の「カルボジライト」(商品名:日進紡績(株)製)、「スタバクゾールP」(商品名:ライン・ケミー社製)などを用いてもよい。
【0046】
この耐加水分解性改良剤の配合量は、ベースポリマ100質量部に対して、0.05~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。耐加水分解性改良剤の配合量が0.05質量部未満であると、耐加水分解性の改良効果が期待できないおそれがあり、10重量部より多いと流動性の低下を起こし、樹脂組成物の成形加工性が低下するおそれがある。
【0047】
<絶縁電線>
本実施の形態の絶縁電線は、導体と、導体上に設けられた絶縁層とを有し、該絶縁層として、上記説明したノンハロゲン難燃樹脂組成物を含有して構成される絶縁層を有する絶縁電線である。
【0048】
図1は、一実施の形態である絶縁電線の構成例を示す断面図である。図1に示す絶縁電線11は、導体11aと、導体11aの外周に形成された絶縁内層11bと、絶縁内層11bの外周に形成された絶縁外層11cとを有する。このように、導体11aを被覆する絶縁層を絶縁内層11bと絶縁外層11cとの2層構造としてもよい。図1では、絶縁層が2層の例を示しているが、この絶縁層は、単層の難燃絶縁層を備える絶縁層であってもよく、3層以上の複数層の難燃絶縁層を備える絶縁層であってもよい。以下、絶縁電線11の特徴について説明する。
【0049】
[導体]
導体11aとしては、例えば、複数本の素線(金属線)が撚り合わされた撚線を用いることができる。素線としては、例えば、銅線、銅合金線の他、アルミニウム線、金線、銀線等を用いることができ、外周に錫やニッケル等の金属めっきを施したものを用いてもよい。
【0050】
[絶縁層]
絶縁層は、特定のポリマ材料を含む材料で構成される樹脂層(難燃絶縁層)を有する。ここで、絶縁層は、絶縁内層11bと絶縁外層11cとから構成されている。
【0051】
(絶縁外層)
絶縁外層11cは、上記説明した特定のポリマ成分およびその他成分を含んで構成される樹脂組成物を用いて形成されるものである。このように、絶縁電線の最外層として、上記樹脂組成物を用いることで、耐摩耗性および低発煙特性の優れた絶縁電線を得ることができる。
【0052】
(絶縁内層)
絶縁内層11bは、難燃絶縁電線として使用される公知の樹脂組成物により形成できる。
【0053】
この絶縁内層11bを構成する樹脂組成物に含有させる難燃剤は、この種の樹脂組成物に配合する公知のノンハロゲン難燃剤を使用でき、金属水酸化物が好ましい。金属水酸化物としては、公知の金属水酸化物を用いることができるが、特に水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムを用いることが好ましい。これらは単独で用いても、併用してもよい。
【0054】
水酸化マグネシウムはメインの脱水反応が350℃と高く、外層の高い成形温度にも対応しやすく、また難燃性も良好なためより好ましい。これらの金属水酸化物は吸熱反応および脱水による水の拡散による希釈効果で、燃焼時の発煙抑制に寄与する。ノンハロゲン難燃剤の中でも赤リンはホスフィンガスなどの接点障害のおそれがあるため適切ではない。
【0055】
他に適用可能な具体的なノンハロゲン難燃剤としては、メラミンシアヌレート、クレー、シリカ、スズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、水酸化ドロマイド、シリコーンが挙げられる。
【0056】
難燃剤には分散性を考慮し、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、ステアリン酸などの脂肪酸などによって表面処理を施すこともできる。難燃剤の添加量は特に限定はしないが水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムを高充填する場合、ベースポリマ100質量部に対して100~300質量部が好ましい。100質量部未満だと十分難燃性を満足することが難しくなるおそれがあり、300質量部より多いと低温性が十分でないおそれがある。より好ましくは、100~250質量部、さらには100~200質量部が好ましい。
【0057】
絶縁内層11bを構成するベースポリマは、ノンハロゲンポリオレフィンであればよく、特に限定はされないが、DSC法による融点ピークが120℃以上のポリオレフィンが含まれていると高い機械特性が得られやすく好ましい。
【0058】
融点が120℃以上のポリオレフィンとして、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。これらの材料はマレイン酸などの酸変性していてもよい。120℃以上の融点を持つポリマとしてポリブチレンテレフタレートなどに代表されるエンジニアリングプラスチックが挙げられるが、ノンハロゲン難燃剤を高充填することが難しく、適用されない。この樹脂組成物において、融点が120℃未満のポリオレフィンの併用は難燃剤の受容性を高めるため有用である。融点が120℃未満のポリマとして低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、ブタジエン-スチレン共重合体などが挙げられる。
【0059】
架橋処理は必要に応じて行うことができ、有機過酸化物または硫黄化合物あるいはシラン等を用いた化学架橋、電子線、放射線等による照射架橋、その他の化学反応を利用した架橋等があるが、いずれの架橋方法も適用可能である。
【0060】
これらの材料で構成された樹脂組成物には、必要に応じて、架橋剤、架橋助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、滑剤、着色剤、補強材、界面活性剤、無機充填剤、酸化防止剤、可塑剤、金属キレート剤、発泡剤、相溶化剤、加工助剤、安定剤等を添加することができる。
【0061】
本実施の形態の絶縁電線11は、上記のような構成のものとでき、このとき絶縁層の厚さ(絶縁内層11bおよび絶縁外層11cの合計の厚さ)は、任意の厚さとできるが、0.1~0.5mm程度の厚さとしても十分に難燃性および絶縁性を確保できる。
【0062】
さらに、絶縁層における、絶縁内層11bの厚さTbと絶縁外層11cの厚さTcの比を、Tb:Tc=1:4~4:1とできる。
【0063】
なお、図1では、導体11aを被覆する絶縁層を絶縁内層11bと絶縁外層11cとの2層構造としたが、3層以上の構造としてもよく、また、単層としてもよい。いずれの場合においても、最外層として前述したノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いることで、ノンハロゲン絶縁電線の特性を向上させることができる。
【0064】
本実施の形態の絶縁電線11は、例えば、以下のように製造される。まず、絶縁内層11bおよび絶縁外層11cを形成するための樹脂組成物を用意する。本実施の形態では、その特徴である樹脂組成物として、例えば、ベースポリマとなるPBT樹脂を含む結晶性ポリマと、リン系化合物と、エチレングリシジルメタクリレート共重合体と、無機多孔質充填剤と、耐加水分解性改良剤と、を含む材料を溶融混練し、本実施の形態の樹脂組成物を得る。
【0065】
その後、導体11aを準備する。そして、押出成形機により、導体11aの周囲を被覆するように樹脂組成物を押し出して、絶縁内層11bを形成し、次いで、絶縁内層11bの周囲を被覆するように本実施の形態の樹脂組成物を押出して、絶縁外層11cを形成する。さらに、必要に応じて樹脂組成物を架橋処理することで、絶縁電線11を製造することができる。
【0066】
<ケーブル>
次に、一実施の形態であるケーブルについて図2を用いて説明する。図2は、本実施の形態のケーブルの構成例を示す断面図である。
【0067】
図2に示すように、本実施の形態に係るケーブル12は、撚り合わせた2本の絶縁電線11(撚り合わせコア、図1参照)と、撚り合わせコアの外側に設けられたセパレータ12bと、このセパレータを覆うように設けられたシールド編組12cと、シールド編組12cを覆う、シース(外被層、被覆層)12dとを有する。シース12dとしては、前述したノンハロゲン難燃樹脂組成物を用いることで、ノンハロゲンケーブルの特性を向上させることができる。
【0068】
なお、絶縁電線11を1本としてもよく、また、3本以上としてもよい。セパレータ12bの材質は特に限定されず、シールド編組12cの外側に設けてもよい。シールド編組12cは、シールド効果を発揮させるため、金属材料に代表される導体材料から構成される。
【0069】
このような絶縁電線およびケーブルの用途に制限はないが、例えば、鉄道車両用の絶縁電線またはケーブルとして用いることができる。
【0070】
本実施の形態のケーブル12は、例えば、以下のように製造される。まず、上述した方法により、絶縁電線11を2本製造する。その後、2本の絶縁電線11をスフ糸、紙テープ、ジュート等の介在と共に撚り合わせ、その後、これを被覆するように、セパレータ12b、シールド編組12cの順に公知の手法により形成する。さらに、このようにして得られたシールド編組12cの外周に、上記電線の製造方法と同様に本実施の形態の樹脂組成物を押出して、所定厚さのシース12dを形成する。こうすることで、本実施の形態のケーブル12を製造することができる。
【0071】
また、上記では本実施の形態のケーブル12において、上述の絶縁電線11を使用した場合を例に説明したが、これに限定されず、汎用の材料を絶縁層に用いた絶縁電線を使用することもできる。
【実施例0072】
以下に、本実施の形態のノンハロゲン難燃樹脂組成物および絶縁電線について、実施例および比較例を参照しながら、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1~4、比較例1~2]
(樹脂組成物の製造)
絶縁外層を形成する樹脂組成物として、表1~2に示す比率にて各成分をブレンドし、30mm二軸押出機を用いて、シリンダ温度設定260℃、スクリュ回転数250rpm、吐出量40kg/hrs、において溶融混練してストランドに押出した後、ストランドカッターによりペレット化し、実施例1~4、比較例1~2のポリブチレンテレフタレート樹脂をベースポリマとする樹脂組成物ペレットを得た。
【0074】
また絶縁内層を形成する樹脂組成物として、表1に示した各成分を14インチオーブンロールにて混練し、角型ペレットに成形し、樹脂組成物を得た。
【0075】
(電線製造)
上記樹脂組成物を用い、図1に示した絶縁電線11の構成となるように、以下のように絶縁電線を製造した。
【0076】
まず、導体として、構成50本/0.18mmの錫めっき導体を用いた。上記得られた各樹脂組成物のペレットを、二軸押出機(スクリュー径30mm、L/D:30)を用いて混練した。得られた混練樹脂を40mm押出機で2層押出を行い、絶縁電線の外径が2.2mmになるように被覆した。得られた絶縁電線を電子線にて照射し架橋を行った。表1~2には、樹脂組成物の配合内容の他、電線構造(絶縁層の厚さ)および特性の評価結果を併せて示している。
【0077】
[特性試験]
得られた絶縁電線の耐摩耗性について、摩耗試験として、UL法に準拠した方法で評価した。このとき、摩耗サイクルが200サイクル以上を◎(良)、100サイクル以上を〇(可)、100サイクル未満を×(不可)、として判定した。
【0078】
得られた絶縁電線の耐発煙性について、発煙性試験として、JISC0081に準拠したフレーミング法にて評価した。このとき、発煙密度が130以下であれば◎(良)、210以下であれば〇(可)、200以上であれば×(不可)、として判定した。
【0079】
上記試験方法において、総合評価としては、全ての評価において◎または〇のものを◎(良)とし、×が含まれるものを×(不可)とした。
【0080】
実施例1,2は、単層絶縁材料として、ポリブチレンテレフタレートPBT(三菱化学エンジニアリングプラスチック製、ノバディラン5026)をベースとした樹脂組成物であり、全ての評価において◎または〇であったため、総合評価として◎とした。
【0081】
実施例3,4は、絶縁外層として、ポリブチレンテレフタレートPBT(三菱化学エンジニアリングプラスチック製、ノバディラン5026)をベースとした樹脂組成物、絶縁内層として、高密度ポリエチレンをベースとした樹脂組成物、をそれぞれ用いたものであり、全ての評価において◎または〇であったため、総合評価として◎とした。
【0082】
比較例1は、単層絶縁材料として、ポリブチレンテレフタレートPBT(三菱化学エンジニアリングプラスチック製、ノバディラン5026)をベースとした樹脂組成物であり、摩耗試験および発煙性試験が×であったため、総合評価として×とした。
【0083】
比較例2は、絶縁外層として、ポリブチレンテレフタレートPBT(三菱化学エンジニアリングプラスチック製、ノバディラン5026)をベースとした樹脂組成物、絶縁内層として、高密度ポリエチレンをベースとした樹脂組成物、をそれぞれ用いたものであり、摩耗試験が×であったため、総合評価として×とした。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
(最適条件についての根拠)
ノンハロゲン難燃剤を処方した絶縁層を有する絶縁電線において、絶縁層を構成するベースポリマにPBT樹脂を用いて、エチレングリシジルメタクリレート共重合体を衝撃吸収剤として配合することで、耐摩耗特性および低発煙性を十分に向上できることがわかった。また、それに加え、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を高充填させたポリオレフィン材料を用いて絶縁内層を構成すると、さらなる発煙特性の向上を図ることができることがわかった。
【符号の説明】
【0087】
11 絶縁電線
11a 導体
11b 絶縁内層
11c 絶縁外層
12 ケーブル
12b セパレータ
12c シールド編組
12d シース
図1
図2