(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176396
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】成膜装置、制御方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20241212BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241212BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20241212BHJP
【FI】
C23C14/24 G
C23C14/24 C
H10K50/10
H10K71/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094898
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 良秋
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
(72)【発明者】
【氏名】杉本 美悠
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG28
3K107GG32
3K107GG33
3K107GG34
3K107GG43
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BD01
4K029CA01
4K029DA12
4K029DA13
4K029DB06
4K029DB14
4K029DB23
4K029HA04
4K029JA06
4K029KA01
4K029KA09
(57)【要約】
【課題】複数層の成膜を効率的に行える技術を提供する。
【解決手段】所定方向に配列され、基板に蒸着物質を放出する複数の蒸着源、及び、前記基板に対して前記複数の蒸着源を開閉する複数のシャッタ、を有する蒸着手段と、成膜時に、前記基板と前記蒸着手段とを前記所定方向に相対的に移動する移動手段と、前記複数のシャッタの開閉を制御する制御手段と、を備えた成膜装置であって、前記複数の蒸着源は、放出する蒸着物質の種類が互いに異なる複数の蒸着源を含み、前記制御手段は、前記基板に積層される蒸着物質の種類とその積層順序とに基づいて、成膜時における各シャッタの開閉を制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に配列され、基板に蒸着物質を放出する複数の蒸着源、及び、前記基板に対して前記複数の蒸着源を開閉する複数のシャッタ、を有する蒸着手段と、
成膜時に、前記基板と前記蒸着手段とを前記所定方向に相対的に移動する移動手段と、
前記複数のシャッタの開閉を制御する制御手段と、
を備えた成膜装置であって、
前記複数の蒸着源は、放出する蒸着物質の種類が互いに異なる複数の蒸着源を含み、
前記制御手段は、前記基板に積層される蒸着物質の種類とその積層順序とに基づいて、成膜時における各シャッタの開閉を制御する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記移動手段は、前記基板と前記蒸着手段とを前記所定方向の第一の方向と反対の第二の方向とに相対的に移動可能であり、
前記制御手段は、前記基板に積層される蒸着物質の種類とその積層順序と、前記基板と前記蒸着手段との相対移動方向が前記第一の方向か前記第二の方向かとに基づいて、成膜時における各シャッタの開閉を制御する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記制御手段は、
前記基板に積層される種類の蒸着物質が、前記基板に対する前記蒸着手段の相対移動方向の先頭側から、前記積層順序で放出されるように、成膜時における各シャッタの開閉を制御する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記複数の蒸着源は、前記所定方向に配列された、
第一の蒸着物質を放出する第一の蒸着源と、
第二の蒸着物質を放出する第二の蒸着源と、
前記第二の蒸着源と放出領域が重なるように第三の蒸着物質を放出する第三の蒸着源と、
前記第一の蒸着物質を放出する第四の蒸着源と、を備える、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成膜装置であって、
前記制御手段は、成膜時において、前記基板に対して前記第一乃至第四の蒸着源を開放するように各シャッタの開閉を制御する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項4に記載の成膜装置であって、
前記制御手段は、成膜時において、前記基板に対して前記第一の蒸着源を閉鎖し、前記第二乃至第四の蒸着源を開放するように各シャッタの開閉を制御する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
請求項4に記載の成膜装置であって、
前記制御手段は、成膜時において、前記基板に対して前記第四の蒸着源を閉鎖し、前記第一乃至第三の蒸着源を開放するように各シャッタの開閉を制御する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項4に記載の成膜装置であって、
前記制御手段は、成膜時において、前記基板に対して前記第一及び第四の蒸着源を閉鎖し、前記第三及び第四の蒸着源を開放するように各シャッタの開閉を制御する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記蒸着源毎に前記シャッタが設けられている、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
請求項1に記載の成膜装置であって、
前記複数のシャッタは、回動式のシャッタと、スライド式のシャッタとを含む、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
請求項4に記載の成膜装置であって、
前記複数のシャッタは、
前記基板に対して前記第一の蒸着源を開閉する第一のシャッタと、
前記基板に対して前記第二の蒸着源を開閉する第二のシャッタと、
前記基板に対して前記第三の蒸着源を開閉する第三のシャッタと、
前記基板に対して前記第四の蒸着源を開閉する第四のシャッタと、を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
請求項11に記載の成膜装置であって、
前記第二のシャッタ及び前記第三のシャッタは、回動式のシャッタであり、
前記第一のシャッタ及び前記第四のシャッタは、スライド式のシャッタである、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項13】
請求項11に記載の成膜装置であって、
前記第一乃至第四のシャッタは、いずれも回転式のシャッタである、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項14】
所定方向に配列され、基板に蒸着物質を放出する複数の蒸着源、及び、前記基板に対して前記複数の蒸着源を開閉する複数のシャッタ、を有する蒸着手段と、成膜時に、前記基板と前記蒸着手段とを前記所定方向に相対的に移動する移動手段と、を備えた成膜装置の制御方法であって、
前記複数の蒸着源は、放出する蒸着物質の種類が互いに異なる複数の蒸着源を含み、
前記制御方法は、前記基板に積層される蒸着物質の種類とその積層順序とに基づいて、成膜時における各シャッタの開閉を制御する工程を備える、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項15】
請求項1に記載の成膜装置によって基板に成膜する成膜工程を含む、
ことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板の成膜技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造においては、蒸発源から放出された蒸着物質が基板に付着することで基板に膜が形成される。特許文献1には、基板と複数の蒸発源とを相対的に移動して基板に膜を成膜する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数層の膜を基板に成膜する場合、作業の効率化が求められる。膜単位で成膜室を構成する場合、基板を各成膜室に順番に搬送する必要があり、時間がかかる。また、膜単位で基板と蒸着源との相対的な移動を繰り返す構成では、膜の積層数に応じて移動回数が増えるため、やはり時間がかかる。積層される膜の種類や積層順序が異なる場合もあり、多様な成膜に対応できることが望ましい。
【0005】
本発明は、複数層の成膜を効率的に行える技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
所定方向に配列され、基板に蒸着物質を放出する複数の蒸着源、及び、前記基板に対して前記複数の蒸着源を開閉する複数のシャッタ、を有する蒸着手段と、
成膜時に、前記基板と前記蒸着手段とを前記所定方向に相対的に移動する移動手段と、
前記複数のシャッタの開閉を制御する制御手段と、
を備えた成膜装置であって、
前記複数の蒸着源は、放出する蒸着物質の種類が互いに異なる複数の蒸着源を含み、
前記制御手段は、前記基板に積層される蒸着物質の種類とその積層順序とに基づいて、成膜時における各シャッタの開閉を制御する、
ことを特徴とする成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、複数層の成膜を効率的に行える技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明の一実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す平面図。
【
図5】シャッタの開閉による蒸着物質の放出態様の例を示す図。
【
図6】成膜時における蒸着ユニットの移動の例を示す図。
【
図7】成膜時における蒸着ユニットの移動の例を示す図。
【
図8】(A)は目標積層構造の例を示す図、(B)はシャッタの制御例を示す図、(C)は
図8(B)のP1部の拡大図。
【
図9】(A)はシャッタの制御例を示す図、(B)は
図9(A)のP2部の拡大図。
【
図10】(A)は目標積層構造の例を示す図、(B)はシャッタの制御例を示す図、(C)は
図10(B)のP3部の拡大図。
【
図11】(A)はシャッタの制御例を示す図、(B)は
図11(A)のP4部の拡大図。
【
図12】(A)は目標積層構造の例を示す図、(B)はシャッタの制御例を示す図、(C)は
図12(B)のP5部の拡大図。
【
図13】(A)はシャッタの制御例を示す図、(B)は
図13(A)のP6部の拡大図。
【
図14】成膜時における蒸着ユニットの別の移動の例を示す図。
【
図15】成膜時における蒸着ユニットの別の移動の例を示す図。
【
図16】別の実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す平面図。
【
図18】成膜時における蒸着ユニットの移動の例を示す図。
【
図19】成膜時における蒸着ユニットの移動の例を示す図。
【
図20】(A)は目標積層構造の例を示す図、(B)はシャッタの制御例を示す図、(C)は
図20(B)のP11部の拡大図。
【
図21】(A)はシャッタの制御例を示す図、(B)は
図21(A)のP12部の拡大図。
【
図22】(A)はシャッタの制御例を示す図、(B)は
図22(A)のP13部の拡大図。
【
図23】(A)はシャッタの制御例を示す図、(B)は
図23(A)のP14部の拡大図。
【
図24】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
<成膜システムの概要>
図1は、成膜システムSYの構成を模式的に示す平面図である。成膜システムSYは、搬入されてくる矩形の基板100に対して、本発明の一実施形態に係る成膜装置1で成膜処理を行い、処理後の基板を搬出するシステムである。例えば、成膜システムSYが1つ、又は、複数並んで設けられることで電子デバイスの製造ラインが構成される。電子デバイスとしては、例えばスマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルが挙げられる。成膜システムSYは、成膜装置1、搬入室60、基板搬送室62、搬出室64及びマスクストック室66を含む。成膜装置1は二つ設けられている。
【0011】
搬入室60には、成膜装置1において成膜が行われる基板100が搬入される。基板搬送室62には、基板100を搬送する搬送ロボット620が設けられる。搬送ロボット620は、搬入室60に搬入された基板100を成膜装置1に搬送する。また、搬送ロボット620は、成膜装置1において成膜処理が終了した基板100を搬出室64に搬送する。搬送ロボット620により搬出室64に搬送された基板100は、搬出室64から成膜システムSYの外部に搬出される。マスクストック室66には、成膜装置1での成膜に用いられるマスク101がストックされる。マスクストック室66にストックされるマスク101は、搬送ロボット620により成膜装置1に搬送される。
【0012】
成膜システムSYを構成する成膜装置1及び各室の内部は、真空ポンプ等の排気機構により真空状態に維持される。なお、本実施形態において「真空」とは、大気圧より低い圧力の気体で満たされた状態、換言すれば減圧状態をいう。
【0013】
成膜システムSYの制御系は、ホストコンピュータとしてシステム全体を制御する上位装置200と、成膜装置1を制御する制御ユニット43と、基板搬送室62(搬送ロボット620等)を制御する制御ユニット201とを含み、これらは有線又は無線の通信回線を介して通信可能である。上位装置200は、基板100に関する情報や搬送タイミング等の指示を各制御ユニット43、201に送信し、各制御ユニット43、201は受信した指示に基づき各構成を制御する。
【0014】
制御ユニット43は、成膜装置1の全体を制御する電子回路である。制御ユニット43は、例えば、処理部、記憶部、入出力インタフェース(I/O)、通信部を備える。処理部は、CPUに代表されるプロセッサであり、記憶部に記憶されたプログラムを実行して成膜装置1を制御する。記憶部は、ROM、RAM、HDD等の記憶デバイスであり、処理部が実行するプログラムの他、各種の制御情報を記憶する。入出力インタフェースは、処理部と外部デバイス(モータ等のアクチュエータやセンサ)との間の信号を送受信するインタフェースである。通信部は通信回線を介して上位装置200や他の制御ユニット201等と通信を行う通信デバイスである。制御ユニット201も制御ユニット43と同様の構成の電子回路である。
【0015】
<成膜装置>
図2は、成膜装置1の構成を模式的に示す平面図である。
図3は、
図2の成膜装置1の正面図である。なお、
図2において、成膜ステージ30A及び30Bはその図示が省略されている。以下の図において矢印X及びYは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは上下方向(鉛直方向)を示す。
【0016】
成膜装置1は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置などの表示装置(フラットパネルディスプレイ等が含まれる)、薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイス、光学部材等を製造する製造装置に適用可能であり、特に、有機ELパネルを製造する製造装置に適用可能である。成膜装置1で蒸着が行われる基板100の材質としては、ガラス、樹脂、金属等を適宜選択可能であり、ガラス上にポリイミド等の樹脂層が形成されたものが好適に用いられる。蒸着物質としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などが用いられる。
【0017】
成膜装置1は、蒸着ユニット10と、移動ユニット22及び24と、複数の成膜ステージ30A及び30Bと、を備える。蒸着ユニット10、移動ユニット22及び24、及び、成膜ステージ30A及び30Bは、真空に維持されるチャンバ45の内部に配置される。本実施形態では、複数の成膜ステージ30A及び30Bがチャンバ45内の上部にY方向に離間して設けられており、その下方に蒸着ユニット10及び移動ユニット22及び24が設けられている。また、チャンバ45には、搬送ロボット620によってX方向に基板100の搬入、搬出を行うための複数の基板搬入出口44A及び44Bが設けられている。
【0018】
(成膜ステージ)
成膜ステージ30A及び30Bは、成膜対象である基板100と、マスク101とを支持するとともにこれらの位置調整を行うステージである。以下の説明では便宜的に、成膜ステージ30Aに支持される基板100及びマスク101を基板100A、マスク101Aと表記し、成膜ステージ30Bに支持される基板100及びマスク101を基板100B、マスク101Bと表記する。
【0019】
成膜ステージ30Aは、基板支持部32Aと、マスク支持部34Aと、支柱35Aと、アライメント機構36Aとを含む。
【0020】
基板支持部32Aは、搬送ロボット620により搬入される基板100Aを支持する。本実施形態では、基板支持部32Aは、基板100Aの短辺がY方向、基板100Aの長辺がX向に延びるように基板100Aを支持する。本実施形態の場合、基板支持部32Aは、基板100Aの縁を基板100Aの下側から支持する爪状の載置部を有する。しかしながら、基板支持部32Aは、基板100Aの縁を挟持することで基板を支持してもよいし、静電チャック又は粘着チャック等によって基板100Aを吸着することで基板100Aを支持してもよい。
【0021】
基板支持部32Aは、アライメント機構36Aが備える昇降機構により昇降可能であり、搬送ロボット620から受け取った基板100Aをマスク支持部34Aに支持されたマスク101Aの上に重ね合わせることができる。昇降機構には、ボールねじ機構等の公知の技術を用いることができる。
【0022】
マスク支持部34Aは、マスク101Aを支持する。マスク支持部34Aは、支柱35Aによってチャンバ45に支持される。マスク101Aやマスク支持部34Aには、基板100Aをマスク101Aの上に重ね合わせる際に基板支持部32Aとの干渉を回避する切り欠き部(不図示)が形成されている。
【0023】
アライメント機構36Aは、基板100Aとマスク101Aとのアライメントを行う。アライメント機構36Aは、基板支持部32Aとマスク支持部34Aの水平方向の相対位置を調整することで、基板支持部32Aに支持された基板100Aとマスク支持部32に支持されたマスク101Aとのアライメントを行う。
【0024】
アライメント機構36Aの具体的な構造例について公知の技術を用いることができるため、詳細な説明は省略する。一例として、アライメント機構36Aは、不図示のカメラにより基板100A及びマスク101Aに形成されたアライメント用のマークを検知する。そして、アライメント機構36Aは、基板100Aに形成されたマークにより算出される基板100Aの位置と、マスク101Aに形成されたマークにより算出されるマスク101Aの位置の関係が所定の条件を満たすように、基板100A及びマスク101Aの位置関係を調整する。
【0025】
アライメント機構36Aによるアライメントが終了すると、基板支持部32Aは支持している基板100Aをマスク101Aの上に重ね合わせる。基板100A及びマスク101Aが重ね合わせられた状態で、蒸着ユニット10による基板100Aに対する成膜が行われる。
【0026】
成膜ステージ30Bは、成膜ステージ30Aと同様の構成を有する。すなわち、成膜ステージ30Bは、基板支持部32B、マスク支持部34B、支柱35B及びアライメント機構36Bを有し、これらは基板支持部32A、マスク支持部34A、支柱35A及びアライメント機構36Aと同様の構成である。
【0027】
本実施形態の成膜装置1は、複数の成膜ステージ30A及び30Bを有するいわゆるデュアルステージ式の成膜装置である。例えば、成膜ステージ30Aにおいて基板100Aに対して蒸着が行われている間に、成膜ステージ30Bにおいて基板100B及びマスク101Bのアライメントを行うことができ、成膜プロセスを効率的に実行することができる。
【0028】
(蒸着ユニット)
次に、蒸着ユニット10について説明する。
図4は、蒸着ユニット10の構成を説明するための図であって、蒸着ユニット10を横(Y方向)から見た模式図である。蒸着ユニット10は、移動しながら蒸着物質を放出して基板100に成膜を行う。蒸着ユニット10は、上方が開放されたケース14に区画して収容された複数の蒸着源(蒸発源)11A~11Dを備えている。複数の蒸着源11A~11Dは所定方向(X方向)に配列されている。各蒸着源11A~11Dは、蒸着物質(蒸発物質)を収容する収容部や、収容部内の蒸着物質を加熱するヒータ等を含む。
【0029】
各蒸着源11A~11Dは、Y方向に配列された複数の放出口11aを有するラインソースであり、放出口11aから上方へ蒸着物質を放出する。各蒸着源11A~11Dの蒸着物質の放出領域は、基板100の幅相当の範囲をカバーしている。
【0030】
本実施形態の場合、蒸着ユニット10は4つの蒸着源11A~11Dを備えている。しかし、蒸着源の数は5以上でもよく、3以下であってもよい。4つの蒸着源11A~11Dは、放出する蒸着物質の種類が互いに異なる複数の蒸着源を含む。4つの蒸着源11A~11Dが放出する蒸着物質の種類を、物質MA、MB、MC、MDと表記する。本実施形態の場合、蒸着ユニット10を有機材料用蒸発源として使用する場合を想定する。一例として、本実施形態では、物質MA~MCは互いに異なる種類の蒸着物質であり、物質MAと物質MDとは同じ種類の蒸着物質である。より具体的に述べれば、物質MAおよび物質MDは同一材料のホスト材、物質MB、物質MCは、共蒸着材料(例えば物質MB:ホスト材料、物質MC:ドーパント材料)である。なお、蒸着ユニット10を無機材料用蒸発源として使用することも可能である。
【0031】
蒸着ユニット10は、通路形成部材13を備える。通路形成部材13は、各蒸着源11A~11Dから放出される蒸着物質が基板100に到達する通路を形成する部材であり、基板100に対する各蒸着源11A~11Dの蒸着物質の放出領域を規制する規制部材であると共に、蒸着物質がチャンバ45の壁面に付着することを防止する防着部材である。本実施形態の場合、通路形成部材13は、3つの通路13a~13cを形成する。
【0032】
通路13aは、蒸着源11Aから放出される蒸着物質が基板100に到達する通路であり、他の蒸着源11B~11Dと蒸着物質が混ざらないように形成される。通路13bは、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質が基板100に到達する通路であり、他の蒸着源11A及び11Dと蒸着物質が混ざらないように形成される。本実施形態の場合、蒸着源11B及び11Cの各蒸着物質の放出領域が重なるよう、これらで通路13bを共用し、これらの蒸着源から放出される蒸着物質(MB、MC)は混合して基板100に到達することになる。しかし、これらに個別の通路を設ける構成も採用可能である。通路13cは、蒸着源11Dから放出される蒸着物質が基板100に到達する通路であり、他の蒸着源11A~11Cと蒸着物質が混ざらないように形成される。
【0033】
蒸着ユニット10は、複数のシャッタ12A~12Dを備えている。シャッタ12A~12Dは基板100に対して蒸着源11A~11Dを開閉する。本実施形態の場合、蒸着源毎にシャッタが設けられている。蒸着源11Aにはシャッタ12Aが設けられている。蒸着源11Bにはシャッタ12Bが設けられている。蒸着源11Cにはシャッタ12Cが設けられている。蒸着源11Dにはシャッタ12Dが設けられている。
【0034】
シャッタ12Aは、モータ12aを駆動源として開閉され、開放状態では蒸着源11Aから放出される蒸着物質が基板100に到達することを許容し、閉鎖状態では蒸着源11Aから放出される蒸着物質が基板100に到達することを規制する。
図4は開放状態を示している。シャッタ12Aはスライド式のシャッタであり、D1方向(X方向)に平行移動する。
【0035】
シャッタ12Bは、モータ12bを駆動源として開閉され、開放状態では蒸着源11Bから放出される蒸着物質が基板100に到達することを許容し、閉鎖状態では蒸着源11Bから放出される蒸着物質が基板100に到達することを規制する。
図4は開放状態を示している。シャッタ12Bは回動式のシャッタであり、D2方向(Y方向の軸の周方向)に回動する。
【0036】
シャッタ12Cは、モータ12cを駆動源として開閉され、開放状態では蒸着源11Cから放出される蒸着物質が基板100に到達することを許容し、閉鎖状態では蒸着源11Cから放出される蒸着物質が基板100に到達することを規制する。
図4は開放状態を示している。シャッタ12Cは回動式のシャッタであり、D3方向(Y方向の軸の周方向)に回動する。
【0037】
シャッタ12Dは、モータ12dを駆動源として開閉され、開放状態では蒸着源11Dから放出される蒸着物質が基板100に到達することを許容し、閉鎖状態では蒸着源11Dから放出される蒸着物質が基板100に到達することを規制する。
図4は開放状態を示している。シャッタ12Dはスライド式のシャッタであり、D4方向(X方向)に平行移動する。
【0038】
本実施形態では、蒸着源毎にシャッタを設けたので、蒸着源毎に蒸着物質の基板100への到達と遮断とを制御できる。しかし、例えば、本実施形態では蒸着源11Bと蒸着源11Cとでは、それらの蒸着物質を混合して基板100に蒸着することを予定しているため、個別ではなく共通の1つのシャッタを設けてもよい。
【0039】
また、本実施形態では、駆動方式の異なるシャッタを設けており、シャッタ12A及び12Dはスライド式、シャッタ12B及び12Cは回動式である。シャッタ12A~12Dには蒸着物質が付着する。開閉動作において、スライド式のシャッタは回動式のシャッタよりも、付着した蒸着物質が落下する可能性が低い。開閉頻度が多いシャッタについてはスライド式のシャッタが有利である。例えば、本実施形態では、シャッタ12A及び12Dにおいて開閉頻度が多いことを想定して、これらがスライド式のシャッタとされている。
【0040】
尤も、シャッタ12A~12Dの全てを回動式のシャッタとしてもよく、或いは、シャッタ12A~12Dの全てをスライド式のシャッタとしてもよい。
【0041】
図5は、シャッタ12A~12Dの開閉による蒸着物質の放出態様の例を示している。状態ST1はシャッタ12A~12Dを全て開放した状態を示している。基板100には、蒸着源11A及び11Dから放出される蒸着物質MA、MDが蒸着し、また、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCの混合物が蒸着する。状態ST2はシャッタ12A~12Dを全て閉鎖した状態を示している。基板100には蒸着物質が到達しない。
【0042】
状態ST3はシャッタ12B~12Dを開放し、シャッタ12Aを閉鎖した状態を示している。基板100には、蒸着源11Dから放出される蒸着物質MDが蒸着し、また、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCの混合物が蒸着する。状態ST4はシャッタ12A~12Cを開放し、シャッタ12Dを閉鎖した状態を示している。基板100には、蒸着源11Aから放出される蒸着物質MAが蒸着し、また、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCの混合物が蒸着する。
【0043】
状態ST5はシャッタ12B及び12Cを開放し、シャッタ12A及び12Bを閉鎖した状態を示している。基板100には、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCの混合物が蒸着する。状態ST6はシャッタ12A、12B及び12Dを開放し、シャッタ12Cを閉鎖した状態を示している。基板100には、蒸着源11A及び11Dから放出される蒸着物質MA、MDが蒸着し、また、蒸着源11Bから放出される蒸着物質MBが蒸着する。
【0044】
(移動ユニット)
再び
図2及び
図3を参照する。成膜装置1は、成膜時に基板100に対して蒸着ユニット10をX方向に移動する移動ユニット22を備える。また、成膜装置1は、蒸着ユニット10及び移動ユニット22を成膜ステージ30Aと30Bとの間でY方向に移動する移動ユニット24を備える。
【0045】
移動ユニット22は、蒸着ユニット10に設けられる構成要素として、モータ221と、モータ221により回転する軸部材に取り付けられたピニオン222と、ガイド部材223とを含む。また、移動ユニット22は、枠部材224と、枠部材224の上面に形成され、ピニオン222と噛み合うラック225と、ガイド部材223が摺動するガイドレール226とを含む。ラック225及びガイドレール226は、X方向に延設されている。ガイド部材223はガイドレール226と係合し、ガイドレール226上をX方向にスライドする。蒸着ユニット10は、モータ221の駆動により回転するピニオン222が、ラック225と噛み合うことで、ガイドレール226に沿ってX方向に往復することができる。蒸着ユニット10の移動範囲は、基板100の全長をカバーする。
【0046】
移動ユニット24は、Y方向に延び、X方向に離間する2つの支持部材241A及び241Bを含む。2つの支持部材241A及び241Bは、移動ユニット22の枠部材224の短辺を支持している。移動ユニット24は、不図示のモータ及びラック・アンド・ピニオン機構等の駆動機構を含み、2つの支持部材241A及び241Bに対して枠部材224をY方向に移動させることにより、蒸着ユニット10及び移動ユニット22をY方向に往復させる。
【0047】
<成膜動作>
制御ユニット43が実行する成膜装置1の制御例について説明する。
図6及び
図7は成膜時における蒸着ユニット10の移動の例を示す図である。各図において、矢印X1とX2とは、X方向のうちの一方方向と反対方向とを示し、矢印Y1とY2とは、Y方向のうちの一方方向と反対方向とを示している。
【0048】
図6の状態ST11は、蒸着ユニット10が初期位置に位置している状態を示す。初期位置に蒸着ユニット10は、平面視で成膜ステージ30Aに支持された基板100AとX方向に並ぶように位置している。
【0049】
基板100Aに対する成膜を開始する。閉鎖状態とされているシャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST12に示すようにX1方向に移動する。基板100Aに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Aに放出されることで、基板100Aに蒸着物質が成膜される。
【0050】
次に、シャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST13に示すようにX2方向に移動する。基板100Aに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Aに放出されることで、基板100Aに蒸着物質が成膜される。移動後、シャッタ12A~12Dは全て閉鎖状態とされる。
【0051】
このように本実施形態では、基板100Aに対して蒸着ユニット10をX方向に往復させることで、基板100Aに2回の成膜が可能である。
【0052】
次に、成膜ステージ30Bに支持された基板100Bの成膜動作に移行する。状態ST14に示すように、移動ユニット24によって蒸着ユニット10及び移動ユニット22をY1方向に移動する。蒸着ユニット10は、平面視で成膜ステージ30Bに支持された基板100BとX方向に並ぶ位置まで移動される。
【0053】
基板100Bに対する成膜を開始する。閉鎖状態とされているシャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST15に示すようにX1方向に移動する。基板100Bに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Bに放出されることで、基板100Bに蒸着物質が成膜される。また、並行して、成膜ステージ30Aでは成膜済みの基板100Aを2枚目の基板100Aと入れ替える作業を行うことができる。
【0054】
次に、シャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST16に示すようにX2方向に移動する。基板100Bに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Bに放出されることで、基板100Bに蒸着物質が成膜される。移動後、シャッタ12A~12Dは全て閉鎖状態とされる。
【0055】
このように本実施形態では、基板100Bに対して蒸着ユニット10をX方向に往復させることで、基板100Bにも2回の成膜が可能である。
【0056】
次に、成膜ステージ30Aに支持された基板100Aの成膜動作に移行する。状態ST17に示すように、移動ユニット24によって蒸着ユニット10及び移動ユニット22をY2方向に移動する。蒸着ユニット10は、初期位置に戻る。
【0057】
2枚目の基板100Aに対する成膜を開始する。閉鎖状態とされているシャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST18に示すようにX1方向に移動する。基板100Aに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Aに放出されることで、基板100Aに蒸着物質が成膜される。また、並行して、成膜ステージ30Bでは成膜済みの基板100Bを2枚目の基板100Bと入れ替える作業を行うことができる。
【0058】
状態ST18は状態ST12と同じ状態である。以降、同様の手順で成膜ステージ30Aと成膜ステージ30Bとで交互に基板100が成膜されていくことになる。
【0059】
(シャッタの開閉制御と成膜例)
シャッタ12A~12Dの開閉制御と基板100の成膜例について説明する。制御ユニット43は、基板100に積層される蒸着物質の種類とその積層順序とに基づいて、成膜時における各シャッタ12A~12Dの開閉を制御する。また、
図6及び
図7に例示したように、基板100に対して蒸着ユニット10をX方向に往復させることで、基板100に2回の成膜を行う場合、蒸着ユニット10の移動方向(X1方向かX2方向か)にも基づいて、成膜時における各シャッタ12A~12Dの開閉を制御する。
【0060】
図8(A)~
図9(B)を参照して制御例について説明する。
図8(A)は、基板100に対する成膜制御の目標積層構造を例示している。この目標積層構造の情報は、例えば、上位装置200から制御ユニット43に対して指示され、制御ユニット43はこの情報に基づいてシャッタ12A~12Dの開閉制御を行う。
図8(A)の目標積層構造の積層順序は、基板100の側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜、蒸着物質MAの膜という順序である。
【0061】
図6の状態ST11~ST13で説明した基板100Aに対する成膜動作を例にして、
図8(A)の成膜を実行する場合について説明する。
図8(A)の目標積層構造は、成膜材料で分類すると5層構造であるが(蒸着物質MAが2層連続している箇所がある。)、成膜回数で分類すれば6層構造である。ここでは、状態ST12の1回目の成膜で3層分を成膜し、状態ST13の2回目の成膜で3層分を成膜する。
【0062】
状態ST11の初期位置において、制御ユニット43はシャッタ12A~12Dの開閉をセットする。1回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はX1方向である。したがって、基板100Aに対する相対移動方向(X1方向)で先頭側となるのは蒸着源11Aの側である。状態ST12の1回目の成膜では、基板100Aの側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜、蒸着物質MAの膜が成膜できればよい。したがって、基板100Aに対して、蒸着源11Aから放出される蒸着物質MA、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMC、蒸着源11Dから放出される蒸着物質MD(本実施形態では蒸着物質MA)が、この順番で基板100Aに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12A~12Dは全て開放状態にセットされる。
【0063】
図8(B)は状態ST12の1回目の成膜途中の状態を示し、
図8(C)は
図8(B)のP1部の拡大図である。シャッタ12A~12Dは全て開放状態にセットされて蒸着ユニット10がX1方向に移動する。蒸着源11Aが移動方向の先頭に位置しているので、基板100Aには最初に蒸着物質MAの膜が成膜され、その上に、蒸着源11B及び11Cからの蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜される。更にその上に、移動方向で最も後方に位置している蒸着源11Dからの蒸着物質MD(MA)の膜が成膜される。こうして、基板100Aには最初の3層分の膜が成膜される。
【0064】
次に、状態ST13の2回目の成膜に移行する。2回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はX2方向である。したがって、基板100Aに対する相対移動方向(X2方向)で先頭側となるのは蒸着源11Dの側である。2回目の成膜では、基板100Aの側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜、蒸着物質MAの膜が成膜できればよい。したがって、基板100Aに対して、蒸着源11Dから放出される蒸着物質MD(MA)、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMC、蒸着源11Aから放出される蒸着物質MAが、この順番で基板100Aに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12A~12Dは全て開放状態にセットされる。
【0065】
図9(A)は状態ST13の2回目の成膜途中の状態を示し、
図9(B)は
図9(A)のP2部の拡大図である。シャッタ12A~12Dは全て開放状態にセットされて蒸着ユニット10がX2方向に移動する。蒸着源11Dが移動方向の先頭に位置しているので、基板100Aには最初に蒸着物質MD(MA)の膜が成膜され、その上に、蒸着源11B及び11Cからの蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜される。更にその上に、移動方向で最も後方に位置している蒸着源11Aからの蒸着物質MAの膜が成膜される。こうして、基板100Aには残りの3層分の膜が成膜される。以上により、基板100Aの成膜が完了する。
【0066】
図10(A)~
図11(B)を参照して別の制御例について説明する。
図10(A)は、基板100に対する成膜制御の目標積層構造を例示しており、積層順序は、基板100の側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜という順序である。
【0067】
図6の状態ST11~ST13で説明した基板100Aに対する成膜動作を例にして、
図10(A)の成膜を実行する場合について説明する。
図10(A)の目標積層構造は、4層構造である。そこで、状態ST12の1回目の成膜で2層分を成膜し、状態ST13の2回目の成膜で2層分を成膜する。
【0068】
状態ST11の初期位置において、制御ユニット43はシャッタ12A~12Dの開閉をセットする。1回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はX1方向である。したがって、基板100Aに対する相対移動方向(X1方向)で先頭側となるのは蒸着源11Aの側である。状態ST12の1回目の成膜では、基板100Aの側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜できればよい。したがって、基板100Aに対して、蒸着源11Aから放出される蒸着物質MA、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCが、この順番で基板100Aに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12A~12Cが開放状態に、シャッタ12Dが閉鎖状態にセットされる。
【0069】
図10(B)は状態ST12の1回目の成膜途中の状態を示し、
図10(C)は
図10(B)のP3部の拡大図である。シャッタ12A~12Cが開放状態に、シャッタ12Dが閉鎖状態にセットされて蒸着ユニット10がX1方向に移動する。蒸着源11Aが移動方向の先頭に位置しているので、基板100Aには最初に蒸着物質MAの膜が成膜され、その上に、蒸着源11B及び11Cからの蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜される。こうして、基板100Aには最初の2層分の膜が成膜される。
【0070】
次に、状態ST13の2回目の成膜に移行する。2回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はX2方向である。したがって、基板100Aに対する相対移動方向(X2方向)で先頭側となるのは蒸着源11Dの側である。2回目の成膜では、基板100Aの側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜できればよい。したがって、基板100Aに対して、蒸着源11Dから放出される蒸着物質MD(MA)、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCが、この順番で基板100Aに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12B~12Dが開放状態に、シャッタ12Aが閉鎖状態にセットされる。
【0071】
図11(A)は状態ST13の2回目の成膜途中の状態を示し、
図11(B)は
図11(A)のP4部の拡大図である。シャッタ12B~12Dは開放状態に、シャッタ12Aは閉鎖状態にセットされて蒸着ユニット10がX2方向に移動する。蒸着源11Dが移動方向の先頭に位置しているので、基板100Aには最初に蒸着物質MD(MA)の膜が成膜され、その上に、蒸着源11B及び11Cからの蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜される。こうして、基板100Aには残りの2層分の膜が成膜される。以上により基板100Aの成膜が完了する。
【0072】
図12(A)~
図13(B)を参照して更に別の制御例について説明する。
図12(A)は、基板100に対する成膜制御の目標積層構造を例示しており、積層順序は、基板100の側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜という順序である。
【0073】
図6の状態ST11~ST13で説明した基板100Aに対する成膜動作を例にして、
図12(A)の成膜を実行する場合について説明する。
図12(A)の目標積層構造は、3層構造である。そこで、状態ST12の1回目の成膜で2層分を成膜し、状態ST13の2回目の成膜で1層分を成膜する。
【0074】
状態ST11の初期位置において、制御ユニット43はシャッタ12A~12Dの開閉をセットする。1回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はX1方向である。したがって、基板100Aに対する相対移動方向(X1方向)で先頭側となるのは蒸着源11Aの側である。状態ST12の1回目の成膜では、基板100Aの側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜できればよい。したがって、基板100Aに対して、蒸着源11Aから放出される蒸着物質MA、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCが、この順番で基板100Aに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12A~12Cが開放状態に、シャッタ12Dが閉鎖状態にセットされる。
【0075】
図12(B)は状態ST12の1回目の成膜途中の状態を示し、
図12(C)は
図12(B)のP5部の拡大図である。シャッタ12A~12Cが開放状態に、シャッタ12Dが閉鎖状態にセットされて蒸着ユニット10がX1方向に移動する。蒸着源11Aが移動方向の先頭に位置しているので、基板100Aには最初に蒸着物質MAの膜が成膜され、その上に、蒸着源11B及び11Cからの蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜される。こうして、基板100Aには最初の2層分の膜が成膜される。
【0076】
次に、状態ST13の2回目の成膜に移行する。2回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はX2方向である。したがって、基板100Aに対する相対移動方向(X2方向)で先頭側となるのは蒸着源11Dの側である。2回目の成膜では、蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜できればよい。したがって、基板100Aに対して、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCが基板100Aに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12B及び12Cが開放状態に、シャッタ12A及び12Dが閉鎖状態にセットされる。
【0077】
図13(A)は状態ST13の2回目の成膜途中の状態を示し、
図13(B)は
図13(A)のP6部の拡大図である。シャッタ12B及び12Cは開放状態に、シャッタ12A及び12Dは閉鎖状態にセットされて蒸着ユニット10がX2方向に移動する。基板100Aには蒸着源11B及び11Cからの蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜される。こうして、基板100Aには残りの1層分の膜が成膜される。以上により基板100Aの成膜が完了する。
【0078】
このように本実施形態では、シャッタ12A~12Dの開閉制御によって、1回の成膜動作で複数層の成膜を可能としつつ、目標とする膜の種類と積層順序に対応することができ、多様な成膜に対応できる。したがって、複数層の成膜を効率的に行うことができる。
【0079】
<第二実施形態>
成膜の際、基板100と蒸着ユニット10とは蒸着源11A~11Dの配列方向(X方向)に相対的に移動可能であればよい。第一実施形態では、成膜の際、基板100の位置を固定し、蒸着ユニット10をX方向に移動した。しかし、蒸着ユニット10の位置を固定し、基板100をX方向に移動してもよい。或いは、蒸着ユニット10と、基板100との双方を、X方向で互いに逆方向に移動してもよい。
【0080】
<第三実施形態>
第一実施形態では、基板100に対して蒸着ユニット10をX方向に往復することで、2回の成膜を行った。しかし、基板100に対して蒸着ユニット10をX1方向、又は、X2方向に移動して、1回の成膜を行ってもよい。
図14及び
図15は成膜時における蒸着ユニット10の移動の別の例を示す図である。
【0081】
図14の状態ST21は、蒸着ユニット10が初期位置に位置している状態を示す。基板100Aに対する成膜を開始する。閉鎖状態とされているシャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST22に示すようにX1方向に移動する。基板100Aに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Aに放出されることで、基板100Aに蒸着物質が成膜される。移動後、シャッタ12A~12Dは全て閉鎖状態とされる。基板100Aに対する成膜はこれで完了する。
【0082】
次に、成膜ステージ30Bに支持された基板100Bの成膜動作に移行する。状態ST23に示すように、移動ユニット24によって蒸着ユニット10及び移動ユニット22をY1方向に移動する。蒸着ユニット10は、平面視で成膜ステージ30Bに支持された基板100BとX方向に並ぶ位置まで移動される。
【0083】
基板100Bに対する成膜を開始する。閉鎖状態とされているシャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST24に示すようにX2方向に移動する。基板100Bに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Bに放出されることで、基板100Bに蒸着物質が成膜される。また、並行して、成膜ステージ30Aでは成膜済みの基板100Aを2枚目の基板100Aと入れ替える作業を行うことができる。移動後、シャッタ12A~12Dは全て閉鎖状態とされる。基板100Bに対する成膜はこれで完了する。
【0084】
次に、成膜ステージ30Aに支持された基板100Aの成膜動作に移行する。状態ST25に示すように、移動ユニット24によって蒸着ユニット10及び移動ユニット22をY2方向に移動する。蒸着ユニット10は、初期位置に戻る。
【0085】
次に、シャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST26に示すようにX1方向に移動する。基板100Aに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Aに放出されることで、基板100Aに蒸着物質が成膜される。また、並行して、成膜ステージ30Bでは成膜済みの基板100Bを2枚目の基板100Bと入れ替える作業を行うことができる。移動後、シャッタ12A~12Dは全て閉鎖状態とされる。
【0086】
状態ST26は状態ST22と同じ状態である。以降、同様の手順で成膜ステージ30Aと成膜ステージ30Bとで交互に基板100が成膜されていくことになる。
【0087】
<第四実施形態>
蒸着ユニット10が、成膜時に基板100A及び100Bを横断する方向に移動する構成であってもよい。
図16は、本実施形態における成膜装置1の構成を模式的に示す平面図であり、
図17は、
図16の成膜装置1の正面図である。以下、第一実施形態と実質的に同じ構成については同じ符号を付して説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0088】
本実施形態では、移動ユニット22によって蒸着ユニット10はY方向にのみ移動され、第一実施形態の移動ユニット24に相当する構成はない。
【0089】
蒸着ユニット10はX方向に延設されており、蒸着源11A~11DはY方向に配列されている。
図16及び
図17では図示を省略しているが、各蒸着源11A~11Dには第一実施形態で説明したシャッタ12A~12Dが設けられているが、その開閉方向に関し、シャッタ12Aとシャッタ12DはY方向に平行移動し、シャッタ12Bとシャッタ12CはX方向の軸の周方向に回動する。
【0090】
図16及び
図17は、蒸着ユニット10が初期位置に位置している状態を示している。本実施形態では、蒸着ユニット10の初期位置は、Y方向で成膜ステージ30Aと成膜ステージ30Bとの間の位置(基板100Aと基板100Bとの間の位置)である。
【0091】
<制御例>
図18及び
図19は成膜時における蒸着ユニット10の移動の例を示す図である。各図において、矢印Y11とY12とは、Y方向のうちの一方方向と反対方向とを示している。
【0092】
図18の状態ST31は、蒸着ユニット10が初期位置に位置している状態を示す。初期位置に蒸着ユニット10は、平面視で成膜ステージ30Aに支持された基板100Aと成膜ステージ30Bに支持された基板100Bとの間に、これらの基板と並ぶように位置している。
【0093】
基板100Bに対する成膜を開始する。閉鎖状態とされているシャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST32に示すようにY11方向に移動する。基板100Bに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Bに放出されることで、基板100Bに蒸着物質が成膜される。
【0094】
次に、シャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST33に示すようにY12方向に移動する。基板100Bに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Bに放出されることで、基板100Bに蒸着物質が成膜される。蒸着ユニット10が初期位置に戻ると、シャッタ12A~12Dは全て閉鎖状態とされる。
【0095】
このように本実施形態では、基板100Bに対して蒸着ユニット10をY方向に往復させることで、基板100Bに2回の成膜が可能である。
【0096】
次に、基板100Aに対する成膜を開始する。閉鎖状態とされているシャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST34に示すようにY12方向に移動する。基板100Aに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Aに放出されることで、基板100Aに蒸着物質が成膜される。
【0097】
次に、シャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST35に示すようにY11方向に移動する。基板100Aに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Aに放出されることで、基板100Aに蒸着物質が成膜される。また、並行して、成膜ステージ30Bでは成膜済みの基板100Bを2枚目の基板100Bと入れ替える作業を行うことができる。蒸着ユニット10が初期位置に戻ると、シャッタ12A~12Dは全て閉鎖状態とされる。
【0098】
このように本実施形態では、基板100Aに対して蒸着ユニット10をY方向に往復させることで、基板100Aにも2回の成膜が可能である。
【0099】
次に、2枚目の基板100Bに対する成膜を開始する。閉鎖状態とされているシャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST36に示すようにY11方向に移動する。基板100Bに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Bに放出されることで、基板100Bに蒸着物質が成膜される。
【0100】
次に、シャッタ12A~12Dの開閉状態を個別にセットした上で、移動ユニット22によって蒸着ユニット10を状態ST37に示すようにY12方向に移動する。基板100Bに対して蒸着ユニット10が相対的に移動しながら、蒸着物質が基板100Bに放出されることで、基板100Bに蒸着物質が成膜される。また、並行して、成膜ステージ30Aでは成膜済みの基板100Aを2枚目の基板100Aと入れ替える作業を行うことができる。蒸着ユニット10が初期位置に戻ると、シャッタ12A~12Dは全て閉鎖状態とされる。
【0101】
状態ST37は状態ST33と同じ状態である。以降、同様の手順で成膜ステージ30Bと成膜ステージ30Aとで交互に基板100が成膜されていくことになる。
【0102】
次に、シャッタ12A~12Dの開閉制御と基板100の成膜例について説明する。
図20(A)は、基板100に対する成膜制御の目標積層構造を例示している。
図20(A)の目標積層構造の積層順序は、基板100の側から順に、蒸着物質MAの膜、蒸着物質MB及びMCの混合膜という順序である。
【0103】
図18~
図19の状態ST31~ST33で説明した基板100Bに対する成膜動作及び状態ST34~ST35を例にして、
図20(A)の成膜を実行する場合について説明する。
図20(A)の目標積層構造は、2層構造である。そこで、1回目の成膜で1層分を成膜し、2回目の成膜で残り1層分を成膜する。
【0104】
まず、基板100Bの成膜を行う。状態ST31の初期位置において、制御ユニット43はシャッタ12A~12Dの開閉をセットする。基板100Bに対する1回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はY11方向である。したがって、基板100Bに対する相対移動方向(Y11方向)で先頭側となるのは蒸着源11Aの側である。状態ST32の1回目の成膜では、蒸着物質MAの膜が成膜できればよい。したがって、基板100Bに対して、蒸着源11Aから放出される蒸着物質MAが基板100Bに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12Aのみが開放状態に、残りのシャッタ12B~12Dが閉鎖状態にセットされる。
【0105】
図20(B)は状態ST32の1回目の成膜途中の状態を示し、
図20(C)は
図20(B)のP11部の拡大図である。シャッタ12A~12Dはシャッタ12Aのみが開放状態にセットされて蒸着ユニット10がY11方向に移動する。基板100Bには蒸着物質MAの膜が成膜される。
【0106】
次に、状態ST33の2回目の成膜に移行する。2回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はY12方向である。したがって、基板100Bに対する相対移動方向(Y12方向)で先頭側となるのは蒸着源11Dの側である。2回目の成膜では、蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜できればよい。したがって、基板100Bに対して、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCが基板100Bに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12B及び12Cが開放状態に、残りのシャッタ12A及び12Dは閉鎖状態にセットされる。
【0107】
図21(A)は状態ST33の2回目の成膜途中の状態を示し、
図21(B)は
図21(A)のP12部の拡大図である。シャッタ12A~12Dは、シャッタ12B及び12Cが開放状態にセットされて蒸着ユニット10がY12方向に移動する。基板100Bには、1回目に成膜された蒸着物質MAの膜の上に、蒸着源11B及び11Cからの蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜される。こうして、基板100Bには残りの1層分の膜が成膜される。以上により、基板100Bの成膜が完了する。
【0108】
続いて基板100Aの成膜に移行する。状態ST33の初期位置において、制御ユニット43はシャッタ12A~12Dの開閉をセットする。基板100Aに対する1回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はY12方向である。したがって、基板100Aに対する相対移動方向(Y12方向)で先頭側となるのは蒸着源11Dの側である。状態ST34の1回目の成膜では、蒸着物質MAの膜が成膜できればよい。したがって、基板100Aに対して、蒸着源11Dから放出される蒸着物質MAが基板100Aに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12Dのみが開放状態に、残りのシャッタ12A~12Cが閉鎖状態にセットされる。
【0109】
図22(A)は状態ST34の1回目の成膜途中の状態を示し、
図22(B)は
図22(A)のP13部の拡大図である。シャッタ12A~12Dはシャッタ12Dのみが開放状態にセットされて蒸着ユニット10がY12方向に移動する。基板100Aには蒸着物質MD(MA)の膜が成膜される。
【0110】
次に、状態ST35の2回目の成膜に移行する。2回目の成膜での蒸着ユニット10の移動方向はY11方向である。したがって、基板100Aに対する相対移動方向(Y11方向)で先頭側となるのは蒸着源11Aの側である。2回目の成膜では、蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜できればよい。したがって、基板100Aに対して、蒸着源11B及び11Cから放出される蒸着物質MB及びMCが基板100Aに付着すればよいことになる。そこで、シャッタ12B及び12Cが開放状態に、残りのシャッタ12A及び12Dは閉鎖状態にセットされる。
【0111】
図22(A)は状態ST33の2回目の成膜途中の状態を示し、
図22(B)は
図22(A)のP14部の拡大図である。シャッタ12A~12Dは、シャッタ12B及び12Cが開放状態にセットされて蒸着ユニット10がY12方向に移動する。基板100Aには、1回目に成膜された蒸着物質MAの膜の上に、蒸着源11B及び11Cからの蒸着物質MB及びMCの混合膜が成膜される。こうして、基板100Aには残りの1層分の膜が成膜される。以上により、基板100Aの成膜も完了する。
【0112】
このように本実施形態では、基板100A及び基板100Bに対して、連続的な成膜が可能である。上記の例は、基板100A及び基板100Bに対して、同じ積層構造の成膜を行う例であるが、シャッタ12A~12Dの開閉制御によって、基板100Aと基板100Bとで異なる積層構造の成膜を連続的に行うことも可能である。
【0113】
また、本実施形態では蒸着ユニット10の初期位置を、Y方向で成膜ステージ30Aと成膜ステージ30Bとの間の位置(基板100Aと基板100Bとの間の位置)とした。蒸着ユニット10の初期位置は、この位置の他に、成膜ステージ30Aよりも左側の位置や成膜ステージ30Bよりも右側の位置としてもよい。但し、本実施形態のように、成膜ステージ30Aと成膜ステージ30Bとの間の位置とすることで、基板100A、基板100Bを連続的に成膜する際に、同じ積層構造の膜を各基板に対して蒸着ユニット10を一往復することで成膜することができ、より短時間で成膜することができる。
【0114】
<第五実施形態>
次に、電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。この例の場合、
図1に例示した成膜システムSYが製造ライン上に複数設けられる。
【0115】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図24(A)は有機EL表示装置50の全体図、
図24(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0116】
図24(A)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0117】
なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0118】
図24(B)は、
図24(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0119】
また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、
図24(B)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0120】
なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0121】
図24(B)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0122】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0123】
なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0124】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。ここでは、赤色層56Rが下側層56R1と上側層56R2の2層からなり、緑色層56Gと青色層56Bは単一の発光層からなる場合を想定する。
【0125】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1の電極54が形成された基板53を準備する。なお、基板53の材質は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。本実施形態においては、基板53として、ガラス基板上にポリイミドのフィルムが積層された基板を用いる。
【0126】
第1の電極54が形成された基板53の上にアクリル又はポリイミド等の樹脂層をバーコートやスピンコートでコートし、樹脂層をリソグラフィ法により、第1の電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。なお、本実施形態では、絶縁層59の形成までは大型基板に対して処理が行われ、絶縁層59の形成後に、基板53を分割する分割工程が実行される。
【0127】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜装置1に搬入し、正孔輸送層55を、表示領域の第1の電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は、最終的に1つ1つの有機EL表示装置のパネル部分となる表示領域51ごとに開口が形成されたマスクを用いて成膜される。
【0128】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜装置1に搬入する。基板53とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、正孔輸送層55の上の、基板53の赤色を発する素子を配置する部分(赤色の副画素を形成する領域)に、赤色層56Rを成膜する。ここで、第2の成膜室で用いるマスクは、有機EL表示装置の副画素となる基板53上における複数の領域のうち、赤色の副画素となる複数の領域にのみ開口が形成された高精細マスクである。これにより、赤色発光層を含む赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの赤色の副画素となる領域のみに成膜される。換言すれば、赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの青色の副画素となる領域や緑色の副画素となる領域には成膜されずに、赤色の副画素となる領域に選択的に成膜される。
【0129】
赤色層56Rの成膜と同様に、第3の成膜装置1において緑色層56Gを成膜し、さらに第4の成膜装置1において青色層56Bを成膜する。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置1において表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0130】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜装置1に移動し、第2の電極58を成膜する。本実施形態では、第1の成膜装置1~第6の成膜装置1では真空蒸着によって各層の成膜を行う。しかし、本発明はこれに限定はされず、例えば第6の成膜装置1における第2の電極58の成膜はスパッタによって成膜するようにしてもよい。その後、第2の電極58までが形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層60を成膜して(封止工程)、有機EL表示装置50が完成する。なお、ここでは保護層60をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0131】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0132】
1:成膜装置、10:蒸着ユニット、11A~11D:蒸着源、12A~12D シャッタ、43:制御ユニット