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特開2024-176403荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法
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  • 特開-荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176403
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20241212BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20241212BHJP
   H01J 37/16 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01L21/30 541A
H01L21/30 541W
H01J37/305 B
H01J37/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094908
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健祐
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101BB01
5C101CC01
5C101CC04
5C101CC14
5C101CC17
5C101EE03
5C101EE13
5C101EE22
5C101EE23
5C101EE43
5C101EE47
5C101EE69
5C101FF02
5C101FF56
5C101GG23
5C101HH28
5C101KK19
5F056AA07
5F056CB32
5F056CB40
5F056CC04
5F056DA15
5F056EA12
5F056EA16
(57)【要約】
【課題】荷電粒子ビームのフォーカスずれを抑制しつつ、高真空計の寿命を延ばす。
【解決手段】本実施形態による荷電粒子ビーム描画装置は、チャンバ内で描画対象の基板に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する。この荷電粒子ビーム描画装置は、前記チャンバにクリーニングガスを供給する供給装置と、前記チャンバから気体を排出する真空ポンプと、前記チャンバ内の圧力を検出する圧力センサと、前記圧力センサの検出値を取得し、前記チャンバ内の圧力が第1目標値となるように前記供給装置を制御する制御装置と、を備える。前記制御装置は、更に、前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの調整を行う際に、前記チャンバ内の圧力が前記第1目標値とは異なる第2目標値となるように前記供給装置を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内で描画対象の基板に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、
前記チャンバにクリーニングガスを供給する供給装置と、
前記チャンバから気体を排出する真空ポンプと、
前記チャンバ内の圧力を検出する圧力センサと、
前記圧力センサの検出値を取得し、前記チャンバ内の圧力が第1目標値となるように前記供給装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、更に、前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの調整を行う際に、前記チャンバ内の圧力が前記第1目標値とは異なる第2目標値となるように前記供給装置を制御する、荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記荷電粒子ビームの調整を行う前に前記クリーニングガスの供給を停止するように前記供給装置を制御し、前記クリーニングガスの供給を停止してから所定時間経過後の前記圧力センサの検出値に所定値を加算して前記第2目標値を算出する、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記荷電粒子ビームの調整を行う前に前記クリーニングガスの供給を停止するように前記供給装置を制御し、前記クリーニングガスの供給を停止してから所定時間経過後の前記圧力センサの検出値に第1所定値を加算した値が第2所定値未満となる場合、第3所定値を前記第2目標値に設定する、請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
チャンバ内で描画対象の基板に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、
前記チャンバにクリーニングガスを供給する工程と、
前記チャンバから気体を排出する工程と、
前記チャンバ内の圧力を圧力センサで検出する工程と、
前記圧力センサの検出値に基づいて、前記チャンバ内の圧力が第1目標値となるように前記クリーニングガスの供給量を制御する工程と、
前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの調整を行う工程と、
を備え、
前記チャンバ内の圧力が前記第1目標値とは異なる第2目標値となるように前記クリーニングガスの供給量を制御して前記調整を行い、
前記調整後は、前記チャンバ内の圧力が前記第2目標値となるように前記クリーニングガスの供給量を制御する、荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記クリーニングガスの供給を停止し、
前記クリーニングガスの供給を停止してから所定時間経過後の前記圧力センサの検出値に基づいて前記第2目標値を算出する、請求項4に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項6】
前記クリーニングガスの供給を停止してから所定時間経過後の前記圧力センサの検出値に所定値を加算して前記第2目標値を算出する、請求項5に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項7】
前記クリーニングガスの供給を停止してから所定時間経過後の前記圧力センサの検出値に第1所定値を加算した値が第2所定値未満となる場合、第3所定値を前記第2目標値に設定する、請求項5に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置では、電子ビームを偏向器により偏向させることによって所望の位置にビームを照射してパターンを描画する。描画装置の使用に伴い、偏向器等の電子光学系部品に炭化水素系の汚染物質(コンタミネーション)が付着する。汚染物質に電荷が蓄積すると、電子ビームの照射位置がずれるビームドリフト現象が発生するという問題があった。
【0004】
描画装置のコラム内にオゾンガス等のクリーニングガスを導入し、描画を行いながら、電子光学系部品を清浄に保つ手法が知られている。例えば、コラム内に導入したオゾンと電子ビームとを衝突させ、オゾンを酸素と活性酸素に分離する。分離した活性酸素と汚染物質とを反応させて一酸化炭素ガスに変化させ、排気することで、電子光学系部品に付着する汚染物質を低減させる。
【0005】
クリーニングガスの導入によりコラム内の圧力が変動すると、電子ビームのフォーカスずれが引き起こされるため、コラム内圧力は一定に制御されている。従来の描画装置では、使用に伴って装置内の部品からの発ガスが徐々に低減すると、オゾンガスの導入量を徐々に増加させ、コラム内圧力を維持していた。
【0006】
しかし、このような従来の描画装置では、常にコラム内圧力が高い状態になっているため、圧力測定用の高真空計(圧力計)の劣化が早いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-81545号公報
【特許文献2】特開2017-41584号公報
【特許文献3】特開2007-172862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、荷電粒子ビームのフォーカスずれを抑制しつつ、高真空計の寿命を延ばすことができる荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、チャンバ内で描画対象の基板に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、前記チャンバにクリーニングガスを供給する供給装置と、前記チャンバから気体を排出する真空ポンプと、前記チャンバ内の圧力を検出する圧力センサと、前記圧力センサの検出値を取得し、前記チャンバ内の圧力が第1目標値となるように前記供給装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、更に、前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの調整を行う際に、前記チャンバ内の圧力が前記第1目標値とは異なる第2目標値となるように前記供給装置を制御するものである。
【0010】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画方法は、チャンバ内で描画対象の基板に荷電粒子ビームを照射してパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、前記チャンバにクリーニングガスを供給する工程と、前記チャンバから気体を排出する工程と、前記チャンバ内の圧力を圧力センサで検出する工程と、前記圧力センサの検出値に基づいて、前記チャンバ内の圧力が第1目標値となるように前記クリーニングガスの供給量を制御する工程と、前記基板に照射される前記荷電粒子ビームの調整を行う工程と、を備え、前記チャンバ内の圧力が前記第1目標値とは異なる第2目標値となるように前記クリーニングガスの供給量を制御して前記調整を行い、前記調整後は、前記チャンバ内の圧力が前記第2目標値となるように前記クリーニングガスの供給量を制御するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷電粒子ビームのフォーカスずれを抑制しつつ、高真空計の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態にマルチビーム描画装置の概略図である。
図2】成形アパーチャアレイプレートの平面図である。
図3】比較例による真空チャンバの内圧変化を示すグラフである。
図4】同実施形態に係る描画方法を説明するフローチャートである。
図5】真空チャンバの内圧変化の一例を示すグラフである。
図6】パラメータ設定画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0014】
図1は、実施の形態に係る描画装置の概略構成図である。図1に示すように、描画装置100は、描画部Wと制御系Cを備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部Wは、電子光学鏡筒60a及び描画室60bからなる真空チャンバ60を備えている。描画室60bは、直方体状の中空部材であり、上面には円形の開口が形成されている。電子光学鏡筒60aは、長手方向をZ軸方向とする円筒形状のケーシングであり、描画室60bの上面に形成された開口に挿入されている。
【0015】
電子光学鏡筒60a内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイプレート203、ブランキングアパーチャアレイプレート204、縮小レンズ205、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207及び偏向器208が配置されている。
【0016】
描画室60b内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画対象の基板101が配置される。基板101は、例えば、マスクブランクスや、半導体基板(シリコンウェハ)である。
【0017】
また、真空チャンバ60の内部空間には、圧力センサ50(高真空計)が配置されている。圧力センサ50は、チャンバ内の圧力に応じた値の電圧信号を出力する。
【0018】
制御系Cは、制御装置110、ステージ駆動装置120、偏向制御回路130、記憶部140、クリーニングガス供給装置30、真空ポンプ40、及びタッチパネル70を有する。記憶部140には、描画データが外部から入力され、格納されている。描画データには、基板101上に形成するパターンを記述する複数の図形パターンの情報が定義される。具体的には、図形パターン毎に、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。
【0019】
制御装置110は、CPUを有するコンピュータであり、描画部W、ステージ駆動装置120、偏向制御回路130、クリーニングガス供給装置30、真空ポンプ40及びタッチパネル70を統括的に制御する。
【0020】
描画部Wの電子銃201から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により成形アパーチャアレイプレート203全体を照明する。
【0021】
図2は、成形アパーチャアレイプレート203の構成を示す概念図である。図2に示すように、成形アパーチャアレイプレート203には、縦方向(y方向)及び横(x方向)に沿って複数の開口203aが所定の配列ピッチで形成されている。各開口203aは、共に同じ寸法形状の矩形又は円形で形成されると好適である。これらの複数の開口203aを電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20a~20eが形成(放出)される。
【0022】
ブランキングアパーチャアレイプレート204には、成形アパーチャアレイプレート203の各開口203aの配置位置に合わせて通過孔が形成されている。各通過孔には、対となる2つの電極の組からなるブランカが配置される。ブランカの一方の電極を接地してグラウンド電位に保ち、他方の電極をグラウンド電位またはグラウンド電位以外の電位に切り替えることにより、通過孔を通過するビームの偏向のオフオンが切り替えられて、ブランキング制御される。ブランカがビームを偏向しない場合、ビームはオンになる。ブランカがビームを偏向する場合、ビームはオフになる。このように、複数のブランカが、成形アパーチャアレイプレート203の複数の開口203aを通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0023】
ブランキングアパーチャアレイプレート204を通過したマルチビーム20a~20eは、縮小レンズ205によって縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された開口に向かって進む。
【0024】
ここで、ビームオフ状態に制御されるビームは、ブランカによって偏向され、制限アパーチャ部材206の開口の外を通る軌道を通るため、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ビームオン状態に制御されるビームは、ブランカによって偏向されないので、制限アパーチャ部材206の開口を通過する。このようにブランカの偏向のオン/オフによってブランキング制御が行われ、ビームのオフ/オンが制御される。
【0025】
制限アパーチャ部材206を通過したマルチビームは、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となる。制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム全体)が、偏向器208によって同方向にまとめて偏向され、基板101上の所望の位置に照射される。
【0026】
ステージ駆動装置120によりXYステージ105が連続移動している場合、少なくとも基板101にビームを照射している間は、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように、偏向器208によって制御される。一度に照射されるマルチビームは、理想的には成形アパーチャアレイプレート203の複数の開口203aの配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0027】
制御装置110は、基板101の描画領域を複数のメッシュ領域に仮想分割する。メッシュ領域のサイズは、例えば、マルチビームに含まれる1本の個別ビームと同程度のサイズであり、各メッシュ領域が画素(単位照射領域)となる。制御装置110は、記憶部140から描画データを読み出し、描画データに定義されたパターンを用いて、各画素のパターン面積密度ρを算出する。
【0028】
制御装置110は、パターン面積密度ρに基準照射量Dを乗じて、各画素に照射されるビームの照射量ρDを算出する。近接効果等を補正するための補正係数をさらに乗じてもよい。制御装置110は、照射量を、マルチビームを構成する複数の個別ビームそれぞれの電流量で割って、複数の個別ビームそれぞれの照射時間を算出する。
【0029】
制御装置110は、照射時間データを描画シーケンスに沿ったショット順に並び替え、照射時間制御データを生成し、偏向制御回路130へ出力する。偏向制御回路130は、照射時間制御データをブランキングアパーチャアレイプレート204へ出力する。ブランキングアパーチャアレイプレート204の入出力回路が、照射時間データを、対応するブランカへ転送する。
【0030】
マルチビームを構成する複数の個別ビームは、それぞれ異なる画素を同時に露光し、画素毎に所望の露光量を与えるために、ビーム毎に必要な時間だけビームがオンされる。
【0031】
マルチビーム描画では、焦点合わせ等のビーム調整が重要である。例えば、特開2018-82120号公報に記載の手法を用いて、対物レンズ207の最適なレンズ値(励磁電流値)を求め、焦点合わせを行う。特開2017-199758号公報に記載の手法を用いたマルチビームの縮小倍率の調整や、特開平10-284392号公報に記載の手法を用いた偏向感度調整を行ってもよい。ビーム調整は、所定の時間間隔で実行される。
【0032】
クリーニングガス供給装置30は、配管を介して真空チャンバ60に連結されており、クリーニングガス発生器や、真空チャンバ60へのクリーニングガス導入量を調整する流量調整バルブ等を有する。クリーニングガス供給装置30は、制御装置110に指示された流量で、真空チャンバ60の内部にクリーニングガスを供給する。クリーニングガスは例えばオゾンガスである。
【0033】
真空ポンプ40は、制御装置110の指示に基づいて、真空チャンバ60の内部の気体を排出し、真空チャンバ60の内部を所定の圧力以下に維持する。
【0034】
制御装置110は、マルチビームのフォーカスずれを抑制するため、圧力センサ50の測定値を所定の周期で取得し、真空チャンバ60の内圧が一定となるように、クリーニングガス供給装置30及び真空ポンプ40を制御する。例えば、制御装置110は、圧力センサ50の測定値に基づいてクリーニングガス供給装置30の弁開度や、真空ポンプ40の発停を制御する。真空チャンバ60内のブランキングアパーチャアレイプレート204等の部品からの発ガスは時間経過に伴い徐々に減少する。図3に示すように、真空チャンバ60の内圧を一定の値Pに制御する場合、真空チャンバ60へのクリーニングガスの導入量が徐々に増加し、真空チャンバ60におけるクリーニングガスの分圧が徐々に大きくなる。図3のグラフにおいて、グレー部分がクリーニングガスの分圧、白色部分がチャンバ内の部品からの発ガスの分圧であり、チャンバ内圧はこれらの合計である。
【0035】
マルチビーム描画装置は、真空チャンバ60内の部品点数が多く、特に運転開始当初は発ガス量が多いため、初期内圧が高く、圧力一定制御の目標値Pも高くなる。真空チャンバ60の内圧が高い状態が続くと、圧力センサ50が早期に劣化してしまう。
【0036】
そこで、本実施形態では、ビーム調整のタイミングで圧力一定制御の目標値を低くする。圧力一定制御の目標値を低くすると、真空チャンバ60の内圧が変化するが、ビーム調整を行うため、マルチビームのフォーカスずれが抑制される。
【0037】
本実施形態によるマルチビーム描画方法を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0038】
制御装置110が真空ポンプ40を起動する(ステップS1)。真空チャンバ60の内部の気体の排出が行われ、チャンバ内部の圧力が低下していく。
【0039】
クリーニングガス供給装置30が、真空チャンバ60内にクリーニングガスを供給する(ステップS2)。
【0040】
制御装置110が、圧力センサ50の測定値に基づいて、真空チャンバ60の内圧が所定の目標値(目標範囲内)となるようにクリーニングガス供給装置30を制御してガス供給量を調整する(ステップS3_No、S4)。目標値は、クリーニングガス供給開始前の真空チャンバ60の内圧に基づくものである。例えば、クリーニングガス供給開始前の真空チャンバ60の内圧に所定値を加算した値、又は所定の倍率を乗じた値である。所定の加算値や倍率はタッチパネル70を操作してユーザが任意に設定できる。
【0041】
例えば、タッチパネル70に図6に示すようなパラメータ設定画面が表示される。ユーザは、タッチキー73を押して、所定の加算値(クリーニングガスの分圧(B))を事前に設定する。クリーニングガス供給開始前の真空チャンバ60の内圧は表示欄72に表示される。目標値は表示欄74に表示される。
【0042】
チャンバ内圧力が目標値で一定になるように制御しながら、上述した方法でマルチビームを形成して基板101に照射し、所望のパターンを描画する(ステップS3_Yes、S5)。パラメータ設定画面の表示欄71には、圧力センサ50の検出値(測定値)がリアルタイムに表示される。
【0043】
ビーム調整のタイミングになると(ステップS6_Yes)、クリーニングガス供給装置30からのクリーニングガスの供給を停止する(ステップS7)。
【0044】
制御装置110は、クリーニングガスの供給を停止してから所定時間(例えば3分程度)経過後の真空チャンバ60の内圧を圧力センサ50から取得する(ステップS8)。このとき、真空ポンプ40により、真空チャンバ60からクリーニングガスがほぼ全て排気されており、圧力センサ50により測定されるチャンバ内圧力は、チャンバ内の部品からの発ガスに由来する(図3のグラフの白色部分に相当する)ものである。
【0045】
制御装置110は、ステップS8での測定圧力に基づいて、チャンバ内圧力の新たな目標値を算出し、目標値を更新する(ステップS9)。例えば、ステップS8での測定圧力に所定値を加算する、又は所定の倍率を乗じて、新たな目標値を算出する。パラメータ設定画面の表示欄72には、ステップS8での測定圧力が表示される。この測定圧力に、タッチキー73で設定されているクリーニングガスの分圧(B)を加算した新たな目標値が表示欄74に表示される。
【0046】
クリーニングガスの供給を再開し(ステップS10)、真空チャンバ60の内圧が更新後の目標値となるようにクリーニングガス供給装置30を制御してガス供給量を調整する(ステップS11_No、S12)。
【0047】
チャンバ内圧力が目標値になると(ステップS11_Yes)、ビーム調整を行う(ステップS13)。ビーム調整では、焦点合わせ、縮小倍率の調整、偏向感度調整等を行う。ビーム調整後、パターン描画を再開する。
【0048】
図5は、真空チャンバ60の内圧の変化の例を示す。この例では、真空チャンバ60の内圧一定制御の最初の目標値はP0である。ビーム調整のタイミングT1になると、クリーニングガスを排気してチャンバ内圧力を測定し、新たな目標値P1に更新する。チャンバ内の部品からの発ガス量は減っているため、更新後の目標値P1は、更新前の目標値P0より小さい値となる。
【0049】
次のビーム調整のタイミングT2までは、チャンバ内圧力がP1となるように制御を行う。ビーム調整のタイミングT2になると、クリーニングガスを排気してチャンバ内圧力を測定し、新たな目標値P2に更新する。チャンバ内の部品からの発ガス量は減っているため、更新後の目標値P2は、更新前の目標値P1より小さい値となる。
【0050】
次のビーム調整のタイミングT3までは、チャンバ内圧力がP2となるように制御を行う。
【0051】
このように、本実施形態では、チャンバ内の部品からの発ガス量低減にあわせて、ビーム調整のタイミング毎に、真空チャンバ60内の圧力一定制御の目標値を徐々に低くしていく。圧力一定制御の目標値を低くすることで、真空チャンバ60の内圧が変化するが、ビーム調整を行うため、マルチビームのフォーカスずれを抑制できる。
【0052】
真空チャンバ60の内圧がビーム調整のタイミング毎に低くなるため、真空チャンバ60の内圧が高い状態が続かず、圧力センサ50の劣化を抑制し、寿命を延ばすことができる。
【0053】
また、真空チャンバ60へのクリーニングガスの供給量を低減できる。
【0054】
上記実施形態では、クリーニングガス排気後のチャンバ内圧力に所定値(第1所定値)を加算して圧力一定制御の目標値を自動で算出・更新する例について説明したが、算出された圧力一定制御の目標値が所定の閾値(第2所定値)未満となった場合、事前にユーザが設定した値(第3所定値)を新たな目標値としてもよい。これにより、圧力一定制御の目標値が過度に低くなることを抑制できる。
【0055】
ユーザは、図6に示すパラメータ設定画面のタッチキー75を押して、任意の閾値(Th)を設定することができる。また、ユーザは、タッチキー76を押して、チャンバ内圧の目標値(SV_f)を手動設定することができる。
【0056】
ビーム調整のタイミングになると、クリーニングガス排気後の内圧(A)に、ユーザにより設定されたクリーニングガス分圧(B)を加算した新たな目標値が算出され、表示欄73に表示される。
【0057】
算出された目標値が事前に設定された閾値(Th)未満となる場合、圧力一定制御の目標値は、ユーザが設定した目標値(SV_f)となる。以降、目標値の自動算出・更新処理(ステップS7~S12)はスキップし、目標値は一定となる。
【0058】
ビーム調整のタイミングで、ブランキングアパーチャアレイプレート204等の真空チャンバ60内の部品を交換してもよい。この場合、部品交換により発ガスが増え、ステップS8での測定圧力が高くなり、所定値を加算する、又は所定の倍率を乗じて算出した新たな目標値が、前回の(部品交換前の)目標値よりも高くなり得る。
【0059】
なお、前回の目標値がユーザ設定の目標値(SV_f)であり、部品交換後に算出した新たな目標値もユーザ設定の目標値(SV_f)以下である場合は、目標値の変更は行わなくてよい(SV_fのままにする)。
【0060】
上記実施形態ではマルチビーム描画装置について説明したが、描画装置はシングルビーム描画装置であってもよい。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
30 クリーニングガス供給装置
40 真空ポンプ
50 圧力センサ
60 真空チャンバ
100 描画装置
110 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6