(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176409
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】澱粉含有加工食品用ほぐし剤、及び澱粉含有加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/013 20060101AFI20241212BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20241212BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20241212BHJP
A23L 3/36 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A23D9/013
A23L7/10 B
A23L7/10 E
A23L7/109 A
A23L7/109 C
A23L3/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094916
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】矢内 千春
(72)【発明者】
【氏名】田中 仁
【テーマコード(参考)】
4B022
4B023
4B026
4B046
【Fターム(参考)】
4B022LA01
4B022LB01
4B022LJ04
4B022LQ07
4B023LC05
4B023LE11
4B023LE13
4B023LE22
4B023LK04
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4B023LP11
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4B046LG11
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4B046LG29
4B046LP03
4B046LP15
4B046LP41
4B046LP51
4B046LP69
(57)【要約】
【課題】麺類、加工米飯類等の澱粉含有加工食品のほぐれ性を改善するほぐし剤であり、特に麺類の結着防止に有効なほぐし剤、及び/又は澱粉含有加工食品が冷蔵保存(チルド保存を含む)、及び/又は冷凍保存される場合に有効なほぐし剤を提供する。
【解決手段】澱粉含有加工食品のほぐれ性を改善するほぐし剤であって、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.6~6質量部であり、前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、4~16質量部であることを特徴とするほぐし剤、並びに澱粉含有加工食品の製造方法であって、澱粉含有食品材料を加熱調理し、澱粉含有加工食品を調製する工程、及び前記澱粉含有食品材料を加熱調理する前、加熱調理中、及び/又は加熱調理後に、本発明のほぐし剤を、前記澱粉含有食品材料、及び/又は前記澱粉含有加工食品に付着させる工程を含む澱粉含有加工食品の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉含有加工食品のほぐれ性を改善するほぐし剤であって、
食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、
前記クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.6~6質量部であり、
前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、4~16質量部であることを特徴とするほぐし剤。
【請求項2】
前記クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.6~1.5質量部である請求項1に記載のほぐし剤。
【請求項3】
前記澱粉含有加工食品が、麺類である請求項1又は2に記載のほぐし剤。
【請求項4】
冷蔵及び/又は冷凍保存される澱粉含有加工食品に用いられる請求項1又は2に記載のほぐし剤。
【請求項5】
前記澱粉含有加工食品が、加工米飯類であり、生米を炊飯する際、又は生米を過熱水蒸気処理する際に添加される請求項1又は2に記載のほぐし剤。
【請求項6】
澱粉含有加工食品の製造方法であって、
澱粉含有食品材料を加熱調理し、澱粉含有加工食品を調製する工程、及び
前記澱粉含有食品材料を加熱調理する前、加熱調理中、及び/又は加熱調理後に、請求項1又は2に記載のほぐし剤を、前記澱粉含有食品材料、及び/又は前記澱粉含有加工食品に付着させる工程
を含む澱粉含有加工食品の製造方法。
【請求項7】
冷蔵及び/又は冷凍保存された澱粉含有加工食品の製造方法であって、
澱粉含有食品材料を加熱調理し、澱粉含有加工食品を調製する工程、
前記澱粉含有食品材料を加熱調理する前、加熱調理中、及び/又は加熱調理後に、請求項1又は2に記載のほぐし剤を、前記澱粉含有食品材料、及び/又は前記澱粉含有加工食品に付着させる工程、及び
前記ほぐし剤が付着した前記澱粉含有加工食品を冷蔵及び/又は冷凍する工程
を含む、冷蔵及び/又は冷凍保存された澱粉含有加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類、加工米飯類等の澱粉含有加工食品のほぐれ性を改善するほぐし剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パスタ、焼きそば、うどん、そば等の麺類、又は白飯、赤飯、おこわ、炊き込みご飯、ピラフ、炒飯等の加工米飯類等の澱粉含有加工食品は、加熱調理後に結着し易く、喫食し難かったり、容器への充填や更なる加工の際に作業性が悪くなったりする場合がある。そのため、澱粉含有加工食品の製造時に、麺類や加工米飯類の結着を防止し、ほぐれ性を改善するため、油脂を主成分とする油脂組成物(本発明において、「ほぐし剤」とも称する)が使用される場合がある。
【0003】
従来から、種々のほぐし剤の開発が行われている。例えば、特許文献1においては、チャーハン等の炒め加工米飯類製造時の炒め工程の作業性向上や外観と喫食時の食感に優れた炒め加工米飯類を得るための製造方法を提供することを目的とし、炒め加工米飯類の製造方法であって、レシチンを0.1質量%以上5質量%以下とHLB4.5~10の乳化剤を0.3質量%以上7質量%以下、含有する油脂組成物を米飯に添加する工程、および、前記油脂組成物を添加した前記米飯を加熱する工程、を含む、前記製造方法が開示されている。また、特許文献2においては、炒飯用米飯を製造するための米飯を炊飯する際に用いられる炊飯用油脂組成物であって、炒め工程時の作業性を飛躍的に向上させることができ、特に炒め油に乳化剤を含ませることなく、炒飯を製造することが可能な炊飯用油脂組成物、及びこれを用いて得られる炒飯、並びに炒飯の製造方法を提供することを目的とし、炒飯用米飯を製造するための米飯の炊飯工程で用いられる炊飯用油脂組成物であって、該油脂組成物中に、HLB値が3.0以上8.0未満であり、かつ1.0質量%を超え18.0質量%以下の量のポリグリセリン脂肪酸エステル、及び2.0~15.0質量%の量のレシチンを含むことを特徴とする炊飯用油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-228844号公報
【特許文献2】特開2011-050301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で開示された油脂組成物では、麺類における結着防止効果は十分ではなく、加工米飯類においても、特に冷蔵保存(チルド保存を含む)や冷凍保存される場合は、より結着し易く、ほぐれ性が悪くなったり、食感が悪くなったりする場合があり、さらなる改善が求められている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、食感を損なうことなく、麺類、加工米飯類等の澱粉含有加工食品のほぐれ性を改善するほぐし剤であり、特に麺類の結着防止に有効なほぐし剤、及び/又は澱粉含有加工食品が冷蔵保存(チルド保存を含む)及び/又は冷凍保存される場合に有効なほぐし剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、乳化剤の種類、それらの配合量について種々検討した結果、所定のレシチンと所定の乳化剤を適切な含有量で含む油脂組成物とすることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、澱粉含有加工食品のほぐれ性を改善するほぐし剤であって、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.6~6質量部であり、前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、4~16質量部であることを特徴とするほぐし剤によって達成される。また、上記目的は、澱粉含有加工食品の製造方法であって、澱粉含有食品材料を加熱調理し、澱粉含有加工食品を調製する工程、及び前記澱粉含有食品材料を加熱調理する前、加熱調理中、及び/又は加熱調理後に、本発明のほぐし剤を、前記澱粉含有食品材料、及び/又は前記澱粉含有加工食品に付着させる工程を含む澱粉含有加工食品の製造方法によって達成される。なお、本発明において、「澱粉含有加工食品」は、パスタ(スパゲッティ、マカロニ等)、中華麺、うどん、和そば、素麺、冷や麦、冷麺、ビーフン、きしめん、焼きそば等の麺線、餃子皮、焼売皮、ワンタン皮、ラビオリ皮等の麺皮を含む麺類、又は白飯、赤飯、おこわ、炊き込みご飯、ピラフ、炒飯等の加工米飯類等の、加熱調理されα化された澱粉を含む加工食品を意味する。また、「クルードレシチン」は、植物クルードレシチンを意味し、油糧種子等の植物原料から取得され、リン脂質を主成分とするアセトン不溶物、及び脂質を主成分とするアセトン可溶物を含んだ混合物であり、ペースト状レシチンや粗製レシチンとも称されるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のほぐし剤を用いることで、食感を損なうことなく、澱粉含有加工食品、特に麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができる。また、本発明のほぐし剤、及び本発明の澱粉含有食品の製造方法を用いることで、より結着し易い冷蔵及び/又は冷凍保存される澱粉含有加工食品のほぐれ性も改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ほぐし剤]
本発明のほぐし剤は、澱粉含有加工食品のほぐれ性を改善するほぐし剤であって、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.6~6質量部であり、前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、4~16質量部であることを特徴とする。本発明のほぐし剤を用いることで、食感を損なうことなく、澱粉含有加工食品、特に麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができる。さらに、より結着し易い冷蔵及び/又は冷凍保存される澱粉含有加工食品であっても、食感を損なうことなく、ほぐれ性を改善することができる。後述する実施例に示す通り、前記クルードレシチンの含有量が、上記の含有量を外れる場合は、得られる澱粉含有加工食品の食感が低下する。また、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、上記の含有量より少ない場合は、得られる澱粉含有加工食品のほぐれ性が低く、上記含有量より多い場合は、食感が低下する。なお、ジグリセリン脂肪酸エステル以外のポリグリセリン脂肪酸エステル、例えば、テトラグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合は、得られる澱粉含有加工食品のほぐれ性が十分に改善されない。本発明のほぐし剤は、澱粉含有食品材料(本発明において、加熱調理されα化される前の澱粉を含む澱粉含有加工食品の材料のことを称し、例えば、生麺類、乾麺類、生米等が挙げられる。)、及び/又は澱粉含有食加工食品に添加され、添加量は、例えば、対象物100質量部に対し、0.05~5質量部である。
【0011】
本発明において、食用油脂は、特に制限はない。例えば、菜種油(キャノーラ油を含む)、大豆油、ヒマワリ油、コーン油、米油、サフラワー油、綿実油、アボカド油、オリーブ油、ゴマ油、ココナツ油、落下生油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、藻油等の植物油脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物油脂等が挙げられる。植物油脂は、品種改良した植物から抽出したものであってもよく、例えば、菜種油、ヒマワリ油、紅花油、大豆油などでは、オレイン酸含量を高めたハイオレイックタイプの品種から得られた油脂を使用することができる。また、これらに分別、水素添加、エステル交換、合成等の加工処理を行った加工油脂、並びにこれらの油脂の2種以上を組み合わせた混合油脂を用いることができる。本発明において食用油脂は、常温で流動性があることが好ましい。
【0012】
本発明において、クルードレシチンの原料としては、大豆、菜種、ヒマワリ、米、綿実、コーン、落花生、パーム、ゴマ、紅花、エゴマ、アマニ等の植物原料が挙げられ、それらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられてもよい。一般に、レシチンは、製造方法等に応じてクルードレシチン、中性脂質、脂肪酸、炭水化物、タンパク質、無機塩、ステロール、色素等の不純物を常法により除去した精製レシチン、酵素分解処理した酵素分解レシチン等に分別される。クルードレシチンは、例えば、前記の植物原料から抽出した原油を精製する際、脱ガム工程で分離されるガム質を、水分1質量%以下に乾燥することで得られる。本発明において、クルードレシチンは、大豆、ヒマワリ、及び米からなる群から選択される1種以上の植物原料由来のクルードレシチンが好ましく、大豆由来のクルードレシチンがより好ましい。前記クルードレシチンは市販のものを適宜用いることができる。例えば、大豆由来のクルードレシチンであれば、昭和Mレシチン(昭和産業)、SLP-ペースト(辻製油)、ヒマワリ由来のクルードレシチンであれば、SLP-ペーストSF(辻製油)等が挙げられる。本発明において、ほぐし剤におけるクルードレシチンの含有量は、前記食用油脂100質量部に対して、0.65~4質量部であることが好ましく、0.68~2質量部であることがより好ましく、0.7~1.5質量部であることがさらに好ましく、0.72~1.2質量部であることがよりさらに好ましい。
【0013】
ジグリセリン脂肪酸エステルは、2個のグリセリンが重合したジグリセリンに脂肪酸がエステル結合したものであり、食品添加物公定書に記載されている乳化剤の1種である。本発明において、エステル結合される脂肪酸は、動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和又は不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数12~18の直鎖の飽和又は不飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数16~18の直鎖の飽和又は不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数16~18の直鎖の不飽和脂肪酸が挙げられる。本発明において、ジグリセリン脂肪酸エステルは、市販のものを適宜選択して使用することができる。具体的には、例えば、オレイン酸がエステル結合したポエムDO-100V(理研ビタミン)が挙げられる。本発明において、ほぐし剤におけるジグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、前記食用油脂100質量部に対して、5.5~13質量部であることが好ましく、6.5~11質量部であることがより好ましく、7~10質量部であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明のほぐし剤は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて天然香料、合成香料、色素、呈味剤、クルードレシチン及びジグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤、トコフェロール、アスコルビン酸脂肪酸エステル、シリコーン等の食用油脂に使用できる食品添加物、たん白質素材、糖質、食物繊維、酵素、増粘剤、アミノ酸、食塩、pH調整剤等を含んでいてもよい。本発明のほぐし剤は、上述の材料を、所定の配合で、常法により混合することで製造することができる。
【0015】
本発明のほぐし剤の用途は、麺類、加工米飯類等の澱粉含有加工食品のほぐれ性を改善するために用いるものであれば、特に制限はない。上述の通り、本発明のほぐし剤は、特に麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができるので、前記澱粉含有加工食品は、麺類であることが好ましい。さらに、より結着し易い冷蔵及び/又は冷凍保存される澱粉含有加工食品であっても、ほぐれ性も改善することができるので、前記澱粉含有加工食品は、冷蔵及び/又は冷凍保存される澱粉含有加工食品であることが好ましい。
【0016】
本発明のほぐし剤を用いるタイミングとしては、特に制限はなく、澱粉含有加工食品の製造時のいずれかのタイミングで、少なくとも1回、澱粉含有食品材料、及び/又は澱粉含有食加工食品に添加され、付着されればよい。例えば、麺類の場合は、本発明のほぐし剤が、生麺類等を蒸し調理又は過熱水蒸気処理等を施す際に添加されてもよく、茹で調理若しくは蒸し調理、過熱水蒸気処理等を施した麺類を炒める際、又は過熱水蒸気処理する際に添加されてもよく、茹で調理又は蒸し調理、過熱水蒸気処理、炒め調理等を施した麺類を、冷蔵保存若しくは冷凍保存、又はそのまま喫食する前に添加されてもよく、これらのタイミングで、複数回添加されてもよい。また、加工米飯類の場合は、本発明のほぐし剤が、生米を炊飯する際、又は生米を過熱水蒸気処理する際に添加されてもよく、炊飯等した米飯を炒めて炒飯等にする際に添加されてもよく、炊飯等した米飯、又は炒めた炒飯等を、冷蔵保存若しくは冷凍保存、又はそのまま喫食する前に添加されてもよく、これらのタイミングで、複数回添加されてもよい。本発明のほぐし剤は、加工米飯類の場合、ほぐれ性を改善する効果が高い点で、生米を炊飯する際、又は生米を過熱水蒸気処理する際に添加されることが好ましい。また、別の好ましい態様として、本発明のほぐし剤は、冷蔵及び/又は冷凍保存される澱粉含有加工食品において、前記澱粉含有加工食品を冷蔵及び/又は冷凍する前に、少なくとも1回、澱粉含有食品材料、及び/又は澱粉含有食加工食品に添加され、付着される。より好ましくは、本発明のほぐし剤は、冷蔵保存される澱粉含有加工食品において、前記澱粉含有加工食品を冷蔵する前に、少なくとも1回、澱粉含有食品材料、及び/又は澱粉含有食加工食品に添加され、付着される。澱粉含有食品は、冷蔵保存(チルド保存を含む)や冷凍保存される場合は、より結着し易く、ほぐれ性が悪くなったり、食感が悪くなったりする場合があり、それは冷凍保存の場合よりも、冷蔵保存の場合の方がより顕著である。後述する実施例に示す通り、本発明のほぐし剤は、冷蔵保存された澱粉含有食品であっても、ほぐれ性、食感を改善する効果が高い。
【0017】
[澱粉含有加工食品の製造方法]
本発明の澱粉含有加工食品の製造方法は、澱粉含有食品材料を加熱調理し、澱粉含有加工食品を調製する工程、及び前記澱粉含有食品材料を加熱調理する前、加熱調理中、及び/又は加熱調理後に、本発明のほぐし剤を、前記澱粉含有食品材料、及び/又は前記澱粉含有加工食品に付着させる工程を含む。また、本発明の冷蔵及び/又は冷凍保存された澱粉含有加工食品の製造方法は、澱粉含有食品材料を加熱調理し、澱粉含有加工食品を調製する工程、前記澱粉含有食品材料を加熱調理する前、加熱調理中、及び/又は加熱調理後に、本発明のほぐし剤を、前記澱粉含有食品材料、及び/又は前記澱粉含有加工食品に付着させる工程、及び前記ほぐし剤が付着した前記澱粉含有加工食品を冷蔵及び/又は冷凍する工程を含む。上述の通り、本発明のほぐし剤を、澱粉加工食品を製造する際に用いることで、食感を損なうことなく、澱粉含有加工食品、特に麺類の結着を防止し、ほぐれ性が改善された澱粉含有加工食品を製造することができる。さらに、より結着し易い冷蔵及び/又は冷凍保存された澱粉含有加工食品であっても、食感を損なうことなく、ほぐれ性が改善された澱粉含有加工食品を製造することができる。本発明の澱粉含有加工食品の製造方法の好ましい態様は、本発明のほぐし剤の場合と同様である。
【実施例0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.ほぐし剤の調製
表1~7に記載の配合の食用油脂100質量部に対し、表1~7に記載した質量部で、その他の材料を配合して、均一に分散させ、各ほぐし剤を調製した。なお、食用油脂は、大豆油、キャノーラ油、米油(すべて昭和産業)を用いた。また、レシチンは、大豆由来クルードレシチン(昭和Mレシチン;昭和産業)、ヒマワリ由来クルードレシチン(SLP-ペーストSF;辻製油)、米由来クルードレシチン(自社調製)、大豆由来精製レシチン(SLP-ホワイト;辻製油)、大豆由来酵素分解レシチン(SLP-ホワイトリゾ;辻製油)を用いた。さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリン脂肪酸エステル(ポエムDO100V;理研ビタミン)、テトラグリセリン脂肪酸エステル(SYグリスターMO-3S;坂本薬品工業)、デカグリセリン脂肪酸エステル(サンソフトQ-1710S;太陽化学)を用いた。
2.スパゲッティの調製及び評価
澱粉含有加工食品として、麺類のスパゲッティを選択し、1.で調製した各ほぐし剤を用いて調製した。具体的には、スパゲッティ(乾麺)(昭和スパゲッティ1.6mm;昭和産業)を約7分間、熱湯で茹でた後、流水にて1分間冷却し、さらに氷水にて1分間冷却した。その茹で麺100gに各ほぐし剤1gを絡めた後、樹脂製保存容器に充填し、蓋をして10℃の恒温槽で3日間冷蔵保存した後、以下の官能評価を行った。なお、官能評価は、訓練を受けた10名の専門パネルによって評価し、評価結果は、評価点の平均値を算出した。
(官能評価)
(i)ほぐれ性
5:麺同士の結着がなく、非常に良好
4:麺同士の結着がほぼなく、良好
3:麺同士の結着が少しあるが、やや良好
2:麺同士がやや結着しており、劣る
1:麺同士が結着して塊になっており、非常に劣る
(ii)食感
5:非常にしなやかで、弾力のある食感で、非常に良好
4:しなやかで、弾力のある食感で、良好
3:ややしなやかで、弾力のある食感で、やや良好
2:しなやかさがやや低く、及び/又は、弾力がややなく、劣る
1:しなやかさが低く、及び/又は、弾力がなく、非常に劣る
官能評価の結果を表1~3に示す。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
表1~3に示す通り、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.6~5質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、4~12質量部であるほぐし剤を用いたスパゲッティ(実施例1~12)は、ほぐれ性、食感が良好であった。一方、食用油脂と大豆由来クルードレシチンのみからなるほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例1)では、ほぐれ性、食感の評価がともに低く、食用油脂とジグリセリン脂肪酸エステルのみからなるほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例2)では、ほぐれ性は良好であったが、食感の評価が低かった。さらに、食用油脂とクルードレシチンを含むが、ジグリセリン脂肪酸エステルの代わりにテトラグリセリン脂肪酸エステルを含むほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例3)、デカグリセリン脂肪酸エステルを含むほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例4)では、食感は良好であったが、ほぐれ性の評価が低かった。また、食用油脂、ジグリセリン脂肪酸エステルを含むが、クルードレシチンの代わりに精製レシチンを含むほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例5)、酵素分解レシチンを含むほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例6)では、食感は良好であったが、ほぐれ性の評価が低かった。
【0023】
上記ほぐし剤における各材料の含有量については、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、1質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、3質量部であるほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例7)では、食感は良好であったが、ほぐれ性の評価が低かった。また、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、1質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、20質量部であるほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例8)、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.5質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、8質量部であるほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例9)、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、8質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、8質量部であるほぐし剤を用いたスパゲッティ(比較例10)では、ほぐれ性は良好であったが、食感の評価が低かった。
【0024】
3.米飯の調製(A法)及び評価
澱粉含有加工食品として、加工米飯類の米飯(白飯)を選択し、1.で調製した各ほぐし剤を用いて調製した。具体的には、炊飯器を用いて、生米800gを水1160gに40分間浸漬した後、各ほぐし剤を20g添加して軽く撹拌後、炊飯して米飯を調製した。調製した米飯を25℃に調温し1日間保存した後、以下の官能評価を行った。なお、官能評価は、訓練を受けた10名の専門パネルによって評価し、評価結果は、評価点の平均値を算出した。
(官能評価)
(i)ほぐれ性
5:米粒同士の結着がなく、非常に良好
4:米粒同士の結着がほぼなく、良好
3:米粒同士の結着が少しあるが、やや良好
2:米粒同士がやや結着しており、劣る
1:麺同士が結着して塊になっており、非常に劣る
(ii)食感
5:硬さ、粘りのバランスが非常によく、非常に良好
4:硬さ、粘りのバランスがよく、良好
3:硬さ、粘りのバランスがややよく、やや良好
2:硬さ、粘りのバランスが悪く、劣る
1:硬さ、粘りのバランスが非常に悪く、非常に劣る
官能評価の結果を表4に示す。
【0025】
【0026】
表4に示す通り、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.6~3質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、4~12質量部であるほぐし剤を用いた米飯(実施例13~19)は、ほぐれ性、食感が良好であった。一方、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、1質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、3質量部であるほぐし剤を用いた米飯(比較例11)では、食感は良好であったが、ほぐれ性の評価が低かった。食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、1質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、20質量部であるほぐし剤を用いた米飯(比較例12)、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.5質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、8質量部であるほぐし剤を用いた米飯(比較例13)、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、8質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、8質量部であるほぐし剤を用いた米飯(比較例14)では、ほぐれ性は良好であったが、食感の評価が低かった。
【0027】
4.米飯の調製(B法)及び評価
澱粉含有加工食品として、加工米飯類の米飯(白飯)を選択し、1.で調製した各ほぐし剤を用いて調製した。具体的には、炊飯器を用いて、生米800gを水1160gに40分間浸漬した後、炊飯して米飯を調製した。調製した米飯に各ほぐし剤15gを添加して軽く撹拌後、25℃に調温し1日間保存した後、上記3.と同様に官能評価を行った。官能評価の結果を表5に示す。
【0028】
【0029】
表5に示す通り、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、1質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、8質量部であるほぐし剤を炊飯後に添加した米飯(実施例20)であっても、ほぐれ性、食感が良好であった。一方、食用油脂のみからなるほぐし剤を用いた米飯(比較例15)では、ほぐれ性、食感の評価がともに低かった。
【0030】
5.炒飯の調製及び評価
澱粉含有加工食品として、加工米飯類の炒飯を選択し、1.で調製した各ほぐし剤を用いて調製した。具体的には、炊飯器を用いて、生米800gを水1160gに40分間浸漬した後、各ほぐし剤20g添加して軽く撹拌後、炊飯して米飯を調製した。ステンレス製フライパンに、キャノーラ油(昭和産業)を10g入れ、電磁調理器で加熱し、200℃になったところで、調製した米飯300gを投入し、2分間炒め調理をして炒飯を調製した。調製した炒飯を冷却し、1日間冷蔵保存した後、レンジアップ調理(1500W、30秒間)し、上記3.と同様に官能評価を行った。官能評価の結果を表6に示す。
【0031】
【0032】
表6に示す通り、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、1質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、8質量部であるほぐし剤を炊飯時に添加した米飯用いて調製した炒飯(実施例21)は、ほぐれ性、食感が良好であった。一方、食用油脂のみからなるほぐし剤を用いた炒飯(比較例16)では、ほぐれ性、食感の評価がともに低くかった。また、食用油脂とクルードレシチンを含むが、ジグリセリン脂肪酸エステルの代わりにテトラグリセリン脂肪酸エステルを含むほぐし剤を用いた炒飯(比較例17)では、ほぐれ性、食感の評価がともに低くかった。デカグリセリン脂肪酸エステルを含むほぐし剤を用いた炒飯(比較例18)では、食感は良好であったが、ほぐれ性の評価が低かった。
【0033】
6.焼きそばの調製(C~E法)及び評価
澱粉含有加工食品として、麺類の焼きそばを選択し、1.で調製した各ほぐし剤を用いて調製した。具体的には、まず、準強力粉(金蘭;昭和産業)100質量部、乾燥卵白0.2質量部、かんすい0.5質量部、食塩1質量部、水34質量部を横型ピンミキサーに投入した後、15分間混合し、生地を調製した。得られた生地をロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切刃:角22番)、麺線の厚さが1.5mmの生麺を調製した。調製した生麺を沸騰水中で茹で増重率160%になるように茹で、冷水で冷却した後、水切りして茹で中華麺を得た。得られた茹で中華麺を、以下のC~E法で調理し、焼きそばを調製した。
(C法)調製した茹で中華麺300gに、各ほぐし剤10gを添加して軽く撹拌した。ステンレス製フライパンに、キャノーラ油(昭和産業)を4g均一に塗布した後、コンロで加熱し、冷蔵保存した茹で中華麺を入れ、2分間程度炒め、火を止め、焼きそばソースを入れ混ぜ合わせ、焼きそばを調製した。
(D法)調製した茹で中華麺300gに、キャノーラ油(昭和産業)10gを添加して軽く撹拌した。ステンレス製フライパンに、キャノーラ油(昭和産業)を4g均一に塗布した後、熱し、前記茹で中華麺を入れ、2分間程度炒め、火を止め、焼きそばソースを入れ混ぜ合わせ、焼きそばを調製した。その後、調製した焼きそばに各ほぐし剤10gを添加し、軽く撹拌した。
(E法)調製した茹で中華麺300gに、各ほぐし剤10gを添加して軽く撹拌した後、焼きそばソースを入れ、混ぜ合わせた。次に、過熱水蒸気装置を用いて、温度200℃で5分間加熱し、焼きそばを調製した。
各方法で調製した焼きそばを冷却し、1日間冷蔵保存した後、レンジアップ調理(1500W、60秒間)し、上記2.と同様に官能評価を行った。官能評価の結果を表7に示す。
【0034】
【0035】
表7に示す通り、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、1~5質量部であり、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、5~8質量部であるほぐし剤を用いて、各方法で調製した焼きそば(実施例22~25)は、ほぐれ性、食感が良好であった。一方、食用油脂のみからなるほぐし剤を用いた焼きそばでは、前述のC法(比較例19)であっても、E法(比較例20)であっても、ほぐれ性、食感の評価がともに低くかった。
【0036】
以上の結果から、食用油脂、クルードレシチン、及びジグリセリン脂肪酸エステルを含み、前記クルードレシチンの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、0.6~6質量部であり、前記ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、前記食用油脂100質量部に対して、4~16質量部であることを特徴とするほぐし剤を用いて、澱粉含有加工食品を製造することで、麺類であっても、より結着し易い冷蔵及び/又は冷凍保存される澱粉含有加工食品であっても、得られる澱粉含有加工食品の食感を損なうことなく、ほぐれ性も改善することができることが示唆された。
【0037】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
本発明のほぐし剤を用いることで、食感を損なうことなく、澱粉含有加工食品、特に麺類の結着を防止し、ほぐれ性を改善することができる。また、本発明のほぐし剤、及び本発明の澱粉含有食品の製造方法を用いることで、より結着し易い冷蔵及び/又は冷凍保存される澱粉含有加工食品のほぐれ性も改善することができるので、特にコンビニエンスストアーやスーパーマーケットの総菜コーナー等で販売するのに適した澱粉含有加工食品を提供することができる。