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特開2024-176481中間形状算出装置及び中間形状算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176481
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】中間形状算出装置及び中間形状算出方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20241212BHJP
   B21J 1/04 20060101ALI20241212BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20241212BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20241212BHJP
【FI】
G06F30/20
B21J1/04
G06F30/10 100
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095035
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山田 崇恭
(72)【発明者】
【氏名】松島 慶
(72)【発明者】
【氏名】長藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】柳本 潤
(72)【発明者】
【氏名】小名 国仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一広
(72)【発明者】
【氏名】石倉 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲
【テーマコード(参考)】
4E087
5B146
【Fターム(参考)】
4E087DA02
5B146AA06
5B146DC04
5B146DJ00
(57)【要約】
【課題】鍛造工程で発生する成形エネルギを低減可能な、鍛造品の中間形状を算出する。
【解決手段】実施形態に係る中間形状算出装置1は、鍛造品の初期形状の設計データ、中間形状の変更前設計データ及び最終形状の設計データを用いて、前記初期形状から前記最終形状までの成形エネルギを算出する。また、中間形状算出装置1は、初期期形状から最終形状までの形状変位量を算出する。中間形状算出装置1は、成形エネルギと形状変位量とから求められる目的関数の収束を判定し、目的関数が収束していない場合、目的関数を減少させる中間形状を算出して、レベルセット関数によって定義された形状導関数に基づいて、変更前設計データを算出された中間形状の変更後設計データに更新する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造品の中間形状を示す設計データを繰り返し算出して、最終中間形状を示す設計データを特定する、中間形状算出装置であって、
鍛造品の初期形状の設計データ、前記中間形状の変更前設計データ及び最終形状の設計データを取得する取得部と、
取得した各設計データを用いて、前記初期形状から前記最終形状までの成形エネルギを算出する、成形エネルギ算出部と、
前記初期形状から前記最終形状までの形状変位量を算出する変位量算出部と、
前記成形エネルギと前記形状変位量とから求められる目的関数の変化量が所定値以下であるか否かに応じて当該目的関数の収束を判定する判定部と、
前記目的関数が収束していない場合、前記目的関数を減少させる中間形状を算出する中間形状算出部と、
レベルセット関数によって定義された形状導関数に基づいて、前記変更前設計データを算出された中間形状の変更後設計データに更新する更新部と、
を備える、
中間形状算出装置。
【請求項2】
前記目的関数は、前記成形エネルギと前記形状変位量をそれぞれ規格化した値の合計値である、
請求項1に記載の中間形状算出装置。
【請求項3】
前記目的関数が収束している場合、前記変更前設計データを、前記最終中間形状を示す設計データとして特定する、
請求項1に記載の中間形状算出装置。
【請求項4】
前記中間形状算出部は、随伴変数法を用いて、前記目的関数を減少させる中間形状を算出する、
請求項1に記載の中間形状算出装置。
【請求項5】
鍛造品の中間形状を示す設計データを繰り返し算出して、最終中間形状を示す設計データを特定する、中間形状算出方法であって、
コンピュータが、
鍛造品の初期形状の設計データ、前記中間形状の変更前設計データ及び最終形状の設計データを取得するステップと、
取得した各設計データを用いて、前記初期形状から前記最終形状までの成形エネルギを算出するステップと、
前記初期形状から前記最終形状までの形状変位量を算出するステップと、、
前記成形エネルギと前記形状変位量とから求められる目的関数の変化量が所定値以下であるか否かに応じて当該目的関数の収束を判定するステップと、
前記目的関数が収束していない場合、前記目的関数を減少させる中間形状を算出するステップと、
レベルセット関数によって定義された形状導関数に基づいて、前記変更前設計データを算出された中間形状の変更後設計データに更新するステップと、
を実行する、
中間形状算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間形状算出装置及び中間形状算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鍛造品の最終形状(又は、中間工程における途中形状)から、それ以前の工程における中間形状を求める鍛造品の形状決定方法が開示されている。特許文献1では、所定工程に対応する形状が既知である複数の既鍛造品の形状及びそれぞれにおける前工程での形状がデータベースに記憶されている。
【0003】
この方法では、新鍛造品と、予め記憶された既鍛造品との類似度を評価し、類似度が高い既鍛造品における前工程での形状を、新鍛造品における前工程での形状として選択している。また、特許文献1には、既鍛造品における前工程での形状を選択する際に、複数の形状を選択するとともに、この選択された複数の既鍛造品における前工程での形状を合成することにより、新鍛造品における前工程での形状を求める方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-234535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、データベースに新鍛造品に類似する既鍛造品のデータが格納されていければ、新鍛造品の良好な前工程での中間形状を決定することができない。また、複数の既鍛造品における前工程の形状を合成した形状が、新鍛造品の鍛造工程で発生する成形エネルギを低減可能なものであるとは限らない。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、鍛造工程で発生する成形エネルギを低減可能な、鍛造品の中間形状を算出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様に係る中間形状算出装置は、鍛造品の中間形状を示す設計データを繰り返し算出して、最終中間形状を示す設計データを特定する、中間形状算出装置であって、
鍛造品の初期形状の設計データ、前記中間形状の変更前設計データ及び最終形状の設計データを取得する取得部と、
取得した各設計データを用いて、前記初期形状から前記最終形状までの成形エネルギを算出する成形エネルギ算出部と、
前記初期形状から前記最終形状までの形状変位量を算出する変位量算出部と、
前記成形エネルギと前記形状変位量とから求められる目的関数の変化量が所定値以下であるか否かに応じて当該目的関数の収束を判定する判定部と、
前記目的関数が収束していない場合、前記目的関数を減少させる中間形状を算出する中間形状算出部と、
レベルセット関数によって定義された形状導関数に基づいて、前記変更前設計データを算出された中間形状の変更後設計データに更新する更新部と、
を備えるものである。
【0008】
一態様に係る中間形状算出方法は、鍛造品の中間形状を示す設計データを繰り返し算出して、最終中間形状を示す設計データを特定する、中間形状算出方法であって、
コンピュータが、
鍛造品の初期形状の設計データ、前記中間形状の変更前設計データ及び最終形状の設計データを取得するステップと、
取得した各設計データを用いて、前記初期形状から前記最終形状までの成形エネルギを算出するステップと、
前記初期形状から前記最終形状までの形状変位量を算出するステップと、、
前記成形エネルギ前記形状変位量とから求められる目的関数の変化量が所定値以下であるか否かに応じて当該目的関数の収束を判定するステップと、
前記目的関数が収束していない場合、前記目的関数を減少させる中間形状を算出するステップと、
レベルセット関数によって定義された形状導関数に基づいて、前記変更前設計データを算出された中間形状の変更後設計データに更新するステップと、
を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鍛造工程で発生する成形エネルギを低減可能な、鍛造品の中間形状を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る中間形状算出装置の機能構成を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る中間形状算出方法を説明するフロー図である。
図3】鍛造工程における鍛造品の形状変化を説明する図である。
図4】最適化された中間形状を形成する場合の、点A、点Bにおける変位量を説明する図である。
図5】最適化された中間形状を形成する場合の、鍛造工程で発生する成形エネルギを説明する図である。
図6】最適化された中間形状を形成する場合の、鍛造工程で発生する荷重を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0012】
図1は、実施形態に係る中間形状算出装置1の機能構成を示すブロック図である。中間形状算出装置1は、鍛造品の鍛造前の形状である初期形状と、鍛造後の形状である最終形状との間の中間形状の設計データを算出する。中間形状算出装置1は、例えば、車両用部品の鍛造工程における製品設計に用いられる。
【0013】
まず、鍛造工程について説明する。実施形態では、鍛造工程には、ビレットに金型成形を施す熱間型鍛造成形が用いられる。ビレットは、車両用部品の原材料である。ビレットとしては、例えば、所定の寸法に加工された棒状又は線状の金属材料が用いられる。
【0014】
通常、鍛造により製品を製作する場合、中間工程における中間形状の金型を用いて、段階を追って鍛造作業が行われる。鍛造工程は、例えば、第1中間工程と、第2中間工程と、仕上げ工程とを含む。第1中間工程は、初期形状を有するビレットを潰して第1中間形状に変形させる、いわゆるつぶし工程である。
【0015】
第2中間工程は、潰されたビレットに対して、荒地型を用いた予備成形により第2中間形状を有する粗形材へと変形させる荒地工程である。仕上げ工程は、仕上型を用いて、粗形材を最終形状へと変形させる工程である。本開示では、第1中間工程と、第2中間工程とを総じて「中間工程」とも呼び、第1中間形状と、第2中間形状とを総じて「中間形状」とも呼ぶ。
【0016】
図1に示すように、中間形状算出装置1は、処理部10、記憶部20、入出力部30を備える。処理部10は、形状算出機能と3次元データ生成機能を含む。形状算出機能は、いわゆるトポロジー最適化を利用して、鍛造により発生する成形エネルギを低減させるための中間形状の設定データを算出する機能である。
【0017】
本実施形態では、形状算出機能は、中間形状を示す設計データを繰り返し算出して、成形エネルギを最小化するための最終中間形状を示す設計データを特定する。成形エネルギとは、材料の変形によって発生する平均コンプライアンスを意味する。
【0018】
入出力部30は、画面等の表示装置、キーボード等の入力装置を含み得る。入出力部30は、表示装置と入力装置とが一体化したタッチパネルであってもよい。入出力部30は、生産条件等の設計値の入力等に用いられる。
【0019】
記憶部20は、フラッシュメモリやSSD(Solid State Drive)などの不揮発性メモリを含む。記憶部20には、実施形態において提供される機能を実現するための各種プログラムが格納されている。また、記憶部20の読み書き可能な領域には、中間形状を算出するための算出式21が格納されている。
【0020】
また、記憶部20は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリを含み、処理部10の動作時に一時的に情報を保持する。処理部10は、中間形状算出装置1が有するハードウェアの制御を行うプロセッサである。処理部10は、記憶部20からプログラムをメモリへ読み込ませ実行する。これにより、処理部10は、中間形状を算出するための上述した各機能の一部又は全部を実現する。
【0021】
処理部10は、取得部11、成形エネルギ算出部12、変位量算出部13、判定部14、中間形状算出部15、更新部16、3次元データ生成部17を含む。取得部11、成形エネルギ算出部12、変位量算出部13、判定部14、中間形状算出部15、更新部16が、形状算出機能を実現し、3次元データ生成部17が、3次元データ生成機能を実現する。
【0022】
取得部11は、鍛造品の初期形状の設計データ、中間形状の変更前設計データ及び最終形状の設計データを取得する。成形エネルギ算出部12は、取得した各設計データを用いて、初期形状から最終形状に変形するための成形エネルギを算出する。変位量算出部13は、初期形状から最終形状までの形状変位量を算出する。
【0023】
判定部14は、成形エネルギと形状変位量とから求められる目的関数の変化量が所定値以下であるか否かに応じて当該目的関数の収束を判定する。中間形状算出部15は、目的関数が収束していない場合、目的関数を減少させる中間形状を算出する。更新部16は、レベルセット関数によって定義された形状導関数に基づいて、変更前設計データを算出された中間形状の変更後設計データに更新する。
【0024】
3次元データ生成部17は、3次元CADソフトウェアなどであり、鍛造品の3次元モデルを描画する。3次元データ生成部17は、例えば、形状算出機能により生成された中間形状の設計データを、3次元点群データに含まれる3次元座標が示す点群に変換する。3次元データ生成部17は、変換された3次元座標を、3次元座標系にマッピングすることにより、鍛造品の3次元CADデータを生成する。生成された3次元CADデータは、入出力部30の表示装置などに出力される。
【0025】
中間形状算出装置1の各構成要素は、それぞれが専用のハードウェアで実現されていてもよい。また、各構成要素の一部又は全部は、汎用又は専用の回路、プロセッサ等やこれらの組合せによって実現されてもよい。これらは、単一のチップによって構成されてもよいし、バスを介して接続される複数のチップによって構成されてもよい。各構成要素の一部又は全部は、上述した回路等とプログラムとの組合せによって実現されてもよい。また、プロセッサとして、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、量子プロセッサ(量子コンピュータ制御チップ)等を用いることができる。
【0026】
図2は、実施形態に係る中間形状算出方法を説明するフロー図である。以下の説明では、技術の理解を容易にするために、例えば、ドライブピニオンなど、3次元構造が軸対称である製品を例として用いて説明する。
【0027】
ステップS11では、取得部11は、鍛造品の初期形状の設計データ、第1中間形状の初期設計データ、第2中間形状の初期設計データ、及び最終形状の設計データを設定する。これらの設計データは、例えば、製品設計を行う上位の製品設計管理システムなどから取得することができる。
【0028】
「初期設計データ」とは、中間形状算出処理を開始するために最初に与えられる設計データを意味する。すなわち、初期設計データは、中間形状算出装置1により実行される中間形状算出処理によって形状が変更される前の形状を示す設計データである。本実施形態では、第1中間形状の初期設計データには、初期形状と同じビレットの形状の設計データが与えられ、第2中間形状の初期設計データには、仕上げ工程後の最終形状と同じ形状の設計データが与えられる。ただし、これに限らず、初期設計データとして、任意の形状が設定されてもよい。
【0029】
次に、成形エネルギ算出部12は、取得した各設計データを用いて、初期形状から最終形状までの成形エネルギを算出する(ステップS12)。成形エネルギ算出部12は、3次元形状Ωにおいて、表面力をtに規定する境界∂Ωの各工程に要する成形エネルギを、外力のなす仕事とみなして、以下の式(1)により初期形状から最終形状までの成形エネルギJcompを算出することができる。
【0030】
【数1】
:変位場
εij:ひずみ
σij:応力
【0031】
なお、成形エネルギ算出部12は、以下の通り、各工程の成形エネルギをそれぞれ算出することも可能である。この場合、まず、各形状間の変位量が算出される。ここで、3次元形状Ωの線形弾性変形は、変位場uを用いた以下の式(2)及び式(3)によって表される。式(2)、式(3)は、状態方程式、弾性方程式、ナビエ・コーシー方程式(Navier-Cauchy equation)などとも呼ばれる。有限要素法を用いて、式(1)及び式(2)の数値解析を行うことで変位場uが得られる。
【0032】
【数2】
λ:ラメの第1定数
μ:ラメの第2定数
u:変位場
【0033】
【数3】
u’:境界上の強制変位
【0034】
そして、成形エネルギ算出部12は、算出した変位量を用いて、3次元形状Ωの変形時に発生し得る最小の成形エネルギを算出する。成形エネルギ算出部12は、初期形状から中間形状に変形するための第1成形エネルギと、中間形状から最終形状に変形するための第2成形エネルギとをそれぞれ算出する。鍛造工程が複数の中間工程を備える場合には、初期形状から最初の中間工程後の形状に変形する際に発生する成形エネルギを第1成形エネルギとし、最後の中間工程後の形状から最終形状に変形する際に発生する成形エネルギを第2成形エネルギとする。
【0035】
本実施形態では、成形エネルギ算出部12は、初期形状から第1中間形状、すなわちビレットの形状からつぶし工程後の形状に変形する際に発生する成形エネルギを第1成形エネルギとして算出し、第2中間形状から最終形状、すなわち、荒地工程後の形状から仕上げ工程後の形状に変形する際に発生する成形エネルギを第2成形エネルギとして算出する。また、第1中間形状から第2中間形状に変形する際に発生する成形エネルギを第3成形エネルギとして算出する。
【0036】
成形エネルギJの目的関数は、以下の式(4)で表すことができる。ここで、ε(u)=(∇u+∇uT)/2である。成形エネルギ算出部12は、以下の式(4)を用いて、第1成形エネルギ、第2成形エネルギ、及び第3成形エネルギを算出する。
【0037】
成形エネルギ算出部12、初期形状から最終形状に変化する際に発生する成形エネルギの合計値を算出する。本実施形態では、成形エネルギ算出部12は、算出した第1成形エネルギ、第2成形エネルギ、ならびに第3成形エネルギを積算して、成形エネルギの合計値を算出する。なお、中間工程が一つである場合には、形状算出部622は、第1成形エネルギと第2成形エネルギを積算して、成形エネルギの合計値を算出する。
【0038】
【数4】
ε(u):応力歪み場
C:弾性テンソル
【0039】
次に、変位量算出部13は、式(5)を用いて、初期形状から最終形状までの形状変位量Jdispを算出する(ステップS13)。
【数5】
u:変位場
なお、指数pは、変位量を計算する際に、変位が大きい部位をより強調するためのものである。
【0040】
ステップS14では、算出された成形エネルギと変位量とから目的関数を求める。この目的関数は、成形エネルギと形状変位量をそれぞれ規格化した値の合計値である。すなわち、目的関数Jは、以下の式(6)で表される。
【数6】
ここで、αは、成形エネルギと変位量を足し合わせて目的関数を計算する際に設定される重みを示す所定の定数である。
【0041】
ステップS15において、判定部14は、式(6)で得られる目的関数Jの変化量が所定値以下であるか否かに応じて当該目的関数の収束を判定する。本開示において、ステップS12~S15までの処理を「収束判定処理」とも呼ぶ。目的関数Jの変化量の収束は、中間形状の最適化の完了を意味する。判定部14は、目的関数Jの変化量が所定の値より大きい場合には、成形エネルギは収束していないと判定し(S15、NO)、処理をステップS16へと移行する。なお、ステップS15が初回である場合には、判定部14は、成形エネルギが収束していないと判定し(S15、NO)、ステップS16へと移行する。
【0042】
ステップS16では、中間形状算出部15は、目的関数Jを減少させる中間形状を算出する。本実施形態では、中間形状算出部15は、目的関数を減少させる中間形状を、随伴変数法に基づく感度計算を用いて算出する。感度計算には、目的関数Jの設計感度である、以下の式(7)の形状導関数が用いられる。レベルセット法の設計感度には、最急降下方向が用いられる。
【数7】

n:単位法線ベクトル
∂θ:微小変位ベクトル
【0043】
ステップS17では、更新部16は、レベルセット関数によって定義された形状導関数に基づいて、変更前設計データを算出された中間形状の変更後設計データに更新する。具体的には、更新部16は、算出した中間形状を用いて、レベルセット関数によって定義された形状導関数から中間形状の変更後の設計データを算出する。中間形状の変更後の形状は、以下の式(8)で示される反応拡散方程式により算出される。定数Kは、例えば剛性行列で表すことができる。また、定数τは、形状の複雑さを規定している。
【数8】

φ:レベルセット関数
J’:形状導関数
L:代表長さ
τ、K:最適化のパラメータ
【0044】
更新部16が中間形状の変更後設計データを算出すると、処理はステップS12に移行する。成形エネルギ算出部12は、中間形状の変更後の設計データを用いて、成形エネルギ、変位量を算出して、さらに収束判定処理を実行する。収束判定処理は、目的関数Jが収束するまで繰り返し実行される。
【0045】
ステップS15において、目的関数Jが収束した場合(ステップS15、YES)、処置はステップS18へと移行する。ステップS18では、目的関数Jが収束した時の中間形状が最終中間形状として特定される。3次元データ生成部17は、最終中間形状として特定された中間形状の設計データを3DCADデータに変換して、処理を終了する。
【0046】
図3~6を用いて、中間形状算出装置1による中間形状算出の効果について説明する。ここでは、上記の式(6)においてα=0.5、式(5)においてp=3とした。図3は、鍛造工程における鍛造品の形状変化を説明する図である。図3の上段には、比較例として従来技術により得られた最終中間形状を含む製品の形状変化(「従来形状」とする)が示されており、図3の下段には、本開示の中間形状算出装置1により得られた最終中間形状を含む製品の形状変化(「最適化形状」とする)が示されている。
【0047】
図3に示す各製品の形状は、軸対称形状を有している。なお、図3では、技術の理解を容易にするために、各製品の形状は、線対称となる断面形状のうち中心軸に対して一方側の断面形状のみが示されている。
【0048】
図3に示すように、形状FR1及び形状F1には、互いに同一のビレットの形状が与えられている。また、形状FR4及び形状F4には、互いに同一の最終形状が与えられている。形状FR2及び形状F2は、第1中間形状であり、形状FR3及び形状F3は、第2中関形状である。図3に示すように、従来形状と最適化形状とでは、第1中間形状及び第2中間形状は、互いに異なる形状を有している。
【0049】
図4は、最適化された中間形状を形成する場合の、点A、点Bにおける変位量を説明する図である。図5は、最適化された中間形状を形成する場合の、鍛造工程で発生する成形エネルギを説明する図である。図6は、最適化された中間形状を形成する場合の、鍛造工程で発生する荷重を説明する図である。図4~6において、網掛け部がつぶし工程、白色部が荒地工程、斜線部が仕上工程に対応する。すなわち、網掛け部は初期形状から第1中間形状に変形する時、白色部は第1中間形状から第2中間形状に変形する時、斜線部は第2中間形状から最終形状に変形する時に対応している。
【0050】
図4に示すように、従来形状から最適化形状にすることで、各工程における変位量はいずれも減少し、点A、点Bの同時フィルアップに近い結果が得られることが分かる。また、図5に示すように、本開示に係る中間形状算出装置1によれば、中間形状の最適化により、鍛造工程に係る成形エネルギを23%低減することができる。さらに、図6に示すように、鍛造工程に係る荷重の合計値を7%低減することが可能となる。
【0051】
以上、説明したように、本実施形態の中間形状算出装置1によれば、鍛造品のデータを有するデータベースを用いることなく中間工程の形状を算出することができ、中間形状算出装置1の構成を簡略化することができる。
【0052】
また、実施形態によれば、鍛造工程の中間形状の設計において、鍛造成形エネルギと変位量の合計値を目的関数とし、レベルセット法を用いたトポロジー最適化計算によって中間形状を導出する。すなわち、成形エネルギ及び変位量(摩擦エネルギにほぼ等しい)の合計値(荷重にほぼ等しい)を最小化するため、製品や型への負荷がより少ない工程を設計することができる。すなわち、実施形態によれば、製品のキズ等の成形不具合を抑制し、型の摩耗を低減することが可能な工程を設計することが可能となる。
【0053】
中間形状は、初期形状から変形された第1中間形状と、最終形状に変形される前の第2中間形状と、を含んでいる。1回目の収束判定処理では、第1中間形状の初期設計データに、初期形状と同じ形状の設計データが与えられ、第2中間形状の初期設計データには、最終形状と同じ形状の設計データが与えられる。したがって、収束判定処理の初期設計データを簡易に設定することができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、中間形状は、鍛造成形エネルギと変位量の合計値を目的関数とする、随伴変数法に基づく感度計算を用いて算出される。随伴変数法を用いることにより設計変数ごとの計算を省略することができ、計算コストを低減することができる。
【0055】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。上記実施形態では、鍛造工程が第1中間工程と、第2中間工程との二つの中間工程を備える例を示したが、鍛造工程は、いずれか一方のみを有する一つの中間工程を備えてもよい。また、上述の例では、随伴変数法に基づく感度計算を用いて中間形状を算出したが、これに限定されず、例えば、直接微分法や差分近似法などを用いた感度計算により、中間形状を算出してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 中間形状算出装置
10 処理部
11 取得部
12 成形エネルギ算出部
13 変位量算出部
14 判定部
15 中間形状算出部
16 更新部
17 3次元データ生成部
20 記憶部
30 入出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6