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特開2024-17654積層フィルム、ウインドシールドガラス、および、ヘッドアップディスプレイシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017654
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】積層フィルム、ウインドシールドガラス、および、ヘッドアップディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240201BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240201BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240201BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20240201BHJP
   B60J 1/02 20060101ALI20240201BHJP
   C09B 57/00 20060101ALI20240201BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240201BHJP
   C03C 27/12 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/26
G02B5/22
G02B27/01
B60J1/02 M
C09B57/00 Z
B32B7/023
C03C27/12 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120449
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】安西 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大輔
【テーマコード(参考)】
2H148
2H199
4F100
4G061
【Fターム(参考)】
2H148AA06
2H148AA16
2H148AA18
2H148AA24
2H148CA04
2H148CA06
2H148CA12
2H148CA17
2H148FA04
2H148FA09
2H148FA12
2H199DA03
2H199DA17
2H199DA19
2H199DA28
4F100AG00E
4F100AS00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100CB03D
4F100GB41
4F100JD10A
4F100JD10B
4F100JL10E
4F100JL12D
4F100JN01
4F100JN06B
4F100JN10C
4F100YY00A
4F100YY00B
4G061AA20
4G061AA25
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB19
4G061CD03
4G061CD18
4G061DA23
4G061DA29
4G061DA30
4G061DA38
(57)【要約】
【課題】視線追跡システムを有するヘッドアップディスプレイに適用した際に、顔認証および/または視線追跡の精度を向上できる、積層フィルム、ならびに、この積層フィルムを用いるウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを提供する。
【解決手段】赤外光吸収層と、赤外光選択反射層とを有する、積層フィルムであって、赤外光選択反射層が、コレステリック液晶層であり、積層フィルムの可視光透過率が70%以上であり、積層フィルムは、900~1200nmの範囲に反射波長ピークを有し、積層フィルムは、800~1100nmの範囲に吸収波長ピークを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光吸収層と、赤外光選択反射層とを有する、積層フィルムであって、
前記赤外光選択反射層が、コレステリック液晶層であり、
前記積層フィルムの可視光透過率が70%以上であり、
前記積層フィルムは、900~1200nmの範囲に反射波長ピークを有し、
前記積層フィルムは、800~1100nmの範囲に吸収波長ピークを有する、積層フィルム。
【請求項2】
可視光透過率が80%以上である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
入射角65度における波長950nmの無偏光反射率が50%以上であり、透過率が10%以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記赤外光吸収層は、波長800~1100nmの範囲に極大吸収波長を有する近赤外線吸収物質を含有する、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記近赤外線吸収物質は、ピロロピロール色素、シアニン色素から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記赤外光選択反射層に隣接して形成される偏光変換層を有する、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記赤外光吸収層に隣接して配置されるヒートシール層を有する、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記ヒートシール層の厚さは0.1~10μmである、請求項7に記載の積層フィルム。
【請求項9】
第1のガラス板と、第2のガラス板と、前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に配置される請求項1~8のいずれかに記載の積層フィルムと、を有する、ウインドシールドガラス。
【請求項10】
前記第1のガラス板および前記第2のガラス板は、曲面ガラスであり、
前記第2のガラス板は凹面を前記第1のガラス板に向けて配置されており、
前記積層フィルムは、前記ヒートシール層を前記第2のガラス板に隣接して配置されている、請求項9に記載のウインドシールドガラス。
【請求項11】
前記第1のガラス板と前記積層フィルムとの間に、中間膜を有する、請求項9に記載のウインドシールドガラス。
【請求項12】
前記第1のガラス板はクリアガラスであり、前記第2のガラス板はグリーンガラスである、請求項9に記載のウインドシールドガラス。
【請求項13】
入射角65度における波長950nmの無偏光反射率が50%以上であり、入射角65度における波長950nmの透過率が1%以下である、請求項9に記載のウインドシールドガラス。
【請求項14】
請求項9に記載のウインドシールドガラスと、前記ウインドシールドガラスに反射された赤外光を検出する赤外光検出装置とを有するヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイシステムのコンバイナとして使用できる積層フィルム、ならびに、この積層フィルムを有するウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両等のウインドシールドガラスに画像を投映し、運転者等に、地図、走行速度、および、車両の状態等の様々な情報を提供する、ヘッドアップディスプレイ(HUD)またはヘッドアップディスプレイシステムと呼ばれるものが知られている。
ヘッドアップディスプレイシステムでは、ウインドシールドガラスに投映された、上述の様々な情報を含む画像の虚像が、運転者等に観察される。虚像の結像位置は、ウインドシールドガラスより車外前方側に位置する。虚像の結像位置は、通常、ウインドシールドガラスより1000mm以上、前方側であり、ウインドシールドガラスよりも外界側に位置する。これにより、運転者は、前方の外界を見ながら、視線を大きく動かすことなく、上述の様々な情報を得ることができる。そのため、ヘッドアップディスプレイシステムを用いた場合、様々な情報を得ながら、より安全に運転を行うことが期待されている。
【0003】
このようなヘッドアップディスプレイシステムにおいて、赤外光を用いて運転手の顔を検出して、目線および/または顔の動きを検出する視線追跡システムを組み合わせることが考えられている。視線追跡システムを有するヘッドアップディスプレイシステムは、例えば、検出した目線および/または顔の動きに応じて、HUDが表示する画像の表示位置を変えたり、顔認証を行ったりすることができる。
【0004】
HUDに用いる視線追跡システムは、赤外光照射装置から赤外光をウインドシールドガラスに照射し、ウインドシールドガラスが有する反射層で赤外光を反射して運転者の顔あるいは瞳に赤外光を照射し、反射した赤外光を反射層で反射してIR(赤外光)センサーで受光することで、運転者にHUD画像を表示するとともに、運転者の顔あるいは瞳(虹彩)を検出する。このようなHUDに用いる視線追跡システムには、可視光を透過し、赤外線を反射する積層フィルムが用いられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、可視光選択反射層と、赤外光選択反射層とを、有し、可視光選択反射層が、380nm~850nmの範囲に反射ピークを少なくとも1つ有し、反射ピークの波長における自然光反射率が5%~25%であり、赤外光選択反射層が、要件1または要件2を満たす、反射フィルムが記載されている。
要件1:900nm~1200nmの範囲において2つ以上の反射ピークを有し、それぞれの反射ピークの波長における自然光反射率が26%以上である。
要件2:900nm~1200nmの範囲において1つの反射ピークを有し、反射ピークの波長における自然光反射率が26%以上であり、900nm~1200nmの範囲における反射率の最大値と最小値との平均値よりも反射率が高い領域の波長帯域幅が120nm~500nmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2022/075184号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなHUDに利用される視線追跡システムにおいて、視線追跡および/または顔認証の更なる精度向上が求められている。
【0008】
本発明の課題は、視線追跡システムを有するヘッドアップディスプレイに適用した際に、顔認証および/または視線追跡の精度を向上できる、積層フィルム、ならびに、この積層フィルムを用いるウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 赤外光吸収層と、赤外光選択反射層とを有する、積層フィルムであって、
積層フィルムの可視光透過率が70%以上であり、
積層フィルムは、900~1200nmの範囲に反射波長ピークを有する、
積層フィルムは、800~1100nmの範囲に吸収波長ピークを有する、積層フィルム。
[2] 可視光透過率が80%以上である、[1]に記載の積層フィルム。
[3] 入射角65度における波長950nmの無偏光反射率が50%以上であり、透過率が10%以下である、[1]または[2]に記載の積層フィルム。
[4] 赤外光吸収層は、波長800~1100nmの範囲に極大吸収波長を有する近赤外線吸収物質を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の積層フィルム。
[5] 近赤外線吸収物質は、ピロロピロール色素、シアニン色素から選ばれる少なくとも1種である、[4]に記載の積層フィルム。
[6] 赤外光選択反射層に隣接して形成される偏光変換層を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の積層フィルム。
[7] 赤外光吸収層に隣接して配置されるヒートシール層を有する、請求項[1]~[6]のいずれかに記載の積層フィルム。
[8] ヒートシール層の厚さは0.1~10μmである、[7]に記載の積層フィルム。
[9] 第1のガラス板と、第2のガラス板と、第1のガラス板と第2のガラス板との間に配置される[1]~[8]のいずれかに記載の積層フィルムと、を有する、ウインドシールドガラス。
[10] 第1のガラス板および第2のガラス板は、曲面ガラスであり、
第2のガラス板は凹面を第1のガラス板に向けて配置されており、
積層フィルムは、ヒートシール層を第2のガラス板に隣接して配置されている、[9]に記載のウインドシールドガラス。
[11] 第1のガラス板と積層フィルムとの間に、中間膜を有する、[9]または[10]に記載のウインドシールドガラス。
[12] 第1のガラス板はクリアガラスであり、第2のガラス板はグリーンガラスである、[9]~[11]のいずれかに記載のウインドシールドガラス。
[13] 入射角65度における波長950nmの無偏光反射率が50%以上であり、入射角65度における波長950nmの透過率が1%以下である、[9]~[12]のいずれかに記載のウインドシールドガラス。
[14] [9]~[13]のいずれかに記載のウインドシールドガラスと、ウインドシールドガラスに反射された赤外光を検出する赤外光検出装置とを有するヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、視線追跡システムを有するヘッドアップディスプレイに適用した際に、顔認証および/または視線追跡の精度を向上できる、積層フィルム、ならびに、この積層フィルムを用いるウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の積層フィルムの一例を概念的に示す図である。
図2】本発明の積層フィルムの他の一例を概念的に示す図である。
図3】本発明の積層フィルムを有するウインドシールドガラスを備えるヘッドアップディスプレイの一例を示す模式図である。
図4】本発明の積層フィルムを有するウインドシールドガラスの一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の積層フィルム、ならびに、ウインドシールドガラスおよびヘッドアップディスプレイシステムを詳細に説明する。
なお、以下に説明する図は、本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す図に本発明が限定されるものではない。
なお、以下において数値範囲を示す「~」とは両側に記載された数値を含む。例えば、ε1が数値α1~数値β1とは、ε1の範囲は数値α1と数値β1を含む範囲であり、数学記号で示せばα1≦ε1≦β1である。
「具体的な数値で表された角度」、「平行」、「垂直」および「直交」等の角度は、特に記載がなければ、該当する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含む。
また、「同一」とは該当する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、「全面」等も該当する技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含む。
【0013】
「光」という場合、特に断らない限り、可視光かつ自然光(非偏光、無偏光)の光を意味する。可視光は電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、通常、380~780nmの波長域の光を示す。非可視光は、380nm未満の波長領域または780nmを超える波長領域の光である。
また、これに制限されるものではないが、可視光のうち、420nm~490nmの波長領域の光は青色(B)光であり、495nm~570nm未満の波長領域の光は緑色(G)光であり、620nm~750nmの波長領域の光は赤色(R)光である。
【0014】
「可視光透過率」はJIS(日本工業規格) R 3212:2015(自動車用安全ガラス試験方法)において定められたA光源可視光線透過率とする。すなわち、A光源を用い分光光度計にて、波長380~780nmの範囲の各波長の透過率を測定し、CIE(国際照明委員会)の明順応標準比視感度の波長分布および波長間隔から得られる重価係数を各波長での透過率に乗じて加重平均することによって求められる透過率である。
単に「反射光」または「透過光」というときは、散乱光および回折光を含む意味で用いられる。
【0015】
p偏光は光の入射面に平行な方向に振動する偏光を意味する。入射面は反射面(ウインドシールドガラス表面等)に垂直で入射光線と反射光線とを含む面を意味する。p偏光は電場ベクトルの振動面が入射面に平行である。
【0016】
正面位相差は、Axometrics社製のAxoScanを用いて測定した値である。測定波長は特に言及のないときは、波長550nmとする。正面位相差はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器社製)において可視光波長域内の波長の光をフィルム法線方向に入射させて測定した値を用いることもできる。測定波長の選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
【0017】
「投映像(projection image)」は、前方等の周囲の風景ではない、使用するプロジェクターからの光の投射に基づく映像を意味する。投映像は、観察者から見てウインドシールドガラスの積層フィルムの先に浮かび上がって見える虚像として観測される。
「画像(screen image)」はプロジェクターの描画デバイスに表示される像または、描画デバイスにより中間像スクリーン等に描画される像を意味する。虚像に対して、画像は実像である。
画像および投映像は、いずれも単色の像であっても、2色以上の多色の像であっても、フルカラーの像であってもよい。
【0018】
[積層フィルム]
本発明の積層フィルムは、
赤外光吸収層と、赤外光選択反射層とを有する、積層フィルムであって、
赤外光選択反射層が、コレステリック液晶層であり、
積層フィルムの可視光透過率が70%以上であり、
積層フィルムは、900~1200nmの範囲に反射波長ピークを有し、
積層フィルムは、800~1100nmの範囲に吸収波長ピークを有する、積層フィルムである。
【0019】
図1は、本発明の積層フィルムの一例を概念的に示す図である。図1に示す積層フィルム10aは、厚さ方向に積層された赤外光選択反射層14と赤外光吸収層20とヒートシール層36とをこの順に有する。
【0020】
赤外光選択反射層14と赤外光吸収層20とヒートシール層36とを有する積層フィルム10aは、ウインドシールドガラスに組み込まれてヘッドアップディスプレイシステム(HUD)に用いられる。
具体的には、本発明の積層フィルム10aを有するHUDは、赤外光照射装置から赤外光をウインドシールドガラスに照射し、ウインドシールドガラスが有する積層フィルム10aが有する赤外光選択反射層14で赤外光を反射して運転者の顔あるいは瞳に赤外光を照射し、反射した赤外光を赤外光選択反射層14で反射してIR(赤外光)センサーで受光する。これにより、本発明の積層フィルム10aを有するHUDは、運転者の顔あるいは虹彩を検出することができる。
【0021】
赤外光選択反射層14はコレステリック液晶層からなるものであり、波長選択反射性を有する。そのため、赤外光選択反射層14としてコレステリック液晶層を用いることにより、積層フィルム10aを赤外光に対しての反射性能を高くしつつ、ウインドシールドに利用可能な70%以上の高い可視光透過率を確保することができる。
【0022】
ここで、フロントガラスの外から太陽光が入射し、太陽光に含まれる赤外光(以下、ノイズ光ともいう)がIRセンサー(IRカメラ)に入射すると、運転者の顔あるいは瞳で反射した赤外光(以下、測定光ともいう)をIRセンサーで受光する際のノイズとなってしまう。そのため、視線追跡および/または顔認証の精度が低くなるおそれがあることがわかった。
【0023】
これに対して、本発明の積層フィルム10aは、赤外光選択反射層14に加えて、赤外光吸収層20およびヒートシール層36を有し、積層フィルム10aが、900~1200nmの範囲に反射波長ピークを有し、また、積層フィルム10aが、800~1100nmの範囲に吸収波長ピークを有する。
【0024】
赤外光選択反射層14は、フロントガラスの外から入射するノイズ光を外側に向けて反射するが、反射率が十分に高くないため、一部のノイズ光は透過してしまう。そこで、積層フィルム10aが、赤外光選択反射層14よりも外部側に赤外光吸収層20を有することにより、ノイズ光を吸収することができ、IRセンサーに入射するノイズ光を低減できる。
【0025】
ここで、フロントガラスに組み込まれた積層フィルム10aに対して、運転者の顔あるいは瞳で反射された赤外光(測定光)は斜め方向から入射する。赤外光選択反射層14として用いられるコレステリック液晶層は、斜め方向から入射する光に対して、いわゆる、短波シフト(ブルーシフト)を生じるため、測定光の波長よりも、コレステリック液晶層の選択反射波長を長波長側に設定する必要がある。
【0026】
一般に、虹彩認証には、波長810nmの赤外光が用いられている。一方、顔認証には、波長850nm、または、940nmの赤外光が用いられている。積層フィルム10aは、斜め方向から入射するこのような波長の光を反射する必要がある。したがって、本発明においては、積層フィルム10aは、900~1200nmの範囲に反射波長ピークを有するものとすることで、各種の認証に用いられる波長810nm、850nm、および、940nmの赤外光を好適に反射することができる。
【0027】
一方で、赤外光吸収層20の吸収波長は、光の入射角度によって変動しない。
【0028】
そこで、主に赤外光選択反射層14によって定まる積層フィルム10aの反射波長ピークと、主に赤外光吸収層20によって定まる積層フィルム10aの吸収波長ピークとを異なる範囲にすることで、運転者の顔あるいは瞳で反射された赤外光(測定光)を高い反射率で反射でき、かつ、この測定光と同じ波長域のノイズ光を赤外光吸収層20で吸収することができ、IRセンサーに入射するノイズ光を低減できる。これにより、積層フィルム10aを有するウインドシールドガラスを用いたHUDにおける視線追跡および/または顔認証の精度を高くすることができる。
積層フィルム10aの主面に垂直な方向から入射した際の反射波長ピークと、吸収波長ピークとの差は150nm~250nmが好ましい。
【0029】
ここで、積層フィルム10aの赤外光の反射波長ピークは、積層フィルム10aの主面に対して、光を垂直に入射した際に反射波長ピークであり、以下のようにして測定する。
積層フィルムをガラス板の表面に貼り、ガラス板の裏面に黒色PETフィルム(光吸収体)を貼り合わせる。分光光度計(日本分光株式会社製、V-670)を用いて、積層フィルムの表面から法線方向に対し5°の方向からp偏光およびs偏光をそれぞれ入射し、400nm~1500nmの反射スペクトルをそれぞれ測定する。測定したp偏光の反射スペクトルとs偏光の反射スペクトルの平均値(平均の反射スペクトル)を求める。
【0030】
なお、p偏光を入射した際の反射率とs偏光を入射した際の反射率との平均値は、無偏光(自然光)を入射した際の反射率と同義である。すなわち、p偏光の反射スペクトルとs偏光の反射スペクトルの平均値は、自然光を入射した際の反射スペクトルと同義である。
【0031】
算出したp偏光とs偏光の反射スペクトルの平均値から、波長780nm~1500nmの帯域にある反射ピーク(極大値の最大値)を反射ピークとして抽出し、その波長および反射率を算出する。
【0032】
なお、反射ピークの波長帯幅は、波長780nm~1500nmの帯域における反射率の最大値と最小値の平均値よりも反射率が高い領域の幅である。
【0033】
また、積層フィルム10aの赤外光の吸収波長ピークは、以下のようにして測定する。
積層フィルムをガラス板の表面に貼り、分光光度計(日本分光株式会社製、V-670)を用いて、積層フィルムの表面から法線方向に対し5°の方向からp偏光およびs偏光をそれぞれ入射し、400nm~1500nmの透過スペクトルをそれぞれ測定する。測定したp偏光の透過スペクトルとs偏光の透過スペクトルの平均値(平均の透過スペクトル)を求める。
【0034】
なお、p偏光を入射した際の透過率とs偏光を入射した際の透過率との平均値は、無偏光(自然光)を入射した際の透過率と同義である。すなわち、p偏光の透過スペクトルとs偏光の透過スペクトルの平均値は、自然光を入射した際の透過スペクトルと同義である。
【0035】
算出したp偏光とs偏光の透過スペクトルの平均値から、波長780nm~1500nmの帯域にある透過ピーク(極小値の最小値)を透過ピークとして抽出し、吸収率=1-透過率-反射率から、波長および吸収率を算出する。
【0036】
なお、吸収ピークの波長帯幅は、波長780nm~1500nmの帯域における吸収率の最大値と最小値の平均値よりも吸収率が高い領域の幅である。
【0037】
積層フィルム10aの赤外光の反射波長ピークは、960nm~1320nmの範囲にあることが好ましく、1080nm~1200nmの範囲にあることがより好ましく、1100nm~1170nmの範囲にあることがさらに好ましい。また、積層フィルム10aの赤外光の反射波長ピークにおける反射率は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。反射率の上限は100%であることが好ましい。また、積層フィルム10aの赤外光の反射波長ピークの半値幅は、反射帯域が可視光にかからない範囲で広いほど好ましく、100nm~500nmが好ましく、110nm~400nmがより好ましく、120nm~300nmがさらに好ましい。
【0038】
積層フィルム10aの赤外光の吸収波長ピークは、800nm~1100nmの範囲にあることが好ましく、900nm~1000nmの範囲にあることがより好ましく、920nm~970nmの範囲にあることがさらに好ましい。また、積層フィルム10aの赤外光の吸収波長ピークにおける吸収率は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。吸収率の上限は100%であることが好ましい。また、積層フィルム10aの赤外光の吸収波長ピークの半値幅は、吸収帯域が可視光にかからない範囲で広いほど好ましく、50nm~500nmの範囲にあることが好ましく、70nm~400nmの範囲にあることがより好ましく、90nm~300nmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0039】
積層フィルムの可視光透過率の測定方法は上述のとおりである。
積層フィルムの可視光透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましく、87%以上がさらに好ましい。
【0040】
また、積層フィルムは、入射角65度における波長950nmの無偏光反射率が50%以上であり、透過率が10%以下であることが好ましい。また、入射角65度における波長950nmの無偏光透過率は、3%以下がより好ましい。これにより、積層フィルムをフロントガラスに組み込んだ際に、測定光の反射率を高くすることができ、また、フロントガラスにおける外部からの赤外光(ノイズ光)の透過率をより好適に低減できるため、運転者の顔あるいは瞳で反射された赤外光(測定光)をより好適に反射でき、かつ、IRセンサーに入射するノイズ光をより好適に低減できる。
【0041】
積層フィルムの、入射角65度における波長950nmの無偏光反射率、および、透過率はそれぞれ以下のようにして測定できる。
赤外光選択反射層側から積層フィルムの法線方向に対し65°の方向から無偏光を入射し、その反射光を分光光度計(日本分光株式会社製、V-670)で測定し、反射率スペクトルを求めた。800~1500nmでの1nm毎の波長を測定し、950nmにおける反射率を評価した。
ヒートシール層(赤外光吸収層)側から積層フィルムの法線方向に対し65°の方向から無偏光を入射し、その透過光を分光光度計(日本分光株式会社製、V-670)で測定し、透過率スペクトルを求めた。800~1500nmでの1nm毎の波長を測定し、950nmにおける透過率を評価した。
【0042】
ここで、図1に示す例では、積層フィルム10aは、赤外光選択反射層14を1層有する構成としたが、これに限定はされない。赤外光選択反射層として用いられるコレステリック液晶層は、選択反射波長の右円偏光または左円偏光を反射する。従って、積層フィルムは、略同じ選択反射波長で右円偏光を反射するコレステリック液晶層(赤外光選択反射層)と左円偏光を反射するコレステリック液晶層(赤外光選択反射層)とを有していてもよい。また、前述のとおり、虹彩認証には、波長810nmの赤外光が用いられている。一方、顔認証には、波長850nm、または、940nmの赤外光が用いられている。従って、積層フィルムは、これらの波長に対応する、異なる選択反射波長を有する複数のコレステリック液晶層(赤外光選択反射層)を有していてもよい。これにより、1つの積層フィルムで、種々の認証に対応することができる。
【0043】
また、本発明の積層フィルムは、偏光変換層を有していてもよい。
図2は、本発明の積層フィルムの他の一例を概念的に示す図である。
図2に示す積層フィルム10bは、偏光変換層24と赤外光選択反射層14と赤外光吸収層20とヒートシール層36とをこの順に有する。すなわち、積層フィルム10bは、図1に示す積層フィルム10aにおいて、赤外光選択反射層14に隣接して偏光変換層24を設けた構成を有する。
【0044】
偏光変換層は、入射する偏光に対して偏光状態を変化させる偏光変換の機能を有する層である。偏光変換層としては、λ/4板等の位相差層、コレステリック液晶層、液晶分子が厚さ方向にねじれて配列されている旋光層等が挙げられる。
【0045】
積層フィルムが有する赤外光選択反射層は、コレステリック液晶層であり、コレステリック液晶相の螺旋構造を有しており、赤外域のピーク反射波長よりも短波長である可視光に対して旋光性と複屈折性を示すため、可視域の偏光を変化させる。車両等においてウインドシールドガラスの外部から侵入する、いわゆるギラツキ成分は、多くがs偏光であり、偏光サングラスは、s偏光成分を遮光するようになっている。しかしながら、このようなウインドシールドガラスの外側から入射したs偏光が、赤外光選択反射層であるコレステリック液晶層を透過して偏光状態がs偏光成分以外を含む状態に変化すると、偏光サングラスではs偏光成分以外が遮光できなくなってしまう。
これに対して、積層フィルム10bは、偏光変換層24を有することにより、赤外光選択反射層であるコレステリック液晶層によって偏光変換された光をs偏光に戻すことができ、偏光サングラス適性を改善できる。
【0046】
また、本発明の積層フィルムは、HUDが表示する画像を表示するための、可視光選択反射層を有していてもよい。
可視光選択反射層は、380nm~850nmの波長範囲の光、すなわち、主に可視光を選択的に反射し、他の波長域の光(赤外光)を透過する反射層である。
【0047】
積層フィルムは、380nm~850nmの範囲の光を反射する可視光選択反射層を有することにより、ウインドシールドガラスに組み込まれ、車載用のヘッドアップディスプレイシステム(HUD)に利用された際に、ウインドシールドガラスに投映された画像を運転者等に反射して、投映された画像の虚像を運転者等に視認させることができる。
【0048】
可視光選択反射層としては、HUDに用いられる積層フィルムが有する可視光選択反射層が適宜利用可能である。一例として、国際公開第2022/075184号の段落[0022]~[0080]に記載の可視光選択反射層を用いることができる。
【0049】
なお、本発明の積層フィルムは、可視光選択反射層を有さない構成であってもよい。その場合には、本発明の積層フィルムをウインドシールドガラスに組み込む際に、可視光選択反射層を有する反射フィルムと積層してウインドシールドガラスに組み込んでもよいし、本発明の積層フィルムと可視光選択反射層を有する反射フィルムとを、ウインドシールドガラスの面方向の異なる位置に組み込んでもよい。
以下、本発明の積層フィルムの構成要素について説明する。
【0050】
<赤外光選択反射層>
赤外光選択反射層は、赤外光を選択的に反射し、他の波長域の光(可視光)を透過する反射層である。
【0051】
赤外光選択反射層は、所定の波長域の光を選択的に反射し、他の波長域の光を透過する少なくとも1層の反射層からなる。赤外光選択反射層は、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層により構成される。
【0052】
例えば、図1に示す例のように、赤外光選択反射層14が、1つの反射層からなる場合には、反射層となるコレステリック液晶層の選択反射波長および波長帯域幅等を調整することで、赤外光選択反射層14が、900nm~1200nmの範囲に反射波長ピークを有するものとすることができる。
また、例えば、後述する図4に示す積層フィルム10のように、赤外光選択反射層として右円偏光反射層14Rと左円偏光反射層14Lとを有する構成とし、右円偏光反射層14Rと左円偏光反射層14Lとを同じ選択反射波長かつ互いに直交する円偏光を反射するものとすることもできる。
ここで、互いに直交する偏光とは、例えばポアンカレ球における北極点と南極点など、互いにポアンカレ球の裏側に位置する偏光である。具体的には、互いに直交する偏光とは、例えば、円偏光であれば右円偏光と左円偏光であり、直線偏光であれば互いに直交する直線偏光である。
【0053】
また、前述のとおり、赤外光選択反射層として、選択反射波長が異なる複数の赤外光選択反射層を有するものとしてもよい。
【0054】
次に、赤外光選択反射層となるコレステリック液晶層の構成について説明する。
【0055】
<コレステリック液晶層>
本発明において、コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相を固定した層を意味する。コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている層であればよい。例えば、コレステリック液晶層は、重合性液晶化合物をコレステリック液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射または加熱等によって重合させて、硬化させて得られる層である。コレステリック液晶層は、流動性が無く、同時に、外場または外力によって配向状態に変化を生じさせることがない状態に変化した層であることが好ましい。
なお、コレステリック液晶層においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、層中の液晶化合物はもはや液晶性を示していなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0056】
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。一般的なコレステリック液晶相において、選択反射の中心波長(選択反射中心波長)λは、コレステリック液晶相における螺旋ピッチPに依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、この螺旋ピッチを調節することによって、選択反射中心波長を調節できる。コレステリック液晶相の選択反射中心波長は、螺旋ピッチが長いほど、長波長になる。
なお、螺旋ピッチとは、すなわち、コレステリック液晶相の螺旋構造1ピッチ分(螺旋の周期)であり、言い換えれば、螺旋の巻き数1回分である。すなわち、螺旋ピッチとは、コレステリック液晶相を構成する液晶化合物のダイレクター(棒状液晶化合物であれば長軸方向)が360°回転する螺旋軸方向の長さである。
【0057】
コレステリック液晶相の螺旋ピッチは、コレステリック液晶層を形成する際に、液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、および、キラル剤の添加濃度に依存する。従って、これらを調節することによって、所望の螺旋ピッチを得ることができる。
すなわち、赤外光選択反射層の反射層としてコレステリック液晶層を用いる場合には、コレステリック液晶層の選択反射中心波長が900nm~1200nmの範囲となるようにキラル剤の種類、および、キラル剤の添加濃度を調整してコレステリック液晶相の螺旋ピッチを調整すればよい。
【0058】
なお、ピッチの調節については富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載される方法を用いることができる。
【0059】
また、コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類および/または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0060】
また、コレステリック液晶層において、選択反射を示す選択反射帯域(円偏光反射帯域)の半値幅Δλ(nm)は、コレステリック液晶相のΔnと螺旋のピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射帯域の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。Δnは、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類およびその混合比率、ならびに、配向固定時の温度により調節できる。したがって、液晶化合物の種類およびその混合比率、ならびに、配向固定時の温度等を調整して、選択反射帯域の半値幅Δλを調整することで、波長帯域幅を調整することができる。
【0061】
また、赤外光選択反射層において波長帯域幅を広くする場合には、選択反射波長が異なるコレステリック液晶層を2層以上有する構成としてもよい。赤外光選択反射層を、選択反射波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を積層した構成とすることで、赤外光選択反射層の反射帯域を広帯域化することができる。
【0062】
(コレステリック液晶層の形成方法)
コレステリック液晶層の形成方法は特に制限されず、種々の公知の方法で形成すればよい。例えば、コレステリック液晶層は、液晶化合物、キラル剤および重合開始剤、さらに必要に応じて添加される界面活性剤等を溶媒に溶解させた液晶組成物を、支持体上に、あるいは支持体上に形成された下地層に塗布し、乾燥させて塗膜を得て、塗膜中の液晶化合物を配向させて、この塗膜に活性光線を照射して液晶組成物を硬化することで、形成できる。
【0063】
また、赤外光選択反射層として、複数のコレステリック液晶層を有する構成の場合には、コレステリック液晶層をそれぞれ支持体上に形成した後に、支持体から剥離して貼合することで、複数のコレステリック液晶層が積層された構成とすればよい。あるいは、1つ目のコレステリック液晶層を支持体上に形成した後に、次のコレステリック液晶層を形成したコレステリック液晶層上に順次形成して、複数のコレステリック液晶層(赤外光選択反射層)が積層された構成を形成してもよい。
【0064】
(液晶化合物)
また、コレステリック液晶層の形成に用いられる液晶化合物としても制限はなく、種々の公知の棒状液晶化合物および円盤状液晶化合物が用いられる。また、重合性液晶化合物が好ましい。
【0065】
液晶化合物としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号、米国特許第5622648号および米国特許第5770107号の各明細書、国際公開第1995/22586号、国際公開第1995/24455号、国際公開第1997/00600号、国際公開第1998/23580号、国際公開第1998/52905号、国際公開第2016/194327号および国際公開第2016/052367号公報、特開平1-272551号公報、特開平6-16616号公報、特開平7-110469号公報および特開平11-80081号公報、ならびに、特開2001-328973号公報等に記載されている各化合物が例示される。
液晶組成物は、2種類以上の液晶化合物を含んでいてもよい。
【0066】
また、液晶組成物中の液晶化合物の含有量は特に制限されないが、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、80~99.9質量%が好ましく、84~99.5質量%がより好ましく、87~99質量%がさらに好ましい。
【0067】
(キラル剤)
キラル剤としては各種公知のものを使用することができる。
キラル剤はコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル剤によって、誘起する螺旋のセンスまたは螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。キラル剤がコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する力は、螺旋誘起力(HTP:Helical Twisting Power)と呼ばれる。同じ濃度のキラル剤を用いた場合、HTPが大きいキラル剤ほど螺旋ピッチは小さくなる。
【0068】
キラル剤の例としては、液晶デバイスハンドブック(第3章4-3項、TN、STN用キラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989)、ならびに、特開2003-287623号公報、特開2002-302487号公報、特開2002-80478号公報、特開2002-80851号公報、特開2010-181852号公報および特開2014-034581号公報等に記載される化合物が例示される。
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファンおよびこれらの誘導体が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。
【0069】
キラル剤と液晶化合物とが、いずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。また、キラル剤は、光の照射によって、戻り異性化、二量化、ならびに、異性化および二量化等を生じて、HTPが変化するキラル剤であってもよい。
【0070】
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、液晶化合物全モル量に対して、0.01~200モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましい。
【0071】
(その他の添加剤)
液晶組成物は、必要に応じて、さらに、重合開始剤、架橋剤、配向制御剤、界面活性剤、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学性能を低下させない範囲で含んでいてもよい。また、液晶組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
【0072】
積層フィルムがコレステリック液晶層を有する構成である場合、積層フィルムは、コレステリック液晶層に加え、支持体、および、接着層等を含む構成でもよい。
【0073】
(支持体)
支持体は、赤外光選択反射層としてのコレステリック液晶層を形成する際の基板として使用することもできる。赤外光選択反射層の形成のために用いられる支持体は、反射層の形成後に剥離される、仮支持体であってもよい。従って、完成した積層フィルムおよびウインドシールドガラスには、支持体は含まれていなくてもよい。なお、仮支持体として剥離するのではなく、完成した積層フィルムまたはウインドシールドガラスが支持体を含む場合には、支持体は、可視光領域および赤外光領域で透明であることが好ましい。
【0074】
支持体の材料には制限はない。支持体としてはポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース誘導体、および、シリコーン等のプラスチックフィルムが挙げられる。仮支持体としては、上述のプラスチックフィルムのほか、ガラスを用いてもよい。
【0075】
支持体の厚さとしては、5.0~1000μm程度であればよく、10~250μmが好ましく、15~90μmがより好ましい。
【0076】
また、支持体は低複屈折性であることが好ましい。低複屈折性とは、本発明のウインドシールドガラスの積層フィルムが反射を示す波長域において、正面位相差が10nm以下であることを意味する。この正面位相差は5nm以下であることが好ましい。さらに、支持体は、反射層の平均屈折率(面内平均屈折率)との屈折率の差が小さいことが好ましい。
【0077】
<赤外光吸収層>
赤外光吸収層は、800~1100nmの波長範囲に吸収波長ピークを有する層である。また、赤外光吸収層は、可視光に対しては高い透過率を有する。
【0078】
赤外光吸収層は、800~1100nmの波長範囲に吸収波長ピークを有し、可視光に対しては高い透過率を有するものとできれば特に制限はない。赤外光吸収層は、波長800~1100nmの範囲に極大吸収波長を有する近赤外線吸収物質を含有する層とすることにより、800~1100nmの波長範囲に吸収波長ピークを有するものとすることができる。
【0079】
耐熱性、耐光性、可視透明性の観点から、波長800~1100nmの範囲に極大吸収波長を有する近赤外線吸収物質としては、ピロロピロール色素およびシアニン色素のいずれかを用いることが好ましい。
赤外光吸収層は、このような近赤外線吸収物質をバインダーとなる樹脂中に含有する層として形成できる。
【0080】
(ピロロピロール色素)
本発明において、ピロロピロール色素は、下記式(I)で表される化合物が好ましい。下記の化合物は、近赤外領域に吸収を有する色素であることが好ましく、波長800~1100nmの範囲に極大吸収波長を有する色素であることがより好ましい。
【0081】
【化1】
式(I)中、AおよびAは、それぞれ独立にヘテロアリール基を表し、
およびBは、それぞれ独立に-BR基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に置換基を表し、RとRは互いに結合して環を形成してよく、
およびCは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基を表し、
およびDは、それぞれ独立に置換基を表す。
【0082】
式(I)において、AおよびAは、それぞれ独立に、ヘテロアリール基を表す。AとAは、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。AとAは、同一の基であることが好ましい。
ヘテロアリール基は、単環、または、縮合環が好ましく、単環、または、縮合数が2~8の縮合環が好ましく、単環、または、縮合数が2~4の縮合環がより好ましい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子の数は1~3が好ましい。ヘテロアリール基を構成するテロ原子は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基を構成する炭素原子の数は3~30が好ましく、3~18がより好ましく、3~12がより好ましく、3~10が特に好ましい。ヘテロアリール基は、5員環または6員環が好ましい。
【0083】
ヘテロアリール基は、下記式(A-1)で表される基および(A-2)で表される基が好ましい。
【0084】
【化2】
【0085】
式(A-1)において、Xは、それぞれ独立に、O、S、NRX1またはCRX2X3を表し、RX1~RX3は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、RとRは、互いに結合して環を形成してよい。*は、式(I)との結合位置を表す。
、RおよびRX1~RX3が表す置換基は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ヘテロアリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリールスルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、メルカプト基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基などが挙げられ、アルキル基、アリール基およびハロゲン原子が好ましい。
アルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~15がより好ましく、1~8がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、直鎖または分岐が好ましい。アルキル基は、置換基を有してもよく、無置換であってもよい。置換基としては、上述した基が挙げられ、例えば、ハロゲン原子、アリール基等が挙げられる。
アリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~20がより好ましく、6~12がさらに好ましい。アリール基は、置換基を有してもよく、無置換であってもよい。置換基としては、上述した基が挙げられ、例えば、ハロゲン原子、アルキル基等が挙げられる。
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0086】
【化3】
式中、Xは、それぞれ独立に、O、S、NRX1またはCRX2X3を表し、RX1~RX3は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表し、R101~R109は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。*は、式(I)との結合位置を表す。
【0087】
式(A-2)において、Y~Yは、それぞれ独立に、NまたはCRY1を表し、Y~Yの少なくとも2つはCRY1であり、RY1は、水素原子または置換基を表し、隣接するRY1同士は互いに結合して環を形成してよい。*は、式(I)との結合位置を表す。
Y1が表す置換基としては、上述した置換基が挙げられ、アルキル基、アリール基およびハロゲン原子が好ましい。アルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~15がより好ましく、1~8がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、直鎖または分岐が好ましい。アルキル基は、置換基を有してもよく、無置換であってもよい。置換基としては、上述した置換基が挙げられ、例えば、ハロゲン原子、アリール基等が挙げられる。
アリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~20がより好ましく、6~12がさらに好ましい。アリール基は、置換基を有してもよく、無置換であってもよい。置換基としては、上述した置換基が挙げられ、例えば、ハロゲン原子、アルキル基等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
【0088】
~Yの少なくとも2つはCRY1であり、隣接するRY1同士は互いに結合して環を形成してよい。隣接するRY1同士が結合して形成する環は、芳香族環が好ましい。隣接するRY1同士が環を形成する場合、(A-2)は、下記の(A-2-1)~(A-2-5)で表される基などが挙げられる。
【0089】
【化4】
式中、R201~R227は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、*は、式(I)との結合位置を表す。
【0090】
およびAの具体例としては、以下が挙げられる。以下において、Buはブチル基を表す。
【0091】
【化5】
【0092】
式(I)において、BおよびBは、それぞれ独立に-BR基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に置換基を表す。RとRは互いに結合して環を形成してよい。置換基としては、上述したAおよびAで説明した基が挙げられ、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基またはヘテロアリール基が好ましく、ハロゲン原子、アリール基またはヘテロアリール基がより好ましく、アリール基またはヘテロアリール基がさらに好ましい。RとRは同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。RとRは、同一の基であることが好ましい。また、BとBは同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。BとBは同一の基であることが好ましい。
【0093】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
アルキル基の炭素数は、1~40が好ましい。下限は、例えば、3以上がより好ましい。上限は、例えば、30以下がより好ましく、25以下がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖または分岐が好ましい。
アルケニル基の炭素数は、2~40が好ましい。下限は、例えば、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、8以上が一層好ましく、10以上が特に好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。アルケニル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよい。
アルコキシ基の炭素数は、1~40が好ましい。下限は、例えば、3以上がより好ましい。上限は、例えば、30以下がより好ましく、25以下がさらに好ましい。アルコキシ基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよい。
アリール基の炭素数は、6~20が好ましく、6~12がより好ましい。アリール基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。これらの詳細については、前述したものが挙げられる。
ヘテロアリール基は、単環であっても多環であってもよい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子の数は1~3が好ましい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基を構成する炭素原子の数は3~30が好ましく、3~18がより好ましく、3~12がより好ましく、3~5が特に好ましい。ヘテロアリール基は、5員環または6員環が好ましい。ヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。これらの詳細については、前述したものが挙げられる。
【0094】
-BR基のRとRは、互いに結合して環を形成していてもよい。例えば、下記(B-1)~(B-4)に示す構造などが挙げられる。以下において、Rは置換基を表し、Ra1~Ra4は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、m1~m3は、それぞれ独立に、0~4の整数を表し、*は、式(I)との結合位置を表す。RおよびRa1~Ra4が表す置換基としては、RおよびRで説明した置換基が挙げられ、ハロゲン原子およびアルキル基が好ましい。
【0095】
【化6】
【0096】
およびBの具体例としては、以下が挙げられる。以下において、Meはメチル基を表し、Buはブチル基を表す。
【0097】
【化7】
【0098】
式(I)において、CおよびCは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。CとCは、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。CとCは、同一の基であることが好ましい。CおよびCは、それぞれ独立に、アリール基、またはヘテロアリール基が好ましく、アリール基がより好ましい。
アルキル基の炭素数は、1~40が好ましく、1~30がより好ましく、1~25が特に好ましい。アルキル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖または分岐が好ましく、分岐が特に好ましい。
アリール基は、炭素数6~20のアリール基が好ましく、炭素数6~12のアリール基がより好ましい。フェニル基またはナフチル基が特に好ましい。
ヘテロアリール基は、単環であっても多環であってもよい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子の数は1~3が好ましい。ヘテロアリール基を構成するヘテロ原子は、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基を構成する炭素原子の数は3~30が好ましく、3~18がより好ましく、3~12がより好ましい。
【0099】
上述したアルキル基、アリール基およびヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基を有していることが好ましい。
置換基としては、酸素原子を含んでもよい炭化水素基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ヘテロアリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリールスルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、メルカプト基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基等が挙げられる。
【0100】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基などが挙げられる。
アルキル基の炭素数は、1~40が好ましい。下限は、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、8以上が一層好ましく、10以上が特に好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。アルキル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖または分岐が好ましく、分岐が特に好ましい。分岐のアルキル基の炭素数は、3~40が好ましい。下限は、例えば、5以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が一層好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。分岐のアルキル基の分岐数は、例えば、2~10が好ましく、2~8がより好ましい。
アルケニル基の炭素数は、2~40が好ましい。下限は、例えば、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、8以上が一層好ましく、10以上が特に好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。アルケニル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖または分岐が好ましく、分岐が特に好ましい。分岐のアルケニル基の炭素数は、3~40が好ましい。下限は、例えば、5以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が一層好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。分岐のアルケニル基の分岐数は、2~10が好ましく、2~8がより好ましい。
アリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~20がより好ましく、6~12がさらに好ましい。
酸素原子を含む炭化水素基としては、-L-Rx1で表される基が挙げられる。
Lは、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-(ORx2)m-または-(Rx2O)m-を表す。Rx1は、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表す。Rx2は、アルキレン基またはアリーレン基を表す。mは2以上の整数を表し、m個のRx2は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
Lは、-O-、-(ORx2)m-または-(Rx2O)m-が好ましく、-O-がより好ましい。
x1が表すアルキル基、アルケニル基、アリール基は上述したものと同義であり、好ましい範囲も同様である。Rx1は、アルキル基またはアルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
x2が表すアルキレン基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~5がさらに好ましい。アルキレン基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖または分岐が好ましい。Rx2が表すアリーレン基の炭素数は、6~20が好ましく、6~12がより好ましい。Rx2はアルキレン基が好ましい。
mは2以上の整数を表し、2~20が好ましく、2~10がより好ましい。
【0101】
アルキル基、アリール基およびヘテロアリール基が有してもよい置換基は、分岐アルキル構造を有する基が好ましい。また、置換基は、酸素原子を含んでもよい炭化水素基が好ましく、酸素原子を含む炭化水素基がより好ましい。酸素原子を含む炭化水素基は、-O-Rx1で表される基が好ましい。Rx1は、アルキル基またはアルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましく、分岐のアルキル基が特に好ましい。すなわち、置換基は、アルコキシ基がより好ましく、分岐のアルコキシ基が特に好ましい。置換基が、アルコキシ基であることにより、耐熱性および耐光性にすぐれた膜が得られやすい。アルコキシ基の炭素数は、1~40が好ましい。下限は、例えば、3以上がより好ましく、5以上がさらに好ましく、8以上が一層好ましく、10以上が特に好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。アルコキシ基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖または分岐が好ましく、分岐が特に好ましい。分岐のアルコキシ基の炭素数は、3~40が好ましい。下限は、例えば、5以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が一層好ましい。上限は、35以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。分岐のアルコキシ基の分岐数は、2~10が好ましく、2~8がより好ましい。
【0102】
およびCの具体例としては、以下が挙げられる。以下において、Meはメチル基を表し、Buはブチル基を表す。
【0103】
【化8】
【0104】
【化9】
【0105】
式(I)において、DおよびDは、それぞれ独立に、置換基を表す。DとDは、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。DとDは、同一の基であることが好ましい。
置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ヘテロアリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリールスルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、メルカプト基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、シリル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基などが挙げられる。DおよびDは、電子求引性基が好ましい。
【0106】
Hammettのσp値(シグマパラ値)が正の置換基は、電子求引性基として作用する。本発明においては、Hammettのσp値が0.2以上の置換基を電子求引性基として例示することができる。置換基のσp値は、好ましくは0.25以上であり、より好ましくは0.3以上であり、特に好ましくは0.35以上である。上限は特に制限はないが、好ましくは0.80である。電子求引性基の具体例としては、シアノ基(σp値=0.66)、カルボキシル基(-COOH:σp値=0.45)、アルコキシカルボニル基(例えば、-COOMe:σp値=0.45)、アリールオキシカルボニル基(例えば、-COOPh:σp値=0.44)、カルバモイル基(例えば、-CONH:σp値=0.36)、アルキルカルボニル基(例えば、-COMe:σp値=0.50)、アリールカルボニル基(例えば、-COPh:σp値=0.43)、アルキルスルホニル基(例えば、-SOMe:σp値=0.72)、アリールスルホニル基(例えば、-SOPh:σp値=0.68)などが挙げられる。シアノ基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基およびアリールスルホニル基が好ましく、シアノ基がより好ましい。ここで、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表す。Hammettのσp値については、特開2009-263614号公報の段落番号0024~0025を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0107】
およびDの具体例としては、以下が挙げられる。
【0108】
【化10】
【0109】
ピロロピロール化合物は、下記式(II)で表される化合物、または、下記式(III)で表される化合物であることが好ましい。この態様によれば、赤外線遮蔽性および耐光性に優れた膜を製造しやすい。
【0110】
【化11】
【0111】
式(II)中、XおよびXは、それぞれ独立に、O、S、NRX1またはCRX2X3を表し、RX1~RX3は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表し、
~Rは、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、
とR、または、RとRは互いに結合して環を形成してよく、
およびBはそれぞれ独立に-BR基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に置換基を表し、RとRは互いに結合して環を形成してよく、
およびCは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、またはヘテロアリール
基を表し、
およびDは、それぞれ独立に置換基を表す。
【0112】
式(II)のB、B、C、C、DおよびDは、式(I)のB、B、C、C、DおよびDと同義であり、好ましい範囲も同様である。式(II)のX、XおよびR~Rは、上述した式(A-1)のX、RおよびRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0113】
式(III)中、Y~Yは、それぞれ独立に、NまたはCRYを表し、Y~Yの少なくとも2つはCRYであり、Y~Yの少なくとも2つはCRYであり、RYは、水素原子または置換基を表し、隣接するRY同士は互いに結合して環を形成してよく、
およびBはそれぞれ独立に-BR基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に置換基を表し、RとRは互いに結合して環を形成してよく、
およびCは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、またはヘテロアリール
基を表し、
およびDは、それぞれ独立に置換基を表す。
【0114】
式(III)のB、B、C、C、DおよびDは、式(I)のB、B、C、C、DおよびDと同義であり、好ましい範囲も同様である。式(III)のY~Yは、上述した式(A-2)のY~Yと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0115】
ピロロピロール化合物の具体例としては、下記化合物が挙げられる。以下の構造式中、
Buはブチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0116】
【化12】
【0117】
【化13】
【0118】
【化14】
【0119】
【化15】
【0120】
【化16】
【0121】
(シアニン色素)
本発明において、シアニン色素は、下記式(C)で表される化合物が好ましい。
【0122】
式(C)
【化17】
式(C)中、ZおよびZは、それぞれ独立に、縮環してもよい5員または6員の含窒素複素環を形成する非金属原子団であり、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基またはアリール基を表し、Lは、奇数個のメチン基からなるメチン鎖を表し、aおよびbは、それぞれ独立に、0または1であり、
式中のCyで表される部位がカチオン部である場合、Xはアニオンを表し、cは電荷のバランスを取るために必要な数を表し、式中のCyで表される部位がアニオン部である場合、Xはカチオンを表し、cは電荷のバランスを取るために必要な数を表し、式中のCyで表される部位の電荷が分子内で中和されている場合、cは0である。
【0123】
式(C)において、ZおよびZは、それぞれ独立に、縮環してもよい5員または6員の含窒素複素環を形成する非金属原子団を表す。
含窒素複素環には、他の複素環、芳香族環または脂肪族環が縮合してもよい。含窒素複素環は、5員環が好ましい。5員の含窒素複素環にベンゼン環またはナフタレン環が縮合しているのがさらに好ましい。含窒素複素環の具体例としては、オキサゾール環、イソオキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ナフトオキサゾール環、オキサゾロカルバゾール環、オキサゾロジベンゾフラン環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ナフトイミダゾール環、キノリン環、ピリジン環、ピロロピリジン環、フロピロール環、インドリジン環、イミダゾキノキサリン環、キノキサリン環等が挙げられ、キノリン環、インドレニン環、ベンゾインドレニン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環が好ましく、インドレニン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環が特に好ましい。
【0124】
含窒素複素環およびそれに縮合している環は、置換基を有していてもよい。置換基としては、上述した式(1)で説明した置換基が挙げられる。具体的には、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、-OR10、-COR11、-COOR12、-OCOR13、-NR1415、-NHCOR16、-CONR1718、-NHCONR1920、-NHCOOR21、-SR22、-SO23、-SOOR24、-NHSO25、および-SONR2627が挙げられる。R10~R27は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、またはアラルキル基を表す。なお、-COOR12のR12が水素の場合(すなわち、カルボキシル基)は、水素原子が解離していてもよく(すなわち、カルボネート基)、塩の状態であってもよい。また、-SOOR24のR24が水素原子の場合(すなわち、スルホ基)は、水素原子が解離していてもよく(すなわち、スルホネート基)、塩の状態であってもよい。これらの詳細については、上述した範囲と同義である。
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基、アリール基およびヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシ基、アミノ基等が好ましく、カルボキシル基およびスルホ基がより好ましく、スルホ基が特に好ましい。カルボキシル基およびスルホ基は、水素原子が解離していてもよく、塩の状態であってもよい。
【0125】
式(C)において、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基またはアリール基を表す。
アルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~15がより好ましく、1~8がさらに好ましい。アルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、直鎖または分岐が好ましい。
アルケニル基の炭素数は、2~20が好ましく、2~12がより好ましく、2~8が特に好ましい。アルケニル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、直鎖または分岐が好ましい。
アルキニル基の炭素数は、2~40が好ましく、2~30がより好ましく、2~25が特に好ましい。アルキニル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、直鎖または分岐が好ましい。
アリール基の炭素数は、6~30が好ましく、6~20がより好ましく、6~12がさらに好ましい。
アラルキル基のアルキル部分は、上記アルキル基と同様である。アラルキル基のアリール部分は、上記アリール基と同様である。アラルキル基の炭素数は、7~40が好ましく
、7~30がより好ましく、7~25がさらに好ましい。
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基およびアリール基は、置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシ基、アミノ基等が挙げられ、カルボキシル基およびスルホ基が好ましく、スルホ基が特に好ましい。カルボキシル基およびスルホ基は、水素原子が解離していてもよく、塩の状態であってもよい。
【0126】
式(C)において、Lは、奇数個のメチン基からなるメチン鎖を表す。Lは、3個、5個または7個のメチン基からなるメチン鎖が好ましく、5個または7個のメチン基からなるメチン鎖がより好ましい。
メチン基は置換基を有していてもよい。置換基を有するメチン基は、中央の(メソ位の)メチン基であることが好ましい。置換基の具体例としては、ZおよびZの含窒素複素環が有してもよい置換基、および、下記式(a)で表される基が挙げられる。また、メチン鎖の二つの置換基が結合して5または6員環を形成しても良い。
【0127】
【化18】
式(a)中、*は、メチン鎖との連結部を表し、Aは、酸素原子を表す。
【0128】
aおよびbは、それぞれ独立に、0または1である。aが0の場合は、炭素原子と窒素原子とが二重結合で結合し、bが0の場合は、炭素原子と窒素原子とが単結合で結合する。aおよびbはともに0であることが好ましい。なお、aおよびbがともに0の場合は、式(C)は以下のように表される。
【0129】
【化19】
【0130】
式(C)において、式中のCyで表される部位がカチオン部である場合、Xはアニオンを表し、cは電荷のバランスを取るために必要な数を表す。アニオンの例としては、ハライドイオン(Cl、Br、Iなど)、パラトルエンスルホン酸イオン、エチル硫酸イオン、PF 、BF 、ClO 、トリス(ハロゲノアルキルスルホニル)メチドアニオン(例えば、(CFSO)、ジ(ハロゲノアルキルスルホニル)イミドアニオン(例えば(CFSO)、テトラシアノボレートアニオンなどが挙げられる。
式(C)において、式中のCyで表される部位がアニオン部である場合、Xはカチオンを表し、cは電荷のバランスを取るために必要な数を表す。カチオンとしては、アルカリ金属イオン(Li、Na、Kなど)、アルカリ土類金属イオン(Mg2+、Ca2+、Ba2+、Sr2+など)、遷移金属イオン(Ag、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+など)、その他の金属イオン(Al3+など)、アンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、グアニジニウムイオン、テトラメチルグアニジニウムイオン、ジアザビシクロウンデセニウムなどが挙げられる。カチオンとしては、Na、K、Mg2+、Ca2+、Zn2+、ジアザビシクロウンデセニウムが好ましい。
式(C)において、式中のCyで表される部位の電荷が分子内で中和されている場合、Xは存在しない。すなわち、cは0である。
【0131】
シアニン染料は、下記(C-1)~(C-3)で表される化合物であることも好ましい。
【0132】
【化20】
式中、R1A、R2A、R1BおよびR2Bは、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基またはアリール基を表し、
1AおよびL1Bは、それぞれ独立に、奇数個のメチン基を有するメチン鎖を表し、
およびYは、それぞれ独立に、-S-、-O-、-NRX1-または-CRX2X3-を表し、
X1、RX2およびRX3は、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表し、
1A、V2A、V1BおよびV2Bは、それぞれ独立に、置換基を表し、
m1およびm2は、それぞれ独立に、0~4を表し、
式中のCyで表される部位がカチオン部である場合、Xはアニオンを表し、cは電荷のバランスを取るために必要な数を表し、式中のCyで表される部位がアニオン部である場合、Xはカチオンを表し、cは電荷のバランスを取るために必要な数を表し、式中のCyで表される部位の電荷が分子内で中和されている場合、Xは存在しない。
【0133】
1A、R2A、R1BおよびR2Bが表す基は、式(C)のRおよびRで説明したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基およびアリール基と同義であり、好ましい範囲も同様である。これらの基は無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシ基、アミノ基等が挙げられ、カルボキシル基およびスルホ基が好ましく、スルホ基が特に好ましい。カルボキシル基およびスルホ基は、水素原子が解離していてもよく、塩の状態であってもよい。R1A、R2A、R1BおよびR2Bがアルキル基を表す場合は、直鎖のアルキル基であることがより好ましい。
【0134】
およびYは、それぞれ独立に、-S-、-O-、-NRX1-または-CRX2X3-を表し、-NRX1-が好ましい。RX1、RX2およびRX3は、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表し、アルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~5がより好ましく、1~3が特に好ましい。アルキル基は直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、直鎖または分岐が好ましく、直鎖が特に好ましい。アルキル基は、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
【0135】
1AおよびL1Bは、式(C)のLと同義であり、好ましい範囲も同様である。
1A、V2A、V1BおよびV2Bが表す置換基は、式(1)で説明した置換基が挙げられ、好ましい範囲も同様である。
m1およびm2は、それぞれ独立に、0~4を表し、0~2が好ましい。
が表すアニオンおよびカチオンは、式(C)のXで説明した範囲と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0136】
シアニン染料の具体例としては、以下に示す化合物が挙げられる。
【0137】
【化21】
【0138】
【化22】
【0139】
(樹脂)
赤外光吸収層は、近赤外線吸収物質を分散させるバインダーとして樹脂を含む。ただし、樹脂のこのような用途は一例であって、このような用途以外を目的で使用することもできる。
【0140】
樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂が挙げられる。これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0141】
(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸および/またはそのエステルに由来する構成単位を含む重合体が挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリロニトリルから選ばれる少なくとも1種を重合して得られる重合体が挙げられる。
【0142】
ポリエステル樹脂としては、ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン)と、多塩基酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸およびこれらの芳香環に結合する水素原子がメチル基、エチル基、フェニル基等で置換された芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸、およびシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸など)との反応により得られるポリマーや、カプロラクトンモノマー等の環状エステル化合物の開環重合により得られるポリマー(例えばポリカプロラクトン)が挙げられる。
【0143】
また、樹脂は、酸基を有していてもよい。酸基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、フェノール性ヒドロキシル基などが挙げられる。これらの酸基は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。酸基を有する樹脂はアルカリ可溶性樹脂として用いることもできる。
【0144】
酸基を有する樹脂としては、側鎖にカルボキシル基を有するポリマーが好ましく、例えば、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体、ノボラック型樹脂などのアルカリ可溶性フェノール樹脂等、ならびに側鎖にカルボキシル基を有する酸性セルロース誘導体、ヒドロキシル基を有するポリマーに酸無水物を付加させたものが挙げられる。特に、(メタ)アクリル酸と、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体が好適である。(メタ)アクリル酸と共重合可能な他のモノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、ビニル化合物などが挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートおよびアリール(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート等が挙げられ、ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、ビニルアセテート、N-ビニルピロリドン、ポリスチレンマクロモノマー、ポリメチルメタクリレートマクロモノマー等が挙げられ。また、他のモノマーとしては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等の特開平10-300922号公報に記載されたN位置換マレイミドモノマーを用いることもできる。なお、これらの(メタ)アクリル酸と共重合可能な他のモノマーは1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0145】
酸基を有する樹脂としては、ベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸共重合体、ベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体、ベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/他のモノマーからなる多元共重合体を好ましく用いることができる。また、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを共重合したもの、特開平7-140654号公報に記載の、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート/ポリスチレンマクロモノマー/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート/ポリメチルメタクリレートマクロモノマー/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、2-ヒドロキシエチルメタクリレート/ポリスチレンマクロモノマー/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、2-ヒドロキシエチルメタクリレート/ポリスチレンマクロモノマー/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体なども好ましく用いることができる。
【0146】
酸基を有する樹脂は、下記式(ED1)で示される化合物および/または下記式(ED2)で表される化合物(以下、これらの化合物を「エーテルダイマー」と称することもある。)を含むモノマー成分を重合してなるポリマーを含むことも好ましい。
【0147】
【化23】
【0148】
式(ED1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1~25の炭化水素基を表す。
【0149】
【化24】
式(ED2)中、Rは、水素原子または炭素数1~30の有機基を表す。式(ED2)の具体例としては、特開2010-168539号公報の記載を参酌できる。
【0150】
式(ED1)中、RおよびRで表される置換基を有していてもよい炭素数1~25の炭化水素基としては、特に制限はないが、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、tert-アミル、ステアリル、ラウリル、2-エチルヘキシル等の直鎖状または分岐状のアルキル基;フェニル等のアリール基;シクロヘキシル、tert-ブチルシクロヘキシル、ジシクロペンタジエニル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、2-メチル-2-アダマンチル等の脂環式基;1-メトキシエチル、1-エトキシエチル等のアルコキシで置換されたアルキル基;ベンジル等のアリール基で置換されたアルキル基;等が挙げられる。これらの中でも特に、メチル、エチル、シクロヘキシル、ベンジル等の酸や熱で脱離しにくい1級または2級炭素の置換基が耐熱性の点で好ましい。
【0151】
エーテルダイマーの具体例としては、例えば、特開2013-29760号公報の段落番号0317を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。エーテルダイマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。エーテルダイマー由来の構造体は、その他のモノマーを共重合させてもよい。
【0152】
酸基を有する樹脂は、下記式(X)で示される化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0153】
【化25】
式(X)において、Rは、水素原子またはメチル基を表し、Rは、炭素数2~10のアルキレン基を表し、Rは、水素原子またはベンゼン環を含んでもよい炭素数1~20のアルキル基を表す。nは1~15の整数を表す。
【0154】
上記式(X)において、Rのアルキレン基の炭素数は、2~3が好ましい。また、Rのアルキル基の炭素数は1~20であるが、好ましくは1~10であり、Rのアルキル基はベンゼン環を含んでもよい。Rで表されるベンゼン環を含むアルキル基としては、ベンジル基、2-フェニル(イソ)プロピル基等を挙げることができる。
【0155】
酸基を有する樹脂としては、特開2012-208494号公報の段落番号0558~0571(対応する米国特許出願公開第2012/0235099号明細書の[0685]~[0700])、特開2012-198408号公報の段落番号0076~0099の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0156】
酸基を有する樹脂の酸価は、30~200mgKOH/gが好ましい。下限は、50mgKOH/g以上がより好ましく、70mgKOH/g以上がさらに好ましい。上限は、150mgKOH/g以下がより好ましく、120mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0157】
樹脂は、重合性基を有していてもよい。重合性基を有する樹脂を用いることで、凝集工程時における染料の凝集を調整しやすく、膜中に存在する染料凝集体の平均粒径を調整しやすい。重合性基としては、エチレン性不飽和結合を有する基が挙げられる。重合性基を有する構成単位としては、下記式(A2-1)~(A2-4)などが挙げられる。
【0158】
【化26】
【0159】
は、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1が特に好ましい。Rは、水素原子またはメチル基が好ましい。
【0160】
51は、単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-SO-、-NR10-(R10は、水素原子またはアルキル基を表し、水素原子が好ましい)、または、これらの組み合わせからなる基が挙げられ、アルキレン基、アリーレン基およびアルキレン基の少なくとも1つと-O-との組み合わせからなる基が好ましい。アルキレン基の炭素数は、1~30が好ましく、1~15がより好ましく、1~10がさらに好ましい。アルキレン基は、置換基を有していてもよいが、無置換が好ましい。アルキレン基は、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよい。また、環状のアルキレン基は、単環、多環のいずれであってもよい。アリーレン基の炭素数は、6~18が好ましく、6~14がより好ましく、6~10がさらに好ましい。
【0161】
は、重合性基を表す。重合性基としては、ビニル基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基などのエチレン性不飽和結合を有する基が挙げられる。
【0162】
重合性基を含有する樹脂としては、ダイヤナールNRシリーズ(三菱レイヨン(株)製)、Photomer6173(COOH含有 polyurethane acrylic oligomer.Diamond Shamrock Co.,Ltd.製)、ビスコートR-264、KSレジスト106(いずれも大阪有機化学工業(株)製)、サイクロマーPシリーズ(例えば、ACA230AA)、プラクセルCF200シリーズ(いずれも(株)ダイセル製)、Ebecryl3800(ダイセル・ユーシービー(株)製)、アクリキュアーRD-F8((株)日本触媒製)などが挙げられる。重合性基を含有する樹脂の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0163】
【化27】
【0164】
樹脂は、下記式(A3-1)~(A3-7)で表される構成単位を有することも好ましい。
【0165】
【化28】
式中、Rは、水素原子またはアルキル基を表し、L~Lは、それぞれ独立に、単結合または2価の連結基を表し、R10~R13は、それぞれ独立に、炭化水素基を表す。R14およびR15は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表す。
【0166】
は、式(A2-1)~(A2-4)のRと同義であり、好ましい範囲も同様である。
~Lは、式(A2-1)~(A2-4)のL51と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0167】
10~R13が表す炭化水素基としては、特に制限はないが、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、tert-アミル、ステアリル、ラウリル、2-エチルヘキシル等の直鎖状または分岐状のアルキル基;フェニル等のアリール基;シクロヘキシル、tert-ブチルシクロヘキシル、ジシクロペンタジエニル、トリシクロデカニル、イソボルニル、アダマンチル、2-メチル-2-アダマンチル等の脂環式炭化水素基;1-メトキシエチル、1-エトキシエチル等のアルコキシで置換されたアルキル基;ベンジル等のアリール基で置換されたアルキル基(アラルキル基);等が挙げられる。特に重合性基を有する構成単位と共重合させ、Tgを調整する観点で、イソボルニル、アダマンチルなどの脂環式炭化水素基が好ましい。
【0168】
上記の構成単位を有する樹脂は、上述した重合性基を含有する樹脂の具体例で挙げた樹脂や、下記の樹脂などが挙げられる。また、上記の(A3-7)で表される構成単位を有する樹脂の市販品としては、ARTON F4520(JSR(株)製)などが挙げられる。
【0169】
【化29】
【0170】
また、樹脂として、マープルーフG-0150M、G-0105SA、G-0130SP、G-0250SP、G-1005S、G-1005SA、G-1010S、G-2050M、G-01100、G-01758(日油(株)製、エポキシ基含有ポリマー)を使用することも好ましい。
【0171】
赤外光吸収層において、樹脂の含有量は、組成物の全固形分に対し、1~80質量%であることが好ましい。下限は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。上限は、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0172】
赤外光吸収層は、近赤外線吸収物質およびバインダーとなる樹脂を含む組成物を支持体上に塗布し、硬化させることによって形成できる。組成物の塗布方法および硬化方法としては公知の方法が適宜利用可能である。また、赤外光吸収層となる組成物は、上記成分以外に、重合性化合物、重合開始剤等を含んでいてもよい。
【0173】
<ヒートシール層>
ヒートシール層は、例えば塗布型の接着剤からなる層である。積層フィルムは、ウインドシールドガラスに組み込む際に、ヒートシール層によりガラス板に貼着される。ヒートシール層は、赤外光吸収層に隣接して配置されているため、積層フィルムをウインドシールドガラスに組み込む際には、車外側のガラス板(第2のガラス板)に貼着される。ヒートシール層が厚いと、合わせガラスの構成のウインドシールドガラスを作製した際にフィルムの凹凸(オレンジピール)が発生するため、0.1~3μm程度の薄いものを使用することが好ましい。また、ヒートシール層を赤外光吸収層側に配置される場合には、ヒートシール層よりも厚さが厚い中間膜を設ける場合には、中間膜は車内側(赤外光選択反射層側)に配置される。このような構成にすることで、車外側からウインドシールドガラスに衝撃が加えられた際に、厚い中間膜に支えられて、積層フィルムからガラスが剥がれ落ちにくくなり、落下量を大幅に減らすことができるようになるため、耐衝撃性が向上する。
【0174】
ヒートシール層には、制限はなく、ウインドシールドガラスとして必要な透明性を確保でき、かつ、必用な貼着力で積層フィルムとガラス板とを貼着可能なものであれば、公知の各種の塗布型の接着剤からなるものが利用可能である。ヒートシール層は、PVBなどの中間膜と同じものを用いてもよい。これ以外に、ヒートシール層には、アクリレート系接着剤等を用いることもできる。また、ヒートシール層には、以下に示すような接着層を用いてもよい。
【0175】
ヒートシール層は、接着剤から形成されるものであってもよい。
接着剤としては硬化方式の観点からホットメルトタイプ、熱硬化タイプ、光硬化タイプ、反応硬化タイプ、および、硬化の不要な感圧接着タイプがある。また、接着剤は、いずれのタイプでも、それぞれ素材としてアクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、および、ポリビニルブチラール系等の化合物を使用することができる。
作業性、生産性の観点から、硬化方式として光硬化タイプが好ましく、光学的な透明性、耐熱性の観点から、素材はアクリレート系、ウレタンアクリレート系、および、エポキシアクリレート系等を使用することが好ましい。
【0176】
ヒートシール層は、高透明性接着剤転写テープ(OCAテープ)を用いて形成されたものであってもよい。高透明性接着剤転写テープとしては、画像表示装置用の市販品、特に画像表示装置の画像表示部表面用の市販品を用いればよい。市販品の例としては、パナック株式会社製の粘着シート(PD-S1等)、日栄化工株式会社のMHMシリーズの粘着シート等が挙げられる。
【0177】
ヒートシール層の厚さにも、制限はない。従って、ヒートシール層の形成材料に応じて、十分な貼着力が得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
ここで、ヒートシール層が厚すぎると、積層フィルムの反射面(赤外光選択反射層側の面)の凹凸が大きくなり、画像がゆがむおそれがある。また、平面性を十分に保って、積層フィルムをガラス板に貼着できない場合がある。この点を考慮すると、ヒートシール層の厚さは、0.1~10μmが好ましく、0.1~3μmがより好ましい。
【0178】
<偏光変換層>
偏光変換層は、入射する偏光に対して偏光状態を変化させる偏光変換の機能を有する層である。偏光変換層としては、λ/4板等の位相差層、コレステリック液晶層、液晶分子が厚さ方向にねじれて配列されている旋光層等が挙げられる。
【0179】
位相差層は、直交する2つの偏光成分に位相差(光路差)をつけて、入射した偏光の状態を変えるものである。本発明において、位相差層は、液晶化合物など複屈折性を有する材料が同じ方向に向いて配列してなる層であり、旋光性を有さない。
【0180】
旋光層は、液晶化合物の螺旋配向構造を固定化した層であって、螺旋配向構造のピッチ数x、および、旋光層の膜厚y(単位μm)を調整することによって、所望の偏光変換の機能を付与することができる。
なお、液晶化合物の螺旋構造の1ピッチは、液晶化合物の螺旋の巻き数1回分である。すなわち、螺旋配向される液晶化合物のダイレクター(棒状液晶であれば長軸方向)が、360°回転した状態をピッチ数1とする。
【0181】
旋光層は液晶化合物の螺旋構造を有していると、赤外域の反射ピーク波長よりも短波長である可視光に対して旋光性と複屈折性を示す。そのため、可視域の偏光を制御できる。旋光層の螺旋配向構造のピッチ数xおよび旋光層の膜厚yを調整することで、可視光に対して旋光層で光学補償する機能、あるいは、積層フィルムに入射した直線偏光(p偏光)を円偏光に変換する機能を付与することができる。
【0182】
以下、本発明の積層フィルムを有するウインドシールドガラス、および、ヘッドアップディスプレイ(HUD)について説明する。
【0183】
[ウインドシールドガラス]
本発明の積層フィルムを用いて、視線追跡システムを有するHUDに用いることができるウインドシールドガラスを提供することができる。
【0184】
ウインドシールドガラスは、車および電車等の車両、飛行機、船舶、二輪車、ならびに、遊具等の乗り物一般の窓ガラスおよび風防ガラスを意味する。ウインドシールドガラスは、乗り物の進行方向の前方にあるフロントガラスおよび風防ガラス等として利用することが好ましい。
【0185】
ウインドシールドガラスの可視光線透過率には制限はないが、高い方が好ましい。ウインドシールドガラスの可視光線透過率は、70%以上が好ましく、70%超がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
上述の可視光線透過率は、ウインドシールドガラスのいずれの位置においても満たされていることが好ましく、特に積層フィルムが存在する位置において、上述の可視光線透過率を満たされていることが好ましい。本発明の積層フィルムは、上述のように、可視光線透過率が高いため、ウインドシールドガラスに一般的に用いられるガラスのいずれを用いた場合においても、上述の可視光線透過率を満たす構成とすることができる。
【0186】
ウインドシールドガラスの形状には制限はなく、ウインドシールドガラスが配置される対象に応じて適宜決定されるものである。ウインドシールドガラスは、例えば、平面状でもよく、凹面または凸面等の曲面を有する3次元形状でもよい。適用される乗り物用に成形されたウインドシールドガラスでは、通常使用時に上となる方向、観察者側、運転者側、および車内側等の視認側となる面が特定できる。
【0187】
ウインドシールドガラスにおいて、積層フィルムは厚さが均一であってもよく、厚さが不均一であってもよい。例えば、特表2011-505330号公報に記載の車両用ガラスのように楔形の断面形状を有し、積層フィルムの厚さが不均一であってもよいが、積層フィルムにおいて、厚さが均一であることが好ましい。
【0188】
ウインドシールドガラスにおいて、積層フィルムは、例えば、ウインドシールドガラスの投映像表示部位(投映像反射部位)に設けられる。あるいは、前述のとおり、積層フィルムは、投映像表示部位(投映像反射部位)とは異なる位置に設けられてもよい。
本発明の積層フィルムをウインドシールドガラスのガラス板の外面に設ける、または、後述のように合わせガラスの構成のウインドシールドガラスのガラス板の間に設けることにより、ウインドシールドガラスを用いた視線追跡システムを有するヘッドアップディスプレイ(HUD)を構成できる。
【0189】
本発明の積層フィルムをウインドシールドガラスのガラス板の外面に設ける場合、積層フィルムは、車両等の内部(投映像の入射側)に設けられても、外部に設けられてもよいが、内部に設けられていることが好ましい。
なお、本発明の積層フィルムは、耐擦傷性がガラス板に比較して低い。そのため、ウインドシールドガラスが、合わせガラス構造である場合には、積層フィルムを保護するために、積層フィルムは、合わせガラスを構成する2枚のガラスの間に設けることがより好ましい。
【0190】
上述のように、積層フィルムは、赤外光を反射することで運転者の顔および/または瞳に赤外光(測定光)を照射し、また、運転者の顔および/または瞳で反射された赤外光をIRセンサーに向けて反射するための部材である。従って、積層フィルムは、赤外光を照射する赤外光源および赤外光を検出するIRセンサーの位置に応じて、赤外光を適切に反射できる位置に設ければよい。
【0191】
積層フィルムはウインドシールドガラスの全面に設けてもよく、または、ウインドシールドガラスの面方向の一部に設けてもよいが、一部であることが好ましい。
積層フィルムをウインドシールドガラスの一部に設ける場合、積層フィルムはウインドシールドガラスのいずれの位置に設けてもよい。
【0192】
積層フィルムは、曲面を有していない平面状であってもよいが、曲面を有していてもよい。また、積層フィルムは、全体として凹型または凸型の形状を有し、投映像を拡大または縮小して表示するようになっていてもよい。
【0193】
<合わせガラス>
ウインドシールドガラスは、合わせガラスの構成を有していてもよい。本発明のウインドシールドガラスは、合わせガラスであり、第1のガラス板と第2のガラス板との間に、上述した本発明の積層フィルムを有する。
ウインドシールドガラスは、第1のガラス板と第2のガラス板との間に積層フィルムが配置される構成でもよい。しかしながら、ウインドシールドガラスは、第1のガラス板と積層フィルムとの間、および、積層フィルムと第2のガラス板との間の、少なくとも一方に中間膜(中間膜シート)が設けられる構成であるのが好ましく、第1のガラス板と積層フィルムとの間に中間膜が設けられる構成であるのがより好ましい。
ウインドシールドガラスにおいて、一例として、第2のガラス板は、HUDにおける映像の視認側とは逆側(車外側)に配置され、第1のガラス板は視認側(車内側)に配置される。なお、本発明のウインドシールドガラスにおいて、第1のガラス板および第2のガラス板における第1および第2には、技術的な意味は無く、2枚のガラス板を区別するために便宜的に設けたものである。従って、第2のガラス板が車内側で、第1のガラス板が車外側であってもよい。
【0194】
第1のガラス板および第2のガラス板が曲面ガラスの場合には、第2のガラス板は凹面を第1のガラス板に向けて配置されており、積層フィルムは、ヒートシール層を第2のガラス板に隣接して配置されていることが好ましい。この構成の場合第2のガラス板側が車外側となるため、ヒートシール層を第2のガラス板に隣接するように配置することで、赤外光吸収層が赤外光選択反射層よりも車外側に配置される。これにより、積層フィルムに対して、車内側から入射する運転者の顔および/または瞳で反射された赤外光を、赤外光吸収層で吸収する前に赤外光選択反射層で反射することができる。
【0195】
ここで、このようなウインドシールドガラスにおいて、入射角65度における波長950nmの無偏光反射率が50%以上であり、入射角65度における波長950nmの透過率が1%以下であることが好まし、0.2%以下であることがより好ましい。これにより、運転者の顔あるいは瞳で反射された赤外光(測定光)をより好適に反射でき、かつ、IRセンサーに入射するノイズ光をより個的に低減できる。
【0196】
第1のガラス板および第2のガラス板の等のガラス板には、ウインドシールドガラスに一般的に用いられるガラス板を使用することができる。例えば、遮熱性の高いグリーンガラス等の、可視光線透過率が73%および76%等の82%以下となるガラス板を使用してもよい。このように可視光線透過率が低いガラス板を使用したときであっても、本発明の積層フィルムを使用することにより、積層フィルムの位置においても70%以上の可視光線透過率を有するウインドシールドガラスを作製することができる。
【0197】
車内側となる第1のガラス板としては、クリアガラスを用いることが好ましく、車外側となる第2のガラス板としては、グリーンガラスを用いることが好ましい。クリアガラスは、赤外光に対する透過率が高い(赤外光透過率が80%~92%程度)のガラスである。一方、グリーンガラスは赤外光に対する透過率が低い(赤外光透過率が10%~60%程度)のガラスである。車内側の第1のガラス板として赤外光の透過率が高いクリアガラスを用いることで、赤外光を用いた顔認証および虹彩認証を好適に行うことができる。また、車外側の第2のガラス板として赤外光の透過率が低いグリーンガラスを用いることで、外部からのノイズとなる赤外光(ノイズ光)をより好適に吸収できる。
【0198】
ガラス板の厚さは、特に制限はないが、0.5~5.0mm程度であればよく、1.0~3.0mmが好ましく、2.0~2.3mmがより好ましい。第1のガラス板および第2のガラス板の材料または厚さは、同一であっても異なっていてもよい。
【0199】
合わせガラスの構成を有するウインドシールドガラスは、公知の合わせガラス作製方法を用いて製造することができる。
一般的には、合わせガラス用の中間膜を2枚のガラス板に挟んだ後、加熱処理と加圧処理(ゴムローラーを用いた処理等)とを数回繰り返し、最後にオートクレーブ等を利用して加圧条件下での加熱処理を行う方法により製造することができる。
【0200】
積層フィルムと中間膜とを有する合わせガラスの構成を有するウインドシールドガラスは、一例として、積層フィルムをガラス板表面に形成した後、上述した合わせガラスの作製方法で作製してもよく、あるいは、上述の積層フィルムを含む合わせガラス用の中間膜を用いて、上述した合わせガラスの作製方法で作製してもよい。
積層フィルムをガラス板表面に形成する場合、積層フィルムを設けるガラス板は、第1のガラス板でも第2のガラス板でもよい。この際において、積層フィルムは、例えば、ガラス板に接着剤で貼合される。
【0201】
(中間膜)
中間膜(中間膜シート)としては、合わせガラスにおいて中間膜(中間層)として用いられる、公知のいずれの中間膜も利用可能である。例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体および塩素含有樹脂の群から選ばれる樹脂を含む樹脂膜を用いることができる。上述の樹脂は、中間膜の主成分であることが好ましい。なお、主成分であるとは、中間膜の50質量%以上を占める成分のことをいう。
【0202】
上述の樹脂のうち、ポリビニルブチラールおよびエチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルブチラールがより好ましい。樹脂は、合成樹脂であることが好ましい。
ポリビニルブチラールは、ポリビニルアルコールをブチルアルデヒドによりアセタール化して得ることができる。上述のポリビニルブチラールのアセタール化度の好ましい下限は40%、好ましい上限は85%であり、より好ましい下限は60%、より好ましい上限は75%である。
【0203】
ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化することにより得られ、鹸化度80~99.8モル%のポリビニルアルコールが一般的に用いられる。
また、上述のポリビニルアルコールの重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は3000である。ポリビニルアルコールの重合度が200以上であると、得られる合わせガラスの耐貫通性が低下しにくく、3000以下であると、樹脂膜の成形性がよく、しかも樹脂膜の剛性が大きくなり過ぎず、加工性が良好である。より好ましい下限は500、より好ましい上限は2000である。
【0204】
(積層フィルムを含む中間膜)
積層フィルムを含む合わせガラス用の中間膜は、積層フィルムを上述の中間膜の表面に貼合して形成することができる。または、積層フィルムを2枚の上述の中間膜に挟んで形成することもできる。2枚の中間膜は同一であってもよく異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
積層フィルムと中間膜との貼合には、公知の貼合方法を用いることができるが、ラミネート処理を用いることが好ましい。ラミネート処理は、積層体と中間膜とが加工後に剥離してしまわないように、ある程度の加熱および加圧条件下にて実施することが好ましい。
ラミネートを安定的に行なうために、中間膜の接着する側の膜面温度は、50~130℃が好ましく、70~100℃がより好ましい。
ラミネート時には加圧することが好ましい。加圧条件には制限はないが、2.0kg/cm2未満(196kPa未満)が好ましく、0.5~1.8kg/cm2(49~176kPa)がより好ましく、0.5~1.5kg/cm2(49~147kPa)がさらに好ましい。
【0205】
また、積層フィルムが支持体を有する場合には、ラミネートと同時に、または、ラミネートの直後、または、ラミネートの直前に、支持体を剥離してもよい。すなわち、ラミネート後に得られる中間膜に貼着された積層フィルムは、支持体がなくてもよい。
積層フィルムを含む中間膜の製造方法の一例は、
(1)第1の中間膜の表面に積層フィルムを貼合して第1の積層体を得る第1の工程、および、
(2)第1の積層体中の積層フィルムの第1の中間膜が貼合されている面とは反対の面に、第2の中間膜を貼合する第2の工程、を含む。
例えば、第1の工程において、支持体と第1の中間膜とを対面しないで、積層フィルムと第1の中間膜とを貼合する。次いで、積層フィルムから支持体を剥離する。さらに、第2の工程において、第2の中間膜を、支持体を剥離した面に貼合する。これにより、支持体を有さない積層フィルムを含む中間膜を製造することができる。また、この積層フィルムを含む中間膜を用いることで、積層フィルムが支持体を有さない合わせガラスを容易に作製することができる。
破損等なく、安定的に支持体を剥離するためには、積層フィルムから支持体を剥離する際の支持体の温度は、40℃以上が好ましく、40~60℃がより好ましい。
【0206】
[HUD(ヘッドアップディスプレイシステム)]
ウインドシールドガラスは視線追跡システムを有するHUDの構成部材として用いることができる。視線追跡システムを有するHUDは、赤外光検出装置(IRセンサー(IRカメラ))および赤外光照射装置(赤外光源)を有する。また、HUDは画像表示のためのプロジェクターを含むことが好ましい。
【0207】
<赤外光源>
赤外光源としては、所定の波長の赤外光を照射する光源が適宜利用可能である。具体的には、赤外光源としては、LED(発光ダイオード)、有機発光ダイオード(OLED)、赤外レーザ、VCSEL(垂直共振面発光型半導体レーザ)、グローバー、キセノンランプ、ハロゲンランプ等の公知の光源が利用可能である。
【0208】
また、HUDにおいて、赤外光を用いた顔検出は、具体的には、運転者の顔が登録されている顔であるかを識別したり、顔(瞳)の位置、向きを検出したり、顔の動きを検出したりする。そのため、赤外光源は、運転者の顔が位置する領域を含む領域に赤外光を照射することが好ましい。すなわち、面状に赤外光を照射することが好ましい。このような面状の赤外光の描画方式としては、赤外線LEDを利用する場合には、顔認証用は、高出力および広指向角で、面状に照射するもの(指向角±45deg程度)を用いればよい。また、虹彩認証用は、目の付近に集中的に照射するため、比較的狭い(指向角±10deg程度)ものを用いればよい。他の方式としては、赤外レーザを利用するものの場合、例えば、VCSEL(垂直共振面発光型半導体レーザ)を光源とし、微細回折素子でドットビームに変換して照射するもの等が挙げられる。あるいは、赤外光源は、アレイ状に配置される複数の光源を有し、複数点からなる面状の赤外光を照射するものであってもよい。
【0209】
また、HUDは、赤外光照射装置を、画像を投映するプロジェクターとは別の装置として有していてもよく、あるいは、上述したプロジェクターが投映画像に加えて赤外光を照射するものとしてもよい。
【0210】
<IRセンサー(IRカメラ)>
IRセンサー(IRカメラ)は、赤外光源が照射した赤外光が運転者の顔で反射された戻り光を受光するセンサーである。前述のとおり、顔検出を行うHUDにおいて運転者の顔を検出するために面状の赤外光を照射する。従って、IRセンサーは、面状に赤外光を検出可能な2次元センサーである。
【0211】
IRセンサーとしては、CCD(Charge Coupled Device)センサー、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサー等の光電変換素子と、赤外光を通す赤外光フィルターとを組み合わせたもの、赤外線カメラ等が利用可能である。また、IRカメラは、入射する赤外光を光電変換素子に結像するレンズを有していてもよい。
IRセンサーで得られた画像データは、イメージプロセッサーに送られて顔認証、視線追跡等のための処理に用いられる。イメージプロセッサーは、マイクロプロセッサ、メモリ及びそれらを動作させるための各種電子部品からなり、IRセンサーにより撮像した画像のコントラストに基づいて、例えば、運転手の左右の目の瞳孔(又は虹彩の中心)の位置を検出する。IRセンサーにノイズ光が多く入射する場合には、得られる画像データに白抜けなどが生じて、上記瞳孔(又は虹彩の中心)の位置検出の精度が悪くなる。
【0212】
<プロジェクター>
「プロジェクター」は「光または画像を投映する装置」であり、「描画した画像を投射する装置」を含み、表示する画像を担持する投映光を出射するものである。本発明において、HUDのプロジェクターは、p偏光の投映光を出射することが好ましい。
HUDにおいて、プロジェクターは、ウインドシールドガラス中の可視光を反射する反射フィルム(透明スクリーン)に対して、表示する画像を担持するp偏光の投映光を斜めの入射角度で入射できるように配置されていればよい。
【0213】
HUDにおいて、プロジェクターは、描画デバイスを含み、小型の中間像スクリーンに描画された画像(実像)をコンバイナにより虚像として反射表示するものが好ましい。
プロジェクターは、p偏光の投映光を出射できれば、HUDに用いられる公知のプロジェクターを利用できる。また、プロジェクターは、虚像の結像距離、すなわち、虚像の結像位置が可変であるものであるのが好ましい。
【0214】
プロジェクターにおける虚像の結像距離の変更方法としては、例えば、画像の生成面(スクリーン)を移動する方法(特開2017-21302号公報参照)、光路長の異なる複数の光路を切り換えて使用する方法(WO2015/190157号参照)、ミラーの挿入および/または移動によって光路長を変更する方法、結像レンズとして組レンズを用いて焦点距離を変更する方法、イメージャーの移動による方法、虚像の結像距離が異なる複数台のプロジェクターを切り換えて使用する方法、および可変焦点レンズを用いる方法(WO2010/116912号参照)等が挙げられる。
【0215】
なお、プロジェクターは、連続的に虚像の結像距離が変更可能なものでも、2点あるいは3点以上の複数点で、虚像の結像距離を切り換え可能なものでもよい。
ここで、プロジェクターによる投映光の虚像のうち、少なくとも2つの虚像は、結像距離が、1m以上、異なるのが好ましい。従って、プロジェクターが、連続的に虚像の結像距離が変更可能なものである場合には、虚像の結像距離を1m以上、変更可能であるのが好ましい。このようなプロジェクターを用いることにより、一般道における通常速度での走行と、高速道路での高速走行とのように運転者の視線の距離が大きく異なる場合にも好適に対応できる等の点で好ましい。
【0216】
(描画デバイス)
描画デバイスは、それ自体が画像を表示するデバイスであってもよく、画像を描画できる光を発するデバイスであってもよい。
描画デバイスでは、光源からの光が、光変調器、レーザー輝度変調手段、または描画のための光偏向手段等の描画方式で調整されていればよい。描画デバイスは、光源を含み、さらに、描画方式に応じて光変調器、レーザー輝度変調手段、または描画のための光偏向手段等を含むデバイスを意味する。
【0217】
(光源)
光源には制限はなく、LED(発光ダイオード)、有機発光ダイオード(OLED)、放電管、および、レーザー光源等、プロジェクター、描画デバイスおよびディスプレイ等で用いられる公知の光源が利用可能である。
これらのうち、LEDおよび放電管は、直線偏光を出射する描画デバイスの光源に適していることから好ましく、特にLEDが好ましい。LEDは発光波長が可視光領域において連続的でないため、後述するように特定波長域で選択反射を示すコレステリック液晶層が用いられているコンバイナとの組み合わせに適しているためである。
【0218】
(描画方式)
描画方式は、使用する光源等に応じて選択することができ、特に限定されない。
描画方式の例としては、蛍光表示管、液晶を利用するLCD(Liquid Crystal Display)方式およびLCOS(Liquid Crystal on Silicon)方式、DLP(登録商標)(Digital Light Processing)方式、ならびに、レーザーを利用する走査方式等が挙げられる。描画方式は、光源と一体となった蛍光表示管を用いた方式であってもよい。描画方式としてはLCD方式が好ましい。
【0219】
LCD方式およびLCOS方式では、各色の光が光変調器で変調、合波され、投射レンズから光が出射する。
DLP方式は、DMD(Digital Micromirror Device)を用いた表示システムであり、画素数分のマイクロミラーを配置して描画され投射レンズから光が出射する。
【0220】
走査方式は光線をスクリーン上で走査させ、目の残像を利用して造影する方式であり、例えば、特開平7-270711号公報、および、特開2013-228674号公報の記載が参照できる。レーザーを利用する走査方式では、輝度変調された、例えば、赤色光、緑色光、青色光の各色のレーザー光が合波光学系または集光レンズ等で1本の光線に束ねられ、光線が光偏向手段により走査されて後述する中間像スクリーンに描画されていればよい。
走査方式において、例えば、赤色光、緑色光、青色光の各色のレーザー光の輝度変調は光源の強度変化として直接行ってもよく、外部変調器により行ってもよい。光偏向手段としては、ガルバノミラー、ガルバノミラーとポリゴンミラーの組み合わせ、および、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等が挙げられ、このうちMEMSが好ましい。走査方法としては、ランダムスキャン方式、および、ラスタースキャン方式等が挙げられるが、ラスタースキャン方式を用いることが好ましい。ラスタースキャン方式において、レーザー光を、例えば、水平方向は共振周波数で、垂直方向はのこぎり波で駆動することができる。走査方式は投射レンズが不要であるため、装置の小型化が容易である。
【0221】
描画デバイスからの出射光は、直線偏光であっても自然光(非偏光)であってもよい。
描画方式がLCD方式またはLCOS方式である描画デバイスおよびレーザー光源を用いた描画デバイスは、本質的には出射光が直線偏光となる。出射光が直線偏光である描画デバイスであって出射光が複数の波長(色)の光を含むものである場合は、複数の波長の光の偏光方向(透過軸方向)は同一であることが好ましい。市販の描画デバイスは、出射光の赤、緑、青の光の波長域での偏光方向が均一ではないものがあることが知られている(特開2000-221449号公報参照)。具体的には、緑色光の偏光方向が赤色光の偏光方向および青色光の偏光方向と直交している例が知られている。
なお、本発明のHUDにおいては、プロジェクターが出射する投影光は、p偏光であるのは、上述したとおりである。
【0222】
(中間像スクリーン)
上述のように、描画デバイスは中間像スクリーンを使用するものであってもよい。「中間像スクリーン」は、画像が描画されるスクリーンである。すなわち、描画デバイスを出射した光がまだ画像として視認できるものではない場合等において、この光によって描画デバイスは中間像スクリーンに視認可能な画像を形成する。中間像スクリーンにおいて描画された画像は中間像スクリーンを透過する光によりコンバイナに投映されていてもよく、中間像スクリーンを反射してコンバイナに投映されていてもよい。
【0223】
中間像スクリーンの例としては、散乱膜、マイクロレンズアレイ、および、リアプロジェクション用のスクリーン等が挙げられる。中間像スクリーンとしてプラスチック材料を用いる場合等において、中間像スクリーンが複屈折性を有すると、中間像スクリーンに入射した偏光の偏光面および光強度が乱され、コンバイナ(反射フィルム)において、色ムラ等が生じやすくなるが、所定の位相差を有する位相差膜を用いることにより、この色ムラの問題を低減できる。
中間像スクリーンとしては、入射光線を広げて透過させる機能を有するものが好ましい。投映像拡大表示が可能となるからである。このような中間像スクリーンとしては、例えば、マイクロレンズアレイで構成されるスクリーンが挙げられる。HUDで用いられるマイクロアレイレンズについては、例えば、特開2012-226303号公報、特開2010-145745号公報、および、特表2007-523369号公報に記載がある。
プロジェクターは描画デバイスで形成された投映光の光路を調整する反射鏡等を含んでいてもよい。
【0224】
ウインドシールドガラスに透明スクリーン(反射フィルム)を組み込んだHUDについては、特開平2-141720号公報、特開平10-96874号公報、特開2003-98470号公報、米国特許第5013134号明細書、および、特表2006-512622号公報等を参照することができる。
【0225】
ウインドシールドガラスは、特に、発光波長が可視光領域において連続的でないレーザー、LED、OLED(有機発光ダイオード)等を光源に用いたプロジェクターと組み合わせて用いるHUDに有用である。各発光波長に合わせて、可視光選択反射層の反射ピークの波長を調整できるからである。また、LCD(液晶表示装置)等の表示光が偏光しているディスプレイの投映に用いることもできる。
【0226】
<投映光(入射光)>
投映光は、反射フィルムの法線に対し45°~70°の斜め入射角度で入射させることが好ましい。屈折率1.51程度のガラスと屈折率1の空気との界面のブリュースター角は約56°であり、上述の角度の範囲でp偏光を入射させることにより、投映像表示のための入射光の、視認側のウインドシールドガラスの表面からの反射光が少なく、二重像の影響が小さい画像表示が可能である。
上述の角度は50°~65°であることも好ましい。このとき、投映像の観察を投映光の入射側において、反射フィルムの法線に対し、入射光とは反対側で45°~70°、好ましくは50°~65°の角度で行うことができる構成であればよい。
【0227】
投映光は、ウインドシールドガラスの上下左右等、いずれの方向から入射してもよく、視認方向と対応させて、決定すればよい。例えば、使用時の下方向から上述のような斜め入射角度で入射する構成が好ましい。
また、ウインドシールドガラスの反射フィルムは、入射するp偏光を反射するように配置されていればよい。
【0228】
上述のように、本発明のHUDにおける投映像表示の際の投映光は、入射面に平行な方向に振動するp偏光であることが好ましい。
プロジェクターの出射光が直線偏光ではない場合は、直線偏光フィルム(偏光子)をプロジェクターの出射光側に設けることによりp偏光としてもよく、プロジェクターからウインドシールドガラスまでの光路中において、直線偏光フィルム等を用いる公知の方法でp偏光としてもよい。この際には、直線偏光ではない投映光をp偏光にする部材も、本発明のHUDにおけるプロジェクターを構成するものと見なす。
上述のように、出射光の赤、緑、青の光の波長域での偏光方向が均一ではないプロジェクターについては、波長選択的に偏光方向を調整し、全ての色の波長域でp偏光として入射させることが好ましい。
【0229】
上述したように、HUD(プロジェクター)は、虚像結像位置を可変とする投映システムであってもよい。虚像結像位置を可変とすることにより、運転者はより快適に利便性高く虚像を視認することができる。
虚像結像位置は、車両の運転者から虚像を視認できる位置であり、例えば、通常運転者から見てウインドシールドガラスの先、1000mm以上離れた位置である。
ここで、上述の特表2011-505330号公報に記載のようにガラスが積層フィルムにおいて不均一(楔形)であると、虚像結像位置を変化させたときに、その楔形の角度も変更する必要が生じる。そのため、例えば、特開2017-15902号公報に記載のように、部分的に楔形の角度を変えて投映位置を変えることによって擬似的に虚像結像位置変化に対応する等の必要が生じる。
しかしながら、本発明のウインドシールドガラスを用い、かつ上述のようにp偏光を利用するHUDでは、楔形のガラスの利用は不要であり、積層フィルムにおいてガラスの厚さを均一とすることができるため、上述の虚像結像位置を可変とする投映システムを好適に採用することができる。
【0230】
<測定光(赤外光)>
同様に、視線追跡のための測定光(赤外光)は、積層フィルムの法線に対し45°~70°の斜め入射角度で入射させることが好ましい。この角度の範囲でp偏光を入射させることにより、視線追跡のための測定光の、視認側のウインドシールドガラスの表面からの反射光が少なくなり、より高精度な視線追跡が可能となる。
【0231】
次に、HUDおよびウインドシールドガラスについて、図3図4を参照してより具体的に説明する。
図3は、本発明の実施形態の積層フィルムを有するヘッドアップディスプレイの一例を示す模式図であり、図4は本発明の実施形態の積層フィルムを有するウインドシールドガラスの一例を示す模式図である。
HUD50は、プロジェクター52と、赤外光源56と、IRセンサー54と、ウインドシールドガラス30とを有し、例えば、乗用車等の車両に用いられる。なお、HUD50の各構成要素については、既に説明した通りである。
【0232】
HUD50において、ウインドシールドガラス30は、図4に概念的に示すように、車外側から第2のガラス板34と、ヒートシール層36、赤外光吸収層20、および、赤外光選択反射層(右円偏光反射層14Rおよび左円偏光反射層14L)を有する積層フィルム10と、中間膜38と、第1のガラス板32と、をこの順に有する。また、図4に示す例では、積層フィルム10は、赤外光吸収層20と赤外光選択反射層との間に支持体26および配向膜28を有する。
積層フィルム10は、図1に示す積層フィルム10であり、ヒートシール層36と赤外光吸収層20と赤外光選択反射層14とを有する。HUD50では、ウインドシールドガラス30の上下方向と、積層フィルム10が反射する直線偏光の偏光方向とが平行になるように配置している。なお、本発明のウインドシールドガラス(HUD)においては、積層フィルムが支持体を有してもよい。
ウインドシールドガラス30の上下方向は、ウインドシールドガラス30が配置された車両等の天地方向に対応する方向であり、地面側を下側とし、反対側を上側として規定される方向である。なお、ウインドシールドガラス30は、車両等に配置された場合、構造、またはデザインの都合、傾斜して配置されることがあるが、この場合、上下方向は、ウインドシールドガラス30の表面に沿った方向になる。表面とは、車両の外面側である。
【0233】
プロジェクター52は上述の通りである。プロジェクター52は、表示する画像が担持された、p偏光の投映光を出射できるものであれば、HUDに用いられる公知のプロジェクターが利用可能である。また、プロジェクター52は、好ましくは、虚像の結像距離、すなわち、虚像の結像位置が可変なものである。
【0234】
HUD50において、プロジェクター52は、p偏光の投映光をウインドシールドガラス30(第1のガラス板32)に照射する。プロジェクター52がウインドシールドガラス30に照射する投映光をp偏光とすることにより、ウインドシールドガラス30の第1のガラス板32および第2のガラス板34による投映光の反射を大幅に低減して、二重像が観察される等の不都合を抑制できる。
好ましくは、プロジェクター52は、p偏光の投映光をブリュースター角でウインドシールドに照射する。これにより、第1のガラス板32および第2のガラス板34での投映光の反射をなくして、より鮮明な画像の表示が可能になる。
【0235】
ウインドシールドガラス30は、いわゆる合わせガラスであって、第1のガラス板32と第2のガラス板34との間に、積層フィルム10と、中間膜38と、を有する。
第1のガラス板32の表面から、プロジェクター52が出射した投映光が入射される。図示しない反射フィルムは、p偏光を反射するものであり、上述したように、p偏光を反射するように、反射フィルムが反射する直線偏光の方向が設定される。
【0236】
図4に示す例では、積層フィルム10は、中間膜38によって第1のガラス板32に貼着され、ヒートシール層36によって第2のガラス板34に貼着されて、第1のガラス板32と第2のガラス板34との間に挟持される。
本発明において、ウインドシールドガラス30の第1のガラス板32と第2のガラス板34とは、基本的に平行に設けられるのが好ましい。
【0237】
第1のガラス板32および第2のガラス板34は、いずれも車両等のウインドシールドに利用される公知のガラス(ガラス板)である。従って、形成材料、厚さ、および形状等は、公知のウインドシールドに用いられるガラスと同様でよい。図5に示す第1のガラス板32および第2のガラス板34は、いずれも平板状であるが、これに限定されるものではなく、一部が曲面でもよいし、全面が曲面でもよい。
【0238】
中間膜38は、事故が起きた際にガラスが車内に突き抜け、かつ、飛散することを防止するものであり、さらに積層フィルム10と第1のガラス板32とを接着するものである。中間膜38には、合わせガラスのウインドシールドに用いられる公知の中間膜(中間層)を用いることができる。中間膜38の形成材料としては、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素含有樹脂、およびポリウレタン等が例示される。
【0239】
また、中間膜38の厚さにも、制限はなく、形成材料等に応じた厚さを、公知のウインドシールドガラスの中間膜と同様に設定すればよい。
【0240】
なお、図5に示すウインドシールドガラス30は、積層フィルム10と第2のガラス板34とをヒートシール層36で貼着し、積層フィルム10と第1のガラス板32とを中間膜38で貼着しているが、これに制限はされない。ウインドシールドガラス30が中間膜38を有さない構成であり、積層フィルム10と第1のガラス板32との貼着、および積層フィルム10と第2のガラス板34との貼着に、ヒートシール層36を用いた構成でもよい。
【0241】
HUD50では、ウインドシールドガラス30は、第1のガラス板32と第2のガラス板34との間に積層フィルム10を有し、ヒートシール層36によって積層フィルム10を第2のガラス板34に貼着し、中間膜38によって積層フィルム10を第1のガラス板32に貼着する構成を有する。
【0242】
図4に示すように、HUD50では、画像の観察者すなわち運転者Dは、プロジェクター52が投映して、ウインドシールドガラス30が反射した、プロジェクター52による投映像Ivの虚像を観察している。
【0243】
ここで、前述のとおり、本発明の積層フィルムは、赤外光を用いた顔認証(顔検出)および/または虹彩認証を行うHUDに用いられる。
顔認証(顔検出)および/または虹彩認証を行うHUD50は、上述したHUD50の構成に加えて、さらに、ウインドシールドガラス30の積層フィルム10に向けて赤外光IIRを照射する赤外光源56と、運転者Dの顔または瞳で反射された赤外光の戻り光IIR2を受光するIRセンサー54とを有する。図4に示す例では、赤外光源56は、プロジェクター52に隣接して配置されているがこれに限定はされず、プロジェクター52とは離間した位置に配置されていてもよい。あるいは、プロジェクター52が赤外光IIRを照射する赤外光源を兼ねていてもよい。
赤外光源56およびIRセンサー54については前述のとおりである。
【0244】
本発明の積層フィルムを用いるHUDにおいて行われる、赤外線照射装置およびIRセンサーを用いた顔検出(顔認証)および虹彩認証の方法については特に制限はなく、種々の公知の方法が利用可能である。例えば、国際公開第2019/026925号、特開2019-005576号公報、特開2018-045437号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0245】
ここで、本発明のウインドシールドガラスが、車両に用いられる場合には、第1のガラス板32および第2のガラス板34としては、曲面ガラスが用いられる場合が多い。その場合、第1のガラス板32を車内側とし、第2のガラス板34を車外側とすると、第1のガラス板32は凸面側を第2のガラス板34に向けて配置され、第2のガラス板34は凹面側を第1のガラス板32に向けて配置される。
【0246】
耐衝撃性の観点からは、ウインドシールドガラスは、図4に示すように、積層フィルム10が中間膜38よりも外側に配置される構成が好ましい。この構成により、前述のとおり、車外側からウインドシールドガラスに衝撃が加えられた際に、厚い中間膜に支えられて、積層フィルムからガラスが剥がれ落ちにくくなり、落下量を大幅に減らすことができるようになるため、耐衝撃性が向上する。
【0247】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の積層フィルム、ウインドシールドガラス、および、ヘッドアップディスプレイシステムについて詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【0248】
例えば、本発明の積層フィルムは、可視光選択反射層および赤外光選択反射層以外に、他の層を有していてもよい。具体的には、支持体、偏光変換層、配向膜、位相差層等を有していてもよい。偏光変換層は、国際公開第2020/080355号等に記載されている。また、例えば、赤外光選択反射層に隣接する偏光変換層、または、配向膜を介して隣接する位相差層を有していてもよい。
【実施例0249】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、および、操作等は本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0250】
[実施例1]
<赤外光選択反射層の作製>
(コレステリック液晶層形成用塗布液1の調製)
選択反射中心波長が1200nmで、右円偏光を反射するコレステリック液晶層を形成するコレステリック液晶層形成用塗布液に関して、下記の成分を混合し、下記組成のコレステリック液晶層形成用塗布液1を調製した。
・下記混合物1 100質量部
・フッ素系水平配向剤1(下記配向制御剤1) 0.05質量部
・フッ素系水平配向剤2(下記配向制御剤2) 0.02質量部
・右旋回性キラル剤LC756(BASF社製)
2.3質量部
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
1.0質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が20質量%となる量
【0251】
【化30】
【0252】
【化31】
【0253】
【化32】
【0254】
コレステリック液晶層形成用塗布液1を用いて、以下に示す赤外光選択反射層形成時と同様に仮支持体上に膜厚3μmの単一層のコレステリック液晶層を作製し、赤外光(780nm~1500nm)の反射特性を確認した。
その結果、作製されたコレステリック液晶層は右円偏光反射層であり、選択反射中心波長(中心波長)は1200nmであった。
【0255】
(コレステリック液晶層形成用塗布液2の調製)
選択反射中心波長が1200nmで、左円偏光を反射するコレステリック液晶層を形成するコレステリック液晶層形成用塗布液に関して、下記の成分を混合し、下記組成のコレステリック液晶層形成用塗布液2を調製した。
・上記混合物1 100質量部
・フッ素系水平配向剤1(上記配向制御剤1) 0.05質量部
・フッ素系水平配向剤2(上記配向制御剤2) 0.02質量部
・左旋回性キラル剤 (BASF社製)
4.12質量部
・重合開始剤IRGACURE OXE01(BASF社製)
1.0質量部
・溶媒(メチルエチルケトン) 溶質濃度が20質量%となる量
【0256】
コレステリック液晶層形成用塗布液2を用いて、以下に示す赤外光選択反射層形成時と同様に仮支持体上に膜厚3μmの単一層のコレステリック液晶層を作製し、赤外光(780nm~1500nm)の反射特性を確認した。
その結果、作製されたコレステリック液晶層は左円偏光反射層であり、選択反射中心波長(中心波長)は1200nmであった。
【0257】
(セルロースアシレートフィルムの鹸化)
国際公開第2014/112575号の実施例20と同一の作製方法で、厚さ40μmセルロースアシレートフィルムを作製した。
作製したセルロースアシレートフィルムを、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した。その後、フィルムの片面に下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて塗布量14mL/m2で塗布し、110℃に加熱したスチーム式遠赤外ヒーター(ノリタケカンパニーリミテド社製)の下に、10秒間滞留させた。
次いで、同じくバーコーターを用いて、純水を3mL/m2塗布した。
次いで、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りとを、3回繰り返した後に、70℃の乾燥ゾーンに5秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを作製した。
鹸化処理したセルロースアシレートフィルムの面内位相差をAxoScanで測定したところ、1nmであった。
【0258】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
アルカリ溶液の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・水酸化カリウム 4.7質量部
・水 15.7質量部
・イソプロパノール 64.8質量部
・界面活性剤(C1633O(CH2CH2O)10H) 1.0質量部
・プロピレングリコール 14.9質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0259】
(配向膜の形成)
鹸化処理したセルロースアシレートフィルム(透明支持体)の鹸化処理面に、下記に示す組成の配向膜形成用塗布液を、ワイヤーバーコーターで24mL/m2塗布し、100℃の温風で120秒乾燥した。
【0260】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
配向膜形成用塗布液の組成
―――――――――――――――――――――――――――――――――
・下記に示す変性ポリビニルアルコール 28質量部
・クエン酸エステル(AS3、三共化学社製) 1.2質量部
・光開始剤(イルガキュア2959、BASF社製) 0.84質量部
・グルタルアルデヒド 2.8質量部
・水 699質量部
・メタノール 226質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0261】
変性ポリビニルアルコール
【化33】
【0262】
配向膜を形成したセルロースアシレートフィルムを、支持体として用いた。
配向膜に、支持体の長辺方向を基準に時計回りに45°回転させた方向にラビング処理(レーヨン布、圧力:0.1kgf(0.98N)、回転数:1000rpm(revolutions per minute)、搬送速度:10m/min、回数:1往復)を施した。
【0263】
得られた配向膜の表面に、コレステリック液晶層形成用塗布液1を、乾燥後の乾膜の厚さが5μmになるようにワイヤーバーを用いて室温にて塗布して塗布層を得た。
塗布層を室温で30秒間乾燥させた後、85℃の雰囲気で2分間加熱した。その後、酸素濃度1000ppm以下の環境で、60℃でフュージョン社製のDバルブ(90mW/cmのランプ)によって、出力60%で6~12秒間、紫外線を照射し、コレステリック液晶相を固定して、厚さ5μmのコレステリック液晶層を得た。このコレステリック液晶層は右円偏光反射層に相当する。
【0264】
次に、得られたコレステリック液晶層の表面にさらに、コレステリック液晶層形成用塗布液2を用いて同様の工程を繰り返し、厚さ5μmのコレステリック液晶層形成用塗布液2の層を積層した。このコレステリック液晶層が、左円偏光反射層に相当する。
【0265】
<赤外光吸収層の作製>
支持体の赤外光選択反射層を形成した面とは反対側の面に、以下のようにして赤外光吸収層を形成した。
【0266】
下記処方液を作製し、所望の吸収が得られるような膜厚となる様に、バー塗布を行った後に130℃で1分加熱乾燥して赤外光吸収層を形成した。
【0267】
(赤外光吸収層の処方液)
・下記ピロロピロール色素 11.3質量部
・下記ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体 87.9質量部
・下記配向剤 0.72質量部
固形分 6.6%となる様に、溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を混合した。
【0268】
ピロロピロール色素
【化34】
【0269】
ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体
【化35】
【0270】
配向剤
【化36】
【0271】
<ヒートシール層の作製>
(ヒートシール層形成用塗布液)
下記の成分を混合し、ヒートシール層形成用塗布液を調製した。
・PVBシート片(積水化学社製、エスレックフィルム) 5.0質量部
・メタノール 90.25質量部
・ブタノール 4.75質量部
【0272】
(ヒートシール層の形成)
赤外光吸収層の表面にヒートシール層形成用塗布液をワイヤーバーを用いて塗布後、乾燥させて50℃にて1分間加熱処理を行い、厚み1μmのヒートシール層を得た。
以上により積層フィルムを作製した。
【0273】
<ウインドシールドガラスの作製>
上記で作製した各積層フィルムを有するウインドシールドガラスを以下のようにして作製した。
【0274】
第1のガラス板として、縦100mm×横100mm、厚さ2mmのガラス板(クリアガラス、セントラル硝子社製、FL2、可視光透過率90%、1100nmにおける透過率84%)を用意した。
この第1のガラス板の上に、同じサイズにカッティングした積水化学社製の厚さ0.76mmの中間膜としてPVBフィルムを設置した。中間膜の上に、縦100mm×横90mmサイズにカットしたシート状の積層フィルムを設置した。また、積層フィルムの赤外光選択反射層側が第1のガラス側となるように配置した。
積層フィルムの上に、縦100mm×横100mm、厚さ2mmの第2のガラス板(グリーンガラス、可視光透過率81%、1100mにおける透過率40%)を設置した。
この積層体を90℃、10kPa(0.1気圧)下で一時間保持した後に、オートクレーブ(栗原製作所製)にて115℃、1.3MPa(13気圧)で20分間加熱して気泡を除去し、ウインドシールドガラスを得た。
【0275】
[比較例1]
赤外光吸収層を有さない以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
この積層フィルムの赤外光選択反射層側が第1のガラス側となるように配置して実施例1と同様にしてウインドシールドガラスを作製した。
【0276】
各実施例および比較例における積層フィルムの反射波長ピーク、吸収波長ピークおよび可視光透過率をそれぞれ前述の方法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0277】
各実施例および比較例におけるウインドシールドガラスの可視光透過率を以下のようにして測定した。
第1のガラス板側からガラスの法線方向に対し0°の方向から無偏光を入射し、その透過光を分光光度計(日本分光株式会社製、V-670)で透過率スペクトルを測定した。
具体的には、JIS(日本工業規格) R 3212:2015(自動車用安全ガラス試験方法)に従って、A光源を用い分光光度計にて、波長380~780nmの範囲の各波長の透過率を測定し、CIE(国際照明委員会)の明順応標準比視感度の波長分布および波長間隔から得られる重価係数を各波長での透過率に乗じて加重平均することによって可視光透過率のスペクトルを求めた。
【0278】
また、各実施例および比較例におけるウインドシールドガラスの、入射角65度における波長950nmの無偏光反射率および透過率をそれぞれ以下のようにして測定した。
第1のガラス板側からガラスの法線方向に対し65°の方向から無偏光を入射し、その反射光を分光光度計(日本分光株式会社製、V-670)で測定し、反射率スペクトルを求めた。800~1500nmでの1nm毎の波長を測定し、950nmにおける反射率を評価した。
第2のガラス板側からガラスの法線方向に対し65°の方向から無偏光を入射し、その透過光を分光光度計(日本分光株式会社製、V-670)で測定し、透過率スペクトルを求めた。800~1500nmでの1nm毎の波長を測定し、950nmにおける透過率を評価した。
測定結果を表2に示す。
【0279】
【表1】
【0280】
【表2】
【0281】
[評価]
作製したウインドシールドガラスを含む視線追跡システムを車に実装して屋外および屋内で顔認証を行い、顔認証の精度を評価した。
【0282】
<顔認証の精度(屋外)>
晴れた日に、ウインドシールドガラスを実装した車を屋外に移動し、第1のガラス板側からガラス面の法線方向に対し65°の方向から、赤外光LEDを用いて、赤外光(波長950nm、無偏光)を入射し、ウインドシールドガラスの前に座る人の顔に赤外光(測定光)を照射した。人の顔で反射し、第1のガラス面からガラスの法線方向に対して65°の方向から正反射して戻った赤外光を、赤外光LEDに併設されたIRカメラで検出し、イメージプロセッサーに情報を送って顔認証を行ない、以下の基準で評価した。
・A:顔認証が十分に実施できた。(太陽光のノイズの少ないクリアな画像で、運転手の視線を把握できた。)
・B:顔認証が一部不十分であったが、実用上問題なし。(太陽光のノイズでわずかな面積において認証できない領域があったが、運転手の視線を把握することができた。)
・C:顔認証ができなかった。(太陽光のノイズがひどく、運転手の視線を把握できなかった。)
【0283】
<顔認証の精度(屋内)>
ウインドシールドガラスを実装した車を、屋根のあるガレージ内に移動し、太陽光が入らない様にした。第1のガラス板側からガラス面の法線方向に対し65°の方向から、赤外光LEDを用いて、赤外光(波長950nm、無偏光)を入射し、ウインドシールドガラスの前に座る人の顔に赤外光(測定光)を照射した。人の顔で反射し、第1のガラス面からガラスの法線方向に対して65°の方向から正反射して戻った赤外光を、赤外光LEDに併設されたIRセンサーで検出し、イメージプロセッサーに情報を送って顔認証を行ない、以下の基準で評価した。
・A:顔認証が十分に実施できた。(クリアな画像で、運転手の視線を把握できた。)
・B:顔認証が一部不十分であったが、実用上問題なし。(わずかな面積において認証できない領域があったが、運転手の視線を把握することができた。)
・C:顔認証ができなかった。(運転手の視線を把握できなかった。)
結果を表3に示す。
【0284】
【表3】
【0285】
表2に示すように、本発明の積層フィルムを有するウインドシールドガラスを視線追跡システムを有するHUDに用いた場合に、比較例に比べて、屋外でも顔認証の精度が向上することがわかる。
以上の結果から、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0286】
車載用のヘッドアップディスプレシステム(HUD)等に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0287】
10、10a、10b 積層フィルム
14 赤外光選択反射層
14R 右円偏光反射層
14L 左円偏光反射層
20 赤外光吸収層
24 偏光変換層
30 ウインドシールドガラス
32 第1のガラス板
34 第2のガラス板
36 ヒートシール層
38 中間膜
50 ヘッドアップディスプレイシステム(HUD)
52 プロジェクター
54 IRセンサー
56 赤外光源
D 運転者
IR 赤外光
V 可視光
図1
図2
図3
図4