(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176587
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ウエーハの製造方法及び加工装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241212BHJP
B24B 7/04 20060101ALI20241212BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20241212BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20241212BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20241212BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
H01L21/304 631
B24B7/04 A
B28D5/04 B
B23K26/53
B23K26/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095272
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】平田 和也
【テーマコード(参考)】
3C043
3C069
4E168
5F057
【Fターム(参考)】
3C043BA03
3C043BA09
3C043BA12
3C043CC04
3C043DD05
3C069AA01
3C069BA08
3C069BB04
3C069BC04
3C069CA04
3C069CB01
3C069EA01
4E168AE01
4E168CA06
4E168CA07
4E168CB03
4E168DA02
4E168DA24
4E168GA01
4E168HA01
4E168JA12
4E168JA13
4E168KA07
5F057AA14
5F057BA01
5F057BB06
5F057BB09
5F057CA02
5F057CA06
5F057DA11
5F057DA19
5F057DA22
5F057DA31
5F057FA13
5F057GA15
(57)【要約】
【課題】複数のインゴットを同時並行で処理しながら各インゴットから上限枚数のウエーハを製造する際の所要時間を低減することが可能なウエーハの製造方法を提供する。
【解決手段】インゴットからウエーハを製造するための一連のステップに含まれる平坦化ステップにおいて、一連のステップを開始する時点におけるインゴットの厚みと比較して、ウエーハの仕上げ厚みと、分離層の想定厚みと、インゴットから製造可能なウエーハの上限枚数から1を減算して得られる数でインゴットの余剰厚みを除算して得られる分配厚みと、を加算して得られる厚み分薄い厚みになるまでインゴットを研削する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴットの内部に分離層を形成する分離層形成ステップと、該分離層形成ステップの後に該分離層において該インゴットを分離することによってウエーハを製造する分離ステップと、該分離ステップの後に該インゴットに残存するインゴット側残存分離層及び該ウエーハに残存するウエーハ側残存分離層をそれぞれ除去して該インゴット及び該ウエーハのそれぞれを平坦化する平坦化ステップと、を備える一連のステップを繰り返すことによって、該インゴットから3枚以上の該ウエーハを製造するウエーハの製造方法であって、
該インゴットからの3枚以上の該ウエーハの製造に先立って、該インゴットの初期厚みと、該ウエーハの仕上げ厚みと、該分離層の想定厚みと、を参照して、該インゴットから製造可能な該ウエーハの上限枚数と、該インゴットの余剰厚みと、を算出する算出ステップを備え、
該分離層形成ステップにおいては、該インゴットの素材を透過する波長のレーザービームが集光される集光点が該インゴットの表面から所定の深さに位置付けられるように該レーザービームを該インゴットに照射しながら該集光点と該インゴットとを相対的に移動させることによって該分離層が形成され、
該平坦化ステップにおいては、
該一連のステップを開始する時点における該インゴットの厚みと比較して、該仕上げ厚みと、該想定厚みと、該上限枚数から1を減算して得られる数で該余剰厚みを除算して得られる分配厚みと、を加算して得られる厚み分薄い厚みになるまで該インゴットが研削され、かつ、
該仕上げ厚みになるまで該ウエーハが研削される、ウエーハの製造方法。
【請求項2】
該所定の深さは、該仕上げ厚みと該ウエーハ側残存分離層の厚みとを加算して得られる第1厚みに対応する深さである、請求項1に記載のウエーハの製造方法。
【請求項3】
該所定の深さは、該仕上げ厚みと該ウエーハ側残存分離層の厚みと該分配厚みとを加算して得られる第2厚みに対応する深さである、請求項1に記載のウエーハの製造方法。
【請求項4】
該所定の深さは、該仕上げ厚みと該ウエーハ側残存分離層の厚みとを加算して得られる第1厚みよりも長く、かつ、該第1厚みと該分配厚みとを加算して得られる第2厚みよりも短い深さである、請求項1に記載のウエーハの製造方法。
【請求項5】
インゴットから3枚以上のウエーハを製造するための加工装置であって、
該インゴットの内部に分離層を形成するためのレーザー加工部と、
該分離層において該インゴットを分離することによって該ウエーハを製造するための分離部と、
該インゴットに残存するインゴット側残存分離層を除去して該インゴットを平坦化するための平坦化部と、
該分離層の形成と該インゴットの分離と該インゴットの平坦化とを備える一連のステップを該インゴットから製造可能な該ウエーハの上限枚数から1を減算して得られる数だけ繰り返すように、該レーザー加工部、該分離部及び該平坦化部を制御するためのコントローラと、を備え、
該コントローラは、
該インゴットの初期厚みと該ウエーハの仕上げ厚みと該分離層の想定厚みとを記憶するためのメモリと、
該初期厚みと該仕上げ厚みと該想定厚みとを参照して、該上限枚数と該インゴットの余剰厚みとを算出するためのプロセッサと、を有し、
該プロセッサは、
該インゴットの素材を透過する波長のレーザービームが集光される集光点が該インゴットの表面から所定の深さに位置付けられるように該レーザービームを該インゴットに照射しながら該集光点と該インゴットとを相対的に移動させることによって該分離層が形成されるように該レーザー加工部を制御し、かつ、
該一連のステップを開始する時点における該インゴットの厚みと比較して、該仕上げ厚みと、該想定厚みと、該上限枚数から1を減算して得られる数で該余剰厚みを除算して得られる分配厚みと、を加算して得られる厚み分薄い厚みになるまで該インゴットが研削されるように該平坦化部を制御する、加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゴットから3枚以上のウエーハを製造するウエーハの製造方法及びそのための加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスのチップは、一般的に、シリコン(Si)、炭化シリコン(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、タンタル酸リチウム(LiTaO3:LT)又はニオブ酸リチウム(LiNbO3:LN)等の単結晶からなるウエーハを利用して製造される。このウエーハは、例えば、ワイヤソーを使用してインゴットから切り出されることによって製造される。
【0003】
ただし、インゴットからワイヤソーを使用してウエーハを切り出す際の切り代は、300μm前後であり、比較的大きい。また、このように切り出されたウエーハの表面には微細な凹凸が形成され、また、このウエーハは全体的に湾曲する(ウエーハに反りが生じる)。そのため、このウエーハを利用してチップを製造する際には、ウエーハの表面にラッピング、エッチング及び/又はポリッシングを施して表面を平坦化する必要がある。
【0004】
この場合、最終的にウエーハとして利用される素材の量は、インゴットの総量の2/3程度である。すなわち、インゴットの総量の1/3程度は、インゴットからのウエーハの切り出し及びウエーハの表面の平坦化の際に廃棄される。そのため、このようにワイヤソーを使用してウエーハを製造する場合には生産性が低くなる。
【0005】
この点に鑑み、インゴットの素材を透過する波長のレーザービームを利用してインゴットからウエーハを製造するウエーハの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、この方法においては、まず、このレーザービームが集光される集光点がインゴットの内部に位置付けられるようにレーザービームをインゴットに照射しながら集光点とインゴットとを相対的に移動させる。
【0006】
これにより、インゴットの内部に改質部と改質部から伸展するクラックとを含む分離層が形成される。そして、この方法においては、このクラックをさらに伸展させるようにインゴットに外力が付与される。その結果、インゴットが分離層において分離されてウエーハが製造される。
【0007】
また、このようにインゴットからウエーハが製造されると、インゴット及びウエーハのそれぞれに分離層(インゴット側残存分離層及びウエーハ側残存分離層)が残存する。そのため、上述したウエーハの製造方法においては、インゴット及びウエーハのそれぞれを研削することによってインゴット側残存分離層及びウエーハ側残存分離層をそれぞれ除去してインゴット及びウエーハのそれぞれが平坦化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したウエーハの製造方法が繰り返されると、2枚のウエーハを製造するために必要な厚みを僅かに下回る厚みを有するインゴットが残されることがある。この場合、ウエーハの仕上げ厚みになるまでインゴットを長期間に渡って研削することによって最後のウエーハが製造される。
【0010】
ただし、複数のインゴットを同時並行で処理しながら各インゴットから上限枚数のウエーハを製造する場合には、各インゴットから最後のウエーハを製造するための長期間に渡る研削がボトルネックになるおそれがある。すなわち、この場合には、特定のインゴットを研削して最後のウエーハを製造する際に、その他のインゴットの処理が長期間に渡って停止されるおそれがある。
【0011】
この点に鑑み、本発明の目的は、複数のインゴットを同時並行で処理しながら各インゴットから上限枚数のウエーハを製造する際の所要時間を低減することが可能なウエーハの製造方法及びそのための加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面によれば、インゴットの内部に分離層を形成する分離層形成ステップと、該分離層形成ステップの後に該分離層において該インゴットを分離することによってウエーハを製造する分離ステップと、該分離ステップの後に該インゴットに残存するインゴット側残存分離層及び該ウエーハに残存するウエーハ側残存分離層をそれぞれ除去して該インゴット及び該ウエーハのそれぞれを平坦化する平坦化ステップと、を備える一連のステップを繰り返すことによって、該インゴットから3枚以上の該ウエーハを製造するウエーハの製造方法であって、該インゴットからの3枚以上の該ウエーハの製造に先立って、該インゴットの初期厚みと、該ウエーハの仕上げ厚みと、該分離層の想定厚みと、を参照して、該インゴットから製造可能な該ウエーハの上限枚数と、該インゴットの余剰厚みと、を算出する算出ステップを備え、該分離層形成ステップにおいては、該インゴットの素材を透過する波長のレーザービームが集光される集光点が該インゴットの表面から所定の深さに位置付けられるように該レーザービームを該インゴットに照射しながら該集光点と該インゴットとを相対的に移動させることによって該分離層が形成され、該平坦化ステップにおいては、該一連のステップを開始する時点における該インゴットの厚みと比較して、該仕上げ厚みと、該想定厚みと、該上限枚数から1を減算して得られる数で該余剰厚みを除算して得られる分配厚みと、を加算して得られる厚み分薄い厚みになるまで該インゴットが研削され、かつ、該仕上げ厚みになるまで該ウエーハが研削される、ウエーハの製造方法が提供される。
【0013】
さらに、該所定の深さは、該仕上げ厚みと該ウエーハ側残存分離層の厚みとを加算して得られる第1厚みに対応する深さであることが好ましい。あるいは、該所定の深さは、該仕上げ厚みと該ウエーハ側残存分離層の厚みと該分配厚みとを加算して得られる第2厚みに対応する深さであることが好ましい。あるいは、該所定の深さは、該仕上げ厚みと該ウエーハ側残存分離層の厚みとを加算して得られる第1厚みよりも長く、かつ、該第1厚みと該分配厚みとを加算して得られる第2厚みよりも短い深さであることが好ましい。
【0014】
本発明の別の側面によれば、インゴットから3枚以上のウエーハを製造するための加工装置であって、該インゴットの内部に分離層を形成するためのレーザー加工部と、該分離層において該インゴットを分離することによって該ウエーハを製造するための分離部と、該インゴットに残存するインゴット側残存分離層を除去して該インゴットを平坦化するための平坦化部と、該分離層の形成と該インゴットの分離と該インゴットの平坦化とを備える一連のステップを該インゴットから製造可能な該ウエーハの上限枚数から1を減算して得られる数だけ繰り返すように、該レーザー加工部、該分離部及び該平坦化部を制御するためのコントローラと、を備え、該コントローラは、該インゴットの初期厚みと該ウエーハの仕上げ厚みと該分離層の想定厚みとを記憶するためのメモリと、該初期厚みと該仕上げ厚みと該想定厚みとを参照して、該上限枚数と該インゴットの余剰厚みとを算出するためのプロセッサと、を有し、該プロセッサは、該インゴットの素材を透過する波長のレーザービームが集光される集光点が該インゴットの表面から所定の深さに位置付けられるように該レーザービームを該インゴットに照射しながら該集光点と該インゴットとを相対的に移動させることによって該分離層が形成されるように該レーザー加工部を制御し、かつ、該一連のステップを開始する時点における該インゴットの厚みと比較して、該仕上げ厚みと、該想定厚みと、該上限枚数から1を減算して得られる数で該余剰厚みを除算して得られる分配厚みと、を加算して得られる厚み分薄い厚みになるまで該インゴットが研削されるように該平坦化部を制御する、加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、インゴットからウエーハを製造するための一連のステップに含まれる平坦化ステップ(具体的には、インゴットの平坦化)において、一連のステップを開始する時点におけるインゴットの厚みと比較して、ウエーハの仕上げ厚みと、分離層の想定厚みと、インゴットから製造可能なウエーハの上限枚数から1を減算して得られる数でインゴットの余剰厚みを除算して得られる分配厚みと、を加算して得られる厚み分薄い厚みになるまでインゴットが研削される。
【0016】
そして、この一連のステップが繰り返されると、最後のウエーハの製造に必要なインゴットの最小限の厚み(具体的には、ウエーハの仕上げ厚みとインゴット側残存分離層の厚みとを加算して得られる厚み)以上、かつ、当該最後のウエーハの製造に必要なインゴットの最小限の厚みと当該分配厚みとを加算して得られる厚み以下の厚みを有するインゴットが最後の平坦化ステップに供されることになる。
【0017】
この場合、ウエーハの仕上げ厚みになるまでインゴットを研削することによって最後のウエーハを製造する際の所要時間が短くなる。そのため、複数のインゴットを同時並行で処理しながら各インゴットから上限枚数のウエーハを製造する方法として本発明を適用することによって、各インゴットから最後のウエーハを製造するためのインゴットの研削がボトルネックになりにくくなり、その所要時間を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(A)は、インゴットの一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示されるインゴットを模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、
図1(A)及び
図1(B)に示されるインゴットから3枚以上のウエーハを製造するウエーハの製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2に示されるウエーハの製造方法に含まれる算出ステップにおいて参照されるパラメータを模式的に示す側面図である。
【
図4】
図4は、
図2に示されるウエーハの製造方法に含まれる分離層形成ステップの様子を模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5(A)は、
図2に示されるウエーハの製造方法に含まれる分離層形成ステップ後のインゴットを模式的に示す部分拡大断面図であり、
図5(B)は、
図2に示されるウエーハの製造方法に含まれる分離層形成ステップ後のインゴットを模式的に示す平面図である。
【
図6】
図6(A)及び
図6(B)のそれぞれは、
図2に示されるウエーハの製造方法に含まれる分離ステップの様子を模式的に示す側面図である。
【
図7】
図7は、
図2に示されるウエーハの製造方法に含まれる非最終平坦化ステップの様子を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、
図1(A)及び
図1(B)に示されるインゴットから3枚以上のウエーハを製造するための加工装置の一例を模式的に示すブロック図である。
【
図9】
図9は、
図1(A)及び
図1(B)に示されるインゴットから3枚以上のウエーハを製造するための加工装置の別の例を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1(A)は、インゴットの一例を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示されるインゴットを模式的に示す側面図である。
図1(A)及び
図1(B)に示されるインゴット11は、例えば、SiCの単結晶からなり、概ね平行な表面11a及び裏面11bを含む円柱状の形状を有する。
【0020】
このインゴット11は、エピタキシャル成長を利用して製造されたものである。なお、インゴット11は、内部に形成される格子欠陥を少なくするために、SiCのc軸11cが表面11a及び裏面11bの垂線11dに対して僅かに傾くように製造される。例えば、c軸11cと垂線11dとがなす角(オフ角)αは、1°~6°(代表的には、4°)である。
【0021】
また、インゴット11の側面には、SiCの結晶方位を示すための2つの平部、すなわち、一次オリエンテーションフラット13及び二次オリエンテーションフラット15が形成されている。そして、一次オリエンテーションフラット13は、二次オリエンテーションフラット15よりも長い。また、二次オリエンテーションフラット15は、SiCのc面11eに平行な面と表面11a又は裏面11bとが交差する交差線に平行になるように形成されている。
【0022】
なお、インゴット11は、SiC以外の物質(例えば、Si、GaN、LT又はLN等)の単結晶を素材としてもよい。また、インゴット11の側面には、一次オリエンテーションフラット13及び二次オリエンテーションフラット15の一方又は双方が設けられなくてもよく、また、これらに換えてインゴット11を構成する素材の結晶方位を示すための切り欠き(ノッチ)が形成されていてもよい。
【0023】
図2は、インゴット11から3枚以上のウエーハを製造するウエーハの製造方法の一例を模式的に示すフローチャートである。端的には、この方法においては、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数n(nは3以上の自然数)から1を減算して得られる数(n-1)だけインゴット11を分離して平坦化するための一連のステップを繰り返すことによってインゴット11からn枚のウエーハを製造する。
【0024】
さらに、この方法においては、余剰厚み(すなわち、n枚のウエーハを製造するために必要な厚みを超える分の厚み)分のインゴット11の除去を、最後のウエーハを製造するために実施される一連のステップにおいてまとめて行うのではなく、(n-1)回実施される一連のステップに分配して行う。
【0025】
具体的には、この方法においては、各一連のステップにおいて、インゴット11の厚みを、ウエーハの製造に伴って減少するインゴット11の最小限の厚み(具体的には、後述するウエーハの仕上げ厚みと分離層の想定厚みとを加算して得られる厚み)と、分配厚み(具体的には、(n-1)で余剰厚みを除算して得られる厚み)と、を加算して得られる厚み分減少させる。
【0026】
図2に示されるウエーハの製造方法においては、まず、予め把握されているパラメータを参照して、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数nと、インゴット11の余剰厚みと、を算出する(算出ステップS1)。
図3は、算出ステップS1において参照されるパラメータを模式的に示す側面図である。
【0027】
この算出ステップS1においては、インゴット11の初期厚みT0と、ウエーハの仕上げ厚み(すなわち、後述する非最終平坦化ステップS5及び最終平坦化ステップS6において平坦化された後のウエーハの厚み)T1と、分離層の想定厚み(すなわち、後述する分離層形成ステップS2においてインゴット11の内部に形成される分離層が有すると想定される厚み)T2と、が参照される。
【0028】
具体的には、この方法においては、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数nから1を減算して得られる数(n-1)だけインゴット11が分離される。そのため、インゴット11の初期厚みT
0は以下の不等式(1)及び(2)を充足する値となる。
【数1】
【数2】
【0029】
そして、上記の不等式(1)及び(2)を変形すると、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数nは、以下の不等式(3)を充足する自然数であることが分かる。
【数3】
【0030】
また、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数nが算出されれば、以下の数式(4)によって表現されるインゴット11の余剰厚みT
3も算出できる。
【数4】
【0031】
さらに、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数n及びインゴット11の余剰厚みT
3が算出されれば、以下の数式(5)によって表現されるインゴット11の分配厚みΔTを算出することも可能になる。
【数5】
【0032】
例えば、インゴット11の初期厚みT0が20mm(20,000μm)、ウエーハの仕上げ厚みT1が350μm、分離層の想定厚みT2が80μmであれば、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数nは46であり、インゴット11の余剰厚みT3は300μmである。さらに、この場合、インゴット11の分配厚みΔTは、6.67μmとなる。
【0033】
算出ステップS1の後には、インゴット11の内部に分離層を形成する(分離層形成ステップS2)。
図4は、分離層形成ステップS2の様子を模式的に示す斜視図である。なお、
図4に示されるX軸方向及びY軸方向は、水平面上において互いに直交する方向であり、また、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する方向(鉛直方向)である。
【0034】
この分離層形成ステップS2は、レーザー加工装置2において実施される。レーザー加工装置2は、水平面に概ね平行な円状の保持面を有し、この保持面においてインゴット11を保持可能なチャックテーブル4を備える。
【0035】
チャックテーブル4は、吸引機構(不図示)に連結されている。この吸引機構は、例えば、エジェクタ等を有する。そして、吸引機構が動作すると、チャックテーブル4の保持面近傍の空間に吸引力が作用する。そのため、保持面にインゴット11が置かれた状態で吸引機構が動作すると、チャックテーブル4の保持面においてインゴット11が保持される。
【0036】
また、チャックテーブル4は、回転機構(不図示)に連結されている。この回転機構は、例えば、プーリ及びモータ等を有する。そして、回転機構が動作すると、保持面の中心を通るZ軸方向に沿った直線を回転軸としてチャックテーブル4が回転する。
【0037】
チャックテーブル4の上方には、レーザービーム照射ユニット6のヘッド8が設けられている。このヘッド8は、Y軸方向に沿って延在する円筒状のハウジング10の先端部に設けられている。なお、ヘッド8は集光レンズ及びミラー等の光学系を収容し、ハウジング10はミラー及び/又はレンズ等の光学系を収容する。
【0038】
ハウジング10の基端部は、移動機構に連結されている。この移動機構は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、移動機構が動作すると、X軸方向、Y軸方向及び/又はZ軸方向に沿ってヘッド8及びハウジング10が移動する。
【0039】
また、レーザービーム照射ユニット6は、インゴット11の素材を透過する波長(例えば、1064nm)のレーザービームを生成するレーザー発振器(不図示)を有する。このレーザー発振器は、例えば、Nd:YAG等のレーザー媒質を有する。そして、レーザー発振器でレーザービームが生成されると、ハウジング10及びヘッド8に収容された光学系を介して、レーザービームがチャックテーブル4の保持面側に射出される。
【0040】
さらに、ハウジング10の側部には、チャックテーブル4の保持面側を撮像可能な撮像ユニット12が設けられている。この撮像ユニット12は、例えば、LED(Light Emitting Diode)等の光源と、対物レンズと、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の撮像素子とを有する。
【0041】
レーザー加工装置2において分離層形成ステップS2を実施する際には、まず、表面11aが上になるようにインゴット11をチャックテーブル4の保持面に置く。次いで、チャックテーブル4においてインゴット11が保持されるように吸引機構を動作させる。次いで、撮像ユニット12による撮像によって形成されたインゴット11の表面11aの画像等に基づいて、二次オリエンテーションフラット15がX軸方向に平行になるように回転機構がチャックテーブル4を回転させる。
【0042】
次いで、インゴット11のうち二次オリエンテーションフラット15から僅かに内側の領域が、平面視において、ヘッド8からみてX軸方向に位置付けられるように、移動機構がX軸方向及び/又はY軸方向に沿ってヘッド8及びハウジング10を移動させる。次いで、ヘッド8から射出されたレーザービームが集光される集光点がインゴット11の表面11aから所定の深さに位置付けられるように移動機構がZ軸方向に沿ってヘッド8及びハウジング10を移動させる。
【0043】
なお、当該所定の深さは、予め把握されているパラメータを参照して設定される。具体的には、当該所定の深さは、ウエーハの仕上げ厚みT1とウエーハをインゴット11から分離した後にウエーハに残存する分離層(ウエーハ側残存分離層)の厚みとを加算して得られる厚み(第1厚み)以上、かつ、当該第1厚みとインゴット11の分配厚みΔTとを加算して得られる厚み(第2厚み)以下になるように設定される。また、ウエーハ側残存分離層の厚みは、端的には、分離層の想定厚みT2からウエーハをインゴット11から分離した後にインゴット11に残存する分離層(インゴット側残存分離層)の厚みを減算して得られる厚みに対応する厚みである。
【0044】
次いで、ヘッド8からレーザービームを射出しながら、レーザービームが集光される集光点がインゴット11のX軸方向における一端から他端までを通り過ぎるように移動機構がヘッド8及びハウジング10をX軸方向に沿って移動させる。すなわち、レーザービームをインゴット11に照射しながら、インゴット11の素材(ここでは、SiC)のc面11eに平行な面と表面11aとが交差する交差線に沿ってレーザービームが集光される集光点とインゴット11とを相対的に移動させる。
【0045】
次いで、ヘッド8が、平面視において、既にレーザービームが照射された領域よりも二次オリエンテーションフラット15から僅かに遠い領域からみてX軸方向に位置付けられるように、移動機構がY軸方向に沿ってヘッド8及びハウジング10を移動させる。次いで、上述したようなインゴット11に対するレーザービームの照射を再び行う。
【0046】
さらに、インゴット11のうち二次オリエンテーションフラット15から最も遠い領域に対するレーザービームの照射が完了するまで、Y軸方向に沿ったヘッド8及びハウジング10の移動とインゴット11に対するレーザービームの照射とを繰り返す。これにより、分離層形成ステップS2が完了する。
【0047】
図5(A)は、分離層形成ステップS2後のインゴット11を模式的に示す部分拡大断面図であり、
図5(B)は、分離層形成ステップS2後のインゴット11を模式的に示す平面図である。分離層形成ステップS2においては、インゴット11の素材(ここでは、SiC)の結晶構造が乱れた改質部17が、レーザービームが集光される集光点を中心としてインゴット11の内部に形成される。
【0048】
また、インゴット11の内部に改質部17が形成されると、インゴット11の体積が膨張してインゴット11に内部応力が生じる。この内部応力は、改質部17からクラック19が伸展することによって緩和される。なお、このクラック19は、主にc面11eに沿って伸展する。その結果、複数の改質部17と複数の改質部17のそれぞれから進展するクラック19とを含む分離層21がインゴット11の内部に形成される。
【0049】
分離層形成ステップS2の後には、分離層21においてインゴット11を分離することによってウエーハを製造する(分離ステップS3)。
図6(A)及び
図6(B)のそれぞれは、分離ステップS3の様子を模式的に示す側面図である。この分離ステップS3は、分離装置14において実施される。分離装置14は、
図4に示されるチャックテーブル4と同様の構造を有するチャックテーブル16を備える。
【0050】
このチャックテーブル16は、テーブル側吸引機構(不図示)に連結されている。このテーブル側吸引機構は、例えば、真空ポンプ等を有する。そして、このテーブル側吸引機構が動作すると、チャックテーブル16の保持面近傍の空間に吸引力が作用する。そのため、保持面にインゴット11が置かれた状態でテーブル側吸引機構が動作すると、チャックテーブル16の保持面においてインゴット11が保持される。
【0051】
チャックテーブル16の上方には、分離ユニット18が設けられている。この分離ユニット18は、下面に複数の吸引口が形成されている吸引板20を有する。この複数の吸引口は、吸引板20の内部に形成されている吸引路を介して真空ポンプ等の分離ユニット側吸引機構に連通している。そして、分離ユニット側吸引機構が動作すると、吸引板20の下面近傍の空間に吸引力が作用する。
【0052】
また、吸引板20の上部は、鉛直方向移動機構22に連結されている。この鉛直方向移動機構22は、例えば、エアシリンダ等を有する。そして、鉛直方向移動機構22が動作すると、鉛直方向に沿って吸引板20が移動する。
【0053】
分離装置14において分離ステップS3を実施する際には、まず、チャックテーブル16と吸引板20とを十分に離隔させた状態で、その内部に分離層21が形成されているインゴット11を表面11aが上になるようにチャックテーブル16の保持面に置く。次いで、チャックテーブル16においてインゴット11が保持されるようにテーブル側吸引機構を動作させる。
【0054】
次いで、吸引板20の下面をインゴット11の表面11aに接触させるように、鉛直方向移動機構が吸引板20を下降させる(
図6(A)参照)。次いで、インゴット11の表面11a側が上方に向かって吸引されるように、分離ユニット側吸引機構を動作させる。
【0055】
次いで、吸引板20をチャックテーブル16から離隔させるように、鉛直方向移動機構が吸引板20を上昇させる(
図6(B)参照)。この時、インゴット11に引張応力が作用して分離層21に含まれるクラック19がさらに伸展する。
【0056】
その結果、分離層21においてインゴット11が分離されて、その表面11a側にインゴット側残存分離層が存在するインゴット11と、その一面側にウエーハ側残存分離層が存在するウエーハ23と、が製造される。なお、インゴット11の表面11a及びウエーハ23の一面のそれぞれは、分離層21における改質部17及びクラック19の分布を反映した凹凸形状を有する。これにより、分離ステップS3が完了する。
【0057】
そして、インゴット11が(n-1)回分離されていなければ(ステップS4:NO)には、所定の厚みになるまでインゴット11を研削することによって、インゴット側残存分離層を除去してインゴット11を平坦化し、かつ、仕上げ厚みT1になるまでウエーハを研削することによって、ウエーハ側残存分離層を除去してウエーハ23を平坦化する(非最終平坦化ステップS5)。
【0058】
なお、当該所定の厚みは、分離層形成ステップS2と分離ステップS3と非最終平坦化ステップS5とを備える一連のステップを開始する時点(すなわち、分離層形成ステップS2を開始する時点)におけるインゴット11の厚みと比較して、ウエーハ23の仕上げ厚みT1と、分離層21の想定厚みT2と、インゴット11の分配厚みΔTと、を加算して得られる厚み分薄い厚みである。
【0059】
図7は、非最終平坦化ステップS5の様子を模式的に示す斜視図である。この非最終平坦化ステップS5は、研削装置24において実施される。研削装置24は、中心が外縁よりも僅かに突出した円錐の側面に相当する形状の保持面を有し、この保持面においてウエーハ23を保持可能なチャックテーブル26を有する。
【0060】
チャックテーブル26は、吸引機構に連結されている。この吸引機構は、エジェクタ等を有する。そして、吸引機構が動作すると、チャックテーブル26の保持面近傍の空間に吸引力が作用する。そのため、保持面にインゴット11又はウエーハ23が置かれた状態で吸引機構が動作すると、チャックテーブル26の保持面においてインゴット11又はウエーハ23が保持される。
【0061】
さらに、チャックテーブル26は、水平方向移動機構に連結されている。水平方向移動機構は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、水平方向移動機構が動作すると、水平方向に沿ってチャックテーブル26が移動する。
【0062】
また、チャックテーブル26は、回転機構(不図示)に連結されている。回転機構は、例えば、プーリ及びモータ等を有する。そして、回転機構が動作すると、チャックテーブル26は、保持面の中心を通る直線を回転軸として回転する。
【0063】
チャックテーブル26の近傍には、測定ユニット(不図示)が設けられている。測定ユニットは、例えば、接触式又は非接触式の厚み測定器等を有する。そして、測定ユニットは、チャックテーブル26の保持面において保持されたインゴット11又はウエーハ23の厚みを測定可能である。
【0064】
チャックテーブル26の上方には、研削ユニット28が設けられている。この研削ユニット28は、上端部がモータに連結されているスピンドル30を有する。そして、スピンドル30の下端部には円盤状のマウント32が設けられ、このマウント32には研削ホイール34が装着されている。
【0065】
この研削ホイール34は、環状の基台36と、基台36の周方向に沿って離散して配置されている複数の研削砥石38と、を有する。そして、複数の研削砥石38の下面は、概ね同じ高さに配置されており、これらの下面がインゴット11及びウエーハ23を研削するための研削面となる。
【0066】
さらに、スピンドル30は、鉛直方向移動機構に連結されている。この鉛直方向移動機構は、例えば、ボールねじ及びモータ等を有する。そして、鉛直方向移動機構が動作すると、鉛直方向に沿ってスピンドル30、マウント32及び研削ホイール34が移動する。
【0067】
研削装置24において非最終平坦化ステップS5を実施する際には、例えば、上述した所定の厚みに到るまでインゴット11を研削してから仕上げ厚みT1に到るまでウエーハ23を研削する。この場合、まず、水平方向及び鉛直方向のそれぞれにおいてチャックテーブル26と研削ホイール34とを十分に離隔させた状態で、表面11aが上になるようにインゴット11をチャックテーブル26の保持面に置く。
【0068】
次いで、チャックテーブル26においてインゴット11が保持されるように吸引機構を動作させる。次いで、チャックテーブル26の保持面の中心と、スピンドル30とともに研削ホイール34を回転させた時の複数の研削砥石38の軌跡と、が鉛直方向において重なるように、水平方向移動機構がチャックテーブルを移動させる。
【0069】
次いで、チャックテーブル26を回転させるように回転機構を動作させ、かつ、研削ホイール34を回転させるようにスピンドル30の上端部に連結されているモータを動作させる。次いで、複数の研削砥石38のいずれかの研削面をインゴット11の表面11aに接触させるように、スピンドル30、マウント32及び研削ホイール34を鉛直方向移動機構が下降させる。
【0070】
これにより、インゴット11の研削が開始される。そして、この研削、すなわち、チャックテーブル26及び研削ホイール34の双方を回転させながらの研削ホイール34の下降は、測定ユニットによって測定されるインゴット11の厚みが上述した所定の厚みに到るまで継続される。
【0071】
インゴット11の研削が完了すれば、チャックテーブル26及び研削ホイール34の双方の回転を停止するとともに、水平方向及び鉛直方向のそれぞれにおいてチャックテーブル26と研削ホイール34とを十分に離隔させるように水平方向移動機構及び鉛直方向移動機構を動作させる。
【0072】
次いで、上述した手順と同様の手順で仕上げ厚みT1に到るまでウエーハ23を研削する。これにより、非最終平坦化ステップS5が完了する。なお、非最終平坦化ステップS5においては、インゴット11の研削及びウエーハ23の研削の一方が研削装置24とは別の研削装置において行われてもよい。この場合、両研削を併行して行うことが可能になる。
【0073】
また、非最終平坦化ステップS5において除去されるインゴット11の厚み及びウエーハ23の厚みは、上述した所定の深さ(すなわち、分離層形成ステップS2においてインゴット11に照射されるレーザービームの集光点とインゴット11の表面11aとの間隔)に依存して変化する。
【0074】
具体的には、当該所定の深さが上述した第1厚み(すなわち、ウエーハの仕上げ厚みT1とウエーハ側残存分離層の厚みとを加算して得られる厚み)に対応する深さである場合には、非最終平坦化ステップS5において除去されるインゴット11の厚みは、インゴット側残存分離層の厚みとインゴット11の分配厚みΔTとを加算して得られる厚みに対応し、また、非最終平坦化ステップS5において除去されるウエーハ23の厚みは、ウエーハ側残存分離層の厚みに対応する。
【0075】
この場合、分離層形成ステップS2及び分離ステップS3においてクラック19が意図せずにインゴット11の裏面11bに向けて長く伸展しても、このクラック19をインゴット11に残存させずにインゴット11を平坦化できる蓋然性が高くなる。
【0076】
また、当該所定の深さが上述した第2厚み(すなわち、上述した第1厚みとインゴット11の分配厚みΔTとを加算して得られる厚み)に対応する深さである場合には、非最終平坦化ステップS5において除去されるインゴット11の厚みは、インゴット側残存分離層の厚みに対応し、また、非最終平坦化ステップS5において除去されるウエーハ23の厚みは、ウエーハ側残存分離層の厚みとインゴット11の分配厚みΔTとを加算して得られる厚みに対応する。
【0077】
この場合、分離層形成ステップS2及び分離ステップS3においてクラック19が意図せずにインゴット11の表面11aに向けて長く伸展しても、このクラック19をウエーハ23に残存させずにウエーハ23を平坦化できる蓋然性が高くなる。
【0078】
また、当該所定の深さが上述した第1厚みよりも長く、かつ、上述した第2厚みよりも短い深さである場合には、非最終平坦化ステップS5において除去されるインゴット11の厚みは、インゴット側残存分離層の厚みとインゴット11の分配厚みΔTを(k/k+1)(kは正の実数)倍して得られる厚みとを加算して得られる厚みに対応し、また、非最終平坦化ステップS5において除去されるウエーハ23の厚みは、ウエーハ側残存分離層の厚みとインゴット11の分配厚みΔTを(1/k+1)倍して得られる厚みとを加算して得られる厚みに対応する。
【0079】
この場合、分離層形成ステップS2及び分離ステップS3においてクラック19が意図せずにインゴット11の表面11a及び裏面11bの双方に向けてある程度伸展しても、このクラック19をインゴット11及びウエーハ23の双方に残存させずにインゴット11及びウエーハ23の双方を平坦化できる蓋然性が高くなる。
【0080】
非最終平坦化ステップS5の後には、上述した分離層形成ステップS2及び分離ステップS3を再び行う。さらに、インゴット11が(n-1)回分離されるまで、上述した非最終平坦化ステップS5、分離層形成ステップS2及び分離ステップS3が順番に繰り返される。
【0081】
そして、インゴット11が(n-1)回分離されれば(ステップS4:YES)、それぞれが仕上げ厚みT1になるまでインゴット11及びウエーハ23を研削することによって、それぞれに残存する分離層(すなわち、インゴット側残存分離層又はウエーハ側残存分離層)を除去してインゴット及びウエーハ(2枚のウエーハ)を平坦化する(最終平坦化ステップS6)。
【0082】
なお、分離層形成ステップS2と分離ステップS3と最終平坦化ステップS6とを備える一連のステップを開始する時点(すなわち、最後に実施される分離層形成ステップS2を開始する時点)におけるインゴット11の厚みは、ウエーハ23の仕上げ厚みT1を2倍して得られる厚みと、分離層21の想定厚みT2と、インゴット11の分配厚みΔTと、を加算して得られる厚みに対応する。
【0083】
また、最終平坦化ステップS6を開始する時点におけるインゴット11の厚みは、最後のウエーハ23の製造に必要なインゴット11の最小限の厚み(具体的には、ウエーハ23の仕上げ厚みT1とインゴット側残存分離層の厚みとを加算して得られる厚み)以上、かつ、当該最後のウエーハ23の製造に必要なインゴット11の最小限の厚みと分配厚みΔTとを加算して得られる厚み以下となる。
【0084】
最終平坦化ステップS6は、上述した非最終平坦化ステップS5と同様に実施される。そのため、ここでは、最終平坦化ステップS6の詳細な説明は割愛する。そして、最終平坦化ステップS6が完了すれば、インゴット11からのn枚のウエーハ23の製造が完了する。すなわち、
図2に示されるウエーハの製造方法が完了する。
【0085】
図2に示されるウエーハの製造方法においては、インゴット11からウエーハ23を製造するための一連のステップに含まれる非最終平坦化ステップS5において、一連のステップを開始する時点におけるインゴット11の厚みと比較して、ウエーハ23の仕上げ厚みと、分離層21の想定厚みT
2と、インゴット11から製造可能なウエーハ23の上限枚数nから1を減算して得られる数(n-1)でインゴット11の余剰厚みT
3を除算して得られる分配厚みΔTと、を加算して得られる厚み分薄い厚みになるまでインゴット11が研削される。
【0086】
そして、この一連のステップが繰り返されると、最後のウエーハ23の製造に必要なインゴット11の最小限の厚み(具体的には、ウエーハ23の仕上げ厚みT1とインゴット側残存分離層の厚みとを加算して得られる厚み)以上、かつ、当該最後のウエーハ23の製造に必要なインゴット11の最小限の厚みと当該分配厚みΔTとを加算して得られる厚み以下の厚みを有するインゴット11が最終平坦化ステップS6に供されることになる。
【0087】
この場合、ウエーハ23の仕上げ厚みT
1になるまでインゴット11を研削することによって最後のウエーハ23を製造する際の所要時間が短くなる。そのため、複数のインゴット11を同時並行で処理しながら各インゴット11から上限枚数nのウエーハ23を製造する方法として
図2に示されるウエーハの製造方法を適用することによって、各インゴット11から最後のウエーハ23を製造するためのインゴット11の研削がボトルネックになりにくくなり、その所要時間を低減することが可能になる。
【0088】
なお、上述した内容は本発明の一態様であって、本発明は上述した内容に限定されない。例えば、本発明においては、算出ステップS1の前に、インゴット11の初期厚みT0を測定するための測定ステップが実施されてもよい。
【0089】
また、本発明においては、分離層形成ステップS2の後かつ分離ステップS3の前に、インゴット11の表面11a側に超音波を付与する超音波付与ステップが実施されてもよい。この場合、超音波付与ステップにおいて分離層21に含まれるクラック19が伸展し、分離ステップS3におけるインゴット11の分離が容易になる。
【0090】
また、本発明は、インゴット11から3枚以上のウエーハ23を製造するための加工装置であってもよい。
図8は、このような加工装置の一例を模式的に示すブロック図である。
図8に示される加工装置40は、レーザー加工部42と分離部44と平坦化部46とコントローラ48とを備える。
【0091】
レーザー加工部42は、例えば、
図4に示されるレーザー加工装置2と同様の構造を有する。そのため、レーザー加工部42においては、上述したようにインゴット11の内部に分離層21を形成することが可能である。
【0092】
分離部44は、例えば、
図6に示される分離装置14と同様の構造を有する。そのため、分離部44においては、上述したように分離層21においてインゴット11を分離してウエーハ23を製造することが可能である。
【0093】
平坦化部46は、例えば、
図7に示される研削装置24と同様の構造を有する。そのため、平坦化部46においては、上述したようにインゴット11に残存するインゴット側残存分離層及びウエーハ23に残存するウエーハ側残存分離層をそれぞれ除去してインゴット11及びウエーハ23のそれぞれを平坦化することが可能である。
【0094】
なお、平坦化部46においては、インゴット11の平坦化のみが行われてもよい。この場合、平坦化部46とは別の平坦化部が加工装置40に設けられ、当該別の平坦化部においてウエーハ23の平坦化が行われてもよい。あるいは、この場合、加工装置40とは別の装置(例えば、研削装置)においてウエーハ23の平坦化が行われてもよい。
【0095】
コントローラ48は、プロセッサ50とメモリ52とを有する。プロセッサ50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等によって構成される。また、メモリ52は、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)又はSRAM(Static Random Access Memory)等の揮発性メモリと、SSD(Solid State Drive)(NAND型フラッシュメモリ)又はHDD(Hard Disk Drive)(磁気記憶装置)等の不揮発性メモリと、によって構成される。
【0096】
メモリ52は、プロセッサ50において利用されるデータ及びプログラム等を記憶する。このデータとしては、例えば、インゴット11の初期厚みT
0と、ウエーハ23の仕上げ厚みT
1と、分離層21の想定厚みT
2と、インゴット側残存分離層の厚みと、ウエーハ側残存分離層の厚みと、が挙げられる。また、このプログラムとしては、例えば、加工装置40において、
図2に示されるウエーハの製造方法を実施するためのプログラムが挙げられる。
【0097】
プロセッサ50は、メモリ52に記憶されたデータを利用しながら、メモリ52に記憶されているプログラムを読みだして実行する。例えば、プロセッサ50は、メモリ52に記憶されているインゴット11の初期厚みT
0等を参照して、
図2に示されるウエーハの製造方法を実施するためのプログラムをメモリ52から読み出して実行する。
【0098】
具体的には、
図2に示されるウエーハの製造方法が加工装置40において実施される際には、まず、メモリ52に記憶されているインゴット11の初期厚みT
0、ウエーハ23の仕上げ厚みT
1及び分離層21の想定厚みT
2を参照して、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数n及びインゴット11の余剰厚みT
3をプロセッサ50が算出する(算出ステップS1)。
【0099】
そして、プロセッサ50は、算出されたインゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数n及びインゴット11の余剰厚みT3をメモリ52に記憶させる。さらに、プロセッサ50は、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数n及びインゴット11の余剰厚みT3を参照してインゴット11の分配厚みΔTを算出し、これをメモリ52に記憶させてもよい。
【0100】
算出ステップS1が完了すれば、プロセッサ50は、分離層21の形成(分離層形成ステップS2)と、インゴット11の分離(分離ステップS3)と、インゴット11の平坦化(非最終平坦化ステップS5又は最終平坦化ステップS6)と、を備える一連のステップをインゴット11から製造可能なウエーハ23の上限枚数nから1を減算して得られる数(n-1)だけ繰り返すように、レーザー加工部42、分離部44及び平坦化部46を制御する。
【0101】
また、本発明の加工装置においては、全ての加工部(具体的には、レーザー加工部、分離部及び平坦化部)が1つのコントローラによって制御されるのではなく、加工部毎にコントローラが設けられ、各加工部が別個のコントローラによって制御されてもよい。
図9は、加工部毎にコントローラが設けられる加工装置の一例を模式的に示すブロック図である。
【0102】
図9に示される加工装置54は、サブコントローラ56aを有するレーザー加工部56と、サブコントローラ58aを有する分離部58と、サブコントローラ60aを有する平坦化部60と、メインコントローラ62と、を備える。換言すると、加工装置54においては、コントローラ48が、サブコントローラ56a,58a,60a及びメインコントローラ62として分散されている点を除いて、
図8に示される加工装置40と同様の構造を有する。
【0103】
レーザー加工部56は、例えば、
図4に示されるレーザー加工装置2の構成要素と同様の構成要素に加えて、プロセッサとメモリとを含むサブコントローラ56aを有する。そして、このメモリは、例えば、レーザー加工部56において分離層21の形成(分離層形成ステップS2)を行うために必要なデータ及びプログラム等を記憶する。
【0104】
分離部58は、例えば、
図6に示される分離装置14の構成要素と同様の構成要素に加えて、プロセッサとメモリとを含むサブコントローラ58aを有する。そして、このメモリは、例えば、分離部58においてインゴット11の分離(分離ステップS3)を行うために必要なデータ及びプログラム等を記憶する。
【0105】
平坦化部60は、例えば、
図7に示される研削装置24の構成要素と同様の構成要素に加えて、プロセッサとメモリとを含むサブコントローラ60aを有する。そして、このメモリは、例えば、平坦化部60においてインゴット11及びウエーハ23の平坦化(非最終平坦化ステップS5及び最終平坦化ステップS6)を行うために必要なデータ及びプログラム等を記憶する。
【0106】
なお、平坦化部60においては、インゴット11の平坦化のみが行われてもよい。この場合、平坦化部60とは別の平坦化部が加工装置54に設けられ、当該別の平坦化部においてウエーハ23の平坦化が行われてもよい。あるいは、この場合、加工装置54とは別の装置(例えば、研削装置)においてウエーハ23の平坦化が行われてもよい。
【0107】
メインコントローラ62は、プロセッサとメモリとを有する。そして、このメモリには、例えば、インゴット11の初期厚みT0と、ウエーハ23の仕上げ厚みT1と、分離層21の想定厚みT2と、インゴット側残存分離層の厚みと、ウエーハ側残存分離層の厚みと、が予め記憶されている。また、メインコントローラ62は、有線又は無線の通信回線を介して、サブコントローラ56a,58a,60aに接続されている。
【0108】
加工装置54においては、メインコントローラ62によって算出ステップS1が実施される。具体的には、メインコントローラ62のメモリに記憶されているインゴット11の初期厚みT0、ウエーハ23の仕上げ厚みT1及び分離層21の想定厚みT2を参照して、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数n及びインゴット11の余剰厚みT3をメインコントローラ62のプロセッサが算出する。
【0109】
そして、メインコントローラ62のプロセッサは、上述した所定の深さ(すなわち、分離層形成ステップS2においてインゴット11に照射されるレーザービームの集光点とインゴット11の表面11aとの間隔)を特定するために必要なデータをサブコントローラ56aに送信する。なお、このデータには、例えば、ウエーハの仕上げ厚みT1と、ウエーハ側残存分離層の厚みと、インゴット11の分配厚みΔTを算出するために必要なデータ(具体的には、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数n及びインゴット11の余剰厚みT3)と、が含まれる。
【0110】
また、メインコントローラ62のプロセッサは、上述した所定の厚みを特定するために必要なデータをサブコントローラ60aに送信する。なお、このデータには、例えば、ウエーハ23の仕上げ厚みT1と、分離層21の想定厚みT2と、インゴット11の分配厚みΔTを算出するために必要なデータと、が含まれる。
【0111】
なお、メインコントローラ62のプロセッサは、インゴット11から製造可能なウエーハの上限枚数n及びインゴット11の余剰厚みT3に加えて、インゴット11の分配厚みΔTを算出してもよい。この場合、メインコントローラ62のプロセッサは、インゴット11の分配厚みΔTを算出するために必要なデータに換えて、インゴット11の分配厚みΔT自体をサブコントローラ56a,60aに送信してもよい。
【0112】
メインコントローラ62における算出ステップS1が完了すれば、レーザー加工部56において分離層21の形成(分離層形成ステップS2)を行うようにメインコントローラ62がサブコントローラ56aに命じる信号を送信する。そして、
図4に示されるレーザー加工装置2の構成要素と同様の構成要素をサブコントローラ56aが制御することよって分離層形成ステップS2が完了すれば、その旨を示す信号をサブコントローラ56aがメインコントローラ62に送信する。
【0113】
サブコントローラ56aからの信号がメインコントローラ62において受信されれば、分離部58においてインゴット11の分離(分離ステップS3)を行うようにメインコントローラ62がサブコントローラ58aに命じる信号を送信する。そして、
図6に示される分離装置14の構成要素と同様の構成要素をサブコントローラ58aが制御することよって分離ステップS3が完了すれば、その旨を示す信号をサブコントローラ58aがメインコントローラ62に送信する。
【0114】
サブコントローラ58aからの信号がメインコントローラ62において受信されれば、平坦化部60においてインゴット11の平坦化(非最終平坦化ステップS5)を行うようにメインコントローラ62がサブコントローラ60aに命じる信号を送信する。そして、
図7に示される研削装置24の構成要素と同様の構成要素をサブコントローラ60aが制御することよって非最終平坦化ステップS5が完了すれば、その旨を示す信号をサブコントローラ60aがメインコントローラ62に送信する。
【0115】
さらに、サブコントローラ56a,58a,60aとメインコントローラ62との間における信号の授受は、サブコントローラ58aからの分離ステップS3が完了したことを示す信号がメインコントローラ62においてインゴット11から製造可能なウエーハ23の上限枚数nから1を減算して得られる数(n-1)だけ受信されるまで繰り返される。
【0116】
そして、サブコントローラ58aからの信号が当該数(n-1)だけメインコントローラ62において受信されれば、平坦化部60においてインゴット11の平坦化(最終平坦化ステップS6)を行うようにメインコントローラ62がサブコントローラ60aに命じる信号を送信する。そして、
図7に示される研削装置24の構成要素と同様の構成要素をサブコントローラ60aが制御することよって最終平坦化ステップS6が完了すれば、その旨を示す信号をサブコントローラ60aがメインコントローラ62に送信する。
【0117】
加えて、上述した加工装置40,54には、追加の構成要素が設けられてもよい。例えば、加工装置40,54には、インゴット11の初期厚みT0を測定するための測定部が設けられてもよい。また、加工装置40,54には、レーザー加工部42,56、分離部44,58及び平坦化部46,60のいずれかにインゴット11を搬入し、又は、これらのいずれかから搬出するための搬送部が設けられてもよい。
【0118】
その他、上述した実施形態にかかる構造及び方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0119】
2 :レーザー加工装置
4 :チャックテーブル
6 :レーザービーム照射ユニット
8 :ヘッド
10:ハウジング
11:インゴット(11a:表面、11b:裏面)
(11c:c軸、11d:垂線、11e:c面)
12:撮像ユニット
13:一次オリエンテーションフラット
14:分離装置
15:二次オリエンテーションフラット
16:チャックテーブル
17:改質部
18:分離ユニット
19:クラック
20:吸引板
21:分離層
22:鉛直方向移動機構
23:ウエーハ(23a:一面)
24:研削装置
26:チャックテーブル
28:研削ユニット
30:スピンドル
32:マウント
34:研削ホイール
36:基台
38:研削砥石
40:加工装置
42:レーザー加工部
44:分離部
46:平坦化部
48:コントローラ
50:プロセッサ
52:メモリ
54:加工装置
56:レーザー加工部(56a:サブコントローラ)
58:分離部(58a:サブコントローラ)
60:平坦化部(60a:サブコントローラ)
62:メインコントローラ