(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176717
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ポンプケーシング
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
F04D29/44 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095477
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】陳 思詠
(72)【発明者】
【氏名】清水 駿助
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 啓悦
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AB42
3H130AB58
3H130AC01
3H130BA66A
3H130BA68A
3H130CA02
3H130CA06
3H130CA21
3H130DA02Z
3H130EA06A
3H130EA07A
3H130EB00A
3H130EB04A
3H130EB05A
(57)【要約】
【課題】液体の圧力損失を低減し、羽根車への流入流速の均一性を確保することにより、ポンプ効率および吸込性能を向上させることができるポンプケーシングが提供される。
【解決手段】ポンプケーシング3は、液体流路4を有している。液体流路4は、第1流路空間FS1と、第2流路空間FS2と、を有している。第1流路空間FS1は、第1流路空間FS1の断面積が小さくなる形状を有している。第2流路空間FS2は、第2流路空間FS2の断面積が大きくなる形状を有している。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根車を収容するポンプケーシングであって、
前記ポンプケーシングは、その内部に形成された液体流路を有しており、
前記液体流路における巻き角度の角度範囲を第1角度範囲および第2角度範囲に分割したとき、前記液体流路は、
前記第1角度範囲に対応する第1流路空間と、
前記第2角度範囲に対応し、かつ前記第1流路空間に接続された第2流路空間と、を有しており、
前記第1流路空間は、前記第1流路空間の始端から前記第2流路空間に向かって、前記第1流路空間の断面積が小さくなる形状を有しており、
前記第2流路空間は、前記第1流路空間との境界から前記第2流路空間の終端に向かって、前記第2流路空間の断面積が大きくなる形状を有している、ポンプケーシング。
【請求項2】
前記第1流路空間は、前記第1流路空間の始端から前記第2流路空間に向かって、曲率半径が小さくなる第1外側湾曲輪郭を有しており、
前記第2流路空間は、前記第1流路空間との境界から前記第2流路空間の終端に向かって、曲率半径が大きくなる第2外側湾曲輪郭を有している、請求項1に記載のポンプケーシング。
【請求項3】
前記第1流路空間は、前記第1流路空間の始端から前記第2流路空間に向かって、曲率半径が小さくなる第1内側湾曲輪郭を有しており、
前記第2流路空間は、前記第1流路空間との境界から前記第2流路空間の終端に向かって、曲率半径が大きくなる第2内側湾曲輪郭を有している、請求項1に記載のポンプケーシング。
【請求項4】
前記第1流路空間は、前記第1流路空間の始端から前記第2流路空間に向かって、高さが小さくなる第1断面高さを有しており、
前記第2流路空間は、前記第1流路空間との境界から前記第2流路空間の終端に向かって、高さが大きくなる第2断面高さを有している、請求項1に記載のポンプケーシング。
【請求項5】
前記第1流路空間および前記第2流路空間のそれぞれは、前記巻き角度に応じて変化する断面積を有しており、
前記第2流路空間の断面積の変化を示す曲線の傾きは、前記第1流路空間の断面積の変化を示す曲線の傾きよりも大きい、請求項1に記載のポンプケーシング。
【請求項6】
前記巻き角度の基準角度における前記第1流路空間の断面積は、前記液体流路の入口口径の面積よりも大きい、請求項1に記載のポンプケーシング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプケーシングに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプは、液体(例えば、水)を輸送するための流体機械である。ポンプは、羽根車と、羽根車を収容するポンプケーシングと、を備えている。ポンプは、羽根車の回転により、ポンプケーシングに吸い込まれた液体を昇圧し、昇圧した液体をポンプケーシングの吐出口から吐き出すように構成されている。
【0003】
一般的に、ポンプケーシングは、その内部に吸い込まれた液体の流れ方向を転向し、旋回流を形成する舌部を有している(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。ポンプケーシング内の液体が舌部に衝突すると、液体の圧力損失が生じる。結果として、流路の局部における液体の流速が低下し、液体の流れが緩やかになり、液体の流れ方向は転向される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-121541号公報
【特許文献2】特開2021-195887号公報
【特許文献3】特開平3-290096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液体の、舌部との衝突に起因して液体の圧力損失が生じると、液体の流速均一性が低下し、液体の流れが急に曲げられ、液体がポンプケーシングの壁面から剥離したり、液体の流路渦が発生するおそれがある。さらには、液体の流れ欠損また液体の圧力損失による局部の圧力低下に起因してキャビテーションが生じるおそれもある。このように、液体の、舌部との衝突に起因して液体の圧力損失が生じると、様々な問題が生じ、ポンプ効率および吸込性能が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、液体の圧力損失を低減し、羽根車への流入流速の均一性を確保することにより、ポンプ効率および吸込性能を向上させることができるポンプケーシングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、羽根車を収容するポンプケーシングが提供される。前記ポンプケーシングは、その内部に形成された液体流路を有しており、前記液体流路における巻き角度の角度範囲を第1角度範囲および第2角度範囲に分割したとき、前記液体流路は、前記第1角度範囲に対応する第1流路空間と、前記第2角度範囲に対応し、かつ前記第1流路空間に接続された第2流路空間と、を有しており、前記第1流路空間は、前記第1流路空間の始端から前記第2流路空間に向かって、前記第1流路空間の断面積が小さくなる形状を有しており、前記第2流路空間は、前記第1流路空間との境界から前記第2流路空間の終端に向かって、前記第2流路空間の断面積が大きくなる形状を有している。
【0008】
一態様では、前記第1流路空間は、前記第1流路空間の始端から前記第2流路空間に向かって、曲率半径が小さくなる第1外側湾曲輪郭を有しており、前記第2流路空間は、前記第1流路空間との境界から前記第2流路空間の終端に向かって、曲率半径が大きくなる第2外側湾曲輪郭を有している。
一態様では、前記第1流路空間は、前記第1流路空間の始端から前記第2流路空間に向かって、曲率半径が小さくなる第1内側湾曲輪郭を有しており、前記第2流路空間は、前記第1流路空間との境界から前記第2流路空間の終端に向かって、曲率半径が大きくなる第2内側湾曲輪郭を有している。
一態様では、前記第1流路空間は、前記第1流路空間の始端から前記第2流路空間に向かって、高さが小さくなる第1断面高さを有しており、前記第2流路空間は、前記第1流路空間との境界から前記第2流路空間の終端に向かって、高さが大きくなる第2断面高さを有している。
【0009】
一態様では、前記第1流路空間および前記第2流路空間のそれぞれは、前記巻き角度に応じて変化する断面積を有しており、前記第2流路空間の断面積の変化を示す曲線の傾きは、前記第1流路空間の断面積の変化を示す曲線の傾きよりも大きい。
一態様では、前記巻き角度の基準角度における前記第1流路空間の断面積は、前記液体流路の入口口径の面積よりも大きい。
【発明の効果】
【0010】
第1流路空間および第2流路空間を有する液体流路は、緩やかな液体の旋回流を形成して、液体の流れ方向をスムーズに転向させる形状を有している。したがって、ポンプケーシングは、舌部を省略することができる。結果として、ポンプケーシングは、液体の圧力損失を低減して、ポンプ効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】両吸込ポンプの一実施形態を示す斜視図である。
【
図3】両吸込ポンプの上部ケーシングを外した状態を上から見た図である。
【
図5】本実施形態に係るポンプケーシングの内部構造の一部分を示す図である。
【
図6】比較例に係るポンプケーシングの内部構造の一部分を示す図である。
【
図8】
図8(a)は液体流路における巻き角度を示す図であり、
図8(b)は巻き角度と液体流路の断面積との関係を示すグラフであり、
図8(c)は巻き角度と液体流路を流れる液体の流速との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9(a)は巻き角度に対応する液体流路の断面積ごとに液体流路で生じる圧力損失の大きさおよび流線を解析した結果を示す図であり、
図9(b)は羽根車に流入する液体の流速の大きさを示す図であり、
図9(c)は羽根車に生じるキャビテーション領域を示す図である。
【
図10】
図10(a)乃至
図10(g)は、巻き角度に対応する液体流路の断面形状を示す図である。
【
図11】
図11(a)は巻き角度に対応する液体流路の断面積ごとに液体流路で生じる圧力損失の大きさおよび流線を解析した結果を示す図であり、
図11(b)は羽根車に流入する液体の流速の大きさを示す図であり、
図11(c)は羽根車に生じるキャビテーション領域を示す図である。
【
図12】液体流路の断面輪郭(外側湾曲輪郭、内側湾曲輪郭)および断面高さを示す図である。
【
図13】
図13(a)は巻き角度と液体流路の断面高さとの関係を示す図であり、
図13(b)は巻き角度と外側湾曲輪郭との関係を示す図であり、
図13(c)は巻き角度と内側湾曲輪郭との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下で説明する図面において、同一又は相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。以下で説明する複数の実施形態において、特に説明しない一実施形態の構成は、他の実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、両吸込ポンプの一実施形態を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す両吸込ポンプの縦断面図である。
図3は、両吸込ポンプの上部ケーシングを外した状態を上から見た図である。
図4は、
図3のA-A線断面図である。
【0014】
両吸込ポンプP1は、回転軸1と、回転軸1に固定される両吸込型の羽根車2と、羽根車2を収容するポンプケーシング3と、を備えている。ポンプケーシング3は、渦巻き形状を有しており、その内部に形成された液体流路4を有している。
【0015】
ポンプケーシング3は、羽根車2の回転中心となる回転軸1の中心軸線CLを通る水平面で上下方向に分割される上部ケーシング3aおよび下部ケーシング3bを備えている。回転軸1は、上部ケーシング3aおよび下部ケーシング3bに形成された軸支持部40,40に支持されている。回転軸1と軸支持部40,40との間の隙間は、軸封部11,11によって封止されている。
【0016】
ポンプケーシング3は、液体を吸い込む吸込口6と、羽根車2によって昇圧された液体を吐き出す吐出口7と、を有している。吸込口6および吐出口7は、下部ケーシング3bに形成されている。吸込口6および吐出口7は、回転軸1と直交する方向において、互いに反対方向を向いて開口している。
【0017】
図2乃至
図4に示すように、液体流路4は、羽根車2の両側に配置された上側渦巻き流路4a,4aおよび下側渦巻き流路4b,4bと、下側渦巻き流路4b,4bに接続された楕円流路4d,4dと、を有している。
【0018】
ポンプケーシング3は、その中央部分に配置された上側吐出流路5aおよび下側吐出流路5bを有している。上側吐出流路5aは上側渦巻き流路4a,4aの間に配置されており、下側吐出流路5bは下側渦巻き流路4b,4bの間に配置されている。羽根車2は、上側吐出流路5aおよび下側吐出流路5bの内部に配置されている。
【0019】
回転軸1の端部には、駆動装置(図示しない)が接続されている。駆動装置が駆動すると、回転軸1とともに羽根車2が回転し、液体は、吸込口6を通じて、ポンプケーシング3の内部に吸い込まれる。
【0020】
吸込口6を通じてポンプケーシング3に吸い込まれた液体は、楕円流路4d,4d(
図4参照)を通過し、下側渦巻き流路4b,4b(
図2および
図3参照)に流れ込む。その後、液体は、上側渦巻き流路4a,4aに流れ込む。上側渦巻き流路4a,4aに流れ込んだ液体は、上側渦巻き流路4a,4aを通過して、羽根車2に流入する(
図2の矢印参照)。
【0021】
液体は、回転する羽根車2と遠心力との働きにより昇圧されて、羽根車2の半径方向外側の上側吐出流路5aおよび下側吐出流路5bに吐き出される。その後、液体は、上側吐出流路5aおよび下側吐出流路5bを流れ、吐出口7から吐き出される。
【0022】
図1に示すように、ポンプケーシング3は、上部ケーシング3aの、下部ケーシング3bとの接合面に形成された上部フランジ8と、下部ケーシング3bの、上部ケーシング3aとの接合面に形成された下部フランジ9と、を有している。
【0023】
上部フランジ8および下部フランジ9のそれぞれは、締結具としての複数のボルト10が挿入されるボルト穴(図示しない)を有している。各ボルト10をボルト穴に挿入して、締め付けることにより、上部ケーシング3aおよび下部ケーシング3bは互いに締結される。
【0024】
上部ケーシング3aは、上側渦巻き流路4a,4aを形成する吸込ケーシング部20,20と、上側吐出流路5aを形成する吐出ケーシング部21と、を有している。吐出ケーシング部21は、吸込ケーシング部20,20の間に配置されている。
【0025】
図5は、本実施形態に係るポンプケーシングの内部構造の一部分を示す図である。
図6は、比較例に係るポンプケーシングの内部構造の一部分を示す図である。
図5および
図6の比較結果から明らかなように、比較例では、ポンプケーシングは、液体の流れを羽根車に導くための舌部を有する一方で、本実施形態では、ポンプケーシング3は、舌部を有していない。
【0026】
舌部を形成することにより、液体の、舌部との衝突に起因して液体の圧力損失が生じてしまう。液体の圧力損失が生じると、ポンプ効率が低下するおそれがある。本実施形態に係るポンプケーシング3は、舌部を形成する代わりに、特徴的な形状を有する液体流路4を有している。したがって、ポンプケーシング3は、液体の圧力損失を低減して、ポンプ効率を向上させることができる。以下、液体流路4の形状について、図面を参照して説明する。
【0027】
図7は、液体流路の全体を示す斜視図である。
図7に示すように、液体流路4は、その液体入口4cから羽根車2まで延びる渦巻き形状を有している。液体入口4cを通過した液体は、外側流れ4Xと、内側流れ4Yと、に分岐して、羽根車2まで流れる。外側流れ4Xおよび内側流れ4Yにおける合流点Pは、比較例における舌部が存在する位置に相当する。外側流れ4Xおよび内側流れ4Yは合流点Pで合流し、合流した液体は羽根車2に流入する。
【0028】
図8(a)は液体流路における巻き角度を示す図であり、
図8(b)は巻き角度と液体流路の断面積との関係を示すグラフであり、
図8(c)は巻き角度と液体流路を流れる液体の流速との関係を示すグラフである。
【0029】
図8(b)では、横軸は巻き角度を示しており、縦軸は液体流路4の断面積を液体流路4の液体入口4cの面積で除算した比率値(断面積比率値)を示している。断面積比率値は、無次元量である。
図8(c)では、横軸は巻き角度を示しており、縦軸は外側流れ4Xを流れる液体の流速を液体入口4cにおける液体の流速で除算した比率値(流速比率値)を示している。流速比率値は、無次元量である。
【0030】
図9(a)は巻き角度に対応する液体流路の断面積ごとに液体流路で生じる圧力損失の大きさおよび流線を解析した結果を示す図であり、
図9(b)は羽根車に流入する液体の流速の大きさを示す図であり、
図9(c)は羽根車に生じるキャビテーション領域を示す図である。
【0031】
図10(a)乃至
図10(g)は、巻き角度に対応する液体流路の断面形状の大きさを示す図である。
【0032】
図8(a)に示すように、回転軸1の中心軸線CLを中心とした液体流路4の回転角度を巻き角度と定義する。このような巻き角度において、中心軸線CLと直交する下方に延びる鉛直線上の角度を基準角度(0度)に決定した場合、巻き角度は、反時計回りに大きくなる。
【0033】
図8(a)では、0度から270度までの角度範囲における巻き角度が示されている。巻き角度の角度範囲を第1角度範囲および第2角度範囲に分割したとき、液体流路4は、第1角度範囲に対応する第1流路空間FS1と、第2角度範囲に対応する第2流路空間FS2と、を有している。第2流路空間FS2は、第1流路空間FS1に接続されている。
図8(a)に示す実施形態では、第1角度範囲は0度から225度までの範囲であり、第2角度範囲は225度から270度までの範囲である。
【0034】
図8(b)、
図9(a)、および
図10(a)乃至
図10(f)に示すように、第1流路空間FS1は、第1流路空間FS1の始端(すなわち、巻き角度0度)から第2流路空間FS2に向かって、第1流路空間FS1の断面積が徐々に小さくなる形状を有している。より具体的には、巻き角度45度における断面積AR2は、巻き角度0度における断面積AR1よりも小さい(AR2<AR1)。巻き角度90度における断面積AR3は、巻き角度45度における断面積AR2よりも小さい(AR3<AR2)。
【0035】
同様に、巻き角度135度における断面積AR4は、巻き角度90度における断面積AR3よりも小さい(AR4<AR3)。巻き角度180度における断面積AR5は、巻き角度135度における断面積AR4よりも小さい(AR5<AR4)。巻き角度225度における断面積AR6は、巻き角度180度における断面積AR5よりも小さい(AR6<AR5)。
【0036】
このように、第1流路空間FS1は、その断面積が断面積AR1から断面積AR6に向かって徐々に小さくなる形状を有している。その一方で、第2流路空間FS2は、第1流路空間FS1との境界(すなわち、巻き角度225度)から第2流路空間FS2の終端(すなわち、巻き角度270度)に向かって、第2流路空間FS2の断面積が大きくなる形状を有している。
【0037】
より具体的には、
図9(a)、
図10(f)および
図10(g)に示すように、巻き角度270度における断面積AR7は、巻き角度225度における断面積AR6よりも大きい(AR7>AR6)。このように、第2流路空間FS2は、その断面積が断面積AR6から断面積AR7に向かって徐々に大きくなる形状を有している。
【0038】
本実施形態では、第1流路空間FS1および第2流路空間FS2のそれぞれは、巻き角度に応じて変化する断面積を有している。第1流路空間FS1の断面積は、巻き角度が大きくなるとともに徐々に小さくなっている。第1流路空間FS1と第2流路空間FS2との境界の断面積は、最も小さい。第2流路空間FS2の断面積は、巻き角度が大きくなるとともに徐々に大きくなっている。
【0039】
図8(b)に示すように、第2流路空間FS2の断面積の変化を示す曲線の傾きSL2は、第1流路空間FS1の断面積の変化を示す曲線の傾きSL1よりも大きい。言い換えれば、傾きSL2を示す数値(絶対値)は、傾きSL1を示す数値(絶対値)よりも大きい。傾きSL2は、傾きSL1の1~1.5倍の範囲内であることが好ましい。
【0040】
傾きSL2が傾きSL1の1.5倍を超えると、第2流路空間FS2の断面積の変化率が大きくなり、液体の流れ抵抗が大きくなり、液体の流れの剥離が起こり、圧力損失が大きくなるおそれがある。圧力損失の増大により、ポンプ性能低下のおそれがある。また、流路の局部の圧力低下によるキャビテーションの発生リスクが増加し、吸込性能の低下につながる。
【0041】
液体流路4を流れる液体の流速は、液体流路4の断面積の大きさに依存している。ここで、液体の流速は、流路の断面と垂直な方向の速度成分の値として求められる。断面積が大きければ、液体の流速は小さくなり、逆に、断面積が小さければ、液体の流速は大きくなる。
図8(c)に示すように、液体流路4を流れる液体の流速(より具体的には、外側流れ4Xを流れる液体の流速)は、徐々に大きくなり、やがて、緩やかになる(
図8(c)参照)。
図8(c)に示すグラフでは、液体流路4を流れる液体の流速分布は、比較例における速度分布と比較して、全体的に均一になっている。
【0042】
本実施形態によれば、第1流路空間FS1および第2流路空間FS2を有する液体流路4は、緩やかな液体の流れを形成することができるため、舌部を設けることなく、液体の流れ方向はスムーズに転向される。液体の流れ方向をスムーズに転向することにより、液体流路4を流れる液体は、圧力損失の発生を最大限に抑制することができ、流速の均一性を高める液体を羽根車2に流入させる(
図9(b)参照)。
【0043】
さらに、このような液体の流入により、羽根車2に対して、圧力欠損の発生領域を最低限に抑え、キャビテーションの発生を抑制することができる(
図9(c)参照)。キャビテーションの発生を抑制することにより、ポンプP1の吸込性能を向上させることができる。
【0044】
このように、ポンプケーシング3は、液体流路4を形成することにより、舌部(
図6参照)を省略することができる。結果として、ポンプケーシング3は、液体の圧力損失を低減して、ポンプP1のポンプ効率を向上させることができる。
【0045】
さらに、舌部を有していないポンプケーシング3は、以下の効果を奏することができる。ポンプケーシング3は、一般的に鋳造で製造される。舌部は薄肉形状を有しているため、鋳型に金属を流し込む工程において、金属が舌部に十分に流し込まれず、成型不良に起因する欠陥が生じるおそれがある。しかしながら、本実施形態では、ポンプケーシング3は、舌部を有していないため、成型不良に起因する欠陥は生じない。
【0046】
図8(b)に示すように、比較例では、巻き角度0度における断面積比率値はほぼ1である一方で、本実施形態では、巻き角度0度における断面積比率値は、およそ1.5である。言い換えれば、巻き角度の基準角度における第1流路空間FS1の断面積は、液体流路4の液体入口4cの断面積(すなわち、液体流路4の入口口径の面積)よりも大きい。その一方で、比較例では、巻き角度の基準角度における流路空間の断面積は、液体流路4の入口口径の面積とほぼ同じである。
【0047】
このように、巻き角度0度において、本実施形態の断面積比率値は、比較例の断面積比率値よりも大きい。また、巻き角度0度における断面積比率値は、巻き角度0度からの外側流れ4Xを流れる液体の流速が羽根車2への流入流速より僅かに小さい値を求めるように決定される。
【0048】
一実施形態では、巻き角度0度における断面積比率値は、1.2~1.6であってもよい。巻き角度45度における断面積比率値はおよそ0.7であり、比較例では、巻き角度45度における断面積比率値はおよそ0.6である。
【0049】
本実施形態では、巻き角度0度における断面積比率値は、比較例における断面積比率値よりも大きい。
図8(a)に示すように、巻き角度0度から巻き角度45度までの流れ方向における距離は、他の角度範囲の距離より長い。このような構成により、巻き角度0度から巻き角度45度までの角度範囲において、流れる液体が緩やかに減速しつつ流れ方向を転向させることができる。
【0050】
このように、巻き角度0度から巻き角度45度における液体流路の流速が比較例より小さくなっても、顕著に大きな圧力損失は生じない。また、本実施形態では、舌部が設けられていないため、流れと舌部の衝突は生じない。
図8(c)に示すように、巻き角度45度以降における外側流れ4Xを流れる液体の流速は、ほぼ均等になり、比較例より均一な流速分布を得ることができる。流れ方向に対する速度勾配が比較例より小さいため、結果として、液体流路4の全体に発生する圧力損失を比較的小さくすることができる。
【0051】
図11(a)は巻き角度に対応する液体流路の断面積ごとに液体流路で生じる圧力損失の大きさおよび流線を解析した結果を示す図であり、
図11(b)は羽根車に流入する液体の流速の大きさを示す図であり、
図11(c)は羽根車に生じるキャビテーション領域を示す図である。
図11(a)乃至
図11(c)は、比較例におけるポンプの解析結果を示している。
【0052】
図9(a)乃至
図9(c)および
図11(a)乃至
図11(c)の比較から明らかなように、比較例では、液体流路に発生する圧力損失が比較的大きく、羽根車に流入する液体の流速も比較的大きくなっている。したがって、比較例では、羽根車に生じるキャビテーション領域も比較的大きくなっている。
【0053】
このように、本実施形態によれば、液体流路4は、特徴的な形状(すなわち、外側流れ4Xの流れ方向において、液体流路4の断面積が徐々に小さくなり、液体流路4の途中で液体流路4の断面積が徐々に大きくなる)を有している。したがって、液体流路4を流れる液体の流速を制御することができる。このような流速の制御により、液体の流れ方向をスムーズに転向することができる。
【0054】
図12は、液体流路の断面輪郭(外側湾曲輪郭、内側湾曲輪郭)および断面高さを示す図である。
図13(a)は巻き角度と液体流路の断面高さとの関係を示す図であり、
図13(b)は巻き角度と外側湾曲輪郭との関係を示す図であり、
図13(c)は巻き角度と内側湾曲輪郭との関係を示す図である。
【0055】
図13(a)では、横軸は巻き角度を示しており、縦軸は断面高さを液体流路4の液体入口4cの直径で除算した比率値(断面高さ比率値)を示している。断面高さは、液体流路4の断面における高さ方向の長さを示している。断面高さ比率値は、無次元量である。
【0056】
図13(b)では、横軸は巻き角度を示しており、縦軸は外側湾曲輪郭を液体入口4cの直径で除算した比率値(外側湾曲輪郭比率値)を示している。外側湾曲輪郭は、液体流路4の断面における外側の断面輪郭の曲率半径(または曲率)を示している。外側湾曲輪郭比率値は、無次元量である。
【0057】
図13(c)では、横軸は巻き角度を示しており、縦軸は内側湾曲輪郭を液体入口4cの直径で除算した比率値(内側湾曲輪郭比率値)を示している。内側湾曲輪郭は、液体流路4の断面における内側の断面輪郭の曲率半径(または曲率)を示している。内側湾曲輪郭比率値は、無次元量である。
【0058】
図12に示すように、液体流路4は、その断面高さShを有している。第1流路空間FS1の断面高さを第1断面高さと定義し、第2流路空間FS2の断面高さを第2断面高さと定義する。この場合、
図13(a)に示すように、第1流路空間FS1は、第1流路空間FS1の始端(すなわち、巻き角度0度)から第2流路空間FS2に向かって、高さが小さくなる第1断面高さを有している。第2流路空間FS2は、第1流路空間FS1との境界から第2流路空間FS2の終端に向かって、高さが大きくなる第2断面高さを有している。
【0059】
図12に示すように、液体流路4は、回転軸1から離間した位置に配置された外側湾曲輪郭R1と、回転軸1側に配置された内側湾曲輪郭R2と、を有している。外側湾曲輪郭R1は、第1流路空間FS1における第1外側湾曲輪郭と、第2流路空間FS2における第2外側湾曲輪郭と、を有している。同様に、内側湾曲輪郭R2は、第1流路空間FS1における第1内側湾曲輪郭と、第2流路空間FS2における第2内側湾曲輪郭と、を有している。
【0060】
図13(b)に示すように、第1流路空間FS1の第1外側湾曲輪郭は、第1流路空間FS1の始端から第2流路空間FS2に向かって、曲率半径が小さくなる(すなわち、曲率が大きくなる)形状を有している。より具体的には、第1外側湾曲輪郭の曲率半径は、巻き角度0度から135度まではほぼ一定であり、巻き角度135度から225度までは徐々に小さくなっている(
図13(b)参照)。
【0061】
図13(b)に示すように、第2流路空間FS2の第2外側湾曲輪郭は、第1流路空間FS1との境界から第2流路空間FS2の終端に向かって、曲率半径が徐々に大きくなる(すなわち、曲率が小さくなる)形状を有している。
【0062】
図13(c)に示すように、第1流路空間FS1の第1内側湾曲輪郭は、第1流路空間FS1の始端(すなわち、巻き角度0度)から第2流路空間FS2に向かって、曲率半径が小さくなる(すなわち、曲率が大きくなる)形状を有している。第2流路空間FS2の第2内側湾曲輪郭は、第1流路空間FS1との境界から第2流路空間FS2の終端に向かって、曲率半径が徐々に大きくなる(すなわち、曲率が小さくなる)形状を有している。
【0063】
図13(a)および
図13(c)に示す比較例では、液体流路の断面高さおよび内側湾曲輪郭の曲率半径は、巻き角度に応じて、ほとんど変化しておらず、液体流路の外側湾曲輪郭の曲率半径は、巻き角度に応じて、徐々に小さくなっている。このように、比較例としてのポンプケーシングは、2次元的に変化する液体流路を有している。
【0064】
その一方で、本実施形態では、外側湾曲輪郭R1の曲率半径の変化を示す曲線、内側湾曲輪郭R2の曲率半径の変化を示す曲線、および断面高さShの変化を示す曲線のいずれも、液体流路4の断面積の変化を示す曲線と同様の曲線を描いている。このように、本実施形態では、ポンプケーシング3は、巻き角度に応じて3次元的に変化する液体流路4を有している。
【0065】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0066】
1 回転軸
2 羽根車
3 ポンプケーシング
3a 上部ケーシング
3b 下部ケーシング
4 液体流路
4a 上側渦巻き流路
4b 下側渦巻き流路
4c 液体入口
4d 楕円流路
5a 上側吐出流路
5b 下側吐出流路
6 吸込口
7 吐出口
8 上部フランジ
9 下部フランジ
10 ボルト
11 軸封部
20 吸込ケーシング部
21 吐出ケーシング部
P1 両吸込ポンプ
CL 中心軸線
4X 外側流れ
4Y 内側流れ
P 合流点
FS1 第1流路空間
FS2 第2流路空間
AR1~AR7 断面積
SL1 傾き
SL2 傾き
Sh 断面高さ
R1 外側湾曲輪郭
R2 内側湾曲輪郭