IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧 ▶ 東ソー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-生体試料捕集用デバイス 図1
  • 特開-生体試料捕集用デバイス 図2
  • 特開-生体試料捕集用デバイス 図3
  • 特開-生体試料捕集用デバイス 図4
  • 特開-生体試料捕集用デバイス 図5
  • 特開-生体試料捕集用デバイス 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176759
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】生体試料捕集用デバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241212BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALN20241212BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/6806 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095542
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】安井 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】久野 豪士
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029HA01
4B063QQ03
4B063QQ52
(57)【要約】
【課題】表面に存在する凹凸構造の強度が高く、かつ、細胞外小胞の捕捉効率及びmiRNAの検出量を向上させることが可能な生体試料捕集用デバイスを提供すること。
【解決手段】表面に凹凸構造を有するポリマー基材と、前記凹凸構造の少なくとも一部を覆う被覆層と、を含み、前記被覆層が無機酸化物又はイオン性ポリマーを含む、生体試料捕集用デバイス。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸構造を有するポリマー基材と、前記凹凸構造の少なくとも一部を覆う被覆層と、を含み、
前記被覆層が無機酸化物又はイオン性ポリマーを含む、生体試料捕集用デバイス。
【請求項2】
前記凹凸構造の高さが0.1~100μmであり、
前記凹凸構造の幅が0.01~10μmであり、
前記凹凸構造の幅に対する前記凹凸構造の高さの比が0.50以上である、請求項1に記載の生体試料捕集用デバイス。
【請求項3】
前記凹凸構造が凹部及び/又は凸部によって形成され、
前記凹部及び前記凸部が円柱状、多角柱状、円錐状、多角錐状及びドーム状からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有する、請求項1又は2に記載の生体試料捕集用デバイス。
【請求項4】
前記被覆層が、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化イットリア、酸化スズ、酸化アルミナ、シリカ、酸化インジウム及び酸化インジウムスズからなる群より選択される単一又は複数の成分を含有する、請求項1又は2に記載の生体試料捕集用デバイス。
【請求項5】
前記凹凸構造を前記被覆層が存在する側から見たとき、前記ポリマー基材全体に対する前記凹凸構造が存在する領域の面積の割合が10%以上である、請求項1又は2に記載の生体試料捕集用デバイス。
【請求項6】
前記凹凸構造が一方向に配向している、請求項1又は2に記載の生体試料捕集用デバイス。
【請求項7】
当該デバイスが、前記被覆層の前記ポリマー基材とは反対の面側に1又は複数の貫通孔を有する被覆基材を更に備え、
前記貫通孔の少なくとも一つによって生体試料を添加するための空間が形成されている、請求項1又は2に記載の生体試料捕集用デバイス。
【請求項8】
当該デバイスが、前記被覆層と前記被覆基材との間に中間層を更に備え、
前記中間層が、前記被覆層と前記被覆基材とを接着する領域と、前記生体試料を輸送する流路を形成する空間と、を含む、請求項7に記載の生体試料捕集用デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料捕集用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
尿及び血液等の体液を用いた疾病検査はリキッドバイオプシーと呼ばれ、新たな検査手法として注目されている。中でも細胞が放出する細胞外小胞は、がんなどの早期診断マーカーとして機能するmicroRNA(microribonucleic acid;以下、「miRNA」と記載することがある。)を内包しており、細胞外小胞を捕集する技術が求められている。
【0003】
既存の細胞外小胞分離手法には、超遠心分離法及び凝集試薬法等が知られている。最も一般的に用いられている超遠心分離法は、数10mLのサンプル量及び4~5時間の分離時間が必要であり、また、回収率も5~25%程度で効率的に細胞外小胞を分離することが難しいという問題がある。凝集試薬法は、対象サンプルに凝集試薬を滴下し静置する簡便な手法ではあるが、分離には長時間の静置が必要であり、また、遠心機の使用、粒径の変化や粒子数の減少、マーカータンパク量の減少が生じること等の問題点がある。
【0004】
上記問題点を解決するため、チップのマイクロ流路内に形成したナノワイヤを用いて、少量の体液や培養上清液から細胞外小胞をナノワイヤに吸着させることで、細胞外小胞由来miRNAを高効率に抽出する方法が報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6606786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表面に凹凸構造を形成すると細胞外小胞が回収しやすくなる一方、従来の凹凸構造を有するデバイスでは凹凸構造の強度において改善の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、表面に存在する凹凸構造の強度が高く、かつ、細胞外小胞の捕捉効率及びmiRNAの検出量を向上させることが可能な生体試料捕集用デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、マイクロ流路構造の中にナノインプリントで形成された凹凸構造を有する生体試料捕集用デバイスによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の各態様は以下に示す[1]~[8]である。
[1]
表面に凹凸構造を有するポリマー基材と、前記凹凸構造の少なくとも一部を覆う被覆層と、を含み、前記被覆層が無機酸化物又はイオン性ポリマーを含む、生体試料捕集用デバイス。
[2]
前記凹凸構造の高さが0.1~100μmであり、前記凹凸構造の幅が0.01~10μmであり、前記凹凸構造の幅に対する前記凹凸構造の高さの比が0.50以上である、[1]に記載の生体試料捕集用デバイス。
[3]
前記凹凸構造が凹部及び/又は凸部によって形成され、前記凹部及び前記凸部が円柱状、多角柱状、円錐状、多角錐状及びドーム状からなる群より選択される少なくとも一つの構造を有する、[1]又は[2]に記載の生体試料捕集用デバイス。
[4]
前記被覆層が、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化イットリア、酸化スズ、酸化アルミナ、シリカ、酸化インジウム及び酸化インジウムスズからなる群より選択される単一又は複数の成分を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の生体試料捕集用デバイス。
[5]
前記凹凸構造を前記被覆層が存在する側から見たとき、前記ポリマー基材全体に対する前記凹凸構造が存在する領域の面積の割合が10%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の生体試料捕集用デバイス。
[6]
前記凹凸構造が一方向に配向している、[1]~[5]のいずれかに記載の生体試料捕集用デバイス。
[7]
当該デバイスが、前記被覆層の前記ポリマー基材とは反対の面側に1又は複数の貫通孔を有する被覆基材を更に備え、前記貫通孔の少なくとも一つによって生体試料を添加するための空間が形成されている、[1]~[6]のいずれかに記載の生体試料捕集用デバイス。
[8]
当該デバイスが、前記被覆層と前記被覆基材との間に中間層を更に備え、前記中間層が、前記被覆層と前記被覆基材とを接着する領域と、前記生体試料を輸送する流路を形成する空間と、を含む、[7]に記載の生体試料捕集用デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面に存在する凹凸構造の強度が高く、かつ、細胞外小胞の捕捉効率及びmiRNAの検出量を向上させることが可能な生体試料捕集用デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1はデバイス断面の模式図を示す。
図2図2はウェルプレート形態のデバイスの一例を示す斜視図である。
図3図3は流路形態のデバイスの一例を示す斜視図である。
図4図4は実施例1のデバイス表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図5図5は実施例2のデバイス表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図6図6は実施例3のデバイス表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において「(メタ)アクリロイル基」はメタクリロイル基又はアクリロイル基を示し、「(メタ)アクリレート」はメタクリレート又はアクリレートを示す。以下で例示する材料は、特に断らない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
図1は生体試料捕集用デバイスの一実施形態を示す。図1に示すデバイス10は表面に凹凸構造を有するポリマー基材1と、凹凸構造の少なくとも一部を覆う被覆層2と、を含む。被覆層2は無機酸化物又はイオン性ポリマーを含む。
【0014】
本明細書において「生体試料」とは、動物(例えば、ヒト)又は植物から得られる試料である。生体試料としては、例えば、細胞培養上清、尿、血液、組織、細胞及び細胞外小胞が挙げられる。これらの生体試料にはDNA、RNA(例えば、miRNA)、タンパク質等が含まれていてよい。
【0015】
ポリマー基材1の材質としては例えば、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース等のセルロース系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリエーテル樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルケトン等が挙げられる。
【0016】
ポリマー基材1は凹凸構造を有する。凹凸構造は凹部及び/又は凸部によって構成される。図1に示すデバイスにおいて、凹凸構造は凸部によって形成されている。
【0017】
凹部及び凸部の形状としては、例えば、円柱状、多角柱状(例えば、三角柱状、四角柱状、六角柱状等)、円錐状、多角錐状、ドーム状(半球)等が挙げられる。凹凸構造は、細胞外小胞の捕捉率を高めるのに好適であることから、円柱状若しくは多角柱状の凹部、又は円柱状若しくは多角柱状の凸部を含むことが好ましく、円柱状若しくは多角柱状の凸部を含むことがより好ましい。
【0018】
凹部及び凸部は規則的に又は不規則的に配列していてよい。凹部及び凸部は、例えば、ドット状、ライン状、ハニカム状又は格子状のパターンで配列していてよい。ポリマー基材1はこれらのパターンのうちの一種を単独で又は二種以上を組み合わせて含むものであってもよい。
【0019】
凹凸構造の高さは、凹凸構造の強度と生体試料を捕捉する性能とを両立することができることから、0.1~100μmであることが好ましい。凹凸構造の高さは、生体試料を捕捉する性能を向上するのに好適であることから、0.10μm以上、0.15μm以上、又は0.20μm以上であることが好ましく、0.30μm以上、0.35μm以上、0.40μm以上、0.45μm以上、0.50μm以上、1.0μm以上、5.0μm以上、又は10.0μm以上であってもよい。凹凸構造の高さは、凹凸構造の強度を向上させるのに好適であることから、80.0μm以下、50.0μm以下、30.0μm以下、10.0μm以下、5.0μm以下、3.0μm以下、1.0μm以下、0.80μm以下、又は0.60μm以下であることが好ましい。
【0020】
「凹凸構造の高さ」とは、ポリマー基材1の面外方向への凹凸構造の最大長さを示す。図1に示す凸部を有するデバイス10において、凹凸構造の高さは凸部の高さ3Aである。表面に凹部によって形成された凹凸構造を有するデバイスでは、凹凸構造の高さは凹部の高さである。凹凸構造の高さは、走査型電子顕微鏡写真上で長さを測定することで算出できる。
【0021】
凹凸構造の幅は、凹凸構造の強度を向上しつつ、凹凸構造の表面積を増やして生体試料を捕捉する性能を向上可能であることから0.01~10μmであることが好ましい。凹凸構造の幅は、凹凸構造の強度を高めるのに好適であることから、0.05μm以上、0.10μm以上、0.15μm以上、又は0.20μm以上であることが好ましく、0.30μm以上、0.40μm以上、0.50μm以上、0.80μm以上、1.0μm以上、3.0μm以上、又は5.0μm以上であってよい。凹凸構造の幅は、生体試料を捕捉する性能を向上するのに好適であることから、8.0μm以下、4.0μm以下、2.0μm以下、1.50μm以下、1.00μm以下、0.80μm以下、0.50μm以下、0.40μm以下、又は0.30μm以下であることが好ましい。
【0022】
「凹凸構造の幅」は、ポリマー基材1の面内方向の凹凸構造の最大径を示す。図1に示す凸部を有するデバイス10では凹凸構造の幅は凸部の幅3Bである。表面に凹部によって形成された凹凸構造を有するデバイスでは、凹凸構造の幅は凹部の幅である。凹凸構造の幅は、走査型電子顕微鏡写真上でこれらの長さを測定することで算出できる。
【0023】
凹凸構造の幅に対する凹凸構造の高さの比(高さ/幅)は、凹凸構造の強度と生体試料を捕捉する性能とを両立することができることから、0.50以上であることが好ましい。凹凸構造の強度と生体試料を捕捉する性能を向上させるために好適であることから、凹凸構造の幅に対する凹凸構造の高さの比は0.60以上、0.70以上、0.80以上、又は0.85以上であることが好ましく、1.0以上、1.5以上、2.0以上、10以上であってもよい。凹凸構造の幅に対する凹凸構造の高さの比は例えば、5.0以下、3.0以下、2.0以下、1.5以下、又は1.0以下であってよい。
【0024】
凹凸構造のピッチは、例えば、0.10μm以上、0.20μm以上、0.30μm以上、0.40μm以上、0.50μm以上、0.60μm以上、0.70μm以上、0.80μm以上、又は0.90μm以上であってよく、5.0μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下、2.0μm以下、1.0μm以下、0.80μm以下、0.60μm以下、又は0.50μm以下であってよい。
【0025】
凹凸構造のピッチとは、凹凸構造の凹部の底面の中心間の距離、又は凸部の頂点間の距離である。図1に示す凸部を有するデバイス10では凹凸構造のピッチは凸部の頂点間の距離3Cである。凹凸構造のピッチは、走査型電子顕微鏡写真上でこれらの長さを測定することで算出できる。
【0026】
凹凸構造の幅に対する凹凸構造のピッチの比(ピッチ/幅)は、生体試料を捕捉する性能を高めるのに好適であることから、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、4.0以下、3.0以下、2.5以下、又は2.0以下であることが好ましく、1.5以下であってもよい。凹凸構造の幅に対する凹凸構造のピッチの比(ピッチ/幅)は、1.1以上、1.3以上、1.5以上、1.7以上、又は1.9以上であってよい。
【0027】
凹凸構造はポリマー基材1の被覆層が設けられる側の主面上の少なくとも一部に設けられていてよい。凹凸構造が存在する面側から見たとき、ポリマー基材1全体に対する凹凸構造が存在する領域の面積の割合(以下「凹凸構造存在割合」ともいう。)は10%以上であることが好ましい。凹凸構造存在割合が10%以上であることで、生体試料を捕捉する性能を高めることができる。生体試料を捕捉する性能を高めるのに好適であることから、凹凸構造存在割合は、15%以上、20%以上、25%以上、又は30%以上であることが好ましく、50%以上、又は80%以上であってもよい。凹凸構造存在割合は、例えば100%以下、80%以下、60%以下、50%以下、又は40%以下であってよい。
【0028】
凹凸構造存在割合は、生体試料捕集用デバイスの凹凸構造が存在する面に対して垂直な方向から、当該面を走査型電子顕微鏡で測定した画像において、凹凸構造が存在する領域の面積を測定し、測定範囲の面積で割ることで求めることができる。測定する範囲は凹凸構造の幅の100倍以上を一辺とする正方形の面積に相当する範囲である。
【0029】
細胞を捕集する用途においては、凹凸構造が一方向に配向していることが好ましい。凹凸構造が一方向に配向していることで、流路構造を有する生体試料捕集用デバイスの場合、流路内の生体試料の流れに抗って凹凸構造を配置することで、凹凸構造の生体試料の捕集効率を高めることができる。また、細胞などの生体試料の場合、凹凸構造による破砕で生体試料の内部の成分を抽出しやすい。凹凸構造が一方向に配向していることは、生体試料捕集用デバイス表面の走査型電子顕微鏡像を測定し、その像をフーリエ変換したフーリエ変換像における輝点の有無により判断することができる。フーリエ変換により、元画像の濃淡を正弦波の重ね合わせで近似した場合の、各正弦波の波数に対するパワー(輝度の絶対値の二乗)を表す二次元像に変換することができ、元画像の濃淡に規則性がある場合、各正弦波に対応する輝点がフーリエ変換像に現れる。
【0030】
細胞外小胞を捕集する用途においては、凹凸構造が不規則配列であることが好ましい。凹凸構造が一方向に配向せず不規則配列であることで、流路構造を有する生体試料捕集用デバイスの場合、流路内の凹凸構造の方向に依存せず、生体試料の捕集効率の再現性を安定させることができる。
【0031】
凹凸構造の形成方法としては、ナノインプリントが好ましい。ナノインプリント法としては、熱可塑性樹脂を用いて熱により凹凸パターンを転写する熱インプリント法、光硬化性樹脂を用いて紫外線により凹凸パターンを転写する光インプリント法を用いることができる。
【0032】
被覆層2は、無機酸化物又はイオン性ポリマーを含む。被覆層2が無機酸化物又はイオン性ポリマーを含む場合、細胞外小胞捕捉率を更に高めることが可能になる。
【0033】
無機酸化物として、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、酸化イットリア(Y)、酸化スズ(例えば、SnO)、酸化インジウム及び酸化インジウムスズ(ITO)からなる群より選択される単一又は複数の成分を含有していてよい。細胞外小胞の捕捉率を高めるのに好適であることから、無機酸化物は、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ニッケル、酸化アルミナ、シリカ、酸化イットリア、酸化スズ、酸化インジウム及び酸化インジウムスズがさらに好ましく、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム及び酸化インジウムスズが特に好ましく、酸化亜鉛、又は酸化インジウムスズが最も好ましい。
【0034】
無機酸化物を凹凸構造の表面に形成する方法に特に限定はないが、スパッタリング、化学気相成長法、蒸着等により、目的の無機酸化物を直接被覆する方法、無機酸化物の前駆体をウェットコーティングした後、ゾルゲル法により無機酸化物に成長させる方法を挙げることができる。
【0035】
イオン性ポリマーはカチオン性ポリマー及び/又はアニオン性ポリマーを含有していてよい。カチオン性ポリマーは、第二級アミノ基、第三級アミノ基又は第四級アンモニウム基を有するポリマーであることが好ましい。カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン及びその四級化物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリ(N,N’-ジメチル-3,5-ジメチレン-ピペリジニウムクロライド)ポリアリルアミン及びその4級化物、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びその4級化物、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びその4級化物等の高分子電解質が挙げられる。
【0036】
アニオン性ポリマーは、-COOH、-COO、-SOH、又は-SO を有するポリマーであってよい。負電荷を有するポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリル酸およびそのイオン化物、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、ポリアミック酸、ポリビニルスルホン酸カリウム等の高分子電解質が挙げられる。
【0037】
イオン性ポリマーは、細胞外小胞捕捉率を更に高めることが可能になることから、カチオン性ポリマーを含むことが好ましい。イオン性ポリマーは、細胞外小胞捕捉率を更に高めることが可能になることから、カチオン性ポリマーを含み、かつ、アニオン性ポリマーを含まないイオン性ポリマー(カチオン性ポリマー)、又は、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを含むイオン性ポリマーであることが好ましい。
【0038】
イオン性ポリマーを凹凸構造の表面に形成する方法としては、特に限定されず、凹凸構造の材質、並びに、カチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーの種類等に応じて適宜選択することができる。凹凸構造の表面にイオン性ポリマーを形成する方法は、例えば、凹凸構造の面を表面処理すること、及び、凹凸構造の表面処理された面にカチオン性ポリマー又はアニオン性ポリマーを含む液を付着させ、必要に応じて水等で洗浄した後に乾燥させることを含む方法を用いることができる。表面処理は例えばプラズマ処理を用いることができる。凹凸構造の表面にカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーを含むイオン性ポリマー層を形成する方法としては、凹凸構造の表面をカチオン性ポリマー及びアニオン性ポリマーの一方のポリマーで被覆した後に、他方のポリマーで被覆する方法を用いることができる。
【0039】
被覆層2の膜厚は、10nm以上、50nm以上、80nm以上、又は90nm以上であってよく、500nm以下、200nm以下、160nm以下、120nm以下、又は110nm以下であってよい。被覆層2の膜厚は、次の方法によって測定することができる。被覆層2を形成したポリマー基材1をミクロトームで切断し、薄膜切片を作製する。この切片を走査型電子顕微鏡で観察し、被覆層2とポリマー基材1との界面から被覆層2の表面までの長さを測定する。被覆層2の膜厚は、必要に応じて、元素マッピングを行い、被覆層2の界面を明確にしたうえで測定される。
【0040】
被覆層2で被覆された凹凸構造(被覆凹凸構造)の幅は、凹凸構造の強度を向上可能であることから、0.05μm以上、0.10μm以上、又は0.12μm以上であってよい。被覆凹凸構造の幅は、生体試料を捕捉する性能を向上するのに好適であることから、8.0μm以下、4.0μm以下、2.0μm以下、1.5μm以下、1.0μm以下、0.80μm以下、又は0.60μm以下であってよい。被覆凹凸構造の幅は、被覆層2で被覆された凸部の幅又は被覆層2で被覆された凹部である。被覆凹凸構造の幅は、被覆層2で被覆された凹凸構造が存在する側の面の走査型電子顕微鏡写真上でこれらの長さを測定することで算出できる。
【0041】
被覆凹凸構造のピッチは、上述した凹凸構造(被覆されていない凹凸構造)のピッチとして例示した数値範囲と同様であってよい。被覆凹凸構造のピッチは、例えば、0.10μm以上、0.25μm以上、又は0.40μm以上であってよく、3.0μm以下、2.0μm以下又は1.5μm以下であってよい。被覆凹凸構造のピッチは、被覆層2で被覆された凹部の底面の中心間の距離、又は、被覆層2で被覆された凸部の頂点間の距離である。被覆凹凸構造のピッチは、被覆層2で被覆された凹凸構造が存在する側の面の走査型電子顕微鏡写真上でこれらの長さを測定することで算出できる。
【0042】
被覆凹凸構造の幅に対する被覆凹凸構造のピッチの比(ピッチ/幅)は、生体試料を捕捉する性能を高めるのに好適であることから、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、4.0以下、又は3.5以下であってよい。被覆凹凸構造の幅に対する被覆凹凸構造のピッチの比(ピッチ/幅)は、被覆凹凸構造によって捕捉された生体試料の顕微鏡での観察を容易にすることから、1.1以上、1.2以上、1.3以上、又は1.5以上であってよい。
【0043】
デバイス10は被覆層2のポリマー基材1とは反対の面側に1又は複数の貫通孔を有する被覆基材を更に備えていてよい。当該デバイスは貫通孔の少なくとも一つによって生体試料を添加するための空間が形成されていてよい。
【0044】
図2は被覆基材を更に備えるデバイスの一例であり、ウェルプレート形態のデバイスである。図2に示すデバイス10Aはポリマー基材1と、被覆層2と、被覆基材6とを備える。被覆基材6は複数の空間7を有する。デバイス10Aでは、生体試料を添加するための空間7が形成されている。空間7は、他の空間とは区分けされているため、1つのデバイスにおいて、生体試料同士が混ざり合うことなく、空間ごとに異なる生体試料を添加することができる。したがって、デバイス10Aでは、複数種の生体試料を同時に取り扱うことが可能である。なお、空間7は、生体試料の反応が促進されることから、貫通孔であってもよい。
【0045】
被覆基材6における空間7の数は、2個以上であってよい。被覆基材6における空間7の数は、例えば、6個、24個、48個、96個、384個、又は1536個であることが好ましい。また、空間7は、2個以上の貫通孔であってもよい。
【0046】
図3は被覆基材6を更に備えるデバイスの一例であり、被覆層2と被覆基材6との間に中間層8を更に備え、中間層8が、被覆層2と被覆基材6とを接着する領域と、生体試料を輸送する流路9を形成する空間と、を含む流路構造を有するデバイスである。図3に示すデバイス10Bはポリマー基材1と、被覆層2と、中間層8と、被覆基材6とがこの順に積層されている。
【0047】
被覆基材6には2つの空間7a,7bが形成されている。この空間7a、7bは貫通孔である。一方の空間7aは生体試料を含む液体を添加するための空間であり、他方の空間7bは液体を回収するための空間である。一方の空間7aに添加した液体が流路を通過した後に他方の空間7bに流れ出るため、生体試料中の少なくとも一部の成分が除外された液体を回収できる。
【0048】
中間層8は被覆層2と被覆基材6との間に配置され、被覆層2と被覆基材6とを接着する領域と、生体試料を輸送する流路9を形成する空間(内部空間)とを含む。
【0049】
流路9は中央領域及び2つの端部領域を有し、2つの端部領域がそれぞれ空間7a,7bの鉛直下側に位置するように配置される。中間層8は例えば粘着テープによって形成することが可能である。この場合、粘着テープによって被覆層2と被覆基材6とを張り合わせるとともに粘着テープが存在しない領域により流路9を形成することができる。
【0050】
生体試料は、空間7aを介して流路9の端部領域において被覆層2上に添加される。添加された生体試料は被覆層2によって被覆された凹凸構造と接触しながら方向dに沿って空間7bまで輸送される。デバイス10Bによれば、微小な空間で生体試料と被覆層2によって被覆された凹凸構造とを接触させることができ、少量の生体試料からも効率的に成分を抽出可能である。
【0051】
本実施形態に係るデバイスでは細胞外小胞捕捉率が向上している。細胞外小胞捕捉率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましく、90%以上であってもよい。細胞外小胞捕捉率は次の式1によって算出される。測定方法の詳細は後述する実施例に記載のとおりである。
式1:([元の細胞外小胞サンプルの細胞外小胞量]-[捕捉されなかった細胞外小胞量])×100/[元の細胞外小胞サンプルの細胞外小胞量](%)
【0052】
本実施形態に係るデバイスは、細胞外小胞捕捉率が高いため、細胞外小胞に内包されるmiRNAの回収に好適に用いることができる。miRNA回収量は0.10ng/μL以上であることが好ましく、0.15ng/μL以上であることがさらに好ましく、0.20ng/μL、又は0.25ng/μLであってもよい。miRNA回収量は後述する実施例に記載の方法によって測定される。
【0053】
結晶成長を利用することによって凹凸構造(ナノワイヤ)を形成する場合(例えば、特許文献1参照)、凹凸構造の材質が酸化亜鉛等の一部の材質に限定され、捕集対象の生体試料の種類に応じて材質を柔軟に変更することが困難であった。これに対して、本実施形態に係るデバイスでは、凹凸構造を有するポリマー基材1に被覆層2を形成することによって無機酸化物又はイオン性ポリマーによって被覆された凹凸構造を形成するため、凹凸構造の表面の材質を目的とする生体試料の種類に応じて変更することが容易であり、様々な生体試料に対して高い捕捉効率を達成することができる。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例及び比較例によってより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例及び比較例における細胞外小胞捕捉率及びmiRNA量の測定は以下の方法により行った。
【0055】
[細胞外小胞捕捉率及びmiRNA量の測定]
細胞を培養した培地を細胞外小胞サンプルとして使用した。250μL/wellで細胞外小胞サンプルを滴下し、一晩静置した。上澄み液を回収し、細胞外小胞濃度を測定することで、捕捉されなかった細胞外小胞量を求めた。Lysisバッファーを250μL/wellで滴下し、5分間静置した。Lysisバッファーを回収し、核酸精製キットで精製後、miRNA濃度を測定した。細胞外小胞捕捉率は次の式から求めた。
([元の細胞外小胞サンプルの細胞外小胞量]-[捕捉されなかった細胞外小胞量])×100/[元の細胞外小胞サンプルの細胞外小胞量](%)
【0056】
[強度の評価]
突起の強度は、ベンコット(旭化成社製)に50gの荷重をかけた状態で突起を有するフィルム表面を5往復擦傷し、走査型電子顕微鏡を用いて突起の破損を確認することで評価した。
〇:突起の破損なし。
×:突起の破損あり。
【0057】
[凹凸構造が存在する領域の割合]
走査型電子顕微鏡(キーエンス社製VE-9800)を用いて突起を有するフィルム表面を測定した。取得した突起を有するフィルム表面の顕微鏡写真上で、突起が存在する領域が白、存在しない領域が黒となるように2値化し、白の面積割合を求めた。これを、凹凸構造が存在する領域の割合とした。
【0058】
[実施例1]
凹凸構造の高さ0.2μm、幅0.23μm、ピッチ0.46μmのピラー構造を有するナノインプリント成形フィルム(SCIVAX社製;製品名FLP230/200/460-120)を用い、表面にスパッタリングで酸化亜鉛(ZnO)を膜厚100nmで被覆した。
【0059】
上記酸化亜鉛のスパッタリング層を有する基材を、ボトムレス24ウェルプレートの底面に貼り合わせることで、ウェル内の底面に凹凸構造を有する実施例1のデバイスを作製した。実施例1のデバイスは複数の円柱状の凸部によって凹凸構造が形成されているデバイスである。実施例1のデバイスを滅菌バッグに包装し、エチレンオキシドガス滅菌を行った。24時間エアレーション後にデバイスを取り出し、評価に使用した。
【0060】
作製したデバイスは細胞外小胞捕捉率が87.8%で、細胞外小胞の捕捉性能に優れるものであった。また、回収可能なmiRNA量は0.196ng/μLで、回収できたmiRNA量が多いものであった。図4は実施例1のデバイスの被覆層側の表面の走査型電子顕微鏡写真である。被覆層で被覆された凸部(被覆凸部)の幅は0.28μmであり、被覆凸部のピッチは0.45μmであり、被覆凸部の幅に対するピッチの比は1.61であった。
【0061】
[実施例2]
凹凸構造の高さ0.5μm、幅0.5μm、ピッチ1μmのピラー構造を有するナノインプリント成形フィルム(SCIVAX社製;製品名FLP500/500/1000-50×50)を用い、その他は実施例1と同様にして、実施例2のデバイスを作製した。実施例2のデバイスは複数の円柱状の凸部によって凹凸構造が形成されているデバイスである。
【0062】
作製したデバイスは細胞外小胞捕捉率が87.1%で、細胞外小胞の捕捉性能に優れるものであった。また、回収可能なmiRNA量は0.104ng/μLで、回収できたmiRNA量が多いものであった。図5は実施例2のデバイスの被覆層側の表面の走査型電子顕微鏡写真である。被覆凸部の幅は0.59μmであり、被覆凸部のピッチは1.0μmであり、被覆凸部の幅に対するピッチの比は1.69であった。
【0063】
[実施例3]
凹凸構造の高さ0.2μm、幅0.23μm、ピッチ0.46μmのホール構造を有するナノインプリント成形フィルム(SCIVAX社製;製品名FLP500/500/1000-50×50)を用い、その他は実施例1と同様にして、実施例3のデバイスを作製した。実施例3のデバイスは複数の円柱状凹部によって凹凸構造が形成されているデバイスである。被覆層で被覆された凹部(被覆凹部)の幅は0.14μm、被覆凹部のピッチは0.43μmであり、被覆凹部の幅に対するピッチの比は3.07であった。
【0064】
作製したデバイスは細胞外小胞捕捉率が87.5%で、細胞外小胞の捕捉性能に優れるものであった。また、回収可能なmiRNA量は0.108ng/μLで、回収できたmiRNA量が多いものであった。図6は実施例3のデバイスの被覆層側の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【0065】
実施例1~3で得られたデバイスは、細胞外小胞の捕捉性能に優れ回収できたmiRNA量が多いことから生体試料捕集用に好適なデバイスである。
【0066】
[比較例1]
平滑なポリカーボネートフィルムをそのまま使用し、スパッタリングを実施せず、実施例1と同様にしてボトムレス24ウェルプレートに貼り合わせて、比較例1のデバイスを作製した。
【0067】
作製した比較例1のデバイスは細胞外小胞捕捉率が46.0%で、捕捉率に劣るものであった。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例のデバイスは表面に高い強度の凹凸構造を有し、かつ、高い細胞外小胞捕捉率を有していた。実施例のデバイスは高いmiRNA回収量を有することが示された。
【符号の説明】
【0070】
1…ポリマー基材、2…被覆層、3A…凸部の高さ、3B…凸部の幅、3C…凸部の頂点間の距離、6…被覆基材、7,7a,7b…空間、8…中間層、9…流路、10,10A,10B…デバイス。

図1
図2
図3
図4
図5
図6